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特開2023-174038不可視マーカー、不可視マーカーシステム、不可視マーカーシステムのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174038
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】不可視マーカー、不可視マーカーシステム、不可視マーカーシステムのプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/06 20060101AFI20231130BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20231130BHJP
   G01B 11/02 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G01C15/06 Z
G01B11/00 H
G01B11/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086648
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 啓二
(72)【発明者】
【氏名】大川 晃次郎
(72)【発明者】
【氏名】古川 正
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA06
2F065AA21
2F065BB27
2F065DD03
2F065FF04
2F065FF61
2F065JJ03
2F065MM26
2F065QQ03
2F065QQ28
2F065QQ31
2F065UU09
(57)【要約】
【課題】マーカーの機能を維持したまま、表示する図形が人の目に見えない不可視マーカー、不可視マーカーシステム、不可視マーカーシステムのプログラムを提供する。
【解決手段】不可視マーカー1は、可視光に対しては不透明であり、かつ、近赤外光に対しては透過性を有する隠蔽層50と、少なくとも図形を表示する表示層30とを備える。また、表示層30の図形は、独立した形状として観察可能な3個以上のマーク2と、固有情報を識別可能な識別マークとのうちの少なくとも一方を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光に対しては不透明であり、かつ、近赤外光に対しては透過性を有する隠蔽層と、
少なくとも図形を表示する表示層と、
を備える不可視マーカー。
【請求項2】
請求項1に記載の不可視マーカーにおいて、
前記表示層の前記図形は、独立した形状として観察可能な3個以上のマークと、固有情報を識別可能な識別マークとのうちの少なくとも一方を含むこと、
を特徴とする不可視マーカー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の不可視マーカーにおいて、
前記表示層の前記図形は、少なくとも近赤外光によって認識可能であること、
を特徴とする不可視マーカー。
【請求項4】
請求項1に記載の不可視マーカーと、
前記不可視マーカーを撮影する撮影部と、
前記撮影部により撮影された前記不可視マーカーの画像に基づいて演算を行う演算部と、
を備える不可視マーカーシステム。
【請求項5】
請求項4に記載の不可視マーカーシステムのプログラムであって、
コンピュータに、
前記撮影部が前記不可視マーカーを撮影するステップと、
前記演算部が演算するステップと、
を実行させるための不可視マーカーシステムのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不可視マーカー、不可視マーカーシステム、不可視マーカーシステムのプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
製造が容易であり、高精度なマーカーを提供する技術が、特許文献1に開示されている。特許文献1のマーカーによれば、マーカーの精度が高いことから、このマーカーを用いた各種制御も精度よく行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6977912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されているマーカーは、表示する図形が人の目に見えるマーカーであることから、目立ってしまって違和感を与えたり、美観を損ねたりするおそれがあり、使い難い場合があった。
