(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174340
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】電極触媒層、及び膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20231130BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20231130BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20231130BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M8/10 101
H01M8/1004
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087139
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018DD05
5H018EE17
5H018HH04
5H018HH05
5H126AA02
5H126BB06
5H126FF02
5H126GG18
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】電解性能の低下を抑制可能な電極触媒層、及び電解槽用の膜電極接合体を提供する。
【解決手段】電極触媒層12は、固体高分子電解質膜11上に形成される電極触媒層であって、触媒21と高分子電解質23とを、含み、上記固体高分子電解質膜11と接する面と反対の電極表面の電極表面空孔率が、1.0%以上20%以下である。膜電極接合体は、固体高分子電解質膜の一方の面にカソード側電極触媒層が形成されると共に、固体高分子電解質膜の他方の面にアノード側電極触媒層が形成された膜電極接合体であって、上記アノード側電極触媒層及び上記カソード側電極触媒層の少なくとも一方の電極触媒層が、本開示の電極触媒層12である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜上に形成される電極触媒層であって、
触媒と高分子電解質とを、含み、
上記固体高分子電解質膜と接する面と反対の電極表面の電極表面空孔率が、1.0%以上20%以下である、
ことを特徴とする電極触媒層。
【請求項2】
繊維状物質を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項3】
上記繊維状物質が高分子繊維である、
ことを特徴とする請求項2に記載の電極触媒層。
【請求項4】
固体高分子電解質膜の一方の面にカソード側電極触媒層が形成されると共に、上記固体高分子電解質膜の他方の面にアノード側電極触媒層が形成された膜電極接合体であって、
上記アノード側電極触媒層及び上記カソード側電極触媒層の少なくとも一方の電極触媒層が、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の電極触媒層である、
膜電極接合体。
【請求項5】
固体高分子電解質膜の一方の面にカソード側電極触媒層が形成されると共に、上記固体高分子電解質膜の他方の面にアノード側電極触媒層が形成された膜電極接合体であって、
上記アノード側電極触媒層及び上記カソード側電極触媒層がそれぞれ、請求項2又は請求項3に記載の電極触媒層からなり、
上記カソード側電極触媒層における繊維状物質の質量%濃度が、上記アノード側電極触媒層における繊維状物質の質量%濃度よりも高い、
膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解装置用電極などに好適な電極触媒層、及び膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラルの達成に向けて様々な資源から生成できるCO2フリーなエネルギーとして利用可能な水素を主要なエネルギーとして利用する動きが加速している。中でも、水素の製造もしくは貯蔵の方法として再生可能エネルギーを用いて水やアンモニアの電解や有機物からの脱水素反応を用いた手法が有望視されている。
【0003】
水電解の手法としては、一般にアルカリ水電解と固体高分子型水電解が知られている。特に、固体高分子型水電解は、高効率運転による小型化が可能な手法として注目を集めている。固体高分子型水電解装置の代表的な構成は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜の両面に電極触媒層が配された膜電極接合体と、さらにその外側に給電体と通電板を有する。固体高分子形電解装置を用いた電解方法としては、有機物電解である有機物と水素もしくはプロトンとの電気化学反応も良く知られている。
水電解および有機物電解のいずれにおいても、アノード側の電極触媒層内では電気化学反応により、下記反応式のように、供給した水が酸化され、酸素ガスが生成する。
反応式:2H2O → O2 + 4H+ + 4e-
【0004】
