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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174461
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】宇宙航行体装置
(51)【国際特許分類】
   F03H 99/00 20090101AFI20231130BHJP
   B64G 1/24 20060101ALI20231130BHJP
   B64G 1/40 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
F03H99/00 Z
B64G1/24 400
B64G1/40 900
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173866
(22)【出願日】2022-10-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2022086165
(32)【優先日】2022-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】711006566
【氏名又は名称】小磯 和穂
(72)【発明者】
【氏名】小磯 和穂
(57)【要約】      (修正有)
【課題】実質的な意味で全電化を可能とする宇宙航行体装置を提供する。
【解決手段】宇宙航行体装置であって、応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減可能で、応力波を発生可能で、応力波の伝播方向の少なくとも一箇所以上をハンマ部の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更可能で、応力波を受取る事で射出される事が可能で、運動エネルギーを受取る事を可能とする事により宇宙航行体が運動エネルギーを獲得可能である事を特徴とする装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体であって
応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する手段と、
応力波を発生させる手段と、
応力波の伝播方向をハンマ部の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更する手段と、
応力波を受取る事で射出される手段と、
運動エネルギーを受取る事により推進力を得る手段と、
を有する事を特徴とする推進装置。
【請求項2】
請求項1記載の推進装置であって、移動中のウェイト部を挟持する事により推進力を得る事を特徴とする。
【請求項3】
請求項1記載の推進装置を用いた姿勢制御システム。
【請求項4】
請求項1記載の推進装置を用いた宇宙航行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体用推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、宇宙航行体の移動方法としては推進剤を用いるのが一般的である為、予め推進剤を内蔵しておき、推進剤自体を噴射または燃焼した反動によるもの(特許文献1、2)や、推進剤をイオン化しクーロン力により加速する(特許文献3)といったものがほとんどだった。
推進剤を使用せずに推進力を得る方法では、太陽光やレーザー等の輻射圧によるもの(特許文献4,5)などがみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-140875号公報
【特許文献2】特開2007-085213号公報
【特許文献3】特開昭63-212777号公報
【特許文献4】特開昭63-047000号公報
【特許文献5】米国特許公開006565044B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術だと、人工衛星の場合は、内蔵している推進剤が底をつくと移動や姿勢制御が不可能となり、他の機器が正常に作動していたとしても人工衛星自体の寿命と見做される事となる。
太陽光等の輻射圧を利用した推進方式であるソーラーセイルの場合だと推進剤は必要ないが小回りが利き難く、実用化するには結局、推進剤を用いる移動手段とのハイブリッドシステムを採用する必要がある。
つまり現状では、各種宇宙機の設計寿命をどれだけ延長可能だとしても推進剤搭載量で運用期間が左右される状態にある。
とはいえ、無重力状態で推進剤無しで物体を任意の方向へ移動させる事は従来手法では難しかった。例えば、質量が限りなく小さい宇宙機をある方向へ移動させるとして、機内にいる者が足を床に固定しつつ前記方向へボールを投じて宇宙機内側の壁に打当てた場合、宇宙機は前記方向に動くように思われる。しかし実際には投球時にボールを押出す力の反作用により宇宙機には前記方向とは逆方向にも同等の力が加わる為、最終的に宇宙機はボールにより押された方向と、該方向とは逆の方向との間で揺れるだけとなり、ボールを打当てた力は推進力とはならない。
本開示はかかる問題に鑑みてなされたものであり、無重力あるいは微小重力空間下において推進剤を要せずに宇宙航行体を推進する装置を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体であって、応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事と、応力波を発生させる事と、応力波の伝播方向をハンマ部の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更する事と、応力波を受取る事で射出される事と、運動エネルギーを受取る事により推進力を得る事と、を有する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、宇宙航行体がほぼ電力のみで推進可能となる為、推進剤搭載量の制限についての重要度は低くなる事に加え、従来型の推進剤不要な推進方法と比較すると機体の加速性能に優れている可能性が高い。また、宇宙航行体の推進方法としての利用のみならず、一応用例としてではあるが既存の姿勢制御システムのスラスタの噴射機構と置換する事で姿勢制御回数の制限もなくせる。
上記理由により、人工衛星の延命を図る事が出来るので必然的に打上げ回数が削減される。そのため、衛星インターネットサービス用衛星等、多くの人工衛星を有する企業では中長期的には大幅なコストダウンとなり、サービス料金に反映する事によりユーザーへの訴求効果が期待できる。
さらに、他国に所属する人工衛星を物理的に無力化するミッションを帯びた衛星を運用する場合だと、対象衛星が回避したとしても該衛星の推進剤が尽きるまで追跡を継続する事でいずれ目的を達成する。
また、将来的には、本開示による推進装置を搭載した大量の宇宙航行体を連ねて周回させ、他の星から資源を運搬してくるといった利用方法も考えられる。その際の推進剤コストは発生しない為、充分に採算の合う事業となる。
その他にも、推進装置を直接、一定程度の質量をもつスペースデブリに添装する事で大気圏内へと導いて処分したり、発電可能な状態を継続できる限りにおいてではあるが、より遠方かつ長期間の深宇宙探査が可能となり得る。
従って本開示による推進装置を搭載する対象は人工衛星をはじめとして、探査機、宇宙船、スペースデブリ、岩石等(以下、これら全てを含めて宇宙航行体と称する)と多岐に渉るものとみられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の実施形態1における推進装置の初期位置状態を示した説明図
図2】本開示の実施形態1における推進装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図3】本開示の実施形態1における推進装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図4】本開示の実施形態2における推進装置の初期位置状態を示した説明図
図5】本開示の実施形態2における推進装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図6】本開示の実施形態2における推進装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図7】本開示の実施形態3における推進装置の初期位置状態を示した説明図
図8】本開示の実施形態3における推進装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図9】本開示の実施形態3における推進装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図10】本開示の実施形態4における推進装置の変形例説明用の宇宙航行体の透過図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の実施形態による、無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体の推進装置を、図を参照して以下に説明する。実施例1では本開示による基本的な構造と動作の一例、実施例2では本開示の応力波生成部を電磁石へ置換した例、実施例3では本開示の応力波生成部をピエゾ素子へ置換した例、実施例4では本開示の姿勢制御システムへの変形例の記述となる。
【0009】
以下の実施例に共通する事として、理解を容易とする為に図面は概念的あるいは模式的なものとなっており、各部の比率や形状、部品等は必ずしも直接的に実機へ適用可能なものとは限らない。
【0010】
宇宙航行体の形状や使用目的により最適解が異なってくる為、一概には言い切れないが本開示による推進装置は搭載される各機体の重心付近に設置する事が望ましく、加えて、有人宇宙機での使用に際しては騒音や振動を処理する必要がある。
【0011】
仮に本開示の推進装置を搭載する宇宙航行体が膨大な質量を備えているなどの理由で巨大な推進力を獲得する必要があるならば、宇宙空間で極低温を得るのは難しくない為、超伝導電磁石を用いる事も考えられる。
【実施例0012】
以下に、実施形態1について説明する。
上記において、ボールを打当てて宇宙機を押す力は推進力とはならない、と記述したが推進剤を使用しない場合、無重力空間では運動エネルギーを発生させる際の反作用は何らかの手段で軽減しない限りは推進力たり得ない。本実施形態では、反作用の軽減を相殺という手段によって図ろうとするものであり、その後に運動エネルギーのベクトルを変更しつつ該運動エネルギーを取り出す事により最初に発生させた運動エネルギーの多くを推進力とする。
本実施形態の推進装置はリニアソレノイドアクチュエータにより動作させるものとなる。
ソレノイドアクチュエータ150については、図で表現されているものは動作の理解の一助となるよう簡略化して描かれた一例に過ぎず、他の形状や機能を有するものを使用してもよい。
【0013】
以下の本実施形態の推進装置は、動作時に応力波を発生する部位(以降、ハンマ部110と称す)と、応力波を受渡したりまたは応力波の伝播方向を変更する部位(以降、コア部120と称す)と、応力波を受取る事により射出される部位(以降、ウェイト部130と称す)と、運動エネルギーを受取る事で推進力とする部位(以降、ウォール部140と称す)とで構成されている。各部の材質について特に限定はないが過酷な宇宙環境下で劣化し難く効率的に応力波を発生・伝播できるものが望ましい。但しウォール部についてはこの限りではない。
【0014】
図1は本開示の実施形態1の動作前の初期位置状態を示している。
ハンマ部110においてはコア部120に接触しておらず、ウェイト部130においてはコア部120に接触している状態となっている。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、プランジャ160のストローク程度の間隔をあけた状態でソレノイドアクチュエータ150が固設されており、コア部120はハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは、プランジャ160先端部分のハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、ソレノイドアクチュエータ150に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、プランジャ160自体をハンマ部として直接用いてもよい。
ウェイト部130はウォール部140へ向けて直動可能な状態で設置されている。
【0015】
本開示の推進装置による宇宙航行体の推進速度については、理論上はウェイト部130射出時の初速に比例して上がっていく為、ハンマ部110を動作させる際には、他実施例においても言える事だがハンマ部が移動する前にこれを留めて蓄勢する為のロック機構を設けてもよい。ロック機構とは、ソレノイドアクチュエータ150通電時、直ちにプランジャ160が移動してしまうとハンマ部110はコア部120を緩やかに衝打する事になる為、プランジャ160を一時的に固定しておき該プランジャ160に対して十分に磁力が加わってから、即ちハンマ部110の初速がある程度担保されてからロックを解放するといった仕組みである。さらにより一層、ウェイト部130の初速を引き上げる手段としては、初期位置において予めコア部120とウェイト部130のいずれか若しくは双方共に部材自体を帯磁させるか、あるいは電磁石などによる適当な大きさの磁力で相互に吸着させておく事により、ハンマ部110動作時にガウス加速器の原理と同様の効果を得られるといったものが考えられる。
【0016】
図1の状態から推進装置を駆動する時には、ソレノイドアクチュエータ150に通電し、プランジャ160先端部分が移動する事でハンマ部110がコア部120を衝打する。
その結果、図2の状態となりコア部120に応力波が発生し該コア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で大半の運動エネルギーを受渡す。
他にも、ハンマ部110でコア部120以外のいずれかの部位を直接衝打し反作用を衝撃吸収材等で軽減する、という手段も考えられるが、ガウス加速器の効果の恩恵を受けられず、加えて、コア部120を介して複数のハンマ部110の運動エネルギーを集約したほうが動作の精度が高い為、上記のような手段では全体的な効率は著しく低下すると思われる。
【0017】
ハンマ部110によって生成された運動エネルギーはほぼ全てウェイト部130へ受渡すように調整可能だが、設計によっては各部の形状や角度、設置スペースの関係でウェイト部130射出時にコア部120に対する反作用の発生が完全には回避できないケースもある。コア部120への反作用は機体の初速や推進力のロスをもたらす要因となるので、そのような時に取り得る対応方法としては、コア部120後方に衝撃吸収材を敷設する事により反作用の運動エネルギーの一部を熱に変換して減衰または軽減させる、といったような手段を講じる事が考えられる。但し、宇宙環境においては既存の高性能な衝撃吸収材は短期間で劣化すると思われるので、新規開発を行うか、あるいは機械的な仕組みの衝撃吸収機構を用いる事が望ましい。しかしながら、可能であれば当初から設計で相殺などにより反作用が発生し難くなるよう調整しておくべきと思われる。
【0018】
本実施形態の図では、ウェイト部130の射出方向に対してハンマ部110の移動方向が直交するように記載されているが、特に角度を限定するものではなく設計上の都合によりハンマ部110の設置角度は任意のものとする事が出来る為、推進効率の点から各々の装置設計に適切で最も高効率な角度を探る事が望ましい。
【0019】
本実施形態ではハンマ部が対向配置されているが、これはハンマ部の動きを違える事で該ハンマ部動作時の反作用を相殺または軽減する為という理由がある。つまり少なくとも本実施形態においては、ハンマ部の移動方向と宇宙航行体の推進方向には必ず相違が生じるという事でありウェイト部130に運動エネルギーを受渡す際に伝播方向が変更されている必要がある。
【0020】
また、図では一対のハンマ部のみが記載されているが、ハンマ部の設置数については特に二つに限ったものではなく各ハンマ部の動作時の反作用を相殺可能な状態であるならば設置数に制限はない。例えばウェイト部130の進行方向を軸として周設する事でハンマ部を三つ以上に出来る。そして、本来は複数のハンマ部を同時に動作させてウェイト部130の移動方向への推進力を生み出すのだが、上記の形態でハンマ部を三つ以上備えた推進装置の場合、一時的にあえてハンマ部を一つのみ動作させたり、一部のハンマ部のみ弱く動作させる事で他ハンマ部の反作用を軽減するに留めたり、あるいは任意の複数個に絞って動作させるなど同期をとらずに駆動する事で宇宙航行体の方向舵の役割も担わせる事が出来る。
【0021】
コア部については本実施形態では各ハンマ部毎に一つずつ存在しているものの必ずしもハンマ部の数に対応するコア部を設置する必要はなく、一つのコア部を複数のハンマ部で衝打してもよい。
【0022】
コア部が複数存在する場合には、各コア部120の間に間隙が存在し該間隙部はハンマ部動作前後において失われないようにする必要がある。従って各コア部120は間隙を有した状態で固定されている事が望ましいが、ハンマ部110接触時に発生する応力波は、コア部120内でインピーダンスの変化する部分において反射する性質がある為、間隙にコア部とは異なる材質を挟着してもよい。そのため、コア部を球形以外にする場合には応力波の性質も見越したうえで形状設計する必要がある。
【0023】
ハンマ部110・コア部120・ウェイト部130の各形状については、物理計算が容易という利点がある為に本開示の実施形態では球形で表しているがいずれにおいても球形に限るものではなく、L字型や三角型等、研究開発を進めていく段階でより効果的な形状と思われるものに適宜変更可能である。
【0024】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部140へ接触した状態が図3となる。
ウェイト部130がウォール部140で制動されるか、またはウォール部140を叩打する事により該ウォール部が運動エネルギーを受取り、結果的に宇宙航行体自身が推進する事になる。
【0025】
ウォール部140には、ウェイト部130接触時に該ウェイト部130の過度な反発を抑制するべく何等かの処理が施されている事が望ましい。本実施形態ではウォール部140との接触部分にウェイト部130の一部分に近い形状の凹部を設ける事で反発力を減勢している。つまり、ウォール部140への接触後に発生する反発を利用して充分に減速したウェイト部130が初期位置へ復帰するよう凹部の深さで反発力を調整しておく。その際にウォール部140とコア部120の距離が、本実施形態の図が示すように大きくは離れていない状態であるならば、図1から図3のサイクルに示されているようにウェイト部130には何も設置せずとも単体でウォール部140とコア部120間の空間を飛んで移動させる事も可能な為、初期位置へと導く為の仕組みを設置する必要は無い。
