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特開2023-174377非水電解質蓄電素子及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174377
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20231130BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231130BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20231130BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231130BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231130BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20231130BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/131
H01M4/505
H01M10/44 A
H01M10/48 P
H01G11/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087204
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】大谷 眞也
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA02
5E078AA05
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA13
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA47
5E078BA52
5E078BA53
5E078BA55
5E078BA59
5E078BA60
5E078BB24
5E078BB40
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA07
5E078CA08
5E078CA09
5E078CA14
5E078DA04
5E078DA06
5E078DA12
5E078FA02
5E078FA04
5E078FA06
5E078FA12
5E078FA13
5E078HA03
5E078HA04
5E078HA05
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029HJ02
5H029HJ18
5H030AA10
5H030BB01
5H030FF43
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050HA02
5H050HA18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】充放電サイクル後の放電容量が大きい非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の使用方法を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極を備え、通常使用時の上記正極の充電上限電位が4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満であり、0.2Cの電流で上記正極の充電上限電位まで定電流充電したときの正極電位V及び充電電気量Qの変化に基づいた、横軸をV、縦軸をdQ/dVとするdQ/dV曲線が、4.10V vs.Li/Liから上記充電上限電位までの範囲において極大値を有し、上記dQ/dV曲線における上記極大値と上記極大値に対応する正極電位より高い正極電位範囲における最小値との差が、200mAh/(g・V)以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極を備え、
通常使用時の上記正極の充電上限電位が4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満であり、
0.2Cの電流で上記正極の充電上限電位まで定電流充電したときの正極電位V及び充電電気量Qの変化に基づいた、横軸をV、縦軸をdQ/dVとするdQ/dV曲線が、4.10V vs.Li/Liから上記充電上限電位までの範囲において極大値を有し、
上記dQ/dV曲線における上記極大値と上記極大値に対応する正極電位より高い正極電位範囲における最小値との差が、200mAh/(g・V)以上である非水電解質蓄電素子。
【請求項2】
上記リチウム遷移金属複合酸化物が、ニッケル元素を含み、
上記リチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム元素以外の金属元素に対する上記ニッケル元素の含有割合が70モル%以上である請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
上記リチウム遷移金属複合酸化物が、コバルト元素及びマンガン元素をさらに含み、
上記マンガン元素に対する上記コバルト元素の含有量がモル比で1以上である請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の非水電解質蓄電素子に対し、正極電位が4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満の範囲に至るまで充電を行うことを備える非水電解質蓄電素子の使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間で電荷輸送イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子用の正極活物質としては、リチウムニッケル複合酸化物等のα-NaFeO型の結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、リン酸鉄リチウム等のポリアニオン化合物等が用いられている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-107827号公報
【特許文献2】特開2007-213961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解質蓄電素子は、充放電を繰り返しても放電容量が大きいことが望ましい。充放電サイクル後の放電容量を大きくするためには、用いる正極及び負極の活物質の種類等を変更することも考えられる。しかし、他の性能への影響等を考慮すると、活物質を変更することなく非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の放電容量を大きくできることが期待される。