【0005】
本開示の課題は、マーカーの機能を維持したまま、表示する図形が人の目に見えない不可視マーカー、不可視マーカーシステム、不可視マーカーシステムのプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本開示の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0007】
第1の開示は、可視光に対しては不透明であり、かつ、近赤外光に対しては透過性を有する隠蔽層(50)と、少なくとも図形(2、及び/又は、5)を表示する表示層(30)と、を備える不可視マーカー(1)である。
【0008】
第2の開示は、第1の開示に記載の不可視マーカー(1)において、前記表示層(30)の前記図形(2、5)は、独立した形状として観察可能な3個以上のマーク(2)と、固有情報を識別可能な識別マーク(5)とのうちの少なくとも一方を含むこと、を特徴とする不可視マーカー(1)である。
【0009】
第3の開示は、第1の開示又は第2の開示に記載の不可視マーカー(1)において、前記表示層(30)の前記図形(2、5)は、少なくとも近赤外光によって認識可能であること、を特徴とする不可視マーカー(1)である。
【0010】
第4の開示は、第1の開示から第3の開示までのいずれかに記載の不可視マーカー(1)と、前記不可視マーカー(1)を撮影する撮影部(201)と、前記撮影部(201)により撮影された前記不可視マーカー(1)の画像に基づいて演算を行う演算部(202)と、を備える不可視マーカーシステム(500)である。
【0011】
第5の開示は、第4の開示に記載の不可視マーカーシステム(500)のプログラムであって、コンピュータ(202、203)に、前記撮影部(201)が前記不可視マーカー(1)を撮影するステップと、前記演算部(202)が演算するステップと、を実行させるための不可視マーカーシステム(500)のプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、マーカーの機能を維持したまま、表示する図形が人の目に見えない不可視マーカー、不可視マーカーシステム、不可視マーカーシステムのプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示による不可視マーカーの実施形態を示す図であり、近赤外光で観察した場合の見え方を示す図である。
図2】不可視マーカー1を図1中の矢印A-Aの位置で切断した断面図である。
図3】本開示による不可視マーカーの実施形態を示す図であり、可視光で観察した場合の見え方を示す図である。
図4】本実施形態の不可視マーカー1を含む不可視マーカーシステム500を示す図である。
図5】本実施形態の不可視マーカーシステム500を用いた自動搬送機200の制御動作の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示を実施するための最良の形態について図面等を参照して説明する。
【0015】
(実施形態)
図1は、本開示による不可視マーカーの実施形態を示す図であり、近赤外光で観察した場合の見え方を示す図である。
なお、図1を含め、以下に示す各図は、模式的に示した図であり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張したり、省略したりして示している。
また、以下の説明では、具体的な数値、形状、材料等を示して説明を行うが、これらは、適宜変更することができる。
本明細書において、板、シート、フィルム等の言葉を使用しているが、これらは、一般的な使い方として、厚さの厚い順に、板、シート、フィルムの順で使用されており、本明細書中でもそれに倣って使用している。しかし、このような使い分けには、技術的な意味は無いので、これらの文言は、適宜置き換えることができるものとする。
また、本発明において透明とは、少なくとも利用する波長の光を透過するものをいう。例えば、仮に可視光を透過しないものであっても、赤外線を透過するものであれば、赤外線用途に用いる場合においては、透明として取り扱うものとする。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において規定する具体的な数値には、一般的な誤差範囲は含むものとして扱うべきものである。すなわち、±10%程度の差異は、実質的には違いがないものであって、本件の数値範囲をわずかに超えた範囲に数値が設定されているものは、実質的には、本件発明の範囲内のものと解釈すべきである。
