(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174408
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】無灰炭の製造方法及び無灰炭の製造装置
(51)【国際特許分類】
C10L 5/00 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
C10L5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087262
(22)【出願日】2022-05-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発 法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、 「環境調和型プロセス技術の 開発/水素還元等プロセス技術の(フェーズ II -STEP1)」委託事 -STEP1)」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】堺 康爾
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】木村 文乃
【テーマコード(参考)】
4H015
【Fターム(参考)】
4H015AA10
4H015AB01
4H015BA01
4H015BA08
4H015BA11
4H015BB03
4H015BB09
4H015BB10
4H015BB12
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】本発明は、蒸発分離される溶剤中の無灰炭を抑制することができる無灰炭の製造方法及び無灰炭の製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る無灰炭の製造方法は石炭及び溶剤を混合してスラリーを調製する調製工程と、上記スラリーの上記溶剤中に上記石炭の溶剤可溶成分を溶出させる溶出工程と、上記溶出工程で上記溶剤可溶成分が上記溶剤に溶出した溶液を上記スラリーから分離する分離工程と、上記分離工程で分離された上記溶液から上記溶剤を蒸発させる蒸発工程とを備え、上記蒸発工程を、二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭及び溶剤を混合してスラリーを調製する調製工程と、
上記スラリーの上記溶剤中に上記石炭の溶剤可溶成分を溶出させる溶出工程と、
上記溶出工程で上記溶剤可溶成分が上記溶剤に溶出した溶液を上記スラリーから分離する分離工程と、
上記分離工程で分離された上記溶液から上記溶剤を蒸発させる蒸発工程と
を備え、
上記蒸発工程を、二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で行う無灰炭の製造方法。
【請求項2】
上記ガスが二酸化炭素からなる請求項1に記載の無灰炭の製造方法。
【請求項3】
上記調製工程及び上記溶出工程の少なくとも一方で、上記溶剤との混合後の上記石炭を昇温する請求項1又は請求項2に記載の無灰炭の製造方法。
【請求項4】
石炭及び溶剤を混合してスラリーを調製する調製部と、
上記スラリーの上記溶剤中に上記石炭の溶剤可溶成分を溶出させる溶出部と、
上記溶剤可溶成分が上記溶剤に溶出した溶液を上記スラリーから分離する分離部と、
分離された上記溶液から上記溶剤を蒸発させる蒸発部と
を備え、
上記蒸発部が、上記溶剤を蒸発させて無灰炭を得るための蒸発器と、この蒸発器に二酸化炭素を含むガスを供給するガス供給器とを有する無灰炭の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無灰炭の製造方法及び無灰炭の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉用コークス等の製鉄用コークスとして、高強度のコークスが使用されている。高強度のコークスを得る場合、原料石炭としては、従来粘結性の高い、いわゆる強粘結炭が使用されている。しかしながら、強粘結炭は比較的高価であるため、今日では、強粘結炭の使用量を少なくする技術が検討されている。
【0003】