このような非弾性衝突では運動エネルギーは失われても運動量保存則は成り立つ為、ウォール部140は押される事になる。
【0026】
ウェイト部130がウォール部140へ接触後は、ハンマ部110とウェイト部130を初期位置状態へと復帰させる必要がある。本実施形態では双方とも復帰機構は設置不要に出来るが他の実施方法では必要となる場合もある。その他の手段で復帰へ至る仕組みとしては、ガイドレールに沿って移動させる、ワイヤによって引寄せる、回動可能な状態に設置されたアームをサーボモータ等で制御する、コア部が磁力を帯びているならハンマ部に電磁石を設置して磁力を反転させて反発力を利用する、のように様々な方式が考えられる。但し、修理困難な所で運用する装置なので機構を簡素化する為にも、単に弾性係数が大きくはなく且つ機械的寿命回数が多い弾性体により各部を押戻すか引寄せる方式が望ましい。弾性体の例としては板バネや形状記憶合金等が挙げられる。尚、ウェイト部130の初期位置復帰時には極力、応力波が発生しないようコア部120へ接触させる必要がある。復帰したウェイト部130を留めておく手段としては、弱い磁力でコア部120とウェイト部130の双方を吸着させる事が望ましい。
本実施形態はコア部120が複数個存在している一例であり、設計次第ではウェイト部130に対しコア部120は一つという事もあり得る。
【実施例0027】
以下に、実施形態2について説明する。
本実施形態の推進装置は、電磁石210と一体化したハンマ部110により動作させるものとなる。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、ハンマ部110自体のストローク程度の間隔をあけた状態で、コア部120へ向けて直動可能な状態で設置されており、コア部120は、ハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。
【0028】
図4は本開示の実施形態2の動作前の初期位置状態を示している。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは、通電時に発生する磁力の吸着力によりコア部120へと移動する電磁石210と一体化したハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、電磁石210に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、電磁石210自体をハンマ部110として直接用いてもよい。
電磁石210については、図で表現されているものは動作の理解の一助となるよう簡略化して描かれた一例に過ぎず、他の形状や機能を有するものを使用してもよい。
【0029】
図4の状態から推進装置を駆動する時には、電磁石210に通電し、電磁石210と一体化したハンマ部110の移動によりコア部120を衝打する。
その結果、図5の状態となりコア部120に応力波が発生し該コア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で大半の運動エネルギーを受渡す。
【0030】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部へ接触した状態が図6となる。本実施形態ではウォール部が運動エネルギーを受取る為に別の手段を用いている。
本実施形態の図でいう上下方向に可動可能とした可動ウォール部220が複数個設置されておりウェイト部130射出時に、前進中のウェイト部130を、射出方向を軸とした周方向から可動ウォール部220で挟持する事により運動エネルギーを受取り推進力とする。図6では可動ウォール部220の接触面の形状をウェイト部130に合わせたものとする事で係止しているが、形状を考慮せず摩擦により滑止してもよい。但し本実施形態の方法では、ウェイト部130射出後に可動ウォール部220を動かす機構と、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる。その際、可動ウォール部220を動かす機構としてはハンマ部動作時と同等の手段が、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に記載したような手段が望ましい。
【0031】
可動ウォール部220の動作タイミングを得る手段については、ウェイト部130射出後に該ウェイト部130接近をセンサで検出する、またはウェイト部130移動時に可動ウォール部220の動作スイッチに接触して該ウォール部を動作させる等も考えられるが単純で故障し難い手段として、遅延回路を具備した可動ウォール部220と、ハンマ部110と、を同時に通電して動作させる事で定められた時間だけ遅延して動き出した可動ウォール部220によりウェイト部130が挟持されるといった機構によるものが望ましい。
本実施形態での可動ウォール部220は、何らかの事情で不作動だった場合においてもウェイト部130を衝止できる形状となっている。
その他の各部構成、動作や条件等は概ね実施形態1と同等となる。
【実施例0032】
以下に、実施形態3について説明する。
本実施形態の推進装置は、ハンマ部110をピエゾ素子310により動作させるものとなる。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、ピエゾ素子310の逆圧電効果発生時にハンマ部110をコア部120と接触するよう調整して近接させた状態か若しくは当初からハンマ部110とコア部120を当接させた状態で固設されており、コア部120はハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。つまり、極めて短ストロークのピエゾ素子を用いた場合はハンマ部衝打による応力波生成が難しい為、予めハンマ部110がコア部120と当接していれば、コア部の材質等にもよるが駆動時にピエゾ素子の微細な変形によりコア部120に応力波を発生させる事も可能となる。
図7で例示されているものは、ピエゾ素子を用いたものとしては比較的長ストロークの積層型圧電アクチュエータとなるが、ピエゾ素子が使用されているならば特に当該アクチュエータ製品に限らずとも本実施形態と同等と考えられる。
【0033】
図7は本開示の実施形態3の動作前の初期位置状態を示している。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは、通電に伴うピエゾ素子310の変形により動作するハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、ピエゾ素子310に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、ピエゾ素子310自体をハンマ部110として直接用いてもよい。
【0034】
ハンマ部110の駆動機構をピエゾ素子310へ置換するという本実施形態におけるメリットは高速応答性と精密な制御であり、他方式と比べてより厳密なタイミングで動作させる事が出来、さらにハンマ部110の初期位置復帰動作も不要になるといった点が挙げられる。しかしピエゾ素子自体の寿命を踏まえると、深宇宙探査等の極めて長期間駆働し続ける事が求められる宇宙航行体に搭載する場合には、環境面も相まって連続稼働可能時間が保証出来ない為にやや不向きな方式と考えられる。
【0035】
図7の状態から推進装置を駆動する時には、ピエゾ素子310に通電し、ピエゾ素子310と一体化したハンマ部110の動作によりコア部120に応力波を生成する。
その結果、図8の状態となりコア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で大半の運動エネルギーを受渡す。
【0036】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部140へ接触した状態が図9となる。本実施形態ではウォール部140が運動エネルギーを受取る為に別の手段を用いている。
本実施形態のウェイト部130はアーム320が接続されており、ウォール部140にはアーム320が滑動できるよう穿孔されている。射出されたウェイト部130がアーム320の移動可能な限界距離に達した時に、ウォール部140がアーム320を掛止する事により宇宙航行体を牽引する形で運動エネルギーを伝達して推進力とする。
本実施形態の方法では、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる。その際、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に記載したような手段が望ましい。
その他の各部構成、動作や条件等は概ね実施形態1と同等となる。
【0037】
各実施例ではウォール部については、機能毎の理解を容易とするためにこの部位にウォール部という名をつけて説明しているが、外力が加わった時に宇宙航行体へと適切に伝達される状態となっていればよいので、必ずしもウォール部140という独立した部位が必要というわけではない。従って、機能するのであれば直接、宇宙航行体の適当な一部に対して運動エネルギーを受渡し、これをウォール部と称してもよい。一見したところウォール部140に該当する部位が存在しない手段としては、ウェイト部130の直接の接触による運動エネルギーの受渡しが発生しないケースが考えられる。例えばウェイト部130が宇宙航行体に設置されたレールに沿って運動している場合や、ウェイト部130と宇宙航行体間がワイヤ等の部材により接続されている場合などは、射出されたウェイト部130がレールやワイヤ等による移動可能な限界距離に達した時に宇宙航行体を牽引する形で運動エネルギーを伝達して推進力とする事が出来、ウォール部140接触による効果と同等と見做せる。つまり、ウェイト部130が牽引する状態となった時点でのウェイト部との接触部が運動エネルギーを受取って推進力としている為、該接触部自体が事実上のウォール部であるともいえる。
【実施例0038】
以下に、実施形態4について説明する。
宇宙航行体の姿勢制御システムにあるリアクションホイール410やモーメンタムホイール等のアンローディング時に使用する姿勢制御用のスラスタ420の噴射機構を本開示の手段を用いた推進装置へと単純に置換するだけで外乱トルクなどに対する姿勢制御回数について考慮する必要がなくなるので搭載されている機器類が故障するまで使用し続ける事ができる。
例えば人工衛星の場合だと一般的なものでも一基あたりの製造費は高額であり、打上げを含めた全体の運用費用は非常に高コストなものとなる。従来ならば製造も打上げも数回は実施しなくてはならない程の期間でも、本実施形態の姿勢制御システムを採用した場合だと一回のみで済ませるといった事も出来る。特に、空気抵抗の影響で短命となりがちなLEO衛星においてコスト削減効果が大きい。
尚、図10にあるリアクションホイール410の位置や形状、スラスタ420の位置や設置個数、形状等は本実施形態の説明の為に描かれたものであるので実機の探査機とは異なる。
【0039】
以上、本開示を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本開示はこれらの実施例に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々な形態で実施し得る。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本開示による宇宙航行体推進方法は消耗品が存在しないだけでなく、動作原理も構造も単純であるために製造が容易で故障し難く、メンテナンスフリーを実現する事もできる。
可動部は存在するが、ほぼ全ての個所を点接触とする事も出来るので接触面での強固な固着は生じず、宇宙空間での長期運用に適した推進方法と考えられる為、絶えず移動を繰り返す等の様々な活動を永きにわたって実行可能となる。
他にも、本開示の推進装置により任意の方向へ移動可能とした宇宙ゴミの処分を実施したり、姿勢制御システムへの応用等に有用である。
【符号の説明】
【0041】
110 ハンマ部
120 コア部
130 ウェイト部
140 ウォール部
150 ソレノイドアクチュエータ
160 プランジャ
210 電磁石
220 可動ウォール部
310 ピエゾ素子
320 アーム
410 リアクションホイール
420 スラスタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2022-11-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体用推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、宇宙航行体の移動方法としては推進剤を用いるのが一般的である為、予め推進剤を内蔵しておき、推進剤自体を噴射または燃焼した反動によるもの(特許文献1、2)や、推進剤をイオン化しクーロン力により加速する(特許文献3)といったものがほとんどだった。
推進剤を使用せずに推進力を得る方法では、太陽光やレーザー等の輻射圧によるもの(特許文献4,5)などがみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-140875号公報
【特許文献2】特開2007-085213号公報
【特許文献3】特開昭63-212777号公報
【特許文献4】特開昭63-047000号公報
【特許文献5】米国特許公開006565044B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術だと、人工衛星の場合は、内蔵している推進剤が底をつくと移動や姿勢制御が不可能となり、他の機器が正常に作動していたとしても人工衛星自体の寿命と見做される事となる。
太陽光等の輻射圧を利用した推進方式であるソーラーセイルの場合だと推進剤は必要ないが小回りが利き難く、実用化するには結局、推進剤を用いる移動手段とのハイブリッドシステムを採用する必要があると発明者は認識している
つまり現状では、各種宇宙機の設計寿命をどれだけ延長可能だとしても推進剤搭載量で運用期間が左右される状態にあると考えられる
とはいえ、無重力状態で推進剤無しで物体を任意の方向へ移動させる事は従来手法では難しかった。例えば、質量が限りなく小さい宇宙機をある方向へ移動させるとして、機内にいる者が足を床に固定しつつ前記方向へボールを投じて宇宙機内側の壁に打当てた場合、宇宙機は前記方向に動くように思われる。しかし実際には投球時にボールを押出す力の反作用により宇宙機には前記方向とは逆方向にも同等の力が加わる為、最終的に宇宙機はボールにより押された方向と、該方向とは逆の方向との間で揺れるだけとなり、ボールを打当てた力は推進力とはならない。
本開示はかかる問題に鑑みてなされたものであり、無重力あるいは微小重力空間下において推進剤を要せずに宇宙航行体を推進する装置を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体であって、応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事と、応力波を発生させる事と、応力波の伝播方向をハンマ部の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更する事と、応力波を受取る事で射出される事と、運動エネルギーを受取る事により推進力を得る事と、を有する。
以下の開示において、提示された主題の異なる特徴を実施する為の多くの異なる実施形態や実施例を提供する。本開示を平易にする為、構成部品や配置の具体例を以下に説明する。これらは単なる例であり限定的であることを意図するものではない。例えば、第一の特徴が、続いて説明する第二の特徴に覆われる、あるいはこれと接する構造は、第一の特徴および第二の特徴が直接接触するように形成されている実施形態とともに、第一の特徴と第二の特徴との間に付加的な特徴を形成して第一の特徴と第二の特徴とが直接接触しない実施形態も含んでよい。さらに、本開示では様々な例において参照番号または文字を反復している場合がある。これは簡潔明瞭にする為であり、それ自体が様々な実施形態または説明されている構成との間に関係がある事を必要とするものではない。さらに、第一要素が第二要素に「接続されている」または「結合されている」と記述する時は、第一要素と第二要素とが互いに直接的に接続または結合されている実施例を含むとともに、第一要素と第二要素とが、その間に介在する一以上の他の要素を有して互いに間接的に接続または結合されている実施形態も含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、宇宙航行体がほぼ電力のみで推進可能となる為、推進剤搭載量の制限についての重要度は低くなる事に加え、従来型の推進剤不要な推進方法と比較すると機体の加速性能に優れている可能性が高い。また、宇宙航行体の推進方法としての利用のみならず、一応用例としてではあるが既存の姿勢制御システムのスラスタの噴射機構と置換する事で姿勢制御回数の制限もなくせる。
上記理由により、人工衛星の延命を図る事が出来るので必然的に打上げ回数が削減される。そのため、衛星インターネットサービス用衛星等、多くの人工衛星を有する企業では中長期的には大幅なコストダウンとなり、サービス料金に反映する事によりユーザーへの訴求効果が期待できる。
さらに、他国に所属する人工衛星を物理的に無力化するミッションを帯びた衛星を運用する場合だと、対象衛星が回避したとしても該衛星の推進剤が尽きるまで追跡を継続する事でいずれ目的を達成する。
また、将来的には、本開示による推進装置を搭載した大量の宇宙航行体を連ねて周回させ、他の星から資源を運搬してくるといった利用方法も考えられる。その際の推進剤コストは発生しない為、充分に採算の合う事業となる。
その他にも、推進装置を直接、一定程度の質量をもつスペースデブリに添装する事で大気圏内へと導いて処分したり、発電可能な状態を継続できる限りにおいてではあるが、より遠方かつ長期間の深宇宙探査が可能となり得る。
従って本開示による推進装置を搭載する対象は人工衛星をはじめとして、探査機、宇宙船、スペースデブリ、岩石等(以下、これら全てを含めて宇宙航行体と称する)と多岐に渉るものとみられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の実施形態1における推進装置の初期位置状態を示した説明図
図2】本開示の実施形態1における推進装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図3】本開示の実施形態1における推進装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図4】本開示の実施形態2における推進装置の初期位置状態を示した説明図
