(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174508
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20231130BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036836
(22)【出願日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2022085439
(32)【優先日】2022-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】西村 達哉
(72)【発明者】
【氏名】安池 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】菅野 尚基
【テーマコード(参考)】
2H290
4J043
【Fターム(参考)】
2H290AA15
2H290AA18
2H290AA33
2H290AA53
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2H290DA03
4J043PA06
4J043PA08
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4J043QB26
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4J043UB011
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4J043UB171
4J043UB231
4J043UB241
4J043ZB23
(57)【要約】
【課題】塗布性に優れ、かつ残像の発生が抑制された液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】部分構造I及び部分構造IIを同一分子内又は異なる分子内に有するジアミンに由来する構造単位を含む重合体(P)を液晶配向剤に含有させる。部分構造I:*
1-COOHで表される構造(*
1は脂肪族炭化水素基中の炭素原子との結合手を表す);部分構造II:ピリジン構造、イミダゾール構造、ベンズイミダゾール構造及び式(1)の窒素含有構造よりなる群から選択される少なくとも1種の構造;A
1は水素原子、1価の炭化水素基又は熱脱離性基である。A
2及びA
3は、A
2が1価の炭化水素基若しくは熱脱離性基、A
3が1価の炭化水素基であるか又はA
2とA
3が互いに合わせられて構成される脂肪族複素環構造を表す。A
1~A
3のうち2個以上が式(1)中の窒素原子に対し同時に芳香環で結合することはない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の部分構造I及び部分構造IIを同一分子内又は異なる分子内に有するジアミンに由来する構造単位を含む重合体(P)を含有する、液晶配向剤。
部分構造I:「*
1-COOH」で表される構造(ただし、*
1は脂肪族炭化水素基中の炭素原子との結合手を表す。)
部分構造II:ピリジン構造、イミダゾール構造、ベンズイミダゾール構造、及び下記式(1)の構造式からn個(nは1以上の整数)の水素原子を取り除いてなる窒素含有構造よりなる群から選択される少なくとも1種の構造
【化1】
(式(1)中、A
1は、水素原子、1価の炭化水素基又は熱脱離性基である。A
2及びA
3は、A
2が1価の炭化水素基若しくは熱脱離性基であってA
3が1価の炭化水素基であるか、又はA
2とA
3とが互いに合わせられてA
2及びA
3が結合する窒素原子と共に構成される脂肪族複素環構造を表す。ただし、A
1、A
2及びA
3のうち2個以上が式(1)中の窒素原子に対して同時に芳香環で結合することはない。)
【請求項2】
前記重合体(P)は、前記部分構造Iを有するジアミンに由来する構造単位(A)と、前記部分構造IIを有するジアミンに由来する構造単位(B)(ただし、前記構造単位(A)を除く。)と、を含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記重合体(P)は、前記部分構造IIを側鎖に有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記重合体(P)は、前記部分構造IIを主鎖中に有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記重合体(P)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記重合体(P)は、芳香族テトラカルボン酸誘導体に由来する構造単位を含む、請求項5に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
前記重合体(P)は、炭素数4~30のアルキル基、炭素数4~30のハロゲン化アルキル基、炭素数4~30のアルコキシ基、炭素数4~30のハロゲン化アルコキシ基、2個以上の環が直接又は2価の連結基により結合してなる多環構造を有する基、及びステロイド骨格を有する基よりなる群から選択される少なくとも1種を有するジアミンに由来する構造単位を更に含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
環状エーテル基、環状チオエーテル基、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、環状カーボネート基、重合性炭素-炭素結合を有する基、基「-CR10=CR11-R12-」(ただし、R10は、アミノ基との反応により脱離する1価の有機基である。R11は水素原子又はアルキル基である。R12は電子求引性基である。)、シラノール基、アルコキシシリル基、ヒドロキシアルキルアミド基及び保護されたヒドロキシアルキルアミド基よりなる群から選択される少なくとも1種の基を合計2個以上有する化合物を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項9】
前記重合体(P)とは異なる重合体(Q)を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項10】
前記重合体(Q)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の液晶配向剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項12】
請求項11に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、大型の液晶テレビから、スマートフォン等の小型の表示装置まで幅広い範囲のデバイスや用途に適用されている。また、液晶素子の多用途化に伴い、液晶素子の更なる高品質化が求められている。液晶素子の更なる高品質化の1つの手段として、液晶分子の配向を制御する液晶配向膜の各種特性を改善することが試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、カルボキシ基を有するジアミンに由来する構造を有する重合体と、3級窒素原子を有するジアミンに由来する構造を有する重合体とを液晶配向剤に含有させることにより、塗膜のラビング耐性及び液晶配向膜の電気特性(電圧保持率及び残留電圧)を改善することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の液晶配向剤によれば、重合体が有するカルボキシ基と3級窒素原子との酸-塩基相互作用によって液晶配向膜中の電荷の移動が効率良く行われ、これにより液晶素子に直流電圧を印加した場合に液晶セル内に残留電荷が蓄積することを抑制可能と考えられる。しかしながら、重合体成分中にカルボキシ基と3級窒素原子とを含む場合、カルボキシ基と3級窒素原子との酸-塩基相互作用により重合体が凝集しやすい傾向があり、液晶配向剤の塗布性が低下することが懸念される。その一方で、液晶素子の電圧印加により液晶セル内に電荷が蓄積されると、観察者に残像(DC残像)として視認され、液晶素子の品質低下が生じてしまう。液晶素子の更なる高品質化を図る観点や、製品の歩留まり低下を抑制する観点からすると、液晶配向剤としては、塗布性が良好でありながら、残像の発生が十分に抑制された液晶素子を製造できることが求められる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、塗布性に優れ、かつ残像の発生が抑制された液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、特定の構造単位を有する重合体を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により以下の手段が提供される。
【0008】
<1> 下記の部分構造I及び部分構造IIを同一分子内又は異なる分子内に有するジアミンに由来する構造単位を含む重合体(P)を含有する、液晶配向剤。
部分構造I:「*
1-COOH」で表される構造(ただし、*
1は脂肪族炭化水素基中の炭素原子との結合手を表す。)
部分構造II:ピリジン構造、イミダゾール構造、ベンズイミダゾール構造、及び下記式(1)の構造式からn個(nは1以上の整数)の水素原子を取り除いてなる窒素含有構造よりなる群から選択される少なくとも1種の構造
【化1】
(式(1)中、A
1は、水素原子、1価の炭化水素基又は熱脱離性基である。A
2及びA
3は、A
2が1価の炭化水素基若しくは熱脱離性基であってA
3が1価の炭化水素基であるか、又はA
2とA
3とが互いに合わせられてA
2及びA
3が結合する窒素原子と共に構成される脂肪族複素環構造を表す。ただし、A
1、A
2及びA
3のうち2個以上が式(1)中の窒素原子に対して同時に芳香環で結合することはない。)
<2> 上記<1>の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
<3> 上記<2>の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液晶配向剤によれば、液晶配向剤の塗布性を優れたものとしながら、残像の発生が抑制された液晶素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0011】
なお、本明細書において、「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、鎖状炭化水素基は飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素基は脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香族炭化水素基は芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。「脂肪族炭化水素基」は、鎖状炭化水素基及び脂環式炭化水素基を含む意味である。「芳香環」とは、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を含む意味である。「有機基」とは、炭素を含む化合物(すなわち有機化合物)から任意の水素原子を取り除いてなる原子団をいう。
【0012】
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、下記の部分構造I及び部分構造IIを同一分子内又は異なる分子内に有するジアミンに由来する構造単位を含む重合体(P)を含有する。
部分構造I:「*
1-COOH」で表される構造(ただし、*
1は脂肪族炭化水素基中の炭素原子との結合手を表す。)
部分構造II:ピリジン構造、イミダゾール構造、ベンズイミダゾール構造、及び下記式(1)の構造式からn個(nは1以上の整数)の水素原子を取り除いてなる窒素含有構造よりなる群から選択される少なくとも1種の構造
【化2】
(式(1)中、A
1は、水素原子、1価の炭化水素基又は熱脱離性基である。A
2及びA
3は、A
2が1価の炭化水素基若しくは熱脱離性基であってA
3が1価の炭化水素基であるか、又はA
