(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174332
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】演算装置、予測装置、演算プログラムおよび予測モデル生成方法
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20231130BHJP
B22D 46/00 20060101ALI20231130BHJP
B22D 11/16 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G06N20/00
B22D46/00
B22D11/16 104N
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087126
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】關 翼人
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MB16
4E004MC22
4E004MC30
4E004NA01
4E004NC01
4E004PA07
(57)【要約】
【課題】経時変化する観測対象の状態と状態に起因する結果とが一対一で対応していない場合であっても、観測対象の状態の経時変化が従来よりも十分に反映された結果を予測できるようにする。
【解決手段】演算装置(100)は、結果データ(y
s)と一対一で対応していない時系列の観測データ群(G)のうち、結果が生じた時刻を含む所定の時間帯における一の時刻の観測データ(x
ts)を入力、結果を一の時刻に生じたものと見立てた中間予測値(y^
ts)を出力とする第一モデルを機械学習により構築する第一学習部(61)と、同時間帯における複数の中間予測値(y^
ts)を入力、時間帯における最終予測値(y^
s)を出力とする第二モデルを機械学習により構築する第二学習部(62)と、モデル出力部(63)と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経時変化する観測対象の状態を観測し続けて得られる時系列の観測データ群であって、前記状態に起因する結果を示す結果データと一対一で対応していない観測データ群のうち、前記結果が生じた時刻を含む所定の時間帯における一の時刻の観測データを入力、前記結果を前記一の時刻に生じたものと見立てた中間予測値を出力とする第一モデルを機械学習により構築する第一学習部と、
前記時間帯における複数時刻の各観測データを前記第一モデルに入力することにより得られる複数の中間予測値を入力、前記時間帯における結果データの予測値である最終予測値を出力とする第二モデルを機械学習により構築する第二学習部と、
前記第一モデルおよび前記第二モデルにより構成される予測モデルを出力するモデル出力部と、を備える演算装置。
【請求項2】
前記観測データは、連続鋳造機が備える鋳型における一の時刻の温度を示すものであり、
前記最終予測値は、前記鋳型で鋳造された鋼材の品質、または前記鋳型の中の溶鋼の流動状態を示すものである、請求項1に記載の演算装置。
【請求項3】
前記鋼材の品質は、前記鋼材の表面におけるピンホールの個数である、請求項2に記載の演算装置。
【請求項4】
前記第二学習部は、複数の前記中間予測値を確率分布の形にしたものを入力とする機械学習により、当該第二モデルを構築する、請求項1に記載の演算装置。
【請求項5】
前記第一学習部および前記第二学習部は、前記時間帯に生じた結果をバッグ、複数の前記中間予測値をインスタンスとするマルチインスタンス学習により、前記第一モデルおよび前記第二モデルをそれぞれ構築する、請求項1に記載の演算装置。
【請求項6】
新たな観測データを取得するデータ取得部と、
前記予測モデルに前記新たな観測データを入力して結果に関する最終予測値を算出する予測部と、
前記予測値を出力する予測出力部と、
を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の演算装置。
【請求項7】
前記予測出力部は、前記予測モデルを構成する前記第一モデルに前記新たな観測データが入力されたときに得られる前記中間予測値を出力することが可能である、請求項6に記載の演算装置。
【請求項8】
前記観測データは、連続鋳造機が備える鋳型における一の時刻の温度を示すものであり、
前記最終予測値は、前記鋳型で鋳造された鋼材の品質、または前記鋳型の中の溶鋼の流動状態を示すものであり、
前記予測部は、前記予測モデルを構成する前記第二モデルを用い、鋳片における鋼材の先端部となる部位の凝固が開始されてから後端部となる部位の凝固が終了するまでの間の時間帯に対応する複数の前記中間予測値が入力されたときの前記最終予測値を算出する、請求項6に記載の演算装置。
【請求項9】
前記予測部は、
予定している全ての鋼材を鋳造する全期間に前記第一モデルが出力する全ての前記中間予測値のうち、前記全期間よりも短い第一時間に対応する一部の中間予測値を前記第二モデルへ入力して前記予測値を出力させ、
前記第一時間の開始から所定時間後に開始する、前記全期間よりも短い第二時間に対応する一部の中間予測値を第二モデルに入力して前記予測値を出力させる、請求項7に記載の演算装置。
【請求項10】
経時変化する観測対象の状態を観測し続けて得られる時系列の観測データ群であって、前記状態に起因する結果を示す結果データと一対一で対応していない観測データ群のうち、前記結果が生じた時刻を含む所定の時間帯における一の時刻の観測データを入力、前記結果を前記一の時刻に生じたものと見立てた中間予測値を出力とする機械学習により構築された第一モデルと、
前記時間帯における複数時刻の各観測データを前記第一モデルに入力することにより得られる複数の中間予測値を入力、前記時間帯における結果データの予測値である最終予測値を出力とする機械学習により構築された第二モデルと、
により構成される予測モデルを用いて、前記結果に関する最終予測値を算出する予測部と、
前記最終予測値を出力する予測出力部と、
を備える予測装置。
【請求項11】
請求項1に記載の演算装置としてコンピュータを機能させるための演算プログラムであって、
上記第一学習部、上記第二学習部および上記モデル出力部としてコンピュータを機能させるための演算プログラム。
【請求項12】
更に上記予測部としてコンピュータを機能させるようになっており、
前記コンピュータに、
