(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174333
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】エネルギー吸収構造部材、及びその変形制御方法
(51)【国際特許分類】
F16F 7/12 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
F16F7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087127
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】二塚 貴之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太郎
【テーマコード(参考)】
3J066
【Fターム(参考)】
3J066AA02
3J066AA23
3J066BA03
3J066BC01
3J066BD07
3J066BF02
3J066BG10
(57)【要約】
【課題】曲げ変形する衝突形態について、簡易な手段によって、部材の変形に対する初期の最大荷重の発生時期を制御可能な技術を提供する。
【解決手段】天板部2A及び天板部2Aの幅方向両側にそれぞれ第1稜線部を介して連続する左右の側壁部2Cを有するハット断面部材2と、天板部2Aに対向配置した底板部3とで、閉断面構造を構成する中空部材を備え、左右の側壁部2Cは、天板部2Aに対する傾き角度及び高さが等しく、左右の稜線部は、互いの断面形状が異なる形状となっていることで、天板部2Aと底板部3とが対向する方向、且つ天板部側から入力される荷重に対する変形抵抗が異なる。例えば、基準とする構造部材に対し、一方の稜線部を規定する断面形状の曲率半径を大きくすることで、エネルギー吸収能をさほど変更することなく、最大荷重となるストロークを後方に移行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板部及び上記天板部の幅方向両側にそれぞれ第1稜線部を介して連続する左右の側壁部を有するハット断面部材と、上記天板部に対向配置した底板部とで、閉断面構造を構成する中空部材を備え、
上記左右の側壁部は、上記天板部に対する傾き角度及び高さが等しく、
上記左右の第1稜線部は、互いの断面形状を異なる形状となっていることで、上記天板部と上記底板部とが対向する方向、且つ上記天板部側から入力される荷重に対する変形抵抗が異なる、
ことを特徴とするエネルギー吸収構造部材。
【請求項2】
天板部、上記天板部の幅方向両側にそれぞれ第1稜線部を介して連続する左右の側壁部、及び左右の側壁部にそれぞれ第2稜線部を介して連続する左右のフランジ部を有するハット断面部材と、上記天板部に対向配置した底板部とで、閉断面構造を構成する中空部材を備え、
上記左右の側壁部は、上記天板部に対する傾き角度及び高さが等しく、
上記左右の第2稜線部は、互いの断面形状を異なる形状となっていることで、上記天板部と上記底板部とが対向する方向、且つ上記底板部側から入力される荷重に対する変形抵抗が異なる、
ことを特徴とするエネルギー吸収構造部材。
【請求項3】
上記左右の第1稜線部の断面形状は円弧形状からなり、上記左右の第1稜線部を規定する断面形状の曲率半径が互いに異なる、
ことを特徴とする請求項2に記載したエネルギー吸収構造部材。
【請求項4】
上記天板部に対し、衝突体を、上記底板部側に向けて荷重を負荷する曲げ圧壊試験で、上記天板部に上記底板部に向かう荷重を負荷して、上記荷重の最大荷重と、その最大荷重となるストローク量とを求める試験条件において、
上記左右の第1稜線部を規定する断面形状の曲率半径をRa、Rb(ただし、Ra>Rbとする)とし、(Ra/Rb)を比率Aとし、上記最大荷重をFmaxとし、最大荷重となる上記ストローク量をStとした場合、(1)式及び(2)式を満足する構造からなる、
ことを特徴とする請求項3に記載したエネルギー吸収構造部材。
ただし、Fmax0は、上記Raを上記Rbと同じ曲率半径としたときの上記最大荷重であり、St0は、上記Raを上記Rbと同じ曲率半径としたときの上記荷重が最大荷重となるストローク量である。
0.04A+0.95 < St/St0 < 0.19A+0.82
・・・(1)
0.9 < Fmax/Fmax0 <1.0 ・・・(2)
【請求項5】
天板部及び上記天板部の幅方向両側にそれぞれ第1稜線部を介して連続する左右の側壁部を有するハット断面部材と、上記天板部に対向配置した底板部とで、閉断面構造を構成する中空部材を備えるエネルギー吸収構造部材の、上記天板部側からの衝撃の入力に対する当該構造部材の変形挙動を制御する変形制御方法であって、
上記左右の側壁部を、上記天板部に対する傾き角度及び高さが等しくなるように設定し、
上記左右の第1稜線部の断面形状を円弧形状とし、
上記左右の第1稜線部を規定する断面形状の曲率半径を等しくした状態から、上記左右の第1稜線部のうち一方の第1稜線部の曲率半径だけを変更することで、上記天板部側からの衝撃による、荷重が最大荷重となる変形量を制御する、
エネルギー吸収構造部材の変形制御方法。
【請求項6】
荷重が最大荷重となる変形量を大きくする場合、上記左右の第1稜線部のうち一方の第1稜線部の曲率半径が大きくなる方向に曲率半径を変更する、
ことを特徴とする請求項5に記載したエネルギー吸収構造部材の変形制御方法。
【請求項7】
上記左右の第2稜線部の断面形状は円弧形状からなり、上記左右の第2稜線部を規定する断面形状の曲率半径が互いに異なり、
上記左右の第1稜線部の断面形状は円弧形状からなり、上記左右の第1稜線部を規定する断面形状の曲率半径がともに18mm以下となる、
ことを特徴とする請求項2に記載したエネルギー吸収構造部材。
【請求項8】
上記底板部に対し、衝突体を、上記天板部側に向けて荷重を負荷する曲げ圧壊試験で、上記底板部に上記天板部に向かう荷重を負荷して、上記荷重の最大荷重と、その最大荷重となるストローク量とを求める試験条件において、
上記左右の第2稜線部を規定する断面形状の曲率半径をRc、Rd(ただし、Rc>Rdとする)とし、(Rc/Rd)を比率Aとし、上記最大荷重をFmaxとし、最大荷重となる上記ストローク量をStとした場合、(3)式及び(4)式を満足する構造からなる、
ことを特徴とする請求項7に記載したエネルギー吸収構造部材。
ただし、Fmax0は、上記Rcを上記Rdと同じ曲率半径としたときの上記最大荷重であり、St0は、上記Rcを上記Rdと同じ曲率半径としたときの上記荷重が最大荷重となるストローク量である。
0.15A+0.6 < St/St0 < 0.2A+1.0 ・・・(3)
0.85 < Fmax/Fmax0 <1.0 ・・・(4)
【請求項9】
天板部、上記天板部の幅方向両側にそれぞれ第1稜線部を介して連続する左右の側壁部、及び左右の側壁部にそれぞれ第2稜線部を介して連続する左右のフランジ部を有するハット断面部材と、上記天板部に対向配置した底板部とで、閉断面構造を構成する中空部材を備えるエネルギー吸収構造部材の、上記底板部側からの衝撃の入力に対する当該構造部材の変形挙動を制御する変形制御方法であって、
