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  • 特開-銅系摺動部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174518
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】銅系摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/02 20060101AFI20231130BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20231130BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20231130BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20231130BHJP
   B22F 1/00 20220101ALN20231130BHJP
【FI】
C22C9/02
C22C9/06
C22F1/00 627
C22F1/00 628
C22F1/00 630D
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 685
C22F1/00 686A
C22F1/08 J
C22F1/08 G
B22F1/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057733
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022086161
(32)【優先日】2022-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 寛隆
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018AB02
4K018AB07
4K018BA02
4K018BC12
4K018CA36
4K018EA27
4K018HA08
4K018KA02
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性を向上させることのできる新たな組織を有する、Cu-Sn合金からなる軸受合金を含む摺動部材を提供すること。
【解決手段】本発明の摺動部材は、Cu-Sn合金からなる軸受合金を含み、Cu-Sn合金は、Snが1.5~10.0質量%を含み、残部がCu及び不純物であり、摺動面に垂直な断面で見て、Cu-Sn合金の平均のSn濃度よりも1.1倍以上のSn濃度を有し、面積が500μm以上である高錫濃度領域が分散して存在し、高錫濃度領域の個数が1mm当たり5~93個である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面を有する摺動部材であって、Cu-Sn合金を含有する軸受合金を含み、
前記Cu-Sn合金は、Snを1.5~10.0質量%含み、残部がCu及び不純物であり、
前記摺動面に垂直な断面で見て、前記Cu-Sn合金の平均のSn濃度よりも1.1倍以上のSn濃度を有し、面積が500μm以上である高錫濃度領域が分散して存在し、前記高錫濃度領域の個数が1mm当たり5~93個であることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記摺動面に垂直な断面で見て、前記高錫濃度領域の面積率が5~47%である、請求項1に記載された摺動部材。
【請求項3】
前記Cu-Sn合金のSnが8.0質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載された摺動部材。
【請求項4】
前記Cu-Sn合金のSnが2.0質量%以上である、請求項1又は請求項2に記載された摺動部材。
【請求項5】
前記Cu-Sn合金は、0~5.0質量%のNi、および0~1.0質量%のPのうちのいずれか又は両方を更に含有する、請求項1又は請求項2に記載された摺動部材。
【請求項6】
前記軸受合金が、固体潤滑剤粒子および硬質粒子のいずれか又は両方を更に含有する、請求項1又は請求項2に記載された摺動部材。
【請求項7】
前記固体潤滑剤粒子が黒鉛粒子である、請求項6に記載された摺動部材。
【請求項8】
前記硬質粒子がSiC粒子である、請求項6に記載された摺動部材。
【請求項9】
裏金層と該裏金層上の軸受合金層とを備え、前記軸受合金層が前記軸受合金を含む、請求項1又は請求項2に記載された摺動部材。
【請求項10】
前記摺動部材が滑り軸受である、請求項9に記載された摺動部材。
【請求項11】
