(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174403
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】金属積層造形方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
B22F 10/66 20210101AFI20231130BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20231130BHJP
【FI】
B22F10/66
B22F10/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087256
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 佳典
(72)【発明者】
【氏名】沓掛 あすか
(72)【発明者】
【氏名】岡島 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 樹一
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018FA05
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】付加工程と一連とした調整工程を制御性良く精確に実施し得る付加製造による金属積層造形方法及びその装置の提供。
【解決手段】
造形ステージ上に金属材料を供給し照射される熱源による局所溶融部を移動させて金属積層造形物を造形する金属積層造形装置及び方法である。装置は、押圧工具の先端部を局所溶融部の移動方向の後方に配置させ、造形ステージに対する先端部の離隔距離を自在に保持して制御する移動制御部を含み、先端部を金属材料に押圧させつつ局所溶融部の移動に追従して摺動させることを特徴とする。方法は、押圧工具の先端部を局所溶融部の移動方向の後方に配置させ、造形ステージに対する先端部の離隔距離を自在に保持して制御する移動制御部にて、先端部を金属材料に押圧させつつ局所溶融部の移動に追従して摺動させることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形ステージ上に金属材料を供給し照射される熱源による局所溶融部を移動させて金属積層造形物を造形する金属積層造形装置であって、
押圧工具の先端部を前記局所溶融部の移動方向の後方に配置させ、前記造形ステージに対する前記先端部の離隔距離を自在に保持して制御する移動制御部を含み、前記先端部を前記金属材料に押圧させつつ前記局所溶融部の移動に追従して摺動させることを特徴とする金属積層造形装置。
【請求項2】
前記先端部は2000℃以上の高融点金属からなることを特徴とする請求項1記載の金属積層造形装置。
【請求項3】
前記高融点金属は、ニオブ、タンタル、モリブテン、タングステンのうちから選択される1種、又はこれを基とする合金であることを特徴とする請求項2記載の金属積層造形装置。
【請求項4】
前記押圧工具は、前記高融点金属からなる棒状体の一部を前記先端部としていることを特徴とする請求項3記載の金属積層造形装置。
【請求項5】
前記先端部は部分球状の立体曲面を有することを特徴とする請求項4記載の金属積層造形装置。
【請求項6】
前記移動制御部は、前記離隔距離を一定とする固定制御、及び、前記先端部を前記金属材料に所定圧力で押圧させる定圧制御のいずれか一方又は両方で前記押圧工具の保持状態を制御することを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載の金属積層造形装置。
【請求項7】
造形ステージ上に金属材料を供給し照射される熱源による局所溶融部を移動させて金属積層造形物を造形する金属積層造形方法であって、
押圧工具の先端部を前記局所溶融部の移動方向の後方に配置させ、前記造形ステージに対する前記先端部の離隔距離を自在に保持して制御する移動制御部にて、前記先端部を前記金属材料に押圧させつつ前記局所溶融部の移動に追従して摺動させることを特徴とする金属積層造形方法。
【請求項8】
前記先端部は前記金属材料の融点よりも1000℃以上高い融点を有する高融点金属からなることを特徴とする請求項7記載の金属積層造形方法。
【請求項9】
前記離隔距離を一定とする固定制御、及び、前記先端部を前記金属材料に所定圧力で押圧させる定圧制御のいずれか一方又は両方で前記押圧工具の保持状態を制御することを特徴とする請求項7又は8に記載の金属積層造形方法。
【請求項10】