この反応で生成した酸素ガスは、アノード側電極触媒層内の空孔を通って、系外へと出ていく。このとき、アノード側電極触媒層内の空孔形成が不十分な場合、反応により生成した酸素ガスが触媒付近に滞留する。この場合、反応基質である水が触媒へ近接しにくくなり、物質輸送抵抗が上昇し電解時のセル電圧が上昇してしまう可能性がある。
さらに、アノード側電極触媒層内の酸素ガスが増加すると、滞留した酸素ガスの圧力が上昇する。その場合、酸素ガスにより電極触媒層の構造が崩れてしまうことがある。具体的には、電極触媒層内に亀裂が入り、耐久性の低下をもたらす可能性がある。
【0005】
水電解の場合、カソード側の電極触媒層内では電気化学反応(下記の反応式参照)により、カソード側から固体高分子電解質膜を通り移動してきたプロトンが還元され、水素ガスが発生する。
反応式:2H+ + 2e- → H2
この反応で生成した水素ガスは、カソード側電極触媒層内の空孔を通って、系外へと出ていく。カソード側電極触媒層内の空孔形成が不十分な場合、反応により生成した水素ガスが触媒付近に滞留することで、圧力により触媒層構造が崩れてしまうことがある。
ここで、特許文献1では、触媒層の空孔率が50vol%以上95のvol%以下である電極が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、触媒層表面での空孔率について十分に検証されておらず、電極触媒層の物質輸送性が十分とは言えない。具体的には、電極触媒層内部の空孔が50vol%と十分であったとしても、電極触媒層表面の空孔形成が不十分であった場合、電極触媒層内部からガスが排出されず、物質輸送性が低下し、電解性能は低下する可能性がある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、電解性能の低下を抑制可能な電極触媒層、及び電解槽用の膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、電極触媒層内部からのガスの排出を向上させることを目的として、電極触媒層の空孔について鋭意検討した結果、電極触媒層の電極表面空孔率を調整することで、ガスの排出が向上するとの知見を得た。そして、この知見に基づき、本発明を成した。
課題解決のために、本発明の一態様に係る電極触媒層は、固体高分子電解質膜上に形成される電極触媒層であって、触媒と高分子電解質とを、含み、上記固体高分子電解質膜と接する面と反対の電極表面の電極表面空孔率が、1.0%以上20%以下である。
また、本発明の他の態様に係る膜電極接合体は、固体高分子電解質膜の一方の面にカソード側電極触媒層が形成されると共に、固体高分子電解質膜の他方の面にアノード側電極触媒層が形成された膜電極接合体であって、上記アノード側電極触媒層及び上記カソード側電極触媒層の少なくとも一方の電極触媒層が、本発明の一態様に係る電極触媒層である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、電解時に電極触媒層内で発生するガスが電極触媒層表面から排出されやすくなる。この結果、電解時のセル電圧が低く耐久性の高い電極触媒層および膜電極接合体を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る電解槽用の膜電極接合体を説明するための断面模式図である。
【
図2】本発明に基づく実施形態に係る電解槽用の膜電極接合体を構成する電極触媒層を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
以下に示す実施形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施形態として記述する特徴に特定されるものではない。実施形態については、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。また、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。
【0012】
「構成」
(膜電極接合体)
本実施形態の膜電極接合体10は、
図1が示すように、固体高分子電解質膜11を挟んで、カソード側電極触媒層12Cとアノード側電極触媒層12Aとが対向配置されている。更に、
図1では、その積層方向外側に、カソード側電極触媒層12C、固体高分子電解質膜11、及びアノード側電極触媒層12Aを挟んで、カソード側集電体13C及びアノード側集電体13Aが対向配置されている状態が図示されている。
【0013】
(高分子電解質膜)
固体高分子電解質膜11は、固体高分子から形成されている。
すなわち、固体高分子電解質膜11は、プロトン伝導性を有する高分子材料により構成され、例えば、フッ素系電解質膜、炭化水素系高分子電解質膜を用いることができる。フッ素系高分子電解質膜として、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、AGC(株)製Forblue(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)等を用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質膜としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質膜を用いることができる。
