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特開2023-174475電解液、その電気化学デバイス、及びその電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174475
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】電解液、その電気化学デバイス、及びその電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20231130BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231130BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231130BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20231130BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231130BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20231130BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M50/409
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022204570
(22)【出願日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】202210593779.7
(32)【優先日】2022-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】王 仁和
(72)【発明者】
【氏名】王 子▲ユエン▼
(72)【発明者】
【氏名】余 樂
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021EE21
5H021HH01
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ04
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA12
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA19
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】負極の表面上の膜形成が向上し、内部抵抗が最適化される、電気化学デバイスの高温及び室温での良好なサイクル性能、及び高温での良好な容量性能を呈し、低内部抵抗を達成する電解液、その電気化学デバイス、及びその電子デバイスを提供する。
【解決手段】電解液は、炭酸ビニレンとカルボン酸塩系化合物とを含む。電解液の質量に基づき、炭酸ビニレンの質量パーセントはA%であり、カルボン酸塩系化合物の質量パーセントはB%であり、電解液は、A/Bの値が0.1~10の範囲であること、及びA/Bの値が1.1~6の範囲であることを満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ビニレンとカルボン酸塩系化合物とを含む電解液であって、
前記電解液の質量に基づき、前記炭酸ビニレンの質量パーセントがA%であり、前記カルボン酸塩系化合物の質量パーセントがB%であり、
前記電解液が、A/Bの値が0.1~10の範囲であることと、A+Bの値が1.1~6の範囲であることとを満たす、
電解液。
【請求項2】
前記A/Bの値が0.7~3の範囲であり、前記A+Bの値が1.1~4の範囲である、
請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記カルボン酸塩系化合物が式(1)により表される化合物であって、
【化1】
、R、Rがそれぞれ、水素、置換された又は置換されていないC1-12の炭化水素基から独立して選択され、
が置換された又は置換されていないC1-12の炭化水素基から選択され、置換されている場合、置換基がハロゲン原子である、
請求項1に記載の電解液。
【請求項4】
前記式(1)により表される化合物が、フマル酸ジメチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸ジメチル、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、及びビニルメタクリレートのうちのいずれか1つ又は2つ以上の混合物である、
請求項3に記載の電解液。
【請求項5】
炭酸エチレンを更に含み、
前記電解液の質量に基づき、前記炭酸エチレンの質量パーセントがC%であり、
前記電解液が、C/(A+B)の値が5~20の範囲であることを満たす、
請求項1~4のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項6】
前記C/(A+B)の値が8.3~15の範囲である、
請求項5に記載の電解液。
【請求項7】
正極と、負極と、セパレータと、請求項1に記載の電解液と
を含む、
電気化学デバイス。
【請求項8】
前記正極が正極活物質を含み、
前記正極活物質が、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケル遷移金属複合酸化物、及びスピネル構 造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物のうちの1つ又は2つ以上の混合物から選択される、
請求項7又は8に記載の電気化学デバイス。
【請求項9】
前記負極が負極活物質と集電体とを含み、
前記負極活物質が、黒鉛又はシリコン-カーボン負極活物質を含み、
前記セパレータの塩素含有量が20ppm以下である、
請求項7に記載の電気化学デバイス。
【請求項10】
前記セパレータ中の前記塩素含有量が7ppm~20ppmである、
請求項9に記載の電気化学デバイス。
【請求項11】
請求項7に記載の電気化学デバイスを含む、
電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、電解液の技術分野に関するものであり、特に、電解液、その電気化学デバイス、及びその電子デバイスに関する。
【0002】
リチウムイオン電池は、高電圧及び大容量の重要な利点を呈し、長いサイクル寿命及び優れた安全性能を備えることから、携帯型電子機器、電気自動車、宇宙技術、及び防衛産業において幅広い応用の見通しを有している。
【0003】
電解液はリチウム電池の「血液」であり、リチウム電池の4つの主材料のうちの1つであり、電池内のイオン輸送のキャリアである。電解液は、正極と負極との間でリチウムイオンを伝導し、リチウム電池のエネルギー密度、比容量、動作温度範囲、サイクル寿命、及び安全性能に対し重要な影響を有する。
【0004】