【0016】
不可視マーカー1は、図1に示すように後述する隠蔽層50が設けられている表面の法線方向から見たときに、略正方形形状である板状に構成されており、マーク2が複数配置されている。本実施形態では、表面側から見た形状が80mm×80mmの略正方形形状(各角部に面取り形状あり)に形成されており、独立した形状として観察可能な円形状の図形であるマーク2が不可視マーカー1の4隅付近に1つずつ、合計4つのマークが間隔を空けて配置されている。マーク2は、3個以上配置されていることが望ましい。マーク2の観察結果から、例えば、マーク2の重心位置を3点算出すれば、観察位置(カメラ等)と不可視マーカー1との相対的な位置、傾き、姿勢を正確に検出することができるからである。また、マーク2の数が3つよりも多くなれば、例えば、一部のマーク2が何らかの障害によって不鮮明に観察されるような場合に、残るマーク2の観察結果から、位置検出が可能である。また、複数のマーク2を利用することにより、位置検出の精度を高めることもできる。
【0017】
不可視マーカー1は、例えば、商品を陳列する商品棚毎に貼り付けて、カメラを備えた自動搬送機(ロボット)等の自動運転制御に利用することができる。すなわち、カメラによる撮影結果から、自動搬送機と商品棚との相対位置関係を正確に把握することができ、その相対位置関係に基づいて自動搬送機の運転を制御可能である。そのような用途としては、不可視マーカー1の表面側から見た寸法は、100mm×100mm以下の大きさが望ましいが、本実施形態の不可視マーカー1によれば、そのような小さなサイズであっても、非常に高精度の位置検出を行うことが可能である。
なお、不可視マーカー1の外形は、上記例に限らず、例えば、10mm×10mm、20mm×20mm、40mm×40mm、44mm×44mm、60mm×60mm等、適宜変更可能である。
【0018】
また、本実施形態では、マーク2は、円形状に構成したが、円形状に限らず、三角形や四角形等の多角形形状としてもよいし、その他の形状としてもよい。不可視マーカー1は、このマーク2がどのように観察されるかによって、撮影位置と不可視マーカー1との相対的な位置関係を検出(以下、単に位置検出とも呼称する)するために用いられる。
【0019】
また、不可視マーカー1は、不可視マーカー1の中央に識別マーク5を備えている。
識別マーク5は、識別マーク5のパターンによって、特定の意味を関連付けられて固有の情報をパターンにより表示するパターン図形(固有情報を識別可能な識別マーク)である。例えば、識別マーク5は、異なるパターン毎に、固有の番号やアルファベット等を関連付けられている。なお、識別マーク5としては、例えば、2次元バーコード、3次元バーコード、QRコード(登録商標)、ArUco、等を利用することができる。なお、識別マーク5は、上述のように各種公知の識別コード等を利用可能であるが、パターン数を少なくして大きなパターンとした本実施形態のような識別マーク5とすることにより、カメラによる検出を容易に行うことができる。
【0020】
本実施形態では、識別マーク5には、ArUcoを用いている。ArUcoは、以下のインターネットURLにおいて公開されている技術である。“Detection of ArUco Markers”[令和4年3月23日検索]、インターネット<URL:https://docs.opencv.org/4.x/d5/dae/tutorial_aruco_detection.html>。このwebページには、ArUcoを用いて位置及び姿勢計測を行うことについても記載されている。このArUcoを用いた位置及び姿勢の計測によれば、先に説明したマーク2を用いた位置及び姿勢の計測と同様な計測を行うことができる。なお、マーク2を用いた位置及び姿勢の計測は、ArUcoを用いた位置及び姿勢の計測よりも高い精度での計測が可能である。
【0021】
図2は、不可視マーカー1を図1中の矢印A-Aの位置で切断した断面図である。
不可視マーカー1は、図2中の上方が観察側であり、図2中の下方が貼付け面側である。不可視マーカー1は、貼付け面側から順に、基材層10と、インク層20と、接合層40と、隠蔽層50とが積層されている。
【0022】
基材層10は、インク層20を設けるためのベースとなる層である。基材層10に用いる材料は、不可視マーカー1の用途や要求される仕様に応じて適宜選択することができる。例えば、高い精度を要求されない用途であれば、基材層10は、紙等で構成してもよいし、高い精度を要求される場合には、ガラス板等で構成してもよい。その他、基材層10には、各種樹脂製のシートやフィルムを用いることもできる。
