(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174032
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】太陽光発電システム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20231130BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20231130BHJP
H02J 3/46 20060101ALI20231130BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20231130BHJP
H02J 7/35 20060101ALI20231130BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H02J3/38 150
H02J3/32
H02J3/46
H02J3/00 170
H02J7/35 K
H02J7/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086639
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】徳田 寛和
【テーマコード(参考)】
5G066
5G503
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066HA15
5G066HB06
5G066HB09
5G066JA07
5G066JB03
5G503AA06
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA10
5G503GB03
(57)【要約】
【課題】必ずしも複数の太陽電池を必要とせずに、平均の発電予備力を所望の値に維持可能とした太陽光発電システムを提供する。
【解決手段】一定の制御周期T
Cにより太陽電池10をMPPT動作させるようにPCS20を制御する太陽光発電システムにおいて、制御周期T
Cが、MPPT動作期間Tと太陽電池10が所定の発電予備力(1-a)を維持するように動作させる出力抑制期間(1-T)と、を有し、PCS20の制御回路80は、制御周期T
C内の太陽電池の出力電力量、すなわちMPPT動作期間に太陽電池10から出力される電力量と出力抑制期間(1-T)に太陽電池10から出力される電力量との合計値が、平均的に所望の発電予備力を持った値になるように、出力抑制期間(1-T)における太陽電池10の平均出力xを算出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池の出力を交流電力に変換する電力変換装置により、太陽電池を所定の制御周期でMPPT制御する太陽光発電システムにおいて、
前記電力変換装置の制御回路は、
太陽電池をMPPT制御するMPPT動作期間と、当該MPPT動作期間に探索した最大電力と、太陽電池の出力を最大電力未満に抑制して動作させる出力抑制期間と、前記制御周期における所望の発電予備力と、を用いて、前記出力抑制期間における太陽電池または前記電力変換装置の平均出力を算出し、この平均出力が得られるように前記電力変換装置を制御することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項2】
請求項1に記載した太陽光発電システムにおいて、
前記制御回路は、
前記MPPT動作期間と前記最大電力とから求めた太陽電池または前記電力変換装置の出力電力量を用いて、前記平均出力を算出することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項3】
請求項1に記載した太陽光発電システムにおいて、
前記制御回路は、
前記MPPT動作期間と太陽電池または前記電力変換装置の実際の出力とから求めた実測電力量を用いて、前記平均出力を算出することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、
前記制御回路は、
前回制御周期のMPPT動作により探索した最大電力点を、今回制御周期のMPPT動作の探索開始点としたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、
前記制御回路は、
前回までの複数の制御周期のMPPT動作によりそれぞれ探索した複数の動作点のうち所定範囲に含まれる動作点の平均値を算出して最大電力点とし、この最大電力点を、今回制御周期のMPPT動作の探索開始点としたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項6】