強粘結炭の使用量を抑制しつつ、高強度のコークスを得ることができる原料炭として、無灰炭を使用する試みがなされている。この無灰炭を製造する方法として、例えば特許文献1には、予めペースト化した石炭と溶剤とを混合してスラリーを得て、このスラリーを、上記石炭の溶剤可溶成分が上記溶剤中に溶出した溶液と、上記石炭の溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液とに分離し、上記溶液中の上記溶剤を蒸発分離して無灰炭を得る方法が提案されている(特開2016-056282号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法では、上記溶液中の上記溶剤を蒸発分離して上記溶剤可溶成分を析出させることで無灰炭を得ている。この製造方法によると、上記溶剤可溶成分の一部が、無灰炭として析出する前に上記溶剤と共に蒸発することがある。無灰炭をより効率的に製造するには、蒸発分離される上記溶剤中に上記溶剤可溶成分が含まれることを抑制することが望まれる。
【0006】
このような事情に鑑みて、本発明は、蒸発分離される溶剤中に石炭の溶剤可溶成分が含まれることを抑制できる無灰炭の製造方法及び無灰炭の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の一態様に係る無灰炭の製造方法は、石炭及び溶剤を混合してスラリーを調製する調製工程と、上記スラリーの上記溶剤中に上記石炭の溶剤可溶成分を溶出させる溶出工程と、上記溶出工程で上記溶剤可溶成分が上記溶剤に溶出した溶液を上記スラリーから分離する分離工程と、上記分離工程で分離された上記溶液から上記溶剤を蒸発させる蒸発工程とを備え、上記蒸発工程を、二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で行う。
【0008】
上記課題を解決する本発明の別の一態様に係る無灰炭の製造装置は、石炭及び溶剤を混合してスラリーを調製する調製部と、上記スラリーの上記溶剤中に上記石炭の溶剤可溶成分を溶出させる溶出部と、上記溶剤可溶成分が上記溶剤に溶出した溶液を上記スラリーから分離する分離部と、分離された上記溶液から上記溶剤を蒸発させる蒸発部とを備え、上記蒸発部が、上記溶剤を蒸発させて無灰炭を得るための蒸発器と、この蒸発器に二酸化炭素を含むガスを供給するガス供給器とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無灰炭の製造方法及び無灰炭の製造装置は、蒸発分離される溶剤中に石炭の溶剤可溶成分が含まれることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る無灰炭の製造装置を示す概念図である。
【
図2】
図2は、
図1の製造装置を用いた本発明の他の一実施形態に係る無灰炭の製造方法を示すフロー図である。
【
図3】
図3は、
図2の蒸発工程を異なる条件で行って得られた無灰炭における揮発分を比較したグラフである。
【
図4】
図4は、
図3の無灰炭の元素組成分布を示す分布図である。
【
図5】
図5は、
図3の試料1乃至4におけるテトラヒドロフランへの可溶成分及び不可溶成分を比較したグラフである。
【
図6】
図6は、
図3の試料1と、
図3の試料1に試料3を添加した試料6と、
図3の試料1に試料4を添加した試料7との軟化溶融性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様に係る無灰炭の製造方法は、石炭及び溶剤を混合してスラリーを調製する調製工程と、上記スラリーの上記溶剤中に上記石炭の溶剤可溶成分を溶出させる溶出工程と、上記溶出工程で上記溶剤可溶成分が上記溶剤に溶出した溶液を上記スラリーから分離する分離工程と、上記分離工程で分離された上記溶液から上記溶剤を蒸発させる蒸発工程とを備え、上記蒸発工程を、二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で行う。
【0012】
当該無灰炭の製造方法は、二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で上記蒸発工程を行う。このため、上記溶液中における上記石炭の溶剤可溶成分は、僅かに酸化され、蒸発分離される上記溶剤中に含まれることが抑制される。
【0013】
上記ガスが二酸化炭素からなることが好ましい。このようにすることで、上記溶剤可溶成分は、酸化が促進され、上記溶剤中に含まれることがより抑制される。
