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特開2023-174749道路構造物の状態監視システム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174749
(43)【公開日】2023-12-08
(54)【発明の名称】道路構造物の状態監視システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20231201BHJP
   G08G 1/13 20060101ALI20231201BHJP
   G16Y 10/40 20200101ALI20231201BHJP
   G16Y 20/20 20200101ALI20231201BHJP
   G16Y 40/20 20200101ALI20231201BHJP
【FI】
G08G1/00 K
G08G1/13
G16Y10/40
G16Y20/20
G16Y40/20
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172895
(22)【出願日】2023-10-04
(62)【分割の表示】P 2021093093の分割
【原出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】弁理士法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川森 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉 嘉将
(72)【発明者】
【氏名】竹田 圭一
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181CC02
5H181CC04
5H181CC11
5H181FF04
5H181FF10
5H181FF13
5H181FF27
5H181MC12
5H181MC16
5H181MC19
5H181MC27
(57)【要約】
【課題】管理コストの小さい道路構造物の状態監視システムを提供する。
【解決手段】道路構造物状態推定システムは、複数の車両100と、蓄積サーバ200と、道路構造物状態推定装置300とを備える。車両100は、一つ以上の車載センサ110と、自身の位置を検出する位置検出部120と、前記車載センサ110により検出した検出データ及び検出データを所定のルールで処理した処理データの何れか一方又は双方を特徴データとして且つ位置情報を付加して移動体通信網500を介して蓄積サーバ200に送信する特徴データ送信部150を備える。道路構造物状態推定装置300の状態推定部140は、蓄積サーバ200に蓄積された複数の特徴データ及び位置情報に基づき道路構造物の状態を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された一つ以上の車載センサと、
前記車両に設けられた自身の位置を検出する位置検出装置と、
前記車両に設けられ、前記車載センサにより検出した検出データ及び検出データを所定のルールで処理した処理データの何れか一方又は双方を特徴データとして且つ位置情報を付加して移動体通信網を介して外部に送信する送信手段と、
複数台の前記車両の送信手段から送信された特徴データ及び位置情報を蓄積する蓄積サーバと、
前記蓄積された複数の特徴データ及び位置情報に基づき道路構造物の状態を推定する道路構造物状態推定装置とを備え、
前記車載センサは、走行時の音を検出するマイクを含み、
前記送信手段は、前記マイクにより検出した音に対してタイヤと路面との接触により発生する定常的な走行音を除去したものに基づき橋梁における溶接き裂により生じた異音の発生を検出し、異音発生した旨を特徴データとして且つ位置情報を付加して外部に送信し、
前記道路構造物状態推定装置は、前記特徴データの頻度に基づき当該特徴データに係る位置において溶接き裂という異常発生又は異常発生の予兆を推定する
ことを特徴とする道路構造物の状態監視システム。
【請求項2】
前記送信手段は、前記マイクにより検出した音に対してタイヤと路面との接触により発生する定常的な走行音を除去したものに基づき、溶接き裂により生じたクラック部の軋み音又は溶接き裂により生じた空隙からの反射音を異音として検出する
ことを特徴とする請求項1記載の道路構造物の状態監視システム。
【請求項3】
前記道路構造物状態推定装置は、道路構造物に含まれる所定の構造要素の位置についての特徴データについては処理対象外とする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の道路構造物の状態監視システム。
【請求項4】
車両に搭載された一つ以上の車載センサと、