2とA
3とが互いに合わせられてA
2及びA
3が結合する窒素原子と共に構成される脂肪族複素環構造を表す。ただし、A
1、A
2及びA
3のうち2個以上が式(1)中の窒素原子に対して同時に芳香環で結合することはない。)
【0013】
以下、本開示の液晶配向剤に含まれる重合体(P)、及び任意に配合される成分について説明する。
【0014】
<重合体(P)>
重合体(P)は、部分構造I及び部分構造IIを同一分子内又は異なる分子内に有するジアミンに由来する構造単位を含む限り、特に限定されない。ここで、「部分構造I及び部分構造IIを同一分子内又は異なる分子内に有するジアミンに由来する構造単位を含む」とは、重合体(P)において、部分構造Iを有するジアミンと部分構造IIを有するジアミンとが同一でも異なってもよいことを意味する。つまり、重合体(P)は、重合体(P)を構成するジアミンのうち1種以上が部分構造Iを有し、かつ重合体(P)を構成するジアミンのうち1種以上が部分構造IIを有していればよい。なお、部分構造Iを有するジアミンが部分構造IIを有する場合、重合体(P)は、部分構造I及び部分構造IIを同一分子内に有するジアミンに由来する構造単位を含むこととなる。
【0015】
重合体(P)の具体的態様としては、<1>部分構造Iを有し部分構造IIを有しないジアミン(以下、「特定ジアミンD1」ともいう)に由来する構造単位と、部分構造IIを有し部分構造Iを有しないジアミン(以下、「特定ジアミンD2」ともいう)に由来する構造単位を含む態様;<2>部分構造I及び部分構造IIを有するジアミン(以下、「特定ジアミンD3」ともいう)に由来する構造単位を含む態様;が挙げられる。なお、<1>及び<2>のそれぞれの態様において、重合体(P)は他の構造単位を更に含んでいてもよい。例えば、<1>の態様において、重合体(P)は、特定ジアミンD3に由来する構造単位や、部分構造I及び部分構造IIをいずれも有しないジアミンに由来する構造単位を更に有していてもよい。また、<2>の態様において、重合体(P)は、特定ジアミンD1に由来する構造単位や、特定ジアミンD2に由来する構造単位、部分構造I及び部分構造IIをいずれも有しないジアミンに由来する構造単位を更に有していてもよい。
【0016】
液晶配向剤の重合体成分中にカルボキシ基を有する構造単位と、窒素含有複素環構造や3級窒素原子を有する構造単位とを導入することにより液晶セル内における残留電荷の蓄積低減及び緩和促進を図ることが考えられる。ところが、このような液晶配向剤では、液晶配向剤の重合体成分中に導入されたカルボキシ基と、窒素含有複素環構造や3級窒素原子とが相互作用(酸-塩基相互作用)し、重合体が凝集しやすい傾向がある。この点、部分構造Iと部分構造IIとを同一分子内に有するか、又は異なる分子内に有するジアミンに由来する構造単位を含む重合体(P)を用いることにより、液晶セル内に蓄積する残留電荷を抑制する効果を高く維持しながら、重合体成分の凝集が抑制され、塗布性に優れた液晶配向剤を得ることができる。
【0017】
残留電荷の蓄積に関し、より詳細には、液晶素子への電圧印加に伴い液晶セル内に電荷が蓄積することによって発生する残像(DC残像)をできるだけ低減し、高品質な液晶素子を得るためには、液晶素子に電圧を印加したときに電荷の蓄積が生じにくく(以下、「短期残像特性」ともいう)、かつ液晶素子に蓄積した電荷が速やかに緩和される(以下、「長期残像特性」ともいう)ことが望ましい。この点、重合体(P)を含む本開示の液晶配向剤を用いて液晶配向膜を形成することにより、短期残像特性と長期残像特性の両方に優れた液晶素子を得ることができる。
【0018】
液晶素子において発生する残像の低減効果をより高くできる点で、重合体(P)は、部分構造Iを有するジアミンに由来する構造単位(以下、構造単位(A)ともいう)と、部分構造IIを有するジアミンに由来する構造単位(ただし、構造単位(A)を除く。以下、構造単位(B)ともいう)と、を含む重合体(以下、「重合体(P1)」ともいう)であることが好ましい。なお、構造単位(A)は、部分構造Iと共に部分構造IIを有していてもよい。すなわち、構造単位(A)は、特定ジアミンD1に由来する構造単位であってもよく、特定ジアミンD3に由来する構造単位であってもよい。
【0019】
以下、特定ジアミンD1、特定ジアミンD2及び特定ジアミンD3について詳しく説明する。なお、以下では、特定ジアミンD1、特定ジアミンD2及び特定ジアミンD3を包含して「特定ジアミン」ともいう。
【0020】
・特定ジアミンD1について
特定ジアミンD1は、「*1-COOH」で表される部分構造(ただし、*1は脂肪族炭化水素基中の炭素原子との結合手を表す。)を有する。特定ジアミンD1において、カルボキシ基が結合する脂肪族炭化水素基は、鎖状炭化水素基であってもよく、脂環式炭化水素基であってもよい。カルボキシ基が結合する脂肪族炭化水素基は、飽和炭化水素基であることが好ましい。具体的には、飽和鎖状炭化水素基又は飽和脂環式炭化水素基であることがより好ましく、飽和鎖状炭化水素基であることがより好ましい。
【0021】
特定ジアミンD1は、「*1-COOH」で表される部分構造を1分子内に1個以上有していればよい。特定ジアミンD1における「*1-COOH」で表される部分構造の数(すなわち、鎖状炭化水素基に結合するカルボキシ基の数)は、液晶配向剤の塗布性と残留電荷の蓄積低減とを両立させる観点から、1~6個が好ましく、1~4個がより好ましく、1又は2個が更に好ましい。なお、特定ジアミンD1が有するカルボキシ基は、その全部が脂肪族炭化水素基中の炭素原子に結合していることが好ましい。
【0022】
特定ジアミンD1は、脂肪族ジアミンであってもよく、芳香族ジアミンであってもよい。ここで、本明細書において「脂肪族ジアミン」は、鎖状ジアミン及び脂環式ジアミンを含む概念である。重合容易性の観点から、特定ジアミンD1は芳香族ジアミンが好ましく、具体的には、2個の1級アミノ基が同一の芳香環に結合した芳香族ジアミン、及び2個の1級アミノ基が異なる芳香環に結合した芳香族ジアミンが挙げられる。
特定ジアミンD1が有するカルボキシ基は、重合体の主鎖に導入される脂肪族炭化水素基に結合していてもよいし、側鎖に導入される脂肪族炭化水素基に結合していてもよい。重合体の凝集の抑制効果が高い点で、特定ジアミンD1が有するカルボキシ基は、重合体の側鎖に導入される脂肪族炭化水素基に結合していることが好ましい。すなわち、特定ジアミンD1は、脂肪族炭化水素基にカルボキシ基が結合した部分構造を重合体の側鎖に導入可能な構造を有することが好ましい。
【0023】
特定ジアミンD1の好ましい具体例としては、下記式(d1-A)で表される化合物及び下記式(d1-B)で表される化合物が挙げられる。
【化3】
(式(d1-A)中、Ar
1は(s+2)価の芳香族炭化水素環基である。X
1は単結合、-O-、-S-、-CO-、-NR
2-、*
2-CO-O-、*
2-O-CO-、*
2-CO-NR
2-又は*
2-NR
2-CO-である。*
2はAr
1との結合手を表す。R
2は水素原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、当該炭化水素基が有する1個以上の水素原子がハロゲン原子若しくはシアノ基で置換された1価の基、1価の熱脱離性基又は「-R
3-(COOH)
m」である。R
1は、脂肪族炭化水素基を有する(r+1)価の有機基である。R
3は、脂肪族炭化水素基を有する(m+1)価の有機基である。ただし、R
1に結合するカルボキシ基はR
1中の脂肪族炭化水素基に結合し、R
3に結合するカルボキシ基はR
3中の脂肪族炭化水素基に結合している。m及びrは、それぞれ独立して1以上の整数である。sは1又は2である。sが2の場合、複数のX
1は同一又は異なり、複数のR
1は同一又は異なり、複数のrは同一又は異なる。)
【化4】
(式(d1-B)中、Ar
2及びAr
3は、それぞれ独立して2価の芳香族炭化水素環基である。R
4は、脂肪族炭化水素基を有する(t+2)価の有機基である。ただし、R
4に結合するカルボキシ基はR
4中の脂肪族炭化水素基に結合している。tは1以上の整数である。)
【0024】
上記式(d1-A)において、Ar1で表される(s+2)価の芳香族炭化水素環基は、置換又は無置換の芳香族炭化水素環の環部分から(s+2)個の水素原子を取り除いた基である。当該芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。これらのうち、液晶配向膜の高密度化を図る観点からベンゼン環が好ましい。芳香族炭化水素環が有する置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。また、芳香族炭化水素環に結合する2個の1級アミノ基の結合位置は特に限定されない。例えば、Ar1がベンゼン環構造を有し、sが1である場合、2個の1級アミノ基の結合位置は、他の基に対して、2,4-位、3,5-位等が挙げられる。
【0025】
R2が1価の熱脱離性基である場合、R2は、熱により脱離して水素原子に置き換わる基である。R2で表される熱脱離性基としては、アミノ基の保護基として一般に使用されている基を挙げることができる。熱脱離性基の具体例としては、カルバメート系保護基、アミド系保護基、イミド系保護基、スルホンアミド系保護基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性が高い点で、カルバメート系保護基が好ましく、例えばtert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。これらの中でも、熱による脱離性に優れ、かつ脱離した構造の膜中における残存量を少なくできる点で、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)が特に好ましい。
【0026】
R1及びR3で表される有機基は、鎖状構造であってもよく、環状構造を有していてもよい。また、R1及びR3で表される有機基は、脂肪族炭化水素基のみで構成されていてもよく、脂肪族炭化水素基とは異なる基(例えば、-O-、-S-、-CO-、-NR2-、-CO-O-、-CO-NR2-等のヘテロ原子含有基や、芳香族炭化水素基等)を更に有していてもよい。ただし、R1に結合するカルボキシ基及びR3に結合するカルボキシ基はそれぞれ、R1又はR3中の脂肪族炭化水素基に結合している。R1及びR3で表される有機基の炭素数は、1~20が好ましく、1~12がより好ましい。
【0027】
(m+r)×s(すなわち、上記式(d1)で表される化合物1分子中のカルボキシ基の数)は、1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1又は2が更に好ましい。合成容易性の観点から、sは1が好ましい。
【0028】
上記式(d1-B)において、Ar2及びAr3で表される2価の芳香族炭化水素環基は、置換又は無置換の芳香族炭化水素環の環部分から2個の水素原子を取り除いた基である。当該芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられ、ベンゼン環が好ましい。芳香族炭化水素環が有する置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0029】
R4で表される有機基は、鎖状構造であってもよく、環状構造を有していてもよい。また、R4で表される有機基は、脂肪族炭化水素基のみで構成されていてもよく、脂肪族炭化水素基とは異なる基(例えば、-O-、-S-、-CO-、-NR2-、-CO-O-、-CO-NR2-等のヘテロ原子含有基や、芳香族炭化水素基等)を更に有していてもよい。ただし、R4に結合するカルボキシ基はR4中の脂肪族炭化水素基に結合している。R4で表される有機基の炭素数は、例えば1~30であり、好ましくは1~20である。tは1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1又は2が更に好ましい。
【0030】
特定ジアミンD1の具体例としては、下記式(d1-1)~式(d1-25)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、式中、「Boc」は、tert-ブトキシカルボニル基を表す(以下同じ)。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0031】
