(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174366
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】電子機器
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/24 20060101AFI20231130BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20231130BHJP
H01Q 21/08 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H01Q3/24
G01S7/03 230
H01Q21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087184
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(72)【発明者】
【氏名】川路 聡
(72)【発明者】
【氏名】村上 洋平
(72)【発明者】
【氏名】錦戸 正光
【テーマコード(参考)】
5J021
5J070
【Fターム(参考)】
5J021AA07
5J021AB06
5J021DB05
5J021GA02
5J021GA04
5J021HA04
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD08
5J070AD13
5J070AE01
5J070AF01
5J070AK21
(57)【要約】
【課題】例えばミリ波レーダのような物体検出技術において、利便性を高める電子機器を提供する。
【解決手段】電子機器は、第1の方向に指向性を有する第1アンテナと、第1の方向と異なる方向の成分を含む第2の方向に指向性を有する第2アンテナと、第1アンテナ及び第2アンテナの動作を制御する制御部と、を備える。制御部は、第1アンテナ及び第2アンテナのうち一方を動作させる第1モードと、第1アンテナ及び第2アンテナの双方を動作させる第2モードと、を切り替え可能に制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に指向性を有する第1アンテナと、
前記第1の方向と異なる方向の成分を含む第2の方向に指向性を有する第2アンテナと、
前記第1アンテナ及び前記第2アンテナの動作を制御する制御部と、
を備える電子機器であって、
前記制御部は、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナのうち一方を動作させる第1モードと、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナの双方を動作させる第2モードと、を切り替え可能に制御する、電子機器。
【請求項2】
前記第1アンテナは、直線状に直列接続されている複数の第1の放射素子が送信波又は受信波の波長の整数倍とは異なる間隔で接続されることにより、前記第1の方向に指向性を有する、請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記第2アンテナは、直線状に直列接続されている複数の第2の放射素子が送信波又は受信波の波長の整数倍とは異なる間隔で接続されることにより、前記第2の方向に指向性を有する、請求項1又は請求項2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記第1アンテナの前記第1の放射素子及び前記第2アンテナの前記第2の放射素子の少なくとも一方は、配線によって等間隔で接続される、請求項3に記載の電子機器。
【請求項5】
前記第1アンテナの前記第1の放射素子の間隔及び前記第2アンテナの前記第2の放射素子の間隔が互いに異なる、請求項3に記載の電子機器。
【請求項6】
前記第1アンテナは、前記第1の方向として、鉛直上向きの方向の成分を含む指向性を有する、請求項1に記載の電子機器。
【請求項7】
前記第2アンテナは、前記第2の方向として、鉛直下向きの方向の成分を含む指向性を有する、請求項1に記載の電子機器。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1モードとして、前記第2アンテナのみを動作させる、請求項1に記載の電子機器。
【請求項9】
前記第2モードにおいて、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナは、前記第1の方向及び前記第2の方向と異なる第3の方向に指向性を有する、請求項1に記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車に関連する産業などの分野において、自車両と所定の物体との間の距離などを測定する技術が重要視されている。特に、近年、ミリ波のような電波を送信し、障害物などの物体に反射した反射波を受信することで、物体との間の距離などを測定するレーダ(RADAR(Radio Detecting and Ranging))の技術が、種々研究されている。このような距離などを測定する技術の重要性は、運転者の運転をアシストする技術、及び、運転の一部又は全部を自動化する自動運転に関連する技術の発展に伴い、今後ますます高まると予想される。
【0003】
上述したレーダのような技術において、様々な使用態様を想定したものが提案されている。例えば、特許文献1は、車両前部に取り付けた前方検出用レーダによって、下方向の利得を下げる為にアンテナの指向性を上に向けることで、路面からの不要反射を減らすことを教示している。また、特許文献2は、車両前部に取り付けた前方検出用レーダの良好な角度精度を得るために、アンテナ間隔を疎にすることによりアンテナ開口を大きくしつつ、最小の冗長性を持たせる構成を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-43080号公報
【特許文献2】特表2013-504764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したレーダのような技術において、送信波又は受信波のビームの方向とともに、指向性の広狭を切り替え可能にすることができれば、特定の使用態様において利便性を高めることができる。
【0006】
本開示の目的は、例えばミリ波レーダのような物体検出技術において、利便性を高める電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る電子機器は、第1アンテナと、第2アンテナと、制御部と、を備える。
前記第1アンテナは、第1の方向に指向性を有する。
