(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174195
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04746 20160101AFI20231130BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20231130BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20231130BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20231130BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20231130BHJP
H01M 8/04694 20160101ALI20231130BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04858
H01M8/0432
H01M8/04537
H01M8/04701
H01M8/04694
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086909
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】長澤 知哉
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB04
5H127AB29
5H127BA02
5H127BA22
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB26
5H127BB37
5H127CC07
5H127DB47
5H127DB66
5H127DB74
5H127DC73
5H127FF04
(57)【要約】
【課題】ラジエタによる冷却性能を安定させつつ、燃料電池スタックの昇温動作を促進する。
【解決手段】燃料電池システム1は、燃料電池FCと、燃料電池FCに対応する実値温度MTを取得する温度センサTHと、冷却ファンFと、制御部3と、を有する。制御部3は、燃料電池FCの目標発電量が高いほど燃料電池FCの目標温度TTを高く設定しており、目標温度TTが上昇する場合において、温度センサTHが取得した実値温度MTが目標温度TTに到達するまで、冷却ファンFの回転数の変化を抑制する抑制制御を行なう。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに対応する実値温度を取得する温度取得部と、
冷却ファンと、
制御部と、を有し、
制御部は、前記燃料電池スタックの目標発電量が高いほど前記燃料電池スタックの目標温度を高く設定しており、
前記目標温度が上昇する場合において、前記温度取得部が取得した前記実値温度が前記目標温度に到達するまで、前記冷却ファンの回転数の変化を抑制する抑制制御を行なうことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記冷却ファンは、前記目標温度に基づいて前記回転数を調整するフィードバック制御がされており、かつ、放熱量目標値に基づいて前記回転数を調整するフィードフォワード制御がされており、
前記抑制制御に切り替わった場合に前記フィードフォワード制御の結果を前記抑制制御に切り替わる前の状態で維持することを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記目標発電量は、多段階に設定されており、
前記目標温度も前記目標発電量に対応して多段階に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記温度取得部は前記燃料電池スタックから流出される冷却水の温度を測定する水温センサであることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される燃料電池を構成する燃料電池セルは、発電中の電位変動により劣化してしまう。特に、フォークリフトなどの産業車両においては、高い耐久力が要求されることに加えて、単位時間当たりの出力の時間変化が大きいため、発電量を段階的に切り替えて、電位変動を抑制している。
【0003】
燃料電池の冷媒の目標温度は、低負荷発電時と高負荷発電時で異なる値を設定する場合がある。例えば、低負荷発電時においては、燃料電池を冷却する冷媒の温度を高負荷発電時に良い発電性能を発揮できる温度に設定していると、燃料電池セルが乾いてしまい水素イオンの移動抵抗が大きくなる。そのため、低負荷発電時は、高負荷発電時よりも冷媒の目標温度を低めに設定することがある。
