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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174149
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61D 25/00 20060101AFI20231130BHJP
   B60J 3/04 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B61D25/00 Z
B60J3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086847
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 斉央
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 尚志
(72)【発明者】
【氏名】木下 慎二
(57)【要約】
【課題】日射負荷低減による空調装置の省エネと車内の快適性の両立を図れる鉄道車両や熱負荷低減装置の制御方法を提供する。
【解決手段】印加電圧によって日射透過率を変更することができる熱負荷低減装置としてのECフィルムを窓ガラスに貼付したときに、車外の行先表示器に搭載する日射計によって測定した日射量と、車内の天井に搭載する赤外線カメラもしくは温度センサによって得られた車内の温度分布に応じて、ECフィルムの印加電圧を座席位置によって、個別に調節する。これにより、座席位置によって空調の効きが異なることに起因して、座席によっては寒過ぎるなど、車内空間の快適性を損なってしまう不具合を抑制できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
客室を備えた構体と、前記構体の外部に配置された日射計と、
前記日射計が計測した日射量の情報を入力する、前記構体に備えられた制御装置と、
前記構体に備えられ前記客室の内外を仕切る窓ガラスと、
前記窓ガラスに備えられたECフィルムとによって構成された鉄道車両において、
前記制御装置は、前記鉄道車両が営業運転を行っていると判定したときは、前記日射量の情報に応じて、前記ECフィルムの調光を制御することを特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両において、
前記日射計は、前記鉄道車両の進行方向一方側と進行方向他方側とにそれぞれ配置され、
前記制御装置は、前記日射量の情報に基づいて、前記進行方向一方側または前記進行方向他方側の前記窓ガラスに備えられた前記ECフィルムの日射透過率を一斉に規定値にすることを特徴とする鉄道車両。
【請求項3】
請求項1に記載の鉄道車両において、
客室内の温度分布を推定する温度分布推定装置を備え、
前記制御装置は、前記日射量の情報と、前記温度分布推定装置によって得られた客室内の温度分布の情報に応じて、前記ECフィルムの調光を前記窓ガラスごとに制御することを特徴とする鉄道車両。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道車両おいて、
前記温度分布推定装置は、赤外線カメラもしくは温度センサの少なくとも一方であることを特徴とする鉄道車両。
【請求項5】
請求項3に記載の鉄道車両において、
前記制御装置は、前記日射量の情報に基づいて、前記日射量の時間平均値を求め、前記時間平均値と、前記温度分布推定装置によって得られた車内の温度分布とに応じて、前記ECフィルムの調光を制御することを特徴とする鉄道車両。
【請求項6】
請求項1に記載の鉄道車両において、
前記制御装置は、前記鉄道車両が座席予約システムと連携しているか否かを判定し、前記座席予約システムと連携していると判定したときは、座席が予約された区間内で、前記ECフィルムの調光を制御することを特徴とする鉄道車両。
【請求項7】
請求項6に記載の鉄道車両において、
前記制御装置は、前記座席予約システムを介して、所望の空調温度を入力可能であり、入力された空調温度と実際の温度との差に応じて、前記ECフィルムの調光を制御することを特徴とする鉄道車両。
【請求項8】
請求項1に記載の鉄道車両において、
前記ECフィルムの日射透過率を選択する選択信号を出力する選択装置を有し、前記選択装置が前記選択信号を出力したときは、前記制御装置は、前記選択信号に応じて前記ECフィルムの調光を制御することを特徴とする鉄道車両。
【請求項9】
請求項1に記載の鉄道車両において、
前記制御装置は、太陽の高度に関する情報を取得し、前記太陽の高度に関する情報に基づいて前記ECフィルムの調光を制御することを特徴とする鉄道車両。
【請求項10】
請求項1に記載の鉄道車両において、