【0006】
本発明は上述の事情に基づいてなされたものであり、その目的は、充放電サイクル後の放電容量が大きい非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極を備え、通常使用時の上記正極の充電上限電位が4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満であり、0.2Cの電流で上記正極の充電上限電位まで定電流充電したときの正極電位V及び充電電気量Qの変化に基づいた、横軸をV、縦軸をdQ/dVとするdQ/dV曲線が、4.10V vs.Li/Liから上記充電上限電位までの範囲において極大値を有し、上記dQ/dV曲線における上記極大値と上記極大値に対応する正極電位より高い正極電位範囲における最小値との差が、200mAh/(g・V)以上である。
【0008】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子の使用方法は、本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子に対し、正極電位が4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満の範囲に至るまで充電を行うことを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、充放電サイクル後の放電容量が大きい非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
図2図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
図3図3は、比較例6の2極式セルにおけるdQ/dV曲線である。
図4図4は、実施例3の2極式セルにおけるdQ/dV曲線である。
図5図5は、比較例7の2極式セルにおけるdQ/dV曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
初めに、本明細書によって開示される非水電解質蓄電素子及び非水電解質蓄電素子の使用方法の概要について説明する。
【0012】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極を備え、通常使用時の上記正極の充電上限電位が4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満であり、0.2Cの電流で上記正極の充電上限電位まで定電流充電したときの正極電位V及び充電電気量Qの変化に基づいた、横軸をV、縦軸をdQ/dVとするdQ/dV曲線が、4.10V vs.Li/Liから上記充電上限電位までの範囲において極大値を有し、上記dQ/dV曲線における上記極大値と上記極大値に対応する正極電位より高い正極電位範囲における最小値との差が、200mAh/(g・V)以上である。
【0013】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、充放電サイクル後の放電容量が大きい。なお、本発明において放電容量が大きいとは、正極の充電上限電位以外は同一の非水電解質蓄電素子間で比較した場合に放電容量が大きいことをいう。すなわち、本発明の一側面においては、所定の活物質等が用いられた非水電解質蓄電素子において、適切な正極の充電上限電位を定めることにより、その非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の放電容量を大きくすることができる。
【0014】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子が上記効果を奏する理由は定かではないが、以下のような理由が推測される。リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極の充電上限電位が高すぎる場合、充放電に伴う正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子割れが生じ易くなることにより、充放電サイクル後の放電容量が低下し易い。これに対し、本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子においては、通常使用時の正極の充電上限電位が4.30V vs.Li/Li未満であるため、充放電に伴うリチウム遷移金属複合酸化物の粒子割れが抑制され、充放電サイクル後の放電容量の低下が抑えられる。また、上記のdQ/dV曲線における4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満の充電上限電位までの範囲に現れる極大値(ピーク)は、リチウム遷移金属複合酸化物の二相共存反応に起因するピークであり、この領域付近で充電を終止した場合、結晶構造変化の可逆性が低下することでクーロン効率が低下し、初期の放電容量の低下を引き起こす。一方、二相共存反応に起因するピークが出現する電位を超えて、さらに充電を続けることで、二相共存反応から均一固相反応(単一相)へと反応過程が変化し、dQ/dV値は減少する。この均一固相反応領域で充電を終止した場合、二相共存反応領域で充電を終止した場合と比較して結晶構造変化の可逆性が良化し、クーロン効率が増加することで初期の放電容量が増加する。すなわち、上記極大値と上記極大値に対応する正極電位より高い正極電位範囲における最小値との差が200mAh/(g・V)以上となるまで充電を行う場合、二相共存反応領域の結晶構造変化の可逆性の低下が抑制されるため、クーロン効率が高くなり、初期の放電容量が大きくなる。このように、本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子においては、通常使用時の正極の充電上限電位が、上記ピークが出現する電位を超え、初期の放電容量が大きくなり、且つ充放電サイクル後の放電容量の低下が生じ難い範囲内に調整されているため、充放電サイクル後の放電容量が大きいと推測される。
【0015】
ここで、「通常使用時」とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合であり、当該非水電解質蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。通常使用時の正極の充電上限電位は、通常使用時の充電終止電圧における正極の電位であってよい。
単位「C」は、非水電解質蓄電素子の定格容量を1時間で放電する電流を1Cとする電流の単位である。例えば定格容量が10Ahの非水電解質蓄電素子においては、1Cは10Aであり、0.2Cは2Aである。
【0016】