前記第2アンテナは、前記第1の方向と異なる方向の成分を含む第2の方向に指向性を有する。
前記制御部は、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナの動作を制御する。
前記制御部は、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナのうち一方を動作させる第1モードと、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナの双方を動作させる第2モードと、を切り替え可能に制御する、
【発明の効果】
【0008】
一実施形態によれば、例えばミリ波レーダのような物体検出技術において、利便性を高める電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る電子機器の構成を示す図である。
【
図2】一実施形態に係る電子機器の構成を示す図である。
【
図3】一実施形態に係る電子機器の指向性を説明する図である。
【
図4】一実施形態に係る電子機器の指向性を説明する図である。
【
図5】一実施形態に係る電子機器の指向性を説明する図である。
【
図6】一実施形態に係る電子機器による動作のシミュレーションについて説明する図である。
【
図7】一実施形態に係る電子機器による動作のシミュレーション結果を示す図である。
【
図8】一実施形態の比較例に係る電子機器の構成を示す図である。
【
図9】一実施形態の比較例に係る電子機器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において、「電子機器」とは、電力により駆動する機器としてよい。一実施形態に係る電子機器は、送信アンテナ及び受信アンテナを備えてよい。一実施形態に係る電子機器は、送信アンテナから送信波として電磁波を送信する。例えば一実施形態に係る電子機器の周囲に所定の物体が存在する場合、当該電子機器から送信された送信波の少なくとも一部は、当該物体によって反射されて反射波となる。そして、このような反射波を当該電子機器の受信アンテナによって受信することにより、当該電子機器は、当該物体を検出することができる。例えば、一実施形態に係る電子機器は、所定の物体との間の距離を測定することができる。また、一実施形態に係る電子機器は、所定の物体との相対速度も測定することができる。さらに、一実施形態に係る電子機器は、所定の物体からの反射波が、当該電子機器に到来する方向(到来角)も測定することができる。
【0011】
一実施形態に係る電子機器は、例えば自動車などのような乗り物(移動体)の運行状況を監視する路側機などに設置されることで、当該路側機の周囲に存在する移動体などの所定の物体を検出することができる。また、一実施形態に係る電子機器は、例えば信号機などの任意の機器に設置されることで、当該機器の周囲に存在する移動体などの所定の物体を検出することができる。
【0012】
一実施形態に係る電子機器は、典型的には、電波を送受信するレーダ(RADAR(Radio Detecting and Ranging))センサとしてよい。しかしながら、一実施形態に係る電子機器は、レーダセンサに限定されない。これらのようなセンサは、例えばパッチアンテナなどを含んで構成することができる。RADARのような技術は既に知られているため、詳細な説明は、適宜、簡略化又は省略することがある。一実施形態に係る電子機器は、光源として、例えばLED又はレーザなどを採用してよい。一実施形態に係る電子機器は、受光素子として、例えばフォトダイオードなどを採用してよい。一実施形態に係る電子機器は、指向性の制御のために、例えばレンズなどを使用してよい。
【0013】
以下、一実施形態に係る電子機器を説明するに際し、まずは一実施形態の比較例に係る電子機器について説明する。
【0014】
図8及び
図9は、一実施形態の比較例に係る電子機器の構成を示す図である。
図8は、一実施形態の比較例に係る電子機器を所定の方向から見た図である。
図9は、一実施形態の比較例に係る電子機器を、
図8における所定の方向とは反対の方向から見た図である。
【0015】
図8及び
図9において、X軸方向を横方向又は左右方向としてよい。
図8及び
図9において、Y軸方向を縦方向又は上下方向としてよい。特に、
図8及び
図9において、Y軸正方向を上方向とし、Y軸負方向を下方向としてよい。
図8及び
図9において、Z軸方向を前後方向としてよい。特に、
図8及び
図9において、Z軸正方向を前方向又は正面方向とし、Z軸負方向を後方向としてよい。
【0016】
図8及び
図9に示すように、一実施形態の比較例に係る電子機器100は、基板10’を備えてよい。基板10’は、通常の電気回路又は電子回路に用いられる回路基板としてよい。
図8に示す基板10’の面(すなわち基板10’のZ軸正方向の面)は、便宜的に、表側の面又は表面とも記す。また、
図9に示す基板10’の面(すなわち基板10’のZ軸負方向の面)は、便宜的に、裏側の面又は裏面とも記す。
図8及び
図9は、電子機器100の送信系の機能部を示し、電子機器100の受信系の機能部は図示を省略してある。
【0017】
図8に示すように、電子機器100は、基板10’の表面において、第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’を備えている。第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’は、ミリ波レーダに一般的に用いられる平面アンテナ(パッチアンテナ)としてよい。第1アンテナ11’は、放射素子群21A’及び放射素子群21B’を含む。第2アンテナ12’は、放射素子群22A’及び放射素子群22B’を含む。放射素子群21A’の給電点41A’は、放射素子群21A’に電力を供給する。放射素子群21B’の給電点41B’は、放射素子群21B’に電力を供給する。放射素子群22A’の給電点42A’は、放射素子群22A’に電力を供給する。放射素子群22B’の給電点42B’は、放射素子群22B’に電力を供給する。給電点41A’、給電点41B’、給電点42A’、及び給電点42B’は、それぞれ、
図9に示す基板10’の裏側の面から、
図8に示す基板10’の表側の面に電力を供給する。
【0018】
放射素子群21A’は、縦方向に配列された複数の放射素子31a’乃至放射素子31d’、及び、縦方向に配列された複数の放射素子31e’乃至放射素子31h’を含む。これらの各放射素子は、例えば銅などの金属材料で構成してよい。
【0019】
