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特開2023-174328流量制御装置、燃料噴射装置、および流量制御装置の製造方法
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  • 特開-流量制御装置、燃料噴射装置、および流量制御装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174328
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】流量制御装置、燃料噴射装置、および流量制御装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 51/06 20060101AFI20231130BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
F02M51/06 U
F02M51/06 A
F16K31/06 305K
F16K31/06 305Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087112
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 正幸
(72)【発明者】
【氏名】川井 勝
(72)【発明者】
【氏名】三宅 威生
【テーマコード(参考)】
3G066
3H106
【Fターム(参考)】
3G066BA48
3G066BA54
3G066CC66
3G066CD28
3G066CE23
3H106DA05
3H106DB02
3H106DB12
3H106DB23
3H106DB32
3H106DC02
3H106DC17
3H106DD03
3H106EE45
3H106EE48
3H106GB01
3H106GD01
3H106JJ02
3H106JJ03
3H106JJ06
3H106KK18
(57)【要約】
【課題】流体耐圧の向上を図ることが可能な流量制御装置を提供する。
【解決手段】電磁ソレノイドの一部を構成する筒状の固定コアと、前記固定コアに嵌合して設けられ前記固定コアとともに一連の流体通路を構成する筒状のアダプタとを有し、前記アダプタにおいて前記固定コアと逆側の流体供給配管に接続される基端部は、他の部分よりも引張強さが大きくなるように塑性加工が施されている流量制御装置である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁ソレノイドの一部を構成する筒状の固定コアと、
前記固定コアに嵌合して設けられ前記固定コアとともに一連の流体通路を構成する筒状のアダプタとを有し、
前記アダプタにおいて前記固定コアと逆側の流体供給配管に接続される基端部は、他の部分よりも引張強さが大きくなるように塑性加工が施されている
流量制御装置。
【請求項2】
前記アダプタの基端部は、加工率が制御された塑性加工が施された部分である
請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記アダプタは、ステンレスを用いて構成され、
前記アダプタの基端部は、加工率60%~70%の鍛造加工が施された部分である
請求項2に記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記アダプタは、軸方向に向かう鍛流線を有し、所定密度の鍛流線を有する
請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項5】
前記アダプタの基端部は、オーリングを取り付けるための薄肉部分を有する
請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項6】
前記アダプタの中間部は、他の部分よりも変形抵抗が小さくなるように塑性加工が施されている
請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項7】
前記アダプタは、ステンレスを用いて構成され、
前記アダプタの中間部は、加工率35%~55%の鍛造加工が施された部分である
請求項6に記載の流量制御装置。
【請求項8】
前記アダプタは、内径に対する長さが3以上である
請求項7に記載の流量制御装置。
【請求項9】
前記アダプタの周囲を覆って設けられた樹脂成形体を有し、