・特定ジアミンD2について
特定ジアミンD2は、ピリジン構造、イミダゾール構造、ベンズイミダゾール構造、及び上記式(1)の構造式からn個(nは1以上の整数)の水素原子を取り除いてなる窒素含有構造よりなる群から選択される少なくとも1種の部分構造を有する。
【0032】
特定ジアミンD2がイミダゾール構造を有する場合、当該イミダゾール構造は、イミダゾール環を構成する炭素に結合する水素原子をm個(mは1以上の整数)取り除いた構造でもよく、イミダゾール環を構成する窒素に結合する水素原子を取り除いた構造でもよい。また、特定ジアミンD2が有するイミダゾール構造は、イミダゾール環を構成する炭素に結合する水素原子と窒素に結合する水素原子を合計k個(kは2以上の整数)取り除いた構造でもよい。特定ジアミンD2がベンズイミダゾール構造を有する場合についても同様である。すなわち、特定ジアミンD2が有するベンズイミダゾール構造は、ベンズイミダゾール環を構成する炭素に結合する水素原子を取り除いた構造であってもよく、ベンズイミダゾール環を構成する窒素に結合する水素原子を取り除いた構造であってもよい。
【0033】
上記式(1)の構造式からn個(nは1以上の整数)の水素原子を取り除いてなる窒素含有構造(以下、「窒素含有構造N1」ともいう)について、A1、A2及びA3で表される1価の炭化水素基としては、炭素数1~20の鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。ただし、A1、A2及びA3は、これらのうち2個以上が式(1)中の窒素原子に対して同時に芳香環で結合することはない。
【0034】
A1、A2及びA3で表される1価の熱脱離性基としては、R2が1価の熱脱離性基である場合の具体例及び好ましい例として説明した基が挙げられる。A2とA3とが互いに合わせられてA2及びA3が結合する窒素原子と共に構成される脂肪族複素環構造としては、ピペリジン構造、ピペラジン構造等が挙げられる。上記式(1)で表される構造式から取り除く水素原子は、A1、A2及びA3のいずれが有する水素原子であってもよい。
【0035】
特定ジアミンD2は、ピリジン構造、イミダゾール構造、ベンズイミダゾール構造及び窒素含有構造N1のうち少なくとも1種を1分子内に合計1個以上有していればよい。特定ジアミンD2における部分構造IIの数は、液晶配向剤の塗布性と残留電荷の蓄積低減とを両立させる観点から、1~6個が好ましく、1~4個がより好ましく、1又は2個が更に好ましい。
【0036】
重合体(P)は、部分構造IIを主鎖中に有していてもよく、側鎖に有していてもよい。ここで、重合体の「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。なお、この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。つまり、「部分構造IIを主鎖中に有する」とは、部分構造IIが主鎖の一部分を構成することをいう。重合体の「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。残留電荷の蓄積低減と、蓄積した残留電荷の緩和促進の効果を高め、残像の発生が十分に低減された液晶素子を得る観点から、重合体(P)は、部分構造IIを側鎖に有しているか、又は、ピリジン構造、イミダゾール構造及びベンズイミダゾール構造よりなる群から選択される少なくとも1種を主鎖中に有していることが好ましく、部分構造IIを側鎖に有していることがより好ましい。
【0037】
重合体(P)が、ピリジン構造、イミダゾール構造及びベンズイミダゾール構造よりなる群から選択される少なくとも1種を主鎖中に有している場合、ピリジン構造、イミダゾール構造及びベンズイミダゾール構造に隣接する基の1つ以上は鎖状構造(鎖状基)であることが好ましい。具体的には、特定ジアミンD2は、下記式(r-1)で表される部分構造を有していることが好ましい。
*-A4-Y1-Z1-* …(r-1)
(式(r-1)中、A4は、ピリジン構造、イミダゾール構造又はベンズイミダゾール構造である。Y1は単結合又は-NR40-である。R40は水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は熱脱離性基である。Z1はアルカンジイル基又は酸素原子である。「*」は結合手を表す。)
【0038】
残留電荷の蓄積低減と残留電荷の緩和促進の効果を高め、残像の発生が十分に低減された液晶素子を得ることができる点で、特定ジアミンD2はこれらの中でも、ピリジン構造、イミダゾール構造及びベンズイミダゾール構造よりなる群から選択される少なくとも1種を主鎖中又は側鎖に有することが好ましく、ピリジン構造を側鎖に有することがより好ましい。
【0039】
特定ジアミンD2は、脂肪族ジアミンであってもよく、芳香族ジアミンであってもよい。重合容易性の観点から、特定ジアミンD2は芳香族ジアミンが好ましい。
【0040】
特定ジアミンD2の具体例としては、部分構造IIを重合体(P)の側鎖に導入可能なジアミンとして、下記式(d2-1-1)~式(d2-1-13)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。部分構造IIを重合体(P)の主鎖中に導入可能なジアミンとしては、下記式(d2-2-1)~式(d2-2-20)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化9】
【化10】
【0041】
【0042】
・特定ジアミンD3について
特定ジアミンD3は、部分構造Iと部分構造IIとを1分子内に有するジアミンである。部分構造I及び部分構造IIの詳細については、特定ジアミンD1、特定ジアミンD2の説明において例示した構造が挙げられる。特定ジアミンD3は、脂肪族ジアミンであってもよく、芳香族ジアミンであってもよい。重合容易性の観点から、特定ジアミンD3は芳香族ジアミンが好ましい。
【0043】
特定ジアミンD3の具体例としては、下記式(d3-1)~式(d3-9)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化14】
【0044】
重合体(P1)における構造単位(A)の含有割合は、重合体(P1)が有するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対して、2モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることが更に好ましい。また、構造単位(A)の含有割合は、重合体(P1)が有するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対して、70モル%以下であることが好ましく、65モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることが更に好ましい。構造単位(A)の含有割合が上記範囲であると、液晶配向剤の塗布性を確保しつつ、残留電荷の蓄積低減の効果を十分に得ることができる。なお、構造単位(A)を与える単量体は特定ジアミンD1であってもよく、特定ジアミンD3であってもよい。重合体の溶解性及び残留電荷の緩和促進の観点から、好ましくは特定ジアミンD1である。
【0045】
重合体(P1)における構造単位(B)の含有割合は、重合体(P1)が有するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対して、1モル%以上であることが好ましく、2モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることが更に好ましい。また、構造単位(B)の含有割合は、重合体(P1)が有するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対して、80モル%以下であることが好ましく、65モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることが更に好ましい。構造単位(B)の含有割合が上記範囲であると、液晶素子の残像低減効果を十分に得ることができる。
【0046】
重合体(P1)における構造単位(A)と構造単位(B)との比率は、重合体の溶解性の改善効果及び残留電荷の蓄積の低減効果を十分に得る観点から、構造単位(A):構造単位(B)=1:0.1~5(モル比)であることが好ましい。重合体(P)が有する構造単位(A)と構造単位(B)との比率(モル比)は、より好ましくは1:0.2~3である。
【0047】
重合体(P)が特定ジアミンD3に由来する構造単位を有し、特定ジアミンD1に由来する構造単位及び特定ジアミンD2に由来する構造単位を有しない場合、重合体(P)における特定ジアミンD3に由来する構造単位の含有割合は、重合体(P)が有するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対して、3モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、15モル%以上であることが更に好ましい。
【0048】
重合体(P)としては、ジアミン化合物と、カルボン酸又はその誘導体との重縮合体が挙げられる。液晶との親和性及び機械的強度が高く、かつ電気特性に優れた液晶配向膜を形成できる点で、重合体(P)は中でも、テトラカルボン酸誘導体とジアミン化合物との重縮合体が好ましく、具体的には、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。ここで、「テトラカルボン酸誘導体」は、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル及びテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物を含む。
【0049】
(ポリアミック酸)
重合体(P)がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下「ポリアミック酸(P)」ともいう)は、テトラカルボン酸二無水物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法により製造することができる。
【0050】
・テトラカルボン酸二無水物
ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、鎖状テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0051】
これらの具体例としては、鎖状テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等が挙げられる。脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。また、テトラカルボン酸二無水物としては上記のほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0052】
残像がより低減された液晶素子を得る観点から、重合体(P)は、芳香族テトラカルボン酸誘導体に由来する構造単位を含むことが好ましい。また、ポリアミック酸(P)の合成に際し使用するテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。液晶素子における残像低減の効果を十分に得る観点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、2モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることが更に好ましい。また、重合体(P)の溶解性が高く、塗布性に優れた液晶配向剤を得る観点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、95モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることが更に好ましい。