前記制御装置は、前記鉄道車両の位置情報を取得し、前記鉄道車両が駅のプラットホームに到着する前から出発する後まで、前記プラットホーム側の前記ECフィルムの日射透過率を規定値にすることを特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラル実現に向け、世界的に脱炭素化に向けた取組みが加速しており、環境負荷のさらなる低減が求められている。鉄道車両による環境負荷を低減する対策の一例として、日射による熱負荷(以下、日射負荷と称す)を低減することで、空調装置の省エネを向上させることが検討されている。
【0003】
日射負荷を低減するためには、例えば日射に応じて窓の調光を行うことが望ましく、それを実現する装置が、特許文献1などに開示されている。この公知の構成においては、住宅の窓ガラスの室外側に、印加電圧によって日射透過率を変更することができるエレクトロクロミックフィルム(以下、ECフィルムと称す)と日射センサを取り付け、室内側に温度センサを取付けている。かかる構成によれば、日射センサによって計測された日射量と温度センサによって計測された室温に応じて、ECフィルムの透過率を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-202858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1には、ECフィルムを住宅や車などに備えることは開示されているが、不特定多数の乗客が乗車する鉄道車両に備えることは開示されていない。本発明者は、特許文献1のECフィルムを鉄道車両に適用した場合、種々の課題が想定されることを見出した。例えば、一般的な鉄道車両は座席位置によって空調の効きが異なるため、上記の特許文献1の技術をそのまま適用すると不具合が生じるおそれがある。具体的には、日射量や窓近傍の温度に応じて窓の調光を一律に変更すると、窓近くの乗客が快適な温度と感じても、窓から離れた座席の乗客は寒過ぎると感じるなど、部分的に車内空間の快適性が損なわれることが懸念される。また、乗客が感じる暖かさ・寒さには、個人差があるという課題もある。
【0006】
本発明は上記の課題を考慮してなされたもので、日射負荷低減による空調装置の省エネと車内の快適性の両立を図れる鉄道車両を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の鉄道車両の一つは、
客室を備えた構体と、前記構体の外部に配置された日射計と、
前記日射計が計測した日射量の情報を入力する、前記構体に備えられた制御装置と、
前記構体に備えられ前記客室の内外を仕切る窓ガラスと、
前記窓ガラスに備えられたECフィルムとによって構成された鉄道車両において、
前記制御装置は、前記鉄道車両が営業運転を行っていると判定したときは、前記日射量の情報に応じて、前記ECフィルムの調光を制御することにより達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、日射負荷低減による空調装置の省エネと車内の快適性の両立を図れる鉄道車両を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に関わる、鉄道車両の車体の模式断面図である。
図2図2は、車内から見た窓部の模式図である。
図3図3は、本発明の実施形態1に関わる、ECフィルムの日射透過率を決定するためのフローチャートである。
図4図4は、本発明の実施形態1に関わる、客室内の天井部を示した図である。
図5図5は、本発明の実施形態1に関わる、客室内の妻カモイ部を示した図である。
図6図6は、本発明の実施形態1に関わる、客室内の車体側面部を示した図である。
図7図7は、本発明の実施形態4に関わる、ECフィルムの日射透過率を決定するためのフローチャートである。
図8図8は、本発明の実施形態5に関わる、ECフィルムの日射透過率を決定するためのフローチャートである。
図9図9は、本発明の実施形態に関わる、行先表示器を示した図である。
図10図10は、本発明の実施形態に関わる、車側灯を側面から見た際の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態1]
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は本発明の実施形態に関わる鉄道車両の車体の模式断面図である。図1に示す鉄道車両の車体は、構体1、側引戸2、窓ガラス3、ECフィルム4、隅柱5、配線6、赤外線カメラ7、日射計8、制御装置9、行先表示器10などから構成される。窓ガラス3は構体1や側引戸2にはめ込まれており、各窓ガラス3にはECフィルム4が貼付されている。ECフィルム4は、車内側から貼付することが望ましいと考えるが、ECフィルムの貼付方はこれに限定するものではない。ただし、ECフィルム4を窓の車外側に貼付すると、走行時に剥離してしまうことや、経年劣化でECフィルム4を貼り換える際に足場が必要となり作業性が悪くなってしまうことが懸念される。また、車両によっては窓ガラス3が2枚の合わせガラスとなっている場合があり、この場合ECフィルム4は2枚の合わせガラスの間に挟む形でも良い。