請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、
前記制御回路は、
前回制御周期のMPPT動作による最大電力点の探索が短時間で終了した時に、本来のMPPT動作期間を短縮して前記出力抑制期間における平均出力を算出することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項7】
請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、
前記制御回路は、
前記制御周期における太陽電池または前記電力変換装置の出力の変動分を、前記電力変換装置の直流入力側に接続された蓄電手段の充放電動作により吸収または放出させることを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項8】
請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、
前記電力変換装置が、電力系統を介して系統電源に連系されていることを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項9】
請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムが、複数台の太陽電池と、その出力を交流電力にそれぞれ変換して電力系統に供給する複数台の電力変換装置と、を備え、前記複数台の電力変換装置が前記電力系統に対して互いに並列に接続されると共に、
前記複数台の電力変換装置の制御回路は、
前記複数台の太陽電池のMPPT動作期間が互いにずれるように同期をとりながら制御することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項10】
請求項9に記載した太陽光発電システムにおいて、
前記複数台の電力変換装置の制御回路は、
1台の太陽電池のMPPT動作期間に当該太陽電池または当該太陽電池に接続された電力変換装置の出力が徐々に変動している時に、その変動を他の太陽電池または当該太陽電池に接続された電力変換装置の出力によって相殺するように制御することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項11】
請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、
前記制御回路は、
今回制御周期のMPPT動作期間に時限を設定し、前記時限内に最大電力点が探索できない時に太陽電池の出力の変化傾向と前記時限の経過時の最終動作点を記憶しておき、前記最終動作点を次回制御周期におけるMPPT動作の探索開始点に設定することを特徴とする太陽光発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力抑制運転時に所望の発電予備力を維持可能とした太陽光発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分散型電源の一種である太陽光発電装置が電力系統に多数、連系される結果、電力系統における同期発電機の割合が減少して周波数安定性が低下する傾向にある。その対策として、疑似慣性制御機能を備えたパワーコンディショニングシステム(PCS)やいわゆるスマートインバータ等を用いて電力系統の周波数安定性を向上させる技術が種々提供されている。
【0003】
太陽光発電装置では、日射量や太陽電池パネルの温度等に応じて出力が変化するため、一般的に、
図11に示すごとく、太陽電池の出力が最大電力P
Mとなる最大電力点を探索してPCS等を運転する最大電力点追従制御(MPPT制御)が行われる。一方、太陽光発電装置の導入が進むにつれて、電力系統の周波数低下等の緊急事態が発生した際に太陽電池の出力を増加させる余地(発電予備力)を保有することが求められるようになると予想される。その場合には、上記のMPPT制御を常時行うことができず、MPPT動作期間以外の期間については太陽電池の出力を一定の割合、抑制する出力抑制運転を行う必要が生じる。
しかしながら、この出力抑制運転を行っている期間は太陽電池の最大電力点を探索できないため、適切な発電予備力を維持することができない。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、予め取得した太陽電池の第1電流電圧特性に基づく第1最大電力と、太陽電池の電圧を変化させて推定した第2電流電圧特性に基づく第2最大電力とを比較することにより、発電予備力を推定する技術が記載されている。
