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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174156
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】産業用ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
B25J19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086854
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】寺下 昇吾
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS06
3C707BS12
3C707BS13
3C707BS15
3C707CS01
3C707KS09
3C707KS11
3C707KT01
3C707LU01
3C707LU05
3C707LV15
3C707MS14
3C707MS27
(57)【要約】
【課題】作業効率の向上と安全性の確保とを両立することができる産業用ロボットシステムを提供する。
【解決手段】実施形態の産業用ロボットシステム1は、ロボット2の動作に関するパラメータに対する制限値をシーンごとに設定する設定部20と、制限値に基づいてロボット2の動作を制御する動作制御部21と、シーンを切り替える切替部22と、制限値と比較することによりロボット2の動作の安全性を監視する監視部23と、を備えており、切替部22は、ロボット2の動作中にシーンを切り替え可能にし、動作制御部21は、各シーンに設定されている制限値に基づいてロボット2の動作を制御するとともに、監視部23によって安全性が低下する可能性があると判定された場合、ロボット2の動作を停止させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用ロボットの動作に関するパラメータに対する安全性に基づく制限値を、前記産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいて区分けされたシーンごとに設定する設定部と、
設定された前記制限値に基づいて前記産業用ロボットの動作を制御する動作制御部と、
前記産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいてシーンを切り替える切替部と、
前記産業用ロボットの動作時におけるパラメータを前記制限値と比較することにより、前記産業用ロボットの動作の安全性を監視する監視部と、を備え、
前記切替部は、前記産業用ロボットの動作中にシーンを切り替え可能にし、
前記動作制御部は、各シーンに設定されている前記制限値に基づいて前記産業用ロボットの動作を制御するとともに、前記監視部によって安全性が低下する可能性があると判定された場合、前記産業用ロボットの動作を停止させる産業用ロボットシステム。
【請求項2】
前記切替部は、前記産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、
前記動作制御部は、切り替え後のシーンに設定されている前記制限値に応じて前記産業用ロボットの動作を制御する請求項1記載の産業用ロボットシステム。
【請求項3】
前記切替部は、前記産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、
前記動作制御部は、シーンが切り替えられた後に、切り替え後のシーンに設定されている前記制限値に応じて前記産業用ロボットの動作を制御する請求項1記載の産業用ロボットシステム。
【請求項4】
前記切替部は、前記産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、
前記監視部は、切り替え後のシーンに設定されている前記制限値に基づいて前記産業用ロボットの動作の安全性を監視し、
前記動作制御部は、切り替え前のシーンの安全性に基づいて前記産業用ロボットの動作を制御する請求項1記載の産業用ロボットシステム。
【請求項5】
前記切替部は、前記産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、
前記監視部は、切り替え後のシーンに設定されている前記制限値に基づいて前記産業用ロボットの動作の安全性を監視し、
前記動作制御部は、切り替え後のシーンの安全性に基づいて前記産業用ロボットの動作を制御する請求項1記載の産業用ロボットシステム。
【請求項6】
前記設定部は、パラメータとして産業用ロボットの速度を対象とし、前記制限値として許容される速度の上限値を設定する請求項1から5のいずれか一項記載の産業用ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットは、例えば速度や加速度あるいはトルクといった動作に関するパラメータに対して、最大速度や最大加速度あるいは最大トルクといった安全性に基づく制限値を設定することがある。例えば、特許文献1では、産業用ロボットの速度や加速度に対して制限値、つまりは、パラメータに上限を設けることにより、障害物と接触した場合の衝撃を緩和できるようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6003942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、産業用ロボットの動作に関するパラメータは、上記したように複数種類が想定されることから、それぞれのパラメータに対して制限値を設定する必要がある。その場合、制限値は、産業用ロボットの作業内容や作業環境によって変化すると考えられる。
【0005】
しかしながら、産業用ロボットの作業内容や作業環境が変化した際に制限値が変更された場合であっても、産業用ロボットを停止させることなく動作を継続させることができれば作業効率を向上させることができると考えられる。ただし、制限値が変更される場合における安全性を確保することも重要である。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業効率の向上と安全性の確保とを両立することができる産業用ロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した発明では、産業用ロボットの動作に関するパラメータに対する安全性に基づく制限値を、産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいて区分けされたシーンごとに設定する設定部と、設定された制限値に基づいて産業用ロボットの動作を制御する動作制御部と、産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいてシーンを切り替える切替部と、産業用ロボットの動作時におけるパラメータを制限値と比較することにより、産業用ロボットの動作の安全性を監視する監視部と、を備えている。
【0008】
そして、切替部は、産業用ロボットの動作中にシーンを切り替え可能にし、動作制御部は、各シーンに設定されている制限値に基づいて産業用ロボットの動作を制御するとともに、監視部によって安全性が低下する可能性があると判定された場合、産業用ロボットの動作を停止させる。
【0009】
これにより、シーンが切り替わる前後において産業用ロボットの動作が継続されることから、一連の作業が完了するまでに要するいわゆるタクトタイムを抑制でき、作業効率を改善することができる。また、シーンを切り替えた後には、産業用ロボットの動作を迅速に制限値の範囲内で制御できるようになることから、万が一衝突したとしても衝撃を緩和することができ、安全性も確保することができる。さらに、安全性が低下する可能性がある場合には、迅速に産業用ロボットの動作を停止することができる。したがって、作業効率の向上と安全性の確保とを両立することができる。
【0010】
請求項2に記載した発明では、切替部は、産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、動作制御部は、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御する。このようにシーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの切り替え前後において、産業用ロボットの動作が不連続になることを抑制でき、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。
【0011】
また、請求項3に記載した発明では、切替部は、産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、動作制御部は、シーンが切り替えられた後に、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御する。このようにシーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの切り替え前後において、産業用ロボットの動作が不連続になることを抑制でき、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。また、切り替え後にシーンの安全性を確実に確保することができる。