【0004】
例えば、燃料電池を良好に冷却しながら、消費電力の低減を図ることができる、燃料電池システムの冷却制御装置の技術が提供されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の燃料電池システムにおいては、冷媒の温度を目標温度に到達させるために、フィードフォワード制御とフィードバック制御とが行われることにより、ラジエタの冷却ファンの回転数を制御していた。しかしながら、燃料電池スタックによる冷媒の温度上昇をフィードフォワード制御にて冷却ファンを制御してしまうと、ラジエタの冷媒の温度が過冷却により目標温度になかなか到達しない問題が発生していた。過冷却によりラジエタによる冷却性能が安定せず、燃料電池スタックの昇温動作が促進されない結果、燃料電池を構成する燃料電池セルの発電性能を十分に引き出すことができなかった。
【0007】
本発明の一側面に係る目的は、ラジエタによる冷却性能を安定させつつ、燃料電池スタックの昇温動作を促進することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一つの形態である燃料電池システムは、燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに対応する実値温度を取得する温度取得部と、冷却ファンと、制御部と、を有する。
【0009】
前記制御部は、前記燃料電池スタックの目標発電量が高いほど前記燃料電池スタックの目標温度を高く設定しており、前記目標温度が上昇する場合において、前記温度取得部が取得した前記実値温度が前記目標温度に到達するまで、前記冷却ファンの回転数の変化を抑制する抑制制御を行なう。
【0010】
これにより、目標温度が上昇する場合においても、温度取得部が取得した実値温度が目標温度に到達するまでは、冷却ファンの回転数の変化を抑制する抑制制御を行われる。このため、冷却ファンの回転数が切り替えられずに、冷却ファンによる冷却性能を維持することができる。これにより、過冷却の状態が発生することを抑制して実値温度を目標温度として設定した温度へ迅速に昇温動作を行うことができる。その結果、ラジエタの冷却性能を安定させつつ、燃料電池スタックの発電性能をより早く、すなわち、十分に引き出すことができる。
【0011】
また、前記冷却ファンは、前記目標温度に基づいて前記回転数を調整するフィードバック制御がされており、かつ、放熱量目標値に基づいて前記回転数を調整するフィードフォワード制御がされており、前記抑制制御に切り替わった場合に前記フィードフォワード制御の結果を前記抑制制御に切り替わる前の状態で維持してもよい。
【0012】
これにより、冷却ファンの回転数の制御をより効果的に行うことができる。
【0013】
また、前記目標発電量は、多段階に設定されており、前記目標温度も前記目標発電量に対応して多段階に設定されてもよい。
【0014】
これにより、電圧変動が少なくなり燃料電池スタックの劣化を抑制することができつつ、燃料電池スタックの温度を適切に調整できる。
【0015】
また、前記温度取得部は前記燃料電池スタックから流出される冷却水の温度を測定する水温センサであってもよい。
【0016】
これにより、燃料電池システムは、簡易な構成で適切に燃料電池スタックの温度を検出することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ラジエタによる冷却性能を安定させつつ、燃料電池スタックの昇温動作を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態の燃料電池システムの一例を示す図である。
【
図2】制御部により実行される抑制制御の一例を示す図である。
【
図3】従来の燃料電池システムによる燃料電池(冷媒)の目標温度と、実値温度と、冷却ファンの回転数との関係を示す図である。
【
図4】本実施形態の燃料電池システムによる燃料電池(冷媒)の目標温度と、実値温度と、冷却ファンの回転数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0020】
図1は、実施形態の燃料電池システムの一例を示す図である。
【0021】
図1に示す燃料電池システム1は、フォークリフトなどの産業車両や自動車などの車両Veに搭載される。なお、車両Veには、走行用モータを駆動するインバータなどの外部負荷Loが搭載され、燃料電池システム1から外部負荷Loに電力が供給される。
【0022】