上記第一モデルが順次出力する複数の上記中間予測値のうち、第一時間に対応する一部の中間予測値を上記第二モデルへ入力して最終予測値を出力する処理を実行させ、
前記第一時間の開始から所定時間後に開始する第二時間に対応する一部の中間予測値を前記第二モデルに入力して最終予測値を出力する処理を実行させる、請求項11に記載の演算プログラム。
【請求項13】
経時変化する観測対象の状態を観測し続けて得られる時系列の観測データ群であって、前記状態に起因する結果を示す結果データと一対一で対応していない観測データ群のうち、前記結果が生じた時刻を含む所定の時間帯における一の時刻の観測データを入力、前記結果を前記一の時刻に生じたものと見立てた中間予測値を出力とする第一モデルを機械学習により構築するステップと、
前記時間帯における複数時刻の各観測データを前記第一モデルに入力することにより得られる複数の中間予測値を入力、前記時間帯における結果データの予測値である最終予測値を出力とする第二モデルを機械学習により構築するステップと、
前記第一モデルおよび前記第二モデルにより構成される予測モデルを出力するステップと、を有する予測モデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演算装置、予測装置、演算プログラムおよび予測モデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造を行う際に、鋳型に配置された測温素子によって鋳型の温度を測定し、その測定値に基づいてスラブ表面の欠陥の判定を行う技術が従来から知られている。例えば特許文献1には、鋳型長辺に埋設する測温素子の配置を工夫するとともに、配置された測温素子によって測定された鋳型の温度を取得する工程と、取得した温度に基づいて主成分分析を行って複数の主成分スコアを算出する工程と、算出された複数の主成分スコアに基づいて鋳片表面の欠陥発生の有無を判定する工程と、を備える連続鋳造スラブの表面欠陥判定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
連続鋳造により一の鋳片を鋳造する間、鋳型の温度は絶えず変化する(複数の状態をとり得る)。一方、鋳片表面の欠陥発生の有無は、「有り」、「無し」のいずれか一つに定まる。このように、観測対象の状態が経時変化し、複数の状態が観測されても、状態に起因する結果が状態の数と同数得られない(状態と結果が一対一で対応しない)場合がある。このような場合の結果を判定する際には、複数の状態(状態の経時変化)が結果に反映されるようにするのが望ましい。しかしながら、上述のような従来技術は、複数の主成分スコアの一つでも閾値を超えた場合に欠陥発生と判定するようになっている。このため、従来技術を用いた判定では、閾値を超えていない主成分スコアが持つ温度の経時変化の要素の分まで十分に反映されない判定結果となってしまう可能性がある。
【0005】
本発明の一態様は、経時変化する観測対象の状態と、状態に起因する結果と、が一対一で対応していない場合であっても、観測対象の状態の経時変化が従来よりも十分に反映された結果を予測できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る演算装置は、経時変化する観測対象の状態を観測し続けて得られる時系列の観測データ群であって、前記状態に起因する結果を示す結果データと一対一で対応していない観測データ群のうち、前記結果が生じた時刻を含む所定の時間帯における一の時刻の観測データを入力、前記結果を前記一の時刻に生じたものと見立てた中間予測値を出力とする第一モデルを機械学習により構築する第一学習部と、前記時間帯における複数時刻の各観測データを前記第一モデルに入力することにより得られる複数の中間予測値を入力、前記時間帯における結果データの予測値である最終予測値を出力とする第二モデルを機械学習により構築する第二学習部と、前記第一モデルおよび前記第二モデルにより構成される予測モデルを出力するモデル出力部と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る予測装置は、経時変化する観測対象の状態を観測し続けて得られる時系列の観測データ群であって、前記状態に起因する結果を示す結果データと一対一で対応していない観測データ群のうち、前記結果が生じた時刻を含む所定の時間帯における一の時刻の観測データを入力、前記結果を前記一の時刻に生じたものと見立てた中間予測値を出力とする機械学習により構築された第一モデルと、前記時間帯における複数時刻の各観測データを前記第一モデルに入力することにより得られる複数の中間予測値を入力、前記時間帯における結果データの予測値である最終予測値を出力とする機械学習により構築された第二モデルと、により構成される予測モデルを用いて、前記結果に関する最終予測値を算出する予測部と、前記最終予測値を出力する予測出力部と、を備える。
【0008】
本発明の各態様に係る演算装置および予測装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを演算装置および予測装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより演算装置および予測装置をコンピュータにて実現させる演算装置の演算プログラム、予測装置の予測プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0009】
本発明の一態様に係る予測モデル生成方法は、経時変化する観測対象の状態を観測し続けて得られる時系列の観測データ群であって、前記状態に起因する結果を示す結果データと一対一で対応していない観測データ群のうち、前記結果が生じた時刻を含む所定の時間帯における一の時刻の観測データを入力、前記結果を前記一の時刻に生じたものと見立てた中間予測値を出力とする第一モデルを機械学習により構築するステップと、前記時間帯における複数時刻の各観測データを前記第一モデルに入力することにより得られる複数の中間予測値を入力、前記時間帯における結果データの予測値である最終予測値を出力とする第二モデルを機械学習により構築するステップと、前記第一モデルおよび前記第二モデルにより構成される予測モデルを出力するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、経時変化する観測対象の状態と、状態に起因する結果と、が一対一で対応していない場合であっても、観測対象の状態の経時変化が従来よりも十分に反映された結果を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一態様の実施形態1に係る演算装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図2】同実施形態1に係る演算装置が予測に用いる観測データの一例を示す図である。