図5】本開示の実施形態2における推進装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図6】本開示の実施形態2における推進装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図7】本開示の実施形態3における推進装置の初期位置状態を示した説明図
図8】本開示の実施形態3における推進装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図9】本開示の実施形態3における推進装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図10】本開示の実施形態4における推進装置の変形例説明用の宇宙航行体の透過図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の実施形態による、無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体の推進装置を、図を参照して以下に説明する。実施例1では本開示による基本的な構造と動作の一例、実施例2では本開示の応力波生成部を電磁石へ置換した例、実施例3では本開示の応力波生成部をピエゾ素子へ置換した例、実施例4では本開示の姿勢制御システムへの変形例の記述となる。
【0009】
以下の実施例に共通する事として、理解を容易とする為に図面は概念的あるいは模式的なものとなっており、各部の比率や形状、部品等は必ずしも直接的に実機へ適用可能なものとは限らない。
【0010】
宇宙航行体の形状や使用目的により最適解が異なってくる為、一概には言い切れないが本開示による推進装置は搭載される各機体の重心付近に設置する事が望ましく、加えて、有人宇宙機での使用に際しては騒音や振動を処理する必要が発生する可能性がある
仮に本開示の推進装置を搭載する宇宙航行体が膨大な質量を備えているなどの理由で巨大な推進力を獲得する必要があるならば、宇宙空間で極低温を得るのは難しくない為、超伝導電磁石を用いる事も考えられる。
【実施例0011】
以下に、実施形態1について説明する。
上記において、ボールを打当てて宇宙機を押す力は推進力とはならない、と記述したが推進剤を使用しない場合、無重力空間では運動エネルギーを発生させる際の反作用は何らかの手段で軽減しない限りは推進力たり得ないと発明者は認識している。本実施形態では、反作用の軽減を相殺という手段によって図ろうとするものであり、その後に運動エネルギーのベクトルを変更しつつ該運動エネルギーを取り出す事により最初に発生させた運動エネルギーの多くを推進力とする。
本実施形態の推進装置はリニアソレノイドアクチュエータにより動作させるものとなる。
ソレノイドアクチュエータ150については、図で表現されているものは動作の理解の一助となるよう簡略化して描かれた一例に過ぎず、他の形状や機能を有するものを使用してもよい。
【0012】
以下の本実施形態の推進装置は、動作時に応力波を発生する部位(以降、ハンマ部110と称す)と、応力波を受渡したりまたは応力波の伝播方向を変更する部位(以降、コア部120と称す)と、応力波を受取る事により射出される部位(以降、ウェイト部130と称す)と、運動エネルギーを受取る事で推進力とする部位(以降、ウォール部140と称す)とで構成されている。各部の材質について特に限定はないが過酷な宇宙環境下で劣化し難く効率的に応力波を発生・伝播できるものが望ましい。但しウォール部についてはこの限りではない。
【0013】
図1は本開示の実施形態1の動作前の初期位置状態を示している。
ハンマ部110においてはコア部120に接触しておらず、ウェイト部130においてはコア部120に接触している状態となっている。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、プランジャ160のストローク程度の間隔をあけた状態でソレノイドアクチュエータ150が固設されており、コア部120はハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは通電により移動するプランジャ160先端部分のハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、ソレノイドアクチュエータ150に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、プランジャ160自体をハンマ部として直接用いてもよい。
ウェイト部130はウォール部140へ向けて直動可能な状態で設置されている。
【0014】
本開示の推進装置による宇宙航行体の推進速度については、理論上はウェイト部130射出時の初速に比例して上がっていく為、ハンマ部110を動作させる際には、他実施例においても言える事だがハンマ部が移動する前にこれを留めて蓄勢する為のロック機構を設けてもよい。ロック機構とは、ハンマ部動作時、直ちにハンマ部が移動してしまうとハンマ部はコア部を緩やかに衝打する事になる為、ハンマ部を一時的に固定しておき該ハンマ部に対して十分に力が加わってから、即ちハンマ部の初速がある程度担保されてからロックを解放するといった仕組みである。さらにより一層、ウェイト部130の初速を引き上げる手段としては、初期位置において予めコア部120とウェイト部130のいずれか若しくは双方共に部材自体を帯磁させるか、あるいは電磁石などによる適当な大きさの磁力で相互に吸着させておく事により、ハンマ部110動作時にガウス加速器の原理と同様の効果を得られるといったものが考えられる。
【0015】
図1の状態から推進装置を駆動する時には、ソレノイドアクチュエータ150に通電し、プランジャ160先端部分が移動する事でハンマ部110がコア部120を衝打する。
その結果、図2の状態となりコア部120に応力波が発生し該コア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で運動エネルギーを受渡す。
他にも、ハンマ部110でコア部120以外のいずれかの部位を直接衝打し反作用を衝撃吸収材等で軽減する、という手段も考えられるが、ガウス加速器の効果の恩恵を受けられず、加えて、コア部120を介して複数のハンマ部110の運動エネルギーを集約したほうが動作の精度が高い為、上記のような手段では全体的な効率は著しく低下すると思われる。
【0016】
ハンマ部110によって生成された運動エネルギーは、ほぼ全てウェイト部130へ受渡すよう調整可能だが、設計によっては各部の形状や角度、設置スペースの関係でウェイト部130射出時にコア部120に対する反作用の発生が完全には回避できないケースもある。コア部120への反作用は機体の初速や推進力のロスをもたらす要因となるので、そのような時に取り得る対応方法としては、コア部120後方に衝撃吸収材を敷設する事により反作用の運動エネルギーの一部を熱に変換して減衰または軽減させる、といったような手段を講じる事が考えられる。但し、宇宙環境においては既存の高性能な衝撃吸収材は短期間で劣化すると思われるので、新規開発を行うか、あるいは機械的な仕組みの衝撃吸収機構を用いる事が望ましい。しかしながら、可能であれば当初から設計で相殺などにより反作用が発生し難くなるよう調整しておくべきと思われる。
【0017】
本実施形態の図では、ウェイト部130の射出方向に対してハンマ部110の移動方向が直交するように記載されているが、特に角度を限定するものではなく設計上の都合によりハンマ部110の設置角度は任意のものとする事が出来る為、推進効率の点から各々の装置設計に適切で最も高効率な角度を探る事が望ましい。
【0018】
本実施形態ではハンマ部が対向配置されているが、これはハンマ部の動きを違える事で該ハンマ部動作時の反作用を相殺または軽減する為という理由がある。つまり本開示においては、ハンマ部の移動方向と宇宙航行体の推進方向には相違が生じる可能性がありその時には基本的に、ウェイト部130に運動エネルギーを受渡す際に伝播方向変更する事になる。
【0019】
また、図では一対のハンマ部のみが記載されているが、ハンマ部の設置数については特に二つに限ったものではなく各ハンマ部の動作時の反作用を相殺可能な状態であるならば設置数に制限はない。例えばウェイト部130の進行方向を軸として周設する事でハンマ部を三つ以上に出来る。そして、本来は複数のハンマ部を同時に動作させてウェイト部130の移動方向への推進力を生み出すのだが、上記の形態でハンマ部を三つ以上備えた推進装置の場合、一時的にあえてハンマ部を一つのみ動作させたり、一部のハンマ部のみ弱く動作させる事で他ハンマ部の反作用を軽減するに留めたり、あるいは任意の複数個に絞って動作させるなど同期をとらずに駆動する事で宇宙航行体の方向舵の役割も担わせる事が出来る。
【0020】
コア部については本実施形態では各ハンマ部毎に一つずつ存在しているものの必ずしもハンマ部の数に対応するコア部を設置する必要はなく、一つのコア部を複数のハンマ部で衝打してもよい。
【0021】
コア部が複数存在する場合には、各コア部120の間に間隙が存在し該間隙部はハンマ部動作前後において失われないようにする必要がある。従って各コア部120は間隙を有した状態で固定されている事が望ましいが、ハンマ部110接触時に発生する応力波は、コア部120内でインピーダンスの変化する部分において反射する性質がある為、間隙にコア部とは異なる材質を挟着してもよい。そのため、コア部を球形以外にする場合には応力波の性質も見越したうえで形状設計する必要がある。
【0022】
ハンマ部・コア部・ウェイト部の各形状については、物理計算が容易という利点がある為に本開示の実施形態では球形で表しているがいずれにおいても球形に限るものではなく、L字型や三角型、あるいはその他の研究開発を進めていく段階でより効果的な形状と思われるものに適宜変更可能である。
【0023】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部140へ接触した状態が図3となる。
ウェイト部130がウォール部140で制動されるか、またはウォール部140を叩打する事により該ウォール部が運動エネルギーを受取り、結果的に宇宙航行体自身が推進する事になる。
【0024】
ウォール部140には、ウェイト部130接触時に該ウェイト部130の過度な反発を抑制するべく何等かの処理が施されている事が望ましい。本実施形態ではウォール部140との接触部分にウェイト部130の一部分に近い形状の凹部を設ける事で反発力を減勢している。つまり、ウォール部140への接触後に発生する反発を利用して充分に減速したウェイト部130が初期位置へ復帰するよう凹部の深さで反発力を調整しておく。その際にウォール部140とコア部120の距離が、本実施形態の図が示すように大きくは離れていない状態であるならば、図1から図3のサイクルに示されているようにウェイト部130に対して何も設置せずとも単体でウォール部140とコア部120間の空間を飛んで移動させる事も可能な為、初期位置へと導く為の仕組みを設置する必要は無い可能性がある
このような非弾性衝突では運動エネルギーは失われても運動量保存則は成り立つ為、ウォール部140は押される事になる。
【0025】
ウェイト部130がウォール部140へ接触後は、ハンマ部110とウェイト部130を初期位置状態へと復帰させる必要がある。本実施形態では双方とも復帰機構は設置不要に出来るが他の実施方法では必要となる場合もある。その他の手段で復帰へ至る仕組みとしては、ガイドレールに沿って移動させる、ワイヤによって引寄せる、回動可能な状態に設置されたアームをサーボモータ等で制御する、コア部が磁力を帯びているならハンマ部に電磁石を設置して磁力を反転させて反発力を利用する、のように様々な方式が考えられる。但し、修理困難な所で運用する装置なので機構を簡素化する為にも、単に弾性係数が大きくはなく且つ機械的寿命回数が多い弾性体により各部を押戻すか引寄せる方式が望ましい。弾性体の例としては板バネや形状記憶合金等が挙げられる。尚、ウェイト部130の初期位置復帰時には極力、応力波が発生しないようコア部120へ接触させる必要がある。復帰したウェイト部130を留めておく手段としては、弱い磁力でコア部120とウェイト部130の双方を吸着させる事が望ましい。
本実施形態はコア部120が複数個存在している一例であり、設計次第ではウェイト部130に対しコア部120は一つという事もあり得る。
【実施例0026】
以下に、実施形態2について説明する。
本実施形態の推進装置は、電磁石210と一体化したハンマ部110により動作させるものとなる。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、ハンマ部110自体のストローク程度の間隔をあけた状態で、コア部120へ向けて直動可能な状態で設置されており、コア部120は、ハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。
【0027】
図4は本開示の実施形態2の動作前の初期位置状態を示している。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは、通電時に発生する磁力の吸着力によりコア部120へと移動する電磁石210と一体化したハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、電磁石210に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、電磁石210自体をハンマ部110として直接用いてもよい。
電磁石210については、図で表現されているものは動作の理解の一助となるよう簡略化して描かれた一例に過ぎず、他の形状や機能を有するものを使用してもよい。
【0028】
図4の状態から推進装置を駆動する時には、電磁石210に通電し、電磁石210と一体化したハンマ部110の移動によりコア部120を衝打する。
その結果、図5の状態となりコア部120に応力波が発生し該コア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で運動エネルギーを受渡す。
【0029】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部へ接触した状態が図6となる。本実施形態ではウォール部が運動エネルギーを受取る為に別の手段を用いている。
本実施形態の図でいう上下方向に可動可能とした可動ウォール部220が複数個設置されておりウェイト部130射出時に、前進中のウェイト部130を、射出方向を軸とした周方向から可動ウォール部220で挟持する事により運動エネルギーを受取り推進力とする。図6では可動ウォール部220の接触面の形状をウェイト部130に合わせたものとする事で係止しているが、形状を考慮せず摩擦により滑止してもよい。但し本実施形態の方法では、ウェイト部130射出後に可動ウォール部220を動かす機構と、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる。その際、可動ウォール部220を動かす機構としてはハンマ部動作時と同等の手段が、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に記載したような手段が望ましい。
【0030】
可動ウォール部220の動作タイミングを得る手段については、ウェイト部130射出後に該ウェイト部130接近をセンサで検出する、またはウェイト部130移動時に可動ウォール部220の動作スイッチに接触して該ウォール部を動作させる等も考えられるが単純で故障し難い手段として、遅延回路を具備した可動ウォール部220と、ハンマ部110と、を同時に通電して動作させる事で定められた時間だけ遅延して動き出した可動ウォール部220によりウェイト部130が挟持されるといった機構によるものが望ましい。
本実施形態での可動ウォール部220は、何らかの事情で不作動だった場合においてもウェイト部130を衝止できる形状となっている。
その他の各部構成、動作や条件等は概ね実施形態1と同等となる。
【実施例0031】
以下に、実施形態3について説明する。
本実施形態の推進装置は、ハンマ部110をピエゾ素子310により動作させるものとなる。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、ピエゾ素子310の逆圧電効果発生時にハンマ部110をコア部120と接触するよう調整して近接させた状態か若しくは当初からハンマ部110とコア部120を当接させた状態で固設されており、コア部120はハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。つまり、極めて短ストロークのピエゾ素子を用いた場合はハンマ部衝打による応力波生成が難しい為、予めハンマ部110がコア部120と当接していれば、コア部の材質等にもよるが駆動時にピエゾ素子の微細な変形によりコア部120に応力波を発生させる事も可能となる。
図7で例示されているものは、ピエゾ素子を用いたものとしては比較的長ストロークの積層型圧電アクチュエータとなるが、ピエゾ素子が使用されているならば特に当該アクチュエータ製品に限らずとも本実施形態と同等と考えられる。
【0032】
図7は本開示の実施形態3の動作前の初期位置状態を示している。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは、通電に伴うピエゾ素子310の変形により動作するハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、ピエゾ素子310に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、ピエゾ素子310自体をハンマ部110として直接用いてもよい。
【0033】
ハンマ部110の駆動機構をピエゾ素子310へ置換するという本実施形態におけるメリットは高速応答性と精密な制御であり、他方式と比べてより厳密なタイミングで動作させる事が出来、さらにハンマ部110の初期位置復帰動作も不要になるといった点が挙げられる。しかしピエゾ素子自体の寿命を踏まえると、深宇宙探査等の極めて長期間駆働し続ける事が求められる宇宙航行体に搭載する場合には、環境面も相まって連続稼働可能時間が保証出来ない為にやや不向きな方式と考えられる。
【0034】
図7の状態から推進装置を駆動する時には、ピエゾ素子310に通電し、ピエゾ素子310と一体化したハンマ部110の動作によりコア部120に応力波を生成する。
その結果、図8の状態となりコア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で運動エネルギーを受渡す。
【0035】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部140へ接触した状態が図9となる。本実施形態ではウォール部が運動エネルギーを受取る為に別の手段を用いている。
本実施形態のウェイト部130はアーム320が接続されており、ウォール部140にはアーム320が滑動できるよう穿孔されている。射出されたウェイト部130がアーム320の移動可能な限界距離に達した時に、ウォール部140がアーム320を掛止する事により宇宙航行体を牽引する形で運動エネルギーを伝達して推進力とする。