【0014】
(電極触媒層)
カソード側電極触媒層12Cとアノード側電極触媒層との対向方向(固体高分子電解質膜11の厚さ方向;
図1では上下方向からの平面視)から見たとき、例えば、カソード側電極触媒層12Cの外形とアノード側電極触媒層12Aの外形とはほぼ同形である。もしくは、固体高分子電解質膜の面に対し、後から形成する電極触媒層の外形が、先に形成する電極触媒層の外形よりも大きい。また、固体高分子電解質膜11の外形は、これらの電極触媒層12C、12Aの外形以上の大きさを有する。
固体高分子電解質膜11の外形や電極触媒層12の外形の各形状は、特に限定されず、例えば、矩形となっている。
ここで、カソード側電極触媒層12Cとアノード側電極触媒層12Aとを区別しない場合は、単に「電極触媒層12」と記載する。触媒21、導電担体22、高分子電解質23、繊維状物質24に関しても同様の記載を行う。また、アノード側集電体13A及びカソード側集電体13Cを区別しない場合には、単に「集電体13」と記載する。
【0015】
図2は、本実施形態のカソード側及びアノード側の電極触媒層12の構成を模式的に示す断面図である。本実施形態では、カソード側電極触媒層12Cとアノード側電極触媒層12Aとが同様な構成となっている場合とする。
電極触媒層12は、固体高分子電解質膜11の面に設けられ、触媒21と、高分子電解質23とを含む。本実施形態の触媒21は粒子形状の触媒粒子からなり、その触媒粒子は、還元反応を行うためのカソード触媒粒子あるいは酸化反応を行うアノード触媒粒子である。
【0016】
電極触媒層12の片面(
図2では下面)は、固体高分子電解質膜11に接している。膜電極接合体を単セルやユニットセルに組み込む場合、電極触媒層12のもう一方の面は、集電体13に接する。なお、
図1及び
図2では、分かり易くするため、集電体13、13A及び13Cを離して図示している。
集電体13としては、導電性のある材料であれば良い。具体的には、カーボンペーパーやカーボン不織布、酸化物や金属の板などが挙げられる。金属の板としては、チタン焼結体などが挙げられる。カーボンペーパーは撥水加工がされていても良く、酸化物や金属の板は貴金属めっきがされていても良い。集電体13は多孔体であることが好ましい。集電体13が多孔体であることにより、電解の反応により膜電極接合体から生成するガスが系外へ排出されやすくなる。このことにより、電解時の物質輸送抵抗が低下し、電解性能が良くなることがある。
【0017】
電極触媒層12における、固体高分子電解質膜11と接する面と反対の面(
図2では上面)は、空孔が多いことが好ましい。本実施形態では、反対の面での電極表面空孔率が1.0%以上20%以下の範囲となるように調整されている。
固体高分子電解質膜11と接する面と反対の面での電極表面の空孔が多いことで、電解の反応により電極触媒層12内で生成したガスが、電極表面から排出されやすくなる。電極触媒層12から排出されたガスは、集電体13などを通り系外へと排出される。電極表面空孔率が1.0%未満の場合、電極触媒層12内で生成したガスが電極触媒層12内に滞留しやすくなり、ガス圧力が上昇し、電極触媒層12の構造を破壊してしまうことがある。破壊は、例えば、触媒21から高分子電解質23が剥離したり、触媒21や導電担体22により形成される導電ネットワークが破断したりして発生する。一方、電極表面空孔率が20%よりも大きすぎる場合、電極触媒層12と集電体13の接触する面積が小さくなり、電解時のセル抵抗が増大し、電解性能が低下してしまうことがある。
【0018】
電極触媒層12の上記の電極表面空孔率は、膜電極接合体の製造方法を工夫することにより、制御することが出来る。
具体的には、固体高分子電解質膜11に触媒インクを直接塗工してから乾燥させることで、触媒インク中の溶媒が固体高分子電解質膜11と接する面と反対の面から揮発する。そして、その揮発により、電極触媒層12表面の空孔を多く形成することが出来る。また、触媒インクに繊維状物質24を加えることで、電極触媒層12が不織布のような構造になるため、電極表面にも空孔が多く形成される。電極表面空孔率を上げるために、触媒インクに発泡剤を加えても良い。
【0019】
(触媒)
触媒21は、例えば粒子形状からなる。
触媒21は、例えば、白金族元素からなる金属、または白金族元素を含む合金もしくは白金族元素を含む酸化物などから形成されてよい。白金族元素は、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、および、オスミウム(Os)である。白金族元素を含む合金は、例えば、鉄(Fe)、鉛(Pt)、銅(Cu)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)、および、アルミニウム(Al)などを含むことができる。