燃料電池システム1は、燃料電池(燃料電池スタック)FCと、燃料タンクTと、エアコンプレッサACPとを備える。
【0023】
また、燃料電池システム1は、更に、ラジエタRと、冷却ファンFと、ウォータポンプWPと、インタークーラICと、DCDCコンバータCNVと、蓄電装置Bと、電流センサSifと、電圧センサSvfと、記憶部2と、制御部3と、温度センサTH(温度取得部)と、イオン交換器IEと、インタークーラICとを備える。
【0024】
燃料電池システム1は、燃料電池FCが発電する際に必要とされる補助機能を有する機器である補機に基づいて外部負荷Loなどに電力を出力する。補機とは、燃料電池FCに関連する機器である。補機には、燃料タンクT、エアコンプレッサACP、ラジエタR、冷却ファンF、ウォータポンプWP、DCDCコンバータCNV、蓄電装置B、イオン交換器IE、インタークーラICなどが含まれる。補機は、
図1に示していない他の機器を含めてもよい。
【0025】
燃料電池FCは、互いに直列接続される複数の燃料電池セルにより構成される燃料電池であり、燃料ガス(水素ガスなど)に含まれる水素と酸化剤ガス(空気など)に含まれる酸素との電気化学反応により電気を発生させる。
【0026】
燃料タンクTは、燃料ガスの貯蔵容器である。燃料タンクTに貯蔵された燃料ガスは燃料電池FCに供給される。
【0027】
エアコンプレッサACPは、燃料電池システム1の周囲に存在する酸化剤ガスを圧縮しインタークーラICを介して燃料電池FCに供給する。なお、エアコンプレッサACPの圧縮率は、燃料電池FCの下流に設けられる弁の開度を調節することで制御される。
【0028】
インタークーラICは、圧縮により高温になった酸化剤ガスをインタークーラICに流出される冷却水などの冷媒と熱交換させる。
【0029】
ラジエタRは、燃料電池FCの発熱により温められた冷媒を外気と熱交換させる。
【0030】
冷却ファンFは、ラジエタRの放熱量を上昇させる。制御部3は、燃料電池FCの発電状態に基づいて、冷却ファンFの回転数を制御する。ラジエタRは、燃料電池FCから回収した熱を、冷却ファンFの送風により、燃料電池システム1の外部に放出する。すなわち、ラジエタRと冷却ファンFとは、冷却部を構成している。この場合、冷却ファンFは、水冷式の冷却ファンとして構成される。制御部3は、冷却ファンFの回転数または風量により、冷却ファンFによる燃料電池FCに対する冷却量を検出する。
【0031】
ウォータポンプWPは、ラジエタRにより冷却された冷媒をインタークーラICを介して燃料電池FCに供給する。
【0032】
イオン交換器IEは、燃料電池FCに並列して設けられている。従って、ラジエタRを流通する冷媒の一部は、イオン交換器IEに収容されたイオン交換樹脂によって不純物イオンを除去される。
【0033】
DCDCコンバータCNVは、燃料電池FCの後段に接続され、燃料電池FCから出力される電圧Vfc(例えば、90[V])を電圧Vch(例えば、48[V])に変換する。また、DCDCコンバータCNVから出力される電力は、外部負荷Lo、内部負荷Li、及び蓄電装置Bに供給される。内部負荷Liには、エアコンプレッサACP、ウォータポンプWP、及び冷却ファンFなどが含まれる。内部負荷Liは、
図1に示していない他の機器を含めてもよい。
【0034】
蓄電装置Bは、リチウムイオンキャパシタなどにより構成され、DCDCコンバータCNVと外部負荷Loとの間に接続されている。
【0035】
電流センサSifは、シャント抵抗やホール素子などにより構成され、燃料電池FCからDCDCコンバータCNVに流れる電流Ifcを検出し、その検出した電流Ifを制御部3に送る。
【0036】
電圧センサSvfは、分圧抵抗などにより構成され、燃料電池FCの電圧Vfcを検出し、その検出した電圧Vfcを制御部3に送る。
【0037】
温度センサTHは、燃料電池FCに対応する温度を取得する。温度センサTHは、例えば、サーミスタ(thermistor)により構成される。温度センサTHは、取得した温度を制御部3へ送る。例えば、温度センサTHは、燃料電池FCの発熱により温められた冷媒の温度を取得することにより、燃料電池FCの温度を取得することができる。温度センサTHは、燃料電池FCから流れる冷媒としての冷却水の温度を測定する水温センサにより構成される。このため、燃料電池システム1は、簡易な構成で適切に燃料電池FCの温度を検出することができる。
【0038】
記憶部2は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などにより構成される。記憶部2には、制御部3により実行されるプログラムが記憶される。