本実施形態の方法では、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる。その際、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に記載したような手段が望ましい。
その他の各部構成、動作や条件等は概ね実施形態1と同等となる。
【0036】
各実施例ではウォール部については、機能毎の理解を容易とするためにこの部位にウォール部という名をつけて説明しているが、外力が加わった時に宇宙航行体へと適切に伝達される状態となっていればよいので、必ずしもウォール部140という独立した部位が必要というわけではない。従って、機能するのであれば直接、宇宙航行体の適当な一部に対して運動エネルギーを受渡し、これをウォール部と称してもよい。一見したところウォール部140に該当する部位が存在しない手段としては、ウェイト部130の直接の接触による運動エネルギーの受渡しが発生しないケースが考えられる。例えばウェイト部130が宇宙航行体に設置されたレールに沿って運動している場合や、ウェイト部130と宇宙航行体間がワイヤや、回動可能な状態に設置されたアーム等の部材により接続されている場合などは、射出されたウェイト部130がレールやワイヤ、アーム等による移動可能な限界距離に達した時に宇宙航行体を牽引する事で推進力とする事が出来、ウォール部140接触による効果と同等とる。つまり、ウェイト部130が牽引する状態となった時点でのウェイト部との接触部が運動エネルギーを受取って推進力としている為、該接触部自体が事実上のウォール部であるともいえる。
【実施例0037】
以下に、実施形態4について説明する。
宇宙航行体の姿勢制御システムにあるリアクションホイール410やモーメンタムホイール等のアンローディング時に使用する姿勢制御用のスラスタ420の噴射機構を本開示の手段を用いた推進装置へと単純に置換するだけで外乱トルクなどに対する姿勢制御回数について考慮する必要がなくなるので搭載されている機器類が故障するまで使用し続ける事ができる。
例えば人工衛星の場合だと一般的なものでも一基あたりの製造費は高額であり、打上げを含めた全体の運用費用は非常に高コストなものとなる。よって従来ならば製造も打上げも数回は実施しなくてはならない程の期間でも、本実施形態の姿勢制御システムを採用した場合だと一回のみで済ませるといった事も出来る。特に、空気抵抗の影響で短命となりがちなLEO衛星においてコスト削減効果が大きい。
尚、図10にあるリアクションホイール410スラスタ420の位置や設置個数、形状等は本実施形態の説明の為に描かれたものであるので実機の探査機とは異なる。
【0038】
以上、本開示を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本開示はこれらの実施例に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々な形態で実施し得る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本開示による宇宙航行体推進方法は消耗品が存在しないだけでなく、動作原理も構造も単純であるために製造が容易で故障し難く、メンテナンスフリーを実現する事もできる。
可動部は存在するが、ほぼ全ての個所を点接触とする事も出来るので接触面での強固な固着は生じず、宇宙空間での長期運用に適した推進方法と考えられる為、絶えず移動を繰り返す等の様々な活動を永きにわたって実行可能となる。
他にも、本開示の推進装置により任意の方向へ移動可能とした宇宙ゴミの処分を実施したり、姿勢制御システムへの応用等に有用である。
【符号の説明】
【0040】
110 ハンマ部
120 コア部
130 ウェイト部
140 ウォール部
150 ソレノイドアクチュエータ
160 プランジャ
210 電磁石
220 可動ウォール部
310 ピエゾ素子
320 アーム
410 リアクションホイール
420 スラスタ
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図10
【補正方法】変更
【補正の内容】
図10
【手続補正書】
【提出日】2022-11-28
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体用推進装置であって
応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事が可能な手段と、
応力波を発生可能な手段と、
応力波の伝播方向の少なくとも一箇所以上をハンマ部の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更可能な手段と、
応力波を受取る事で射出される事が可能な手段と、
運動エネルギーを受取る事を可能とする事により推進力を獲得可能とする手段と、
を有する事を特徴とする推進装置。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項2】
請求項1記載の推進装置であって、ウェイト部130の動作を射出方向を軸とした周方向から制動可能とする事により推進力を獲得可能である事を特徴とする。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
本開示は、無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体用推進装置であって、応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事が可能な事と、応力波を発生可能な事と、応力波の伝播方向の少なくとも一箇所以上をハンマ部の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更可能な事と、応力波を受取る事で射出される事が可能な事と、運動エネルギーを受取る事を可能とする事により推進力を獲得可能とする事と、を有する。
以下の開示において、提示された主題の異なる特徴を実施する為の多くの異なる実施形態や実施例を提供する。本開示を平易にする為、構成部品や配置の具体例を以下に説明する。これらは単なる例であり限定的であることを意図するものではない。例えば、第一の特徴が、続いて説明する第二の特徴に覆われる、あるいはこれと接する構造は、第一の特徴および第二の特徴が直接接触するように形成されている実施形態とともに、第一の特徴と第二の特徴との間に付加的な特徴を形成して第一の特徴と第二の特徴とが直接接触しない実施形態も含んでよい。さらに、本開示では様々な例において参照番号または文字を反復している場合がある。これは簡潔明瞭にする為であり、それ自体が様々な実施形態または説明されている構成との間に関係がある事を必要とするものではない。さらに、第一要素が第二要素に「接続されている」または「結合されている」と記述する時は、第一要素と第二要素とが互いに直接的に接続または結合されている実施例を含むとともに、第一要素と第二要素とが、その間に介在する一以上の他の要素を有して互いに間接的に接続または結合されている実施形態も含む。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体用推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、宇宙航行体の移動方法としては推進剤を用いるのが一般的である為、予め推進剤を内蔵しておき、推進剤自体を噴射または燃焼した反動によるもの(特許文献1、2)や、推進剤をイオン化しクーロン力により加速する(特許文献3)といったものがほとんどだった。
推進剤を使用せずに推進力を得る方法では、太陽光やレーザー等の輻射圧によるもの(特許文献4,5)などがみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-140875号公報
【特許文献2】特開2007-085213号公報
【特許文献3】特開昭63-212777号公報
【特許文献4】特開昭63-047000号公報
【特許文献5】米国特許公開006565044B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術だと、人工衛星の場合は、内蔵している推進剤が底をつくと任意方向への移動や姿勢制御が不可能となり、他の機器が正常に作動していたとしても人工衛星自体の寿命と見做される事となる。
太陽光等の輻射圧を利用した推進方式であるソーラーセイルの場合だと推進剤は必要ないが小回りが利き難く、実用化するには結局、推進剤を用いる移動手段とのハイブリッドシステムを採用する必要があると発明者は認識している。
つまり現状では、各種宇宙機の設計寿命をどれだけ延長可能だとしても推進剤搭載量で運用期間が左右される状態にあると考えられる。
とはいえ、無重力状態で推進剤無しで物体を任意の方向へ移動させる事は従来手法では難しかった。例えば、質量が限りなく小さい宇宙機をある方向へ移動させるとして、機内にいる者が足を床に固定しつつ前記方向へボールを投じて宇宙機内側の壁に打当てた場合、宇宙機は前記方向に動くように思われる。しかし実際には投球時にボールを押出す力の反作用により宇宙機には前記方向とは逆方向にも同等の力が加わる為、最終的に宇宙機はボールにより押された方向と該方向とは逆の方向との間で揺れるだけとなり、ボールを打当てた力は推進力とはならない。
本開示はかかる問題に鑑みてなされたものであり、無重力あるいは微小重力空間下において推進剤を要せずに宇宙航行体を推進する装置を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体用推進装置であって、応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事が可能な事と、応力波を発生可能な事と、応力波の伝播方向の少なくとも一箇所以上をハンマ部の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更可能な事と、応力波を受取る事で射出される事が可能な事と、運動エネルギーを受取る事を可能とする事により推進力を獲得可能とする事と、を有する。
以下の開示において、提示された主題の異なる特徴を実施する為の多くの異なる実施形態や実施例を提供する。本開示を平易にする為、構成部品や配置の具体例を以下に説明する。これらは単なる例であり限定的であることを意図するものではない。例えば、第一の特徴が、続いて説明する第二の特徴に覆われる、あるいはこれと接する構造は、第一の特徴および第二の特徴が直接接触するように形成されている実施形態とともに、第一の特徴と第二の特徴との間に付加的な特徴を形成して第一の特徴と第二の特徴とが直接接触しない実施形態も含んでよい。さらに、本開示では様々な例において参照番号または文字を反復している場合がある。これは簡潔明瞭にする為であり、それ自体が様々な実施形態または説明されている構成との間に関係がある事を必要とするものではない。さらに、第一要素が第二要素に「接続されている」または「結合されている」と記述する時は、第一要素と第二要素とが互いに直接的に接続または結合されている実施例を含むとともに、第一要素と第二要素とが、その間に介在する一以上の他の要素を有して互いに間接的に接続または結合されている実施形態も含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、宇宙航行体がほぼ電力のみで推進可能となる為、推進剤搭載量の制限についての重要度は低くなる事に加え、従来型の推進剤不要な推進方法と比較すると機体の加速性能に優れている可能性が高い。また、宇宙航行体の推進方法としての利用のみならず、一応用例としてではあるが既存の姿勢制御システムのスラスタの噴射機構と置換する事で姿勢制御回数の制限もなくせる。
上記理由により、人工衛星の延命を図る事が出来るので必然的に打上げ回数が削減される。そのため、衛星インターネットサービス用衛星等、多くの人工衛星を有する企業では中長期的には大幅なコストダウンとなり、サービス料金に反映する事によりユーザーへの訴求効果が期待できる。
さらに、他国に所属する人工衛星を物理的に無力化するミッションを帯びた衛星を運用する場合だと、対象衛星が回避したとしても該衛星の推進剤が尽きるまで追跡を継続する事でいずれ目的を達成する。
また、将来的には、本開示による推進装置を搭載した大量の宇宙航行体を連ねて周回させ、他の星から資源を運搬してくるといった利用方法も考えられる。その際の推進剤コストは発生しない為、充分に採算の合う事業となる。
その他にも、推進装置を直接、一定程度の質量をもつスペースデブリに添装する事で大気圏内へと導いて処分したり、発電可能な状態を継続できる限りにおいてではあるが、より遠方かつ長期間の深宇宙探査が可能となり得る。
従って本開示による推進装置を搭載する対象は人工衛星をはじめとして、探査機、宇宙船、スペースデブリ、岩石等(以下、これら全てを含めて宇宙航行体と称する)と多岐に渉るものとみられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の実施形態1における推進装置の初期位置状態を示した説明図
図2】本開示の実施形態1における推進装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図3】本開示の実施形態1における推進装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図4】本開示の実施形態2における推進装置の初期位置状態を示した説明図
図5】本開示の実施形態2における推進装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図6】本開示の実施形態2における推進装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図7】本開示の実施形態3における推進装置の初期位置状態を示した説明図
図8】本開示の実施形態3における推進装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図9】本開示の実施形態3における推進装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図10】本開示の実施形態4における推進装置の変形例説明用の宇宙航行体の透過図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の実施形態による、無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体の推進装置を、図を参照して以下に説明する。実施例1では本開示による基本的な構造と動作の一例、実施例2では本開示の応力波生成を電磁石にて実行した例、実施例3では本開示の応力波生成をピエゾ素子にて実行した例、実施例4では本開示の姿勢制御システムへの変形例の記述となる。
【0009】
以下の実施例に共通する事として、理解を容易とする為に図面は概念的あるいは模式的なものとなっており、各部の比率や形状、部品等は必ずしも直接的に実機へ適用可能なものとは限らない。
【0010】
宇宙航行体の形状や使用目的により最適解が異なってくる為、一概には言い切れないが本開示による推進装置は搭載される各機体の重心付近に設置する事が望ましく、加えて、有人宇宙機での使用に際しては騒音や振動を処理する必要が発生する可能性がある。
仮に本開示の推進装置を搭載する宇宙航行体が膨大な質量を備えているなどの理由で巨大な推進力を獲得する必要があるならば、宇宙空間で極低温近傍の温度を得るのは難しくない為、超伝導電磁石を用いる事も考えられる。
【実施例0011】
以下に、実施形態1について説明する。
上記において、ボールを打当てて宇宙機を押す力は推進力とはならない、と記述したが推進剤を使用しない場合、無重力空間では運動エネルギーを発生させる際の反作用は何らかの手段で軽減しない限りは推進力たり得ないと発明者は認識している。本実施形態では、反作用の軽減を相殺という手段によって図ろうとするものであり、その後に運動エネルギーのベクトルを変更しつつ該運動エネルギーを取り出す事により最初に発生させた運動エネルギーの多くを推進力とする。
本実施形態の推進装置はリニアソレノイドアクチュエータにより動作させるものとなる。
ソレノイドアクチュエータ150については、図で表現されているものは動作の理解の一助となるよう簡略化して描かれた一例に過ぎず、他の形状や機能を有するものを使用してもよい。
【0012】
以下の本実施形態の推進装置は、動作時に応力波を発生する部位(以降、ハンマ部110と称す)と、応力波を受渡したりまたは応力波の伝播方向を変更する部位(以降、コア部120と称す)と、応力波を受取る事により射出される部位(以降、ウェイト部130と称す)と、運動エネルギーを受取る事で推進力とする部位(以降、ウォール部140と称す)とで構成されている。各部の材質について特に限定はないが過酷な宇宙環境下で劣化し難く効率的に応力波を発生・伝播できるものが望ましい。但しウォール部についてはこの限りではない。
【0013】
図1は本開示の実施形態1の動作前の初期位置状態を示している。
ハンマ部110においてはコア部120に接触しておらず、ウェイト部130においてはコア部120に接触している状態となっている。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、プランジャ160のストローク程度の間隔をあけた状態でソレノイドアクチュエータ150が固設されており、コア部120はハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは通電により移動するプランジャ160先端部分のハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、ソレノイドアクチュエータ150に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、プランジャ160自体をハンマ部として直接用いてもよい。
ウェイト部130はウォール部140へ向けて直動可能な状態で設置されている。
【0014】
本開示の推進装置による宇宙航行体の推進速度については、理論上はウェイト部130射出時の初速に比例して上がっていく為、他実施例においても言える事だが、ハンマ部110を動作させる際には、ハンマ部が移動する前にこれを留めて蓄勢する為のロック機構を設けてもよい。ロック機構とは、ハンマ部動作時、直ちにハンマ部が移動してしまうと該ハンマ部はコア部を緩やかに衝打する事になる為、ハンマ部を一時的に固定しておき該ハンマ部に対して十分に力が加わってから、即ちハンマ部の初速がある程度担保されてからロックを解放するといった仕組みである。さらにより一層、ウェイト部130の初速を引き上げる手段としては、初期位置において予めコア部120とウェイト部130のいずれか若しくは双方共に部材自体を帯磁させるか、あるいは電磁石などによる適当な大きさの磁力で相互に吸着させておく事により、ハンマ部110動作時にガウス加速器の原理と同様の効果を得られるといったものが考えられる。
