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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174372
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】アブソリュート磁気エンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
G01D5/245 110M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087198
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩規
(72)【発明者】
【氏名】勢野 洋嗣
(72)【発明者】
【氏名】守時 直
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA29
2F077CC07
2F077NN02
2F077NN17
2F077NN18
2F077NN24
2F077UU11
2F077VV02
2F077VV31
(57)【要約】
【課題】検出精度をより向上させることができる、アブソリュート磁気エンコーダを提供する。
【解決手段】第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22は、円周方向に等間隔で交互に磁極が配置された環状の多極磁石により構成される。第2磁気トラック22は、第1磁気トラック21と同心で配置される。第1磁気トラック21において第1磁気検出素子31に対向する磁極面である第1被検出面21aの幅W1と、第2磁気トラック22において第2磁気検出素子32に対向する磁極面である第2被検出面22aの幅W2とが、互いに異なる幅に設定される。この第1被検出面21aの幅W1と第2被検出面22aの幅W2は、各磁気検出素子31、32により検出される、第1磁気トラック21の最大磁束密度と第2磁気トラック22の最大磁束密度とに基づいて設定される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に等間隔で交互に磁極が配置された環状の多極磁石により構成される第1磁気トラックと、
円周方向に等間隔で交互に磁極が配置された環状の多極磁石により構成され、かつ前記第1磁気トラックと同心で配置された第2磁気トラックと、
前記第1磁気トラックに対向するとともに前記第1磁気トラックと互いに相対的に移動可能な状態で配置された、前記第1磁気トラックの磁束密度を検出する第1磁気検出素子と、
前記第2磁気トラックに対向するとともに前記第2磁気トラックと互いに相対的に移動可能な状態で配置された、前記第2磁気トラックの磁束密度を検出する第2磁気検出素子と、
を備え、
前記第1磁気トラックにおいて前記第1磁気検出素子に対向する磁極面である第1被検出面の幅と、前記第2磁気トラックにおいて前記第2磁気検出素子に対向する磁極面である第2被検出面の幅とが、前記第1磁気検出素子により検出される前記第1磁気トラックの最大磁束密度と前記第2磁気検出素子により検出される前記第2磁気トラックの最大磁束密度とに基づいて、互いに異なる幅に設定されることを特徴とするアブソリュート磁気エンコーダ。
【請求項2】
隣り合う前記第1磁気トラック及び前記第2磁気トラックが互いに接する状態で配置される、請求項1に記載のアブソリュート磁気エンコーダ。
【請求項3】
前記第1被検出面の幅と前記第2被検出面の幅との差は、前記第1磁気検出素子により検出される前記第1磁気トラックの最大磁束密度と前記第2磁気検出素子により検出される前記第2磁気トラックの最大磁束密度との差が予め指定された値以上となる状態に設定される、請求項1又は請求項2に記載のアブソリュート磁気エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブソリュート磁気エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、その他の産業機械分野において、回転部分の回転検出、回転速度検出、絶対角度検出等にアブソリュート磁気エンコーダが使用されている。このようなアブソリュート磁気エンコーダとして、磁極数が異なる複数の磁気トラックを備え、各磁気トラックの磁束密度を、それぞれ対応して配置された複数の磁気検出素子により検出して、絶対位置や絶対角度を検出する手法が使用されている。
【0003】
