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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174386
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20231130BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20231130BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20231130BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/05
C08L71/02
C08K5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087218
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】楠本 信彦
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CG011
4J002DA087
4J002DA107
4J002DA117
4J002EC036
4J002EE047
4J002FD206
4J002FD207
4J002GC00
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 300mm長光路成形品について測定されるYI値としての数値が低く、短波長領域での光線透過率が高い樹脂組成物、および、成形品の提供。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、色相改良剤0.1~2.0質量部と、非芳香族有機金属錯体0.0003~0.8質量ppmとを含む樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、
色相改良剤0.1~2.0質量部と、
非芳香族有機金属錯体0.0003~0.8質量ppmと
を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記色相改良剤が、式(1)で表される化合物を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Xは、アルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。nは0~4の整数を表し、nが2以上の場合、n個のXは同一であってもよく異なるものであってもよい。kは1または2である。)
【請求項3】
前記色相改良剤が、ベンジルアルコールおよび/またはビフェニルメタノールを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記色相改良剤が、ポリアルキレングリコール化合物を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記非芳香族有機金属錯体が、アセチルアセトン金属錯体を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記非芳香族有機金属錯体が、鉄錯体、クロム錯体、コバルト錯体および亜鉛錯体の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記色相改良剤が、式(1)で表される化合物および/またはポリアルキレングリコール化合物を含み、
前記非芳香族有機金属錯体が、アセチルアセトン金属錯体であって、鉄錯体、クロム錯体、コバルト錯体および亜鉛錯体の少なくとも1種である錯体を含む、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】
(式(1)中、Xは、アルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。nは0~4の整数を表し、nが2以上の場合、n個のXは同一であってもよく異なるものであってもよい。kは1または2である。)
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物のペレット。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項10】
請求項8に記載のペレットから形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および成形品に関する。特に、ポリカーボネート樹脂を主要成分とする樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリカーボネート樹脂は、各種性能に優れるため、各種用途に広く用いられている。特に、ポリカーボネート樹脂の利用形態の1つとして、電力カバー、照明レンズ、照明カバー、導光部材等の透明性が求められる部材への利用が活発である。
例えば、特許文献1には、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、リン系酸化防止剤(B)、脂肪酸エステル(C)および特定の芳香族化合物(D)を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対してリン系酸化防止剤(B)を、0.01~0.1重量部、脂肪酸エステル(C)を0.01~0.5重量部、および特定の芳香族化合物(D)を0.0001重量部以上0.05重量部未満含有することを特徴とする、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-120458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、導光部材の構成材料として、ポリカーボネート樹脂を用いることが提案されているが、ポリカーボネート樹脂は、成形過程で受ける熱でポリカーボネート樹脂が劣化することにより、得られる成形品は僅かながら黄色味を帯びることがある。しかし、自動車用照明装置に内蔵される導光部材用途においては、例えば、300mm長光路成形品について測定されるYI値としての数値が小さい高度な色相を有するものであり、かつ、短波長領域での光線透過率が高いことが望まれる。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、300mm長光路成形品について測定されるYI値としての数値が低く、短波長領域での光線透過率が高い樹脂組成物、および、成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂に、色相改良剤を配合すると共に、微量の非芳香族有機金属錯体を配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、色相改良剤0.1~2.0質量部と、非芳香族有機金属錯体0.0003~0.8質量ppmとを含む樹脂組成物。