【0020】
(カソード触媒)
カソード側電極触媒層12Cに用いる触媒21(カソード触媒21と呼ぶ)は、白金、または白金を含む合金、もしくは白金を含む酸化物から形成されることが好ましい。白金を含むカソード触媒は、カソード還元反応での過電圧が低い観点において好ましい。カソード触媒21には、白金とルテニウムからなる合金を含むことがより好ましい。これらの金属を用いることで、有機物電解時には、反応基質がルテニウムに吸着し電解効率が向上することがある。
カソード触媒21の粒径は、0.5nm以上20nm以下の範囲内に含まれることが好ましく、1nm以上5nm以下の範囲内に含まれることがより好ましい。カソード触媒21の粒径が0.5nm以上であることによって、カソード触媒21の安定性が低下しにくい。カソード触媒21の粒径が20nm以下であることによっては、カソード触媒21の活性が低下しにくい。
【0021】
(アノード触媒)
アノード側電極触媒層12Aに用いる触媒21(アノード触媒21と呼ぶ)は、イリジウム、またはイリジウムを含む合金、もしくはイリジウムを含む酸化物から形成されることが好ましい。アノード酸化反応での過電圧が低い観点において好ましい。
アノード触媒21の粒径は、5nm以上500nm以下の範囲内に含まれることが好ましく、10nm以上200nm以下の範囲内に含まれることがより好ましい。アノード触媒21の粒径が5nm以上であることによって、アノード触媒21の安定性が低下しにくい。アノード触媒21の粒径が20nm以下であることによっては、アノード触媒21の活性が低下しにくい。
【0022】
(導電担体)
触媒21は、
図2のように、導電担体22に担持されていても良い。カソード触媒21は、導電担体22に担持されていることが好ましい。
導電担体22は、例えば、炭素粒子、炭素繊維、および、金属酸化物などであってよい。このうち、金属酸化物は、例えば、酸化チタンや酸化スズなどであってよい。酸化スズには、タングステンまたはニオブをドープしてもよい。これによって、担体の導電性を高めることができる。
【0023】
(カソード導電担体)
カソード触媒21を担持する導電担体22(カソード導電担体22と呼ぶ)は、炭素粒子であることが特に好ましい。担体として炭素粒子を選択することによって、他の担体を選択する場合に比べて、担体の表面積を大きくすることが出来るので、カソード触媒21を高い密度で担持することができる。これにより、カソード導電担体22当たりの触媒活性を向上させることができる。なお、カソード導電担体22は、上述した炭素粒子、炭素繊維、および、金属酸化物以外の担体であってもよい。この場合には、カソード導電担体22は、導電性を有した微粒子であって、かつ、カソード触媒21におかされないものであればよい。
【0024】
カソード導電担体22の平均粒径は、10nm以上3μm以下の範囲に含まれることが好ましく、10nm以上2μm以下の範囲に含まれることがより好ましい。カソード導電担体22の粒径が10nm以上であることによって、カソード導電担体22が小さすぎることが抑えられ、これによって、電子伝導パスが形成されにくくなることが抑えられる。また、カソード導電担体22の粒径が3μm以下であることによって、カソード導電担体22が大きすぎることが抑えられるから、電極触媒層が厚くなることが抑えられる。これによって、電極触媒層の抵抗が増加することが抑えられ、結果として、電極触媒層を備える膜電極接合体10の電解時のセル電圧が上昇することが抑えられる。
【0025】
カソード導電担体22の比表面積は、50m2/g以上2000m2/g以下の範囲に含まれることが好ましく、100m2/g以上1500m2/g以下の範囲に含まれることがより好ましい。カソード導電担体22の比表面積が50m2/g以上であることによって、カソード触媒21が高密度で担持され、これによって、カソード触媒21の活性を高めることが出来る。また、カソード導電担体22の比表面積が2000m2/g以下であることによって、カソード導電担体22の有するミクロ孔の量を抑制出来るため、カソード導電担体22内での基質拡散性を向上させることが出来る。これによって、電極触媒層の物質輸送抵抗が増加することが抑えられ、結果として、電極触媒層を備える膜電極接合体10の電解時のセル電圧が上昇することが抑えられる。
【0026】
(アノード導電担体)
アノード触媒21は、導電担体22(アノード導電担体22と呼ぶ)に担持されていても良い。アノード触媒21をアノード導電担体22に担持する場合、アノード導電担体22は酸化チタンであることが特に好ましい。アノード導電担体22として酸化チタンを選択することによって、他の担体を選択する場合に比べて、アノード導電担体22の電解時の安定性を高くすることが出来るので、アノード側電極触媒層12Aの耐久性を高くすることが出来る。また、酸化チタンの形状は粒子または繊維が好ましく、繊維が特に好ましい。アノード導電担体22の形状を繊維にすることで、アノード側電極触媒層12Aの電極表面空孔率を高くすることが出来る。なお、アノード導電担体22は、導電性を有して、かつ、アノード触媒21におかされないものであればよい。