前記アダプタの中間部は前記樹脂成形体で覆われた薄肉部分を有する
請求項6に記載の流量制御装置。
【請求項10】
電磁ソレノイドの一部を構成する筒状の固定コアと、
前記固定コアに嵌合して設けられ前記固定コアとともに一連の流体通路を構成する筒状のアダプタとを有し、
前記アダプタにおいて前記固定コアと逆側の流体供給配管に接続される基端部は、他の部分よりも引張強さが大きくなるように塑性加工が施されている
燃料噴射装置。
【請求項11】
電磁ソレノイドの一部を構成する筒状の固定コアと、前記固定コアに嵌合して設けられ前記固定コアとともに一連の流体通路を構成する筒状のアダプタとを有する流量制御装置の製造方法であって、
前記アダプタの原材料となる棒状材の長手方向の一端部に対し、他の部分よりも引張強さが大きくなるように塑性加工を施す
流量制御装置の製造方法。
【請求項12】
前記棒状材の長手方向の一端部に対する塑性加工は、加工率を制御して実施する
請求項11に記載の流量制御装置の製造方法。
【請求項13】
前記棒状材は、ステンレスを用いて構成され、
前記棒状材の長手方向の一端部に対する塑性加工として、加工率60%~70%の鍛造加工を施す
請求項12に記載の流量制御装置の製造方法。
【請求項14】
前記棒状材は、長手方向に向かう鍛流線を有し、
前記棒状材の長手方向の一端部に対する塑性加工は、前記棒状材を長手方向に延伸させる
請求項11に記載の流量制御装置の製造方法。
【請求項15】
前記棒状材の長手方向の一端部に塑性加工を施した後、切削加工によって前記一端部を薄肉化する
請求項11に記載の流量制御装置の製造方法。
【請求項16】
前記棒状材の長手方向の中間部に対し、他の部分よりも変形抵抗が小さくなるように塑性加工を施す
請求項11に記載の流量制御装置の製造方法。
【請求項17】
前記棒状材は、ステンレスを用いて構成され、
前記棒状材の長手方向の中間部に対する塑性加工として、加工率35%~55%の鍛造加工を施す
請求項16に記載の流量制御装置の製造方法。
【請求項18】
前記棒状材に対する塑性加工により、前記棒状材を内径に対する長さが3以上の筒状とする
請求項17に記載の流量制御装置の製造方法。
【請求項19】
前記棒状材の長手方向の中間部に塑性加工を施した後、切削加工によって前記中間部を薄肉化する
請求項16に記載の流量制御装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御装置、燃料噴射装置、および流量制御装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流量制御装置の一つである燃料噴射装置に関する技術として、下記特許文献1に開示の技術がある。この特許文献1には、「電磁弁装置の用いられる燃料噴射装置は、軸方向に沿って円筒状に形成されたボディを有し、このボディは鍛造成形によって形成され、先端側に形成された固定コア部の外周側には、例えば、高周波誘導加熱によって焼鈍のなされた熱処理部が形成される。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-155278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、流量制御装置に対する小型軽量化、およびより流体噴出の高圧化が期待されている。このため、流量制御装置に対しては、供給される流体圧力に対する耐圧の向上を図ることが要求されている。
【0005】
そこで本発明は、流体耐圧の向上を図ることが可能な流量制御装置、燃料噴射装置、および流量制御装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、電磁ソレノイドの一部を構成する筒状の固定コアと、前記固定コアに嵌合して設けられ前記固定コアとともに一連の流体通路を構成する筒状のアダプタとを有し、前記アダプタにおいて前記固定コアと逆側の流体供給配管に接続される基端部は、他の部分よりも引張強さが大きくなるように塑性加工が施されている流量制御装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、流体耐圧の向上を図ることが可能な流量制御装置、燃料噴射装置、および流量制御装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る流量制御装置の断面図である。
図2】実施形態に係る流量制御装置を構成するアダプタの断面図である。
