(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174494
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】衣料用生地
(51)【国際特許分類】
A41D 31/10 20190101AFI20231130BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20231130BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20231130BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20231130BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20231130BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20231130BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20231130BHJP
D06M 15/51 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
A41D31/10
A41D31/00 502C
A41D31/00 503G
A41D31/04 F
A41D31/00 502Z
D04B1/16
D03D15/20 100
D03D15/283
D01F6/92 301M
D06M15/51
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008132
(22)【出願日】2023-01-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2022087140
(32)【優先日】2022-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】白石 篤史
(72)【発明者】
【氏名】田島 和弥
【テーマコード(参考)】
4L002
4L033
4L035
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB00
4L002AB02
4L002AC00
4L002BA00
4L002DA03
4L002EA00
4L002EA02
4L002EA03
4L002FA01
4L033CA46
4L035AA05
4L035BB31
4L035JJ05
4L035KK05
4L048AA20
4L048AA34
4L048AA56
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB21
4L048AC00
4L048CA00
4L048CA07
4L048CA11
4L048DA01
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】吸熱放射性及び吸水速乾性の高い衣料用生地を提供する。
【解決手段】ポリエステル繊維を含む衣料用生地であり、セシウム酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子を含む吸熱放射性ポリエステル繊維Aと、セシウム酸化タングステン粒子を含まないポリエステル繊維Bを含み、吸水速乾処理されている。身体1からの熱(赤外線)2は、生地3で素早くかつ多く吸収され、身体の熱放散量4を促し、クーリング効果を高める。また、生地上の水分を熱(赤外線)により蒸散を促進し、生地を素早く乾かす。生地3は吸水速乾処理されているので、水の蒸発潜熱によるクーリング効果は相乗的に高くなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維を含む衣料用生地であって、
前記生地は、セシウム酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子を含む吸熱放射性ポリエステル繊維Aと、セシウム酸化タングステン粒子を含まないポリエステル繊維Bを含み、
前記生地は吸水速乾処理されていることを特徴とする衣料用生地。
【請求項2】
前記吸水速乾処理により、前記ポリエステル繊維A及びBの少なくとも一部には親水性ポリエステル樹脂加工剤分子の少なくとも一部が繊維内に吸収され、残余は前記ポリエステル繊維表面を被覆して親水化している請求項1に記載の衣料用生地。
【請求項3】
前記ポリエステル繊維Aと前記ポリエステル繊維Bの重量割合は、A:B=10~90:90~10である請求項1又は2に記載の衣料用生地。
【請求項4】
前記ポリエステル繊維Aを100重量%としたとき、セシウム酸化タングステン粒子を0.1~10重量%、酸化チタン粒子を0.1~2重量%含む請求項1又は2に記載の衣料用生地。
【請求項5】
前記セシウム酸化タングステン粒子を含まないポリエステル繊維Bは、ポリエステル繊維Bを100重量%としたとき、酸化チタン粒子は含まないか又は含む場合は0重量%を超え5重量%以下含む請求項1又は2に記載の衣料用生地。
【請求項6】
前記生地の通気量は、JIS L1096:2010(フラジール法)で測定して100cc/m2・秒以上である請求項1又は2に記載の衣料用生地。
