(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174154
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合用工具
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
B23K20/12 344
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086852
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 真三樹
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 哲
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167BG06
4E167BG13
4E167BG15
4E167BG22
4E167DC01
(57)【要約】
【課題】接合部におけるバリの発生、特にバリの高さを効果的に抑制して健全な接合部を形成し、後工程での負担を軽減することができる摩擦攪拌接合用工具を提供する。
【解決手段】摩擦攪拌接合用工具10は、本体部11と、プローブ12と、ショルダー部23と、プローブ12の周りに形成された周溝14を備える。周溝14の溝深さをd、プローブ12の軸方向長さをLとしたとき、d>0.33×Lである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の本体部と、前記本体部におけるショルダー部から軸方向に突設されたプローブとを備え、被接合材に前記プローブの先端を回転させつつ押し当てることにより摩擦熱を発生させて、前記被接合材を接合する摩擦撹拌接合用工具であって、
前記ショルダー部は、前記プローブの周方向外側に周溝を備え、
前記ショルダー部の表面からの前記周溝の溝深さをdとし、前記プローブの軸方向長さをLとしたとき、d>0.33×Lである、摩擦攪拌接合用工具。
【請求項2】
前記ショルダー部の表面は、平面状である、請求項1に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブの回転による摩擦熱を利用して被接合材を接合するための摩擦攪拌接合用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦撹拌接合(FSW:Friction Stir Welding)とは、工具の先端に設けられたプローブを回転させつつ、プローブの先端面を被接合材の突合せ部に押し当て、プローブを被接合材に圧入した状態で突合せ部に沿って移動させ、摩擦熱と撹拌により被接合材を接合する方法である。
【0003】
摩擦撹拌接合では、アルミニウムなどの流動性の高い材料を被接合材とした場合には、良好な接合が得られるものの、プローブの差し込み深さや、接合される被接合材の寸法精度等により突き合わせ接合面にバリが形成される場合がある。すなわち、プローブを回転させながら被接合材に押し付けることで、プローブの外側に流出した材料がバリとなる。摩擦攪拌接合で発生するバリは、小さければブラッシング等で除去することが可能であるが、大きなバリになると切削等で削除する必要があり、後工程におけるバリ除去が難しくなる。
【0004】
このような問題に関し、特許文献1には、摩擦攪拌接合用治具の周溝の内側直径をr、治具本体の直径をR、周溝の溝幅をW、周溝の溝深さをd、プローブ長さをLとしたとき、0.5R≦r≦0.95R、0.025R≦W≦0.25R、0.01L≦d≦0.33Lの各条件を満足するように構成して、バリの発生を抑制するようにした摩擦攪拌接合用治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の摩擦攪拌接合用治具を用いた接合では、必ずしもバリの抑制効果が十分ではなく、さらなる改善が望まれていた。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、接合部におけるバリの発生、特にバリの高さを効果的に抑制して健全な接合部を形成し、後工程での負担を軽減することができる摩擦攪拌接合用工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、摩擦攪拌接合用工具に係る下記の構成により達成される。
【0009】
柱状の本体部と、前記本体部におけるショルダー部から軸方向に突設されたプローブとを備え、被接合材に前記プローブの先端を回転させつつ押し当てることにより摩擦熱を発生させて、前記被接合材を接合する摩擦撹拌接合用工具であって、
