(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174663
(43)【公開日】2023-12-08
(54)【発明の名称】RANタンパク質の検出のための免疫アッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20231201BHJP
G01N 33/532 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/532 B
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023150846
(22)【出願日】2023-09-19
(62)【分割の表示】P 2020538771の分割
【原出願日】2018-09-25
(31)【優先権主張番号】62/563,009
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501453307
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ フロリダ リサーチ ファンデーション, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ラヌム,ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】グエン,リエン
(57)【要約】
【課題】
本開示の側面は、対象(例として、RANタンパク質翻訳に関連する疾患、たとえば筋萎縮性側索硬化症(ALS)および/または前頭側頭型認知症(FTD)、または脊髄小脳失調症36型(SCA36)、またはポリ(PR)、ポリ(GR)、またはポリ(GP)RANタンパク質を生成する他の疾患を有するかまたは有することを疑われる対象)における、繰り返し関連非ATG(RAN)タンパク質を検出するための方法および組成物(例として、キット)に関する。
【解決手段】
いくつかの態様において、本開示によって記載される方法は、1以上の抗RANタンパク質抗体を使用する電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイによって、対象から得られる生体試料中の1以上のRANタンパク質を検出することを、備える。
いくつかの態様において、本開示は、1以上の抗RAN抗体および電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイプレートおよび/または試薬を備えるキットに、関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイを使用して、対象から得られた生体試料(例として、血液試料)中で、1以上のRANタンパク質を検出することを備える、方法。
【請求項2】
生体試料が、血液試料、または組織試料であり、任意にここで、前記組織試料が、CNS組織試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象が、哺乳動物の対象であり、任意にここで、前記対象が、ヒトまたはマウスである。請求項1または2に記載の方法、
【請求項4】
対象が、
(i)C9ORF72遺伝子中のGGGGCCヘキサヌクレオチド配列繰り返し伸長、任意にここで、対象は、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも500、少なくとも1000、または少なくとも5000のGGGGCC繰り返し伸長を備える、
または
(ii)C9ORF72遺伝子中のTGGGCCヘキサヌクレオチド配列繰り返し伸長、任意にここで、対象は、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも500、少なくとも1000、または少なくとも5000のTGGGCC繰り返し伸長を備える、
により特徴づけられる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
対象が、C9-BACマウスである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
試料中に検出される1以上のRANタンパク質が、ポリ(GP)、ポリ(GR)、ポリ(PR)、およびポリ(PA)から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
2、3、または4つのRANタンパク質が、試料中に検出される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイが、試料を1以上の抗RANタンパク質抗体に接触させるステップを備え、任意にここで、前記抗RAN抗体が、抗ポリ(GP)抗体、抗ポリ(GR)抗体、抗ポリ(PR)抗体、および抗ポリ(PA)抗体から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
抗RAN抗体が、RANタンパク質のジアミノ酸繰り返し領域に結合し、任意にここで、ジアミノ酸繰り返し領域が、ポリ(GP)、ポリ(GR)、ポリ(PR)、またはポリ(PA)である。請求項8に記載の方法。
【請求項10】
抗RAN抗体が、RANタンパク質のC末端部分に結合し、任意にここで、RANタンパク質が、ポリ(GP)、ポリ(GR)、ポリ(PR)、またはポリ(PA)ジアミノ酸繰り返し領域を備える、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
1以上の抗RANタンパク質抗体が、ポリクローナル抗体である、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
1以上の抗RANタンパク質抗体が、モノクローナル抗体である、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイが、メソスケール検出(MSD)アッセイである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
コントロール試料中に検出されるRANタンパク質のレベルと比較して、生体試料中に検出されるRANタンパク質のレベルが上昇している場合に、対象に治療剤を投与するステップをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
治療剤の投与の後に、対象から第2の生体試料を得て、電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイを使用して、該試料の1以上のRANタンパク質を検出するステップを備える、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイが、生体試料が対象から得られる2日以内に遂行される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイが、生体試料が対象から得られる24時間以内に遂行される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイを遂行する前に、生体試料が、23℃未満の温度で保存され、任意にここで、生体試料が、4℃以下の温度で保存される、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
(i)電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイを使用して、対象から得られた第1の生体試料(例として、血液試料)中で、1以上のRANタンパク質を検出すること、
(ii)電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイを使用して、対象から得られた第2の生体試料(例として、血液試料)中で、1以上のRANタンパク質を検出すること、ここで、第2の生体試料は、対象に治療剤を投与後に、得られる、
および
(iii)第2の生体試料中で検出されるRANタンパク質の量が、第1の生体試料中で検出されるRANタンパク質の量未満である場合、対象への治療剤の投与が、対象における1以上のRANタンパク質のレベルの変化に結果としてなることを決定すること、
を備える、RANタンパク質発現における薬動力学的変化を測定するための方法。
【請求項20】
第1の生体試料が、治療剤の投与の前、1週と1分の間に得られる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
第2の生体試料が、治療剤の投与の後、1時間と1週の間に得られる、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
(i)1以上の抗RANタンパク質抗体、
および
(ii)電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイプレートおよび/または試薬、