リチウムイオン電池の性能、特に高電圧リチウムイオン電池の性能は、主にその正極活物質及び電解液の組成及び特性により決定される。適切な高性能電解液を開発するため、適切な電解液添加剤が度々電解液に添加される。一般的に用いられる電解液添加剤は、ホウ素含有添加剤、有機リン系添加剤、炭酸エステル系添加剤、カルボン酸塩系添加剤、硫黄含有添加剤、イオン液体添加剤等を含む。
【0005】
現在、一般的な負極膜形成添加剤である炭酸ビニレン(VC)が単独で用いられる場合、電池の高温及び室温サイクル性能と低抵抗の両方を考慮することは難しい。カルボン酸塩系添加剤の単独の使用は電池のインピーダンスを上昇させることが可能であるとはいえ、負極の安定性が劣り、このためカルボン酸塩系化合物の応用は制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
関連技術の欠陥を鑑み、本発明は、電解液、その電気化学デバイス、及びその電子デバイスを提供することを目的とする。本発明により提供される電解液を通じて、負極の表面上の膜形成が向上され、内部抵抗が最適化され、電子化学デバイスにおける高温及び室温でのサイクル性能が強化され、低内部抵抗が達成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的の1つは電解液を提供することであり、以下の技術的解決策を本発明において採用する。
【0008】
電解液は、炭酸ビニレンとカルボン酸塩系化合物とを含む。
【0009】
電解液の質量に基づき、炭酸ビニレンの質量パーセントはA%であり、カルボン酸塩系化合物の質量パーセントはB%であり、電解液は、A/Bの値が0.1~10の範囲であることと、A/Bの値が1.1~6の範囲であることとを満たす。
【0010】
本発明により提供される電解液において、炭酸ビニレンとカルボン酸塩系化合物は、両者の共重合反応を起こすために組合せで用いられる。カルボン酸塩系化合物において、リチウムイオンと良好に結合し、リチウムイオン移動部位を提供可能であるカルボン酸カルボニル基が、主に炭酸ビニレンにより形成される負極固体電解質膜に導入される。両者の含有比率を調整することにより、負極の表面上の膜形成が向上して内部抵抗が最適化され、これによりリチウム電池は高温及び室温での良好なサイクル性能と、高温での良好な容量性能を呈し、低内部抵抗を達成する。
【0011】
本発明において、AとBは0.1~5の範囲の値Aを満たす。例えば、Aの値範囲は、0.1、0.2、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、又は5等々である。Aが過度に小さい場合、成膜添加剤の量が過度に少なく、保護効果が達成不可能であり、Aが過度に大きい場合、重合反応が過度に強くなる可能性があり、電池のインピーダンスが急激に上昇する可能性がある。Bの値は0.1~5の範囲であり、例えば、Bの値範囲は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、又は5等々である。カルボン酸塩系化合物の量が0.1%未満といった過度に少ない場合、成膜効果が明白でなく、5%よりも多いといった過剰な量のカルボン酸塩系化合物が用いられる場合、やはりインピーダンスが急激に上昇する可能性がある。A/Bは0.1~10であり、例えば、A/Bは0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、又は10等である。A+Bは1.1~6であり、例えば、A+Bは1.1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、又は6等である。A/Bが過度に小さい場合、カルボン酸含有量が相対的に過剰であり、これは負極においてカルボン酸を消費し、副反応をもたらす。A/Bが過度に大きい場合、カルボン酸塩の含有量が相対的に少なすぎて、炭酸ビニレンと共にインピーダンスを下げる効果が明白でない可能性がある。A+Bが過度に小さい場合、成膜効果が僅かである可能性があり、A+Bが過度に大きい場合、電池のインピーダンスが過度に大きくなる可能性がある。
【0012】
好ましくは、A/Bの値は0.7~3の範囲であり、A+Bの値は1.1~4の範囲である。
【0013】
カルボン酸塩系化合物は式(1)により表される化合物である:
【化1】
そのうち、R、R、Rはそれぞれ、水素、置換された又は置換されていないC1-12の炭化水素基から独立して選択され、Rは置換された又は置換されていないC1-12の炭化水素基から選択され、置換されている場合、置換基はハロゲン原子である。ここで、C1-12の炭化水素基は1~12の炭素原子を含む炭化水素基を指す。
【0014】
式(1)により表される化合物は、フマル酸ジメチル
【化2】

メタクリル酸メチル
【化3】

マレイン酸ジメチル
【化4】

1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート
【化5】

及びビニルメタクリレート
【化6】
のうちのいずれか1つ又は2つ以上の混合物である。典型的であるが非限的な混合物の組合せは、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルの混合物、フマル酸ジメチルとマレイン酸ジメチルの混合物、フマル酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートの混合物、フマル酸ジメチルとビニルメタクリレートの混合物、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルの混合物、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートの混合物、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルとビニルメタクリレートの混合物、メタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートの混合物、メタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルとビニルメタクリレートの混合物、マレイン酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートとビニルメタクリレートの混合物、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートの混合物、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルとビニルメタクリレートの混合物、メタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートとビニルメタクリレートの混合物、及びフマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートとビニルメタクリレートの混合物といった、2つ、3つ、4つ、又は5つの混合物である。
【0015】
