(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174157
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
B25J19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086855
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】菊池 健司
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼井 雄太
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707BS10
3C707JS01
3C707KS17
3C707LV15
3C707MS06
(57)【要約】
【課題】ロボットの動作を制御する制御部とは独立した構成によりその制御を監視するロボットシステムを提供する。
【解決手段】ロボット2の動作を制御プログラムにより制御するRC3と通信を行い当該RC3による制御内容を監視するSMM4とを備える。制御プログラムには動作制御に関するパラメータのデータをロボットを動作させる状況に応じて切り替えるために使用するCSコマンドが複数記述され、SMM4には複数のCSコマンドに対応する各パラメータのデータ及び複数のCSコマンドの実行を許可する許可条件が予め登録される。RC3はCSコマンドを実行する際に切り替え要求をSMM4に送信する。SMM4は現在のロボットの動作状態がCSコマンドにおける許可条件を満たすか否かを判断し、許可条件を満たせばそのCSコマンドで指定されているパラメータのデータ値に切り替えることを許可し、満たさなければ切り替えを許可しない。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの動作を制御プログラムにより制御する制御部と、
この制御部と通信を行い、当該制御部による制御内容を監視する監視部とを備え、
前記制御プログラムには、前記動作の制御に関するパラメータのデータ値を、前記ロボットを動作させる状況に応じて切り替えるために使用する切り替えコマンドが複数記述されており、
前記監視部には、前記複数の切り替えコマンドの実行を許可する許可条件が予め登録されており、
前記制御部は、前記制御プログラムにおいて前記切り替えコマンドを実行する際に、切り替え要求を前記監視部に送信し、
前記監視部は、現在のロボットの動作状態が、前記切り替えコマンドにおける許可条件を満たせば、対応する切り替えコマンドによるパラメータのデータ値の切り替えを行い、前記許可条件を満たさなければ、前記データ値の切り替えを行わないロボットシステム。
【請求項2】
前記許可条件は、前記ロボットの手先位置を指定する座標点である請求項1記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記許可条件は、前記ロボットの手先位置を指定する3次元座標で規定される空間領域であり、前記3次元座標のうち1つの座標軸データの域値は、他の2つの座標軸データの域値よりも小さい値に設定されている請求項1記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性を向上させるため、ロボットの動作を監視するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットを動作させる際には、如何にして安全性を向上させるかが、常に課題となっている。ロボットの動作を制御するコントローラは、制御に関連したパラメータとして動作速度や出力トルク等を扱う。例えば、ロボットが予めプログラミングした通りのパラメータによって制御されているか否かを監視すれば、安全性の向上に資することができる。特許文献1は、産業用ロボットについて安全システムを適用したものの一例を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コントローラ自体に上記のような監視機能を持たせても、信頼性が十分であるとは言い難い。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ロボットの動作を制御する制御部とは独立した構成によって、その制御を監視するロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載のロボットシステムによれば、ロボットの動作を制御プログラムにより制御する制御部と、この制御部と通信を行い、当該制御部による制御内容を監視する監視部とを備える。制御プログラムには、前記動作の制御に関するパラメータのデータ値を、ロボットを動作させる状況に応じて切り替えるために使用する切り替えコマンドが複数記述されている。監視部には、複数の切り替えコマンドの実行を許可する許可条件が予め登録されている。
【0007】
制御部は、制御プログラムにおいて切り替えコマンドを実行する際に、切り替え要求を監視部に送信する。すると、監視部は、現在のロボットの動作状態が、切り替えコマンドにおける許可条件を満たすか否かを判断する。そして、許可条件を満たせば、その切り替えコマンドで指定されているパラメータのデータ値に切り替え、満たさなければ、前記データ値への切り替えを行わない。