【
図3】同実施形態1に係る演算装置を用いた予測モデル生成方法の流れを示すフローチャートである。
【
図5】同実施形態1に係る演算装置を用いた予測方法の流れを示すフローチャートである。
【
図7】本発明の一態様の実施形態2に係る演算装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の他の態様の実施形態に係る予測装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図9】実施例に係る鋼材のサンプルにおけるピンホールの個数と、その個数のピンホールを有するサンプルについて実施例に係る演算装置(予測装置)が予測したピンホールの発生確率との関係を示すグラフである。
【
図10】(a)はサンプルの鋳造時刻と、サンプルにおけるピンホールの発生の有無との関係を示すグラフ、(b)はサンプルの鋳造時刻と、実施例に係る演算装置(予測装置)が予測したピンホールの発生の有無との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<発明1実施形態1>
以下、本発明の一態様の一実施形態について、詳細に説明する。
【0013】
〔演算装置〕
まず、実施形態1に係る演算装置100について説明する。
図1は演算装置の機能的構成を示すブロック図、
図2は演算装置100が予測に用いる観測データの一例を示す図である。
【0014】
演算装置100は、予測モデル81(学習済モデル)を出力するものである。本実施形態に係る演算装置100は、予測モデル81を用いた予測も行うようになっている。本実施形態に係る演算装置100は、複数の独立した装置で構成されている。具体的には、演算装置100は、例えば
図1に示したように、データ収集装置100aと、予測装置100bと、を備えている。
【0015】
〔データ収集装置100a〕
データ収集装置100aは、収集側制御部1と、第一計測部2と、第二計測部3と、収集側記憶部4と、収集側通信部5と、を備える。
【0016】
(第一計測部2)
第一計測部2は、観測データ群Gを生成する。観測データ群Gは、経時変化する観測対象の状態を観測し続けて得られる観測データxtsの集まりを時系列に並べたものである。本実施形態に係る観測データ群Gは、連続鋳造機が備える鋳型Mの温度変化を観測し続けて得られる。本実施形態に係る観測データxtsは、連続鋳造機が備える鋳型Mにおける一の時刻の温度を示すデータである。
【0017】
本実施形態に係る第一計測部2は、複数の熱電対21と、変換装置22と、を備えている。複数の熱電対21は、鋳型Mの表面に行列状に配列される。本実施形態に係る複数の熱電対21は、鋳型Mの前面、背面および左右両側面の少なくともいずれかの面全体に配列される。各熱電対21は、鋳型Mにおける自身が取り付けられた部位の温度に応じた電気信号を出力する。変換装置22は、各熱電対21から所定時間が経過する度に入力された電気信号を数値(温度)に変換する。この所定時間が経過する度に得られる各数値を、所定の時間帯(鋳片における鋼材Sの先端部となる部位の凝固が開始されてから後端部となる部位の凝固が終了するまでの時間帯、以下、一の鋼材Sが鋳造された時間帯)ごとに集めたものが観測データ群Gとなり、そのうちの一つが観測データx
tsとなる。また、本実施形態に係る観測データx
tsは、第一計測部2が上記のように構成されることにより、
図2に示したように、一の時刻の鋳型Mの少なくとも一の面(
図2には4面の場合を例示)の温度分布を示すデータとなる。
【0018】
(第二計測部3)
第二計測部3は、結果データysを生成する。結果データysは、経時変化する観測対象の状態に起因する結果を示すデータである。本実施形態に係る結果データysは、鋳型Mで鋳造された鋼材Sの品質を示すデータである。本実施形態に係る鋼材Sの品質は、鋼材Sの表面におけるピンホールの個数である。ピンホールは鋼材Sの表面に生じるもので、比較的容易に探すことができる。このため、鋼材Sの品質をこのように設定することにより、溶鋼の流動状態を予測するために必要な結果データysを容易に得ることができる。
【0019】
本実施形態に係る第二計測部3は、
図1に示したように、カメラ31と、解析装置32と、を備えている。カメラ31は、鋼材Sの表面を撮影し画像データを生成する。解析装置32は、画像データを解析し、ピンホールの個数を示す情報を生成する。この生成された情報が結果データy
sとなる。第二計測部3は、一の鋼材Sが鋳造された時間帯に対して一の結果データy
sを生成する。一方、一の鋼材Sが鋳造された時間帯に観測データx
tsは複数生成される。すなわち、観測データx
tsは、結果データy
sと一対一で対応していない。なお、鋼材Sの品質は、鋳型Mの温度に応じた溶鋼の流動状態に依存することが知られている。このため、結果データy
sは、溶鋼の流動状態を示すデータであってもよい。その場合、第二計測部3は、例えば、鋳型Mの湯面を撮影するカメラと解析装置とを備えるものであってもよいし、鋳型Mの中の溶鋼の状態をリアルタイムで直接観測するセンサであってもよい。
【0020】
(収集側記憶部4)
収集側記憶部4には、データベース41が構築されている。データベース41には、複数の観測データxtsおよび複数の結果データysが蓄積されている。なお、データベース41は、観測データxtsを蓄積するものと結果データysを蓄積するものとに分かれていてもよい。
【0021】
(収集側通信部5)
収集側通信部5は、予測装置100bとの間で、データ、制御信号等を、有線または無線で送受信する。
【0022】
(収集側制御部1)
収集側制御部1は、第一データ収集部11と、第二データ収集部12と、第一データ出力部13と、第二データ出力部14と、を備える。
【0023】
・第一データ収集部11
第一データ収集部11は、第一計測部2から観測データxtsを取得し、それをデータベース41に蓄積する。
【0024】
・第二データ収集部12
第二データ収集部12は、第二計測部3から結果データysを取得し、それをデータベース41に蓄積する。
【0025】
・第一データ出力部13