電解液は炭酸エチレン(EC)も含み、電解液の質量に基づき、炭酸エチレンの質量パーセントはC%であり、電解液は、例えば15、20、25、30、35、40、45、50、55、又は60等である、15~60の範囲のCの値を満たす。Cが過度に小さい場合、電解液の導電性が低下し、電池のインピーダンスに影響する可能性がある。Cが過度に大きい場合、電解液は固体電解質膜の成分に対し可溶すぎる可能性があり、膜形成が不安定となる可能性があり、性能に影響する可能性がある。C/(A+B)の値は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等といった、5~20の範囲である。C/(A+B)が過度に小さい場合、溶媒が成膜添加剤に対して過度に少ない可能性があり、電池のインピーダンスが上昇する可能性がある。C/(A+B)が過度に大きい場合、溶媒が成膜添加剤に対して過度に多い可能性があり、膜形成が不安定となる可能性がある。
【0016】
C/(A+B)の値は8.3~15の範囲であることが好ましい。
【0017】
本発明のもう1つの目的は、正極と、負極と、セパレータと、上述した電解液とを含む、電気化学デバイスを提供することである。
【0018】
本発明により提供される電気化学デバイスには電気化学反応が起こる任意のデバイスを含み、その具体的な例には、一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、又は蓄電器の全ての種類を含む。特に、電気化学デバイスは、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、又はリチウムイオンポリマー二次電池を含む、リチウム二次電池である。
【0019】
いくつかの実施形態において、本発明により提供される電気化学デバイスは、金属イオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を有する負極とを含む電気化学デバイスである。
【0020】
正極は正極活物質を含み、正極活物質は、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケル遷移金属複合酸化物、及びスピネル構造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物のうちの1つ又は2つ以上の混合物から選択される。
【0021】
リチウムニッケル遷移金属複合酸化物の一般式はLi1+aNiCoMn2-eであり、該一般式において、-0.2<a<0.2、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.3、0.03≦z≦0.4、0≦b≦0.05、0≦e≦0.1であり、Mは、Al、Ti、Zr、Nb、Sr、Sc、Sb、Y、Ba、Co、及びMnのうちの1つ又は2つ以上の組合せから選択され、XはF及び/又はClから選択される。リチウムニッケル遷移金属複合酸化物の一般化学式は、電池の充電状態(SOC)が0%のときの化学式であることに注意されたい。
【0022】
負極は負極活物質と集電体とを含み、負極活物質は黒鉛又はシリコン-カーボン負極活物質を含む。
【0023】
シリコン-カーボン負極活物質は、シリコン、シリコン酸化物化合物、及びシリコン系合金のうちのいずれか1つ又は2つ以上の混合物から選択される。
【0024】
負極は炭素材料を更に含み、炭素材料は、アセチレンブラック、導電性カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラックのうちのいずれか1つ又は2つ以上の混合物から選択される。
【0025】
セパレータ中の塩素含有量は20ppm以下である。セパレータ中の塩素含有量は、3ppm、5ppm、7ppm、8ppm、9ppm、10ppm、11ppm、12ppm、13ppm、14ppm、15ppm、16ppm、17ppm、18ppm、19ppm、又は20ppm等といった、7ppm~20ppmであることが好ましい。セパレータ中の塩素含有量が過度に低い場合、電池への塩素の影響は低下する可能性があるが、現在のセパレータ技術に制限され、塩素含有量を更に減少させることは困難である。セパレータ中の塩素含有量が20ppmを超える場合、SVCと添加剤の重合反応が停止し、電池性能に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0026】
本発明のもう1つの目的は、上述した電気化学デバイスを含む電子デバイスを提供することである。
【0027】
電子デバイスは、ノートブックコンピュータ、ペン入力コンピュータ、モバイルコンピュータ、電子書籍リーダー、携帯電話、携帯型ファックスマシン、携帯型コピー機、携帯型プリンタ、ステレオヘッドホン、ビデオカセットレコーダー、液晶テレビ、携帯型掃除機、携帯型CDプレーヤー、ミニディスク、送受信機、電子ノート、計算機、メモリカード、携帯型レコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モータ、車、オートバイ、パワーアシスト自転車、自転車、照明装置、玩具、ゲーム機、時計、電子工具、フラッシュライト、カメラ、家庭用大型蓄電池、又はリチウムイオン蓄電器等といった種類を含むが、これに限定されない。
【発明の効果】
【0028】
関連技術と比較し、本発明の有益な効果は次のとおりである。
【0029】
本発明により提供される電解液は、炭酸ビニレンとカルボン酸塩系化合物を併用して含有量を調整することにより、負極の表面上の成膜が向上して内部抵抗が最適化される。このようにして、電気化学デバイスは高温及び室温での良好なサイクル性能及び高温での良好な容量性能を呈し、低内部抵抗を達成する。
【0030】
上記をより理解し易くするため、いくつかの実施形態を以下に詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の技術的解決策を特定の実施形態を通じて以下に更に説明する。
【0032】
特記しない限り、本発明の様々な原材料は市販品を購入するか、当該技術分野の従来の方法に従って作製することができる。
【0033】
本発明により提供される電解液は、炭酸ビニレンとカルボン酸塩系化合物とを含む。
【0034】
電解液の質量に基づき、炭酸ビニレンの質量パーセントはA%であり、カルボン酸塩系化合物の質量パーセントはB%であり、電解液は、0.1~5の範囲のAの値、0.1~5の範囲のBの値、0.1~10の範囲のA/Bの値、及び1.1~6の範囲のA+Bの値を満たす。
【0035】
本発明において、電気化学デバイスはリチウムイオン電池である。リチウムイオン電池は一次リチウム電池又は二次リチウム電池であり、正極と、負極と、正極と負極との間に位置するセパレータと、電解液とを含む。
【0036】
本発明の二次リチウム電池の作製方法を以下に提供する。
【0037】
(1)LFP(LiFePO)正極の作製
【0038】
正極活物質(LiFePO)、ポリフッ化ビニリデン(バインダーとして)、及びスーパーP(導電剤として)を重量比97:2:1で混合し、N-メチルピロリドン(NMP)を添加し、正極スラリーを得るため、系が均一透明になるまで真空ミキサーで攪拌した。正極スラリーをアルミ箔上に均一にコーティングした。アルミ箔を室温で乾燥させ、次いで乾燥のためオーブンに移し、次いで冷間プレスと切り出しにより正極(電極片)を得た。
【0039】
(2)黒鉛負極の作製