図8に示すように、放射素子31a’乃至放射素子31d’は、直列に結線されることにより、電気的に接続されてよい。放射素子31a’乃至放射素子31d’を直列に結線するそれぞれの配線(隣接する放射素子同士を接続する配線)は、同じ長さとしてよい。放射素子31a’乃至放射素子31d’を直列に結線するそれぞれの配線(隣接する放射素子同士を接続する配線)は、例えば放射素子群21A’から送信する送信波の波長λと同じ長さにしてよい。隣接する放射素子同士を接続する配線の長さと、送信波の波長λとを同じ長さにすることで、放射素子31a’乃至放射素子31d’から送信される送信波の位相を揃えることができる。
【0020】
同様に、放射素子31e’乃至放射素子31h’は、直列に結線されることにより、電気的に直列に接続されてよい。放射素子31e’乃至放射素子31h’を直列に結線するそれぞれの配線(隣接する放射素子同士を接続する配線)は、同じ長さとしてよい。放射素子31e’乃至放射素子31h’を直列に結線するそれぞれの配線(隣接する放射素子同士を接続する配線)は、例えば放射素子群21A’から送信する送信波の波長λと同じ長さにしてよい。隣接する放射素子同士を接続する配線の長さと、送信波の波長λとを同じ長さにすることで、放射素子31e’乃至放射素子31h’から送信される送信波の位相を揃えることができる。
【0021】
給電点41A’は、放射素子31a’と結線されることにより、電気的に接続されてよい。給電点41A’と放射素子31a’とを結線する配線は、例えば放射素子群21A’から送信する送信波の波長λと同じ長さにしてよい。同様に、給電点41A’は、放射素子31e’と結線されることにより、電気的に接続されてよい。給電点41A’と放射素子31e’とを結線する配線は、例えば放射素子群21A’から送信する送信波の波長λと同じ長さにしてよい。このような構成により、放射素子群21A’から送信される送信波、すなわち、放射素子31a’乃至放射素子31d’及び放射素子31e’乃至放射素子31h’から送信される送信波の位相を揃えることができる。放射素子群21B’、放射素子群22A’、及び放射素子群22B’も、放射素子群21A’と同様の構成としてよい。
【0022】
図9に示すように、電子機器100は、基板10’の裏面において、制御部50’を備えている。また、電子機器100は、基板10’の裏面において、給電点61A’、給電点61B’、給電点62A’、及び給電点62B’を備えている。
【0023】
制御部50’は、電子機器100を構成する各機能部の制御をはじめとして、電子機器100全体の動作の制御を行うことができる。制御部50’は、種々の機能を実行するための制御及び処理能力を提供するために、例えばCPU(Central Processing Unit)又はDSP(Digital Signal Processor)のような、少なくとも1つのプロセッサを含んでよい。制御部50’は、まとめて1つのプロセッサで実現してもよいし、いくつかのプロセッサで実現してもよいし、それぞれ個別のプロセッサで実現してもよい。プロセッサは、単一の集積回路として実現されてよい。集積回路は、IC(Integrated Circuit)ともいう。プロセッサは、複数の通信可能に接続された集積回路及びディスクリート回路として実現されてよい。プロセッサは、他の種々の既知の技術に基づいて実現されてよい。一実施形態において、制御部50’は、例えばCPU及び当該CPUで実行されるプログラムとして構成してよい。また、制御部50’は、任意のSoC(System-on-a-chip)などとして構成されてもよい。制御部50’は、任意のメモリを適宜含んでもよい。一実施形態において、任意のメモリは、第1アンテナ11’及び/又は第2アンテナ12’から送信する送信波を規定するための各種パラメータを記憶してよい。
【0024】
図9に示す給電点61A’は、
図8に示した給電点41A’に電気的に接続される。
図9に示す給電点61B’は、
図8に示した給電点41B’に電気的に接続される。
図9に示す給電点62A’は、
図8に示した給電点42A’に電気的に接続される。
図9に示す給電点62B’は、
図8に示した給電点42B’に電気的に接続される。給電点61A’、給電点61B’、給電点62A’、及び給電点62B’は、それぞれ例えば基板10’に穿設されたスルーホールを経て、給電点41A’、給電点41B’、給電点42A’、及び給電点42B’に接続されてよい。
【0025】
図9に示すように、給電点61A’と給電点61B’とは、結線されることにより、電気的に接続されてよい。また、給電点62A’と給電点62B’とは、結線されることにより、電気的に接続されてよい。給電点61A’と給電点61B’とを接続する配線の中点は、配線91’によって、制御部50’のRF(Radio Frequency)ポート51’に電気的に接続されてよい。給電点62A’と給電点62B’とを接続する配線の中点は、配線92’によって、制御部50’のRF(Radio Frequency)ポート52’に電気的に接続されてよい。
【0026】
配線91’の長さは、配線92’の長さと同じにしてよい。このような構成により、制御部50’のRFポート51’及びRFポート52’から同時に同じ位相の送信波を出力すれば、給電点61A’、給電点61B’、給電点62A’、及び給電点62B’に供給される送信波の位相を揃えることができる。RFポート51’及びRFポート52’から等長で配線された電力は、基板表面の給電点41A’、給電点41B’、給電点42A’、及び給電点42B’に供給される。
【0027】
電子機器100の第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’は、ミリ波(30GHz以上)又は準ミリ波(例えば20GHz~30GHz付近)などのような周波数帯の電波を送信してよい。例えば、電子機器100の第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’は、77GHz~81GHzのように、4GHzの周波数帯域幅を有する電波を送信してもよい。電子機器100において、これらのような送信波を送信するための送信信号は、例えば制御部50’によって生成されてよい。
【0028】
ミリ波方式のレーダによって距離などを測定する際、周波数変調連続波レーダ(以下、FMCWレーダ(Frequency Modulated Continuous Wave radar)と記す)が用いられることが多い。FMCWレーダは、送信する電波の周波数を掃引して送信信号が生成される。したがって、例えば79GHzの周波数帯の電波を用いるミリ波方式のFMCWレーダにおいて、使用する電波の周波数は、例えば77GHz~81GHzのように、4GHzの周波数帯域幅を持つものとなる。79GHzの周波数帯のレーダは、例えば24GHz、60GHz、76GHzの周波数帯などの他のミリ波/準ミリ波レーダよりも、使用可能な周波数帯域幅が広いという特徴がある。
【0029】