第一データ出力部13は、データベース41から観測データxtsを取得し、それを予測装置100bへ出力する。本実施形態に係る第一データ出力部13は、観測データxtsを、収集側通信部5を介して予測装置100bへ送信する。第一データ出力部13は、観測データxtsの出力を、予測装置100bからの要求に応じて行ってもよいし、自動で行ってもよい。
【0026】
・第二データ出力部14
第二データ出力部14は、データベース41から結果データysを取得し、それを予測装置100bへ出力する。本実施形態に係る第二データ出力部14は、観測データxtsを、収集側通信部5を介して予測装置100bへ送信する。第二データ出力部14は、結果データysの出力を、予測装置100bからの要求に応じて行ってもよいし、自動で行ってもよい。
【0027】
〔予測装置100b〕
予測装置100bは、予測側制御部6と、予測側通信部7と、予測側記憶部8と、を備える。
【0028】
(予測側通信部7)
予測側通信部7は、データ収集装置100aとの間で、データ、制御信号等を、有線または無線で送受信する。
【0029】
(予測側記憶部8)
予測側記憶部8は、機械学習により構築中(もしくは構築前)の予測モデル(以下、学習中モデル)を格納している。また、本実施形態に係る予測側記憶部8は、機械学習が済んだ予測モデル81を格納することが可能となっている。予測モデル81の詳細については後述する。
【0030】
(予測側制御部6)
予測側制御部6は、第一学習部61と、第二学習部62と、モデル出力部63と、第一データ取得部64と、第二データ取得部65と、第一変換部66と、第二変換部67と、予測部68と、予測出力部69と、を備える。
【0031】
・第一データ取得部64
第一データ取得部64は、観測データxtsを取得する。本実施形態に係る第一データ取得部64は、予測側通信部7を介してデータ収集装置100aから観測データxtsを受信する。
【0032】
・第二データ取得部65
第二データ取得部65は、結果データysを取得する。本実施形態に係る第二データ取得部65は、予測側通信部7を介してデータ収集装置100aから結果データysを受信する。
【0033】
・第一変換部66
第一変換部66は、取得した観測データxtsを次元数が低減された形に変換する。本実施形態に係る観測データxtsは、鋳型Mの温度分布を示すデータであり、各部位の温度を示す多数の数値を含んでいる(高次元のデータである)。このため、本実施形態に係る第一変換部66は、この多数の数値に、例えば、特徴量抽出、主成分分析、一部数値の抽出等の処理を施す。こうすることで、この後の観測データxtsを用いる各種演算を容易に行うことができるようになる。なお、上記第一データ取得部64が取得する観測データxtsの次元数が所定以下である場合、観測データxtsの次元数に比べて観測データxtsの数が十分に多い場合等には、予測側制御部6は、この第一変換部66を備えていなくてもよい。
【0034】
・第二変換部67
第二変換部67は、取得した結果データysをより単純な形に変換する。本実施形態に係る結果データysは、ピンホールの個数を示すデータである。このため、本実施形態に係る第二変換部67は、ピンホールの個数を、例えばピンホールの有無(1個以上または0個)に変換する。こうすることで、この後の結果データysを用いる各種演算を容易に行うことができるようになる。また、本実施形態に係る第二変換部67は、一の鋼材Sが鋳造された時間帯に対応する一の結果データysから、同時間帯に対応する複数の観測データxtsを取得した各時刻にそれぞれ生じた結果と見立てた、観測データxtsと同数の中間データytsを複製する。すなわち、一の鋼材Sが鋳造された時間帯に対応する全ての中間データytsには、いずれも同じ結果データysの値が格納される。なお、上記第二データ取得部65が取得する結果データysが離散数である場合、結果データysの数が十分に多い場合等には、予測側制御部6は、この第二変換部67を備えていなくてもよい。
【0035】
・第一学習部61
第一学習部61は、第一モデルを機械学習により構築する。第一モデルは、上記観測データ群Gのうち、結果が生じた時刻を含む所定の時間帯における一の時刻tsの観測データxtsを入力、結果を一の時刻tsに生じたものと見立てた中間予測値y^tsを出力とするモデルである。本実施形態に係る第一学習部61は、データ収集装置100aのデータベース41から取得した(第一変換部66で変換された)複数の観測データxts、及び複数の中間データytsの組を教師データとする機械学習により、例えば下記数1で表される第一モデルを構築する。なお、第一学習部61は、第二計測部3から直接取得した結果データys(すなわちピンホールの個数)を用いて機械学習してもよい。
【0036】
【数1】
上記数1におけるSは鋼材、y
sは結果データ、y
tsは中間データ、tは時刻、x
tは時刻tにおける観測データ、y
tは時刻tにおける中間データ(教師ラベル)、t
sは一の鋼材Sが鋳造された時間帯における一の時刻、Mは予測モデル、θはモデルパラメータ、である。
【0037】
・第二学習部62
第二学習部62は、第二モデルを機械学習により構築する。第二モデルは、所定の時間帯における複数時刻の各観測データxtsを第一モデルに入力することにより得られる複数の中間予測値y^tsを入力、同時間帯における最終予測値y^sを出力とするモデルである。本実施形態に係る第二学習部62は、複数の中間予測値y^tsを確率分布(分位点、平均、最頻値、分散、フィルタ等の記述統計量により固定次元の特徴量としたもの)の形にしたもの、および結果データysの組を教師データとする機械学習により、例えば下記数2で表される第二モデルを構築する。これにより、機械学習の結果得られる予測モデル81を、より高い精度で予測するものとすることができる。
【0038】
【数2】
上記数2におけるy^
sは最終予測値、Qは確率分布を表す(特徴量の)関数(例えば、分位点関数)であり、qはQを表すパラメータ(例えば、25%点、75%点等)である。
【0039】
なお、第一学習部61および第二学習部62は、所定の時間帯に生じた結果をバッグ、複数の中間データytsをインスタンスとするマルチインスタンス学習により、例えば下記数3で表される第一モデルおよび第二モデルをそれぞれ構築してもよい。このようにすれば、第二モデルに、確率分布を入力とするものよりも簡素なものを用いることができる。このため、装置を簡素化でき、機械学習や予測を短時間で行える。
【0040】
【数3】