【0011】
図2は、車内から見た窓部を示す模式図である。窓部は、客室内外を仕切る窓ガラス3、ECフィルム4、配線6、電源装置30、パッキン31、電極パッド32、窓枠33、スイッチ34から構成される。配線6によって、電源装置30と制御装置9、スイッチ34、電極パッド32間は繋がれており、電源装置30は制御装置9またはスイッチ34からの制御入力に応じて、電極パッド32間に電圧を印加する。この印加電圧によって、ECフィルムの結晶構造が変化し、日射透過率が変更される。本実施形態では、選択装置としてのスイッチ34は押しボタン式であって、乗客等が押しボタンを手動操作することで選択信号が制御装置9に出力され、それに応じてECフィルムの日射透過率を選択できるが、スイッチの種類をこれに限定するものではなく、例えば非接触式のスイッチでもよい。なお、ECフィルム4は印加電圧によって段階的に日射透過率が変化するものとする。また制御装置9は、乗客が鉄道車両を特定して座席を予約できる、外部の座席予約システムと通信可能である。
【0012】
また、図1に示すように、制御装置9と赤外線カメラ7、日射計8間も配線6によって繋がれており、赤外線カメラ7によって測定された車内の温度分布のデータ(情報)と、日射計8によって測定された車内の日射量のデータ(情報)が制御装置9に伝送される。伝送されたデータに基づいて、制御装置9にて、図3に示すフローチャートに沿って日射透過率を決定し、目標とする日射透過率を実現するための制御入力を制御装置9から電源装置30に伝送する。電源装置30は、制御装置9の制御入力により、各窓ガラス3のECフィルムに給電し、それによりECフィルムは個別に調光される。なお、可能な限り少ない数のセンサで車内全体の温度分布を測定するため、本実施形態では赤外線カメラ7を客室内やデッキの天井へ設置している。客室内の赤外線カメラ設置位置の例を図4に示す。
【0013】
図4は、車内から見た天井部の下面図である。天井部は側天井パネル50、中央天井パネル51、照明カバー52、スピーカ53、赤外線カメラ7から構成される。赤外線カメラ7は、客室全体の温度分布を測定できるよう、枕木方向は天井部の中央かつ、レール方向は客室の端から客室長の1/4の距離の位置に設置する。ただし、使用するセンサや設置位置をこれに限定するものではない。
【0014】
例えば、図5に示すように赤外線カメラ7を妻カモイ(客室のレール方向端部壁の上部)11の中央かつ、電光掲示板60の上に設置してもよいし、あるいは電光掲示板60の上に限らず、その側方に設置しても良い。さらに温度分布推定装置としての赤外線カメラの代わりに温度センサを設置してもよく、例えば図6に示すように吹寄せ12の窓部からの日射や空調吹出口70からの風が当たらない部分に、温度センサ71を設置することができる。また、赤外線カメラと温度センサを併用しても良く、さらに赤外線カメラ7はCCTVカメラ装置の中に搭載された形とすることも可能である。
【0015】
また、日射計8は、窓ガラス3と同じように日光の当たる車外の構体側面(進行方向一方側および進行方向他方側)に設置することが望ましいが、制御装置9から日射計8に配線6を通すため、構体に新たな配線孔を開けることは製作性が悪い場合もある。そこで、本実施形態では、行先表示器10の配線孔を利用し、図9に示すように日射計8を行先表示器10に備えられている表示部80の枠の部分に設置しているが、設置位置をこれに限定するものではない。
【0016】
他にも図10に示すように、車体外部に取り付けられる車側灯90の内部を遮光板91で仕切り、遮光板91を挟んでLED電球92と反対側である上部に日射計8を設置してもよい。これにより、LED電球92の光が日射計8には入射しないため、日射計8の計測値に影響を及ぼすことなく、乗務員などは遮光板91を介してまたは直接、LED電球92の点灯の有無を確認することができる。なお、行先表示器10に設置する場合は、日射計を設置したことで空気抵抗や騒音が発生しないよう、日射計の上面は構体表面と面一とする。
【0017】
図3に示すECフィルムの日射透過率を決定するためのフローは、以下のとおりである。
まず、ステップ100にて車両に通電する(主電源スイッチをオン操作する)と、ステップ101において、制御装置9は、営業運転時か否かを、行先表示器10への制御入力などから判定する。営業運転とは、乗客が乗車可能な状態で鉄道車両を運転することをいい、乗客が乗車しているか否かは問わない。現在の車両が営業運転時でない(すなわち回送待機時や回送運転時、車内清掃時など)と判定した場合、制御装置9は、制御フローをステップ102に移行する。
【0018】
ステップ102において、制御装置9は、乗客が乗車していないことを前提に、全窓の日射透過率を一律に最小(規定値)とするようECフィルム4を制御し、これにより日射負荷に伴う車内温度上昇や、座席の日焼け等を抑制する。その後、制御装置9は、制御フローをステップ112に移行する。