<2>前記色相改良剤が、式(1)で表される化合物を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Xは、アルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。nは0~4の整数を表し、nが2以上の場合、n個のXは同一であってもよく異なるものであってもよい。kは1または2である。)
<3>前記色相改良剤が、ベンジルアルコールおよび/またはビフェニルメタノールを含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<4>前記色相改良剤が、ポリアルキレングリコール化合物を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記非芳香族有機金属錯体が、アセチルアセトン金属錯体を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記非芳香族有機金属錯体が、鉄錯体、クロム錯体、コバルト錯体および亜鉛錯体の少なくとも1種を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記色相改良剤が、式(1)で表される化合物および/またはポリアルキレングリコール化合物を含み、前記非芳香族有機金属錯体が、アセチルアセトン金属錯体であって、鉄錯体、クロム錯体、コバルト錯体および亜鉛錯体の少なくとも1種である錯体を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
【化2】
(式(1)中、Xは、アルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。nは0~4の整数を表し、nが2以上の場合、n個のXは同一であってもよく異なるものであってもよい。kは1または2である。)
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物のペレット。
<9><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<10><8>に記載のペレットから形成された成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、300mm長光路成形品について測定されるYI値としての数値が低く、短波長領域での光線透過率が高い樹脂組成物、および、成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0008】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、色相改良剤0.1~2.0質量部と、非芳香族有機金属錯体0.0003~0.8質量ppmとを含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、300mm長光路成形品について測定されるYI値としての数値が低く、短波長領域での光線透過率が高い樹脂組成物を提供可能になる。
すなわち、色相改良剤を配合することにより、色相を改良、すなわち、YI値を低くすることができる。かかる色相改良剤を配合した樹脂組成物において、波長460~600nmの領域における光線透過率を向上させるために、離型剤や酸化防止剤を増量することも考えらえるが、それらの添加剤の存在により、逆に色相が悪化してしまう場合がある。本実施形態においては、ごく微量の非芳香族有機金属錯体を用いることにより、色相改良剤の性能を阻害せずに、光線透過率を高くすることに成功したものである。この理由としては、非芳香族有機金属錯体による効果が、ごく微量の添加で効果を奏したことによるものと推測される。
尚、本実施形態の樹脂組成物は、300mm長光路成形品について測定されるYI値が低いことが望ましいが、実際の成形品が300mm長光路成形品である必要が無いことは言うまでもない。
【0009】
<ポリカーボネート樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を含む。
ポリカーボネート樹脂は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OC(=O)]-単位(Rが、有機基、好ましくは炭化水素基、より好ましくは、脂肪族基、芳香族基、または、脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されない。本実施形態においては、ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂がより好ましい。このようなポリカーボネート樹脂を用いることにより、より優れた耐熱性と靱性が達成される。本実施形態においては、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂は、全構成単位の90モル%以上がビスフェノール骨格を有する構成単位であることが好ましく、全構成単位の90モル%以上がビスフェノールAおよび/またはビスフェノールC骨格を有する構成単位であることがより好ましく、全構成単位の90モル%以上がビスフェノールA骨格を有する構成単位であることがさらにより好ましい。
【0010】
また、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、10,000以上であることが好ましく、より好ましくは12,000以上であり、さらに好ましくは15,000以上である。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の耐久性がより向上する傾向にある。前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)の上限値は、50,000以下であることが好ましく、より好ましくは40,000以下であり、さらに好ましくは30,000以下であり、一層好ましくは25,000以下であり、より一層好ましくは20,000以下である。前記上限値以下とすることにより、成形品の成形加工性がより向上する傾向にある。
粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4×Mv0.83、から算出される値を意味する。
2種以上のポリカーボネート樹脂を用いる場合は、混合物の粘度平均分子量とする。
【0011】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整したポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0012】
上記の他、ポリカーボネート樹脂の詳細は、特開2021-084942号公報の段落0013~0041の記載、特開2021-119211号公報の段落0030~0035を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0013】
