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  • 特開-Ni系触媒およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174506
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】Ni系触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/22 20060101AFI20231130BHJP
   C07F 15/04 20060101ALI20231130BHJP
   B01J 31/24 20060101ALN20231130BHJP
【FI】
B01J31/22 Z
C07F15/04
B01J31/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033176
(22)【出願日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2022086412
(32)【優先日】2022-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 務
【テーマコード(参考)】
4G169
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA21C
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA27C
4G169BB08C
4G169BB12C
4G169BB15C
4G169BB18C
4G169BC16C
4G169BC66B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC68C
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD01C
4G169BD02A
4G169BD02C
4G169BD03C
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD04C
4G169BD06A
4G169BD06C
4G169BD07B
4G169BD11A
4G169BD11C
4G169BD12C
4G169BD13C
4G169BD14C
4G169BD15C
4G169BE01C
4G169BE02A
4G169BE02B
4G169BE02C
4G169BE06A
4G169BE06C
4G169BE08C
4G169BE11C
4G169BE16A
4G169BE16C
4G169BE27B
4G169BE33A
4G169BE33C
4G169BE34C
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169BE37C
4G169BE41A
4G169BE41B
4G169BE41C
4G169CB25
4G169CB71
4G169DA02
4G169FA01
4G169FC02
4G169FC06
4G169FC08
4H050AA02
4H050AB40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】触媒効率に優れたNi系触媒およびその製造方法の提供。
【解決手段】Ni系触媒は、Ni(R錯体ならびにそれにHOおよびOの少なくとも1種が配位した錯体の混合物からなるNi系触媒であって、配位子Rが、それぞれ独立して、式(1):

(Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または1以上の炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~5の整数である。)で表されるオレフィン化合物であり、前記混合物中のHOと配位子Rの合計に対するHOのモル比率が、1%以上50%未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni(R錯体ならびにそれにHOおよびOの少なくとも1種が配位した錯体の混合物からなるNi系触媒であって、
前記配位子Rが、それぞれ独立して、下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または1以上の炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~5の整数である。)
で表されるオレフィン化合物であり、
前記混合物中のHOと配位子Rの合計に対するHOのモル比率が、1%以上50%未満である、Ni系触媒。
【請求項2】
前記式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または1以上の炭素数1~4のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~3の整数である、請求項1に記載のNi系触媒。
【請求項3】
上記式(1)中、Rは、炭素数1~4のアルキル基であり、nは1~3である、請求項1に記載のNi系触媒。
【請求項4】
前記混合物中のHOと配位子Rの合計に対するHOのモル比率が、10%以上45%以下である、請求項1または2に記載のNi系触媒。
【請求項5】
Ni(R錯体ならびにそれにHOおよびOの少なくとも1種が配位した錯体の混合物からなるNi系触媒の製造方法であって、
下記式(1):
【化2】
(式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または1以上の炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~5である。)
で表されるオレフィン化合物と、ニッケル(II)化合物とを、有機アルミニウム化合物の存在下、かつ、湿度10ppm以下および酸素濃度10ppm以下の雰囲気下で反応させて、Ni(R錯体ならびにそれにHOおよびOの少なくとも1種が配位した錯体の混合物を得る工程を含む、Ni系触媒の製造方法。
【請求項6】
前記混合物中のHOと配位子Rの合計に対するHOのモル比率が、1%以上50%未満である、請求項5に記載のNi系触媒の製造方法。
【請求項7】
前記式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または1以上の炭素数1~4のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~3である、請求項5または6に記載のNi系触媒の製造方法。
【請求項8】
上記式(1)中、Rは、炭素数1~4のアルキル基であり、nは1~3である、請求項5または6に記載のNi系触媒の製造方法。