【0019】
これに対し、営業運転時と判定した場合は、制御装置9は、制御フローをステップ103に移行する。ステップ103において、制御装置9は、座席予約システムと連携していない車両か否かを、外部の座席予約システムからの制御入力の有無で判定する。座席予約システムと連携している車両と判定した場合、制御装置9は、制御フローをステップ104に移行する。
【0020】
ステップ104において、制御装置9は、窓際の席が、まもなく予約された区間となるか否か、座席予約システムから得られる座席予約区間の情報と、軌道回路から得られる車両の位置情報に基づいて判定する。なお、判定基準値は、乗務員が任意に設定できるものとする。また、車両の位置情報を得るための手段として、軌道回路を挙げているが、手段をこれに限定するものではなく、他にも車輪の回転数の積算値やGlobal positioning system(GPS)の情報、車両の周囲の風景を画像認識技術によって解析することで、車両の位置を得てもよい。窓際の席が、まもなく予約された区間となると判定した場合は、制御装置9は、制御フローをステップ111に移行するが、しばらく予約された区間とならないと判定した場合は、制御フローをステップ105に移行する。
【0021】
これに対し、ステップ103において、連携していない車両と判定した場合は、制御装置9は、直ちに制御フローをステップ105に移行する。ステップ105において、制御装置9は、乗客による日射透過率を選択する入力はないか否かを、スイッチ34からの制御入力の有無で判定する。制御入力があったときは乗客による日射透過率を選択する入力があると判定し、制御装置9は、制御フローをステップ106に移行する。
【0022】
ステップ106において、制御装置9は、スイッチ34から出力された選択信号を優先し、制御フローをステップ112に移行する。
【0023】
これに対し、スイッチ34からの制御入力がないときは、乗客による日射透過率を変更する入力がないと判定し、制御装置9は、制御フローをステップ107に移行する。ステップ107において、制御装置9は、日射量が閾値より大きいかを、日射計8から伝送された日射量のデータに基づいて判定する。トンネル走行時や夜間走行時などで日射量が閾値以下であると判定した場合、制御装置9は、制御フローをステップ108に移行する。
【0024】
ステップ108において、制御装置9は、全窓の日射透過率を最大とし、制御フローをステップ112に移行する。
【0025】
これに対し、日射量が閾値より大きいと判定した場合は、制御装置9は、制御フローをステップ109に移行する。ステップ109にて、制御装置9は、窓近辺の座席の温度が目標値以下かを、赤外線カメラ7や温度センサ71によって得た車内の温度分布のデータを車内の温度の目標値に照らして判定する。目標値より大きいと判定した場合、制御装置9は、制御フローをステップ110に移行する。なお、目標値はあらかじめ任意に設定できるものとする。
【0026】
ステップ110において、制御装置9は、該当する窓の日射透過率を最小(規定値)とし、制御フローをステップ112に移行する。
【0027】
これに対し、窓近辺の座席の温度が目標値以下と判定した場合は、制御装置9は、制御フローをステップ111に移行する。ステップ111にて、制御装置9は、該当する窓の日射透過率を最大とし、制御フローをステップ112に移行する。
【0028】
制御装置9は、記憶した制御プログラムにて、制御装置9から電源装置30に制御入力を伝送してからの時間をカウントしておき、また、一定時間経過したとみなす判定基準をあらかじめ任意に設定しておく。ステップ112にて、制御装置9は、カウントした時間を判定基準時間に照らして、窓の日射透過率を決定し、一定時間経過したかを判定する。一定時間経過していると判定した場合は、制御フローをステップ101に戻すが、一定時間経過していないと判定した場合、制御フローをステップ113に移行する。
【0029】
ステップ113にて、制御装置9は、車両の電源が遮断されたか否かを、車両の通電の有無で判定する。車両の電源が遮断されていないと判定した場合、制御装置9は、制御フローをステップ112に戻して日射透過率の制御を続行するが、遮断されていると判定した場合は、制御フローをステップ114に移行する。
【0030】
ステップ114にて、制御装置9は、日射透過率の制御を終了する。
【0031】
[実施形態2]
上記の実施形態1の制御をそのまま適用すると、車両走行時、日射計8に短い間隔で断続的に影が差しかかった場合など、ステップ107における日射計8の測定値に応じて窓の日射透過率が目まぐるしく変わり、乗客が不快に感じることが懸念される。そこで、日射透過率を決定する際に参照する日射量を、制御装置9が例えば数十秒の時間平均をとった平均値などとすることで、ECフィルムの応答が頻繁に変化しないようにすることができる。
【0032】
[実施形態3]
