(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174198
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】導電性ペーストおよびそれにより形成される配線
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20231130BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20231130BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20231130BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B1/00 H
H01B1/00 L
H01B5/14 Z
H05K1/09 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086914
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(72)【発明者】
【氏名】大橋 直倫
(72)【発明者】
【氏名】大川 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】坂口 茂樹
【テーマコード(参考)】
4E351
5G301
5G307
【Fターム(参考)】
4E351BB31
4E351DD05
4E351DD06
4E351DD12
4E351DD19
4E351DD24
4E351DD29
4E351DD53
4E351EE11
4E351EE28
4E351GG09
5G301DA02
5G301DA03
5G301DA05
5G301DA10
5G301DA13
5G301DA20
5G301DA29
5G301DA42
5G301DA47
5G301DA59
5G301DD01
5G301DE01
5G307GA03
5G307GB02
5G307GC02
(57)【要約】
【課題】伸張時の抵抗変動が抑制される配線を形成できる導電性ペーストを提供する。
【解決手段】導電性ペーストは、平均直径が0.1~20μmで平均長さが平均直径の4倍以上である、金属めっきを有する繊維状フィラーと、はんだ紛と、熱硬化性樹脂とを含み、
はんだ紛の平均粒径は、繊維状フィラーの平均直径より大きく、かつ、繊維状フィラーの長さよりも小さく、また、
はんだ紛の量が、質量基準で繊維状フィラーの量に対して80~400%である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均直径が0.1~20μmで、平均長さが平均直径の4倍以上である、金属めっきを有する繊維状フィラーと、
はんだ紛と、
熱硬化性樹脂と
を含み、はんだ紛の平均粒径は、繊維状フィラーの平均直径より大きく、かつ、繊維状フィラーの平均長さよりも小さく、また、
はんだ紛の量が、質量基準で繊維状フィラーの量に対して80~400%であることを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
金属めっきは、Sn、Ag、NiおよびAuのいずれかのめっきであることを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
繊維状フィラーの母材が、炭素又は無機酸化物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
はんだ紛は、Sn、BiおよびInから選択される少なくとも1種を含み、融点が160℃以下の合金材料により構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
はんだ紛は、Sn、BiおよびInを含み、融点が120℃以下の合金材料により構成されていることを特徴とする請求項4に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
請求項1または2に記載の導電性ペーストを用いて形成されることを特徴とする導電性要素。
【請求項7】
配線または導電膜であることを特徴とする請求項6に記載の導電性要素。
【請求項8】
