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特開2023-174577積層体及びその製造方法、並びに該積層体を構成するアンカーコート層形成用コーティング剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174577
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法、並びに該積層体を構成するアンカーコート層形成用コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20231130BHJP
   B32B 9/04 20060101ALI20231130BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B9/04
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083826
(22)【出願日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2022086334
(32)【優先日】2022-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】窪田 宗弘
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA19B
4F100AC03C
4F100AC05C
4F100AK21B
4F100AK42A
4F100AK46B
4F100AL06B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DE01B
4F100EJ65B
4F100JB09B
4F100JK06
(57)【要約】
【課題】基材と粘土層との密着性に優れた積層体及びその製造方法、並びに当該積層体における基材と粘土層との密着性を高めるためのアンカーコート層形成用コーティング剤を提供する。
【解決手段】基材と、アンカーコート層と、粘土層とをこの順に有し、前記アンカーコート層が水溶性樹脂と、粒子径が1~1000nmである微粒子とを含有し、前記アンカーコート層中、前記水溶性樹脂と前記微粒子の各含有量の合計に占める、前記水溶性樹脂の割合が30~90質量%であり、前記微粒子の割合が10~70質量%である、積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、アンカーコート層と、粘土層とをこの順に有し、
前記アンカーコート層が水溶性樹脂と、粒子径が1~1000nmである微粒子とを含有し、前記アンカーコート層中、前記水溶性樹脂と前記微粒子の各含有量の合計に占める、前記水溶性樹脂の割合が30~90質量%であり、前記微粒子の割合が10~70質量%である、積層体。
【請求項2】
前記粘土層が、モンモリロナイト、雲母、バーミキュライト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マガディアイト、アイラライト、及びカネマイトの少なくとも1種の粘土鉱物を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記水溶性樹脂が、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー、ポリビニルアルコール、及び変性ポリアミドの少なくとも1種を含む、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記微粒子の粒子径が、2~500nmである、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
水溶性樹脂と、粒子径が1~1000nmである微粒子とを含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体を構成するアンカーコート層形成用コーティング剤。
【請求項6】
請求項5に記載のアンカーコート層形成用コーティング剤を用いて基材上にアンカーコート層を形成し、該アンカーコート層上に粘土層を形成することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と粘土層とを有する積層体及びその製造方法、並びに該積層体における基材と粘土層との密着性を高めるためのアンカーコート層形成用コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
粘土鉱物は層状化合物であり、厚さ約1nm、広がりが20~2000nm程度の2次元に広がる板状結晶(結晶層)が積層した構造をとる。代表的な粘土鉱物としてスメクタイトが挙げられる。スメクタイトは、水などの媒体と混合することにより板状結晶が自然に剥離し、媒体中にスメクタイトを比較的簡単に分散させることができる。そして、この分散液(スラリー)を基材に塗布し、乾燥させることで、自己積層性により結晶層が積層したシート状の粘土膜を得ることができる。すなわち、基材上に、ガスバリア性や不燃性といった様々な機能性を有する粘土膜を形成することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、粘土粒子が配向し、積層している粘土膜内に、水可溶性高分子が分布している水可溶性高分子複合粘土膜が記載されている。特許文献1には、モンモリロナイトと水溶性高分子を用いて水可溶性高分子複合粘土膜を形成したところ、この複合粘土膜が耐熱性に優れ、高温処理後もガスバリア性を維持できたことが示されている。
また、特許文献2には、高温多湿条件下において金属イオンが溶出せず、水蒸気バリア性と光学特性とに十分優れる耐水フィルムが記載されている。特許文献2記載の技術では、この耐水フィルムを、特定の結晶構造のシートを組合せて有し、特定の組成式で表され、かつナトリウムイオン及び鉄イオンの含有量がそれぞれ10ppm以下である合成スメクタイトにより形成している。