請求項10に記載された摺動部材を含む軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く言えば銅系摺動部材に関し、とりわけCu-Sn合金を含有する軸受合金を含む摺動部材に係るものである。
【背景技術】
【0002】
Cu-Sn系合金は強度が大きく耐摩耗性に優れることから、軸受合金として広く使用されている。近年、エンジンの高出力化、エンジンの小型化による軸受面積の減少などによる軸受への負荷の増加に伴い、摺動材料の耐摩耗性の一層の向上が求められている。従来の耐摩耗性の向上を図るための対策として、例えば特許文献1や特許文献2に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1は、Ag,Sn,Sb,In,Mn,Fe,Bi,Zn,Ni及び/又はCrをCuマトリックス中に固溶させ、これらの元素の二次相が実質的に形成されていない銅合金を開示する。Cuマトリックスに固溶しているこれらの添加元素は、摩擦熱の発生やライニング表面組織の変化と並行して、ライニング表面に移動して部分的に添加元素の濃縮層を形成し、これがさらに潤滑油中の硫黄系添加剤と反応して硫黄系化合物となり、また潤滑油中の酸素と添加元素が反応して酸素系化合物となる。これらの濃縮層及び硫黄系化合物などは固体潤滑作用に優れ、高面圧下でも摺動特性が優れており、摩耗量を少なくする効果を有する。
【0004】
特許文献2の滑り軸受の軸受合金は、分散された微細な成分(例えばSn)の濃度が、滑り軸受の軸受金の頂部範囲から分割面範囲に向かって連続的に低下していることを特徴とする。錫割合の大きい範囲により滑り要素の大きな耐荷重能力が保証される。
【0005】
しかし、特許文献1では、固溶強化元素の濃縮層ができる前に、摩耗が進んでしまうため、摩耗量の多い使用用途では、耐摩耗性が不十分である。特許文献2は、主に荷重を受けている頂部範囲だけを考えると、主に荷重を受けている頂部範囲は、他の従来技術と同じ耐摩耗性しか有さない。しかもSn濃度の低い部分は主荷重部として使用できないため、荷重方向が変化する用途や、軸受が平板形状となるような用途での使用には向かない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-249924号公報
【特許文献2】特開2000-27866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐摩耗性を向上させることのできる新たな組織を有する、Cu-Sn合金を含有する軸受合金を含む摺動部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、摺動面を有する摺動部材であって、Cu-Sn合金を含有する軸受合金を含み、Cu-Sn合金はSnが1.5~10.0質量%、残部がCu及び不純物であり、摺動面に垂直な断面で見て、Cu-Sn合金の平均Sn濃度(以下、Sn成分ともいう)よりも1.1倍以上の錫濃度を有し、面積が500μm以上である高錫濃度領域が分散して存在し、高錫濃度領域の個数が1mm当たり5~93個である、摺動部材が提供される。
【0009】
Cu-Sn合金のSnは8.0質量%以下であることが好ましい。また、Cu-Sn合金のSnは2.0質量%以上であることが好ましい。
また、Cu-Sn合金は、0~5.0質量%のNi、および0~1.0質量%のPのうちのいずれか又は両方を更に含有してもよい。
【0010】
本発明の一具体例によれば、摺動面に垂直な断面で見て、高錫濃度領域の占める面積率が5~47%である。
【0011】
本発明の一具体例によれば、軸受合金が、固体潤滑剤粒子および硬質粒子のいずれか又は両方をさらに含有できる。固体潤滑剤粒子は黒鉛粒子を含むか、又は黒鉛であることが好ましい。硬質粒子は、SiC粒子を含むか、又はSiC粒子であることが好ましい。
【0012】
本発明の他の観点によれば、裏金層とこの裏金層上の軸受合金層とを備え、軸受合金層が上記軸受合金を含む、摺動部材が提供される。
【0013】
本発明の一具体例によれば、上記摺動部材が滑り軸受である。
【0014】
本発明の他の観点によれば、上記摺動部材を含む軸受装置が提供される。
【0015】
本発明及びその多くの利点を、添付の概略図面を参照して以下により詳細に述べる。図面は、例示の目的で、いくつかの非限定的な実施例を示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一具体例に係る摺動部材の構成例を表す図
