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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174267
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20231130BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
E04B1/58 505L
E04B1/58 508L
E04B1/26 F
E04B1/26 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087024
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】高谷 真次
(72)【発明者】
【氏名】難波 賢太
(72)【発明者】
【氏名】皆川 宥子
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB12
2E125AC24
2E125AG41
2E125BE07
(57)【要約】
【課題】木質材による柱部材、梁部材を好適に接合できる、木質材を用いた接合構造等を提供する。
【解決手段】接合構造1は、木質材21を用いた柱部材2と木質材31を用いた梁部材3を接合するものである。接合構造1は、鋼板を井型に組み合わせた井型鋼板11と、井型鋼板11の中央の角筒部分に配置された木質材による芯材12と、を有する。柱部材2と梁部材3の木質材21、31の端部が、角筒部分の外側の、鋼板によって凹字状に囲まれた空間に配置され、井型鋼板11に接合される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材を用いた柱部材と木質材を用いた梁部材の接合構造であって、
鋼板を井型に組み合わせた井型鋼板と、
前記井型鋼板の角筒部分に配置された木質材による芯材と、
を有し、
前記柱部材と前記梁部材の木質材の端部が、前記角筒部分の外側の、前記鋼板によって凹字状に囲まれた空間に配置され、前記井型鋼板に接合されたことを特徴とする接合構造。
【請求項2】
前記角筒部分の外面に孔あき鋼板が設けられ、
前記柱部材と前記梁部材の木質材の端部が、当該端部に設けた孔と前記孔あき鋼板の孔に棒材を挿通することで前記井型鋼板に接合されたことを特徴とする請求項1記載の接合構造。
【請求項3】
前記芯材は、前記角筒部分の軸方向の前後に分割されていることを特徴とする請求項1記載の接合構造。
【請求項4】
前記井型鋼板の端部が、前記柱部材の側部に設けた鋼板と接合されたことを特徴とする請求項1記載の接合構造。
【請求項5】
前記角筒部分の内部空間から前記柱部材と前記梁部材の木質材の端部にボルトをねじ込むことで、前記柱部材と前記梁部材の木質材の端部が前記井型鋼板に接合されたことを特徴とする請求項1記載の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱部材と梁部材の接合構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
集成材などの木質材には、繊維方向と繊維直交方向とで剛性や耐力が大きく異なるものが多く、繊維直交方向の剛性等が繊維方向に比べて小さい。そのため、木質材を用いた柱部材と梁部材の接合部において、単に柱部材と梁部材を当接させると、柱部材と梁部材のうちの一方が他方の部材の繊維直交方向にめり込み、応力伝達がうまくいかないという問題が起こり得る。
【0003】
これに対し、特許文献1では、木質材による柱部材と梁部材の接合箇所に、コンクリートによる接合部材を設け、この接合部材に柱部材の端部と梁部材の端部が当接する納まりとしたものが開示されており、接合部材をコンクリートとすることで、上記のめり込みは生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-111930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、柱部材と梁部材の接合箇所にコンクリートによる接合部材を設ける場合、意匠面等において、柱部材や梁部材を木造にした意味が損なわれることになる。