絶対角度を検出するアブソリュート磁気エンコーダとして、回転軸を中心として同心円状に配置された、円周方向に等間隔で交互に磁極が配置された環状の磁気トラックを備え、回転軸方向で磁気トラックに対向して磁気検出素子が配置された構成が知られている(例えば、特許文献1-3参照)。また、アブソリュート磁気エンコーダとは異なるが、同様の構成により、単一の回転体から異なる複数のパルス信号を取り出す磁気エンコーダとして、同様の磁気トラックの構成を採用する磁気エンコーダも提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-265099号公報
【特許文献2】特開2011-080776号公報
【特許文献3】特開平10-170212号公報
【特許文献4】特開平9-311053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献が開示するような、環状の磁気トラックが同心円状に配置された構成では、複数の磁気トラックが隣り合う状態で配置されるため、隣り合う一方の磁気トラックに対して他方の磁気トラックに起因する磁気干渉が生じる。また、複数の磁気トラックを備える磁気エンコーダでは、例えば、特定の磁気トラックが主スケールとして使用され、他の磁気トラックが副スケールとして使用されることも多い。このような磁気エンコーダでは、主スケールの磁気トラックに対して副スケールの磁気トラックが磁気干渉すると、検出精度が低下してしまう可能性がある。このような問題は、上述したような複数の磁気トラックを備えるアキシアル型の磁気エンコーダに限らず、複数の磁気トラックを備えるラジアル型の磁気エンコーダにおいても生じる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、回転軸を中心として同心状に配置された環状の複数の磁気トラックと、当該磁気トラックのそれぞれに対向して磁気検出素子が配置された構成において、検出精度をより向上させることができる、アブソリュート磁気エンコーダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を採用している。本発明に係るアブソリュート磁気エンコーダは、第1磁気トラック、第2磁気トラック、第1磁気検出素子及び第2磁気検出素子を備える。第1磁気トラックは、円周方向に等間隔で交互に磁極が配置された環状の多極磁石により構成される。第2磁気トラックは、円周方向に等間隔で交互に磁極が配置された環状の多極磁石により構成される。また、第2磁気トラックは、第1磁気トラックと同心で配置される。第1磁気検出素子は、第1磁気トラックに対向するとともに第1磁気トラックと互いに相対的に移動可能な状態で配置され、第1磁気トラックの磁束密度を検出する。第2磁気検出素子は、第2磁気トラックに対向するとともに第2磁気トラックと互いに相対的に移動可能な状態で配置され、第2磁気トラックの磁束密度を検出する。以上の構成において、第1磁気トラックにおいて第1磁気検出素子に対向する磁極面である第1被検出面の幅と、第2磁気トラックにおいて第2磁気検出素子に対向する磁極面である第2被検出面の幅とが、互いに異なる幅に設定される。この第1被検出面の幅と第2被検出面の幅は、第1磁気検出素子により検出される第1磁気トラックの最大磁束密度と第2磁気検出素子により検出される第2磁気トラックの最大磁束密度とに基づいて設定される。
【0008】
以上の構成では、第1磁気トラックの被検出面の幅と第2磁気トラックの被検出面の幅とが、第1磁気検出素子により検出される第1磁気トラックの最大磁束密度と第2磁気検出素子により検出される第2磁気トラックの最大磁束密度とに基づいて、互いに異なる幅に設定されるため、第1磁気検出素子及び第2磁気検出素子において検出される両磁気トラックの最大磁束密度の大きさを異ならせることができる。このような構成を採用することにより、優先すべき磁気トラックの最大磁束密度を他の磁気トラックの最大磁束密度よりも大きくすることができ、優先すべき磁気トラックに対する他の磁気トラックの磁気干渉を抑制することができる。
【0009】
また、本構成によれば、第1磁気トラックの被検出面を構成する磁性体と第2磁気トラックの被検出面を構成する磁性体として互いに異なる材質を採用した場合でも、第1磁気検出素子及び第2磁気検出素子において検出される両磁気トラックの最大磁束密度の大きさをさらに明確に異ならせることができる。この場合、例えば、一方の磁性体を磁性ゴム等の軟質材を使用し、他方の磁性体をプラスチック磁石等の硬質材を使用することもできる。これにより、一方の磁性体を芯金等の支持部材に固定して当該支持部材を回転体の回転軸等に嵌合することで当該磁性体を回転軸に対して精度よく配置することができるとともに、他方の磁性体を、支持部材を使用することなく一方の磁性体に対して所望の位置関係に容易に配置することができる。
【0010】
