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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174291
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】回転陽極型X線管
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/10 20060101AFI20231130BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H01J35/10 N
F16C17/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087055
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野関 直人
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 弘行
【テーマコード(参考)】
3J011
【Fターム(参考)】
3J011AA04
3J011AA08
3J011BA04
3J011JA02
3J011KA02
3J011KA03
3J011KA05
3J011LA04
3J011MA21
3J011RA01
3J011SB02
3J011SB15
(57)【要約】
【課題】 振動の発生を抑制可能な回転陽極型X線管を提供する。
【解決手段】陽極ターゲットと、陰極と、回転軸線を中心に回転可能である筒部と、前記筒部の一端に設けられ前記陽極ターゲットが連結されている連結部と、を有している回転体と、固定シャフトと、を有している軸受と、外囲器と、を備え、前記回転体は、ろう材と、前記ろう材を介して前記筒部に接合される接合面を含む第1内周面と、前記回転軸線に直交する方向において前記第1内周面よりも前記筒部から離れている第2内周面と、を有している第1円筒と、前記接合面と対向する領域において前記第1円筒の第1外周面に固定されている第2円筒と、を有し、前記回転軸線に直交し前記接合面の前記回転軸線に沿った方向における前記陽極ターゲットと反対側の一端を通る平面を仮想平面とした場合、前記第2円筒は、前記仮想平面上に存在している回転陽極型X線管。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極ターゲットと、
前記陽極ターゲットに対向して配置された陰極と、
回転軸線を中心に回転可能であり前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成されている筒部と、前記筒部の一端に設けられ前記陽極ターゲットが連結されている連結部と、を有している回転体と、前記回転軸線に沿って延出し前記回転体を回転可能に支持する固定シャフトと、を有している軸受と、
前記陽極ターゲット及び前記陰極を収納し、前記固定シャフトを固定している外囲器と、を備え、
前記回転体は、
ろう材と、
前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記ろう材を介して前記筒部に接合される接合面を含む第1内周面と、前記第1内周面に隣接し前記回転軸線に直交する方向において前記第1内周面よりも前記筒部から離れている第2内周面と、を有している第1円筒と、
前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記接合面と対向する領域において前記第1円筒の第1外周面に固定されている第2円筒と、を有し、
前記回転軸線に直交し前記接合面の前記回転軸線に沿った方向における前記陽極ターゲットと反対側の一端を通る平面を仮想平面とした場合、前記第2円筒は、前記仮想平面上に存在している、
回転陽極型X線管。
【請求項2】
前記第1内周面と前記筒部の第2外周面との間の隙間を第1隙間とし、
前記第2内周面と前記第2外周面との間の隙間を第2隙間とし、
前記第1隙間と前記第2隙間との境界を通り前記回転軸線に直交する平面を境界面とした場合、
前記ろう材の前記回転軸線に沿った方向における前記陽極ターゲットと反対側の一端は、前記第1隙間と前記第2隙間との境界面に位置し、又は前記第2隙間に位置し、
前記仮想平面は、前記境界面と同一平面上に位置している、
請求項1に記載の回転陽極型X線管。
【請求項3】
前記第2円筒は、前記回転軸線を中心とする円周方向に連続して円環状に形成されている、
請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
【請求項4】
前記第2円筒の熱膨張係数は、前記第1円筒の熱膨張係数よりも小さい、