上記左右の側壁部を、上記天板部に対する傾き角度及び高さが等しくなるように設定し、
上記左右の第2稜線部の断面形状を円弧形状とし、
上記左右の第2稜線部を規定する断面形状の曲率半径を等しくした状態から、上記左右の第2稜線部のうち一方の第2稜線部の曲率半径だけを変更することで、上記底板部側からの衝撃による、荷重が最大荷重となる変形量を制御する、
エネルギー吸収構造部材の変形制御方法。
【請求項10】
荷重が最大荷重となる変形量を大きくする場合、上記左右の第2稜線部のうち一方の第2稜線部の曲率半径が大きくなる方向に曲率半径を変更する、
ことを特徴とする請求項9に記載したエネルギー吸収構造部材の変形制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天板部と側壁部を有するハット断面部材と、天板部と対向する底板部とで閉断面構造を構成する構造部材に係り、天板部側若しくは底板部側から入力される衝突荷重に対するエネルギー吸収性能を簡易な構造の変化で調整可能なエネルギー吸収構造部材を提供する技術である。本発明は、特に、自動車用の骨格部材への適用に好適なエネルギー吸収構造部材を提供する技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野では、乗員保護の観点から衝突安全基準の厳格化が進められており、高強度鋼の適用拡大や衝突安全性能に優れる車両開発が強く求められている。
ここで、衝突の形態としては、軸圧壊する衝突形態と、曲げ変形する衝突形態とがある。軸圧壊する衝突形態では、自動車前面から入力される衝突荷重を受けるクラッシュボックスやフロントサイドメンバのように、部材の長手方向が衝突方向と一致して軸圧壊が発生する。曲げ変形する衝突形態では、側面衝突におけるBピラーやサイドシルあるいは全面衝突におけるバンパーのように、構造部材の側面に衝突荷重が負荷されて部材が曲げ変形する。
【0003】
両方の形態は、いずれも、部材が座屈変形することで衝突エネルギーを吸収し、耐衝突性能を発揮する。また、部材により求められる性能は異なり、例えば、乗員に近いキャビン周りの骨格部材(構造部材)は、乗員保護の観点から、変形を抑制し安全を確保する役割が求められる。一方で、キャビンから離れた端部に位置する部材、つまり衝撃が入力される部位は、エネルギー吸収の観点から、所定の範囲内で部材を変形させて衝突時のエネルギーを効率よく吸収し、他の構造材へと荷重を分散させながら、衝突エネルギーを伝達する役割が求められる。
このようなエネルギー吸収部材では、初期の衝撃が大きい場合、乗員へのダメージが大きくなると考えられる。このため、単純に部材強度を向上させるだけではなく、初期の衝突荷重を制御することも必要となる。
【0004】
従来、耐衝突性能を向上させる技術の1つとして、補強部材を取り付けることで構造部材の強度を向上させる技術が提案されている。例えば、特許文献1には、構造部材の内部に複数個のバルクヘッドを設けると共にバルクヘッドの間に補強材を設けることで、部材の変形を抑制する技術が記載されている。
また、特許文献2、3には、構造部材の内側に発泡材を充填する、あるいは発砲充填した補強部材を衝突時に変形しやすい屈曲部に配置することで、構造部材の変形を抑制する技術が記載されている。
【0005】
また、変形を抑制するために剛性を向上させる技術が、特許文献4,5に記載されている。特許文献4,5には、衝突を受ける面に凸形状を設ける、あるいは高強度かつ高板厚化する技術が記載されている。凸形状を設ける技術では、座屈の分散効果により変形時の急激な荷重低下を抑制し、高い変形抵抗を維持する効果もある。
また、特許文献6には、構造部材の変形後期の荷重制御する技術が記載されている。特許文献6には、荷重を2段階で受け止めて2段目の変形抵抗を高く設定することで、変形後期も高い衝突性能を維持する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-20267号公報
【特許文献2】特開2002-36413号公報
【特許文献3】特開2017-159896号公報
【特許文献4】特開平4-208633号公報
【特許文献5】特開平2008-279904号公報
【特許文献6】特開2005-1431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の各特許文献に記載の技術は、部材の変形抵抗を高めることで、衝突性能を向上させる、あるいは衝突時の座屈位置を分散させる、又は、2段階で抵抗付与することで変形が進行する過程で生じる急激な荷重低下を抑制する技術である。すなわち、上記の各特許文献に記載の技術は、初期の衝突荷重を制御する技術ではない。
また、構造部材に対し補強部材を取り付けた場合、部品点数の増加による重量増加や、金型の増加によるコスト面の課題などがある。発泡充填材による補強は、生産工程の複雑化が懸念され、リサイクル性の観点からも課題がある。また、部分的に発砲充填部材を取り付ける場合、部材取付けに接着が用いられるが、変形途中でのはく離や経年劣化などの接着性に課題があり、安定した耐衝突性能の確保が困難であると考えられる。
【0008】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、曲げ変形する衝突形態について、簡易な手段によって、部材の変形に対する初期の最大荷重(ピーク荷重)の発生時期を制御可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、所定の範囲内で部材を変形させるエネルギー吸収部材、特に曲げ変形に対し、乗員への衝撃を低減するために、初期のピーク荷重を制御することが可能な部品構造について、鋭意検討した。その際に、発明者は、重量増加を抑制する観点からプレス加工による補強部品など部品点数を増加させないことを前提に、部品形状の影響について鋭意検討した。
【0010】
その検討結果に基づき、発明者は、ハット断面部材を有する中空部材について、衝突荷重が入力される方向に配置された左右の稜線部の互いの変形抵抗が変わるように、当該左右の稜線部の形状(変形抵抗)を互いに異ならせるという簡易な手段によって、天板部側若しくは底板部側からの荷重(衝突)に対し、初期の最大荷重となるまでの変形量を制御出来るとの知見を得た。例えば、上記の左右の稜線部の一方の変形抵抗を相対的に小さくすることで、全体の吸収エネルギー量をさほど変えることなく、初期の最大荷重となるまでの変形量が増大し、つまり衝突初期の荷重変化が緩やかになることで、車両に適用した場合、乗員への衝撃が緩和するとの知見を得た。
【0011】
そして、課題解決のために、本発明の一態様は、天板部及び上記天板部の幅方向両側にそれぞれ第1稜線部を介して連続する左右の側壁部を有するハット断面部材と、上記天板部に対向配置した底板部とで、閉断面構造を構成する中空部材を備え、上記左右の側壁部は、上記天板部に対する傾き角度及び高さが等しく、上記左右の第1稜線部は、互いの断面形状を異なる形状となっていることで、上記天板部と上記底板部とが対向する方向、且つ上記天板部側から入力される荷重に対する変形抵抗が異なる、ことを要旨とする。