を備えるキット。
【請求項23】
1以上の抗RANタンパク質抗体が、抗ポリ(GP)抗体、抗ポリ(GR)抗体、抗ポリ(PR)抗体、および抗ポリ(PA)抗体から選択される、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
抗RANタンパク質抗体が、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、請求項22または23に記載のキット。
【請求項25】
電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイプレートおよび/または試薬が、MSDアッセイプレートおよび/またはMSDアッセイ試薬である、請求項22~24のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法119(e)のもと、「RANタンパク質の検出のための免疫アッセイ」を標題とする2018年9月25日出願の米国仮出願番号第62/563,009の利益を主張し、これらの全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
背景
ヒトC9ORF72遺伝子のイントロンの中のGGGGCCヘキサヌクレオチド配列の伸長は、ヒトの筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭型認知症と関連する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、急速に進行する衰弱、筋萎縮症、筋痙直、言語障害(構音障害)、嚥下困難(嚥下障害)、および呼吸困難(呼吸窮迫)によって特徴づけられる、多様な原因を伴う消耗性疾患である。症状の順序および割合が人により変化するにもかかわらず、最終的に、ほとんどの対象は、歩くことができないか、単独でベッドから出られないか、または、それらの手および腕を使用できない。ALSを伴うほとんどの対象は、通常症状の発現から3~5年以内に、最終的に呼吸不全から亡くなるだろう。ALSに現在利用できる処置は、制限されている。
【0003】
前頭側頭型認知症(FTD)は、脳の前頭および側頭葉の萎縮または収縮から生じる障害の、壊滅的な群でもある。この収縮または萎縮は、重篤な行動変化に結果としてなる。FTDのための治癒およびFTDの症状を管理するための限られた薬物投与が、現在ない。ALSおよび/またはFTDを診断し処置するための新しい方法は、ALSおよびFTDの対象に大いに恩恵があるだろう。
【発明の概要】
【0004】
概要
本開示の側面は、ゲノムヌクレオチド伸長に関連する(たとえば、1以上の疾患症状と関連する、たとえば神経学的疾患または状態と関連する)一定のバイオマーカーを検出するための方法およびキットに、関する。いくつかの態様において、免疫アッセイ(たとえば、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイ)は、対象から得られた血液試料の非ATG翻訳タンパク質に関連した1以上の繰り返しのレベルを検出または測定するために使用される。いくつかの態様において、方法およびキットは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および/または前頭側頭型認知症(FTD)または脊髄小脳失調タイプ36(SCA36)と関連する一定のバイオマーカー(例として、薬力学的バイオマーカー、薬動力学的バイオマーカーなど)を検出することおよびそれらの基づくこのような疾患を処置する方法のために、提供される。本開示は、対象、たとえば、ALS/FTDを有するか有すると疑われる対象、またはSCA36を有するか有すると疑われる対象の細胞または組織からの、非ATG翻訳タンパク質(RANタンパク質としても言及される)に関連する1以上の繰り返しのレベルを、鋭敏に測定することができる免疫アッセイに、部分において、基づく。
【0005】
いくつかの側面において、本開示により記載された方法は、ALS、FTD、またはSCA36等の、RANタンパク質発現に関連する疾患または障害の処置のための1以上の治療剤が投与されたまたは投与される対象における、1以上のRANタンパク質のレベルをモニターする(たとえば、長手方向に測定する)ために、有用である。
【0006】
いくつかの側面において、本開示は、対象から得られた生体試料(たとえば、血液試料)において、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイを使用して1以上のRANタンパク質を検出することを備える方法を、提供する。いくつかの態様において、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイは、Meso Scale Detection(MSD)アッセイである。
【0007】
いくつかの態様において、生体試料は、血液試料または組織試料である。
いくつかの態様において、組織試料は、CNS組織試料である。いくつかの態様において、対象は、哺乳動物の対象である。いくつかの態様において、対象は、ヒトまたはマウスである。いくつかの態様において、対象は、C9-BACマウスである。
【0008】
いくつかの態様において、対象は、以下によって特徴づけられる:C9ORF72遺伝子のGGGGCC(G4C2)ヘキサヌクレオチド配列の繰り返し伸長;またはSCA36遺伝子のTGGGCCヘキサヌクレオチド配列の繰り返し伸長;またはポリ(GP)、ポリ(GR)、またはポリ(PR)タンパク質を発現する他の神経学的疾患。いくつかの態様において、ヘキサヌクレオチド配列の繰り返し伸長は、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも500、少なくとも1000、または、少なくとも5000のG4C2の繰り返し伸長、または、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも500、少なくとも1000または、少なくとも5000のTGGGCCの繰り返し伸長を備える。いくつかの態様において、核酸配列は、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも500、少なくとも1000または、少なくとも5000のポリマーユニットのRANタンパク質(たとえば、ホモポリマー性RANタンパク質、ジアミノ酸の繰り返しを含有するRANタンパク質等々)をコードする繰り返し伸長において備えられる。
【0009】
いくつかの態様において、試料(例として、生体試料)中で検出される1以上のRANタンパク質は、ポリ(GP)、ポリ(GR)、ポリ(PR)、およびポリ(PA)から選択される。いくつかの態様において、2つ、3つまたは、4つのRANタンパク質が、試料中で検出される。
いくつかの態様において、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイは、1以上の抗RANタンパク質抗体を試料に接触するステップを備える。いくつかの態様において、1以上の抗RAN抗体は、抗ポリ(GP)抗体、抗ポリ(GR)抗体、抗ポリ(PR)抗体、および抗ポリ(PA)抗体から選択される。
いくつかの態様において、抗RAN抗体は、RANタンパク質のジアミノ酸繰り返し領域、たとえば、ポリ(GP)、ポリ(GR)、ポリ(PR)、またはポリ(PA)ジアミノ酸繰り返し領域に、結合する。
【0010】
いくつかの態様において、抗RAN抗体は、RANタンパク質のC末端部分、たとえば、ポリ(GP)、ポリ(GR)、ポリ(PR)、またはポリ(PA)ジアミノ酸繰り返し領域を備えるRANタンパク質のC末端領域に、結合する。
いくつかの態様において、1以上の抗RANタンパク質抗体は、ポリクローナル抗体である。いくつかの態様において、1以上の抗RANタンパク質抗体は、モノクローナル抗体である。
【0011】
いくつかの態様において、本開示の方法は、コントロール試料(例として、それらのC9ORF72遺伝子において、繰り返し伸長を有しない対象から得られた生体試料)中で検出されるRANタンパク質のレベルと比較して、生体試料中で検出されるRANタンパク質のレベルが上昇している場合、対象に治療剤を投与することを、さらに備える。
【0012】
いくつかの態様において、本開示の方法は、治療剤の投与の後に対象から第2の生体試料を得て、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイを使用して該試料の1以上のRANタンパク質を検出することを、さらに備える。
【0013】