図3】実施形態に係る流量制御装置の製造方法を示す製造工程図である。
図4】塑性加工においての加工率を説明する図である。
図5】鍛造加工における加工率とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
図6】鍛造加工における加工率と変形抵抗との関係を示すグラフである。
図7】切削加工後における材料の断面状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の流量制御装置および流量制御装置の製造方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。以下においては、流量制御装置として、内燃機関に用いられる燃料噴射装置を例示して実施の形態を説明するが、本発明は燃料噴射装置への適用に限定されることはなく、燃料噴射弁を備えた内燃機関へ加圧燃料を供給する高圧燃料ポンプのように高圧の流体を供給する他の流量制御装置への適用が可能である。なお、実施の形態を説明するための各図面においては、機能を分かり易くするために部品の大きさや隙間の大きさは実際の比率よりも誇張されている場合があり、機能を説明するために不要な部品は省略されている場合がある。
【0010】
≪流量制御装置≫
図1は、実施形態に係る流量制御装置1の断面図である。この図に示す流量制御装置1は、燃料噴射装置であって、流体供給配管2から供給された流体(ここでは燃料)を霧状にして噴射する装置である。このような流量制御装置1は、流体状の燃料の通路を構成する複数の筒状部材を備えている。これらの筒状部材は、流体噴出側から順に、噴孔カップ100、噴孔カップ支持体200、固定コア300、およびアダプタ400であり、さらにこれらの周囲に設けられた樹脂成形体500およびハウジング600である。これらの筒状部材は、流量制御装置1において燃料などの流体噴出側を先端とし、これと逆側を基端とした同軸上に配置されている。また流量制御装置1は、これらの筒状部材に保持され、または固定された各部材を有する。これらの部材は、先端側から順に、針弁10、可動子スプリング20、可動子30、スプリング40、および調整子50であり、さらに電磁コイル60および導体70である。以下、各筒状部材の構成を順に説明するとともに、各筒状部材の説明に前後して各部材の構成を説明する。
【0011】
<噴孔カップ100>
噴孔カップ100は、流量制御装置1の先端部に配置された筒状部材であり、カップ形状の底面を貫通させた噴出開口100aを有している。噴出開口100aは、流体を噴出させるための開口であり、噴孔カップ100は、噴出開口100aを流量制御装置1の先端側に向けた状態で配置されている。また噴孔カップ100は、基端側からの針弁10の嵌入によって、噴出開口100aの開閉が自在である。
【0012】
<針弁10>
針弁10は、流体の噴出を制御するための針状の弁体であって、流量制御装置1の筒状部材内に挿通した状態で設けられたものである。流量制御装置1からの流体の噴出は、噴孔カップ100の噴出開口100aを、噴孔カップ100の基端側から挿入した針弁10の先端部10aによって塞ぐことで停止する。すなわち、流量制御装置1からの流体の噴出は、流量制御装置1の筒状部材内においての針弁10の駆動によって制御される。
【0013】
このような針弁10は、長手方向の中間部に、外径が拡大した拡大部10bを有する。この拡大部10bは、外周壁に、基端側から先端側にわたって流体を通過させるための流体通路となる溝(図示省略)を有する。
【0014】
<噴孔カップ支持体200>
噴孔カップ支持体200は、先端側の開口部分において噴孔カップ100の基端側を支持する筒状部材であって、内部に針弁10が挿通される。噴孔カップ支持体200の内壁と針弁10との間の隙間は、流体通路となる。このような噴孔カップ支持体200の基端側は、外形および内径ともに先端側よりも拡大した形状に成型されており、特に内径は基端側に向かって2段階に拡大した形状を有する。このような噴孔カップ支持体200は、一段回目の拡大部分に可動子スプリング20を収容し、二段階目の拡大部分に可動子30を収容する。
【0015】
<可動子スプリング20>
可動子スプリング20は、コイルバネであって、コイルの中央に針弁10を挿通させた状態で、噴孔カップ支持体200内の一段回目の拡大部分に収容されている。この可動子スプリング20は、ゼロ長スプリングであり、次に説明する可動子30と、噴孔カップ支持体200の内壁における段差部との間に挟持され、可動子30を流量制御装置1の基端側に付勢する。