【0012】
また、本発明の態様は、天板部、上記天板部の幅方向両側にそれぞれ第1稜線部を介して連続する左右の側壁部、及び左右の側壁部にそれぞれ第2稜線部を介して連続する左右のフランジ部を有するハット断面部材と、上記天板部に対向配置した底板部とで、閉断面構造を構成する中空部材を備え、上記左右の側壁部は、上記天板部に対する傾き角度及び高さが等しく、上記左右の第2稜線部は、互いの断面形状を異なる形状となっていることで、上記天板部と上記底板部とが対向する方向、且つ上記底板部側から入力される荷重に対する変形抵抗が異なる、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の態様によれば、左右線対称の断面構造を基本として、衝突荷重の入力の可能性がある天板部側若しくは底板部側の左右の稜線部の変形抵抗を異ならせて左右の抵抗バランスを変化させるという簡易な手段によって、全体の吸収エネルギー量をさほど変えることなく、天板部側若しくは底板部側からの衝突(荷重入力)に対する、初期の最大荷重となるまでの変形量が制御可能となる。すなわち、天板部側若しくは底板部側からの衝突に対し、左右の稜線部での抵抗バランスを変化させるという簡易な方法によって、衝突時の変形挙動を制御可能なエネルギー吸収構造部材を提供可能となる。
【0014】
この結果、本発明の態様のエネルギー吸収構造部材によれば、全体の吸収エネルギー量をさほど変えることなく、天板部側若しくは底板部側の左右の稜線部の変形抵抗が等しい場合に対し、天板部側若しくは底板部側の左右の稜線部の変形抵抗の違いに応じて、天板部側からの荷重入力に対する、初期の最大荷重となるまでの部材の変形量(ストローク量)を変えることできる。
例えば、初期の衝撃荷重を緩和させる観点から、初期の最大荷重が発生するまでのストローク量を大きくし、衝突初期の荷重変化を緩やかにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に基づく第1実施形態に係るエネルギー吸収構造部材を示す図であって、(a)は断面図、(b)は斜視図である。
【
図2】荷重とストローク(変形量)の関係を示す、荷重-ストローク曲線関係を示す図である。
【
図3】ストロークに伴う構造部材の形状変化の例を示す図である。
【
図5】表1における、各諸元の位置を示す図である。
【
図6】本発明に基づく第2実施形態に係るエネルギー吸収構造部材を示す図であって、(a)は断面図、(b)は斜視図である。
【
図7】荷重とストローク(変形量)の関係を示す、荷重-ストローク曲線関係を示す図である。
【
図8】ストロークに伴う構造部材の形状変化の例を示す図である。
【
図9】荷重とストローク(変形量)の関係を示す、荷重-ストローク曲線関係を示す図である。
【
図10】ストロークに伴う構造部材の形状変化の例を示す図である。
【
図12】表2における、各諸元の位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
「第1実施形態」
まず第1実施形態について説明する。
(構成)
本実施形態のエネルギー吸収構造部材1(以下、単に構造部材1とも呼ぶ)は、
図1に示すように、鋼板からなるハット断面部材2と、鋼板からなる底板部3とから閉断面構造を構成する中空部材である。
ハット断面部材2は、天板部2Aと、天板部2Aの幅方向両側にそれぞれ第1稜線部2Bを介して連続する左右の側壁部2Cと、各側壁部2Cの端部に第2稜線部2Dを介して連続するフランジ部2Eとを有する。フランジ部2Eは、底板部3と接続する接続部を構成する。
【0017】
底板部3は、天板部2Aと高さ方向で対向配置しており、ハット断面部材2で形成される開口を塞ぐように配置されている。そして、底板部3の幅方向両側がハット断面部材2の左右のフランジ部2Eと接合されることで、構造部材1は、閉断面構造の中空部材となっている。
ハット断面部材2を構成する鋼板は、例えば、引張強度が980MPa以上の高強度材からなる。ハット断面部材2を構成する鋼板は、軽量化と衝突安全性能(衝撃吸収能)の両方を確保するために、引張強度が980MPa以上の高強度材が好ましい。より好ましくは、1180MPa以上の高強度材である。また、ハット断面部材2は、例えば厚さが0.8mm以上3.0mm以下の範囲の薄鋼板からなる。このような、高強度材からなり、且つ厚さが上記のような厚さ範囲であれば、想定される衝突時の衝突エネルギーを吸収可能な車両用の構造部材を提供可能となる。
【0018】
底板部3を構成する鋼板は、例えば、普通鋼からなり、その厚さが、例えば0.8mm以上3.0mm以下の薄鋼板である。
更に、本実施形態のハット断面部材2の断面形状は、天板部2A側の左右の第1稜線部2Bを除き、天板部2Aと底板部3を結ぶ方向に対して線対称の形状となっている。
具体的には、天板部2Aに対する、左右の側壁部2Cの傾き角度θ1,θ2が等しく(θ1=θ2)、且つ左右の側壁部2Cの高さが等しい。そして、天板部2Aの左右の幅方向端部での構造部材1の高さが等しくなっている。
更に、本実施形態では、底板部3側の左右の第2稜線部2Da、2Dbも同じ曲率半径となっている。
【0019】
そして、本実施形態のハット断面部材2では、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの断面形状を異ならせることで、左右の第1稜線部2Ba、2Bbは、天板部2Aと底板部3とが対向する方向から入力される荷重に対する変形抵抗が異なるように設定されている。
左右の変形抵抗を変更する手段としては、例えば、左右の稜線部を規定する円弧の曲率半径を互いに違えて設定すれば簡易に変更可能である。また、上記変形抵抗を調整する手段としては、例えば、一方の第1稜線部2Bの全体あるいは部分的に、凹凸や段差、面取りなどの形状を設けることで、変形抵抗を調整する方法もある。また、左右の稜線部を同一の円弧形状で構成し、一方の板厚を薄くする方法で変形抵抗を調整しても良い。
【0020】
なお、構造部材1は、基本とする上記の断面形状に対し、他部品との組み付けや接合などの観点から、別途、開口や接合用の座面が設けられていても良い。また、構造部材1は、衝突性能や剛性向上の観点から、基本とする上記の形状に対し、断面全体を補強するような部材が別途取り付けられていても良い。
【0021】
(左右の第1稜線部2Ba、2Bbの設定方法)
以下の説明では、説明を簡易にするため、第1稜線部2B及び第2稜線部2Dの断面形状が共に、円弧形状からなる場合で説明する。
また、以下の説明では、本開示を車両の構造部材1に適用する場合を想定して説明する。
本実施形態では、上述の通り、左右の第1稜線部2Ba、2Bbは、天板部2Aと上記底板部3とが対向する方向から入力される荷重に対する変形抵抗が異なるように、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの曲率半径が異なるように設定する。
【0022】