【0014】
上記調製工程及び上記溶出工程の少なくとも一方で、上記溶剤との混合後の上記石炭を昇温することが好ましい。このようにすることで、上記溶出工程における上記石炭の溶剤可溶成分の溶出を容易に行うことができる。
【0015】
本発明の別の一態様に係る無灰炭の製造装置は、石炭及び溶剤を混合してスラリーを調製する調製部と、上記スラリーの上記溶剤中に上記石炭の溶剤可溶成分を溶出させる溶出部と、上記溶剤可溶成分が上記溶剤に溶出した溶液を上記スラリーから分離する分離部と、分離された上記溶液から上記溶剤を蒸発させる蒸発部とを備え、上記蒸発部が、上記溶剤を蒸発させて無灰炭を得るための蒸発器と、この蒸発器に二酸化炭素を含むガスを供給するガス供給器とを有する。
【0016】
当該無灰炭の製造装置は、上記溶剤を蒸発分離する蒸発器に二酸化炭素を含むガスを供給するガス供給器を有する。このため、上記溶剤の蒸発分離を二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で行うことができ、上記溶剤可溶成分が蒸発分離される上記溶剤中に含まれることを抑制できる。
【0017】
[発明を実施するための形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。なお、本明細書に記載の数値については、記載された上限値と下限値とを任意に組み合わせることが可能である。本明細書では、組み合わせ可能な上限値から下限値までの数値範囲が好適な範囲として全て記載されているものとする。また、当該無灰炭の製造装置を示す図は、各構成(各部材)を概念的又は模式的に示したものであって、実際の構成の形状、縮尺等は異なる。
【0018】
[第一実施形態]
<無灰炭の製造装置>
本発明の一実施形態である無灰炭の製造装置1(以下、「製造装置1」ともいう)は、
図1で示すように、石炭C
R及び溶剤Tを混合してスラリーYを調製する調製部2と、上記スラリーYにおける上記溶剤Tに石炭C
Rの溶剤可溶成分を溶出させる溶出部3と、上記溶剤可溶成分が上記溶剤Tに溶出した溶液Lを上記スラリーYから分離する分離部4と、分離された上記溶液Lから上記溶剤Tを蒸発させる蒸発部5とを主に備える。蒸発部5は、上記溶剤Tを蒸発させて無灰炭C
Hを得るための第一蒸発器51と、この第一蒸発器51に二酸化炭素を含むガスGを供給するガス供給器53とを有する。本実施形態では、蒸発部5は、副生炭C
Sを得るための第二蒸発部52を有する。
【0019】
〔石炭〕
石炭CRの種類としては、特に限定されるものではなく、瀝青炭、又は瀝青炭よりも安価な劣質炭(例えば亜瀝青炭又は褐炭)等が挙げられる。中でも石炭CRとして瀝青炭を用いることで、無灰炭CHの製造効率をより高めることができる。石炭CRの粒度としては、特に限定されるものではないが、細かく粉砕されたもの、例えば、粒度が1mm以下のものが好適に用いられる。また、石炭CRとしては、塊炭を用いることもできる。塊炭は、粒度が大きいため、後述する分離部4における分離の効率化を図ることができる。なお、「塊炭」とは、石炭全体の質量に対する粒度5mm以上の石炭の質量割合が50%以上の石炭を意味する。また、「粒度(粒径)」とは、JIS-Z8815(1994)のふるい分け試験通則に準拠して測定した値を意味する。石炭のふるい分けには、例えばJIS-Z8801-1(2019)に規定する金属製網ふるいを用いることができる。
【0020】
また、石炭CRとしては、最高流動度が1000ddpm未満の低流動度炭を用いることも好ましい。石炭CRとして、上記低流動度炭を用いることで、無灰炭CHの製造効率を維持しつつ、無灰炭CHの製造コストを削減することができる。
【0021】
〔溶剤〕
溶剤Tとしては、石炭CRの溶剤可溶成分を溶出可能なものであれば特に限定されないが、例えば、石炭由来の二環芳香族化合物が好適に用いられる。この二環芳香族化合物は、基本的な構造が石炭の構造分子と類似していることから石炭との親和性が高く、比較的高い溶出率を得ることができる。石炭由来の二環芳香族化合物としては、例えば石炭を乾留してコークスを製造する際の副生油の蒸留油であるメチルナフタレン油、又はナフタレン油等を挙げることができる。
【0022】