【0053】
また、塗布性に優れた液晶配向剤を得ることができる点において、重合体(P)の合成に際し使用するテトラカルボン酸二無水物は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、2モル%以上であることが好ましく、15モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることが更に好ましい。
【0054】
・ジアミン化合物
ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物は特定ジアミンのみであってもよいが、特定ジアミンとは異なるジアミン(以下、「その他のジアミン」ともいう)を併用してもよい。その他のジアミンとしては、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。脂肪族ジアミンは、鎖状ジアミン及び脂環式ジアミンを含む。
【0055】
その他のジアミンの具体例としては、鎖状ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。脂環式ジアミンとしては、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等が挙げられる。芳香族ジアミンとしては、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1-アミノ-3-アミノメチルベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、下記式(D-1)
【化15】
(式(D-1)中、R
31及びR
32は、それぞれ独立してアルカンジイル基である。X
31は、-COO-、-NR
33CO-又は-NR
33CONR
34-である。R
33及びR
34は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は熱脱離性基である。n1は1~3の整数である。n1が2又は3の場合、複数のX
31は同一又は異なり、複数のR
32は同一又は異なる。)
で表される化合物等の主鎖型ジアミン;
ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化16】
(式(E-1)中、X
I及びX
IIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はジアミノフェニル側との結合手を示す。)である。R
Iは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIは、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIIは、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。aは0又は1である。bは0~3の整数である。cは0~2の整数である。dは0又は1である。ただし、1≦a+b+c≦3である。)
で表される化合物等の側鎖型ジアミン等を、
ジアミノオルガノシロキサンとして、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を、それぞれ挙げることができる。
【0056】
上記式(D-1)で表される化合物としては、例えば下記式(D-1-1)~式(D-1-5)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。上記式(E-1)で表される化合物としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-4)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化17】
【0057】
ポリアミック酸(P)の合成に際し、その他のジアミンの使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、70モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることが更に好ましい。その他のジアミンとしては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、その他のジアミンは、芳香族炭化水素基中の炭素原子にカルボキシ基が結合したジアミンを実質的に含まない。具体的には、芳香族炭化水素基中の炭素原子にカルボキシ基が結合したジアミンの含有割合は、重合体(P)の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、好ましくは0.5モル%以下であり、より好ましくは0.1モル%以下である。
【0058】
重合体(P)は、炭素数4~30のアルキル基、炭素数4~30のハロゲン化アルキル基、炭素数4~30のアルコキシ基、炭素数4~30のハロゲン化アルコキシ基、2個以上の環が直接又は2価の連結基により結合してなる多環構造を有する基、及びステロイド骨格を有する基よりなる群から選択される少なくとも1種の基(以下、「垂直配向性基」ともいう)を側鎖に有するジアミンに由来する構造単位を更に含むことが好ましい。重合体(P)が垂直配向性基を側鎖に有することにより、重合体(P)の溶解性を高くでき、液晶配向剤の塗布性をより良好にできる。
【0059】
垂直配向性基の具体例としては、下記式(2)で表される基が挙げられる。
*-L1-R21-R22-R23-R24 …(2)
(式(2)中、L1は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*2、-OCO-*2、-NR25-、-NR25-CO-*2、-CO-NR25-*2、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R26-*1、又は-R26-O-*1(ただし、R25は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R26は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*2」は、R21との結合手を表す。)である。R21及びR23は、それぞれ独立して、単結合、フェニレン基又はシクロアルキレン基である。R22は、単結合、フェニレン基、シクロアルキレン基、-R27-B1-*3、又は-B1-R27-*3(ただし、R27はフェニレン基又はシクロアルキレン基である。B1は-COO-*4、-OCO-*4、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*3」は、R23との結合手を表し、「*4」は、R27との結合手を表す。)である。R24は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のフルオロアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30のフルオロアルコキシ基、ステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基である。ただし、R21、R22及びR23の全部が単結合の場合、R24は、炭素数4~30のアルキル基、炭素数4~30のフルオロアルキル基、炭素数4~30のアルコキシ基、炭素数4~30のフルオロアルコキシ基、又はステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基である。「*」は結合手を表す。)
【0060】
上記式(2)において、L1、B1のアルカンジイル基、並びにR24のアルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシ基及びフルオロアルコキシ基は、直鎖状であることが好ましい。R24のステロイド骨格を有する基としては、例えばコレスタニル基、コレステリル基、ラノスタニル基等が挙げられる。R21、R22及びR23のうち少なくとも2個は、フェニレン基又はシクロアルキレン基を有していることが好ましい。
【0061】
上記式(2)で表される部分構造の具体例としては、例えば下記式(2-1)~式(2-12)のそれぞれで表される部分構造、コレスタニルオキシ基、コレスタニルオキシカルボニル基、コレステリルオキシ基、ラノスタニルオキシ基等が挙げられる。ただし、垂直配向性基はこれらの具体例に限定されるものではない。
【化18】
(式(2-1)~式(2-12)中、「*」は結合手を表す。)
【0062】
重合体(P)が垂直配向性基を側鎖に有するジアミンに由来する構造単位を含む場合、当該構造単位の含有割合は、重合体(P)が有するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対して、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、垂直配向性基を側鎖に有するジアミンに由来する構造単位の含有割合は、重合体(P)が有する構造単位の全量に対して、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましい。垂直配向性基を側鎖に有するジアミンとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
なお、重合体(P)において、垂直配向性基は、構造単位(A)及び構造単位(B)とは別に重合体の側鎖に導入されることが好ましい。この場合、部分構造I及び部分構造IIの導入量とは独立して、垂直配向性基を側鎖に有するジアミンに由来する構造単位の導入量を調整することができる。
【0064】
・ポリアミック酸の合成
ポリアミック酸(P)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸(P)の合成反応において、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸等の酸一無水物;アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン等のモノアミン化合物;フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0065】
ポリアミック酸(P)の合成反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。これらの具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を反応溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル等)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0066】
以上のようにして、ポリアミック酸(P)を溶解してなる重合体溶液が得られる。この重合体溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、重合体溶液中に含まれるポリアミック酸(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0067】
(ポリアミック酸エステル)
重合体(P)がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステル(以下、「ポリアミック酸エステル(P)」ともいう)は、例えば、[I]ポリアミック酸(P)とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルと、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法、等によって得ることができる。ポリアミック酸エステル(P)は、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。ポリアミック酸エステル(P)を溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステル(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0068】