【0015】
図1の状態から推進装置を駆動する時には、ソレノイドアクチュエータ150に通電し、プランジャ160先端部分が移動する事でハンマ部110がコア部120を衝打する。
その結果、図2の状態となりコア部120に応力波が発生し該コア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で運動エネルギーを受渡す。
他にも、ハンマ部110でコア部120以外のいずれかの部位を直接衝打し反作用を衝撃吸収材等で軽減する、という手段も考えられるが、それが充分に機能したとしてもガウス加速器の効果の恩恵を受け難く、かつ推進力を削ぐ方向への力は一定以上残存するとみられる。加えてコア部120を介して複数のハンマ部110の運動エネルギーを集約したほうが動作の精度が高い為、上記のような手段では全体的な効率は著しく低下すると思われる。
【0016】
ハンマ部110によって生成された運動エネルギーは多くをウェイト部130へ受渡すよう調整可能だが、設計によっては各部の形状や角度、設置スペースの関係でウェイト部130射出時にコア部120に対する反作用の発生が完全には回避できないケースもある。反作用は機体の初速や推進力のロスをもたらす要因となるので、そのような時に取り得る対応方法としては、コア部120後方に衝撃吸収材を敷設する事により反作用の運動エネルギーの一部を熱に変換して減衰または軽減させる、といったような手段を講じる事が考えられる。但し、宇宙環境においては既存の高性能な衝撃吸収材は短期間で劣化すると思われるので、新規開発を行うか、あるいは機械的な仕組みの衝撃吸収機構を用いる事が望ましい。しかしながら、可能であれば当初から設計で相殺などにより反作用が発生し難くなるよう調整しておくべきと思われる。
【0017】
本実施形態の図では、ウェイト部130の射出方向に対してハンマ部110の移動方向が直交するように記載されているが、特に角度を限定するものではなく設計上の都合によりハンマ部110の設置角度は任意のものとする事が出来る為、推進効率の点から各々の装置設計に適切で最も高効率な角度を探る事が望ましい。
【0018】
本実施形態ではハンマ部が対向配置されているが、これはハンマ部の動作方向を違える事で該ハンマ部動作時の反作用を相殺または軽減する為という理由がある。つまり本開示においては、ハンマ部の移動方向と宇宙航行体の推進方向には相違が生じる可能性がありその時には基本的に、ウェイト部130に運動エネルギーを受渡す際に伝播方向を変更する事になる。
【0019】
また、図では一対のハンマ部のみが記載されているが、ハンマ部の設置数については特に二に限ったものではなく各ハンマ部の動作時の反作用を相殺または軽減可能な状態であるならば設置数に制限はない。例えばウェイト部130の進行方向を軸として周設する事でハンマ部を三以上に出来る。そして、本来は複数のハンマ部を同時に動作させてウェイト部130の移動方向への推進力を生み出すのだが、上記の形態でハンマ部を三以上備えた推進装置の場合、一時的にあえてハンマ部を一のみ動作させたり、一部のハンマ部のみ弱く動作させる事で他ハンマ部の反作用を軽減するに留めたり、あるいは任意の複数個に絞って動作させるなど同期をとらずに駆動する事で宇宙航行体の方向舵の役割も担わせる事が出来る。
【0020】
コア部については本実施形態では各ハンマ部毎に一ずつ存在しているものの必ずしもハンマ部の数に対応するコア部を設置する必要はなく、例えば一のコア部を複数のハンマ部で衝打してもよい。
【0021】
コア部が複数存在する場合には、各コア部120の間に間隙が存在し該間隙部はハンマ部動作前後において失われないようにする必要がある。従って各コア部120は間隙を有した状態で固定されている事が望ましいが、ハンマ部110接触時に発生する応力波は、コア部120内でインピーダンスの変化する部分において反射する性質がある為、間隙にコア部とは異なる材質を挟着してもよい。そのため、コア部を球形以外にする場合には応力波の性質も見越したうえで形状設計する必要がある。
【0022】
ハンマ部・コア部・ウェイト部の各形状については、物理計算が容易という利点がある為に本開示の実施形態では球形で表しているがいずれにおいても球形に限るものではなく、L字型や三角型、あるいはその他の形状等、研究開発を進めていく段階でより効果的な形状と思われるものに適宜変更可能である。
【0023】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部140へ接触した状態が図3となる。
ウェイト部130がウォール部140で制動されるか、またはウォール部140を叩打する事により該ウォール部が運動エネルギーを受取る。このような非弾性衝突では運動エネルギーは失われても運動量保存則は成り立つ為、ウェイト部によってウォール部は押される事になり、結果的に宇宙航行体自身が推進する事になる。
【0024】
ウォール部140には、ウェイト部130接触時に該ウェイト部130の過度な反発を抑制するべく何等かの処理が施されている事が望ましい。本実施形態ではウォール部140との接触部分にウェイト部130の一部分に近い形状の凹部を設ける事で反発力を減勢している。つまり、ウォール部140への接触後に発生する反発を利用して充分に減速したウェイト部130が初期位置へ復帰するよう凹部の深さで反発力を調整しておく。その際にウォール部140とコア部120の距離が、本実施形態の図が示すように大きくは離れていない状態であるならば、図1から図3のサイクルに示されているようにウェイト部130に対して何も設置せずとも単体でウォール部140とコア部120間の空間を飛んで移動させる事も可能な為、初期位置へと導く為の仕組みを設置する必要は無い可能性がある。
【0025】
ウェイト部130がウォール部140へ接触後は、ハンマ部110とウェイト部130を初期位置状態へと復帰させる必要がある。本実施形態では双方とも復帰機構は設置不要に出来るが他の実施方法では必要となる場合もある。その他の手段で復帰へ至る仕組みとしては、ガイドレールに沿って移動させる、ワイヤによって引寄せる、回動可能な状態に設置されたアームをサーボモータ等で制御する、コア部が磁力を帯びているならハンマ部に電磁石を設置して磁力を反転させて反発力を利用する、などのように様々な方式が考えられる。但し、修理困難な所で運用する装置なので機構を簡素化する為にも、単に弾性係数が大きくはなく且つ機械的寿命回数が多い弾性体により各部を押戻すか引寄せる方式が望ましい。弾性体の例としては板バネや形状記憶合金等が挙げられる。尚、ウェイト部130の初期位置復帰時には極力、応力波が発生しないようコア部120へ接触させる必要がある。復帰したウェイト部130を留めておく手段としては、弱い磁力でコア部120とウェイト部130の双方を吸着させる事が望ましい。
本実施形態はコア部120が複数個存在している一例であり、設計次第ではウェイト部130に対しコア部120は一という事もあり得る。
【実施例0026】
以下に、実施形態2について説明する。
本実施形態の推進装置は、電磁石210と一体化したハンマ部110により動作させるものとなる。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、ハンマ部110自体のストローク程度の間隔をあけた状態で、コア部120へ向けて直動可能な状態で設置されており、コア部120は、ハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。
【0027】
図4は本開示の実施形態2の動作前の初期位置状態を示している。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは、通電時に発生する磁力の吸着力によりコア部120へと移動する電磁石210と一体化したハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、電磁石210に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、電磁石210自体をハンマ部110として直接用いてもよい。
電磁石210については、図で表現されているものは動作の理解の一助となるよう簡略化して描かれた一例に過ぎず、他の形状や機能を有するものを使用してもよい。
【0028】
図4の状態から推進装置を駆動する時には、電磁石210に通電し、電磁石210と一体化したハンマ部110の移動によりコア部120を衝打する。
その結果、図5の状態となりコア部120に応力波が発生し該コア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で運動エネルギーを受渡す。
【0029】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部へ接触した状態が図6となる。本実施形態ではウォール部が運動エネルギーを受取る為に別の手段を用いている。
本実施形態の図でいう上下方向に可動可能とした可動ウォール部220が複数個設置されておりウェイト部130射出時に、前進中のウェイト部130を、射出方向を軸とした周方向から可動ウォール部220で挟持する事により運動エネルギーを受取り推進力とする。図6では可動ウォール部220の接触面の形状をウェイト部130に合わせたものとする事で係止しているが、形状を考慮せず摩擦により滑止してもよい。但し本実施形態の方法では、ウェイト部130射出後に可動ウォール部220を動かす機構と、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる。その際、可動ウォール部220を動かす機構としてはハンマ部動作時と同等の手段が、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に例示したような手段が望ましい。
【0030】
可動ウォール部220の動作タイミングを得る手段については、ウェイト部130射出後に該ウェイト部130接近をセンサで検出する、またはウェイト部130移動時に可動ウォール部220の動作スイッチに接触して該ウォール部を動作させる等も考えられるが単純で故障し難い手段として、遅延回路を具備した可動ウォール部220と、ハンマ部110と、を同時に通電して動作させる事で定められた時間だけ遅延して動き出した可動ウォール部220によりウェイト部130が挟持されるといった機構によるものが望ましい。
本実施形態での可動ウォール部220は、何らかの事情で不作動だった場合においてもウェイト部130を衝止できる形状となっている。
その他の各部構成、動作や条件等は概ね実施形態1と同等となる。
【実施例0031】
以下に、実施形態3について説明する。
本実施形態の推進装置は、ハンマ部110をピエゾ素子310により動作させるものとなる。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、ピエゾ素子310の逆圧電効果発生時にハンマ部110をコア部120と接触するよう調整して近接させた状態か若しくは当初からハンマ部110とコア部120を当接させた状態で固設されており、コア部120はハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。つまり、極めて短ストロークのピエゾ素子を用いた場合はハンマ部衝打による応力波生成が難しい為、予めハンマ部110がコア部120と当接していれば、コア部の材質等にもよるが駆動時にピエゾ素子の微細な変形によりコア部120に応力波を発生させる事も可能となると思われる
図7されているものは、ピエゾ素子を用いたものとしては比較的長ストロークの積層型圧電アクチュエータとなるが、ピエゾ素子が使用されているならば特に当該アクチュエータ製品に限らずとも本実施形態と同等と考えられる。
【0032】
図7は本開示の実施形態3の動作前の初期位置状態を示している。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは、通電に伴うピエゾ素子310の変形によりハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、ピエゾ素子310に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、ピエゾ素子310自体をハンマ部110として直接用いてもよい。
【0033】
ハンマ部110の駆動機構をピエゾ素子310で実行するという本実施形態におけるメリットは高速応答性と精密な制御であり、他方式と比べてより厳密なタイミングで動作させる事が出来、さらにハンマ部110の初期位置復帰動作も不要になるといった点が挙げられる。しかしピエゾ素子自体の寿命を踏まえると、深宇宙探査等の極めて長期間駆働し続ける事が求められる宇宙航行体に搭載する場合には、環境面も相まって連続稼働可能時間が保証出来ない為にやや不向きな方式と考えられる。
【0034】
図7の状態から推進装置を駆動する時には、ピエゾ素子310に通電し、ピエゾ素子310と一体化したハンマ部110の動作によりコア部120に応力波を生成する。
その結果、図8の状態となりコア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で運動エネルギーを受渡す。
【0035】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部140へ接触した状態が図9となる。本実施形態ではウォール部が運動エネルギーを受取る為に別の手段を用いている。
本実施形態のウェイト部130はアーム320が接続されており、ウォール部140にはアーム320が滑動できるよう穿孔されている。射出されたウェイト部130がアーム320の移動可能な限界距離に達した時に、ウォール部140がアーム320を掛止する事により宇宙航行体を牽引する形で運動エネルギーを伝達して推進力とする。
本実施形態の方法では、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる。その際、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に例示したような手段が望ましい。
その他の各部構成、動作や条件等は概ね実施形態1と同等となる。
【0036】
各実施例ではウォール部については、機能毎の理解を容易とするためにこの部位にウォール部という名をつけて説明しているが、外力が加わった時に宇宙航行体へと適切に伝達される状態となっていればよいので、必ずしもウォール部140という独立した部位が必要というわけではない。従って、機能するのであれば直接、宇宙航行体の適当な一部に対して運動エネルギーを受渡し、これをウォール部と称してもよい。一見したところウォール部140に該当する部位が存在しない手段としては、ウェイト部130の直接の接触による運動エネルギーの受渡しが発生しないケースが考えられる。例えばウェイト部130が宇宙航行体に設置されたレールに沿って運動している場合や、ウェイト部130と宇宙航行体間がワイヤや、回動可能な状態に設置されたアーム等の部材により接続されている場合などは、射出されたウェイト部130がレールやワイヤ、アーム等による移動可能な限界距離に達した時に宇宙航行体を牽引する事で推進力とする事が出来、ウォール部140接触による効果と同等となる。つまり、ウェイト部130が牽引する状態となった時点でのウェイト部との接触部が運動エネルギーを受取って推進力としている為、該接触部自体が事実上のウォール部であるともいえる。
【実施例0037】
以下に、実施形態4について説明する。
宇宙航行体の姿勢制御システムにあるリアクションホイール410やモーメンタムホイール等のアンローディング時に使用する姿勢制御用のスラスタ420の噴射機構を本開示の手段を用いた推進装置へと単純に置換するだけで外乱トルクなどに対する姿勢制御回数について考慮する必要がなくなるので搭載されている機器類が故障するまで使用し続ける事ができる。
例えば人工衛星の場合だと一般的なものでも一基あたりの製造費は高額であり、打上げを含めた全体の運用費用は非常に高コストなものとなる。よって従来ならば製造も打上げも数回は実施しなくてはならない程の期間でも、本実施形態の姿勢制御システムを採用した場合だと一回のみで済ませるといった事も出来る。特に、空気抵抗の影響で短命となりがちなLEO衛星においてコスト削減効果が大きい。
尚、図10にあるリアクションホイール410とスラスタ420の位置や設置個数、形状等は本実施形態の説明の為に描かれたものであるので実機の探査機とは異なる。
【0038】
以上、本開示を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本開示はこれらの実施例に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々な形態で実施し得る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本開示による宇宙航行体推進装置ほとんど消耗品が存在せず、動作原理も構造も単純である為に直感的に理解できる。そのため製造が容易で故障し難く、メンテナンスフリーを実現する事もできる。
可動部は存在するが、ほぼ全ての個所を点接触とする事も出来るので接触面での強固な固着は生じず、宇宙空間での長期運用に適した推進方法と考えられる為、絶えず移動を繰り返す等の様々な活動を永きにわたって実行可能となる。
他にも、本開示の推進装置により任意の方向へ移動可能とした宇宙ゴミの処分を実施したり、姿勢制御システムへの応用等に有用である。
【符号の説明】
【0040】
110 ハンマ部
120 コア部
130 ウェイト部
140 ウォール部
150 ソレノイドアクチュエータ
160 プランジャ
210 電磁石
220 可動ウォール部
310 ピエゾ素子
320 アーム
410 リアクションホイール
420 スラスタ
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体用推進装置であって
応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事が可能な手段と、
応力波を発生可能な手段と、
応力波の伝播方向の少なくとも一箇所以上をハンマ部の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更可能な手段と、
応力波を受取る事で射出される事が可能な手段と、
運動エネルギーを受取る事を可能とする事により推進力を獲得可能とする手段と、
を有する事を特徴とする推進装置。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本開示によれば、宇宙航行体がほぼ電力のみで推進可能となる為、推進剤搭載量の制限についての重要度は低くなる事に加え、従来型の推進剤不要な推進方法と比較すると機体の加速性能に優れている可能性が高い。また、宇宙航行体の推進方法としての利用のみならず、一応用例としてではあるが既存の姿勢制御システムのスラスタの噴射機構と置換する事で姿勢制御回数の制限もなくせると思われる