また、特許文献3には、粘土材料が本来有する優れた可とう性及びガスバリア性を維持しつつ、従来の粘土フィルムよりも水蒸気バリア性に十分優れる粘土フィルムが記載されている。特許文献3記載の技術では、この粘土フィルムを、モンモリロナイト等の粘土材料の結晶層間に存在する陽イオンの少なくとも一部をリチウムイオンに置換して、これをフィルム状とし、次いで熱処理を施して、前記リチウムイオンの少なくとも一部を八面体結晶構造からなる八面体シート内に移動させたることにより形成している。
また、特許文献4には、ガラス繊維強化プラスチックを基材として、その上下面に積層被覆された合成スメクタイト等の粘土膜を有する透明不燃材が記載されている。特許文献4記載の技術によれば、この透明不燃材は、透明性に優れ、光拡散効果があり、軽量で、割れにくく、耐衝撃性を有するとされている。
また、特許文献5には、特定の低変性リグニンと、ベントナイト等の粘土鉱物とを含むリグニン粘土複合膜が、半透明性を維持しながら、優れた不燃性と紫外線吸収特性を有することが開示されている。
ここで、粘土鉱物のガスバリア性や不燃性を効果的に引き出すためには、一般に、膜中の粘土鉱物の含有量を50~80質量%程度まで高めることが必要とされている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-313604号公報
【特許文献2】特開2009-107907号公報
【特許文献3】特開2008-247719号公報
【特許文献4】特開2012-16875号公報
【特許文献5】特開2019-151681号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Colloid and Interface Science,2010,Vol.348,Issue 2,p.313-321
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、基材(例えば、樹脂フィルムや樹脂成形体等)上に粘土層を形成させる場合、粘土層における粘土鉱物の含有量が多いと、基材と粘土層との間に十分な密着性を付与することが困難となる。粘土層に樹脂成分をある程度多量に配合することにより、基材と粘土層との密着性を高めることができるが、粘土の機能性が低下する問題が生じる。このように、粘土層の機能性の向上と、基材と粘土層との密着性の向上は、いわゆるトレードオフの関係にある。
また、基材と粘土層との密着性を向上させるために、基材の表面をフレーム処理、コロナ処理、シランカップリング処理などによって改質することも検討されているが、この方法でも密着性を十分に向上させることは難しい。また、上記各処理による基材の表面改質により、基材が、粘土を分散させた水系の塗工液を弾いてしまうことがあり、成膜性の面でも問題が生じ得る。
【0007】
本発明は、基材と粘土層との密着性に優れた積層体及びその製造方法、並びに当該積層体における基材と粘土層との密着性を高めるためのアンカーコート層形成用コーティング剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、基材と粘土層とを、水溶性樹脂と微粒子とが特定比率で配合されたアンカーコート層を介して積層することにより、粘土鉱物を含有する粘土層を、当該アンカーコート層を介して基材上に強く密着させることができることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき、更に検討を重ねて完成されるに至ったものである。
【0009】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
<1>
基材と、アンカーコート層と、粘土層とをこの順に有し、
前記アンカーコート層が、水溶性樹脂と、粒子径が1~1000nmである微粒子とを含有し、前記アンカーコート層中、前記水溶性樹脂と前記微粒子の各含有量の合計に占める、前記水溶性樹脂の割合が30~90質量%であり、前記微粒子の割合が10~70質量%である、積層体。
<2>
前記粘土層が、モンモリロナイト、雲母、バーミキュライト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マガディアイト、アイラライト、及びカネマイトの少なくとも1種の粘土鉱物を含む、前記<1>に記載の積層体。
<3>
前記水溶性樹脂が、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー、ポリビニルアルコール、及び変性ポリアミドの少なくとも1種を含む、前記<1>又は<2>に記載の積層体。
<4>
前記微粒子の粒子径が、2~500nmである、前記<1>~<3>のいずれかに記載の積層体。
<5>
水溶性樹脂と、粒子径が1~1000nmである微粒子とを含有する、前記<1>~<4>のいずれかに記載の積層体を構成するアンカーコート層形成用コーティング剤。
<6>
前記<5>に記載のアンカーコート層形成用コーティング剤を用いて基材上にアンカーコート層を形成し、該アンカーコート層上に粘土層を形成することを含む、前記<1>~<4>のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層体は、基材と粘土層との間に特定組成のアンカーコート層を有し、基材と粘土層との密着性に優れる。また本発明の積層体の製造方法は、本発明の積層体を製造するのに好適な方法である。さらに本発明のアンカーコート層形成用コーティング剤は、本発明の積層体を構成する基材と粘土層との間に配され、当該基材と粘土層との密着性を高めるアンカーコート層の形成に好適なコーティング剤である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0012】
[積層体]
本発明の積層体は、基材と、アンカーコート層と、粘土層とをこの順に有する積層体である。本発明の積層体における各構成層について、下記に説明する。
【0013】
<アンカーコート層>
