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特開2023-174679作業車両用の自動走行システム及び作業車両の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174679
(43)【公開日】2023-12-08
(54)【発明の名称】作業車両用の自動走行システム及び作業車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20231201BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20231201BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20231201BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20231201BHJP
【FI】
G05D1/02 W
A01B69/00 303K
A01B69/00 303M
A01B69/00 303P
B62D6/00
B62D101:00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023154145
(22)【出願日】2023-09-21
(62)【分割の表示】P 2022133755の分割
【原出願日】2019-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】白藤 大貴
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 卓也
【テーマコード(参考)】
2B043
3D232
5H301
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB11
2B043AB15
2B043BA09
2B043BB01
2B043BB14
2B043DC03
2B043EA06
2B043EA37
2B043EB05
2B043EC14
2B043EC16
2B043ED12
2B043EE01
2B043EE02
2B043EE05
2B043EE06
3D232CC20
3D232DA22
3D232DA23
3D232DA27
3D232DA32
3D232DA77
3D232DA78
3D232DA88
3D232DA90
3D232DA92
3D232DA95
3D232DC01
3D232DC08
3D232DC38
3D232DD01
3D232DD02
3D232DD03
3D232EA01
3D232EB01
3D232EB04
3D232EC23
3D232GG12
5H301AA03
5H301BB01
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301GG07
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG10
5H301GG14
5H301HH02
5H301LL01
5H301LL02
5H301LL03
5H301LL07
5H301LL08
5H301LL14
(57)【要約】
【課題】収穫量の減少や作業効率の低下などを招くことなく自動走行による作業車両の作業精度を高める。
【解決手段】作業車両用の自動走行システムは、目標経路(並列経路P1)に従って作業車両1を自動走行させる際に、目標経路(並列経路P1)に対する作業車両1の角度偏差Δθが所定角度θ以上の場合には、目標経路(並列経路P1)に対する作業車両1の角度偏差Δθを小さくするように作業車両1に前後進切り換え制御と操舵制御とを複合的に実行させて作業車両1を切り返し走行させる自動切り返し走行制御を行う。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標経路に従って作業車両を自動走行させる際に、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差が所定角度以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差を小さくするように前記作業車両に前後進切り換え制御と操舵制御とを複合的に実行させて前記作業車両を切り返し走行させる自動切り返し走行制御を行う、
作業車両用の自動走行システム。
【請求項2】
前記目標経路は、前記作業車両が作業を行うための複数の作業経路を含み、
前記複数の作業経路のうちの一の作業経路に前記作業車両が進入する際に、前記一の作業経路に対する前記作業車両の角度偏差が前記所定角度以上の場合には、前記一の作業経路に対する前記作業車両の角度偏差を小さくするように前記自動切り返し走行制御を行う、
請求項1に記載の作業車両用の自動走行システム。
【請求項3】
前記目標経路は、前記作業経路同士を接続する接続経路を含み、
前記接続経路から前記作業経路に前記作業車両が進入する際に、前記作業経路に対する前記作業車両の角度偏差が前記所定角度以上の場合には、前記作業経路に対する前記作業車両の角度偏差を小さくするように前記自動切り返し走行制御を行う、
請求項2に記載の作業車両用の自動走行システム。
【請求項4】
目標経路に従って作業車両を自動走行させる際に、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差が所定値以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差を小さくするように前記作業車両に前後進切り換え制御と操舵制御とを複合的に実行させて前記作業車両を切り返し走行させる自動切り返し走行制御を行う、
作業車両用の自動走行システム。
【請求項5】
前記目標経路は、前記作業車両が作業を行うための複数の作業経路を含み、
前記複数の作業経路のうちの一の作業経路に前記作業車両が進入する際に、前記一の作業経路に対する前記作業車両の横方向偏差が前記所定値以上の場合には、前記一の作業経路に対する前記作業車両の横方向偏差を小さくするように前記自動切り返し走行制御を行う、
請求項4に記載の作業車両用の自動走行システム。
【請求項6】
前記目標経路は、前記作業経路同士を接続する接続経路を含み、
前記接続経路から前記作業経路に前記作業車両が進入する際に、前記作業経路に対する前記作業車両の横方向偏差が前記所定値以上の場合には、前記作業経路に対する前記作業車両の横方向偏差を小さくするように前記自動切り返し走行制御を行う、
請求項5に記載の作業車両用の自動走行システム。
【請求項7】
目標経路に従って作業車両を自動走行させる際に、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差が所定角度以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差を小さくするように前記作業車両に前後進切り換え制御と操舵制御とを複合的に実行させて前記作業車両を切り返し走行させる自動切り返し走行制御を行う、
作業車両の制御方法。
【請求項8】
目標経路に従って作業車両を自動走行させる際に、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差が所定値以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差を小さくするように前記作業車両に前後進切り換え制御と操舵制御とを複合的に実行させて前記作業車両を切り返し走行させる自動切り返し走行制御を行う、
作業車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタやコンバインなどの作業車両の自動走行を可能にする作業車両用の自動走行システム及び作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような作業車両用の自動走行システムとしては、作業領域に応じて生成された作業経路に従って作業車両を自動走行させる制御部と、作業車両の位置を検出する位置検出部と、作業車両の方位角を検出する方位角検出部とを有するものがある。そして、制御部は、作業車両が作業領域の周囲に設定された枕地上の走行開始位置に位置しているときに作業開始が指示された場合には、作業経路の延長線と作業車両の位置との偏差が小さくなるように作業車両の走行を制御しながら、作業車両を枕地上の走行開始位置から作業経路の作業開始位置まで自動走行させるように構成されたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-162373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、作業車両が枕地上の走行開始位置から作業経路の作業開始位置に向けて自動走行する間において、作業経路の延長線と作業車両の位置との偏差が小さくなるように、制御部が作業車両の走行を制御するものである。そのため、枕地上の走行開始位置から作業経路の作業開始位置までの距離を長くするほど、作業経路の延長線と作業車両の位置との偏差を小さくすることができる。これにより、作業領域においては作業車両を作業経路に従って精度良く自動走行させることができ、作業車両の作業精度を高めることができる。
【0005】
その反面、枕地上の走行開始位置から作業経路の作業開始位置までの距離を長くするために、枕地が広くなって作業領域が狭くなることから、例えば、作業領域が畑作領域である場合は、作付面積が狭くなって作物の収穫量が減少する。又、作業領域が作業車両を往復走行させる往復作業領域であり、枕地が作業車両を周回走行させる周回作業領域である場合は、枕地での作業車両の周回数が多くなって作業効率が低下する。特に、作業車両の周回走行を手動運転で行う場合にはユーザにかかる負担が大きくなる。
【0006】