本実施形態では、基材層10は、可視光及び近赤外光(波長780nm以上)を反射する材料を用いており、可視光では白色に見える樹脂フィルムを用いた。
【0023】
インク層20は、マーク2及び識別マーク5をインクによって印刷表示する層である。本実施形態では、基材層10上にインク層20がマーク2及び識別マーク5の形で印刷形成されている。また、本実施形態のインク層20は、可視光及び近赤外光を吸収するインクを用いて形成されており、可視光では黒色に見える。本実施形態では、基材層10とインク層20とのコントラストによって、マーク2及び識別マーク5を表示する表示層30を構成している。本実施形態では、隠蔽層50が無い状態であれば、マーク2及び識別マーク5は、可視光でも近赤外光でも観察可能である。
なお、本実施形態では、図2に示すようにマーク2及び識別マーク5の図形形状部分にのみインク層20を設ける形態としたが、例えば、マーク2及び識別マーク5以外の部分に白色(可視光及び近赤外光を反射する)インクを形成してもよい。
インク層20としては、例えば、PMMA(Poly Methyl Methacrylate)、ETA(エイコサテトラエン酸)、HETA(ヒドロキシエイコサテトラエン酸)、HEMA(2-Hydroxyethyl methacrylate)、又は、エポキシとの混合物等に、黒色に着色する材料として、カーボン、黒化チタン、酸化ニッケル等を混合させたもの等を用いることができる。
【0024】
接合層40は、表示層30と隠蔽層50とを接合する光学接着剤の層である。接合層40は、近赤外光を透過する。接合層40の近赤外光の透過率は、80%以上であることが望ましい。
接合層40としては、例えば、PMMA、ウレタン、シリコーン等を用いることができる。
【0025】
隠蔽層50は、可視光に対しては不透明であり、かつ、近赤外光に対しては透過性を有する層である。すなわち、隠蔽層50は、可視光に対しては隠蔽性があり、近赤外光に対しては隠蔽性がない。
隠蔽層50に用いることができる材料、すなわち、可視光に対しては隠蔽性があり、近赤外光に対しては隠蔽性がない材料例を以下に例示する。
【0026】
(隠蔽層の材料例1)
隠蔽層50に用いることができる材料としては、例えば、特開2010-72616号公報に記載の赤外線通信用光学物品と同様な材料を用いることができる。特開2010-72616号公報に記載の材料は、透明なバインダー樹脂に同バインダー樹脂とは屈折率の異なる微粒子を均一に分散させて、同微粒子に可視光域の光を散乱反射させて白色を発色させるようにするとともに、長波長側の光の透過率が高くなるような波長依存性を有するように微粒子の平均粒径を設定し、赤外線の通信帯の波長域における透過率を12%以上に設定している。
【0027】
(隠蔽層の材料例2)
隠蔽層50に用いることができる材料としては、例えば、特開2019-207303号公報に記載の黒色顔料組成物と同様な材料を用いることができる。特開2019-207303号公報に記載の材料は、赤色顔料を含まない顔料と、バインダー樹脂と、有機溶剤とを含有し、顔料がC.I.ピグメントグリーン62、及びC.I.ピグメントグリーン63からなる群より選ばれる少なくとも1つと、紫色顔料と、黄色顔料とを含有する。これにより、この材料は、波長400~700nmの可視光領域の隠蔽性に優れて可視光では黒色に観察され、波長800nm以上の近赤外領域に高い透過率を有する。
【0028】
(隠蔽層の材料例3)
隠蔽層50に用いることができる材料としては、例えば、特開2018-44991号公報に記載の赤外線透過部材と同様な材料を用いることができる。特開2018-44991号公報に記載の材料は、黒色顔料以外の着色顔料及び樹脂バインダーを含有し、850nmの波長を持つ光及び940nmの波長を持つ光のうち少なくともいずれか一方の光の透過率が80%以上であり、かつ、380nmよりも大きく780nmよりも小さい波長を持つ光の透過率が0.01%以下である。この材料は、着色顔料の色を変えることにより、可視光において観察される色を様々な色に作り変えることができる。着色顔料の例としては、例えば、赤色顔料、黄色顔料、青色顔料、緑色顔料、紫色顔料等を例示でき、これらの各色の顔料を混在させることができる。
【0029】
隠蔽層50の可視光において観察される色は、上記材料例1~3を適宜選択することにより、白色、黒色、及び、その他の様々な色とすることができる。