本発明の積層体を構成するアンカーコート層は、水溶性樹脂と微粒子とを特定量含有する。一般的に、基材上に単に粘土層を形成しても、基材と粘土層との間に十分な密着性を得ることができない。このことは、粘土層中の粘土鉱物の含有量が増えるほど顕在化する傾向にある。本発明の積層体では、基材と粘土層との間に特定組成のアンカーコート層を形成する。このアンカーコート層は水溶性樹脂を特定量含むため、樹脂、金属、ガラス等の基材と、粘土層の両方に対して親和性が高いものである。また、アンカーコート層中の特定の粒子径範囲に制御された特定量の微粒子が優れたアンカー効果を発現し、粘土層との密着性がさらに効果的に高められる。
本発明の積層体を構成する前記アンカーコート層の厚みは、0.01~2μmであることが好ましく、0.05~1μmであることがより好ましく、0.1~0.5μmであることがさらに好ましい。
【0014】
前記アンカーコート層において、前記水溶性樹脂と前記微粒子の各含有量の合計に占める前記水溶性樹脂(樹脂成分)の割合は30~90質量%である。また、前記水溶性樹脂と前記微粒子の各含有量の合計に占める前記微粒子(粒子成分)の割合は10~70質量%である。アンカーコート層と粘土層との密着性をより向上させる観点から、前記水溶性樹脂と前記微粒子の各含有量の合計に占める前記水溶性樹脂の割合を40~90質量%、前記微粒子の割合を10~60質量%とすることが好ましく、前記水溶性樹脂の割合を50~90質量%、前記微粒子の割合を10~50質量%とすることがより好ましく、前記水溶性樹脂の割合を50~80質量%、前記微粒子の割合を20~50質量%とすることがさらに好ましい。また、前記水溶性樹脂の割合を40~60質量%、前記微粒子の割合を40~60質量%としてもよい。
【0015】
(水溶性樹脂)
本発明の積層体を構成するアンカーコート層に含まれる水溶性樹脂は、微粒子の分散安定性を向上させることができ、また、アンカーコート層と基材との密着性を高めることができ、なかでもアンカーコート層と粘土層との密着性を効果的に向上させることができる。
なお、本発明ないし本明細書において「水溶性」とは、水に対する溶解度が25℃において3g/100g-HO以上である(25℃において、水100gに対して3g以上溶解する)ことを意味する。前記水溶性樹脂は、通常は水や水性媒体に溶解させて用いることができる。
【0016】
前記水溶性樹脂の種類は、前記基材の種類等を考慮して適宜選択することができる。前記水溶性樹脂の具体例としては、例えばポリビニルアルコール(PVA)、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)、変性ポリアミド(水溶性ナイロン)、カルボキシメチルセルロース、構成成分として(メタ)アクリルアミド成分を含むポリマー、ポリエステル、フェノール樹脂、構成成分として(メタ)アクリル酸成分を含むポリマーなどが挙げられる。前記水溶性樹脂は、単独の樹脂であってもよく、2種類以上の樹脂からなる混合樹脂であってもよい。なかでもアンカーコート層と粘土層との密着性向上の観点から、前記水溶性樹脂は水酸基を有する樹脂を含むことが好ましく、BVOH、PVA、及び変性ポリアミドの少なくとも1種を含むことがより好ましく、BVOH及び/又は変性ポリアミドを含むことがさらに好ましい。
前記アンカーコート層に用いる水溶性樹脂は、合成したものを用いてもよく、また市販品を用いてもよい。例えば、BVOHとしてはニチゴーGポリマー(登録商標、三菱ケミカル社製)、PVAとしてはクラレポバール(登録商標、クラレ社製)、水溶性ナイロンとしてはAQナイロン(東レ社製)などが挙げられる。
【0017】
前記アンカーコート層における前記水溶性樹脂の含有量は、27~91質量%であることが好ましく、36~91質量%であることがより好ましく、45~82質量%であることがさらに好ましい。
【0018】
(微粒子)
本発明ないし本明細書において「微粒子」とは、水に不溶性であり、その粒子径が1~1000nmである粒子を意味する。本発明に用いる微粒子は、アンカーコート層の表面(粘土層との接触面)において微小な凹凸を形成し、アンカー効果を効果的に発揮することができる。
前記微粒子の粒子径は、2~500nmであることが好ましく、5~300nmであることがより好ましく、10~200nmであることがさらに好ましく、20~180nmがさらに好ましく、40~160nmがさらに好ましく、60~140nmがさらに好ましい。なお、本発明ないし本明細書において、水分散体中の前記微粒子の「粒子径」とは、体積基準のメディアン径(d50)である。この粒子径は、例えば動的光散乱式粒子径分布測定装置により決定することができる。
【0019】
前記微粒子は、水酸化鉱物及び/又は金属酸化物であることが好ましい。これらの微粒子は粒子の表面電荷がプラスに荷電しているため、負電荷を有する粘土鉱物に対し静電的な相互作用を強く発揮する。そのため、前記微粒子を金属水酸化物の粒子とすることにより、粘土層とアンカーコート層との密着性をより向上させることができる。
前記水酸化鉱物としては、例えば水酸化ランタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミナ水和物(好ましくはベーマイト)、水酸化鉄(好ましくはゲータイト)などが挙げられる。また前記金属酸化物としては、例えばシリカ、アルミナ、酸化鉄、ジルコニア、酸化チタン、酸化スズ、酸化ニオブなどが挙げられる。これらの粒子は単独で用いてもよく、2種以上の粒子を混合して用いてもよい。
前記微粒子の形状は特に制限されず、表面の均一性、及びアンカー効果の観点から、長球状、あるいは球状であることが好ましい。
【0020】
本発明に用いる微粒子は市場から入手することもできる。例えば、ベーマイト粒子としてはアルミナゾル(日産化学社製)、アルミゾル(川研ファインケミカル社製)が挙げられる。また、コロイダルシリカとしては、スノーテックス(登録商標、日産化学社製)、クォートロン(登録商標、扶桑化学工業社製)、シリカドール(登録商標、日本化学工業社製)などが挙げられる。