【0006】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、木質材による柱部材、梁部材を好適に接合できる、木質材を用いた接合構造等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するための本発明は、木質材を用いた柱と木質材を用いた梁の接合構造であって、鋼板を井型に組み合わせた井型鋼板と、前記井型鋼板の角筒部分に配置された木質材による芯材と、を有し、前記柱と前記梁の木質材の端部が、前記角筒部分の外側の、前記鋼板によって凹字状に囲まれた空間に配置され、前記井型鋼板に接合されたことを特徴とする接合構造である。
【0008】
本発明に係る接合構造では、柱部材と梁部材の接合箇所に木質材を芯材として採用し、その周囲に井型鋼板を配することで、芯材のめりこみを低減、分散させ、井型鋼板と芯材による応力伝達が好適に行われ、接合箇所の応力と変位に関し、安定した履歴特性を実現することができる。また接合箇所に木質材を用いることで、意匠面等においても好ましい。
【0009】
前記角筒部分の外面に孔あき鋼板が設けられ、前記柱と前記梁の木質材の端部が、当該端部に設けた孔と前記孔あき鋼板の孔に棒材を挿通することで前記井型鋼板に接合されることも好ましい。
これにより、梁部材のせん断力を井型鋼板を介して柱部材に伝達でき、柱部材のせん断力を井型鋼板を介して梁部材に伝達することも可能になる。
【0010】
前記芯材は、前記角筒部分の軸方向の前後に分割されていることが望ましい。
これにより、芯材の角筒部分への設置作業が簡易になる。
【0011】
前記井型鋼板の端部が、前記柱部材の側部に設けた鋼板と接合されることが望ましい。
これにより、柱部材の鋼板に曲げ耐力等を負担させることができ、柱部材の構造性能が向上し、靭性に優れた構造となる。
【0012】
前記角筒部分の内部空間から前記柱部材と前記梁部材の木質材の端部にボルトをねじ込むことで、前記柱部材と前記梁部材の木質材の端部が前記井型鋼板に接合されることも望ましい。
この場合、柱部材や梁部材の木質材と井型鋼板の間で、接合手段であるボルトを介して応力を伝達できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、木質材による柱部材、梁部材を好適に接合できる、木質材を用いた接合構造等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】接合構造1を含む架構を示す図。
図2】井型鋼板11について説明する図。
図3】柱部材2の断面と連結箇所Cを示す図。
図4】梁部材3の断面と連結箇所Cを示す図。
図5】接合構造1を含む架構の構築方法を示す図。
図6】井型鋼板11aを示す図。
図7】芯材12aについて説明する図。
図8】井型鋼板11b、11c、11dを示す図。
図9】接合構造1aを含む架構を示す図。
図10】柱部材2と梁部材3の接合箇所を示す図。
図11】接合構造1aを含む架構の構築方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
(1.接合構造1)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る接合構造1を含む架構を示す図である。この架構は、建物の外周部の架構であり、柱部材2、4と梁部材3から構成される単一構面のラーメン構造を有し、柱部材2は、左右の柱部材4の間に配置される。梁部材3は、柱部材2、4の間に架設される。
【0017】
柱部材2には、集成材やBP材などの木質材21が用いられ、その繊維方向(強軸方向)が部材軸方向となるように配置される。これは、柱部材2は軸力の影響が大きいためである。BP材は、接着材で積層した構造用製材を、接着材によって束ねた大断面の構造用木質材料である。
【0018】
一方、梁部材3にはLVLやCLTなどの異方性の小さい木質材31が用いられる。ただし、集成材やBP材などを用いることも可能である。梁部材3は、柱部材2の上下に配置される。
【0019】
また本実施形態において、柱部材4は通し柱とされており、例えば鋼管等の鋼材が用いられるが、これに限ることはない。
【0020】
本実施形態の接合構造1は、柱部材2と梁部材3の接合箇所に配置され、これらの部材を接合する。接合構造1は、井型鋼板11の内部に、木質材による芯材12を配置したものである。木質材はLVLやCLTなどの異方性の小さなものとするが、これに限らない。
【0021】
図2(a)は、井型鋼板11を示す斜視図である。井型鋼板11は、鋼板を井型に組み合わせたもので、鋼板同士を溶接等により接合することで形成できる。井型鋼板11の中央には角筒部分111が形成され、その4つの外面には、角筒部分111の軸方向(図2(a)の奥行方向に対応する)と直交する面に沿った孔あき鋼板112が、木質材21、31の接合手段として設けられる。