【請求項7】
前記生地の吸水性は、JIS L1907:2004(滴下法)による吸水時間で10秒以下である請求項1又は2に記載の衣料用生地。
【請求項8】
前記生地の水分拡散性は、拡散性残量水分率試験(ISO 17617:2014 A-1法準用(水0.6mL滴下))において、10%になる時間が55分以内である請求項1又は2に記載の衣料用生地。
【請求項9】
前記生地は、編地である請求項1又は2に記載の衣料用生地。
【請求項10】
前記生地は、スポーツ用衣料生地である請求項1又は2に記載の衣料用生地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸熱放射性及び吸水速乾性の高い衣料用生地に関する。
【背景技術】
【0002】
運動時においては、身体からの発熱が大きくなり、温熱快適性が低下する。また、発汗も増え、衣服の乾燥が追い付かず、衣服が湿潤した状態になり、衣服重量が増え、運動性を阻害する。これに対し、衣服を薄くすることによって、断熱性が小さくなり、熱の放出を高めながら、衣服の総重量を低く抑える事ができるが、透け感が増加し、着用には問題がある。また、通常の衣類は、積極的な熱の放出を高めておらず、衣服の湿潤状態も変わらないため、温熱快適性は不十分である。
従来技術として、特許文献1には、赤外線遮蔽材料として複合タングステン酸化物粒子が提案されている。特許文献2~3には、光熱変換粒子としてセシウム酸化タングステン粒子を含有するポリエステル繊維が提案されている。特許文献4には、セシウム酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子を含有するポリエステル繊維を生地とし、農業用日よけシートとすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/037932号明細書
【特許文献2】国際公開第2019/160109号明細書
【特許文献3】特開2020-075989号公報
【特許文献4】特開2021-070886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術は、衣料用生地として熱放射性及び吸水速乾性を十分に発揮させることはできなかった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、吸熱放射性及び吸水速乾性の高い衣料用生地を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の衣料用生地は、ポリエステル繊維を含む衣料用生地であって、前記生地は、セシウム酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子を含む吸熱放射性ポリエステル繊維Aと、セシウム酸化タングステン粒子を含まないポリエステル繊維Bを含み、前記生地は吸水速乾処理されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の衣料用生地は、赤外線を生地が積極的に吸収し、放出を促しながら、吸収した熱により生地上の水分の蒸散を促し、乾燥状態を保つことで、温熱快適性と運動性を改善でき、紫外線、可視光、赤外線をコントロールすることによって、透け感がなく、着用にも適している。また、吸熱放射性ポリエステル繊維Aと、ポリエステル繊維Bを含む生地により、身体から発する熱を生地が積極的に吸収し、放出を促す吸熱放射性を発揮する。また、身体からの熱(赤外線)は、生地で素早くかつ多く吸収され、身体の熱放散を促し、クーリング効果を高める。また、生地上の水分を熱(赤外線)により蒸散を促進し、生地を素早く乾かす。さらに、生地は吸水速乾処理されているので、水の蒸発潜熱によるクーリング効果は相乗的に高くなる。この生地は、熱放射性及び吸水速乾性が高いことにより、とくにスポーツ用衣料として好適な生地となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態の生地の吸熱放射性のメカニズムを示すイメージ図である。
【
図2】
図2は従来の生地の吸熱放射性のメカニズムを示すイメージ図である。
【
図3】
図3は本発明の一実施形態の吸水速乾繊維を示す模式的断面説明図である。
【
図4】
図4A-Dは吸熱蒸散性評価試験のサーモグラフィー画像をトレースした図である。
【
図5】
図5Aは本発明の実施例1の編地の表面写真であり、
図5Bは同裏面写真である。
【
図6】
図6Aは本発明の実施例6の編地の表面写真であり、
図6Bは同裏面写真である。
【
図7】
図7は本発明の実施例と比較例の光線透過率のグラフである。
【
図8】
図8は本発明の実施例と比較例の光線反射率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ポリエステル繊維を含む衣料用生地であり、セシウム酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子を含む吸熱放射性ポリエステル繊維Aと、セシウム酸化タングステン粒子を含まないポリエステル繊維Bを含む。ポリエステル繊維Bは通常のスポーツ衣類に使用されている繊維を使用できる。ポリエステル繊維AとBは短繊維(紡績糸)、長繊維(フィラメント糸)、精紡交撚糸又はこれらを混合して生地とすることができる。ポリエステル繊維AとBは混紡、混繊糸、引き揃え糸、別々の糸を編み機に供給して編物生地とするか、又は織機に供給して織物生地とする。ポリエステル繊維AとBの単繊維繊度は、通常のスポーツ衣類に使用されている繊維を使用でき、0.5~7decitexが好ましい。