【請求項9】
前記ニッケル(II)化合物が、Ni(acac)、Ni(Ac)、NiF、NiC 、NiBr、NiI、Ni(OTf)、Ni(BF、Ni(OTs)、Ni(グリム)Cl、Ni(グリム)Br、Ni(ジグリム)Cl、Ni(ジグリム)Br、Ni(NO、およびNi(OR(式中、Rは、-C(O)-C~Cアルキルであり、C~Cアルキルはハロゲン原子で置換されてもよい)からなる群から選択される、請求項5または6に記載のNi系触媒の製造方法。
【請求項10】
前記有機アルミニウム化合物が、トリアルキルアルミニウムである、請求項5または6に記載のNi系触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンを配位子とするニッケル錯体からなるニッケル(Ni)系触媒に関する。また、本発明は、当該Ni系触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ni系触媒は、有機合成において重要な役割を果たしている。特に、Ni(0)オレフィン錯体は、高い配位子交換親和性により、Ni(0)の重要な供給源となっている。例えば、(ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(cod))は、有機合成におけるNi(0)の一般的な供給源であった。しかし、このようなオレフィンのみを配位子とする二元系Ni(0)錯体は、空気中で不安定であり、分解の恐れがあった。
【0003】
そのため、Ni(cod)と同様の触媒活性を有しながら、空気中で安定なNi系触媒の開発が要望されている。このような技術的な課題に対して、例えば、特許文献1には、スチルベンを配位子とするニッケル錯体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021-018572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のNi(スチルベン)錯体は、触媒効率に改善の余地があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、触媒効率に優れたNi系触媒およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、Ni(R錯体ならびにそれにHOおよびOの少なくとも1種が配位した錯体の混合物からなるNi系触媒において、混合物中のHOと特定の配位子Rのモル比率を調節することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] Ni(R錯体ならびにそれにHOおよびOの少なくとも1種が配位した錯体の混合物からなるNi系触媒であって、
前記配位子Rが、それぞれ独立して、下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または1以上の炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~5の整数である。)
で表されるオレフィン化合物であり、
前記混合物中のHOと配位子Rの合計に対するHOのモル比率が、1%以上50%未満である、Ni系触媒。
[2] 前記式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または1以上の炭素数1~4のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~3の整数である、[1]に記載のNi系触媒。
[3] 上記式(1)中、Rは、炭素数1~4のアルキル基であり、nは1~3である、[1]または[2]に記載のNi系触媒。
[4] 前記混合物中のHOと配位子Rの合計に対するHOのモル比率が、10%以上45%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のNi系触媒。
[5] Ni(R錯体ならびにそれにHOおよびOの少なくとも1種が配位した錯体の混合物からなるNi系触媒の製造方法であって、
下記式(1):
【化2】
(式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または1以上の炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~5である。)
で表されるオレフィン化合物と、ニッケル(II)化合物とを、有機アルミニウム化合物の存在下、かつ、湿度10ppm以下および酸素濃度10ppm以下の雰囲気下で反応させて、Ni(R錯体ならびにそれにHOおよびOの少なくとも1種が配位した錯体の混合物を得る工程を含む、Ni系触媒の製造方法。
[6] 前記混合物中のHOと配位子Rの合計に対するHOのモル比率が、1%以上50%未満である、[5]に記載のNi系触媒の製造方法。
[7] 前記式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または1以上の炭素数1~4のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~3である、[5]または[6]に記載のNi系触媒の製造方法。
[8] 上記式(1)中、Rは、炭素数1~4のアルキル基であり、nは1~3である、[5]~[7]のいずれかに記載のNi系触媒の製造方法。
[9] 前記ニッケル(II)化合物が、Ni(acac)、Ni(Ac)、NiF、NiC 、NiBr、NiI、Ni(OTf)、Ni(BF、Ni(OTs)、Ni(グリム)Cl、Ni(グリム)Br、Ni(ジグリム)Cl、Ni(ジグリム)Br、Ni(NO、およびNi(OR(式中、Rは、-C(O)-C~Cアルキルであり、C~Cアルキルはハロゲン原子で置換されてもよい)からなる群から選択される、[5]~[8]のいずれかに記載のNi系触媒の製造方法。
[10] 前記有機アルミニウム化合物が、トリアルキルアルミニウムである、[5]~[9]のいずれかに記載のNi系触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、触媒効率に優れたNi系触媒およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】合成例1で得られたオレフィン化合物の13C-NMRスペクトルである。
図2】実施例1で得られたNi系触媒のH-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[Ni系触媒]
本発明によるNi系触媒は、下記のニッケルオレフィン錯体ならびにそれにHOおよびOの少なくとも1種が特定の割合で配位した錯体の混合物からなるものである。このような錯体の混合物においては、特定の割合のHOおよび/またはOの配位子の影響により、触媒活性が向上し、触媒効率に優れたNi系触媒となる。
