(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174373
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】建築構造物用の制振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20231130BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087200
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】浅井 伸介
(72)【発明者】
【氏名】開田 優二
(72)【発明者】
【氏名】高田 友和
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048AD07
3J048BA08
3J048BF02
3J048CB22
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】少ない設置基数で有効な制振効果を発揮する、改良された建築構造物用の制振装置を提供する。
【解決手段】上面視長方形の主マス16の四隅がゴムマウント14でそれぞれ支持された制振装置10であって、マス部材12において主マス16の下方に取り付けられた追加マス18が、主マス16の長辺方向でゴムマウント14,14間に配されていると共に、主マス16と追加マス18の重心g1,g2がゴムマウント14,14,14,14による支持ばね系の上下弾性主軸Z上に位置しており、主マス16の短辺方向でのゴムマウント14,14間距離D1が長辺方向でのゴムマウント14,14間距離D2の0.15~0.45倍とされており、ゴムマウント14の上下ばね定数が水平ばね定数の3~40倍とされており、マス部材12の重心位置Gが支持ばね系の水平弾性主軸の上限位置Uとゴムマウント14単体の水平弾性主軸の下限位置Eとの間に設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向視において長方形とされた主マスと、該主マスの四隅の下方に配されて該主マスをベース部材に対して弾性連結する4つのゴムマウントとを備える建築構造物用の制振装置であって、
前記主マスに該主マスよりも質量が小さい追加マスが下方に重ね合わされて取り付けられてマス部材が構成されており、該追加マスが該主マスの長辺方向において前記ゴムマウント間に配されていると共に、該主マスの重心と該追加マスの重心とが何れも該ゴムマウントによる支持ばね系において上下方向に延びる弾性主軸上に位置しており、
該主マスの短辺方向における該ゴムマウント間の距離が、該主マスの長辺方向における該ゴムマウント間の距離の0.15~0.45倍の範囲内とされており、
該ゴムマウントの上下方向のばね定数が、該ゴムマウントの水平方向のばね定数に対して3~40倍の範囲内とされており、
該マス部材の重心位置が前記ゴムマウントによる支持ばね系において水平方向に延びる弾性主軸の上限位置と該ゴムマウント単体において水平方向に延びる弾性主軸の下限位置との間に設定されている建築構造物用の制振装置。
【請求項2】
前記追加マスにおける前記主マスの長辺と平行な辺の長さは、該主マスの短辺の長さ以上とされている請求項1に記載の建築構造物用の制振装置。
【請求項3】
前記ゴムマウントは、矩形板状のプレート部材の複数が上下方向で相互に離隔して積層配置されていると共に、上下方向で隣り合う該プレート部材が連結ゴムによって相互に連結された構造を有しており、
該プレート部材の対辺部分には外周へ向けて上傾する傾斜部がそれぞれ設けられており、該傾斜部に該連結ゴムが固着されている請求項1又は2に記載の建築構造物用の制振装置。
【請求項4】
前記主マスの短辺の長さと、前記追加マスの該主マスの短辺と平行な辺の長さが同じとされている請求項1又は2に記載の建築構造物用の制振装置。
【請求項5】