このような収穫量の減少や作業効率の低下などを回避するために枕地を狭くすると、枕地が狭くなるほど、枕地上の走行開始位置から作業経路の作業開始位置までの距離が短くなり、作業車両が作業経路の作業開始位置に到達した時点での作業経路の延長線と作業車両の位置との偏差が大きくなる。このような状態で、制御部が作業車両を作業状態に切り換えて作業経路に従って自動走行させると、その偏差が大きいほど、作業車両が作業経路に対して左右に大きくふらつく不安定な状態で自動走行を開始することになり、そのふらつきが収束するまでに要する走行距離も長くなる。そのため、作業車両が通過した後の作業跡も、作業開始位置に近いほど作業経路に対する左右の振れ幅が大きくなる不揃いの状態が長く続くことになる。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、収穫量の減少や作業効率の低下などを招くことなく自動走行による作業車両の作業精度を高める点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様に係る作業車両用の自動走行システムは、目標経路に従って作業車両を自動走行させる際に、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差が所定角度以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差を小さくするように前記作業車両に前後進切り換え制御と操舵制御とを複合的に実行させて前記作業車両を切り返し走行させる自動切り返し走行制御を行う。
【0009】
一態様に係る作業車両用の自動走行システムは、目標経路に従って作業車両を自動走行させる際に、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差が所定値以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差を小さくするように前記作業車両に前後進切り換え制御と操舵制御とを複合的に実行させて前記作業車両を切り返し走行させる自動切り返し走行制御を行う。
【0010】
一態様に係る作業車両の制御方法は、目標経路に従って作業車両を自動走行させる際に、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差が所定角度以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差を小さくするように前記作業車両に前後進切り換え制御と操舵制御とを複合的に実行させて前記作業車両を切り返し走行させる自動切り返し走行制御を行う。
【0011】
一態様に係る作業車両の制御方法は、目標経路に従って作業車両を自動走行させる際に、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差が所定値以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差を小さくするように前記作業車両に前後進切り換え制御と操舵制御とを複合的に実行させて前記作業車両を切り返し走行させる自動切り返し走行制御を行う。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】作業車両用の自動走行システムの概略構成を示す図
図2】作業車両用の自動走行システムの概略構成を示すブロック図
図3】トラクタの伝動構成を示す概略図
図4】自動走行用の目標経路の一例を示す平面図
図5】障害物検出ユニットの概略構成を示すブロック図
図6】トラクタが第1自動走行制御の開始条件が成立した状態で並列経路の進入領域に位置する状態を示す説明図
図7】進入領域と走行方向上手側領域とが選択された走行可能領域にてトラクタが切り返し走行する状態を示す説明図
図8】進入領域と走行方向下手側領域とが選択された走行可能領域にてトラクタが切り返し走行するときの前進状態を示す説明図
図9】進入領域と走行方向下手側領域とが選択された走行可能領域にてトラクタが切り返し走行するときの後進状態を示す説明図
図10】走行制御切り換え処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る作業車両用の自動走行システムを、作業車両の一例であるトラクタに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
尚、本発明に係る作業車両用の自動走行システムは、トラクタ以外に、例えば乗用草刈機、乗用田植機、コンバイン、運搬車、除雪車、ホイールローダ、などの乗用作業車両、及び、無人草刈機などの無人作業車両に適用することができる。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に例示されたトラクタ1は、その後部に3点リンク機構2を介して、作業装置の一例であるロータリ耕耘装置3が昇降可能かつローリング可能に連結されている。これにより、このトラクタ1はロータリ耕耘仕様の作業車両として機能する。トラクタ1は、作業車両用の自動走行システムを使用することにより、作業地の一例である図4に示す圃場Aなどにおいて自動走行することができる。
【0015】
尚、トラクタ1の後部には、ロータリ耕耘装置3に代えて、プラウ、ディスクハロー、カルチベータ、サブソイラ、播種装置、噴霧装置、オフセットモア、収穫装置、などのリアマウント式の作業装置を連結することができる。又、トラクタ1の前部には、フロントローダやフロントモアコンディショナなどのフロントマウント式の作業装置を連結することができる。
【0016】
図1~2に示すように、自動走行システムには、トラクタ1に搭載された自動走行ユニット4、及び、自動走行ユニット4と無線通信可能に通信設定された無線通信機器の一例である携帯通信端末5、などが含まれている。携帯通信端末5には、自動走行に関する各種の情報表示や入力操作などを可能にするマルチタッチ式の表示デバイス(例えば液晶パネル)50などが備えられている。
【0017】
尚、携帯通信端末5には、タブレット型のパーソナルコンピュータやスマートフォンなどを採用することができる。又、無線通信には、Wi-Fi(登録商標)などの無線LAN(Local Area Network)やBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信などを採用することができる。
【0018】
図1図3に示すように、トラクタ1には、駆動可能で操舵可能な左右の前輪10、駆動可能な左右の後輪11、搭乗式の運転部12を形成するキャビン13、コモンレールシステムを有する電子制御式のディーゼルエンジン(以下、エンジンと称する)14、エンジン14などを覆うボンネット15、及び、エンジン14からの動力を変速する変速ユニット16、などが備えられている。これにより、このトラクタ1は4輪駆動可能な前輪ステアリング仕様に構成されている。尚、エンジン14には、電子ガバナを有する電子制御式のガソリンエンジンなどを採用してもよい。
【0019】
図2に示すように、トラクタ1には、左右の前輪10を操舵する全油圧式のパワーステアリングユニット17、左右の後輪11を制動するブレーキユニット18、ロータリ耕耘装置3などの駆動式の作業装置への伝動を断続する電子油圧制御式の作業クラッチユニット19、ロータリ耕耘装置3を昇降駆動する電子油圧制御式の昇降駆動ユニット20、ロータリ耕耘装置3をロール方向に駆動する電子油圧制御式のローリングユニット21、トラクタ1における各種の設定状態や各部の動作状態などを検出する各種のセンサやスイッチなどを含む車両状態検出機器22、及び、各種の制御部を有する車載制御ユニット23、などが備えられている。尚、パワーステアリングユニット17には、操舵用の電動モータを有する電動式を採用してもよい。
【0020】
図1~2に示すように、運転部12には、手動操舵用のステアリングホイール25、搭乗者用の座席26、及び、各種の情報表示や入力操作などを可能にする操作端末27、が備えられている。図示は省略するが、運転部12には、アクセルレバーや主変速レバーなどの操作レバー類、及び、アクセルペダルやクラッチペダルなどの操作ペダル類、などが備えられている。操作端末27には、マルチタッチ式の液晶モニタやISOBUS(イソバス)対応のバーチャルターミナルなどを採用することができる。
【0021】
図3に示すように、変速ユニット16には、エンジン14からの動力を走行用に変速する走行伝動系16Aと作業用に変速する作業伝動系16Bとが備えられている。そして、走行伝動系16Aによる変速後の動力が、前輪駆動用の伝動軸28、及び、前車軸ケース29に内蔵された前輪用差動装置30、などを介して左右の前輪10に伝えられる。又、作業伝動系16Bによる変速後の動力がロータリ耕耘装置3に伝えられる。変速ユニット16には、左右の後輪11を個別に制動する左右のブレーキ31が備えられている。
【0022】
走行伝動系16Aには、エンジン14からの動力を変速する電子制御式の主変速装置32、主変速装置32からの動力を前進用と後進用とに切り換える電子油圧制御式の前後進切換装置33、前後進切換装置33からの前進用又は後進用の動力を高低2段に変速するギア式の副変速装置34、前後進切換装置33からの前進用又は後進用の動力を超低速段に変速するギア式のクリープ変速装置35、副変速装置34又はクリープ変速装置35からの動力を左右の後輪11に分配する後輪用差動装置36、後輪用差動装置36からの動力を減速して左右の後輪11に伝える左右の減速装置37、及び、副変速装置34又はクリープ変速装置35から左右の前輪10への伝動を切り換える電子油圧制御式の伝動切換装置38、などが含まれている。
【0023】
作業伝動系16Bには、エンジン14からの動力を断続する油圧式の作業クラッチ39、作業クラッチ39を経由した動力を正転3段と逆転1段とに切り換える作業用変速装置40、及び、作業用変速装置40からの動力を作業用として出力するPTO軸41、などが含まれている。PTO軸41から取り出された動力は、ロータリ耕耘装置3などの駆動式の作業装置がトラクタ1の後部に連結された場合に、外部伝動軸(図示せず)などを介して作業装置に伝えられる。
【0024】
主変速装置32には、静油圧式無段変速装置(HST:Hydro Static Transmission)よりも伝動効率が高い油圧機械式無段変速装置の一例であるI-HMT(Integrated Hydro-static Mechanical Transmission)が採用されている。
【0025】