上記理由により、人工衛星の延命を図る事が出来るので必然的に打上げ回数が削減される。そのため、衛星インターネットサービス用衛星等、多くの人工衛星を有する企業では中長期的には大幅なコストダウンとなり、サービス料金に反映する事によりユーザーへの訴求効果が期待できる。
さらに、他国に所属する人工衛星を物理的に無力化するミッションを帯びた衛星を運用する場合だと、対象衛星が回避したとしても該衛星の推進剤が尽きるまで追跡を継続する事でいずれ目的を達成する。
また、将来的には、本開示による推進装置を搭載した大量の宇宙航行体を連ねて周回させ、他の星から資源を運搬してくるといった利用方法も考えられる。その際の推進剤コストは発生しない為、充分に採算の合う事業となる。
その他にも、推進装置を直接、一定程度の質量をもつスペースデブリに添装する事で大気圏内へと導いて処分したり、発電可能な状態を継続できる限りにおいてではあるが、より遠方かつ長期間の深宇宙探査が可能となり得る。加えて、ローバーや宇宙服に搭載した場合、一時的に宇宙航行体とする機能を付与できると考えられる。
従って本開示による推進装置を搭載する対象は人工衛星をはじめとして、探査機、宇宙船、宇宙服、ローバー、スペースデブリ、岩石等(以下、これら全てを含めて宇宙航行体と称する)と多岐に渉るものとみられる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
また、図では一対のハンマ部のみが記載されているが、ハンマ部の設置数については特に二に限ったものではなく各ハンマ部の動作時の反作用を相殺または軽減可能な状態であるならば設置数に制限はない。例えばウェイト部130の進行方向を軸として周設する事でハンマ部を三以上に出来る。そして、本来は複数のハンマ部を同時に動作させてウェイト部130の移動方向への推進力を生み出すのだが、一時的にあえてハンマ部を一のみ動作させたり、一部のハンマ部のみ弱く動作させる事で他ハンマ部の反作用を軽減するに留めたり、あるいは任意の複数個に絞って動作させるなど同期をとらずに駆動する事で宇宙航行体の方向舵の役割も担わせる事が出来ると考えられる
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
コア部が複数存在する場合には、各コア部120の間に間隙が存在し該間隙部はハンマ部動作において失われないようにする必要がある。従って各コア部120は間隙を有した状態で固定されている事が望ましいが、応力波はコア部120内でインピーダンスの変化する部分において反射する性質がある為、間隙にコア部とは異なる材質を挟着してもよい。そのためコア部を、図示したようなシンメトリカル形状以外にする場合には応力波の性質も見越したうえで形状設計する必要がある。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
ハンマ部・コア部・ウェイト部の各形状については、物理計算が容易という利点がある為に本開示の実施形態ではシンメトリカル形状で表しているがいずれにおいても該形状に限るものではなく、L字型や三角型、あるいはその他の形状等、研究開発を進めていく段階でより効果的な形状と思われるものに適宜変更可能である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
ウォール部140には、ウェイト部130接触時に該ウェイト部130の過度な反発を抑制するべく何等かの処理が施されている事が望ましい。本実施形態ではウォール部140との接触部分にウェイト部130の一部分に近い形状の凹部を設ける事で反発力を減勢している。つまり、ウォール部140への接触後に発生する反発を利用して充分に減速したウェイト部130が初期位置へ復帰するよう凹部の深さによる接触面積の増減で反発力を調整しておく。その際にウォール部140とコア部120の距離が、本実施形態の図が示すように大きくは離れていない状態であるならば、図1から図3のサイクルに示されているようにウェイト部130に対して何も設置せずとも単体でウォール部140とコア部120間の空間を飛んで移動させる事も可能な為、初期位置へと導く為の仕組みを設置する必要は無い可能性がある。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
ウェイト部130がウォール部140へ接触後は、ハンマ部110とウェイト部130を初期位置状態へと復帰させる必要がある。本実施形態では双方とも復帰機構は設置不要に出来るかもしれないが他の実施方法では必要となる場合もある。その他の手段で復帰へ至る仕組みとしては、ガイドレールに沿って移動させる、ワイヤによって引寄せる、回動可能な状態に設置されたアームをサーボモータ等で制御する、コア部が磁力を帯びているならハンマ部に電磁石を設置して磁力を反転させて反発力を利用する、などのように様々な方式が考えられる。但し、修理困難な所で運用する装置なので機構を簡素化する為にも、単に弾性係数が大きくはなく且つ機械的寿命回数が多い弾性体により各部を押戻すか引寄せる方式が望ましい。弾性体の例としては板バネや形状記憶合金等が挙げられる。尚、ウェイト部130の初期位置復帰時には極力、応力波が発生しないようコア部120へ接触させる必要がある。復帰したウェイト部130を留めておく手段としては、弱い磁力でコア部120とウェイト部130の双方を吸着させる事が望ましい。
本実施形態はコア部120が複数個存在している一例であり、設計次第ではウェイト部130に対しコア部120は一という事もあり得る。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
可動ウォール部220の動作タイミングを得る手段については、ウェイト部130射出後に該ウェイト部130接近をセンサで検出する、またはウェイト部130移動時に可動ウォール部220の動作スイッチに接触して該ウォール部を動作させる等も考えられるが単純で故障し難い手段として、遅延回路を具備した可動ウォール部220と、ハンマ部110と、を同時に通電して動作させる事で定められた時間だけ遅延して動き出した可動ウォール部220によりウェイト部130が挟持されるといった機構によるものが望ましい。
本実施形態で図示した可動ウォール部220は、何らかの事情で不作動だった場合においてもウェイト部130を衝止できる形状となっている。
その他の各部構成、動作や条件等は概ね実施形態1と同等となる。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
本開示による宇宙航行体推進装置はほとんど消耗品が存在せず、動作原理も構造も単純である為に直感的に理解できる。そのため製造が容易で故障し難く、メンテナンスフリーを実現する事もできるものと思われる
可動部は存在するが、ほぼ全ての個所を点接触とする事も出来るので接触面での強固な固着は生じず、宇宙空間での長期運用に適した推進方法と考えられる為、絶えず移動を繰り返す等の様々な活動を永きにわたって実行可能となる。
他にも、本開示の推進装置により任意方向へ移動可能とした宇宙ゴミの処分を実施したり、姿勢制御システムへの応用等に有用である。
【手続補正9】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
無重力あるいは微小重力空間下における宇宙航行体用推進装置であって
応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事が可能な手段と、
応力波を発生可能な手段と、
応力波の伝播方向の少なくとも一箇所以上をハンマ部110の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更可能な手段と、
応力波を受取る事で射出される事が可能な手段と、
運動エネルギーを受取る事を可能とする事により推進力を獲得可能とする手段と、
を有する事を特徴とする推進装置。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-11
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本開示は、宇宙航行体用推進装置に関する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
上記の従来技術だと、人工衛星の場合は、内蔵している推進剤が底をつくと任意方向への移動や姿勢制御が不可能となり、他の機器が正常に作動していたとしても人工衛星自体の寿命と見做される事となる。
太陽光等の輻射圧を利用した推進方式であるソーラーセイルの場合だと推進剤は必要ないが小回りが利き難く、実用化するには結局、推進剤を用いる移動手段とのハイブリッドシステムを採用する必要があると発明者は認識している。
つまり現状では、各種宇宙機の設計寿命をどれだけ延長可能だとしても推進剤搭載量で運用期間が左右される状態にあると考えられる。
とはいえ、無重力状態で推進剤無しで物体を任意の方向へ移動させる事は従来手法では難しかった。例えば、質量が限りなく小さい宇宙機をある方向へ移動させるとして、機内にいる者が足を床に固定しつつ前記方向へボールを投じて宇宙機内側の壁に打当てた場合、宇宙機は前記方向に動くように思われる。しかし実際には投球時にボールを押出す力の反作用により宇宙機には前記方向とは逆方向にも同等の力が加わる為、最終的に宇宙機はボールにより押された方向と該方向とは逆の方向との間で揺れるだけとなり、ボールを打当てた力は推進力とはならない。
本開示はかかる問題に鑑みてなされたものであり、推進剤を要せずに宇宙航行体を推進する装置を提供する事を目的とする。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
本開示は、宇宙航行体用推進装置であって、応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事が可能な事と、応力波を発生可能な事と、応力波の伝播方向の少なくとも一箇所以上をハンマ部の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更可能な事と、応力波を受取る事で射出される事が可能な事と、運動エネルギーを受取る事を可能とする事により推進力を獲得可能である事と、を有する。
以下の開示において、提示された主題の異なる特徴を実施する為の多くの異なる実施形態や実施例を提供する。本開示を平易にする為、構成部品や配置の具体例を以下に説明する。これらは単なる例であり限定的であることを意図するものではない。例えば、第一の特徴が、続いて説明する第二の特徴に覆われる、あるいはこれと接する構造は、第一の特徴および第二の特徴が直接接触するように形成されている実施形態とともに、第一の特徴と第二の特徴との間に付加的な特徴を形成して第一の特徴と第二の特徴とが直接接触しない実施形態も含んでよい。さらに、本開示では様々な例において参照番号または文字を反復している場合がある。これは簡潔明瞭にする為であり、それ自体が様々な実施形態または説明されている構成との間に関係がある事を必要とするものではない。さらに、第一要素が第二要素に「接続されている」または「結合されている」と記述する時は、第一要素と第二要素とが互いに直接的に接続または結合されている実施例を含むとともに、第一要素と第二要素とが、その間に介在する一以上の他の要素を有して互いに間接的に接続または結合されている実施形態も含む。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本開示によれば、宇宙航行体がほぼ電力のみで推進可能となる為、推進剤搭載量の制限についての重要度は低くなる事に加え、従来型の推進剤不要な推進方法と比較すると機体の加速性能に優れている可能性が高い。また、宇宙航行体の推進方法としての利用のみならず、一応用例としてではあるが既存の姿勢制御システムのスラスタの噴射機構と置換する事で姿勢制御回数の制限もなくせると思われる。
上記理由により、人工衛星の延命を図る事が出来るので必然的に打上げ回数が削減される。そのため、衛星インターネットサービス用衛星等、多くの人工衛星を有する企業では中長期的には大幅なコストダウンとなり、サービス料金に反映する事によりユーザーへの訴求効果が期待できる。
さらに、他国に所属する人工衛星を物理的に無力化するミッションを帯びた衛星を運用する場合だと、対象衛星が回避したとしても該衛星の推進剤が尽きるまで追跡を継続する事でいずれ目的を達成する。
また、将来的には、本開示による推進装置を搭載した大量の宇宙航行体を連ねて周回させ、他の星から資源を運搬してくるといった利用方法も考えられる。その際の推進剤コストは発生しない為、充分に採算の合う事業となる。
その他にも、推進装置を直接、一定程度の質量をもつスペースデブリに添装する事で大気圏内へと導いて処分したり、発電可能な状態を継続できる限りにおいてではあるが、より遠方かつ長期間の深宇宙探査が可能となり得る。加えて、ローバーや宇宙服に搭載した場合、一時的に宇宙航行体とする機能を付与できると考えられる。
従って本開示による推進装置を搭載する対象は人工衛星をはじめとして、探査機、宇宙船、宇宙服、ローバー、スペースデブリ、岩石等(以下、これら全てを含めて宇宙航行体と称する)と多岐に渉り、主に無重力及び微小重力空間下において利用されるものとみられる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本開示の実施形態による、宇宙航行体推進装置を、図を参照して以下に説明する。実施例1では本開示による基本的な構造と動作の一例、実施例2では本開示の応力波生成を電磁石にて実行した例、実施例3では本開示の応力波生成をピエゾ素子にて実行した例、実施例4では本開示の姿勢制御システムへの変形例の記述となる。
【手続補正7】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
宇宙航行体用推進装置であって
応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事が可能な手段と、
応力波を発生可能な手段と、
応力波の伝播方向の少なくとも一箇所以上をハンマ部110の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更可能な手段と、
応力波を受取る事で射出される事が可能な手段と、
運動エネルギーを受取る事を可能とする事により推進力を獲得可能とする手段と、
を有する事を特徴とする推進装置。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
図1は本開示の実施形態1のハンマ部動作前または初期位置状態を示している。
ハンマ部110においてはコア部120に接触しておらず、ウェイト部130においてはコア部120に接触している状態となっている。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、プランジャ160のストローク程度の間隔をあけた状態でソレノイドアクチュエータ150が固設されており、コア部120はハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは通電により移動するプランジャ160先端部分のハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、ソレノイドアクチュエータ150に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、プランジャ160自体をハンマ部として直接用いてもよい。
ウェイト部130はウォール部140へ向けて直動可能な状態で設置されている。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
コア部が複数存在する場合には、各コア部120の間に間隙が存在し該間隙部はハンマ部動作時において失われないようにする必要がある。従って各コア部120は離隔状態を保持している事が望ましいが、応力波はコア部120内でインピーダンスの変化する部分において反射する性質がある為、間隙にコア部とは異なる材質を挟着してもよい。そのためコア部を、図示したようなシンメトリカル形状以外にする場合には応力波の性質も見越したうえで形状設計する必要がある。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
図4は本開示の実施形態2のハンマ部動作前または初期位置状態を示している。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは、通電時に発生する磁力の吸着力によりコア部120へと移動する電磁石210と一体化したハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、電磁石210に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、電磁石210自体をハンマ部110として直接用いてもよい。
電磁石210については、図で表現されているものは動作の理解の一助となるよう簡略化して描かれた一例に過ぎず、他の形状や機能を有するものを使用してもよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
図7は本開示の実施形態3のハンマ部動作前または初期位置状態を示している。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは、通電に伴うピエゾ素子310の変形によりハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、ピエゾ素子310に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、ピエゾ素子310自体をハンマ部110として直接用いてもよい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
ハンマ部110の駆動機構をピエゾ素子310で実行するという本実施形態におけるメリットは高速応答性と精密な制御であり、他方式と比べてより厳密なタイミングで動作させる事が出来、さらにハンマ部110の初期位置復帰動作も不要になるといったような可能性がある点が挙げられる。しかしピエゾ素子自体の寿命を踏まえると、深宇宙探査等の極めて長期間駆働し続ける事が求められる宇宙航行体に搭載する場合には、環境面も相まって連続稼働可能時間が保証出来ない為にやや不向きな方式と考えられる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0037
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0037】
以下に、実施形態4について説明する。
