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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174091
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】筒型リニアモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086750
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】芝原 大智
【テーマコード(参考)】
5H641
【Fターム(参考)】
5H641BB06
5H641BB14
5H641BB18
5H641GG03
5H641GG08
5H641HH02
(57)【要約】
【課題】質量推力密度を向上できる筒型リニアモータを提供する。
【解決手段】筒型リニアモータ1は、筒状であって軸方向に交互に配置されるN極とS極とを有する界磁6と、界磁6の内周側或いは外周側に配置されて界磁6に対して軸方向へ移動可能な電機子Eと、筒状であって界磁6の電機子側に配置される軟磁性体で形成されたインナーチューブ9とを備え、インナーチューブ9は、内周或いは外周であって磁極間に界磁6の1つの磁極を軸方向に跨ぐことなく周方向に設けられる磁路断面積を狭める狭所部9bを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状であって軸方向に交互に配置されるN極とS極とを有する界磁と、
前記界磁の内周側或いは外周側に配置されて前記界磁に対して軸方向へ移動可能な電機子と、
筒状であって前記界磁の電機子側に配置される軟磁性体で形成されたインナーチューブとを備え、
前記インナーチューブは、磁極間に前記界磁の1つの磁極を軸方向に跨ぐことなく周方向に磁路断面積を狭める狭所部を有する
ことを特徴とする筒型リニアモータ。
【請求項2】
前記インナーチューブは、内周或いは外周の一方にスリットを有し、
前記インナーチューブの内周或いは外周の他方に前記電機子が配置され、
前記狭所部は、前記スリットによって形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の筒型リニアモータ。
【請求項3】
前記スリットは、前記インナーチューブの内周或いは外周の一方に開口部を有し、
前記スリットの断面形状は、前記開口部における軸方向幅より電機子側の先端の軸方向幅が狭い形状である
ことを特徴とする請求項2に記載の筒型リニアモータ。
【請求項4】
前記狭所部は、軸方向に対して傾斜して設けられている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の筒型リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
筒型リニアモータは、軸方向にN極とS極とが交互に現れるように複数の環状の永久磁石を積層して形成される筒状の界磁と、界磁の内周側に配置されて界磁に対して軸方向へ移動可能な電機子とを備えて構成されるものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このような従来の筒型リニアモータでは、界磁と電機子との間に非磁性体のインナーチューブを設けており、インナーチューブによって電機子と永久磁石との干渉を避けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-097377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような筒型リニアモータでは、界磁と電機子との間に非磁性体のインナーチューブが設けられるために、界磁と電機子との間の磁気的なエアギャップが大きくなり、電機子に大きな磁界を作用させたくても限界がある。そうかといって、単にインナーチューブを軟磁性体とすると界磁の磁束がインナーチューブ内を通ってしまい、やはり電機子へ大きな磁界を作用させづらくなってしまう。
【0006】
このように、従来の筒型リニアモータでは、界磁から電機子に大きな磁界を作用させるにも限界があり、これ以上の質量推力密度の向上が難しい。ここで、質量推力密度とは、筒型リニアモータの最大推力を質量で割った数値であり、質量推力密度の値が大きくなれば、筒型リニアモータの質量当たりの推力が大きくなる。