以上のアブソリュート磁気エンコーダにおいて、隣り合う第1磁気トラック及び第2磁気トラックが互いに接する状態で配置される構成を採用することができる。この構成では、例えば、第1磁気トラック及び第2磁気トラックと磁気センサユニットとの相対移動の回転軸に軸ブレが生じた場合や、磁気トラックや磁気センサユニットの取付位置に位置ズレが生じた場合のような、第1磁気トラック及び第2磁気トラックと第1磁気検出素子及び第2磁気検出素子との相対位置の変動に対する許容範囲を大きくすることができる。また、第1磁気トラックと第2磁気トラックとの間に隙間を設けないため、各磁気トラックの幅をより大きくすることができる。そして、これらの効果が相まって、特に、第1磁気検出素子及び第2磁気検出素子が一体に配置された磁気センサユニットを使用する場合は、当該磁気センサユニットの適用柔軟性を高めることができる結果、例えば、より小型の磁気センサユニットを採用することが可能になる。
【0011】
以上のアブソリュート磁気エンコーダにおいて、第1被検出面の幅と第2被検出面の幅との差は、第1磁気検出素子により検出される第1磁気トラックの最大磁束密度と第2磁気検出素子により検出される第2磁気トラックの最大磁束密度との差が予め指定された値以上となる状態に設定される構成を採用することができる。この構成では、優先すべき磁気トラックに対する他の磁気トラックの磁気干渉をより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、同心で配置された環状の複数の磁気トラックと、当該複数の磁気トラックに対向して磁気検出素子が配置された構成を有するアブソリュート磁気エンコーダにおいて、検出精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るアブソリュート磁気エンコーダの一例を模式的に示す平面図(磁気センサユニット側から見た図)であり、(b)は、本発明の一実施形態に係るアブソリュート磁気エンコーダの一例を模式的に示す縦断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るアブソリュート磁気エンコーダが備える磁気トラックの磁極配置の一例を模式的に示す平面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るアブソリュート磁気エンコーダが備える磁気トラックを模式的に示す拡大縦断面図である。
図4】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係るアブソリュート磁気エンコーダの耐軸ブレ性を模式的に示す拡大縦断面図である。
図5】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係るアブソリュート磁気エンコーダが備える磁気トラックの他の例を模式的に示す拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るアブソリュート磁気エンコーダは、特に限定されないが、各種モータの回転制御に用いられる回転検出装置等に適用することができる。以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。なお、磁気エンコーダにおいて、固定体に対する回転体の回転を検出する場合、磁気スケールと磁気検出素子とが相対的に移動可能であればよく、固定体及び回転体のいずれか一方に磁気スケールを設け、他方に磁気検出素子を設ける構成が採用される。以下では、回転体に磁気スケールを設け、固定体に磁気検出素子を設けた、アキシアル型のアブソリュート磁気エンコーダの事例により本発明を具体化している。
【0015】
図1(a)は、本発明の一実施形態におけるアブソリュート磁気エンコーダの一例を模式的に示す平面図である。図1(b)は、本発明の一実施形態におけるアブソリュート磁気エンコーダの一例を模式的に示す縦断面図である。なお、図1(b)は、図1(a)の直径方向に沿う縦断面図である。
【0016】
図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施形態に係るアブソリュート磁気エンコーダ1は、中心部に貫通孔11を備える円盤状の芯金10と、当該芯金10の軸方向の一方面に配置された環状の磁気スケール20を備える。磁気スケール20は同心状に並列して設けられた第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22を備える。特に限定されないが、本実施形態では、主尺として機能する第1磁気トラック21が径方向の外側に配置され、副尺として機能する第2磁気トラック22が第1磁気トラック21の径方向の内側に配置されている。なお、本実施形態では、後述のように、貫通孔11に回転検出対象の回転軸が圧入嵌合されるため、芯金10の軸方向、第1磁気トラック21の軸方向、及び第2磁気トラック22の軸方向は全て回転軸の軸方向と同一である。また、図1(b)において、当該軸方向は上下方向に対応する。
【0017】