前記主マスと前記追加マスは同じ材料で形成されている請求項1又は2に記載の建築構造物用の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病院やホテルなどの建築構造物において、交通振動や風等により発生する振動を抑制するために設置される建築構造物用の制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建築構造物では、交通振動や風等の外力が加振力として作用することによって振動が発生する場合がある。そこで、本出願人は、このような振動を低減する手段の1つとして、特開2008-214886号公報(特許文献1)等において、建築構造物用の制振装置を提案している。特許文献1の制振装置は、マス部材をゴムマウントによって弾性支持する構造を有しており、交通振動等の外力が加振力として作用する際に、マス部材が略水平方向に振動(並進運動)することによって、加振力を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、建築構造物用の制振装置は、制振作用を有効に得るために、建築構造物の質量に応じたマス部材の質量が必要になる。従って、一般住宅等の小型建築構造物では、加振力を十分に低減するために必要なマス部材の質量が比較的に小さく、制振装置の設置数を少なくすることができるが、集合住宅、病院、ホテルなどの大規模建築構造物では、加振力を十分に低減するために必要なマス部材の質量が大きくなることから、多数の制振装置を設置する必要があった。
【0005】
しかしながら、多数の制振装置を設置しようとすれば、設置作業に時間がかかることから、作業の煩雑化や工期の長期化等が問題になる。
【0006】
本発明の解決課題は、比較的に少ない設置基数で有効な制振効果を得ることができる、改良された構造の建築構造物用の制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、建築構造物に対する制振装置の設置基数を少なくするために、マス部材の質量を増大させることを試みた。しかし、従来のマス部材の質量を増大させようとすれば、マス部材の大型化を避け難く、天井裏等の狭いスペースに配することが難しくなる。また、マス部材の比重を大きくしてマス質量を増大させようとすれば、材質変更によるコストアップ等が問題になる。そこで、発明者は、従来のマス部材を主マスとし、当該主マスに対して追加マスを設けることで、マス部材全体の質量を大きくすることを検討した。ところが、追加マスを設けたマス部材では、マス部材の変位態様が従来の如き略水平方向での振動である並進運動になり難く、ローリング等の水平軸回りでの回転動(揺動)も生じて、制振作用に悪影響を及ぼすことが明らかになった。このように、発明者は、単にマス部材の質量を大きくするだけでは、配設スペースなどの要求を満たしながら、制振効果を効率的に得ることが難しいという新たな知見を得て、当該知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、上下方向視において長方形とされた主マスと、該主マスの四隅の下方に配されて該主マスをベース部材に対して弾性連結する4つのゴムマウントとを備える建築構造物用の制振装置であって、前記主マスに該主マスよりも質量が小さい追加マスが下方に重ね合わされて取り付けられてマス部材が構成されており、該追加マスが該主マスの長辺方向において前記ゴムマウント間に配されていると共に、該主マスの重心と該追加マスの重心とが何れも該ゴムマウントによる支持ばね系において上下方向に延びる弾性主軸上に位置しており、該主マスの短辺方向における該ゴムマウント間の距離が、該主マスの長辺方向における該ゴムマウント間の距離の0.15~0.45倍の範囲内とされており、該ゴムマウントの鉛直方向のばね定数が、該ゴムマウントの水平方向のばね定数に対して3~40倍の範囲内とされており、該マス部材の重心位置が該ゴムマウントによる支持ばね系において水平方向に延びる弾性主軸の上限位置と該ゴムマウント単体において水平方向に延びる弾性主軸の下限位置との間に設定されているものである。
【0010】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、マス部材が主マスに追加マスが取り付けられて構成されていることにより、マス部材が主マス単体で構成されている場合に比して、マス質量の増大による制振性能の向上と、チューニング自由度の向上が図られる。
【0011】
追加マスが主マスの下方に配されてゴムマウント間に配されていることによって、追加マスを主マスの上方に追加する場合に比して、追加マスの付加によるマス部材のローリングの発生を抑えつつ、ゴムマウントの大型化を抑えることができる。
【0012】
追加マスは、主マスの下方でゴムマウント間のスペースを巧く利用して配されており、マス部材平面視での大型だけでなく、制振装置全体の外部サイズの増大を防ぎながら追加マスを設けることができる。
【0013】