【0008】
すなわち、制御部が、制御プログラムに従ってロボットを動作させる際に、切り替えコマンドを実行する前の段階で、ロボットの動作状態が対応する許可条件を満たしていることを監視部が確認した上で、その切り替えコマンドによるパラメータのデータ値の切り替えを行い、ロボットの動作制御が継続される。これにより、制御部が、制御プログラムを安全に実行していることを、独立した監視部によって確認しながらロボットを動作させることができる。
【0009】
請求項2記載のロボットシステムによれば、許可条件を、ロボットの手先位置を指定する座標点とする。これにより、ロボットの手先位置が、指定された座標点に一致していることを条件として、その切り替えコマンドによるデータ値を切り換えるようにできる。
【0010】
請求項3記載のロボットシステムによれば、許可条件を、ロボットの手先位置を指定する3次元座標で規定される空間領域として、3次元座標のうち1つの座標軸データの域値を、他の2つの座標軸データの域値よりも小さい値に設定する。このように、許可条件を空間領域で指定すれば、請求項2のように1点で指定する必要がなくなるため、切り替えコマンドを記載する作業が容易になる。
【0011】
その一方で、許可条件として空間領域に任意の拡がりを持たせてしまうと、制御部が誤動作していることを検知できなくなるおそれがある。そこで、1つの座標軸データの域値を、他の2つの座標軸データの域値よりも小さい値に設定すれば、その領域は実質的に2次元的な、つまり平面的なものに近くなる。このように、ロボットの手先位置の条件を2次元的な領域に制限することで、3次元的な空間領域に比較して、制御部の誤動作をより検出し易くできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態であり、ロボットシステムの構成を示す図
【
図2】各シーンに応じたパラメータの許容値を示す図
【
図3】パーソナルコンピュータよりセーフティモーションモジュールに対して、各シーンに応じたパラメータ値を設定するイメージを示す図
【
図4】ロボットコントローラ、セーフティモーションモジュール及びロボット間で行われる処理を示すシーケンス図
【
図5】制御プログラムに記述されたチェンジシーンコマンドによって、パラメータ値の切り替えが行われることをイメージ的に示す図
【
図6】第2実施形態であり、ロボットがパレタイジングを行う際に、4つのシーンを切り換える手先位置を示す図
【
図7】
図6に対応した、各シーンへの切り替え許可条件を示す図
【
図8】シーン3への切り替え許可条件を、空間領域で設定したことを示す図
【
図9】空間領域を、実質的に2次元的な領域に設定することを示すイメージ図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態のロボットシステム1は、例えば垂直6軸型のアームを有するロボット2と、制御プログラムに従いロボット2の動作を制御するロボットコントローラ;RC3と、RC3を監視するセーフティモーションモジュール;SMM4とを備えている。ロボット2、RC3及びSMM4は、有線又は無線によって互いに通信を行う。RC3は制御部に相当し、SMM4は監視部に相当する。
【0014】
また、本実施形態では、制御プログラムにおいて、チェンジシーンコマンドというコマンドを記述する。以下、「CSコマンド」と称する。切り替えコマンドに相当するCSコマンドは、ロボット2を動作させる状況において、ロボット2が作業する場面や状況、つまりシーンが切り替わる際に、ロボット2の動作を規定する例えば速度やトルク等のパラメータのデータを変更するコマンドである。
【0015】
例えば
図2に示すように、ロボット2が作業するシーンについて、0,1,2,…のように番号を付して、それらのシーン番号毎に許容する最大速度[mm/s]や出力トルク[N]等のパラメータの値を、CSコマンドによって切り替える。例えば、人が近付く可能性があるシーンについては、上記の値を相対的に低く設定等する。そして、CSコマンドに記載されているロボット2の手先の位置座標(x、y、z)は、当該コマンドによって各パラメータの許容値を切り換えることを許可するための条件である。尚、図中では、許容する速度やトルクを「監視速度」、「監視力」としている。
【0016】
各CSコマンドに対応したパラメータ及び許可条件のデータ値は、例えば
図3に示すように、作成者が、パーソナルコンピュータ;PC5において記載すると、各コマンドのパラメータ等のデータ値を、SMM4に送信して登録しておく。
【0017】
次に、本実施形態の作用について
図4及び
図5を参照して説明する。例えば
図5に示すように、制御プログラムにおいて、コマンド「Move P0」に続いてCSコマンド「changeScene2」が記載されており、その後にコマンド「Move P1」が記載されているとする。また、コマンド「Move P0」の実行時がシーン0であるとすれば、上記のCSコマンドの実行によって、シーン0からシーン2に切り替えが行われることになる。シーン2への切り替え許可条件は、手先位置(x2,y2,z2)である。
【0018】