【0040】
人工黒鉛(負極活物質として)、スーパーP(導電剤として)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na;増粘剤)、及びスチレンブタジエンゴム(SBR;バインダーとして)を質量比96:1:1:2で混合した。脱イオン水を加え、真空ミキサーの動作において負極スラリーを得た。負極スラリーを負極集電体銅箔上に均一にコーティングした。銅箔を室温で乾燥させ、次いでオーブンに移して乾燥させ、次いで冷間プレスと切り出しにより負極(電極片)を得た。
【0041】
(3)電解液の作製
【0042】
有機溶媒を形成するため、含水量が10ppm未満であるアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、電池級炭酸エチレン(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を比率に従って混合した。他の成分は、以下の段落に提供する表に記載した電解質の組成に従って定量的に添加し、電解液を得るため均一に混合した。表中の各成分の含有量は、電解液の総重量に基づき算出された重量パーセントであり、DTDはエチレンサルフェートである。
【0043】
(4)セパレータ膜の作製
【0044】
ポリプロピレン膜をセパレータ膜として用いた。
【0045】
(5)二次電池の作製
【0046】
12μmの厚さのポリプロピレン薄膜(PP)をセパレータ膜として用いた。上記で作製した正極、セパレータ膜、及び負極を、分離のためセパレータ膜が正極と負極との間に配置されるよう順に積層し、アルミラミネートフィルムでカバーし、120℃で乾燥させるため真空オーブンに移し、3.0g/Ahの上記で製造した電解液を注入し、次いで電解液形成のために封止した。最終的に、容量1Ahのソフトパック電池(即ちリチウムイオン電池)を得た。
【0047】
本発明において、得られたリチウムイオン電池は350mAh/gの負極グラム容量、3g/Ahの液体注入係数、1Ahの電池容量、3gの負極質量、及び3gの電解液質量を有する。
【0048】
本発明におけるリチウムイオン電池中の電解液の形成のための条件を以下に提供する。
【0049】
リチウムイオン電池中の電解液の形成のステップを以下に提供する。注入した後に電解液を0.1MPaの高温圧力下に保ち、静止状態において45℃で17分間0.02Cで充電し、次いで5分間放置した後に0.02Cで0.3Ahまで充電した。その後、エアバッグを切断して真空封止し、電解液を室温で48時間放置し、電解液の形成を完了した。
【0050】
ここで、本発明により提供される実施例において、式(1)により表される化合物として次の5つの化合物を用いた。化合物1はメタクリル酸メチル、化合物2はフマル酸ジメチル、化合物3はマレイン酸ジメチル、化合物4は1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、化合物5はビニルメタクリレートである。
【0051】
本発明により提供される二次電池は、以下の方法を通じて試験することができる。
【0052】
(1)二次電池サイクル試験
【0053】
特定の温度(室温25℃又は高温45℃)のオーブンにおいて、特定電位間隔内で1Cの電流でサイクル充放電を行い、各サイクルの放電容量を記録した。電池容量が初回サイクルの容量の80%に達したとき、試験を終了した。
【0054】
(2)二次電池直流抵抗(DCR)試験
【0055】
特定温度で、電池が1Cの電流で50%SOC(充電状態、電池の残量を反映)まで放電されたとき、電流を4Cまで上げて30秒間維持した。更新された安定電圧と元々のプラットフォーム電圧との差を検出し、3C電流に対するその値の比率が電池のDC抵抗である。電池が完全に充電された後に初めて実行されたDCR試験結果は、電池の初期DCRである。
【0056】
(3)二次電池の高温容量維持率試験
【0057】
完全に充電した後、二次電池を60℃の定温器に配置し、30日後に取り出し、室温まで冷却し、次いで0.33Cでカットオフ電圧まで放電し、初期放電容量に対するその容量のパーセントを比較した。
【0058】
ここで、充放電のカットオフ電圧は次のとおりである:LFP-黒鉛は2.5V~3.65V。
【0059】
(4)セパレータ中の塩素含有量を以下に示す方法を通じて試験した。
【0060】
セパレータを自動サンプル燃焼装置(三菱化学アナリテック製のAQF-100)において燃焼させ、次いで吸収液(NaCOとNaHCOの混合溶液)に吸収し、総塩素含有量を測定するため、吸収液をイオンクロマトグラフィ装置(Dionex製、ICS1500、カラム(分離カラム:AS12A、ガードカラム:AG12A)、サプレッサASRS300)に注入した。
【0061】
本発明における、実施例1~10、比較例1、比較例2、及び比較例3の電解液組成を表1-1に示す。リチウムイオン電池を上記作製方法により作製し、その性能を試験した。試験結果を表1-2に示す。
【0062】
【表1-1】
【0063】
【表1-2】
【0064】
表1-2のデータから、A+Bの値範囲は負極上に成膜するための添加剤の総量を決定することが分かる。即ち、該値が大きいほどインピーダンスが大きくなり、値が小さいほど成膜効果が劣る。インピーダンスを低下させるため炭酸ビニレンとカルボン酸塩が同時に用いられる。炭酸ビニレンの含有量は膜質を決定するがインピーダンスを上昇させ、カルボン酸塩の含有量はインピーダンス低下の効果を決定するが、過度のカルボン酸塩の添加は逆効果を招く。このため、A/B及びA+Bを適切な範囲とするよう制御することにより、これらの相乗効果により、負極上での成膜の性能及び強度が向上し、リチウムイオン伝導性が増し、インピーダンスを低下させることができる。
【0065】
本発明における、実施例11~14の電解液成分を表2-1に示す。リチウムイオン電池を上記作製方法により作製し、その性能を試験した。試験結果を表2-2に示す。
【0066】
【表2-1】
【0067】
【表2-2】
【0068】
表2から分かるように、A+B及びA/Bの好ましい範囲において、A+Bの値が1.1~4の範囲でありA/Bの値が0.7~3の範囲であるとき、負極成膜と電池インピーダンス低下との間のバランスを効果的に達成することができることが判明した。
【0069】
実施例15~17と比較例4の電解液組成を表3-1に示す。リチウムイオン電池を上記作製方法により作製し、その性能を試験した。試験結果を表3-2に示す。
【0070】
【表3-1】
【0071】
【表3-2】
【0072】
負極成膜添加剤の決定された最適総量及び比率において、該総量及び比率に対するECの比率は制限され、表3-2のデータから、該比率が過度に高い場合、負極の表面上の膜形成が不安定となる可能性があり電池性能が損なわれるが、該比率が過度に低い場合、リチウムイオンの解離が不十分となる可能性があり、電解液の導電率が低下する可能性があり、電池インピーダンスが上昇する可能性がある。
【0073】
実施例18~21と実施例8との間の電解液組成の差異は、式(1)により表される化合物の種類が異なることである。化合物1を実施例8に採用し、化合物2を実施例18に採用し、化合物3を実施例19に採用し、化合物4を実施例20に採用し、化合物5を実施例21に採用した。他の成分は実施例8のものと同一である。