上記数3におけるI(x)は条件を満たす場合に1を、そうでない場合に0を示す判別関数であり、p(x)はx=1となる確率を表す関数である。
【0041】
・モデル出力部63
モデル出力部63は、第一モデルおよび第二モデルにより構成される予測モデル81を出力する。本実施形態に係るモデル出力部63は、予測モデル81を予測側記憶部8へ記憶させる。なお、モデル出力部63は、予測モデル81を予測部68又は他の装置(予測のみを行う予測装置等)へ送信してもよい。
【0042】
・予測部68
予測部68は、予測モデル81を用いて、結果に関する最終予測値y^sを算出する。本実施形態に係る予測部68は、予測モデル81に新たな観測データxtsを入力して結果に関する最終予測値y^sを算出する。具体的には、予測部68は、まず、第一モデルを用いて新たな観測データxtsが入力された場合の中間予測値y^tsを算出する。次に、予測部68は、第二モデルを用いて複数の中間予測値y^tsの確率分布が入力された場合の数値を算出する。この第二モデルを用いて算出された数値が最終予測値y^sとなる。こうすることで、観測データ群Gが結果データysと一対一で対応していない場合であっても、ユーザは、新たな観測データxtsを入力することにより、当該観測データxtsが得られた時刻を含む時間帯に生じる結果に関する最終予測値y^sを得ることができる。
【0043】
本実施形態に係る予測部68は、第二モデルを用い、一の鋼材Sが鋳造された時間帯に対応する複数の中間予測値y^tsが入力されたときの最終予測値y^sを算出する。こうすることで、鋳型Mの温度の経時変化のデータが鋼材Sの品質等のデータと一対一で対応することがない連続鋳造を行う場合であっても、ユーザは、複数の中間予測値y^tsに対応する時間帯に鋳造される鋼材Sの品質等に関する最終予測値y^sを得ることができる。なお、予測部68は、第一モデルを用いて中間予測値y^tsを算出したところで動作を終了してもよい。
【0044】
・予測出力部69
予測出力部69は、最終予測値y^sを出力する。本実施形態に係る予測出力部69は、最終予測値y^sを、出力対象9へ出力する。出力対象9は、最終予測値y^sを表示する表示部、最終予測値y^sを記憶する記憶部、最終予測値y^sを送信する通信部、他の装置(電磁拡販装置(Electro Magnetic Stirrer:EMS)等)等を含む。なお、予測出力部69は、第一モデルに新たな観測データxtsが入力されたときに得られる中間予測値y^tsを出力することが可能となっていてもよい。このようにすれば、各時刻の新たな観測データxtsがリアルタイムで予測モデル81に入力されることにより、この後生じることになる結果の予測(中間予測値y^ts)が時刻ごとに出力されることになる。この結果を利用すれば状態を変える手段(EMS等)を、所望の結果が得られる(ピンホールが発生しにくくなるような溶鋼流動となる)ように制御することができる。
【0045】
(演算装置その他)
演算装置100は、第一変換部66および第二変換部67の少なくとも一方を備えていなくてもよい。その場合、第一学習部61および第二学習部62は、第一データ取得部64が取得した観測データxtsおよび第二データ取得部65が取得した結果データysの少なくとも一方を直接入力するようにしてもよい。また、予測側制御部6が有していた一部機能(例えば、第一,第二変換部66,67等)は、収集側制御部1に持たせてもよい。
【0046】
また、演算装置100は、予測部68および予測出力部69を備えていなくてもよい。その場合、演算装置100は、モデル出力部63が予測モデル81を出力したところで動作を終了してもよい。
【0047】
〔予測モデル生成方法〕
次に、上記演算装置100を用いた予測モデル生成方法について説明する。
図3は予測モデル生成方法の流れを示すフローチャート、
図4は予測モデル生成方法の概念図である。
【0048】
予測モデル生成方法は、
図3に示したように、第一データ収集ステップA1と、第二データ収集ステップA2と、第一データ取得ステップA3と、第二データ取得ステップA4と、第一変換ステップA5と、第二変換ステップA6と、第一学習ステップA7と、第二学習ステップA8と、モデル出力ステップA9と、を有している。
【0049】
(第一,第二データ収集ステップA1,A2)
初めの第一データ収集ステップA1では、データ収集装置100aの第一データ収集部11が第一計測部2から観測データxtsを取得し、それをデータベース41に蓄積する。そして、第二データ収集ステップA2では、データ収集装置100aの第二データ収集部12が第二計測部3から結果データysを取得し、それをデータベース41に蓄積する。なお、第一データ収集ステップA1および第二データ収集ステップA2は、同時に行ってもよいし、第二データ収集ステップA2を第一データ収集ステップA1より先に行ってもよい。また、データベース41にあらかじめ十分な数の観測データxtsおよび結果データysが蓄積されている場合、この第一,第二データ収集ステップA1,A2は省略してもよい。
【0050】
(第一,第二データ取得ステップA3,A4)
観測データxtsおよび結果データysがデータベース41に蓄積された後は、第一データ取得ステップA3に移る。第一データ取得ステップA3では、予測装置100bの第一データ取得部64がデータ収集装置100aのデータベース41から観測データxtsを取得する。そして、第二データ取得ステップA4では、予測装置100bの第二データ取得部65がデータ収集装置100aのデータベース41から結果データysを取得する。なお、第一データ取得ステップA3および第二データ取得ステップA4は、同時に行ってもよいし、第二データ取得ステップA4を第一データ取得ステップA3より先に行ってもよい。
【0051】
(第一,第二変換ステップA5,A6)
観測データxtsを取得した後は、第一変換ステップA5に移る。第一変換ステップA5では、予測装置100bの第一変換部66が、取得した観測データxtsを次元数が低減された形式に変換する。一方、結果データysを取得した後は、第二変換ステップA6に移る。第二変換ステップA6では、予測装置100bの第二変換部67が、取得した結果データysをより単純な形に変換する。なお、第一変換ステップA5および第二変換ステップA6は、同時に行ってもよいし、第二変換ステップA6を第一変換ステップA5より先に行ってもよい。また、第一変換ステップA5および第二変換ステップA6の少なくとも一方を行わなくてもよい。
【0052】
(第一学習ステップA7)
観測データx
tsおよび結果データy