主マス長軸回りのローリングが問題となり易い平面視長方形の主マスを採用するに際して、主マス短辺方向におけるゴムマウント間の距離が、主マスの長辺方向におけるゴムマウント間の距離に対して0.15~0.45倍の範囲内とされて、十分に大きくされていることにより、主マスの長辺方向に延びるマス長軸回りのローリングがゴムマウントによる支持位置によっても抑制される。
【0014】
ゴムマウントの鉛直方向のばね定数が、ゴムマウントの水平方向のばね定数に対して十分に大きくされていることにより、マス部材の水平軸回りのローリングがゴムマウントの支持ばね剛性によって抑制され易くなっている。更に、ゴムマウントの水平方向のばね定数が、ゴムマウントの鉛直方向のばね定数に対して小さくされていることにより、マス部材の水平方向への並進運動による制振作用が有効に発揮される。
【0015】
マス部材の重心の上下位置が、ゴムマウントによる支持ばね系において水平方向に延びる弾性主軸の上限位置と、ゴムマウント単体において水平方向に延びる弾性主軸の下限位置との間に設定されていることにより、マス部材の水平軸回りのローリングが低減される。
【0016】
第二の態様は、第一の態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記追加マスにおける前記主マスの長辺と平行な辺の長さは、該主マスの短辺の長さ以上とされているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、追加マスを主マスの長辺方向において大きくすることができて、追加マスによる制振作用の向上を実現することができる。
【0018】
追加マスを主マスの長辺方向で大きくしても、マス長軸回りのローリングに対する慣性の増大が抑えられることから、ローリングによる制振効果のロスが低減され得る。
【0019】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記ゴムマウントは、矩形板状のプレート部材の複数が上下方向で相互に離隔して積層配置されていると共に、上下方向で隣り合う該プレート部材が連結ゴムによって相互に連結された構造を有しており、該プレート部材の対辺部分には外周へ向けて上傾する傾斜部がそれぞれ設けられており、該傾斜部に該連結ゴムが固着されているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、ゴムマウントの周方向の向きに応じて水平方向に延びる弾性主軸の上限位置が変化することから、マス部材の重心位置を弾性主軸の上限位置よりも下方に設定し易くなる。
【0021】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記主マスの短辺の長さと、前記追加マスの該主マスの短辺と平行な辺の長さとが同じとされているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、追加マスが主マスから外周側へ突出するのを防ぎながら、追加マスの短辺方向のサイズを最大化して、追加マスの質量を大きく得ることができる。
【0023】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記主マスと前記追加マスは同じ材料で形成されているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、追加マスが主マスに対して過度に重くなるのを防いで、追加マスを設けることに起因する異常な振動状態を防ぎ易くなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、比較的に少ない設置基数の制振装置によって、有効な制振効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第一の実施形態としての制振装置を示す正面図
【
図4】
図1に示す制振装置におけるマス重心位置の設定を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1~
図3には、本発明に従う構造とされた建築構造物用の制振装置(以下、制振装置と称する)10が示されている。制振装置10は、マス部材12にゴムマウント14が取り付けられた構造を有している。以下の説明では、原則として、上下方向とは鉛直高さ方向である
図1中の上下方向を、前後方向とは後述する主マス16の短辺方向である
図3中の上下方向を、左右方向とは主マス16の長辺方向である
図3中の左右方向を、それぞれ言う。
【0029】
マス部材12は、主マス16を含んで構成されている。主マス16は、鉄系金属等の高比重の材料で形成されている。主マス16は、直方体であって、上下方向視において短辺方向(前後方向)と長辺方向(左右方向)がある長方形とされている。要するに、主マス16は、上下方向視において、短辺の長さ寸法A1が長辺の長さ寸法A2よりも小さくされている。