【0021】
前記アンカーコート層における前記微粒子の含有量は、9~73質量%であることが好ましく、9~64質量%であることがより好ましく、18~55質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
(他の成分)
本発明の積層体を構成するアンカーコート層は、本発明の効果を妨げない範囲において、目的に応じて前記水溶性樹脂以外かつ前記微粒子以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、顔料、シランカップリング剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤、乳化剤、防カビ剤、防腐剤、消泡剤、防錆剤等が挙げられる。
前記アンカーコート層中、他の成分の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
<粘土層>
本発明の積層体を構成する粘土層は、粘土鉱物を含有する。本発明及び本明細書において、「粘土層」とは、粘土鉱物を30質量%以上含有する層を意味する。前記粘土層における粘土鉱物の含有量は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。また、前記粘土層中の粘土鉱物の含有量は70質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよく、全てが粘土鉱物からなる層であってもよい。
前記粘土層の厚みは、粘土層としての機能性確保、及び粘土層形成の際の乾燥時間を短くする観点から、0.5~20μmであることが好ましく、1~15μmであることがより好ましく、1.5~5μmであることがさらに好ましい。
【0024】
(粘土鉱物)
前記粘土鉱物は、天然のものであっても、合成されたものであってもよい。本発明に用いる粘土鉱物は、モンモリロナイト、雲母、バーミキュライト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マガディアイト、アイラライト、及びカネマイトの少なくとも1種を含むことが好ましく、モンモリロナイトを含むことがより好ましい。
【0025】
本発明で用いる粘土鉱物の結晶層間に存在する陽イオン(層間陽イオン)種は特に限定されない。水等の媒体への分散性、及び粘土層を形成するための塗工液の塗工性の観点から、前記層間陽イオンは、Naイオン、Liイオン、Kイオン、及びNHイオンから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、Naイオン及び/又はLiイオンであることがより好ましい。
なお、本明細書において、例えば「XX型粘土鉱物」とは、粘土鉱物の結晶層間に存在する主要な陽イオンが「XXイオン」であることを意味する。例えば、「Na型モンモリロナイト」といったとき、モンモリロナイトの結晶層間に存在する主要な陽イオンはナトリウムイオンである。
【0026】
本発明に用いる粘土鉱物は市場から入手することもできる。例えば、前記粘土鉱物としては、Na型モンモリロナイトを主成分とする天然のベントナイトを精製した「クニピア-F」、Li型モンモリロナイトを主成分とする天然のベントナイトを精製した「クニピア-M」、合成サポナイトとして「スメクトン-SA」、合成スチブンサイトとして「スメクトン-ST」、合成ヘクトライトとして「スメクトン-SWN」(いずれもクニミネ工業株式会社製)等が挙げられる。
【0027】
(水溶性樹脂)
本発明の積層体を構成する粘土層は、粘土鉱物以外の成分として、水溶性樹脂を含有することが好ましい。粘土層が水溶性樹脂を含有することにより、粘土層の凝集破壊(材料破壊)を抑制することができ、さらに粘土層とアンカーコート層との密着性をより向上させることができる。粘土層に含まれ得る水溶性樹脂としては、例えば、アンカーコート層に含有され得る水溶性樹脂として説明したものを用いることができる。本発明の積層体を構成する粘土層が水溶性樹脂を含む場合、この粘土層の水溶性樹脂は、この積層体を構成するアンカーコート層が含有する水溶性樹脂と同じであってもよく、異なってもよい。
【0028】
前記粘土層が粘土鉱物と水溶性樹脂とを含有する場合において、前記粘土鉱物と前記水溶性樹脂の各含有量の合計に占める、前記粘土鉱物(粘土成分)の割合は30~90質量%、前記水溶性樹脂(樹脂成分)の割合は10~70質量%であることが好ましく、前記粘土鉱物の割合が30~80質量%、前記水溶性樹脂の割合が20~70質量%であることがより好ましく、前記粘土鉱物の割合が30~70質量%、前記水溶性樹脂の割合が30~70質量%であることも好ましい。
【0029】
(他の成分)
前記粘土層は、粘土鉱物以外かつ水溶性樹脂以外に、本発明の効果を妨げない範囲において、目的に応じて他の成分を含有していてもよい。当該他の成分は特に制限されず、例えば、微粒子、金属水酸化物、金属酸化物、顔料、架橋剤、シランカップリング剤、界面活性剤などが挙げられる。
前記粘土層中、他の成分の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
<基材>
本発明の積層体を構成する基材に特に制限はない。基材は、アンカーコート層が塗工でき、アンカーコート層に対して所望の親和性を有していればよく、立体形状でもフィルム状でもよい。例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂(例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、フェノール樹脂、ポリアミド等)などからなる成形体やフィルム、さらには素材として鉄、アルミなどの金属や合金、木材、不織布、石膏、ガラス、紙などが適用できる。
さらに、前記基材は、アンカーコート層を塗工する前に、表面処理等に付されていても良い。このような表面処理の種類は、本発明の効果を妨げない範囲で適宜選択することができ、例えば、フレーム処理、コロナ処理、シランカップリング処理等が挙げられる。