【0012】
請求項4に記載した発明では、切替部は、産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、監視部は、切り替え後のシーンに設定されている制限値に基づいて産業用ロボットの動作の安全性を監視し、動作制御部は、切り替え前のシーンの安全性に基づいて産業用ロボットの動作を制御する。このようにシーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの前後における安全性に基づいて産業用ロボットの動作を制御でき、安全性を向上させることができる。また、シーンの切り替え前後において、産業用ロボットの動作が不連続になることを抑制でき、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。
【0013】
また、請求項5に記載した発明では、切替部は、産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、監視部は、切り替え後のシーンに設定されている制限値に基づいて産業用ロボットの動作の安全性を監視し、動作制御部は、切り替え後のシーンの安全性に基づいて産業用ロボットの動作を制御する。このようにシーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの前後における安全性に基づいて産業用ロボットの動作を制御でき、安全性を向上させることができる。また、シーンの切り替え前後において、産業用ロボットの動作が不連続になることを抑制でき、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。また、切り替え後にシーンの安全性を確実に確保することができる。
【0014】
請求項6に記載した発明では、設定部は、パラメータとして産業用ロボットの速度を対象とし、制限値として許容される速度の上限値を設定する。産業用ロボットの速度は、接触時の損傷の大きさなどに深く関わるパラメータであるとともに、作業者が目視可能なものである。そのため、産業用ロボットの速度は、産業用ロボット側および作業者側の双方にとって、安全性や危険性を判断する目安として適切なパラメータ出ると考えられる。また、産業用ロボットの速度は、タクトタイムに大きく関与するパラメータでもある。そのため、パラメータとして産業用ロボットの速度を対象とすることにより、実際の現場において、安全性や生産性を考慮した上で、実効性の高い効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態における産業用ロボットシステムの構成例を模式的に示す図
図2】コントローラの電気的構成を模式的に示す図
図3】作業環境の一例を模式的に示す図
図4】作業内容の一例を模式的に示す図
図5】手法その1における処理の流れを示す図
図6】手法その1による速度の変化を模式的に示す図
図7】手法その2における処理の流れを示す図
図8】手法その2による速度の変化を模式的に示す図
図9】手法その3における処理の流れを示す図
図10】手法その3による速度の変化を模式的に示す図
図11】手法その4における処理の流れを示す図
図12】手法その4による速度の変化を模式的に示す図
図13】手法その5における処理の流れを示す図
図14】手法その5による速度の変化を模式的に示す図
図15】手法その6による速度の変化を模式的に示す図
図16】手法その7における処理の流れを示す図
図17】手法その7による速度の変化を模式的に示す図
図18】手法その8における処理の流れを示す図
図19】手法その8による速度の変化を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。また、以下では、作業効率の向上と安全性の確保とを両立するための複数の手法について説明するが、説明の簡略化のために、各手法で共通する構成についてまず説明し、その後、各手法を個別に説明する。また、各手法は、競合が生じなければ適宜組み合わせて利用することができる。
【0017】
(共通する構成)
図1に示すように、本実施形態で想定している産業用ロボットシステム1は、ロボット2、ロボット2を制御するコントローラ3を備えている。ロボット2は、垂直多関節型のいわゆる6軸ロボットである。ただし、産業用ロボットとしては、垂直多関節型のいわゆる7軸ロボットや水平多関節型のいわゆる4軸ロボットを対象とすることもできる。
【0018】
ロボット2は、設置面に設置されるベース2a、ベース2aに対して相対回転可能に設けられているショルダ2b、ショルダ2bに対して相対回転可能に設けられている下アーム2c、下アーム2cに対して相対回転可能に設けられている第1上アーム2d、第1上アーム2dに対して相対回転可能に設けられている第2上アーム2e、第2上アーム2eの先端に設けられていて、第2上アーム2eに対して相対回転可能に設けられている手首2f、手首2fの先端に取り付けられているフランジ2gを有している。
【0019】
そして、ロボット2は、フランジ2gに図示しないハンドやツールが取り付けられ、コントローラ3により制御されることによって教示された動作を実行する。また、ロボット2への教示は、コントローラ3に接続され、作業者が操作する操作装置4によって行われる。また、後述するシーンの設定などは、操作装置4や管理装置5などによって行われる。
【0020】
コントローラ3は、ロボット2の動作を制御するものであり、図2に示すように、制御部10、記憶部11、駆動部12、入出力部13、通信部14などを備えている。制御部10は、図示しないマイクロコンピュータで構成されており、記憶部11に記憶されているプログラムを実行することによりコントローラ3全体およびロボット2の動作を制御する。
【0021】
記憶部11は、半導体メモリやハードディスクドライブなどによって構成されており、上記したプログラムや教示された作業内容、後述するシーンの設定や、シーンを切り替える切替位置などの各種のデータを記憶している。駆動部12は、ロボット2に対して制御信号を出力する電気回路などによって構成されている。入出力部13は、例えば作業者の有無を検出する人感センサや部品の有無を検出する重量センサや撮像カメラなどのように、ロボット2やその周辺環境のデータを取得する各種のセンサ類15からデータを入出力する電気回路によって構成されている。通信部14は、作業者がロボット2に対して動作を教示する操作装置4との間で通信を行う。
【0022】
また、制御部10には、設定部20、動作制御部21、切替部22、監視部23などが設けられている。本実施形態の場合、これらの各部は、制御部10でプログラムを実行することによってソフトウェアで構成されている。ただし、設定部20を操作装置4や外部装置を設け、設定した結果を記憶部11に記憶する構成とすることもできる。
【0023】
この設定部20は、ロボット2の動作に関するパラメータに対する安全性に基づく制限値を設定する。ロボット2の動作に関するパラメータとしては、例えばロボット2が動作する際の速度や加速度あるいはトルクなどが想定される。また、パラメータに対する制限値としては、最大速度や最大加速度あるいは最大トルクなどの上限値が、安全性に基づいて設定される。また、安全性としては、例えばロボット2が作業者や周辺の構造物等に接触した場合の衝撃を緩和できるようにすることなどが考えられる。
【0024】
また、設定部20は、パラメータに対する制限値を、ロボット2の作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいて区分けされたシーンごとに設定する。例えば図3に示すように、ロボット2の周辺の作業環境として、作業者が立ち入らない禁止エリア(R1)と、作業者が立ち入る可能性のある許可エリア(R2)とが存在するとする。このとき、許可エリア(R2)にはロック16付きの扉17が設けられており、作業者は、ロック16を解除して扉17を開けることで許可エリア(R2)に立ち入ることができる。また、本実施形態では、作業者は、部品の供給のために許可エリア(R2)に立ち入ることはあるものの、許可エリア(R2)内に常駐して作業することはない状況を想定している。
【0025】
この場合、シーンとしては、例えば禁止エリア(R1)内でのみロボット2が動作する状況に対応するシーン(SC1)と、許可エリア(R2)内にロボット2の一部が進入する状況に対応したシーン(SC2)とを設定することができる。これらのシーンは、ロボット2に作業を行わせる前の時点で、作業者が設定するものである。
【0026】
動作制御部21は、ロボット2に対する制御指令値を生成し、駆動部12を介してロボット2に出力することにより、ロボット2の動作を制御する。このとき、動作制御部21は、シーンに設定されている制限値に基づいて、各シーンにおけるパラメータが、そのシーンに設定されている制限値に収まるようにロボット2の動作を制御する。
【0027】