【0007】
そこで、本発明は、質量推力密度を向上できる筒型リニアモータの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の筒型リニアモータは、筒状であって軸方向に交互に配置されるN極とS極とを有する界磁と、界磁の内周側に配置されて界磁に対して軸方向へ移動可能な電機子と、筒状であって界磁の電機子側に配置される軟磁性体で形成されたインナーチューブとを備え、インナーチューブは、磁極間に界磁の1つの磁極を軸方向に跨ぐことなく周方向に磁路断面積を狭める狭所部を有している。
【0009】
このように構成された筒型リニアモータでは、インナーチューブの界磁の磁極間に周方向に磁路断面積を狭める狭所部が設けられている。このようにインナーチューブに磁路断面積を狭める狭所部が設けられることで、インナーチューブを軟磁性体としても電機子側へ効率よく磁界を作用させることができ、界磁と電機子との距離を短くして電機子に大きな磁界を作用させることができる。
【0010】
また、インナーチューブは、内周或いは外周の一方にスリットを備え、インナーチューブの内周或いは外周の他方に電機子が配置され、スリットによって磁路断面積を狭める狭所部を形成してもよい。
【0011】
このように構成された筒型リニアモータでは、インナーチューブの界磁側にスリットが設けられている。このようにインナーチューブにスリットが設けられることによって、インナーチューブの界磁のN極とS極との間に磁路断面積を狭める狭所部を容易に形成できる。
【0012】
また、このように構成された筒型リニアモータでは、スリットが設けられるのは、インナーチューブの電機子側と反対の面であるから、電機子側を向く面にはスリットが設けられないので凹凸がなく、電機子の軸方向への移動の案内にインナーチューブを利用でき、電機子と界磁との間の径方向の隙間をより一層狭くできる。
【0013】
さらに、このように構成された筒型リニアモータでは、電機子の軸方向への移動の案内にインナーチューブを利用できるので、電機子の軸方向への移動の案内に別途ガイドする機構を設けずに済む。
【0014】
よって、このように構成された筒型リニアモータによれば、別途のガイド機構の設置が不要であるから軽量となるだけでなく、電機子に大きな磁界を作用させるとともに、電機子と界磁との間の径方向の磁気的なエアギャップをより一層狭くできるので推力を大きくでき、その結果、質量推力密度をより一層向上できる。
【0015】
また、スリットがインナーチューブの内周或いは外周の一方に開口部を有し、スリットの断面形状を開口部における軸方向幅より電機子側の先端が狭い形状とした筒型リニアモータによれば、インナーチューブのスリットが設けられた部位における磁路断面積の急変が緩和されるため、スリットをインナーチューブに設けたことに起因するコギング推力を低減できる。
【0016】
さらに、インナーチューブにおけるスリットは、インナーチューブの軸方向に対して傾斜して設けられてもよい。このようにスリットがインナーチューブの軸線に対して傾斜する姿勢で設けられた筒型リニアモータによれば、スキュー効果によってスリットをインナーチューブに設けたことに起因するコギング推力を低減できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の筒型リニアモータによれば、質量推力密度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施の形態における筒型リニアモータの縦断面図である。
図2】一実施の形態の筒型リニアモータのインナーチューブの側面図である。
図3図3(a)は、一実施の形態の第1変形例における筒型リニアモータのインナーチューブのスリット部分の断面図である。図3(b)は、一実施の形態の第2変形例における筒型リニアモータのインナーチューブのスリット部分の断面図である。図3(c)は、一実施の形態の第3変形例における筒型リニアモータのインナーチューブのスリット部分の断面図である。図3(d)は、一実施の形態の第4変形例における筒型リニアモータのインナーチューブのスリット部分の断面図である。