また、特許文献2には、複数の太陽電池のうち最大電力で運転しているものを特定し、その出力電圧と他の太陽電池の出力電圧とを対比して発電予備力を推定する技術が記載されている。
更に、特許文献3には、各需要家に設けられた電力変換手段において、日射量と太陽光発電システムが出力可能な最大電力との関係をデータベース化し、日射センサにより検出した日射量に対して上記データベースから本来の最大電力を推定すると共に、この最大電力と実際の発電電力との差に基づいて、各需要家の売電機会損失が均等になるように発電抑制量(発電予備力)を計算する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-9116号公報([0028]~[0044]、
図6~
図8等)
【特許文献2】特開2019-176561号公報([0039]~[0041]、
図6~
図8等)
【特許文献3】特許第5372724公報([0046]~[0053]、
図5~
図7等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1~3には、予測した発電予備力に基づいて出力抑制期間における太陽光発電装置の出力を制御する具体的な方法が開示されていない。
特に、特許文献2は複数の太陽電池を備えたシステムを前提としているので、単一の太陽電池を有するシステムには適用することができない。
また、特許文献3は複数の需要家の売電機会損失を均等化することを目的としており、計算した発電抑制量に基づいて各需要家の発電出力を制御する具体的な方法は開示されていない。
【0007】
そこで、本発明の解決課題は、所望の発電予備力を維持するように出力抑制期間における太陽電池または電力変換装置の平均出力を算出して電力変換装置を制御すると共に、必ずしも複数の太陽電池を備える必要のない太陽光発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、太陽電池の出力を交流電力に変換する電力変換装置により、太陽電池を所定の制御周期でMPPT制御する太陽光発電システムにおいて、
前記電力変換装置の制御回路は、
太陽電池をMPPT制御するMPPT動作期間と、当該MPPT動作期間に探索した最大電力と、太陽電池の出力を最大電力未満に抑制して動作させる出力抑制期間と、前記制御周期における所望の発電予備力と、を用いて、前記出力抑制期間における太陽電池または前記電力変換装置の平均出力を算出し、この平均出力が得られるように前記電力変換装置を制御することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載するように、請求項1に記載した太陽光発電システムにおいて、制御回路は、MPPT動作期間と最大電力とから求めた太陽電池または電力変換装置の出力電力量を用いて、前記平均出力を算出すれば良い。
【0010】
また、請求項3に記載するように、請求項1に記載した太陽光発電システムにおいて、制御回路は、MPPT動作期間と太陽電池または電力変換装置の実際の出力とから求めた実測電力量を用いて、平均出力を算出しても良い。
【0011】
また、請求項4に記載するように、請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、制御回路は、前回制御周期のMPPT動作により探索した最大電力点を、今回制御周期のMPPT動作の探索開始点としても良い。
【0012】
また、請求項5に記載するように、請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、制御回路は、前回までの複数の制御周期のMPPT動作によりそれぞれ探索した複数の動作点のうち所定範囲に含まれる動作点の平均値を算出して最大電力点とし、この最大電力点を、今回制御周期のMPPT動作の探索開始点としても良い。
【0013】
また、請求項6に記載するように、請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、制御回路は、前回制御周期のMPPT動作による最大電力点の探索が短時間で終了した時に、本来のMPPT動作期間を短縮して出力抑制期間における平均出力を算出しても良い。
【0014】
また、請求項7に記載するように、請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、制御回路は、前記制御周期における太陽電池または電力変換装置の出力の変動分を、電力変換装置の直流入力側に接続された蓄電手段の充放電動作により吸収または放出させても良い。
【0015】
また、請求項8に記載するように、請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、電力変換装置が、電力系統を介して系統電源に連系されていることが望ましい。