【0012】
上記錯体の混合物中のHOと配位子Rの合計に対するHOのモル比率は、1%以上50%未満であり、上限値は好ましくは45%以下であり、より好ましくは40%以下であり、また、下限値は5%以上であってもよく、10%以上であってもよく、15%以上であってもよい。HOのモル比率が上記数値範囲内であることで、触媒活性が向上し、触媒効率に優れたNi系触媒となる。一方、HOのモル比率が50%以上であると、オレフィンの配位が少なく、触媒活性が低下する。
なお、錯体混合物中のHOと配位子Rのモル比率は、後述する均一のNi錯体溶液を作製した後にH-NMRスペクトルから算出することができる。
また、背景技術にも記載したように、二元系Ni(0)錯体はHOあるいはOの存在下では中心金属のNi原子へのHOあるいはOの接触が容易であり、分解あるいは酸化劣化して触媒作用が機能しなくなることが知られている。本発明のNi(R錯体ならびにそれにHOおよびOの少なくとも1種が配位した錯体の混合物からなるNi系触媒においても、スチルベン化合物に代表される配位子Rが中心金属のNi原子へのHOあるいはOの接触を保護する役割を有している。本発明においては、Ni(R錯体の合成時にHOあるいはOが多量に配位すると二元系Ni(0)錯体と同様に触媒活性が低下するが、一方で意外なことに一部のみの配位であれば触媒活性が向上すると考察している。
【0013】
(ニッケルオレフィン錯体)
ニッケルオレフィン錯体はNi(R錯体で表され、配位子Rが、それぞれ独立して、下記式(1):
【化3】
で表されるオレフィン化合物である。
式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または1以上の炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示す。Rは、好ましくはハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または1以上の炭素数1~4のアルキル基で置換されたアミノ基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基または炭素数1~4のアルコキシ基であり、さらに好ましくは炭素数1~4のアルキル基であり、さらにより好ましくはターシャリーブチル基である。
また、式(1)中、nは0~5であり、好ましくは0~3であり、より好ましくは1~3であり、さらに好ましくは1または2である。なお、nが0の場合、フェニル基の水素原子は置換されていないことを意味する。
【0014】
上記式(1)で表されるオレフィン化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。下記式中、tBuはターシャリーブチル基を示し、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示す。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【0015】
[オレフィン化合物の製造方法]
上記式(1)で表されるオレフィン化合物の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、下記式(2):
【化16】
で表される原料化合物の交差メタセシス反応を用いて合成することができる。
式(2)中、Rは式(1)中の定義と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0016】
上記式(2)で表される原料化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【0017】
交差メタセシス反応の反応条件は特に限定されないが、例えば、従来公知のメタセシス反応活性を有する触媒を用いることができる。メタセシス反応活性を有する触媒としては、例えば、金属-カルベン錯体化合物が挙げられ、金属-カルベン錯体化合物における金属はルテニウム、モリブデン、またはタングステンであることが好ましい。触媒としては、特にルテニウム-カルベン錯体化合物を用いることが好ましい。
【0018】
ルテニウム-カルベン錯体化合物としては、例えば、ジクロロ[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン](ベンジリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム、ビス(トリフェニルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)-3-メチル-2-ブテニリデンルテニウムジクロリド、(1,3-ジイソプロピルイミダゾール-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3-ジシクロヘキシルイミダゾール-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3-ジメシチルイミダゾール-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3-ジメシチル-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、[1,3-ビス(2-メチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、[1,3-ジシクロヘキシル-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)エトキシメチリデンルテニウムジクロリド、(1,3-ジメシチル-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)エトキシメチリデンルテニウムジクロリド、(1,3-ジメシチル-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン)[ビス(3-ブロモピリジン)]ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3-ジメシチル-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン)(2-イソプロポキシフェニルメチリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3-ジメシチル-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン)[(トリシクロヘキシルホスホラニル)メチリデン]ジクロロルテニウムテトラフルオロボラート等が挙げられる。これらのルテニウム-カルベン錯体化合物は、1種のみで用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
