(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174069
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】焼入装置
(51)【国際特許分類】
C21D 1/64 20060101AFI20231130BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20231130BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C21D1/64
C21D1/00 F
C21D1/00 121
C21D1/18 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086711
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】園部 勝
(72)【発明者】
【氏名】杉本 剛
(72)【発明者】
【氏名】山田 茂則
(72)【発明者】
【氏名】松野 敏之
(72)【発明者】
【氏名】谷口 光一
【テーマコード(参考)】
4K034
【Fターム(参考)】
4K034AA02
4K034AA15
4K034DB03
4K034EA01
4K034FA04
4K034FB12
4K034GA07
(57)【要約】
【課題】被処理物を焼入槽に浸漬する際のみならず、浸漬後も継続して焼入れ剤の流れを変化させることができ、また焼入槽内の省スペース化も可能な焼入装置の提供を目的とする。
【解決手段】内部に焼入れ剤を蓄える焼入槽と、被処理物を保持する保持部材と、前記保持部材を内側に引っ掛け載置できる枠部材と、前記枠部材を上下方向に移動制御する昇降機と、前記焼入槽の底部側に設置されたテーブルと、を有し、前記枠部材は整流板と、底部側に前記テーブルの上部側が通過可能な底部開口部を有し、被処理物を前記焼入槽に浸漬し、前記被処理物を前記保持部材を介して前記テーブル上に置いた状態で前記枠部材を前記昇降機にて上下移動可能になっていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に焼入れ剤を蓄える焼入槽と、被処理物を保持する保持部材と、前記保持部材を内側に引っ掛け載置できる枠部材と、前記枠部材を上下方向に移動制御する昇降機と、前記焼入槽の底部側に設置されたテーブルと、を有し、
前記枠部材は整流板と、底部側に前記テーブルの上部側が通過可能な底部開口部を有し、
被処理物を前記焼入槽に浸漬し、前記被処理物を前記保持部材を介して前記テーブル上に置いた状態で前記枠部材を前記昇降機にて上下移動可能になっていることを特徴とする焼入装置。
【請求項2】
前記被処理物と前記整流板の間隔は、前記焼入槽の液面に近いほど狭くなっていることを特徴とする請求項1に記載の焼入装置。
【請求項3】
前記焼入槽は前記焼入れ剤を底部側から上部側に向けて吐出する圧送管を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の焼入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製等の被処理物を焼入れ処理するのに用いられる焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や各種機械部品に使用されている鋼製部品(被処理物)に対して焼入れや焼き戻しなどの熱処理を施す場合に、多数の被処理物(ワーク)を一度に焼入槽に浸漬し、冷却するバッチ処理が行われている。
このような場合に、ワーク間の焼入れバラツキが問題となる。
【0003】
そのような問題に対して、特許文献1には多数のワークを焼入槽に浸漬させた後に、この多数のワークを焼入槽内で水平方向に移動させることで、ワーク間の冷却バラツキを抑える技術を開示する。
しかし、特許文献1に開示されるような冷却方法では多数の被処理物をそのまま移動させるので、被処理物が設置された位置関係による各被処理物間の冷却速度の差異は解消しがたい。
あわせて、多数の被処理物を移動させる機構にはモータ等の比較的に大きな動力が必要になり、結果として熱処理コストが増大する一因にもなる。
【0004】
これに対して、特許文献2および3には冷媒の方の焼入れ剤の流れを変える整流板を取り付ける技術を開示する。
ところが、特許文献2には複数のワークを支持した枠体の底部側に整流板を設けたものであるため、ワークが焼入槽に入る際には撹乱するものの、浸漬が終わると焼入れ剤の流れが無くなる。
被処理物が大物や重量物など焼入れ時間が長くなる焼入れ処理には不向きであった。
また、特許文献3に開示されている焼入装置は、焼入槽の底部に油の吐出口を有する循環装置を有している点で焼入れ剤の整流効果に優れているものの、整流板とワークとの間が広く、焼入槽側に整流板の設置スペースが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-321231号公報