宇宙航行体の姿勢制御システムにあるリアクションホイール410やモーメンタムホイール等のアンローディング時に使用する姿勢制御用のスラスタ420の噴射機構を本開示の手段を用いた推進装置へと単純に置換するだけで外乱トルクなどに対する姿勢制御回数について考慮する必要性が低くなるので搭載されている機器類が故障するまで使用し続ける事ができるものと考えられる
例えば人工衛星の場合だと一般的なものでも一基あたりの製造費は高額であり、打上げを含めた全体の運用費用は非常に高コストなものとなる。よって従来ならば製造も打上げも数回は実施しなくてはならない程の期間でも、本実施形態の姿勢制御システムを採用した場合だと一回のみで済ませるといった事も出来る。特に、空気抵抗の影響で短命となりがちなLEO衛星においてコスト削減効果が大きい。
尚、図10にあるリアクションホイール410とスラスタ420の位置や設置個数、形状等は本実施形態の説明の為に描かれたものであるので実機の探査機とは異なる。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
ハンマ部・コア部・ウェイト部の各形状については、物理計算が容易という利点がある為に本開示の実施形態では全て同形のシンメトリカル形状で表しているがいずれにおいても該形状に限るものではなく、L字型や三角型、あるいはその他の形状等、研究開発を進めていく段階でより効果的な形状と思われるものに適宜変更可能である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部へ接触した状態が図6となる。本実施形態ではウォール部が運動エネルギーを受取る為に別の手段を用いている。
本実施形態の図でいう上下方向に可動可能とした可動ウォール部220が複数個設置されておりウェイト部130射出時に、前進中のウェイト部130を、射出方向を軸とした周方向から可動ウォール部220で挟持する事により運動エネルギーを受取り推進力とする。図6では可動ウォール部220の接触面の形状をウェイト部130に合わせたものとする事で係止しているが、形状を考慮せず摩擦により滑止してもよい。但し本実施形態の方法では、ウェイト部130射出後に可動ウォール部220を動かす機構と、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる。その際、可動ウォール部220を動かす機構としてはハンマ部動作時と同等の手段が、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に例示した手段の何れかが望ましい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0035
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0035】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部140へ接触した状態が図9となる。本実施形態ではウォール部が運動エネルギーを受取る為に別の手段を用いている。
本実施形態のウェイト部130はアーム320が接続されており、ウォール部140にはアーム320が滑動できるよう穿孔されている。射出されたウェイト部130がアーム320の移動可能な限界距離に達した時に、ウォール部140がアーム320を掛止する事により宇宙航行体を牽引する形で運動エネルギーを伝達して推進力とする。
本実施形態の方法では、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる。その際、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に例示した手段の何れかが望ましい。
その他の各部構成、動作や条件等は概ね実施形態1と同等となる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
宇宙航行体用推進装置であって
応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事が可能な手段と、
応力波を発生可能な手段と、
応力波の伝播方向の少なくとも一箇所以上をハンマ部110の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更可能な手段と、
応力波を受取る事で射出される事が可能な手段と、
運動エネルギーを受取る事を可能とする事により推進力を獲得可能手段と、
を有する事を特徴とする推進装置。
【手続補正5】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項2】
請求項1記載の推進装置であって、
ウェイト部130の動作を射出方向を軸とした周方向から制動可能とする事
または、ウェイト部130に接続された滑動可能なアーム320の動作を掛止可能とする事、
により推進力を獲得可能である事を特徴とする。
【手続補正書】
【提出日】2023-02-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部へ接触した状態が図6となる。本実施形態ではウォール部が運動エネルギーを受取る手段については、他に考え得る例として実施形態1とは異なる手段を用いている。
本実施形態の図でいう上下方向に可動可能とした可動ウォール部220が複数個設置されておりウェイト部130射出時に、前進中のウェイト部130を、射出方向を軸とした周方向から可動ウォール部220で挟持する事により運動エネルギーを受取り推進力とする。図6では可動ウォール部220の接触面の形状をウェイト部130に合わせたものとする事で係止しているが、形状を考慮せず摩擦により滑止してもよい。但し本実施形態の方法では、ウェイト部130射出後に可動ウォール部220を動かす機構と、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる。その際、可動ウォール部220を動かす機構としてはハンマ部動作時と同等の手段が、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に例示した手段の何れかが望ましい。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0035
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0035】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部140へ接触した状態が図9となる。本実施形態ではウォール部が運動エネルギーを受取る手段については、他に考え得る例として実施形態1とは異なる手段を用いている。
本実施形態のウェイト部130はアーム320が接続されており、ウォール部140にはアーム320が滑動できるよう穿孔されている。射出されたウェイト部130がアーム320の移動可能な限界距離に達した時に、ウォール部140がアーム320を掛止する事により宇宙航行体を牽引する形で運動エネルギーを伝達して推進力とする。
本実施形態の方法では、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる。その際、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に例示した手段の何れかが望ましい。
その他の各部構成、動作や条件等は概ね実施形態1と同等となる。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、宇宙航行体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、宇宙航行体の移動方法としては推進剤を用いるのが一般的である為、予め推進剤を内蔵しておき、推進剤自体を噴射または燃焼した反動によるもの(特許文献1、2)や、推進剤をイオン化しクーロン力により加速する(特許文献3)といったものがほとんどだった。
推進剤を使用せずに推進力を得る方法では、太陽光やレーザー等の輻射圧によるもの(特許文献4,5)などがみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-140875号公報
【特許文献2】特開2007-085213号公報
【特許文献3】特開昭63-212777号公報
【特許文献4】特開昭63-047000号公報
【特許文献5】米国特許公開006565044B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術だと、人工衛星の場合は、内蔵している推進剤が底をつくと任意方向への移動や姿勢制御が不可能となり、他の機器が正常に作動していたとしても人工衛星自体の寿命と見做される事となる。
太陽光等の輻射圧を利用した推進方式であるソーラーセイルの場合だと推進剤は必要ないが小回りが利き難く、実用化するには結局、推進剤を用いる移動手段とのハイブリッドシステムを採用する必要があると発明者は認識している。
つまり現状では、各種宇宙機の設計寿命をどれだけ延長可能だとしても推進剤搭載量で運用期間が左右される状態にあると考えられる。
とはいえ、無重力状態で推進剤無しで物体を任意の方向へ移動させる事は従来手法では難しかった。例えば、質量が限りなく小さい宇宙機をある方向へ移動させるとして、機内にいる者が足を床に固定しつつ前記方向へボールを投じて宇宙機内側の壁に打当てた場合、宇宙機は前記方向に動くように思われる。しかし実際には投球時にボールを押出す力の反作用により宇宙機には前記方向とは逆方向にも同等の力が加わる為、最終的に宇宙機はボールにより押された方向と該方向とは逆の方向との間で揺れるだけとなり、ボールを打当てた力は推進力とはならない。
本開示はかかる問題に鑑みてなされたものであり、推進剤を要せず宇宙航行体に対し運動エネルギーを伝播可能とする装置を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、宇宙航行体装置であって、応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事が可能な事と、応力波を発生可能な事と、応力波の伝播方向の少なくとも一箇所以上をハンマ部の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更可能な事と、応力波を受取る事で射出される事が可能な事と、運動エネルギーを受取る事を可能とする事により宇宙航行体が運動エネルギーを獲得可能である事と、を有する。
以下の開示において、提示された主題の異なる特徴を実施する為の多くの異なる実施形態や実施例を提供する。本開示を平易にする為、構成部品や配置の具体例を以下に説明する。これらは単なる例であり限定的であることを意図するものではない。例えば、第一の特徴が、続いて説明する第二の特徴に覆われる、あるいはこれと接する構造は、第一の特徴および第二の特徴が直接接触するように形成されている実施形態とともに、第一の特徴と第二の特徴との間に付加的な特徴を形成して第一の特徴と第二の特徴とが直接接触しない実施形態も含んでよい。さらに、本開示では様々な例において参照番号または文字を反復している場合がある。これは簡潔明瞭にする為であり、それ自体が様々な実施形態または説明されている構成との間に関係がある事を必要とするものではない。さらに、第一要素が第二要素に「接続されている」または「結合されている」と記述する時は、第一要素と第二要素とが互いに直接的に接続または結合されている実施例を含むとともに、第一要素と第二要素とが、その間に介在する一以上の他の要素を有して互いに間接的に接続または結合されている実施形態も含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、宇宙航行体への運動エネルギーの伝播がほぼ電力のみで可能となる為、推進剤搭載量の制限についての重要度は低くなる事に加え、従来型の推進剤不要な推進方法と比較すると機体の加速性能に優れている可能性が高い。また、宇宙航行体の推進方法としての利用のみならず、一応用例としてではあるが既存の姿勢制御システムのスラスタの噴射機構と置換する事で姿勢制御回数の制限もなくせると思われる。
上記理由により、人工衛星の延命を図る事が出来るので必然的に打上げ回数が削減される。そのため、衛星インターネットサービス用衛星等、多くの人工衛星を有する企業では中長期的には大幅なコストダウンとなり、サービス料金に反映する事によりユーザーへの訴求効果が期待できる。
さらに、他国に所属する人工衛星を物理的に無力化するミッションを帯びた衛星を運用する場合だと、対象衛星が回避したとしても該衛星の推進剤が尽きるまで追跡を継続する事でいずれ目的を達成する。
また、将来的には、本開示による装置を搭載した大量の宇宙航行体を連ねて周回させ、他の星から資源を運搬してくるといった利用方法も考えられる。その際の推進剤コストは発生しない為、充分に採算の合う事業となる。
その他にも、装置を直接、一定程度の質量をもつスペースデブリに添装する事で大気圏内へと導いて処分したり、発電可能な状態を継続できる限りにおいてではあるが、より遠方かつ長期間の深宇宙探査が可能となり得る。加えて、ローバーや宇宙服に搭載した場合、一時的に宇宙航行体とする機能を付与できると考えられる。
従って本開示による装置を搭載する対象は人工衛星をはじめとして、探査機、宇宙船、宇宙服、ローバー、スペースデブリ、岩石等(以下、これら全てを含めて宇宙航行体と称する)と多岐に渉り、主に無重力及び微小重力空間下において利用されるものとみられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の実施形態1における装置の初期位置状態を示した説明図
図2】本開示の実施形態1における装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図3】本開示の実施形態1における装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図4】本開示の実施形態2における装置の初期位置状態を示した説明図
図5】本開示の実施形態2における装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図6】本開示の実施形態2における装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図7】本開示の実施形態3における装置の初期位置状態を示した説明図
図8】本開示の実施形態3における装置のハンマ部動作時の状態を示した説明図
図9】本開示の実施形態3における装置のウェイト部射出とウォール部への接触状態を示した説明図
図10】本開示の実施形態4における装置の変形例説明用の宇宙航行体の透過図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の実施形態による宇宙航行体装置を、図を参照して以下に説明する。実施例1では本開示における基本的な構造と動作の一例、実施例2では本開示の応力波生成を電磁石にて実行した例、実施例3では本開示の応力波生成をピエゾ素子にて実行した例、実施例4では本開示の姿勢制御システムへの変形例の記述となる。
【0009】
以下の実施例に共通する事として、理解を容易とする為に図面は概念的あるいは模式的なものとなっており、各部の比率や形状、部品等は必ずしも直接的に実機へ適用可能なものとは限らない。
【0010】
宇宙航行体の形状や使用目的により最適解が異なってくる為、一概には言い切れないが本開示による装置は搭載される各機体の重心付近に設置する事が望ましく、加えて、有人宇宙機での使用に際しては騒音や振動を処理する必要が発生する可能性がある。
仮に本開示の装置を搭載する宇宙航行体が膨大な質量を備えているなどの理由で巨大な推進力を獲得する必要があるならば、宇宙空間で極低温近傍の温度を得るのは難しくない為、超伝導電磁石を用いる事も考えられる。
【実施例0011】
以下に、実施形態1について説明する。
上記において、ボールを打当てて宇宙機を押す力は推進力とはならない、と記述したが推進剤を使用しない場合、無重力空間では運動エネルギーを発生させる際の反作用は何らかの手段で軽減しない限りは推進力たり得ないと発明者は認識している。本実施形態では、反作用の軽減を相殺という手段によって図ろうとするものであり、その後に運動エネルギーのベクトルを変更しつつ該運動エネルギーを取り出す事により最初に発生させた運動エネルギーの多くを宇宙航行体に対し伝播させる。それに伴い宇宙航行体自体が、利用可能な力を獲得する事となる。
本実施形態の装置はリニアソレノイドアクチュエータにより動作させるものとなる。
ソレノイドアクチュエータ150については、図で表現されているものは動作の理解の一助となるよう簡略化して描かれた一例に過ぎず、他の形状や機能を有するものを使用してもよい。
【0012】
以下の本実施形態の装置は、動作時に応力波を発生する部位(以降、ハンマ部110と称す)と、応力波を受渡したりまたは応力波の伝播方向を変更する部位(以降、コア部120と称す)と、応力波を受取る事により射出される部位(以降、ウェイト部130と称す)と、運動エネルギーを受取る事で該運動エネルギーを宇宙航行体へと伝播可能な部位(以降、ウォール部140と称す)とで構成されている。各部の材質について特に限定はないが過酷な宇宙環境下で劣化し難く効率的に応力波を発生・伝播できるものが望ましい。但しウォール部についてはこの限りではない。
【0013】
図1は本開示の実施形態1のハンマ部動作前または初期位置状態を示している。
ハンマ部110においてはコア部120に接触しておらず、ウェイト部130においてはコア部120に接触している状態となっている。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、プランジャ160のストローク程度の間隔をあけた状態でソレノイドアクチュエータ150が固設されており、コア部120はハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは通電により移動するプランジャ160先端部分のハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、ソレノイドアクチュエータ150に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、プランジャ160自体をハンマ部として直接用いてもよい。
ウェイト部130はウォール部140へ向けて直動可能な状態で設置されている。
【0014】
本開示の装置を搭載した宇宙航行体の推進速度については、理論上はウェイト部130射出時の初速に比例して上がっていく為、他実施例においても言える事だが、ハンマ部110を動作させる際には、ハンマ部が移動する前にこれを留めて蓄勢する為のロック機構を設けてもよい。ロック機構とは、ハンマ部動作時、直ちにハンマ部が移動してしまうと該ハンマ部はコア部を緩やかに衝打する事になる為、ハンマ部を一時的に固定しておき該ハンマ部に対して十分に力が加わってから、即ちハンマ部の初速がある程度担保されてからロックを解放するといった仕組みである。さらにより一層、ウェイト部130の初速を引き上げる手段としては、初期位置において予めコア部120とウェイト部130のいずれか若しくは双方共に部材自体を帯磁させるか、あるいは電磁石などによる適当な大きさの磁力で相互に吸着させておく事により、ハンマ部110動作時にガウス加速器の原理と同様の効果を得られるといったものが考えられる。