【0027】
(高分子電解質)
高分子電解質23は、例えば、プロトン伝導性を有する高分子物質であってよい。プロトン伝導性を有する高分子物質は、例えば、フッ素系樹脂および炭化水素系樹脂などであってよい。フッ素系樹脂は、例えば、Nafion(デュポン社製、登録商標)やAquivion(ソルベイ社製、登録商標)などであってよい。炭化水素系樹脂は、例えば、エンジニアリングプラスチック、エンジニアリングプラスチックの共重合体にスルホン酸基を導入した樹脂などであってよい。また、カソード側電極触媒層とアノード側電極触媒層には、それぞれ異なる高分子電解質を加えて良い。カソード側電極触媒層およびアノード側電極触媒層には、それぞれ2種類以上の高分子電解質を加えても良い。
高分子電解質23において、プロトン供与性基1モル当たりの乾燥質量値(当量重量:EW)は、600以上が好ましく、700以上がより好ましい。当量重量EWが600以上であることによって、水の吸収による高分子電解質の膨張が抑制され、電極触媒層内の空孔が減少しにくくなり、電解時のセル電圧の上昇が抑制される。
【0028】
(繊維状物質)
繊維状物質24は、例えば、カーボン繊維、高分子繊維、酸化物繊維、および金属繊維であって良い。カーボン繊維としては、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が例示できる。高分子繊維としては、イミド構造やアゾール構造などのアミン類の高分子ポリマーのナノファイバーが挙げられる。高分子繊維はエンジニアリングプラスチックのナノファイバーがより好ましい。繊維状物質24は、電解に用いる溶液に溶解したり侵されたりせず、120℃より高い温度における耐熱性を有していることが好ましい。上記物性によれば、電極触媒層中での繊維状物質24の安定性が期待できる。
【0029】
繊維状物質24の平均繊維径は、300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましい。繊維状物質24の平均繊維径が300nm以下であれば、電極触媒層12に含有させる繊維材料として適当な細さが確保される。また、繊維状物質24の平均繊維径が50nm以上であれば、適当な太さが確保されて電極触媒層12の強度が高められ、クラック発生の抑制効果が得られる。
繊維状物質24の平均繊維長は、0.7μm以上40μm以下の範囲内に含まれることが好ましく、2μm以上30μm以下の範囲内に含まれることがより好ましい。繊維長がこの範囲に含まれることにより、電極触媒層12の強度を高めることができるから、クラックが生じることを抑制することができ、結果として物理的な衝撃対する電極触媒層12の耐久性が向上する。また、電極触媒層12内に形成される空孔の数を増加させることができ、これによって電解時の物質輸送抵抗を低減させることが可能である。
【0030】
(カソード繊維状物質)
カソード側電極触媒層12Cに用いる繊維状物質24(カソード繊維状物質24と呼ぶ)としては、特に、導電性や分散性の点でカーボンナノファイバー又はカーボンナノチューブが好適である。カーボン繊維の配合量は、粒子形状等のカソード触媒21を担持しているカソード導電担体22の質量の0.3倍以上1.5倍以下の範囲内であることが好ましい。カーボン繊維含有量が上記数値範囲内であれば、カソード側電極触媒層中に好適な大きさの空孔を好適な量で形成することができる。
カソード繊維状物質24が高分子繊維の場合、高分子繊維の配合量は、粒子形状等のカソード触媒21を担持しているカソード導電担体22の質量の0.05倍以上0.3倍以下の範囲内であることが好ましい。高分子繊維含有量が上記数値範囲内であれば、カソード側電極触媒層12C中に好適な大きさの空孔を好適な量で形成することができる。
【0031】
(アノード繊維状物質)
アノード側電極触媒層12Aに用いる繊維状物質24(アノード繊維状物質24と呼ぶ)としては、高分子繊維もしくは酸化物繊維であることが好ましい。アノード繊維状物質24がカーボン繊維である場合、電解時にカーボン繊維が侵され、アノード側電極触媒層12Aの電極触媒層内の導電性が失われることがある。
上記構成で用いるカソード側電極触媒層12Cにおけるカソード繊維状物質24の質量%は、アノード側電極触媒層12Aにおけるアノード繊維状物質24の質量%よりも高いことが好ましい。この構成によれば、カソード側電極触媒層12Cの機械強度が高められ、固体高分子電解質膜11の面に対し、カソード側電極触媒層12Cを形成した後にアノード側電極触媒層12Aを形成する際に、固体高分子電解質膜11の変形やクラック発生を抑制できる。
【0032】
(電極触媒層の製造方法)
本実施形態の電極触媒層12は、電極触媒層用スラリー(触媒インク)を作製し、基材などに塗工・乾燥することによって製造できる。
【0033】
(電極触媒層用スラリーの作製)
電極触媒層を構成する各成分、すなわち触媒21、もしくは触媒21を担持した導電担体22と、高分子電解質23と、を分散媒により混合することで触媒インクを作製する。