尚、主変速装置32には、I-HMTの代わりに、油圧機械式無段変速装置の一例であるHMT(Hydraulic Mechanical Transmission)、静油圧式無段変速装置、又は、ベルト式無段変速装置、などの無段変速装置を採用してもよい。又、無段変速装置の代わりに、複数の油圧式の変速クラッチ、及び、それらに対するオイルの流れを制御する複数の電磁式の変速バルブ、などを有する電子油圧制御式の有段変速装置を採用してもよい。
【0026】
伝動切換装置38は、左右の前輪10への伝動状態を、左右の前輪10への伝動を遮断する伝動遮断状態と、左右の前輪10の周速が左右の後輪11の周速と同じになるように左右の前輪10に伝動する等速伝動状態と、左右の後輪11の周速に対して左右の前輪10の周速が約2倍になるように左右の前輪10に伝動する倍速伝動状態とに切り換える。これにより、このトラクタ1は、2輪駆動状態と4輪駆動状態と前輪倍速状態とに切り換え可能に構成されている。
【0027】
図示は省略するが、ブレーキユニット18には、左右のブレーキ31、運転部12に備えられた左右のブレーキペダルの踏み込み操作に連動して左右のブレーキ31を作動させるフットブレーキ系、運転部12に備えられたパーキングレバーの操作に連動して左右のブレーキ31を作動させるパーキングブレーキ系、及び、左右の前輪10の設定角度以上の操舵に連動して旋回内側のブレーキ31を作動させる旋回ブレーキ系、などが含まれている。
【0028】
車両状態検出機器22は、トラクタ1の各部に備えられた各種のセンサやスイッチなどの総称である。図示は省略するが、車両状態検出機器22には、アクセルレバーの操作位置を検出するアクセルセンサ、主変速レバーの操作位置を検出する変速センサ、前後進切り換え用のリバーサレバーの操作位置を検出するリバーサセンサ、エンジン14の出力回転数を検出する回転センサ、トラクタ1の車速を検出する車速センサ、及び、前輪10の操舵角を検出する舵角センサ、などが含まれている。
【0029】
図2に示すように、車載制御ユニット23には、エンジン14に関する制御を行うエンジン制御部23A、トラクタ1の車速や前後進の切り換えなどの変速ユニット16に関する制御を行う変速ユニット制御部23B、ステアリングに関する制御を行うステアリング制御部23C、ロータリ耕耘装置3などの作業装置に関する制御を行う作業装置制御部23D、操作端末27などに対する表示や報知に関する制御を行う表示制御部23E、自動走行に関する制御を行う自動走行制御部23F、及び、圃場内に区分けされた走行領域に応じて生成された自動走行用の目標経路P(図4参照)などを記憶する不揮発性の車載記憶部23G、などが含まれている。各制御部23A~23Fは、マイクロコントローラなどが集積された電子制御ユニットや各種の制御プログラムなどによって構築されている。各制御部23A~23Fは、CAN(Controller Area Network)を介して相互通信可能に接続されている。
【0030】
尚、各制御部23A~23Fの相互通信には、CAN以外の通信規格や次世代通信規格である、例えば、車載EthernetやCAN-FD(CAN with FLexible Data rate)などを採用してもよい。
【0031】
エンジン制御部23Aは、アクセルセンサからの検出情報と回転センサからの検出情報とに基づいて、エンジン回転数をアクセルレバーの操作位置に応じた回転数に維持するエンジン回転数維持制御、などを実行する。
【0032】
変速ユニット制御部23Bは、変速センサからの検出情報と車速センサからの検出情報などに基づいて、トラクタ1の車速が主変速レバーの操作位置に応じた速度に変更されるように主変速装置32の作動を制御する車速制御、及び、リバーサセンサからの検出情報に基づいて前後進切換装置の伝動状態を切り換える前後進切り換え制御、などを実行する。車速制御には、変速レバーが零速位置に操作された場合に、主変速装置32を零速状態まで減速制御してトラクタ1の走行を停止させる減速停止処理が含まれている。
【0033】
作業装置制御部23Dには、運転部12に備えられたPTOスイッチの操作などに基づいて作業クラッチユニット19の作動を制御する作業クラッチ制御、運転部12に備えられた昇降スイッチの操作や高さ設定ダイヤルの設定値などに基づいて昇降駆動ユニット20の作動を制御する昇降制御、及び、運転部12に備えられたロール角設定ダイヤルの設定値などに基づいてローリングユニット21の作動を制御するローリング制御、などを実行する。PTOスイッチ、昇降スイッチ、高さ設定ダイヤル、及び、ロール角設定ダイヤルは、車両状態検出機器22に含まれている。
【0034】
図2に示すように、トラクタ1には、トラクタ1の位置や方位などを測定する測位ユニット(測位部の一例)42が備えられている。測位ユニット42には、衛星測位システムの一例であるGNSS(Global Navigation Satellite System)を利用してトラクタ1の位置と方位とを測定する衛星航法装置43、及び、3軸のジャイロスコープ及び3方向の加速度センサなどを有してトラクタ1の姿勢や方位などを測定する慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)44、などが含まれている。GNSSを利用した測位方法には、DGNSS(Differential GNSS:相対測位方式)やRTK-GNSS(Real Time Kinematic GNSS:干渉測位方式)などがある。本実施形態においては、移動体の測位に適したRTK-GNSSが採用されている。そのため、図1に示すように、圃場周辺の既知位置には、RTK-GNSSによる測位を可能にする基地局6が設置されている。
【0035】
図1~2に示すように、トラクタ1と基地局6とのそれぞれには、測位衛星7(図1参照)から送信された電波を受信するGNSSアンテナ45,60、及び、トラクタ1と基地局6との間における測位情報を含む各情報の無線通信を可能にする通信モジュール46,61、などが備えられている。これにより、測位ユニット42の衛星航法装置43は、トラクタ側のGNSSアンテナ45が測位衛星7からの電波を受信して得た測位情報と、基地局側のGNSSアンテナ60が測位衛星7からの電波を受信して得た測位情報とに基づいて、トラクタ1の位置及び方位を高い精度で測定することができる。又、測位ユニット42は、衛星航法装置43と慣性計測装置44とを有することにより、トラクタ1の位置、方位、姿勢角(ヨー角、ロール角、ピッチ角)を高精度に測定することができる。
【0036】
このトラクタ1において、測位ユニット42の慣性計測装置44、GNSSアンテナ45、及び、通信モジュール46は、図1に示すアンテナユニット47に含まれている。アンテナユニット47は、キャビン13の前面側における上部の左右中央箇所に配置されている。
【0037】
図6~9に示すように、トラクタ1の位置を特定するときの車体位置Vpは後輪車軸中心位置に設定されている。車体位置Vpは、測位ユニット42からの測位情報、及び、トラクタ1におけるGNSSアンテナ45の取り付け位置と後輪車軸中心位置との位置関係を含む車体情報から求めることができる。
【0038】
図2に示すように、携帯通信端末5には、マイクロコントローラなどが集積された電子制御ユニットや各種の制御プログラムなどを有する端末制御ユニット51などが備えられている。端末制御ユニット51には、表示デバイス50などに対する表示や報知に関する制御を行う表示制御部51A、自動走行用の目標経路Pを生成する目標経路生成部51B、及び、目標経路生成部51Bが生成した目標経路Pなどを記憶する不揮発性の端末記憶部51C、などが含まれている。端末記憶部51Cには、目標経路Pの生成に使用する各種の情報として、トラクタ1の旋回半径やロータリ耕耘装置3の作業幅などの車体情報、及び、前述した測位情報から得られる圃場情報、などが記憶されている。圃場情報には、圃場Aの形状や大きさなどを特定する上において、トラクタ1を圃場Aの外周縁に沿って走行させたときにGNSSを利用して取得した圃場Aにおける複数の形状特定地点(形状特定座標)となる4つの角部地点Pa~Pd(図4参照)、及び、それらの角部地点Pa~Pdを繋いで圃場Aの形状や大きさなどを特定する矩形状の形状特定線SL(図4参照)、などが含まれている。
【0039】
図2に示すように、トラクタ1及び携帯通信端末5には、車載制御ユニット23と端末制御ユニット51との間における測位情報などを含む各情報の無線通信を可能にする通信モジュール48,52が備えられている。トラクタ1の通信モジュール48は、携帯通信端末5との無線通信にWi-Fiが採用される場合には、通信情報をCANとWi-Fiとの双方向に変換する変換器として機能する。端末制御ユニット51は、車載制御ユニット23との無線通信にてトラクタ1の位置や方位などを含むトラクタ1に関する各種の情報を取得することができる。これにより、携帯通信端末5の表示デバイス50にて、目標経路Pに対するトラクタ1の位置や方位などを含む各種の情報を表示させることができる。
【0040】
目標経路生成部51Bは、車体情報に含まれたトラクタ1の旋回半径やロータリ耕耘装置3の作業幅、及び、圃場情報に含まれた圃場Aの形状や大きさ、などに基づいて目標経路Pを生成する。
【0041】
例えば、図4に示すように、矩形状の圃場Aにおいて、自動走行の開始位置p1と終了位置p2とが設定され、トラクタ1の作業走行方向が圃場Aの短辺に沿う方向に設定されている場合は、目標経路生成部51Bは、先ず、圃場Aを、前述した4つの角部地点Pa~Pdと矩形状の形状特定線SLとに基づいて、圃場Aの外周縁に隣接するマージン領域A1と、マージン領域A1の内側に位置する走行領域A2とに区分けする。
【0042】
次に、目標経路生成部51Bは、トラクタ1の旋回半径やロータリ耕耘装置3の作業幅などに基づいて、走行領域A2を、走行領域A2における各長辺側の畦際に設定される一対の枕地領域A2aと、一対の枕地領域A2aの間に設定される中央側領域A2bとに区分けする。その後、目標経路生成部51Bは、中央側領域A2bに、圃場Aの長辺に沿う方向に作業幅に応じた所定間隔を置いて並列に配置される複数の並列経路P1を生成する。又、目標経路生成部51Bは、各枕地領域A2aに、複数の並列経路P1をトラクタ1の走行順に接続する複数の接続経路P2を生成する。
【0043】