以上説明した構成により、電子機器100の第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’は、物体を検出するための電磁波を送信することができる。
【0030】
ここで、第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’のうち、一方のみから送信波を送信する場合について検討する。例えば、制御部50’が、第1アンテナ11’のみから送信波を送信するように制御する場合について説明する。前述のように、放射素子31a’乃至放射素子31d’及び放射素子31e’乃至放射素子31h’のそれぞれから、給電点41A’までの給電経路は、送信波の波長λの整数倍となる。したがって、前述のように、放射素子31a’乃至放射素子31d’及び放射素子31e’乃至放射素子31h’からそれぞれ送信され送信波は、位相が揃うことになる。このため、第1アンテナ11’全体としては、
図1に示すZ軸の正方向、すなわち正面方向に指向性を有し、送信波のビームを形成する。
【0031】
また、例えば、制御部50’が、第2アンテナ12’のみから送信波を送信するように制御する場合について説明。この場合も、第1アンテナ11’と同様に、各放射素子31のそれぞれから、給電点41A’又は給電点42B’までの給電経路は、送信波の波長λの整数倍となる。したがって、各放射素子からそれぞれ送信され送信波は、位相が揃うことになる。このため、第2アンテナ12’全体としては、
図1に示すZ軸の正方向、すなわち正面方向に指向性を有し、送信波のビームを形成する。
【0032】
次に、第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’の双方から送信波を送信する場合について検討する。上述のように、RFポート51’及びRFポート52’から出力される送信信号は、それぞれ給電点41A’及び給電点41B’並びに給電点42A’及び給電点42B’まで、等しい長さの配線を経て供給される。このため、第1アンテナ11’と第2アンテナ12’とは同位相で接続される。したがって、第1アンテナ11’から送信される送信波と、第2アンテナ12’から送信される送信波とは、それぞれ同位相で合成される。また、第1アンテナ11’はZ軸正方向すなわち正面方向に指向性を有し、第2アンテナ12’もZ軸正方向すなわち正面方向に指向性を有する。このため、第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’の双方から送信される送信波の合成(合成波)は、Z軸正方向すなわち正面方向に指向性を有し、Z軸正方向すなわち正面方向に合成波のビームを形成する。
【0033】
このように、第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’から送信される合成波は、Z軸正方向すなわち基板10’の面に対してメインローブが正面方向(X軸方向及びY軸方向とも0°の方向)を向いている。また、第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’から送信される合成波は、第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’のうち一方のみから送信される送信波よりも、大きな利得を有する。したがって、第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’から送信される合成波は、第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’のうち一方のみから送信される送信波よりも、より精度の高い物体検出を行い得る。一方、第1アンテナ11’及び/又は第2アンテナ12’から送信される送信波の正面方向(X軸方向及びY軸方向とも0°の方向)の指向性は、後述するように、放射素子の数が多いほど鋭く(狭く)なる。このため、放射素子31a’乃至放射素子31d’及び放射素子31e’乃至放射素子31h’から送信される送信波の指向性は、比較的鋭い(狭い)ものとなる。
【0034】
ミリ波レーダのような技術によって、比較的遠距離に存在する物体を検出するには、利得の高いアンテナが必要になる。このような場合、所要の利得に応じた複数のアンテナ素子を配置し、同位相で合成することにより、指向性を所望の方向へ向けることができる。この場合、アンテナを高利得に設計するほど、素子の数を多くする必要があり、指向性が狭くなる。
【0035】
特定のユースケースにおいては、以上説明したような電子機器100が有用である。一方で、電子機器100では実現が困難な機能が望まれるようなユースケースも想定される。例えば、上述した路側機若しくは信号機又はこれらの付近に設置されて道路を走行する自動車などを検出するレーダ装置のように、いくつかのユースケースに応じて適宜切り替え可能な機能が望まれることもある。例えば、路側機若しくは信号機又はこれらの付近などのように、比較的高い位置に設置された装置によって、道路を走行する自動車及び歩行者などを検出するようなユースケースも想定される。このようなユースケースにおいて、当該装置の下方における比較的近い距離の自動車などを検出する機能が望まれることがある。また、前述のようなユースケースにおいて、当該装置から比較的遠く離れた位置の自動車などを検出することが望まれることもある。
【0036】
このような要望に応じようとしても、電子機器100は、指向性の方向を変更することができない。このため、電子機器100は、当該電子機器100から比較的遠く離れた水平方向に指向性を向ける一方、当該電子機器100から比較的近くの下方に指向性を向けるような切り替えはできない。ここで、制御部50’が各放射素子から送信される送信波の位相を制御することにより、送信波の指向性を変更することも考えられる(ビームフォーミング)。しかしながら、このようなビームフォーミングを行ったとしても、放射素子31a’乃至放射素子31h’のような比較的多数の放射素子から送信される送信波の指向性は、比較的鋭い(狭い)ものとなる。放射素子31a’乃至放射素子31h’のビームフォーミングを行った送信波によっても、ヌル点などの存在により、所望の検出精度が得られないことも想定される。上述のように、路側機若しくは信号機などのように比較的高い場所へ設置したミリ波レーダが、近距離の物体を検出するには、下方向に対して高いアンテナ利得が必要である。しかしながら、同位相で合成されたアンテナの指向性は、比較的狭くなるため、物体を検知するだけの利得が不足することも想定される。
【0037】
そこで、一実施形態に係る電子機器は、送信波又は受信波のビームの方向とともに、指向性の広狭を切り替え可能にすることにより、特定の使用態様において利便性を高める。以下、このような電子機器について、さらに説明する。