上記リチウム遷移金属複合酸化物が、ニッケル元素を含み、上記リチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム元素以外の金属元素に対する上記ニッケル元素の含有割合が70モル%以上であることが好ましい。このようなニッケル元素の含有割合が高いリチウム遷移金属複合酸化物を正極に用いることで、通常使用時の正極の充電上限電位を所定範囲とすることによる効果が十分に現れ、充放電サイクル後の放電容量が十分に大きくなる。さらに、上記リチウム遷移金属複合酸化物の二相共存反応に起因するピークの位置及び高さは、上記リチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム元素以外の金属元素に対するニッケル元素の含有割合及び正極の充電上限電位に影響を受けることから、ニッケル元素の含有割合を上記範囲とすることで、当該非水電解質蓄電素子を容易に製造できる。
【0017】
上記リチウム遷移金属複合酸化物が、コバルト元素及びマンガン元素をさらに含み、上記マンガン元素に対する上記コバルト元素の含有量がモル比で1以上であることが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物におけるマンガン元素に対するコバルト元素のモル比(Co/Mn)が大きい場合、クーロン効率が向上し初期の放電容量が大きくなる。また、通常使用時の正極の充電上限電位を所定範囲とすることによる充放電サイクル後の放電容量の改善効果も大きくなる傾向にあり、改善効果の期待できる正極の充電上限電位の範囲が拡大する。
【0018】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子の使用方法は、本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子に対し、正極電位が4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満の範囲に至るまで充電を行うことを備える。
【0019】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子の使用方法によれば、充放電サイクル後の非水電解質蓄電素子の放電容量が大きい。そのため、当該使用方法によって、非水電解質蓄電素子を大きい放電容量で繰り返し使用することができる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子、非水電解質蓄電素子の使用方法、蓄電装置、非水電解質蓄電素子の製造方法、及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0021】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含まれた状態で存在する。非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。初めに、非水電解質蓄電素子における正極の充電上限電位及びdQ/dV曲線について説明する。
【0022】
(正極の充電上限電位)
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子において、通常使用時の正極の充電上限電位は、4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満である。この正極の充電上限電位は、4.29V vs.Li/Li未満が好ましい。通常使用時の正極の充電上限電位が上記上限未満であることで、充放電に伴う正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子割れが抑制され、充放電サイクル後の放電容量の低下が抑えられる。正極の充電上限電位は、4.15V vs.Li/Li以上が好ましく、4.20V vs.Li/Li以上がより好ましく、4.21V vs.Li/Li以上、4.22V vs.Li/Li以上、4.23V vs.Li/Li以上、4.24V vs.Li/Li以上又は4.25V vs.Li/Li以上がさらに好ましい場合もある。正極の充電上限電位が上記下限以上であることで、初期の放電容量が大きくなる。正極の充電上限電位は、以下に詳述するdQ/dV曲線におけるピークが十分に現れる範囲で決定される。正極の充電上限電位は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限未満の範囲内であってよい。
【0023】
(dQ/dV曲線)
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子においては、0.2Cの電流で正極の充電上限電位まで定電流充電したときのdQ/dV曲線が、4.10V vs.Li/Liから充電上限電位までの範囲において極大値を有する。このdQ/dV曲線は、上記定電流充電したときの正極電位V(V vs.Li/Li)及び正極活物質の質量当たりの充電電気量Q(mAh/g)の変化に基づいた、横軸をV、縦軸をdQ/dVとする曲線である。後述する実施例の結果である図3から5に示されるように、dQ/dV曲線における上記極大値の位置及び大きさは充電電流の値が影響するため、0.2Cの電流で定電流充電したときの結果に基づくものとする。また、25℃において定電流充電したときの結果に基づくものとする。
【0024】
上記dQ/dV曲線における上記極大値と上記極大値に対応する正極電位より高い正極電位範囲における最小値との差の下限は、200mAh/(g・V)であり、240mAh/(g・V)又は280mAh/(g・V)が好ましい場合もある。上記差が上記下限以上の場合、クーロン効率が高まり、放電容量が大きくなる。上記差の上限は、例えば1,000mAh/(g・V)であってもよく、800mAh/(g・V)又は600mAh/(g・V)であってもよい。上記差は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下であってよい。
【0025】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0026】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10-2Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0027】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0028】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0029】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0030】