本実施形態の樹脂組成物中におけるポリカーボネート樹脂の含有量は、樹脂組成物の85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、97質量%以上であることが一層好ましく、98質量%以上であることがより一層好ましい。前記樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂の含有量の上限は、ポリカーボネート樹脂と色相改良剤と非芳香族有機金属錯体の合計が100質量%となる量である。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0014】
<色相改良剤>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、色相改良剤0.1~2.0質量部を含む。色相改良剤を含むことにより、得られる成形品のYI値を低くすることができる。
色相改良剤としては、その種類等特に定めるものではないが、芳香族アルコールおよび/またはポリアルキレングリコール化合物が好ましい。
【0015】
芳香族アルコールとしては、式(1)で表される化合物が好ましい。
【化3】
(式(1)中、Xは、アルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。nは0~4の整数を表し、nが2以上の場合、n個のXは同一であってもよく異なるものであってもよい。kは1または2である。)
【0016】
上記式(1)において、k=2でヒドロキシメチル基を2個有する場合、ヒドロキシメチル基の置換位置は、1,4-位が好ましい。
式(1)におけるkは1であることが色相の改善効果の観点から好ましく、従って、式(1)で表される芳香族アルコールは、式(1A)で表されるベンジルアルコール系化合物であることが好ましい。
【化4】
(式(1A)中、X、nは前記式(1)におけると同義である。)
【0017】
上記式(1)および(1A)において、Xは、置換基を有していてもよいアリール基が好ましく、置換基を有していてもフェニル基が好ましい。前記置換基は、アリール基またはアルキル基が好ましい。前記置換基としてのアリール基およびアルキル基は、それぞれ、Xとしてのアリール基、アルキル基として以下に記載するものが好ましい例として挙げられる。
また、Xがアルキル基であるとき、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。Xとしてのアルキル基は直鎖アルキル基であっても分岐鎖アルキル基であっても、環状アルキル基であってもよいが、好ましくは直鎖または分岐鎖の鎖状アルキル基である。
一方、Xがアリール基であるとき、フェニル基が好ましい。
式(1)および(1A)中の置換基Xの数を表すnは0~4であり、好ましくは0~3、より好ましくは0~2、特に好ましくは0(非置換)または1である。
なお、nが2以上の場合、複数の置換基Xは互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。
【0018】
Xの置換位置としては、芳香族アルコールが一つのヒドロキシメチル基を有する場合、そのヒドロキシメチル基に対してオルト位および/またはパラ位が好ましい。
【0019】
芳香族アルコールのうちベンジルアルコール系化合物の具体例としては、ベンジルアルコール(フェニルメタノール)、4-メチルフェニルメタノール、2-メチルフェニルメタノール、3-メチルフェニルメタノール、4-エチルフェニルメタノール、2-エチルフェニルメタノール、4-イソプロピルフェニルメタノール、4-tert-ブチルフェニルメタノール、ビフェニルメタノール(4-フェニルベンジルアルコール、4-フェニルフェニルメタノール)、3-フェニルフェニルメタノール、2,3-ジメチルフェニルメタノール、2,4-ジメチルフェニルメタノール、2-メチル-3-フェニルフェニルメタノール、3,5-tert-ブチルフェニルメタノール、2,4,6-トリメチルフェニルメタノール、2,3,5,6-テトラメチルフェニルメタノール等が挙げられる。また、ベンゼンジメタノール系化合物の具体例としては、1,4-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,2-ベンゼンジメタノール等が挙げられる。これらのうち、好ましくはベンジルアルコール、ビフェニルメタノール、2-メチルフェニルメタノール、4-メチルフェニルメタノール、4-tert-ブチルフェニルメタノール、1,4-ベンゼンジメタノールであり、より好ましくはベンジルアルコールおよび/またはビフェニルメタノールである。
【0020】
次に、ポリアルキレングリコール化合物について説明する。
ポリアルキレングリコール化合物としては、式(2)で表される直鎖アルキレンエーテル単位(P1)と式(2A)~(2D)で表される単位から選ばれる分岐アルキレンエーテル単位(P2)を有するポリアルキレングリコール共重合体(CP)が好ましいものとして挙げられる。
【0021】
【化5】
式(2)中、tは3~6の整数を示す。
【化6】
式(2A)~(2D)中、R31~R40は各々独立に水素原子または炭素数1~3のアルキル基を示す。それぞれの式(2A)~(2D)においてR31~R40の少なくとも1つは炭素数1~3のアルキル基である。
【0022】
式(2)で示される直鎖アルキレンエーテル単位(P1)としては、それをグリコールとして記載すると、tが3であるトリメチレングリコール、tが4であるテトラメチレングリコール、tが5のペンタメチレングリコール、tが6のヘキサメチレングリコールが挙げられる。好ましくはトリメチレングリコール、テトラメチレングリコールであり、テトラメチレングリコールが特に好ましい。
【0023】
トリメチレングリコールは、工業的にはエチレンオキシドのヒドロホルミル化により3-ヒドロキシプロピオンアルデヒドを得、これを水添する方法、またはアクロレインを水和して得た3-ヒドロキシプロピオンアルデヒドをNi触媒で水素化する方法で製造される。バイオ法により、グリセリン、グルコース、澱粉等を微生物に還元させてトリメチレングリコールを製造することも行われている。
【0024】
式(2A)で示される分岐アルキレンエーテル単位として、これをグリコールとして記載すると、(2-メチル)エチレングリコール(プロピレングリコール)、(2-エチル)エチレングリコール(ブチレングリコール)、(2,2-ジメチル)エチレングリコール(ネオペンチルグリコール)などが挙げられる。
【0025】