【特許文献2】特開2010-18877号公報
【特許文献3】特許第6476535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、被処理物を焼入槽に浸漬する際のみならず、浸漬後も継続して焼入れ剤の流れを変化させることができ、また焼入槽内の省スペース化も可能な焼入装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る焼入装置は、内部に焼入れ剤を蓄える焼入槽と、被処理物を保持する保持部材と、前記保持部材を内側に引っ掛け載置できる枠部材と、前記枠部材を上下方向に移動制御する昇降機と、前記焼入槽の底部側に設置されたテーブルと、を有し、前記枠部材は整流板と、底部側に前記テーブルの上部側が通過可能な底部開口部を有し、被処理物を前記焼入槽に浸漬し、前記被処理物を前記保持部材を介して前記テーブル上に置いた状態で前記枠部材を前記昇降機にて上下移動可能になっていることを特徴とする。
これにより、被処理物を焼入槽内へ浸漬して被処理物を保持部材を介してテーブル上に一旦置いた状態で、枠部材を介して整流板を上下移動できる。
【0008】
本発明は、多数の被処理物(ワーク)を保持した保持部材を枠部材の内側に引っ掛け載置するともに、この枠部材に整流板を設けることで、この多数の被処理物を保持部材を介してテーブル上に置いた後にも昇降機にて枠部材を上下することができるので、この枠部材に設けた整流板を上下移動させ、焼入れ剤の流れを変えることができる点に特徴がある。
【0009】
したがって、本発明において枠部材の内側に保持部材を引っ掛け載置できるとは、多数のワークを焼入槽に浸漬する際に、この多数のワークを保持部材に保持させた状態で枠部材の内側に収容でき、昇降機にてこの枠部材を焼入槽の上部から下降させ、保持部材がテーブルの上部に置かれるように当接すると、この保持部材を介して多数のワークをテーブル上に置いたまま、さらにこの枠部材を下降および上昇させることができることを目的にしたものである。
よって、引っ掛け載置する構造には、多数のワークを保持させた保持部材を枠部材の内側に支持でき、焼入槽中にてテーブル上に保持部材を置いた状態になれば、枠部材からこの保持部材を分離できる構造であれば特に制限がない。
例えば、引っ掛け部は枠部材の内側に向けて突設した爪形状,フレーム形状,アーム形状などであってもよい。
【0010】
また、本発明において保持部材はワークを保持できれば、プレート状,格子状,網状,フレーム状など、いろいろな形態が例として挙げられ、枠部材の底部側に設けた底部開口部はテーブルの上部側が下側から上方に向けて通過できれば、上記保持部材の構造およびこの保持部材を載置支持するテーブルの上部側の構造に合せて、いろいろの形態に設計することができる。
したがって、テーブルの上部は必ずしも平坦面である必要がなく、複数の支柱状,格子状,フレーム枠状などが例として挙げられる。
【0011】
本発明において、前記被処理物と前記整流板の間隔は、前記焼入槽の液面に近いほど狭くなっているのが好ましく、焼入槽は前記焼入れ剤を底部側から上部側に向けて吐出する圧送管を有していてもよい。
整流板の上端側が被処理物に向けて傾いていると、被処理物を焼入槽に浸漬する際、さらに被処理物をテーブル上において枠部材を介して下降させる際にも、焼入れ剤を被処理物側に向けて整流できる。
整流板の形状は、平板,湾曲板,波板など、形状に制限はない。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る焼入装置にあっては、整流板を被処理物を焼入槽に浸漬する枠部材側に設けたので、焼入槽側に整流板を設けるよりも被処理物と整流板との間の隙間を狭くすることができるので、その分だけ焼入れ剤を被処理物に向けて速く進入させることができる。
また、被処理物をテーブルの上に置いた状態でも枠部材を昇降機で下降又は上昇させることで、整流板が上下移動し、被処理物を焼入槽に浸漬後にも継続して焼入れ剤を整流できる。
整流板を枠部材に取り付けると、その交換や被処理物に応じて変更することも容易である。
昇降機は、上昇位置,下降位置およびそれらの速度が制御されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】焼入装置1Aを用いた焼入れ処理の状態を示す模式図である。
【
図4】焼入装置1Aを用いた焼入れ処理の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る焼入装置の実施形態例について図面を用いて説明する。
焼入装置の第1形態(模式断面図)を
図1、第2形態(模式断面図)を
図2に示す。
第1形態の焼入装置1Aは、焼入れ剤2を内部に蓄える焼入槽3Aおよび被処理物W1を焼入槽3A内に浸漬したり引き上げたりする昇降機EL1を有している。
昇降機EL1の先端部には、
図1に示す様に被処理物W1を積載保持するための保持部材P1を有し、この保持部材P1は枠部材7Aの内側であって、底部に設けた引っ掛け部8Aに引っ掛け載置されている。
