(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174231
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】センサモジュール、センサモジュールにおける補正方法、およびセンサモジュールを備える表示装置。
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20231130BHJP
G06F 3/044 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G06F3/041 422
G06F3/044 124
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086974
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】柿木 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕史
(57)【要約】
【課題】近接する入力手段の位置を正確に特定することが可能なセンサモジュールを提供すること。
【解決手段】センサモジュールは、複数のセンサ電極、複数のセンサ配線、複数の補助電極、および駆動回路を備える。複数のセンサ電極は、第1行から第m行と第1列から第n列を有するマトリクス状に配置される。複数のセンサ配線は、複数のセンサ電極にそれぞれ接続される。複数の補助電極は、複数のセンサ電極にそれぞれ接続され、複数のセンサ配線が複数のセンサ電極から延伸する方向に対して逆方向に複数のセンサ電極から延伸する。駆動回路は、複数のセンサ配線に接続され、複数のセンサ電極の電位変動に基づいて複数のセンサ電極のセンサ値を取得するように構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力手段の位置を特定するように構成されるセンサモジュールであり、前記センサモジュールは、
第1行から第m行と第1列から第n列を有するマトリクス状に配置された複数のセンサ電極、
前記複数のセンサ電極にそれぞれ接続される複数のセンサ配線、
前記複数のセンサ電極にそれぞれ接続され、前記複数のセンサ配線が前記複数のセンサ電極から延伸する方向に対して逆方向に前記複数のセンサ電極から延伸する複数の補助電極、および
前記複数のセンサ配線に接続され、前記複数のセンサ電極の電位変動に基づいて前記複数のセンサ電極のセンサ値を取得するように構成される駆動回路を備え、
隣接する二つの列の一方に配置される前記複数のセンサ電極に接続される前記複数のセンサ配線の少なくとも一部と、他方の列に配置される前記複数のセンサ電極に接続される前記複数の補助配線の少なくとも一部は、前記二つの列の間に配置され、
前記駆動回路は、
前記センサ値を利用して前記入力手段の前記位置を特定し、かつ、
前記入力手段の前記位置を特定する際、前記入力手段と前記複数のセンサ配線の一部によって形成される静電容量の影響、および前記入力手段と前記複数の補助配線の一部によって形成される静電容量の影響のうち少なくとも一方を排除するための補正処理を実行するように構成され、
前記mと前記nは、それぞれ独立に、3以上の自然数から選択される定数である、センサモジュール。
【請求項2】
前記補正処理は、第1の補正処理と第2の補正処理を含み、
前記駆動回路は、
最大センサ値を示す前記センサ電極をピーク電極として特定し、
前記最大センサ値が第1の閾値を超えるか否かを判断し、および
前記最大センサ値が前記第1の閾値を超える場合に前記第1の補正処理と前記第2の補正処理の少なくとも一方を実行し、前記最大センサ値が前記第1の閾値以下である場合に前記第1の補正処理と前記第2の補正処理のいずれも実行しないように構成される、請求項1に記載のセンサモジュール。
【請求項3】
前記第1の閾値は、前記センサ値の飽和値の50%以上100%以下の範囲から選択される、請求項2に記載のセンサモジュール。
【請求項4】
前記ピーク電極が前記第1行から前記第m行の中から選択される第i行に位置し、かつ、前記第2列から前記第n列の中から選択される第j列に位置する場合、前記駆動回路は、
第i行第(j-1)列の前記センサ電極の前記センサ値が第2の閾値を超えるか否かを判断すること、
前記第i行第(j-1)列の前記センサ電極の前記センサ値が前記第2の閾値以下であると判断した場合には前記第1の補正処理を実行せず、前記第i行第(j-1)列の前記センサ電極の前記センサ値が前記第2の閾値を超えていると判断した場合には前記第1の補正処理を実行するように構成され、
前記第1の補正処理は、
第(i+1)行第(j-1)列から第m行第(j-1)列の前記センサ電極と第1行第j列から第(i-1)行第j列の前記センサ電極のうち、実在する前記センサ電極の前記センサ値から最小センサ値を選択すること、
前記最小センサ値を示す前記センサ電極が前記第j列にある場合、前記最小センサ値から、前記最小センサ値を示す前記センサ電極と同一行第(j-1)列の前記センサ電極の前記センサ値を減じることで得られる値を配線増分として算出すること、
前記最小センサ値を示す前記センサ電極が前記第(j-1)列にある場合、前記最小センサ値から、前記最小センサ値を示す前記センサ電極と同一行第j列の前記センサ電極の前記センサ値を減じることで得られる値を前記配線増分として算出すること、
前記配線増分が正の場合、前記第(i+1)行第(j-1)列から前記第m行第(j-1)列の前記センサ電極と前記第1行第j列から前記第(i-1)行第j列の前記センサ電極のうち、実在する前記センサ電極の前記センサ値に対し、前記配線増分を減じる補正を実行すること、
前記配線増分が0以下の場合、前記複数のセンサ電極の前記センサ値のいずれに対しても補正を実行しないことを含み、
前記iは、1以上前記m以下の自然数から選択される変数であり、
前記jは、1以上前記n以下の自然数から選択される変数である、請求項2に記載のセンサモジュール。
【請求項5】
前記第2の閾値は、前記ピーク電極の前記センサ値の50%以上100%未満の範囲から選択される、請求項4に記載のセンサモジュール。
【請求項6】
前記ピーク電極が前記第1行から前記第m行の中から選択される第i行に位置し、かつ、前記第1列に位置する場合、前記駆動回路は、
iが第1の行閾値を超えるか否かを判断し、
前記iが前記第1の行閾値以下であると判断した場合には前記第1の補正処理を実行せず、前記iが前記第1の行閾値を超えていると判断した場合には前記第1の補正処理を実行するように構成され、
前記第1の補正処理は、
第1行第1列の前記センサ電極の前記センサ値から第1行第2列の前記センサ電極の前記センサ値を減じることで得られる値を配線増分として算出すること、
前記配線増分が正の場合、第1行第1列から第(i-1)行第1列の前記センサ電極の前記センサ値に対し、前記配線増分を減じる補正を実行すること、
前記配線増分が0以下の場合、前記複数のセンサ電極の前記センサ値のいずれに対しても補正を実行しないことを含み、
前記iは、1以上前記m以下の自然数から選択される変数であり、
前記jは、1以上前記n以下の自然数から選択される変数である、請求項2に記載のセンサモジュール。
【請求項7】
前記第1の行閾値は、前記mの50%以上80%以下の範囲から選択される、請求項6に記載のセンサモジュール。
【請求項8】
前記ピーク電極が前記第1行から前記第m行の中から選択される第i行に位置し、かつ、前記第1列から前記第(n-1)列の中から選択される第j列に位置する場合、前記駆動回路は、
第i行第(j+1)列の前記センサ電極の前記センサ値が第2の閾値を超えるか否かを判断し、
前記第i行第(j+1)列の前記センサ電極の前記センサ値が前記第2の閾値以下であると判断した場合には前記第2の補正処理を実行せず、前記第i行第(j+1)列の前記センサ電極の前記センサ値が前記第2の閾値を超えていると判断した場合には前記第2の補正処理を実行するように構成され、
前記第2の補正処理は、
第(i+1)行第j列から第m行第j列の前記センサ電極と第1行第(j+1)列から第(i-1)行第(j+1)列の前記センサ電極のうち、実在する前記センサ電極の前記センサ値から最小センサ値を選択すること、
前記最小センサ値を示す前記センサ電極が前記第(j+1)列にある場合、前記最小センサ値から、前記最小センサ値を示す前記センサ電極と同一行第j列の前記センサ電極の前記センサ値を減じることで得られる値を配線増分として算出すること、
前記最小センサ値を示す前記センサ電極が前記第j列にある場合、前記最小センサ値から、前記最小センサ値を示す前記センサ電極と同一行第(j+1)列の前記センサ電極の前記センサ値を減じることで得られる値を前記配線増分として算出すること、