前記定圧制御では、前記押圧工具の押圧開始位置にテーパー形状を与えておく工程を含むことを特徴とする請求項9記載の金属積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加製造による金属積層造形方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク放電やレーザーなどからなる熱源を移動させつつ供給された金属材料を局所的に溶融及び凝固させてトラックを形成し、これを水平方向及び/又は鉛直方向に積み重ねて立体形状の構造体を造形していく金属積層造形方法が知られている。ここで、溶融及び凝固の過程で内部に空孔が形成されると、構造体の機械的特性が低下してしまう。そこで、溶融及び凝固の過程の中で塑性変形を与えて空孔を圧壊させながらトラックを形成していく方法が提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、アーク放電による付加製造(AAM)において、大きなエネルギー入力によって溶融した金属が流動し、収縮空孔やクラックを生成し、また残留応力や変形を生じさせるといった、いわゆる「ボトルネック問題」について述べた上で、これに対して熱間圧延プロセスを与えることを提案している。金属ワイヤを供給されるトーチの後方において複数の円筒ローラーにて塑性変形を与えて、機械強度の回復を図っている。
【0004】
また、特許文献1では、非特許文献1と同様に、アーク放電によるプラズマ熱溶解積層ガンやガスシールドレーザガンのような大きなエネルギー源を用いて、この移動と同期させてマイクロローラを運動させ、その場で溶融池後方の凝固直後領域の表面を塑性変形させて圧延、冷却を追従制御し、変形矯正、除去加工、及び/又は仕上げ加工を行う方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Improvement in Geometrical Accuracy and Mechanical Property for Arc-Based Additive Manufacturing Using Metamorphic Rolling Mechanism"; Yang Xie, Haiou Zhang,and Fei Zhou; Journal of Manufacturing Science and Engineering, NOVEMBER 2016, Vol. 138.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
付加製造による金属積層造形では、造形中に形成される初期空孔の制御が難しく、上記したような、付加工程と一連とした調整(塑性加工)工程を与えることが望まれる。特に、高い形状精度や機械的特性を要求されるような金属積層造形では、各積層工程における調整工程を制御性よく精確に実施できるようにすることも求められる。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、付加工程と一連とした調整工程を制御性良く精確に実施し得る付加製造による金属積層造形方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による装置は、造形ステージ上に金属材料を供給し照射される熱源による局所溶融部を移動させて金属積層造形物を造形する金属積層造形装置であって、押圧工具の先端部を前記局所溶融部の移動方向の後方に配置させ、前記造形ステージに対する前記先端部の離隔距離を自在に保持して制御する移動制御部を含み、前記先端部を前記金属材料に押圧させつつ前記局所溶融部の移動に追従して摺動させることを特徴とする。
【0010】
かかる特徴によれば、付加工程と一連として押圧工具の先端部を摺動させる、いわゆる「しごき加工」による機械的性質の向上に大きく寄与し得る塑性変形を簡便かつ精確に与え得るのである。
【0011】
上記した発明において、前記先端部は2000℃以上の高融点金属からなることを特徴としてもよい。また、前記高融点金属は、ニオブ、タンタル、モリブテン、タングステンのうちから選択される1種、又はこれを基とする合金であることを特徴としてもよい。また、上記した発明において、前記押圧工具は、前記高融点金属からなる棒状体の一部を前記先端部としていることを特徴としてもよい。更に、前記先端部は部分球状の立体曲面を有することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、局所溶融部後方での熱間塑性変形を機械的性質の向上に大きく寄与し得るように十分に与え得るとともに、工具寿命の低下を抑制できて、先端部の安定した摺動も得られるのである。