本例では、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの曲率半径が同じ構造部材1を、改善前の基準の構造部材(以下、改善対象構造部材とも呼ぶ)とする。すなわち、改善対象構造部材の断面形状は、天板部2Aと底板部3を結ぶ方向(高さ方向)に対して、左右の第1稜線部2Ba、2Bbを含め、線対称の形状となっているとする。
ここで、ハット断面部材からなる中空の構造部材は、改善対象構造部材と同じ断面形状となっていることが多い。
【0023】
本実施形態では、簡易な手段で、このような改善対象構造部材に対し、天板部2A側からの衝突荷重に対する、初期の最大荷重が発生するまでの部材の変形量(ストローク量)を調整する。なお、ストローク量は、天板部2Aに対し衝突による荷重が負荷されてからの、天板部2Aの荷重入力方向への変形量である。
以下、初期の最大荷重が発生するまでのストローク量を、最大発生ストローク量とも呼ぶ。
【0024】
具体的には、本実施形態では、改善対象構造部材に対し、左右の第1稜線部2Ba、2Bb以外の上記の線対称という断面形状の条件を変えずに、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの断面形状の曲率半径を互いに異なる値に変更することで、初期衝突の荷重を制御する。具体的には、初期の変形状態を変化させて、最大発生ストローク量を調整した。簡易には、改善対象構造部材に対し、左右の第1稜線部2Ba、2Bbのうちの、一方の第1稜線部2Baの断面形状の曲率半径だけを変更すればよい。
【0025】
例えば、衝突初期の荷重変化を緩やかにする方向に、改善対象構造部材を調整する場合には、改善対象構造部材の構成条件に対し、左右の第1稜線部2Ba、2Bbのうち、一方の第1稜線部2Baの変形抵抗だけを小さくなるように設置する。具体的には、改善対象構造部材の断面形状に対し、片方の第1稜線部2Baの断面形状の曲率半径だけを大きく設定する。なお、部品断面形状により曲率半径を大きくとることに限界があるが、片方の第1稜線部2Baの断面形状の曲率半径Raを大きく設定するほど、最大発生ストローク量も大きくなる。このとき、一方の第1稜線部2Baの断面形状の曲率半径Raは、他方の第1稜線部2Bbの断面形状の曲率半径Rbの3倍以上が好ましい。
【0026】
この場合、第1稜線部2Bの断面形状の変形が、ハット断面部材2を成型する金型のパンチの肩半径を変更するだけで調整できるので、本開示では、最大発生ストローク量の制御(衝突時の初期荷重の制御)が容易となる。
なお、一方の第1稜線部2Baの断面形状の曲率半径を、限界があるが、小さくなる方向に調整することで、最大発生ストローク量を小さくすることも可能である。
【0027】
(本開示の機序について)
衝突初期の衝撃緩和を目的とする場合を行う場合で説明する。
従来、衝突に対する衝撃緩和の観点から、構造部材の部材強度や板厚を下げる、あるいは変形の起点を設けるなどでの変形促進により、初期の荷重を低下させる対策などがある。しかし、このような対策の場合は、衝撃を下げる分、エネルギー吸収能もそれに応じて低下する。このため、エネルギー吸収能を向上させるための対策が、別途必要となる。別途の対策とは、補強部材の適用や、荷重伝達後に別部品で荷重を受ける、特許文献5,6のような変形後期での変形抑制の対策などである。
【0028】
一方、本開示の技術は、例えば構造部材全体のエネルギー吸収能をさほど変えること無く、衝突時の初期ピーク荷重(初期の最大荷重)をストローク後方に移行させることを主眼とした技術である。本開示では、最大発生ストローク量を変更することで、初期の荷重を低下しつつ、吸収エネルギーはほぼ維持されることが大きな特徴となっている。当然、変形初期だけ見ると、荷重が低く、吸収エネルギー能は低くなるため、所定範囲で部品を変形させながら性能を発揮するエネルギー吸収部材を対象としている。
【0029】
より具体的に説明する。
改善対象構造部材の場合、天板部2A側からの衝撃による荷重が入力した場合、左右の第1稜線部2Ba、2Bbでの変形抵抗が等しいことから、左右均等に負荷を受ける構造となっている。このため、天板部2Aからの入力に対し、左右均等に変形して、衝突エネルギーを吸収する。
これに対し、本開示のように、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの変形抵抗が異なる場合、初期の変形時において、左右の変形バランスが異なる。
【0030】
すなわち、本開示では、天板部2A側から荷重が入力すると、まず、曲率半径が小さい側の第1稜線部2Bb(一方の第1稜線部2Bbと呼ぶ)の方が、相対的に変形抵抗が高いことから、一方の第1稜線部2Bb側への負荷が高くなり、左右均等に負荷を受け持つ場合に比べて低い荷重で変形が進行する。変形の進行とともに、もう一方の曲率半径が大きい第1稜線部2Ba側への負荷が増加することで初期ピーク荷重に到達するストロークが大きくなると考えられる。
この結果、本開示では、左右の変形抵抗バランスが異なるため、最大荷重が低下しつつ、最大荷重を示す最大発生ストローク量が大きくなると考えられる。
【0031】
また、荷重入力で部材の変形が進行して、左右の第1稜線部2Ba、2Bbである程度断面が潰れることで、左右への負荷が均等化され、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの断面形状の差異が小さくなり、変形後期は、改善対象構造部材と同様の荷重-ストローク曲線(
図2参照)を示すと考えられる。これによって、変形が進行しストローク量が大きくなると、エネルギー吸収能は、改善対象構造部材の場合と同様な吸収能となると考えられる。
改善対象構造部材に対し、最大発生ストローク量を増やす(最大荷重となるストロークを後方に移行させる)ように調整する場合、下記の試験条件において、(1)式及び(2)式を満足するように、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの曲率半径Ra、Rbを設定することが好ましい。
【0032】
「試験条件」
試験条件は、天板部2Aに対し、パンチ(衝突体)を底板部3側に向けてストロークさせる3点曲げ試験(
図4参照)からなる曲げ圧壊試験で、天板部2Aに底板部3に向かう荷重を負荷して、荷重の最大荷重と、その最大荷重となる上記ストローク量とを求める試験条件とする。
3点曲げ試験は、長手方向の2カ所を、底板部3側で支持させた状態で、2カ所の支持の間の中央部にてパンチで荷重を負荷する試験である。
【0033】
0.04A+0.95 < St/St0 < 0.19A+0.82
・・・(1)
0.9 < Fmax/Fmax0 <1.0 ・・・(2)
ここで、
Ra、Rb:左右の第1稜線部2Ba、2Bbを規定する断面形状の曲率半径
(ただし、Ra>Rb)
比率A:Ra/Rb
Fmax:初期(最初)に発生する最大荷重(ピーク荷重)
St:最大発生ストローク量
である。
また、Fmax0は、RaをRbと同じ曲率半径としたときの最大荷重であり、St0は、RaをRbと同じ曲率半径としたときの最大発生ストローク量である。
【0034】
(1)式及び(2)式は、実施例で示すようなFEM解析の結果から求めたものである。