溶剤Tの沸点は、特に限定されないが、例えば、溶剤Tの沸点の下限としては、180℃が好ましく、230℃がより好ましい。一方、溶剤Tの沸点の上限としては、300℃が好ましく、280℃がより好ましい。溶剤Tの沸点が上記下限未満であると、溶剤Tが揮発しやすくなるため、スラリーYにおける石炭CRとの混合比の調整及び維持が困難となるおそれがある。一方、溶剤Tの沸点が上記上限を超えると、蒸発部5における石炭CRの溶剤可溶成分と溶剤Tとが、容易に分離できなくなるおそれがある。
【0023】
〔調製部〕
調製部2は、溶剤Tを貯留する溶剤貯留槽21と、石炭CRを貯蔵する石炭貯蔵槽22とを有する。
【0024】
また、調製部2は、溶剤貯留槽21に貯留されている溶剤Tを圧送するための溶剤供給器23と、溶剤供給器23によって圧送される溶剤Tを加熱するための予熱器24とを有する。
【0025】
(石炭貯蔵槽)
石炭貯蔵槽22は、石炭CRを貯蔵すると共に、後述する混合管25に石炭供給ラインP2を介して石炭CRを供給可能である。石炭貯蔵槽22としては、特に限定されるものではなく、例えば、公知の常圧ホッパー又は加圧ホッパー等が挙げられる。
【0026】
(溶剤貯留槽)
溶剤貯留槽21は、溶剤Tを貯留するための槽である。溶剤貯留槽21としては、特に限定されるものではなく、例えば、公知の液体用タンク等が挙げられる。溶剤貯留槽21は、後述するように、蒸発部5で排出された溶剤が供給されるように構成されていてもよい。このようにすることで、より低コストで無灰炭CHを製造できる。
【0027】
(溶剤供給器)
溶剤供給器23は、溶剤貯留槽21と、後述する混合管25とを連通する溶剤供給ラインP1中に配設されている。溶剤供給器23としては、特に限定されるものではなく、例えば、公知の容積型ポンプ又は非容積型ポンプが挙げられる。上記非容積型ポンプとしは、例えば、渦巻ポンプが挙げられる。
【0028】
(予熱器)
予熱器24は、溶剤供給ラインP1中で溶剤供給器23の下流に配設されている。予熱器24としては、特に限定されるものではなく、例えば、公知の抵抗加熱式ヒーター又は誘導加熱コイルが挙げられる。また、予熱器24としては、熱媒を用いて加熱するものを用いてもよい。
【0029】
予熱器24による加熱後(予熱後)の溶剤Tの温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、溶剤Tの温度の上限としては、480℃が好ましく、450℃がより好ましい。溶剤Tの温度が上記下限未満であると、石炭CRを構成する分子間の結合を十分に弱められず、石炭CRの溶剤可溶成分を十分に溶出できないおそれがある。一方、溶剤Tの温度が上記上限を超えると、溶剤Tの温度を維持するための熱量が不必要に大きくなるため、無灰炭CHの製造コストが増大するおそれがある。
【0030】
〔混合管〕
調製部2は、溶剤貯留槽21から送られる溶剤Tと、石炭貯蔵槽22から送られる石炭CRとを混合する混合管25を有する。混合管25は、後述する溶出部3にスラリーYを供給する。
【0031】
混合管25では、石炭CRに加熱された溶剤Tが混合されることで石炭CRが昇温される。つまり、溶剤Tとの混合後の石炭CRは、調整部2で昇温されている。調整部2は、予熱器24で加熱した溶剤Tと石炭CRとを混合することで、300℃以上に昇温されたスラリーYを生成している。
【0032】
混合管25は、スラリーYの温度を維持、又はスラリーYを加熱可能な加熱器(不図示)を有してもよい。
【0033】
スラリーY中の無水炭基準での石炭CRの濃度の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、石炭CRの濃度の上限としては、40質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。石炭CRの濃度が上記下限未満であると、後述する溶出槽31における石炭CRの溶剤可溶成分の溶出量がスラリーYの処理量に対して少なくなるため、無灰炭CHの製造効率が低下するおそれがある。逆に、石炭CRの濃度が上記上限を超えると、溶剤T中で石炭CRの溶剤可溶成分が飽和することで、上記溶剤可溶成分の溶出率が低下するおそれがある。
【0034】
〔溶出部〕
溶出部3は、スラリーYの溶剤T中に石炭CRの溶剤可溶成分を溶出させる。溶出部3は、混合管25の下流側に接続されている溶出槽31を有する。溶出槽31は、スラリーYを貯留する槽であり、攪拌機311と、スラリーYの温度を維持し、又はスラリーYを加熱するためのヒーター(不図示)とを含む。溶出槽31には、混合管25内で生成されたスラリーYが送られる。