触媒の添加量は、交差メタセシス反応が進行すれば特に限定されないが、原料化合物である上記式(1)で表される化合物1モルに対して、好ましくは0.0001~1モルであり、より好ましくは0.001~0.5モルである。
【0020】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、o-,m-,p-キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒;ヘキサフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン等の含フッ素有機溶媒等を用いることができる。これらの中でも、金属-カルベン錯体化合物の溶解性等の点で、ベンゼン、トルエン、o-,m-,p-キシレン、メシチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、ジオキサン、THF(テトラヒドロフラン)、ヘキサフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン等、及びこれらの混合物が好ましい。
【0021】
原料化合物と触媒を接触させる雰囲気としては、特に限定されないが、触媒の長寿命化の点で、不活性気体雰囲気下が好ましく、窒素又はアルゴン雰囲気下がより好ましい。
【0022】
メタセシス反応は、原料化合物、触媒、および反応生成物であるオレフィン化合物が反応環境下で安定な状態を維持できる温度であれば特に限定されない。反応温度は、通常、室温から150℃の範囲で行うことができ、副生成物の抑制の観点から100℃以下で行うことが好ましく、80℃以下で行うことがより好ましい。
【0023】
原料化合物と触媒を接触させる時間としては、特に制限されないが、通常、1分~48時間の範囲であり、好ましくは10分~36時間であり、より好ましくは0.5時間~24時間である。
【0024】
[Ni系触媒の製造方法]
本発明によるNi系触媒の製造方法は、上記式(1)で表されるオレフィン化合物と、ニッケル(II)化合物とを、有機アルミニウム化合物の存在下、かつ、湿度10ppm以下および酸素濃度10ppm以下の雰囲気下で反応させて、Ni(R錯体ならびにそれにHOおよびOの少なくとも1種が配位した錯体の混合物を得る工程を含むものである。当該工程において湿度および酸素濃度を調節することで、錯体混合物中のHOと配位子Rの合計に対するHOまたは/およびOのモル比率を制御し、触媒活性を向上させることができる。
【0025】
上記のニッケル(II)化合物としては、Ni(acac)、Ni(Ac)、NiF、NiC 、NiBr、NiI、Ni(OTf)、Ni(BF、Ni(OTs)、Ni(グリム)Cl、Ni(グリム)Br、Ni(ジグリム)Cl、Ni(ジグリム)Br、Ni(NO、およびNi(OR(式中、Rは、-C(O)-C~Cアルキルであり、C~Cアルキルはハロゲン原子で置換されてもよい)等が挙げられる。なお、これらの化合物中、acacはアセチルアセトナートを示し、Acはアセチルを示し、Tfはトリフルオロメチルスルホニル基を示し、Tsはトシル基を示し、グリムはエチレングリコールジメチルエーテルを示し、ジグリムはジエチレングリコールジメチルエーテルを示す。
【0026】
上記の有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウムが挙げられる。トリアルキルアルミニウムのアルキル基の炭素数は好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1~3である。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。トリアルキルアルミニウムとしては、トリメチルアルミニウムおよびトリエチルアルミニウムが特に好ましい。
【0027】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、o-,m-,p-キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒;ヘキサフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン等の含フッ素有機溶媒等を用いることができる。
【0028】
反応系中の湿度は10ppm以下であり、好ましくは5ppm以下であり、より好ましくは1ppm以下であり、また、0.1ppm以上であってもよい。
反応系中の酸素濃度10ppm以下であり、好ましくは5ppm以下であり、より好ましくは1ppm以下であり、また、0.1ppm以上であってもよい。
反応系中の湿度および酸素濃度の制御方法は、特に限定されず、例えば、グローブボックス等の密閉容器中で制御することが好ましい。
【0029】
上記反応における雰囲気は、湿度および酸素濃度を所望の範囲内に制御できれば限定されないが、不活性気体雰囲気下が好ましく、窒素又はアルゴン雰囲気下がより好ましい。
【0030】
上記反応は、ニッケル(II)化合物、および反応生成物が反応環境下で安定な状態を維持できる温度であれば特に限定されない。反応温度は、通常、-100℃~30℃の範囲で行うことができ、副生成物の抑制の観点から10℃以下で行うことが好ましく、-10℃以下で行うことがより好ましい。
【0031】
反応時間としては、特に制限されないが、通常、10分~12時間の範囲であり、好ましくは30分~6時間であり、より好ましくは2時間~4時間である。
【実施例0032】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
下記の合成例で得られたオレフィン化合物の構造、および、純度、シス:トランス比は以下の方法により分析した。
(1)オレフィン化合物の構造の分析は、後述する条件で13C-NMRを用いて行った。
13C-NMR条件)
・NMR測定装置:BRUKER JAPAN社製
13C-NMR測定条件:周波数150.89MHz、CDCl3溶媒
・本化合物の検出ピーク(TMS内部基準):δ150.6,134.8,127.7,126.2,125.6,34.6,31.3
(2)オレフィン化合物の純度、シス:トランス比は、後述する条件でGC-MSを用いて行った。なお、純度とは、トランス体、シス体、および異性体の合計に対するトランス体の比率とする。
(GC-MS条件)
・GC装置:Agilent 7890B
・MS装置:日本電子製JMS-T200GCx-Plus
・分離カラム:ZB-1MS(30m×0.25mmi.d.×0.25μm)
・FIDカラム:不活性化処理フューズドシリカ (0.86m×0.18mmi.d.)