図4図4(a)は、一実施の形態の第5変形例における筒型リニアモータのインナーチューブの一部側面図である。図4(b)は、一実施の形態の第6変形例における筒型リニアモータのインナーチューブの一部側面図である。図4(c)は、好ましくないスリットが設けられたインナーチューブの一部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における筒型リニアモータ1は、図1に示すように、筒状であって軸方向に交互に配置されるN極とS極とを有する界磁6と、界磁6の内周側に配置されて界磁6に対して軸方向へ移動可能な電機子Eと、筒状であって界磁6の電機子E側に配置される軟磁性体で形成されたインナーチューブ9とを備えて構成されている。
【0020】
以下、筒型リニアモータ1の各部について詳細に説明する。本実施の形態では、界磁6は、軸方向に交互に積層されて挿入される環状の主磁極の永久磁石6aと環状の副磁極の永久磁石6bとを備えて構成されて筒状とされている。また、界磁6の外周には筒状の磁性体で形成されるバックヨーク8が装着されている。界磁6とバックヨーク8は、円筒状の非磁性体のバレル7と、バレル7内に挿入される円筒状の軟磁性体のインナーチューブ9との間に形成される環状隙間に収容されている。
【0021】
なお、図1中で主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bに記載されている三角の印は、着磁方向を示しており、主磁極の永久磁石6aの着磁方向は径方向となっており、副磁極の永久磁石6bの着磁方向は軸方向となっている。主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bは、ハルバッハ配列で配置されており、界磁6の内周側では、軸方向にS極とN極が交互に現れるように配置されている。界磁6の主磁極の永久磁石6aは、界磁6の軸方向で交互に内周側にN極とS極とが入れ替わるように着磁されており、副磁極の永久磁石6bが界磁6におけるN極とS極との境になっている。
【0022】
また、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さは、副磁極の永久磁石6bの軸方向長さよりも長くなっている。主磁極の永久磁石6aの軸方向長さを長くすれば電機子Eとの間の主磁極の永久磁石6aとの間の磁気抵抗を小さくでき電機子Eへ作用させる磁界を大きくできるので筒型リニアモータ1の質量推力密度を向上できる。
【0023】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、永久磁石6a,6bの外周にバックヨーク8を設けている。バックヨーク8を設けない場合、副磁極の永久磁石6bの軸方向長さが短くなると主磁極の永久磁石6aの軸方向中央部分における磁石外部の磁気抵抗が増大し、界磁磁束が小さくなるため、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さを長くする際の筒型リニアモータ1の推力向上度合が小さくなる。これに対して、永久磁石6a,6bの外周にバックヨーク8を設けると、磁気抵抗の低い磁路を確保できるので副磁極の永久磁石6bの軸方向長さの短縮に起因する磁気抵抗の増大が抑制される。よって、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さを副磁極の永久磁石6bの軸方向長さよりも長くするとともに永久磁石6a,6bの外周に筒状のバックヨーク8を設けると筒型リニアモータ1の質量推力密度を大きく向上させ得る。バックヨーク8の肉厚は、主磁極の永久磁石6aの外部磁気抵抗の増大の抑制に適する肉厚に設定されればよい。
【0024】
また、界磁6の内周側には、電機子Eが挿入されており、界磁6は、電機子Eに磁界を作用させている。なお、界磁6は、電機子Eの可動範囲に対して磁界を作用させればよいので、電機子Eの可動範囲に応じて永久磁石6a,6bの設置範囲を決定すればよい。したがって、バレル7とインナーチューブ9との環状隙間のうち、電機子Eに対向し得ない範囲には、永久磁石6a,6bを設置しなくともよい。なお、界磁6は、本実施の形態ではハルバッハ配列で積層される永久磁石6a,6bで構成されているが、内周にN極とS極とが交互に現れればよいので、ハルバッハ配列以外の配列で積層される永久磁石で構成されてもよい。
【0025】