触媒インク分散媒として使用される溶媒は、電極触媒層を構成する各成分を浸食することがなく、高分子電解質23を流動性の高い状態で溶解又は微細ゲルとして分散できるものあれば特に限定されるものではない。しかしながら、溶媒には揮発性の有機溶媒が少なくとも含まれていることが望ましい。触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、水、アルコール類、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、極性溶剤等であってよい。具体的には、水や、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等のアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ペンタノン、ヘプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤や、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N‐メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1‐メトキシ‐2‐プロパノール等の極性溶媒を適宜使用することができる。また溶媒は上述の材料のうち2種類以上を混合させた混合溶媒であってもよい。
【0034】
また、低級アルコールを用いた分散媒は発火の危険性が高いため、低級アルコールを分散媒として用いる場合は、低級アルコールと水との混合溶媒を用いることが好ましい。更に、分散媒には、高分子電解質23となじみが良い水、すなわち高分子電解質23に対する親和性が高い水が含まれていても良い。分散媒における水の添加量は、高分子電解質23が分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であれば特に制限されるものではない。触媒21、もしくは触媒21が担持された導電担体22を触媒インクにおいて分散させるために、触媒インクに分散剤が含まれていても良い。
また、触媒インクには、必要に応じて分散処理が行われてもよい。分散処理は、触媒インクに含まれる各成分を分散できる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、遊星式ボールミルおよびロールミルによる処理、せん断ミルによる処理、湿式ミルによる処理、超音波分散処理、ホモジナイザーによる処理が挙げられる。
【0035】
(基材への塗工・乾燥)
触媒インク(電極触媒層用スラリー)を基材上に塗布したのち、分散媒を揮発させる乾燥処理を行うことによって電極触媒層12を形成する。
電極触媒層12を形成する際に用いる基材としては、例えば、電極触媒層12を固体高分子電解質膜11に転写した後に剥離される転写基材が用いられる。転写基材としては、例えば、樹脂フィルムが用いられる。また、電極触媒層12を形成する際に用いる基材として固体高分子電解質膜11が用いられてもよい。
【0036】
基材への電極触媒層用スラリーの塗工方法としては、例えば、ドクターブレード法、ダイコーティング法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ラミネータロールコーティング法、スプレー法などが挙げられるが、特に限定しない。
基材に塗布された電極触媒層用スラリーの乾燥方法としては、例えば、温風乾燥やIR乾燥などが挙げられる。電極触媒層用スラリーの乾燥温度は、40℃以上200℃以下の範囲内であればよく、好ましくは40℃以上120℃以下の範囲内である。電極触媒層用スラリーの乾燥時間は、0.5分以上1時間以内であればよく、好ましくは1分以上30分以内である。
【0037】
電極触媒層12を形成する際に用いる基材として、固体高分子電解質膜11を用いる製造方法であれば、電極触媒層12が固体高分子電解質膜11の面上に直接に形成される。そのため、固体高分子電解質膜11と電極触媒層12との密着性が高まり、また、電極触媒層12の接合のための加圧が不要であるため、電極触媒層12が潰れることも抑えられる。したがって、電極触媒層12を形成するための基材としては、固体高分子電解質膜11が用いられることが好ましい。
【0038】
ここで、固体高分子電解質膜11は、一般に膨潤および収縮の各度合が大きいという特性を有するため、固体高分子電解質膜11を基材として用いると、転写基材を基材として用いた場合と比較して、電極触媒層12となる塗膜の乾燥工程における基材の体積変化が大きい。それゆえ、電極触媒層12が繊維状物質24を含まない構成であると電極触媒層12にクラックが生じやすい。これに対し、本実施形態の電極触媒層12であれば、仮に基材である固体高分子電解質膜11の体積が電極触媒層12の作製工程において大きく変化した場合であっても、繊維状物質24の含有によりクラックの発生が抑えられるため、電極触媒層12を形成するための基材として固体高分子電解質膜11を用いる製造方法を利用することができる。
【0039】
(効果)