前記車両に設けられた自身の位置を検出する位置検出装置と、
前記車両に設けられ、前記車載センサにより検出した検出データ及び検出データを所定のルールで処理した処理データの何れか一方又は双方を特徴データとして且つ位置情報を付加して移動体通信網を介して外部に送信する送信手段と、
複数台の前記車両の送信手段から送信された特徴データ及び位置情報を蓄積する蓄積サーバと、
前記蓄積された複数の特徴データ及び位置情報に基づき道路構造物の状態を推定する道路構造物状態推定装置とを備え、
前記車載センサは、路面と直交する方向の車両の加速度を検出する加速度センサと、外気温を検出する外気温センサとを含み、
前記送信手段は、加速度が所定の閾値を超えると当該閾値の発生時の前後所定期間における加速度並びに外気温を特徴データとして且つ位置情報を付加して外部に送信し、
前記道路構造物状態推定装置は、加速度と外気温との相関性に基づき、橋梁の伸縮装置遊間の異常という異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定する
ことを特徴とする道路構造物の状態監視システム。
【請求項5】
前記車載センサは、車両の進行方向の速度を検出する速度センサを含み、
前記送信手段は前記加速度とともに速度を送信し、
前記道路構造物状態推定装置における推定処理では、速度に基づき加速度を補正する
ことを特徴とする請求項4記載の道路構造物の状態監視システム。
【請求項6】
車両に搭載された一つ以上の車載センサと、
前記車両に設けられた自身の位置を検出する位置検出装置と、
前記車両に設けられ、前記車載センサにより検出した検出データ及び検出データを所定のルールで処理した処理データの何れか一方又は双方を特徴データとして且つ位置情報を付加して移動体通信網を介して外部に送信する送信手段と、
複数台の前記車両の送信手段から送信された特徴データ及び位置情報を蓄積する蓄積サーバと、
前記蓄積された複数の特徴データ及び位置情報に基づき道路構造物の状態を推定する道路構造物状態推定装置とを備え、
前記車載センサは、タイヤの空気圧を検出するタイヤ空気圧センサと、外気温を検出する外気温センサとを含み、
前記送信手段は、タイヤ空気圧が所定の閾値を超えると当該閾値の発生時の前後所定期間におけるタイヤ空気圧並びに外気温を特徴データとして且つ位置情報を付加して外部に送信し、
前記道路構造物状態推定装置は、加タイヤ空気圧と外気温との相関性に基づき、橋梁の伸縮装置遊間の異常という異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定する
ことを特徴とする道路構造物の状態監視システム。
【請求項7】
前記道路構造物状態推定装置は、前記特徴データの経時的変化に基づき、異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定する
ことを特徴とする請求項1乃至6何れか1項記載の道路構造物の状態監視システム。
【請求項8】
前記道路構造物状態推定装置は、過去に発生した道路構造物の異常についての所定の期間及び所定の位置範囲における前記特徴データを比較対象とし、異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定する
ことを特徴とする請求項1乃至7何れか1項記載の道路構造物の状態監視システム。
【請求項9】
前記特徴データは、車両の走行時における車両の挙動に関する車両特徴データと、車両の周囲の環境に関する環境特徴データとを含み、
前記道路構造物状態推定装置は、車両特徴データと環境特徴データとの相関性に基づき、異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定する
ことを特徴とする請求項1乃至8何れか1項記載の道路構造物の状態監視システム。
【請求項10】
一つ以上の車載センサと自身の位置を検出する位置検出装置とを有する複数の車両が、それぞれ前記車載センサにより検出した検出データ及び検出データを所定のルールで処理した処理データの何れか一方又は双方を特徴データとして且つ位置情報を付加して移動体通信網を介して外部に送信するデータ送信ステップと、
前記複数台の車両から送信された特徴データ及び位置情報を蓄積サーバが蓄積するデータ蓄積ステップと、
道路構造物状態推定装置が、前記蓄積された複数の特徴データ及び位置情報に基づき道路構造物の状態を推定する推定ステップとを備え、
前記車載センサは、走行時の音を検出するマイクを含み、
前記データ送信ステップでは、前記マイクにより検出した音に対してタイヤと路面との接触により発生する定常的な走行音を除去したものに基づき橋梁における溶接き裂により生じた異音の発生を検出し、異音発生した旨を特徴データとして且つ位置情報を付加して外部に送信し、