請求項1または2に記載の導電性ペーストを用いて形成される導電性要素および電子部品を有する実装構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸張に対して抵抗値の変動がより抑制された配線を形成する導電性ペースト、そのような導電性ペーストを用いて形成される配線、およびそのような導電性ペーストを用いて形成される、電子部品の実装構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス分野において、電子機器を衣類と一体化したり、皮膚に貼り付けたりして使用する、電子機器のウエアラブル化、即ち、ウエアラブルデバイスの研究開発が進んでいる。このようなウエアラブルデバイスには、装着する箇所が伸縮する為、柔軟性および伸縮性が要求される。従って、ウエアラブルデバイスに組み込まれるプリント基板、配線材等にも柔軟で伸縮性のある基材を素材として使用する必要性が高まっている。
【0003】
柔軟な基材には、PET、PEN、PI等の熱可塑性フィルム、伸縮性を有するウレタンフィルム等を使用する例が報告されている。このような基材に配線、電極等を形成するには、導電性ペーストを印刷して形成する方法が多く用いられている。その場合、例えばスクリーン印刷によって導電性ペーストを基材に供給した後、乾燥させて配線等を形成できる。
【0004】
伸縮性を有する電子機器における配線を形成する為に、導電性ペーストに含まれる導電性材料としては、鱗片状の金属フィラー、カーボンナノチューブ等の導電性を有し、かつ高アスペクト比を有するフィラーを用いる例が報告されている(例えば下記特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許第6673322号公報
【特許文献2】国際公開WO2009/102077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鱗片状の金属フィラーを含む導電性ペーストを用いる場合、導電性が高い金属(例えば105S/cm)を含むので低抵抗の配線を形成できる。他方、元の抵抗値と比較した場合、配線の伸張時に抵抗値が大きく増加する。即ち、抵抗値の変動が大きい。例えば、線幅0.3mm程度の細線では、配線長さを20%程度伸張させると、断線が発生する場合もある。
【0007】
カーボンナノチューブを含む導電性ペーストで形成した配線では、20%程度伸張させても抵抗値変動率としては20%以内に留まり抵抗値が安定している。他方、カーボンナノチューブ自体の導電性が103~4S/cmと金属に比べると低い。従って、幅広い用途でそのような導電性ペーストを用いて配線を形成するためには、形成する配線の導電性の向上が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の状況に鑑みると、金属を使用した導体により近い導電性を有し、また、20%程度の伸張時でも抵抗値の変動がより小さい配線を形成できる導電性ペーストを提供することが望ましい。
【0009】
第1の要旨において、本発明は、(1)平均直径が0.1~20μmの金属めっきした繊維状フィラー、(2)はんだ粉および(3)熱硬化性樹脂を含む導電性ペーストであって、
繊維状フィラーの平均長さは、その平均直径に対して4倍以上であり、
はんだ紛の平均粒径は、繊維状フィラーの平均直径より大きく、かつ繊維状フィラーの平均長さより小さく、
繊維状フィラーの質量に対するはんだ紛の質量は80~400%である
ことを特徴とする導電性ペーストを提供する。
【0010】
1つの態様において、本発明の導電性ペーストの繊維状フィラーの金属めっきは、Sn、Ag、NiおよびAuのいずれかのめっきであることを特徴とする。
【0011】
1つの態様において、本発明の導電性ペーストの繊維状フィラーの母材(即ち、金属めっき前の繊維状の基材)は、炭素または無機酸化物で形成されていることを特徴とする。
【0012】
1つの態様において、本発明の導電性ペーストのはんだ紛は、Sn、Bi及びInの少なくとも1つを含み、融点が160℃以下、より好ましくは120℃以下のはんだ合金材料でできていることを特徴とする。
【0013】
第2の要旨において、本発明は、本発明の導電性ペーストを用いて形成される導電性要素、具体的には配線、導電膜、電極等、例えば膜形態の配線を提供する。
【0014】
第3の要旨において、本発明は、基材上に本発明の導電性ペーストを用いて形成される導電性要素および/または必要に応じて載置された電子部品を有する実装構造体、例えば印刷回路基板を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性ペーストを用いて形成される配線は、金属を使用した導体により近い導電性を有し、また、配線を伸張しても、例えばその長さの20%程度伸張しても抵抗値の変動が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例および比較例の条件および結果を示す表1である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の導電性ペーストの実施の形態について、より詳細に説明するが、本発明は、そのような形態に限定されるものではない。上述のように、本発明の導電性ペーストは、(1)繊維状フィラーと、(2)はんだ紛と、(3)熱硬化性樹脂とを必須成分として含むが、これらの必須成分に加えて、必要に応じて他の成分を含んでよい。