請求項3に記載の回転陽極型X線管。
【請求項5】
前記回転体は、前記筒部の第2外周面に設けられている制限部を有し、
前記第1円筒の前記回転軸線に沿った方向における前記陽極ターゲット側の端面は、前記制限部に接触している、
請求項1に記載の回転陽極型X線管。
【請求項6】
前記回転体に固定され、前記回転軸線に沿って筒状に形成され、前記第1外周面を囲み、前記陽極ターゲットから前記第1円筒への輻射熱を遮る遮熱板を更に備え、
前記第1内周面は、前記回転軸線に沿った方向において前記第2内周面と前記陽極ターゲットとの間に位置し、
前記遮熱板は、前記第1外周面から離れる方向に向かう屈曲が全周に亘って連続して形成された接触回避部を有し、
前記接触回避部は、前記仮想平面上に存在している、
請求項1又は5に記載の回転陽極型X線管。
【請求項7】
前記第1外周面は、大外周面と、前記大外周面よりも前記回転軸線側に位置する小外周面と、から構成され、
前記第2円筒は、前記小外周面に固定され、
前記第2円筒の第3外周面は、前記大外周面よりも前記回転軸線側に位置している、
請求項6に記載の回転陽極型X線管。
【請求項8】
陽極ターゲットと、
前記陽極ターゲットに対向して配置された陰極と、
回転軸線を中心に回転可能であり前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成されている筒部と、前記筒部の一端に設けられ前記陽極ターゲットが連結されている連結部と、を有している回転体と、前記回転軸線に沿って延出し前記回転体を回転可能に支持する固定シャフトと、を有している軸受と、
前記陽極ターゲット及び前記陰極を収納し、前記固定シャフトを固定している外囲器と、を備え、
前記回転体は、
ろう材と、
前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記ろう材を介して前記筒部に接合される接合面を含む第1内周面と、前記第1内周面に隣接し前記回転軸線に直交する方向において前記第1内周面よりも前記筒部から離れている第2内周面と、を有している第1円筒と、
前記筒部の第2外周面に設けられている制限部と、を有し、
前記第1円筒の前記回転軸線に沿った方向における前記陽極ターゲット側の端面は、前記制限部に接触している、
回転陽極型X線管。
【請求項9】
前記制限部の剛性は、前記第1円筒の剛性より高い、
請求項8に記載の回転陽極型X線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転陽極型X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線を使用して被写体を診断する医療用機器や工業用機器には、X線発生源としてX線管装置が使用されている。X線管装置として、回転陽極型のX線管(以下、「回転陽極型X線管」とも称する)を備えた回転陽極型X線管装置が知られている。
【0003】
回転陽極型X線管装置は、X線を放射する回転陽極型X線管と、ステータコイルと、これら回転陽極型X線管及びステータコイルを収容したハウジングとを備えている。回転陽極型X線管は、固定シャフトと、電子を発生する陰極と、陽極ターゲットと、回転体と、外囲器とを備えている。回転体は、筒部と、第1円筒(銅シリンダ)とを有している。第1円筒は、ろう材を介して筒部に接合されることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-94343号公報
【特許文献2】特開平11-213925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、振動の発生を抑制可能な回転陽極型X線管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係る回転陽極型X線管は、陽極ターゲットと、前記陽極ターゲットに対向して配置された陰極と、回転軸線を中心に回転可能であり前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成されている筒部と、前記筒部の一端に設けられ前記陽極ターゲットが連結されている連結部と、を有している回転体と、前記回転軸線に沿って延出し前記回転体を回転可能に支持する固定シャフトと、を有している軸受と、前記陽極ターゲット及び前記陰極を収納し、前記固定シャフトを固定している外囲器と、を備え、前記回転体は、ろう材と、前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記ろう材を介して前記筒部に接合される接合面を含む第1内周面と、前記第1内周面に隣接し前記回転軸線に直交する方向において前記第1内周面よりも前記筒部から離れている第2内周面と、を有している第1円筒と、前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記接合面と対向する領域において前記第1円筒の第1外周面に固定されている第2円筒と、を有し、前記回転軸線に直交し前記接合面の前記回転軸線に沿った方向における前記陽極ターゲットと反対側の一端を通る平面を仮想平面とした場合、前記第2円筒は、前記仮想平面上に存在している。