(1)式及び(2)式に基づき、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの曲率半径を共にRbとした改善対象構造部材に対し、一方の第1稜線部2Baの曲率半径を、(1)式及び(2)式を満足する範囲に調整することで、エネルギー吸収能をさほど変更せずに、初期に発生する最大荷重のストロークを後方に移行することが出来る。エネルギー吸収性能については、衝突時のストローク80mmまでの平均荷重で評価した。
【0035】
以上のように、本開示によれば、天板部2Aの幅方向両端に配置される第1稜線部2Bを互いに異なる形状に設定することで、天板部2A側からの衝突初期の荷重を制御し、初期ピーク荷重(最大荷重)となるストローク量を大きくすることができる。この結果、本開示によれば、乗員への初期の衝撃を軽減しつつ、所定の範囲内において部材変形によるエネルギー吸収量は同等なエネルギー吸収構造部材を得ることが可能となる。
また、本開示では、初期ピーク荷重(最大荷重)となるストロークを後方へ移行させても、必ずしも補強部材や発泡材などを必要としない。このため、本開示によれば、部品点数の増加による重量増加や、金型増加によるコスト増加、あるいはリサイクルや、生産性を阻害することなく簡便に衝突時の荷重を制御することができる。
【0036】
「第2実施形態」
次に、本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。
(構成)
本実施形態のエネルギー吸収構造部材1(以下、単に構造部材1とも呼ぶ)は、
図6に示すように、鋼板からなるハット断面部材2と、鋼板からなる底板部3とから閉断面構造を構成する中空部材である。
ハット断面部材2は、天板部2Aと、天板部2Aの幅方向両側にそれぞれ第1稜線部2Bを介して連続する左右の側壁部2Cと、各側壁部2Cの端部に第2稜線部2Dを介して連続するフランジ部2Eとを有する。フランジ部2Eは、底板部3と接続する接続部を構成する。
【0037】
底板部3は、天板部2Aと高さ方向で対向配置しており、ハット断面部材2で形成される開口を塞ぐように配置されている。そして、底板部3の幅方向両側がハット断面部材2の左右のフランジ部2Eと接合されることで、構造部材1は、閉断面構造の中空部材となっている。
ハット断面部材2を構成する鋼板は、例えば、引張強度が980MPa以上の高強度材からなる。ハット断面部材2を構成する鋼板は、軽量化と衝突安全性能(衝撃吸収能)の両方を確保するために、引張強度が980MPa以上の高強度材が好ましい。より好ましくは、1180MPa以上の高強度材である。また、ハット断面部材2は、例えば厚さが0.8mm以上3.0mm以下の範囲の薄鋼板からなる。このような、高強度材からなり、且つ厚さが上記のような厚さ範囲であれば、想定される衝突時の衝突エネルギーを吸収可能な車両用の構造部材を提供可能となる。
【0038】
底板部3を構成する鋼板は、例えば、普通鋼からなり、その厚さが、例えば0.8mm以上3.0mm以下の薄鋼板である。
更に、本実施形態のハット断面部材2の断面形状は、底板部3側の左右の第2稜線部2Dを除き、天板部2Aと底板部3を結ぶ方向に対して線対称の形状となっている。
具体的には、天板部2Aに対する、左右の側壁部2Cの傾き角度θ1,θ2が等しく(θ1=θ2)、且つ左右の側壁部2Cの高さが等しい。そして、天板部2Aの左右の幅方向端部での構造部材1の高さが等しくなっている。
更に、本実施形態では、天板部2A側の左右の第1稜線部2Ba、2Bbも同じ曲率半径となっている。左右の第1稜線部2Ba、2Bbは、異なる曲率半径でも構わないが、曲率半径が18mm以下であることが好ましい。より好ましくは15mm以下である。
【0039】
そして、本実施形態のハット断面部材2では、左右の第2稜線部2Da、2Dbの断面形状を異ならせることで、左右の第2稜線部2Da、2Dbは、天板部2Aと底板部3とが対向する方向から入力される荷重に対する変形抵抗が異なるように設定されている。
左右の変形抵抗を変更する手段としては、例えば、左右の稜線部を規定する円弧の曲率半径を互いに違えて設定すれば簡易に変更可能である。また、上記変形抵抗を調整する手段としては、例えば、一方の第2稜線部2Dの全体あるいは部分的に、凹凸や段差、面取りなどの形状を設けることで、変形抵抗を調整する方法もある。また、左右の稜線部を同一の円弧形状で構成し、一方の板厚を薄くする方法で変形抵抗を調整しても良い。
なお、構造部材1は、基本とする上記の断面形状に対し、他部品との組み付けや接合などの観点から、別途、開口や接合用の座面が設けられていても良い。また、構造部材1は、衝突性能や剛性向上の観点から、基本とする上記の形状に対し、断面全体を補強するような部材が別途取り付けられていても良い。
【0040】
(左右の第2稜線部2Da、2Dbの設定方法)
以下の説明では、説明を簡易にするため、第1稜線部2B及び第2稜線部2Dの断面形状が共に、円弧形状からなる場合で説明する。
また、以下の説明では、本開示を車両の構造部材1に適用する場合を想定して説明する。
本実施形態では、上述の通り、左右の第2稜線部2Da、2Dbは、天板部2Aと上記底板部3とが対向する方向から入力される荷重に対する変形抵抗が異なるように、左右の第2稜線部2Da、2Dbの曲率半径が異なるように設定する。
【0041】
本例では、左右の第2稜線部2Da、2Dbの曲率半径が同じ構造部材1を、改善前の基準の構造部材(以下、改善対象構造部材とも呼ぶ)とする。すなわち、改善対象構造部材の断面形状は、天板部2Aと底板部3を結ぶ方向(高さ方向)に対して、左右の第2稜線部2Da、2Db、及び左右の第1稜線部2Ba、2Bbを含め、線対称の形状となっているとする。
ここで、ハット断面部材からなる中空の構造部材は、改善対象構造部材と同じ断面形状となっていることが多い。
【0042】
本実施形態では、簡易な手段で、このような改善対象構造部材に対し、底板部3側からの衝突荷重に対する、初期の最大荷重が発生するまでの部材の変形量(ストローク量)を調整する。なお、ストローク量は、底板部3に対し衝突による荷重が負荷されてからの、底板部3の荷重入力方向への変形量である。
以下、初期の最大荷重が発生するまでのストローク量を、最大発生ストローク量とも呼ぶ。
【0043】
具体的には、本実施形態では、改善対象構造部材に対し、左右の第2稜線部2Da、2Db以外の上記の線対称という断面形状の条件を変えずに、左右の第2稜線部2Da、2Dbの断面形状の曲率半径を互いに異なる値に変更することで、底板部3側のからの初期衝突の荷重を制御する。具体的には、初期の変形状態を変化させて、最大発生ストローク量を調整した。簡易には、改善対象構造部材に対し、左右の第2稜線部2Da、2Dbのうちの、一方の第2稜線部2Daの断面形状の曲率半径Rcだけを変更すればよい。
【0044】