【0016】
<可動子30>
可動子30は、磁性材料で構成された円筒形状のものであって、針弁10を挿通させた状態で、噴孔カップ支持体200内の二段階目の拡大部分に収容されている。可動子30は、可動子スプリング20と針弁10の拡大部10bとの間に挟持され、可動子スプリング20によって、針弁10の拡大部10bを基端側に付勢する。
【0017】
また可動子30は、円筒形状の壁部に、流量制御装置1の基端側と先端側とを連通させる複数の孔部30aを有する。この孔部30aは、流体通路となる。なお図面においては1つの孔部30aのみが図示されている。
【0018】
このような可動子30は、以降に説明する電磁コイル60への通電のオン/オフにより、噴孔カップ支持体200内において軸方向に往復運動する。
【0019】
<固定コア300>
固定コア300は、先端側が、噴孔カップ支持体200の基端側に嵌入された筒状部材であって、流体通路を構成する。また固定コア300は、先端側の端面において噴孔カップ支持体200内における可動子30の軸方向の移動を規制する。このような固定コア300は、可動子30の孔部30aに連通する内壁形状を有する。また固定コア300の内壁は、針弁10の拡大部10bが嵌入される大きさを有し、軸方向に沿って針弁10を往復で摺動させる際のガイドとなる。
【0020】
固定コア300の外周壁には、以降に説明する電磁コイル60が巻き回されている。このような固定コア300は、可動子30とともに電磁ソレノイドの一部を構成するものであり、磁気特性に優れた材料によって構成されていることとする。
【0021】
<スプリング40>
スプリング40は、コイルバネであって、針弁10の拡大部10bよりも基端側において、コイルの中央に針弁10を挿通させた状態で、固定コア300内に収容されている。このスプリング40は、針弁10の拡大部10bと、次に説明する調整子50との間に挟持され、流量制御装置1の先端側に針弁10を付勢する。
【0022】
<調整子50>
調整子50は、固定コア300の基端側に嵌入して固定された部材であり、流量制御装置1の基端側と先端側とを連通させる貫通孔50aを有する。貫通孔50aは、流体通路となる。このような調整子50は、例えば円筒状のものであってよい。
【0023】
<電磁コイル60>
電磁コイル60は、可動子30および固定コア300とともに電磁ソレノイドを構成するもので、固定コア300の外周に巻き回された銅線によって構成され、トロイダル状の磁気通路を形成する。銅線は、ここでの図示を省略した環状のコイルボビンを介して、固定コア300の外周に巻き回されている。電磁コイル60の巻き始めおよび巻き終わりの両端部は、以降に説明する導体70に接続されている。
【0024】
このような電磁コイル60は、導体70からの電力供給により、可動子30と固定コア300との間に、スプリング40の設定荷重を超える磁気吸引力を発生させる。これにより、可動子30が固定コア300側に引き寄せられ、可動子30によって針弁10の拡大部10bが基端側に押圧され、針弁10が基端側に移動して針弁10の先端部10aが噴孔カップ100の噴出開口100aから離間して噴出開口100aが開く。これにより、噴出開口100aから流体としての燃料が噴出される。
【0025】
また、電磁コイル60は、導体70からの電力供給の停止により、可動子30と固定コア300との間の磁気吸引力を解除する。これにより、スプリング40のばね力と、針弁10と固定コア300間を流れる流体の流速によって生じる圧力降下とによって、針弁10の拡大部10bと可動子30が先端側に移動し、針弁10の先端部10aが噴孔カップ100の噴出開口100aを閉塞する。これにより、噴出開口100aから流体としての燃料の噴出が停止される。
【0026】
<アダプタ400>
アダプタ400は、固定コア300に嵌合して設けられた筒状部材であって、先端側が固定コア300との嵌合部となっており、固定コア300に対して全周突き合わせ溶接されている。このアダプタ400は、固定コアとともに一連の流体通路を構成する。またアダプタ400の基端側は、オーリング3を介して流体供給配管2が接続される接続部となる。
【0027】
ここで、アダプタ400は、流量制御装置1の小型軽量化を目的として、他の筒状部材と同様に、内径が小さいものとして設計されている。ただし、先に説明した固定コア300は、針弁10の拡大部10b、スプリング40、および調整子50を収容するものであるため、ある程度の内径を必要とする。このため、アダプタ400の内径(流体流路内の径)も、固定コア300の内径に適合する大きさを有することとする。