(ポリイミド)
重合体(P)がポリイミドである場合、当該ポリイミド(以下、「ポリイミド(P)」ともいう)は、例えば上記により合成されたポリアミック酸(P)を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミド(P)は、その前駆体であるポリアミック酸(P)が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。ポリイミド(P)は、イミド化率が20~99%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。なお、イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0069】
ポリアミック酸(P)の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸(P)を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸(P)のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸(P)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。なお、ポリイミド(P)を含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミド(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0070】
重合体(P)の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体(P)の良溶媒(例えば、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0071】
重合体(P)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。
【0072】
液晶配向剤中における重合体(P)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる固形分の全量(すなわち、液晶配向剤の溶剤以外の成分の合計質量)に対して、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましい。なお、液晶配向剤の調製に際し、重合体(P)としては1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0073】
<その他の成分>
液晶配向剤は、重合体(P)のほか、必要に応じて、重合体(P)とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)を含有していてもよい。
【0074】
(重合体(Q))
本開示の液晶配向剤は、重合体成分として、重合体(P)とは異なる重合体(以下、「重合体(Q)」ともいう)を更に含有してもよい。重合体(Q)としては、例えば、部分構造I及び部分構造IIをいずれも有しない重合体が用いられる。重合体(Q)の主骨格は特に限定されない。重合体(Q)としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、付加重合体等が挙げられる。ここで、付加重合体は、重合性不飽和炭素-炭素結合を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体であり、例えば、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、スチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。重合体(P)と併用した場合に良好な液晶配向性を示す点で、重合体(Q)は、これらの中でも、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0075】
重合体(Q)を液晶配向剤に含有させる場合、重合体(Q)の含有割合は、重合体(P)と重合体(Q)との合計量に対して、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましい。また、重合体(Q)の含有割合は、重合体(P)と重合体(Q)との合計量に対して、95質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。重合体(Q)としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0076】
(架橋剤)
本開示の液晶配向剤は、架橋剤を更に含有していてもよい。架橋剤としては、アミノ基と反応可能な官能基(以下、「架橋性基」ともいう)を有する化合物を好ましく使用することができる。本開示の液晶配向剤に含有させる架橋剤の好ましい具体例としては、環状エーテル基、環状チオエーテル基、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、環状カーボネート基、重合性炭素-炭素結合を有する基、基「-CR10=CR11-R12-」(ただし、R10は、アミノ基との反応により脱離する1価の有機基である。R11は水素原子又はアルキル基である。R12は電子求引性基である。)、シラノール基、アルコキシシリル基、ヒドロキシアルキルアミド基及び保護されたヒドロキシアルキルアミド基よりなる群から選択される少なくとも1種の基を有する化合物(以下、「化合物(B)」ともいう)が挙げられる。
【0077】
上記の架橋性基のうち、重合性炭素-炭素結合を有する基としては、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基、アルケニル基、ビニルフェニル基、ビニルエーテル基、3-メチレンテトラヒドロフラン-2(3H)-オン-5-イル基等が挙げられる。基「-CR10=CR11-R12-」において、R10で表される1価の有機基としては、例えば炭素数1~5のアルコキシ基、ピロリドン-1-イル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。R12の電子求引性基としては、カルボニル基、スルホニル基等が挙げられる。
【0078】
化合物(B)が1分子内に有する架橋性基の数は、液晶配向性、電圧保持率及び膜硬度をバランス良く改善するとともに、リワーク性の低下を抑制する観点から、2~12個が好ましく、2~10個がより好ましい。化合物(B)の分子量は、保存安定性及び膜の機械的強度の観点から、好ましくは3,000以下、より好ましくは2,000以下、更に好ましくは1,000以下である。
【0079】
化合物(B)の具体例としては、重合性炭素-炭素結合を有する化合物として、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、下記式(b-1)~式(b-6)のそれぞれで表される化合物等を;
環状(チオ)エーテル基を有する化合物として、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2-ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N-ジグリシジル-ベンジルアミン、N,N-ジグリシジル-アミノメチルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-シクロヘキシルアミン、下記式(b-7)又は式(b-8)で表される化合物等を;
イソシアネート基又は保護されたイソシアネート基を有する化合物として、例えば下記式(b-9)~式(b-13)のそれぞれで表される化合物等を;
メチロール基又は保護されたメチロール基を有する化合物として、例えば下記式(b-14)~式(b-20)のそれぞれで表される化合物等を;
環状カーボネート基を有する化合物として、例えば下記式(b-21)及び式(b-22)のそれぞれで表される化合物等を;
基「-CR
10=CR
11-R
12-」を有する化合物として、例えば下記式(b-23)~式(b-29)のそれぞれで表される化合物等を;
アルコキシシリル基又はシラノール基を有する化合物として、例えば3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等を;
ヒドロキシアルキルアミド基又は保護されたヒドロキシアルキルアミド基を有する化合物として、例えば下記式(b-30)~式(b-36)のそれぞれで表される化合物等を;それぞれ挙げることができる。
【化19】
【化20】
【化21】
(式(b-9)及び式(b-10)中、R
23はアルコキシ基である。)
【化22】
(式(b-18)中、Acはアセチル基である。)
【化23】
【化24】
【化25】
【0080】
本開示の液晶配向剤に架橋剤を含有させる場合、その含有割合は、液晶配向膜の力学的強度を高める観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量(すなわち、重合体(P)と重合体(Q)との合計量)100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましい。架橋剤の含有割合は、重合体成分の全量100質量部に対して、1質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましい。また、液晶配向性、電気特性及び保存安定性を満足する液晶素子を得る観点から、架橋剤の含有割合は、重合体成分の全量100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。架橋剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体(P)及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0082】
溶剤としては有機溶媒が好ましく使用される。その具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、フェノール、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジアセトンアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、プロパン-1,2-ジオール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールジアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。これらは、1種が単独で又は2種以上を混合して使用される。
【0083】
液晶配向剤に含有されるその他の成分としては、上記のほか、例えば、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0084】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択される。液晶配向剤の固形分濃度は、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすい。一方、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜を適度な厚みとすることができ、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすい。また、液晶配向剤の粘性が適度となり塗布性を良好にできる傾向がある。
【0085】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により製造される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の駆動方式は特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型等を含む)、IPS型、FFS型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA(Polymer Sustained Alignment)型等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は、各動作モード共通である。