切替部22は、ロボット2の作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいてシーンを切り替える。例えば、切替部22は、ロボット2の例えばアームの先端位置が、図3に示す作業者が立ち入らない禁止エリア(R1)から作業者が立ち入る許可エリア(R2)に移動する場合などにシーンを切り替える。ただし、詳細は後述するが、シーンの切り替えは、必ずしもシーンを切り替える切替位置で行われるのではなく、切替位置の前後で行われることがある。
【0028】
監視部23は、ロボット2の実動作時におけるパラメータを制限値と比較することにより、各シーンにおけるロボット2の動作の安全性を監視する。また、監視部23は、詳細は後述するが、シーンが切り替えられる可能性がある場合において、切り替え後のシーンにおける安全性も監視する。そして、監視部23は、安全性が低下するおそれがあると判定すると、動作制御部21に対してロボット2を停止させるように指示し、その指示を受けた動作制御部21は、ロボット2の動作を停止させる。本実施形態では、動作制御部21は、ロボット2への動力を遮断することによりロボット2を停止させる。
【0029】
このような産業用ロボットシステム1は、例えば図3に示すような作業環境に適用される。この作業環境では、ロボット2は、禁止エリア(R2)内に設置されており、作業者が許可エリア(R2)においてパーツ30をフィーダ31に補充し、ロボット2が姿勢を変化させて許可エリア(R1)に設置されているフィーダ31の所定の把持位置(P1)からパーツ30をピックアップする。また、ロボット2は、禁止エリア(R2)内においてコンベア32によって搬送されてくる対象物33にパーツ30を組み付ける作業を行う。なお、いわゆるコンベアトラッキング作業を行う構成であってもよい。また、パーツ30や対象物33などの部品は、ロボット2の作業対象物であり、いわゆるワークに相当するものである。
【0030】
この場合、ロボット2は、図4に示す流れで作業を行う。なお、図4では、作業の流れと、その作業を行う際の動作プログラムのコマンド名とを対比させて示している。ロボット2は、作業を開始する前には、図3に示す開始位置(P0)に位置している。ただし、ロボット2の位置とは、手先の位置を示すいわゆるツールセンターポイントを意図している。また、ロボット2の移動とは、ツールセンターポイントの移動を意図している。
【0031】
さて、ロボット2は、作業を開始すると、開始位置(P0)からパーツ30を把持するために把持位置(P1)まで移動する(S1)。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばMove P0 to P1というコマンドを実行することで、開始位置(P0)から把持位置(P1)までの軌道が算出され、その軌道に沿ってロボット2が動作する。また、把持位置(P1)は、フィーダ31から供給されるパーツ30が到着した位置の上方となる。なお、パーツ30が供給されているか否かや、作業者が存在しているか否かは、例えばセンサ類15によって検出することができる。また、センサ類15による検出結果は、ロボット2の動作に関わらずコントローラ3によって取得されており、作業者の有無などをリアルタイムに把握することができる。
【0032】
把持位置(P1)まで移動すると、ロボット2は、パーツ30を把持する(S2)。具体的には、ロボット2は、把持位置(P1)から図示しないハンドを下方に移動させてパーツ30を把持し、パーツ30を把持した状態でハンドを把持位置(P1)まで上方に移動させる。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばPickupというコマンドを実行することによって実施される。
【0033】
パーツ30を把持すると、ロボット2は、対象物33を把持したまま開始位置(P0)まで移動する(S3)。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばMove P1 to P0というコマンドを実行することによって実施される。続いて、ロボット2は、対象物33を把持したまま組み付け位置(P2)まで移動する(S4)。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばMove P0 to P2というコマンドを実行することによって実施される。
【0034】
組付け位置(P2)まで移動すると、ロボット2は、ハンドを下方に移動させてパーツ30を対象物33に組付けた後、ハンドを組み付け位置(P2)まで上方に移動させる(S5)。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばPlaceというコマンドを実行することによって実施される。その後、ロボット2は、組付け位置(P2)から開始位置(P0)まで移動する(S6)。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばMove P2 to P1というコマンドを実行することによって実施される。
【0035】
そして、ロボット2は、これらステップS1からステップS6の動作を繰り返すことにより作業を行っている。また、これらステップS1からステップS6の一連の動作が完了するまでに要する時間がいわゆるタクトタイムに相当する。そのため、タクトタイムが短縮されれば、作業効率が向上することになる。
【0036】
次に、産業用ロボットシステム1の作用について説明する。
前述のように、産業用ロボットは、例えば速度や加速度あるいはトルクといった動作に関するパラメータに対して、最大速度や最大加速度あるいは最大トルクといった安全性に基づく制限値が設定されている。このとき、動作に関するパラメータは複数種類が想定されることから、それぞれのパラメータに対して制限値を設定する必要があるとともに、その制限値は、産業用ロボットの作業内容や作業環境によって変化することが想定される。そのため、作業効率の向上と安全性の確保とを両立させるための手法も複数想定される。
【0037】
さて、産業用ロボットの作業内容や作業環境が変化した際に制限値が変更された場合であっても、産業用ロボットを停止させることなく動作を継続させることができれば効率を生産向上させることができると考えられる。ただし、制限値が変更された場合における安全性を確保することも重要である。
【0038】
制限値が変更される状況としては、例えば図3に示すように禁止エリア(R1)と許可エリア(R2)とが設けられている場合において、速度に対する制限値である上限速度が、エリアによって異なる値に設定されていることが考えられる。例えば、禁止エリア(R1)では人に接触するおそれが無いことから、上限速度は、許可エリア(R2)に対して相対的に高く設定しても安全性を確保できると考えられる。なお、パラメータに対しては、異なるエリアであっても同じ制限値が設定されることもある。
【0039】
ただし、動作に関するパラメータは、速度に限らず、加速度やトルクあるいは可動範囲なども想定される。その場合、各パラメータを個別に変更することも可能であるが、状況に応じて一括して変更できれば利便性が高いと考えられる。そのため、産業用ロボットシステム1は、ロボット2の作業内容や作業環境に基づいて、ロボット2が禁止エリア(R1)内で動作する状況をシーン(SC1)とし、ロボット2が許可エリア(R2)に進入する可能性のある状況をシーン(SC2)として区分し、それぞれのシーンについて、各パラメータの制限値をまとめて設定している。なお、制限値やシーンは予め設定されており、記憶部11などに記憶されている。
【0040】
そして、産業用ロボットシステム1は、以下に説明する各種の手法により、作業効率の向上と安全性の確保とを両立させている。なお、概略としては、手法その1から手法その5は切り替え後のシーンにおける制限値が低くなる場合の例であり、手法その6から手法その8は切り替え後のシーンにおける制限値が高くなる場合の例である。
【0041】
以下、ロボット2の動作に関するパラメータとして主に速度を対象とした場合であって、安全性に基づく制限値として上限速度を設定している場合を例にして各手法を説明する。これは、ロボット2の速度は、接触時の損傷の大きさなどに深く関わるパラメータであること、また、ロボット2の動作は作業者が目視可能であることから、安全性や危険性を判断する目安として適切であると考えられるためである。
【0042】
また、以下では説明する各手法は、処理内容が競合しなければ適宜組み合わせることができる。換言すると、以下に説明する各手法は、ロボット2の作業内容や作業環境に応じて、いずれを採用するかを適宜選択することができる。
(手法その1)
【0043】
手法その1では、切り替え後のシーンにおける制限値が低くなる場合の一例について説明する。例えば図4に示すステップS1において開始位置(P0)から把持位置(P1)まで移動するときや、S3において把持位置(P1)から開始位置(P0)まで移動するときなどのように、ロボット2がシーンを跨いで移動することがある。このとき、ロボット2は、軌道上の切替位置(Pc)を通って移動するものとする。
【0044】