【0007】
また、一実施形態に係る回転陽極型X線管は、陽極ターゲットと、前記陽極ターゲットに対向して配置された陰極と、回転軸線を中心に回転可能であり前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成されている筒部と、前記筒部の一端に設けられ前記陽極ターゲットが連結されている連結部と、を有している回転体と、前記回転軸線に沿って延出し前記回転体を回転可能に支持する固定シャフトと、を有している軸受と、前記陽極ターゲット及び前記陰極を収納し、前記固定シャフトを固定している外囲器と、を備え、前記回転体は、ろう材と、前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記ろう材を介して前記筒部に接合される接合面を含む第1内周面と、前記第1内周面に隣接し前記回転軸線に直交する方向において前記第1内周面よりも前記筒部から離れている第2内周面と、を有している第1円筒と、前記筒部の第2外周面に設けられている制限部と、を有し、前記第1円筒の前記回転軸線に沿った方向における前記陽極ターゲット側の端面は、前記制限部に接触している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係るX線管装置を示す断面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図である。
図4図4は、第1実施形態に係る回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図である。
図5図5は、第2実施形態に係る回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図である。
図6図6は、第3実施形態に係る回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の趣旨を保っての適宣変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面や説明をより明確にするため、実際の様態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宣省略することがある。
以下、図面を参照しながら一実施形態に係る回転陽極型X線管について詳細に説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るX線管装置を示す断面図である。
図1に示すように、X線管装置は、回転陽極型X線管1と、磁界を発生させるコイルとしてのステータコイル2と、回転陽極型X線管1及びステータコイル2を収容したハウジング3と、ハウジング3内に充填された冷却液4とを備えている。
【0011】
回転陽極型X線管1は、軸受30と、陽極ターゲット50と、陰極60と、外囲器70と、遮熱板80とを備えている。軸受5は、固定シャフト10と、回転体20と、潤滑剤としての液体金属LMとを有している。
固定シャフト10は、円柱状に形成され、回転軸線aに沿って延在し、外周面に形成されたラジアル軸受面S11a,S11bを有している。固定シャフト10は、回転体20を回転可能に支持している。固定シャフト10は、径大部11及び径小部12から構成されている。径大部11及び径小部12は、同軸的に一体に形成されている。固定シャフト10は、Fe(鉄)合金やMo(モリブデン)合金などの金属で形成されている。
【0012】
径大部11は、外周面にラジアル軸受面S11a,S11bを有している。また、径大部11は、一端にスラスト軸受面S11iを有し、他端にスラスト軸受面S11jを有している。ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S11bは、それぞれ径大部の外周面に全周に亘って形成されている。
径小部12は、径大部11より外径の小さい円柱状に形成され、径大部の一端から延出して形成されている。径小部12は、スラスト軸受面S11iより回転軸線a側に位置している。
【0013】
回転体20は、固定シャフト10を中心に回転可能に構成されている。回転体20は、筒部21と、連結部22と、ろう材23と、第1円筒24と、第2円筒25とを有している。筒部21及び連結部22は、それぞれFe合金やMo合金等の金属で形成されている。筒部21及び連結部22の材料は、例えば、鉄ニッケル合金である。