いくつかの側面において、本開示は、RANタンパク質発現の薬動力学的変化を測定するための方法を提供し、該方法は、以下を備える:電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイを使用して、対象から得られた第1の生体試料(例として、血液試料)中で、1以上のRANタンパク質を検出すること;電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイを使用して、対象から得られた第2の生体試料(例として、血液試料)中で、1以上のRANタンパク質を検出すること、ここで、第2の生体試料は、対象に治療剤を投与後に、得られる;および、第2の生体試料中で検出されるRANタンパク質の量が、第1の生体試料中で検出されるRANタンパク質の量未満である場合、対象への治療剤の投与は、対象における1以上のRANタンパク質のレベルの変化(例として、減少または阻害)に結果としてなることを決定すること。
【0014】
いくつかの側面において、本開示は、以下を備えるキットを提供する:1以上の抗RANタンパク質抗体;および、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイプレートおよび/または試薬。
いくつかの態様において、1以上の抗RANタンパク質抗体は、抗ポリ(GP)抗体、抗ポリ(GR)抗体、抗ポリ(PR)抗体、および抗ポリ(PA)抗体から選択される。いくつかの態様において、抗RANタンパク質抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。
いくつかの態様において、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイプレートおよび/または試薬は、MSDアッセイプレートおよび/またはMSDアッセイ試薬である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A-1B】
図1A-1Dは、メソスケール検出(MSD)アッセイを使用するRANタンパク質の検出のための、標準曲線を示す。
図1Aは、ポリ(GP)RANタンパク質の検出のための、標準曲線を示す。
図1Bは、ポリ(GR)RANタンパク質の検出のための、標準曲線を示す。
【
図1C-1D】
図1Cは、ポリ(PR)RANタンパク質の検出のための、標準曲線を示す。
図1Dは、ポリ(PA)RANタンパク質の検出のための、標準曲線を示す。
【
図2A】
図2A-2Bは、MSDを使用するポリ(GP)定量分析を示す。
図2Aは、ALS/FTDのC9Orf72マウスモデル(例として、C9-BACマウスモデル)から得られた脳組織可溶性分画から、ポリ(GP)RANタンパク質のレベルを測定するMSDアッセイからのデータを示す。FCX=前頭皮質;CE=小脳;エラーバーは、標準偏差(SD)を表す;C9(+)に関してn=7、WTに関して3。
【
図2B】
図2Bは、トランスフェクトされそしてコントロールのHEK293T細胞から得られた、可溶性分画のポリ(GP)RANタンパク質レベルを示す。エラーバーは、SDを表す;各群に関してn=3。
【0016】
【
図3A-3B】
図3A-3Bは、MSDアッセイが、C9-BACマウスにおけるポリ(GP)RANタンパク質の薬動力学的減少を検出することを、示す。
図3Aは、AAV-EGFPおよびAAV-PKR(K296R)発現コンストラクトの模型的な描写を、示す。
図3Bは、タンパク質キナーゼR(PKR)経路を標的として、RAN翻訳をブロックする薬物で処置されたマウスのポリ(GP)RANタンパク質における薬動力学的減少を指すデータを示す。
【
図4】
図4は、トランスフェクトされたまたはコントロールの細胞から得られた、可溶性分画におけるC9RANタンパク質レベルの、MSDアッセイの検出を示す。GR=ポリ(GR)RANタンパク質、PR=ポリ(PR)RANタンパク質;PA=ポリ(PA)RANタンパク質。エラーバーは、3回の技術的な再現からのSDを表す。
【
図5】
図5は、C9ORF72ALS患者からの血液試料中のポリ(GP)RANタンパク質のメソスケール検出(MSD)アッセイを、示す。ポリ(GP)RANタンパク質の相対的なレベルは、ポリクローナル抗ポリ(GP)抗体を使用するMSDアッセイによって、定量された。ポリ(GP)タンパク質の有意により高いレベルは、7つの独立したコントロールの対象と比較して、C9ORF72繰り返し伸長に関して陽性である2の検討対象において、観察された。
【
図6A】
図6A-6Cは、種々の処理時間および温度での、血液試料に遂行したメソスケール検出(MSD)アッセイに関する代表的なデータを、示す。
図6Aは、24時間以内に収集処理される血液と比較した、1、2、または3日間、室温(RT)または4℃に保たれた血液における、インキュベーション時間にわたる、MSDによって検出されるバックグラウンドシグナルの増加を指すデータを、示す。
【
図6B】
図6Bは、24時間以内に収集処理される血液と比較した、室温(RT)での、インキュベーション時間(例として、1、2、または3日)にわたる、MSDによって検出されるバックグラウンドシグナルの増加を指すデータを、示す。より高いバックグラウンドは、C9(+)およびC9(-)コントロール試料の両方において観察された;C9(+)およびC9(-)の試料は、RTに保たれた試料中で、識別されることができなかった。
【
図6C】
図6Cは、24時間以内に収集処理される血液と比較した、4℃での、インキュベーション時間(例として、1、2、または3日)にわたる、MSDによって検出されるバックグラウンドシグナルの増加を指すデータを、示す。より高いバックグラウンドは、C9(+)およびC9(-)コントロール試料の両方において観察された;C9(+)試料は、4℃で最大2日間のインキュベーションで、C9(-)コントロール試料と識別されることができた。この図において記載されたすべてのMSDアッセイにおいて、抗GP抗体は、RANタンパク質の検出のために使用された。
【0017】
詳細な記載
本開示の側面は、対象から得られた、生体試料中の繰り返し関連非ATGタンパク質(例として、RANタンパク質)を検出するために有用な方法および組成物に、関する。本開示は、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイを使用する生体試料中の1以上のRANタンパク質レベルの長手方向の検出(例として、定義された時間経過にわたる検出)に、部分において、基づく。いくつかの態様において、本開示によって記載された方法は、RANタンパク質発現および/またはRANタンパク質翻訳を阻害する治療剤の有効性を指すために、たとえば対象に1以上の治療剤の投与の後にRANタンパク質レベルの減少を指すことによって、有用である。
生体試料
いくつかの側面において、本開示は、対象から得られた生体試料の1以上のRANタンパク質を検出する(例として、1以上のRANタンパク質のレベルを検出する)方法に、関する。
【0018】
「ALSおよび/またはFTDを有する、または、疑われる対象」は、C9ORF72遺伝子の30より多いGGGGCC繰り返しを有することが公知であるかまたは決定されている対象であることができ、または、ALS/FTDの兆候および症状を呈する対象は、運動障害(例として、痙直)、筋萎縮症、および/または精神神経性の出現(例として「強迫性行動、アパシー、不安」)を含むがこれに限定されない。
【0019】
「SCA36を有する、または、疑われる対象」は、SCA36遺伝子の30より多いTGGGCC繰り返しを有することが公知であるかまたは決定されている対象であることができ、または、SCA36の兆候および症状を呈する対象は、運動失調、筋萎縮症、反射亢進、構音障害、線維束性収縮および/または眼球異常(たとえば、眼振、サッケード、眼球運動失行、眼瞼下垂等々)を含むがこれに限定されない。
【0020】
「ハンチントン病を有する、または、疑われる対象」は、HTT遺伝子の35より多いCAG繰り返しを有することが公知であるかまたは決定されている対象であることができ、または、HDの兆候および症状を呈する対象は、運動障害(例として、舞踏病)、減弱した実行機能(例として、認知柔軟性および抽象思考)、および/または精神神経性の出現(例として、強迫性行動、アパシー、不安)を含むがこれに限定されない。一般に、HDを有する、または、疑われる対象の疾患の状況は、対象のHTT遺伝子に存在する(例として、検出される)CAG繰り返しの数によって、分類される。典型的に、36未満のトリヌクレオチド(CAG)繰り返しを有するHTT遺伝子は、非病原性細胞質のHuntingtinタンパク質を生成する。36および39の間のトリヌクレオチド繰り返しを有する対象は、完全に病原性の形より短い変異体Huntingtinタンパク質を生成し、そして疾患を進展させうるか進展させえない。40より多いトリヌクレオチド繰り返しを有する対象は、完全に浸透するHDを有するとして分類され、最終的に、HD(また、成人発症型HDとして言及される)を進展させる。多い(>100)繰り返しによって特徴づけられる、完全に浸透するHDの一定の症例において、対象は、無動-筋固縮またはWestphalバリアントHDとも言及される、若年発症HDを進展させ得る。いくつかの態様において、対象は、成人発症型HDを有するかまたは有することを疑われる。いくつかの態様において、対象は、若年発症HDを有するかまたは有することを疑われる。