【0031】
[積層体の形成方法]
本発明の積層体は、基材の表面上にアンカーコート層を形成し、さらに形成されたアンカーコート層の表面上に粘土層を形成することによって得ることができる。
【0032】
<アンカーコート層の形成>
アンカーコート層を形成するための塗工液(アンカーコート層形成用コーティング剤)は、液媒体中に前記水溶性樹脂が溶解し、前記微粒子が分散した塗工液である。本発明の積層体を構成するアンカーコート層は、前記塗工液を基材上に塗工し、塗膜を乾燥させることで得ることができる。
前記塗工液における前記水溶性樹脂と前記微粒子の各含有量の合計は、塗工性、及び乾燥後の厚みの制御の観点から、0.1~10質量%であることが好ましく、1~8質量%であることがより好ましく、3~6質量%であることがより好ましい。また、前記塗工液において前記水溶性樹脂と前記微粒子の各含有量の合計に占める前記水溶性樹脂(樹脂成分)の割合は30~90質量%、前記微粒子(粒子成分)の割合は10~70質量%であり、前記水溶性樹脂の割合を40~90質量%、前記微粒子の割合を10~60質量%とすることが好ましく、前記水溶性樹脂の割合を50~90質量%、前記微粒子の割合を10~50質量%とすることがより好ましく、前記水溶性樹脂の割合を50~80質量%、前記微粒子の割合を20~50質量%とすることがより好ましい。また、前記水溶性樹脂の割合を40~60質量%、前記微粒子の割合を40~60質量%としてもよい。
【0033】
前記塗工液を構成する液媒体は、水、又は水と水溶性有機溶媒とを含む水性媒体であることが好ましい。前記水性媒体中、水の含有量は40質量%以上であることが好ましい。前記水性媒体中の水の含有量は50質量%以上であることも好ましく、70質量%以上としてもよく、80質量%以上としてもよく、90質量%以上としてもよい。
前記水溶性有機溶媒の種類に特に制限はなく、目的に応じて適宜に選択される。例えば、前記水溶性有機溶媒として、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどのアルコール類等の化合物を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。特に前記水溶性有機溶媒は、乾燥時間の短縮、樹脂素材への濡れ性の向上寄与等の観点から、アルコール類であることが好ましい。
【0034】
前記塗工液における前記液媒体の含有量は、90~99.9質量%とすることができ、92~99質量%であってもよく、94~97質量%であってもよい。なお後述のように、前記水溶性樹脂を予め溶解させた溶液を用いる場合や、前記微粒子を予め分散させた分散液を用いる場合には、当該溶液や分散液の液媒体は、前記塗工液における液媒体を構成するものとする。
【0035】
前記塗工液は、前記水溶性樹脂以外で、前記微粒子以外で、かつ前記液媒体以外の他の成分を含有してもよい。他の成分については、アンカーコート層に含有し得る上述した他の成分の説明を適用できる。他の成分の含有量についても、前記塗工液を塗工、乾燥して得られるアンカーコート層が含有し得る他の成分の含有量の範囲内となるように、適宜塗工液に配合することができる。
【0036】
前記塗工液は、微粒子又はその分散液と、水溶性樹脂又はその溶液と、液媒体とを、混合することにより調製することができる。混合方法は特に限定されず、例えば、マグネチックスターラー、羽根付き撹拌機、自公転ミキサー、万能混合器、ホモミキサー等の通常の撹拌機又は混合機を使用して混合することができる。
【0037】
塗工液の塗工方法は特に限定されず、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディスペンス法、又は、はけ塗り等を採用できる。
塗工液を塗工した直後において、塗膜厚(ウェット膜厚)は特に限定されず、均一に塗工でき、かつ乾燥後のアンカーコート層の膜厚(ドライ膜厚)を上記の範囲内となるように適宜設定することができる。例えば、前記ウェット膜厚を4~100μmとすることもでき、4~50μmとしてもよく、10~25μmとしてもよい。
【0038】
前記塗膜の乾燥条件は特に限定されず、基材の耐熱性などを考慮して適宜調節することができ、例えば、温度条件を60~120℃、処理時間を10秒~60分とすることができる。
【0039】
<粘土層の形成>
粘土層は、通常は、アンカーコート層が形成された後に、アンカーコート層上に形成される。粘土層は、粘土層の構成成分を液媒体中に溶解ないし分散してなる塗工液を用いて、上記のアンカーコート層の形成方法と同様にして形成することができる。
粘土層を形成するための塗工液を塗工した直後において、塗膜厚(ウェット膜厚)は特に限定されず、均一に塗工でき、かつ乾燥後の粘土層の膜厚(ドライ膜厚)を上述した範囲内となるように適宜設定することができる。例えば、前記ウェット膜厚を10~1000μmとすることもでき、20~500μmとしてもよく、50~200μmとしてもよい。
塗膜の乾燥条件は特に限定されず、基材の耐熱性などを考慮して適宜調節することができ、例えば、温度条件を60~160℃、処理時間を10秒~60分とすることができる。また、アンカーコート層の形成における温度条件よりも高温に設定することも好ましい。温度条件をより高温にすることにより、粘土層内部の溶媒を十分に除去することができ、またバリア性に優れた粘土層を形成することができる。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
<アンカーコート層形成用コーティング剤の調製>
(調製例1)
蒸留水90質量部と、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)(商品名:ニチゴーGポリマー(登録商標)、品種:BVE8049Q、三菱ケミカル社製)10質量部とを混合し、60~80℃の条件にて溶解し、10質量%濃度のBVOH水溶液(表中で「G-Poly」と記載)を得た。当該水溶液40質量部に対し、アルミナゾル(製品名:アルミナゾル(AS)-520-A、21質量%、d50=116nm、日産化学社製、表中で「AS520A」と記載)を4.8質量部加え、マグネチックスターラーにて混合した。