【0010】
ポリエステル繊維Aとポリエステル繊維Bの重量割合は、A:B=10~90:90~10が好ましく、よりに好ましくはA:B=15~85:90~10であり、さらに好ましくはA:B=20~80:90~10である。これにより、熱放射性を好ましい状態で維持できる。繊維Aが90を超える場合、繊維Aはセシウム酸化タングステン粒子により青みがあるため、生地が青みが強くなり、衣服にした時の色目の制限がでる傾向となる。繊維Aが10を下回る場合、生地として十分に赤外線を吸収する事が出来ず、蒸散を促進する事ができない傾向となる。繊維Aは生地において、分散して編み物とされるか、あるいは織り物とされている事が好ましい。ウェール方向、コース方向のどちらかに対して、1インチ当たり繊維Aが1本以上存在する事が好ましい。より好ましくは、0.5インチ当たり繊維Aが1本以上存在する事が好ましい。そうする事で、生地全体で赤外線を吸収し、蒸散を促進する事ができる。特定の箇所で密となり、他の箇所は疎になる場合、赤外線を吸収が十分でない箇所が発生し、衣服全体として蒸散が促進されない傾向となる。
【0011】
ポリエステル繊維Aを100重量%としたとき、セシウム酸化タングステン粒子は0.1~10重量%が好ましく、より好ましくは0.2~8重量%である。また、ポリエステル繊維Aを100重量%としたとき、酸化チタン粒子は0.1~2重量%が好ましい。セシウム酸化タングステン粒子及び酸化チタン粒子は繊維用グレードが好ましく、平均粒子径は0.1~0.8μmが好ましい。平均粒子径はレーザー回折光散乱法により、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)を測定する。この測定器としては、例えば堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式無機粒子分布測定装置LA-950S2がある。
【0012】
セシウム酸化タングステン粒子を含まないポリエステル繊維Bは、ポリエステル繊維Bを100重量%としたとき、酸化チタン粒子は含まないか又は含む場合は0重量%を超え5重量%以下含むのが好ましい。
【0013】
本発明の生地は吸水速乾処理されている。吸水速乾処理は、一例としてポリエステル繊維A及びBの少なくとも一部には、親水性ポリエステル樹脂加工剤分子の少なくとも一部が繊維内に吸収され、残余は前記ポリエステル繊維表面を被覆して親水化する処理が好ましい。すなわち、親水化によりポリエステル繊維A及びBの少なくとも一部は、吸水速乾性を有する。ポリエステル繊維Aの表面全てを親水化する事が、より好ましい。身体からの熱をポリエステル繊維Aが積極的に吸収し、繊維表面上の水の蒸発潜熱によるクーリング効果を高める事ができるからである。
【0014】
本発明で使用する吸水速乾処理剤(親水性ポリエステル樹脂加工剤)は、分散染料と同様な機能により、ポリエステル繊維内に、前記加工剤の少なくとも一部が吸収(吸尽拡散)する加工剤が好ましい。この親水性ポリエステル樹脂加工剤は、一例として、直鎖状で、ポリエステル基と親水性基の末端基同士が結合している共重合体である。好ましくはブロック共重合体である。分子量は5000~8000が好ましく、より好ましくは6000~7000である。ポリエステル基と親水性基の重量割合は、90/10~10/90が好ましく、より好ましくは60/40~20/80である。親水性基としては、ポリエチレングリコール、5-スルホイソフタル酸-ナトリウム、無水トリメリット酸等があり、ポリエチレングリコールがより好ましい。このような加工剤としては、高松油脂社製、商品番号KMZ-902がある。
【0015】
親水性ポリエステル樹脂加工剤を含む水溶液中でポリエステル繊維を含む繊維構造物を浸漬加熱処理すると、ポリエステル繊維内の少なくとも一部、例えば非晶部には、親水性ポリエステル樹脂加工剤分子のポリエステル基部分の少なくとも一部が吸収され、ポリエステル繊維の表面は前記分子の親水性基で被覆され親水化される。浸漬加熱処理によりガラス転移点以上の温度でポリエステル繊維の非晶部に存在する孔のサイズが大きくなり、ポリエステル基の少なくとも一部が孔に入り込む。浸漬加熱処理後、ポリエステル繊維の温度がガラス転移点以下に低下することで、非晶部の孔のサイズが元に戻り、ポリエステル基の少なくとも一部がポリエステル繊維に封じ込められる。この仕組みにより、非常に強固な結合であるが、風合いはソフトで、機能性を阻害しない形態となる。ポリエステル繊維の非晶部の孔に入り込むことができるポリエステル基のベースとなる単量体2つ分(二量体)の分子量は200~1000で、より好ましくは250~800である。ポリエステル基はポリエチレンテレフタレートなどの単量体が多数結合した重合体であるが、直線ではなく、立体形状を形成しているため、二量体の分子量の大きさが孔に入り込めるかの判断に適している。200より小さい場合、ポリエステル基のベースとなる二量体のサイズが非晶部の孔より小さく、ポリエステル基がポリエステル繊維の非晶部の孔より容易に抜けやすくなり、耐久性が弱くなる。また、1000より大きい場合、ガラス転移点以上の温度で、非晶部の孔のサイズが大きくなっても、それよりポリエステル基のベースとなる二量体が大きいため、非晶部の孔の中に入らない。すなわち、好ましい分子量のポリエステル基をもつ親水性ポリエステル樹脂加工剤であるため、硬化触媒、電子線、プラズマ照射などのキュアー(硬化)は不要である。これにより、風合いを良好に保ち、耐久性の高い防汚性、吸水性、拡散性等が共に高い繊維構造物を提供できる。