【0021】
「RANタンパク質(繰り返し関連非ATG翻訳タンパク質)」は、AUG開始コドンの非存在下で、ヌクレオチド伸長を坦持するメッセンジャーRNA配列から翻訳されるポリペプチドである。一般に、RANタンパク質は、ポリアミノ酸繰り返しと呼ばれる、1以上のアミノ酸の伸長繰り返し(例として、ジアミノ酸繰り返し)を備える。たとえば、ALS/FTD(C9ORF72遺伝子のヘキサヌクレオチド配列GGGGCCの繰り返し伸長から生じる)の文脈において、以下のジアミノ酸繰り返しを含有するRANタンパク質が、同定された:それぞれ、ポリ(GA)、ポリ(GP)、ポリ(GR)、ポリ(PA)およびポリ(PR)としても言及される、ポリ(Gly-Ala)、ポリ(Gly-Pro)、ポリ(Gly-Arg)、ポリ(Pro-Ala)、またはポリ(Pro-Arg)。ALS/RANタンパク質は、たとえば2014年3月10日に出願され、WO2014/159247として公開された、国際PCT出願PCT/US2014/022670、および2015年9月11日に出願され、US2016/0025747として公開された米国出願14/775,278中に、一般に記載されており、それらのそれぞれの全体の内容が、本明細書中に参照により組み込まれる。SCA36(SCA36遺伝子のヘキサヌクレオチド配列TGGGCCの繰り返し伸長から生じる)の文脈において、以下のジアミノ酸繰り返しを含有するRANタンパク質が、同定された:ポリ(GP)およびポリ(PR)。ハンチントン病(HD)の文脈において、RANタンパク質翻訳は、Htt遺伝子のCAG・CTG伸長によって引き起こされ、それは、ポリグルタミン(polyGlnまたはpolyQ)に加えて、RANタンパク質ポリアラニン、ポリセリン、ポリロイシン、およびポリシステイン(polyAla、polySer、polyLeu、およびpolyCys)の翻訳に、結果としてなる。
【0022】
いくつかの態様において、RANタンパク質は、ハンチントン病(HD、HDL2)、脆弱X症候群(FRAXA)、脊髄球性筋萎縮症(SBMA)歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、脊髄小脳失調症1型(SCA1)、脊髄小脳失調症2型(SCA2)、脊髄小脳失調症3型(SCA3)、脊髄小脳失調症6型(SCA6)、脊髄小脳失調症7型(SCA7)、脊髄小脳失調症8型(SCA8)、脊髄小脳失調症12型(SCA12)または脊髄小脳失調症17型(SCA17)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳失調症36型(SCA36)、脊髄小脳失調症29型(SCA29)、脊髄小脳失調症10型(SCA10)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)、またはフックス角膜ジストロフィー(例としてCTG181)と関連する遺伝子によって、コードされる。
【0023】
対象は、哺乳動物(例として、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、またはブタ)であることができる。いくつかの態様において、対象は、ヒトである。
いくつかの態様において、対象は、哺乳動物の対象である。いくつかの態様において、対象は、ヒトまたはマウスである。いくつかの態様において、対象は、C9ORF72遺伝子(例として、ヒトC9ORF72遺伝子、またはヒトC9ORF72遺伝子に対応するマウス遺伝子などの遺伝子)のGGGGCC(例として、G4C2)ヘキサヌクレオチド配列繰り返し伸長によって、特徴づけられる。
【0024】
いくつかの態様において、ヒトC9ORF72遺伝子は、NCBI Reference Sequence Numbers NM_145005.6、NM_018325.4、およびNM_001256054.2のいずれか一つに規定される配列を、備えるかまたはそれから成る。いくつかの態様において、ヒトSCA36遺伝子は、NCBI Reference Sequence Numbers NM_006392.3、NR_027700.2、およびNR_145428.1のいずれか一つに規定される配列を、備えるかまたはそれから成る。いくつかの態様において、対象は、遺伝子のアッセイ(例として、DNAに基づくアッセイ、たとえば塩基配列決定法アッセイ)によって、ヘキサヌクレオチド配列繰り返し伸長(たとえば、C9ORF72のGGGGCC(たとえば、G4C2)繰り返し伸長またはSCA36のTGGGCC繰り返し伸長)を有するために、決定される。
【0025】
いくつかの態様において、対象は、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも500、少なくとも1000、または、少なくとも5000のGGGGCC繰り返し伸長(例として、C9ORF72の繰り返し伸長)を、備える。いくつかの態様において、対象は、SCA36遺伝子(例として、ヒトSCA36遺伝子、またはヒトSCA36遺伝子に対応するマウス遺伝子などの遺伝子)のTGGGCCヘキサヌクレオチド配列繰り返し伸長によって、特徴づけられる。いくつかの態様において、対象は、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも500、少なくとも1000、または、少なくとも5000のTGGGCC繰り返し伸長(例として、SCA36の繰り返し伸長)を、備える。
【0026】
本開示の方法は、RANタンパク質翻訳と関連する疾患または障害の動物モデルにおける治療剤(例として、治療剤候補)の効力を調べるために、いくつかの態様において有用である。「治療剤候補」は、細胞または対象のRANタンパク質翻訳を減少させるかまたは阻害させる能力に関して試験されている剤(例として、小分子、干渉RNA、タンパク質、ペプチド等々)を、一般に指す。
このように、いくつかの態様において、対象は、C9-BACマウスである。
【0027】
ALSのC9-BACマウスモデルは、たとえば2014年3月10日に出願され、WO2014/159247として公開された、国際PCT出願PCT/US2014/022670、およびLiuら(2016)Neuron 90(3):521-34中に、記載されており、それらのそれぞれの全体の内容が、本明細書中に参照により組み込まれる。
【0028】
一般に、生体試料は、血液、血清(例として、凝固タンパク質が取り除かれた血漿)、または脳脊髄液(CSF)であることができる。しかしながら、当業者は、組織(例として、脳組織、脊椎組織等々)および細胞(例として、脳細胞、神経細胞、皮膚細胞等々)などの、他の好適な生体試料を認識するだろう。いくつかの態様において、生体試料は、血液試料または組織試料である。いくつかの態様において、血液試料は、全血の試料、血漿試料、または血清試料である。いくつかの態様において、組織試料は、CNS組織試料である。いくつかの態様において、血液試料は、試料のバフィーコートなどの白血球細胞(white blood cell)(例として、白血球(leukocyte))を取り除くために処置される。
【0029】
本開示は、部分において、対象から得られる血液試料の1以上のRANタンパク質を検出するために、一定の免疫アッセイ(たとえば、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイ)が使用されることができるという驚くべき発見に、基づく。例においてさらに記載されているように、血液試料処理時間および条件(例として、インキュベーション時間およびインキュベーション温度)が、与えられた血液試料において観察されるバックグラウンドシグナルの量に影響を及ぼすとことが、観察された。血液試料が対象から得られた後に、室温で24時間以上インキュベートされる(例として、保つかまたは保存される)場合、試料中のRANタンパク質のレベルは、高いバックグラウンドシグナルのため、コントロール試料と区別ができないことが、観察された。同様に、試料が対象から得られた後に、4℃で2日間以上保存される場合、試料のRANタンパク質のレベルは、高いバックグラウンドシグナルのため、コントロール試料と区別ができないことが、観察された。
【0030】
いくつかの態様において、免疫アッセイ(例として、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイ)は、ことの2日以内に対象から得られる生体試料(たとえば、血液試料)に、遂行される。いくつかの態様において、免疫アッセイ(例として、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイ)は、対象から得られた後に、約1分と約48時間の間に、生体試料(例として、血液試料)に、遂行される。