【0022】
芯材12は、角筒部分111の内部空間に配置される。図2(b)に示すように、芯材12は、角筒部分111の内部空間を角筒部分111の軸方向の前後に半割した立体形状を有し、一対の芯材12が角筒部分111の前後から挿入される。これらの芯材12は、通しボルト、スクリューネイル、接着材等の固定手段(不図示)により互いに固定され、一体化される。
【0023】
角筒部分111の外側は、鋼板によって凹字状に囲まれた空間110a~110dとなっているが、当該空間110a~110dには、柱部材2や梁部材3を構成する木質材21、31の端部が配置される。
【0024】
例えば、角筒部分111の右側の空間110aには、図2(c)に示すように梁部材3の木質材31の端部が配置される。木質材31は、梁部材3の半幅に相当する幅を有し、一対の木質材31の端部が、孔あき鋼板112を前後に挟むように上記の空間110aに配置される。なお「幅」は角筒部分111の軸方向に沿った長さを指すものとする。
【0025】
木質材31の端部には孔311が設けられており、各木質材31の孔311が孔あき鋼板112の孔と連通する。これらの孔に棒材であるドリフトピンDPを挿通することで、各木質材31の端部が井型鋼板11と接合される。
【0026】
図2(c)では省略しているが、角筒部分111の左側の空間110bにも、前後一対の木質材31の端部が上記と同様に配置され、ドリフトピンDPにより角筒部分111と接合される。なお、木質材31の柱部材4側の端部は、柱部材4に固定したH形鋼等のブラケット41にドリフトピンやボルト等の接合手段(不図示)を用いて接合される。
【0027】
一方、角筒部分111の上方の空間110cには、図2(c)に示すように柱部材2の木質材21の端部が配置される。木質材21は、柱部材2の半幅に相当する幅を有し、一対の木質材21の端部が、孔あき鋼板112を前後に挟むように上記の空間110cに配置される。前記と同様、木質材21の端部には孔211が設けられており、各木質材21の孔211が孔あき鋼板112の孔と連通するので、これらの孔にドリフトピンDPを挿通することで、各木質材21の端部が井型鋼板11と接合される。
【0028】
図2(c)では省略しているが、角筒部分111の下方の空間110dにも、前後一対の木質材21の端部が上記と同様に配置され、ドリフトピンDPにより角筒部分111と接合される。
【0029】
図3(a)は、柱部材2の部材軸方向と直交する断面(以下単に断面という)を示す図である。
【0030】
柱部材2は、前記したように木質材21を前後(図3(a)の上下方向に対応する)に重ねて形成されるが、本実施形態では、その左右の側部に鋼板22が設けられる。
【0031】
鋼板22は、図1に示すように柱部材2に沿って上下に延びるように配置され、鋼板22の上下の端部は、柱部材2の上方に位置する井型鋼板11の下端部と、柱部材2の下方に位置する井型鋼板11の上端部に連結される。図1の符号Cはこの連結箇所を示したものである。
【0032】
鋼板22は、柱部材2の構造性能向上のために設けられ、柱部材2の曲げ耐力等を負担して柱部材2に靭性を付与する。図3(a)に示すように、各鋼板22の外側には木質材による被覆材23が設けられ、ラグスクリューなどのボルトBを用いて木質材21に固定される。ボルトBは被覆材23側からねじ込まれ、その軸部が鋼板22の孔を貫通して木質材21に達する。
【0033】
ボルトBの頭部は被覆材23に座彫り等で設けた凹部231に配置される。凹部231は木栓等の穴埋め材232によって塞がれ、意匠性が向上し、またボルトBが熱橋となるのが防止される。
【0034】
被覆材23には、例えば薬剤を含浸させた集成材が用いられ、柱部材2の耐火被覆と意匠性向上の役割を有する。さらに、被覆材23は、鋼板22を拘束して鋼板22のはらみ出しを防止する補剛材としての役割も有し、これにより柱部材2の構造性能を維持する。鋼板22の外側の被覆材23は、補剛材として機能できる程度の厚みとする。
【0035】
同様の被覆材23は、柱部材2の前後の面にも設けられ、柱部材2の耐火被覆、意匠性向上を実現する。これらの被覆材23は、接着材等を用いて木質材21に固定される。なお、柱部材2の前後の被覆材23は補剛材としての役割を有しないので、その厚みは抑えることが可能である。
【0036】