【0028】
図2は、実施形態に係る流量制御装置を構成するアダプタ400の断面図である。図1および図2に示すように、アダプタ400は、内壁形状は一定の内径を有し、外壁形状は軸方向に段差を有し、これにより壁厚(肉厚)が比較的厚みを有する厚肉部分と、これよりも薄い薄肉部分とを有する。またアダプタ400は、塑性加工と切削加工とによって形成されたものであり、塑性加工に由来して円筒形状の軸方向に向かう鍛流線[L]を有する。このようなアダプタ400は、先端側から順に、固定コア嵌合部400a、中間部400b、およびオーリング取付部400cとなっている。これらの各部は次のようである。
【0029】
固定コア嵌合部400aは、固定コア300の基端側が嵌入され、固定コア300と溶接される部分であるため、固定コア300との接合に影響のない程度の厚みを有して形成される。
【0030】
中間部400bは、アダプタ400における流体通路の大部分を構成する。この中間部400bは、以降に説明するように、加工率を制御した塑性加工により、他の部分よりも変形抵抗を小とした材料部分によって構成されていることとする。一例として、アダプタ400がステンレスを用いて構成されており、中間部400bに施される塑性加工が鍛造加工であれば加工率35%~55%程度である。
【0031】
これにより、以降の製造方法で説明するように、内径が小さいアダプタ400の塑性加工による形成を可能としている。一例として内径[d]に対する長さ[l]であるアスペクト比[L/D]=3以上である。なお、アダプタ400における各部の変形抵抗は、軸方向に向かう鍛流線[L]の密度を観察することによって検知できる。この場合、アダプタ400の構成材料について、変形抵抗と鍛流線[L]の密度との関係を予め得ておくこととする。
【0032】
また中間部400bは、樹脂成形体500で覆われた薄肉部分を有する。
【0033】
オーリング取付部400cは、アダプタ400の基端側の部分であって、オーリング3を介して流体供給配管2が接続される接続部である。ここで、このようなオーリング取付部400cは、流体供給配管2から供給される流体から流量制御装置1が受ける圧力を低減するために、薄肉に形成されていることとする。
【0034】
すなわち、流体供給配管2から供給される流体からの流体圧力によって、流量制御装置1は軸方向に荷重を受ける。ここで、荷重とは、流体供給配管2の供給流路の断面積と流体圧力との積として定義される。このため、例えばこの流量制御装置1が燃料噴射装置であって、排出ガス規制に応じて、流体供給配管2から供給する燃料(流体)の圧力を高燃圧化させた場合、燃料噴射装置としての流量制御装置1は、より大きな荷重を受けるため、流量制御装置1の各部に発生する応力が増加する。したがって高燃圧化によって流量制御装置1の各部に発生する応力を抑えるためには、オーリング取付部400cを薄肉化して流体供給配管2の内径とアダプタ400の内径との差を小さくする必要がある。
【0035】
またこのように薄肉化したオーリング取付部400cは、以降に説明するように、加工率を制御した塑性加工により、他の部分よりも引張強さを大とした材料部分によって構成されていることとする。一例として、アダプタ400がステンレスを用いて構成されており、オーリング取付部400cに施される塑性加工が鍛造加工であれば60%~70%程度である。これにより薄肉であっても耐圧性を確保できる構成となっている。なお、アダプタ400における各部の引張強さは、鍛流線[L]の密度を観察することによって検知できる。この場合、アダプタ400の構成材料について、引張強さと鍛流線[L]の密度との関係を予め得ておくこととする。
【0036】
ここで、固定コア300を構成する磁気特性に優れた材料は、一般に降伏応力および引張強さが小さい。このため、流体供給配管2との接続部を有するアダプタ400を、固定コア300から分割して固定コア300とは別体として設けた。これにより、流体供給配管2との接続部を有するアダプタ400を、上述した通り引張強さの大きな材料で構成することを可能としている。
【0037】
<樹脂成形体500>
図1に戻り、樹脂成形体500は、噴孔カップ支持体200と固定コア300との接合部からアダプタ400の中間部400bを覆う筒状部材である。この樹脂成形体500は、次に説明するハウジング600と噴孔カップ支持体200および固定コア300との隙間から絶縁性樹脂を注入することでモールド成形されたもので、固定コア300とハウジング600との間において電磁コイル60を埋め込む。