例えば、衝突初期の荷重変化を緩やかにする方向に、改善対象構造部材を調整する場合には、改善対象構造部材の構成条件に対し、左右の第2稜線部2Da、2Dbのうち、一方の第2稜線部2Daの変形抵抗だけを小さくなるように設置する。具体的には、改善対象構造部材の断面形状に対し、片方の第2稜線部2Daの断面形状の曲率半径だけを大きく設定する。なお、部品断面形状により曲率半径を大きくとることに限界があるが、片方の第2稜線部2Daの断面形状の曲率半径を大きく設定するほど、最大発生ストローク量も大きくなる。
【0045】
この場合、第2稜線部2Dの断面形状の変形が、ハット断面部材2を成型する金型のダイの肩半径を変更するだけで調整できるので、本開示では、最大発生ストローク量の制御(衝突時の初期荷重の制御)が容易となる。
なお、一方の第2稜線部2Daの断面形状の曲率半径を、限界があるが、小さくなる方向に調整することで、最大発生ストローク量を小さくすることも可能である。
【0046】
(本開示の機序について)
衝突初期の衝撃緩和を目的とする場合を行う場合で説明する。
従来、衝突に対する衝撃緩和の観点から、構造部材の部材強度や板厚を下げる、あるいは変形の起点を設けるなどでの変形促進により、初期の荷重を低下させる対策などがある。しかし、このような対策の場合は、衝撃を下げる分、エネルギー吸収能もそれに応じて低下する。このため、エネルギー吸収能を向上させるための対策が、別途必要となる。別途の対策とは、補強部材の適用や、荷重伝達後に別部品で荷重を受ける、特許文献5,6のような変形後期での変形抑制の対策などである。
【0047】
一方、本開示の技術は、例えば構造部材全体のエネルギー吸収能をさほど変えること無く、衝突時の初期ピーク荷重(初期の最大荷重)をストローク後方に移行させることを主眼とした技術である。本開示では、最大発生ストローク量を変更することで、初期の荷重を低下しつつ、吸収エネルギーはほぼ維持されることが大きな特徴となっている。当然、変形初期だけ見ると、荷重が低く、吸収エネルギー能は低くなるため、所定範囲で部品を変形させながら性能を発揮するエネルギー吸収部材を対象としている。
【0048】
より具体的に説明する。
改善対象構造部材の場合、底板部3側からの衝撃による荷重が入力した場合、左右の第2稜線部2Da、2Dbでの変形抵抗が等しいことから、左右均等に負荷を受ける構造となっている。このため、底板部3からの入力に対し、左右均等に変形して、衝突エネルギーを吸収する。
これに対し、本開示のように、左右の第2稜線部2Da、2Dbの変形抵抗が異なる場合、初期の変形時において、左右の変形バランスが異なる。
【0049】
すなわち、本開示では、底板部3側から荷重が入力すると、まず、曲率半径が小さい側の第2稜線部2Db(一方の第2稜線部2Dbと呼ぶ)の方が、相対的に変形抵抗が高いことから、一方の第2稜線部2Db側への負荷が高くなり、左右均等に負荷を受け持つ場合に比べて低い荷重で変形が進行する。変形の進行とともに、もう一方の曲率半径が大きい第2稜線部2Da側への負荷が増加することで初期ピーク荷重に到達するストロークが大きくなると考えられる。
この結果、本開示では、左右の変形抵抗バランスが異なるため、最大荷重が低下しつつ、最大荷重を示す最大発生ストローク量が大きくなると考えられる。
【0050】
また、荷重入力で部材の変形が進行して、左右の第2稜線部2Da、2Dbである程度断面が潰れることで、左右への負荷が均等化され、左右の第2稜線部2Da、2Dbの断面形状の差異が小さくなり、変形後期は、改善対象構造部材と同様の荷重-ストローク曲線(
図7参照)を示すと考えられる。これによって、変形が進行しストローク量が大きくなると、エネルギー吸収能は、改善対象構造部材の場合と同様な吸収能となると考えられる。
【0051】
この左右の第2稜線部2Da、2Dbへの負荷が均等化され、左右の第2稜線部2Da、2Dbの断面形状の差異が小さくなり、左右が均等に近い状態で変形するには、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの変形抵抗の差異が小さいことが好ましい。また左右の第1稜線部2Ba、2Bbの強度自体が低い場合は、衝突時の変形状態が不安定になる。そのような観点から、天板部2A側の左右の第1稜線部2Ba、2Bbの曲率半径は18mm以下が好ましい。より好ましくは15mm以下である。
改善対象構造部材に対し、最大発生ストローク量を増やす(最大荷重となるストロークを後方に移行させる)ように調整する場合、下記の試験条件において、(3)式及び(4)式を満足するように、左右の第2稜線部2Da、2Dbの曲率半径Rc、Rdを設定することが好ましい。
【0052】
「試験条件」
試験条件は、底板部3に対し、パンチ(衝突体)を天板部2A側に向けてストロークさせる3点曲げ試験(
図11参照)からなる曲げ圧壊試験で、底板部3に天板部2Aに向かう荷重を負荷して、荷重の最大荷重と、その最大荷重となる上記ストローク量とを求める試験条件とする。
3点曲げ試験は、長手方向の2カ所を、天板部2A側で支持させた状態で、2カ所の支持の間の中央部にてパンチで荷重を負荷する試験である。
【0053】
0.15A+0.6 < St/St0 < 0.2A+1
・・・(3)
0.85 < Fmax/Fmax0 <1.0 ・・・(4)
【0054】
ここで、
Rc、Rd:左右の第2稜線部2Da、2Dbを規定する断面形状の曲率半径
(ただし、Rc>Rd)
比率A:Rc/Rd
Fmax:初期(最初)に発生する最大荷重(ピーク荷重)
St:最大発生ストローク量
である。
また、Fmax0は、RcをRdと同じ曲率半径としたときの最大荷重であり、St0は、RcをRdと同じ曲率半径としたときの最大発生ストローク量である。
【0055】
(1)式及び(2)式は、実施例で示すようなFEM解析の結果から求めたものである。
(1)式及び(2)式に基づき、左右の第2稜線部2Da、2Dbの曲率半径を共にRdとした改善対象構造部材に対し、一方の第2稜線部2Daの曲率半径を、(1)式及び(2)式を満足する範囲に調整することで、エネルギー吸収能をさほど変更せずに、初期に発生する最大荷重のストロークを後方に移行することが出来る。エネルギー吸収性能については、衝突時のストローク80mmまでの平均荷重で評価した。
【0056】
以上のように、本開示によれば、底板部3の幅方向両端に配置される第2稜線部2Dを互いに異なる形状に設定することで、底板部3側からの衝突初期の荷重を制御し、初期ピーク荷重(最大荷重)となるストローク量を大きくすることができる。この結果、本開示によれば、乗員への初期の衝撃を軽減しつつ、所定の範囲内において部材変形によるエネルギー吸収量は同等なエネルギー吸収構造部材を得ることが可能となる。
また、本開示では、初期ピーク荷重(最大荷重)となるストロークを後方へ移行させても、必ずしも補強部材や発泡材などを必要としない。このため、本開示によれば、部品点数の増加による重量増加や、金型増加によるコスト増加、あるいはリサイクルや、生産性を阻害することなく簡便に衝突時の荷重を制御することができる。
【0057】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1) 天板部及び上記天板部の幅方向両側にそれぞれ第1稜線部を介して連続する左右の側壁部を有するハット断面部材と、上記天板部に対向配置した底板部とで、閉断面構造を構成する中空部材を備え、