式(2B)で示される分岐アルキレンエーテル単位として、これをグリコールとして記載すると、(2-メチル)トリメチレングリコール、(3-メチル)トリメチレングリコール、(2-エチル)トリメチレングリコール、(3-エチル)トリエチレングリコール、(2,2-ジメチル)トリメチレングリコール、(2,2-メチルエチル)トリメチレングリコール、(2,2-ジエチル)トリメチレングリコール(すなわち、ネオペンチルグリコール)、(3,3-ジメチル)トリメチレングリコール、(3,3-メチルエチル)トリメチレングリコール、(3,3-ジエチル)トリメチレングリコールなどが挙げられる。
【0026】
式(2C)で示される分岐アルキレンエーテル単位として、これをグリコールとして記載すると、(3-メチル)テトラメチレングリコール、(4-メチル)テトラメチレングリコール、(3-エチル)テトラメチレングリコール、(4-エチル)テトラメチレングリコール、(3,3-ジメチル)テトラメチレングリコール、(3,3-メチルエチル)テトラメチレングリコール、(3,3-ジエチル)テトラメチレングリコール、(4,4-ジメチル)テトラメチレングリコール、(4,4-メチルエチル)テトラメチレングリコール、(4,4-ジエチル)テトラメチレングリコールなどが挙げられ、(3-メチル)テトラメチレングリコールが好ましい。
【0027】
式(2D)で示される分岐アルキレンエーテル単位として、これをグリコールとして記載すると、(3-メチル)ペンタメチレングリコール、(4-メチル)ペンタメチレングリコール、(5-メチル)ペンタメチレングリコール、(3-エチル)ペンタメチレングリコール、(4-エチル)ペンタメチレングリコール、(5-エチル)ペンタメチレングリコール、(3,3-ジメチル)ペンタメチレングリコール、(3,3-メチルエチル)ペンタメチレングリコール、(3,3-ジエチル)ペンタメチレングリコール、(4,4-ジメチル)ペンタメチレングリコール、(4,4-メチルエチル)ペンタメチレングリコール、(4,4-ジエチル)ペンタメチレングリコール、(5,5-ジメチル)ペンタメチレングリコール、(5,5-メチルエチル)ペンタメチレングリコール、(5,5-ジエチル)ペンタメチレングリコールなどが挙げられる。
【0028】
以上、分岐アルキレンエーテル単位(P2)を構成する式(2A)~(2D)で表される単位を、便宜的にグリコールを例として記載したが、これらグリコールに限らず、これらのアルキレンオキシドや、これらのポリエーテル形成性誘導体であってもよい。
【0029】
ポリアルキレングリコール共重合体(CP)として好ましいものを挙げると、テトラメチレンエーテル(テトラメチレングリコール)単位と式(2A)で表される単位からなる共重合体が好ましく、特にテトラメチレンエーテル(テトラメチレングリコール)単位と2-メチルエチレンエーテル(プロピレングリコール)単位および/または(2-エチル)エチレングリコール(ブチレングリコール)単位からなる共重合体が好ましい。テトラメチレンエーテル単位と2,2-ジメチルトリメチレンエーテル単位、すなわちネオペンチルグリコールエーテル単位からなる共重合体も好ましい。
【0030】
直鎖アルキレンエーテル単位(P1)と分岐アルキレンエーテル単位(P2)を有するポリアルキレングリコール共重合体(CP)を製造する方法は公知であり、上記したようなグリコール、アルキレンオキシドあるいはそのポリエーテル形成性誘導体を、通常、酸触媒を用いて重縮合させることによって製造することができる。
【0031】
ポリアルキレングリコール共重合体(CP)は、ランダム共重合体やブロック共重合体であってもよい。
【0032】
ポリアルキレングリコール共重合体(CP)の末端基はヒドロキシル基であることが好ましい。ポリアルキレングリコール共重合体(CP)は、その片末端あるいは両末端がアルキルエーテル、アリールエーテル、アラルキルエーテル、脂肪酸エステル、アリールエステルなどで封鎖されていてもその性能発現に影響はなく、エーテル化物またはエステル化物が同様に使用できる。
【0033】
アルキルエーテルを構成するアルキル基としては、直鎖状または分岐状のいずれでもよく、炭素数1~22のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基等が挙げられる。アルキルエーテルとしては、ポリアルキレングリコールのメチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテル、ラウリルエーテル、ステアリルエーテル等が好ましく例示できる。
【0034】
アリールエーテルを構成するアリール基としては、好ましくは炭素数6~22、より好ましくは炭素数6~12、さらに好ましくは炭素数6~10のアリール基が好ましく、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられ、フェニル基、トリル基等が好ましい。アラルキル基としては、好ましくは炭素数7~23、より好ましくは炭素数7~13、さらに好ましくは炭素数7~11のアラルキル基が好ましく、例えばベンジル基、フェネチル基等が挙げられ、ベンジル基が特に好ましい。
【0035】
脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、直鎖状または分岐状のいずれでもよく、飽和脂肪酸であってもよく不飽和脂肪酸であってもよい。
【0036】
脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数1~22の1価または2価の脂肪酸、例えば、1価の飽和脂肪酸、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸や、1価の不飽和脂肪酸、例えば、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸、また炭素数10以上の二価の脂肪酸、例えば、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、タプシア酸およびデセン二酸、ウンデセン二酸、ドデセン二酸が挙げられる。
【0037】
アリールエステルを構成するアリール基としては、好ましくは炭素数6~22、より好ましくは炭素数6~12、さらに好ましくは炭素数6~10のアリール基が好ましく、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられ、フェニル基、トリル基等が好ましい。末端封止する基は、アラルキル基であってもポリカーボネート樹脂と良好な相溶性を示すことから、アリール基と同様の作用を発現できる。アラルキル基としては、好ましくは炭素数7~23、より好ましくは炭素数7~13、さらに好ましくは炭素数7~11のアラルキル基が好ましく、例えばベンジル基、フェネチル基等が挙げられ、ベンジル基が特に好ましい。
【0038】
ポリアルキレングリコール共重合体(CP)としては、なかでもテトラメチレンエーテル単位と2-メチルエチレンエーテル単位からなる共重合体、テトラメチレンエーテル単位と3-メチルテトラメチレンエーテル単位からなる共重合体、テトラメチレンエーテル単位と2,2-ジメチルトリメチレンエーテル単位からなる共重合体が特に好ましい。このようなポリアルキレングリコール共重合体の市販品としては、日油社製商品名(以下同様)「ポリセリンDCB」、保土谷化学社製「PTG-L」、旭化成せんい社製「PTXG」などが挙げられる。