図2】本発明の一具体例に係る摺動部材のCu-Sn合金の摺動面に垂直な断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の摺動部材は、Cu-Sn合金を軸受合金として備える摺動部材に関するものである。この摺動部材は、例えば乗用車用の内燃機関や自動変速機の軸受部に使用されるジャーナル軸受やスラスト軸受などの滑り軸受に使用される。例えば、摺動部材は、ジャーナル軸受では、円筒形状に成形した滑り軸受、あるいは、半円筒形状に成形した部材を一対として組み合わせて円筒形状とした滑り軸受にできる。スラスト軸受では円環形状に成形した滑り軸受、あるいは、半円環形状に成形した部材を一対として組み合わせて円環形状とした軸受にすることができる。しかし、摺動部材は、その他の形状でもよく、滑り軸受以外の摺動部材としても使用できる。例えば、グリス潤滑環境下で、産業機械の往復摺動部に平板形状のすべり板として使用することもできる。
本発明は、このような摺動部材を含む軸受装置も対象とする。
【0018】
本発明の一具体例に係る摺動部材1の構成例を説明する。図1を参照すると、裏金層4上に軸受合金層2が設けられる。ただし、裏金層4は任意要素であり、裏金層4がなく軸受合金層2のみでもよい。軸受合金層2の表面が摺動面3となる。任意選択で軸受合金層2上にオーバレイを設けることができるが、その場合でも本明細書では軸受合金層2の表面を摺動面3と称する。
【0019】
裏金層4は、摺動部材1の強度を向上させるために設けることができる。特に限定はしないが、裏金層4は、鋼、Fe合金、Cu、Cu合金等の金属板を用いることができ、鉄系材料としては、例えば亜共析鋼や、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼等のFe合金の所定寸法の板材が好ましい。
【0020】
任意選択で、軸受合金層2上にオーバレイを設けることができる。オーバレイは、摺動層の表面のなじみ性を高めるためのBi、Sn、Pb、Ag等の金属またはこれら金属を主体とする合金または合成樹脂を主体とするものなど、公知のオーバレイでよく、その形成方法も公知の方法を使用できる。
【0021】
また任意選択で、裏金層4と軸受合金層2との間に中間層を設けてもよい。例えば、裏金層の表面、すなわち軸受合金層との界面となる側に多孔質金属層あるいは中間層を設けることにより、摺動層と裏金層の接合強度を高めることができる。
【0022】
軸受合金層は、Cu-Sn合金からなる軸受合金を含む。図2に本発明の一具体例に係る摺動部材1の断面図を示す。この断面図は摺動面に垂直な面で切断した断面図である。図2ではCu-Sn合金のマトリクス8中に、Snの濃度が相対的に大きい高錫濃度領域6が分散して存在している。高錫濃度領域6は、Cu-Sn合金の平均のSn濃度に対して、1.1倍以上のSn濃度を有する領域であり、その面積が500μm以上であるものと定義できる。1.1倍以上のSn濃度を有する領域であっても、その面積が500μm未満であれば、高錫濃度領域6には含めない。本発明のCu-Sn合金では、高錫濃度領域6の個数が1mmあたり5~93個である。
なお、「Cu-Sn合金の平均のSn濃度」という語は、高錫濃度領域6などの存在のためにCu-Sn合金中でSn濃度にばらつきが存在することから、Cu-Sn合金中のSn濃度の平均を表す。本発明では、この値はCu-Sn合金のSn成分に等しいとみなす。
【0023】
Sn濃度の比較的大きい高錫濃度領域6は、比較的硬く耐摩耗性が高い。SnがCu-Sn合金に均一に固溶している場合は、Cu-Sn合金全体で荷重を受ける。しかし、同じ組成のCu-Sn合金であっても、比較的軟らかいマトリクス8内に比較的硬い高錫濃度領域6が分散して存在することで、高錫濃度領域6が主となって相手面を支えることにより面全体として摩耗され難くなる。その結果、同じ平均Sn濃度であっても、Snが均一に固溶する場合よりも耐摩耗性が改善される。そして、いずれの深さであっても、摺動面に垂直な断面は上記組織になっている、すなわち、高錫濃度領域6が深さ方向にも存在することにより、摩耗が進んでも高い耐摩耗性が維持される。
【0024】
本発明の摺動部材のCu-Sn合金は、SnがCuに固溶して二次相(金属間化合物)を実質的に形成しないことが好ましい。Cu-Snの二次相(金属間化合物)は硬度が大きいが脆性も大きい(脆い)ため、容易に破壊して脱落し、脱落した二次相の破片が、摺動面と相手面との間に入り、摺動面を損傷させることにより摩耗が加速する。そのため、耐摩耗性の向上が阻害される恐れがある。なお、Cu-Sn合金に二次相が実質的に存在しないとは、3μm2以上の大きさの面積を持つ二次相が存在しなければ、「実質的に存在しない」とする。その3μm2以上の大きさの面積を持つ二次相が存在するかどうかは、電子顕微鏡を用いて100倍以上の倍率を設定し、確認する。
【0025】