【0018】
尚、本明細書において、「繊維状」なる用語は、細長い形態であることを意味し、また、「フィラー」なる用語は、導電性ペーストに混ぜ込む細かい材料であることを意味する。本発明の導電性ペーストにおいて、繊維状フィラーは、実質的に細長い円柱状形態を有すると見なすことができ、実質的に円柱状形態であるということに基づいて、繊維状フィラーに関して用語「直径」および「長さ」を使用し、これらは、円柱の「底面の直径」および「円柱の高さ」にそれぞれ対応する。
【0019】
尚、繊維状フィラーの「平均長さ」は、円柱の高さに対応する長さの数基準の平均値を意味し、具体的にはSEM等の電子顕微鏡等によって測定できる数値であり、繊維状フィラーの「平均直径」は、円柱の直径の数基準の平均値を意味し、具体的にはSEM等の電子顕微鏡等によって測定できる数値である。より具体的には、電子顕微鏡で得られる繊維状フィラーの画像(細長い形状)は繊維状フィラーを平面視した形状であり、その形状の長さと幅が繊維状フィラーの長さと直径にそれぞれ対応すると考える。従って、繊維状フィラーの画像の長さおよび幅を測定して、繊維状フィラーの長さおよび直径とする。尚、「平均長さ」および「平均直径」は、電子顕微鏡による繊維状フィラーの画像をランダムに選択した10本の繊維状フィラーについての測定値の数基準の平均値である。
【0020】
本発明の導電性ペーストの1つの形態において、繊維状フィラーは、平均直径が好ましくは0.1~20μmの範囲、より好ましくは0.3~15μmの範囲、例えば5~12μmの範囲である。繊維状フィラーの平均直径に対する平均長さは、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上であり、また、好ましくは40倍以下、より好ましくは20倍以下、例えば15倍以下である。
【0021】
上述の繊維状フィラーの平均直径に対する平均長さの割合(即ち、平均長さ/平均直径)は、繊維状フィラーのアスペクト比に相当すると考えることができる。従って、繊維状フィラーは、アスペクト比が好ましくは3以上、より好ましくは4以上、好ましくは40倍以下、より好ましくは20倍以下、例えば15倍以下の形状を有する。
【0022】
このような平均直径およびアスペクト比を有する形状であれば、導電性ペーストはスクリーン印刷、ディスペンス等の転写、塗布性に優れ、また、形成される配線の伸張時の抵抗値変動を抑制できる。より詳しくは、アスペクト比が上述の値を上回る繊維状フィラーを用いる場合には、スクリーン印刷、ディスペンス等の転写、塗布性等に問題が生じ得、逆に、アスペクト比が上述の値を下回る繊維状フィラーを用いる場合には、形成された配線が伸張された場合には、フィラー同士の接点の維持が相対的に困難になり得る。
【0023】
繊維状フィラーを構成する芯材としての繊維状母材の材料は、金属めっきが可能である限り、特に限定されるものではない。例えば、絶縁性材料であっても、あるいは半導電性材料であってよい。繊維状母材として好ましいのは、炭素、無機酸化物(具体的にはアルミナ、酸化チタン、チタン酸カリウム等)の繊維である。この母材に、金属めっきを施すことによって、繊維状母材は導電性を有する繊維状フィラーとなる。
【0024】
繊維状母材の形態は、金属めっきによって導電性を確保できる限り、特に限定されるものではない。例えば、モノフィラメントの形態であっても、マルチフィラメントの形態であってもよいが、モノフィラメントの形態が特に好ましい。
【0025】
本発明の導電性ペーストの1つの形態において、金属めっきの金属種としては、例えばSn、Ag、Ni及びAu等を例示でき、特に好ましいのはAgである。めっき方法は特に限定はされるものではないが、無電解めっき浴を用いて繊維状母材に金属を析出させる方法、いわゆる無電解めっき法が好ましい。めっき量としては、特に限定はされるものではないが、母材の質量に対して、好ましくは1.5~10倍の質量、より好ましくは約1.7~5倍、例えば約2~3.5倍の質量の金属を母材に析出させるように実施する。上述のような範囲を越えてめっき量が多くすると、めっき処理時に繊維状フィラーが凝集する場合があるという問題が生じ得、逆に少な過ぎると、導電性が低下するという問題が生じ得る。
【0026】