前記配線増分が正の場合、前記第1行第(j+1)列から前記第(i-1)行第(j+1)列の前記センサ電極と前記第(i+1)行第j列から前記第m行第j列の前記センサ電極のうち、実在する前記センサ電極の前記センサ値に対し、前記配線増分を減じる補正を実行すること、
前記配線増分が0以下の場合、前記複数のセンサ電極のいずれの前記センサ値に対しても補正を実行しないことを含み、
前記iは、1以上前記m以下の自然数から選択される変数であり、
前記jは、1以上前記n以下の自然数から選択される変数である、請求項2に記載のセンサモジュール。
【請求項9】
前記第2の閾値は、前記ピーク電極の前記センサ値の50%以上100%未満の範囲から選択される、請求項8に記載のセンサモジュール。
【請求項10】
前記ピーク電極が前記第1行から前記第m行の中から選択される第i行に位置し、かつ、前記第n列に位置する場合、前記駆動回路は、
iが第2の行閾値を超えるか否かを判断し、
前記iが前記第2の行閾値を超えていると判断した場合には前記第2の補正処理を実行せず、前記iが前記第2の行閾値以下であると判断した場合には前記第2の補正処理を実行するように構成され、
前記第2の補正処理は、
第m行第n列の前記センサ電極の前記センサ値から第m行第(n-1)列の前記センサ電極の前記センサ値を減じることで得られる値を配線増分として算出すること、
前記配線増分が正の場合、第(i+1)行第n列から前記第m行第n列の前記センサ電極の前記センサ値に対し、前記配線増分を減じる補正を実行すること、
前記配線増分が0以下の場合、前記複数のセンサ電極の前記センサ値のいずれに対しても補正を実行しないことを含み、
前記iは、1以上前記m以下の自然数から選択される変数であり、
前記jは、1以上前記n以下の自然数から選択される変数である、請求項2に記載のセンサモジュール。
【請求項11】
前記第2の行閾値は、前記mの20%以上50%以下の範囲から選択される、請求項10に記載のセンサモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、センサモジュール、およびセンサモジュールを備える表示装置に関する。例えば、本発明の実施形態の一つは、非接触式センサモジュール、および非接触式センサモジュールを備える表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報端末に情報を入力するためのインターフェースの一つとして、静電容量式のセンサモジュールが広く用いられている。センサモジュールでは、マトリクス状に配列された複数のセンサ電極に入力手段が近接すると、センサ電極と入力手段の間、およびセンサ電極に接続される配線と入力手段の間に仮想的な容量素子が形成され、その結果、センサ電極の電位が変動する。後者の容量素子に起因するセンサ電極の電位変動を適切に排除することで、入力位置を正確に特定することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、新しい構造を有するセンサモジュール、および当該センサモジュールを備える表示装置を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、近接する入力手段の位置を正確に特定することが可能なセンサモジュール、および当該センサモジュールを備える表示装置を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、入力手段の位置を特定するように構成されるセンサモジュールである。このセンサモジュールは、複数のセンサ電極、複数のセンサ配線、複数の補助電極、および駆動回路を備える。複数のセンサ電極は、第1行から第m行と第1列から第n列を有するマトリクス状に配置される。複数のセンサ配線は、複数のセンサ電極にそれぞれ接続される。複数の補助電極は、複数のセンサ電極にそれぞれ接続され、複数のセンサ配線が複数のセンサ電極から延伸する方向に対して逆方向に複数のセンサ電極から延伸する。駆動回路は、複数のセンサ配線に接続され、複数のセンサ電極の電位変動に基づいて複数のセンサ電極のセンサ値を取得するように構成される。隣接する二つの列の一方に配置される複数のセンサ電極に接続される複数のセンサ配線の少なくとも一部と、他方の列に配置される複数のセンサ電極に接続される複数の補助配線の少なくとも一部は、二つの列の間に配置される。駆動回路は、センサ値を利用して入力手段の位置を特定し、かつ、入力手段の位置を特定する際、入力手段と複数のセンサ配線の一部によって形成される静電容量の影響、および入力手段と複数の補助配線の一部によって形成される静電容量の影響の少なくとも一方を排除するための補正処理を実行するように構成される。mとnは、それぞれ独立に、3以上の自然数から選択される定数である。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、表示装置である。この表示装置は、複数の画素を有するアレイ基板を含む表示モジュール、および表示モジュール上のセンサモジュールを備える。センサモジュールは、複数のセンサ電極、複数のセンサ配線、複数の補助電極、および駆動回路を備える。複数のセンサ電極は、第1行から第m行と第1列から第n列を有するマトリクス状に配置される。複数のセンサ配線は、複数のセンサ電極にそれぞれ接続される。複数の補助電極は、複数のセンサ電極にそれぞれ接続され、複数のセンサ配線が複数のセンサ電極から延伸する方向に対して逆方向に複数のセンサ電極から延伸する。駆動回路は、複数のセンサ配線に接続され、複数のセンサ電極の電位変動に基づいて複数のセンサ電極のセンサ値を取得するように構成される。隣接する二つの列の一方に配置される複数のセンサ電極に接続される複数のセンサ配線の少なくとも一部と、他方の列に配置される複数のセンサ電極に接続される複数の補助配線の少なくとも一部は、二つの列の間に配置される。駆動回路は、センサ値を利用して入力手段の位置を特定し、かつ、入力手段の位置を特定する際、入力手段と複数のセンサ配線の一部によって形成される静電容量の影響、および入力手段と複数の補助配線の一部によって形成される静電容量の影響の少なくとも一方を排除するための補正処理を実行するように構成される。mとnは、それぞれ独立に、3以上の自然数から選択される定数である。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、センサモジュールの補正方法である。センサモジュールは、複数のセンサ電極、複数のセンサ配線、複数の補助電極、および駆動回路を備える。複数のセンサ電極は、第1行から第m行と第1列から第n列を有するマトリクス状に配置される。複数のセンサ配線は、複数のセンサ電極にそれぞれ接続される。複数の補助電極は、複数のセンサ電極にそれぞれ接続され、複数のセンサ配線が複数のセンサ電極から延伸する方向に対して逆方向に複数のセンサ電極から延伸する。駆動回路は、複数のセンサ配線に接続され、複数のセンサ電極の電位変動に基づいて複数のセンサ電極のセンサ値を取得し、センサ値を利用してセンサモジュールに対する入力手段の位置を特定するように構成される。隣接する二つの列の一方に配置される複数のセンサ電極に接続される複数のセンサ配線の少なくとも一部と、他方の列に配置される複数のセンサ電極に接続される複数の補助配線の少なくとも一部は、二つの列の間に配置される。この補正方法は、駆動回路が入力手段の位置を特定する際、入力手段と複数のセンサ配線の一部によって形成される静電容量の影響、および入力手段と複数の補助配線の一部によって形成される静電容量の影響の少なくとも一方を排除することを含む。mとnは、それぞれ独立に、3以上の自然数から選択される定数である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る表示装置の模式的展開斜視図。
【
図2】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの模式的上面図。
【
図3】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの模式的上面図。
【
図4】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの模式的端面図。
【
図5】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの模式的端面図。
【
図6】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの模式的端面図。