【0086】
<工程1:塗膜の形成>
まず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO2)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In2O3-SnO2)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。
【0087】
基板への液晶配向剤の塗布方法は特に限定されず、例えばスピンコート方式、印刷方式(例えば、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式等)、インクジェット方式、スリットコート方式、バーコーター方式、エクストリューションダイ方式、ダイレクトグラビアコーター方式、チャンバードクターコーター方式、オフセットグラビアコーター方式、含浸コーター方式、MBコーター方式等により行うことができる。
【0088】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止等の目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を更に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~280℃であり、より好ましくは80~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0089】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に対し、液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜の表面をコットン等で擦るラビング処理、又は塗膜に光照射を行って液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用してもよく、液晶配向能をさらに高めるために該塗膜に対し配向処理を施してもよい。垂直配向型の液晶素子に好適な液晶配向膜はPSA型の液晶素子にも好ましく用いることができる。
【0090】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0091】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは200~30,000J/m2であり、より好ましくは500~10,000J/m2である。配向能付与のための光照射後において、基板表面を例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0092】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。
【0093】
PSAモードでは、液晶とともに重合性化合物(例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物等)をセルギャップ内に充填するとともに、液晶セルの構築後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。PSA型の液晶素子の製造に際し、重合性化合物の使用割合は、液晶の合計100質量部に対して、例えば0.01~3質量部、好ましくは0.05~1質量部である。
【0094】
液晶表示装置を製造する場合、続いて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0095】
本開示の液晶素子は、種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光装置、位相差フィルム等として用いることができる。
【0096】
以上説明した本開示によれば、以下の手段が提供される。
〔1〕 下記の部分構造I及び部分構造IIを同一分子内又は異なる分子内に有するジアミンに由来する構造単位を含む重合体(P)を含有する、液晶配向剤。
部分構造I:「*1-COOH」で表される構造(ただし、*1は脂肪族炭化水素基中の炭素原子との結合手を表す。)
部分構造II:ピリジン構造、イミダゾール構造、ベンズイミダゾール構造、及び上記式(1)の構造式からn個(nは1以上の整数)の水素原子を取り除いてなる窒素含有構造よりなる群から選択される少なくとも1種の構造
〔2〕 前記重合体(P)は、前記部分構造Iを有するジアミンに由来する構造単位(A)と、前記部分構造IIを有するジアミンに由来する構造単位(B)(ただし、前記構造単位(A)を除く。)と、を含む、上記〔1〕に記載の液晶配向剤。
〔3〕 前記重合体(P)は、前記部分構造IIを側鎖に有する、上記〔1〕又は〔2〕に記載の液晶配向剤。
〔4〕 前記重合体(P)は、前記部分構造IIを主鎖中に有する、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔5〕 前記重合体(P)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔6〕 前記重合体(P)は、芳香族テトラカルボン酸誘導体に由来する構造単位を含む、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔7〕 前記重合体(P)は、炭素数4~30のアルキル基、炭素数4~30のハロゲン化アルキル基、炭素数4~30のアルコキシ基、炭素数4~30のハロゲン化アルコキシ基、2個以上の環が直接又は2価の連結基により結合してなる多環構造を有する基、及びステロイド骨格を有する基よりなる群から選択される少なくとも1種を有するジアミンに由来する構造単位を更に含む、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔8〕 環状エーテル基、環状チオエーテル基、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、環状カーボネート基、重合性炭素-炭素結合を有する基、基「-CR10=CR11-R12-」(ただし、R10は、アミノ基との反応により脱離する1価の有機基である。R11は水素原子又はアルキル基である。R12は電子求引性基である。)、シラノール基、アルコキシシリル基、ヒドロキシアルキルアミド基及び保護されたヒドロキシアルキルアミド基よりなる群から選択される少なくとも1種の基を合計2個以上有する化合物を更に含有する、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔9〕 前記重合体(P)とは異なる重合体(Q)を更に含有する、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔10〕 前記重合体(Q)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種である、上記〔9〕に記載の液晶配向剤。
〔11〕 上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
〔12〕 上記〔11〕に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【実施例0097】
以下、実施例に基づき実施形態をより詳しく説明するが、以下の実施例によって本発明が限定的に解釈されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0098】
以下の例において、重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率、並びに重合体溶液の溶液粘度は以下の方法により測定した。以下の実施例で用いた原料化合物及び重合体の必要量は、下記の合成例に示す合成スケールでの合成を必要に応じて繰り返すことにより確保した。
【0099】
[重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)]
重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、以下の条件におけるGPCにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:テトラヒドロフラン
温度:40℃
圧力:68kgf/cm2
【0100】
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で1H-NMRを測定した。得られた1H-NMRスペクトルから、下記数式(f1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(β1/(β2×α)))×100 …(f1)
(数式(f1)中、β1は化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、β2はその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
[重合体溶液の溶液粘度]
重合体の溶液粘度は、E型粘度計を用いて25℃において測定した。
【0101】
以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略号は以下の通りである。なお、以下では、式(X)で表される化合物を単に「化合物(X)」と示すことがある。
(ジアミン)
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【0102】
【0103】
【0104】
(ポリオルガノシロキサンの原料化合物)
【化34】
【0105】
(付加重合体の原料化合物)
【化35】
【化36】
【0106】
【0107】
<重合体の合成>
1.ポリイミドの合成
[合成例1]
テトラカルボン酸二無水物として2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物75モル部及びシクロブタン-1,2:3,4-テトラカルボン酸二無水物25モル部、並びに、ジアミン化合物として化合物(daa-1)15モル部、化合物(DB-1)35モル部及び化合物(DC-13)50モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMPを追加してポリアミック酸濃度10質量%の溶液とし、ピリジン及び無水酢酸を添加して60℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率55%のポリイミド(これを重合体(PI-1)とする)を10質量%含有する溶液を得た。得られた重合体の溶液粘度は90mPa・sであった。
【0108】
[合成例3、5、7、9、12、16~18、20、22]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表1に記載のとおり変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、ポリイミド(それぞれ重合体(PI-3)、(PI-5)、(PI-7)、(PI-9)、(PI-12)、(PI-16)~(PI-18)、(PI-20)、(PI-22)とする)を得た。得られたポリイミドのイミド化率を表1に示す。
【0109】
2.ポリアミック酸の合成
[合成例2]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物50モル部、シクロブタン-1,2:3,4-テトラカルボン酸二無水物20モル部及びピロメリット酸二無水物30モル部、並びに、ジアミン化合物として化合物(daa-2)30モル部、化合物(DB-2)40モル部及び化合物(DC-6)30モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸(これを重合体(PI-2)とする)を15質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、NMPを加えて濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は100mPa・sであった。