【0016】
親水性ポリエステル樹脂加工剤は、加工されるポリエステル繊維に対して、0.1%~10%owfが好ましく、より好ましくは、0.5%~8%owfである。0.1%owfを下回る場合、繊維表面に十分な親水化された層が形成されず、赤外線を吸収しても、繊維表面に十分な水分が無く、蒸散によるクーリング効果が得られない傾向となる。10%owfを上回る場合、繊維表面に必要以上の親水化された層が形成され、赤外線吸収を阻害、吸収したエネルギーで繊維表面の水を効率的に蒸散させる事が出来ず、生地が濡れた状態が続き、クーリング効果が低下する傾向となる。
【0017】
本発明の生地は、下記の性質を有する。
(1)吸熱放射:繊維内のセシウム酸化タングステン粒子が身体から発する熱(赤外線)を吸収し、温熱快適性を高める。また酸化チタンも含むことにより、可視光線、紫外線吸収率を吸収する。赤外線、可視光線、紫外線のエネルギーは、繊維表面にある水が気相に相変化するために用いられ、生地の乾燥を促す。繊維内で酸化チタンが反射した赤外線をセシウム酸化タングステン粒子が吸収するため、効率的にエネルギーを捕集できる。
【0018】
(2)透け感防止:繊維内のセシウム酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子が含まれることにより、赤外線、可視光線、紫外線の吸収を高める。セシウム酸化タングステン粒子は、赤外線の透過が小さいが、可視光の透過は大きい。酸化チタン粒子は可視光、紫外線の透過は小さいが、赤外線の透過は大きい。酸化チタンは、セシウム酸化タングステン粒子より、可視光、赤外線の反射が大きい。同じ繊維内に、上記2種類が存在することにより、繊維内で酸化チタン粒子が反射した赤外線を、セシウム酸化タングステン粒子が透過を抑える。その結果、赤外線、可視光線、紫外線のすべての波長に対して透過を抑えられるため、着用した時に透け感を防止することができる。
透け感を防止する程度として、本発明品の生地、本発明品と同じ編織設計、糸の太さでありながらセシウム酸化タングステン粒子、酸化チタン粒子を含まないポリエステル糸で構成された比較生地を、JIS L 1923:2017「繊維製品の防透け性評価方法」に従い視感法にて可視光防透け性における評価を行い、本発明品の生地は比較生地より、0.5級以上高い事が好ましい。より好ましくは、1.0級以上高い事が好ましい。上記と同様にしながら、赤外線カメラ(商品名:PENTAX645Z IR、製造メーカー:リコーイメージング株式会社)で生地試料を観察した時の画像を視感法にて赤外線防透け性における評価を行う。本発明品の生地は比較生地より、0.5級以上高い事が好ましい。より好ましくは、1.0級以上高い事が好ましい。
湿潤時の透け感を防止する事ができるセシウム酸化タングステン粒子は、赤外線を吸収するため、繊維状の水分を赤外線のエネルギーによって蒸散を促進させ、生地の保水を抑制する事で、湿潤時の透け感を防止する事ができる。一般的に、湿潤した状態において、生地に水の膜ができることにより、透け感が高まる。そのため、乾燥時でも透け感を抑えながらも、水分の蒸散を促し、生地の保水量を減らすことで、湿潤時の透け感を防止することができる。セシウム酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子の両方が含まれることにより、より相乗効果が出て、湿潤時の透け感を防止する事ができる。親水性ポリエステル樹脂加工剤を加工する事で、より水分の蒸散を促進させ、透け感を防止する事ができる。
湿潤時の透け感を評価する方法を説明する。本発明品の生地、本発明品と同じ編織設計、糸の太さでありながらセシウム酸化タングステン粒子、酸化チタン粒子を含まないポリエステル糸で構成された比較生地を試料として用いる。10×10cmの試料の中央部に0.4mlの水を滴下し、カトーテック株式会社製KES-F7サーモラボの熱板(40℃)の上に10分間置き、その後、JIS L 1923:2017「繊維製品の防透け性評価方法」に従い視感法にて可視光防透け性における評価を行う。本発明品の生地は比較生地より、0.5級以上高い事が好ましい。より好ましくは、1.0級以上高い事が好ましい。上記と同様にしながら、赤外線カメラ(商品名:PENTAX645Z IR、製造メーカー:リコーイメージング株式会社)で試料を観察した時の画像を視感法にて赤外線防透け性における評価を行う。本発明品の生地は比較生地より、0.5級以上高い事が好ましい。より好ましくは、1.0級以上高い事が好ましい。
【0019】
(3)通気量:生地の通気量は、JIS L1096:2010(フラジール法)で測定して100cc/m2・秒以上であるのが好ましく、より好ましくは100~800cc/m2・秒であり、さらに好ましくは100~700cc/m2・秒である。
本発明の生地はスポーツ衣類に適用することが好ましく、通気量が前記の範囲であれば気体の汗の蒸散が多くなり、また液体の汗は乾燥しやすく、水分の蒸発潜熱により人体を冷却するのに好適となる。
【0020】