【0074】
リチウムイオン電池を上記作製方法により作製し、その性能を試験した。試験結果を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
表4のデータから、実施例8及び実施例18~実施例21において、高温及び室温での電池のサイクル性能を高めるため、高温容量性能を改善するため、そして抵抗を低下させるため、式(1)により表される化合物の異なる種類を使用可能であることが分かる。
【0077】
実施例8と比較した実施例22と23の差異は、実施例8のセパレータの塩素含有量は7ppmであり、実施例22と23のセパレータの塩素含有量はそれぞれ10ppmと20ppmである点にある。
【0078】
【表5】
【0079】
表5のデータから分かるように、セパレータの塩素含有量を7~20ppmの間に制御することにより、塩素含有量が高いほど、炭酸エチレン、炭酸ビニレン、及びカルボン酸塩系化合物の成膜反応の減失がより深刻となることが判明した。更に、セパレータの塩素含有量を7~10ppmの間に制御することにより、その性能を効果的に向上させることができる。このため、セパレータの塩素、炭酸エチレン、炭酸ビニレン、及びカルボン酸塩系化合物の含有量の相乗効果を制御することにより、電池性能を向上させることができる。
【0080】
本発明において、本発明の処理機器及び処理フローを上記の実施形態により詳細に示している。ただし、本発明は上述した詳細な処理装置及び処理フローに限定されない。即ち、これは上述した詳細な処理装置及び処理フローに依存することなく本発明を実施することができないことを意味しない。当業者は、本発明の改善、本発明の各原材料の均等な置き換えも、補助成分の添加、特定の方法の選択等は全て、本発明の保護範囲及び開示範囲内にあることを理解すべきである。
【0081】
本発明の好ましい実施形態について上記に詳細に説明した。ただし、本発明は上述した実施形態の特定の詳細に限定されない。本発明の技術的概念の範囲内で、本発明の技術的解決策に対し様々な単純な改変を加えることができ、これらの単純な改変は全て本発明の保護範囲に属する。
【0082】
加えて、上述した具体的な実施方法で説明した各特定の技術的特徴は、矛盾しない状況下で任意の適切な方法と組み合わせることができることに注意されたい。不必要な繰り返しを避けるため、様々な可能な組合せは本発明において説明しない。
【0083】
加えて、本発明の様々な実施形態は任意に組み合わせ可能であり、本発明の精神に反しない限り、それらも本発明において開示された内容と見なされるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の電解液、電気化学デバイス、及び電子デバイスは、一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、又は蓄電器に適用することができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-02-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、電解液の技術分野に関するものであり、特に、電解液、その電気化学デバイス、及びその電子デバイスに関する。
【0002】
リチウムイオン電池は、高電圧及び大容量の重要な利点を呈し、長いサイクル寿命及び優れた安全性能を備えることから、携帯型電子機器、電気自動車、宇宙技術、及び防衛産業において幅広い応用の見通しを有している。
【0003】
電解液はリチウム電池の「血液」であり、リチウム電池の4つの主材料のうちの1つであり、電池内のイオン輸送のキャリアである。電解液は、正極と負極との間でリチウムイオンを伝導し、リチウム電池のエネルギー密度、比容量、動作温度範囲、サイクル寿命、及び安全性能に対し重要な影響を有する。
【0004】
リチウムイオン電池の性能、特に高電圧リチウムイオン電池の性能は、主にその正極活物質及び電解液の組成及び特性により決定される。適切な高性能電解液を開発するため、適切な電解液添加剤が度々電解液に添加される。一般的に用いられる電解液添加剤は、ホウ素含有添加剤、有機リン系添加剤、炭酸エステル系添加剤、カルボン酸塩系添加剤、硫黄含有添加剤、イオン液体添加剤等を含む。
【0005】
現在、一般的な負極膜形成添加剤である炭酸ビニレン(VC)が単独で用いられる場合、電池の高温及び室温サイクル性能と低抵抗の両方を考慮することは難しい。カルボン酸塩系添加剤の単独の使用は電池のインピーダンスを上昇させることが可能であるとはいえ、負極の安定性が劣り、このためカルボン酸塩系化合物の応用は制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
関連技術の欠陥を鑑み、本発明は、電解液、その電気化学デバイス、及びその電子デバイスを提供することを目的とする。本発明により提供される電解液を通じて、負極の表面上の膜形成が向上され、内部抵抗が最適化され、電子化学デバイスにおける高温及び室温でのサイクル性能が強化され、低内部抵抗が達成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的の1つは電解液を提供することであり、以下の技術的解決策を本発明において採用する。
【0008】
電解液は、炭酸ビニレンとカルボン酸塩系化合物とを含む。
【0009】
電解液の質量に基づき、炭酸ビニレンの質量パーセントはA%であり、カルボン酸塩系化合物の質量パーセントはB%であり、電解液は、A/Bの値が0.1~10の範囲であることと、A/Bの値が1.1~6の範囲であることとを満たす。
【0010】
本発明により提供される電解液において、炭酸ビニレンとカルボン酸塩系化合物は、両者の共重合反応を起こすために組合せで用いられる。カルボン酸塩系化合物において、リチウムイオンと良好に結合し、リチウムイオン移動部位を提供可能であるカルボン酸カルボニル基が、主に炭酸ビニレンにより形成される負極固体電解質膜に導入される。両者の含有比率を調整することにより、負極の表面上の膜形成が向上して内部抵抗が最適化され、これによりリチウム電池は高温及び室温での良好なサイクル性能と、高温での良好な容量性能を呈し、低内部抵抗を達成する。
【0011】