【0039】
テトラメチレンエーテル単位と2,2-ジメチルトリメチレンエーテル単位からなる共重合体は特開2016-125038号公報に記載の方法で製造することも可能である。
【0040】
ポリアルキレングリコール化合物としては、式(3A)で表される分岐型ポリアルキレングリコール化合物または式(3B)で表される直鎖型ポリアルキレングリコール化合物も好ましいものとして挙げられる。なお、式(3A)で表される分岐型ポリアルキレングリコール化合物または式(3B)で表される直鎖型ポリアルキレングリコール化合物は、他の共重合成分との共重合体であってもよいが、単独重合体が好ましい。
【0041】
【化7】
【0042】
式(3A)中、Rは炭素数1~3のアルキル基を示す。Q1およびQ2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~23の脂肪族アシル基、または炭素数1~23のアルキル基を示す。rは10~400の整数を示す。
【0043】
【化8】
式(3B)中、Q3およびQ4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数2~23の脂肪族アシル基または炭素数1~22のアルキル基を示す。pは2~6の整数、qは6~100の整数を示す。
【0044】
式(3A)において、整数(重合度)rは、10~400であるが、好ましくは15~200、さらに好ましくは20~100である。重合度rを1以上とすることにより、成形時のガス発生量を効果的に少なくでき、ガスによる成形不良、例えば、未充填、ガスやけ、転写不良等の発生を効果的に抑制できる。重合度rを400以下とすることにより、樹脂組成物ペレットの色相の向上効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0045】
分岐型ポリアルキレングリコール化合物としては、式(3A)中、Q1、Q2が水素原子で、Rがメチル基であるポリプロピレングリコール(ポリ(2-メチル)エチレングリコール)やエチル基であるポリブチレングリコール(ポリ(2-エチル)エチレングリコール)が好ましく、特に好ましくはポリブチレングリコール(ポリ(2-エチル)エチレングリコール)である。
【0046】
式(3B)において、q(重合度)は、6~100の整数であるが、好ましくは8~90、より好ましくは10~80である。重合度qを6以上とすることにより、成形時のガスの発生を効果的に抑制することができる。重合度qを100以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂との相溶性が向上し好ましい。
【0047】
直鎖型ポリアルキレングリコール化合物としては、式(3B)中のQ3およびQ4が水素原子で、pが2であるポリエチレングリコール、pが3であるポリトリメチレングリコール、pが4であるポリテトラメチレングリコール、pが5であるポリペンタメチレングリコール、pが6であるポリヘキサメチレングリコールが好ましく挙げられ、より好ましくはポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールあるいはそのエステル化物またはエーテル化物である。
【0048】
ポリアルキレングリコール化合物として、その片末端あるいは両末端が脂肪酸またはアルコールで封鎖されていてもその性能発現に影響はなく、脂肪酸エステル化物またはエーテル化物を同様に使用することができる。従って、式(3A)、(3B)中のQ1~Q4は炭素数1~23の脂肪族アシル基またはアルキル基であってもよい。
【0049】
脂肪酸エステル化物としては、直鎖状または分岐状脂肪酸エステルのいずれも使用できる。脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく不飽和脂肪酸であってもよい。一部の水素原子がヒドロキシル基などの置換基で置換されたものも使用できる。
【0050】
脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数1~23の1価または2価の脂肪酸、例えば、1価の飽和脂肪酸、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、1価の不飽和脂肪酸、具体的には、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸、炭素数10以上の二価の脂肪酸、具体的には、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、タプシア酸およびデセン二酸、ウンデセン二酸、ドデセン二酸が挙げられる。
【0051】
脂肪酸は1種または2種以上組み合せて使用できる。脂肪酸には、1つまたは複数のヒドロキシル基を分子内に有する脂肪酸も含まれる。
【0052】
分岐型ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、式(3A)において、Rがメチル基、Q1およびQ2が炭素数18の脂肪族アシル基であるポリプロピレングリコールステアレート、Rがメチル基、Q1およびQ2が炭素数22の脂肪族アシル基であるポリプロピレングリコールベヘネートが挙げられる。直鎖型ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、ポリアルキレングリコールモノパルミチン酸エステル、ポリアルキレングリコールジパルミチン酸エステル、ポリアルキレングリコールモノステアリン酸エステル、ポリアルキレングリコールジステアリン酸エステル、ポリアルキレングリコール(モノパルミチン酸・モノステアリン酸)エステル、ポリアルキレングリコールベヘネート等が挙げられる。
【0053】
ポリアルキレングリコールのアルキルエーテルを構成するアルキル基としては、直鎖状または分岐状のいずれでもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基等の炭素数1~23のアルキル基が挙げられる。ポリアルキレングリコール化合物としては、ポリアルキレングリコールのアルキルメチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテル、ラウリルエーテル、ステアリルエーテル等が好ましく例示できる。
【0054】
式(3A)で表される分岐型ポリアルキレングリコール化合物の市販品としては、日油社製商品名(以下同様)「ユニオールD-1000」、「ユニオールPB-1000」などが挙げられる。
【0055】