これにより、目標経路生成部51Bは、図4に示す圃場Aに設定された自動走行の開始位置p1から終了位置p2にわたってトラクタ1を自動走行させることが可能な目標経路Pを生成することができる。
【0044】
図4に示す圃場Aにおいて、マージン領域A1は、トラクタ1が走行領域A2の畦際を自動走行するときに、ロータリ耕耘装置3などが圃場Aに隣接する畦などの他物に接触するのを防止するために、圃場Aの外周縁と走行領域A2との間に確保された領域である。各枕地領域A2aは、トラクタ1が現在走行中の並列経路P1から次の並列経路P1に向けて接続経路P2に従って旋回移動するときの旋回領域である。中央側領域A2bは、トラクタ1が各並列経路P1に従って作業状態で自動走行する作業領域である。
【0045】
図4に示す目標経路Pにおいて、各並列経路P1は、トラクタ1がロータリ耕耘装置3による耕耘作業を行いながら自動走行する作業経路である。各接続経路P2は、トラクタ1がロータリ耕耘装置3による耕耘作業を行わずに自動走行する非作業経路である。各並列経路P1の始端位置p3は、トラクタ1がロータリ耕耘装置3による耕耘作業を開始する作業開始位置である。各並列経路P1の終端位置p4は、トラクタ1がロータリ耕耘装置3による耕耘作業を停止する作業停止位置である。各並列経路P1の始端位置p3のうち、トラクタ1の走行順位が一番目に設定された並列経路P1の始端位置p3が自動走行の開始位置p1である。そして、残りの並列経路P1の始端位置p3が、接続経路P2の終端位置との接続位置である。又、トラクタ1の走行順位が最後に設定された並列経路P1の終端位置p4が自動走行の終了位置p2である。
【0046】
尚、図4に示す目標経路Pはあくまでも一例であり、目標経路生成部51Bは、トラクタ1の機種や作業装置の種類などに応じて異なる車体情報、及び、圃場Aに応じて異なる圃場Aの形状や大きさなどの圃場情報、などに基づいて、それらに適した種々の目標経路Pを生成することができる。
【0047】
ちなみに、図4に示す目標経路Pにおいて、トラクタ1が代掻き装置による代掻き作業を行う場合には、各並列経路P1と各接続経路P2とのそれぞれが作業経路として使用される。
【0048】
目標経路Pは、車体情報や圃場情報などに関連付けされた状態で端末記憶部51Cに記憶されており、携帯通信端末5の表示デバイス50にて表示することができる。目標経路Pには、前述した作業開始位置p3及び作業停止位置p4とともに、各並列経路P1の方位角、各並列経路P1におけるトラクタ1の目標車速、各接続経路P2bにおけるトラクタ1の目標車速、各並列経路P1における前輪操舵角、及び、各接続経路P2bにおける前輪操舵角、などが含まれている。
【0049】
端末制御ユニット51は、車載制御ユニット23からの送信要求指令に応じて、端末記憶部51Cに記憶されている圃場情報や目標経路Pなどを車載制御ユニット23に送信する。車載制御ユニット23は、受信した圃場情報や目標経路Pなどを車載記憶部23Gに記憶する。目標経路Pの送信に関しては、例えば、端末制御ユニット51が、トラクタ1が自動走行を開始する前の段階において、目標経路Pの全てを端末記憶部51Cから車載制御ユニット23に一挙に送信するようにしてもよい。又、端末制御ユニット51が、目標経路Pを所定距離ごとの複数の分割経路情報に分割して、トラクタ1が自動走行を開始する前の段階からトラクタ1の走行距離が所定距離に達するごとに、トラクタ1の走行順位に応じた所定数の分割経路情報を端末記憶部51Cから車載制御ユニット23に逐次送信するようにしてもよい。
【0050】
車載制御ユニット23において、自動走行制御部23Fには、車両状態検出機器22に含まれた各種のセンサやスイッチなどからの検出情報が、変速ユニット制御部23Bやステアリング制御部23Cなどを介して入力されている。これにより、自動走行制御部23Fは、トラクタ1における各種の設定状態や各部の動作状態などを監視することができる。
【0051】
自動走行制御部23Fは、搭乗者や管理者などのユーザによる手動運転でトラクタ1が自動走行の開始位置p1まで移動された後に、各種の自動走行開始条件を満たすための手動操作が行われてトラクタ1の走行モードが自動走行モードに切り換えられた状態において、携帯通信端末5の表示デバイス50が操作されて自動走行の開始が指令された場合に、測位ユニット42にてトラクタ1の位置や方位などを取得しながら目標経路Pに従ってトラクタ1を自動走行させる自動走行制御を開始する。
【0052】
自動走行制御部23Fは、自動走行制御の実行中に、例えば、ユーザにより携帯通信端末5の表示デバイス50が操作されて自動走行の終了が指令された場合や、運転部12に搭乗しているユーザにてステアリングホイール25やアクセルペダルなどの手動操作具が操作された場合は、自動走行制御を終了するとともに走行モードを自動走行モードから手動走行モードに切り換える。このように自動走行制御が終了された後に自動走行制御を再開させる場合は、先ず、ユーザが運転部12に乗り込んで、トラクタ1の走行モードを自動走行モードから手動走行モードに切り換える。次に、各種の自動走行開始条件を満たすための手動操作を行ってから、トラクタ1の走行モードを手動走行モードから自動走行モードに切り換える。そして、この状態において、携帯通信端末5の表示デバイス50を操作して自動走行の開始を指令することで、自動走行制御を再開させることができる。
【0053】
自動走行制御部23Fによる自動走行制御には、エンジン14に関する自動走行用の制御指令をエンジン制御部23Aに送信するエンジン用自動制御処理、トラクタ1の車速や前後進の切り換えに関する自動走行用の制御指令を変速ユニット制御部23Bに送信する車速用自動制御処理、ステアリングに関する自動走行用の制御指令をステアリング制御部23Cに送信するステアリング用自動制御処理、及び、ロータリ耕耘装置3などの作業装置に関する自動走行用の制御指令を作業装置制御部23Dに送信する作業用自動制御処理、などが含まれている。
【0054】
自動走行制御部23Fは、エンジン用自動制御処理においては、目標経路Pに含まれた設定回転数などに基づいてエンジン回転数の変更を指示するエンジン回転数変更指令、などをエンジン制御部23Aに送信する。エンジン制御部23Aは、自動走行制御部23Fから送信されたエンジン14に関する各種の制御指令に応じてエンジン回転数を自動で変更するエンジン回転数変更制御、などを実行する。
【0055】
自動走行制御部23Fは、車速用自動制御処理においては、目標経路Pに含まれた目標車速に基づいて主変速装置32の変速操作を指示する変速操作指令、及び、目標経路Pに含まれたトラクタ1の進行方向などに基づいて前後進切換装置33の前後進切り換え操作を指示する前後進切り換え指令、などを変速ユニット制御部23Bに送信する。変速ユニット制御部23Bは、自動走行制御部23Fから送信された主変速装置32や前後進切換装置33などに関する各種の制御指令に応じて、主変速装置32の作動を自動で制御する自動車速制御、及び、前後進切換装置33の作動を自動で制御する自動前後進切り換え制御、などを実行する。自動車速制御には、例えば、目標経路Pに含まれた目標車速が零速である場合に、主変速装置32を零速状態まで減速制御してトラクタ1の走行を停止させる自動減速停止処理などが含まれている。
【0056】
自動走行制御部23Fは、ステアリング用自動制御処理においては、目標経路Pに含まれた前輪操舵角などに基づいて左右の前輪10の操舵を指示する操舵指令、などをステアリング制御部23Cに送信する。ステアリング制御部23Cは、自動走行制御部23Fから送信された操舵指令に応じて、パワーステアリングユニット17の作動を制御して左右の前輪10を操舵する自動ステアリング制御、及び、左右の前輪10が設定角度以上に操舵された場合に、ブレーキユニット18を作動させて旋回内側のブレーキ31を作動させる自動ブレーキ旋回制御、などを実行する。
【0057】
自動走行制御部23Fは、作業用自動制御処理においては、目標経路Pに含まれた作業開始位置p3に基づいてロータリ耕耘装置3の作業状態への切り換えを指示する作業開始指令、及び、目標経路Pに含まれた作業停止位置p4に基づいてロータリ耕耘装置3の非作業状態への切り換えを指示する作業停止指令、などを作業装置制御部23Dに送信する。作業装置制御部23Dは、自動走行制御部23Fから送信されたロータリ耕耘装置3に関する各種の制御指令に応じて、作業クラッチユニット19と昇降駆動ユニット20の作動を制御して、ロータリ耕耘装置3を作業高さまで下降させて駆動させる自動作業開始制御、及び、ロータリ耕耘装置3を停止させて非作業高さまで上昇させる自動作業停止制御、などを実行する。
【0058】
つまり、前述した自動走行ユニット4には、パワーステアリングユニット17、ブレーキユニット18、作業クラッチユニット19、昇降駆動ユニット20、ローリングユニット21、車両状態検出機器22、車載制御ユニット23、測位ユニット42、及び、通信モジュール46,48、などが含まれている。そして、これらが適正に作動することにより、トラクタ1を目標経路Pに従って精度よく自動走行させることができるとともに、ロータリ耕耘装置3による耕耘作業を適正に行うことができる。
【0059】
図2図5に示すように、トラクタ1には、トラクタ1の周囲を監視して、その周囲に存在する障害物を検出する障害物検出ユニット80が備えられている。障害物検出ユニット80が検出する障害物には、圃場Aにて作業する作業者などの人物や他の作業車両、及び、圃場Aに既存の電柱や樹木などが含まれている。
【0060】
図1図5に示すように、障害物検出ユニット80には、トラクタ1の周囲を撮像する撮像ユニット80A、トラクタ1の周囲に存在する測定対象物までの距離を測定するアクティブセンサユニット80B、及び、撮像ユニット80Aからの情報とアクティブセンサユニット80Bからの測定情報とを統合して処理する情報統合処理部80C、が含まれている。
【0061】
撮像ユニット80Aには、キャビン13から前方の所定範囲が撮像範囲に設定された前カメラ81、キャビン13から後方の所定範囲が撮像範囲に設定された後カメラ82、キャビン13から右方の所定範囲が撮像範囲に設定された右カメラ83、キャビン13から左方の所定範囲が撮像範囲に設定された左カメラ84、及び、各カメラ81~84からの画像を処理する画像処理装置85、が含まれている。