正極は、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む。リチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn、LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。正極は、リチウム遷移金属複合酸化物以外の他の正極活物質を含んでいてもよい。他の正極活物質としては、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、ニッケル元素を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。このリチウム遷移金属複合酸化物は、層状のα-NaFeO型結晶構造を有することが好ましい。
【0032】
リチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム元素以外の金属元素に対するニッケル元素の含有割合は、例えば50モル%以上であってもよいが、70モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。一方、このニッケル元素の含有割合は、100モル%であってもよいが、95モル%が好ましく、90モル%がより好ましく、85モル%がさらに好ましい。ニッケル元素の含有割合が上記範囲内である場合、通常使用時の正極の充電上限電位を所定範囲とすることによる効果が十分に現れ、充放電サイクル後の放電容量が大きくなる。さらに、上記リチウム遷移金属複合酸化物の二相共存反応に起因するピークの位置及び高さは、上記リチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム元素以外の金属元素に対するニッケル元素の含有割合及び正極の充電上限電位に影響を受けることから、ニッケル元素の含有割合を上記範囲とすることで、当該非水電解質蓄電素子を容易に製造できる。このニッケル元素の含有割合は、上記したいずれかの下限以上及び上記したいずれかの上限以下とすることができる。
【0033】
リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属元素として、ニッケル元素に加えて、コバルト元素及びマンガン元素の少なくとも一方を含むことが好ましく、コバルト元素及びマンガン元素の双方を含むことがより好ましい。マンガン元素に対するコバルト元素の含有量のモル比(Co/Mn)の下限は、例えば0.5であってもよいが、1.0が好ましく、1.2がより好ましく、1.5がさらに好ましく、2.0がよりさらに好ましい。上記モル比(Co/Mn)が上記下限以上である場合、クーロン効率が向上し、また、通常使用時の正極の充電上限電位を所定範囲とすることによる充放電サイクル後の放電容量の改善効果も大きくなる傾向にあり、改善効果の期待できる正極の充電上限電位の範囲が拡大する。上記モル比(Co/Mn)の上限は、例えば100であってもよく、10であってもよく、5であってもよい。上記モル比(Co/Mn)は、上記したいずれかの下限以上かつ上記したいずれかの上限以下の範囲内であってもよい。
【0034】
リチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム元素以外の金属元素に対するコバルト元素の含有割合は、2.5モル%以上30モル%以下が好ましく、5モル%以上20モル%以下がより好ましく、5モル%以上15モル%以下がさらに好ましく、7モル%以上15モル%以下がよりさらに好ましい場合もある。
【0035】
リチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム元素以外の金属元素に対するマンガン元素の含有割合は、1モル%以上20モル%以下が好ましく、1モル%以上15モル%以下がより好ましく、2.5モル%以上15モル%以下がさらに好ましい。このマンガン元素の含有割合は、8モル%以下又は6モル%以下がよりさらに好ましい場合もある。
【0036】
リチウム遷移金属複合酸化物は、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素以外のその他の遷移金属元素及び典型金属元素(例えばアルミニウム元素等)をさらに含んでいてもよい。但し、リチウム遷移金属複合酸化物における遷移金属元素に対するニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素の合計含有量は、90モル%以上が好ましく、98モル%以上がより好ましく、100モル%であってもよい。また、リチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム元素を除く金属元素に対するニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素の合計含有量は、90モル%以上が好ましく、98モル%以上がより好ましく、100モル%であってもよい。
【0037】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、下記式1で表される化合物であってもよい。
【0038】
Li1+αMe1-α ・・・1
式1中、MeはNiを含む、リチウム元素以外の金属元素である。0≦α<1である。
【0039】
式1中のαは、0以上0.5以下であってもよく、0以上0.3以下であってもよく、0以上0.1以下であってもよい。Meは、Niの他、Co及びMnの少なくとも一方を含むことが好ましく、Co及びMnの双方を含むことがより好ましい。Meに対するNi、Co、Mn等のそれぞれの含有割合(組成比)は、上記したリチウム遷移金属複合酸化物における各元素の好適な含有割合の値を採用することができる。Meは、Ni、Co及びMn以外の金属元素をさらに含んでいてもよい。
【0040】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の組成比は、充放電前又は次の方法により完全放電状態としたときの組成比をいう。まず、非水電解質蓄電素子を、0.05Cの電流で通常使用時の充電終止電圧となるまで定電流充電し、満充電状態とする。30分の休止後、0.05Cの電流で通常使用時の下限電圧まで定電流放電する。解体し、正極を取り出し、金属リチウム電極を対極とした試験電池を組み立て、正極活物質1gあたり10mAの電流値で、正極電位が2.0V vs.Li/Liとなるまで定電流放電を行い、正極を完全放電状態に調整する。再解体し、正極を取り出す。ジメチルカーボネートを用いて、取り出した正極に付着した非水電解質を十分に洗浄し、室温にて一昼夜乾燥後、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物を採取する。採取したリチウム遷移金属複合酸化物を測定に供する。非水電解質蓄電素子の解体からリチウム遷移金属複合酸化物の採取までの作業は露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。