【0030】
主マス16には、追加マス18が取り付けられている。追加マス18は、直方体又は立方体とされており、主マス16の下面に重ね合わされて取り付けられてマス部材12を構成している。追加マス18の主マス16に対する固定手段は特に限定されないが、主マス16から取外し可能であることが望ましく、例えば、本実施形態のように主マス16に対してボルト固定される。追加マス18は、主マス16よりも質量が小さくされている。追加マス18の体積は、主マス16の体積よりも小さいことが望ましい。追加マス18は、主マス16と同じ材料で形成されていることが望ましく、それによって、主マス16よりも軽量の追加マス18を、主マス16よりも小型とすることができる。尤も、主マス16と追加マス18とは異なる材料で形成されていてもよく、例えば、主マス16を追加マス18よりも高比重の材料で形成することによって、主マス16の質量を確保しながら、主マス16の小型化を図ることもできる。
【0031】
主マス16の短辺方向における追加マス18の長さ寸法B1は、主マス16の短辺の長さ寸法A1以下とされており(B1≦A1)、好適には主マス16の短辺の長さ寸法A1と略同じとされている(B1=A1)。また、主マス16の長辺方向における追加マス18の長さ寸法B2は、主マス16の短辺の長さ寸法A1以上とされている(B2≧A1)。
【0032】
マス部材12は、主マス16の四角部分が4つのゴムマウント14によって弾性支持されている。ゴムマウント14は、構造を特に限定されるものではないが、本実施形態では、
図1に示すように、所定の間隔で積層された複数枚のプレート部材20が、ゴム弾性体22によって相互に弾性連結された積層構造を有している。プレート部材20は、上下方向視で長方形の矩形板状とされており、長辺方向の両端部分にゴム弾性体22が固着されている。ゴム弾性体22は、プレート部材20の短辺方向において長手とされた矩形ブロック状とされており、上下方向で隣り合うプレート部材20,20の対向間にそれぞれ配されている。各ゴム弾性体22は、プレート部材20に形成された図示しない貫通孔を通じて相互に連続していると共に、プレート部材20の表面を覆う被覆ゴムによっても相互に連続しており、複数のゴム弾性体22が一体的に形成されている。なお、
図2,
図3では、見易さのために、被覆ゴムで覆われたプレート部材に符号20を付した。
【0033】
ゴム弾性体22が固着されたプレート部材20の長辺方向の対辺部分(両端部分)は、長辺方向の外側へ向けて上傾する傾斜部23とされている。これにより、マス部材12の分担支持荷重をゴム弾性体22に作用する圧縮力として受けることができると共に、プレート部材20の長辺方向と短辺方向のばね特性の違いを大きくすることができ、ゴムマウント14の向きを調節することによって、後述するマス-バネ共振系の共振周波数をより大きな自由度で調節することができる。
【0034】
図3に示すように主マス16の4隅部分に配された4つのゴムマウント14,14,14,14は、主マス16の短辺方向におけるゴムマウント14,14間の距離D1が、主マス16の長辺方向におけるゴムマウント14,14間の距離D2に対して、0.15~0.45倍の範囲内とされている。なお、ここで言うゴムマウント14,14間の距離D1,D2は、各ゴムマウント14の主マス16への取付位置間の距離を言う。
【0035】
ゴムマウント14は、鉛直方向のばね定数が水平方向のばね定数よりも大きくされており、鉛直方向のばね定数が水平方向のばね定数に対して3~40倍の範囲内に設定されている。
【0036】
追加マス18は、各ゴムマウント14に対して主マス16の長辺方向の内側に離れて位置しており、長辺方向両側のゴムマウント14,14の間に配されている。追加マス18の長辺方向の長さ寸法B2は、長辺方向におけるゴムマウント14,14の最内端間の距離D3に対して、0.5~0.9倍の範囲内とされていることが望ましく、それによって、追加マス18とゴムマウント14の干渉を防ぎつつ、追加マス18の体積を大きく確保し易くなる。
【0037】
追加マス18の上下厚さ寸法hは、ブラケット28(後述)を含むゴムマウント14の上下高さ寸法Hよりも小さくされている。本実施形態では、追加マス18の上下厚さ寸法hは、主マス16の上下厚さ寸法よりも大きくされているが、主マス16の方が上下方向で厚肉とされていてもよいし、主マス16と追加マス18が上下方向で同じ厚さとされていてもよい。