また、繊維状フィラーの金属めっきは、その厚さが可及的に均一となるように実施するのが好ましく、めっき厚さは、好ましくは0.2μm~5μm、より好ましくは0.5μm~4μm、例えば1μm~4μm程度であってよい。繊維状フィラーの金属めっきの厚さが過度に小さい場合、導電性が低下するという問題が起こり得、また、過度に大きい場合、めっき処理時に多くの金属を使用する必要があるために繊維状フィラーが凝集する可能性があるという問題が生じ得る。
【0027】
本発明の導電性ペーストの1つの形態において、はんだ粉は、導電性ペーストを用いて配線を形成するに際して、適用された導電性ペーストが加熱される環境温度において溶融するのが好ましい。導電性ペーストを用いる配線の形成は、例えばスクリーン印刷によって形成すべき導電性回路に対応するように導電性ペーストを基板に印刷し、必要に応じて電子部品を基板に載置した後に、基板をリフロー炉にて加熱して電子部品を実装すると共に配線を形成することによって実施する。従って、はんだ粉は、リフロー炉における加熱によって溶融するのが好ましいので、はんだ粉の融点は、リフロー炉における加熱温度以下の温度、好ましくは加熱温度より20℃低い温度以下であり、より好ましくは加熱温度より30℃低い温度以下であり、更に好ましくは加熱温度より50℃低い温度以下である。
【0028】
リフロー炉における加熱温度は一般的には250℃以下である場合が多いので、はんだ粉の融点は、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、特に好ましくは160℃以下、例えば120℃以下であってよい。具体的には、はんだ粉を構成するはんだ合金としては、Sn-Bi系、Sn-In系、Sn-Bi-In系、Bi-In系、Sn-Ag系、Sn-Ag-Cu系、Sn-Ag-In系、Sn-Cu-In系、Sn-Ag-Cu-In系およびSn-Ag-Cu-Bi-In系のはんだ材料からなる群から選ばれる少なくとも1種のはんだ材料を例示できる。これらのはんだ材料は、少なくとも2種を組み合わせてはんだ粉を構成してもよい。
【0029】
1つの態様では、はんだ粉を構成するはんだ材料は、融点が160℃以下であり、例えば、Sn、Bi及びInの少なくとも1つを含み、具体的には、Sn-Bi系、Sn-Bi-In系、Bi-In系のはんだ材料を例示できる。
【0030】
別の態様では、はんだ粉を構成するはんだ材料は、融点が120℃以下であり、例えば、Sn、BiおよびInを含むはんだ材料を例示できる。尚、本明細書において用いる「融点」なる用語は、はんだ紛が液体化する温度を意味し、例えば示差走査熱量計(DSC)装置を使用して測定でき、通常、はんだ粉の製造者が提供する融点の情報を使用して差し支えない。
【0031】
本発明の導電性ペーストにおいて、はんだ粉の平均粒径は、繊維状フィラーの平均直径より大きく、繊維状フィラーの平均長さより小さい。はんだ粉の平均粒径が繊維状フィラーの平均直径がより小さい場合、はんだによる繊維間の導通が困難になるという問題が生じ得、また、繊維状フィラーの平均長さより大きい場合、はんだ同士の濡れ拡がりが生じやすく、繊維間の導通が困難になるという問題が生じ得る。
【0032】
尚、本明細書において使用するはんだ粉の平均粒径とは、体積基準の平均粒径を意味し、レーザー回折法によって測定される粒子径を意味する。
【0033】
本発明の導電性ペーストにおいて、熱硬化性樹脂は、導電性ペーストが、加熱されることによって、例えばリフロー炉のような環境下で加熱されることによって、硬化して硬化物をもたらす樹脂であり、硬化物は柔軟性(例えばゴムのような柔軟性)を有するのが好ましい。一般的に、熱硬化性樹脂は主剤および硬化剤を含み、加熱下、これらが反応することによって柔軟性を有する硬化物としての樹脂を生成する。例えば、ウレタン系ゴム、シリコーン系ゴムまたはフッ素系ゴムのような硬化物としての樹脂をもたらすものを熱硬化性樹脂として例示できる。特に好ましい熱硬化性樹脂は、主剤としてのポリオールと硬化剤としてのイソシアネート(例えばブロックイソシアネート)を含み、これらが、加熱下、硬化してウレタン系ゴム状物として硬化物が生成する。熱硬化性樹脂は、必要に応じて他の成分、例えば硬化促進剤、溶剤、シランカップリング剤等を含んでよい。
主剤と硬化剤を合わせた熱硬化性樹脂の質量は、繊維状フィラーとはんだ紛を合わせた導電性フィラーの質量に対し、15~80%、より好ましくは20~60%である。熱硬化性樹脂の質量がこの範囲より多くなると、導電性が悪化するという問題が生じ、樹脂の質量がこの範囲より少なくなると、伸張時の抵抗値変動が大きくなるという問題が生じる。
【0034】