本発明において、AとBは0.1~5の範囲の値Aを満たす。例えば、Aの値範囲は、0.1、0.2、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、又は5等々である。Aが過度に小さい場合、成膜添加剤の量が過度に少なく、保護効果が達成不可能であり、Aが過度に大きい場合、重合反応が過度に強くなる可能性があり、電池のインピーダンスが急激に上昇する可能性がある。Bの値は0.1~5の範囲であり、例えば、Bの値範囲は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、又は5等々である。カルボン酸塩系化合物の量が0.1%未満といった過度に少ない場合、成膜効果が明白でなく、5%よりも多いといった過剰な量のカルボン酸塩系化合物が用いられる場合、やはりインピーダンスが急激に上昇する可能性がある。A/Bは0.1~10であり、例えば、A/Bは0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、又は10等である。A+Bは1.1~6であり、例えば、A+Bは1.1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、又は6等である。A/Bが過度に小さい場合、カルボン酸含有量が相対的に過剰であり、これは負極においてカルボン酸を消費し、副反応をもたらす。A/Bが過度に大きい場合、カルボン酸塩の含有量が相対的に少なすぎて、炭酸ビニレンと共にインピーダンスを下げる効果が明白でない可能性がある。A+Bが過度に小さい場合、成膜効果が僅かである可能性があり、A+Bが過度に大きい場合、電池のインピーダンスが過度に大きくなる可能性がある。
【0012】
好ましくは、A/Bの値は0.7~3の範囲であり、A+Bの値は1.1~4の範囲である。
【0013】
カルボン酸塩系化合物は式(1)により表される化合物である:
【化1】
そのうち、R、R、Rはそれぞれ、水素、置換された又は置換されていないC1-12の炭化水素基から独立して選択され、Rは置換された又は置換されていないC1-12の炭化水素基から選択され、置換されている場合、置換基はハロゲン原子である。ここで、C1-12の炭化水素基は1~12の炭素原子を含む炭化水素基を指す。
【0014】
式(1)により表される化合物は、フマル酸ジメチル
【化2】

メタクリル酸メチル
【化3】

マレイン酸ジメチル
【化4】

1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート
【化5】

及びビニルメタクリレート
【化6】
のうちのいずれか1つ又は2つ以上の混合物である。典型的であるが非限的な混合物の組合せは、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルの混合物、フマル酸ジメチルとマレイン酸ジメチルの混合物、フマル酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートの混合物、フマル酸ジメチルとビニルメタクリレートの混合物、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルの混合物、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートの混合物、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルとビニルメタクリレートの混合物、メタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートの混合物、メタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルとビニルメタクリレートの混合物、マレイン酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートとビニルメタクリレートの混合物、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートの混合物、フマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルとビニルメタクリレートの混合物、メタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートとビニルメタクリレートの混合物、及びフマル酸ジメチルとメタクリル酸メチルとマレイン酸ジメチルと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートとビニルメタクリレートの混合物といった、2つ、3つ、4つ、又は5つの混合物である。
【0015】
電解液は炭酸エチレン(EC)も含み、電解液の質量に基づき、炭酸エチレンの質量パーセントはC%であり、電解液は、例えば15、20、25、30、35、40、45、50、55、又は60等である、15~60の範囲のCの値を満たす。Cが過度に小さい場合、電解液の導電性が低下し、電池のインピーダンスに影響する可能性がある。Cが過度に大きい場合、電解液は固体電解質膜の成分に対し可溶すぎる可能性があり、膜形成が不安定となる可能性があり、性能に影響する可能性がある。C/(A+B)の値は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等といった、5~20の範囲である。C/(A+B)が過度に小さい場合、溶媒が成膜添加剤に対して過度に少ない可能性があり、電池のインピーダンスが上昇する可能性がある。C/(A+B)が過度に大きい場合、溶媒が成膜添加剤に対して過度に多い可能性があり、膜形成が不安定となる可能性がある。
【0016】
C/(A+B)の値は8.3~15の範囲であることが好ましい。
【0017】
本発明のもう1つの目的は、正極と、負極と、セパレータと、上述した電解液とを含む、電気化学デバイスを提供することである。
【0018】
本発明により提供される電気化学デバイスには電気化学反応が起こる任意のデバイスを含み、その具体的な例には、一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、又は蓄電器の全ての種類を含む。特に、電気化学デバイスは、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、又はリチウムイオンポリマー二次電池を含む、リチウム二次電池である。
【0019】
いくつかの実施形態において、本発明により提供される電気化学デバイスは、金属イオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を有する負極とを含む電気化学デバイスである。
【0020】
正極は正極活物質を含み、正極活物質は、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケル遷移金属複合酸化物、及びスピネル構造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物のうちの1つ又は2つ以上の混合物から選択される。
【0021】
リチウムニッケル遷移金属複合酸化物の一般式はLi1+aNiCoMn2-eであり、該一般式において、-0.2<a<0.2、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.3、0.03≦z≦0.4、0≦b≦0.05、0≦e≦0.1であり、Mは、Al、Ti、Zr、Nb、Sr、Sc、Sb、Y、Ba、Co、及びMnのうちの1つ又は2つ以上の組合せから選択され、XはF及び/又はClから選択される。リチウムニッケル遷移金属複合酸化物の一般化学式は、電池の充電状態(SOC)が0%のときの化学式であることに注意されたい。
【0022】
負極は負極活物質と集電体とを含み、負極活物質は黒鉛又はシリコン-カーボン負極活物質を含む。
【0023】