【0039】
制御部3は、マイクロコンピュータなどにより構成される。
【0040】
また、制御部3は、燃料電池システム1の稼働時、蓄電装置BのSOCに応じて発電量目標値TPGを段階的に変化させる。
【0041】
また、制御部3は、燃料電池システム1の稼働時、燃料電池FCの発電電力が発電量目標値TPGに追従するように、内部負荷Liの動作を制御する。例えば、制御部3は、燃料電池システム1の稼働時、PI(Proportional-Integral)制御により、燃料電池FCの発電電力と発電量目標値TPGとの差がゼロになるように、内部負荷Liの動作を制御する。
【0042】
制御部3は、燃料電池FCに関連する補機の動作を制御することで燃料電池FCの発電電力量を制御する。また、制御部3は、燃料電池FCの目標とする発電量(以下、「目標発電量」とも呼ぶ)(出力指令値)が高いほど燃料電池FCの目標とする温度(以下、「目標温度TT」とも呼ぶ)を高く設定している。そして、制御部3は、目標温度TTが上昇する場合において、温度センサTHが目標温度TT、又は、目標温度TTに対応する温度に到達するまで、冷却ファンFの回転数の変化を抑制する抑制制御を実行する。
【0043】
冷却ファンFは、制御部3に基づく抑制制御により、目標温度TTに基づいて冷却ファンFの回転数を調整するフィードバック制御(以下、「FB制御」とも呼ぶ)がされており、かつ、放熱量目標値に基づいて冷却ファンFの回転数を調整するフィードフォワード制御(以下、「FF制御」とも呼ぶ)がされている。
【0044】
制御部3は、目標温度に基づいて冷却ファンFの回転数を調整するFB制御を行う。制御部3は、冷却ファンFの回転数や燃料電池FCの発電量から冷却量を推定する。制御部3は、これらの推定結果を用いて実測値の温度(以下、「実値温度」とも呼ぶ)が目標温度として設定した温度となるように冷却ファンFの回転数を調整するFB制御を実行する。FB制御により、冷却ファンFの回転数(FB)(以下、「冷却ファン回転数(FB)」と呼ぶ)が算出される。
【0045】
また、制御部3は、放熱量目標値に基づいて冷却ファンFの回転数を調整するFF制御を行う。例えば、制御部3は、燃料電池FCの発電状態に基づいて、冷却ファンFの回転数を制御する。制御部3は、抑制制御に切り替わった場合にFF制御の結果を抑制制御に切り替わる前の状態で維持する。
【0046】
図2は、制御部3により実行される抑制制御の一例を示す図である。制御部3は、放熱量目標値THRに基づき、FF制御により、冷却ファン回転数CSFを算出する。また、制御部3は、目標温度TT及び実値温度MTに基づき、FB制御により、冷却ファン回転数CSBを算出する。
【0047】
目標温度TTは、燃料電池FCの発電量が段階発電により段階的に切り替えられ、発電量が上昇すると、要求された目標発電量に対応して、燃料電池FCの発電性能を引き出すために設定される温度である。
【0048】
実値温度MTは、温度センサTHにより取得された燃料電池FCの温度である。具体的には、燃料電池FCから流出される冷却水などの冷媒の温度である。
【0049】
制御部3は、FF制御により算出した冷却ファン回転数CSFと、FB制御により算出した冷却ファン回転数CSBと、を加算した回転数を総合冷却ファン回転数CSTとして算出する。制御部3は、算出した総合冷却ファン回転数CSTを指令値として冷却ファンFへ送ることにより、冷却ファンFの回転数を制御することができる。
【0050】
図3は、従来の燃料電池システム1による燃料電池FC(冷媒)の目標温度TTと、実値温度MTと、冷却ファンFの回転数との関係を示す図である。燃料電池FC(冷媒)の目標温度TTは、低負荷発電時と高負荷発電時とで異なる。高負荷発電時においては、燃料電池FCの発電性能を引き出すために、燃料電池FC(冷媒)の目標温度TTが高めに設定されている。しかしながら、低負荷発電時においては、燃料電池FC(冷媒)の目標温度TTを高めに設定してしまうと、燃料電池FCを構成する燃料電池セルが高温にさらされて乾燥してしまい、水素イオンの移動抵抗が大きくなることで、かえって燃料電池FCの発電性能を引き出すことができないため、低めに設定されている。
【0051】
図3を参照して、従来の燃料電池システム1による具体的な制御の流れについて説明する。初めに、外部負荷Loから電力が要求され、発電が開始されたタイミング(時間)ti0において、要求された目標発電量に対応して、燃料電池FCの発電性能を引き出すために、燃料電池FCの目標温度TTが温度te0から温度te1(te0<te1)へ切り替えられる。
【0052】