第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22は、いずれも、円周方向に等間隔で交互に磁極(N極とS極)が配置された多極磁石により構成される。特に限定されないが、本実施形態では、第1磁気トラック21が備える磁極の極数と第2磁気トラック22が備える磁極の極数は異なっており、第2磁気トラック22の極数が第1磁気トラック21の極数よりも少なく設定されている。
【0018】
図1(b)に示すように、本実施形態では、芯金10は貫通孔11の周囲に軸方向の厚さが他の部分よりも厚い円筒部12を備える。当該円筒部12は回転検出対象である回転軸50への取付部として機能する。本実施形態では、円筒部12の内径は回転検出対象である回転軸50の外径よりもわずかに小さく形成されており、圧入嵌合することで芯金10が回転軸50に取り付けられる。
【0019】
また、芯金10は、円筒部12の外縁から径方向の所定範囲に、円周方向の全体にわたって形成された溝部13を備える。溝部13には、当該溝部13に整合するリング状部材14が嵌合される。リング状部材14は、第2磁気トラック22を支持する支持部材として機能する。特に限定されないが、リング状部材14の内径は円筒部12の外径よりもわずかに小さく形成されており、圧入嵌合することでリング状部材14が芯金10に連結される。なお、特に限定されないが、芯金10及びリング状部材14は、例えば、SPCC、SUS430等の磁性金属により構成することができる。
【0020】
特に限定されないが、本実施形態では、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22は、磁性粉を含有するゴム材料等の磁性ゴム材料からなるゴム磁石により構成される。本実施形態では、第1磁気トラック21を構成するゴム磁石41は、図1(a)及び図1(b)に示すように、芯金10において、溝部13よりも径方向外側の位置から芯金10の外縁端及び芯金10の反対面の外縁部分を覆う状態で配置されている。特に限定されないが、本実施形態では、ゴム磁石41は加硫接着により芯金10に固定されている。すなわち、芯金10は第1磁気トラック21を支持する支持部材として機能する。当該ゴム磁石41において、芯金10の一方面側に位置する環状部分が、上述のとおり、円周方向に等間隔で交互にN極とS極が配置された多極磁石として着磁され、第1磁気トラック21が構成されている。
【0021】
また、第2磁気トラック22を構成するゴム磁石42は、リング状部材14において、円筒部12側端部よりも径方向外側からリング状部材14の外縁端及びリング状部材14の反対面の外縁部分を覆う状態で配置されている。また、芯金10の一方面側では、ゴム磁石42は、リング状部材14の外縁端から第1磁気トラック22を構成するゴム磁石41の内径側端部まで延出され、ゴム磁石42の外径側端部の全周がゴム磁石41の内径側端部の全周と接する状態で配置されている。特に限定されないが、本実施形態では、ゴム磁石42は加硫接着によりリング状部材14に固定されている。なお、本実施形態では、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22の内径側端部及び外形側端部にテーパーを設けているが、当該テーパーは必須の要素ではない。
【0022】
ゴム磁石42において、芯金10の一方面側に位置する環状部分が、上述のとおり、円周方向に等間隔で交互にN極とS極が配置された多極磁石として着磁され、第2磁気トラック22が構成されている。本実施形態では、ゴム磁石42の着磁はリング状部材14に固定された状態で実施され、ゴム磁石42は当該着磁後にリング状部材14とともに、磁化後の第1磁気トラック21が配置された芯金10に取り付けられる。すなわち、第1磁気トラック21を形成するための着磁処理と第2磁気トラック22を形成するための着磁処理とが別々に実施された後に、両磁気トラック21、22が一体に組み付けられる。このような構成を採用することで、先行して形成された磁気トラックの磁極が後続の磁気トラック形成の着磁処理に干渉することを避けることができる。したがって、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22のそれぞれを構成する多極磁石の着磁を精度よく実施することができ、製造が容易になる。なお、ゴム磁石41及びゴム磁石42の着磁には、公知の任意の手法を用いることができる。
【0023】