【0012】
上記した発明において、前記移動制御部は、前記離隔距離を一定とする固定制御、及び、前記先端部を前記金属材料に所定圧力で押圧させる定圧制御のいずれか一方又は両方で前記押圧工具の保持状態を制御することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、固定制御では塑性変形を十分に与えつつ制御を簡便にできる一方、定圧制御では局所溶融部後方での所定温度以上の軟化位置における熱間塑性変形を簡便に制御できるのである。
【0013】
また、本発明による方法は、造形ステージ上に金属材料を供給し照射される熱源による局所溶融部を移動させて金属積層造形物を造形する金属積層造形方法であって、押圧工具の先端部を前記局所溶融部の移動方向の後方に配置させ、前記造形ステージに対する前記先端部の離隔距離を自在に保持して制御する移動制御部にて、前記先端部を前記金属材料に押圧させつつ前記局所溶融部の移動に追従して摺動させることを特徴とする。
【0014】
かかる特徴によれば、付加工程と一連として押圧工具の先端部を摺動させる、いわゆる「しごき加工」による機械的性質の向上に大きく寄与し得る塑性変形を簡便かつ精確に与え得るのである。
【0015】
上記した発明において、前記先端部は前記金属材料の融点よりも1000℃以上高い融点を有する高融点金属からなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、局所溶融部後方での熱間塑性変形を機械的性質の向上に大きく寄与し得るように十分に与え得るとともに、工具寿命の低下を抑制できるのである。
【0016】
上記した発明において、前記離隔距離を一定とする固定制御、及び、前記先端部を前記金属材料に所定圧力で押圧させる定圧制御のいずれか一方又は両方で前記押圧工具の保持状態を制御することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、固定制御では塑性変形を十分に与えつつ制御を簡便にできる一方、定圧制御では局所溶融部後方での所定温度以上の軟化位置における熱間塑性変形を簡便に制御できるのである。
【0017】
上記した発明において、前記定圧制御では、前記押圧工具の押圧開始位置にテーパー形状を与えておく工程を含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、局所溶融部後方での定圧制御下での熱間塑性変形を簡便に制御できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明による金属積層造形装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】製造試験の積層パターンAを示す(a)上面図及び(b)側面図である。
【
図3】製造試験の積層パターンBを示す(a)上面図及び(b)側面図である。
【
図4】被造形体と金属積層による金属積層造形物の外観写真、及び、微小引張試験片の切り出し位置を示す図である。
【
図5】微小引張試験片の試験片形状を示す(a)上面図及び(b)外観写真である。
【
図6】製造試験における金属積層造形物の製造条件と試験結果の表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による1つの実施例としての金属積層造形装置及び金属積層造形方法について、
図1を用いて説明する。
【0020】
図1に示すように、金属積層造形装置10は、被造形体5を固定して水平移動を可能とする送り台1と、レーザー光Lを照射させる照射部2と、押圧工具3と、これらの動作を制御する制御部14を含む。被造形体5は、その上面において金属材料9を溶融し積層させるための造形ステージとされ、上面を略水平とするように送り台1に固定される。照射部2から照射されるレーザー光Lは、被造形体5の上に供給された金属材料9を溶融させるための熱源であり、金属材料9を溶融させた局所溶融部8を形成させることができる。
【0021】
局所溶融部8はレーザー光Lの加熱によって金属材料9が局所的に溶融又は半溶融状態となった部分であり、一般的にレーザー光Lの照射される中心から照射スポット径の3倍程度の直径を有する円内の範囲とされる。実際には、レーザー光Lを金属材料9に対して移動させるため、局所溶融部8は移動速度に応じて円形から後方に伸びた形状の範囲に形成されると考えられる。ここで、半溶融状態とは、金属材料9の固相線温度以上の温度を有し、固液共存となった状態のことをいう。
【0022】