【0110】
[合成例4、6、8、10、11、13~15、19、21、23]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表1に記載のとおり変更した以外は合成例2と同様の操作を行い、ポリアミック酸(それぞれ重合体(PI-4)、(PI-6)、(PI-8)、(PI-10)、(PI-11)、(PI-13)~(PI-15)、(PI-19)、(PI-21)、(PI-23)とする)を得た。
【0111】
【0112】
3.ポリオルガノシロキサンの合成
[合成例24]
1000mL三口フラスコに、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(上記式(s-1)で表される化合物)100.0g、メチルイソブチルケトン500g、及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗から30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応を行った。反応終了後、有機層を取り出し、これを0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒及び水を留去した。メチルイソブチルケトンを適量添加し、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンである重合体(ESSQ-1)の50質量%溶液を得た。
500mL三口フラスコに、化合物(c-1)3.10g(重合体(ESSQ-1)が有するエポキシ基量に対して20モル%)、化合物(c-2)3.24g(重合体(ESSQ-1)が有するエポキシ基量に対して10モル%)、テトラブチルアンモニウムブロミド1.00g、重合体(ESSQ-1)含有溶液20.0g、及びメチルイソブチルケトン290.0gを加え、90℃で18時間撹拌した。室温まで冷却した後、蒸留水で分液洗浄操作を10回繰り返した。その後、有機層を回収し、ロータリーエバポレータにより濃縮とNMP希釈を2回繰り返した後、NMPを用いて固形分濃度が10質量%になるように調整し、ポリオルガノシロキサン(これを重合体(CSQ-1)とする)のNMP溶液を得た。
【0113】
4.付加重合体(スチレン-マレイミド系重合体)の合成
[合成例25]
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(M-1)5.00g、化合物(M-2)1.05g、化合物(M-3)4.80g及び化合物(M-4)2.26g、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.39g、連鎖移動剤として2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.39g、並びに溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)52.5mLを加え、70℃で6時間重合した。メタノールに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することによりスチレン-マレイミド系共重合体(これを重合体(MI-1)とする)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは30,000、分子量分布Mw/Mnは2.0であった。
【0114】
[合成例26]
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(M-5)10モル部、化合物(M-6)10モル部、化合物(M-7)30モル部、化合物(M-8)10モル部、化合物(M-9)20モル部及び化合物(M-10)20モル部、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2モル部、並びに溶媒としてテトラヒドロフラン50mLを加え、70℃で6時間重合した。メタノールに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することによりスチレン-マレイミド系共重合体(これを重合体(MI-2)とする)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは92,700、分子量分布Mw/Mnは4.78であった。
【0115】
<液晶配向剤の調製及び評価>
[実施例1:PSA型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤(AL-1)の調製
合成例7で得た重合体(PI-7)を含む溶液に、溶剤としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶剤組成がNMP/BC=70/30(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0116】
(2)溶解性の評価
上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)を-15℃の冷凍庫で7日間保管した後、液晶配向剤を室温まで解凍し、解凍した液晶配向剤中のパーティクル数を測定することにより重合体の溶解性を評価した。パーティクル数の測定は、液中パーティクルセンサー(リオン(株)製 KL-20A)を使用し、液晶配向剤10mLについて、大きさが1.0μm以上の微粒子の数を2回測定し、その平均値を液晶配向剤中のパーティクル数とした。このとき、光源波長:780nm、サンプル吸引速度:10mL/minの条件で測定した。
評価は、パーティクル数が3個/ml以下であった場合を「特に良好(◎)」、4個/mL以上5個/ml以下であった場合を「良好(○)」、6個/mL以上10個/mL以下であった場合を「可(△)」、11個/mL以上であった場合を「不良(×)」とした。この実施例では、特に良好(◎)の評価であった。
【0117】
(3)塗布性(面内均一性)の評価
上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)を-15℃の冷凍庫で7日間保管した後、液晶配向剤を室温で解凍し、解凍した液晶配向剤を用いて塗布性(面内均一性)を評価した。評価は、解凍後の液晶配向剤を、JET-CM連続式インクジェットプリンター(紀州技研工業(株)製)を用いて、ITO基板上へ乾燥膜厚が膜厚を0.1μmとなる液量で連続塗布を実施した。液晶配向剤の塗布を開始してから基板全面に液晶配向剤を塗り終わり、焼成するまでに要した時間は10分間であった。得られた配向膜塗布基板を、ホットプレート上にて80℃で1分間プレベークし、その後230℃で30分間、クリーンオーブン内、窒素雰囲気下でポストベークを行った後、液晶配向膜の周辺部及び中央部を20倍の顕微鏡にて観察した。このとき、ピンホール及び塗布ムラ(膜厚ムラ等)がなかった場合を「良好(○)」、ピンホール及び塗布ムラのうち少なくともいずれかが観測された場合を「不良(×)」と判断した。この実施例では、良好(○)の評価であった。
【0118】
(4)液晶組成物の調製
ネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)10gに対し、下記式(L1-1) で表される液晶性化合物を5質量%、及び下記式(L2-1)で表される光重合性化合物 を0.3質量%添加して混合し、液晶組成物LC1を得た。
【化38】
【0119】
(5)PSA型液晶セルの製造
上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)を、ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、窒素に置換したオーブン中、230℃で30分加熱して溶媒を除去することにより、膜厚0.08μmの塗膜(液晶配向膜)を形成した。この塗膜に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数400rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.1mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。この操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。なお、このラビング処理は、液晶の倒れ込みを制御し、配向分割を簡易な方法で行う目的で行った弱いラビング処理である。なお、使用した電極のパターンは、PSAモードにおける電極パターンと同種のパターンである。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、重ね合わせて圧着し、150℃で1時間加熱して接着剤を熱硬化した。次いで、液晶注入口より基板の間隙に液晶組成物LC1を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、更に液晶注入時の流動配向を除くために、これを150℃で10分間加熱した後に室温まで徐冷した。
次いで、得られた液晶セルに対し、電極間に周波数60Hzの交流10Vを印加し、液晶が駆動している状態で、光源にメタルハライドランプを使用した紫外線照射装置を用いて、紫外線を50,000J/m2の照射量にて照射した。なお、この照射量は、波長365nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。これにより、PSA型液晶セルを製造した。
【0120】
(6)残像特性評価
(6-1)長期残像の評価
上記(5)で製造した液晶セルを用い、60℃で2Vの直流電圧を10分間印加した後、0.2秒の間ショートさせ、その後に10分間、解放状態に保ち、液晶セル内に蓄積した電圧を誘電吸収法により測定した。10分後に得られた電圧(以下、「緩和後電圧値」という)により電荷蓄積特性を評価した。緩和後電圧値が低いほど、液晶セル内に蓄積された電荷の緩和が速く、電圧印加により蓄積した残留電荷に起因する残像が発生しにくく良好であるといえる。評価は、緩和後電圧値が0.05V以下であった場合を「特に良好(◎)」、緩和後電圧値が0.05Vよりも大きく0.1V以下の場合を「良好(○)」、緩和後電圧値が0.1Vよりも大きく0.2V以下の場合を「可(△)」、緩和後電圧値が0.2Vよりも大きい場合を「不良(×)」とした。その結果、この液晶セルの電荷蓄積特性(長期残像)の評価は「特に良好(◎)」であった。
【0121】
(6-2)短期残像の評価
上記(5)で製造した液晶セルを用い、60℃で2Vの直流電圧を10分間印加した後、0.02秒の間ショートさせ、その後に10分間、解放状態に保ち、液晶セル内に蓄積した電圧を誘電吸収法により測定した。得られた電圧が最大となったときの値(以下、「最大電圧値」という)により電荷蓄積特性を評価した。最大電圧値が低いほど、液晶セル内に電荷が蓄積されにくく、電圧印加により蓄積した残留電荷に起因する残像が発生しにくく良好であるといえる。評価は、最大電圧値が0.2V以下であった場合を「特に良好(◎)」、最大電圧値が0.2Vよりも大きく0.3V以下の場合を「良好(○)」、最大電圧値が0.3Vよりも大きく0.4V以下の場合を「可(△)」、最大電圧値が0.4Vよりも大きい場合を「不良(×)」とした。その結果、この液晶セルの電荷蓄積特性(短期残像)の評価は「良好(○)」であった。
【0122】
(7)膜の力学特性の評価