【0041】
リチウム遷移金属複合酸化物は、表面が他の材料で被覆されていてもよい。表面を被覆する他の材料としては、アルミニウム元素、タングステン元素、ホウ素元素等を含む化合物が挙げられる。
【0042】
正極活物質層における、リチウム遷移金属複合酸化物の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上97質量%以下がさらに好ましく、85質量%以上又は90質量%以上が特に好ましい場合もある。また、正極活物質層に含まれる全ての正極活物質に対するリチウム遷移金属複合酸化物の含有量は、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましい。このように、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を主に用いることで、通常使用時の正極の充電上限電位を所定範囲とすることによる効果が十分に現れ、充放電サイクル後の放電容量が大きくなる。
【0043】
正極活物質層における全ての正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上97質量%以下がさらに好ましく、85質量%以上又は90質量%以上が特に好ましい場合もある。全ての正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0044】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0045】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0046】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0047】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましく、7質量%以下又は5質量%以下がさらに好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0048】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0049】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上9質量%以下がより好ましく、7質量%以下又は5質量%以下がさらに好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質を安定して保持することができる。
【0050】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0051】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0052】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0053】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0054】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0055】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0056】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0057】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0058】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0060】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0061】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた半電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0062】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0063】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0064】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上10μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び分級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質層は、箔状であってもよい。
【0065】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0066】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0067】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0068】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0069】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0070】
(非水電解質)
非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0071】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0072】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0073】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0074】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0075】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0076】
リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0077】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm以上2.5mol/dm以下であると好ましく、0.3mol/dm以上2.0mol/dm以下であるとより好ましく、0.5mol/dm以上1.7mol/dm以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm以上1.5mol/dm以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0078】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0079】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0080】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0081】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0082】
硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の場合、例えば、LiS-P、LiI-LiS-P、Li10Ge-P12等が挙げられる。
【0083】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0084】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0085】
<非水電解質蓄電素子の使用方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の使用方法は、当該非水電解質蓄電素子に対し、正極電位が4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満の範囲に至るまで充電を行うことを備える。
【0086】
当該使用方法に用いられる非水電解質蓄電素子の具体的形態及び好適形態は、上記した本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の具体的形態及び好適形態と同様である。また、当該使用方法における充電を行う際の正極電位の好適範囲は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子における通常使用時の正極の充電上限電位の好適範囲と同様である。当該使用方法は、正極電位が4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満の範囲に至るまで充電を行うこと以外は従来公知の非水電解質蓄電素子の使用方法と同様である。当該使用方法は、放電を行うことをさらに備えていてもよい。この放電は、従来公知の方法及び条件で行うことができる。当該使用方法によれば、充放電サイクル後の非水電解質蓄電素子の放電容量が大きい。そのため、当該使用方法によれば、非水電解質蓄電素子を大きい放電容量で繰り返し使用することができる。
【0087】
<蓄電装置>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子1を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0088】
図2に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の非水電解質蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0089】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本実施形態の非水電解質蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、非水電解質を準備することと、電極体及び非水電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0090】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0091】
<非水電解質蓄電素子の正極の充電上限電位の決定方法>
非水電解質蓄電素子の正極の充電上限電位を決定する方法も本発明の一実施形態に含まれる。当該決定方法は、4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満の範囲で、通常使用時の正極の充電上限電位を決定する方法であって、0.2Cの電流で所定の正極電位αまで定電流充電したときの正極電位V及び充電電気量Qの変化に基づいた、横軸をV、縦軸をdQ/dVとするdQ/dV曲線が、4.10V vs.Li/Liから上記正極電位αまでの範囲において極大値を有し、且つ上記dQ/dV曲線における上記極大値と上記極大値に対応する正極電位より高い正極電位範囲における最小値との差が、200mAh/(g・V)以上となるような上記正極電位αを通常使用時の正極の充電上限電位として決定することを備える。
なお、上記正極電位αは、4.10V vs.Li/Li以上4.30V vs.Li/Li未満である。
【0092】
当該決定方法によって正極の充電上限電位が定められた非水電解質蓄電素子は、充放電サイクル後の放電容量が大きいため、大きい放電容量で繰り返し使用することができる。当該決定方法に用いられる非水電解質蓄電素子の具体的形態及び好適形態は、上記した本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の具体的形態及び好適形態と同様である。
【0093】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0094】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0095】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【実施例0096】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質であるLiNi0.801Co0.100Mn0.099、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び分散媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を用いて正極合剤ペーストを調製した。なお、正極活物質、AB及びPVDFの質量比率は94.5:4.0:1.5(固形分換算)とした。正極基材としてのアルミニウム箔の両面に正極合剤ペーストを塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、正極を得た。
【0098】
(負極の作製)
負極活物質である黒鉛、バインダであるスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)、及び分散媒である水を用いて負極合剤ペーストを調製した。なお、黒鉛、SBR及びCMCの質量比率は97.8:1.0:1.2(固形分換算)とした。負極基材としての銅箔の両面に負極合剤ペーストを塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、負極を得た。