前記推定ステップでは、前記特徴データの頻度に基づき当該特徴データに係る位置において溶接き裂という異常発生又は異常発生の予兆を推定する
ことを特徴とする道路構造物の状態監視方法。
【請求項11】
一つ以上の車載センサと自身の位置を検出する位置検出装置とを有する複数の車両が、それぞれ前記車載センサにより検出した検出データ及び検出データを所定のルールで処理した処理データの何れか一方又は双方を特徴データとして且つ位置情報を付加して移動体通信網を介して外部に送信するデータ送信ステップと、
前記複数台の車両から送信された特徴データ及び位置情報を蓄積サーバが蓄積するデータ蓄積ステップと、
道路構造物状態推定装置が、前記蓄積された複数の特徴データ及び位置情報に基づき道路構造物の状態を推定する推定ステップとを備え、
前記車載センサは、路面と直交する方向の車両の加速度を検出する加速度センサ又はタイヤの空気圧を検出するタイヤ空気圧センサと、外気温を検出する外気温センサとを含み、
前記データ送信ステップでは、加速度又はタイヤ空気圧が所定の閾値を超えると当該閾値の発生時の前後所定期間における加速度又はタイヤ空気圧並びに外気温を特徴データとして且つ位置情報を付加して外部に送信し、
前記推定ステップでは、加速度又はタイヤ空気圧と外気温との相関性に基づき、橋梁の伸縮装置遊間の異常という異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定する
ことを特徴とする道路構造物の状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路構造物の状態を監視し、道路構造物の異常発生や異常発生の予兆を検出するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路構造物の状態を監視するシステムとしては、道路構造物にセンサを付設し、このセンサによる検出信号を定期的に取得するモニタリングシステムが知られている(特許文献1参照)。例えば、橋梁のモニタリングシステムでは、支承、伸縮装置、主桁等にセンサを取り付ける。使用するセンサは、変位系、加速度計、ひずみゲージ等が一般的である。このようなモニタリングシステムでは、道路構造物の点検作業のために管理者が現場に赴く頻度を削減して管理コストを軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-79544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のシステムを適切に運用するには、道路構造物に付設したセンサ類の点検や交換を定期的に行う必要があるが、センサ類の寿命は道路構造物自体の寿命よりもはるかに短い。したがって、管理者は道路構造物の点検作業を行う必要はなくてもセンサ類の点検作業のために現場に定期的に赴く必要がある。このため、管理コストの軽減効果は大きくないものとなる。また、そもそもセンサ類の点検作業のために現場に定期的に赴くのならば、その際に道路構造物の点検作業を行ってしまうという運用も考えられる。すなわち、上記の従来のシステムは、遠隔で道路構造物のモニタリングができるという意義はあるものの、保守・運用面からはコスト削減の効果が小さいものとなる。
【0005】
また、道路構造物は全国に広く分布しており且つその管理者も様々である。このため、全国の道路構造物の全てにセンサ類を設置し且つセンサ類の定期的な点検作業を行うことは現実的ではない。このため、監視対象とすることができる道路構造物数は現実的には限られたものとなる。一般的に道路構造物は頑丈に構築されていることから、監視対象となっている特定の道路構造物が損傷して当該道路構造物から損傷時のデータを取得できる確率はきわめて小さい。このように、損傷時のデータを取得することが困難であるため、モニタリングにおいて異常状態の発生を判断するための判定ロジックを構築することが困難である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、管理コストの小さい道路構造物の状態監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本願発明に係る道路構造物の状態監視システムは、車両に搭載された一つ以上の車載センサと、前記車両に設けられた自身の位置を検出する位置検出装置と、前記車両に設けられ、前記車載センサにより検出した検出データ及び検出データを所定のルールで処理した処理データの何れか一方又は双方を特徴データとして且つ位置情報を付加して移動体通信網を介して外部に送信する送信手段と、複数台の前記車両の送信手段から送信された特徴データ及び位置情報を蓄積する蓄積サーバと、前記蓄積された複数の特徴データ及び位置情報に基づき道路構造物の状態を推定する道路構造物状態推定装置とを備え、前記車載センサは、走行時の音を検出するマイクを含み、前記送信手段は、前記マイクにより検出した音に対してタイヤと路面との接触により発生する定常的な走行音を除去したものに基づき橋梁における溶接き裂により生じた異音の発生を検出し、異音発生した旨を特徴データとして且つ位置情報を付加して外部に送信し、前記道路構造物状態推定装置は、前記特徴データの頻度に基づき当該特徴データに係る位置において溶接き裂という異常発生又は異常発生の予兆を推定することを特徴とする。