隠蔽層50の可視光における平行光線透過率(波長555nmの透過率)は、30%以下であることが、表示層30の表示を人の目で認識できなくするために望ましい。また、隠蔽層50の近赤外光透過率(波長940nmの透過率)は、10%以上であることが、後述する撮影部によって良好な撮影結果を得るために望ましい。
【0030】
図3は、本開示による不可視マーカーの実施形態を示す図であり、可視光で観察した場合の見え方を示す図である。
隠蔽層50が設けられていることにより、図2に示すようにマーク2及び識別マーク5は、可視光では観察できない。
一方、近赤外光に感度のあるカメラ等を用いた場合には、近赤外光が隠蔽層50を透過することにより、図1に示すようにマーク2及び識別マーク5の観察が可能である。
【0031】
図4は、本実施形態の不可視マーカー1を含む不可視マーカーシステム500を示す図である。図4において棚Tに向かって左側の不可視マーカー1は、可視光での見え方を示し、棚Tに向かって右側の不可視マーカー1は、近赤外光での見え方を示している。
図4に示す例では、棚Tの棚板T1と棚Tの柱T2との交差位置(交点)に不可視マーカー1を取り付けている。そして、不可視マーカー1に設けられた識別マーク5としてのArUcoは、いずれも異なるIDが割り振られている。この例では、棚Tの棚板T1と棚Tの柱T2は、いずれも白色であり、不可視マーカー1の可視光下での観察される色も白色である。よって、不可視マーカー1の存在が目立つことがない。
また、自動搬送機(ロボット)200には、カメラ(撮影部)201と、演算部202と、制御部203が設けられている。
【0032】
カメラ(撮影部)201は、自動搬送機200の前方を撮影可能に設けられており、不可視マーカー1を撮影するために設けられている。本実施形態のカメラ201は、少なくとも近赤外領域(波長780nm以上)に感度を有しており、この近赤外領域の被写体からの光を撮影して画像化することができる。なお、カメラ201の近傍には、必要に応じて、近赤外光を被写体へ向けて照射する近赤外光照明を設けてもよい。
演算部202は、カメラ201により撮影された不可視マーカー1の画像に含まれるマーク2の画像を用いて、カメラ201と不可視マーカー1との相対的な位置関係を演算する。
演算部202が行うマーク2の撮影画像を用いて寸法又はマーク2の向きを演算する演算方法(測定方法)は、田中秀幸「ARマーカ技術の基礎と最新動向」電気情報通信学会誌 Vol.97,No.8,2014、p.734-740に記載の手法を用いる。
自動搬送機200の制御を行う本実施形態の場合には、演算部202は、カメラ201と不可視マーカー1との相対的な位置関係を演算(測定)するが、他の演算(測定)も可能である。例えば、演算部202は、以下のような演算を行うことができる。
【0033】
(演算例1)
先ず、演算部202は、カメラ201とマーク2との相対的な位置関係を演算することができる。カメラ201とマーク2との相対的な位置関係とは、カメラ201からマーク2までの寸法(距離)だけでなく、マーク2(不可視マーカー1)の正面がどの方向を向いているのか、すなわち、マークの姿勢(マーク2を含む不可視マーカー1の姿勢)を含む。ここで、マーク2の姿勢とは、例えば、ロール、ヨー、ピッチで表すことができる。
【0034】
(演算例2)
また、演算部202は、マーク2の近傍にある物体等の寸法を演算することができる。例えば、マーク2を表示する不可視マーカー1の近傍に立っている人の身長を測定することができる。人の認識は、自動的に認識することができる。また、人に限らず、例えば、木の高さや、動物の大きさ等であってもよいし、窓の大きさ等であってもよい。
【0035】
(演算例3)
また、演算部202は、マーク2の近傍において指定された位置間の寸法(距離)を演算することができる。マーク2の近傍において指定された位置とは、カメラ201が撮影する撮影画像上でマーク2とともに撮影されている範囲において、利用者が指定した位置である。
【0036】
(演算例4)
さらに、演算部202は、複数配置された不可視マーカー1(マーク2)の間の寸法(距離)を演算することができる。不可視マーカー1が複数配置されている場合に、カメラ201により複数のマーク2を1画面内で撮影することにより、複数配置されたマーク2の間の寸法(距離)を演算することができる。また、先に説明したように、演算部202は、カメラ201と不可視マーカー1(マーク2)との相対的な位置関係を演算することができる。したがって、カメラ201の位置を殆ど動かすことなく、複数配置された不可視マーカー1を別々に撮影しても、複数配置された不可視マーカー1(マーク2)の間の寸法(距離)を演算することができる。このとき、識別マーク5が表す固有の情報によって、各不可視マーカー1を分けて認識することができるので、正しく演算を行うことが可能である。