上記左右の側壁部は、上記天板部に対する傾き角度及び高さが等しく、
上記左右の第1稜線部は、互いの断面形状を異なる形状となっていることで、上記天板部と上記底板部とが対向する方向、且つ上記天板部側から入力される荷重に対する変形抵抗が異なる。
【0058】
(2) 天板部、上記天板部の幅方向両側にそれぞれ第1稜線部を介して連続する左右の側壁部、及び左右の側壁部にそれぞれ第2稜線部を介して連続する左右のフランジ部を有するハット断面部材と、上記天板部に対向配置した底板部とで、閉断面構造を構成する中空部材を備え、
上記左右の側壁部は、上記天板部に対する傾き角度及び高さが等しく、
上記左右の第2稜線部は、互いの断面形状を異なる形状となっていることで、上記天板部と上記底板部とが対向する方向、且つ上記底板部側から入力される荷重に対する変形抵抗が異なる。
(3) 上記左右の第1稜線部の断面形状は円弧形状からなり、上記左右の第1稜線部を規定する断面形状の曲率半径が互いに異なる。
【0059】
(4) 上記天板部に対し、衝突体を、上記底板部側に向けて荷重を負荷する曲げ圧壊試験で、上記天板部に上記底板部に向かう荷重を負荷して、上記荷重の最大荷重と、その最大荷重となるストローク量とを求める試験条件において、
上記左右の第1稜線部を規定する断面形状の曲率半径をRa、Rb(ただし、Ra>Rbとする)とし、(Ra/Rb)を比率Aとし、上記最大荷重をFmaxとし、最大荷重となる上記ストローク量をStとした場合、(1)式及び(2)式を満足する構造からなる。
ただし、Fmax0は、上記Raを上記Rbと同じ曲率半径としたときの上記最大荷重であり、St0は、上記Raを上記Rbと同じ曲率半径としたときの上記荷重が最大荷重となるストローク量である。
0.04A+0.95 < St/St0 < 0.19A+0.82
・・・(1)
0.9 < Fmax/Fmax0 <1.0 ・・・(2)
【0060】
(5) 天板部及び上記天板部の幅方向両側にそれぞれ第1稜線部を介して連続する左右の側壁部を有するハット断面部材と、上記天板部に対向配置した底板部とで、閉断面構造を構成する中空部材を備えるエネルギー吸収構造部材の、上記天板部側からの衝撃の入力に対する当該構造部材の変形挙動を制御する変形制御方法であって、
上記左右の側壁部を、上記天板部に対する傾き角度及び高さが等しくなるように設定し、
上記左右の第1稜線部の断面形状を円弧形状とし、
上記左右の第1稜線部を規定する断面形状の曲率半径を等しくした状態から、上記左右の第1稜線部のうち一方の第1稜線部の曲率半径だけを変更することで、上記天板部側からの衝撃による、荷重が最大荷重となる変形量を制御する。
【0061】
(6) 荷重が最大荷重となる変形量を大きくする場合、上記左右の第1稜線部のうち一方の第1稜線部の曲率半径が大きくなる方向に曲率半径を変更する。
(7) 上記左右の第2稜線部の断面形状は円弧形状からなり、上記左右の第2稜線部を規定する断面形状の曲率半径が互いに異なり、
上記左右の第1稜線部の断面形状は円弧形状からなり、上記左右の第1稜線部を規定する断面形状の曲率半径がともに18mm以下となる。
【0062】
(8) 上記底板部に対し、衝突体を、上記底板部側に向けて荷重を負荷する曲げ圧壊試験で、上記底板部に上記天板部に向かう荷重を負荷して、上記荷重の最大荷重と、その最大荷重となるストローク量とを求める試験条件において、
上記左右の第2稜線部を規定する断面形状の曲率半径をRc、Rd(ただし、Rc>Rdとする)とし、(Rc/Rd)を比率Aとし、上記最大荷重をFmaxとし、最大荷重となる上記ストローク量をStとした場合、(3)式及び(4)式を満足する構造からなる。
ただし、Fmax0は、上記Rcを上記Rdと同じ曲率半径としたときの上記最大荷重であり、St0は、上記Rcを上記Rdと同じ曲率半径としたときの上記荷重が最大荷重となるストローク量である。
0.15A+0.6 < St/St0 < 0.2A+1.0 ・・・(3)
0.85 < Fmax/Fmax0 <1.0 ・・・(4)
【0063】
(9) 天板部、上記天板部の幅方向両側にそれぞれ第1稜線部を介して連続する左右の側壁部、及び左右の側壁部にそれぞれ第2稜線部を介して連続する左右のフランジ部を有するハット断面部材と、上記天板部に対向配置した底板部とで、閉断面構造を構成する中空部材を備えるエネルギー吸収構造部材の、上記底板部側からの衝撃の入力に対する当該構造部材の変形挙動を制御する変形制御方法であって、
上記左右の側壁部を、上記天板部に対する傾き角度及び高さが等しくなるように設定し、
上記左右の第2稜線部の断面形状を円弧形状とし、
上記左右の第2稜線部を規定する断面形状の曲率半径を等しくした状態から、上記左右の第2稜線部のうち一方の第2稜線部の曲率半径だけを変更することで、上記底板部側からの衝撃による、荷重が最大荷重となる変形量を制御する。
(10) 荷重が最大荷重となる変形量を大きくする場合、上記左右の第2稜線部のうち一方の第2稜線部の曲率半径が大きくなる方向に曲率半径を変更する。
【実施例0064】
(第1実施例)
第1実施形態に基づく実施例について説明する。
発明者らは、FEM解析により、
図1に示すような形状を有する構造部材1を用いて、3点曲げ試験での部品変形挙動を詳細に解析した。3点曲げ試験条件を
図4に示す。すなわち、3点曲げの解析条件は、構造部材1における長手方向に離れた下面の2点を支持部材30で支持し、パンチ31を等速変位でストロークさせて、長手方向中央部に上側から天板部2Aに対し荷重を底板部3側に向けて負荷するという条件である。
なお、パンチ31のストローク速度は、1.0m/sである。
【0065】
ここで、ハット断面部材2には、厚さ1.2mm、引張強度1180MPaの鋼板を使用した。また、底板部3には、厚さ1.2mm、引張強度590MPaの鋼板を使用した。
また、構造部材1の長さを600mmとし、底板部3の幅方向長さを127mmとした。また、高さを40mmとした。
そして、他方の第1稜線部2Bbの曲率半径Rbと、左右の第2稜線部2Da、2Dbの曲率半径Rc、Rdを6mmに設定して、一方の第1稜線部2Baの曲率半径Raを、2mm、6mm、20mmと変化させた各構造部材1について、上記のような、天板部2A側から荷重を負荷した3点曲げ性能を評価した。
【0066】
そのときの荷重-ストローク曲線を、
図2に示す。また、一方の第1稜線部2Baの曲率半径Ra毎の、ストロークに対する形状変形の関係を
図3に示す。
図2に示す荷重-ストローク曲線から分かるように、一方の第1稜線部2Bの曲率半径Raが大きくなるにしたがい、最大荷重を示すストローク量が大きくなっており、かつ最大荷重が低下していることが分かる。
また、
図3から分かるように、最大荷重ストローク量を超えたあとの変形後期では、一方の第1稜線部2Baの曲率半径Raを、2mm、6mm、20mmと変化させた場合でも、断面変形状態が同様となることも分かる。
なお、ストローク80mmまでの平均荷重はそれぞれ、一方の第1稜線部2Baの曲率半径Raを2mm、6mm、20mmとした各構造部材1において、ストローク80mmまでの平均荷重はそれぞれ10.2kN、10.3kN、10.2kNであり、エネルギー吸収能は同等であった。