(4)吸水性:滴下法(JIS L 1907:2004)が10秒以下、好ましくは5秒以下、より好ましくは3秒以下、さらに好ましくは、1秒以下である。生地の表面が親水化されることで、生地と水の親和性が大きくなり、吸水性が高くなる。
【0021】
(5)拡散性:拡散性残量水分率試験(ISO 17617:2014 A-1法準用(水0.6mL滴下))において、10%になる時間は55分以内が好ましく、より好ましくは10%になる時間が50分以内であり、さらに好ましくは10%になる時間が45分以内である。生地表面が親水化されることで、生地と水の親和性が大きくなり、吸水性を増している。そのため、生地の水平方向にも拡散性が増している。拡散性が増すことで、水の蒸発量が増え、生地の速乾性も増している。
【0022】
(6)吸熱蒸散性:水分を付与した生地に熱を加えた時の蒸散性を表す指標であり、蒸散性が高いほど、気化熱が大きくなり、放熱性も高くなることを意味する。評価方法は次に示す。
タテ10cm、ヨコ10cmの生地試料の中央部に0.2mlの水を滴下し、カトーテック株式会社製KES-F7サーモラボの熱板(40℃)の上に置き、サーモグラフィーで生地試料表面温度を計測する。サーモグラフィーの画像において、水が存在している部位の温度が低く表示される。サーモグラフィーの画像において、生地試料表面の温度が一様になるまでの時間(以後、蒸散時間と示す)を計測する。生地試料表面の温度が一様になることは、生地表面に水分が残っていないことを示している。この蒸散時間が短いほど、蒸散性が高い事を示している。蒸散時間が10分以内である事が好ましい。または、本発明品と同じ編織設計、糸の太さでありながらセシウム酸化タングステン粒子、酸化チタン粒子を含まないポリエステル糸で構成された比較生地を生地試料として評価を行い、本発明品が比較生地より蒸散時間が1分以上速いことが好ましい。
【0023】
吸水速乾処理方法は、生地を、親水性ポリエステル樹脂加工剤分子を含む水溶液中で浸漬加熱処理し、ポリエステル繊維内の少なくとも一部に前記加工剤の少なくとも一部を吸収させ、残余は前記ポリエステル繊維表面を被覆して親水化する。これにより、風合いを良好に保ち、防汚性、吸水性、拡散性等が共に高い繊維構造物を提供できる。
【0024】
浸漬加熱処理は、親水性ポリエステル樹脂加工剤を含む水溶液中に繊維構造物を浸漬し、常温から昇温し、温度:110~135℃、時間:20~120分間熱処理し、冷却し、水洗するのが好ましい。水洗した後、熱を加えて幅出し加工セットすることは常法に従って行うことができる。
【0025】
浸漬加熱処理の際には、分散染料を加えて同浴処理することもできる。本発明で使用する親水性ポリエステル樹脂加工剤は、分散染料と同様な加熱条件で処理するからである。
【0026】
本発明の生地は、生地の厚み方向に貫通した貫通孔を有し、前記貫通孔に接する少なくとも一部には撥水または疎水領域が配置され、ポリエステル繊維Aは親水領域が配置されており、前記被服用生地の生地重量100%に対して、300%水分を湿潤させた状態で、前記貫通孔が垂直方向となるように吊り下げたとき、前記貫通孔は空隙を維持する繊維構造物であっても良い。この繊維構造物にすることで、湿潤状態でも貫通孔の空隙を維持するため、ポリエステル繊維Aが低湿度の外気と触れ易くなり、赤外線、可視光線、紫外線のエネルギーを吸収し、繊維表面にある水が気相に相変化し、蒸散することを、より促進させる。上記の繊維構造を満たすため、撥水または疎水領域を実現する方法として、ポリエステル繊維Bが撥水または疎水性を有する、または、ポリエステル繊維A、ポリエステル繊維B以外に撥水性または疎水性を有する繊維を追加しても良い。撥水または疎水性を有する化学薬剤で処理をした繊維を用いると、編み織りした生地を浸漬加熱処理した際に吸汗速乾処理を行っても、吸水速乾処理剤のポリエステル基が繊維に封じ込められないため、生地として、撥水または疎水領域と親水領域が両立できる。
【0027】
以下、図面を用いて本発明の好適な一実施形態の被服用生地を説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施形態の生地の吸熱放射性のメカニズムを示すイメージ図である。身体1からの熱(赤外線)2は、生地3で素早くかつ多く吸収され、身体の熱放散量4を促し、クーリング効果を高める。また、生地上の水分を熱(赤外線)により蒸散を促進し、生地を素早く乾かす。生地3は吸水速乾処理されているので、水の蒸発潜熱によるクーリング効果は相乗的に高くなる。
これに対して
図2は従来の生地6は、身体1からの熱(赤外線)5の移動量は、本発明の生地3に比較して低く、身体の熱放散量7も低い。
【0028】
図3は本発明の一実施形態のポリエステル繊維に親水性ポリエステル樹脂加工剤が吸収している状態の吸水速乾繊維10を示す模式的断面説明図である。ポリエステル繊維11内部の非晶部に親水性ポリエステル樹脂加工剤分子12のポリエステル基の少なくとも一部12aが吸収され、親水性基12bがポリエステル繊維1の表面を覆っている。これにより、耐久性の高い防汚性、吸水性、拡散性が得られる。
【実施例0029】
以下実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
評価方法は次のとおりである。
<単位面積当たりの質量(目付)>
JIS L1096:2010 A法に準拠して測定した。
<通気量>