図3(b)は、鋼板22の端部と井型鋼板11の端部の連結箇所Cを示す図である。本実施形態では、鋼板22の端部と井型鋼板11の端部を突き合わせ、鋼板22の端部と井型鋼板11の端部の間に跨るように、これらの端部の左右両側に添接板Pを配置する。左右の添接板Pを、これらの端部を挟んで高力ボルトとナットによる締結具Fで締結することで、鋼板22の端部と井型鋼板11の端部が連結される。
【0037】
また本実施形態では、連結箇所Cにおいて木質材21と被覆材23に凹部212、233が形成されており、上記の添接板Pや締結具Fは、凹部212、233によって形成された空間内に収められる。
【0038】
図4(a)は、梁部材3の断面を示す図である。梁部材3も、前記したように木質材31を前後(図4(a)の左右方向に対応する)に重ねて形成され、且つ、その上下に鋼板32が設けられる。
【0039】
下方の鋼板32の下側には、薬剤を含浸した集成材等による被覆材33が配置され、この被覆材33は、前記と同様、耐火被覆、意匠性向上、補剛材等の役割を有する。被覆材33はラグスクリューなどのボルトBを用いて木質材31に固定される。ボルトBは被覆材33側からねじ込まれ、その軸部が鋼板32の孔を貫通して木質材31に達する。ボルトBの頭部は被覆材33に座彫り等で設けた凹部331に配置され、凹部331は木栓等の穴埋め材332によって塞がれる。
【0040】
同様の被覆材33は、梁部材3の前後の面にも設けられ、梁部材3の耐火被覆、意匠性向上を実現する。これらの被覆材33は、接着材等を用いて木質材31に固定される。前記と同様、梁部材3の前後の被覆材33は補剛材としての役割を有しない。
【0041】
上方の鋼板32の上側には、コンクリートを打設することによりスラブ5が形成される。本実施形態では、ボルトBの軸部が上方の鋼板32を貫通して木質材31の上部に達するようにねじ込まれるが、ボルトBの上部はスラブ5のコンクリートに埋設され、スラブ5のずれ止めのためのシアキーとして機能する。
【0042】
図1に示すように、鋼板32の井型鋼板11側の端部は、井型鋼板11の端部に連結される。図4(b)は、梁部材3の下方の鋼板32について、この連結箇所Cを示したものである。当該連結箇所Cに関しても、前記と同様、鋼板32の端部と井型鋼板11の端部が突き合わせられ、鋼板32の端部と井型鋼板11の端部の間に跨るように、これらの端部の上下両側に添接板Pが配置される。上下の添接板Pを、これらの端部を挟んで高力ボルトとナットによる締結具Fで締結することで、鋼板32の端部と井型鋼板11の端部が連結される。
【0043】
この連結箇所Cにおいても、木質材31と被覆材33に凹部312、333が形成されており、上記の添接板Pや締結具Fはこれらの凹部312、333によって形成された空間内に収められる。
【0044】
図4(b)は梁部材3の下方の鋼板22の連結箇所Cを示したものであるが、上方の鋼板32の連結箇所Cも基本的には同様の構成となる。ただし、スラブ5には上記の凹部が設けられない。なお、上下の鋼板32の柱部材4側の端部は、柱部材4のブラケット41のフランジに連結できる。その連結方法は特に限定されないが、例えば上下の鋼板32の井型鋼板11側の端部の連結箇所Cと同様の構成を採ることができる。
【0045】
(2.架構の構築方法)
図5は、接合構造1を含む架構の構築方法を示す図である。本実施形態では、図5(a)に示すように下層の井型鋼板11、芯材12が配置され、下層の梁部材3とスラブ5が構築された状態で、図5(b)に示すように、柱部材2の左右の鋼板22を下層の井型鋼板11の上端部に連結し、立設させる。さらに、これらの鋼板22の上端部に上層の井型鋼板11の下端部を連結する。
【0046】
その後、図5(c)に示すように、上層の梁部材3の上下の鋼板32を、井型鋼板11の左右の端部と柱部材4のブラケット41に連結する。また柱部材2の鋼板22の間に、柱部材2を構成する一対の木質材21を前後から挿入して木質材21の上下の端部を上下の井型鋼板11のそれぞれに接合し、上層の井型鋼板11の角筒部分111(図2(a)参照)に、前後一対の芯材12を前記したように配置する。
【0047】
次に、図5(d)に示すように、上層の梁部材3の鋼板32の間に、梁部材3を構成する一対の木質材31を前後から挿入し、木質材31の左右の端部を井型鋼板11とブラケット41のそれぞれに接合する。また柱部材2の被覆材23を前記したように設置する。
【0048】