インナーチューブ9は、図1および図2に示すように、軟磁性体で形成された筒であって界磁6の電機子E側となる内周に嵌合しており、界磁6側を向く外周であって界磁6におけるN極とS極の磁極間に径方向で対向する位置のそれぞれにスリット9aを備えている。なお、インナーチューブ9は、電機子Eが内周側に挿入されるので、界磁6の内周側に配置されていればよいが、界磁6との間にエアギャップを形成しないように、界磁6の内周に嵌合されるとよい。各スリット9aは、界磁6の1つの磁極を軸方向に跨ぐことなく周方向に設けられており、図2に示したところでは、インナーチューブ9の外周に対して周方向に沿って全周に亘って設けられた環状溝で形成されている。
【0026】
界磁6は、ハルバッハ配列で積層された永久磁石6a,6bとで構成されて、磁極であるN極とS極の境が副磁極の永久磁石6bの軸方向で対向する範囲となっており、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、スリット9aは、磁極間となる副磁極の永久磁石6bに対向する範囲に形成されている。
【0027】
インナーチューブ9が界磁6のN極とS極の磁極間に対向する位置にそれぞれスリット9aを備えることで、インナーチューブ9のスリット9aが設けられた狭所部9bの径方向の肉厚が薄くなり、スリット9aをインナーチューブ9に設けることでインナーチューブ9に磁路断面積を狭める狭所部9bが形成される。このようにインナーチューブ9にスリット9aを設けると、界磁6における磁力線は、N極から出てインナーチューブ9の肉厚を通過してS極へ向かおうとするが、インナーチューブ9のスリット9aが設けられた狭所部9bの磁路断面積が狭くなっている。軟磁性体で形成されたインナーチューブ9に界磁6の磁極間に対向する位置に磁路断面積を狭める狭所部9bを形成しないと、界磁6のN極から出た磁力線は、多くがインナーチューブ9の肉厚内を通って界磁6のS極へ戻るルートを辿ってしまい、インナーチューブ9の内周側の電機子E側へ界磁6の磁界が作用しがたくなってしまう。これに対して、インナーチューブ9のスリット9aが設けられた狭所部9bは磁路断面積が狭くなっており当該狭所部9bで磁束が飽和するため、界磁6のN極から出た多くの磁力線は、図2中の一点鎖線に示すように、インナーチューブ9の肉厚を径方向へ抜けて一度電機子Eを通り、再度インナーチューブ9の肉厚を径方向へ通過してS極へ戻るルートを採る。
【0028】
よって、インナーチューブ9が界磁6のN極とS極の磁極間に対向する位置にそれぞれスリット9aを備えることで、界磁6の磁力線をインナーチューブ9の内側の電機子Eに多く通過させることができ、さらに、インナーチューブ9が軟磁性体で形成されておりインナーチューブ9と電機子Eとの距離を極短くするようにインナーチューブ9を配置できるので、インナーチューブ9内に挿入される電機子Eに大きな磁界を作用させることができる。
【0029】
なお、スリット9aは、インナーチューブ9の界磁6のN極とS極の磁極間に対向する箇所に磁力線が通りがたい狭所部9bを形成して、インナーチューブ9の内側の電機子Eに磁力線を通過させるようにすればよいので、インナーチューブ9の周方向で一続きの環状の溝で形成される以外にも、周方向で間欠した溝で形成されてもよい。
【0030】
また、スリット9aの幅は、任意に変更できるが、インナーチューブ9におけるスリット9aの幅が狭くなると電機子Eへ作用させ得る磁界が大きくなるので狭い方が好ましい。また、スリット9aが界磁6のN極或いはS極の全長に亘って跨がないように設けられる必要があるので、スリット9a,9a間の幅は少なくとも主磁極の永久磁石6aの軸方向幅よりも広くする必要がある。
【0031】
さらに、スリット9aの深さは、任意に変更できるが、インナーチューブ9のスリット9aの形成部位における磁路断面積を可能な限り狭くする方が電機子Eへ作用させ得る磁界を大きくできるので、インナーチューブ9に求められる強度が確保される範囲で可能な限り深くする方がよい。
【0032】