【0038】
ゴムマウント14は、上端部に配された第一取付部材24がブラケット28を介してマス部材12に固定されると共に、下端部に配された第二取付部材26がベース部材30に固定されることにより、マス部材12とベース部材30の間に介装される。これにより、マス部材12とベース部材30が4つのゴムマウント14,14,14,14によって相互に弾性連結されて、副振動系(マス-バネ共振系)を構成する制振装置10がベース部材30上に設けられる。なお、ベース部材30は、天井の梁など建築構造物の一部であってもよいし、建築構造物に取り付けられる建築構造物とは別の部材であってもよい。
【0039】
各ゴムマウント14の上下中心軸回りの向きは、弾性主軸の位置や、前後方向と左右方向のばね比等を考慮して適宜に設定される。本実施形態では、
図3に示すように、ゴムマウント14におけるプレート部材20の長辺方向が前後方向と左右方向の何れに対しても傾斜する向きでゴムマウント14が配されているが、
図1,
図2では、見易さのために、ゴムマウント14の向きがプレート部材20の短辺方向視と長辺方向視で示されている。
【0040】
ゴムマウント14におけるプレート部材20の長辺方向の両端部分が傾斜部23とされていることにより、4つのゴムマウント14,14,14,14で構成される支持ばね系の水平方向に延びる弾性主軸の上下位置が、ゴムマウント14の向きを調節することによって変更設定可能とされている。具体的には、例えば、1つの水平方向に延びる弾性主軸の上下位置は、ゴムマウント14の長辺方向が当該水平方向に近づくほど上方に位置し、ゴムマウント14の短辺方向が当該水平方向に近づくほど下方に位置するように変化する。従って、各ゴムマウント14の向きを適宜に調節することによって、水平方向に延びる弾性主軸の上下位置を調節することができる。
【0041】
マス部材12がゴムマウント14,14,14,14で支持された副振動系において、マス部材12を構成する主マス16の重心g1と追加マス18の重心g2は、
図1,
図2に示すように、何れもゴムマウント14,14,14,14で構成された支持ばね系の鉛直上下方向に延びる弾性主軸Z上に位置している。従って、マス部材12の重心Gも弾性主軸Z上に位置している。
【0042】
そして、交通振動や風圧等の建築構造物への作用外力が振動として制振装置10に入力されると、マス部材12がベース部材30ひいては建築構造物に対して相対的に変位することで、振動エネルギーが低減されて、振動の抑制効果(制振効果)が発揮される。制振効果は、マス部材12の水平方向への変位である並進によって効率的に発揮される。制振装置10は、マス部材12とゴムマウント14,14,14,14とによって構成されるマス-バネ系の共振周波数が、問題となる振動の周波数にチューニングされており、当該振動の入力時にマス部材12の並進が共振状態で積極的に生じて、振動エネルギーが効率的に低減される。
【0043】
制振装置10のマス部材12は、主マス16だけでなく、主マス16に取り付けられた追加マス18を含んで構成されている。追加マス18は、主マス16の下面に取り付けられており、主マス16の長辺方向におけるゴムマウント14,14間のスペースを有効に利用して配されていることから、追加マス18によるマス部材12の質量の増加が、制振装置10の大型化を要することなく実現可能とされている。それ故、配設スペースが制限される建築構造物用の制振装置10において、制振効果をより大きく得ることができる。従って、特にホテルや集合住宅のような比較的に大型の建築構造物において、少ない設置基数で目的とする制振性能を実現することができて、設置作業の簡単化や設置工期の短縮などが図られる。
【0044】
制振装置10は、
図4に示すように、マス部材12の重心位置Gが、4つのゴムマウント14が構成する支持ばね系において水平方向に延びる弾性主軸の上限位置Uと、ゴムマウント14単体において水平方向に延びる弾性主軸の下限位置Eとの間に設定されている。これにより、マス部材12のローリングを抑えつつ、マス部材12の水平方向の並進運動による制振作用を有効に得ることができる。
【0045】
すなわち、
図4に示す制振装置10のベース部材30への装着状態において、主マス16の横方向の振動モードは、下心ローリングaの共振モードと上心ローリングbの共振モードとを持つと考えられる。ここで、支持ばね系の横方向の弾性主軸の上下位置を上げると共にマス部材12の重心Gの上下位置を下げることで、マス部材12のローリングの振幅を抑えることができる。好適には、支持ばね系の横方向の弾性主軸と重心Gとの上下位置を一致させることによって、最適な並進モードになる。