【0014】
筒部21は、回転軸線aに沿って延出して筒状に形成され、固定シャフト10(径大部11)を囲んで位置している。筒部21は、回転軸線aを中心に回転可能である。筒部21は、全周に亘って均一な内径及び外径を有し、内周面にラジアル軸受面S21を含んでいる。
連結部22は、筒部21の一端に筒部21と同軸的に設けられ、陽極ターゲット50が連結されている。第1実施形態において、連結部22の筒部21と反対側の端部に陽極ターゲット50が連結されている。
【0015】
第1円筒24は、回転軸線aに沿って延出して筒状に形成され、筒部21の外周面(図2に記載の第2外周面21a)にろう材23を介して接合されている。第1円筒24は、銅(Cu)又は銅合金などの金属で形成されている。
第2円筒25は、回転軸線aに沿って延出して筒状に形成され、第1円筒24の外周面に固定されている。
第1円筒24及び第2円筒25の詳細については、図2の説明で後述する。
【0016】
液体金属LMは、固定シャフト10(径大部11)と、筒部21との間の隙間に充填されている。液体金属LMは、GaIn(ガリウム・インジウム)合金又はGaInSn(ガリウム・インジウム・錫)合金などの材料を利用することができる。液体金属LMは、固定シャフト10の軸受面及び回転体20の軸受面とともに動圧形のすべり軸受を形成している。
なお、軸受5は、動圧形のすべり軸受を形成する構成に限定されず、例えば、固定シャフト10と回転体20との間に玉軸受を有する構成としてもよい。
【0017】
遮熱板80は、回転体20に固定され、回転軸線aに沿って筒状に形成され、第1円筒24の外周面(図2に記載の第1外周面24a)を囲んで位置している。遮熱板80と第1円筒24の外周面との間には隙間が設けられている。上記隙間は、例えば、0.5mm程度とすることができる。遮熱板80は、陽極ターゲット50から第1円筒24への輻射熱を遮る。遮熱板80は、例えば、コバール(KOV)で形成されている。
【0018】
陽極ターゲット50は、傘状の略円板形状に形成され、固定シャフト10及び回転体20と同軸的に設けられている。陽極ターゲット50は、陽極ターゲット本体51と、陽極ターゲット本体51の外面の一部に設けられたターゲット層52とを有している。
【0019】
陽極ターゲット本体51は、モリブデン、タングステン、あるいはこれらを用いた合金で形成されている。ターゲット層52を形成する金属の融点は、陽極ターゲット本体51を形成する金属の融点と同一、又は陽極ターゲット本体51を形成する金属の融点より高い。例えば、陽極ターゲット本体51は、モリブデン合金で形成され、ターゲット層52はタングステン合金で形成されている。
【0020】
陽極ターゲット50は、回転体20とともに回転可能である。ターゲット層52のターゲット面S52に電子が衝突すると、ターゲット面S52に焦点が形成される。これにより、陽極ターゲット50は、焦点からX線を放出する。
【0021】
陰極60は、陽極ターゲット50のターゲット層52に間隔を置き、ターゲット層52に対向して配置されている。陰極60は、外囲器70の内壁に固定された支持部62に取り付けられている。陰極60は、ターゲット層52に照射する電子を放出する電子放出源としてのフィラメント61を有している。
【0022】
外囲器70は、円筒状に形成されている。外囲器70は、ガラス、セラミック、及び金属で形成されている。外囲器70において、陽極ターゲット50と対向した箇所の外径は、第1円筒24と対向した箇所の外径より大きい。外囲器70は、開口部71とX線を透過するX線透過窓72を有している。外囲器70は、密閉され、陽極ターゲット50及び陰極60を収納し、固定シャフト10を固定している。外囲器70の内部は真空状態(減圧状態)に維持されている。
【0023】
外囲器70の気密状態を維持するよう、開口部71は、固定シャフト10の一端部(径小部12)に気密に接合されている。外囲器70は、固定シャフト10の径小部12を固定している。すなわち、径小部12は、軸受5の片持ち支持部として機能している。
【0024】
ステータコイル2は、回転体20の外周面、より詳しくは第1円筒24の外周面に対向して外囲器70の外側を囲むように設けられている。ステータコイル2の形状は、環状である。ステータコイル2は、第1円筒24(回転体20)に与える磁界を発生して回転体20及び陽極ターゲット50を回転させる。
【0025】
ハウジング3は、円筒状に形成されている。ハウジング3は、例えば、アルミ鋳物のような脆性材料で形成されている。ハウジング3の内面には、X線を遮蔽する鉛板が張り付けられている。ハウジング3は、回転陽極型X線管1及びステータコイル2を支持する支持部3aを有している。