【0035】
(溶出槽)
溶出槽31は、上記ヒーターによって混合管25から送られたスラリーYの温度を維持又は昇温しながら攪拌機311によってスラリーYを攪拌する。所定の温度でスラリーYを攪拌することで、石炭CRの溶剤可溶成分を溶剤T中に効率的に溶出させることができる。
【0036】
溶出槽31の内部圧力の下限としては、1.1MPaが好ましく、1.5MPaがより好ましい。一方、溶出槽31の内部圧力の上限としては、5MPaが好ましく、4MPaがより好ましい。溶出槽31の内部圧力が上記下限未満であると、蒸発によって溶剤Tが減少することで石炭CRの溶剤可溶成分を十分に溶出させることができないおそれがある。逆に、上記内部圧力が上記上限を超えると、圧力を維持するためのコストが上昇し、無灰炭CHの製造コストが増大するおそれがある。
【0037】
溶出槽31における攪拌時間としては、特に限定されないが、上記溶剤可溶成分の溶出効率の観点から10分以上70分以下とすることができる。
【0038】
溶出槽31内で攪拌されたスラリーYは、スラリー供給ラインP3を介して分離部4に供給される。
【0039】
〔分離部〕
分離部4は、上記溶剤可溶成分が溶剤Tに溶出した溶液LをスラリーYから分離する。分離部4は、遠心分離法又は重力沈降法等を用いて固液分離する固液分離装置41を含む。分離部4は、溶出槽31から送られたスラリーYを、上記溶剤可溶成分が溶剤T中に溶出した溶液Lと、溶剤不溶成分及び溶剤Tを含む固形分濃縮液Mとに固液分離する。分離部4は、溶液供給ラインP4を介して溶液Lを第一蒸発器51に供給し、濃縮液供給ラインP5を介して固形分濃縮液Mを第二蒸発器52に供給する。
【0040】
(固液分離装置)
分離部4における固液分離装置41としては、沈降速度を高めて分離効率を向上できる重力沈降法を用いた装置が好ましい。また、重力沈降法は、スラリーYを連続処理できる観点からも好ましい。スラリーYを重力沈降法により分離する場合、上記溶剤可溶成分を含む溶液Lは分離部4の上部に溜まる。この溶液Lは、必要に応じてフィルターユニットを用いて濾過した後、第一蒸発器51に供給される。一方、上記溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液Mは、分離部4の下部に溜まり、第二蒸発器52に供給される。
【0041】
固液分離装置41内は、加熱及び加圧されていることが好ましい。固液分離装置41内の加熱温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、固液分離装置41内の加熱温度の上限としては、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記加熱温度が上記下限未満であると、上記溶剤可溶成分がスラリーY中で再析出し、分離効率が低下するおそれがある。一方、上記加熱温度が上記上限を超えると、加熱するためのコストが高くなるおそれがある。
【0042】
固液分離装置41の内部圧力の下限としては、1MPaが好ましく、1.4MPaがより好ましい。一方、上記内部圧力の上限としては、3MPaが好ましく、2MPaがより好ましい。上記内部圧力が上記下限未満であると、上記溶剤可溶成分がスラリーY中で再析出し、分離効率が低下するおそれがある。一方、上記内部圧力が上記上限を超えると、加圧するためのコストが高くなるおそれがある。
【0043】
〔蒸発部〕
蒸発部5は、分離部4で分離された溶液Lから溶剤Tを蒸発させる第一蒸発器51と、二酸化炭素を含むガスをガス供給ラインP8を介して供給するガス供給器53とを有する。第一蒸発器51は、溶液L中の溶剤Tを蒸発させて上記溶剤可溶成分を析出させる。この析出した溶剤可溶成分が、当該製造装置によって製造される無灰炭CHである。蒸発部5は、分離部4で分離された固形分濃縮液Mから溶剤Tを蒸発させる第二蒸発器52を有する。第二蒸発器52は、固形分濃縮液M中の溶剤Tを蒸発させることで副生炭CSを析出させる。
【0044】
蒸発部5は、第一蒸発器51で蒸発させた溶剤Tを排出する第一排出ラインP6と、第二蒸発器52で蒸発させた溶剤Tを排出する第二排出ラインP7と、第一排出ラインP6及び第二排出ラインP7の溶剤Tを調製部2で再利用するための再利用ライン54とを備える。