【0038】
図1及び
図2は、一実施形態の比較例に係る電子機器の構成を示す図である。
図1は、一実施形態の比較例に係る電子機器を所定の方向から見た図である。
図2は、一実施形態の比較例に係る電子機器を、
図1における所定の方向とは反対の方向から見た図である。
【0039】
図1及び
図2において、X軸方向を横方向又は左右方向としてよい。
図1及び
図2において、Y軸方向を縦方向又は上下方向としてよい。特に、
図1及び
図2において、Y軸正方向を上方向とし、Y軸負方向を下方向としてよい。
図1及び
図2において、Z軸方向を前後方向としてよい。特に、
図1及び
図2において、Z軸正方向を前方向又は正面方向とし、Z軸負方向を後方向としてよい。
【0040】
図1及び
図2に示すように、一実施形態の比較例に係る電子機器1は、基板10を備えてよい。基板10は、通常の電気回路又は電子回路に用いられる回路基板としてよい。
図1に示す基板10の面(すなわち基板10のZ軸正方向の面)は、便宜的に、表側の面又は表面とも記す。また、
図2に示す基板10の面(すなわち基板10のZ軸負方向の面)は、便宜的に、裏側の面又は裏面とも記す。
図1及び
図2は、電子機器1の送信系の機能部を示し、電子機器1の受信系の機能部は図示を省略してある。
【0041】
図1に示すように、電子機器1は、基板10の表面において、第1アンテナ11及び第2アンテナ12を備えている。第1アンテナ11及び第2アンテナ12は、ミリ波レーダに一般的に用いられる平面アンテナ(パッチアンテナ)としてよい。
図1に示すように、第1アンテナ11は、電子機器1の上半分のパッチアンテナとして構成され、第2アンテナ12は、電子機器1の下半分のパッチアンテナとして構成されてよい。第1アンテナ11は、放射素子群21A、放射素子群21B、放射素子群21C、及び放射素子群21Dを含む。第2アンテナ12は、放射素子群22A、放射素子群22B、放射素子群22C、及び放射素子群22Dを含む。
【0042】
放射素子群21Aの給電点41Aは、放射素子群21Aに電力を供給する。放射素子群21Bの給電点41Bは、放射素子群21Bに電力を供給する。放射素子群21Cの給電点41Cは、放射素子群21Cに電力を供給する。放射素子群21Dの給電点41Dは、放射素子群21Dに電力を供給する。放射素子群22Aの給電点42Aは、放射素子群22Aに電力を供給する。放射素子群22Bの給電点42Bは、放射素子群22Bに電力を供給する。放射素子群22Cの給電点42Cは、放射素子群22Cに電力を供給する。放射素子群22Dの給電点42Dは、放射素子群22Dに電力を供給する。
【0043】
給電点41A、給電点41B、給電点41C、及び給電点41D、並びに、給電点42A、給電点42B、給電点42C、及び給電点42Dは、それぞれ、
図2に示す基板10の裏側の面から、
図1に示す基板10の表側の面に電力を供給する。
【0044】
放射素子群21Aは、縦方向に配列された複数の放射素子31a乃至放射素子31dを含む。放射素子群22Aは、縦方向に配列された複数の放射素子32a乃至放射素子32dを含む。これらの各放射素子は、例えば銅などの金属材料で構成してよい。
【0045】
図1に示すように、放射素子31a乃至放射素子31dは、直列に結線されることにより、電気的に接続されてよい。放射素子31a乃至放射素子31dを直列に結線するそれぞれの配線(隣接する放射素子同士を接続する配線)は、同じ長さとしてよい。放射素子31a乃至放射素子31dを直列に結線するそれぞれの配線(隣接する放射素子同士を接続する配線)は、例えば放射素子群21Aから送信する送信波の波長λの整数倍とは異なる長さにしてよい。例えば、放射素子31a乃至放射素子31dを直列に結線するそれぞれの配線(隣接する放射素子同士を接続する配線)は、例えば放射素子群21Aから送信する送信波の波長λとして、(3/4)λのような長さとしてよい。隣接する放射素子同士を接続する配線の長さが、送信波の波長λの整数倍と異なる長さにすることで、放射素子31a乃至放射素子31dから送信される送信波の位相をずらすことができる。このように、第1アンテナ11は、複数の放射素子が配線によって等間隔で接続されてよい。また、第1アンテナ11は、複数の放射素子が送信波又は受信波の波長λの整数倍とは異なる間隔で接続されてよい。
【0046】
同様に、放射素子32a乃至放射素子32dは、直列に結線されることにより、電気的に直列に接続されてよい。放射素子32a乃至放射素子32dを直列に結線するそれぞれの配線(隣接する放射素子同士を接続する配線)は、同じ長さとしてよい。放射素子32a乃至放射素子32dを直列に結線するそれぞれの配線(隣接する放射素子同士を接続する配線)は、例えば放射素子群22Aから送信する送信波の波長λの整数倍とは異なる長さにしてよい。例えば、放射素子32a乃至放射素子32dを直列に結線するそれぞれの配線(隣接する放射素子同士を接続する配線)は、例えば放射素子群22Aから送信する送信波の波長λとして、(3/4)λのような長さとしてよい。隣接する放射素子同士を接続する配線の長さが、送信波の波長λの整数倍と異なる長さにすることで、放射素子32a乃至放射素子32dから送信される送信波の位相をずらすことができる。このように、第2アンテナ12は、複数の放射素子が配線によって等間隔で接続されてよい。また、第2アンテナ12は、複数の放射素子が送信波又は受信波の波長の整数倍とは異なる間隔で接続されてよい。
【0047】
このように、第1アンテナ11は、複数の放射素子(例えば31a乃至31d)が直線状に直列接続される構成を含む。また、第2アンテナ12は、第1アンテナ11と平行に複数の放射素子が直線状に直列接続される構成を含む。一実施形態において、第1アンテナ11の放射素子の間隔と、第2アンテナ12の放射素子の間隔とは、互いに異なってもよい。
【0048】
給電点41Aは、放射素子31aと電気的に接続されてよい。このような構成により、放射素子群21Aから送信される送信波、すなわち、放射素子31a乃至放射素子31dから送信される送信波の位相をそれぞれ同じぶんだけずらすことができる。放射素子群21B、放射素子群21C、及び放射素子群21Dも、放射素子群21Aと同様の構成としてよい。すなわち、給電点41Bは、放射素子群21Bを構成する放射素子と電気的に接続されてよい。給電点41Cは、放射素子群21Cを構成する放射素子と電気的に接続されてよい。給電点41Dは、放射素子群21Dを構成する放射素子と電気的に接続されてよい。
【0049】