なお、熱源としてはその他に電子ビームやアーク放電などを利用し得る。また、押圧工具3はその先端部3aを溶融後の軟化したままの金属材料9によるトラックに押圧させつつ摺動させ、いわゆる「しごき加工」を付与することで、金属材料9を熱間塑性変形させて造形中に形成される初期空孔などを低減させることができる。
【0023】
詳細には、送り台1は、被造形体5に少なくとも水平面内で一方向の送りをかけることができるよう、送り機構11aに接続される。送り機構11aとしては、例えばボールねじを含む機構などを利用することができる。また、送り機構11aは制御部14に含まれる送り制御部11に接続され、送り台1の移動に関する信号を送り制御部11から受けて送り台1を動作させるドライバを含む。
【0024】
このような送り機構11aの動作によって、照射部2に対する送りを被造形体5に与えるよう被造形体5を水平に移動させ、相対的に金属材料9の局所溶融部8を被造形体5に対して移動させることができる。つまり、被造形体5の上で、粉末などの状態で供給された金属材料9を溶融させて得た局所溶融部8を移動させつつ、金属材料9を順次凝固させてトラックを形成し、これを水平方向及び/又は鉛直方向に積み重ねて積層造形を行い、立体形状の金属積層造形物による構造体を造形することができる。なお、金属積層造形装置10は、送り台1を鉛直方向に移動させる高さ調整機構や水平面内で送り方向に直交する方向の位置を調整する機構をさらに備えていることも好ましい。
【0025】
照射部2は、レーザー制御部12に接続されレーザー光Lの出力を調整しON-OFFの切り換えをすることができる。これによって、上記した局所溶融部8を得ることができる。レーザー制御部12もまた制御部14に含まれる。なお、図示しない角度調整機構を備え、レーザー光Lの照射角度を調整可能とされることも好ましい。
【0026】
一方、押圧工具3は、押圧工具3を移動させる移動機構13aを介して、押圧工具3の移動制御を行う移動制御部13に接続される。移動制御部13もまた制御部14に含まれる。押圧工具3の先端部3aは、移動制御部13によって、造形ステージである被造形体5の表面に対する離隔距離を自在に保持して可変とされる。つまり、押圧工具3は先端部3aを下に向けて垂下されつつ、移動機構13aによって上下動可能に保持されるとともに、上記した離隔距離を所与の値とする位置で固定保持可能とされる。例えば、移動機構13a及び移動制御部13は、公知のサーボ機構によって構成することができる。なお、この離隔距離は供給された金属材料の9の厚さと押圧工具3によって付与しようとする変形の量によって、適宜定められる。
【0027】
ここで、移動制御部13は、先端部3aと被造形体5の表面との離隔距離を一定とする固定制御、及び、先端部3aを金属材料9によるトラックに所定圧力で押圧させる定圧制御のいずれか一方又は両方で押圧工具3の保持状態を制御可能とすることが好ましい。固定制御によれば、塑性変形後の金属材料9によるトラックの高さを一定に保ち、塑性変形による調整工程をより精確に実施できる。また、定圧制御によれば、塑性変形後の金属材料9の塑性変形の量を一定にし得る。なお、定圧制御であるが、押圧工具3にかかる負荷を一定にするものであって、先端部3aの金属材料9に対する圧力については問わない。
【0028】
押圧工具3は、また、局所溶融部8の移動に追従できるようにするが、例えば、局所溶融部8に対して所定距離だけ離間するようにすると制御が容易となり好ましい。そのため、押圧工具3の照射部2に対する水平方向(送り方向)の位置を調整する機構を備えることが好ましい。この所定距離は、「しごき加工」を与えて局所溶融部8の通過後の金属材料9によるトラックに十分な加工を付与して空孔を減じて機械的性質を向上させるために、所定範囲内の温度となったトラックの部分に先端部3aを押し当てることのできるように定められる。そのため、この所定距離は、所定範囲内の温度も含めて、金属材料9の種類、送り速度、局所溶融部8からの抜熱などの多種の条件によって定まることになる。そこで、このような所定距離は例えば実験的に求めて定めることができる。
【0029】
例えば、局所溶融部8から所定距離だけ離間した押圧工具3の先端部3aの位置において、金属材料9が半溶融状態を維持していると、しごき加工によって空孔を圧壊させやすく空孔率を低減させる観点から好ましい。一方、同位置において金属材料9が凝固後であって軟化した状態であると、しごき加工によって塑性加工を付与できて、素地の機械的性質を向上させる観点から好ましい。
【0030】