得られた混合液に対し、50質量%イソプロピルアルコール(IPA)水溶液を55.2質量部加え、混合することで、固形分濃度5質量%の調製例1のアンカーコート層形成用コーティング剤を得た。
【0042】
(調製例2~4)
アンカーコート層形成用コーティング剤の配合組成を、下記表1に記載の配合とした以外は、調製例1と同様にして調製例2~4のアンカーコート層形成用コーティング剤を得た。
【0043】
(調製例5)
蒸留水90質量部と、水溶性ナイロン(品名:AQナイロン、品種:A-90、東レ社製)10質量部とを混合し、40℃の条件にて溶解後、室温にて冷却し10質量%濃度のAQナイロン水溶液(表中で「AQナイロン」と記載)を得た。当該水溶液40質量部に対し、アルミナゾル(製品名:AS-520-A、21質量%、d50=116nm、日産化学社製)を4.8質量部加え、マグネチックスターラーにて混合した。
得られた混合液に対し、50質量%IPA水溶液を55.2質量部加え、混合することで調製例5のアンカーコート層形成用コーティング剤を得た。
【0044】
(調製例6)
アンカーコート層形成用コーティング剤の配合組成を、下記表1に記載の配合とした以外は、調製例5と同様にして調製例6のアンカーコート層形成用コーティング剤を得た。
【0045】
(調製例7)
コロイダルシリカ(型番:ST-30、30.3質量%、d50=79.4nm、日産化学社製)を蒸留水に分散させ、10質量%濃度の分散液(表中で「ST-30」と記載)を調製した。当該分散液と、調製例1で用いたBVOH水溶液、及び50質量%IPA水溶液を、下記表1に記載の配合とし、混合することで調製例7のアンカーコート層形成用コーティング剤を得た。
【0046】
(比較調製例1)
調製例1で用いた10質量%BVOH水溶液、及び50質量%IPA水溶液を、それぞれ50質量部混合し、比較調製例1のアンカーコート層形成用コーティング剤を得た。
【0047】
(比較調製例2)
アンカーコート層形成用コーティング剤の配合組成を、下記表1に記載の配合とした以外は、調製例1と同様にして比較調製例2のアンカーコート層形成用コーティング剤を得た。
【0048】
(比較調製例3)
アルミナゾル(製品名:アルミナゾル(AS)-520-A、21質量%、d50=116nm、日産化学社製)23.8質量部と、50質量%IPA水溶液を76.2質量部とを混合し、比較調製例3のアンカーコート層形成用コーティング剤を得た。
【0049】
(比較調製例4)
アルミナゾルの代わりに酸化マグネシウム(商品名:キョーワマグ(登録商標)MF-150、協和化学工業社製)を蒸留水に10質量%濃度となるように調製した分散液(表中で「MF-150」と記載)を用い、表1に記載の配合組成とした以外は、調製例1と同様にして比較調製例4のアンカーコート層形成用コーティング剤を得た。なお、酸化マグネシウム分散液の分散粒子径はd50=6600nmであった。
【0050】
(比較調製例5)
アルミナゾルの代わりにゼオライト(型番:HSZ-940NHA、東ソー社製)を蒸留水に10質量%濃度となるように調製した分散液(表中で「940NHA」と記載)を用い、表1に記載の配合組成とした以外は、調製例1と同様にして比較調製例5のアンカーコート層形成用コーティング剤を得た。なお、ゼオライト分散液の分散粒子径はd50=3200nmであった。
【0051】
(分散粒子径の測定)
調製例1~7、及び比較調製例1~3に用いた微粒子の分散粒子径(体積基準のメディアン径、d50)は、ナノ粒子解析装置(型番:SZ-100V2、株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
なお、比較調製例4及び5に用いた粒子の粒子径は、分散質の濃度が0.01質量%となるように蒸留水を用いて希釈して粒子径測定用サンプルとし、この測定用サンプルをレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(型番:LA-950V2、株式会社堀場製作所製)を用いて、分散粒子径(体積基準のメディアン径、d50)を測定した。
結果を表1に併せて示す。
【0052】
【表1】
【0053】
<実施例1>
基材として2軸延伸PETフィルム(商品名:TOYOBOESTER(登録商標)G2L series、銘柄:G2L00、50μm厚、東洋紡社製)を用い、当該基材上に、調製例1のアンカーコート層形成用コーティング剤を、バーコーター(型番:バーコーター200/25、BEVS社製;ウェット膜厚:25μm)を用いてコートし、80℃の乾燥機にて20分間乾燥させ、約0.2μm厚のアンカーコート層を作製した。
【0054】
蒸留水95質量部に対し、Li型モンモリロナイト(商品名:クニピア-M、クニミネ工業社製)5質量部を、自公転ミキサー(あわとり練太郎ARE-310、シンキー社製)にて撹拌混合して、Li型モンモリロナイトを5質量%含有する粘土分散液を得た。
また、蒸留水95質量部に対し、BVOH(商品名:ニチゴーGポリマー(登録商標)、品種:BVE8049Q、三菱ケミカル社製)5質量部を混合し、60~80℃の条件下にて溶解し、BVOHを5質量%濃度で溶解してなるBVOH水溶液を得た。
得られた粘土分散液とBVOH水溶液を、それぞれ80質量部及び20質量部となるように混合し、粘土層用塗工液を得た。
【0055】
得られた粘土層用塗工液をバーコーター(型番:K-BAR No.8、RK Print Coat Instruments社製;ウェット膜厚:100μm)を用いて前記アンカーコート層上にコートし、80℃の乾燥機にて2時間乾燥させ、さらに105℃にて1時間乾燥させた。こうして、約2μm厚の粘土層を形成させ、実施例1の積層体を得た。
【0056】
得られた積層体を室温にて1日間静置させ、下記の密着性試験1を実施した。結果を表2に示す。
【0057】
<実施例2~7、及び比較例1~5>