給電点42Aは、放射素子32aと電気的に接続されてよい。このような構成により、放射素子群22Aから送信される送信波、すなわち、放射素子32a乃至放射素子32dから送信される送信波の位相をそれぞれ同じぶんだけずらすことができる。放射素子群22B、放射素子群22C、及び放射素子群22Dも、放射素子群22Aと同様の構成としてよい。すなわち、給電点42Bは、放射素子群22Bを構成する放射素子と電気的に接続されてよい。給電点42Cは、放射素子群22Cを構成する放射素子と電気的に接続されてよい。給電点42Dは、放射素子群22Dを構成する放射素子と電気的に接続されてよい。
【0050】
図2に示すように、電子機器1は、基板10の裏面において、制御部50を備えている。また、電子機器1は、基板10の裏面において、給電点61A、給電点61B、給電点61C、及び給電点61D、並びに、給電点62A、給電点62B、給電点62C、及び給電点62Dを備えている。
【0051】
制御部50は、電子機器1を構成する各機能部の制御をはじめとして、電子機器1全体の動作の制御を行うことができる。一実施形態において、制御部50は、第1アンテナ11及び第2アンテナ12の動作を制御してよい。制御部50は、種々の機能を実行するための制御及び処理能力を提供するために、例えばCPU(Central Processing Unit)又はDSP(Digital Signal Processor)のような、少なくとも1つのプロセッサを含んでよい。制御部50は、まとめて1つのプロセッサで実現してもよいし、いくつかのプロセッサで実現してもよいし、それぞれ個別のプロセッサで実現してもよい。プロセッサは、単一の集積回路として実現されてよい。集積回路は、IC(Integrated Circuit)ともいう。プロセッサは、複数の通信可能に接続された集積回路及びディスクリート回路として実現されてよい。プロセッサは、他の種々の既知の技術に基づいて実現されてよい。一実施形態において、制御部50は、例えばCPU及び当該CPUで実行されるプログラムとして構成してよい。また、制御部50は、任意のSoC(System-on-a-chip)などとして構成されてもよい。制御部50は、任意のメモリを適宜含んでもよい。一実施形態において、任意のメモリは、第1アンテナ11及び/又は第2アンテナ12から送信する送信波を規定するための各種パラメータを記憶してよい。
【0052】
図2に示す給電点61Aは、
図1に示した給電点41Aに電気的に接続される。
図2に示す給電点61Bは、
図1に示した給電点41Bに電気的に接続される。
図2に示す給電点61Cは、
図1に示した給電点41Cに電気的に接続される。
図2に示す給電点61Dは、
図1に示した給電点41Dに電気的に接続される。また、
図2に示す給電点62Aは、
図1に示した給電点42Aに電気的に接続される。
図2に示す給電点62Bは、
図1に示した給電点42Bに電気的に接続される。
図2に示す給電点62Cは、
図1に示した給電点42Cに電気的に接続される。
図2に示す給電点62Dは、
図1に示した給電点42Dに電気的に接続される。給電点61A、給電点61B、給電点61C、及び給電点61Dは、それぞれ例えば基板10に穿設されたスルーホールなどを経て、給電点41A、給電点41B、給電点41C、及び給電点41Dに接続されてよい。また、給電点62A、給電点62B、給電点62C、及び給電点62Dは、それぞれ例えば基板10に穿設されたスルーホールなどを経て、給電点42A、給電点42B、給電点42C、及び給電点42Dに接続されてよい。
【0053】
図2に示すように、給電点61Aと給電点61Bとは、結線されることにより、電気的に接続されてよい。給電点61Cと給電点61Dとは、結線されることにより、電気的に接続されてよい。給電点62Aと給電点62Bとは、結線されることにより、電気的に接続されてよい。給電点62Cと給電点62Dとは、結線されることにより、電気的に接続されてよい。給電点61Aと給電点61Bとを接続する配線の中点と、給電点61Cと給電点61Dとを接続する配線の中点とは、配線71によって電気的に接続されてよい。給電点62Aと給電点62Bとを接続する配線の中点と、給電点62Cと給電点62Dとを接続する配線の中点とは、配線72によって電気的に接続されてよい。配線71の中点は、配線81によって、制御部50のRF(Radio Frequency)ポート51に電気的に接続されてよい。配線72の中点は、配線82によって、制御部50のRF(Radio Frequency)ポート52に電気的に接続されてよい。
【0054】
配線71の長さは、配線72の長さと同じにしてよい。また、配線81の長さは、配線82の長さと同じにしてよい。このような構成により、制御部50のRFポート51及びRFポート52から同時に同じ位相の送信波を出力すれば、給電点61A乃至給電点61D、及び、給電点62A乃至給電点62Dに供給される送信波の位相を揃えることができる。RFポート51及びRFポート52から等長で配線された電力は、基板表面の給電点41A乃至給電点41D、及び、給電点42A乃至給電点42Dに供給される。
【0055】
電子機器1の第1アンテナ11及び第2アンテナ12は、ミリ波又は準ミリ波などのような周波数帯の電波を送信してよい。例えば、電子機器1の第1アンテナ11及び第2アンテナ12は、77GHz~81GHzのように、4GHzの周波数帯域幅を有する電波を送信してもよい。電子機器1において、これらのような送信波を送信するための送信信号は、例えば制御部50によって生成されてよい。
【0056】
以上説明した構成により、電子機器1の第1アンテナ11及び第2アンテナ12は、物体を検出するための電磁波を送信することができる。
【0057】
図1に示す電子機器1は、
図8に示した電子機器100と同様の数の放射素子を備えてある。一方、
図1に示す電子機器1において、制御部50のRFポート51及びRFポート52に接続される放射素子は、
図8に示した電子機器100とは異なる。
図1に示す電子機器1において、上半分の放射素子16個が第1アンテナ11を構成し、下半分の放射素子16個が第2アンテナ12を構成する。
【0058】
ここで、第1アンテナ11及び第2アンテナ12のうち、一方のみから送信波を送信する場合について検討する。例えば、制御部50が、第1アンテナ11のみから送信波を送信するように制御する場合について説明する。前述のように、第1アンテナ11において、放射素子群21Aなどを構成する放射素子は、送信波の波長λとして、(3/4)λのような長さとしてよい。このように、隣接する放射素子同士を接続する配線の長さが、送信波の波長λの整数倍と異なる長さにすることで、放射素子31a乃至放射素子31dなどから送信される送信波の位相をずらすことができる。このため、第1アンテナ11全体としては、例えば
図3に示す方向d1の方向に指向性を有し、送信波のビームを形成することができる。このように、第1アンテナ11は、第1の方向d1に指向性を有する。また、第1アンテナ11は、複数の放射素子が送信波又は受信波の波長λの整数倍とは異なる間隔で接続されることにより、第1の方向d1に指向性を有してよい。例えば、第1アンテナ11は、