さて、図3に示す作業環境においては、上記したように作業者が部品の供給のために許可エリア(R2)に立ち入ることはあるものの、許可エリア(R2)内に常駐して作業することはない状況を想定している。そのため、例えば扉17のロック16が解除されていない場合には、許可エリア(R2)内に作業者が立ち入っていないと判断できる。そのような状況において、産業用ロボットシステム1は、図5に示す処理を実行する。なお、ロボット2の移動を開始する時点においては、現在のシーンと、そのシーンに設定されている制限値とは把握されている。
【0045】
例えば図4に示すステップS1においてロボット2が移動を開始すると、産業用ロボットシステム1は、図5に示すように、ロボット2の位置を取得し(S101)、シーンの切替位置(Pc)に到達したか否かを判定する(S102)。そして、産業用ロボットシステム1は、切替位置(Pc)に到達していない場合には(S102:NO)、ステップS101に移行して位置の取得を継続する。
【0046】
一方、産業用ロボットシステム1は、切替位置(Pc)に到達した場合には(S102:YES)、シーンを切り替える(S103)。このとき、ロボット2が開始位置(P0)から把持位置(P1)まで移動する状況であれば、禁止エリア(R1)に対応するシーン(SC1)から許可エリア(R2)に対応するシーン(SC2)に切り替えられる。
【0047】
この場合、図6に示すように、シーン(SC2)に設定されている速度の制限値である上限速度(Vsc2)は、シーン(SC1)に設定されている速度の制限値である上限速度(Vsc1)よりも低く設定されている。これは、シーン(SC2)では作業者が作業をすることがあることから、万が一の衝突時に衝撃を緩和するためである。
【0048】
このとき、許可エリア(R2)に作業者が立ち入っていない状況であればロボット2が作業者と接触する可能性は低いと考えられる。その一方で、作業者がいないはずではあるものの、万が一の接触を考慮すると、ロボット2の速度が低い方が望ましい。そのため、産業用ロボットシステム1は、切替位置(Pc)に到達してシーンを切り替えたとき、切り替え後のシーン(SC2)における上限速度(Vsc2)が、切り替え前のシーン(SC1)における上限速度(Vsc1)よりも低いか否かを判定する(S104)。
【0049】
そして、産業用ロボットシステム1は、切り替え後のシーンにおける上限速度が低い場合には(S104:YES)、ロボット2を上限速度に到達するように減速を開始する(S105)。つまり、産業用ロボットシステム1は、シーンが切り替えられた後に、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御する。また、産業用ロボットシステム1は、切り替え後のシーンの安全性に基づいてロボット2の動作を制御する。
【0050】
これにより、切り替え後のシーンにおいて、万が一の衝突が発生したとしても、衝撃を緩和することが可能となる。なお、本実施形態では、ステップS105においてロボット2を最大トルクで減速するように制御しているが、出力可能なトルクの範囲内で減速することができる。
【0051】
また、産業用ロボットシステム1は、ロボット2を減速させた場合には、減速が十分であるか否か判定する(S106)。このステップS106では、産業用ロボットシステム1は、比較的短い周期でロボット2の速度を取得することにより、所定の判定期間内に速度の絶対値が上限速度以下になったか否か、または、ロボット2の減速率が判定期間内に上限速度以下に到達できる値であるか否かを判定している。
【0052】
また、判定期間としては、切替位置(Pc)に到達してから例えば0.5秒が経過するまでの期間といった時間に基づいて設定することができるし、切替位置(Pc)を通過してから所定距離だけ移動するまの期間といった距離に基づいて設定することもできる。また、ロボット2の減速率を仕様上の最大トルクで減速した場合における設計上の減速率と比較することにより、減速が十分に行われている否かを判定する構成とすることもできる。
【0053】
そして、産業用ロボットシステム1は、判定期間内に上限速度以下まで減速することができる場合には、減速が十分であるとして(S106:YES)、処理を終了する。つまり、ここでは開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動がそのまま継続される。
【0054】
これにより、ロボット2の速度の変化をグラフGとして模式的に示すように、シーンが切り替わる前後においてロボット2の動作が継続されることから、また、ロボット2の速度の低下が最大限抑制された状態で把持位置(P1)まで移動することができることから、タクトタイムが減少し、作業効率を改善することができる。また、シーンを切り替えた後には、ロボット2の速度を迅速に上限速度以下まで減速させることから、万が一衝突したとしても衝撃を緩和することができ、安全性も確保することができる。
【0055】
また、産業用ロボットシステム1は、減速率が十分でない場合には(S106:NO)、ロボット2の動作を停止したのち(S107)、エラー処理に移行する。なお、このエラー処理は、異常の報知などが行われる。これにより、ロボット2に何らかの動作の不具合が生じた場合における安全性を確保することもできる。
【0056】
(手法その2)
手法その2では、切り替え後のシーンにおける制限値が低くなる場合の他の例について説明する。上記した手法その1では、許可エリア(R2)に作業者が居ない場合を想定していたが、部品の補充のために許可エリア(R2)に作業者が居る可能性も十分に想定される。その場合、ロボット2が許可エリア(R2)に進入する前に十分に減速しておくことで、安全性を確保できると考えられる。
【0057】
そこで、産業用ロボットシステム1は、例えば図4に示すステップS1において開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動を開始する前に、あるいは、開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動を開始するのとほぼ同時期に、図7に示すように動作プログラムを読み込む(S201)。この先読みは、本手法では切替部22によって行われている。つまり、産業用ロボットシステム1は、ロボット2の動作を先読みし、先読みして得られる制限値に応じた制御が可能になっている。
【0058】
また、ステップS1では、Move P0 to P1というコマンドが実行される。そのため、産業用ロボットシステム1は、ロボット2が把持位置(P1)まで移動することを把握できる。そして、各シーンは予め設定されていることから、産業用ロボットシステム1は、開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動中にシーンが切り替わることを予め把握することができるとともに、切り替え後のシーンの制限値を把握することができる。
【0059】
産業用ロボットシステム1は、ロボット2の移動を開始させると、位置を取得し(S202)、図8に示す減速位置(Pb)に到達したか否かを判定する(S203)。この減速位置(Pb)は、切替位置(Pc)よりも開始位置(P0)側となる所定の位置に設定されている。また、減速位置(Pb)は、予め設定しておくことができる。また、減速位置(Pb)は、現在の位置と速度とに基づいて、切替位置(Pc)に到達する前に、切り替え後のシーンの上限速度まで減速可能な位置を求めることで動的に設定することもできる。
【0060】
そして、産業用ロボットシステム1は、減速位置(Pb)に到達していない場合には(S203:NO)、ステップS202に移行して位置の取得を繰り返す一方、減速位置(Pb)に到達した場合には(S203:YES)、次のシーンの上限速度以下となるように減速を開始する(S204)。つまり、産業用ロボットシステム1は、シーンが切り替えられる前に、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御する。また、産業用ロボットシステム1は、切り替え前のシーンの安全性に基づいてロボット2の動作を制御する。
【0061】
続いて、産業用ロボットシステム1は、減速が十分であるか否かを判定する(S205)。このとき、産業用ロボットシステム1は、比較的短い周期でロボット2の速度を取得することにより、所定の判定期間内に速度の絶対値が上限速度以下になったか否か、または、ロボット2の減速率が判定期間内に上限速度以下に到達できる値であるか否かを判定している。
【0062】
また、判定期間としては、減速位置(Pb)に到達してから例えば0.5秒が経過するまでの期間といった時間に基づいて設定することができるし、減速位置(Pb)を通過してから所定距離だけ移動するまの期間といった距離に基づいて設定することもできる。また、ロボット2の減速率を仕様上の最大トルクで減速した場合における設計上の減速率と比較することにより、減速が十分に行われている否かを判定する構成とすることもできる。
【0063】
そして、産業用ロボットシステム1は、減速が十分ではないと判定した場合には(S205:NO)、ロボット2の動作を停止させた後(S209)、エラー処理に移行する。なお、このエラー処理は、異常の報知などが行われる。これにより、ロボット2に何らかの動作の不具合が生じた場合における安全性を確保することもできる。
【0064】