【0037】
制御部203は、演算部202の演算結果に基づいて制御を行う。本実施形態で制御部203が行う制御は、自動搬送機200のフォーク200aの上下動作を含む運転の統括的な制御である。
制御部203は、棚Tの形状や大きさ、及び、棚Tのどの位置にどの識別マーク5を備える不可視マーカー1が取り付けられているかといった情報を予め有している。よって、制御部203は、演算部202が演算した不可視マーカー1とカメラ201との相対的な位置関係から、棚Tと自動搬送機200との相対的な位置関係を把握することができる。制御部203は、刻々と変化する棚Tと自動搬送機200との相対的な位置関係を正確に把握することにより、目的とする棚Tに対して正確に自動搬送機200を移動させて、フォーク200aを適切に動作させることが可能となる。ここで、不可視マーカー1に識別マーク5が設けられているので、個々の棚板T1を識別することができる。
【0038】
本実施形態の演算部202及び制御部203は、コンピュータにコンピュータプログラムをインストールして構成されている。より具体的には、本実施形態の演算部202及び制御部203は、自動搬送機200の制御に用いられるコンピュータに本発明の不可視マーカーシステム用のアプリケーションプログラムをインストールしたものである。自動搬送機200の制御に用いられるコンピュータは、汎用のスマートフォン、タブレット端末であってもよいし、ノートパソコン等であってもよいし、自動搬送機200の制御に特化した専用のコンピュータであってもよい。本発明でいうコンピュータとは、制御部、記憶装置等を備えた情報処理装置をいう。
【0039】
なお、本実施形態では、演算部202及び制御部203は、自動搬送機200に搭載されている例を例示したが、例えば、演算部202及び制御部203を自動搬送機200から離れた位置に設置されたサーバ等に設け、無線通信や有線通信を介して自動搬送機200の制御を行ってもよい。この場合、複数台の自動搬送機200からの情報を統括してより適切に各自動搬送機200の動作を制御することができる。なお、演算部202は自動搬送機200に搭載して、制御部203をサーバに設ける構成としてもよい。
【0040】
図5は、本実施形態の不可視マーカーシステム500を用いた自動搬送機200の制御動作の流れを示すフローチャートである。
ステップ(以下、単にSとする)11では、制御部203が、カメラ201による撮影と、自動搬送機200の移動を開始する。なお、この例では、簡単のため制御部203は、自動搬送機200の現在の位置を把握している状態から動作を開始しているものとして説明を行う。
S12では、制御部203が、撮影及び移動を継続する。
S13では、制御部203が、カメラ201により撮影されている画像に基づいて、不可視マーカー1を検出したか否かを判断する。不可視マーカー1を検出した場合には、S14へ進み、不可視マーカー1を検出していない場合には、S12へ戻り不可視マーカー1の検出動作を繰り返す。
S14では、制御部203が、図形(識別マーク5)によって不可視マーカー1がどの棚板T1に設けられた不可視マーカー1であるのかを識別する。
S15では、演算部202が、カメラ201により撮影された画像中のマーク2に基づいて、カメラ201と不可視マーカー1との相対位置を演算する。
S16では、制御部203が、演算部202の演算結果に基づいて自動搬送機200の動作を制御する。例えば、フォーク200aの上下位置を制御したり、自動搬送機200の位置を制御したりする。
S17では、制御部203が、動作を終了するか否か判断し、動作を継続する場合には、S12へ戻り、動作を継続しない場合には、動作を終了する場合。
以上の各ステップは、不可視マーカーシステム用のアプリケーションプログラムがコンピュータに実行させるものである。
【0041】
上述した制御動作によって、自動搬送機200は、不可視マーカー1を撮影して不可視マーカー1の位置を計測することにより棚Tの柱T2との交差位置(交点)を正確に把握することができる。また、識別マーク5から得た情報により棚板を特定することができ、適切な位置まで自動搬送機200が自動制御されて移動して、棚Tに置かれている物品の補充や入れ替え、ピックアップ等を自動運転で行うことができる。なお、この構成は、例えば、店舗における商品棚に適用することもできるし、物流倉庫や工場の倉庫等にある棚等にも適用することができる。