この後、上層の梁部材3の被覆材33を設置し、上層の梁部材3の上にコンクリートを打設してスラブ5を構築することで、図1に示す架構が構築される。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係る接合構造1では、柱部材2と梁部材3の接合箇所に木質材を芯材12として採用し、その周囲に井型鋼板11を配することで、芯材12のめりこみを低減、分散させ、井型鋼板11と芯材12による応力伝達が好適に行われ、芯材12が平行四辺形状に変形することで、接合箇所の応力と変位に関し、安定した履歴特性を実現することができる。
【0050】
また、井型鋼板11の角筒部分111は、柱部材2や梁部材3、芯材12と面接触してこれらの部材に拘束されるため、角筒部分111の座屈を抑えることで、鋼板の圧縮耐力を有効に引き出すことができる。さらに、柱部材2や梁部材3、芯材12に用いる木質材は、コンクリートや鉄に比べて生産時のCO2排出量が少ない環境に配慮した材料であり、本発明では、木を現しにした意匠性の高い架構としながら、鋼材の性能を最大限に活用し、架構に加わるモーメントを負担して安定した剛性・耐力を発揮する接合構造1を実現できる。また木質材を用いた乾式工法とすることにより、架構の構築が容易になる。
【0051】
また本実施形態では、井型鋼板11の孔あき鋼板112を介して梁部材3のせん断力を柱部材2に伝達でき、柱部材2のせん断力を梁部材3に伝達することも可能になる。
【0052】
また本実施形態では、井型鋼板11の角筒部分111に前後一対の芯材12を配置し一体化する構成とすることで、芯材12を角筒部分111に対して前後から押し込めば良く、簡易な作業によって合理的に芯材12の設置を行うことが可能となる。芯材12を、角筒部分111の内部空間に相当する寸法を有する、前後に分割されない単一の部材とすることも可能であるが、芯材12が厚くなる分入手困難性が増し、角筒部分111に挿入する作業もやや難しくなる。
【0053】
また本実施形態では井型鋼板11の端部が柱部材2の側部に設けた鋼板22と接合されるので、柱部材2の鋼板22に曲げ耐力等を負担させることができ、柱部材2の構造性能が向上し、靭性に優れた構造となる。
【0054】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば本実施形態の接合構造1は、モーメント負担を想定した接合構造1の実現、接合構造1の簡素化、意匠性を意識した構造等の観点から、建物の外周部において、図1に示す単一構面のラーメン構造に適用することを想定しているが、建物の内部において、図1に示す構面と、当該構面と直交する構面内の二方向のラーメン構造の接合箇所に適用してもよい。
【0055】
この場合、梁部材3は、さらに、図1の紙面法線方向に延びるように配置され、井型鋼板は、図2(a)の井型鋼板11と、当該井型鋼板11を平面において90°回転させた井型鋼板11とを組み合わせた形状とできる。ただしこの場合、構成が複雑になるという欠点がある。
【0056】
あるいは、建物の内部において採用する場合でも、図1に示す構面のみラーメン構造とし、図1の紙面法線方向に延びる梁部材3を図6に示す井型鋼板11aにピン接合してもよい。この井型鋼板11aは、前記の井型鋼板11に加え、角筒部分111の内部空間を左右に区画する鋼板113を角筒部分111の軸方向に沿って配置した構成を有し、この鋼板113を上記の梁部材3の木質材31のピン接合に用いることが可能である。この場合、比較的簡易な構成とできる。
【0057】
また芯材12に関しても、図7(a)に示すように、芯材12aの側面を井型鋼板11側に窄まるテーパ面121とすることで、角筒部分111への芯材12aの挿入が容易になる。且つ、図7(b)に角筒部分111の水平方向の断面を示すように、角筒部分111への芯材12aの挿入時にテーパ面121が圧縮されることで、角筒部分111に対する芯材12aの施工誤差を吸収し、芯材12aを角筒部分111の内面に隙間なく面接触させることが可能になる。図7(a)の例では芯材12aの対向する2つの側面をテーパ面121としているが、芯材12aの4つの側面全てをテーパ面121としても良い。なお、前記したように芯材12を単一の部材とする場合は、テーパ面121による施工誤差の吸収が難しい(テーパの窄まり側で大きな隙間ができやすい)という欠点もある。
【0058】
また本実施形態では被覆材23、33に薬剤を含浸させて耐火被覆としての役割を持たせているが、場合によっては被覆材23、33に耐火性能が要求されないこともあり、この場合は薬剤を含浸しない木質材を用いることも可能である。また鋼板22、32の外側以外の被覆材23、33を省略することも可能である。