sを変換した後は、第一学習ステップA7に移る。第一学習ステップA7では、予測装置100bの第一学習部61が、上記第一モデルを機械学習により構築する。例えば、
図4に示したような、時間帯t
1~t
2に鋳造された鋼材Sについて機械学習させる場合、同時間帯t
1~t
2に、所定時間が経過する度(t
11,t
12・・t
1n)に取得した観測データx
ts(t
11),x
ts(t
12)・・x
ts(t
1n)、及び対応する時間帯の結果データy
sを複製した中間データy
ts(t
11),y
ts(t
12)・・y
ts(t
1n)の組を教師データとして機械学習させる。
【0053】
(第二学習ステップA8)
第一モデルを機械学習させた後は、
図3に示したように、第二学習ステップA8に移る。第二学習ステップA8では、予測装置100bの第二学習部62が、上記第二モデルを機械学習により構築する。例えば、
図4に示したような、時間帯t
1~t
2に鋳造された鋼材Sについて機械学習させる場合、観測データx
ts(t
11),x
ts(t
12)・・x
ts(t
1n)を第一モデルに入力して得られる中間予測値y^
ts(t
11),y^
ts(t
12)・・y^
ts(t
1n)の確率分布、および結果データy
sの組を教師データとして機械学習させる。
【0054】
(モデル出力ステップA9)
第二モデルを機械学習させた後は、
図3に示したように、モデル出力ステップA9に移る。モデル出力ステップA9では、予測装置100bのモデル出力部63が、第一モデルおよび第二モデルにより構成される予測モデル81を出力する。このモデル出力ステップA9では、予測モデル81を、予測装置100bの予測側記憶部8へ記憶してもよいし、予測部68又は他の装置へ送信してもよい。
【0055】
〔予測方法〕
次に、上記予測装置100bを用いた予測方法について説明する。
図5は予測方法の流れを示すフローチャート、
図6は予測方法の概念図である。
【0056】
予測方法は、
図5に示したように、第三データ取得ステップB1と、予測ステップB2と、予測出力ステップB3と、第三変換ステップB4と、を有している。
【0057】
(第三データ取得ステップB1)
初めの第三データ取得ステップB1では、予測装置100bの第一データ取得部64が新たな観測データx
tsを取得する。このとき、連続鋳造機は、連続鋳造を行っている。そして、鋳型Mの温度は、経時変化している。このため、第一データ取得部64は、所定時間が経過する度に観測データx
tsの取得を繰り返すことにより、複数の観測データx
tsを取得する。得られた複数の観測データx
tsの組は、鋳造された複数の鋼材S
1,S
2・・のいずれかと対応している。例えば
図6に示したような、時刻t
1~t
2の時間帯に、所定時間が経過する度(t
21,t
22・・t
2n)に取得した観測データx
ts(t
21),x
ts(t
22)・・x
ts(t
2n)からなる観測データ群Gは、同時間帯に鋳造された鋼材S
2と対応している。
【0058】
(第三変換ステップB4)
観測データxtsを取得した後は、第三変換ステップB4に移る。第三変換ステップB4では、予測装置100bの第一変換部66が、取得した観測データxtsを次元数が低減された形式に変換する。なお、取得した観測データxtsの次元数が初めから小さい場合には、第三変換ステップB4を行わなくてもよい。
【0059】
(予測ステップB2)
新たな観測データxtsを取得した後(もしくは新たな観測データxtsの変換後)は、予測ステップB2に移る。本実施形態に係る予測ステップB2は、第一予測ステップB21と、予測対象選択ステップB22と、第二予測ステップB23と、第三予測ステップB24と、に分かれている。
【0060】
初めの第一予測ステップB21では、予測部68が第一モデルを用い、新たな観測データx
ts(もしくは変換後の観測データx
ts)が入力された場合の中間予測値y^
tsを算出する。予測部68には観測データx
tsが順次入力されるため、予測部68は、中間予測値y^
tsを順次算出する(
図6に示したような連続的な中間予測値y^
tsが得られる)。
【0061】
中間予測値y^
tsを算出した後は、
図5に示したように、予測対象選択ステップB22に移る。この予測対象選択ステップB22では、鋼材Sごとの最終予測値y^
sが必要であるか否かを判断する。具体的には、結果の変化があまりなく(例えば、一の鋼材Sの中で部位ごとの品質が均一で)、代表値に丸め込む必要性が高い場合には、鋼材Sごとの最終予測値y^
sが必要であると判断する。一方、結果の変化が頻繁に起こり(例えば、一の鋼材Sの中で部位ごとに品質が変動し、あるいは観測データx
tsと結果データy
sの対応関係が一対一の対応に近く)、代表値に丸め込む必要性が低い(細かく予測したい)場合は、鋼材Sごとの最終予測値y^
sが必要ではないと判断する。判断は、鋼材Sの表面を撮影し画像データ、結果データy
s等に基づいて予測部68が行ってもよいし、人が行ってもよい。
【0062】
予測対象選択ステップB22で鋼材Sごとに最終予測値y^
sが必要であると判断した場合は、第二予測ステップB23に移る。第二予測ステップB23では、第二モデルを用い中間予測値y^
tsが入力された場合の数値を算出する。本実施形態に係る第二予測ステップB23では、予測部68が、一の鋼材Sが鋳造された時間帯に対応する複数の中間予測値y^
tsを第二モデルに入力して最終予測値y^
sを算出する。例えば
図6に示すように、時間帯t
1~t
2に一の鋼材S
2が鋳造された場合、同時間帯に観測データx
ts(t
21),x
ts(t
22)・・x
ts(t
2n)を取得した時刻t
21,t
22・・t
2nに対応する中間予測値y^
ts(t
21),y^
ts(t
22)・・y^
ts(t
2n)が第二モデルに入力されたときの最終予測値y^
s(鋼材S
2についての最終予測値)を算出する。このとき、第二モデルによって、複数の中間予測値y^
ts(t
21),y^
ts(t
22)・・y^
ts(t
2n)に対応する出力が一つの代表値に丸め込まれる(入出力の時間的な対応関係の曖昧さを吸収する)。このため、算出される最終予測値y^
s(鋼材Sごとの最終予測値)は、0~1の範囲内の数値(確率値)となる。なお、算出された確率値を離散化し、鋼材単位で「0」または「1」を示す値としてもよい。
【0063】
予測対象選択ステップB22で鋼材Sごとには最終予測値y^
sが必要ではないと判断した場合は、第三予測ステップB24に移る。第三予測ステップB24では、予定している全ての鋼材S