【0016】
また、請求項9に記載するように、請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムが、複数台の太陽電池と、その出力を交流電力にそれぞれ変換して電力系統に供給する複数台の電力変換装置と、を備え、複数台の電力変換装置が電力系統に対して互いに並列に接続されると共に、複数台の電力変換装置の制御回路は、複数台の太陽電池のMPPT動作期間が互いにずれるように同期をとりながら制御することが望ましい。
【0017】
また、請求項10に記載するように、請求項9に記載した太陽光発電システムにおいて、複数台の電力変換装置の制御回路は、1台の太陽電池のMPPT動作期間に当該太陽電池または当該太陽電池に接続された電力変換装置の出力が徐々に変動している時に、その変動を他の太陽電池または当該太陽電池に接続された電力変換装置の出力によって相殺するように制御することが望ましい。
【0018】
また、請求項11に記載するように、請求項1~3の何れか1項に記載した太陽光発電システムにおいて、制御回路は、今回制御周期のMPPT動作期間に時限を設定し、この時限内に最大電力点が探索できない時に太陽電池の出力の変化傾向と上記時限の経過時の最終動作点を記憶しておき、前記最終動作点を次回制御周期におけるMPPT動作の探索開始点に設定することが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、MPPT動作の制御周期、MPPT動作期間、及び、所望の発電予備力等に基づいて、出力抑制期間における太陽電池または電力変換装置の平均出力を算出し、この平均出力が得られるように電力変換装置を制御することより、所望の発電予備力を維持しながら太陽電池の出力抑制運転を行うことができる。
また、前述した従来技術のように、複数の太陽電池を用いて発電予備力を予測する方法とは異なるため、システム全体の簡略化やコストの低減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る太陽光発電システムの全体構成図である。
【
図2】本発明の第1実施例を説明するためのタイミングチャートである。
【
図3】本発明の第1実施例の動作を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第2実施例を説明するためのタイミングチャートである。
【
図5】本発明の第2実施例の動作を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第4実施例を説明するためのタイミングチャートである。
【
図7】本発明の第6実施例を説明するためのタイミングチャートである。
【
図8】本発明の第7実施例を説明するためのタイミングチャートである。
【
図9】
図8の期間ΔT
2における他の動作例を説明するためのタイミングチャートである。
【
図10】本発明の第6実施例及び第7実施例を実現するための制御システムの全体構成図である。
【
図11】MPPT制御を行う太陽電池の電圧-出力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る太陽光発電システムの全体構成図である。
図1において、太陽電池10から出力された直流電力は、直流線路31を介してPCS20に与えられる。PCS20は、インバータの動作により直流電力を交流電力に変換し、系統電源50が接続された電力系統32に出力する。40は電力系統32に接続された負荷である。
また、直流線路31には、蓄電池やキャパシタ等からなる蓄電手段70の充放電を制御するDC/DC変換器60が接続されている。これらのDC/DC変換器60及び蓄電手段70は、必ずしも本発明に不可欠の構成要素ではない。
【0022】
制御回路80は、例えばCPUと所定の制御プログラムが格納されたメモリ等を備えたコンピュータシステムからなり、PCS20内のインバータによる太陽電池10のMPPT動作及び出力抑制動作、並びに、DC/DC変換器60による蓄電手段70の充放電動作を統括的に制御する。
なお、制御回路80には、図示されていない複数の電圧・電流センサからPCS20の入出力電圧・電流、蓄電手段70の充放電電流等が入力されている。
【0023】
次に、本発明の第1実施例に係る制御方法を
図2及び
図3を参照しつつ説明する。
図2は、太陽電池10の出力を模式的に示したタイミングチャートであり、
図3は一連の動作を示すフローチャートである。
なお、以下の説明では、太陽電池10の出力、平均出力、または出力電力量に着目しているが、これらをPCS20(インバータ)の出力、平均出力、または出力電力量にそれぞれ置き換えた場合も本発明の技術的範囲に含むものである。