また、本願発明に係る道路構造物の状態監視システムは、車両に搭載された一つ以上の車載センサと、前記車両に設けられた自身の位置を検出する位置検出装置と、前記車両に設けられ、前記車載センサにより検出した検出データ及び検出データを所定のルールで処理した処理データの何れか一方又は双方を特徴データとして且つ位置情報を付加して移動体通信網を介して外部に送信する送信手段と、複数台の前記車両の送信手段から送信された特徴データ及び位置情報を蓄積する蓄積サーバと、前記蓄積された複数の特徴データ及び位置情報に基づき道路構造物の状態を推定する道路構造物状態推定装置とを備え、前記車載センサは、路面と直交する方向の車両の加速度を検出する加速度センサと、外気温を検出する外気温センサとを含み、前記送信手段は、加速度が所定の閾値を超えると当該閾値の発生時の前後所定期間における加速度並びに外気温を特徴データとして且つ位置情報を付加して外部に送信し、前記道路構造物状態推定装置は、加速度と外気温との相関性に基づき、橋梁の伸縮装置遊間の異常という異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両に設けられた車載センサにより検出した検出データ及び検出データを所定のルールで処理した処理データの何れか一方又は双方が、特徴データとして位置情報ととともに蓄積サーバに蓄積される。そして、道路構造物状態推定装置により、複数の特徴データ及び位置情報に基づき道路構造物の状態が推定される。
【0009】
車両には種々のセンサが搭載されており、特に近年はその種類や数が多くなってきている。また近年は無線通信機能を搭載して外部とのデータ通信が可能な車両が多数登場してきている。本願発明では、このような車両を用いて特徴データを収集・蓄積し、この蓄積した特徴データを解析することにより道路構造物の状態を推定する。これにより、センサ類を道路構造物に付設することなく、全国の広い範囲から道路構造物に係る特徴データを取得・蓄積することができる。したがって、道路構造物の状態監視を小さい管理コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】道路構造物状態監視システムのシステム構成図
図2】車両の機能ブロック図、
図3】道路構造物状態推定装置の機能ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る道路構造物状態監視システムについて図面を参照して説明する。図1は道路構造物状態監視システムのシステム構成図、図2は車両の機能ブロック図、図3は道路構造物状態推定装置の機能ブロック図である。
【0012】
道路構造物状態監視システムは、図1に示すように、複数の車両100からデータを取得して蓄積する蓄積サーバ200と、道路構造物状態推定装置300とを備えている。
【0013】
車両100は、ネットワークを介して蓄積サーバ200とデータ通信可能に構成されている。車両100と蓄積サーバ200との間のネットワーク、すなわち通信経路の種別や実装形態等は不問である。車両100と蓄積サーバ200との間のネットワーク、すなわち通信経路は、車両100毎に異なっていてもよい。車両100と蓄積サーバ200との間のネットワーク、すなわち通信経路は、車両100の移動とともに変更されてもよい。本実施の形態では、各車両100は移動体通信網500に収容されており、各車両100は移動体通信網500及びインターネット400を介して蓄積サーバ200とデータ通信可能に構成されている。
【0014】
蓄積サーバ200及び道路構造物状態推定装置300は、ネットワーク上に互いにデータ通信可能に配置されている。ネットワークの種別や実装形態等は不問である。また、蓄積サーバ200及び道路構造物状態推定装置300は、互いに異なるネットワークに配置されていてもよいし、同じネットワークに配置されていてもよい。蓄積サーバ200は、複数設けられていてもよい。本実施の形態では、蓄積サーバ200及び道路構造物状態推定装置300は、インターネット400に配置されている。換言すれば、蓄積サーバ200及び道路構造物状態推定装置300は、クラウドサーバとして実装されている。本システムの利用者はローカルネットワークに配置した利用者端末600を用いて道路構造物状態推定装置300や蓄積サーバ200にアクセスすることができる。他の例では、蓄積サーバ200は、移動体通信網500に配置されていてもよい。この場合、蓄積サーバ200は、移動体通信網500におけるエッジサーバとして実装することができる。また、他の例では、道路構造物状態推定装置300は利用者のローカルネットワークに配置されている。