【0026】
冷却液4は、回転陽極型X線管1とハウジング3との間の空間に充填されている。冷却液4は、絶縁油又は水系冷却液を用いることができる。
上記のように回転陽極型X線管1を備えたX線管装置が形成されている。
【0027】
上記X線管装置の動作状態において、ステータコイル2は回転体20(特に第1円筒24)に与える磁界を発生するため、筒部21は回転する。これにより、陽極ターゲット50も一緒に回転する。また、陰極60に電流が与えられ負の電圧が印加され、陽極ターゲット50に相対的に正の電圧が印加される。
【0028】
これにより、陰極60と陽極ターゲット50との間に電位差が生じる。フィラメント61は電子を放出する。この電子は、加速され、ターゲット面S52に衝突する。これにより、ターゲット面S52に焦点が形成され、焦点は電子と衝突するときにX線を放出する。陽極ターゲット50に衝突した電子(熱電子)は、X線に変換され、残りは熱エネルギーに変換される。なお、陰極60の電子放出源としては、フィラメントに限定されるものではなく、例えば、フラットエミッタであってもよい。
【0029】
陽極ターゲット50で発生した熱は、ターゲット面S52から、ターゲット層52の内部、陽極ターゲット本体51、連結部22、筒部21、ろう材23、第1円筒24、第2円筒25の順に伝わる。第2円筒25が設けられていない場合、第1円筒24は、上記のように熱が伝わることと、X線管装置を使用していないときの自然冷却と、を繰り返すことで形状が変形し筒部21から剥がれる。
【0030】
図2は、第1実施形態に係る回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図である。
図2に示すように、回転体20は、筒部21、連結部22、ろう材23、第1円筒24、及び第2円筒25を有している。また、回転体20には遮熱板80が固定されている。
【0031】
第1円筒は、第1外周面24aと、第1内周面24bと、第2内周面24cとを有している。第1外周面24aは、遮熱板80に対向している。第1内周面24bは、ろう材23を介して筒部21の第2外周面21aに接合される接合面26を含んでいる。つまり、筒部21と第1円筒24との接合方法は、ろう接である。また、第1実施形態において、第1内周面24bは、回転軸線aに沿った方向において第2内周面24cと陽極ターゲット50との間に位置している。
【0032】
第1実施形態において、第1外周面24aは、大外周面24a1と小外周面24a2とから構成されている。小外周面24a2は、大外周面24a1よりも回転軸線aに直交する方向において回転軸線a側に位置している。なお、第1外周面24aは、大外周面24a1と小外周面24a2とから構成されなくともよく、回転軸線aを中心とする一の外径のみを有する外周面であってもよい。
【0033】
第2内周面24cは、第1内周面24bに隣接し、回転軸線aに直交する方向において第1内周面24bよりも筒部21から離れている。第1円筒24は、第2内周面24cから筒部21の第2外周面21aとの間の隙間(第2隙間)によって、第1円筒24から筒部21への熱伝導を抑制し、回転体20の軸受面及び固定シャフト10の軸受面を保護している。
【0034】
第2円筒25は、第1円筒24の第1外周面24aに固定され、回転軸線aを中心とする円周方向に連続して円環状に形成され、第3外周面25aを有している。第2円筒25の熱膨張係数は、第1円筒24の膨張係数よりも小さい。また、第2円筒25の剛性は、第1円筒24の剛性よりも大きい。第2円筒25の材料は、例えば、鉄系の材料である。
第2円筒25は、回転軸線aに直交する方向において接合面26と対向する領域に位置している。さらに、第1実施形態において、第2円筒25は、第1外周面24aの小外周面24a2に固定されている。第2円筒25の第3外周面25aは、回転軸線aに直交する方向において大外周面24a1よりも回転軸線a側に位置している。
【0035】
なお、第1外周面24aが大外周面24a1と小外周面24a2とから構成されていない場合、例えば、第1外周面24aが回転軸線aを中心とする一の外径のみを有する外周面であった場合、第2円筒25は、上記の第1外周面24aに固定される。この時、第2円筒25の第3外周面25aは、第1円筒24よりも回転軸線aに直交する方向において第1円筒24の第1外周面24aよりも回転軸線aから離れて位置している。第2円筒25の固定方法は、例えば、第1円筒24の融点より低い温度条件で行われる拡散接合である。
【0036】