一方、産業用ロボットシステム1は、判定期間内に上限速度以下まで減速することができる場合には、減速が十分であるとして(S205:YES)、位置を取得し(S206)、切替位置(Pc)に到達したかの判定を繰り返す(S207)。また、産業用ロボットシステム1は、切替位置(Pc)に到達していない場合には(S207:NO)、ステップS205に移行して減速が十分であるかの判定を繰り返す。
【0065】
そして、産業用ロボットシステム1は、十分に減速した状態で切替位置(Pc)に到達した場合には(S207:YES)、シーンを切り替えて(S207)処理を終了する。これにより、図8にロボット2の速度の変化をグラフGとして模式的に示すように、切替位置(Pc)に到達する前に次のシーンの上限速度まで減速することが可能となり、次のシーンに切り替えたとしても安全性を確保することができる。
【0066】
また、シーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの切り替え前後において、ロボット2の動作が不連続になることを抑制できるとともに、ロボット2の動作が停止しないことから、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。したがって、手法その2では、作業効率の向上と安全性の確保とを両立させることができる。
【0067】
(手法その3)
手法その3では、切り替え後のシーンにおける制限値が低くなる場合の他の例について説明する。上記した手法その1のように、許可エリア(R2)に作業者が居ないと判断できる場合には、ロボット2の速度を上げたとしても、安全性を確保できると考えられる。ただし、万が一の危険性を考慮すると、切り替え後のシーンの制限値で動作することが望ましいことも事実である。
【0068】
そこで、産業用ロボットシステム1は、例えば図4に示すステップS1において開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動を開始する前に、あるいは、開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動を開始するのとほぼ同時期に、図9に示すように動作プログラムを読み込む(S301)。この先読みは、本手法では切替部22によって行われている。つまり、産業用ロボットシステム1は、ロボット2の動作を先読みし、先読みして得られる制限値に応じてロボット2の動作を制御することができる。
【0069】
また、ステップS1では、Move P0 to P1というコマンドが実行される。そのため、産業用ロボットシステム1は、ロボット2が把持位置(P1)まで移動することを把握できる。そして、各シーンは予め設定されていることから、産業用ロボットシステム1は、開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動中にシーンが切り替わることを予め把握することができるとともに、切り替え後のシーンの制限値を把握することができる。
【0070】
産業用ロボットシステム1は、ロボット2の移動を開始させると、位置を取得し(S302)、図10に示す緩衝範囲(BR)に進入したか否かを判定する(S303)。この緩衝範囲(RB)は、切替位置(Pc)よりも開始位置(P0)側となる所定の位置から、切替位置(Pc)よりも把持位置(P1)側となる所定の位置までの範囲として設定されている。また、緩衝範囲(RB)は、予め設定しておくことができるし、現在の位置と速度とに基づいて動的に設定することもできる。この緩衝範囲(RB)は、制限値に基づく安全性の監視を保留する範囲に相当する。
【0071】
そして、産業用ロボットシステム1は、緩衝範囲(RB)に進入していない場合には(S303:NO)、ステップS302に移行して位置の取得を繰り返す一方、緩衝範囲(RB)に進入した場合には(S303:YES)、次のシーンの上限速度を下回るように減速を開始する(S304)。つまり、産業用ロボットシステム1は、シーンが切り替えられる前に、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御する。また、産業用ロボットシステム1は、切り替え後のシーンの安全性に基づいてロボット2の動作を制御する。
【0072】
続いて、産業用ロボットシステム1は、減速が十分であるか否かを判定する(S305)。このとき、産業用ロボットシステム1は、比較的短い周期でロボット2の速度を取得することにより、所定の判定期間内に速度の絶対値が上限速度以下になったか否か、または、ロボット2の減速率が判定期間内に上限速度以下に到達できる値であるか否かを判定している。
【0073】
また、判定期間としては、緩衝範囲(RB)に進入してから例えば0.5秒が経過するまでの期間といった時間に基づいて設定することができるし、緩衝範囲(RB)を移動している期間といった距離に基づいて設定することもできる。また、ロボット2の減速率を仕様上の最大トルクで減速した場合における設計上の減速率と比較することにより、減速が十分に行われている否かを判定する構成とすることもできる。
【0074】
そして、産業用ロボットシステム1は、減速が十分ではないと判定した場合には(S305:NO)、ロボット2の動作を停止させた後(S309)、エラー処理に移行する。なお、このエラー処理は、異常の報知などが行われる。これにより、ロボット2に何らかの動作の不具合が生じた場合における安全性を確保することもできる。
【0075】
一方、産業用ロボットシステム1は、判定期間内に上限速度以下まで減速することができる場合には、減速が十分であるとして(S305:YES)、位置を取得し(S306)、緩衝範囲(RB)を脱出したかの判定を繰り返す(S307)。また、産業用ロボットシステム1は、緩衝範囲(RB)を脱出していない場合には(S307:NO)、ステップS305に移行して減速が十分であるかの判定を繰り返す。
【0076】
そして、産業用ロボットシステム1は、十分に減速した状態で緩衝範囲(RB)を脱出した場合には(S307:YES)、シーンを切り替えて(S307)処理を終了する。これにより、図10にロボット2の速度の変化をグラフGとして模式的に示すように、次のシーンに切り替わる際にはそのシーンに設定されている上限速度まで減速することが可能となり、シーンを切り替えたとしても安全性を確保することができる。
【0077】
また、シーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの切り替え前後において、ロボット2の動作が不連続になることを抑制できるとともに、ロボット2の動作が停止しないことから、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。
【0078】
(手法その4)
手法その4では、切り替え後のシーンにおける制限値が低くなる場合の他の例について説明する。上記した手法その1では、許可エリア(R2)に作業者が居ない場合を想定していたが、部品の補充のために許可エリア(R2)に作業者が居る可能性も十分に想定される。そのため、安全性の確保を最重視するという考え方も存在する。
【0079】
そこで、産業用ロボットシステム1は、例えば図4に示すステップS1において開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動を開始する前に、図11に示すように動作プログラムを読み込む(S401)。この先読みは、本手法では切替部22によって行われている。つまり、産業用ロボットシステム1は、ロボット2の動作を先読みし、先読みして得られる制限値に応じてロボット2の動作を制御することができる。
【0080】
例えば、ステップS1では、Move P0 to P1というコマンドが実行される。そのため、産業用ロボットシステム1は、ロボット2が把持位置(P1)まで移動することを把握できる。そして、各シーンは予め設定されていることから、産業用ロボットシステム1は、開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動中にシーンが切り替わることを予め把握することができる。
【0081】
そのため、産業用ロボットシステム1は、移動中にシーンが切り替わるか否かを判定し(S402)、シーンが切り替わる場合には(S402:YES)、切り替え後のシーンにおける上限速度が現在のシーンの上限速度よりも低いか否かをさらに判定する(S403)。産業用ロボットシステム1は、移動中にシーンが切り替わらない場合(S402:NO)、および、切り替え後のシーンにおける上限速度が低くない場合には(S403:NO)、そのまま処理を終了する。
【0082】
これに対して、産業用ロボットシステム1は、切り替え後のシーンにおける上限速度が低い場合には(S403:YES)、現在のシーンと切り替え後のシーンのうち、安全側のシーンを選択する(S404)。ここで、安全側のシーンとは、本手法の場合には制限値である上限速度が低く設定されているシーンを意味する。例えば、開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動中にシーン(SC1)からシーン(SC2)に切り替わる場合には、上限速度が低く設定されているシーン(SC2)が安全側のシーンとして選択されることになる。なお、仮に移動中に複数のシーンが切り替わる場合には、最も安全側となるシーンを選択すればよい。