【0062】
アクティブセンサユニット80Bには、キャビン13から前方の所定範囲が測定範囲に設定された前ライダーセンサ86、キャビン13から後方の所定範囲が測定範囲に設定された後ライダーセンサ87、及び、キャビン13から右方の所定範囲とキャビン13から左方の所定範囲とが測定範囲に設定されたソナー88、が含まれている。各ライダーセンサ86,87は、測定光の一例であるレーザ光(例えばパルス状の近赤外レーザ光)を使用して測定範囲での測定を行う測定部86A,87Aと、測定部86A,87Aからの測定情報に基づいて距離画像の生成などを行うライダー制御部86B,87Bと、が含まれている。ソナー88には、右超音波センサ88Aと左超音波センサ88Bと単一のソナー制御部88Cとが含まれている。
【0063】
情報統合処理部80C、画像処理装置85、各ライダー制御部86B,87B、及び、ソナー制御部88Cは、マイクロコントローラなどが集積された電子制御ユニットや各種の制御プログラムなどによって構築されている。情報統合処理部80C、画像処理装置85、各ライダー制御部86B,87B、及び、ソナー制御部88Cは、車載制御ユニット23にCANを介して相互通信可能に接続されている。
【0064】
前カメラ81及び後カメラ82は、トラクタ1の左右中心線上に配置されている。前カメラ81は、キャビン13の前端側における上部の左右中央箇所に、トラクタ1の前方側を斜め上方側から見下ろす前下がり姿勢で配置されている。これにより、前カメラ81は、トラクタ1の左右中心線を対称軸とする車体前方側の所定範囲が撮像範囲に設定されている。後カメラ82は、キャビン13の後端側における上部の左右中央箇所に、トラクタ1の後方側を斜め上方側から見下ろす後下がり姿勢で配置されている。これにより、後カメラ82は、トラクタ1の左右中心線を対称軸とする車体後方側の所定範囲が撮像範囲に設定されている。右カメラ83は、キャビン13の右端側における上部の前後中央箇所に、トラクタ1の右方側を斜め上方側から見下ろす右下がり姿勢で配置されている。これにより、右カメラ83は、車体右方側の所定範囲が撮像範囲に設定されている。左カメラ84は、キャビン13の左端側における上部の前後中央箇所に、トラクタ1の左方側を斜め上方側から見下ろす左下がり姿勢で配置されている。これにより、左カメラ84は、車体左方側の所定範囲が撮像範囲に設定されている。
【0065】
各ライダーセンサ86,87において、各測定部86A,87Aは、照射したレーザ光が測距点に到達して戻るまでの往復時間に基づいて測距点までの距離を測定するTOF(Time Of Flight)方式により、各測定部86A,87Aから測定範囲の各測距点までの距離を測定する。各測定部86A,87Aは、測定範囲の全体にわたって、レーザ光を高速で縦横に走査して、走査角(座標)ごとの測距点までの距離を順次測定することで、各測定範囲において3次元の測定を行う。各測定部86A,87Aは、測定範囲の全体にわたってレーザ光を高速で縦横に走査したときに得られる各測距点からの反射光の強度(以下、反射強度と称する)を順次測定する。各測定部86A,87Aは、測定範囲の各測距点までの距離や各反射強度などをリアルタイムで繰り返し測定する。各ライダー制御部86B,87Bは、各測定部86A,87Aが測定した各測距点までの距離や各測距点に対する走査角(座標)などの測定情報から、距離画像を生成するとともに障害物と推定される測距点群を抽出し、抽出した測距点群に関する測定情報を、障害物候補に関する測定情報として情報統合処理部80Cに送信する。
【0066】
前ライダーセンサ86及び後ライダーセンサ87は、前カメラ81及び後カメラ82と同様にトラクタ1の左右中心線上に配置されている。前ライダーセンサ86は、キャビン13の前端側における上部の左右中央箇所に、トラクタ1の前方側を斜め上方側から見下ろす前下がり姿勢で配置されている。これにより、前ライダーセンサ86は、トラクタ1の左右中心線を対称軸とする車体前方側の所定範囲が測定部86Aによる測定範囲に設定されている。後ライダーセンサ87は、キャビン13の後端側における上部の左右中央箇所に、トラクタ1の後方側を斜め上方側から見下ろす後下がり姿勢で配置されている。これにより、後ライダーセンサ87は、トラクタ1の左右中心線を対称軸とする車体後方側の所定範囲が測定部87Aによる測定範囲に設定されている。
【0067】
ソナー88において、ソナー制御部88Cは、左右の超音波センサ88A,88Bによる超音波の送受信に基づいて、測定範囲における測定対象物の存否を判定する。ソナー制御部88Cは、発信した超音波が測距点に到達して戻るまでの往復時間に基づいて測距点までの距離を測定するTOF(Time Of Flight)方式により、各超音波センサ88A,88Bから測定対象物までの距離を測定し、測定した測定対象物までの距離と測定対象物の方向とを、障害物候補に関する測定情報として情報統合処理部80Cに送信する。
【0068】
図示は省略するが、右超音波センサ88Aは、右側の前輪10と右側の後輪11との間に配置された右側の乗降ステップに車体右外向き姿勢で取り付けられている。これにより、右超音波センサ88Aは、車体右外側の所定範囲が測定範囲に設定されている。図1に示すように、左超音波センサ88Bは、左側の前輪10と左側の後輪11との間に配置された左側の乗降ステップ24に車体左外向き姿勢で取り付けられている。これにより、左超音波センサ88Bは、車体左外側の所定範囲が測定範囲に設定されている。
【0069】
画像処理装置85は、各カメラ81~84から順次送信される画像に対して画像処理を行う。画像処理装置85には、圃場Aにて作業する作業者などの人物や他の作業車両、及び、圃場Aに既存の電柱や樹木などを障害物として認識するための学習処理が施されている。
【0070】
画像処理装置85は、各カメラ81~84から順次送信される画像を合成してトラクタ1の全周囲画像(例えばサラウンドビュー)を生成するとともに、生成した全周囲画像や各カメラ81~84からの画像を、トラクタ1の表示制御部23Eや携帯通信端末5の表示制御部51Aに送信する。
【0071】
これにより、画像処理装置85が生成した全周囲画像やトラクタ1の走行方向の画像などを、トラクタ1の操作端末27や携帯通信端末5の表示デバイス50などにおいて表示することができる。そして、この表示により、トラクタ1の周囲の状況や走行方向の状況をユーザに視認させることができる。
【0072】
画像処理装置85は、各カメラ81~84から順次送信される画像に基づいて、各カメラ81~84のいずれかの撮像範囲においてトラクタ1の走行に影響を及ぼす障害物が存在するか否かを判別する。画像処理装置85は、障害物が存在する場合は、障害物が存在する画像上での障害物の座標を求め、求めた障害物の座標を、各カメラ81~84の搭載位置や搭載角度などに基づいて、車体座標原点を基準にした座標に変換する。そして、その変換後の座標と予め設定した距離算出基準点とにわたる直線距離を、距離算出基準点から障害物までの距離として求め、変換後の座標と求めた障害物までの距離とを障害物に関する情報として情報統合処理部80Cに送信する。一方、障害物が存在しない場合は、障害物が未検出であることを情報統合処理部80Cに送信する。
【0073】
このように、各カメラ81~84の撮像範囲のいずれかに障害物が存在する場合は、画像処理装置85が、障害物に関する情報を情報統合処理部80Cに送信することから、情報統合処理部80Cは、その障害物に関する情報を受け取ることにより、各カメラ81~84のいずれかの撮像範囲に障害物が存在することを把握することができるとともに、その障害物の位置及び障害物までの距離を取得することができる。又、各カメラ81~84の撮像範囲のいずれにも障害物が存在しない場合は、画像処理装置85が、障害物の未検出を情報統合処理部80Cに送信することから、情報統合処理部80Cは、各カメラ81~84の撮像範囲のいずれにも障害物が存在しないことを把握することができる。
【0074】
情報統合処理部80Cは、物体の判別精度が高い撮像ユニット80Aからの障害物に関する情報と、測距精度が高いアクティブセンサユニット80Bからの障害物候補に関する測定情報とが整合した場合に、アクティブセンサユニット80Bから得た障害物候補までの距離を障害物までの距離として採用する。これにより、障害物検出ユニット80は、情報統合処理部80Cにおいて物体の判別精度及び測距精度の高い障害物に関する情報を取得することができる。障害物検出ユニット80は、情報統合処理部80Cにて取得した障害物に関する情報を自動走行制御部23Fに送信する。
【0075】
自動走行制御部23Fは、障害物検出ユニット80からの障害物に関する情報に基づいて障害物との衝突を回避する衝突回避制御を実行する。自動走行制御部23Fは、衝突回避制御においては、障害物検出ユニット80からの障害物に関する情報に基づいて障害物までの距離などを取得し、取得した障害物までの距離などに応じて、トラクタ1及び携帯通信端末5に備えられた報知ブザーや報知ランプなどの報知器を作動させる報知処理、トラクタ1の車速を自動で低下させる自動減速処理、及び、トラクタ1の走行を自動で停止させる自動走行停止処理、などの各種の衝突回避処理を適宜行うように構成されている。
【0076】
自動走行制御部23Fは、トラクタ1が自動走行の開始位置p1に位置する状態で自動走行の開始が指令された場合に、目標経路Pに従ってトラクタ1を自動走行させる自動走行制御を開始する。自動走行制御には、目標経路Pの並列経路P1と測位ユニット42からの測位情報とに基づいてトラクタ1を作業状態で並列経路P1に従って自動走行させる第1自動走行制御と、目標経路Pの接続経路P2と測位ユニット42からの測位情報とに基づいてトラクタ1を非作業状態で接続経路P2に従って自動走行させる第2自動走行制御とが含まれている。
【0077】
図2に示すように、自動走行制御部23Fには、各並列経路P1に対してトラクタ1の進入領域Aa(図4参照)を設定する進入領域設定部23Fa、並列経路P1と測位ユニット42からの測位情報とに基づいて、トラクタ1が進入領域Aaに達した時点での並列経路P1に対するヨー方向でのトラクタ1の角度偏差Δθ(図6~8参照)と横方向偏差Δd(図6~8参照)とを検出する偏差検出部23Fb、及び、トラクタ1が進入領域Aaに達した場合に、偏差検出部23Fbからの検出情報に基づいて第1自動走行制御の開始条件が成立したか否かを判定する条件判定部23Fc、が含まれている。