図3に示すように、第1の方向d1として、鉛直上向きの方向の成分を含む指向性を有してもよい。
【0059】
また、例えば、制御部50が、第2アンテナ12のみから送信波を送信するように制御する場合について説明する。前述のように、第2アンテナ12においても、放射素子群22Aなどを構成する放射素子は、送信波の波長λとして、(3/4)λのような長さとしてよい。このように、隣接する放射素子同士を接続する配線の長さが、送信波の波長λの整数倍と異なる長さにすることで、放射素子32a乃至放射素子32dなどから送信される送信波の位相をずらすことができる。このため、第2アンテナ12全体としては、例えば
図4に示す方向d2の方向に指向性を有し、送信波のビームを形成することができる。このように、第2アンテナ12は、第1の方向d1と異なる方向の成分を含む第2の方向d2に指向性を有する。また、第2アンテナ12は、複数の放射素子が送信波又は受信波の波長の整数倍とは異なる間隔で接続されることにより、第2の方向d2に指向性を有してよい。例えば、第2アンテナ12は、
図4に示すように、第2の方向d2として、鉛直下向きの方向の成分を含む指向性を有してもよい。
【0060】
次に、第1アンテナ11及び第2アンテナ12の双方から送信波を送信する場合について検討する。第1アンテナ11から送信される送信波と、第2アンテナ12から送信される送信波とが同位相で合成されると、合成波の指向性は、それぞれのアンテナの指向性の方向ベクトルが合成された向きになる。このため、第1アンテナ11及び第2アンテナ12の双方から送信される送信波の合成(合成波)は、
図5に示すように、Z軸正方向すなわち正面方向に指向性を有し、Z軸正方向すなわち正面方向に合成波のビームを形成する。
【0061】
このように、第1アンテナ11及び第2アンテナ12から送信される合成波は、Z軸正方向すなわち基板10の面に対してメインローブが正面方向(X軸方向及びY軸方向とも0°の方向)を向いている。また、第1アンテナ11及び第2アンテナ12から送信される合成波は、第1アンテナ11及び第2アンテナ12のうち一方のみから送信される送信波よりも、大きな利得を有する。したがって、第1アンテナ11及び第2アンテナ12から送信される合成波は、第1アンテナ11及び第2アンテナ12のうち一方のみから送信される送信波よりも、より精度の高い物体検出を行い得る。また、第1アンテナ11及び第2アンテナ12から送信される合成波は、第1アンテナ11及び第2アンテナ12のうち一方のみから送信される送信波よりも、より遠くの物体の検出を行い得る。
【0062】
また、電子機器1において、第1アンテナ11及び第2アンテナ12のうち一方から送信波を送信する場合、
図1に示すように、放射素子群21Aの縦方向に配列される放射素子の数は4つになる。一方、電子機器100において、第1アンテナ11’及び第2アンテナ12’のうち一方から送信波を送信する場合、
図8に示したように、放射素子群21A’の縦方向に配列される放射素子の数は8つになる。このため、電子機器1において、第1アンテナ11及び第2アンテナ12のうち一方から送信波を送信する場合、電子機器100に比べて、送信波の指向性を比較的広くすることができる。
【0063】
一実施形態に係る電子機器1において、制御部50は、複数の動作モードを有してよい。また、一実施形態に係る電子機器1において、制御部50は、複数の動作モードを切り替え可能に制御してもよい。例えば、制御部50は、第1モードと、第2モードと、を切り替え可能に制御する。ここで、第1モードは、第1アンテナ11及び第2アンテナ12のうち一方を動作させるモードとしてよい。例えば、制御部50は、第1モードとして、第2アンテナ12のみを動作させてもよい。また、第2モードは、第1アンテナ11及び第2アンテナ12の双方を動作させるモードとしてよい。一実施形態に係る電子機器1の制御部50は、第1アンテナ11及び第2アンテナ12の双方を動作させる第2モードにおいて、第1アンテナ11及び第2アンテナ12の双方からの電波の合成された電波の指向性が、第1の方向d1及び第2の方向d2とも異なる第3の方向d3であるとしてよい。この場合、第3の方向d3は、アンテナ基板面に垂直な方向であるとしてよい。
【0064】
以上のような動作によって、電子機器1は、例えば第1モードで動作することにより、
図4に示すような、下方向(斜め下方向)に比較的広い指向性を有する送信波を送信することができる。また、以上のような動作によって、電子機器1は、例えば第2モードで動作することにより、
図5に示すような、正面方向(前方向)に比較的狭い指向性を有し、比較的利得の高い送信波を送信することができる。
【0065】
一実施形態に係る電子機器1によれば、例えば、路側機若しくは信号機又はこれらの付近に設置されて道路を走行する自動車及び歩行者などを検出する装置としてのユースケースに対応することができる。すなわち、電子機器1によれば、当該機器の下方における比較的近い距離の自動車などを検出する機能が実現される。また、電子機器1によれば、当該機器の水平方向に近い方向における当該機器から比較的遠く離れた位置の自動車などを検出する機能も実現される。
【0066】
このように、一実施形態に係る電子機器1によれば、指向性の方向を変更することができる。また、一実施形態に係る電子機器1によれば、指向性の方向を変更するとともに、当該指向性の広狭を変更するように、動作を切り替えることができる。したがって、一実施形態に係る電子機器1は、送信波又は受信波のビームの方向とともに、指向性の広狭を切り替え可能にすることにより、特定の使用態様において利便性を高めることができる。
【0067】
以下、放射素子群においての縦方向に配列される放射素子の数を変更した場合の効果について、さらに説明する。
【0068】
図6は、放射素子群においての放射素子が縦方向に配列される構成の例を示す図である。
図7は、
図6に示した構成において、縦方向に配列される放射素子の数を変更した場合のアンテナとしての動作をシミュレートした結果を示す図である。
【0069】
本シミュレーションにおいては、
図6に示したように、縦方向に8つの放射素子(放射素子31a乃至放射素子31d、及び、放射素子32a乃至放射素子32d)を配列し、これらを直列接続した構成を採用した。また、本シミュレーションにおいて、
図6に示す放射素子は、79GHzにマッチングさせた。また、本シミュレーションにおいては、各放射素子に給電点を設け、それぞれ個別に送信波の振幅及び位相を変更できるものとした。
【0070】
図7に示すシミュレーション結果において、縦軸はアンテナの利得を示し、横軸は垂直方向の角度を示す。
図7の横軸に示す垂直方向とは、