また、乗車しようとする乗客が、座席予約システムを介して、予約時に必要に応じて、好みの空調温度も登録可能としておくこともできる。例えば、乗客が持つ電子端末や駅の発券機などから乗車する座席と区間を入力したときに、合わせて好みの空調温度を入力してもよい。入力した空調温度は、制御装置を介してステップ109の目標値に反映され、乗車する座席と区間において、乗客の好みに応じた空調温度となるよう日射透過率を制御し、より快適な車内空間の提供を実現する。
【0033】
[実施形態4]
次に実施形態4の制御について、図7を用いて説明する。本実施形態は、営業運転時に日射が当たっている側の窓の日射透過率を一斉に規定値に変更するものである。
【0034】
実施形態4については、実施形態1の制御フローから変更があるステップのみ、以下に説明する。
【0035】
ステップ101に続くステップ130にて、制御装置9は、車両の海側または山側のどちらに日射が当たっているか、日射計8によって測定された海側と山側の日射量のデータを比較し判定する。制御装置9は、車両の山側に日射が当たっていると判定した場合は、制御フローをステップ131に移行し、一方、海側に日射が当たっていると判定した場合は、制御フローをステップ132に移行する。
【0036】
制御装置9は、ステップ131においては、山側の窓の日射透過率を一斉に最小(規定値)とするが、ステップ132においては、海側の窓の日射透過率を一斉に最小(規定値)とし、その後、制御フローをステップ112に移行する。なお、ステップ130~132において、「山側」を「車両進行方向左側」、「海側」を「車両進行方向右側」としてもよい。
【0037】
[実施形態5]
次に実施形態5の制御について、図8を用いて説明する。本実施形態は、座席位置の目標温度と実際の温度との差に応じて、窓の日射透過率を比例制御するものである。
【0038】
実施形態5についても、実施形態1の制御フローから変更があるステップのみ、以下に説明する。
【0039】
ステップ107に続くステップ109において、制御装置9は、窓近辺の座席の温度が目標値以下か否かを、赤外線カメラ7や温度センサ71によって得た車内の温度分布のデータを車内の温度の目標値に照らして判定する。窓近辺の座席の温度が目標値より大きい場合、制御装置9は、制御フローをステップ140に移行するが、目標値以下の場合は、制御フローをステップ141に移行する。なお、目標値はあらかじめ任意に設定できるものとする。
【0040】
制御装置9は、ステップ140においては、目標値との差に比例して該当する窓の日射透過率を小さくするが、ステップ141においては、目標値との差に比例して該当する窓の日射透過率を大きくし、その後、制御フローをステップ112に移行する。これにより、窓近辺の座席の温度に応じて、より細やかな日射透過率の制御を行える。
【0041】
[実施形態6]
図3のECフィルムの日射透過率を決定するためのフローに加えて、季節や時間帯、走行状況に応じて、ECフィルムの日射透過率を制御してもよい。例えば、制御装置9は、内蔵するカレンダーと時計などに基づいて太陽の高度に関する情報を取得し、この情報に基づいてECフィルムを制御できる。具体的には、冬場(座席の目標温度よりも外気温が低い場合)は、日射透過率を常に最大とする。朝日や夕日が差し込む時間帯は、乗客がまぶしくないように、日が当たる窓に貼付したECフィルムの日射透過率を最小(規定値)とする。ただし、曇天時や雨天時等の場合には太陽光が入射しないため、日射計8の測定値から曇天時や雨天時等と判断した場合、ECフィルムの日射透過率を最大とする。
【0042】
また、制御装置9は、鉄道車両の位置情報を取得し、この情報に基づいてECフィルムを制御できる。具体的には、鉄道車両の位置情報から、車両が駅のプラットホームに到着する前から出発する後まで、プラットホーム側の窓に貼付したECフィルムの日射透過率を最小(規定値)とすることで、プラットホームにいる乗客からの視線を遮るようにし、より快適な車内空間の提供を実現することもできる。
【0043】
本発明によれば、日射量と車内の温度分布に基づいて、窓の調光を座席位置によって個別に行うことが可能となり、車内の快適性を損なわずに日射による空調への熱負荷を低減することができる。本発明者の試算によれば、最大93%の熱負荷低減を実現できる。
【符号の説明】
【0044】
1…構体、2…側引戸、3…窓ガラス、4…ECフィルム、5…隅柱、6…配線、7…赤外線カメラ、8…日射計、9…制御装置、10…行先表示器、11…妻カモイ、12…吹寄せ、30…電源装置、31…パッキン、32…電極パッド、33…窓枠、34…スイッチ、50…側天井パネル、51…中央天井パネル、52…照明カバー、53…スピーカ、60…電光掲示板、70…空調吹出口、71…温度センサ、80…表示部、90…車側灯、91…遮光板、92…LED電球
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10