【
図7】本発明の実施形態に係るセンサモジュールのセンサ電極の配置を説明する模式図。
【
図8】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの動作を説明する模式的上面図。
【
図9】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの動作を説明する模式的上面図。
【
図10】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの動作を説明する模式的上面図。
【
図11A】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの動作を説明する模式的上面図。
【
図11B】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの動作を説明する模式的上面図。
【
図12】本発明の実施形態に係る、センサモジュールの補正方法の一例を示すフローチャート。
【
図13】本発明の実施形態に係る、センサモジュールの補正方法の一例を示すフローチャート。
【
図14】本発明の実施形態に係る、センサモジュールの補正方法の一例を示すフローチャート。
【
図15】本発明の実施形態に係る、センサモジュールの補正方法を説明する模式的上面図。
【
図16】本発明の実施形態に係る、センサモジュールの補正方法を説明する模式的上面図。
【
図17】本発明の実施形態に係る、センサモジュールの補正方法を説明する模式的上面図。
【
図18】本発明の実施形態に係る、センサモジュールの補正方法を説明する模式的上面図。
【
図19】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの模式的上面図。
【
図20】本発明の実施形態に係るセンサモジュールの模式的上面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0010】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。同一、あるいは類似する複数の構造を総じて表す際にはこの符号が用いられ、これらを個々に表す際には符号の後にハイフンと自然数が加えられる。
【0011】
本明細書および請求項において、ある構造体の上に他の構造体を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある構造体に接するように、直上に他の構造体を配置する場合と、ある構造体の上方に、さらに別の構造体を介して他の構造体を配置する場合との両方を含むものとする。
【0012】
本明細書および請求項において、「ある構造体が他の構造体から露出する」という表現は、ある構造体の一部が他の構造体によって覆われていない態様を意味し、この他の構造体によって覆われていない部分は、さらに別の構造体によって覆われる態様も含む。また、この表現で表される態様は、ある構造体が他の構造体と接していない態様も含む。
【0013】
本発明の実施形態において、複数の膜が同一の工程で同時に形成された場合、これらの膜は同一の層構造、同一の材料、同一の組成を有する。したがって、これら複数の膜は同一層内に存在しているものと定義する。
【0014】
以下、本発明の実施形態の一つであるセンサモジュール200、およびセンサモジュール200を備える表示装置100について説明する。
【0015】
1.表示装置
表示装置100の模式的展開斜視図を
図1に示す。表示装置100は、表示モジュール110、および表示モジュール110の上に配置されるセンサモジュール200を含む。表示モジュール110とセンサモジュール200は、
図1では示されない接着層によって互いに固定される。
【0016】
2.表示モジュール
表示モジュール110は、映像を表示する機能を有するデバイスであり、アレイ基板112、アレイ基板112上に形成される複数の画素116、アレイ基板112上の対向基板114を基本的な構成として備える。複数の画素116を囲む領域は表示領域120と呼ばれる。各画素116は表示素子を備えており、色情報を提供する最小単位として機能する。表示素子としては、液晶素子をはじめ、有機電界発光素子(OLED)に例示される電界発光素子などを用いることができる。液晶素子を用いる場合には、表示モジュール110には、図示しない光源(バックライト)がさらに設けられる。各画素116は、フレキシブル印刷回路(FPC)基板などのコネクタ118を介して供給される電源と映像信号に従って動作し、映像信号に基づく階調で特定の色の光を提供する。画素116の動作を映像信号に基づいて制御することで、表示領域120上に映像を表示することができる。
【0017】
表示モジュール110の大きさには制約はなく、例えば12.1インチ(31cm)サイズと呼ばれる携帯通信端末などに利用される大きさでもよく、コンピュータに接続されるモニタやテレビ、サイネージなどに好適な大きさ(例えば、14.1インチ(36cm)サイズから32インチ(81cm)サイズ)でもよく、さらに大きなサイズであってもよい。
【0018】
3.センサモジュール
センサモジュール200は、表示モジュール110からの光を透過させるとともに、表示装置100に情報を入力するためのインターフェースとして機能するデバイスである。センサモジュール200は接触式または非接触式センサモジュールであり、指や掌、先端に樹脂が配置されたタッチペンなどの入力手段がセンサモジュール200に直接接触したときのみならず、入力手段がセンサモジュール200に接することなく近傍(例えば、センサモジュール200の最外表面から5mm以内、20mm以内、50mm以内、または100mm以内の範囲など、検出レンジは適宜設定可能である)に配置された際にも入力手段を検出し、センサモジュール200上における入力手段の位置(以下、単に入力位置と記す。)を特定する機能を備える。以下、センサモジュール200の各構成について説明する。
【0019】
3-1.センサ基板とカバー基板
図1や模式的上面図(
図2)に示すように、センサモジュール200は、センサ基板202とセンサ基板202に対向するカバー基板204を備える。センサ基板202とカバー基板204は、表示モジュール110によって表示される映像を視認させるため、可視光を透過する材料で構成される。このため、センサ基板202とカバー基板204は、ガラスや石英、ポリイミドやポリアミド、ポリカーボネートなどの高分子材料などで構成される。
【0020】
3-2.センサ電極
センサ基板202とカバー基板204の間に複数のセンサ電極206が設けられる。全てのセンサ電極206を囲む領域をセンサ領域208と呼ぶ。複数のセンサ電極206は、第1行から第m行と第1列から第n列を有するマトリクス状に配置される。
図2に示された例では、6行10列のマトリクス状に配置された60のセンサ電極206がセンサモジュール200に設けられている。センサ電極206の数(すなわち、mとn)や大きさは、表示装置100の大きさ、センサモジュール200に要求される検出精度などに応じて適宜設定すればよい。
【0021】
以下の説明では、
図2に示すように、端子214から最も遠い行を第1行とし、端子214側の行を第m行とする。また、端子214を下側に配置した際、最も左側にある列を第1列とし、最も右側にある列を第n列とする。
【0022】
また、鎖線で示されるセンサ領域208は点線で示される表示領域120の全てと重なるようにセンサ電極206が配置される。図示しないが、センサ領域208と表示領域120は同一の形状を有してもよい。あるいは、センサ領域208は表示領域120よりも小さくてもよい。この場合には、センサ領域208の全体が表示領域120と重なるようにセンサ電極206が配置される。
【0023】
3-3.センサ配線と補助配線
センサモジュール200の一部の模式的上面図(
図3)に示すように、各センサ電極206には、対応するセンサ配線230が接続される。すなわち、センサモジュール200にはセンサ電極206と同数のセンサ配線230が設けられ、一つのセンサ配線230は一つのセンサ電極206と電気的に接続される。各センサ配線230は、それに接続されるセンサ電極206からセンサ基板202の端子214側に延伸し、端部で端子214(
図2参照。)を形成する。
【0024】