燃料電池FCによる発電が継続し、タイミングti1において燃料電池FCの実値温度MTが、目標温度TTとして設定した温度te1を超えると、FB制御により算出された冷却ファン回転数CSBに基づき、総合冷却ファン回転数CSTが回転数fs0から回転数fs1(fs0<fs1)へ切り替えられ燃料電池FCの冷却が開始される。
【0053】
燃料電池FCの発電量が段階発電により段階的に切り替えられ、発電量が上昇すると、要求された目標発電量に対応して、燃料電池FCの発電性能を引き出すために、燃料電池FCの目標温度TTが温度te1から温度te2(te1<te2)へ切り替えられる。
【0054】
目標温度TTが温度te1から温度te2へ切り替えられて上昇したタイミングti2において、燃料電池スタックの発電反応により生じる熱量を冷却するために必要な、放熱量目標値THRに基づきFF制御により算出された冷却ファン回転数CSFが総合冷却ファン回転数CSTへ加算され、総合冷却ファン回転数CSTが回転数fs1から回転数fs2(回転数fs1<回転数fs2)へ切り替えられ、冷却ファンFによる冷却性能が向上する。
【0055】
冷却ファンFによる冷却性能が向上した結果、燃料電池FCの実値温度MTが、目標温度TTとして設定した温度te2までなかなか到達しない過冷却の状態が発生する。その結果、実値温度MTを目標温度TTとして設定した温度te2に到達させるために、タイミングti3において、FB制御により、総合冷却ファン回転数CSTが回転数fs2から回転数fs0へ切り替えられ、冷却ファンFを一旦停止して冷却性能を低下させる。冷却ファンFによる冷却性能が低下した結果、燃料電池FCの実値温度MTが急上昇し、目標温度TTとして設定した温度te2をタイミングti4において大きく超えオーバーシュートの状態が発生することとなる。
【0056】
更に、燃料電池FCの発電量が段階発電により段階的に切り替えられ、発電量が上昇すると、要求された目標発電量に対応して、燃料電池FCの発電性能を引き出すために、燃料電池FCの目標温度TTが温度te2から温度te3(te2<te3)へ切り替えられる。
【0057】
目標温度TTが温度te2から温度te3へ切り替えられると、目標温度TTの温度te3に基づきFF制御により算出された冷却ファン回転数CSFが加算され、総合冷却ファン回転数CSTが回転数fs2から回転数fs3(回転数fs2<回転数fs3)へ切り替えられ、冷却ファンFによる冷却性能が向上する。
【0058】
回転数fs3は、回転数fs2よりも大きいため、冷却性能が向上する結果、燃料電池FCの実値温度MTは、目標温度TTとして設定した温度te3までなかなか到達しない過冷却の状態が発生する。その結果、実値温度MTを目標温度TTとして設定した温度te3へ到達させるために、タイミングti6において、FB制御により、総合冷却ファン回転数CSTが回転数fs3から回転数fs0へ切り替えられ、冷却ファンFを一旦停止して冷却性能を低下させる。冷却ファンFによる冷却性能が低下した結果、燃料電池FCの実値温度MTが急上昇し、目標温度TTとして設定した温度te3をタイミングti7において大きく超えオーバーシュートの状態が発生することとなる。
【0059】
従来の燃料電池システム1においては、燃料電池スタックの発電反応により生じる熱量からFF制御にて冷却ファンを制御してしまうと、燃料電池FC(冷媒)の温度が過冷却により目標温度TTになかなか到達しない状態が発生することとなり、燃料電池FCの発電性能を引き出すことができる目標温度TTに到達しない問題が発生していた。過冷却によりラジエタRによる冷却性能が安定せず、燃料電池FCの昇温動作が促進されない結果、燃料電池FCを構成する燃料電池セルの発電性能を十分に引き出すことができなかった。
【0060】
更に、従来の燃料電池システム1においては、過冷却の影響により冷却ファンFが一旦停止した後、冷却ファンFが再始動を繰り返すことによる頻繁なうねりが継続するため、搭乗者の違和感の要因となっていた。
【0061】
そこで、本実施形態の燃料電池システム1においては、制御部3は、目標温度TTが上昇する場合において、温度センサTHが目標温度に到達するまで、冷却ファンFの回転数の変化を抑制する抑制制御を行なうこととした。
【0062】
図4を参照して、本実施形態の燃料電池システム1による具体的な制御の流れについて説明する。
図4は、本実施形態の燃料電池システム1による燃料電池FC(冷媒)の目標温度TTと、実値温度MTと、冷却ファンFの回転数との関係を示す図である。初めに、外部負荷Loから電力が要求され、発電が開始されたタイミング(時間)ti0において、要求された目標発電量に対応して、燃料電池FCの発電性能を引き出すために、制御部3は、燃料電池FCの目標温度TTを温度te0から温度te1(te0<te1)へ切り替える。