【0067】
また、構造部材1を
図5のように設定して、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの曲率半径Ra、Rb及び左右の第2稜線部2Da、2Dbの曲率半径Rc、Rdを、表1のように設定して、(1)式及び(2)式で規定する、FmaxとFmax0との関係、StとST0の関係を求めてみた。なお、No.2のサンプルが改善対象構造部材に対応する。
なお、Faveは、サンプルの構造部材でのストローク80mmまでの平均荷重であり、Fave0は、対応する改善対象構造部材でのストローク80mmまでの平均荷重である。
【0068】
【0069】
表1から分かるように、比率Aが1の改善対象構造部材に対し、比率A=(Ra/Rb)に比例して、最大発生ストローク量は変更されるが、ストローク80mmまでの平均荷重はほぼ同じであることが分かった。
表1における、No.3~5,7~13は、(1)式を満足する場合である。また、No.4,6,9の例は、左右の第2稜線部の曲率半径RcとRdを変えた場合の例であり、変更しても衝突性能への影響が小さいことが分かった。
【0070】
以上のことから、ハット断面形状のハット断面部材2を備える中空部材について、荷重が負荷される天板側の幅方向両側にある第1稜線部2Bの形状を変化させることで、衝突初期の荷重を制御できることが分かる。そして、例えば、比率Aを1より大きくすることで、改善対象構造部材に対し、乗員への初期の衝撃を軽減しつつ、所定の範囲内において部材変形によるエネルギー吸収量は同等を示す構造部材1が得られる。
なお、構造部材1の高さや幅、天板部2Aに対する側壁部2Cの傾き角度を、種々変更してみたが、同様な結果を得た。
【0071】
(第2実施例)
次に、第2実施形態に基づく実施例について説明する。
発明者らは、FEM解析により、
図6に示すような形状を有する構造部材1を用いて、3点曲げ試験での部品変形挙動を詳細に解析した。3点曲げ試験条件を
図11に示す。すなわち、3点曲げの解析条件は、構造部材1における長手方向に離れた下面の2点を支持部材30で支持し、パンチ31を等速変位でストロークさせて、長手方向中央部に上側から底板部3に対し荷重を天板部2A側に向けて負荷するという条件である。
なお、パンチ31のストローク速度は、1.0m/sである。
【0072】
ここで、ハット断面部材2には、厚さ1.2mm、引張強度1180MPaの鋼板を使用した。また、底板部3には、厚さ1.2mm、引張強度590MPaの鋼板を使用した。
また、構造部材1の長さを600mmとし、底板部3の幅方向長さを127mmとした。また、高さを40mmとした。
そして、他方の第2稜線部2Dbの曲率半径Rdと、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの曲率半径Ra、Rbを6mmに設定して、一方の第2稜線部2Daの曲率半径Rcを、2mm、6mm、10mmと変化させた各構造部材1について、上記のような、底板部3側から荷重を負荷した3点曲げ性能を評価した。
【0073】
そのときの荷重-ストローク曲線を、
図7に示す。また、一方の第2稜線部2Daの曲率半径Ra毎の、ストロークに対する形状変形の関係を
図8に示す。
図7に示す荷重-ストローク曲線から分かるように、一方の第2稜線部2Daの曲率半径Rcが大きくなるにしたがい、最大荷重を示すストローク量が大きくなっており、かつ最大荷重が低下していることが分かる。
また、
図8から分かるように、最大荷重ストローク量を超えたあとの変形後期では、一方の第2稜線部2Daの曲率半径Rcを、2mm、6mm、10mmと変化させた場合でも、断面変形状態が同様となることも分かる。
【0074】
なお、ストローク80mmまでの平均荷重はそれぞれ、一方の第2稜線部2Daの曲率半径Rcが2mm、6mm、10mmの各構造部材1において、ストローク80mmまでの平均荷重はそれぞれ11.1kN、11.2kN、11.9kNであり、エネルギー吸収能は同等であった。
また、他方の第1稜線部2Bbの曲率半径Rbと、左右の第2稜線部2Da、2Dbの曲率半径Rc、Rdを6mmに設定して、一方の第1稜線部2Baの曲率半径Raを、6mm、15mm、18mm、20mmと変化させた各構造部材1について、上記のような、底板部3側から荷重を負荷した3点曲げ性能を評価した。
【0075】
そのときの荷重-ストローク曲線を、
図9に示す。また、一方の第1稜線部2Baの曲率半径Ra毎の、ストロークに対する形状変形の関係を
図10に示す。
図9に示す荷重-ストローク曲線から分かるように、底板部3側の左右の第2稜線部2Da、2Dbの曲率半径Rc、Rdを同じ値とし、天板部2A側の一方の第1稜線部2Bの曲率半径Raだけを変更しても、最大荷重を示すストロークはほとんど変更しないことが分かった。
また、
図9、
図10から分かるように、最大荷重ストローク量を超えたあとの変形途中で、天板部側の曲率半径Raが大きくなるに従い、左右均等に変形しなくなり、断面形状が不安定になるとともに、荷重が低下している。
【0076】
このように、底板部側のからの衝突に対し、衝突時の断面変形挙動を安定させるためには、天板部側の左右の第1稜線部2Ba、2Bbの変形抵抗の差異が小さいほうが好ましく、天板部側の左右の第1稜線部2Ba、2Bbの曲率半径は18mm以下が好ましい。より好ましくは15mm以下である。
また、構造部材1を
図12のように設定して、左右の第1稜線部2Ba、2Bbの曲率半径Ra、Rb及び左右の第2稜線部2Da、2Dbの曲率半径Rc、Rdを、表2のように設定して、(3)式及び(4)式で規定する、FmaxとFmax0との関係、StとST0の関係を求めてみた。なお、No.2のサンプルが改善対象構造部材に対応する。
なお、Faveは、サンプルの構造部材でのストローク80mmまでの平均荷重であり、Fave0は、対応する改善対象構造部材でのストローク80mmまでの平均荷重である。
【0077】
【0078】
表2から分かるように、比率Aが1の改善対象構造部材に対し、比率A=(Rc/Rd)に比例して、最大発生ストローク量は変更されるが、平均エネルギー吸収量はほぼ同じであることが分かった。
表2における、No.3、4、6、7、9~13は、(3)式を満足する場合である。また、No.8の比較例は、第2稜線部の曲率半径Raが大きい場合の例であり、本開示の例に比べ、エネルギー吸収性能が低下していることが分かった。
【0079】
以上のことから、ハット断面形状のハット断面部材2を備える中空部材について、荷重が負荷される底板部3側の幅方向両側にある第2稜線部2Dの形状を変化させることで、衝突初期の荷重を制御できることが分かる。そして、例えば、比率Aを1より大きくすることで、改善対象構造部材に対し、乗員への初期の衝撃を軽減しつつ、所定の範囲内において部材変形によるエネルギー吸収量は同等を示す構造部材1が得られる。
なお、構造部材1の高さや幅、天板部2Aに対する側壁部2Cの傾き角度を、種々変更してみたが、同様な結果を得た。