さらにセンサモジュール200では、複数のセンサ電極206にそれぞれ対応する複数の補助配線232が接続される。一つの補助配線232は、一つのセンサ電極206に接続され、センサ配線230が延伸する方向とは逆方向、すなわち、端子214に対して逆方向へ延伸する。好ましくは、各補助配線232は、センサ領域208の外側まで延伸する。補助配線232は、それが接続されるセンサ電極206を除き、他の導電性構成要素と接続されない。従って、このセンサ電極206とそれに接続されるセンサ配線230と補助配線232は、電気的に常時等電位となる。
【0025】
図3から理解されるように、各センサ電極206に接続されるセンサ配線230と補助配線232は、センサ電極206を中心として互いに反対側に配置される。隣接する二つの列に着目すると、一方の列に配置されるセンサ電極206に接続される複数のセンサ配線230と、他方の列に配置されるセンサ電極206に接続される複数の補助配線232とは、これらの二つの列の間に配置される。
【0026】
3-4.駆動回路
センサ配線230には、端子214を介してフレキシブル印刷回路(FPC)基板などの第1のコネクタ212が電気的に接続され、第1のコネクタ212には駆動回路216が接続される(
図1、
図2)。このため、センサ配線230を介してセンサ電極206と補助配線232が駆動回路216と電気的に接続される。駆動回路216は第1のコネクタ212上に設けてもよく、あるいは図示しない印刷基板上に設けてもよい。
【0027】
駆動回路216は、例えば、電源回路218、検出器220、演算素子222、インターフェース224などによって構成される。電源回路218は、外部から供給される電源をパルス状の交流電圧(交流矩形波)に変換し、この交流電圧を端子214とセンサ配線230を介して各センサ電極206に供給する。検出器220はアナログフロントエンド(AFE:Analog Front End)とも呼ばれ、センサ電極206の容量の変化を電位変動として検出し、この電位変動をデジタル化して検出信号に変換する。演算素子222には検出器220によって生成された検出信号が入力され、この検出信号に基づいて各センサ電極206の電位変動を示す指標であるセンサ値が取得される。入力位置を表す座標はセンサ値によって決定される。検出器220と演算素子222は、一つの集積回路(IC)チップとして構成してもよい。インターフェース224は外部回路との接続に用いられ、ユニバーサル・シリアル・バス(USB)やシリアル・ペリフェラル・インタフェース(SPI)などの規格に基づいて構成される。
【0028】
上述したように、センサ電極206にはセンサ配線230を介してパルス状交流電圧が印加される。入力手段がセンサ電極206に近づくと、入力手段とセンサ電極206の間に仮想的な容量素子が形成され、その結果、各センサ電極206の電位が変動する。この電位変動は検出器220によって検出されてデジタル変換され、演算素子222において、各センサ電極206のセンサ値に基づいて入力位置の座標が特定される。このように、センサモジュール200は、静電容量式(自己容量式)の接触式または非接触センサ(ホバーセンサ)として機能する。
【0029】
図3から理解されるように、各センサ配線230は、そのセンサ配線230に接続されるセンサ電極206との電気的接続のための接続部分を除き、他のセンサ電極206と重ならない。換言すると、各センサ配線230は、上記接続部分を除き、センサ電極206から露出している。これにより、センサ配線230とセンサ電極206の間の容量(寄生容量)形成が低減される。したがって、あるセンサ電極206に入力手段が近づいてそれに接続されるセンサ配線230の電位が変動しても、この電位変動は他のセンサ電極206に顕著な影響を与えない。その結果、当該センサ電極206の検出信号が他のセンサ電極206に分散されず、入力の位置を正確に特定することができる。
【0030】
また、センサ配線230と同様に、各補助配線232も、その補助配線232に接続されるセンサ電極206との電気的接続のための接続部分を除き、全てのセンサ電極206と重ならないように配置される。補助配線を設けることにより、センサ領域において、各センサ電極206とそれに接続されるセンサ配線230と補助配線232の面積の和が同じまたはほぼ同じとなる。このため、センサ配線の長さの差に伴うセンサ電極間での容量差が解消され、入力手段とセンサモジュール200の距離が一定であれば、入力位置に依存せず一定の静電容量を発生させることができる。
【0031】
また、配線の密度、すなわち、センサ配線230と補助配線232の面積の和が列方向においてがほぼ一定となるため、入力手段の座標を正確に特定することができる。例えば端子214に近い第6行のセンサ電極206-6に位置入力手段が近接した場合、その座標に最も近い第6行のセンサ電極206-6に最も大きな電位変動が生じるとともに、センサ電極206-6の近くに配置されるセンサ配線230、およびこれらに接続される他のセンサ電極206にも副次的な電位変動が生じ得る。同様に、端子214から離れた第1行のセンサ電極206-1に入力手段が近接した場合でも、その座標に最も近いセンサ電極206-1に最も大きな電位変動が生じ得るとともに、第2行から第6行のセンサ電極206に接続される補助配線232にも副次的な電位変動が生じ得るので、第2行から第6行のセンサ電極206にも副次的な電位変動が生じ得る。すなわち、入力手段の座標に依存することなく、入力手段に近接するセンサ電極206における大きな電位変動を検知しつつ、かつ、そのセンサ電極206が配置された列の他のセンサ電極206に対してほぼ同じ副次的電位変動を引き起こすことができる。その結果、副次的電位変動の入力手段の座標依存性、特に列方向における座標依存性が解消され、入力手段の座標を正確に特定することができる。
【0032】
3-5.断面構造
図4に
図3の鎖線A-A´に沿った端面の模式図を示す。
図4には、表示モジュール110の対向基板114も示されている。
図4に示すように、表示モジュール110とセンサモジュール200は可視光を透過する接着層102によって互いに固定される。なお、表示モジュール110が液晶表示装置の場合には、対向基板114の上に偏光板などが設けられる。
【0033】
センサ基板202と対向基板114の間には、表示モジュール110からの電気的な影響を遮蔽するためのノイズシールド層226を設けてもよい。ノイズシールド層226は、接着層102の上に設けてもよく、接着層102の下に設けてもよい。ノイズシールド層226は、導電性を有するインジウム-スズ酸化物(ITO)やインジウム-亜鉛酸化物(IZO)などの透光性酸化物、あるいは金属を含む。後者の場合には、可視光の透過を許容するよう、複数の開口を有するメッシュ状の金属膜をノイズシールド層226として用いればよい。ノイズシールド層226は、複数のセンサ電極206と重なるように設けられる。ノイズシールド層226には、FPC基板などの第2のコネクタ210が電気的に接続され(
図1参照。)、センサ電極206に印加される電位と同相のパルス状交流電圧が印加される。このため、ノイズシールド層226はセンサ電極206と常時等電位となる。
【0034】
センサ基板202上には、直接、または図示しない絶縁性のアンダーコートを介してセンサ配線230と補助配線232が設けられ、その上にセンサ電極206が配置される。この時、センサ電極206はアンダーコートの上に直接設けてもよく、あるいは
図4に示すように、センサ配線230と補助配線232を覆うように酸化ケイ素や窒化ケイ素などのケイ素含有無機化合物などを含む層間絶縁膜228を設け、層間絶縁膜228上にセンサ電極206を配置してもよい。後者の場合には、層間絶縁膜228に設けられる開口を介してセンサ電極206がセンサ配線230と補助配線232に電気的に接続される。なお、センサ電極206と補助配線232またはセンサ配線230の上下関係に制約はなく、
図5に示すように、センサ電極206の上に層間絶縁膜228を設け、その上にセンサ配線230と補助配線232を配置してもよい。あるいは、
図6に示すように、センサ電極206、センサ配線230、および補助配線232を同一の層内に設けてもよい。すなわち、同一の組成を有するセンサ電極206、センサ配線230、および補助配線232を同時に同一の工程で形成してもよい。
【0035】
センサ電極206、センサ配線230、および補助配線232は、それぞれITOやIZOなどの可視光を透過する導電性酸化物、あるいは、モリブデンやタングステン、タンタル、アルミニウム、銅などの金属(0価の金属)を含むように構成される。センサ電極206、センサ配線230、および補助配線232は、それぞれ単層構造を有してもよく、積層構造を有してもよい。例えば、センサ電極206、センサ配線230、および補助配線232は、それぞれ導電性酸化物を含む層と金属を含む層が積層した構造を備えてもよい。0価の金属を含む場合、センサ電極206、センサ配線230、および補助配線232をメッシュ状に形成し、透光性を確保してもよい。