【0063】
燃料電池FCによる発電が継続し、タイミングti1において燃料電池FCの実値温度MTが、目標温度TTとして設定した温度te1を超えると、制御部3は、FB制御により算出した冷却ファン回転数CSBに基づき、総合冷却ファン回転数CSTを回転数fs0から回転数fs1(fs0<fs1)へ切り替えて燃料電池FCの冷却を開始する。
【0064】
燃料電池FCの発電量が段階発電により段階的に切り替えられ、発電量が上昇すると、要求された目標発電量に対応して、燃料電池FCの発電性能を引き出すために、制御部3は、燃料電池FCの目標温度TTを温度te1から温度te2(te1<te2)へ切り替える昇温動作を行う。
【0065】
目標温度TTが温度te1から温度te2へ切り替えられて上昇したタイミングti2において、制御部3は、放熱量目標値THRに基づくFF制御により算出された冷却ファン回転数CSFをすぐに総合冷却ファン回転数CSTへ加算しない。すなわち、目標温度TTが温度te1からte2へ上昇するタイミングti4’において、温度センサTHが取得した実値温度MTが目標温度TTとして設定した温度te2へ到達するまで、制御部3は、冷却ファンFの回転数の変化を抑制する抑制制御を行なう。
【0066】
この抑制制御により、総合冷却ファン回転数CSTが回転数fs1から回転数fs2(回転数fs1<回転数fs2)へ切り替えられずに、冷却ファンFによる冷却性能を維持することができる。これにより、過冷却の状態が発生することを抑制して実値温度MTを目標温度TTとして設定した温度te2へ迅速に昇温動作を行うことができ、その結果、ラジエタRの冷却性能を安定させつつ、燃料電池FCの燃料電池FCの発電性能をより早く、すなわち、十分に引き出すことができる。
【0067】
温度センサTHから取得した実値温度MTが上昇したタイミングti4’、すなわち、
実値温度MTが目標温度TTとして設定した温度te2へ上昇したタイミングti4’において、制御部3は、目標温度TTの温度te2に基づきFF制御により算出された冷却ファン回転数CSFを総合冷却ファン回転数CSTへ加算する。その結果、総合冷却ファン回転数CSTが回転数fs1から回転数fs2(回転数fs1<回転数fs2)へ切り替えられ、冷却ファンFによる冷却性能が向上する。
【0068】
本実施形態の燃料電池システム1においては、上述のように過冷却の状態が発生しない。このため、
図3で説明した従来の燃料電池システム1のように、制御部3は、FB制御により、総合冷却ファン回転数CSTを回転数fs2から回転数fs0へ切り替える必要がない。その結果、冷却ファンFを一旦停止して冷却性能を低下する必要がないので、燃料電池FCの実値温度MTが急上昇し、目標温度TTとして設定した温度te2を大きく超えるオーバーシュートの状態が発生することを抑制することができる。これにより、過冷却の影響により冷却ファンFが一旦停止した後、冷却ファンFが再始動を繰り返すことによる頻繁なうねりが発生することを抑制し、搭乗者の違和感を抑制することができる。
【0069】
更に、燃料電池FCの発電量が段階発電により段階的に切り替えられ、発電量が上昇すると、要求された目標発電量に対応して、燃料電池FCの発電性能を引き出すために、燃料電池FCの目標温度TTが温度te2から温度te3(te2<te3)へ切り替えられる昇温動作が行われる。
【0070】
目標温度TTが温度te2から温度te3へ切り替えられて上昇したタイミングti5において、制御部3は、目標温度TTの温度te3に基づくFF制御により算出された冷却ファン回転数CSFをすぐに総合冷却ファン回転数CSTへ加算しない。すなわち、目標温度TTが温度te2から温度te3へ上昇したタイミングti5において、温度センサTHが取得した実値温度MTが目標温度として設定した温度te3へ到達するまで、制御部3は、冷却ファンFの回転数の変化を抑制する抑制制御を行う。
【0071】
この抑制制御により、総合冷却ファン回転数CSTが回転数fs2から回転数fs3(回転数fs2<回転数fs3)へ切り替えられずに、冷却ファンFによる冷却性能を維持することができる。これにより、過冷却の状態が発生することを抑制して実値温度MTを目標温度TTとして設定した温度te3へ迅速に到達させることができ、その結果、燃料電池FCの発電性能をより早く、すなわち、十分に引き出すことができる。
【0072】