・MSカラム:不活性化処理フューズドシリカ (2.24m×0.18mmi.d.)
(測定条件)
・オーブン温度:50℃~350℃、昇温速度:5℃/min
【0034】
下記の実施例、比較例で得られたNi錯体の混合物の構造の分析は、以下の通りに行った。まずは下記の実施例、比較例で得られたNi錯体の混合物10mgと、重水素化テトラヒドロフラン99.5atom%Dを420mg(東京化成工業(株)製)とを秤量した。続いて、これらを室温で約10分間、撹拌することでNi錯体中のスチルベン分子および水成分が大量の重水素化テトラヒドロフランによって配位子交換反応が進行して、重水素化テトラヒドロフラン溶媒中にNi錯体由来のスチルベン分子および水成分が混在する溶液が得られた。この得られた溶液について後述する条件のH-NMR測定を行い、Ni錯体混合物中の各構造の帰属と構成物の含有率の解析を行った。
H-NMR条件)
・NMR測定装置:BRUKER JAPAN社製
H-NMR測定条件:
周波数:600.03MHz、
溶媒:重水素化テトラヒドロフラン99.5atom%D(東京化成工業(株)製)
測定温度:25℃
・本化合物の検出ピーク(TMS内部基準):δ7.33、7.26、7.00(※A)、3.47、2.36(※B)、1.62、1.21
※A:配位子R(スチルベン)由来のピーク
※B:配位していたHO由来のピーク
【0035】
<オレフィン化合物の合成例1>
還流冷却器を備えたナスフラスコの中に、4-ターシャリーブチルスチレン(富士フィルム和光純薬株式会社製、純度94%品)0.752g、グラブス第二世代触媒(ジクロロ[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン](ベンジリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム)0.077g、およびジクロロメタン4mLを加えた後、還流させながら5時間、下記の反応を行った(反応式I)。
【化29】
【0036】
続いて、得られた反応液を、シリカゲル(4-ターシャリーブチルスチレンに対して15倍量)を充填したろ過装置に流し込み、ゲージ圧力約93KPa(気圧換算0.918atm)で減圧ろ過を行って、触媒や副生成物等を除去し、オレフィン化合物を得た。次に、得られたオレフィン化合物を、メタノール溶媒を用いて再結晶を行った。
【0037】
再結晶後のオレフィン化合物を上記の条件で13C-NMR測定を行い、図1に示す13C-NMRスペクトルを得た。スペクトル解析の結果、上記式のオレフィン化合物であることを確認した。
【0038】
また、再結晶後のオレフィン化合物を上記の条件でGC-MS測定を行ったところ、トランス体が98.0%、シス体が1.1%、異性体が0.9%含まれており(シス:トランス比=1.1:98.9)、純度は98.0%であった。なお、純度は、トランス体、シス体、および異性体の合計に対するトランス体の比率とする。また、オレフィン化合物の収率は、90%であった。
【0039】
[実施例1]
湿度1ppm以下および酸素濃度1ppm以下に制御したグローブボックス内で、フラスコの中に上記の合成例1で得られたオレフィン化合物(スチルベン)0.146g、ニッケルアセチルアセトナート(Ni(acac))0.040gで脱水ジエチルエーテル約4mLで均一溶解させた後に、トリエチルアルミニウム0.038g、および脱水ヘキサン0.215gを加え、-20℃で3時間反応させた。続いて、上記グローブボックス内で、反応液を室温で吸引ろ過を行い、溶媒や副生成物等を除去し、Ni錯体の混合物を得た。次に、得られたNi錯体の混合物を、ジエチルエーテルで洗浄し、自然乾燥した。
【0040】
乾燥後のNi錯体の混合物について、上記の条件で重水素化テトラヒドロフラン溶媒で配位子交換させた均一のNi錯体溶液を作製した後にH-NMR測定を行い、図2に示すH-NMRスペクトルを得た。スペクトル解析の結果、Ni(スチルベン)錯体およびそれにHOが配位した錯体の混合物であることを確認した。また、H-NMRスペクトルの※Bの配位したHO由来のピークと※Aの配位子スチルベン由来のピークの積分値から、両者のモル比率を算出したところ、39:61であった。また、上記錯体混合物の収率は、76%であった。