本実施の形態の筒型リニアモータ1では、インナーチューブ9の肉厚をスリット9aが形成されていない部分よりもスリット9aを形成した狭所部9bの肉厚を薄くして磁路断面積が狭くなる狭所部9bを形成しているが、磁路断面積を狭める狭所部9bは、インナーチューブ9の横断面において断面積がインナーチューブ9の他の部分より狭くなる部分であるから、インナーチューブ9の肉厚が充分に厚い場合、肉厚内に空隙や非磁性体を埋め込むことでインナーチューブ9内にエアギャップを設けてインナーチューブ9に磁路断面積が狭くなる狭所部9bを形成してもよい。さらに、インナーチューブ9の電機子E側を向く内周にスリットを設けて、インナーチューブ9に磁路断面積を狭める狭所部9bを形成してもよい。つまり、磁路断面積を狭める狭所部9bは、インナーチューブ9の内周と外周とのいずれに設けられてもよい。
【0033】
なお、界磁6がハルバッハ配列に積層されておらず、径方向に着磁された永久磁石を内外周に軸方向で交互にN極とS極とが現れるように積層して界磁を構成する場合、各永久磁石がそれぞれN極とS極の磁極を形成するので、少なくとも隣り合う永久磁石の境に沿って、或いは少なくとも一部が当該境を通って1つの永久磁石を軸方向で跨がないようにスリット9a等を設けることで磁路断面積を狭める狭所部9bを設ければよい。
【0034】
つづいて、バレル7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の図1中左端はキャップ16によって閉塞されており、バレル7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の図1中右端は環状のヘッドキャップ15によって閉塞されている。
【0035】
電機子Eは、筒状のコア2と、コア2に装着される巻線3とを備えて構成されて、インナーチューブ9内に軸方向移動自在に挿入されている。つまり、本実施の形態では、電機子Eは、界磁6の内周側に配置されており、界磁6に対して軸方向に相対移動できる。
【0036】
コア2は、本実施の形態では、材料をパーメンジュールとして形成されており、円筒状のヨーク2aと、環状であってヨーク2aの界磁側となる外周に周方向に沿ってかつ軸方向に間隔を空けて設けられる軸方向の断面が矩形状の複数のティース2bと、ティース2b,2b間の空隙で形成されて巻線3が装着されるスロット2cとを備えて構成されている。
【0037】
ヨーク2aは、前述の通り円筒状であって、その横断面積はティース2bにおける磁路断面積以上となるように肉厚が確保されている。
【0038】
本実施の形態では、図1および図2に示すように、ヨーク2aの外周に7個のティース2bが軸方向に等間隔に並べて設けられており、コア2の界磁6側となる外周側であって、ティース2b,2b間に巻線3が装着される環状溝でなるスロット2cが形成されている。なお、本実施の形態では、ティース2bの断面形状は、矩形となっているが、基端側の磁路断面積を大きく確保できるように外周となる先端側の幅よりも内周となる基端側の幅を大きくした台形となっていてもよい。
【0039】
本実施の形態では、図1中で隣り合うティース2b,2b同士の間には、環状溝でなるスロット2cが合計で6個設けられている。スロット2cは、コア2の周方向に沿って複数設けられており、コア2の外周に軸方向に等ピッチで並べて設けられている。
【0040】
そして、このスロット2cには、巻線3が巻き回されて装着されている。巻線3は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。各相の巻線3は、6個のスロット2cに界磁6の磁極配置に応じて適した配置となるように装着される。
【0041】
このように構成された電機子Eは、出力軸である非磁性体で形成されたロッド11の先端の外周に装着され、ロッド11とともに界磁6内に移動自在に挿入される。
【0042】
ロッド11は、バレル7の図1中右端に取り付けられたヘッドキャップ15内を通して筒型リニアモータ1外へ突出している。また、ロッド11の電機子Eの図1中左右にはインナーチューブ9の内周に摺接する環状のウェアリング12a,13aを外周に備えた環状のスライダ12,13が装着されている。
【0043】
電機子Eは、スライダ12,13によって挟持されてロッド11に固定されるとともに、インナーチューブ9の内周にスライダ12,13が摺動自在に挿入されているので、界磁6に対して軸ぶれしないので、インナーチューブ9に干渉することなく軸方向に移動できる。このように、電機子Eは、インナーチューブ9によって、界磁6に対する軸方向への移動が案内される。
【0044】