本実施形態によれば、電極触媒層表面からガスが排出されやすくなる。このため、本発明をアノード側電極触媒層に適用した場合、アノード側電極触媒層では物質輸送抵抗が低減しセル電圧が向上した電極触媒層および膜電極接合体を提供することが出来る。
また、本発明をアノード側電極触媒層及びカソード側電極触媒層に適用した場合、アノード側電極触媒層およびカソード側電極触媒層において、電極触媒層表面からガスが排出されやすくなる。この結果、ガスの圧力による触媒層の破断などが生じにくくなり、電極触媒層の耐久性が向上した電極触媒層および膜電極接合体を提供することが出来る。
【0040】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)固体高分子電解質膜上に形成される電極触媒層であって、
触媒と高分子電解質とを、含み、
上記固体高分子電解質膜と接する面と反対の電極表面の電極表面空孔率が、1.0%以上20%以下である、ことを特徴とする電極触媒層。
(2)電極触媒層は、繊維状物質を含む。
(3)上記繊維状物質が高分子繊維である。
(4)固体高分子電解質膜の一方の面にカソード側電極触媒層が形成されると共に、固体高分子電解質膜の他方の面にアノード側電極触媒層が形成された膜電極接合体であって、
上記アノード側電極触媒層及び上記カソード側電極触媒層の少なくとも一方の電極触媒層が、本開示の電極触媒層である、膜電極接合体。
(5)上記アノード側電極触媒層及び上記カソード側電極触媒層がそれぞれ、本開示の電極触媒層からなり、
上記カソード側電極触媒層における繊維状物質の質量%濃度が、上記アノード側電極触媒層における繊維状物質の質量%濃度よりも高い、膜電極接合体。
【実施例0041】
以下に、本実施形態に基づく実施例について説明するが、本発明は、下記実施例及び比較例によって制限されるものではない。
【0042】
(実施例1)
実施例1では、カソード導電担体に担持した状態のカソード触媒として、白金-ルテニウム合金触媒担持カーボン(TEC61E54(田中貴金属工業社製))粉末を用い、その白金-ルテニウム合金触媒担持カーボン粉末10gに、高分子電解質として20質量%濃度のNafion(商標登録)分散液(富士フイルム和光純薬社製)10gと、繊維状物質としてカーボン繊維(VGCF-H(昭和電工社製))5gとを添加し、適宜溶媒を用いて触媒インク(カソード側電極触媒層用スラリー)を作製した。繊維状物質配合量は、導電担体の質量の1.0倍となる量とした。カーボン繊維の平均繊維径は150nmであることを確認した。
得られたカソード側電極触媒層用スラリーを、高分子電解質膜であるNafion(登録商標)膜の一方の面に、白金とルテニウムの合計担持量が電極面積あたり0.5mg/cm2となるように、ダイコーティング法で塗工した。その後、80℃の炉内で乾燥することによって、高分子電解質膜の一方の面に電極触媒層を形成した積層体を得た。
【0043】
次に、アノード触媒として酸化イリジウム粉末5gに、高分子電解質として20質量%濃度Nafion(商標登録)分散液5gと、繊維状物質として高分子繊維0.06gとを添加し、適宜溶媒を用いて触媒インク(アノード側電極触媒層用スラリー)を作製した。繊維状物質の配合量は、電極触媒層の質量に対し1質量%濃度とした。繊維状物質の平均繊維径は300nmであることを確認した。
得られたアノード側電極触媒層用スラリーを、Nafion(登録商標)膜の、カソード側電極触媒層を形成していない面に、酸化イリジウムの合計担持量が電極面積あたり1.0mg/cm2となるように、ダイコーティング法で塗工した。その後、80℃の炉内で乾燥することによって、実施例1の膜電極接合体を得た。
【0044】
(実施例2)
アノード側電極触媒層用インクに加える繊維状物質の配合量を、電極触媒層の質量に対し20質量%濃度となる量とした以外は、実施例1と同じ条件で作製して、実施例2の膜電極接合体を得た。
(実施例3)
アノード側電極触媒層用インクに繊維状物質を加えなかった以外は、実施例1と同じ条件で作製して、実施例3の膜電極接合体を得た。
(実施例4)
カソード側電極触媒層用インクに加える繊維状物質の質量を0.05gとしたこと以外は、実施例1と同じ条件で作製して、実施例3の膜電極接合体を得た。
【0045】
(比較例1)
アノード側電極触媒層用インクに加える繊維状物質の配合量を、電極触媒層の質量に対し30質量%濃度となる量とした以外は、実施例1と同じ条件で作製して、比較例1の膜電極接合体を得た。
(比較例2)
比較例2では、導電担体に担持された状態のカソード触媒として、白金-ルテニウム合金触媒担持カーボン(TEC61E54(田中貴金属工業社製))粉末を用い、その白金-ルテニウム合金触媒担持カーボン粉末10gに、高分子電解質として20質量%濃度のNafion(商標登録)分散液(富士フイルム和光純薬社製)10gと、繊維状物質としてカーボン繊維(VGCF-H(昭和電工社製))5gとを添加し、適宜溶媒を用いて触媒インク(カソード側電極触媒層用スラリー)を作製した。繊維状物質配合量は、導電担体の質量の1.0倍となる量とした。カーボン繊維の平均繊維径は150nmであることを確認した。