図1(b)に示すように、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22のそれぞれに対して、軸方向において対向する位置には磁気センサユニット30が固定体に配置されている。本実施形態では、磁気センサユニット30は、第1磁気検出素子31と第2磁気検出素子32とを備える。特に限定されないが、本実施形態では、磁気センサユニット30は、第1磁気検出素子31と第2磁気検出素子32とが一体化された構成を有している。ここで、一体化された構成とは第1磁気検出素子31及び第2磁気検出素子32が単一の筐体に収容されている等、第1磁気検出素子31及び第2磁気検出素子32を個別に設置して位置調整を行う必要がなく、単一の部材として取り扱うことができる構成であることを意味する。なお、第1磁気検出素子31は、第1磁気トラック21と対向する位置に配置され、第1磁気トラック21の磁束密度を検出する。また、第2磁気検出素子32は、第2磁気トラック22と対向する位置に配置され、第2磁気トラック22の磁束密度を検出する。したがって、磁気センサユニット30は、第1磁気トラック21の磁束密度及び第2磁気トラック22の磁束密度をそれぞれ独立して検出することが可能である。なお、本実施形態では、特に好ましい形態として第1磁気検出素子31と第2磁気検出素子32とが一体化された構成を例示しているが、第1磁気検出素子31及び第2磁気検出素子32がそれぞれ独立した構成を採用することも可能である。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態に係るアブソリュート磁気エンコーダが備える磁気トラックの磁極配置の一例を模式的に示す平面図である。なお、図2では、一部の磁極のみにN極、S極を表示しているが、上述のとおり、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22では、N極とS極とが円周方向に等間隔で交互に配置されている。
【0025】
図2に示す例では、第1磁気トラック21の総極数は36(18極対)であり、第2磁気トラック22の総極数は34(17極対)である。このような構成によれば、回転軸50が1回転する間に、磁気トラック21に対応する第1磁気検出素子31からは18極対に対応する周期の信号が出力され、磁気トラック22に対応する第2磁気検出素子32からは17極対に対応する周期の信号が出力される。公知のように、これらの出力信号の位相差が、回転軸50が一回転する間に0度から360度になることから回転の絶対角を検知することができる。
【0026】
図3は、本発明の一実施形態に係るアブソリュート磁気エンコーダが備える磁気トラックを模式的に示す拡大縦断面図である。図3に示す図は、図1(b)において回転軸50の左方側に位置する部分に対応する。
【0027】
図3に示すように、本実施形態のアブソリュート磁気エンコーダ1では、第1磁気トラック21において磁気センサユニット30の第1磁気検出素子31に対向する磁極面である第1被検出面21aの幅W1と、第2磁気トラック22において磁気センサユニット30の第2磁気検出素子32に対向する磁極面である第2被検出面22aの幅W2とが、互いに異なる幅に設定されている。そして、第1被検出面21aの幅W1と第2被検出面22aの幅W2との差dは、第1磁気検出素子31により検出される第1磁気トラック21の最大磁束密度と、第2磁気検出素子32により検出される第2磁気トラック22の最大磁束密度とに基づいて設定される。なお、ここでは、図3に示すように、第2被検出面22aの幅W2が第1被検出面21aの幅W1よりも小さく設定されている。本事例では、幅の差dは幅W2-幅W1により定義される。
【0028】
このように、第1被検出面21aの幅W1と第2被検出面22aの幅W2との差dが、第1磁気トラック21の最大磁束密度と、第2磁気トラック22の最大磁束密度とに基づいて設定される構成とすることで、磁気センサユニット30(第1磁気検出素子31及び第2磁気検出素子32)において検出される両磁気トラック21、22の最大磁束密度の大きさを確実に異ならせることができる。そして、このような構成を採用することで、優先すべき磁気トラックの最大磁束密度を他の磁気トラックの最大磁束密度よりも大きくすることができ、優先すべき磁気トラックに対する他の磁気トラックの磁気干渉を抑制することができる。その結果、アブソリュート磁気エンコーダ1の検出精度をより向上させることができる。
【0029】
上述のとおり、本実施形態では、第1磁気トラック21が主尺として機能するため、第2磁気トラック22よりも第1磁気トラック21を優先させることが好ましい。すなわち、第1磁気トラック21に対する第2磁気トラック22の磁気干渉を抑制することが好ましい。そこで、本実施形態では、図3に示すように、第2被検出面22aの幅W2を第1被検出面21aの幅W1よりも小さくすることで、第2磁気検出素子32により検出される第2被検出面22aの最大磁束密度を第1磁気検出素子31により検出される第1被検出面21aの最大磁束密度よりも小さくしている。
【0030】