いくつかの態様において、免疫アッセイ(例として、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイ)は、対象から得られた後に、約60分と約24時間の間に、生体試料(例として、血液試料)に、遂行される。
【0031】
いくつかの態様において、対象から得られる生体試料は、-80℃と約23℃(例として、室温)の間の温度で、保存される。いくつかの態様において、対象から得られる生体試料は、0℃と約23℃の間の温度(例として、約0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、または23℃)で、保存される。
【0032】
いくつかの態様において、対象から得られる生体試料は、20℃と約25℃の間の温度(例として、約20、21、22、23、24、または25℃)で、保存される。免疫アッセイ(例として、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイ)に付される前に、生体試料(例として、血液試料)は、操作されてもまたは処理されてもよい。たとえば、いくつかの態様において、生体試料は、免疫アッセイにおいて使用される前に、抗原賦活化プロセスに付される。本明細書に使用されているように、「抗原賦活化」(また、エピトープ賦活化または抗原アンマスキングとして言及される)は、プロセスの前に検出剤(例として、抗体、アプタマー、および他の結合分子)にあらかじめ到達できない抗原(例として、エピトープ)を暴露する条件の下で、生体試料(例として、血液、血清、CSF等々)が処置されるプロセスを指す。一般に、抗原賦活化方法は、加熱、加圧処理、酵素消化、還元剤による処置、酸化剤による処置、架橋剤による処置、変性剤(例として、界面活性剤、エタノール、酸)による処置、またはpHの変化、または前述のいずれかの組み合わせを含むがこれらに限定されないステップを備える。
【0033】
いくつかの抗原賦活化方法は、プロテアーゼによって誘発されるエピトープ賦活化(PIER)および熱によって誘発されるエピトープ賦活化(HIER)を含むがこれらに限定されず、従来技術において公知である。いくつかの態様において、抗原賦活化手順は、バックグラウンドを減少させ、検出技法(例として、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイ、免疫組織化学(IHC)、免疫ブロット(Western Blotなどの)、ELISA等々)の感度を増大させる。
【0034】
RANタンパク質検出アッセイ
いくつかの側面において、本開示は、1以上の抗RANタンパク質抗体および電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイを備えるキットを、提供する。一般に、「電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイ」は、生体試料中の被検体(例として、1以上のRANタンパク質)に対する捕捉抗体(例として、1以上の抗RANタンパク質抗体)の結合が、電気化学発光ラベル(例として、適切な化学環境における(例として、トリプロピルアミン(TPrA)の存在下における)電気によって刺激される場合に、光を発する検出可能な部分)を使用して検出されるバイオアッセイを、指す。電気化学発光ラベルは、たとえばMuzyka(2014)Biosens Bioelectron 15(54):393-407により、記載されている。
【0035】
いくつかの態様において、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイは、Meso Scale Detection(MSD)アッセイである。本明細書に使用されているように、用語「メソスケール検出(MSD)アッセイ」は、たとえば Moxness et al. (2005) Clin. Chem. 51(10):1983-5、および米国特許第7,008,796(それらは、MSDアッセイステップの記載に関して参照として組み込まれる)に記載されているように、(例として電気化学的刺激により光を発するSULFO-TAG(商標)ラベル(例として、1以上のルテニウム錯体を備えるを標識)などの1以上の検出可能な試薬使用して)電気化学ルミネセンスによる被検体の検出のために使用される免疫アッセイを、指す。
【0036】
一般に、MSDアッセイは、生体試料に存在するRANタンパク質が、1以上の捕捉抗体に結合し錯体を形成する条件の下で、固形基質、たとえば基質に付着された1以上の捕捉抗体(例として、1以上の抗RANタンパク質抗体)を備えるマルチウェルアッセイプレートを、生体試料(例として、対象から得られた血液試料)と接触させること、そして、続いて該複合体を、検出可能な試薬に接合される1以上の二次抗体(例として、複合体のRANタンパク質部分に結合する抗体、または、抗マウス抗体、抗ラビット抗体などの、捕捉抗体に結合する抗体等々)と接触させることを備える。いくつかの態様において、検出可能な試薬は、たとえば米国特許第5,310,687号に記載されているように、電気化学発光部分を備え、それはこのような電気化学発光部分に関する開示に関して、参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの態様において、検出可能な試薬は、ルテニウム複合体、たとえばルテニウム(II)トリス-ビピリジン-(4-メチルスルホン)(また[Ru(Bpy)3]+2として言及される)またはその塩を、備える。
【0037】
検出可能な試薬(例として、検出可能部分、たとえばSULFO-TAG(商標)などのルテニウム複合体)は、一次抗体(例として、抗RANタンパク質抗体などの捕捉抗体)または二次抗体(例として、RANタンパク質に結合する抗体または捕捉抗体に結合する抗体などの検出抗体)に接合されてもよい。
【0038】
いくつかの側面において、本開示は、(例として、本明細書中に記載されたキットを使用して)試料中の1以上のRANタンパク質を測定する方法を提供し、該方法は、以下を備える:対象から得られた生体試料(例として、血液試料、CNS組織試料等々)中で、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイを使用して、1以上のRANタンパク質を検出すること。いくつかの態様において、対象は、生体試料中の1以上のRANタンパク質の検出に基づいて、ALSおよび/またはFTDを進展させることの危険を有するかまたはそのような状態にあるとして、診断される。いくつかの態様において、対象は、生体試料中の1以上のRANタンパク質の検出に基づいて、SCA36を進展させることの危険を有するかまたはそのような状態にあるとして、診断される。いくつかの態様において、対象は、遺伝子検査(例として、対象のC9ORF72またはSCA36の繰り返し伸長の存在を同定するPCRに基づく試験などの、核酸に基づく試験)に基づくALS、FTD、またはSCA36を有するとして、(例として、医師などの医療専門家によって診断され)あらかじめ決定された。
【0039】
いくつかの態様において、試料中で検出される1以上のRANタンパク質は、ポリ(GP)、ポリ(GR)、ポリ(PR)、およびポリ(PA)から選択される。いくつかの態様において、2つ、3つ、または4つのRANタンパク質が、試料中で検出される(例として、ポリ(GP)、ポリ(GR)、ポリ(PR)、およびポリ(PA)、またはそれらのいずれかの組み合わせ)。
【0040】
いくつかの態様において、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイは、1以上の抗RANタンパク質抗体を試料に接触するステップを備える。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、抗ポリ(GP)抗体、抗ポリ(GR)抗体、抗ポリ(PR)抗体、および抗ポリ(PA)抗体から選択される。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、たとえばPCT公開番号WO2017/176813に記載されているように、ポリアラニン、ポリロイシン、ポリセリン、またはポリシステインを標的とする。
【0041】
いくつかの態様において、抗RAN抗体は、RANタンパク質のジアミノ酸繰り返し領域に結合するかまたはRANタンパク質のC末端部分に結合する。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、ホモポリマー性アミノ酸繰り返し領域またはHtt遺伝子から翻訳されるRANタンパク質のC末端を標的とする。
【0042】