上記したように、被造形体5は送り台1によって送りを与えられる。一方、押圧工具3は、局所溶融部8の移動方向の後方に配置され、局所溶融部8の移動に追従する。よって、押圧工具3は、局所溶融部8に対して被造形体5の送り方向に位置することになる。つまり、図示したように、送り台1の送り方向を左方向にする場合、押圧工具3は局所溶融部8の左側に位置する。なお、被造形体5を固定して局所溶融部8と押圧工具3の両者に送りをかけるような構造としてもよい。
【0031】
さらに、押圧工具3の先端部3aは、上記したように溶融後の高温の金属材料9に押し当てられる。そのため、先端部3aは融点を2000℃以上とする高融点金属からなることが好ましい。また、先端部3aは、金属材料9の融点よりも1000℃以上高い融点を有する高融点金属からなることも好ましい。これらのような高融点金属としては、例えば、ニオブ、タンタル、モリブテン、タングステンが挙げられ、これらのうちから選択される1種、又はこれを基とする合金とすることができる。このような高融点金属を用いることで押圧工具3の寿命の低下を抑制でき、さらには先端部3aの安定した摺動を得て塑性加工を安定させ得る。
【0032】
なお、このような高融点金属は比較的高価であるため、棒状体の一部を高融点金属として先端部3aを構成することも好ましい。また、先端部3aは、しごき加工において安定して摺動するものであれば、その形状は特に限定されない。例えば、半球状体や楕円体の一部などの部分球状の立体曲面を有する形状のほか、直方体のような棒状体の切断面であってもよい。
【0033】
金属積層造形装置10は、金属材料9を溶融し凝固させるため、金属材料9の酸化を抑制できるよう、不活性ガス雰囲気を得られるチャンバー内に送り台1、照射部2、押圧工具3を設置させることが好ましい。また、かかるチャンバーは不活性ガスのパージを容易とするよう、不活性ガスの供給源とともに内部空間の空気を排出する真空ポンプを備える。不活性ガスとしては例えばアルゴンガスを用い得る。
【0034】
金属積層造形装置10を用いた金属積層造形方法については以下のようになる。
【0035】
まず、送り台1上に被造形体5を固定し、上記したチャンバー内の雰囲気を不活性ガス雰囲気とした上で、被造形体5の上に金属材料9として例えば金属粉末を敷く。被造形体5上に敷いた金属材料9の厚さは一定とし、例えば、0.1mmとする。なお、被造形体5において、押圧工具3による押圧を開始する位置にテーパー形状を設けておくことも好ましく、予めテーパー形状を形成する工程を含んでもよい。
【0036】
次に、移動制御部13によって、先端部3aの造形ステージとなる被造形体5の表面からの離隔距離を所定の距離とするよう鉛直方向の位置を調整する。なお、押圧工具3の先端部3aの局所溶融部8に対する水平方向の位置は予め調整してある。
【0037】
レーザー制御部12によって照射部2からレーザー光Lを照射させると同時に、送り制御部11によって送り機構11aを介して送り台1に送りをかける。これによって、金属材料9に局所溶融部8を形成しつつ、溶融後の金属材料9によるトラックに押圧工具3の先端部3aを押圧し摺動させて「しごき加工」によって塑性変形を付与できる。なお、この間、移動制御部13は、上記した固定制御及び/又は定圧制御を行って、先端部3aの被造形体5に対する離隔距離及び/又はトラックに対する押圧力を制御している。
【0038】
レーザー制御部12によってレーザー光Lの照射を停止した後、所定距離だけ送りをかけてから送り制御部11によって送りを停止し、1本のトラックの形成を終える。必要に応じて同様にトラックの形成を繰り返して水平方向及び/又は鉛直方向に積み重ねて積層造形を行い、立体形状の金属積層造形物を造形することができる。
【0039】
ここで、先端部3aを軟化したトラックに対して摺動させる「しごき加工」においては、例えばローラーを用いた押圧加工とは軟化した金属材料9に付与する応力状態が異なると考えられる。ローラーを用いた押圧加工ではトラックの表面に直交する方向の押し付け力が付与されるのみであるのに対し、「しごき加工」ではそのような押し付け力に加えて摺動で生じる摩擦力によってトラックの表面近傍に水平方向の力が付与される。このような応力状態がもたらすメカニズムについては現時点では不明であるが、少なくともトラックを積層して得られる金属積層造形物の空孔を低減させ機械的性質の向上に大きく寄与することが分かっている。これについては後述する。なお、金属積層造形物の断面における空孔率としては10%以下となるように空孔を低減されることが好ましい。
【0040】
以上のように、金属積層造形装置10によれば、金属材料9に局所溶融部8を形成し、これを移動させてトラックを得る付加工程と、これと一連とした「しごき加工」による調整工程を制御性良く精確に実施し得る。