ポリアルキレングリコール共重合体(CP)、式(3A)で表される分岐型ポリアルキレングリコール化合物、式(3B)で表される直鎖型ポリアルキレングリコール化合物等のポリアルキレングリコール化合物の数平均分子量は、200~5,000が好ましく、より好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上、より好ましくは4,000以下、さらに好ましくは3,000以下、特に好ましくは2000以下、とりわけ好ましくは1000未満であり、800以下であることが最も好ましい。数平均分子量を上記上限以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂との相溶性が向上する傾向にある。数平均分子量を上記下限以下とすることにより、成形時のガスの発生を効果的に抑制できる傾向にある。ポリアルキレングリコール化合物の数平均分子量はJIS K1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0056】
本実施形態の樹脂組成物における色相改良剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上であり、0.2質量部以上であることが好ましく、0.25質量部以上であることがより好ましく、0.4質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、透過率をより向上させることができ、また、YIをより低くすることができる傾向にある。また、前記色相改良剤の含有量の上限値は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、2.0質量部以下であり、1.8質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、1.2質量部以下であることがさらに好ましく、1.0質量部以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、透過率をより向上させることができ、また、YIをより低くすることができる傾向にある。
特に、色相改良剤として、芳香族アルコールを用いる場合、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、1.0質量部以下であることが好ましい。
また、色相改良剤として、ポリアルキレングリコール化合物を用いる場合、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、1.5質量部以下であることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、色相改良剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0057】
<非芳香族有機金属錯体>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、非芳香族有機金属錯体0.0003~0.8質量ppmを含む。非芳香族有機金属錯体を微量の割合で含むことにより、得られる成形品のYIをより低く、光線透過率をより高くすることができる。
非芳香族有機金属錯体とは、芳香環(芳香族炭化水素環および芳香族複素環)を含まない有機金属錯体をいう。芳香環を含む芳香族有機金属錯体は、熱可塑性樹脂の色剤として用いられるが、このような色剤を配合すると、通常は全光線透過率が低くなる。また、YI値も高くなる場合がある。本実施形態では、非芳香族有機金属錯体をポリカーボネート樹脂に対して、ごくわずかな割合で配合することにより、YI値を低下させ、また、光線透過率を高めることに成功したものである。特に、色相改良剤等の他の添加剤を配合しても、この機能を維持できる点で効果的である。
【0058】
非芳香族有機金属錯体を構成する金属の種類は特に定めるものではない。しかしながら、本実施形態においては、鉄錯体、クロム錯体、コバルト錯体および亜鉛錯体の少なくとも1種を含むことが好ましく、鉄錯体および亜鉛錯体の少なくとも1種を含むことがより好ましく、亜鉛錯体がさらに好ましい。
【0059】
前記非芳香族有機金属錯体を構成する配位子は、非芳香族であって、金属配位子となるものであれば特に定めるものでは無いが、配位部位が酸素原子である配位子が好ましく、下記式(X)で表される配位子であることがより好ましい。
式(X)
【化9】
(式(X)中、R1~R3は、それぞれ独立に、水素原子または有機基である。*は金属との配位部位である。)
1およびR3は、それぞれ独立に、炭素数1~12の有機基であることが好ましく、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、または、炭素数2~11のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~10のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基またはエチル基であることが一層好ましく、メチル基であることがより一層好ましい。
2は、水素原子または炭素数1~12の有機基であることが好ましく、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、または、炭素数2~11のアルコキシ基であることがより好ましく、水素原子、または、炭素数1~10のアルキル基であることがさらに好ましく、水素原子、メチル基またはエチル基であることが一層好ましく、水素原子またはメチル基であることがより一層好ましく、水素原子であることがさらに一層好ましい。
【0060】
本実施形態の非芳香族有機金属錯体は、アセチルアセトン金属錯体を含むことが好ましい。以下に、アセチルアセトン金属錯体の例を示すが、本実施形態においてはこれらに限定されるものではないことはいうまでもない。
【化10】
【0061】
また、本実施形態におけるアセチルアセトン金属錯体は、単一なアセチルアセトンの金属錯体のみならず、アセチルアセトンと他の配位子とからなる混合配位子の錯体も含む趣旨である。しかしながら、本実施形態におけるアセチルアセトン金属錯体は、単一なアセチルアセトンの金属錯体であることが好ましい。
【0062】
本実施形態の樹脂組成物における非芳香族有機金属錯体の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.0003質量ppm以上であり、0.0004質量ppm以上であることが好ましく、0.0005質量ppm以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品のYIをより低く、光線透過率をより高くすることができる。また、前記非芳香族有機金属錯体の含有量の上限値は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.8質量ppm以下であり、0.6質量ppm以下であることが好ましく、0.4質量ppm以下であることがさらに好ましく、0.15質量ppm以下であることが一層好ましく、0.1質量ppm以下であることがより一層好ましく、0.001質量ppm以下であることが特に一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品のYIをより低く、光線透過率をより高くすることができる。