【0078】
図4図6~9に示すように、進入領域設定部23Faは、各並列経路P1の始端位置p3を含む所定領域を各並列経路P1に対する進入領域Aaに設定する。図6に示すように、条件判定部23Fcは、前述した角度偏差Δθが所定角度θ(例えば10度)未満で、かつ、前述した横方向偏差Δdが所定値L(5cm)未満である場合に第1自動走行制御の開始条件が成立したと判定する。図7~8に示すように、条件判定部23Fcは、前述した角度偏差Δθが所定角度θ以上である場合や前述した横方向偏差Δdが所定値L以上である場合に第1自動走行制御の開始条件が成立していないと判定する。
【0079】
自動走行制御部23Fは、トラクタ1が、ユーザによる手動運転、又は、第2自動走行制御による自動走行で進入領域Aaに達した時点において、条件判定部23Fcにて第1自動走行制御の開始条件が成立したと判定された場合に第1自動走行制御を実行する(図6参照)。又、条件判定部23Fcにて第1自動走行制御の開始条件が成立していないと判定された場合は、第1自動走行制御の開始条件が成立するように、トラクタ1の前後進切り換え操作とステアリング操作との複合操作でトラクタ1を切り返し走行させる自動切り返し走行制御を実行する(図7~9参照)。
【0080】
つまり、自動走行制御部23Fは、トラクタ1が、ユーザによる手動運転、又は、第2自動走行制御による自動走行で進入領域Aaに達したときに、条件判定部23Fcの判定に基づいて実行する走行制御を第1自動走行制御と自動切り返し走行制御とに切り換える走行制御切り換え処理を行う。
【0081】
そして、図10のフローチャートに示すように、この走行制御切り換え処理においては、先ず、自動走行制御部23Fは、トラクタ1が前述した進入領域Aaに達したときに、条件判定部23Fcにて第1自動走行制御の開始条件が成立しているか否かを判定する判定処理を行う(ステップ#1)。
【0082】
そして、図6に示すように、トラクタ1が前述した進入領域Aaに達したときに、前述した角度偏差Δθが所定角度θ未満で、前述した横方向偏差Δdが所定値L未満である場合には、判定処理において、条件判定部23Fcが第1自動走行制御の開始条件が成立していると判定することから、自動走行制御部23Fは、第1自動走行制御を実行してトラクタ1を作業状態で並列経路P1に従って自動走行させる(ステップ#2)。これにより、トラクタ1は、第1自動走行制御による自動走行を開始した段階から、並列経路P1に対する振れ幅の小さい精度の高い自動走行を行いながら作業を行うことができる。
【0083】
一方、図7~9に示すように、トラクタ1が前述した進入領域Aaに達したときに、前述した角度偏差Δθが所定角度θ以上である場合や前述した横方向偏差Δdが所定値L以上である場合には、判定処理において、条件判定部23Fcが第1自動走行制御の開始条件が成立していないと判定することから、自動走行制御部23Fは、第1自動走行制御を実行せずに自動切り返し走行制御を実行し(ステップ#3)、かつ、前述した判定処理を行う(ステップ#1)。
【0084】
これにより、前述した角度偏差Δθが所定角度θ以上である場合や前述した横方向偏差Δdが所定値L以上である場合に第1自動走行制御が実行されることに起因して、並列経路P1に対するトラクタ1の振れ幅が大きくなり、この振れが収束するまでに長い距離を要して、この間の作業精度が低下する不都合の発生を防止することができる。
【0085】
又、自動走行制御部23Fは、トラクタ1の切り返し走行によって第1自動走行制御の開始条件を成立させることから、第1自動走行制御の開始条件を成立させ易くするために、各並列経路P1における始端位置p3側の延長線上に距離の長い移動経路を生成する必要がなくなる。これにより、圃場Aでの移動経路を長くするほど、トラクタ1を作業状態で自動走行させる並列経路P1が短くなるとともに枕地領域A2aが広くなることに起因して、例えば、枕地領域A2aがトラクタ1を周回走行させる周回作業領域である場合に、周回作業領域でのトラクタ1の周回数が多くなって作業効率が低下する、などの不都合の発生を防止することができる。
【0086】
図2図7~8に示すように、自動走行制御部23Fには、自動切り返し走行制御におけるトラクタ1の走行可能領域A3を、前述した進入領域Aaと、各並列経路P1でのトラクタ1の走行方向において進入領域Aaを挟んだ所定の走行方向上手側領域Abと走行方向下手側領域Acとから選択する走行領域選択部23Fdが含まれている。走行領域選択部23Fdは、目標経路生成部51Bによる目標経路Pの生成時にユーザにて設定された枕地領域A2aの広さや作業装置3の種類などに基づいてトラクタ1の走行可能領域A3を選択する。
【0087】
具体的には、走行領域選択部23Fdは、例えば、枕地領域A2aにおける形状特定線SLから中央側領域A2bにわたる枕地幅W(図4参照)が作業装置3の作業幅以上に広く設定されていて、進入領域Aaの走行方向上手側領域Abが広くなっている場合には、走行方向上手側領域Abにおいてトラクタ1の切り返し走行が行われても、トラクタ1に連結された作業装置3が圃場Aに隣接する畦などの他物に接触する虞がないことから、進入領域Aaに加えて走行方向上手側領域Abを走行可能領域A3に選択可能にする。
【0088】
走行領域選択部23Fdは、例えば、枕地領域A2aの枕地幅Wがトラクタ1の最小旋回半径での旋回走行を許容する程度に狭く設定されていて、進入領域Aaの走行方向上手側領域Abが狭くなっている場合には、走行方向上手側領域Abにおいてトラクタ1の切り返し走行が行われると、トラクタ1に連結された作業装置3が畦などに接触する虞があることから、走行方向上手側領域Abを走行可能領域A3に選択不能にする。
【0089】
走行領域選択部23Fdは、例えば作業装置3の種類がロータリ耕耘装置(図1参照)やプラウ(図示せず)などのように、トラクタ1が走行方向下手側領域Acに入り込んで切り返し走行しても、その後の走行方向下手側領域Acでの作業において影響を受け難いものである場合には、進入領域Aaに加えて走行方向下手側領域Acを走行可能領域A3に選択可能にする。
【0090】
走行領域選択部23Fdは、例えば作業装置3の種類が播種装置(図示せず)や収穫装置(図示せず)などのように、トラクタ1が走行方向下手側領域Acに入り込んで切り返し走行すると、その後の走行方向下手側領域Acでの作業に影響を受け易いものである場合には、走行方向下手側領域Acを走行可能領域A3に選択不能にする。
【0091】
走行領域選択部23Fdは、進入領域Aaに加えて走行方向上手側領域Abと走行方向下手側領域Acとが走行可能領域A3に選択可能な場合、及び、進入領域Aaに加えて走行方向上手側領域Abが走行可能領域A3に選択可能な場合は、進入領域Aaと走行方向上手側領域Abとを走行可能領域A3に選択する。これにより、トラクタ1が切り返し走行時に走行方向下手側領域Acに入り込むことを回避しながら、切り返し走行が行われる走行可能領域A3を広くすることができる。その結果、トラクタ1が走行方向下手側領域Acに入り込むことに起因して、その後の作業装置3による作業に支障を来たす虞を回避しながら、第1自動走行制御の開始条件を成立させ易くすることができる。
【0092】
ちなみに、自動走行制御部23Fは、進入領域Aaと走行方向上手側領域Abとが走行可能領域A3に選択された場合の自動切り返し走行制御においては、図7に示すように、進入領域Aaと走行方向上手側領域Abとを含む走行可能領域A3において、トラクタ1を前後進させながら左右の前輪10を操舵することで、前述した角度偏差Δθが所定角度θ未満になり、かつ、前述した横方向偏差Δdが所定値L未満になるようにする。
【0093】
走行領域選択部23Fdは、進入領域Aaに加えて走行方向下手側領域Acが走行可能領域A3に選択可能な場合は、進入領域Aaと走行方向下手側領域Acとを走行可能領域A3に選択する。これにより、トラクタ1が切り返し走行時に走行方向上手側領域Abに入り込むことを回避しながら、切り返し走行が行われる走行可能領域A3を広くすることができる。その結果、トラクタ1が走行方向上手側領域Abに入り込むことに起因して、トラクタ1に連結された作業装置3が畦などの他物に接触する虞を回避しながら、第1自動走行制御の開始条件を成立させ易くすることができる。
【0094】
ちなみに、自動走行制御部23Fは、進入領域Aaと走行方向下手側領域Acとが走行可能領域A3に選択された場合の自動切り返し走行制御においては、図8~9に示すように、進入領域Aaと走行方向下手側領域Acとを含む走行可能領域A3において、トラクタ1を前後進させながら左右の前輪10を操舵することで、前述した角度偏差Δθが所定角度θ未満になり、かつ、前述した横方向偏差Δdが所定値L未満になるようにする。
【0095】
走行領域選択部23Fdは、進入領域Aaのみが走行可能領域A3に選択可能な場合は、進入領域Aaのみを走行可能領域A3に選択する。これにより、トラクタ1が切り返し走行時に走行方向上手側領域Ab及び走行方向下手側領域Acに入り込むことを回避しながら、切り返し走行が行われる走行可能領域A3を確保することができる。その結果、トラクタ1が走行方向上手側領域Abに入り込むことに起因して、トラクタ1に連結された作業装置3が畦などの他物に接触する虞、及び、トラクタ1が走行方向下手側領域Acに入り込むことに起因して、その後の作業装置3による作業に支障を来たす虞を回避しながら、第1自動走行制御の開始条件を成立させることができる。
【0096】
自動切り返し走行制御においては、走行可能領域A3におけるトラクタ1の複数回の切り返し走行が可能に設定されている。これにより、例えば、走行領域選択部23Fdにて進入領域Aaのみが走行可能領域A3に選択されて走行可能領域A3が狭くなった場合においても、走行可能領域A3でのトラクタ1の切り返し走行によって第1自動走行制御の開始条件を確実に成立させることができる。
【0097】