【0041】
[製造試験]
次に、金属積層造形装置10によって実際にトラックを形成させ積層させて金属積層による金属積層造形物を得た製造試験について、
図2乃至
図6を用いて説明する。
【0042】
図2及び
図3に示すように、一端にテーパー形状5aを設けた上面視円形の被造形体5(
図4参照)を用意し、その表面にトラックを形成させるパスを定めた。なお、図内のx、y方向は水平面内の方向で、z方向が鉛直方向である。x方向は、被造形体5に対して局所溶融部8及び押圧工具3を移動させる向き(レーザー光Lを走査する向き)であり、送り方向の向きとは逆向きである。そして、テーパー形状5aは押圧工具3の押圧開始位置に形成してある。このようなテーパー形状を与えた場合、移動制御部13を定圧制御とすることで、押圧工具3の先端部3aは被造形体5のテーパー形状を有する表面に沿って移動することになり、被造形体5の表面に対する離隔距離を自動的に得られる。つまり、押圧工具3の位置制御を容易とし得る。なお、テーパー形状5aの勾配は1/10とした。積層パターンについては後述する。
【0043】
トラックは、積層パターンの長手方向(x方向)に厚さ0.1mmで形成し、y方向に0.15mmピッチで平行となるように複数形成させて全体の幅を3.6mmになるようにした。また、幅3.6mmの層を複数形成させて全体の厚さを積層パターンA(
図2参照)において1mm、積層パターンB(
図3参照)において1.5mmとなるようにした。ここで、積層パターンAにおいては、隣り合う層においてトラックを形成させるパスのy方向の位置を揃えた。一方、積層パターンBにおいては隣り合う層においてパスのy方向の位置を半ピッチずらした。
【0044】
また、各積層パターンにおけるトラック形成の開始側の端部では、被造形体5のテーパー形状5aを延長して維持するようにテーパー形状が与えられていると、押圧工具3の先端部3aをテーパー形状に沿って移動可能とできて好ましい。そのため、被造形体のみならず積層部分においてもテーパー形状を維持すべく、各層のトラック形成の開始位置の部分を機械加工したり、積層する毎にトラック形成の開始位置を後方にずらしたりしてもよい。このような積層パターンによって金属積層造形物による構造体6(
図4参照)を得た。
【0045】
金属材料9としてはマルエージング鋼の粉末を用い、レーザー光Lの出力は126W、スポット径φ0.2mm、送り速度15mm/s、局所溶融部8と先端部3aの水平距離を1.0mmとしてトラックの形成を行なった。なお、積層造形はアルゴンガス雰囲気中にて行った。
【0046】
図4及び
図5に示すように、得られた構造体6のテーパー形状5aの部分を避けて微小引張試験片7を切り出した。微小引張試験片7は、全長15.4mmの平行部の断面を幅1.0mm及び厚さ0.4mmとする引張試験片である。また、各構造体6の断面(y-z平面)を観察し、空孔率を求めた。空孔率は、断面写真を撮影した上でかかる写真の画像を2値化し、空孔に当たる部分の面積率から算出した。
【0047】
図6に示すように、条件1及び条件3においては押圧工具3による「しごき加工」を行わず、つまり空孔を低減させる塑性加工による調整を行わず、条件2及び条件4において「しごき加工」を行った。
【0048】
微小引張試験片による引張試験の結果は、条件2及び条件4において、条件1及び条件3に対して非常に高い引張強度を得た。つまり、しごき加工を行わなかった場合に比べてしごき加工を行った場合に引張強度を向上させることができた。
【0049】
また、空孔率は、積層パターンAの場合、条件1の20.6%に対して条件2では6.9%と非常に小さくなった。積層パターンBにおいても同様に、条件3の16.0%に対して条件4では2.9%と非常に小さくなった。つまり、しごき加工を行わなかった場合に比べて、しごき加工を行った場合に多くの空孔を圧壊することができた。また、この結果は引張試験の結果によく対応していることも判る。
【0050】
これらのように、製造試験において、しごき加工を付与したトラックを積層して得られる金属積層造形物による構造体においては、空孔率を低く抑え、高い引張強度を得られることが分かった。
【0051】
なお、積層パターンについては、隣り合う層においてパスの位置を半ピッチずらした積層パターンBにおいて引張強度を高くして空孔率を小さくしたことが確認された。
【0052】
以上、本発明の代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0053】
1 送り台
2 照射部
3 押圧工具
9 金属材料
10 金属積層造形装置
14 制御部