【0024】
図2においては、MPPT動作の制御周期T
Cを比率1に対応させ、制御周期T
C内のMPPT動作期間を比率T、出力抑制期間を比率(1-T)として示している。また、MPPT動作時の最大電力P
Mを比率1に対応させ、この最大電力P
Mの比率1に対する所望の発電予備力を比率(1-a)とし、出力抑制期間の平均出力を比率xとしてある。上記のaは、最大電力P
Mを対応させた比率1と、比率としての発電予備力(1-a)と、の差分としての、制御周期T
Cにおける太陽電池10の出力平均比率である。
MPPT動作の制御周期T
Cは、例えば0.5~2[min]程度の時間が想定されるが、これ以外の長さでも良いのは言うまでもない。
なお、
図2内に一点鎖線で示した矢印y
1については、後述の第3実施例により説明する。
【0025】
次に、本実施例の動作を、
図2及び
図3を参照しつつ説明する。
前述したように、a,(1-a),xは太陽電池10の出力に関する比率であり、T
C,T,(1-T)は期間(時間)に関する比率であるが、便宜上、以下ではa,(1-a),xを出力そのもの、T
C,T,(1-T)を期間そのものとして説明する。
【0026】
まず、制御回路80では、制御周期T
C、MPPT動作期間T、及び出力平均比率a(言い換えれば発電予備力(1-a))を予め設定した状態で、期間Tにわたり山登り法などを用いて太陽電池10の出力の最大電力点を探索し、MPPT制御を行う(
図3のステップS11)。ここで、最大電力点とは、太陽電池10の出力電圧に応じて出力が最大になる動作点を言う。
そして、MPPT動作により探索された最大電力P
Mを記録する(ステップS12)。なお、
図2では、MPPT動作期間Tの開始時点で太陽電池10の出力がほぼ直線状と見なせるように短時間で立ち上がり、最大電力点が探索された場合を想定している。
【0027】
次に、制御回路80は、
図2のMPPT動作期間T内に、以下の数式1に基づく数式2により出力抑制期間(1-T)の平均出力xを算出する。更に、出力抑制期間(1-T)の平均出力をxに維持するために必要なPCS20の実際の出力を、P
M×xにより算出する(ステップS13)。
[数式1]
1×T+x×(1-T)=a×1
[数式2]
x=(a-T)/(1-T)
【0028】
上記の数式1の左辺は、MPPT動作期間Tに出力される電力量と出力抑制期間(1-T)に出力される電力量との和であり、数式1の右辺は、制御周期TCにわたって出力をaに維持するための電力量、つまり、発電予備力を(1-a)に維持するために必要な電力量である。
従って、数式1を変形した数式2により出力抑制期間(1-T)の平均出力がxとなるようにPCS20を制御すれば、所望の発電予備力(1-a)を維持することが可能になる(ステップS14)。
言い換えれば、数式2は、制御周期TCの全期間にわたって発電予備力を(1-a)に維持するために必要な平均出力xを、時分割平均演算によって算出することを意味している。
【0029】
例えば、制御周期をTC=1、MPPT動作期間をT=0.1とし、発電予備力を最大電力PMに対して5[%]に維持する(1-a=0.05とする)場合、a=0.95であるから、前述した数式2によってx≒0.944‥‥となる。
従って、出力抑制期間(1-T)における平均出力xが最大電力PMの約94.4[%]になるようにPCS20を制御すれば、制御周期TCの全期間を通して平均で5[%]の発電予備力を維持することができる。
【0030】
なお、MPPT動作期間Tが短い場合には、この期間Tにおける煩雑な計算を回避するために、出力抑制期間(1-T)の平均出力xをaに固定してPCS20を制御しても良い。
【0031】
次に、本発明の第2実施例に係る制御方法を、
図4,
図5を参照しつつ説明する。
第1実施例では、MPPT動作期間Tの開始時点で探索された最大電力P
Mが期間Tにわたって太陽電池10から出力されると見なせる前提のもとで平均出力xを算出しているが、厳密には、期間Tの全てについて出力が最大電力P
Mとなるわけではない。
そこで、第2実施例では、MPPT動作期間Tに太陽電池10から出力される電力量を実測して出力抑制期間(1-T)の平均出力xを算出するようにした。
【0032】
図4は、第2実施例における太陽電池10の出力を模式的に示したタイミングチャートであり、
図5は一連の動作を示すフローチャートである。
図4では、MPPT動作期間Tの初期に最大電力点が徐々に増加する場合を示しており、このMPPT動作期間Tに出力される電力量(便宜的に、P(t)×T[kWh]と表記する)を実測し、この電力量P(t)×Tを用いて出力抑制期間(1-T)の平均出力xを算出する。
なお、
図4内に一点鎖線で示した矢印y
2、及び、破線で囲ったΔPについては後述する。