Cu-Sn合金は、Snが1.5~10.0質量%、残部がCu及び不純物である。Sn含有量が1.5質量%未満では耐摩耗性が得られるほど硬さが向上しない。耐摩耗性が得られる硬さを有するには、Sn含有量の最小値は2.0質量%であることがより好ましい。さらに、Sn含有量の最小値は3.0質量%であることがより好ましい。Sn含有量が10.0%質量を超えるとCu-Snの二次相が形成される可能性が大きい。二次相が形成される可能性を確実に小さくするために、Sn含有量の最大値は8.0質量%とすることがより好ましい。さらに、Sn含有量の最大値は6.5質量%であることがより好ましい。
【0026】
Cu-Sn合金は、0~5.0質量%のNi、0~1.0質量%のPのうちのいずれか又は両方を更に含有してもよい。これらの元素を上記範囲で含有すると、耐食性を高め、焼結性を向上させ易い。0~5.0質量%のNiを添加すると、強度が増加して、耐摩耗性を向上させることができる。しかし、5.0質量%超のNiの添加は、焼結温度が高くなり、コスト増につながる。0~1.0質量%のPの添加により焼結性が向上するため、強度が増し、耐摩耗性を向上させることができる。しかし、1.0質量%超のPを添加すると、焼結が進みすぎて、制御が困難になる。
【0027】
Cu-Sn合金は、摺動面3に垂直な断面でみて、高錫濃度領域6の面積率が5~47%であることが好ましい。高錫濃度領域6の面積率が5%以上では、上記効果を効率的に発揮でき、47%以下であると、軸受合金層の強度を損なうことなく焼結工程の安定性を確実に確保することができ、所望の耐摩耗性を備える軸受合金層を得られやすくなる。
【0028】
高錫濃度領域6は、その面積が500μm以上である。Cu-Sn合金のSn含有量に対して1.1倍以上のSn含有量を有する領域であっても、面積が500μm未満では、高錫濃度領域6には含めない。このように面積が小さいと、荷重を支える効果が弱く、耐摩耗性の向上に貢献しないからである。
【0029】
本発明のCu-Sn合金では、高錫濃度領域6の個数が1mmあたり5~93個である。高錫濃度領域6の個数が1mm当たり5個未満では、上記効果が発揮できず、93個超では、錫濃度が均一になりやすく、面積が500μm以上であり1.1倍以上の錫濃度を有し主となって相手面を支える高錫濃度領域を得られない可能性が高い。また、93個超を含んだ軸受合金層を製造するために、製造時に、銅錫合金粉末の粒径をさらに小さくする必要がある。この場合、銅錫合金粉末の粒径が小さすぎると、焼結工程においてSnが拡散しやすくなる。そのために、焼結工程で安定してSn拡散の程度を制御することが出来なくなり、高錫濃度領域6を安定して作ることができなくなる。
【0030】
好ましい具体例として、Cu-Sn合金のSn含有量に対するSn濃度が1.2倍の領域(以下、「閾値1.2倍の領域」などという)の面積率が、5~42%である。さらに好ましくは、閾値1.3倍の領域の面積率が、5~35%である。さらに好ましくは、閾値1.4倍の領域の面積率が、5~26%である。このような構成では、上記効果がより得られやすい。
【0031】
好ましい具体例として、閾値1.2倍の領域の個数が5~84個/mmである。さらに好ましくは、閾値1.3倍の領域の個数が5~61個/mmである。さらに好ましくは、閾値1.4倍の領域の個数が5~54個/mmである。このような構成では、上記効果がより得られやすい。
【0032】
任意選択で、軸受合金層2は、例えばMoS、WS、黒鉛、h-BNから選ばれる1種以上の固体潤滑剤粒子を0.1~12.0質量%さらに含むことができる。固体潤滑剤は黒鉛を含むことが好ましい。より好ましくは、固体潤滑剤は黒鉛である。0.1~12.0質量%の固体潤滑剤は、Cu-Sn合金の素地に分散して潤滑性を高め、耐摩耗性をさらに向上させる。しかし、固体潤滑剤が12.0質量%を超えると、焼結性が阻害される場合がある。
【0033】
任意選択で、軸受合金層2は、例えばSiC、Al、SiO、AlN、MoC、WC、FeP、FePから選ばれる1種以上の硬質粒子を0.1~5.0質量%さらに含むことができる。硬質粒子はSiCを含むことが好ましい。より好ましくは、硬質粒子はSiCである。0.1~5.0質量%の硬質粒子は、素地に分散して耐摩耗性をさらに高める。しかし、硬質粒子が5.0質量%を超えると、焼結性が阻害される場合がある。
【0034】
次に、本発明の摺動部材の軸受合金層(Cu-Sn合金)の製造方法について説明する。この製造方法は以下のステップを含む。
1.所定量のSnを含有する銅錫合金粉末と純銅粉末を準備する。任意選択でNi及びPのいずれか又は両方を含有させる場合は、銅錫合金粉末の代わりにこの元素を含有する銅粉末を使用する(その場合も以下、「銅錫合金粉末」と称する)。
2.Sn成分が所定の値(Snが1.5~10.0質量%)(任意選択でNi、Pを含有する場合は所定限度以下)になるように銅錫合金粉末と純銅粉末を秤量する。