【0083】
安全側のシーンを設定すると、産業用ロボットシステム1は、現在のシーンに設定されている制限値を、安全側のシーンに設定されている制限値により一時的に更新する(S405)。つまり、産業用ロボットシステム1は、シーンが切り替えられる前に、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御可能にする。また、産業用ロボットシステム1は、切り替え後のシーンの安全性に基づいてロボット2の動作を制御する。
【0084】
そのため、ロボット2の移動が開始されると、図12にロボット2の速度の変化をグラフGとして模式的に示すように、ロボット2は、開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動中、安全側となるシーン(SC2)に設定されている上限速度(Vsc2)の範囲内で速度が制御されて移動することになる。
【0085】
これにより、例えば作業者が許可エリア(R2)で作業していたとしても、ロボット2が動き出し当初から安全な速度で移動することから、作業者の安全を確保することができる。また、作業者は、ロボット2の速度が安全を確保できるだけの十分な低速になっていることから、ロボット2が自身に向かって移動してきたとしても接触等の不安をかんじたり、作業に支障をきたしたりするおそれが低減され、心理的にも安心して作業を継続することができる。
【0086】
また、シーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの切り替え前後において、ロボット2の動作が不連続になることを抑制できるとともに、ロボット2の動作が停止しないことから、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。したがって、より安全性を重視した状態でロボット2を動作させることができる。また、このような手法は、作業者とロボット2とが例えば同じ部品に対して共同作業を行うような場合においても有益なものとなる。
【0087】
(手法その5)
手法その5では、切り替え後のシーンにおける制限値が低くなる場合の他の例について説明する。上記した手法その1では、許可エリア(R2)に作業者が居ない場合を想定していたが、安全性を確保しつつも、作業効率も確保したいという考え方も存在する。例えば、センサ類15によって作業者が検出されていない場合には、生産性を重視してある程度の速度で作業を行わせたい場合などがある。
【0088】
その場合、産業用ロボットシステム1は、図13に示す処理を実行する。例えば図4に示すステップS1においてロボット2が移動を開始すると、産業用ロボットシステム1は、図13に示すようにロボット2の位置を取得し(S501)、シーンの切替位置(Pc)に到達したか否かを判定する(S502)。そして、産業用ロボットシステム1は、切替位置(Pc)に到達していない場合には(S502:NO)、ステップS501に移行して位置の取得を継続する。
【0089】
一方、産業用ロボットシステム1は、切替位置(Pc)に到達した場合には(S502:YES)、切り替え前のシーン(SC1)における上限速度(Vsc1)よりも低いか否かを判定する(S503)。そして、産業用ロボットシステム1は、切り替え後のシーンにおける上限速度が低い場合には(S503:YES)、ロボット2を上限速度に到達するように減速を開始する(S504)。つまり、産業用ロボットシステム1は、シーンが切り替えられる前に、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御する。また、産業用ロボットシステム1は、切り替え後のシーンの安全性に基づいてロボット2の動作を制御する。
【0090】
これにより、作業者が居ないことが前提ではあるものの、切り替え後のシーン、つまりは、作業者が存在することを想定した制限値が設定されるシーンにおいて万が一の衝突が発生したとしても、衝撃を緩和することが可能となる。なお、本実施形態では、ステップS505においてロボット2を最大トルクで減速するように制御しているが、出力可能なトルクの範囲内で減速することができる。
【0091】
そして、産業用ロボットシステム1は、ロボット2を減速させた場合、減速が十分であるか否か判定する(S505)。このステップS505では、産業用ロボットシステム1は、比較的短い周期でロボット2の速度を取得することにより、所定の判定期間内に速度の絶対値が上限速度以下になったか否か、または、ロボット2の減速率が判定期間内に上限速度以下に到達できる値であるか否かを判定している。
【0092】
また、判定期間としては、切替位置(Pc)に到達してから例えば0.5秒が経過するまでの期間といった時間に基づいて設定することができるし、切替位置(Pc)を通過してから所定距離だけ移動するまの期間といった距離に基づいて設定することもできる。また、ロボット2の減速率を仕様上の最大トルクで減速した場合における設計上の減速率と比較することにより、減速が十分に行われている否かを判定する構成とすることもできる。
【0093】
そして、産業用ロボットシステム1は、判定期間内に上限速度以下まで減速することができた場合には(S505:YES)、減速が十分であるとして、シーンを切り替える(S504)。つまり、産業用ロボットシステム1は、例えば許可エリア(R2)に作業者が居ないと判断できるような状況においては、本来の切替位置(Pc)とは異なる別の位置(Pcd)において、シーンの切り替えを可能にしている。換言すると、産業用ロボットシステム1は、シーンの切り替えを遅延させている。
【0094】
これにより、シーンが切り替わる前後においてロボット2の動作が継続されることから、また、ロボット2の速度の低下が最大限抑制された状態で把持位置(P1)まで移動することができることから、タクトタイムの増加が抑制され、作業効率が低下することが抑制される。また、シーンを切り替えた時点ではロボット2の速度がそのシーンの上限速度以下となっていることから、万が一衝突したとしても衝撃を緩和することができ、安全性も確保することができる。
【0095】
また、シーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの切り替え前後において、ロボット2の動作が不連続になることを抑制できるとともに、ロボット2の動作が停止しないことから、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。したがって、作業効率の向上と安全性の確保とをバランスよく両立させることができる。
【0096】
また、産業用ロボットシステム1は、減速率が十分でない場合には(S505:NO)、ロボット2の動作を停止したのち(S507)、エラー処理に移行する。なお、このエラー処理は、異常の報知などが行われる。これにより、ロボット2に何らかの動作の不具合が生じた場合における安全性を確保することもできる。
【0097】
(手法その6)
手法その6では、切り替え後のシーンにおける制限値が高くなる場合の一例について説明する。なお、手法その5では、手法その1で示した図5に沿った処理の流れとなることから、図5を参照しつつ、重複する処理については簡易的に説明するものとする。換言すると、手法その6は手法その1と組み合わせて実施することができる。
【0098】
例えば図4に示すステップS3において、ロボット2は、把持位置(P1)から開始位置(P0)まで移動する。このとき、把持位置(P1)を含むシーン(SC2)の上限速度(Vsc2)は、開始位置(P0)を含むシーン(SC1)の上限速度(Vsc1)よりも低く設定されている。そのため、シーンが切り替えられた場合には制限値としての上限速度は高くなる。
【0099】
このような状況において、産業用ロボットシステム1は、把持位置(P1)からの移動が開始されると、図5に示したようにロボット2の位置を取得し(S101)、切替位置(Pc)に到達した場合には(S102:YES)シーンを切り替え(S103)、切り替え後のシーン(SC1)における上限速度(Vsc1)が切り替え前のシーン(SC2)における上限速度(Vsc2)よりも低いか否かを判定する(S104)。この場合、産業用ロボットシステム1は、切り替え後のシーンにおける上限速度のほうが高いことから(S104:NO)、ロボット2を上限速度内で加速する(S108)。つまり、産業用ロボットシステム1は、シーンが切り替えられた後に、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御する。また、産業用ロボットシステム1は、切り替え前後のシーンの安全性に基づいてロボット2の動作を制御する。
【0100】
これにより、図15にロボット2の速度の変化をグラフGとして模式的に示すように、シーンが切り替わって作業者との衝突の危険性が無くなった場合には、ロボット2の速度が上限速度(Vsc1)の範囲内で加速することで、速度を上昇させた状態で開始位置(P0)まで移動することができる。すなわち、タクトタイムを短縮することができ、作業効率が低下することが抑制される。
【0101】