【0045】
(第一蒸発器)
第一蒸発器51は、溶液L中の溶剤Tを蒸発させることで溶剤可溶成分を無灰炭CHとして析出させる。第一蒸発器51で析出した無灰炭CHは、例えば、原料石炭よりも高い発熱量を示す。さらに、無灰炭CHは、製鉄用コークスの原料として特に重要な品質である軟化溶融性が大幅に改善されており、例えば、原料石炭よりも遥かに優れた流動性を示す。このため、無灰炭CHは、コークス原料に配合する原料炭として好適に用いられる。
【0046】
第一蒸発器51は、例えば蒸発分離法を用いた一般的な蒸留法によって溶剤Tを蒸発させるものであってもよく、スプレードライ法等の蒸発法によって溶剤Tを蒸発させるよう構成されたものであってもよい。
【0047】
(ガス供給器)
ガス供給器53は、ガス供給ラインP8を介して二酸化炭素を含むガスGを第一蒸発器51に供給する。このため、第一蒸発器51では、二酸化炭素を含むガスGの雰囲気下で溶剤Tの蒸発分離が行われる。
【0048】
二酸化炭素を含むガスGの雰囲気下で溶剤Tの蒸発分離を行うことで、溶液L中に存在する上記溶剤可溶成分(無灰炭CH)が僅かに酸化する。このため、蒸発する溶剤T中に留まる上記溶剤可溶成分を低減することができ、析出する無灰炭CHの量を増大させることができる。
【0049】
ガス供給器53としては、特に限定されるものではなく、例えば、公知の気体用高圧タンクを用いることができる。この場合、ガス供給ラインP8が、任意にガスの供給及び供給停止をすることができる開閉弁(不図示)を有するとよい。
【0050】
二酸化炭素を含むガスGとしては、特に限定されるものではなく、例えば、工場などから排出される排出ガスを用いてもよい。ガスG中の二酸化炭素の濃度としては、特に限定されるものではなく、例えば下限値としては、5%であってもよく、10%、15%、20%、25%であってもよい。ガスG中の二酸化炭素の濃度は、高濃度であることが好ましく、ガスGが二酸化炭素からなることがより好ましい。ガスGが二酸化炭素からなることで、溶液L中の上記溶剤可溶成分の酸化を促進することができる。
【0051】
(第二蒸発器)
第二蒸発器52は、固形分濃縮液Mから溶剤Tを蒸発させることで副生炭CSを析出させる。第二蒸発器52は、第一蒸発器51と同様に、蒸発分離法又はスプレードライ法等の蒸発法によって溶剤Tを蒸発させるものであってよい。
【0052】
第二蒸発器52で析出した副生炭CSは、軟化溶融性は示さないが、含酸素官能基が脱離されているため、配合炭として用いた場合にこの配合炭に含まれる他の石炭の軟化溶融性を阻害しない。従って、この配合炭は、コークス原料の配合炭の一部として使用することもできる。副生炭CSは回収せずに廃棄してもよい。
【0053】
(第一排出ライン)
第一排出ラインP6は、第一蒸発器51で蒸発して排出された溶剤Tを再利用ライン54に供給する。第一排出ラインP6は、排出された溶剤Tを液化するための熱交換器(不図示)を有していてもよい。
【0054】
(第二排出ライン)
第二排出ラインP7は、第二蒸発器52で蒸発して排出された溶剤Tを再利用ライン54に供給する。第二排出ラインP7は、排出された溶剤Tを液化するための熱交換器(不図示)を有していてもよい。
【0055】
(再利用ライン)
再利用ライン54は、第一排出ラインP6から供給された溶剤T及び第二排出ラインP7から供給された溶剤Tを混合した溶剤T1を溶剤貯留槽21に供給する。すなわち、当該製造装置1では、溶剤Tを還流して再利用している。
【0056】
<無灰炭の製造方法>
当該無灰炭の製造方法(以下、「当該製造方法」ともいう。)は、
図2で示すように、石炭及び溶剤の混合によりスラリーを調製する調製工程S1と、調製工程S1で調製されたスラリーにおける上記溶剤に上記石炭の溶剤可溶成分を溶出させる溶出工程S2と、上記溶剤可溶成分が上記溶剤に溶出した溶液を上記スラリーから分離する分離工程S3と、分離工程S3で分離された上記溶液から上記溶剤を蒸発させる蒸発工程S4とを備える。当該製造方法は、上記蒸発工程S4を二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で行う。
【0057】
蒸発工程S4では、上記溶剤を蒸発させることで、上記溶剤可溶成分を析出させる。この析出した溶剤可溶成分が、当該製造方法によって製造される無灰炭である。