前記ショルダー部は、前記プローブの周方向外側に周溝を備え、
前記ショルダー部の表面からの前記周溝の溝深さをdとし、前記プローブの軸方向長さをLとしたとき、d>0.33×Lである、摩擦攪拌接合用工具。
【発明の効果】
【0010】
本発明の摩擦攪拌接合用工具によれば、接合部におけるバリの発生、特にバリの高さを効果的に抑制することができ、健全な接合部を形成して後工程での負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合用工具の要部側面図である。
【
図2A】
図2Aは、比較試験に用いた、従来の摩擦撹拌接合用工具の要部側面図である。
【
図2B】
図2Bは、比較試験に用いた、本実施形態に係る摩擦撹拌接合用工具の要部側面図である。
【
図3】
図3は、比較試験における試験条件を示す概念図である。
【
図4】
図4は、比較試験の試験結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、プローブ長に対する溝深さの比率(d/L)と、プローブ体積に対する溝体積の比率の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、プローブ長に対する溝深さの比率(d/L)と、バリ高さの最大値との試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る摩擦撹拌接合用工具の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、摩擦撹拌接合用工具10は、不図示の回転駆動用モータにより回転される柱状の本体部11と、本体部11の先端に本体部11と同軸に一体成形され、本体部11より小径である略円柱形状のプローブ12と、を有する。
【0013】
本体部11の先端面13(ただし、プローブ12を除く。)は平面であり、プローブ12の外周側には円環状平面であるショルダー部23が形成されている。該ショルダー部23には、プローブ12の外周側に、断面略V字形の周溝14が設けられている。すなわち、プローブ12と周溝14との間、及び周溝14より外周側は、ショルダー部23であって、平面状となっている。
【0014】
ここで、周溝14の外周側にあるショルダー部23の高さが、周溝14の内周側にあるショルダー部23の高さより高い場合、後述するように、塑性流動化した被接合材が流出し易くなるため、これらは同じ高さであることが望ましい。なお、周溝14は、断面V字形に限定されず、例えば、断面U字形であってもよい。
【0015】
周溝14は、回転するプローブ12との摩擦熱により塑性流動化した被接合材が、周溝14内に保持されることで、ショルダー部23の外側にバリとして排出されることを抑制する。また、平面状であるショルダー部23は、塑性流動化した被接合材を、接合部の領域に押さえ込むように作用する。
【0016】
続いて、本実施形態の摩擦撹拌接合用工具10は、ショルダー部23からのプローブ12の軸方向長さをL、ショルダー部23の表面からの周溝14の溝深さをdとしたとき、下記式(1)を満足する。
【0017】
d>0.33×L ・・・(1)
【0018】
後述する試験結果で示すように、d>0.33×Lを満足することで、前述した周溝14及びショルダー部23の効果により、接合後に生じるバリが少なく、良好な接合結果が得られる。その理由は、プローブ12との摩擦熱により塑性流動化した被接合材が、周溝14内に貯留される効果と、塑性流動化した被接合材がショルダー部23により接合部の領域に押し付けられてバリの生成を抑制する効果とが、バランスした結果と推察される。
【0019】
なお、本実施形態の摩擦撹拌接合用工具10は、d>0.33×Lを満足するものであるが、上記した効果をより効果的に発揮するためには、d>0.50×Lを満足することが好ましい。
【0020】
次に、
図2Aに示す従来形状の摩擦撹拌接合用工具10Aと、
図2Bに示す周溝14を備える本実施形態の摩擦撹拌接合用工具10とを用いて、被接合材であるアルミニウム板を接合したときに形成されるバリの大きさを比較するための予備試験を行った結果を説明する。
(予備試験)
【0021】
従来の摩擦撹拌接合用工具10Aの形状及び寸法を
図2Aに、また、周溝14を備える本実施形態の摩擦撹拌接合用工具10の形状及び寸法を
図2Bに示す。両接合用工具10A,10を用い、
図3に示す試験条件で被接合材であるアルミニウム板を接合してバリの大きさを比較した。
【0022】