1、S
2・・S
nを鋳造する全期間(最初の鋼材S
1の鋳造を開始してから最後のS
nの鋳造を終えるまでの期間)に第一モデルが出力する全ての中間予測値y^
tsのうち、全期間よりも短い第一時間(例えば、
図6におけるt
1~t
2)に対応する一部の中間予測値y^
tsを前記第二モデルへ入力して、一の最終予測値y^
sを出力させる(ステップB241)。そして、第一時間の開始から所定時間後に開始する、全期間よりも短い第二時間(例えば、
図6におけるt
3~t
5の一部の期間)に対応する一部の中間予測値y^
tsを第二モデルに入力して、別の最終予測値y^
sを出力させる(ステップB242)。
【0064】
第一,第二時間の長さは、例えば、一の鋼材Sが鋳造された時間帯の長さの平均値とすることができる。この長さを短く設定すれば、細かい変化を認識することができる。一方、第一時間、第二時間の長さを長く設定すれば、緩やかな変化(傾向)を認識することができる。所定時間の長さは、一の観測データxtsが得られてから次の観測データxtsが得られるまでの時間以上の長さ(例えば10秒)に設定することができる。この長さを短くするほど予測の頻度が高くなる。以上説明してきたような第三予測ステップB24を実行すれば、一の鋼材Sについて得られた二以上の最終予測値y^sは、結果に関する予測の経時変化を表す。このため、結果の変化が頻繁に起こり(例えば、一の鋼材Sの中で部位ごとに品質が変動し、あるいは観測データxtsと結果データysの対応関係が一対一の対応に近く)、代表値に丸め込む必要性が低い(細かく予測したい)場合等の結果に関する予測を行うことができる。
【0065】
なお、第一モデルが中間予測値y^tsを出力した後、中間予測値y^tsを第二モデルに入力することなく予測ステップB2を終了としてもよい。また、上記第三予測ステップB24では、第一時間、第二時間にそれぞれ最終予測値y^sを出力させることとした。しかし、第三予測ステップB24では、第二時間の開始から所定時間後に開始する第三時間・・第(n-1)時間の開始から所定時間後に開始する第n時間にそれぞれ最終予測値y^sを出力させても(3以上の最終予測値y^sを得るようにしても)よい。なお、第一、第二・・第n時間の長さは等しくてもよいし、これらのうち少なくとも一つの時間が他の時間と異なっていてもよい。また、第一、第二・・第n時間の少なくともいずれかは、複数の鋼材の鋳造時間に跨っていてもよい。また、設定する所定時間の長さによって予測される予測の経時変化の仕方が変わってくる。このため、所定時間を複数設定してもよい。
【0066】
(予測出力ステップB3)
最終予測値y^sを算出した後は、予測出力ステップB3に移る。予測出力ステップB3では、演算装置100の予測出力部69が、算出した最終予測値y^sを出力する。なお、予測出力ステップB3では、最終予測値y^sを予測側記憶部8へ記憶してもよいし、図示しない表示部へ表示してもよいし、他の装置へ送信してもよい。
【0067】
〔作用効果〕
本実施形態に係る演算装置100によれば、一対一で対応付けられていない観測データ群Gおよび結果データy
sを予測モデルに機械学習させる際に、第二モデルによる複数の中間予測値y^
tsから(一つの)結果データy
sを出力する動作が、複数の中間予測値y^
tsに対応する出力を一つの代表値に丸め込む(入出力の時間的な対応関係の曖昧さを吸収する)フィルタとして機能する。このため、経時変化する観測対象の状態と、状態に起因する結果と、が一対一で対応していない場合であっても、観測対象の状態の経時変化が従来よりも十分に反映された結果を予測する予測モデル81を得ることができる。特に、本実施形態のように、前記観測データx
tsを鋳型Mにおける一の時刻の温度を示すデータとし、結果データy
sを鋳型Mで鋳造された鋼材Sの品質、または鋳型Mの中の溶鋼の流動状態とした場合に、鋳型Mの温度の経時変化から、製造される鋼材Sの品質を鋼材単位で予測する鋼材製造用の予測モデル81を得ることができる。具体的には、
図6に示したように、第二モデルが出力する最終予測値y^
sが、結果データy
sが示す実際の観測結果に沿ったものとなる。なお、最終予測値y^
sを確率値そのものではなく、鋼材単位で離散化された「0」または「1」とする場合には、結果データy
sと概ね一致することになる。
【0068】
<第一発明実施形態2>
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0069】
本実施形態に係る演算装置100Aは、データ収集機能と、予測モデル構築機能が一つの装置にまとめられている。具体的には、本実施形態に係る演算装置100Aは、
図7に示したように、第一計測部2および第二計測部3の他、制御部6Aと、記憶部8Aと、を備えている。また、本実施形態に係る演算装置100Aは、上記実施形態1に係る演算装置100が備えていた収集側通信部5および予測側通信部7に相当する構成を備えていない。
【0070】
制御部6Aは、上記実施形態1に係る演算装置100の収集側制御部1の機能の一部、および予測側制御部6の機能の一部を兼ね備えている。具体的には、制御部6Aは、第一データ収集部11と、第二データ収集部12と、第一データ取得部64と、第二データ取得部65と、第一変換部66と、第二変換部67と、第一学習部61と、第二学習部62と、モデル出力部63と、予測部68と、予測出力部69と、を備えている。
【0071】
記憶部8Aは、上記実施形態1に係る演算装置100の収集側記憶部4の機能、および予測側記憶部8の機能を兼ね備えている。具体的には、記憶部8Aには、データベース41が構築されている。また、記憶部8Aは、これから学習中モデルを格納している。また、本実施形態に係る記憶部8Aは、機械学習が済んだ予測モデル81を格納することが可能となっている。
【0072】
〔作用効果〕
本実施形態に係る演算装置100Aによれば、上記実施形態1に係る演算装置100が奏する作用効果に加え、通信部が不要になるとともに、制御部、記憶部を一つずつにできる。その結果、演算装置100Aを上記実施形態1に係る演算装置100よりもコンパクト、かつ低コストで製造可能なものとすることができる。
【0073】
<発明2実施形態>
次に、本発明の他の態様の一実施形態について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、上記第一発明の各実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0074】