本実施形態の樹脂組成物は、非芳香族有機金属錯体を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0063】
<安定剤>
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を含んでいてもよい。
安定剤としては、熱安定剤や酸化防止剤が挙げられる。
安定剤としては、また、フェノール系、アミン系、リン系、チオエーテル系などが挙げられる。中でも本実施形態においては、リン系熱安定剤を含むことが好ましい。
【0064】
リン系熱安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0065】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ(登録商標。以下同じ)1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、PEP-36、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス(登録商標。以下同じ)168」、Dover Chemical社製、Doverphos(登録商標)S-9228等が挙げられる。
【0066】
本実施形態で用いられるリン系熱安定剤としては、上記の他、特開2022-067329号公報の段落0127~0133の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0067】
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフェート、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0068】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「Irganox(登録商標。以下同じ)1010」、「Irganox1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0069】
本実施形態の樹脂組成物における安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。安定剤の含有量を前記範囲とすることにより、安定剤の添加効果がより効果的に発揮される。
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0070】
<離型剤>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含んでいてもよい。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル、ケトンワックス、ライトアマイドなどが挙げられ、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルが好ましい。
離型剤の詳細は、特開2018-095706号公報の段落0055~0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態の樹脂組成物が離型剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、0.01~3質量%であることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0071】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外の他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、各種樹脂添加剤などが挙げられる。
樹脂添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、色剤(染料、顔料)、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、色剤を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、樹脂組成物中の色剤の含有量が0.1質量%未満であることをいい、0.01質量%未満であることが好ましく、0.001質量%未満であることがさらに好ましい。さらには、樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、色剤の含有量が1質量ppm未満であることが一層好ましく、0.1質量ppm未満であることがより一層好ましく、0.08質量ppm未満であることがさらに一層好ましく、0.01質量ppm未満であることが特に一層好ましく、0.001質量ppm未満であることがより特に一層好ましい。下限値は、0であってもよいが、実質的には検出限界以下であろう。
【0072】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、300mm長光路成形品に成形したときのYI値が低いことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物を300mm長光路成形品に成形したときのYI値が、17.0以下であることが好ましく、16.5以下であることがより好ましい。また、前記YI値の下限値としては、0が理想であるが、1.0以上、さらには5.0以上、特には10.0以上であっても十分に要求性能を満たすものである。このような低YI値は、色相改良剤を配合することによって達成される。
本実施形態の樹脂組成物は、300mm長光路成形品に成形したときの波長460nmにおける光線透過率と、前記樹脂組成物から非芳香族有機金属錯体を除いた樹脂組成物を300mm長光路成形品に成形したときの波長460nmにおける光線透過率との差が、0%超であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましく、0.5%以上であることがより好ましく、0.6%以上であることがさらに好ましく、0.8%以上であることがさらに好ましく、さらには、1.0%以上、1.5%以上であってもよい。また、上限は特に定めるものではないが、5.0%以下が実際的であり、3.5%以下であっても十分に要求性能を満たすものである。
本実施形態の樹脂組成物は、300mm長光路成形品に成形したときの波長500nmにおける光線透過率と、前記樹脂組成物から非芳香族有機金属錯体を除いた樹脂組成物を300mm長光路成形品に成形したときの波長500nmにおける光線透過率との差が、0%超であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましく、0.2%以上であることがより好ましく、0.3%以上であることがさらに好ましく、0.7%以上であることがさらに好ましく、さらには、0.9%以上、1.1%以上であってもよい。また、上限は特に定めるものではないが、3.0%以下が実際的であり、2.0%以下であっても十分に要求性能を満たすものである。