自動走行制御部23Fは、自動切り返し走行制御によるトラクタ1の切り返し走行において、条件判定部23Fcにて第1自動走行制御の開始条件が成立したと判定された場合に、自動切り返し走行制御から第1自動走行制御に遷移する。これにより、自動切り返し走行制御によるトラクタ1の切り返し走行によって第1自動走行制御の開始条件が成立した場合には、その開始条件の成立に伴って、トラクタ1が、直ちに並列経路P1に対する振れ幅の小さい精度の高い状態で、並列経路P1に従って自動走行しながら作業を行うようになる。その結果、作業効率の向上を図りながら、作業精度の向上を図ることができる。
【0098】
図4に示すように、目標経路Pは、各並列経路P1から外れたトラクタ1の待機位置p0と、トラクタ1の走行順位が一番目に設定された並列経路P1の始端位置p3とにわたる移動経路Rm(図4において破線で示す経路)を含むように生成することが可能である。図4において、待機位置p0は、圃場Aに対するトラクタ1の入出口付近に設定されている。待機位置p0の設定は、圃場の形状などに応じて種々の変更が可能である。
【0099】
自動走行制御部23Fは、目標経路Pに移動経路Rmが含まれている場合には、自動走行制御において、移動経路Rmと測位ユニット42からの測位情報とに基づいて移動経路Rmに従ってトラクタ1を非作業状態で自動走行させる自動移動制御の実行が可能になる。
【0100】
進入領域設定部23Faは、自動移動制御においては、トラクタ1の走行順位が一番目に設定された並列経路P1と移動経路Rmとの接続位置である一番目の並列経路P1の始端位置p3を含む所定領域を進入領域Aaに設定する。
【0101】
これにより、トラクタ1を待機位置p0に位置させた後に自動走行を開始させるようにすれば、自動走行制御部23Fが自動移動制御を実行して、トラクタ1を、移動経路Rmに従って待機位置p0から進入領域Aaに向けて非作業状態で自動走行させる。そして、この自動走行においてトラクタ1が進入領域Aaに達したときに、第1自動走行制御の開始条件が成立している場合は、自動走行制御部23Fが、第1自動走行制御を実行してトラクタ1を作業状態で並列経路P1に従って自動走行させる。又、第1自動走行制御の開始条件が成立していない場合には、自動走行制御部23Fが、第1自動走行制御を実行せずに自動切り返し走行制御を実行してトラクタ1を切り返し走行させる。そして、この切り返し走行で第1自動走行制御の開始条件が成立した場合には、自動走行制御部23Fが、第1自動走行制御を実行してトラクタ1を作業状態で並列経路P1に従って自動走行させる。
【0102】
つまり、目標経路Pに移動経路Rmが含まれている場合には、移動経路Rmを含めた目標経路Pの全長にわたってトラクタ1を精度良く自動走行させることができる。これにより、ユーザはトラクタ1の走行順位が一番目に設定された並列経路P1の始端位置p3までトラクタ1を手動走行させる必要がなくなり、ユーザにかかる負担を軽減することができる。
【0103】
〔別実施形態〕
本発明の別実施形態について説明する。
なお、以下に説明する各別実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の別実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0104】
(1)作業車両1の構成に関する代表的な別実施形態は以下の通りである。
例えば、作業車両1は、左右の後輪11に代えて左右のクローラを備えるセミクローラ仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両1は、左右の前輪10及び左右の後輪11に代えて左右のクローラを備えるフルクローラ仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両1は、左右の後輪11が操舵輪として機能する後輪ステアリング仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両1は、エンジン14の代わりに電動モータを備える電動仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両1は、エンジン14と電動モータとを備えるハイブリッド仕様に構成されていてもよい。
【0105】
(2)作業車両用の自動走行システムとしては、自動走行制御部23Fが、前述した第1自動走行制御と自動切り返し走行制御とを実行し、作業車両1を現在走行中の並列経路P1から次の並列経路P1に移動させる旋回移動は、ユーザによる手動運転で行われるように構成されていてもよい。
【0106】
(3)進入領域設定部23Faは、例えば作業車両1がコンバインなどの収穫作業車両であり、第1自動走行制御の実行中に収穫物の満杯が満杯センサにて検出されて第1自動走行制御を中断する必要が生じた場合には、その時の並列経路P1における作業の中断位置(例えば図4にて符号p5で示す位置)を含む所定領域(例えば図4にて破線で示す領域)を、その並列経路P1に対する進入領域Aaに設定するように構成されていてもよい。
【0107】
(4)進入領域設定部23Faは、例えば作業車両1が、種子や苗などの農用資材を圃場に供給する播種機や田植機などの農用資材供給作業車両であり、第1自動走行制御の実行中に農用資材の残量が下限値に達したことが残量センサにて検出されて第1自動走行制御を中断する必要が生じた場合には、その時の並列経路P1における作業の中断位置を含む所定領域を、その並列経路P1に対する進入領域Aaに設定するように構成されていてもよい。
【0108】
<発明の付記>
本発明の第1特徴構成は、作業車両用の自動走行システムにおいて、
所定間隔を置いて並ぶ複数の並列経路に対して作業車両の進入領域を設定する進入領域設定部と、
前記作業車両の位置及び方位を測定する測位部と、
前記並列経路と前記測位部からの測位情報とに基づいて、前記作業車両を作業状態で前記並列経路に従って自動走行させる第1自動走行制御を実行する自動走行制御部と、
前記並列経路と前記測位部からの測位情報とに基づいて、前記作業車両が前記進入領域に達した時点での前記並列経路に対する前記作業車両の角度偏差と横方向偏差とを検出する偏差検出部と、
前記作業車両が前記進入領域に達した場合に、前記偏差検出部からの検出情報に基づいて前記第1自動走行制御の開始条件が成立したか否かを判定する条件判定部とを有し、
前記条件判定部は、前記角度偏差が所定角度未満で前記横方向偏差が所定値未満である場合に前記第1自動走行制御の開始条件が成立したと判定し、
前記自動走行制御部は、前記作業車両が前記進入領域に達した時点において、前記条件判定部にて前記第1自動走行制御の開始条件が成立したと判定された場合には前記第1自動走行制御を実行し、前記条件判定部にて前記第1自動走行制御の開始条件が成立していないと判定された場合には、前記第1自動走行制御の開始条件が成立するように、前記作業車両の前後進切り換え操作とステアリング操作との複合操作で前記作業車両を切り返し走行させる自動切り返し走行制御を実行する点にある。
【0109】
本構成によれば、作業車両が前述した進入領域に達したときに、前述した角度偏差が所定角度未満で、前述した横方向偏差が所定値未満である場合には、自動走行制御部が、第1自動走行制御を実行して作業車両を作業状態で並列経路に従って自動走行させる。これにより、作業車両は、自動走行を開始した段階から、並列経路に対する振れ幅の小さい精度の高い自動走行を行いながら作業を行うことができる。
【0110】
一方、作業車両が前述した進入領域に達したときに、前述した角度偏差が所定角度以上である場合や前述した横方向偏差が所定値以上である場合には、自動走行制御部が、第1自動走行制御を実行せずに自動切り返し走行制御を実行する。これにより、前述した角度偏差が所定角度以上である場合や前述した横方向偏差が所定値以上である場合に第1自動走行制御が実行されることに起因して、作業車両が、並列経路に対する振れ幅が大きくなる精度の低い自動走行を開始し、その振れが収束するまでに長い距離を要して、この間の作業精度が低下する不都合の発生を防止することができる。
【0111】
又、自動走行制御部は、作業車両の切り返し走行により、前進時と後進時との双方において前述した角度偏差と横方向偏差とを小さくして第1自動走行制御の開始条件を成立させることから、第1自動走行制御の開始条件を成立させ易くするために、並列経路の延長線上に距離の長い移動経路を生成する必要がなくなる。特に、前輪ステアリング仕様に構成されることが多い農用の作業車両においては、前進時よりも後進時の方が並列経路に対する作業車両の位置合わせ操作が行い易くなることから、前述した移動経路を短くする上において好適である。
【0112】
これにより、作業地での移動経路を長くすることに応じて、作業車両を作業状態で自動走行させる並列経路が短くなり、これに起因して、例えば、並列経路の生成領域(作業領域)が畑作領域である場合に、作付面積が狭くなって作物の収穫量が減少する不都合、又は、並列経路の生成領域が作業車両を往復走行させる往復作業領域であり、移動経路の生成領域が作業車両を周回走行させる周回作業領域である場合に、周回作業領域での作業車両の周回数が多くなって作業効率が低下する不都合、などの発生を防止することができる。
【0113】
その結果、収穫量の減少や作業効率の低下などを招くことなく、作業車両を作業状態で並列経路に従って精度良く自動走行させることができ、自動走行による作業車両の作業精度を高めることができる。
【0114】
本発明の第2特徴構成は、
前記自動切り返し走行制御における前記作業車両の走行可能領域を、前記進入領域と、前記並列経路での前記作業車両の走行方向において前記進入領域を挟んだ走行方向上手側領域と走行方向下手側領域とから選択する走行領域選択部を有している点にある。
【0115】
本構成によれば、例えば、進入領域が並列経路の始端位置を含む所定領域である場合は、走行方向上手側領域は並列経路の始端位置よりも走行方向上手側の枕地領域に含まれることになり、走行方向下手側領域は並列経路が配置された作業領域に含まれることになる。
【0116】
この場合に、作業車両の作業内容が、作業車両が走行方向下手側領域に入り込んで切り返し走行しても、その後の走行方向下手側領域での作業に影響を受け難い耕耘作業などであれば、少なくとも進入領域に加えて走行方向下手側領域を走行可能領域に選択することができる。これにより、走行可能領域を広くして走行可能領域における作業車両の切り返し走行を行い易くすることができ、走行可能領域において第1自動走行制御の開始条件を成立させ易くすることができる。