【0038】
また樹脂成形体500は、円筒形状部分から外側に引き出されたコネクタ部500aを有する。このコネクタ部500aは、次に説明する導体70が引き出された部分であり、導体70に対して外部の高電圧電源、バッテリ電源より電力を供給するプラグを接続するための嵌合部である。
【0039】
<導体70>
導体70は、電磁コイル60の巻き始めおよび巻き終わりの両端部から、樹脂成形体500のコネクタ部500aに引き出された端子である。この導体70は、コネクタ部500aに接続された高電圧電源、バッテリ電源のプラグ(図示省略)から電力が供給される。電力の供給は、ここでの図示を省略したコントローラーによって制御され、これにより電磁コイル60への電力供給による針弁10の駆動が制御される。
【0040】
<ハウジング600>
ハウジング600は、噴孔カップ支持体200の基端側に固定された筒状部材であり、噴孔カップ支持体200の基端側から固定コア300の外周までを覆って配置されている。ハウジング600と噴孔カップ支持体200および固定コア300との間の筒状空間には、樹脂成形体500を構成する絶縁性樹脂が注入され、電磁コイル60が埋め込まれている。またハウジング600の外周壁の部分は噴孔カップ支持体200の外周面に対面する外周ヨーク部を形成している。
【0041】
≪流量制御装置の製造方法≫
図3は、実施形態に係る流量制御装置の製造方法を示す製造工程図である。この製造工程図は、先に図1および図2を用いた説明した流量制御装置1のアダプタ400の形成に、金属材料の塑性加工を適用した手順を示す図である。塑性加工とは、材料を塑性変形させて目的形状に加工する方法であり、材料歩留まりに優れ生産性も高く大量生産に適した加工方法であり、さらに得られる加工物の強度も高い。
【0042】
このような塑性加工としては、鍛造加工、プレス加工、転造加工があるが、アダプタ400の形成には、材料に対して金型を押し当てて成型する鍛造加工が好適である。鍛造加工は、被加工材の温度により冷間鍛造、温間鍛造、熱間鍛造に分類されるが、なかでも寸法精度および強度の高い加工物が得られる冷間鍛造が好適である。さらに冷間鍛造は、押出加工、据込み加工、穴抜き加工に分類されるが、筒状部材としてのアダプタ400の形成には押出加工が好適である。以下、図3に基づき、流量制御装置の製造方法としてアダプタ400の形成手順を説明する。
【0043】
<アダプタ400の形成手順>
[第1工程(1)]
先ず第1工程(1)では、棒状のアダプタ材料400’を準備する。このアダプタ材料400’は、金属材料であり、例えばステンレスである。なかでも、以降の工程において塑性加工として冷間鍛造を実施する場合、冷鍛性の優れたフェライト系ステンレスのSUS430を用いることが好ましいが、これに限定されることはない。アダプタ材料400’は、棒材として供給された素材を、最終的に形成されるアダプタ400の長さを想定した所定の長さに切断したものとして準備する。
【0044】
またこのようなアダプタ材料400’は、棒材の製造工程で金属材料(ここではステンレス材料)の塊を徐々に長手方向に延伸することによって形成された鍛流線[L]を有する。鍛流線[L]は、棒状のアダプタ材料400’の長手方向に沿って発生する。
【0045】
[第2工程(2)]
次の第2工程(2)では、アダプタ材料400’を長手方向に延伸させる塑性加工(例えば冷間鍛造の押出加工)を施し、棒状の軸方向に沿った中空部401を有する第1段差部400c’(第1の部分)を形成する。第1段差部400c’は、オーリング取付部400cとなる部分であり、アダプタ材料400’の一端側に形成される。また、アダプタ材料400’に対して、第1段差部400c’と逆側に塑性加工(例えば冷間鍛造の押出加工)を施し、先端側中空部402を有する固定コア嵌合部400aを形成する。
【0046】
なお、アダプタ材料400’において、後にオーリング取付部400cとなる第1段差部400c’の形成側は、基端側となる。第1この第2工程(2)において、中空部401を有する第1段差部400c’の加工は、アダプタ材料400’の引張強さより大きくなるように、加工率を制御した塑性加工によって実施される。
【0047】