具体的には、板厚2.0mmと1.4mmのアルミニウム板を突合せて配置し、摩擦撹拌接合用工具10A,10を接合線に対して2.45°薄板側に傾けた状態(すなわち、傾斜角2.45°)で、摩擦撹拌接合用工具10A,10を2000回転/分の回転速度で回転させながら、2.0m/分の溶接速度で接合し、接合後に生じたバリの高さを比較した。
【0023】
【0024】
図4に示すように、板厚1.4mmのアルミニウム板側に生じるバリ高さは、いずれの工具でも0.2mmと同程度であり顕著な差は見られなかったが、板厚2.0mmのアルミニウム板側に発生するバリの最大高さは、従来の摩擦撹拌接合用工具10Aでは0.8mmであるのに対して、周溝14を備える本実施形態の摩擦撹拌接合用工具10では、0.5mmと大幅に抑制されている。したがって、周溝14によるバリ抑制効果が確認された。
【0025】
(d/Lの確認試験)
次に、プローブの軸方向長さLに対する周溝の溝深さdの比率(d/L)を変化させた、No.1~No.4の4つの摩擦撹拌接合用工具10を用いてアルミニウム板を接合し、それぞれのバリ高さの最大値を比較した。
【0026】
なお、摩擦撹拌接合用工具10は、
図5に示すように、プローブ12の体積と周溝14の体積との比率から、d/Lが小さい部分(すなわち、0.60以下)では「溝体積<プローブ体積」であり、プローブ12から溢れた塑性流動化した被接合材の全てを、周溝14で受け止めることができないのが予想されるため、4つの摩擦撹拌接合用工具10のd/Lの値を、0.167~1.111の範囲とした。
【0027】
すなわち、No.1~No.4の摩擦撹拌接合用工具10の各仕様は、下記表1に示すように、プローブの軸方向長さLをいずれも1.8mmとし、周溝の溝深さdは、それぞれ0.3mm、0.6mm、0.9mm、2.0mmとした。
【0028】
試験条件は、被接合材として板厚2.5mm及び2.0mm、幅50mm、長さ300mmのアルミニウム板を突き合わせて配置し、下記表2に示す条件により長さ250mmを接合し、50~200mmの評価区間におけるバリ高さでもって評価した。
【0029】
【0030】
【0031】
d/Lに対するバリ高さの試験結果を
図6に示す。
図6から分かるように、d/L=0.333を境にしてバリ高さが大きく変化しており、No.1の摩擦撹拌接合用工具10(d/L=0.167)によるバリ高さは、No.2~No.4の摩擦撹拌接合用工具10(d/L=0.333~1.111)によるバリ高さと比較して、顕著に大きいものとなった。すなわち、d/Lが0.33超の摩擦撹拌接合用工具10を用いて被接合材を接合することで、バリ高さを抑制できることが分かった。
【0032】
これは、d/Lが0.33以下であると、プローブ12により塑性流動化して溢れた被接合材を周溝14で受けることができず、接合部から流出してバリとなるためと考えられる。一方、d/Lが0.33を超えると、塑性流動化した被接合材の略60体積%以上を周溝14内に保持することができ、さらに周溝14から溢れ出た塑性流動化した被接合材を、平面であるショルダー部23により接合部の領域に押さえ込むことで、バリ高さが効果的に抑制されたと考えられる。
【0033】
なお、本発明は、前述した実施形態及び試験例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0034】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0035】
[1] 柱状の本体部と、前記本体部におけるショルダー部から軸方向に突設されたプローブとを備え、被接合材に前記プローブの先端を回転させつつ押し当てることにより摩擦熱を発生させて、前記被接合材を接合する摩擦撹拌接合用工具であって、
前記ショルダー部は、前記プローブの周方向外側に周溝を備え、
前記ショルダー部の表面からの前記周溝の溝深さをdとし、前記プローブの軸方向長さをLとしたとき、d>0.33×Lである、摩擦攪拌接合用工具。
【0036】
この構成によれば、接合部におけるバリの発生、特にバリの高さを効果的に抑制して健全な接合部を形成し、後工程での負担を軽減できる。
【0037】
[2] 前記ショルダー部の表面は、平面状である、上記[1]に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【0038】
この構成によれば、塑性流動化して周溝から溢れ出た被接合材を、平面であるショルダー部により接合部の領域に押さえ込むことで、バリ高さを抑制できる。
【符号の説明】
【0039】
10 摩擦撹拌接合用工具
11 本体部
12 プローブ
13 本体部の先端面(ショルダー部の表面)
14 周溝
23 ショルダー部
d ショルダー部の表面からの周溝の溝深さ
L プローブの軸方向長さ