【0046】
もっとも、ゴムマウント14がプレート部材20の傾斜部23によって異方性を有することから、支持ばね系の弾性主軸の上下位置はゴムマウント14の向きによって変化する。そこで、マス部材12の重心Gは、支持ばね系で最も上方に位置する弾性主軸Uを基準として、上限位置の弾性主軸Uよりも下方に設定されている。これにより、マス部材12の重心Gを支持ばね系の水平方向に延びる弾性主軸に近づけて、マス-バネ系における並進モードの共振倍率を確保し、且つ、下心ローリングaで且つローリング中心がマス部材12の重心Gから大きく離れることに起因するマス部材12の過大な振れを、各ゴムマウント14の大型化による上下ばねの増大設定等を回避しつつ、抑えることができる。
【0047】
マス重心Gの上下位置を過度に下方に設定すると、上心ローリングbによる振幅乃至は制振効果のロスが大きくなる。しかしながら、上心ローリングbにおけるマス部材12の重心Gに対するローリング中心の離隔距離は、主マス16を支持ばね系に載置してマス部材12を下方からゴムマウント14で支持する振動モデルにおいて、下心ローリングaにおける重心Gに対するローリング中心の離隔距離に比して小さい。また、下心ローリングaではマス部材12の振幅が最大になるマス部材12の上端が自由端とされるのに比して、上心ローリングbではマス部材12の振幅が最大になるマス部材12の下端がゴムマウント14で支持されることから、ゴムマウント14による振幅抑制も効き易い。
【0048】
それ故、マス部材12の重心Gの下限位置の設定は、支持ばね系で最も低い位置の弾性主軸の高さ位置Lよりも更に下方とされ得て、これによりチューニング幅の増大やチューニング容易化が図られ得る。
【0049】
もっとも、マス部材12の重心Gが過度に下方に位置すると、各ゴムマウント14への入力についてゴム弾性体22に対する圧縮/引張よりも剪断が支配的になる。それに起因して、マス部材12の振幅の増大が問題になったり、ゴムマウント14のばねの増大が必要になったりするおそれがある。かかる観点から、マス部材12の重心Gの設定下限位置は、ゴムマウント14単体の弾性中心(上下弾性主軸と水平弾性主軸との交点)の下限位置Eとされ得る。なお、ゴムマウント14単体の弾性中心の下限位置Eは、ゴムマウント14単体の水平方向に延びる弾性主軸の下限位置と一致することから、マス部材12の重心Gの設定下限位置は、ゴムマウント14単体の水平方向に延びる弾性主軸の下限位置Eであるとも言える。
【0050】
上述の如き技術的理由からも判るように、マス部材12の重心Gの位置を、支持ばね系の水平方向に延びる弾性主軸の上限位置Uと、ゴムマウント14単体の水平方向に延びる弾性主軸の下限位置Eとの間に設定された制振装置10では、制振装置10における並進モード以外のマス部材12の振動を効果的に抑えて、そのような他モードのマス振動に起因する制振効果のロスを低減することができる。その結果、追加マス18によるマス部材12の質量調節の容易化ひいては共振周波数(制振周波数)の調節の容易化に加えて、チューニングされた周波数域における制振効果の更なる向上が図られ得る。
【0051】
また、主マス16の短辺方向におけるゴムマウント14,14間の距離D1が、主マス16の長辺方向におけるゴムマウント14,14間の距離D2に対して、0.15~0.45倍の範囲内とされている。これにより、ゴムマウント14による主マス16の支持位置が、主マス16の短辺方向に延びるローリング軸及び主マス16の長辺方向に延びるローリング軸に対して、十分に離れた位置に設定されており、マス部材12のローリングを抑えることができる。
【0052】
また、ゴムマウント14の上下方向のばね定数が、水平方向のばね定数よりも大きくされており、水平方向のばね定数に対して3~40倍の範囲内に設定されている。これにより、マス部材12のローリングが比較的に硬く設定されたゴムマウント14の上下方向のばねによって抑制されると共に、マス部材12の水平方向への並進モードの共振倍率が、比較的に柔らかく設定されたゴムマウント14の水平方向のばねによって大きく確保される。
【0053】
なお、前記実施形態では、
図4において主マス16の長辺方向に延びるマス部材12の長軸回りでのローリング抑制について説明したが、主マス16の短辺方向に延びるマス部材12の短軸回りでのローリング抑制にも本発明を適用可能である。即ち、