本発明の導電性ペーストの1つの形態において、本発明の導電性ペーストは、必要に応じて他の成分を含んでよい。例えば、加熱温度にて酸化膜(例えば、はんだ粉、電極等の表面の酸化膜)を除去する活性剤として、還元力を有する有機酸、アミンのハロゲン塩、アミン有機酸塩等を含んでよい。
【0035】
本発明の導電性ペーストは、1つの形態において、無機系または有機系のチクソ性付与添加剤を更に含んでよい。例えば、無機系のものであれば、シリカ、アルミナ等を含んでよく、有機系のものであれば固形のエポキシ樹脂、低分子量アマイド、ポリエステル、ヒマシ油の有機誘導体、有機溶剤等を含んでよい。これらは、単独で含んでも、あるいは2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0036】
尚、本発明の導電性ペーストは、それを構成する上述の成分を所定量混合することによって調製できる。混合方法は、これらの成分を実質的に均一に混合できる限り、特に限定されるものではない。
【0037】
本発明の配線は、本発明の導電性ペーストを所定の基材(例えば絶縁基板)に、例えばスクリーン印刷によって、所定のように適用し、基材を加熱して(例えばリフロー炉にて加熱して)はんだ粉を溶融させると共に、硬化性樹脂を硬化させることによって形成できる。
【0038】
本発明の実装構造体は、上述のように導電性ペーストを所定の基材に、例えばスクリーン印刷によって、適用した後、必要な電子部品を基材および/または適用した導電性ペーストの一部上に所定のように配置し、その後、基材を加熱して(例えばリフロー炉にて加熱して)、はんだ粉を溶融させると共に、硬化性樹脂を硬化させることによって形成できる。
【実施例0039】
(実施例1)
下記の要領で本発明の導電性ペーストを調製し、それを用いて配線を形成した後に初期抵抗値を測定した。その後、形成した配線を20%伸張してその時の抵抗値を測定した。測定した初期抵抗値および20%伸張時抵抗値を用いて抵抗値変動率を算出して形成した配線を評価した。
【0040】
実施例1において、以下の原材料を用いた:
繊維状フィラーの繊維状母材:炭素繊維(日本ポリマー産業製、CFMP-30X)
平均直径:7μm、SEMにより測定
平均長さ:40μm、SEMにより測定
尚、後述のように金属めっきした後の平均直径および平均長さも同様に測定した。
【0041】
この炭素繊維に無電解めっき浴を用いて母材の表面にAgを析出させて繊維状フィラーを得た。繊維状フィラーを洗浄・乾燥したところ、繊維状フィラーの平均径は9μm、平均直径は41μmであり、Agのめっき量は炭素繊維の質量に対して2倍であった。このめっき量は、めっき処理前後の重量変化により求めた。
【0042】
はんだ紛として、合金組成が25Sn―55Bi―20In(三井金属製、DSCで測定時の融点が96℃)であり、平均粒径(体積平均)が20~30μmのものを用いた。
【0043】
熱硬化性樹脂として、ポリオール系樹脂(株式会社クラレ製、P-520)およびイソシアネート(旭化成製、デュラネートMF-K60B)を用いた(硬化温度120℃)。
【0044】
はんだ粉の酸化膜除去のための活性剤として、レブリン酸及びグルタル酸を用いた。
【0045】
ポリオールとイソシアネートの混合物130質量部に、レブリン酸を2重量部質量部、グルタル酸を2質量部添加し、プラネタリミキサで10分間混練して混合物を得た。この混合物に、繊維状フィラー100重量部およびはんだ粉130質量部を添加し、プラネタリミキサで更に30分間混練して本発明の導電性ペーストを調製した。
【0046】
次に、調製した導電性ペーストを用いて配線を形成し、伸張時の抵抗値変動の評価を以下の要領で行った。
【0047】
1mm幅、長さ30mmの開口を有し、厚みが30μmのメタル版を用いたスクリーン印刷により、調製した導電性ペーストを基材としてのウレタンシート(厚さ0.1mm)に転写した。転写後、基材を120℃で10分間加熱して熱硬化性樹脂を硬化させて配線としての導電性要素を得た。
【0048】
硬化後の配線の20mmの距離の抵抗値(即ち、初期抵抗値R0)およびウレタンシートを20%伸張した状態での24mmの距離の抵抗値(即ち、伸張時抵抗値R20)を測定した。これらの測定した抵抗値に基づいて、20%伸長時抵抗値と初期抵抗値との差の初期抵抗値に対する割合(即ち、(R20-R0)/R0)を抵抗値変動率(%)として算出した。
【0049】
評価は、抵抗値変動率が50%以下であれば合格「〇」、50%を越えると不合格「×」とした。実施例1の導電性ペーストを用いた配線では、初期抵抗値R0が5.2Ωであり、20%伸張時抵抗値R20が6.7Ωであり、抵抗値変動率が29%となり、合格「〇」の評価となった。
【0050】
(実施例2~9および比較例1~3)