生地の通気量は、JIS L1096:2010(フラジール法)で測定した。
<光線透過率、光線反射率、光線吸収率>
分光光度計(島津製作所製UV-3100PC)と積分球付属装置を用いて、生地試料を設置し、280~2600nmの波長の光を照射する。生地試料を透過した光を積分球で集め、計測した値を、照射した光の値で割り、100をかけた値が光線透過率となる。生地試料表面で乱反射した光を積分球で集め、計測した値を、照射した光の値で割り、100をかけた値が光線反射率となる。
生地に波長280-2600nmの光を照射した時の透過率、反射率を計測した。生地の光線吸収率は次の式で算出した。
生地の光線吸収率=100%-透過率-反射率
<水分蒸散量>
赤外線照射による水分蒸散量を測定した。10×10cmの生地に1.5ml(1.5g)の水を湿潤させ、生地の150mm上方から10万luxのレフランプによる赤外線を照射し、10min後の重量変化から、蒸散量を計測した。
<吸水性>
滴下法(JIS L1907:2004)により吸水時間を測定した。
<拡散性>
拡散性残量水分率試験(ISO 17617:2014 A-1法準用(水0.6mL滴下))により測定した。
<防透け評価>
・乾燥状態での可視光の防透け評価
JIS L1923:2017「繊維製品の防透け性評価方法」に従い視感法にて可視光防透け性における比較評価を行った。
・乾燥状態での赤外線の防透け評価
上記と同様にしながら、赤外線カメラ(商品名:PENTAX645Z IR、製造メーカー:リコーイメージング株式会社)で生地試料を観察した時の画像を視感法にて赤外線防透け性における比較評価を行う。
・湿潤状態での可視光の防透け評価
タテ10cm、ヨコ10cmの生地試料の中央部に0.4mlの水を滴下し、カトーテック株式会社製KES-F7サーモラボの熱板(40℃)の上に10分間置き、その後試料を取り外し、JIS L1923:2017「繊維製品の防透け性評価方法」に従い視感法にて可視光防透け性における比較評価を行う。水を滴下した生地試料中央部の透け感を判定する。
・湿潤状態での赤外線の防透け評価
タテ10cm、ヨコ10cmの生地試料の中央部に0.4mlの水を滴下し、カトーテック株式会社製KES-F7サーモラボの熱板(40℃)の上に10分間置き、その後生地試料を取り外し、JIS L1923:2017「繊維製品の防透け性評価方法」に従いながら、赤外線カメラ(商品名:PENTAX645Z IR、製造メーカー:リコーイメージング株式会社)で生地試料を観察した時の画像を視感法にて赤外線防透け性における評価を行う。水を滴下した生地試料中央部の透け感を判定する。
<吸熱蒸散性評価>
タテ10cm、ヨコ10cmの生地試料の中央部に0.2mlの水を滴下し、カトーテック株式会社製KES-F7サーモラボの熱板(40℃)の上に置き、サーモグラフィーで生地試料表面温度を計測する。サーモグラフィーの画像において、水が存在している部位の温度が低く表示される。サーモグラフィーの画像において、生地試料表面の温度が一様になるまでの時間(以後、蒸散時間と示す)を計測する。生地試料表面の温度が一様になることは、生地表面に水分が残っていないことを示している。
図4A-Dは吸熱蒸散性評価試験のサーモグラフィー画像をトレースした図である。このサーモグラフィー画像は、生地試料14の中央部に0.2mlの水15を滴下し、熱板13の上に生地試料14を置き、一例として、
図4Aは1分後の画像、
図4Bは5分後の画像、
図4Cは7分後の画像、
図4Dは11分後の画像を示す。11分後は水分が完全に蒸散した状態である。水分が完全に蒸散した状態までの時間を測定した。
【0030】
(実施例1)
1 使用糸
(1)ポリエステル繊維A:ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸(トータル繊度84decitex,フィラメント本数48本)、仮撚り糸、セシウム酸化タングステン粒子(住友金属鉱山社製、商品名"CWO")4wt%、酸化チタン粒子(市販の繊維グレード品)0.1wt%添加
(2)ポリエステル繊維B:ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸(トータル繊度84decitex,フィラメント本数48本)、仮撚り糸、酸化チタン粒子(市販の繊維グレード品)0.1wt%添加
2 編み物
ゲージ数24の丸編み機で編み物生地(ニット)を編成した。ポリエステル繊維Aの糸を45質量%、ポリエステル繊維Bの糸を55質量%とし、ループ数はコース方向45個/inch、ウェール方向51個/inchとした。得られた編地の表面写真を
図5Aに示し、裏面写真を
図5Bに示す。
3 吸水速乾処理
(1)使用薬剤
親水性ポリエステル樹脂として、高松油脂社製、商品番号KMZ-902を5%o.w.f(on the weight of fiberの略)を使用した。
(2)処理条件
前記編み物生地を、前記薬剤と分散染料(サックスブルー)を5%o.w.f入れた水溶液に浸漬し、常温から130℃まで2℃/分で昇温し、130℃で60分間処理し、冷却し、水洗し、乾燥し、幅出しヒートセットした。得られた編み物生地の単位面積当たりの質量(目付)は120g/m
2であった。
【0031】
(実施例2)
分散染料をサックスブルーに換えてホワイト5%o.w.fとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0032】