このように、インナーチューブ9は、界磁6が電機子Eへ作用させる磁界を大きくでき、スライダ12,13と協働して電機子Eの軸方向移動を案内する役割を果たしている。また、コア2の外径は、インナーチューブ9の内径よりも小さく、インナーチューブ9に干渉することはなく、筒型リニアモータ1は円滑に伸縮できる。なお、インナーチューブ9が間接的或いは直接的に電機子Eの軸方向への移動を案内できればよいので、インナーチューブ9が電機子Eの軸方向への移動を案内するとの概念には、スライダ12,13を利用してインナーチューブ9が電機子Eの移動を案内する態様も含まれる。
【0045】
なお、ロッド11は、図示はしないが、筒状とされており、ロッド11内に通される図外の電線を通じて筒型リニアモータ1の外方に設置される外部電源から巻線3へ電力供給できる。
【0046】
そして、たとえば、巻線3の界磁6に対する電気角をセンシングし、前記電気角に基づいて通電位相切換を行うとともにPWM制御により、各巻線3の電流量を制御すれば、筒型リニアモータ1における推力と電機子Eの移動方向とを制御できる。なお、前述の制御方法は、一例でありこれに限られない。また、電機子Eと界磁6とを軸方向に相対変位させる外力が作用する場合、巻線3への通電、あるいは、巻線3に発生する誘導起電力によって、前記相対変位を抑制する推力を発生させて筒型リニアモータ1に前記外力による機器の振動や運動をダンピングさせ得るし、外力から電力を生むエネルギ回生も可能である。
【0047】
以上のように構成された筒型リニアモータ1は、筒状であって軸方向に交互に配置されるN極とS極とを有する界磁6と、界磁6の内周側に配置されて界磁6に対して軸方向へ移動可能な電機子Eと、筒状であって界磁6の電機子側に配置される軟磁性体で形成されたインナーチューブ9とを備え、インナーチューブ9は、磁極間に界磁の1つの磁極を軸方向に跨ぐことなく周方向に磁路断面積を狭める狭所部9bを有している。
【0048】
このように構成された筒型リニアモータ1では、インナーチューブ9の界磁6の磁極間に周方向に磁路断面積を狭める狭所部9bが設けられている。このようにインナーチューブ9に磁路断面積を狭める狭所部9bが設けられることによって、インナーチューブ9を軟磁性体としても電機子Eに磁界を効率よく作用させることができ、界磁6と電機子Eとの距離を短くして、インナーチューブ9の内側の電機子Eに大きな磁界を作用させ得る。
【0049】
よって、本実施の形態の筒型リニアモータ1によれば、電機子Eと界磁6との間の径方向の磁気的なエアギャップを狭くでき、インナーチューブ9の内側の電機子Eに大きな磁界を作用させて、質量推力密度を向上できる。
【0050】
また、インナーチューブ9は、外周にスリット9aを備え、インナーチューブ9の内周に電機子Eが配置され、スリット9aによってインナーチューブ9に磁路断面積を狭める狭所部9bが形成されている。
【0051】
このように構成された筒型リニアモータ1では、インナーチューブ9の外周にスリット9aが設けられている。このようにインナーチューブ9にスリット9aが設けられることによって、インナーチューブ9の界磁6のN極とS極との間に磁路断面積を狭める狭所部9bを容易に形成できる。
【0052】
また、スリット9aが設けられるのは、インナーチューブ9の電機子E側と反対の面であるから、電機子E側を向く面にはスリットが設けられないので凹凸がなく、電機子Eの両側に配置したスライダ12,13を直接インナーチューブ9の電機子E側面に摺接させて電機子Eの軸方向への移動を案内することができる。
【0053】
このように、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、電機子Eの軸方向への移動の案内にインナーチューブ9を利用できるので、電機子Eの軸方向への移動の案内に別途ガイドする機構を設けずに済むとともに、電機子Eに隣接させて設けたスライダ12,13をインナーチューブ9に摺接させて電機子Eの径方向への移動を規制できるから電機子Eとインナーチューブ9との間の径方向の隙間を狭くしても、電機子Eとインナーチューブ9との接触を防止できるようになる。
【0054】
よって、本実施の形態の筒型リニアモータ1によれば、別途のガイド機構の設置が不要であるから軽量となるだけでなく、インナーチューブ9の内側の電機子Eに大きな磁界を作用させるとともに、電機子Eと界磁6との間の径方向の磁気的なエアギャップをより一層狭くできるので推力を大きくでき、その結果、質量推力密度をより一層向上できる。