図1の如きマス部材12の短軸方向視において、マス部材12の重心Gを、支持ばね系の弾性主軸の上限位置(U)とゴムマウント14単体の弾性主軸の下限位置Eとの上下間に設定することで、マス部材12の短軸回りのローリングを抑制することができる。それ故、例えば制振装置10においてマス部材12の長軸方向の振動に対する制振チューニングがされている場合に、追加マス18の付加に起因するローリング変位の増大が抑えられて、マス部材12の振動態様が並進運動として発生しやすくされることで目的とする制振効果を安定して且つ効率的に得ることが可能になる。かかる態様においても、マス長軸回りのローリングは、マス短軸方向でのゴムマウント間の距離やゴムマウントの鉛直方向と水平方向のばね比が特定範囲に設定されることで抑えられて、マス長軸回りの過大なローリングに因る振動悪化等が回避され得る。
【0054】
また、本発明に係る制振装置10は、制振すべき振動の入力方向を限定的に解釈されるものでなく、任意の水平方向に入力される振動に対して制振効果が発揮されるようにチューニングすることが可能である。更に、制振装置10にチューニングされた制振すべき振動の入力方向と、マス部材12の上下方向における重心位置Gの設定によるローリング抑制効果の発揮される振動方向とは、必ずしも一致させる必要がない。例えば、マス部材12の長軸方向を制振すべき主たる振動の入力方向とする一方、マス部材12の上下方向における重心位置の設定によるローリング抑制効果の発揮される方向を(前記実施形態のように)マス部材12の短軸方向として長軸回りの過度なローリングによる振動状態の悪化を抑制することも可能であるし、また、マス部材12の上下方向における重心位置Gの設定によるローリング抑制効果の発揮される方向を、主たる振動の入力方向となるマス部材12の長軸方向に合わせることで、制振方向であるマス部材12の長軸方向の振動に際してのローリングを抑えて制振効率の向上などを図ることも可能であり、更にまた、マス部材12の長軸方向と短軸方向との何れの方向でも制振効果が発揮されるように2方向チューニングするに際して、マス部材12の上下方向における重心位置Gの設定によるローリング抑制効果の発揮される方向を、マス部材12の長軸方向と短軸方向の少なくとも一方の方向に設定するようにしてもよい。
【0055】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ゴムマウントは、前記実施形態のような複数のプレート部材20とゴム弾性体22による積層構造に限定されず、例えば、上下の取付部材24,26を1つのゴム弾性体で弾性連結した単層構造であってもよい。また、プレート部材20は、傾斜部23を備えていなくてもよく、例えば平板形状とすることもできる。また、ゴムマウント14は、例えば全体として円柱状等であってもよく、必ずしも全体として四角柱状とされた前記実施形態の形状には限定されない。
【0056】
前記実施形態のゴムマウント14は、プレート部材20の長辺方向の両端部分がそれぞれ傾斜部23とされていることにより、ゴムマウント14の周方向の向きを調節することによって、支持ばね系の水平方向に延びる弾性主軸の上下位置を変更することが可能とされていたが、必ずしも支持ばね系の水平弾性主軸の上下位置を調節可能な構造に限定されない。従って、支持ばね系における水平方向に延びる弾性主軸は、上限位置と下限位置が同じであってもよい。同様に、ゴムマウント14単体の水平方向に延びる弾性主軸は、上限位置と下限位置とが同じであってもよい。また、ゴムマウント14の上下方向に延びる弾性主軸の傾斜角度や傾斜方向を変更可能とすること等によって、支持ばね系の水平方向に延びる弾性主軸の上下位置を変更設定可能とすることもできる。
【符号の説明】
【0057】
10 制振装置(第一の実施形態)
12 マス部材
14 ゴムマウント
16 主マス
18 追加マス
20 プレート部材
22 ゴム弾性体
23 傾斜部
24 第一取付部材
26 第二取付部材
28 ブラケット
30 ベース部材
A1 主マスの短辺の長さ寸法
A2 主マスの長辺の長さ寸法
B1 主マス短辺方向での追加マスの長さ寸法
B2 主マス長辺方向での追加マスの長さ寸法
D1 主マス短辺方向でのゴムマウント間の距離
D2 主マス長辺方向でのゴムマウント間の距離
D3 主マス長辺方向でのゴムマウント最内端間の距離
h 追加マスの上下厚さ寸法
H ゴムマウントの上下高さ寸法
g1 主マスの重心
g2 追加マスの重心
G マス部材の重心
Z 支持ばね系の上下方向に延びる弾性主軸
U 支持ばね系の水平方向に延びる弾性主軸の上限位置
L 支持ばね系の水平方向に延びる弾性主軸の下限位置
E ゴムマウント単体の水平方向に延びる弾性主軸の下限位置
a 下心ローリング
b 上心ローリング