【0033】
第2実施例では、
図5のフローチャートに示すように、まず、MPPT動作期間Tにおける各時点の出力P(t)を実測する(ステップS21)。次に、P(t)の平均値を求め、この平均値を最大電力P
Mに対する比率bに換算する(ステップS22)。
次いで、制御回路80は、MPPT動作期間T内に、以下の数式3に基づく数式4により出力抑制期間(1-T)の平均出力xを算出する。なお、数式3におけるb×Tは、前述したMPPT動作期間Tに出力した電力量(P(t)×T)に相当する。更に、出力抑制期間(1-T)の平均出力をxに維持するために必要なPCS20の実際の出力を、P
M×xにより算出する(ステップS23)。
[数式3]
b×T+x×(1-T)=a×1
[数式4]
x=(a-bT)/(1-T)
【0034】
上記のように出力抑制期間(1-T)の平均出力がxとなるようにPCS20を制御すれば(ステップS24)、制御周期TC にわたって発電予備力(1-a)を維持することができる。特に、この第2実施例ではMPPT動作期間Tに実測した電力量を用いているため、発電予備力(1-a)を一層正確に維持することができる。
【0035】
次に、本発明の第3実施例に係る制御方法を説明する。
この第3実施例では、第1実施例により今回のMPPT動作期間Tに探索して記録した最大電力P
Mを次の制御周期T
CのMPPT動作時の探索開始点とし(
図2における矢印y
1)、あるいは、第2実施例により今回のMPPT動作期間Tで実測した出力P(t)を次の制御周期T
CのMPPT動作時の探索開始点とする(
図4における矢印y
2)。
これにより、次の制御周期T
Cでは、最大電力としての確度が比較的高い値を探索開始点に設定することができるため、最大電力点の探索に要する時間の短縮化が可能になる。
【0036】
また、急に曇った場合などでは、MPPT動作期間T内で最大電力点が一時的に変動して特定できないことがある。このため、前回までの複数の制御周期におけるMPPT動作点の最大電力値の履歴を複数保持しておき、これら複数の最大電力値のうち所定の幅に含まれない値はノイズとして除去し、所定の幅に含まれる複数の最大電力値の平均値を、次の制御周期TCのMPPT動作期間Tにおける探索開始点として用いても良い。
上記平均値は、例えば、所定の幅に含まれる複数の最大電力値を移動平均処理し、あるいは、上記複数の最大電力値に対して一次遅れフィルタ演算を行うことにより平均化処理する、等の方法によって求めれば良い。
前述したようにノイズ成分を除去して平均値を求めることにより、次の探索開始点の精度を向上することができる。
【0037】
次に、本発明の第4実施例に係る制御方法を、
図6を参照しつつ説明する。
この第4実施例では、MPPT動作により最大電力点の探索が短時間で終わった場合に、元のMPPT動作期間Tを
図6に示すごとくT’に短縮し(T’<T)、この期間T’に応じて相対的に延長された出力抑制期間(1-T’)の平均出力x’を算出する。
平均出力x’を算出する具体的方法としては、前述の数式1,数式2に準じて下記の数式5に基づく数式6を演算するか、あるいは、電力量を実測する場合には、数式3,数式4に準じて下記の数式7に基づく数式8を演算すれば良い。
[数式5]
1×T’+x’×(1-T’)=a×1
[数式6]
x’=(a-T’)/(1-T’)
[数式7]
b×T’+x’×(1-T’)=a×1
[数式8]
x’=(a-bT’)/(1-T’)
【0038】
本実施例によれば、出力抑制期間(1-T’)の平均出力x’が、元の出力抑制期間(1-T)の平均出力xより大きくなるため、MPPT動作期間T’と出力抑制期間(1-T’)との間の出力の変動量が少なくなり、電力系統32における電力の変動を抑制することができる。
【0039】
次に、本発明の第5実施例に係る制御方法を説明する。
この第5実施例は、
図4内に一点鎖線で囲った電力変動分ΔP(MPPT動作期間Tと出力抑制期間(1-T)との間の電力変動分や、MPPT動作期間T内の電力変動分)を、
図1に示したDC/DC変換器60の動作により蓄電手段70をその容量の範囲内で充放電させるものであり、結果として、制御周期T
C内の発電予備力が要求値の(1-a)に維持されるようにPCS20を制御することが望ましい。
上記の電力変動分ΔPを蓄電手段70によって吸収または放出することにより、電力系統32における電力の変動を回避することができる。
【0040】
次に、本発明の第6実施例に係る制御方法を、
図7を参照しつつ説明する。
本実施例は、太陽光発電システムが複数台の太陽光発電装置(太陽電池10とPCS20とからなるユニット)を備えている場合の、各発電装置における太陽電池10の出力制御に関するものである。
【0041】