【0055】
なお、スリット9aの断面形状は、前述したところでは、矩形であったが、図3に示すように、台形状、三角形状、半円形状等といった電機子E側へ向かうほど軸方向幅が狭くなる形状や、U字形状のように途中から電機子E側へ向かうと軸方向幅が徐々に狭くなる形状であってもよい。このように、スリット9aが界磁側に開口部を有し、スリット9aの断面形状を、開口部における軸方向幅より電機子E側の先端の軸方向幅が狭い形状とした筒型リニアモータ1によれば、インナーチューブ9のスリット9aが設けられた部位における磁路断面積の急変が緩和されるため、スリット9aをインナーチューブ9に設けたことに起因するコギング推力を低減できる。
【0056】
また、前述したところでは、スリット9aは、インナーチューブ9の外周に周方向に沿って設けられているが、図4に示すように、インナーチューブ9を側方からみてインナーチューブ9の軸方向に対して傾斜して設けられてもよい。この場合、図4(a)に示すように、インナーチューブ9の軸線に対して傾斜する環状溝でスリット9aを形成してもよいし、図4(b)に示すように、インナーチューブ9の外周に対して螺旋状に設けられてもよい。ただし、スリット9aがインナーチューブ9を側方からみてインナーチューブ9の軸線に対して傾斜する姿勢で設けられる場合、図4(c)に示すようにスリット9aが界磁6のN極或いはS極を軸方向に跨いで設けられてしまうと磁力線がインナーチューブ9の内側の電機子Eを通る磁束が減少するので好ましくない。なお、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、界磁6がハルバッハ配列で積層された永久磁石6a,6bで形成されているので、主磁極の永久磁石6a,6aの間、つまり副磁極の永久磁石6bの軸方向幅内にスリット9a等を形成して磁路断面積を狭める狭所部9bを設けるようにすれば、効率よくインナーチューブ9の内側の電機子Eに磁界を作用させ得る。なお、界磁6がハルバッハ配列に積層されておらず、径方向に着磁された永久磁石を内外周に軸方向で交互にN極とS極とが現れるように積層して界磁を構成する場合、各永久磁石がそれぞれN極とS極の磁極を形成するので、少なくとも隣り合う永久磁石の境に沿って、或いは少なくとも一部が当該境を通って1つの永久磁石を軸方向で跨がないようにスリット9a等を設けることで磁路断面積を狭める狭所部9bを設ければよい。
【0057】
このように、スリット9aがインナーチューブ9を側方からみてインナーチューブ9の軸線に対して傾斜する姿勢で設けられた筒型リニアモータ1によれば、スキュー効果によってスリット9aをインナーチューブ9に設けたことに起因するコギング推力を低減できる。
【0058】
なお、本実施の形態の筒型リニアモータ1は、界磁6の内周に電機子Eを設ける構造となっているが、界磁6の外周に筒状の電機子Eを設ける構造を採用することも可能である。その場合、界磁6の電機子E側となる外周にインナーチューブ9を配置して、インナーチューブ9にスリット9a等を設けて磁路断面積を狭める狭所部9bを設けるようにすればよい。このように構成された筒型リニアモータ1によっても、磁路断面積を狭める狭所部9bがインナーチューブ9の界磁6の磁極間に対向する部分に形成され、界磁6と電機子Eとの間の磁気的なエアギャップを狭くできるので、インナーチューブ9の外周側の電機子Eに大きな磁界を作用させて質量推力密度を向上できる。また、インナーチューブ9の内周にスリット9aを設けて磁路断面積を狭める狭所部9bを形成する場合、外周側に配置される電機子Eの軸方向の移動をインナーチューブ9の外周面で案内できるので、他にガイド機構を設ける必要が無くなりより一層質量推力密度を向上できる。このように構成された筒型リニアモータ1でも、スリット9aの断面形状を開口における軸方向幅より電機子E側の先端の軸方向幅が狭い形状としたり、インナーチューブ9を側方からみてスリット9aをインナーチューブ9の軸線に対して傾斜する姿勢で設けたりして、スリット9aをインナーチューブ9に設けたことに起因するコギング推力を低減できる。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1・・・筒型リニアモータ、6・・・界磁、9・・・インナーチューブ、9a・・・スリット、9b・・・狭所部、E・・・電機子
図1
図2
図3
図4