【0036】
センサ配線230とセンサ電極206上には、保護膜234を設けてもよい。保護膜234は単層または積層構造を有し、ケイ素含有無機化合物やエポキシ樹脂やアクリル樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂を含む膜で構成される。
図4から
図6では、無機化合物を含む第1の保護膜234-1と樹脂を含む第2の保護膜234-2が積層された保護膜234が例示されている。第1の保護膜234-1と第2の保護膜234-2の積層順に制約はなく、第2の保護膜234-2上に第1の保護膜234-1を積層してもよい。樹脂を含む第1の保護膜234-1は、平坦化膜としても機能する。保護膜234の上には、可視光を透過する接着層236を介してカバー基板204が固定される。
【0037】
4.センサモジュールにおける補正方法
以下、センサモジュール200において入力位置を正確に特定するための補正方法について説明する。以下の説明では、センサ電極206を特定するための変数としてiとjを用いる。iは1からmの中から選択される自然数であり、jは1からnの中から選択される自然数である。
図7に示すように、第i行第j列に位置するセンサ電極206をセンサ電極206(i,j)と表す。
【0038】
センサモジュール200の上からセンサモジュール200に入力手段が近接した状況を
図8から
図10の模式的上面図を用いて説明する。これらの図では行の総数が6であるセンサモジュール200の一部が模式的に示されている。
【0039】
一例として、
図8の点線楕円で示すように、一つのセンサ電極206(ここでは、センサ電極(3,j))上に入力手段が選択的に近接した場合、このセンサ電極206(3,j)と入力手段の間に仮想的な容量素子が形成される。このため、ハッチングが施された、センサ電極206(3,j)とそれに接続されるセンサ配線230と補助配線232の電位が変動する。上述した副次的な影響によって他のセンサ電極206やそれに接続されるセンサ配線230と補助配線232の電位も変化し得るものの、その変化量は無視できる程度である。したがって、一つのセンサ電極206の電位変動によって取得されるセンサ値を用いることで入力位置を正確に特定することができる。
【0040】
これに対し、
図9の点線楕円で示すように、入力手段が一つのセンサ電極206だけでなく、その左側((j-1)列側)と重なる場合には、当該センサ電極206(ここではセンサ電極(3,j))だけでなく、他の構成、具体的には、入力手段と重なる他のセンサ配線230と補助配線232の間にも静電容量が形成される。センサ配線230と補助配線232は、これらに接続されるセンサ電極206と等電位であるため、形成された静電容量に起因し、これらの配線に接続されるセンサ電極206の電位も変動する。その結果、入力手段と重なるセンサ電極206以外のセンサ電極206のセンサ値も増大する。
図9の例では、ハッチングが付された第4行第(j-1)列から第6行第(j-1)列のセンサ電極206と第1行第j列と第2行第j列のセンサ電極206の電位も変動し、その結果、これらのセンサ電極206のセンサ値も増大する。
【0041】
入力位置の行を特定する際には、最も高いセンサ値を与えるセンサ電極(以下、ピーク電極)のセンサ値(
図9の例では、センサ電極206(3,j)のセンサ値)のみならず、ピーク電極に対して列方向で隣接する一つまたは二つのセンサ電極(ここでは、センサ電極206(2,j)とセンサ電極206(4,j)のセンサ値が用いられる。その結果、ピーク電極が第i行第j列のセンサ電極206(i,j)である場合、特定される入力位置が実際の入力位置と比べて列方向に(すなわち、第(i-1)行側であり、
図9の例では第2行側)へシフトしてしまう。
【0042】
次に、
図9の白抜き矢印で示すように入力手段が行方向に平行に移動した場合を考える(
図10)。
図10の点線楕円で示すように、移動後の入力位置が一つのセンサ電極206だけでなく、その右側((j+1)列側)と重なる場合には、当該センサ電極206だけでなく、入力手段と重なる他のセンサ配線230と補助配線232も入力手段と静電容量を形成し、その結果、これらに接続されるセンサ電極206の電位が変動し、センサ値が増大する。
図10の例では、ハッチングが付された第4行第j列から第6行第j列、第1行第(j+1)列、第2行第(j+1)列のセンサ電極206のセンサ値も増大する。その結果、ピーク電極が第i行第j列のセンサ電極206(i,j)である場合、特定される入力位置が実際の入力位置と比べて第(i+1)行側(
図10の例では第4行側)へシフトしてしまう。
【0043】
このように、入力手段が最も近接したセンサ電極206(すなわち、ピーク電極)が形成する静電容量だけでなく、センサ配線230や補助配線232が形成する静電容量の影響が生じるため、例えば
図11Aに示すように、点P
1から点P
2まで行方向に入力手段を直線的に走査させた場合でも、
図11Bに示すように、入力手段の軌跡は直線として検知されず、ジグザグ状の軌跡として検知されてしまう。
【0044】
本発明の実施形態の一つに係る補正方法は、上述した不具合を解消するための方法であり、駆動回路216により、入力手段と複数のセンサ配線230の一部によって形成される静電容量、および入力手段と複数の補助配線232の一部によって形成される静電容量の影響(以下、これらの影響を配線影響と記す。)を低減または排除するための補正処理が実行される。以下、本補正方法について、
図12から
図14のフローチャートを用いて説明する。
【0045】
4-1.ピーク電極の特定
まず、ピーク電極を特定する。上述したように、全てのセンサ電極206には駆動回路216の電源回路218からパルス状交流電圧が常時供給されており、検出器220がセンサ電極206の容量の変化を電位変動として検出する。検出器220は、この電位変動をデジタル化して検出信号に変換する。演算素子222には検出器220によって生成された検出信号が入力され、この検出信号に基づいて各センサ電極206のセンサ値が取得される。このため、入力手段が近接すると、入力位置に最も近いセンサ電極206、より具体的には、入力手段と最も大きな静電容量を形成するセンサ電極206が最も大きな電位変動を示し、その結果、最も高いセンサ値を示す。この最大センサ値を示すセンサ電極206がピーク電極として特定される。以下、ピーク電極が第i行第j列に位置するセンサ電極206(i,j)であるとして説明を続ける。
【0046】
この時、ピーク電極のセンサ値が一定の値(第1の閾値)以下である場合には、入力手段からセンサモジュール200までの距離が大きいことを意味する。この場合には、ピーク電極以外の構成と入力手段との間に形成される静電容量は無視できる程度であるため、配線影響が小さく、補正を行う必要性は低い。したがって、駆動回路216によってピーク電極のセンサ値が第1の閾値以下であると判断された場合には、本補正方法を実行しなくてもよい。ただし、より精密な入力位置の特定が必要な場合などには、ピーク電極のセンサ値が第1の閾値以下であっても本補正方法を実施してもよい。第1の閾値としては、演算素子222が出力可能な最大センサ値(飽和センサ値)の50%以上100%以下または60%以上100%以下の範囲から適宜選択すればよい。あるいは、入力手段からセンサモジュール200までの距離に基づいて第1の閾値を決定してもよい。例えば、配線影響が出始める距離(例えば、センサモジュール200から0mm以上20mm以下の距離)に入力手段が存在する時のセンサ値を第1の閾値として選択してもよい。
【0047】
駆動回路216によってピーク電極のセンサ値が第1の閾値を超えていると判断された場合には、ピーク電極以外のセンサ電極206に配線影響が及んでいると考えられるため、駆動回路216によって本補正方法が実行される。本補正方法は、第1の補正処理と第2の補正処理を含み、少なくとも一方が実行される。以下、第1の補正処理が行われた後に第2の補正処理が行われる例を説明するが、第2の補正処理が行われた後に第1の補正処理を行ってもよい。また、第1の補正処理と第2の補正処理の一方のみを行ってもよい。
【0048】
4-2.第1の補正処理
第1の補正処理のフローチャートを
図13に示す。第1の補正処理は、ピーク電極のセンサ配線230が設けられる側(すなわち、(j-1)列側)が入力手段から配線影響を受けた場合に、この配線影響を軽減または排除する補正である。したがって、第1の補正処理では、ピーク電極が存在する列によって処理方法が異なる。
【0049】
(1)j≠1の場合