例えば、太陽光発電システムとして、3台の太陽光発電装置100A,100B,100Cが電力系統32に対して並列に接続されている場合、
図7に示すように、一制御周期T
Cを三分割して各発電装置100A,100B,100CのMPPT動作期間Tが順次ずれるように同期をとってそれぞれのPCS20を制御する。この場合の出力抑制期間(1-T)における平均出力xの算出方法は前記各実施例と同様である。
この第6実施例によれば、各発電装置100A,100B,100Cの出力の合計値が制御周期T
Cにわたってほぼ一定になるため、電力系統32における電力の変動を抑制することができる。
【0042】
次に、本発明の第7実施例に係る制御方法を、
図8を参照しつつ説明する。
図8は、第6実施例と同様に、例えば3台(N=3)の太陽光発電装置100A,100B,100Cが電力系統32に対して並列に接続されている場合の、各発電装置100A,100B,100Cにおける太陽電池の出力を模式的に示したタイミングチャートである。
【0043】
本実施例では、各発電装置100A,100B,100CのMPPT動作期間Tを順次ずらし、ある装置がMPPT動作のために出力を変動させている間、他の装置が、この変動を補償するように出力を調整し、太陽光発電システム全体の合計出力がMPPT動作のために変動しないように制御する。
図8の例では、一制御周期T
C内において、例えば発電装置100AのMPPT動作期間Tでは他の発電装置100B,100Cの平均出力をxに低減して出力抑制動作させ、次に発電装置100BのMPPT動作期間Tでは他の発電装置100A,100Cの平均出力をxに低減して出力抑制動作させ、更に発電装置100CのMPPT動作期間Tでは他の発電装置100A,100Bの平均出力をxに低減して出力抑制動作させる。
【0044】
なお、各発電装置100A,100B,100Cにおいて、制御周期TCからMPPT動作期間T及び出力抑制期間(2T)を除いた期間(1-NT)は、平均出力を一定値a(太陽電池10の出力平均比率)に維持して、全ての発電装置100A,100B,100CがMPPT動作しない期間とする。これにより、各発電装置100A,100B,100Cについて見ると、何れの装置も、MPPT動作期間T、出力抑制期間(2T)、及び、MPPT動作せずに平均出力を一定値aに維持する期間(1-NT)、からなる三つの動作モードを有するため、動作モードの選択肢を拡げることができる。
【0045】
この第7実施例における平均出力xの算出方法は、以下の通りである。
一制御周期TC内の3台の発電装置100A,100B,100Cの合計電力量(1×a×N)は、上記3台のMPPT動作期間Tの合計電力量と、出力抑制期間(2T)の合計電力量と、残りの期間(1-NT)の合計電力量と、の和に等しい。このため、数式9が成り立ち、この数式9に基づく数式10によって平均出力xを求めることができる。
ここで、数式9の右辺第1項は「3台のMPPT動作期間Tの合計電力量」に相当し、同じく第2項は「出力抑制期間(2T)の合計電力量」に相当し、同じく第3項は「残りの期間(1-NT)の合計電力量」に相当しており、何れも「時間比率」×「出力の比率」×「時間区画すなわち制御周期の数」×「発電装置の台数」を示している。なお、この例では一制御周期TCを対象としており、右辺第1項及び第3項における「時間区画すなわち制御周期の数」は「1」であるため、これらの項における「×1」は省略しても良い。
[数式9]
1×a×N=(T×1×1×N)+{T×x×(N-1)×N}
+{(1-NT)×a×1×N}
[数式10]
x=(aN-1)/(N-1)
【0046】
例えば、発電予備力を最大電力PMに対して10[%]に維持したい場合、すなわち、(1-a)=0.1としたい場合には、a=0.9,N=3により、数式10からx=0.85となる。すなわち、各発電装置100A,100B,100Cのそれぞれの出力抑制期間(2T)における平均出力xが最大電力PMの85[%]になるようにPCS20をそれぞれ制御すれば、平均的に10[%]の発電予備力を維持することができる。
【0047】
なお、
図8における制御周期T
C内の期間ΔT
1は、発電装置100A,100B,100Cの何れもMPPT動作期間Tと出力抑制期間(2T)とからなる。そして、第1実施例と同じ原理により、発電予備力を(1-a)に維持するための平均出力xは、期間ΔT
1内に太陽電池10から出力される電力量が、MPPT動作期間Tに太陽電池10から出力される電力量(1×T)と出力抑制期間(2T)に太陽電池10から出力される電力量(x×2T)との合計値(T+2Tx)になるように、x=(3a-1)/2によって算出される。
【0048】
ここで、