シリコン-カーボン負極活物質は、シリコン、シリコン酸化物化合物、及びシリコン系合金のうちのいずれか1つ又は2つ以上の混合物から選択される。
【0024】
負極は炭素材料を更に含み、炭素材料は、アセチレンブラック、導電性カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラックのうちのいずれか1つ又は2つ以上の混合物から選択される。
【0025】
セパレータ中の塩素含有量は20ppm以下である。セパレータ中の塩素含有量は、3ppm、5ppm、7ppm、8ppm、9ppm、10ppm、11ppm、12ppm、13ppm、14ppm、15ppm、16ppm、17ppm、18ppm、19ppm、又は20ppm等といった、7ppm~20ppmであることが好ましい。セパレータ中の塩素含有量が過度に低い場合、電池への塩素の影響は低下する可能性があるが、現在のセパレータ技術に制限され、塩素含有量を更に減少させることは困難である。セパレータ中の塩素含有量が20ppmを超える場合、SVCと添加剤の重合反応が停止し、電池性能に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0026】
本発明のもう1つの目的は、上述した電気化学デバイスを含む電子デバイスを提供することである。
【0027】
電子デバイスは、ノートブックコンピュータ、ペン入力コンピュータ、モバイルコンピュータ、電子書籍リーダー、携帯電話、携帯型ファックスマシン、携帯型コピー機、携帯型プリンタ、ステレオヘッドホン、ビデオカセットレコーダー、液晶テレビ、携帯型掃除機、携帯型CDプレーヤー、ミニディスク、送受信機、電子ノート、計算機、メモリカード、携帯型レコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モータ、車、オートバイ、パワーアシスト自転車、自転車、照明装置、玩具、ゲーム機、時計、電子工具、フラッシュライト、カメラ、家庭用大型蓄電池、又はリチウムイオン蓄電器等といった種類を含むが、これに限定されない。
【発明の効果】
【0028】
関連技術と比較し、本発明の有益な効果は次のとおりである。
【0029】
本発明により提供される電解液は、炭酸ビニレンとカルボン酸塩系化合物を併用して含有量を調整することにより、負極の表面上の成膜が向上して内部抵抗が最適化される。このようにして、電気化学デバイスは高温及び室温での良好なサイクル性能及び高温での良好な容量性能を呈し、低内部抵抗を達成する。
【0030】
上記をより理解し易くするため、いくつかの実施形態を以下に詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の技術的解決策を特定の実施形態を通じて以下に更に説明する。
【0032】
特記しない限り、本発明の様々な原材料は市販品を購入するか、当該技術分野の従来の方法に従って作製することができる。
【0033】
本発明により提供される電解液は、炭酸ビニレンとカルボン酸塩系化合物とを含む。
【0034】
電解液の質量に基づき、炭酸ビニレンの質量パーセントはA%であり、カルボン酸塩系化合物の質量パーセントはB%であり、電解液は、0.1~5の範囲のAの値、0.1~5の範囲のBの値、0.1~10の範囲のA/Bの値、及び1.1~6の範囲のA+Bの値を満たす。
【0035】
本発明において、電気化学デバイスはリチウムイオン電池である。リチウムイオン電池は一次リチウム電池又は二次リチウム電池であり、正極と、負極と、正極と負極との間に位置するセパレータと、電解液とを含む。
【0036】
本発明の二次リチウム電池の作製方法を以下に提供する。
【0037】
(1)LFP(LiFePO)正極の作製
【0038】
正極活物質(LiFePO)、ポリフッ化ビニリデン(バインダーとして)、及びスーパーP(導電剤として)を重量比97:2:1で混合し、N-メチルピロリドン(NMP)を添加し、正極スラリーを得るため、系が均一透明になるまで真空ミキサーで攪拌した。正極スラリーをアルミ箔上に均一にコーティングした。アルミ箔を室温で乾燥させ、次いで乾燥のためオーブンに移し、次いで冷間プレスと切り出しにより正極(電極片)を得た。
【0039】
(2)黒鉛負極の作製
【0040】
人工黒鉛(負極活物質として)、スーパーP(導電剤として)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na;増粘剤)、及びスチレンブタジエンゴム(SBR;バインダーとして)を質量比96:1:1:2で混合した。脱イオン水を加え、真空ミキサーの動作において負極スラリーを得た。負極スラリーを負極集電体銅箔上に均一にコーティングした。銅箔を室温で乾燥させ、次いでオーブンに移して乾燥させ、次いで冷間プレスと切り出しにより負極(電極片)を得た。
【0041】
(3)電解液の作製
【0042】
有機溶媒を形成するため、含水量が10ppm未満であるアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、電池級炭酸エチレン(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を比率に従って混合した。他の成分は、以下の段落に提供する表に記載した電解質の組成に従って定量的に添加し、電解液を得るため均一に混合した。表中の各成分の含有量は、電解液の総重量に基づき算出された重量パーセントであり、DTDはエチレンサルフェートである。
【0043】
(4)セパレータ膜の作製
【0044】
ポリプロピレン膜をセパレータ膜として用いた。
【0045】
(5)二次電池の作製
【0046】
12μmの厚さのポリプロピレン薄膜(PP)をセパレータ膜として用いた。上記で作製した正極、セパレータ膜、及び負極を、分離のためセパレータ膜が正極と負極との間に配置されるよう順に積層し、アルミラミネートフィルムでカバーし、120℃で乾燥させるため真空オーブンに移し、3.0g/Ahの上記で製造した電解液を注入し、次いで電解液形成のために封止した。最終的に、容量1Ahのソフトパック電池(即ちリチウムイオン電池)を得た。
【0047】
本発明において、得られたリチウムイオン電池は350mAh/gの負極グラム容量、3g/Ahの液体注入係数、1Ahの電池容量、3gの負極質量、及び3gの電解液質量を有する。
【0048】
本発明におけるリチウムイオン電池中の電解液の形成のための条件を以下に提供する。
【0049】
リチウムイオン電池中の電解液の形成のステップを以下に提供する。注入した後に電解液を0.1MPaの高温圧力下に保ち、静止状態において45℃で17分間0.02Cで充電し、次いで5分間放置した後に0.02Cで0.3Ahまで充電した。その後、エアバッグを切断して真空封止し、電解液を室温で48時間放置し、電解液の形成を完了した。
【0050】
ここで、本発明により提供される実施例において、式(1)により表される化合物として次の5つの化合物を用いた。化合物1はメタクリル酸メチル、化合物2はフマル酸ジメチル、化合物3はマレイン酸ジメチル、化合物4は1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、化合物5はビニルメタクリレートである。
【0051】