いくつかの態様において、抗RAN抗体は、ポリアミノ酸繰り返しを備えないRANタンパク質のいずれかの部分を標的としてもよい。RANタンパク質のC末端を標的とする抗RAN抗体の例は、たとえば、米国公開番号2013/0115603において開示され、その全体の内容が、本明細書に参照として組み込まれる。いくつかの態様において、抗RAN抗体(例として、抗ポリ(GP)、抗ポリ(PR)、抗ポリ(PA)、および抗ポリ(GR)から選択される2以上の抗RAN抗体の組み合わせ)のセット(または組み合わせ)は、生体試料中の1以上のRANタンパク質を検出するために、使用される。
【0043】
抗RAN抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であることができる。典型的には、ポリクローナル抗体は、マウス、ラビット、またはヤギなどの、好適な哺乳動物の接種によって、生成される。収集されることができる血清の量がより大きいために、より大きい哺乳動物が、しばしば好ましい。抗原は、哺乳動物に注入される。これはBリンパ球を誘発して、抗原に特異的なIgGイムノグロブリンを生成する。このポリクローナルIgGは、哺乳動物の血清から精製される。モノクローナル抗体は、単一の細胞株(例として、ハイブリドーマ細胞株)によって、一般に生成される。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、(例として、血清から単離されて)精製される。
【0044】
数々の方法が、抗RAN抗体を得るために使用されてもよい。たとえば、抗体は、組み換えDNA方法を使用して、生成されることができる。モノクローナル抗体はまた、公知の方法に従ってハイブリドーマ(例としてKohler and Milstein (1975) Nature, 256: 495-499を参照)の発生によって、生成されてもよい。
【0045】
このように形成されるハイブリドーマは、指定された抗原と特異的に結合する抗体を生成する1以上のハイブリドーマを同定するために、次いで酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)および表面プラズモン共鳴(例として、OCTETまたはBIACORE)分析などの、標準的な方法を使用してスクリーニングされる。特定された抗原(例として、RANタンパク質)のいかなる形も、免疫原、例として、組み換え抗原、天然に生じる形、それらのいずれかのバリアントまたはフラグメントとして、使用されてもよい。抗体を作成する1つの例示的な方法は、抗体またはそれらのフラグメント(例として、scFv)を発現するタンパク質発現ライブラリ、例として、ファージまたはリボソーム提示ライブラリをスクリーニングすることを含む。ファージ提示は、たとえば、Ladner et al., U.S. Pat. No. 5,223,409; Smith (1985) Science 228:1315-1317; Clackson et al. (1991) Nature, 352: 624-628; Marks et al. (1991) J. Mol. Biol., 222: 581-597WO92/18619; WO 91/17271; WO 92/20791; WO 92/15679; WO 93/01288; WO 92/01047; WO 92/09690;およびWO 90/02809中に記載されている。
【0046】
提示ライブラリの使用に加えて、特定された抗原(例として、1以上のRANタンパク質)が、非ヒト動物、例として、齧歯類、例として、マウス、ハムスター、またはラットを免疫化するために、使用されることができる。
一態様において、非ヒト動物は、マウスである。
【0047】
別の態様において、モノクローナル抗体は、非ヒト動物から得られ、そして、次いで当該技術分野において公知の組み換えDNA技法を使用して、修飾され、例として、キメラを作成する。キメラ抗体を作成する様々なアプローチが、記載されてきた。例としてMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81:6851, 1985; Takeda et al., Nature 314:452, 1985, Cabilly et al., U.S. Pat. No. 4,816,567; Boss et al., U.S. Pat. No. 4,816,397; Tanaguchi et al., European Patent Publication EP171496; European Patent Publication 0173494, United Kingdom Patent GB 2177096B参照。
【0048】
抗体は、当該技術分野において公知の方法によって、ヒト化されることもできる。たとえば、所望の結合特異性を伴うモノクローナル抗体は、商業的にヒト化されることができる(Scotgene、Scotland;そして、Oxford Molecular、Palo Alto、Calif.)。トランスジェニック動物において発現するものなどの、完全なヒト化抗体は、本発明の範囲内である(例として、Green et al. (1994) Nature Genetics 7, 13;米国特許第5,545,806および5,569,825参照)。
【0049】
追加の抗体生産技術に関して、A Laboratory Manual, Second Edition. Edited by Edward A. Greenfield, Dana-Farber Cancer Institute、(著作権)2014を参照されたい。本開示は、必ずしもいずれかの特定の供給源、生産の方法、または抗体の他の特別な特徴に、限定されない。
【0050】
いくつかの態様において、抗RAN抗体は、(例として、血清から単離されて)精製される。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、標識される(例として、蛍光標識、発光標識、放射標識、酵素標識、または他のいずれかの検出可能標識、等々を備える)。
【0051】
いくつかの態様において、抗RAN抗体は、低いマイクロモル(10-6)からナノモル(10ー7~10-9)の範囲にあるKd値(抗体とRAN抗原の間の平衡解離定数)を有する。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、低いナノモルの範囲(10-9)にあるKd値を有する。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、ピコモルの範囲(10-12)にあるKd値を有する。
【0052】
従って、いくつかの態様において、開示によって記載される方法およびキットは、特定された時間にわたって対象のRANタンパク質のレベルを測定することが可能であり(例として、処置のコースを通じて長手方向に)、一定のALS/FTDまたはSCA36処置(たとえば、ALS/FTDまたはSCA36を処置するための治療剤)の治療成績の評価をそれによって提供する。いかなる理論によっても拘束されることを望まずに、ALS/FTDまたはSCA36の処置のための治療剤の投与の後、対象の1以上のRANタンパク質の減少したレベルを測定することは(例として、投与の前に対象において測定されるRANタンパク質のレベルと比較して)、ALS/FTDまたはSCA36に関する対象を効果的に処置する治療剤を暗示する。
【0053】
いくつかの側面において、本開示は、RANタンパク質発現における薬動力学的変化を測定する方法を提供し、該方法は、電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイを使用して、対象から得られた第1の生体試料(例として、血液試料)において1以上のRANタンパク質を検出すること;電気化学ルミネセンスに基づく免疫アッセイを使用して、対象から得られた第2の生体試料(例として、血液試料)において1以上のRANタンパク質を検出することを備え、ここで、第2の生体試料は、対象への治療剤の投与の後得られ;および、第2の生体試料中で検出されるRANタンパク質の量が、第1の生体試料中で検出されるRANタンパク質の量未満である場合、対象への治療剤の投与が、対象における1以上のRANタンパク質のレベルの変化(例として、上昇または減少)に結果としてなることを決定する。
【0054】
本明細書に使用されているように、「上昇した」は、1以上のジアミノ酸繰り返し含有タンパク質またはヘキサヌクレオチド繰り返し含有RNAのレベルが、所定の閾値、または、コントロール試料中の1以上のジアミノ酸繰り返し含有タンパク質またはヘキサヌクレオチド繰り返し含有RNAのレベルなどの、コントロールレベルを上回ることを、意味する。コントロールおよびコントロールレベルは、ALS/FTDまたはSCA36を有さないかまたは有すと疑われない対象(たとえば、GGGGCC伸長またはTGGGCC伸長の30以下の繰り返しを有する対象)から得られる(例として、検出される)RANタンパク質レベルを、含む。上昇したレベルは、たとえば、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、300%、400%、500%、またはコントロールレベルを上回ってより上のレベルを含む。上昇したレベルは、また、ゼロ状態(例として、全くないまたは検出不可能なジアミノ酸繰り返し含有タンパク質発現またはヘキサヌクレオチド繰り返し含有RNA発現)からゼロでない状態(例として、多少あるまたは検出可能なジアミノ酸繰り返し含有タンパク質発現またはヘキサヌクレオチド繰り返し含有RNA)への現象を増加させることを、含む。