図4に示すように、RC3は、「changeScene2」を実行する際に、SMM4に対してシーン2への切り替え要求を送信する。すると、SMM4は、ロボット2に対して現在の手先位置データの送信を要求する。それに応じてロボット2が、手先位置データをSMM4に送信すると、SMM4は、その手先位置がシーン2への切り替え許可条件(x2,y2,z2)を満たすか否かを判定する。
【0019】
許可条件を満たす場合、SMM4は、changeScene2に応じたパラメータ、動作速度及び出力トルクの許容値の切り替えを実施する。SMM4は、RC3がロボット2を制御している期間は、各シーンにおける制御パラメータの値が、CSコマンドで設定された最大値を超えないように監視している。一方、許可条件を満たさない場合、SMM4は、上記の切り替えを行わず、ロボット2に動作を停止させる指示を送信する。
【0020】
以上のように本実施形態によれば、ロボットシステム1において、ロボット2の動作を制御プログラムにより制御するRC3と、このRC3と通信を行い、当該RC3による制御内容を監視するSMM4とを備える。制御プログラムには、前記動作の制御に関するパラメータのデータを、ロボットを動作させる状況に応じて切り替えるために使用するCSコマンドが複数記述され、SMM4には、複数のCSコマンドに対応する各パラメータのデータ及び複数のCSコマンドの実行を許可する許可条件が予め登録される。
【0021】
RC3は、制御プログラムにおいてCSコマンドを実行する際に、シーン切り替え要求をSMM4に送信する。すると、SMM4は、現在のロボットの動作状態が、CSコマンドについての許可条件を満たすか否かを判断する。そして、許可条件を満たせば、そのCSコマンドで指定されているパラメータのデータ値に切り替え、満たさなければ、前記データ値への切り替えを行わない。
【0022】
すなわち、RC3が、制御プログラムに従ってロボット2を動作させる際に、CSコマンドを実行する前の段階で、ロボット2の動作状態が対応する許可条件を満たしていることをSMM4が確認した上で、そのCSコマンドによるパラメータのデータ値の切り替えを行い、ロボット2の動作制御が継続される。これにより、RC3が、制御プログラムを安全に実行していることを、独立したSMM4によって確認しながらロボット2を動作させることができる。
【0023】
そして、許可条件を、ロボット2の手先位置を指定する座標点とする。これにより、ロボット2の手先位置、指定された座標点に一致していることを条件として、そのCSコマンドによるデータ値を切り替えるようにできる。
【0024】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。
図6及び
図7に示すように、例えば、ロボット2がパレットに対してワークを積み上げる作業であるパレタイジングを行う際に、シーン0~3のように4つのシーンに順次切り替えが行われるものとする。このような場合に、各シーンへの切り替え許可条件を、それぞれ3次元座標値の点で設定すると、厳密な設定が必要となり、手間がかかってしまう。
【0025】
そこで、第2実施形態では、
図8に示すように、各座標(x3,y3,z3)に対して、それぞれ所定の値幅(dx,dy,dz)を持たせることで、例えば
(x3→x3+dx,y3→y3+dy,z3→z3+dz)で規定される空間領域を許可条件として設定する。これにより、厳密な設定が不要となる。
【0026】
但し、この場合、任意の広がりを持つ空間領域を設定すると、RC3が誤動作しているか否かの判断が困難になる。そこで、
図9にイメージを示すように、3軸のうち1つの座標軸のデータ値を、他の2軸よりも大幅に制限することで、実質的には2次元的な領域となるように許可条件を設定する。
図9では、(dz≪dx,dy)としている。具体数値例としては、例えばdx=800mm,dy=400mm,dz≦100mm等にする。比率としては、例えばdzを、dx,dyの50%未満にする。尚、dzに替えて、dx又はdyを同様に制限しても良いことは言うまでもない。
【0027】
以上のように第2実施形態によれば、許可条件を空間領域で指定すれば、第1実施形態のように1点で指定する必要がなくなるため、CSコマンドを記載する作業が容易になる。そして、1つの座標軸データの域値を、他の2つの座標軸データの域値よりも小さい値に設定し、ロボット2の手先位置の条件を2次元的な領域に制限することで、3次元的な空間領域に比較して、RC3の誤動作をより検出し易くできる。
【0028】
また、ロボット2が
図6のようなパレタイジングを行う際に、その手先が移動する範囲は
図9に示すような2次元的な領域となるため、ロボット2の作業内容に適した許可条件を設定できる。
【0029】
本発明は上記した、又は図面に記載した実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
CSコマンドで規定するパラメータは、動作速度や出力トルクに限らない。
許可条件を、手先位置以外のものにしても良い。
ロボットは、垂直6軸型に限らない。
SMM4には、許可条件のみを予め登録しても良い。
第2実施形態において、3軸のうち1軸の座標の値域を制限する値は100mm以下に限らず、個別の設計に応じて適宜変更すれば良い。
【符号の説明】
【0030】
図面中、1はロボットシステム、2はロボット、3はロボットコントローラ、4はセーフティモーションモジュールを示す。