温度センサTHから取得した実値温度MTが上昇したタイミングti7’、すなわち、実値温度MTが目標温度TTとして設定した温度te3へ上昇したタイミングti7’において、制御部3は、目標温度TTの温度te3に基づきFF制御により算出された冷却ファン回転数CSFを加算する。その結果、総合冷却ファン回転数CSTが回転数fs2から回転数fs3(回転数fs2<回転数fs3)へ切り替えられ、冷却ファンFによる冷却性能が向上する。
【0073】
上述のように、本実施形態の燃料電池システム1は、燃料電池FCと、燃料電池FCに対応する実値温度MTを取得する温度センサTHと、冷却ファンFと、制御部3と、を有する。
【0074】
制御部3は、燃料電池FCの目標発電量が高いほど燃料電池FCの目標温度TTを高く設定しており、目標温度TTが上昇するタイミングにおいて、温度センサTHが取得した実値温度MTが目標温度TTに到達するまで、冷却ファンFの回転数の変化を抑制する抑制制御を行なう。
【0075】
これにより、目標温度TTが上昇する場合においても、温度センサTHが取得した実値温度MTが目標温度TTに到達するまでは、冷却ファンFの回転数の変化を抑制する抑制制御を行われる。このため、冷却ファンFの回転数が切り替えられずに、冷却ファンFによる冷却性能を維持することができる。これにより、過冷却の状態が発生することを抑制して実値温度MTを目標温度TTとして設定した温度へ迅速に昇温動作を行うことができる。その結果、ラジエタRの冷却性能を安定させつつ、燃料電池FCの発電性能をより早く、すなわち、十分に引き出すことができる。
【0076】
また、冷却ファンFは、目標温度TTに基づいて回転数を調整するFB制御がされており、かつ、放熱量目標値に基づいて回転数を調整するFF制御がされており、抑制制御に切り替わった場合にFF制御の結果を抑制制御に切り替わる前の状態で維持する。
【0077】
これにより、冷却ファンFの回転数の制御をより効果的に行うことができる。
【0078】
また、目標発電量は、多段階に設定されており、目標温度TTも目標発電量に対応して多段階に設定されている。
【0079】
これにより、電圧変動が少なくなり燃料電池FCの劣化を抑制することができつつ、燃料電池スタックの温度を適切に調整できる。
【0080】
また、温度センサTHは燃料電池FCから流出される冷却水の温度を測定する水温センサである。
【0081】
これにより、燃料電池システム1は、簡易な構成で適切に燃料電池FCの温度を検出することができる。
【0082】
なお、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0083】
<変形例1>
制御部3は、目標温度TTが上昇する場合において、温度センサTHが目標温度TT、又は、目標温度TTに対応する温度に到達するまで、冷却ファンFの回転数の変化を抑制する抑制制御を実行しているが、これに限られない。例えば、予め定められた最低駆動回転数に冷却ファンFの回転数を設定するように制御してもよい。
【0084】
<変形例2>
温度センサTHは、燃料電池FCの発熱により温められた冷媒の温度を取得しているが、エアコンプレッサACPの温度を取得してもよい。また、温度センサTHは、DCDCコンバータCNVの温度を取得してもよい。
【0085】
<変形例3>
上記実施形態の燃料電池システム1は、車両Veに搭載される外部負荷Loに電力を供給する発電機として構成しているが、燃料電池システム1を、商用電源と協働して燃料電池システム1の外部に設けられる外部負荷Loに電力を供給する定置発電機として構成してもよい。
【0086】
燃料電池システム1は水冷式の冷却ファンFにより構成しているが、空冷式の冷却ファンFにより構成してもよい。その場合、温度取得部としての温度センサTHは、燃料電池FCの内部温度を取得するセンサで、冷却ファンFは燃料電池FCに冷却風を当てるファンとするのが好ましい。燃料電池システム1を空冷式とした場合、燃料電池FCが有する熱を、冷却ファンFの送風により、燃料電池システム1の外部に放出することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 :燃料電池システム
2 :記憶部
3 :制御部
ACP :エアコンプレッサ
B :蓄電装置
CNV :DCDCコンバータ
CSB :冷却ファン回転数
CSF :冷却ファン回転数
CST :総合冷却ファン回転数
F :冷却ファン
FC :燃料電池
IE :イオン交換器
If :電流
Ifc :電流
Li :内部負荷
Lo :外部負荷
MT :実値温度
R :ラジエタ
Sif :電流センサ
Svf :電圧センサ
T :燃料タンク
TH :温度センサ
THR :放熱量目標値
TPG :発電量目標値
TT :目標温度
Vch :電圧
Ve :車両
Vfc :電圧
WP :ウォータポンプ