【0055】
本明細書に使用されているように、「減少した」は、1以上のジアミノ酸繰り返し含有タンパク質またはヘキサヌクレオチド繰り返し含有RNAレベルが、所定の閾値、または、コントロール試料中の1以上のジアミノ酸繰り返し含有タンパク質またはヘキサヌクレオチド繰り返し含有RNAのレベルなどの、コントロールレベルを下回ることを、意味する。コントロールおよびコントロールレベルは、ALS/FTDまたはSCA36を有さないかまたは有すと疑われない対象(たとえば、GGGGCC伸長またはTGGGCC伸長の30以下の繰り返しを有する対象)から得られる(例として、検出される)RANタンパク質レベルを、含む。減少したレベルは、たとえば、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、300%、400%、500%、またはコントロールレベル下回ってより下のレベルを含む。減少したレベルは、また、ゼロでない状態(例として、多少あるまたは検出可能なジアミノ酸繰り返し含有タンパク質発現またはヘキサヌクレオチド繰り返し含有RNA)からゼロ状態(例として、全くないまたは検出不可能なジアミノ酸繰り返し含有タンパク質発現またはヘキサヌクレオチド繰り返し含有RNA発現)への現象を減少させることを、含む。いくつかの態様において、減少(例として、コントロールまたは従来の試料と比較して、試料の1以上のRANタンパク質のレベルにおける減少)は、治療剤の治療有効性(例として、試料が得られた対象における治療有効性)を、暗示することができる。
【0056】
第1の生体試料および第2の生体試料が得られる時間は、変化してもよい。いくつかの態様において、第1の生体試料は、治療剤の投与(例として、治療剤の第1の投与)の前、1週と1分の間に、得られる。いくつかの態様において、第1の生体試料は、治療剤の投与(例として、治療剤の第1の投与)の前、1日(例として、24時間)と1分の間に、得られる。いくつかの態様において、第2の生体試料は、治療剤の投与(例として、治療剤の第1の投与)の後、1分と6ヵ月の間に、対象から得られる。いくつかの態様において、第2の生体試料は、治療剤の投与(例として、治療剤の第1の投与)の後、1日と1週の間に、対象から得られる。いくつかの態様において、第2の生体試料は、治療剤の投与(例として、最も最近または最後の治療剤の投与)の後、1日と1週の間に、対象から得られる。
【0057】
いくつかの態様において、第2の生体試料は、治療剤の投与の後、約1時間、5時間、10時間、24時間(例として、1日)、48時間(例として、2日)、120時間(例として、5日)、30日、45日、または6ヵ月に収集されてもよい。いくつかの態様において、いくつかの生体試料(例として、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはより多くの生体試料)は、たとえば、特定された時間枠(例として、治療コースの間)にわたり、対象から得られ、そして、1以上のRANタンパク質が、検出される。
【0058】
RANタンパク質翻訳と関連する疾患および障害を処置する方法
本開示は、いくつかの側面において、RANタンパク質翻訳と関連する疾患、たとえばALS/FTD、SCA36、HD等々のための治療処置コースをモニターする方法に、関する。いくつかの側面において、本開示は、電気化学発光免疫アッセイで測定されるように、増加したRANタンパク質翻訳(例として、RANタンパク質翻訳と関連する疾患または障害を有さない対象と比較して)を提示するために決定された対象に、治療剤の有効量を投与することを備えるRANタンパク質翻訳と関連する疾患を処置する方法を、提供する。いくつかの態様において、対象は、治療剤をあらかじめ(例として、決定する前に)、投与された。いくつかの態様において、対象に投与される治療剤は、あらかじめ投与された治療剤と異なる。いくつかの態様において、対象は、電気化学発光免疫アッセイで測定されるように、生体試料中のRANタンパク質の上昇したまたは減少したレベルの検出に基づいて、治療剤の増加したまたは減少した用量を投与される。
【0059】
いくつかの態様において、コントロール試料において検出されるRANタンパク質のレベルと比較して、生体試料において検出されるRANタンパク質のレベルが上昇している場合、本開示によって記載されている方法は、対象に治療剤(例として、ALS/FTDの処置のための剤またはSCA36の処置のための剤)を投与するステップを備える。
【0060】
コントロールおよびコントロールレベルは、RANタンパク質翻訳と関連する疾患または障害、たとえばALS/FTDまたはSCA36を有さないかまたは有すると疑われない対象(たとえば、GGGGCC伸長またはTGGGCC伸長の30以下の繰り返しを有する対象)から得られる(例として、検出される)RANタンパク質レベルを、含む。いくつかの態様において、コントロール試料は、対象への治療剤の投与の前に、RANタンパク質翻訳と関連する疾患を有するか有すると疑われる対象から得られた試料を、指す。
【0061】
本明細書に使用されているように、「処置する」または「処置」は、以下を指す(a)RANタンパク質翻訳に関連する疾患または障害の発症を防御するかまたは遅延させること;(b)RANタンパク質翻訳と関連する疾患または障害の重症度を減少させること;(c)RANタンパク質翻訳に関連する疾患または障害に特徴的な症状の進行を減少させるかまたは防御すること;(d)RANタンパク質翻訳に関連する疾患または障害に特徴的な症状の悪化を防御すること;および/または(e)RANタンパク質翻訳と関連する疾患または障害に関してあらかじめ前兆がある対象における症状の再発を減少させるかまたは防御すること。
【0062】
たとえば、ALS/FTDの文脈において、「処置する」または「処置」は、以下を指す(a)ALSおよび/またはFTD、またはSCA36の発症を防御するかまたは遅延させること;(b)ALSおよび/またはFTD、またはSCA36の重症度を減少させること;(c)ALSおよび/またはFTD、またはSCA36に特徴的な症状の進行を減少させるかまたは防御すること;(d)ALSおよび/またはFTD、またはSCA36に特徴的な症状の悪化を防御すること;および/または(e)ALSおよび/またはFTD、またはSCA36に関してあらかじめ前兆がある対象におけるALSおよび/またはFTD、またはSCA36の症状の再発を減少させるか防御すること。ALS/FTDの処置のための治療剤の例は、リルゾール(Rilutek、Sanofi-Aventis)、トラゾドン(Desyrel、Oleptro)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、バクロフェン、ジアゼパム、フェニトイン、トリヘキシフェニジル、アミトリプチリン、抗RAN抗体等々を含むが、これに限定されない。
【0063】
別の例において、「HDを処置する」は、以下を指す(a)HDの発症を防御するかまたは遅延させること;(b)HDの重症度を減少させること;(c)HDで特徴的な症状の進行を減少させるかまたは防御すること;(d)HDで特徴的な症状の悪化を防御すること;および/または(e)HDに関するあらかじめ前兆がある対象のHD症状の再発を減少させるかまたは防御すること。テトラベナジン、ハロペリドール、クロルプロマジン、リスペリドン、クエチアピン、アマンタジン、レベチラセタム、クロナゼパム、シタロプラム、フルオキセチン、セルトラリン、オランザピン、アロプロアート、カルバマゼピン、ラモトリジン、システアミン、PBT2、PDE10A阻害剤、プリドピジン、ラキニモド、抗RAN抗体等々の処置のための治療剤の例。
【0064】
対象は、1以上の治療剤の治療有効量を投与されてもよい。本明細書に使用されているように、「有効量」は、RANタンパク質翻訳または蓄積(例として、神経変性疾患)と関連する疾患または障害によって引き起こされる1以上の兆候または症状の処置または改善などの、医学的に所望の結果を提供するのに十分な治療剤の投与量である。有効量は、処置される対象の年齢および体調、対象における疾患または障害の重症度(例として、RANタンパク質蓄積の量またはこのような蓄積によって引き起こされる細胞毒性)、処置の期間、いずれかの併用療法の性質、具体的な投与経路および、保険医の知識および専門性の範囲の要因などに伴い、変化するだろう。
【0065】