また、枠部材7Aの内側には2枚の整流板20,20の上端が被処理物W1に向けて傾斜した状態で固定されている。
この整流板の枚数に制限がなく、必ずしも枠部材7Aの内側でなくともよい。
焼入槽3A内の底部には、被処理物W1が静置された保持部材P1を載置するためのテーブル40が設置されている。
このテーブル40の外形寸法d
1より大きい内側寸法d
2からなる底部開口部9Aが設けられている。
本実施例では、保持部材P1をプレート状にしたが、被処理物W1を載置できればよい。
枠部材の底部開口部9Aの方がテーブル40よりも大きいので、枠部材は被処理物をテーブルにおいたまま、さらに下降できる。
【0015】
第2形態の焼入装置1Bは、
図1に示す第1形態の焼入装置1Aと同様に焼入れ剤2を内部に蓄える焼入槽3Bおよび被処理物W2を焼入槽3B内に浸漬したり引き上げたりするための昇降機EL2を有している。
昇降機EL2の先端部には、
図1に示す昇降機EL1と同様に被処理物W2を保持する保持部材P2と、そのような状態で内側に収容する枠部材7Bを備えている。
また、枠部材7Bには被処理物W2の周囲に2枚の整流板21,21の上端が被処理物W2に向けて傾斜した状態で固定されている。
【0016】
焼入槽3B内の底部には、被処理物W2が静置された保持部材P2を載置するためのテーブル41が設置されている。
さらに、焼入槽3B内にはプロペラ6A,6Aを回転させることで焼入れ剤2を送りだす圧送機器6B,6Bが設けれている。
圧送機器6B,6Bにより圧送された焼入れ剤2は、圧送管6,6のプロペラ6A,6A側から流入して、曲がり部6C,6Cを介して上方に向けた開口部5A,5Bから流出する。
開口部5A,5Bから流出した焼入れ剤2を被処理物W2に接触させることで、テーブル41に置かれた被処理物W2に対する冷却速度が高まる。
【0017】
次に、焼入方法について図面を用いて説明する。
図1に示した焼入装置1Aを用いた焼入方法を
図3および
図4に示す。
まず、
図1に示す様に被処理物W1を焼入槽3Aの焼入れ剤2内に浸漬する。
被処理物W1は、保持部材P1上に載置されており、枠部材7Aごと昇降機EL1を下降することで被処理物W1を焼入れ剤2に浸漬する。
被処理物W1を焼入れ剤2内に浸漬すると、枠部材7Aに設置された整流板20と被処理物W1の隙間にも焼入れ剤2が流入する。
焼入槽3A内の底部には、テーブル40が設置されているので、被処理物W1を載せた保持部材P1をテーブル40上に置く。
【0018】
その後に、
図3に示す様に枠部材7Aをさらに焼入槽3Aの下方へ移動する(
図3中の下向きの矢印)。
枠部材7Aを更に下ろすことで整流板20も下方に移動する。
それにより、焼入槽3A内の焼入れ剤2が枠部材7Aとテーブル40,保持部材P1の隙間を上向きに流れる(上向きの矢印)。
引き続き、その焼入れ剤2は整流板20と被処理物W1の隙間をさらに上向きに流れる。
つまり、被処理物W1をテーブル40に設置した状態で枠部材7Aを下方へ移動させることで被処理物W1の周囲に焼入れ剤2の流れを発生させる。
結果として、被処理物W1をテーブル40上に静置後も継続して焼入れ剤2による被処理物W1の冷却が可能になる。
【0019】
枠部材7Aを下方まで移動した後、次に枠部材7Aを上方へ移動させる(
図4における上向きの矢印)。
この場合も被処理物W1はテーブル40上に静置した状態とする。
枠部材7Aを上昇させることで、整流板20も同時に上方へ移動する。それによって、焼入槽内の焼入れ剤2は被処理物W1と整流板20の間を下方に流れる。
その後は、被処理物W1と枠部材7Aの間、保持部材P1やテーブル40と枠部材7Aの隙間を焼入れ剤2が下方に流れていく。
つまり、
図3に示す状態と同様に被処理物W1をテーブル40に設置した状態で枠部材7Aを上方へ移動させることで被処理物W1の周囲に焼入れ剤2の流れが発生する。
結果として、被処理物W1をテーブル40上に静置後も継続して焼入れ剤2による被処理物W1の冷却が可能になる。
【0020】
以上より、被処理物W1を焼入槽3Aの焼入れ剤2内に浸漬し、保持部材P1をテーブル40に一旦静置した後でも、枠部材7Aを焼入槽3Aの焼入れ剤2内を上下方向に移動することで、被処理物W1の周囲に焼入れ剤2の流れを発生させることができる。
したがって、被処理物W1を焼入槽内に浸漬した後であっても、被処理物W1を移動させることなく、持続的な焼入れ剤による冷却(油焼入れ)が可能になる。
整流板を枠部材を介して昇降機により上下移動することになるので、この整流板を枠部材に取り付け、取り外し可能に取り付けることができたり、被処理物に向けた傾斜角度の調整が可能になっていてもよい。
なお、本実施の形態において「焼入れ剤」とは、焼入れ油や水溶性焼入れ剤などの冷媒を指すものとする。
【符号の説明】
【0021】
1A,1B 焼入装置
2 焼入れ剤
3A,3B 焼入槽
5A,5B 開口部
6 圧送管
6A プロペラ
7A 枠部材
8A 引っ掛け部
9A 底部開口部
20,21 整流板
40,41 テーブル
EL1,EL2 昇降機
P1,P2 保持部材
W1,W2 被処理物