遮熱板80は、筒状に形成され、上端部81と、接続部82と、接触回避部83とを有している。上端部81は、遮熱板80の回転軸線aに沿った方向における陽極ターゲット50側の端部である。接続部82は、上端部81と接触回避部83とを接続している。接触回避部83は、第1外周面24aから離れる方向に向かう屈曲が全周に亘って連続して形成されている。上記の第1外周面24aから離れる方向とは、回転軸線aに直交し、回転軸線aから離れる方向である。第1実施形態において、接触回避部83の屈曲の断面形状は、円弧状である。
【0037】
遮熱板80は、回転体20に固定されている。より詳細には、遮熱板80の上端部81は、回転体20の連結部22に固定されている。遮熱板80と回転体20との固定方法は、例えば、ねじによる締め付けである。なお、遮熱板80が固定される位置は、連結部22に限られず、例えば、筒部21の第2外周面21aに固定されてもよい。
【0038】
次に、ろう材23と第2円筒25との位置関係について説明する。
第1実施形態において、第1円筒24の第1内周面24bと筒部21の第2外周面21aとの間の隙間を第1隙間G1とすると、ろう材23は、第1隙間G1に設けられている。以下、第1内周面24bのうちろう材23によって第2外周面21aに固定されている箇所を接合面26と呼ぶ。
【0039】
回転軸線aに直交し接合面26の回転軸線aに沿った方向における陽極ターゲット50と反対側の端部を通る平面を仮想平面S1とした場合、第2円筒25は、仮想平面S1上に存在している。言い換えると、第2円筒25は、仮想平面S1を貫通して位置している。
【0040】
次に、ろう材23と遮熱板80の接触回避部83との位置関係について説明する。
接触回避部83は、仮想平面S1上に存在している。言い換えると、接触回避部83は、仮想平面S1を貫通して位置している。
【0041】
図2の説明では、ろう材23の回転軸線aに沿った方向における陽極ターゲット50と反対側の一端23aが第1隙間G1内に収まっている場合について説明した。図3及び図4を参照してろう材23の一端23aが第1隙間G1に収まっていない場合について説明する。
【0042】
図3は、第1実施形態に係る回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図である。図3に示すように、第1円筒24の第2内周面24cと筒部21の第2外周面21aとの間の隙間を第2隙間とし、第1隙間G1と第2隙間G2との境界を通り回転軸線aに直交する平面を境界面とした場合、ろう材23の回転軸線aに沿った方向における陽極ターゲット50と反対側の一端23aは、境界面S2に位置している。この時、仮想平面S1は、境界面S2と同一平面上に位置している。第2円筒25及び接触回避部83は、境界面S2を含む仮想平面S1上に存在している。
【0043】
図4は、第1実施形態に係る回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図である。図4に示すように、ろう材23の回転軸線aに沿った方向における陽極ターゲット50と反対側の一端23aが、第2隙間G2内に位置している。この時、仮想平面S1は、境界面S2と同一平面上に位置している。第2円筒25及び接触回避部83は、境界面S2を含む仮想平面S1上に存在している。
【0044】
上記したろう材23と仮想平面S1との関係をまとめると、図3及び図4に示すように、ろう材23の一端23aが、境界面S2に位置し、又は第2隙間G2内に位置している。この時、仮想平面S1は、境界面S2と同一平面上に位置している。
【0045】
第1実施形態の効果について説明する。
上記のように構成された第1実施形態に係る回転陽極型X線管1によれば、回転陽極型X線管1は、陽極ターゲット50と、陰極60と、固定シャフト10と回転体20とを有する軸受5と、外囲器70とを備えている。回転体20は、筒部21と、ろう材23と、ろう材23を介して筒部21に接合された第1円筒24と、第1円筒24の外周面に固定された第2円筒25とを有している。第2円筒25は、仮想平面S1上(図2参照)に存在している。
ろう材23の一端23aが境界面S2又は第2隙間G2内に位置している場合、仮想平面S1は、境界面S2と同一平面上に位置している。
第2円筒25は、回転軸線aを中心とする円周方向に連続して円環状に形成されている。さらに、第2円筒25の熱膨張係数は、第1円筒24の熱膨張係数よりも小さい。
【0046】
これにより、陽極ターゲット50でX線を発生させる際の発熱と、回転陽極型X線管1を使用していないときの自然冷却と、を繰り返し行うことで生じる第1円筒24の筒部21からの剥がれを抑制することができる。つまり、回転体20が回転している場合において、第1円筒24の剥がれに起因する回転体20の回転軸線aに対しての偏心による振動の発生を抑制可能な回転陽極型X線管を得ることができる。