一般に、治療剤は、小分子(例として、メトホルミンまたはメトホルミン誘導体)、干渉RNA(例として、dsRNA、siRNA、miRNA、amiRNA、ASO、アプタマー等々)、タンパク質またはそれらのフラグメント、ペプチド、抗体等々であることができる。いくつかの態様において、治療剤は、たとえば、タンパク質キナーゼR(PKR)経路、EIF2経路、またはEIF3経路などの、RANタンパク質発現を制御する経路を調整することにより、RANタンパク質発現を調整する。いくつかの態様において、治療剤は、ウイルスのベクター、たとえばレンチウイルスのベクター、レトロウイルスのベクター、アデノウイルスのベクター、またはアデノ関連ウイルス(AAV)ベクターによって送達される。
【0066】
適切な追加の治療剤の同定および選択は、当業者の能力の範囲内であり、対象が被害を被っている疾患に依存するだろう。たとえば、いくつかの態様において、ハンチントン病(例として、テトラベナジン、アマンタジン、クロルプロマジン等々)、脆弱X症候群(例として、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、カルバマゼピン、メチルフェニデート、トラゾドン等々)、脊髄小脳失調症(例として、バクロフェン、リルゾール、アマンタジン、バレニクリン等々)または筋萎縮性側索硬化症(ALS)(例として、リルゾール等々)、筋強直性ジストロフィー1型(チデグルシブ、メキシレチン等々)のための1以上の治療剤が、対象に投与される。
【0067】
処置の投与は、当該技術分野において公知のいずれかの方法(例として、Harrison's Principle of Internal Medicine, McGraw Hill Incを参照)によって、達成されてもよい。投与は、局所でも、または全身でもよい。投与は、非経口(例として、静脈内、皮下、または、皮内)、または経口でもよい。種々の投与経路のための組成物は、当該技術分野において周知である(例として、Remington's Pharmaceutical Sciences by E. W. Martinを参照)。投与量は、対象および投与経路に依存するであろう。投与量は、当業者によって決定されることができる。
【0068】
いかなる特定の理論によっても拘束されることを望まずに、生体試料の検出(例として、RANタンパク質の定量化)は、治療剤の有効性、または、試料が得られる対象におけるのレジメを決定するために使用されることができる。
【0069】
キット
いくつかの側面において、本開示は、1以上の抗RAN抗体を含有する第1の容器、および1以上の検出可能な試薬を含有する第2の容器を備えるキットを、提供する。いくつかの態様において、1以上の抗RAN抗体は、ポリ(GP)、ポリ(GR)、ポリ(PR)、およびポリ(PA)から選択される1以上のRANタンパク質に、結合する。いくつかの態様において、1以上の抗RAN抗体は、標的のポリアラニン、ポリロイシン、ポリセリン、またはポリシステインから選択される1以上のRANタンパク質に、結合する。いくつかの態様において、1以上の検出可能な試薬は、ルテニウム複合体、たとえばルテニウム(II)トリス-ビピリジン-(4-メチルスルホン)(また[Ru(Bpy)3]+2として言及される)またはその塩を、備える。いくつかの態様において、キットは、コントロール試料を含有する第3の容器を、備える。コントロール試料は、ネガティブコントロール試料(例として、1以上のRANタンパク質を含有しないかまたは欠如するコントロール試料)またはポジティブコントロール試料(例として、1以上のRANタンパク質を備えるコントロール試料、任意にここで、試料中の1以上のRANタンパク質の量が、既知である)でもよい。
【0070】
例
C9ORF72遺伝子からのRANタンパク質翻訳の検出のためのメソスケール検出(MSD)アッセイの使用を、調査した。
図1A-1Dは、メソスケール検出(MSD)アッセイを使用したRANタンパク質(
図1A中のポリ(GP)、
図1B中のポリ(GR)、
図1C中のポリ(PR)、および
図1D中のポリ(PA))の検出のための標準曲線を示す。この例で試験した抗RANタンパク質抗体の各々は、それぞれのRANタンパク質のジアミノ酸繰り返し領域に結合するポリクローナル抗体であった。
【0071】
MSDアッセイは、in vitroの、および哺乳動物の対象から得た生体試料の、ポリ(GP)RANタンパク質の検出のために、試験した。
図2Aは、ALS/FTDのC9Orf72マウスモデル(例として、C9-BACマウスモデル、「C9(+)」)から得た脳組織可溶性分画から、ポリ(GP)RANタンパク質のレベルを測定するMSDアッセイからのデータを示す。データは、MSDによる野生型(WT)マウスと比較して、C9(+)の前頭皮質(FCX)および小脳(CE)の両方における増加したポリ(GP)タンパク質の検出を、指し示す。増加したポリ(GP)タンパク質の発現は、トランスフェクトしなかったHEK293細胞と比較して、ポリ(GP)発現コンストラクトによってトランスフェクトしたHEK293細胞のMSDによっても、検出した(
図2B)。
【0072】
治療剤の投与後のALS/FTD(例として、C9-BACマウス)のマウスモデルのRAN翻訳は、MSDアッセイによっても調査した。簡潔には、C9(+)またはC9(-)コントロールマウスに、EGFP(コントロール)または治療剤タンパク質キナーゼR(PKR)バリアントK296Rを発現するために構成されるrAAVを投与し、それはRAN翻訳を阻害するために観察されるPKRのドミナントネガティブバリアントである。
図3Aは、AAV-EGFPおよびAAV-PKR(K296R)発現コンストラクトの模型的な描写を、示す。MSDデータは、EGFPコンストラクトを投与されたコントロールマウスと比較して、PKR K296Rで処置したC9(+)マウスにおけるポリ(GP)RANタンパク質の薬動力学的減少を示す。
【0073】
追加のRANタンパク質を標的とする抗体は、MSDアッセイシステムにおいても試験した。HEK293セルは、ポリ(GR)、ポリ(PR)およびポリ(PA)RANタンパク質をコードする発現コンストラクトでトランスフェクトした。MSDアッセイを遂行し、そして、トランスフェクトされた細胞のRANタンパク質発現レベルを、トランスフェクトされなかったコントロール細胞と比較した。
図4は、トランスフェクトされたかまたはコントロール細胞から得た、可溶性分画中のC9RANタンパク質レベル(ポリ(GR)、ポリ(PR)、ポリ(PA);左から右に)のMSDアッセイ検出を、示す。増加したRANタンパク質レベルは、コントロール細胞と比較してそれぞれのトランスフェクトされた細胞試料におけるMSDアッセイによって、検出した。
【0074】
ヒトの対象から得られる生体試料のRANタンパク質のレベルを検出するためのMSDアッセイの能力を、調査した。
図5は、C9ORF72 ALS患者から得た血液試料中のポリ(GP)RANタンパク質のメソスケール検出(MSD)アッセイを、示す。ポリ(GP)RANタンパク質の相対的なレベルは、ポリクローナル抗ポリ(GP)抗体を使用するMSDアッセイによって、定量した。7つの独立したコントロールの対象(例として、C9ORF72繰り返し伸長を有さない対象)と比較して、ポリ(GP)タンパク質の有意に高いレベルを、C9ORF72繰り返し伸長に関して陽性である、2つの検討対象において、観察した。
【0075】
対象から得た生体試料のための処理条件を、調査した。
図6A-6Cは、種々の処理時間および温度での対象から得た血液試料に遂行したメソスケール検出(MSD)アッセイに関する代表的なデータを、示す。抗ポリ(GP)抗体を、この検討において使用した。一般に、データは、収集の24時間以内に処理される血液と比較して、1、2、または3日間の、室温(RT)または4℃に保つ血液のインキュベーション時間にわたる、MSDによって検出する、バックグラウンドシグナルにおける増加を、指し示す(
図6A)。24時間以内に収集処理した血液と比較して、インキュベーション時間(例として、1、2、または3日)にわたる、MSDによって検出されるバックグラウンドシグナルの増加を、室温(RT)で、観察した。より高いバックグラウンドを、C9(+)およびC9(-)コントロール試料の両方において、観察した。実際に、C9(+)およびC9(-)試料は、室温で1、2、または3日間保った試料において、区別することができなかった。類似であるが、より有意でない傾向を、4℃(
図6C)で観察した。しかしながら、4℃で、より高いバックグラウンドを、C9(+)およびC9(-)コントロール試料の両方において観察したにもかかわらず、C9(+)試料は、最高2日間のインキュベーションで、C9(-)コントロール試料から区別することが可能だった。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学ルミネセンスに基づく免役アッセイを使用して、対象から得られた生体試料(例として、血液試料)中で、1以上のRANタンパク質を検出することを備える、方法。
【外国語明細書】