本発明により提供される二次電池は、以下の方法を通じて試験することができる。
【0052】
(1)二次電池サイクル試験
【0053】
特定の温度(室温25℃又は高温45℃)のオーブンにおいて、特定電位間隔内で1Cの電流でサイクル充放電を行い、各サイクルの放電容量を記録した。電池容量が初回サイクルの容量の80%に達したとき、試験を終了した。
【0054】
(2)二次電池直流抵抗(DCR)試験
【0055】
特定温度で、電池が1Cの電流で50%SOC(充電状態、電池の残量を反映)まで放電されたとき、電流を4Cまで上げて30秒間維持した。更新された安定電圧と元々のプラットフォーム電圧との差を検出し、3C電流に対するその値の比率が電池のDC抵抗である。電池が完全に充電された後に初めて実行されたDCR試験結果は、電池の初期DCRである。
【0056】
(3)二次電池の高温容量維持率試験
【0057】
完全に充電した後、二次電池を60℃の定温器に配置し、30日後に取り出し、室温まで冷却し、次いで0.33Cでカットオフ電圧まで放電し、初期放電容量に対するその容量のパーセントを比較した。
【0058】
ここで、充放電のカットオフ電圧は次のとおりである:LFP-黒鉛は2.5V~3.65V。
【0059】
(4)セパレータ中の塩素含有量を以下に示す方法を通じて試験した。
【0060】
セパレータを自動サンプル燃焼装置(三菱化学アナリテック製のAQF-100)において燃焼させ、次いで吸収液(NaCOとNaHCOの混合溶液)に吸収し、総塩素含有量を測定するため、吸収液をイオンクロマトグラフィ装置(Dionex製、ICS1500、カラム(分離カラム:AS12A、ガードカラム:AG12A)、サプレッサASRS300)に注入した。
【0061】
本発明における、実施例1~10、比較例1、比較例2、及び比較例3の電解液組成を表1-1に示す。リチウムイオン電池を上記作製方法により作製し、その性能を試験した。試験結果を表1-2に示す。
【0062】
【表1-1】
【0063】
【表1-2】
【0064】
表1-2のデータから、A+Bの値範囲は負極上に成膜するための添加剤の総量を決定することが分かる。即ち、該値が大きいほどインピーダンスが大きくなり、値が小さいほど成膜効果が劣る。インピーダンスを低下させるため炭酸ビニレンとカルボン酸塩が同時に用いられる。炭酸ビニレンの含有量は膜質を決定するがインピーダンスを上昇させ、カルボン酸塩の含有量はインピーダンス低下の効果を決定するが、過度のカルボン酸塩の添加は逆効果を招く。このため、A/B及びA+Bを適切な範囲とするよう制御することにより、これらの相乗効果により、負極上での成膜の性能及び強度が向上し、リチウムイオン伝導性が増し、インピーダンスを低下させることができる。
【0065】
本発明における、実施例11~14の電解液成分を表2-1に示す。リチウムイオン電池を上記作製方法により作製し、その性能を試験した。試験結果を表2-2に示す。
【0066】
【表2-1】
【0067】
【表2-2】
【0068】
表2から分かるように、A+B及びA/Bの好ましい範囲において、A+Bの値が1.1~4の範囲でありA/Bの値が0.7~3の範囲であるとき、負極成膜と電池インピーダンス低下との間のバランスを効果的に達成することができることが判明した。
【0069】
実施例15~17と比較例4の電解液組成を表3-1に示す。リチウムイオン電池を上記作製方法により作製し、その性能を試験した。試験結果を表3-2に示す。
【0070】
【表3-1】
【0071】
【表3-2】
【0072】
負極成膜添加剤の決定された最適総量及び比率において、該総量及び比率に対するECの比率は制限され、表3-2のデータから、該比率が過度に高い場合、負極の表面上の膜形成が不安定となる可能性があり電池性能が損なわれるが、該比率が過度に低い場合、リチウムイオンの解離が不十分となる可能性があり、電解液の導電率が低下する可能性があり、電池インピーダンスが上昇する可能性がある。
【0073】
実施例18~21と実施例8との間の電解液組成の差異は、式(1)により表される化合物の種類が異なることである。化合物1を実施例8に採用し、化合物2を実施例18に採用し、化合物3を実施例19に採用し、化合物4を実施例20に採用し、化合物5を実施例21に採用した。他の成分は実施例8のものと同一である。
【0074】
リチウムイオン電池を上記作製方法により作製し、その性能を試験した。試験結果を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
表4のデータから、実施例8及び実施例18~実施例21において、高温及び室温での電池のサイクル性能を高めるため、高温容量性能を改善するため、そして抵抗を低下させるため、式(1)により表される化合物の異なる種類を使用可能であることが分かる。
【0077】
実施例8と比較した実施例22と23の差異は、実施例8のセパレータの塩素含有量は7ppmであり、実施例22と23のセパレータの塩素含有量はそれぞれ10ppmと20ppmである点にある。
【0078】
【表5】
【0079】
表5のデータから分かるように、セパレータの塩素含有量を7~20ppmの間に制御することにより、塩素含有量が高いほど、炭酸エチレン、炭酸ビニレン、及びカルボン酸塩系化合物の成膜反応の減失がより深刻となることが判明した。更に、セパレータの塩素含有量を7~10ppmの間に制御することにより、その性能を効果的に向上させることができる。このため、セパレータの塩素、炭酸エチレン、炭酸ビニレン、及びカルボン酸塩系化合物の含有量の相乗効果を制御することにより、電池性能を向上させることができる。
【0080】
本発明において、本発明の処理機器及び処理フローを上記の実施形態により詳細に示している。ただし、本発明は上述した詳細な処理装置及び処理フローに限定されない。即ち、これは上述した詳細な処理装置及び処理フローに依存することなく本発明を実施することができないことを意味しない。当業者は、本発明の改善、本発明の各原材料の均等な置き換えも、補助成分の添加、特定の方法の選択等は全て、本発明の保護範囲及び開示範囲内にあることを理解すべきである。
【0081】
本発明の好ましい実施形態について上記に詳細に説明した。ただし、本発明は上述した実施形態の特定の詳細に限定されない。本発明の技術的概念の範囲内で、本発明の技術的解決策に対し様々な単純な改変を加えることができ、これらの単純な改変は全て本発明の保護範囲に属する。
【0082】
加えて、上述した具体的な実施方法で説明した各特定の技術的特徴は、矛盾しない状況下で任意の適切な方法と組み合わせることができることに注意されたい。不必要な繰り返しを避けるため、様々な可能な組合せは本発明において説明しない。
【0083】
加えて、本発明の様々な実施形態は任意に組み合わせ可能であり、本発明の精神に反しない限り、それらも本発明において開示された内容と見なされるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の電解液、電気化学デバイス、及び電子デバイスは、一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、又は蓄電器に適用することができる。





【外国語明細書】