調製例1のアンカーコート層形成用コーティング剤に代えて、表2に記載のアンカーコート層形成用コーティング剤をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2~7及び比較例1~5の各積層体を得た。得られた各積層体を室温にて1日間静置させ、下記の密着性試験1を実施した。結果を表2に示す。
【0058】
<実施例8~15>
基材として2軸延伸PETフィルム(商品名:TOYOBOESTER(登録商標)G2L series、銘柄:G2L00、50μm厚、東洋紡社製)を用い、当該基材上に、調製例3のアンカーコート層形成用コーティング剤を、バーコーター(型番:バーコーター200/25、BEVS社製;ウェット膜厚:25μm)を用いてコートし、80℃の乾燥機にて20分間乾燥させ、約0.2μm厚のアンカーコート層を作製した。
【0059】
前記粘土分散液と前記BVOH水溶液とを、粘土層用塗工液における粘土成分(粘土鉱物)と樹脂成分との含有量比が表2に記載の値となるように混合し、各粘土層用塗工液を得た。得られた各粘土層用塗工液をバーコーター(型番:K-BAR No.8、RK Print Coat Instruments社製;ウェット膜厚:100μm)を用いて前記アンカーコート層上にコートし、80℃の乾燥機にて2時間乾燥させ、さらに105℃にて1時間乾燥させた。こうして、約2μmの厚みの粘土層を形成し、実施例8~15の各積層体を得た。
得られた各積層体を室温にて1日間静置させ、下記の密着性試験1を実施した。結果を表3に示す。
【0060】
(実施例16、17)
前記粘土層用塗工液の調製において、前記BVOH水溶液に代えて、エチレンアクリル酸共重合体(ザイクセンA、住友精化社製)を5質量%濃度となるように蒸留水にて希釈した分散液を用いた以外は、実施例1及び実施例3と同様にして実施例16及び17の各積層体を得た。
得られた各積層体を室温にて1日間静置させ、下記の密着性試験1を実施した。結果を表3に示す。
【0061】
(実施例18、19)
前記粘土層用塗工液の調製において、前記BVOH水溶液に代えて、水溶性ナイロン(品名:AQナイロン、品種:A-90、東レ社製)を5質量%濃度となるように蒸留水に溶解させた水溶液を用いた以外は、実施例1及び実施例3と同様にして実施例18及び19の各積層体を得た。
得られた各積層体を室温にて1日間静置させ、下記の密着性試験1を実施した。結果を表3に示す。
【0062】
(実施例20、21)
前記粘土層用塗工液の調製において、前記BVOH水溶液に代えて、ポリビニルアルコール(PVA)(商品名:KURARAY POVAL(登録商標)PVA-205S、クラレ社製)を5質量%濃度となるように蒸留水に溶解させた水溶液(表中で「PVA-205S」と記載)を用いた以外は、実施例1及び実施例3と同様にして実施例20及び21の各積層体を得た。
得られた各積層体を室温にて1日間静置させ、下記の密着性試験1を実施した。結果を表3に示す。
【0063】
[密着性試験1]クロスカット試験
積層体形成後(粘土膜塗工後、乾燥後)に室温で1日静置したサンプルを試料として用いた。当該積層体の粘土層上にカッターガイド(商品名:カッターガイド 2203、BEVS社製)を当て、粘土層に対して垂直になるようにカッターの刃を当てカッターガイドに沿って切り込みを行い、2mm幅間隔の切れ込みを6本入れた。6本の切れ込みを行ったら、さらに90°方向を変えて直行する6本の切れ込みを入れた。25マスの碁盤目状(格子状)の切れ込み箇所に対し、セロハンテープ(CT-24、ニチバン社製)を貼り付け、粘土膜が透けて見えるようになるまでしっかり指でテープを擦り付けて密着させた。その後、テープ密着後5分以内に、約60°の角度で、0.5~1.0秒で確実にテープを引きはがし、粘土層の剥がれの程度を目視で確認し、基材に対する、アンカーコート層を介した粘土層の密着性を以下の基準で評価した(表中、「コート有」として示した)。なお、「粘土層の剥がれ」とは、テープの引きはがしにより粘土層が剥離してアンカーコート層が露出すること、及び/又はテープの引きはがしにより粘土層とアンカーコート層が共に剥離して基材が露出することを意味する。
また、対照試験として、アンカーコート層を形成せずに、基材上に直接粘土層を形成した比較試料をそれぞれ調製し、上記と同様にクロスカット試験を行い、基材に対する粘土層の密着性を以下の基準で評価した(表中、「コート無」として示した)。対照試験における「粘土層の剥がれ」とは、テープの引きはがしにより粘土層が剥離して基材が露出することを意味する。

-評価基準-
0:切り込みの縁が完全に滑らかで、粘土層の剥がれがなかった。
1:切り込みの交差箇所において僅かな粘土層の剥がれが観察され、当該交差箇所以外には粘土層の剥がれが観察されなかった。
2:切り込みの縁に沿って、及び切り込みの交差箇所において僅かな粘土層の剥がれが観察され、当該縁や交差箇所以外の面には粘土層の剥がれが観察されなかった。
3:切り込みの縁に沿って、及び切り込みの交差箇所において僅かな粘土層の剥がれが観察され、当該縁や交差箇所以外の面にも僅かな粘土層の剥がれが観察された。
4:25マス全てで粘土層の剥がれが生じ、基材及び/又はアンカーコート層が露出した。
【0064】
【表2】
【0065】
表2より明らかなように、アンカーコート層を介さずに、PETフィルム上に粘土層を形成させた場合は、クロスカット試験により全ての粘土層が剥離してPETフィルムが露出した。
また、PETフィルム上にアンカーコート層を形成し、当該アンカーコート層上に粘土層を形成させて積層体とした場合であっても、アンカーコート層が微粒子を有していない場合(比較例1)や、水溶性樹脂を含有していない若しくは含有割合が少ない場合(比較例2及び3)では、クロスカット試験により粘土層が剥離した。また、アンカーコート層が微粒子を有する場合であっても、当該粒子の粒子径が大きい場合(比較例4及び5)もまた、クロスカット試験により粘土層が剥離した。いずれの比較例でも、アンカーコート層によって粘土層の密着性は改善されなかった。
【0066】