【0058】
以下では、
図1の製造装置1を使用した場合を例にして、当該製造方法の各工程について詳説する。
【0059】
〔調製工程〕
調製工程S1は調製部2で行う。調製工程S1では、石炭貯蔵槽22から供給される石炭CRと、溶剤貯留槽21から供給されて予熱器24で加熱された溶剤Tとを混合管25で混合する。
【0060】
調製工程S1では、予熱器24によって溶剤Tを加熱して、石炭CRと混合することで石炭CRを昇温している。調製工程S1では、加熱された溶剤Tと石炭CRとを混合することで、昇温されたスラリーYを生成している。
【0061】
〔溶出工程〕
溶出工程S2は溶出部3で行う。溶出工程S2では、調製部2で生成したスラリーYが溶出槽31に供給され、溶出槽31で、スラリーYの温度を維持又は昇温しつつスラリーYを攪拌する。溶出工程S2では、昇温されたスラリーY攪拌することによって、溶剤T中に石炭CRの溶剤可溶成分を溶出させる。溶出工程S2におけるスラリーYの温度としては、300℃以上であり、350℃以上420℃以下とすることが好ましい。
【0062】
〔分離工程〕
分離工程S3は分離部4で行う。分離工程S3では、溶出工程S2で処理されたスラリーYを、遠心分離法又は重力沈降法等を用いて、上記溶剤可溶成分が溶剤T中に溶出した溶液Lと、溶剤不溶成分及び溶剤Tを含む固形分濃縮液Mとに固液分離する。
【0063】
〔蒸発工程〕
蒸発工程S4は第一蒸発器51及び第二蒸発器52のそれぞれで行う。蒸発工程S4では、分離工程S3で分離された溶液L中の溶剤Tを第一蒸発器51が蒸発させ、上記溶剤可溶成分を無灰炭CHとして析出させる。蒸発工程S4によって得られた無灰炭CHは、コークス原料に配合する原料炭として好適に用いられる。第二蒸発器52は、分離工程S3で分離された固形分濃縮液M中の溶剤Tを蒸発させ、副生炭CSを析出させる。
【0064】
蒸発工程S4は、第一蒸発器51で二酸化炭素を含むガスGの雰囲気下で溶剤Tの蒸発分離を行う。二酸化炭素を含むガスGの雰囲気下で溶剤Tの蒸発分離を行うことで、溶液L中に存在する上記溶剤可溶成分(無灰炭CH)が僅かに酸化する。このため、蒸発する溶剤T中に留まる上記溶剤可溶成分を低減することができ、析出する無灰炭CHを増大させることができる。
【0065】
なお、上述の各工程の他、当該製造方法は、蒸発工程S4における第一蒸発部51で蒸発した溶剤Tを排出して回収する第一溶剤回収工程と、蒸発工程S4における第二蒸発部52で蒸発した溶剤Tを排出して回収する第二溶剤回収工程と、上記第一溶剤回収工程及び上記第二溶剤回収工程で回収された溶剤Tを調製工程S1で再利用する再利用工程とを備えている。以下、上記第一溶剤回収工程、上記第二溶剤回収工程及び上記再利用工程の具体的な手順の一例について説明する。
【0066】
〔第一溶剤回収工程〕
上記第一溶剤回収工程は第一蒸発部51と再利用ライン54とを連通する第一排出ラインP6で行う。上記第一溶剤回収工程では、第一蒸発部51で蒸発した溶剤Tを第一排出ラインP6に排出し、排出された溶剤Tを再利用ライン54に送る。上記第一溶剤回収工程では、排出された溶剤Tを液化したうえで再利用ライン54に送ってもよい。
【0067】
〔第二溶剤回収工程〕
上記第二溶剤回収工程は第二蒸発部54と再利用ライン54とを連通する第二排出ラインP7で行う。上記第二溶剤回収工程では、第二蒸発部52で蒸発した溶剤Tを第二排出ラインP7に排出し、排出された溶剤Tを再利用ライン54に送る。上記第二溶剤回収工程では、排出された溶剤Tを液化したうえで再利用ライン54に送ってもよい。
【0068】
〔再利用工程〕
上記再利用工程は再利用ライン54で行う。上記再利用工程では、上記第一溶剤回収工程で回収された溶剤T及び上記第二溶剤回収工程で回収された溶剤Tを溶剤貯留槽21に供給する。溶剤貯留槽21に供給される溶剤Tは、調製工程S1で溶剤Tの一部として再利用される。
【0069】
<利点>
当該製造装置1及び当該製造方法は、二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で溶剤Tの蒸発分離を行うことで、溶液L中に存在する上記溶剤可溶成分(無灰炭CH)が僅かに酸化する。このため、蒸発する溶剤T中に留まる上記溶剤可溶成分を低減させることができ、析出する無灰炭CHを増大させることができる。従って、当該製造装置1及び当該製造方法によると、無灰炭CHを効率的に製造することができる。