また、シーンが切り替えられる前には、そのシーン(SC2)に対応した上限速度(Vsc2)の範囲内の速度となっていることから、許可エリア(R2)内に作業者が居る場合であっても、安全性を確保することができる。また、許可エリア(R2)内に作業者が居ないと判断される状況において、万が一の接触があった場合であっても安全性を確保することができる。
【0102】
また、シーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの切り替え前後において、ロボット2の動作が不連続になることを抑制できるとともに、ロボット2の動作が停止しないことから、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。したがって、手法その6では、作業効率の向上と安全性の確保とを両立させることができる。
【0103】
(手法その7)
手法その7では、切り替え後のシーンにおける制限値が高くなる場合の他の例について説明する。上記した手法その1では、許可エリア(R2)に作業者が居ない場合を想定していたが、部品の補充のために許可エリア(R2)に作業者が居る可能性も十分に想定される。
【0104】
その場合、ロボット2が許可エリア(R2)から禁止エリア(R1)に移動を開始する際にはシーン(SC2)の制限値に従って動作することで安全性を確保できる一方、作業者が居ないと判断できる状況であれば、シーン(SC1)に切り替わる前に速度を上げることが可能であると考えられる。ただし、速度を上げる際には、万が一の危険性を考慮して、できるだけ切替位置(Pc)の近くで加速することが望ましいことも事実である。
【0105】
そこで、産業用ロボットシステム1は、例えば図4に示すステップS3において把持位置(P1)から開始位置(P0)までの移動を開始する前に、あるいは、把持位置(P1)から開始位置(P0)までの移動を開始するのとほぼ同時期に、図16に示すように動作プログラムを読み込む(S701)。この先読みは、本手法では切替部22によって行われている。つまり、産業用ロボットシステム1は、ロボット2の動作を先読みし、先読みして得られる制限値に応じてロボット2の動作を制御することができる。
【0106】
また、ステップS3では、Move P1 to P0というコマンドが実行される。そのため、産業用ロボットシステム1は、ロボット2が開始位置(P0)まで移動することを把握できる。そして、各シーンは予め設定されていることから、産業用ロボットシステム1は、把持位置(P1)から開始位置(P0)までの移動中にシーンが切り替わることを予め把握することができるとともに、切り替え後のシーンの制限値を把握することができる。
【0107】
産業用ロボットシステム1は、ロボット2の移動を開始させると、位置を取得し(S702)、図17に示す加速位置(Pa)に到達したか否かを判定する(S703)。この加速位置(Pa)は、切替位置(Pc)よりも把持位置(P1)側となる所定の位置に設定されている。また、加速位置(Pa)は、予め設定しておくことができる。また、加速位置(Pa)は、現在の位置と速度とに基づいて、切替位置(Pc)に到達する前に、切り替え後のシーンの上限速度まで加速可能な位置を求めることで動的に設定することもできる。
【0108】
そして、産業用ロボットシステム1は、加速位置(Pa)に到達していない場合には(S703:NO)、ステップS702に移行して位置の取得を繰り返す一方、加速位置(Pa)に到達した場合には(S703:YES)、次のシーンの上限速度の範囲内で加速を開始する(S704)。つまり、産業用ロボットシステム1は、シーンが切り替えられる前に、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御する。また、産業用ロボットシステム1は、切り替え前後のシーンの安全性に基づいてロボット2の動作を制御する。
【0109】
続いて、産業用ロボットシステム1は、位置を取得しつつ(S705)、切替位置(Pc)に到達したかの判定を繰り返し(S706)、切替位置(Pc)に到達していない場合には(S706:NO)、ステップS705に移行して位置の取得を繰り返す。このとき、産業用ロボットシステム1は、ロボット2の速度を取得することにより、ロボット2の速度が次のシーンの上限速度以下であるかを判定し、上限速度を超える場合にはエラーを判断してロボット2の動作を停止する構成とすることができる。
【0110】
一方、産業用ロボットシステム1は、切替位置(Pc)に到達した場合には(S706:YES)、シーンを切り替えて(S707)、処理を終了する。これにより、図17にロボット2の速度の変化をグラフGとして模式的に示すように、切替位置(Pc)に到達する前に次のシーンの上限速度の範囲内で加速することが可能となり、現在のシーンにおける安全性を確保しつつも、ロボット2の動作が停止しないことから、また、予め加速することで速度が速くなる期間が増加することから、タクトタイムを短縮することが可能となる。
【0111】
また、シーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの切り替え前後において、ロボット2の動作が不連続になることを抑制できるとともに、ロボット2の動作が停止しないことから、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。したがって、手法その7では、作業効率の向上と安全性の確保とをバランスよく両立させることができる。
【0112】
(手法その8)
手法その8では、切り替え後のシーンにおける制限値が高くなる場合の他の例について説明する。上記した手法その1のように、許可エリア(R2)に作業者が居ないと判断できる場合には、ロボット2の速度を上げたとしても、安全性を確保できると考えられる。ただし、速度を上げる際には、万が一の危険性を考慮して、できるだけ切替位置(Pc)の近くで加速を開始することが望ましいことも事実である。
【0113】
そこで、産業用ロボットシステム1は、例えば図4に示すステップS3において把持位置(P1)から開始位置(P0)までの移動を開始する前に、あるいは、把持位置(P1)から開始位置(P0)への移動を開始するのとほぼ同時期に、図18に示すように動作プログラムを読み込む(S801)。この先読みは、本手法では切替部22によって行われている。つまり、産業用ロボットシステム1は、ロボット2の動作を先読みし、先読みして得られる制限値に応じてロボット2の動作を制御することができる。
【0114】
また、ステップS3では、Move P1 to P0というコマンドが実行される。そのため、産業用ロボットシステム1は、ロボット2が把持位置(P1)まで移動することを把握できる。そして、各シーンは予め設定されていることから、産業用ロボットシステム1は、開始位置(P0)から把持位置(P1)までの移動中にシーンが切り替わることを予め把握することができるとともに、切り替え後のシーンの制限値を把握することができる。
【0115】
産業用ロボットシステム1は、ロボット2の移動を開始させると、位置を取得し(S802)、図12に示す緩衝範囲(BR)に進入したか否かを判定する(S803)。この緩衝範囲(RB)は、切替位置(Pc)よりも把持位置(P1)側となる所定の位置から、切替位置(Pc)よりも開始位置(P0)側となる所定の位置までの範囲として設定されている。
【0116】
また、緩衝範囲(RB)は、予め設定しておくことができるし、現在の位置と速度とに基づいて動的に設定することもできる。この緩衝範囲(RB)は、制限値に基づく安全性の監視を保留する範囲に相当する。なお、上記した手法その3と組み合わせる場合には、緩衝範囲(RB)を同じ範囲として設定することもできる。
【0117】
そして、産業用ロボットシステム1は、緩衝範囲(RB)に進入していない場合には(S803:NO)、ステップS802に移行して位置の取得を繰り返す一方、緩衝範囲(RB)に進入した場合には(S803:YES)、次のシーンの上限速度の範囲内で加速を開始する(S804)。つまり、産業用ロボットシステム1は、シーンが切り替えられる前に、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御する。また、産業用ロボットシステム1は、切り替え前後のシーンの安全性に基づいてロボット2の動作を制御する。
【0118】
続いて、産業用ロボットシステム1は、位置を取得しつつ(S805)、緩衝範囲(RB)を脱出したかを判定し(S806)、緩衝範囲(RB)を脱出していない場合には(S806:NO)、ステップS805に移行して位置の取得を繰り返す。一方、産業用ロボットシステム1は、緩衝範囲(RB)を脱出した場合には(S806:YES)、シーンを切り替えて(S807)処理を終了する。これにより、図19にロボット2の速度の変化をグラフGとして模式的に示すように、次のシーンに切り替わる前に、次のシーンに設定されている上限速度の範囲内で加速することが可能となり、ロボット2の動作が停止しないことから、また、速度が上がっていることから、タクトタイムを抑制することができる。
【0119】
また、シーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの切り替え前後において、ロボット2の動作が不連続になることを抑制できるとともに、ロボット2の動作が停止しないことから、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。したがって、手法その8では、作業効率の向上と安全性の確保とをバランスよく両立させることができる。