これに対し、本発明の構成の全てを満たす積層体(実施例1~7)では、クロスカット試験でも粘土層の剥離が全く見られないか(実施例3)、見られた場合であってもわずかであり(実施例1、2、4~7)、いずれの実施例でも粘土層の密着性が格段に向上していた。
【0067】
【表3】
【0068】
表3より明らかなように、アンカーコート層を介さずに、PETフィルム上に粘土層を形成させた場合は、クロスカット試験により全ての粘土層が剥離してPETフィルムが露出するか(実施例8~12、16~21に対応する比較試料(「コート無」))、粘土層の樹脂成分量を50質量%以上まで高めた場合でも粘土層の剥離が観察された(実施例13~15に対応する比較試料(「コート無」))。
【0069】
これに対し、アンカーコート層を介してPETフィルム上に粘土層を形成させた実施例8~21の積層体では、対応する比較試料(「コート無」)に比べて粘土層の密着性が向上することが示された。
【0070】
<実施例22~31、比較例6、7>
基材として、2軸延伸PETフィルムの代わりにポリイミド(PI)フィルム(商品名:カプトン(登録商標)、型番:300H、75μm厚、東レ・デュポン社製)を用い、さらに粘土層の乾燥条件を80℃2時間及び160℃1時間とした以外は、実施例1~4、8~13、並びに比較例2及び3と同様にして実施例22~31、並びに比較例6及び7の各積層体を得た。なお、実施例26~31では、調製例3のアンカーコート層形成用コーティング剤に代えて、調製例1のアンカーコート層形成用コーティング剤を用いた。
得られた各積層体を室温にて1日間静置させ、上記の密着性試験1を実施した。結果を表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
表4より明らかなように、基材としてポリイミドフィルムを用いた場合であっても、本発明の規定を満たさないアンカーコート層を有する比較例6及び7の積層体では、クロスカット試験により全ての粘土層が剥離し、アンカーコート層による密着性の改善が見られなかった。
これに対し、本発明の構成の全てを満たす積層体(実施例22~31)では、いずれの実施例でもアンカーコート層による粘土層の密着性向上作用が認められた。
【0073】
<実施例32>
基材として、2軸延伸PETフィルムの代わりに2軸延伸ポリプロピレンフィルム(パイレン(登録商標)フィルム-OT、銘柄:P2161、20μm厚、片面コロナ処理品、東洋紡社製)を用いた以外は、実施例6と同様にして、基材上(コロナ処理面上)にアンカーコート層を形成した。
さらに、粘土層の乾燥条件を60℃2時間及び80℃1時間とした以外は、実施例11と同様にして前記アンカーコート層上に粘土層を形成し、実施例32の積層体を得た。
得られた各積層体を室温にて1日間静置させ、下記の密着性試験2を実施した。結果を表5に示す。
【0074】
[密着性試験2]
得られた積層体の粘土層にセロハンテープ(CT-15、ニチバン社製)を貼り付け、テープを剥がした際の剥がれの程度を目視で確認し、以下の基準で評価した。
なお、対照試験として、アンカーコート層を形成させずに、基材上に粘土層を形成させた比較試料を調製し、上記と同様に基材に対する粘土層の密着性を評価した。

-評価基準-
○:全く剥がれが確認されなかった。
×:アンカーコート層及び粘土層が全て剥がれ、基材が露出した。
【0075】
【表5】
【0076】
表5より明らかなように、基材として、極性が低いフィルムであるポリプロピレンフィルムを用いても、積層体がアンカーコート層を有することにより、粘土層の密着性が格段に向上することが示された。
【0077】
<実施例33~36>
ポリエチレンシート(PE、2mm厚、アズワン社製)、ポリプロピレンシート(PP、2mm厚、アズワン社製)、ポリカーボネートシート(PC、2mm厚、アズワン社製)、フェノール樹脂フィルム(PF、2mm厚、アズワン社製)のそれぞれに対し、シート表面をフレーム処理(プリンスガストーチ、GT-9000、スタイル社製)したものを基材として用いた。当該基材上(フレーム処理面上)に、調製例2のアンカーコート層形成用コーティング剤を、はけ塗りにてコートし、105℃の乾燥機にて15分間乾燥させ、アンカーコート層を作製した。
その後、実施例11で用いた粘土層用塗工液を、上記と同様にはけ塗りにてアンカーコート層上にコートし、105℃の乾燥機にて30分間乾燥させ、実施例33~36の各積層体を得た。
【0078】
<実施例37>
ステンレス(SUS403、100×300mm、厚み3mm、HIKARI社製)を縦50mm×横50mmにカットし、上記と同様に表面にフレーム処理をしたものを基材として用いた。当該基材上(フレーム処理面上)に、調製例2のアンカーコート層形成用コーティング剤を、はけ塗りにてコートし、105℃の乾燥機にて15分間乾燥させ、アンカーコート層を作製した。
その後、実施例11で用いた粘土層用塗工液を、上記と同様にはけ塗りにてアンカーコート層上にコートし、105℃の乾燥機にて30分間乾燥させ、実施例37の積層体を得た。
【0079】
なお、上記実施例33~37の各積層体において、各アンカーコート層と各粘土層の厚さはいずれもそれぞれ同一であった。
得られた上記実施例33~37の各積層体を室温にて1日間静置させ、上記密着性試験2により、基材に対する粘土層の密着性を評価した。なお、対照試験として、アンカーコート層を形成させずに、表面をフレーム処理した基材上に粘土層を形成させた比較試料を調製し、上記と同様に基材に対する粘土層の密着性を評価した。結果を下記表6に示す。
【0080】
【表6】
【0081】
表6より明らかなように、表面をフレーム処理した各種基材を用いても、積層体がアンカーコート層を有することにより、粘土層の密着性が格段に向上することが示された。
【0082】
以上の結果より、積層体が基材と粘土層との間に本発明で規定する特定組成のアンカーコート層を有することにより、基材に対する粘土層の密着性を向上させることができ、さらにさまざまな基材に対して粘土層の機能性を付与することが可能となることが示された。