図13に示すように、j≠1の場合、すなわち、ピーク電極が第1列以外の列に存在する場合には、ピーク電極と同一の行(すなわち、第i行)に位置し、かつ、当該ピーク電極に接続されるセンサ配線230側の列(すなわち、第(j-1)列)のセンサ電極206(i,j-1)のセンサ値が一定の値(第2の閾値)を超えているか否かが判断される。
図9に示した例では、ピーク電極がセンサ電極206(3,j)であるので、センサ電極206(3,j)に接続されるセンサ配線230側の隣接列のセンサ電極206(3,j-1)のセンサ値が第2の閾値を超えているか否かが判断される。以下、ピーク電極であるセンサ電極206(i,j)と同一の行に位置し、かつ、ピーク電極に接続されるセンサ配線230側の隣接列のセンサ電極206(i,j-1)を第1の参照電極と呼ぶ。第2の閾値は、ピーク電極のセンサ値の50%以上100%未満、または50%以上80%未満の範囲から適宜選択すればよい。あるいは、第2の閾値も入力手段からセンサモジュール200までの距離に基づいて決定してもよい。例えば、入力手段をセンサモジュール200から一定の距離(例えば、0mm以上20mm以下の範囲から選択される距離)に配置した時の第1の参照電極のセンサ値を第2の閾値として選択してもよい。
【0050】
第1の参照電極のセンサ値が第2の閾値を超えていないということは、ピーク電極のセンサ値に対して第1の参照電極のセンサ値が十分に低いことを意味する。このことは、入力手段と第1の参照電極との間に大きな静電容量が形成されていないことを意味しており、したがって、入力手段は、第1の参照電極とピーク電極の間に配置されるセンサ配線230や補助配線232とも大きな静電容量を形成していないと判断することができる。このため、入力位置を判断するために用いられる第(i-1)行第j列および/または第(i+1)行第j列のセンサ値もピーク電極のそれと比較して十分に低いため、配線影響は顕著な問題とならない。このことから、第1の参照電極のセンサ値が第2の閾値を超えていないと判断された場合には、第1の補正処理は実行しなくてもよい。ただしこの場合でも、より精確な入力位置の特定が必要な場合などでは、第1の補正処理を行ってもよい。
【0051】
逆に、第1の参照電極のセンサ値が第2の閾値を超えているということは、第1の参照電極のセンサ値がピーク電極のセンサ値よりは低いものの、比較的高いことを意味する。すなわち、入力手段と第1の参照電極との間に大きな静電容量が形成されていることを意味する。したがって、入力手段は、第1の参照電極とピーク電極の間に配置されるセンサ配線230や補助配線232とも大きな静電容量を形成していると判断することができる。このため、第(i-1)行第j列および/または第(i+1)行第(j-1)列のセンサ値も比較的高いので、入力位置の特定は大きな配線影響を受ける。よって、配線影響を低減または排除するために以下の処理を行う。
【0052】
(1-1)配線増分の算出
この処理では、まず、入力手段によって静電容量が形成されていると考えられるセンサ配線230や補助配線232に接続されるセンサ電極206のうち、入力手段の近接によって形成される静電容量の影響が最も小さいセンサ電極206を選択する。具体的には、配線影響を受けた第(i+1)行第(j-1)列から第m行第(j-1)列のセンサ電極206のセンサ値、および第1行第j列から第(i-1)行第jのセンサ電極206のセンサ値のうち、最も小さいセンサ値(最小センサ値)を選択する。
図9を用いて例示すると、ピーク電極はセンサ電極206(3,j)であるので、ハッチングが施されたセンサ電極206(すなわち、第4行第(j-1)列から第6行第(j-1)列のセンサ電極206、および第1行第j列と第2行第j列のセンサ電極206)のセンサ値から最小センサ値が選択される。なお、iとmの関係によっては、上記センサ電極206のうち実在しないものも存在するため、上記センサ電極206のうち実在するセンサ電極206のセンサ値から最小センサ値が選択される。この最小センサ値は、入力手段と各センサ電極206によって形成される静電容量を最大限排除し、同時に入力手段とセンサ配線230間に形成される静電容量または入力手段と補助配線232間に形成される静電容量による配線影響を反映したセンサ値である。
【0053】
次に、配線増分を算出する。具体的には、最小センサ値を示すセンサ電極206が第j列にある場合には、最小センサ値を示すセンサ電極と同一行であり、かつ、配線影響を受けていない第(j-1)列にあるセンサ電極206を基準電極として選択する。
図9に示す例において最小センサ値を示すセンサ電極206が第j列にある場合には、センサ電極206(1,j-1)または206(2,j-1)が基準電極となる。逆に、最小センサ値を示すセンサ電極206が第(j-1)列にある場合には、最小センサ値を示すセンサ電極と同一行であり、かつ、配線影響を受けていない第j列にあるセンサ電極206を基準電極として選択する。
図9に示す例において最小センサ値を示すセンサ電極206が第(j-1)列にある場合には、センサ電極206(4,j)から206(6,j)のいずれかが基準電極となる。最小センサ値から基準電極のセンサ値を減じて得られるセンサ値が配線増分である。基準電極のセンサ値は配線影響を受けていないと見做すことができるため、この配線増分が配線影響に起因するセンサ値の増分に対応する。
【0054】
(1-2)補正
引き続き、配線増分を用いて補正を行う。具体的には、配線増分が正であれば、配線影響を受けたセンサ電極206のセンサ値から配線増分を減じる。すなわち、第(i+1)行第(j-1)列から第m行第(j-1)列のセンサ電極206と第1行第j列から第(i-1)行第j列のセンサ電極206のうち、実在するセンサ電極206のセンサ値に対し、配線増分を減じる補正を実行する。
図9に示す例では、センサ電極206(4,j-1)から206(6,j-1)、およびセンサ電極206(1,j)と206(2,j)のセンサ値から配線増分を減じる。
【0055】
一方、配線増分が0以下であるということは、配線影響が実質的に存在しないことを意味する。したがって、この場合には、いずれのセンサ電極206のセンサ値に対しても補正を行わない。
【0056】
上記補正により、ピーク電極に対して列方向で隣接する一つまたは二つのセンサ電極206のセンサ値から配線影響を低減または排除することができる。その結果、入力位置の列方向の座標を正確に算出することができる。
【0057】
なお、上述した配線増分の算出では、配線影響を受けた全てのセンサ電極206から一つの最小センサ値が選択されるが、入力手段と補助配線232の間の静電容量による影響を受けたセンサ電極206の中から一つの最小センサ値を選択し、同時に入力手段とセンサ配線230の静電容量による影響を受けたセンサ電極206の中から一つの最小センサ値を選択してもよい。すなわち、ピーク電極をセンサ電極206(i,j)とすると、センサ電極206(i+1,j-1)からセンサ電極206(m,j-1)の中から一つの最小センサ値(第1の最小センサ値)を選択し、センサ電極206(1,j)からセンサ電極206(i-1,j)の中から一つの最小センサ値(第2の最小センサ値)を選択してもよい。この場合には、第1と第2の最小センサ値を与えるセンサ電極206に対してそれぞれ基準電極が選択され、配線増分が算出される。センサ電極206(i+1,j-1)からセンサ電極206(m,j-1)の補正は、これらのセンサ値から第1の最小センサ値を減じることで実行され、センサ電極206(1,j)からセンサ電極206(i-1,j)の補正は、これらのセンサ値から第2の最小センサ値を減じることで実行される。
【0058】
(2)j=1の場合
図3から理解されるように、第1列中のセンサ電極206のセンサ配線230が設けられる側には、他のセンサ電極が存在しない。このため、補正のための第1の参照電極を選択することができない。したがって、j=1の場合には、上述した補正方法とは異なる補正方法が採用される。
【0059】
具体的には、まず、ピーク電極が位置する行の番号、すなわち、iが一定の値(第1の行閾値)を超えるか否かを判断する(
図13)。第1の行閾値は、例えば行の総数であるmの50%以上80%以下または60%以上80%以下の範囲から適宜選択すればよい。あるいは、センサモジュール200の上端(1行目側の端部)から60mm以上150mm以下離れた行の番号を第1の行閾値としてもよい。iが第1の行閾値以下の状況とは、例えば