(実施例3)
ポリエステル繊維Aの糸を90質量%、ポリエステル繊維Bの糸を10質量%とし、分散染料をホワイト5%o.w.fとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0033】
(実施例4)
ポリエステル繊維Aの糸を20質量%、ポリエステル繊維Bの糸を80質量%とし、分散染料をホワイト5%o.w.fとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0034】
(実施例5)
ポリエステル繊維Aの糸を10質量%、ポリエステル繊維Bの糸を90質量%とし、分散染料をホワイト5%o.w.fとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0035】
(実施例6)
ポリエステル繊維Aの糸を20質量%、ポリエステル繊維Bの糸を80質量%とし、目付を150g/m
2とし、ループ数はコース方向37個/inch、ウェール方向33個/inchとし、分散染料をホワイト5%o.w.fとした以外は実施例1と同様に実施した。得られた編地の表面写真を
図6Aに示し、裏面写真を
図6Bに示す。
【0036】
(比較例1)
ポリエステル繊維B100%使いとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0037】
(比較例2)
ポリエステル繊維B100%使いとし、分散染料をホワイト5%o.w.fとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0038】
(比較例3)
ポリエステル繊維Bの糸を100質量%使いとし、分散染料をホワイト5%o.w.fとし、吸水剤加工は無しとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0039】
(比較例4)
ポリエステル繊維Aの糸を20質量%、ポリエステル繊維Bの糸を80質量%とし、、吸水剤加工は無しとし、分散染料をホワイト5%o.w.fとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0040】
(比較例5)
ポリエステル繊維Bの糸を100質量%使いとした以外は実施例6と同様に実施した。
【0041】
以上の条件と結果は後にまとめて表1~6に示す。また、
図7には実施例1~2と比較例1~2の光線透過率のグラフを示し、
図8には実施例1~2と比較例1~2の光線反射率のグラフを示す。
【0042】
【0043】
表1から明らかなとおり、実施例1~2は比較例1~2に比較して、実施例6は比較例5に比較して、拡散性残留水分率10%になる時間が短く、速乾性が高いことが確認できた。また、実施例3~5は比較例3~4に比較して、吸水性及び拡散性残留水分率10%になる時間が短く、吸水速乾性が高いことが確認できた。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
表2~4から明らかなとおり、実施例1は比較例1に比較して、実施例2は比較例2に比較して、実施例3~5は比較例3~4に比較して、実施例6は比較例5に比較して、それぞれ紫外光領域、可視光領域、赤外光領域の平均吸収率は高かった。とくに赤外光領域の平均吸収率が高いことは、身体から発する赤外線を吸収しやすく、熱を吸い取りやすく、この熱エネルギーにより水を液相から気相へ相変換し、乾燥を促す作用がある。
【0048】
【0049】
表5から明らかなとおり、実施例1は比較例1に比較して、実施例2は比較例2に比較して、実施例3~5は比較例3~4に比較して、実施例6は比較例5に比較して、それぞれ水分蒸散量は高かった。したがって、赤外線を吸収したエネルギーで気化を促し、吸水速乾効果が高いことを確認できた。
【0050】
(比較例6)
ポリエステル繊維Cとして、ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸(トータル繊度84decitex,フィラメント本数48本)、仮撚り糸、酸化チタン粒子(市販の繊維グレード品)が入っていない繊維の糸100%使いとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0051】
(比較例7)
ポリエステル繊維Cとして、ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸(トータル繊度84decitex,フィラメント本数48本)、仮撚り糸、酸化チタン粒子(市販の繊維グレード品)が入っていない繊維の糸100%使いとし、分散染料をホワイト5%o.w.fとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0052】
(比較例8)
ポリエステル繊維Cとして、ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸(トータル繊度84decitex,フィラメント本数48本)、仮撚り糸、酸化チタン粒子(市販の繊維グレード品)が入っていない繊維の糸を100質量%使いとした以外は実施例6と同様に実施した。
【0053】
(1)乾燥状態での防透け評価したところ、次の結果が得られた。
・可視光の防透け評価
実施例1と比較例6を評価したところ、実施例1は比較例6より視感法での級数が0.5級高くなった。