また、第2円筒25が設けられていない場合と比較して、回転軸線aに直交する方向における第1円筒24の変形量が4分の1程度になることが確認されている。
【0047】
回転陽極型X線管1は、回転体20に固定され、陽極ターゲット50から第1円筒24への輻射熱を遮る遮熱板80をさらに備えている。遮熱板80は、第1外周面24aから離れる方向に向かう屈曲が全周に亘って連続して形成された接触回避部83を有している。接触回避部83は、仮想平面S1上(図2参照)に存在している。
第1外周面24aは、大外周面24a1と小外周面24a2とから構成され、第2円筒25は、小外周面24a2に位置している。第2円筒25の第3外周面25aは、大外周面24a1よりも回転軸線a側に位置している。
これにより、第1円筒24が遮熱板80に接触することを抑制することができる。具体的には、回転体20が回転している場合において、第1円筒24が遮熱板80に接触することで生じる振動の増加を抑制することができる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る回転陽極型X線管1について説明する。回転陽極型X線管1は、第2実施形態で説明する構成以外、第1実施形態と同様に構成されている。図5は、第2実施形態に係る回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図である。
【0049】
図5に示すように、回転体20は、筒部21の第2外周面21aに設けられている制限部27を更に有している。制限部27の剛性は、第1円筒24の剛性よりも高い。第2実施形態では、制限部27は、筒部21に連続して一体に形成されている。なお、制限部27は、筒部21と連続して一体に形成されなくともよく、例えば、筒部21の第2外周面21aに接合されてもよい。制限部27は、第1円筒24の回転軸線aに沿った方向における陽極ターゲット側の端面24eに接触している。また、第2実施形態では、制限部27は、第2円筒25の回転軸線aに沿った方向における陽極ターゲット50側の端面25bと対向している。
【0050】
上記のように構成された第2実施形態に係る回転陽極型X線管1によれば、回転体20は、制限部27を更に備えている。第1円筒24の端面24eは、制限部27に接触している。また、上述したように、制限部27の剛性は、第1円筒24の剛性よりも高い。そのため、第1円筒24自体が制限部27に向かって変形(膨張)しようとする場合、制限部27は、第1円筒24を第1円筒24の内側を構成する部材(筒部21)に押し付ける機能を発揮する。第1円筒24の変形を抑制することができるため、第1円筒24が筒部21から剥がれることを抑制することができる。
【0051】
制限部27は、第2円筒25の端面25bと対向している。これにより、第2円筒25が第1円筒24から外れることを防止することができる。
【0052】
(第3実施形態)
次に、第2実施形態に係る回転陽極型X線管1について説明する。回転陽極型X線管1は、第3実施形態で説明する構成以外、第2実施形態と同様に構成されている。図6は、第3実施形態に係る回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図である。
【0053】
図6に示すように、回転体20は、第2円筒25無しに構成されている。第1円筒24はの第1外周面24aは、大外周面24a1及び小外周面24a2から構成されていない。第1外周面24aは、回転軸線aを中心とする一の外径のみを有する外周面である。制限部27は、第1円筒24の端面24eと接触している。
【0054】
上記のように構成された第3実施形態に係る回転陽極型X線管1によれば、第1実施形態に係る回転陽極型X線管と同様の効果を得ることができる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。必要に応じて、複数の実施形態を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…回転陽極型X線管、5…軸受、10…固定シャフト、20…回転体、21…筒部、21a…第2外周面、22…連結部、23…ろう材、23a…一端、24…第1円筒、24a…第1外周面、24a1…大外周面、24a2…小外周面、24b…第1内周面、24c…第2内周面、24e…端面、25…第2円筒、25a…第3外周面、25b…端面、26…接合面、27…制限部、30…軸受、50…陽極ターゲット、60…陰極、70…外囲器、80…遮熱板、83…接触回避部、G1…第1隙間、G2…第2隙間、S1…仮想平面、S2…境界面、a…回転軸線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6