本実施形態の樹脂組成物は、300mm長光路成形品に成形したときの波長600nmにおける光線透過率と、前記樹脂組成物から非芳香族有機金属錯体を除いた樹脂組成物を300mm長光路成形品に成形したときの波長600nmにおける光線透過率との差が、0%超であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましく、0.05%以上であることがより好ましく、0.1%以上であることがさらに好ましく、0.3%以上であることがさらに好ましく、さらには、0.5%以上、0.7%以上であってもよい。また、上限は特に定めるものではないが、2.5%以下が実際的であり、2.0%以下であっても十分に要求性能を満たすものである。
このような光線透過率の向上は、非芳香族有機金属錯体を配合することによって達成される。特に、色相改良剤の効果を阻害せずに、光線透過率を向上させることができる。
YI値および光線透過率は後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0073】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。例えば、ポリカーボネート樹脂、色相改良剤、および、非芳香族有機金属錯体、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0074】
<成形品>
本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。上記した樹脂組成物(例えば、ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、ロッド状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、ボタン状のもの等が挙げられる。
【0075】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。特に、本実施形態の樹脂組成物は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法で得られる成形品に適している。しかしながら、本実施形態の樹脂組成物がこれらの方法で得られた成形品に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0076】
本実施形態の成形品は、ポリカーボネート樹脂を含む成形品、特に、光学部品に広く用いることができる。
具体的には、電気電子機器/部品、OA機器/部品、情報端末機器/部品、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器などに好ましく用いられ、より具体的には、電力カバー、照明レンズ、照明カバー、導光部材等に好ましく用いられる。さらに具体的には、自動車あるいはオートバイ等の車両用前照灯(ヘッドランプ)あるいはリアランプ、フォグランプ等において、LED等の光源からの光を導光するライトガイドやレンズ等に使用することができる。
本実施形態の樹脂組成物の用途については、上記の他、特開2020-189992号公報の0098~0105の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例0077】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0078】
1.原料
以下の原料を用いた。
【表1】
【0079】
2.実施例1~14、比較例1~6、参考例1、2
<コンパウンド>
表1に記載した各成分を、表2~5に記載した割合(全て質量部で表示、ただし金属錯体は質量ppmで表示)となるように配合し、タンブラーミキサーで均一に混合して混合物を得た。この混合物を、田辺プラスチックス機械社製単軸押出機「VS40-32V」に供給し、スクリュー回転数80rpm、吐出量20kg/hr、バレル温度250℃の条件で混練し、押出ノズル先端からストランド状に押し出した。押出物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてカットしてペレット化し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0080】
<YI値の測定>
上記で得られた各樹脂組成物(ペレット)を120℃で4~8時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(芝浦機械社製「EC100」)により、280℃の温度で300mm長光路成形品(6mm×4mm×300mm、L/d=50)を成形した。この成形品について、長光路分光透過色計(日本電色工業社製「ASA1」)を使用して300mm長のYI(Yellow Index)値を測定した。
【0081】
<光線透過率の測定>
上記で得られた長さ300mm長光路成形品を試験片とし、日本電色工業社製ヘイズメーター(NDH4000)を用いて、ASTM-D1003に準拠して、D65光源により、波長460nm、500nm、600nmにおける光線透過率を測定した。
さらに、非芳香族有機金属錯体の入っていない試験片の各波長における光線透過率を測定し、非芳香族有機金属錯体を添加した試験片の各波長における光線透過率との差を計算した。すなわち、比較例1~5および実施例1~11は、参考例1を基準として光線透過率の差を算出し、比較例6および実施例12~14は、参考例2を基準として光線透過率の差を算出した。例えば、実施例1における「透過率の差(460nm)」は、「実施例1における試験片の波長460nm光線透過率」-「参考例1における試験片の波長460nm光線透過率」の値を示している。
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
上記表3~表5において、金属錯体以外の成分の含有量は質量部で、金属錯体の含有量は質量ppmで示している。
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、YI値が低く、黄変が効果的に抑制されていた。また、本発明の樹脂組成物は、透過率の差(460nm)、透過率の差(500nm)および透過率の差(600nm)がプラスであり、光線透過率が向上していることが確認できた。
これに対し、非芳香族有機金属錯体の含有量を配合していない(参考例1、参考例2)、あるいは、配合量が少ない(比較例1)、または多い場合(比較例2~5)では、いずれの場合においても、YI値が高く、透過率の差(460nm)、透過率の差(500nm)および透過率の差(600nm)がゼロまたはマイナスであり、光線透過率の向上は認められなかった。