【0099】
(非水電解液)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを30:70の体積比率で混合した溶媒に、1.2mol/dmの濃度でLiPFを溶解させ、非水電解液を得た。
【0100】
(2極式セルの作製)
上記正極を作用極及び金属リチウムを対極とし、上記非水電解液を用いた2極式セルを作製した。なお、この2極式セルを用い、後述するdQ/dV曲線を取得した。
【0101】
(3極式セルの作製)
上記正極を作用極、上記負極を対極及び金属リチウムを参照極とし、上記非水電解液を用いた3極式セルを非水電解質蓄電素子として作製した。
【0102】
[実施例2から9、比較例1から9]
表1に記載の正極活物質を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2から9及び比較例1から9の各2極式セル及び3極式セルを作製した。なお、正極の充電上限電位が異なる実施例及び比較例があることから、2極式セル及び3極式セルの構成としては同じものを複数作製した。
【0103】
(dQ/dV曲線及びクーロン効率)
実施例及び比較例の各2極式セルに対し、以下の条件にて初期充放電を行った。25℃の恒温槽内において、充電電流0.2Cで正極電位が表1に記載の充電上限電位に至るまで定電流充電した後、続けて定電圧充電した。充電の終了条件は、電流が0.01Cに減衰した時点とした。その後、10分間の休止期間を設けた。放電電流0.2C、放電終止正極電位2.85V vs.Li/Liとして定電流放電した。上記充放電を2回繰り返した。なお、対極である金属リチウム極の電位は、リチウムの酸化還元電位とほぼ等しいとみなすことができるため、上記2極式セルにおける電圧を、リチウムの酸化還元電位に対する正極電位とみなす。また、このとき1サイクル目の充電容量に対する放電容量の比からクーロン効率を算出した。結果を表1に示す。
次いで、各2極式セルについて、25℃の恒温槽内において、充電電流0.2Cで正極電位が表1に記載の充電上限電位に至るまで定電流充電し、dQ/dV曲線を取得した。得られたdQ/dV曲線における4.10V vs.Li/Liから上記充電上限電位までの範囲の極大値(ピーク)の有無、及び上記極大値と上記極大値に対応する正極電位より高い正極電位範囲における最小値との差(dQ/dV変位)を表1に示す。
また、比較例6の2極式セルのdQ/dV曲線を図3、実施例3の2極式セルのdQ/dV曲線を図4、及び比較例7の2極式セルのdQ/dV曲線を図5にそれぞれ示す。これらの比較例及び実施例においては、別途、充電電流を0.5C又は0.05Cとして定電流充電を行った。この場合のdQ/dV曲線も図3から5にそれぞれ示す。ピークの有無及びその位置は、電流の値に大きく依存することがわかる。
なお、2極式セルにおける表1に記載の正極の充電上限電位(作用極である正極と、対極である金属リチウムとの電位差)は、表1に記載の同じ正極を用いて作製した上記3極式セルにおいて、後述する初期充放電の後に充電電流0.2Cで表1に記載の充電上限電圧まで定電流充電したときの正極電位(作用極である正極と、参照極である金属リチウムとの電位差)と概ね等しいことを確認した。例えば、比較例4において、3極式セルにて後述する初期充放電の後に充電電流0.2Cで充電上限電圧である4.250Vまで定電流充電した時の正極電位(正極と参照極の電位差)は概ね4.336V vs.Li/Liとなることを確認した。すなわち本実施例において2極式セルを用いて得られたdQ/dV曲線は、対応する3極式セルに対して同じ充電電流0.2Cで定電流充電をした正極と参照極から得られるdQ/dV曲線と概ね等しいものであるといえる。
【0104】
(充放電サイクル試験)
実施例2、3、5、7、9及び比較例1、3、4、7、9の各3極式セルに対し、以下の条件にて初期充放電を行った。25℃の恒温槽内において、充電電流1.0Cで表1に記載の充電上限電圧に至るまで定電流充電した後、続けて定電圧充電した。充電の終了条件は、電流が0.01Cに減衰した時点とした。その後、10分間の休止期間を設けた。放電電流1.0C、放電終止電圧2.75Vとして定電流放電した。その後、10分間の休止期間を設けた。上記充放電を2回繰り返した。
次いで、各3極式セルについて、45℃の恒温槽内において、以下の充放電サイクル試験を行った。充電電流1.0Cで、表1に記載の充電上限電圧に至るまで定電流充電した後、定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流が0.01Cに減衰した時点とした。その後、放電電流1.0Cで放電終止電圧2.75Vまで定電流放電を行った。充電後及び放電後にはそれぞれ10分間の休止期間を設けた。この充電及び放電を1サイクルとして、1000サイクル実施した。
充放電サイクル試験後の各3極式セルについて、25℃にて、上記初期充放電と同じ条件を用いて充放電を1回行い、放電容量を測定した。充放電サイクル試験後の放電容量について、正極活物質が同じであり、充電上限電圧が4.25Vである3極式セルの値を基準(100%)とした放電容量比(相対値)として求めた。結果を表1に示す。なお、正極活物質の種類により放電容量は異なるため、同じ正極活物質が用いられているもの同士で比較して充放電サイクル試験後の放電容量が大きいものが、課題が解決できていると判断した。
【0105】
【表1】
【0106】
表1に示されるように、充電上限電位が4.30V vs.Li/Li未満であり、dQ/dV曲線におけるdQ/dVの極大値と上記極大値に対応する正極電位より高い正極電位範囲における最小値との差が200mAh/(g・V)以上のピークが現れている場合、充放電サイクル後の放電容量が大きくなることが確認できた。なお、比較例8、9及び実施例6、7、9の比較などから、dQ/dV曲線においてピークが現れ、このピークとこのピークに対応する正極電位より高い正極電位範囲における最小値との差が大きくなるにつれて、クーロン効率が高まっていることがわかる。また、正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物におけるマンガン元素に対するコバルト元素のモル比(Co/Mn)が高いほど、クーロン効率が高まる傾向にあることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される非水電解質蓄電素子等に適用できる。
【符号の説明】
【0108】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
41 正極リード
5 負極端子
51 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5