【0059】
また、角筒部分111に補強板を配置して補強を行うことも可能である。例えば図8(a)の井型鋼板11bに示すように、角筒部分111内に、角筒部分111の断面の一方の対角線に沿って補強板114を配置することができ、図8(b)の井型鋼板11cに示すように、対角線の双方に沿って補強板114をX字状に配置することもできる。また図8(c)の井型鋼板11dに示すように、角筒部分111の内部空間を前後に区画する補強板114を、角筒部分111の軸方向と直交する面に沿って配置してもよく、これらの補強板114により剛性が向上し、異方性を有する木質材を芯材12として用いることも可能になる。補強板114は例えば鋼板とするが、これに限らない。
【0060】
[第2の実施形態]
図9は、本発明の第2の実施形態に係る接合構造1aを含む架構を示す図である。本実施形態の接合構造1aは、柱部材2、梁部材3の鋼板22、32が省略される代わりに、柱部材2や梁部材3の木質材21、31の端部がボルトBやネジにより井型鋼板11に接合される点で、第1の実施形態と異なる。
【0061】
上記のボルトBは、図10(a)に示すように、井型鋼板11の角筒部分111の内部空間側からねじ込まれ、ボルトBの軸部が、予め木質材21、31の端面に埋設した雌ネジ213、313(図9参照)に螺合される。ボルトBの頭部は角筒部分111の内部空間に突出するため、図10(b)に示すように、芯材12bにおいて、ボルトBの頭部に当たる位置には、当該頭部を収容するための溝122が形成される。
【0062】
また本実施形態では、図10(a)に示すように、角筒部分111の外側の鋼板によって凹字状に囲まれた空間に配置された木質材21、31の端部が、当該端部を挟むようにして配置される一対の鋼板のそれぞれと、パネリード(登録商標)などのネジSによって接合される。ネジSは、当該鋼板側からねじ込まれる。
【0063】
図11は、接合構造1aを含む架構の構築方法を示す図である。本実施形態では、図11(a)に示すように下層の井型鋼板11が配置され、下層の梁部材3とスラブ5が構築された状態で、図11(b)に示すように、柱部材2の木質材21に上層の井型鋼板11をボルトB等で接合したものを、下層の井型鋼板11上に配置する。そして、木質材21の下端部をボルトB等により下層の井型鋼板11に接合する。木質材21の上下の端部には、ボルトBの軸部を螺合するための雌ネジ213が予め埋設されている。
【0064】
その後、図11(c)に示すように、柱部材2の木質材21の周囲に被覆材23を設置するともに、下層の井型鋼板11の角筒部分111(図10(a)参照)の内部空間に芯材12bを挿入する。被覆材23は柱部材4の前後左右の4つの側面に設置され、接着材等で木質材21に固定される。
【0065】
さらに、上層の梁部材3の木質材31を設置し、木質材31の井型鋼板11側の端部をボルトB等により井型鋼板11に接合する。木質材31の井型鋼板11側の端面には、ボルトBの軸部を螺合するための雌ネジ313が予め埋設されている。なお、木質材31の柱部材4側の端部は、柱部材4に固定されたブラケット41にドリフトピンやボルト等の接合手段(不図示)を用いて接合することができる。
【0066】
次に、図11(d)に示すように上層の梁部材3の被覆材33を設置し、上層の梁部材3の上にコンクリートを打設してスラブ5を構築する。被覆材33は梁部材3の前後面および下面の3つの側面に設置され、接着材等で木質材31に固定される。以上の工程を繰り返すことで、架構が上層へと順に構築される。
【0067】
以上説明した第2の実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また第2の実施形態では、柱部材2や梁部材3の木質材21、31と井型鋼板11の間で、接合手段であるボルトBやネジSによって応力が伝達され、鋼板22、32が省略されることで施工が容易になるという利点もある。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0069】
1、1a:接合構造
2、4:柱部材
3:梁部材
5:スラブ
11、11a、11b、11c、11d:井型鋼板
12、12a、12b:芯材
21、31:木質材
22、32:鋼板
23、33:被覆材
111:角筒部分
112:孔あき鋼板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11