【0120】
以上説明した産業用ロボットシステム1によれば、次のような効果を得ることができる。
産業用ロボットシステム1は、産業用ロボットの動作に関するパラメータに対する安全性に基づく制限値を、産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいて区分けされたシーンごとに設定する設定部20と、設定された制限値に基づいて産業用ロボットの動作を制御する動作制御部21と、産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいてシーンを切り替える切替部22と、産業用ロボットの動作時におけるパラメータを制限値と比較することにより、産業用ロボットの動作の安全性を監視する監視部23と、を備えている。
【0121】
そして、切替部22は、産業用ロボットの動作中にシーンを切り替え可能にし、動作制御部21は、各シーンに設定されている制限値に基づいて産業用ロボットの動作を制御するとともに、監視部23によって安全性が低下する可能性があると判定された場合、産業用ロボットの動作を停止させる。
【0122】
これにより、シーンが切り替わる前後において産業用ロボットの動作が継続されることから、一連の作業が完了するまでに要するいわゆるタクトタイムを抑制でき、作業効率を改善することができる。また、シーンを切り替えた後には、産業用ロボットの動作を迅速に制限値の範囲内で制御できるようになることから、万が一衝突したとしても衝撃を緩和することができ、安全性も確保することができる。さらに、安全性が低下する可能性がある場合には、迅速に産業用ロボットの動作を停止することができる。したがって、作業効率の向上と安全性の確保とを両立することができる。
【0123】
また、産業用ロボットシステム1では、切替部22は、産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、動作制御部21は、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御する。このようにシーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの切り替え前後において、産業用ロボットの動作が不連続になることを抑制でき、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。
【0124】
また、産業用ロボットシステム1では、切替部22は、産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、動作制御部21は、シーンが切り替えられた後に、切り替え後のシーンに設定されている制限値に応じて産業用ロボットの動作を制御する。このようにシーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの切り替え前後において、産業用ロボットの動作が不連続になることを抑制でき、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。また、切り替え後にシーンの安全性を確実に確保することができる。
【0125】
また、産業用ロボットシステム1では、切替部22は、産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、監視部23は、切り替え後のシーンに設定されている制限値に基づいて産業用ロボットの動作の安全性を監視し、動作制御部21は、切り替え前のシーンの安全性に基づいて産業用ロボットの動作を制御する。このようにシーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの前後における安全性に基づいて産業用ロボットの動作を制御でき、安全性を向上させることができる。また、シーンの切り替え前後において、産業用ロボットの動作が不連続になることを抑制でき、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。
【0126】
また、産業用ロボットシステム1では、切替部22は、産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことによりシーンが切り替わるか否かを特定し、監視部23は、切り替え後のシーンに設定されている制限値に基づいて産業用ロボットの動作の安全性を監視し、動作制御部21は、切り替え後のシーンの安全性に基づいて産業用ロボットの動作を制御する。このようにシーンの切り替わりを予め先読みすることにより、シーンの前後における安全性に基づいて産業用ロボットの動作を制御でき、安全性を向上させることができる。また、シーンの切り替え前後において、産業用ロボットの動作が不連続になることを抑制でき、タクトタイムが増加して作業効率が低下してしまうことを抑制できる。また、切り替え後にシーンの安全性を確実に確保することができる。
【0127】
また、産業用ロボットシステム1では、設定部20は、パラメータとして産業用ロボットの速度を対象とし、制限値として許容される速度の上限値を設定する。産業用ロボットの速度は、接触時の損傷の大きさなどに深く関わるパラメータであるとともに、作業者が目視可能なものである。そのため、産業用ロボットの速度は、産業用ロボット側および作業者側の双方にとって、安全性や危険性を判断する目安として適切なパラメータ出ると考えられる。また、産業用ロボットの速度は、タクトタイムに大きく関与するパラメータでもある。そのため、パラメータとして産業用ロボットの速度を対象とすることにより、実際の現場において、安全性や生産性を考慮した上で、実効性の高い効果を得ることができる。
【0128】
本発明は、上記した、あるいは、図面に記載した実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲での種々の変形、拡張あるいは他の構成との組み合わせすることができ、それらは均等の範囲に含まれる。
【0129】
実施形態では各手法の組み合わせの一例のみを示したが、競合が生じなければ適宜組み合わせて利用することができる。例えば、異なるシーンでは異なる手法を採用したり、作業内容や作業環境に応じて採用する手法を変更したりすることができる。
【0130】
実施形態ではロボット2が単体で動作する例を示したが、例えばいわゆるAGV(Automatic Guided Vehicle)と称される無人搬送車にロボット2を載置し、AGVの移動といった作業環境の変化に伴うシーンの切り替えと、ロボット2の作業内容に伴うシーンの切り替えとが混在している場合にも、実施形態で説明した各手法を適宜適用することができるし、必要に応じていずれかの手法を組み合わせて適用することができる。また、ロボット2単体としては動作が停止していても、AGVの移動に伴ってロボット2が移動する場合にも、各手法を適宜選択して適用することができる。
【0131】
実施形態では主としてロボット2の移動に応じてシーンが切り替わる例を説明したが、例えば図3に示すステップS4とステップS6のように、向きは異なるものの同じ経路を移動する際に、ステップS4のようにパーツ30を把持している状態と、ステップS6のようにパーツ30を把持していない状態とにおいてシーンが切り替わる場合に各手法を適用することができる。すなわち、ロボット2の作業内容に応じてシーンが切り替わる場合においても、実施形態で説明した各種の手法を適宜適用することができるし、必要に応じていずれかの手法を組み合わせて適用することができる。
【0132】
実施形態では、ロボット2の動作に関するパラメータとして速度を対象としたが、加速度やトルクあるいは可動範囲などを対象とすることができる。その場合、実施形態で説明した処理の流れにおいて、速度を加速度や最大トルクあるいは可動範囲などに読み替え、上限速度を上限加速度や最大トルクあるいは最大可動範囲などに読み替え、加速を加速度増加量やトルク増加量あるいは可動範囲移動量などに読み替え、減速を加速度減少量やトルク減少量あるいは可動範囲減少量などに読み替えることで、各手法を適用することができる。また、そのような構成であっても、作業効率の向上と安全性の確保とを両立することができるなど、実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、監視部は、作業中の産業用ロボットの力及び速さの少なくとも何れかに相関のあるパラメータを含んだ安全関連入力信号及び予め記憶されている当該パラメータ用の判定基準に基づいて産業用ロボットの動きを判定する動作判定部としても機能する。また、制限値は、パラメータ用の判定基準としても扱われる。また、切替部22は、シーンを識別するシーン識別部、パラメータ用の判定基準をシーンに対応する判定基準に切り替える判定基準切替部としても機能する。
【符号の説明】
【0133】
図面中、1は産業用ロボットシステム、2はロボット(産業用ロボット)、20は設定部、21は動作制御部、22は切替部、23は監視部を示す。
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