図15に示すように、入力手段が比較的小さい行番号の行に位置するセンサ電極206に近接している状況である。行番号が小さいほどセンサ配線230の密度が低くなるため、入力位置が第1行に近いほど配線影響を受けるセンサ電極206が減少する。このため、入力手段とセンサ電極206間の静電容量による影響と配線影響を区別することが困難である。よって、iが第1の行閾値以下である場合には、第1の補正は行わなくてもよい。
【0060】
(2-1)配線増分の算出
iが第1の行閾値を超える場合状況とは、
図16に示すように、点線楕円で表される入力手段が比較的大きい行番号の行に位置するセンサ電極206に近接している状況である。この時、入力手段と重なり得る構成は多く、ピーク電極、およびこのピーク電極を中心として第2列と反対側に配置されたセンサ配線230である。
図16の例では、ハッチングが施されたセンサ配線230が入力手段と重なり得る。したがって、ピーク電極よりも(i-1)行側のセンサ電極206(
図16の例では、センサ電極206(1,1)から206(4,1))が配線影響を受ける。この場合、入力位置から最も離れたセンサ電極206(1,1)では、入力手段とセンサ電極206間の静電容量の寄与が最小であり、同時に配線影響が反映されている。センサ電極206(1,1)に行方向で隣接するセンサ電極206(1,2)では配線影響は無視できるので、センサ電極206(1,1)のセンサ値からセンサ電極206(1,2)のセンサ値を減じることで得られる値を配線増分として算出する。この配線増分が配線影響に起因するセンサ値の増分に対応する。
【0061】
(2-2)補正
配線増分が0以下の場合には、配線影響は無視できる程度であるため、補正を行う必要性は低い。よって、いずれのセンサ電極206のセンサ値に対しても補正を行わなくてもよい。一方、配線増分が正であれば、配線影響を受けたセンサ電極206から配線増分を減じる。すなわち、第1行第1列から第(i-1)行第1列のセンサ電極206の前記センサ値に対し、配線増分を減じる補正を行う。
図16に示す例では、ハッチングが施されたセンサ電極206(1,1)から206(4,1)のセンサ値から配線増分が減じられる。
【0062】
この処理により、ピーク電極に対して列方向で隣接する一つまたは二つのセンサ電極206のセンサ値から配線影響を低減または排除することができる。その結果、入力位置の列方向の座標を正確に算出することができる。
【0063】
4-3.第2の補正処理
第2の補正処理のフローチャートを
図14に示す。第2の補正処理は、ピーク電極の補助配線232が設けられる側(すなわち、(j+1)列側)が入力手段から配線影響を受けた場合に、この配線影響を軽減または排除する補正である。したがって、第2の補正処理においても、ピーク電極が存在する列によって処理方法が異なる。なお、第1の補正処理と同様の内容については説明を割愛することがある。
【0064】
(1)j≠nの場合
図14に示すように、j≠nの場合、すなわち、ピーク電極が第n列以外の列に存在する場合には、ピーク電極と同一の行(すなわち、第i行)に位置し、かつ、当該ピーク電極に接続される補助配線232側の列(すなわち、第(j+1)列)のセンサ電極206(i,j+1)のセンサ値が第2の閾値を超えているか否かが判断される。
図10に示した例では、ピーク電極がセンサ電極206(3,j)であるので、センサ電極206(3,j)に接続される補助配線232側の隣接列のセンサ電極206(3,j+1)のセンサ値が第2の閾値を超えているか否かが判断される。以下、ピーク電極であるセンサ電極206(i,j)と同一の行に位置し、かつ、ピーク電極に接続される補助配線232側の隣接列のセンサ電極206(i,j+1)を第2の参照電極と呼ぶ。
【0065】
第2の参照電極のセンサ値が第2の閾値を超えていないということは、ピーク電極のセンサ値に対して第2の参照電極のセンサ値が十分に低いことを意味する。このことは、入力手段と第2の参照電極との間に大きな静電容量が形成されていないことを意味しており、したがって、入力手段は、第2の参照電極とピーク電極の間に配置されるセンサ配線230や補助配線232とも大きな静電容量を形成していないと判断することができる。このため、入力位置を判断するために用いられる第(i-1)行第j列と第(i+1)行第j列のセンサ値もピーク電極のそれと比較して十分に低いため、配線影響は顕著な問題とならない。このことから、第2の参照電極のセンサ値が第2の閾値を超えていないと判断された場合には、第2の補正処理は実行しなくてもよい。ただしこの場合でも、より精確な入力位置の特定が必要な場合などでは、第2の補正処理を行ってもよい。
【0066】
逆に、第2の参照電極のセンサ値が第2の閾値を超えているということは、第2の参照電極のセンサ値はピーク電極のセンサ値より低いものの、比較的高いことを意味する。このことは、入力手段と第2の参照電極との間に大きな静電容量が形成されていることを意味しており、したがって、入力手段は、第2の参照電極とピーク電極の間に配置されるセンサ配線230や補助配線232とも大きな静電容量を形成していると判断することができる。このため、第(i-1)行第j列と第(i+1)行第j列のセンサ値も比較的高いので、入力位置の特定は大きな配線影響を受ける。よって、配線影響を低減または排除するために以下の処理を行う。
【0067】
(1-1)配線増分の算出
この処理においても、第1の補正処理と同様に、入力手段によって静電容量が形成されていると考えられるセンサ配線230や補助配線232に接続されるセンサ電極206のうち、入力手段の近接によって形成される静電容量の影響が最も小さいセンサ電極206を選択する。具体的には、配線影響を受けた第(i+1)行第j列から第m行第j列のセンサ電極206のセンサ値、および第1行第(j+1)列から第(i-1)行第(j+1)のセンサ電極206のセンサ値から最小センサ値を選択する。
図10を用いて例示すると、ピーク電極はセンサ電極206(3,j)であるので、ハッチングが施されたセンサ電極206(すなわち、第4行第j列から第6行第j列のセンサ電極206、および第1行第(j+1)列と第2行第(j+1)列のセンサ電極206)のセンサ値から最小センサ値が選択される。なお、iとmの関係によっては、上記センサ電極206のうち実在しないものも存在するため、上記センサ電極206のうち実在するセンサ電極206のセンサ値から最小センサ値が選択される。この最小センサ値も、入力手段と各センサ電極206によって形成される静電容量を最大限排除し、同時に入力手段とセンサ配線230間に形成される静電容量または入力手段と補助配線232間に形成される静電容量による配線影響を反映したセンサ値である。
【0068】
次に、配線増分を算出する。具体的には、最小センサ値を示すセンサ電極206が第j列にある場合には、最小センサ値を示すセンサ電極と同一行であり、かつ、配線影響を受けていない第(j+1)列にあるセンサ電極206を基準電極として選択する。
図10に示す例において最小センサ値を示すセンサ電極206が第j列にある場合には、センサ電極206(4,j+1)から206(6,j+1)のいずれかが基準電極となる。逆に、最小センサ値を示すセンサ電極206が第(j+1)列にある場合には、最小センサ値を示すセンサ電極と同一行であり、かつ、配線影響を受けていない第j列にあるセンサ電極206を基準電極として選択する。
図10に示す例において最小センサ値を示すセンサ電極206が第(j+1)列にある場合には、センサ電極206(1,j)と206(2,j)のいずれかが基準電極となる。最小センサ値から基準電極のセンサ値を減じて得られるセンサ値が配線増分である。基準電極のセンサ値は配線影響を受けていないと見做すことができるため、この配線増分も配線影響に起因するセンサ値の増分に対応する。
【0069】
(1-2)補正
引き続き、配線増分を用いて補正を行う。具体的には、配線増分が正であれば、配線影響を受けたセンサ電極206のセンサ値から配線増分を減じる。すなわち、第(i+1)行第j列から第m行第j列のセンサ電極206と第1行第(j+1)列から第(i-1)行第(j+1)列のセンサ電極206のうち、実在するセンサ電極206のセンサ値に対し、配線増分を減じる補正を実行する。
図10に示す例では、センサ電極206(4,j)から206(6,j)、およびセンサ電極206(1,j+1)と206(2,j+1)のセンサ値から配線増分を減じる。
【0070】
一方、配線増分が0以下であるということは、配線影響が実質的に存在しないことを意味する。したがって、この場合には、いずれのセンサ電極206のセンサ値に対しても補正を行わない。
【0071】
上記補正により、ピーク電極に対して列方向で隣接する一つまたは二つのセンサ電極206のセンサ値から配線影響を低減または排除することができる。その結果、入力位置の列方向の座標を正確に算出することができる。
【0072】