【0015】
図1の状態から装置を駆動する時には、ソレノイドアクチュエータ150に通電し、プランジャ160先端部分が移動する事でハンマ部110がコア部120を衝打する。
その結果、図2の状態となりコア部120に応力波が発生し該コア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で運動エネルギーを受渡す。
他にも、ハンマ部110でコア部120以外のいずれかの部位を直接衝打し反作用を衝撃吸収材等で軽減する、という手段も考えられるが、それが充分に機能したとしてもガウス加速器の効果の恩恵を受け難くなる可能性があり、かつ推進力を削ぐ方向への力は一定以上残存するとみられる。加えてコア部120を介して複数のハンマ部110の運動エネルギーを集約したほうが動作の精度が高い為、上記のような手段では全体的な効率は著しく低下すると思われる。
【0016】
ハンマ部110によって生成された運動エネルギーは多くをウェイト部130へ受渡すよう調整可能だが、設計によっては各部の形状や位置や角度、設置スペースの関係でウェイト部130射出時にコア部120に対する反作用の発生が完全には回避できないケースもある。反作用は機体の初速や推進力のロスをもたらす要因となるので、そのような時に取り得る対応方法としては、コア部120後方に衝撃吸収材を敷設する事により反作用の運動エネルギーの一部を熱に変換して減衰または軽減させる、といったような手段を講じる事が考えられる。但し、宇宙環境においては既存の高性能な衝撃吸収材は短期間で劣化すると思われるので、新規開発を行うか、あるいは機械的な仕組みの衝撃吸収機構を用いる事が望ましい。しかしながら、可能であれば当初から設計で相殺などにより反作用が発生し難くなるよう各部を調整しておくべきと思われる。
【0017】
本実施形態の図では、ウェイト部130の射出方向に対してハンマ部110の移動方向が直交するように記載されているが、特に角度や位置を限定するものではなく設計上の都合によりハンマ部110の設置角度は任意のものとする事が出来る為、推進効率の点から各々の装置設計に適切で最も高効率な角度を探る事が望ましい。
【0018】
本実施形態ではハンマ部が対向配置されているが、これはハンマ部の動作方向を違える事で該ハンマ部動作時の反作用を相殺または軽減する為という理由がある。つまり本開示においては、ハンマ部の移動方向と宇宙航行体の推進方向には相違が生じる可能性がありその時には基本的に、ウェイト部130に運動エネルギーを受渡す際に伝播方向を変更する事になる。
【0019】
また、図では一対のハンマ部のみが記載されているが、ハンマ部の設置数については特に二に限ったものではなく各ハンマ部の動作時の反作用を相殺または軽減可能な状態であるならば設置数に制限はない。例えばウェイト部130の進行方向を軸として周設する事でハンマ部を三以上に出来る。そして、本来は複数のハンマ部を同時に動作させてウェイト部130の移動方向と同方向への力を生み出すのだが、一時的にあえてハンマ部を一のみ動作させたり、一部のハンマ部のみ弱く動作させる事で他ハンマ部の反作用を軽減するに留めたり、あるいは任意の複数個に絞って動作させるなど同期をとらずに駆動する事で宇宙航行体の方向舵の役割も担わせる事が出来ると考えられる。
【0020】
コア部については本実施形態では各ハンマ部毎に一ずつ存在しているものの必ずしもハンマ部の数に対応するコア部を設置する必要はなく、例えば一のコア部を複数のハンマ部で衝打してもよい。
【0021】
コア部が複数存在する場合には、各コア部120の間に間隙が存在し該間隙部はハンマ部動作時において失われないようにする必要がある。従って各コア部120は離隔状態を保持している事が望ましいが、応力波はコア部120内でインピーダンスの変化する部分において反射する性質がある為、間隙にコア部とは異なる材質を挟着してもよい。そのためコア部を、図示したようなシンメトリカル形状以外にする場合には応力波の性質も見越したうえで形状設計する必要がある。
【0022】
ハンマ部・コア部・ウェイト部の各形状については、物理計算が容易という利点がある為に本開示の実施形態では全て同形のシンメトリカル形状で表しているがいずれにおいても該形状に限るものではなく、L字型や三角型、あるいはその他の形状等、研究開発を進めていく段階でより効果的な形状と思われるものに適宜変更可能である。
【0023】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部140へ接触した状態が図3となる。
ウェイト部130がウォール部140で制動されるか、またはウォール部140を叩打する事により該ウォール部が運動エネルギーを受取る。このような非弾性衝突においては運動エネルギー失われた場合でも運動量保存則は成り立つ為、ウェイト部によってウォール部は押される事になり、結果的に宇宙航行体自身に運動エネルギーが伝播する事になる。
【0024】
ウォール部140には、ウェイト部130接触時に該ウェイト部130の過度な反発を抑制するべく何等かの処理が施されている事が望ましい。本実施形態ではウォール部140との接触部分にウェイト部130の一部分に近い形状の凹部を設ける事で反発力を減勢している。つまり、ウォール部140への接触後に発生する反発を利用して充分に減速したウェイト部130が初期位置へ復帰するよう凹部の深さによる接触面積の増減で反発力を調整しておく。その際にウォール部140とコア部120の距離が、本実施形態の図が示すように大きくは離れていない状態であるならば、図1から図3のサイクルに示されているようにウェイト部130に対して何も設置せずとも単体でウォール部140とコア部120間の空間を飛んで移動させる事も可能な為、初期位置へと導く為の仕組みを省略できる可能性がある。
【0025】
ウェイト部130がウォール部140へ接触後は、ハンマ部110とウェイト部130を初期位置状態へと復帰させる必要がある。本実施形態では双方とも復帰機構は設置不要に出来るかもしれないが他の実施方法では必要となる場合もある。その他の手段で復帰へ至る仕組みとしては、ガイドレールに沿って移動させる、ワイヤによって引寄せる、回動可能な状態に設置されたアームをサーボモータ等で制御する、コア部が磁力を帯びているならハンマ部に電磁石を設置して磁力を反転させて反発力を利用する、などのように様々な方式が考えられる。但し、修理困難な所で運用する装置なので機構を簡素化する為にも、単に弾性係数が大きくはなく且つ機械的寿命回数が多い弾性体により各部を押戻すか引寄せる方式が望ましい。弾性体の例としては板バネや形状記憶合金等が挙げられる。尚、ウェイト部130の初期位置復帰時には極力、応力波が発生しないようコア部120へ接触させる必要がある。復帰したウェイト部130を留めておく手段としては、弱い磁力でコア部120とウェイト部130の双方を吸着させる事が望ましい。
本実施形態はコア部120が複数個存在している一例であり、設計次第ではウェイト部130に対しコア部120は一という事もあり得る。
【実施例0026】
以下に、実施形態2について説明する。
本実施形態の装置は、電磁石210と一体化したハンマ部110により動作させるものとなる。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、ハンマ部110自体のストローク程度の間隔をあけた状態で、コア部120へ向けて直動可能な状態で設置されており、コア部120は、ハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。
【0027】
図4は本開示の実施形態2のハンマ部動作前または初期位置状態を示している。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは、通電時に発生する磁力の吸着力によりコア部120へと移動する電磁石210と一体化したハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、電磁石210に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、電磁石210自体をハンマ部110として直接用いてもよい。
電磁石210については、図で表現されているものは動作の理解の一助となるよう簡略化して描かれた一例に過ぎず、他の形状や機能を有するものを使用してもよい。
【0028】
図4の状態から装置を駆動する時には、電磁石210に通電し、電磁石210と一体化したハンマ部110の移動によりコア部120を衝打する。
その結果、図5の状態となりコア部120に応力波が発生し該コア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で運動エネルギーを受渡す。
【0029】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部へ接触した状態が図6となる。本実施形態ではウォール部が運動エネルギーを受取る手段については、他に考え得る例として実施形態1とは異なる手段を用いている。
本実施形態の図でいう上下方向に可動可能とした可動ウォール部220が複数個設置されておりウェイト部130射出時に、前進中のウェイト部130を、射出方向を軸とした周方向から可動ウォール部220で挟持する事により運動エネルギーを受取り宇宙航行体へ伝播される。図6では可動ウォール部220の接触面の形状をウェイト部130に合わせたものとする事で係止しているが、形状を考慮せず摩擦により滑止してもよい。但し本実施形態の方法では、ウェイト部130射出後に可動ウォール部220を動かす機構と、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる。その際、可動ウォール部220を動かす機構としてはハンマ部動作時と同等の手段が、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に例示した手段の何れかが望ましい。
【0030】
可動ウォール部220の動作タイミングを得る手段については、ウェイト部130射出後に該ウェイト部130接近をセンサで検出する、またはウェイト部130移動時に可動ウォール部220の動作スイッチに接触して該ウォール部を動作させる等も考えられるが単純で故障し難い手段として、遅延回路を具備した可動ウォール部220と、ハンマ部110と、を同時に通電して動作させる事で定められた時間だけ遅延して動き出した可動ウォール部220によりウェイト部130が挟持されるといった機構によるものが望ましい。
本実施形態で図示した可動ウォール部220は、何らかの事情で不作動だった場合においてもウェイト部130を衝止できる形状となっている。
その他の各部構成、動作や条件等は概ね実施形態1と同等となる。
【実施例0031】
以下に、実施形態3について説明する。
本実施形態の装置は、ハンマ部110をピエゾ素子310により動作させるものとなる。ハンマ部110とコア部120の位置関係としては、ピエゾ素子310の逆圧電効果発生時にハンマ部110をコア部120と接触するよう調整して近接させた状態か若しくは当初からハンマ部110とコア部120を当接させた状態で固設されており、コア部120はハンマ部110動作時に移動しないよう固設されている事が望ましい。つまり、極めて短ストロークのピエゾ素子を用いた場合はハンマ部衝打による応力波生成が難しい為、予めハンマ部110がコア部120と当接していれば、コア部の材質等にもよるが駆動時にピエゾ素子の微細な変形によりコア部120に応力波を発生させる事も可能となると思われる。
図7で表されているものは、ピエゾ素子を用いたものとしては比較的長ストロークの積層型圧電アクチュエータとなるが、ピエゾ素子が使用されているならば特に当該アクチュエータ製品に限らずとも本実施形態と同等と考えられる。
【0032】
図7は本開示の実施形態3のハンマ部動作前または初期位置状態を示している。
本実施形態においてハンマ部110が動作するというのは、通電に伴うピエゾ素子310の変形によりハンマ部110を用いてコア部120で応力波を生成する事をいう。応力波の発生効率に問題がないようならば、ピエゾ素子310に対して独立したハンマ部110といった部材を設けず、ピエゾ素子310自体をハンマ部110として直接用いてもよい。
【0033】
ハンマ部110の駆動機構をピエゾ素子310で実行するという本実施形態におけるメリットは高速応答性と精密な制御であり、他方式と比べてより厳密なタイミングで動作させる事が出来、さらにハンマ部110の初期位置復帰動作も不要になる等といった可能性がある点が挙げられる。しかしピエゾ素子自体の寿命を踏まえると、深宇宙探査等の極めて長期間駆働し続ける事が求められる宇宙航行体に搭載する場合には、環境面も相まって連続稼働可能時間が保証出来ない為にやや不向きな方式と考えられる。
【0034】
図7の状態から装置を駆動する時には、ピエゾ素子310に通電し、ピエゾ素子310と一体化したハンマ部110の動作によりコア部120に応力波を生成する。
その結果、図8の状態となりコア部120に接触しているウェイト部130に対して応力波の形で運動エネルギーを受渡す。
【0035】
次に、応力波を受取ったウェイト部130が射出されウォール部140へ接触した状態が図9となる。本実施形態ではウォール部が運動エネルギーを受取る手段については、他に考え得る例として実施形態1とは異なる手段を用いている。
本実施形態のウェイト部130はアーム320が接続されており、ウォール部140にはアーム320が滑動できるよう穿孔されている。射出されたウェイト部130がアーム320の移動可能な限界距離に達した時に、ウォール部140がアーム320を掛止する事により宇宙航行体を牽引する形で運動エネルギーを伝達する。
本実施形態の方法では、ウェイト部130を初期位置復帰させる機構が必要となる可能性がある。その際、ウェイト部130を動かす機構としては実施形態1に例示した手段の何れかが望ましい。
その他の各部構成、動作や条件等は概ね実施形態1と同等となる。
【0036】
各実施例ではウォール部については、機能毎の理解を容易とするためにこの部位にウォール部という名をつけて説明しているが、外力が加わった時に宇宙航行体へと適切に伝達される状態となっていればよいので、必ずしもウォール部140という独立した部位が必要というわけではない。従って、機能するのであれば直接、宇宙航行体の適当な一部に対して運動エネルギーを受渡し、これをウォール部と称してもよい。一見したところウォール部140に該当する部位が存在しない手段としては、ウェイト部130の直接の接触による運動エネルギーの受渡しが発生しないケースが考えられる。例えばウェイト部130が宇宙航行体に設置されたレールに沿って運動している場合や、ウェイト部130と宇宙航行体間がワイヤや、回動可能な状態に設置されたアーム等の部材により接続されている場合などは、射出されたウェイト部130がレールやワイヤ、アーム等による移動可能な限界距離に達した時に宇宙航行体を牽引する事が出来、ウォール部140接触による効果と同等となる。つまり、ウェイト部130が牽引する状態となった時点でのウェイト部との接触部が運動エネルギーを受取っている為、該接触部自体が事実上のウォール部であるともいえる。
【実施例0037】
以下に、実施形態4について説明する。
宇宙航行体の姿勢制御システムにあるリアクションホイール410やモーメンタムホイール等のアンローディング時に使用する姿勢制御用のスラスタ420の噴射機構を本開示の手段を用いた装置へと単純に置換するだけで外乱トルクなどに対する姿勢制御回数について考慮する必要性が低くなるので搭載されている機器類が故障するまで使用し続ける事ができるものと考えられる。
例えば人工衛星の場合だと一般的なものでも一基あたりの製造費は高額であり、打上げを含めた全体の運用費用は非常に高コストなものとなる。よって従来ならば製造も打上げも数回は実施しなくてはならない程の期間でも、本実施形態の姿勢制御システムを採用した場合だと一回のみで済ませるといった事も出来る。特に、空気抵抗の影響で短命となりがちなLEO衛星においてコスト削減効果が大きい。
尚、図10にあるリアクションホイール410とスラスタ420の位置や設置個数、形状等は本実施形態の説明の為に描かれたものであるので実機の探査機とは異なる。
【0038】
以上、本開示を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本開示はこれらの実施例に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々な形態で実施し得る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本開示による宇宙航行体装置はほとんど消耗品が存在せず、動作原理も構造も単純である為に直感的に理解できる。そのため製造が容易で故障し難く、メンテナンスフリーを実現する事もできるものと思われる。
可動部は存在するが、ほぼ全ての個所を点接触とする事も出来るので接触面での強固な固着は生じず、宇宙空間での長期運用に適した方法と考えられる為、絶えず移動を繰り返す等の様々な活動を永きにわたって実行可能となる。
他にも、本開示の装置により任意方向への移動を可能とした宇宙ゴミの処分を実施したり、姿勢制御システムへの応用等に有用である。
【符号の説明】
【0040】
110 ハンマ部
120 コア部
130 ウェイト部
140 ウォール部
150 ソレノイドアクチュエータ
160 プランジャ
210 電磁石
220 可動ウォール部
310 ピエゾ素子
320 アーム
410 リアクションホイール
420 スラスタ
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙航行体装置であって
応力波生成に関して生ずる反作用に対して少なくとも一箇所以上を相殺または軽減する事が可能な手段と、
応力波を発生可能な手段と、
応力波の伝播方向の少なくとも一箇所以上をハンマ部の動作方向または生成直後の応力波の伝播方向から変更可能な手段と、
応力波を受取る事で射出される事が可能な手段と、
運動エネルギーを受取る事を可能とする事により宇宙航行体が運動エネルギーを獲得可能な手段と、
を有する事を特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置であって、
ウェイト部の動作を射出方向を軸とした周方向から制動可能とする事、
または、ウェイト部に接続された滑動可能なアームの動作を掛止可能とする事、
により宇宙航行体が運動エネルギーを獲得可能である事を特徴とする。
【請求項3】
請求項1記載の装置を用いた姿勢制御システム。
【請求項4】
請求項1記載の装置を用いた宇宙航行体。