図6に示す下方向の垂直方向としてよい。
【0071】
図7において、一点鎖線により示す曲線は、
図6に示す8つの放射素子を、同位相で合成した場合の利得を、垂直方向の角度ごとにシミュレートした結果である。
図7に示すように、一点鎖線により示す曲線は、メインローブ以外にもサイドローブが規則的に並んでいる。
図6に示すシミュレーション結果では、垂直方向の角度が10°及び20°となる付近などに、ヌル点が観測された。すなわち、このような動作態様は、例えば
図4に示したような指向性を実現するには不向きと想定される。
【0072】
図7において、破線により示す曲線は、下側の4つの放射素子のみに給電し、さらに位相差を20°シフトした場合の利得を、垂直方向の角度ごとにシミュレートした結果である。これは、一実施形態に係る電子機器1による第1モードの動作として、
図4に示した動作態様を想定したものである。
図7に示すように、破線により示す曲線は、指向性が下側(横軸プラス方向)を向いている。さらに、
図7に示す破線により示す曲線は、8つの放射素子が同位相の結果(一点鎖線により示す曲線)と比べて、垂直方向の角度が10°及び20°となる付近におけるヌル点もなく、滑らかな指向性が実現されている。すなわち、このような動作態様は、例えば
図4に示したような指向性を実現するのに好適である。
【0073】
図7において、実線により示す曲線は、位相をシフトした上で、8つの放射素子の全てに給電した場合の利得を、垂直方向の角度ごとにシミュレートした結果である。これは、一実施形態に係る電子機器1による第2モードの動作として、
図5に示した動作態様を想定したものである。
図7に示すように、実線により示す曲線は、上下それぞれ指向性を傾けたため、利得のピークは、8つの放射素子が同位相の結果(一点鎖線により示す曲線)に比べて僅かに低くなっている。しかしながら、
図7において実線により示す曲線は、メインローブは正面方向を向いている(垂直方向の角度がゼロ)。すなわち、このような動作態様は、例えば
図5に示したような指向性を実現するのに好適である。
【0074】
以上説明したように、一実施形態に係る電子機器1において、比較的遠距離の物体を検出する場合、少なくとも2つ以上の複数アンテナを合成して正面方向の利得を大きくしてよい。一方、一実施形態に係る電子機器1において、比較的近距離の物体を検出の場合、複数アンテナのうち、下方向に指向性を向けた少なくとも1つ以上のアンテナのみを使用して、下方向の利得を大きくしてよい。この時、複数アンテナの合成ではなく、1つのアンテナのみを使用する、すなわち少ない放射素子数で構成されるアンテナを使用してよい。このような動作により、一実施形態に係る電子機器1は、垂直方向の指向性を広くすることができる。
【0075】
図5に示した動作例において、第2モードで動作する電子機器1が送信する送信波の指向性の方向d3は、第1アンテナ11による動作の指向性の方向d1及び第2アンテナ12による動作の指向性の方向d2によって調整されてよい。
図5において、第2モードによる指向性の方向d3は、例として、Z軸正方向を向き、Z軸に平行である場合について示した。しかしながら、第2モードによる指向性の方向d3は、例えば、Z軸正方向から1~2度程度の俯角を有するようにしてもよい。この場合、第1モードによる指向性の方向d1は、例えば、Z軸正方向から10度程度の仰角を有するようにしてもよい。この場合、第1モードによる指向性の方向d2は、例えば、Z軸正方向から11~12度程度の俯角を有するようにしてもよい。
【0076】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各機能部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能である。複数の機能部等は、1つに組み合わせられたり、分割されたりしてよい。上述した本開示に係る各実施形態は、それぞれ説明した各実施形態に忠実に実施することに限定されるものではなく、適宜、各特徴を組み合わせたり、一部を省略したりして実施され得る。つまり、本開示の内容は、当業者であれば本開示に基づき種々の変形および修正を行うことができる。したがって、これらの変形および修正は本開示の範囲に含まれる。例えば、各実施形態において、各機能部、各手段、各ステップなどは論理的に矛盾しないように他の実施形態に追加し、若しくは、他の実施形態の各機能部、各手段、各ステップなどと置き換えることが可能である。また、各実施形態において、複数の各機能部、各手段、各ステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。また、上述した本開示の各実施形態は、それぞれ説明した各実施形態に忠実に実施することに限定されるものではなく、適宜、各特徴を組み合わせたり、一部を省略したりして実施することもできる。
【0077】
上述した実施形態において、電子機器1は、送信アンテナを備え、送信波を送信する態様について説明した。一方、一実施形態において、電子機器1は、受信アンテナを備え、送信波が所定の物体に反射された反射波を受信するように構成してもよい。この場合も、例えば、制御部50は、第1モードと、第2モードと、を切り替え可能に制御してもよい。すなわち、制御部50は、第1モードにおいて、第1アンテナ11及び第2アンテナ12のうち一方を動作させて、反射波を受信してもよい。例えば、制御部50は、第1モードにおいて、第2アンテナ12のみを動作させて、反射波を受信してもよい。また、制御部50は、第2モードにおいて、第1アンテナ11及び第2アンテナ12の双方を動作させて、反射波を受信してもよい。上述した実施形態において、アンテナのパッチ数は、縦方向に8素子、横方向に4列であるものとして説明した。しかしながら、本開示において、アンテナのパッチ数は、適宜変更してもよい。
【0078】
また、上述した実施形態は、電子機器1としての実施のみに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態は、電子機器1のような機器の制御方法として実施してもよい。さらに、例えば、上述した実施形態は、電子機器1のような機器の制御プログラムとして実施してもよい。さらに、上述した実施形態は、例えば、電子機器1のような機器において実行されるプログラムを記録した記録媒体、すなわちコンピュータ読み取り可能な記録媒体として実施してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 電子機器
10 基板
11 第1アンテナ
12 第2アンテナ
21,22 直列接続された放射素子
31,32 放射素子
41,42 給電点
50 制御部
51,52 送信ポート
61,62 給電点
71,72,81,82 配線