【0042】
また、商品棚等に関するものに限らず、例えば、建物内部の壁面や柱等に不可視マーカー1を取り付けて、自動運転車椅子の制御を行うようにしてもよい。このような用途の場合には、安全度を高めるために高精度の位置検出が必要である。そこで、このような高精度の位置検出が必要な用途の場合には、例えば、基材層10をガラス板により構成し、その上の表示層30をフォトレジストを用いたレジスト材料によって構成する特許第6977912号公報に記載のマーカーに準ずる構成とするとよい。この場合であっても、不可視マーカー1は、隠蔽層50を備えるので、黒い壁には、可視光で観察される隠蔽層50の色を黒色とした不可視マーカー1を取り付ける。同様に、白い壁には、可視光で観察される隠蔽層50の色を白色とした不可視マーカー1を取り付ける。さらに、水色や茶色等の他の色の壁には、可視光で観察される隠蔽層50の色を壁の色に近い色とした不可視マーカー1を取り付ける。これにより、室内空間の美観を損ねることなく、不可視マーカー1の利便性を享受することができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、隠蔽層50を備えているので、マーク2及び識別マーク5等の表示する図形が人の目に見えず、目立ってしまって違和感を与えたり、美観を損ねたりするおそれがなく、使い易さが飛躍的に向上する。さらに、隠蔽層50の可視光で観察される色を、不可視マーカーが取り付けられる部位の色と合わせることにより、不可視マーカー自体の存在も目立たなくさせることができる。
【0044】
(変形形態)
以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本開示の範囲内である。
【0045】
(1)実施形態において、表示層30は、隠蔽層50が無い状態では可視光でも近赤外光でもマーク2及び識別マーク5の観察が可能であるインク層20を用いた例を挙げて説明した。しかし、表示層30は、隠蔽層50が無い状態では少なくとも近赤外光によって認識可能に形成されていればよい。したがって、例えば、マーク2及び識別マーク5は、可視光では観察が困難な形態であってもよい。
【0046】
(2)実施形態において、不可視マーカー1は、マーク2及び識別マーク5の双方を備える例を挙げて説明した。これに限らず、例えば、マーク2又は識別マーク5のいずれか一方のみを備えるマーカーであってもよい。また、表示層30が表示する図形は、実施形態において説明したマーク2及び識別マーク5のような機能を備える図形に限らず、その他の図形であってもよい。
【0047】
(3)実施形態において、近赤外光において観察される色について、マーク2及び識別マーク5を黒色(近赤外光を吸収)とし、その周辺を白色(近赤外光を反射)として構成する例を挙げて説明した。これに限らず、例えば、マーク2及び識別マーク5を白色(近赤外光を反射)とし、その周辺を黒色(近赤外光を吸収)としてもよい。
【0048】
(4)実施形態において、隠蔽層50が最表面に設けられている例を挙げて説明した。これに限らず、例えば、隠蔽層50よりもさらに表面側(観察側)に保護層や反射防止層、マット層等を適宜設けてもよい。また、実施形態に例示した層構成の他に、その他の層を追加してもよい。例えば、基材層10に壁面等への貼付け用の粘着層や、その粘着層を保護する剥離層(セパレータ)等を追加してもよい。
【0049】
(5)実施形態において、自動搬送機200の制御に本発明の測定システムを適用した例を挙げて説明した。これに限らず、制御部を備えずに、測定結果を得るだけの構成としてもよい。
【0050】
(6)実施形態において、基材層10にインク層20を設けて表示層30とする例を挙げて説明した。これに限らず、例えば、隠蔽層50に直接、インク層20を印刷したり転写したりして構成してもよい。この場合、インク層20自体が表示層となり、基材層10と接合層40を省略することができる。
【0051】
なお、実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本開示は以上説明した各実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0052】
1 不可視マーカー
2 マーク
5 識別マーク
10 基材層
20 インク層
30 表示層
40 接合層
50 隠蔽層
200 自動搬送機
200a フォーク
201 カメラ(撮影部)
202 演算部
203 制御部
500 不可視マーカーシステム
図1
図2
図3
図4
図5