【0070】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0071】
当該製造装置1における調製部2の予熱器24は必須の構成はなく、生成したスラリーYを加熱してもよい。例えば、混合管25に加熱器を設けてスラリーYを300℃以上に加熱してもよく、溶出槽31が有するヒーターでスラリーYを加熱してもよい。
【0072】
第一排出ラインP6及び第二排出ラインP7の双方に排出された溶剤Tを調製部2で再利用するのではなく、一方の排出溶剤のみを回収して再利用してもよい。また、再利用ライン54は、第一排出ラインP6に排出された溶剤T及び第二排出ラインP7に排出された溶剤Tの両方又はいずれか一方に分留処理を施したうえで、分留後の溶剤を溶剤貯留槽21に供給するようにしてもよい。
【0073】
当該製造方法は、上述の第一溶剤回収工程、第二溶剤回収工程及び再利用工程を備えていなくてもよい。この場合、当該製造装置は、上述の第一排出ラインP6、第二排出ラインP7及び再利用ライン54を備えていなくてもよい。また、当該製造方法が、第一溶剤回収工程及び第二溶剤回収工程のうちの一方のみを備えている場合、当該製造装置は、第一溶剤回収工程に対応する第一排出ラインP6及び第二溶剤回収工程に対応する第二排出ラインP7のいずれか一方を備えていればよい。
【実施例0074】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0075】
試料1として、未処理の無灰炭を準備した。試料炭と溶剤とを混合してスラリーを調製し、このスラリーに溶出工程、分離工程及び蒸発工程を行って試料2~5の無灰炭を得た。試料2~5における蒸発工程は、分離工程で分離した溶液1gをボートに載せて石英管内で表1の条件で行った。石英管内の加熱は電気炉で10℃/分の上昇速度で行い、処理後に石英管内を送風して冷却した。溶剤として、工業用の二環芳香族化合物である1-メチルナフタレンを用いた。
【0076】
【0077】
なお、試料5における雰囲気中の二酸化炭素の比率は97%である(H2Oが3%)。
【0078】
〔重量減少比率の比較〕
熱重量測定法によって測定した試料1~5における窒素気流中10℃/min.で900℃までの温度上昇による重量減少比率の結果を
図3に示す。試験後の試料1の質量変化は0.574であり、試料1における無灰炭の揮発分は42.6%であった。二酸化炭素雰囲気で試験を行った試料4の質量変化は0.658であり、揮発分は34.2%であった。すなわち、二酸化炭素雰囲気で溶剤を蒸発させることで揮発分が8.4%減少したことが分かる。二酸化炭素と水蒸気とを含む雰囲気下で溶剤を蒸発させた試料5でも試料4に近い揮発分であった。窒素雰囲気で蒸発工程を行った試料3では、揮発分を大きく低減することはできなかった。
【0079】
〔元素組成分布の比較〕
試料2~5の元素組成分布を
図4に示す。二酸化炭素雰囲気で溶剤回収した無灰炭について、酸素含有率、すなわちO/Cが増加する傾向を示し、微少に酸化されている事が分かる。
【0080】
〔溶剤可溶成分の比較〕
揮発分測定後の各試料のテトラヒドロフラン溶出結果を
図5に示す。
図5において、solubleはテトラヒドロフランへの可溶成分の比率、residueはテトラヒドロフランへの不溶成分の比率を表している。
図5より、窒素雰囲気で処理した試料3より、二酸化炭素雰囲気で処理した試料4のほうが、residue収率及びresidue割合が増加したことがわかる。このことから、二酸化炭素雰囲気での処理において重質化が明らかに進行したことが分かる。
【0081】
〔軟化溶融性の比較〕
瀝青炭(試料8)と、90質量%の試料8に10質量%の試料3を添加した試料(試料6)と、90質量%の試料8に10質量%の試料4を添加した試料(試料7)との軟化溶融性をギーセラープラストメータ測定で比較した。その結果を
図6に示す。試料7は、試料6と比較して溶融性が低下している。つまり、窒素雰囲気で溶剤を蒸発させた無灰炭を添加した試料6に対して、二酸化炭素雰囲気で溶剤を蒸発させた無灰炭を添加した試料7は、溶融性が低下していることが分かる。無灰炭は、粘結材として用いる場合、溶融性が高過ぎるとコークスの強度を低下させることがある。本発明で得られる無灰炭は、溶融性が過剰ではなく抑制できているため、粘結材として好適である。