図4は、塑性加工においての加工率を説明する図である。この図に示すように、加工率とは、加工前のアダプタ材料400’の断面積[S0]と、加工後のアダプタ材料400’の断面積[S1]との差を、加工前のアダプタ材料400’の断面積[S0]で割った百分率である。
【0048】
図5は、鍛造加工における加工率とビッカース硬さ[Hv]との関係を示すグラフであり、ステンレス(SUS430)を冷間鍛造の押出加工した場合のグラフである。この図に示すように、ステンレス(SUS430)に対する冷間鍛造の押出加工においては、加工率0%でのビッカース硬さ[Hv]180であるのに対し、加工率60%~70%でのビッカース硬さ[Hv]325程度の最高値にまで上昇することがわかる。これは、引張強さに換算すると、59(kgf/mm)から108(kgf/mm)に上昇したことに相当する。
【0049】
図3に戻り、以上より、第2工程(2)では、加工率60%~70%の冷間鍛造の押出加工によって、オーリング取付部400cとなる第1段差部400c’を形成する。これにより、この部分は後にオーリング取付部400cの薄肉部となるが、前述の加工硬化により燃料圧力(流体圧力)に対する耐圧強度が確保された部分とすることができる。
【0050】
なお、この第2工程(2)において、固定コア嵌合部400aの先端側中空部402は、中空部401と中心軸を同軸として形成される。この先端側中空部402は、固定コア300(図1参照)の基端側に嵌合する形状に成型され、例えば開口端側から順に開口径を段階的に小さくした開口形状で形成する。このような先端側中空部402において、最深部に形成される最も開口径が小さい部分は、中空部401の開口径と略同一となるように形成される。
【0051】
[第3工程(3)]
次の第3工程(3)では、アダプタ材料400’を長手方向に延伸させる塑性加工(例えば冷間鍛造の押出加工)を施し、内径を保った状態で中空部401をより深く加工するとともに、中空部401の周囲を細らせた第2段差部400b’を形成する。この第2段差部400b’(第2の部分)は、アダプタ400の中間部400bとなる部分であり、アダプタ材料400’の中間部分に形成される。この第3工程(3)において、中空部401を有する第2段差部400b’の加工は、アダプタ材料400’の変形抵抗がより小さくなるように、加工率を制御した塑性加工によって実施される。
【0052】
図6は、鍛造加工における加工率と変形抵抗との関係を示すグラフであり、ステンレス(SUS430)を冷間鍛造の押出加工した場合のグラフである。この図に示すように、ステンレス(SUS430)に対する冷間鍛造の押出加工においては、加工率35%~55%の間で変形抵抗が極小値を示し、より詳しくは40%~50%の間で変形抵抗が極小値を示す。
【0053】
図3に戻り、以上より、第3工程(3)では、加工率35%~55%、好ましくは加工率40%~50%の冷間鍛造の押出加工によって、アダプタ400の中間部400bとなる第2段差部400b’を形成する。これにより、この第2段差部400b’は、アダプタ材料400’の変形抵抗が低い領域での加工が可能となり、より深い中空部401の形成が可能となる。これは、内径の小さい中空部401の形成が可能であることを意味している。具体的には、内径[d]に対する長さ[l]であるアスペクト比[l/d]=3以上の中空部401の形成が可能となり、アスペクト比[l/d]=10以上の中空部401の形成を実現できる。
【0054】
比較として、本第3工程(3)において、加工率を考慮せず、中空部401の周囲を細らせることなく外径を保った状態で、冷間鍛造の押出加工によって中空部401をより深く加工した場合、アスペクト比[L/D]=3程度が限界となっていた。
【0055】
[第4工程(4)]
次の第4工程(4)では、アダプタ材料400’に対して塑性加工(例えば冷間鍛造の押出加工)を施し、内径を保った状態で先端側中空部402をより深く加工する。これにより、先端側中空部402と中空部401とを連通させて流体通路403としたブランク形状を形成する。
【0056】
以上までの工程は、塑性加工、特に冷間鍛造の押出加工によって実施されるため、アダプタ材料400’内の鍛流線[L]は、基端側から先端側まで途切れることはなく連続している。
【0057】
[第5工程(5)]