【0041】
[実施例2]
湿度1ppm以下および酸素濃度1ppm以下に制御したグローブボックス内で、フラスコの中に上記の合成例1で得られたオレフィン化合物(スチルベン)51.100g、ニッケルアセチルアセトナート(Ni(acac))15.000gを秤量した後に、グローブボックスから取り出し、脱水ジエチルエーテル約1.5Lで均一溶解させた。ここに、トリエチルアルミニウム13.243g、および脱水ヘキサン76.444gを加えた後、-15℃で1時間かけて反応させた。その後、25℃まで昇温して8時間反応させた。続いて、この反応液を再度、上記グローブボックス内に戻して、反応液を室温で吸引ろ過を行い、溶媒や副生成物等を除去し、Ni錯体の混合物を得た。次に、得られたNi錯体の混合物を、ジエチルエーテルで洗浄し、グローブボックス内で自然乾燥した。
【0042】
乾燥後のNi錯体の混合物について、上記の条件で重水素化テトラヒドロフラン溶媒で配位子交換させた均一のNi錯体溶液を作製した後にH-NMR測定を行い、H-NMRスペクトルを得た。スペクトル解析の結果、Ni(スチルベン)錯体およびそれにHOが配位した錯体の混合物であることを確認した。また、H-NMRスペクトルにおける配位したHO由来のピークと配位子スチルベン由来のピークの積分値から、両者のモル比率を算出したところ、35:65であった。また、上記錯体混合物の収率は、95%であった。
【0043】
[実施例3]
湿度1ppm以下および酸素濃度1ppm以下に制御したグローブボックス内で、フラスコの中に上記の合成例1で得られたオレフィン化合物(スチルベン)51.100g、ニッケルアセチルアセトナート(Ni(acac))15.000gを秤量した後に、グローブボックスから取り出し、脱水ジエチルエーテル約1.5Lで均一溶解させた。ここに、トリエチルアルミニウム13.243g、および脱水ヘキサン76.444gを加えた後、-15℃で1時間かけて反応させた。その後、25℃まで昇温して8時間反応させた。続いて、窒素ガス雰囲気下で、反応液を室温でシュレンク管を用いてろ過を行い、溶媒や副生成物等を除去し、Ni錯体の混合物を得た。次に、得られたNi錯体の混合物を、ジエチルエーテルで洗浄し、デシケーター内で終夜、真空乾燥を行った。
【0044】
乾燥後のNi錯体の混合物について、上記の条件で重水素化テトラヒドロフラン溶媒で配位子交換させた均一のNi錯体溶液を作製した後にH-NMR測定を行い、H-NMRスペクトルを得た。スペクトル解析の結果、Ni(スチルベン)錯体およびそれにHOが配位した錯体の混合物であることを確認した。また、H-NMRスペクトルにおける配位したHO由来のピークと配位子スチルベン由来のピークの積分値から、両者のモル比率を算出したところ、44:56であった。また、上記錯体混合物の収率は、90%であった。
【0045】
[比較例1]
グローブボックスを使用せず、大気下の実験室ドラフトにおいて窒素ガスで置換したガラス反応容器内(湿度:100ppm、酸素濃度:約100ppm)の環境条件にした以外は、実施例1と同様にして、Ni錯体の混合物を得た。
【0046】
得られたNi錯体の混合物を上記の条件でH-NMR測定を行い、スペクトル解析の結果、Ni(スチルベン)錯体およびそれにHOが配位した錯体の混合物であることを確認した。また、H-NMRスペクトルの※Bの配位したHO由来のピークと※Aの配位子スチルベン由来のピークの積分値から、両者のモル比率を算出したところ、60:40であった。
【0047】
(触媒活性の測定)
上記で得られたNi錯体の混合物の触媒活性を以下の方法により測定した。
2-クロロ-1,4-ジメチルベンゼン0.144gと1-アミノ-4-メトキシベンゼン0.151gをNi錯体の混合物0.023gと1,1’-フェロセンビス(ジフェニルホスフィン)(dppf)0.022g、ナトリウム-ターシャリーブトキシド0.134g、およびトルエンの存在下、100℃で6時間反応させた。6時間反応後の反応液をガスクロマトグラフ(GC)により測定し、1-アミノ-4-メトキシベンゼンの転化率を算出した。測定結果を表1に示す。なお、転化率が低過ぎて、算出不可の場合、「-」とした。
【0048】
【表1】
図1
図2