上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)をガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、110℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成し、ヘイズメーター(hazemeter)を用いて塗膜のヘイズ値を測定した。次いで、この塗膜に対し、コットン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を5回実施した。その後、ヘイズメーターを用いて液晶配向膜のヘイズ値を測定し、ラビング処理前のヘイズ値との差(ヘイズ変化値)を計算した。ラビング処理前の膜のヘイズ値をHz1(%)、ラビング処理後の膜のヘイズ値をHz2(%)とした場合、ヘイズ変化値は下記数式(z-1)で表される。
ヘイズ変化値(%)=Hz2-Hz1 …(z-1)
液晶配向膜におけるヘイズ変化値が0.5未満であった場合を「特に良好(◎)」、0.5以上0.8未満であった場合を「良好(○)」、0.8以上1.0未満であった場合を「可(△)」、1.0以上であった場合を「不良(×)」と評価した。ヘイズ変化値が1.0未満であれば膜強度が十分に高くラビング耐性が高い、すなわち膜の力学特性が良好であるといえる。その結果、この実施例では膜強度「良好(○)」の評価であった。
【0123】
[実施例2~11及び比較例1~6]
液晶配向剤の組成を表2に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-2)~(AL-17)を調製した。また、それぞれの液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にして溶解性、塗布性及び膜の力学特性を評価するとともに、PSA型液晶セルを製造して残像特性評価を行った。それらの結果を表2に示す。なお、表2中、配向剤組成における各成分の数値は、重合体成分の合計量100質量部に対する各化合物(重合体、添加剤)の配合割合(質量部)を表す(表3及び表4についても同じ)。
【0124】
【0125】
表2に示すように、重合体(P)を含む液晶配向剤を用いた実施例1~11は、重合体の溶解性、残像特性評価、塗布性及び力学特性のいずれも「特に良好」又は「良好」の評価であった。これらの中でも特に、重合体(PI-7)~(PI-9)、(PI-12)、(PI-14)又は(PI-15)を用いた実施例1~3、6、8、9では長期残像の評価が「特に良好」であり、残像の低減効果が高かった。また、重合体(PI-7)、(PI-9)、(PI-12)又は(PI-16)を用いた実施例1、3、6、10では溶解性の評価が「特に良好」であり、溶解性の改善効果が高かった。
【0126】
これに対し、部分構造Iに代えてベンゼン環にカルボキシ基が直接結合した構造を有する重合体を用いた比較例1、2では、液晶配向剤を低温保管した後室温に戻した際に重合体が析出しやすく、重合体の溶解性の評価が「不良」であり、塗布性の評価も「不良」であった。また、部分構造IIに代えてジフェニルアミン構造を有する重合体を用いた比較例3では、重合体の溶解性及び長期残像の評価が「可」、短期残像の評価が「不良」であった。部分構造IIに代えてトリアジン構造を有する重合体を用いた比較例4及び-CO-N(Boc)-構造を有する重合体を用いた比較例5、並びにカルボキシ基を有する構造単位を含まない重合体を用いた比較例6では、塗布性は良好であったものの、長期残像及び短期残像が生じやすく、残像特性評価が「可」又は「不良」の結果であった。
【0127】
[実施例12:光垂直型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製、並びに溶解性、塗布性及び膜の力学特性の評価
液晶配向剤の組成を表3に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-18)を調製した。また、液晶配向剤(AL-18)を用いて実施例1と同様にして、溶解性、塗布性及び膜の力学特性の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0128】
(2)光垂直型液晶セルの製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL-18)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg-Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて313nmの輝線を含む偏光紫外線1,000J/m2を、基板法線から40°傾いた方向から照射して液晶配向能を付与した。なお、この照射量は、波長313nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、各基板の紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを130℃で加熱してから室温まで徐冷した。
【0129】
(3)残像特性評価
上記(2)で製造した光垂直型液晶セルにつき、上記実施例1と同様にして残像特性評価を行った。その結果を表3に示す。
【0130】
[実施例13及び比較例7、8]
液晶配向剤の組成を表3に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-19)~(AL-21)をそれぞれ調製し、実施例1と同様にして溶解性、塗布性及び膜の力学特性を評価した。また、実施例12と同様にして光垂直型液晶セルを製造し、実施例1と同様にして残像特性評価を行った。その結果を表3に示す。
【0131】
【0132】
表3に示すように、重合体(P)を含む液晶配向剤を用いた実施例12,13では、重合体の溶解性、残像特性評価、塗布性及び力学特性のいずれも「特に良好」又は「良好」の評価であり、各種特性がバランス良く改善された。
これに対し、部分構造Iに代えてベンゼン環にカルボキシ基が直接結合した構造を有する重合体を用いた比較例7では、重合体の溶解性及び塗布性の評価が「不良」であった。また、部分構造IIに代えてトリアジン構造を有する重合体を用いた比較例8では、塗布性は良好であったものの、長期残像及び短期残像が生じやすく、残像特性評価が「不良」の評価であった。
【0133】
[実施例14:光配向法を用いたFFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製、並びに溶解性、塗布性及び膜の力学特性の評価
液晶配向剤の組成を表4に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-22)を調製した。また、液晶配向剤(AL-22)を用いて、実施例1と同様にして溶解性、塗布性及び膜の力学特性の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0134】
(2)光配向法を用いたFFS型液晶セルの製造
平板電極、絶縁層及び櫛歯状電極がこの順で片面に積層されたガラス基板(第1基板)と、電極が設けられていない対向ガラス基板(第2基板)とを準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の一方の基板面のそれぞれに、液晶配向剤(AL-22)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/m2を基板法線方向から照射して光配向処理を施した。なお、この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。次いで、光配向処理が施された塗膜を、230℃のクリーンオーブンで30分加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
次に、液晶配向膜を形成した一対の基板のうちの一方の基板につき、液晶配向膜を有する面の外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した。その後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷した。
上記の一連の操作を、ポストベーク後の紫外線照射量を100~10,000J/m2の範囲でそれぞれ変更して実施することにより、紫外線照射量が異なる3個以上の液晶セルを製造し、最も良好な配向特性を示した露光量(最適露光量)の液晶セルを評価に用いた。
【0135】
(3)残像特性評価
上記(2)で製造したFFS型液晶セルにつき、上記実施例1と同様にして残像特性評価を行った。その結果を表4に示す。
【0136】
[実施例15~17及び比較例9、10]
液晶配向剤の組成を表4に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-23)~(AL-25)、(AL-27)、(AL-28)をそれぞれ調製し、実施例1と同様にして溶解性、塗布性及び膜の力学特性を評価した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例14と同様にしてFFS型液晶セルを製造し、実施例1と同様にして残像特性評価を行った。その結果を表4に示す。なお、液晶配向剤(AL-22)~(AL-25)は、ラビング法により液晶配向膜を形成するための液晶配向剤としても有用である。
【0137】
[実施例18:ラビング法を用いたFFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製、並びに溶解性、塗布性及び膜の力学特性の評価
液晶配向剤の組成を表4に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-26)を調製した。また、液晶配向剤(AL-26)を用いて、実施例1と同様にして溶解性、塗布性及び膜の力学特性の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0138】
(2)ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造
平板電極、絶縁層及び櫛歯状電極がこの順で片面に積層されたガラス基板(第1基板)と、電極が設けられていない対向ガラス基板(第2基板)とを準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の一方の基板面のそれぞれに、上記で調製した液晶配向剤(AL-26)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜に対し、ナイロン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度2.5cm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する一対の基板を得た。
上記の一対の基板のうち1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、それぞれの液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より、一対の基板間にネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止した。
【0139】
(3)残像特性評価
上記(2)で製造したFFS型液晶セルにつき、上記実施例1と同様にして残像特性評価を行った。その結果を表4に示す。
【0140】
【0141】
表4に示すように、重合体(P)を含む液晶配向剤を用いた実施例14~18では、重合体の溶解性、残像特性評価、塗布性及び力学特性のいずれも「特に良好」又は「良好」の評価であり、各種特性がバランス良く改善された。
これに対し、部分構造Iに代えてベンゼン環にカルボキシ基が直接結合した構造を有する重合体を用いた比較例9では、低温保管後室温に戻した際に重合体が析出しやすく、重合体の溶解性及び塗布性の評価が「不良」であった。また、重合体(P)に代えて、カルボキシ基を有する構造単位を含まない重合体を用いた比較例10では、重合体の析出が抑制され、重合体の溶解性及び液晶配向剤の塗布性は良好であったものの、長期残像及び短期残像が生じやすく、残像特性評価が「不良」の評価であった。
【0142】
以上のことから、重合体(P)を含む液晶配向剤を用いることにより、液晶配向剤の塗布性と、液晶素子における残像低減とを両立できることが明らかとなった。