実施例2と比較例7を評価したところ、実施例2は比較例7より視感法での級数が1.0級高くなった。
実施例6と比較例8を評価したところ、実施例6は比較例8より視感法での級数が0.5級高くなった。
・赤外線の防透け評価
実施例1と比較例6を評価したところ、実施例1は比較例6より視感法での級数が1.0級高くなった。
実施例2と比較例7を評価したところ、実施例2は比較例7より視感法での級数が1.0級高くなった。
実施例6と比較例8を評価したところ、実施例6は比較例8より視感法での級数が0.5級高くなった。
【0054】
(2)湿潤状態での防透け評価したところ、次の結果が得られた。
・可視光の防透け評価
実施例1と比較例6を評価したところ、実施例1は比較例6より視感法での級数が1.0級高くなった。
実施例2と比較例7を評価したところ、実施例2は比較例7より視感法での級数が1.5級高くなった。
実施例6と比較例8を評価したところ、実施例6は比較例8より視感法での級数が0.5級高くなった。
・赤外線の防透け評価
実施例1と比較例6を評価したところ、実施例1は比較例6より視感法での級数が1.5級高くなった。
実施例2と比較例7を評価したところ、実施例1は比較例6より視感法での級数が1.5級高くなった。
実施例6と比較例8を評価したところ、実施例1は比較例6より視感法での級数が0.5級高くなった。
【0055】
(3)吸熱蒸散性の評価は表6に示すとおりである。
【表6】
【0056】
表6から明らかなとおり、実施例1は比較例1に比較して、実施例2は比較例2に比較して、実施例3~5は比較例3~4に比較して、実施例6は比較例5に比較して、それぞれ蒸散時間が速くなった。したがって、赤外線を吸収したエネルギーで気化を促し、蒸散性が高まることが確認できた。
【0057】
次に、健康な男性被験者20名に実施例2、比較例2の生地を使用した半袖シャツを着用させ、ランニング運動をさせた。着用した時の主観を数値化(5:良い、4:やや良い、3:普通、2:やや悪い、1:悪い)し、各項目において20名の平均値を示す。
【0058】
【0059】
表7から明らかなとおり、実施例2の半袖シャツは比較例2の半袖シャツに比較して、衣服の汗の乾きは速く、衣服の汗によるべたつきは低く、衣服のクリーニング性は高く、身体の透け度は低く、全体としての着用感は良好であった。
【0060】
以上のとおり、各実施例の生地は、吸水性が10秒以下、拡散性は10%になる時間が55分以内であり、いずれも合格であり、風合いも良好で、柔軟であった。また、赤外線を生地が積極的に吸収し、放出を促しながら、吸収した熱により生地上の水分の蒸散を促し、乾燥状態を保つ事で、温熱快適性と運動性を改善できることが確認できた。また、紫外線、可視光、赤外線をコントロールすることによって、透け感がなく、着用にも適していることが確認できた。また、吸熱放射性ポリエステル繊維Aと、ポリエステル繊維Bを含む生地により、身体から発する熱を生地が積極的に吸収し、放出を促す吸熱放射性を発揮すること、身体からの熱(赤外線)は、生地で素早くかつ多く吸収され、身体の熱放散を促し、クーリング効果を高めること、生地上の水分を熱(赤外線)により蒸散を促進し、生地を素早く乾かすこと、生地は吸水速乾処理されているので、水の蒸発潜熱によるクーリング効果は相乗的に高くなること、この生地は、熱放射性及び吸水速乾性が高いことにより、とくにスポーツ用衣料として好適な生地となることも確認できた。
本発明の生地は、例えばスポーツシャツ、Tシャツ、インナーシャツ、ブリーフ、タイツ、一般のシャツ、ブリーフ等のインナーウエアはもちろん、ミドルウエア、アウターウェアに好適である。また、クーリング効果が高いことから、クールビズ衣類にも有効である。
前記吸水速乾処理により、前記ポリエステル繊維A及びBの少なくとも一部には親水性ポリエステル樹脂加工剤分子の少なくとも一部が繊維内に吸収され、残余は前記ポリエステル繊維表面を被覆して親水化している請求項1に記載の衣料用生地。
前記ポリエステル繊維Aを100重量%としたとき、セシウム酸化タングステン粒子を0.1~10重量%、酸化チタン粒子を0.1~2重量%含む請求項1又は2に記載の衣料用生地。
前記セシウム酸化タングステン粒子を含まないポリエステル繊維Bは、ポリエステル繊維Bを100重量%としたとき、酸化チタン粒子は含まないか又は含む場合は0重量%を超え5重量%以下含む請求項1又は2に記載の衣料用生地。
前記生地の水分拡散性は、拡散性残量水分率試験(ISO 17617:2014 A-1法準用(水0.6mL滴下))において、10%になる時間が55分以内である請求項1又は2に記載の衣料用生地。
本発明の衣料用生地は、ポリエステル繊維を含む衣料用生地であって、前記生地は、セシウム酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子を含む吸熱放射性ポリエステル繊維Aと、セシウム酸化タングステン粒子を含まないポリエステル繊維Bを含み、前記生地は吸水速乾処理されており、前記吸熱放射性ポリエステル繊維A内には、セシウム酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子が併存することにより、繊維内で酸化チタン粒子が反射した赤外線を、セシウム酸化タングステン粒子が透過を抑え、赤外線、可視光線、紫外線のすべての波長に対して透過を抑え、透け感を防止することを特徴とする。