得られたカソード側電極触媒層用スラリーを、PTFEフィルム(ニトフロン(日東電工社製))に、白金とルテニウムの合計担持量が電極面積あたり0.5mg/cm2となるように、ダイコーティング法で塗工した。その後、80℃の炉内で乾燥することによって、カソード側電極触媒層を得た。
【0046】
次に、アノード触媒として酸化イリジウム粉末5gに、高分子電解質として20質量%濃度Nafion(商標登録)分散液5gとを、適宜溶媒を用いて触媒インク(アノード側電極触媒層用スラリー)を作製した。
得られたアノード側電極触媒層用スラリーを、PTFEフィルム(ニトフロン(日東電工社製))に、酸化イリジウムの合計担持量が電極面積あたり1.0mg/cm2となるように、ダイコーティング法で塗工した。その後、80℃の炉内で乾燥することによって、アノード側電極触媒層を得た。
Nafion膜を挟み込むように、カソード側電極触媒層と、アノード側電極触媒層とを置き、熱プレス装置を用いて140℃で、5MPaを10分間保持した。その後、カソード側電極触媒層およびアノード側電極触媒層についているPTFEフィルムをそれぞれ剥離することで、比較例2の膜電極接合体を得た。
【0047】
(評価方法)
各実施例及び比較例の膜電極接合体について、次の測定及び評価を実施した。
(電極表面空孔率の測定)
膜電極接合体を1cm×1cm程度の大きさに切り出し、電極表面空孔率を測定したい方の面を走査型電子顕微鏡(SEM(SU-8020(日立ハイテク社製)))で観察した。このとき、電極表面には10秒間白金スパッタを行った。検出器としてUpper檢出器のSEを用い、加速電圧は10.0kV、エミッションは10uA、倍率は1万倍で観察した。観察時にオートコントラスト機能を使用することで、自然なSEM画像を取得することが可能となる。
得られたSEM画像に対し、256階調の内、50を閾値として、2値化を行った。このときに、黒となった部分が空孔となる。全画素数に対し、黒の画素数の割合を算出することで、電極表面空孔率を求めた。3か所以上の異なる視野のSEM画像から算出した値の平均値から電極表面空孔率を求めた。この操作には、ImageJといったソフトウェアや、PythonのOpenCVのライブラリを用いることが出来る。
【0048】
(I-V性能評価)
膜電極接合体の電解性能をI-V性能で評価した。I-V測定は以下に記載の方法で実施した。膜電極接合体のカソード側電極触媒層にカソード側集電体としてカーボンペーパー(GDL 29BC(SGL社製))を、アノード側電極触媒層に白金被膜付きチタン焼結体をそれぞれ配置し、水電解用セル(エフシー株式会社製)に組み込み、4Nmの締結圧にてボルト固定した。
セル両側の流路端から水を1分間に1mLの流速で流し、セル温度を80℃にして、電圧を1.4Vから2.0Vまで変化させながら印加し、このときの電流密度を測定した。
【0049】
[評価基準]
I-V性能は、1.9Vにおける電流密度の値から、次のような評価した。
・電流密度が1.0A/cm2より大きいとき:「〇」
・電流密度が1.0A/cm2より小さいとき:「×」
なお、判定が「×」であっても、実用上の問題はない。
【0050】
(耐久性能評価)
上記の構成の水電解セルに対し、1.9Vの電圧を5時間印加し、このときの電流密度変化を測定した。
耐久性能は、5時間の電圧印加前後の1.9Vでの電流密度の値の差から、次のように評価した。
電流密度の値の差が0.3A/cm2より小さいとき:「〇」
電流密度の値の差が0.3A/cm2より大さいとき:「×」
なお、判定が「×」であっても、実用上の問題はない。
以上の評価結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
表1に示す通り、実施例1~4のいずれも、I-V性能と耐久性能は良好となった。これは、電極触媒層の電極表面空孔率を最適化したことにより、電解の反応で生成するガスが排出されやすくなったためと考えることが出来る。
【0053】
一方、比較例1ではアノード電極表面空孔率が大き過ぎたことで、I-V性能が低下した。電極表面空孔率が大きすぎると、集電材料との導電性が低下し、電解性能が低下した。また、空孔が大きすぎる場合、電極触媒層の厚みが厚くなりすぎることで、電極触媒層内での導電性や物質輸送性が低下してしまうことがある。
また、比較例2では、アノード電極表面空孔率が小さ過ぎたことで、I-V性能と耐久性能が低下した。耐久性能評価後の膜電極接合体の断面を観察すると、アノード側電極触媒層構造が崩れてしまっている様子が確認された。電解で発生するガスの圧力により、アノード側電極触媒層内部が変形したためと考えられる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、電極触媒層は高い電極表面空孔率を有する。これにより、電極触媒層からのガス排出性が高められたので、電解によるセル電圧の抵抗増加が少なく、セル電圧の上昇抑制が可能となる。また、長時間の運転においても安定した電解性能を維持し、高電解性能かつ高耐久性の電解槽用の固体高分子形膜電極接合体を提供することが可能となる。