実施例1と同様に、実施例2~9及び比較例1~3の導電性ペーストを調製して、配線を形成し、初期抵抗値および20%伸長時の抵抗値を求め、抵抗値変動率を算出して、これらの導電性ペーストを評価した。但し、以下の原材料を用いた。尚、実施例2~9及び比較例1~3の導電性ペーストにおいて、主剤と硬化剤を合わせた熱硬化性樹脂の重量は、実施例1の熱硬化性樹脂と繊維状フィラーとはんだ紛を合わせた導電性フィラーの重量比と同じになるように配合した。
【0051】
実施例2~4ならびに比較例1、2、4および5においては実施例1と同じ炭素繊維を繊維状フィラーの母材として用いた。比較例3においては、繊維状フィラーの母材は、黒鉛フィラー(日本黒鉛製、品番:特CP)であり、めっき前の平均長さが15μm、アスペクト比が2.5であった。実施例5~8で使用した繊維状フィラーの母材は、炭素繊維(日本ポリマー産業製、CFMP-150RE)であり、平均直径が7μm(めっき後、9μm)、平均長さが100μm(めっき後、101μm)であった。実施例9で使用した繊維状フィラーの母材は、炭素素繊維(昭和電工製、VGCF-H)であり、平均直径が0.1μm(めっき後、0.8μm)、平均長さが8μm(めっき後、9μm)であった。
【0052】
また、比較例4おいて、はんだ紛として、合金組成が25Sn―55Bi―20In(三井金属製、DSCで測定時の融点が96℃)であり、平均粒径(体積平均)が45μmのものを用いた。比較例5おいて、はんだ紛として、合金組成が25Sn―55Bi―20In(三井金属製、DSCで測定時の融点が96℃)であり、平均粒径(体積平均)が6μmのものを用いた。
【0053】
無電解めっきによるAgのめっき量は、いずれの場合も、実施例1と同様に、炭素繊維の質量に対して2倍であった。繊維状フィラーに対するはんだ粉の割合を質量基準で
図1の表1に示す。
【0054】
実施例2~8および比較例1~3の導電性ペーストについても、評価結果を繊維状フィラーの平均直径および平均長さ、はんだ粉の平均粒径、はんだ粉/繊維状フィラーの質量比、形成した配線の初期抵抗値ならびに抵抗値変動率と併せて添付の
図1の表1に示す。
【0055】
実施例1~8の結果と比較例1および2の結果とを比較すると、質量基準で繊維状フィラーに対してはんだ紛を50%含有する場合(比較例1)、および430%含有する場合(比較襟2)には抵抗値変動率が大きくなり過ぎたことを考慮すると、質量基準ではんだ紛を繊維状フィラーに対して80~400%含有することで、抵抗値変動率が50%以下となり、変動率が抑制されることが分かる。
【0056】
これは、はんだ紛が120℃の加熱下において溶融し、繊維状フィラーのAgめっき部に濡れ拡がることで、繊維状フィラー同士がはんだを介して導通し、それにより配線の伸張時であっても繊維状フィラーの接点が維持される効果によるものと思われる。質量基準ではんだ紛の量が、繊維状フィラーの量に対して80%より少ない場合は、繊維状フィラー間のはんだ紛による接点が少ない為、そのような効果が不十分となり、他方、はんだ紛の量が、繊維状フィラーの質量に対して400%を越える場合は、溶融したはんだ粉同士が一体化する割合が大きくなって繊維状フィラー間の接点が少なくなった為であると考えられる。
【0057】
実施例2および実施例6の結果と比較例3の結果とを考慮すると、繊維状フィラーの平均長さが平均直径に対して4倍以上である場合に、抵抗値変動率が50%以下となり、変動率が抑制されている。これは、繊維状フィラーの平均直径に対する平均長さであるアスペクト比が大きいことによって、各繊維状フィラーが有する、他の繊維状フィラーとの接点数が多いので、伸張された場合であっても維持される接点数が多く残ることによる為であると考えられる。
【0058】
実施例2および6の結果と比較例4および5の結果とを比較すると、はんだ紛の平均粒径が、繊維状フィラーの平均直径より大きく、かつ繊維状フィラーの平均長さよりも小さい場合に抵抗値変動率が50%以下となり、抵抗値変動率が抑制されている。これは、繊維状フィラー同士を繋ぐはんだ紛の適切な平均粒径があり、繊維状フィラーの平均直径よりもはんだ紛の平均粒径が小さい場合(比較例5)では、溶融はんだが繊維状フィラー同士を繋ぎにくく、他方、繊維状フィラーの平均長さよりもはんだ紛の平均粒径が大きい場合(比較例4)では、はんだ同士で濡れ拡がって一体化する割合が高くなり、繊維状フィラー間の接点が少なくなった為であると考えられる。
本発明の導電性ペーストは、伸張時でも抵抗値の変動が少ない配線、導電膜等を形成でき、ウエアラブルデバイス等の伸縮、屈曲時でも電気的導通性の維持が要求される、形状が柔軟なデバイス、電子機器等用いられる配線の形成に利用できる。