本構成において、第1被検出面21aの幅W1と第2被検出面22aの幅W2との差dは、第1磁気検出素子31により検出される第1磁気トラック21の最大磁束密度と第2磁気検出素子32により検出される第2磁気トラック22の最大磁束密度との差が予め指定された値以上となる状態に設定される。ここで、予め指定された値は、優先すべき磁気トラックを構成する磁性体の最大磁束密度の10%であることが好ましい。優先すべき磁気トラックを構成する磁性体の最大磁束密度の10%未満であると、優先すべき磁気トラックに対する他の磁気トラックの磁気干渉を十分に抑制できないため好ましくない。なお、本構成では、第1磁気トラック21の径の上限はアブソリュート磁気エンコーダ1のサイズに応じて定まる。したがって、差dを大きくするには、第2被検出面22aの幅W2を小さくすればよい。この場合、第2被検出面22aの幅W2の下限は第2磁気検出素子32の検出限界により制限されることになる。
【0031】
上述のとおり、本実施形態では、第1磁気トラック21が優先すべき磁気トラックであるため、第1被検出面21aの幅W1と第2被検出面22aの幅W2との差dは、第1磁気トラック21の最大磁束密度と第2磁気トラック21の最大磁束密度との差が第1磁気トラック21の最大磁束密度の10%以上になる状態に設定される。
【0032】
一方、本実施形態のアブソリュート磁気エンコーダ1では、好ましい形態として、上述のように、第1磁気トラック21の内径側端部と第2磁気トラック22の外径側端部とが接する状態で配置される構成を採用している。すなわち、第1磁気トラック21と第2磁気トラック22との間に隙間を設けない構成を採用している。このような構成を採用することで、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22と、磁気センサユニット30(第1磁気検出素子31及び第2磁気検出素子32)との相対位置の変動に対する許容範囲を大きくすることができる。相対位置の変動の具体例は、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22の回転軸の軸ブレや、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22や磁気センサユニット30の取付位置の位置ズレ等である。以下、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22の回転軸の軸ブレを例に、当該効果について説明する。
【0033】
図4は、本発明の一実施形態に係るアブソリュート磁気エンコーダの耐軸ブレ性を模式的に示す拡大縦断面図である。図4(a)は、磁気センサユニット30が設計位置に配置されている状態に対応する。図4(b)は、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22の回転軸の軸ブレが生じた場合に対応する。なお、回転軸の軸ブレは、回転軸の加工精度や組み付け精度にクリアランスが設定されている以上、発生を避けることは不可能である。
【0034】
上述のとおり、本実施形態のアブソリュート磁気エンコーダ1では、第1磁気トラック21と第2磁気トラック22との間に隙間を設けないため、各磁気トラックの径方向の幅をより大きくすることができる。そのため、例えば、図4(b)に示すように、回転軸が磁気センサユニット30から軸側(図中の右方向)へ移動するような軸ブレが発生した場合でも、第1磁気検出素子31及び第2磁気検出素子32は、対応する第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22の上方に位置している。すなわち、第1磁気トラック21と第2磁気トラック22との間に隙間を設けた構成に比べて、耐軸ブレ性を向上させることができる。また、複数の磁気検出素子が一体に配置された磁気センサユニットを使用する場合は、当該磁気センサユニットの適用柔軟性を高めることができる結果、例えば、より小型の磁気センサユニットを採用することも可能になる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態のアブソリュート磁気エンコーダ1によれば、磁気センサユニット30において検出される両磁気トラック21、22の最大磁束密度の大きさを異ならせることで優先すべき磁気トラックに対する他の磁気トラックの磁気干渉を抑制することができる結果、検出精度をより向上させることができる。
【0036】
なお、以上説明した実施形態では、好ましい形態として、第1磁気トラック21が支持された芯金10に第2磁気トラック22が支持されたリング状部材14を連結する構成とした。しかしながら、第1磁気トラック21と第2磁気トラック22とは、第1被検出面21aと第2被検出面22aとが上述した幅の差dを有する状態で配置できればよく、第1磁気トラック21と第2磁気トラック22とが別々の支持部材に支持される構成は必須ではない。