〔予測装置200〕
上記本発明の一態様は演算装置100,100Aのとおり、予測モデルの構築と当該予測モデルを用いた予測を同一の装置で行っているのに対し、本発明の他の態様は既に他の装置により構築済みの予測モデルを用いて予測のみを行う予測装置200となっている。予測装置200は、例えば
図8に示したように、第一計測部2と、第一データ取得部64と、予測部68と、予測出力部69と、記憶部8Bと、を備える。本実施形態に係る予測装置200は、第一変換部66を更に備えている。本実施形態に係る第一データ取得部64、第一変換部66、予測部68および予測出力部69は、制御部6Bに含まれている。なお、制御部6Bは、他の装置から新しい予測モデル81を取得するモデル取得部を備えていてもよい。
【0075】
第一計測部2は、データベースが構築された記憶部を介さずに制御部6A(第一変換部66または予測部68)と接続されている。このため、制御部6Aは、第一計測部2が生成した観測データxtsを、リアルタイムで直接取得する。
【0076】
記憶部8Bは、予測モデル81を記憶している。
【0077】
〔予測方法〕
予測装置200を用いた予測方法は、上記実施形態1に係る予測装置100bを用いたものと同様、第三データ取得ステップB1と、予測ステップB2と、予測出力ステップB3と、を有している。
【0078】
〔作用効果〕
本実施形態に係る予測装置200によれば、第二モデルによる複数の中間予測値y^tsから(一つの)最終予測値y^sを出力する動作が、複数の中間予測値y^tsに対応する出力を一つの代表値に丸め込む(入出力の時間的な対応関係の曖昧さを吸収する)フィルタとして機能する。このため、経時変化する観測対象の状態と、状態に起因する結果と、が一対一で対応していない場合であっても、観測対象の状態の経時変化が従来よりも十分に反映された結果を予測することができる。
【0079】
〔ソフトウェアによる実現例〕
上記演算装置100,100Aおよび予測装置200(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるための演算プログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に予測側制御部6,制御部6A,6Bに含まれる各部)としてコンピュータを機能させるための演算プログラムにより実現することができる。
この場合、上記装置は、上記演算プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記演算プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
上記演算プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記演算プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0080】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0081】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0082】
まず、複数の鋼材Sのサンプルを用意した。本実施例では、複数キャスト275個のスラブをサンプルとして用意した。また、実施例1~3に係る演算装置100、および比較例に係る演算装置をそれぞれ用意した。実施例1に係る演算装置100の予測モデル81は、Random Forestを用い、第二モデルに入力する複数の中間予測値y^tsを確率分布の形にする機械学習により構築されたものである。実施例2に係る演算装置100の予測モデル81は、Lassoを用い、第二モデルに入力する複数の中間予測値y^tsを確率分布の形にする機械学習により構築されたものである。実施例3に係る演算装置100の予測モデル81は、Lassoを用い、マルチインスタンス学習により構築されたものである。比較例1に係る演算装置の予測モデルは、実績データに基づく単純な多数派モデルである。比較例2に係る演算装置の予測モデルは、実施例1と同様のRandom Forestを用いて構築されたものであるが、鋳型の温度ではなく、鋳造速度等の製造条件を観測データxtsとして機械学習させたものとなっている。
【0083】
次に、第二計測部3を用いて各サンプルのピンホールの個数を計測した。そして、その結果を、ピンホールの個数を横軸、サンプルの数を縦軸とするグラフにまとめたところ、ピンホールが0個(無し)のサンプルは131あった。また、ピンホールが1個以上(有り)のサンプルは144あった。
【0084】
次に、上記各サンプルを鋳造したときに収集した複数の観測データ群Gを、順次実施例1~3に係る演算装置100(または演算装置100A,予測装置200)にそれぞれ取得させ、各サンプルに対する最終予測値y^sをそれぞれ出力させた。そして、交差検証法を用いて、キャストごとの予測精度およびP値をそれぞれ算出した。算出した各値をまとめたところ、下記表1に示したようになった。表1によれば、実施例1,3に係る演算装置100の予測精度は、いずれも比較例1,2に係る演算装置の予測結果よりも高かった。また、実施例1に係る演算装置100の予測精度は、実施例2,3に係る演算装置の予測結果と比べても高かった。また、実施例2,3に係る演算装置100のP値は、実施例1に係る演算装置100および比較例1に係る演算装置のP値よりも高い。実施例は精度およびP値の観点より、温度情報をもとにピンホール発生有無を一定の性能で予測できていることがわかる。
【0085】
【0086】
次に、交差検証法を用いて、各サンプルにおけるピンホールの発生確率をそれぞれ算出した。そして、その結果を、実際に計測したピンホールの個数を横軸、算出した発生確率を縦軸とするグラフにまとめたところ、
図9に示したような結果となった。
図9からは、実際のピンホールの個数が多いスラブほど、ピンホールの発生確率の平均的が高くなる傾向を示すことが見て取れる。
【0087】
次に、各スラブのピンホールの有無を、各スラブの鋳造時刻を横軸、ピンホールの有無を縦軸とするグラフにまとめたところ、
図10(a)のようになった。また、各スラブのピンホールの有無の最終予測値y^
sを、各スラブの鋳造時刻を横軸、最終予測値y^
sを縦軸とするグラフにまとめたところ、
図10(b)に示したようになった。
図10からは、実際のピンホールの有無の変動と最終予測値y^
sの変動とは似た傾向を示すことが見て取れる。