3.秤量した銅錫合金粉末と純銅粉末を混合する。この際、任意選択で固体潤滑剤粒子および硬質粒子のいずれか又は両方を更に含有させる場合は、これらの粒子も添加する。
4.基材上に混合粉末を散布する。基材は、例えば裏金上に軸受合金層を形成する場合は裏金である。
5.散布した粉末を800℃~900℃で10~31分間焼結する。
6.焼結体を圧延して、焼結体を所定厚さにする。
7.所定厚さにした焼結体を800℃~900℃で10~31分間、さらに焼結する。
【0035】
上記の焼結条件では、銅錫合金粉末のSnが純銅粉末へ拡散するが、合金全体に均一に拡散するまでの焼結を行わず、銅錫合金粉末であった領域を中心として、Sn濃度の比較的大きい領域が形成されるようにする。銅錫合金粉末の粒径、Sn濃度、上記範囲内での焼結条件の調整により、高錫濃度領域の面積率、単位面積当たりの個数が調整できる。
【0036】
原料として使用する銅錫合金粉末のSn含有量は3~15質量%が好ましく、平均粒径は10~75μmが好ましい。例えば、銅錫合金粉末の代わりに純錫粉を使ってもSnの濃度の高い部分を作ることは可能であるが、脆い二次相を形成してしまうため、耐摩耗性が向上しない場合がある。
【0037】
次に、高錫濃度領域の測定方法について説明する。
高錫濃度領域6の特定は、摺動面3に垂直な軸受合金層2の断面をSEM-EPMAにより面分析を行い、Cu-Sn合金の平均のSn濃度よりも1.1倍以上の錫濃度を有する高錫濃度領域を決定する。測定条件の例を表1に示す。面分析で取得したマップを検量線(標準条件)で濃度表示にして、メディアンフィルタをかけ、二値化を行う。そして、500μm以上の面積のSn濃化領域を高錫濃度領域と特定する。高錫濃度領域の閾値と分析は、0.5mm以上の領域で行う必要がある。
【0038】
【表1】
【実施例0039】
表4~表6に示す各試料を上記に説明した製造方法によって作製した。Sn含有量が3~15質量%の銅錫合金粉末と純銅粉末を表に示す成分になるように混合して、基板上に散布した。ただし、試料24および試料25については、銅錫合金粉末に代えてCu-12Sn-15Ni-3P合金粉末を使用した。また、試料27~試料29、試料31、試料32については、所定量の黒鉛粉末およびSiC粉末も混合した。基板は、2.2mm厚さの鋼板を用いた。
散布した粉末は、第1の焼結、圧延、第2の焼結を行い、厚さ0.9mmの軸受合金層を得た。各試料の焼結条件は表2に示す通りである。
そして、軸受合金層内の高錫濃度領域(閾値1.1倍、すなわち平均のSn濃度よりも1.1倍以上のSn濃度を有する領域)の個数及び面積率を、上記に説明した測定方法により行った。
各試料について摩耗試験を、表3に示す条件で行い、試験後の試料の摩耗量を測定した。結果を表4~表6に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
表4に示す結果からは、Cu-Sn合金がSnを1.5~10.0質量%含み、閾値が1.1倍の高錫濃度領域の個数が1mm当たり5~93個である本発明の実施例の試料1~試料23は、高錫濃度領域を有さない比較例の試料41~試料47と比較すると、同じSn濃度であれば、摩耗試験による摩耗量が減少することが分かった。
【0043】
【表4】
【0044】
本発明の実施例である試料24および試料25は、Cu-Sn合金が4 .0質量%Snの他に、5.0質量%のNiおよび1.0質量%のPをも含む。表5に、これらの試料の摩耗試験による摩耗量を示す。表5には、Sn濃度および高濃度領域の個数、面積率が試料24および試料25とそれぞれ同じであるがNiおよびPを含有しない試料13及び試料20の試験結果も示す。表5に示す結果から、Sn濃度および高濃度領域の個数、面積率が同じであれば、Ni及びPの添加により摩耗量が減少することが分かった。
【0045】
【表5】
【0046】
表6は、軸受合金が3 .0質量%SnのCu-Sn合金の他に黒鉛およびSiCを含有する本発明の実施例である試料26~試料29、試料31および試料32と、黒鉛およびSiCを含有しない試料26及び試料30との比較を示す。表6に示す結果から、黒鉛およびSiCを含有することにより摩耗試験による摩耗量が減少することが分かった。
【0047】
【表6】
【0048】
表7に、本発明の試料と、Cu-Sn合金の平均Sn濃度が同じである比較例(高濃度領域の形成されていない)との摩耗量の比較を示す。表7からは、高濃度領域の個数が40個/mmの方が5個/mmよりも耐摩耗性の向上に優れることがわかる。耐摩耗性の向上は、いずれの高濃度領域の個数でも、平均Sn濃度が2.0質量%~8.0質量%の範囲において、より優れていた。
【0049】
【表7】

【符号の説明】
【0050】
1 摺動部材
2 軸受合金層
3 摺動面
4 裏金層
6 高錫濃度領域
8 マトリクス
図1
図2