第1の補正処理と同様、入力手段と補助配線232の間の静電容量による影響を受けたセンサ電極206の中から一つの最小センサ値を選択し、同時に入力手段とセンサ配線230の静電容量による影響を受けたセンサ電極206の中から一つの最小センサ値を選択してもよい。すなわち、ピーク電極をセンサ電極206(i,j)とすると、センサ電極206(i+1,j)からセンサ電極206(m,j)の中から一つの第3の最小センサ値を選択し、センサ電極206(1,j+1)からセンサ電極206(i-1,j+1)の中から一つの第4の最小センサ値を選択してもよい。この場合には、第3と第4の最小センサ値を与えるセンサ電極206に対してそれぞれ基準電極が選択され、配線増分が算出される。センサ電極206(i+1,j)からセンサ電極206(m,j)の補正は、これらの電極のセンサ値から第3の最小センサ値を減じることで実行され、センサ電極206(1,j+1)からセンサ電極206(i-1,j+1)の補正は、これらの電極のセンサ値から第4の最小センサ値を減じることで実行される。
【0073】
(2)j=nの場合
図3から理解されるように、第n列中のセンサ電極206の補助配線232が設けられる側には、他のセンサ電極が存在しない。このため、補正のための第2の参照電極を選択することができない。したがって、j=nの場合には、上述した補正方法とは異なる補正方法が採用される。
【0074】
具体的には、まず、ピーク電極が位置する行の番号、すなわち、iが一定の値(第2の行閾値)を超えるか否かを判断する(
図14)。第2の行閾値は、例えば行の総数であるmの20%以上50%以下または20%以上40%以下の範囲から適宜選択すればよい。あるいは、センサモジュール200の下端(m行目側の端部)から60mm以上150mm以下離れた行の番号を第2の行閾値としてもよい。iが第2の行閾値を超える状況とは、例えば
図17に示すように、入力手段が比較的大きい行番号の行に位置するセンサ電極206に近接している状況である。行番号が大きいほど補助配線232の密度が低くなるため、入力位置が第m行に近いほど配線影響を受けるセンサ電極206が減少する。このため、入力手段とセンサ電極206間の静電容量による影響と配線影響を区別することが困難である。よって、iが第2の行閾値を超える場合には、第2の補正は行わなくてもよい。
【0075】
(2-1)配線増分の算出
iが第2の行閾値以下の場合には、
図18に示すように、点線楕円で表される入力手段が比較的小さい行番号の行に位置するセンサ電極206に近接している状況である。この時、入力手段と重なり得る構成は多く、ピーク電極、およびこのピーク電極を中心として第n列と反対側に配置された補助配線232である。
図18の例では、ハッチングが施された補助配線232が入力手段と重なり得る。したがって、ピーク電極よりも(i+1)行側のセンサ電極206(
図18の例では、センサ電極206(3,n)から206(6,n))が配線影響を受ける。この場合、入力位置から最も離れたセンサ電極206(m,n)では、入力手段とセンサ電極206間の静電容量の寄与が最小であり、同時に配線影響が反映されている。センサ電極206(m,n)に行方向で隣接するセンサ電極206(m,n-1)では配線影響は無視できるので、センサ電極206(m,n)のセンサ値からセンサ電極206(m,n-1)のセンサ値を減じることで得られる値を配線増分として算出する。この配線増分が配線影響に起因するセンサ値の増分に対応する。
【0076】
(2-2)補正
配線増分が0以下の場合には、配線影響は無視できる程度であるため、補正を行う必要性は低い。よって、いずれのセンサ電極206のセンサ値に対しても補正を行わなくてもよい。一方、配線増分が正であれば、配線影響を受けたセンサ電極206から配線増分を減じる。すなわち、第(i+1)行第n列から第m行第n列のセンサ電極206の前記センサ値に対し、配線増分を減じる補正を行う。
図18に示す例では、ハッチングが施されたセンサ電極206(3,n)から206(6,n)のセンサ値から配線増分が減じられる。
【0077】
この処理により、ピーク電極に対して列方向で隣接する一つまたは二つのセンサ電極206のセンサ値から配線影響を低減または排除することができる。その結果、入力位置の列方向の座標を正確に算出することができる。
【0078】
5.変形例
本発明の実施形態の一つに係る表示装置100のセンサモジュール200の構成は、上記構成に限られない。例えば
図19に示すように、補助配線を設けなくてもよい。
図19に示されるように、全てのセンサ電極206の面積を互いに同一にすることで、入力手段の近接に起因する電位変動量の行依存性が低減するため、より正確に入力手段の座標を特定することができる。図示しないが、行番号が増大にするに従ってセンサ電極206の面積が減少するようにセンサモジュール200を構成してもよい。このような配置を採用することで、センサ配線230のレイアウトが簡素化され、かつ、高密度でセンサ配線230を配置することができる。
【0079】
補助配線を設けない場合には、一つの列(例えば第j列)のセンサ電極206に接続されるセンサ配線230と、当該列に隣接する列(第(j-1)列または第(j+1)列)のセンサ電極206間の距離を小さくすることができる。しかしながら、この場合、センサ配線230は隣接する列の電位変動の影響を受け易くなる。この影響は、行番号が小さくなるほど(すなわち、端子214からの距離が増大するほど)増大する。このため、
図20に示すように、シールド配線238を隣接する列に配置されるセンサ電極206の間に設けてもよい。シールド配線238もセンサ電極206やセンサ配線230で使用可能な材料を含むことができ、好ましくはセンサ電極206やセンサ配線230と同一の材料を含み、同様の表面モルフォルジを有する。これにより、製造工程が簡素化され、かつ、センサ領域208の全体に亘ってほぼ均一な光学特性を得ることができるので、モアレの発生を効果的に防止することができる。
【0080】
シールド配線238も駆動回路216に接続され、センサ電極206と同相のパルス状交流電圧が印加される。シールド配線238を配置することにより、隣接する列のセンサ電極206の電位変動のセンサ配線230に対する影響を低減することができる。その結果、入力位置をより正確に特定することができる。さらに、行番号が減少するに従ってその幅(すなわち、行方向における長さ)が段階的にまたは連続的に増大するようにシールド配線238を構成してもよい。このように、列方向で幅が可変するシールド配線238を配置することにより、近接する入力手段とセンサ領域208間の電界が歪むことなく均一となり、この電界のうちセンサ電極206と重なる電界が容量変化として検出されるため、行に依存せずにばらつきの検出感度を維持することができる。
【0081】
補助配線が設けられない場合には、入力手段と補助配線の間で形成される静電容量に起因する配線影響が存在しない。したがって、補助配線を含まないセンサモジュール200における補正方法としては、上述した第1の補正処理におけるj=1の場合の補正処理を全てのセンサ電極206に対して適用すればよい。
【0082】
上述したように、本発明の実施形態の一つに係るセンサモジュール200およびこれを含む表示装置100では、入力手段とセンサ配線230間の静電容量や入力手段と補助配線232間の静電容量の形成に起因する配線影響を低減または排除するための補正処理が行われる。このため、入力位置を正確に特定することが可能である。本発明の実施形態を実施することで、操作性の高いセンサモジュールやこれを含む表示装置を提供することが可能となる。
【0083】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態の表示装置やセンサモジュールを基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0084】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0085】
100:表示装置、102:接着層、110:表示モジュール、112:アレイ基板、114:対向基板、116:画素、118:コネクタ、120:表示領域、200:センサモジュール、202:センサ基板、204:カバー基板、206:センサ電極、208:センサ領域、210:第2のコネクタ、212:第1のコネクタ、214:端子、216:駆動回路、218:電源回路、220:検出器、222:演算素子、224:インターフェース、226:ノイズシールド層、228:層間絶縁膜、230:センサ配線、232:補助配線、234:保護膜、236:接着層、238:シールド配線