図8では、期間(1-NT)における発電装置100A,100B,100Cの出力を全て同じ値aに維持している。しかし、N台の発電装置の定格出力が等しくない場合等には、全ての出力を均等にすることが困難な場合もあるので、そのような場合には、各発電装置の出力が相違していてもN台の合計出力がa×Nに等しければ良い。
【0049】
図9は、
図8の期間ΔT
2において、MPPT動作する発電装置100Aの出力がほぼ直線状と見なせるように短時間に立ち上がらず、徐々に増加する場合のタイムチャートである。
この場合、図示するように、発電装置100Aの出力が徐々に増加する期間は他の発電装置100B,100Cの出力が徐々に減少するように制御すれば、全ての発電装置100A,100B,100Cの合計出力はほぼ一定になるので、各発電装置の出力の変動が電力系統32側に影響を及ぼす心配はない。
【0050】
次いで、
図10は、上記第7実施例を実現するための制御システムの全体構成図であり、この制御システムは第6実施例にも適用可能である。
図10において、発電予備力(1-a)が指令として与えられるメイン制御装置200は、時間情報に基づいてその時刻の発電装置100A,100B,100CのPCS20に対するMPPT動作のON,OFF指令を、ローカル制御装置200A,200B,200Cにそれぞれ送信する。
【0051】
MPPT動作する発電装置、例えば100Aは、太陽電池10の実際の出力をローカル制御装置200Aからメイン制御装置200に返信する。その際に、最大電力点に到達したことをローカル制御装置200Aが判定した場合には、その最大出力PMをメイン制御装置200に返信する。
また、メイン制御装置200は、MPPT動作しない他の発電装置100B,100Cのローカル制御装置200B,200Cに対して、出力抑制期間の太陽電池10の平均出力xに相当する出力指令を送信し、発電装置100B,100Cを出力抑制動作させる。
【0052】
なお、上述したメイン制御装置200の機能を各ローカル制御装置200A,200B,200Cにそれぞれ実装して何れか1台をマスター、他の2台をスレーブに設定し、マスターの発電装置は、自身がMPPT動作している時刻に他の2台の発電装置が出力抑制動作するように同期させて制御しても良い。
或いは、3台の発電装置のうち1台だけまたは2台(すなわちN-1台)の発電装置に、マスター機能を持たせることができるローカル制御装置を実装して当該発電装置をマスター機能付きローカル発電装置とし、残りの発電装置にはマスター機能を持たせることができない比較的安価なローカル制御装置を実装して当該発電装置をマスター機能なしローカル発電装置としたうえで、マスター機能付きローカル発電装置を実際にマスター発電装置として機能させ、このマスター発電装置がMPPT動作している時刻に他のマスター機能なしローカル発電装置が出力抑制動作するように同期制御しても良い。
【0053】
次に、本発明の第8実施例に係る制御方法を説明する。
この第8実施例では、制御回路80が、今回の制御周期TCのMPPT動作期間Tに所定の時限を設定し、この時限内に最大電力点を探索できない時に、太陽電池10の出力の変化傾向(増減)と上記時限経過時の最終動作点を記憶しておく。そして、前記最終動作点を次回の制御周期TCにおけるMPPT動作の探索開始点に設定する。
これにより、曇天時のように最大電力点を見つけにくいような場合でも、ある程度時間がかかっても最大電力点を見つけやすくなり、所望の発電予備力の維持に寄与することができる。
【0054】
以上説明したように、本発明の各実施例によれば、MPPT動作期間における太陽電池10の出力、出力抑制期間、所望の発電予備力等に基づいて平均出力xを演算し、出力抑制期間における太陽電池10の出力が上記平均出力xとなるようにPCS20を制御することにより、所望の発電予備力を維持しながら太陽光発電システムを運転することができる。
なお、各実施例では、PCS20を、電力系統32を介して系統電源50に連系させているが、請求項7に記載したように、PCS20の直流入力側に蓄電手段70を備えた構成であれば、必ずしもPCS20を系統電源50に連系させる必要はない。すなわち、本発明を、蓄電手段70を備えたPCS20の交流出力電力を負荷40のみに供給する独立した太陽光発電システムに適用する場合においても、所望の発電予備力を維持することが、負荷40の急変等にどれだけ対処できるかを把握しておくためにも有効である。
【符号の説明】
【0055】
10:太陽電池
20:パワーコンディショニングシステム(PCS)
31:直流線路
32:電力系統
40:負荷
50:系統電源
60:DC/DC変換器
70:蓄電手段
80:制御回路
100A,100B,100C:太陽光発電装置
200:メイン制御装置
200A,200B,200C:ローカル制御装置