【0117】
逆に、作業車両の作業内容が、作業車両が走行方向下手側領域に入り込んで切り返し走行すると、その後の走行方向下手側領域での作業に影響を受け易い播種作業や苗移植作業などであれば、進入領域と走行方向上手側領域とを走行可能領域に選択して、走行方向下手側領域を走行可能領域から外すことができる。これにより、走行方向下手側領域にて作業車両が切り返し走行することに起因した作業精度の低下を回避しながら、走行可能領域を広くして走行可能領域における作業車両の切り返し走行を行い易くすることができ、走行可能領域において第1自動走行制御の開始条件を成立させ易くすることができる。
【0118】
一方、例えば、進入領域が並列経路における第1自動走行制御の中断位置を含む所定領域である場合は、走行方向上手側領域は中断位置よりも走行方向上手側の既作業領域に含まれることになり、走行方向下手側領域は中断位置よりも走行方向下手側の未作業領域に含まれることになる。
【0119】
この場合に、作業車両の作業内容が収穫作業であれば、進入領域と走行方向上手側領域とを走行可能領域に選択して、走行方向下手側領域を走行可能領域から外すことができる。これにより、走行方向下手側領域にて作業車両が切り返し走行することで未収穫物が踏み倒される不都合の発生を回避しながら、走行可能領域を広くして走行可能領域における作業車両の切り返し走行を行い易くすることができ、走行可能領域において第1自動走行制御の開始条件を成立させ易くすることができる。
【0120】
又、作業車両の作業内容が耕耘作業などであれば、進入領域と走行方向下手側領域とを走行可能領域に選択して、走行方向上手側領域を走行可能領域から外すことができる。これにより、走行方向上手側領域にて作業車両が切り返し走行することで既作業地が踏み荒らされる不都合の発生を回避しながら、走行可能領域を広くして走行可能領域における作業車両の切り返し走行を行い易くすることができ、走行可能領域において第1自動走行制御の開始条件を成立させ易くすることができる。
【0121】
つまり、作業車両の作業内容などに適した走行可能領域を設定することができ、これにより、作業車両による作業に支障を来たすことなく、走行可能領域での作業車両の切り返し走行を行い易くすることができ、第1自動走行制御の開始条件を成立させ易くすることができる。
【0122】
本発明の第3特徴構成は、
前記自動切り返し走行制御においては、前記走行可能領域における前記作業車両の複数回の切り返し走行が可能に設定されている点にある。
【0123】
本構成によれば、進入領域のみが走行可能領域に選択されて走行可能領域が狭くなった場合においても、走行可能領域での作業車両の切り返し走行によって第1自動走行制御の開始条件を確実に成立させることができる。
【0124】
本発明の第4特徴構成は、
前記自動走行制御部は、前記自動切り返し走行制御による前記作業車両の切り返し走行において、前記条件判定部にて前記第1自動走行制御の開始条件が成立したと判定された場合に、前記自動切り返し走行制御から前記第1自動走行制御に遷移する点にある。
【0125】
本構成によれば、自動切り返し走行制御による作業車両の切り返し走行によって第1自動走行制御の開始条件が成立した場合には、その開始条件の成立に伴って、作業車両が、直ちに並列経路に対する振れ幅の小さい精度の高い状態で、並列経路に従って自動走行しながら作業を行うようになる。その結果、作業効率の向上を図りながら、作業精度の向上を図ることができる。
【0126】
本発明の第5特徴構成は、
前記自動走行制御部は、前記並列経路から外れた前記作業車両の待機位置と、複数の前記並列経路のうちの前記作業車両の走行順位が一番目に設定された並列経路の始端位置とにわたる移動経路に従って前記作業車両を非作業状態で自動走行させる自動移動制御を実行し、
前記進入領域設定部は、前記自動移動制御においては、前記始端位置を含む所定領域を前記一番目の並列経路に対する前記進入領域に設定する点にある。
【0127】
本構成によれば、作業車両を待機位置に位置させた後に自動走行を開始させるようにすれば、自動走行制御部が自動移動制御を実行して、作業車両を、移動経路に従って待機位置から進入領域に向けて非作業状態で自動走行させる。そして、この自動走行において作業車両が進入領域に達した時点において、第1自動走行制御の開始条件が成立している場合は、自動走行制御部が、第1自動走行制御を実行して作業車両を作業状態で並列経路に従って自動走行させる。又、第1自動走行制御の開始条件が成立していない場合には、自動走行制御部が、第1自動走行制御を実行せずに自動切り返し走行制御を実行して作業車両を切り返し走行させる。そして、この切り返し走行で第1自動走行制御の開始条件が成立した場合には、自動走行制御部が、第1自動走行制御を実行して作業車両を作業状態で並列経路に従って自動走行させる。
【0128】
つまり、並列経路に加えて待機位置から並列経路の始端位置にわたる移動経路においても、作業車両を精度良く自動走行させることができる。これにより、ユーザは待機位置から並列経路の始端位置まで作業車両を手動走行させる必要がなくなり、ユーザにかかる負担を軽減することができる。
【0129】
本発明の第6特徴構成は、
前記自動走行制御部は、複数の前記並列経路を前記作業車両の走行順に接続する接続経路に従って前記作業車両を自動走行させる第2自動走行制御を実行し、
前記進入領域設定部は、前記第2自動走行制御においては、前記接続経路に接続される並列経路の始端位置を含む所定領域を前記進入領域に設定する点にある。
【0130】
本構成によれば、自動走行制御部は、作業車両が第2自動走行制御による自動走行で進入領域に達した時点において、第1自動走行制御の開始条件が成立している場合には、第1自動走行制御を実行して作業車両を作業状態で並列経路に従って自動走行させる。又、自動走行制御部は、第1自動走行制御の開始条件が成立していない場合には、第1自動走行制御を実行せずに自動切り返し走行制御を実行して作業車両を切り返し走行させる。そして、この切り返し走行で第1自動走行制御の開始条件が成立した場合には、自動走行制御部は、第1自動走行制御を実行して作業車両を作業状態で並列経路に従って自動走行させる。
【0131】
つまり、作業車両を、各接続経路を介して走行順に接続された複数の並列経路に従って、各並列経路に対する振れ幅の小さい精度の高い状態で良好に自動走行させることができる。これにより、ユーザは並列経路の終端位置から次の並列経路の始端位置まで作業車両を手動走行させる必要がなくなり、ユーザにかかる負担を軽減することができる。
【0132】
本発明の第7特徴構成は、
前記進入領域設定部は、前記第1自動走行制御が中断された場合には、前記並列経路における前記第1自動走行制御の中断位置を含む所定領域を前記進入領域に設定する点にある。
【0133】
本構成によれば、例えば、作業車両がコンバインなどの収穫作業車両である場合には、収穫物が満杯になったときに、第1自動走行制御を中断して、作業車両を所定の排出位置まで移動させて収穫物を排出させた後、作業車両を第1自動走行制御の中断位置を含む進入領域まで移動させて自動走行を再開させるようにすれば、この時点において、第1自動走行制御の開始条件が成立している場合には、自動走行制御部が第1自動走行制御を実行して、作業車両を第1自動走行制御の中断位置から作業状態で並列経路に従って自動走行させる。又、第1自動走行制御の開始条件が成立していない場合には、自動走行制御部が自動切り返し走行制御を実行して、中断位置を含む進入領域において作業車両を切り返し走行させる。そして、この切り返し走行で第1自動走行制御の開始条件が成立した場合には、自動走行制御部が、第1自動走行制御を実行して作業車両を作業状態で並列経路に従って自動走行させる。
【0134】
つまり、作業車両を第1自動走行制御の中断位置に復帰させて作業車両の自動走行を再開させる場合においても、並列経路に対する振れ幅の小さい精度の高い状態で良好に自動走行を再開させることができる。
【0135】
発明の第1態様に係る作業車両用の自動走行システムは、目標経路に従って作業車両の自動走行を開始する際に、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差が所定角度以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差を小さくするように自動走行の開始支援制御を行う。
【0136】
本発明の第2態様に係る作業車両用の自動走行システムは、作業車両が目標経路に対して自動走行を開始する際に、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差が所定値以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差を小さくするように自動走行の開始支援制御を行う。
【0137】
本発明の第3態様に係る作業車両の制御方法は、目標経路に従って作業車両の自動走行を開始する際に、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差が所定角度以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の角度偏差を小さくするように自動走行の開始支援制御を行う。
【0138】
本発明の第4態様に係る作業車両の制御方法は、作業車両が目標経路に対して自動走行を開始する際に、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差が所定値以上の場合には、前記目標経路に対する前記作業車両の横方向偏差を小さくするように自動走行の開始支援制御を行う。
【符号の説明】
【0139】
1 作業車両
23F 自動走行制御部
23Fa 進入領域設定部
23Fb 偏差検出部
23Fc 条件判定部
23Fd 走行領域選択部
42 測位部
Aa 進入領域
Ab 走行方向上手側領域
Ac 走行方向下手側領域
P1 並列経路
P2 接続経路
Rm 移動経路
p0 待機位置
p3 始端位置
Δθ 角度偏差
Δd 横方向偏差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10