次の第5工程(5)では、アダプタ材料400’の全部位に対して仕上げ加工を施し、アダプタ400を得る。この仕上げ加工は、切削加工を実施し、第1段差部400c’の外周部を削り、第1段差部400c’にオーリング取付部400cを形成する。またオーリング取付部400c側における流体通路403の開口縁部は、必要に応じて内壁側を切削加工してもよい。また、第2段差部400b’の外周側を削り、第2段差部400b’に薄肉の中間部400bを形成する。さらに固定コア嵌合部400a側における流体通路403の開口縁部は、必要に応じて内壁側を切削加工してもよい。
【0058】
図7は、切削加工後における材料の断面状態を示す図であり、オーリング取付部400cの断面を示している。これらの図は、塑性加工(ここでは冷間鍛造の押出加工)後に仕上げ加工として切削加工を実施すことによってアダプタ400を作製した本実施形態例の断面図(a)と、切削加工のみによってアダプタ400を作製した場合の比較例の断面図(b)とである。
【0059】
ここで、アダプタ材料400’である棒状の金属材料にもともと含有されている介在物[B]は、鍛流線[L]に沿って存在することが一般に知られている。そして、本実施形態例の断面図(a)に示すように、先の第2工程(2)~第4工程(4)で実施した塑性加工(ここでは冷間鍛造の押出加工)においては、介在物[B]は加工方向に沿って引き延ばされる。したがって、切削加工を施した後も、この介在物[B]が表面に露出する可能性が低く、介在物[B]がアダプタ材料400’の内部に閉じ込められた状態に保たれる可能性が高い。さらに、介在物[B]が表面に露出した場合であっても、鍛流線に沿った方向に延ばされているため、アダプタ400の壁部が介在物[B]を介して連通することを防止できる。
【0060】
これに対し、切削加工のみによってアダプタ400を作製した場合、比較例の断面図(b)に示すように、アダプタ材料400’内の介在物[B]は、引き延ばされ押し潰されることがない。このため、本実施形態例と比較して、切削加工において介在物[B]が表面に露出する可能性が高い。さらに介在物[B]が、アダプタ400の肉厚方向に広がりを有する場合、介在物[B]を介してアダプタ400の円筒形状の内外が連通する危険性もある。
【0061】
したがって、比較例では、完成したアダプタ400に介在物[B]が存在しないことを種々の検査で確認する必要があるのに対し、本実施形態例であれば、検査コストを低減する効果も期待でき、完成物としてのアダプタ400の信頼性を確保できる。さらに、棒材からアダプタ400を全て削り出しで製作する比較例の場合、加工量が大きく、材料の無駄、加工時間の無駄が生じ、コストを低減することは困難である。
【0062】
<流量制御装置1の組み立て>
次に、以上のようにして形成したアダプタ400を用いて、図1に示した流量制御装置1を組み立てる。この場合、電磁ソレノイドの一部を構成する円筒形状の固定コア300に、アダプタ400を嵌合させて一連の流体通路を形成する工程を実施し、さらに上述した他の筒状部材を相互に固定し、各筒状部材に各部材を保持させて流量制御装置1を組み立てる。流量制御装置1を構成する各筒状部材および部材のうち、アダプタ400以外の部材は、その仕様に応じたものを公知の様々な方法で準備することができる。
【0063】
≪実施形態の効果≫
以上説明した実施形態によれば、流体供給配管2との接続部を有するアダプタ400を、電磁ソレノイドを構成する固定コア300から分割したことにより、アダプタ400を引張強さの大きな材料で構成することを可能としている。しかも、アダプタ400において、流体供給配管2との接続部となるオーリング取付部400cを、他の部分よりも引張強さが大きい材料部分としたことにより、オーリング取付部400cの耐圧特性の向上を図ることが可能である。これにより、オーリング取付部400cの薄肉化が可能となり、流体供給配管2から供給される流体によってアダプタ400を備えた流量制御装置1に係る荷重を低減することができる。以上の結果、流量制御装置1に供給される流体に対しての流体耐圧の向上を図ることが可能となる。
【0064】
なお、本発明は上記した実施形態および変形例に限定されるものではなく、さらに様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…流量制御装置
2…流体供給配管
3…オーリング
300…固定コア
400…アダプタ
400’…アダプタ材料(棒状材)
400b…中間部
400b’…第2段差部
400c…オーリング取付部
400c’…第1段差部
403…流体通路
500…樹脂成形体
[d]…内径
[l]…長さ
[L]…鍛流線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7