【0037】
図5(a)及び図5(b)は、本発明の一実施形態に係るアブソリュート磁気エンコーダが備える磁気トラックの他の例を模式的に示す拡大縦断面図である。なお、図5(a)及び図5(b)は、図3に示す拡大縦断面図に対応する図であり、図3と同様に当該形状が円周方向の全体にわたって連続している。また、異なる形状を有しているが、上述のアブソリュート磁気エンコーダ1の磁気トラック21、22と同様の機能を有する磁気トラックには同一の符号を用いている。
【0038】
上述の実施形態では、芯金10が溝部13を備える構成を例示したが、図5(a)及び図5(b)に示す事例では、芯金60は溝部を備えない点で異なっている。すなわち、芯金60は、円筒部62の外径側端部から外縁端部にわたって同一の厚さを有している。そして、図5(a)に示す事例では、上述のゴム磁石41と同一形状のゴム磁石71が、芯金60において、芯金60の一方面の一部、芯金60の外縁端及び芯金60の反対面の外縁部分を覆う状態で配置されている。また、上述のゴム磁石42において芯金側の面を平面に変更した形状を有するゴム磁石72が、ゴム磁石72の外径側端部の全周がゴム磁石71の内径側端部の全周と接する状態で配置されている。すなわち、芯金60は第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22を支持する単一の支持部材として機能する。このような構成であれば、第1磁気トラック21を構成するゴム磁石71と第2磁気トラック22を構成するゴム磁石72とが別体で構成されているため、上述した幅の差dを自在に設定することができる。
【0039】
また、この例では、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22の両方を軟質材であるゴム磁石により構成しているが、第1磁気トラック21を構成する磁性体と、第2磁気トラック22を構成する磁性体とに互いに異なる材質を使用することも可能である。例えば、ゴム磁石72に代えて、プラスチック磁石や焼成磁石等の硬質材を使用することもできる。この構成では、第1磁気トラック21を構成するゴム磁石71を芯金60に固定して芯金60を回転軸に嵌合することで第1磁気トラック21を回転軸50に対して精度よく配置することができるとともに、第2磁気トラック22を構成する硬質の磁性体を、支持部材を使用することなく第1磁気トラック21に対して所望の位置関係に容易に配置することができる。
【0040】
一方、図5(b)に示す事例では、上述のゴム磁石71及びゴム磁石72を一体のゴム磁石81として実現している。このような構成であれば、部品点数が少ないため組み立てが容易になる。図5(a)及び図5(b)に示す構成であっても、上述の幅の差dを適切に実現することで、上述の実施形態において説明したアブソリュート磁気エンコーダ1と同様の効果を奏することができる。
【0041】
以上説明したように、本発明によれば、同心で配置された環状の複数の磁気トラックと、当該磁気トラックに対向して磁気検出素子が配置された構成を有するアブソリュート磁気エンコーダにおいて、検出精度をより向上させることができる。
【0042】
なお、上述の実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上述の実施形態では、アキシアル型のアブソリュート磁気エンコーダを例示したが、第1被検出面の幅と第2被検出面の幅との差が、第1磁気トラックの最大磁束密度と第2磁気トラックの最大磁束密度とに基づいて設定される構成は、ラジアル型のアブソリュート磁気エンコーダについても当然に適用可能である。また、上述の実施形態では、第1磁気トラックと第2磁気トラックとが接する状態で配置された構成としたが、第1磁気トラックと第2磁気トラックとの間に隙間を設ける構成することも排除されない。さらに、上述の実施形態では、第1磁気トラック及び第2磁気トラックの支持部材が磁性金属である構成を例示したが、支持部材が磁性金属であることは必須でなく、他の金属や樹脂等の任意の材質を採用することも可能である。また、第1磁気トラックと第2磁気トラックとの配置順序や、ゴム磁石、支持部材をはじめとする上述した各要素の物理的な形状も、本発明の効果を奏する範囲内で任意に変更することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 アブソリュート磁気エンコーダ
10、60 芯金(支持部材)
14 リング状部材(支持部材)
21 第1磁気トラック
21a 第1被検出面
22 第2磁気トラック
22a 第2被検出面
30 磁気センサユニット
31 第1磁気検出素子
32 第2磁気検出素子
41、42、71、72、81 ゴム磁石
W1 第1被検出面の幅
W2 第2被検出面の幅
図1
図2
図3
図4
図5