【0015】
図2に示すように、車両100は、複数種類の車載センサ110と、位置検出部120と、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信装置130と、検出データ処理部140と、特徴データ送信部150と、通信装置160とを備えている。
【0016】
車載センサ110は、車両の各部の種々の挙動や車両の周囲環境の状態を検知するセンサである。本発明において車載センサとは、単機能のセンサ素子だけでなく、互いに機能が異なる複数のセンサ素子を組み合わせたものや、センサとして機能させるために必要な各種回路を備えたものを含むものである。車載センサ110としては、例えば、加速度センサ、角速度センサ、光センサ、赤外線センサ、振動検知センサ、歪み検出センサ、画像撮像用のカメラ、音を検出するマイク、超音波センサ、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)など種々のものが上げられる。本発明における車載センサ110は、車両100に当該車両100の運行用として既に装備されているセンサと兼用することができる。例えば、アクティブ・サスペンションで用いられる加速度センサ、車速センサ、エアバッグで用いられる加速度センサ、空気調和装置用の外気温センサ、前方や後方を監視するカメラ、タイヤ内蔵の加速度センサや空気圧センサなど種々のセンサを用いることができる。
【0017】
位置検出部120は、車両100の現在位置を検出する。位置検出部120による位置検出の手法は種々のものを用いることができる。図2に示す例では、位置検出部120は、GNSS受信装置130により測位した位置情報を取得し、この位置情報を用いて現在位置を検出することができる。位置検出部120は、1つ以上の車載センサ110による検出データや通信装置160から取得した位置データを用い、GNSS受信装置130により測位した位置情報に対して補正を行うことができる。
【0018】
GNSS受信装置130は、衛星測位システムに係る周知の装置であり、測位衛星から受信した信号に基づき現在位置を検出する。またGNSS受信装置130は、測位衛星から受信した信号に基づき現在時刻を検出する。
【0019】
検出データ処理部140は、任意の車載センサ110が検出した検出データを所定のルールで処理することにより処理データを生成する。ここで所定のルールは監視対象物や監視形態に応じて任意に設定することができる。例えば、処理データは、任意の車載センサ110からの検出データに対して処理した当該検出データに対応した1つ又は複数のデータとすることができる。また、処理データは、複数の車載センサ110からの検出データに対して処理した1つのデータとすることができる。また、処理データは、任意の車載センサ110から経時的に取得した複数の検出データに対して処理した1つ又は複数のデータとすることができる。処理データは、連続的な値であってもよいし、例えばオン・オフなどの離散的な値であってもよい。
【0020】
特徴データ送信部150は、任意の車載センサ110からの検出データ及び検出データ処理部140により生成された処理データの何れか一方又は双方を特徴データとし、さらに当該特徴データに位置検出部120で検出した車両100の位置情報を付加して蓄積サーバ200に対して送信する。特徴データの送信タイミングは監視対象物や監視形態に応じて、また前記検出データ処理部140による処理データの生成タイミングに応じて、任意に設定することができる。例えば、特徴データ送信部150は、車載センサ110や検出データ処理部140においてデータが生じるごとにリアルタイムで蓄積サーバ200に特徴データを送信してもよい。また例えば、特徴データ送信部150は、車載センサ110や検出データ処理部140において生じたデータを一定期間又は一定容量一時記憶しておき、一定期間経過後又は一定容量到達後に蓄積サーバ200に特徴データをまとめて送信してもよい。また、特徴データ送信部150は、特徴テータに対して更にデータ生成時又はデータ送信時の時刻情報を付加することができる。
【0021】
上述のように検出データ処理部140及び特徴データ送信部150の処理は監視対象物や監視形態に応じて任意に設定することができる。検出データ処理部140及び特徴データ送信部150の処理の具体例については後述の実施例において詳述する。
【0022】
通信装置160は、移動体通信網500に接続するための装置である。通信装置160は、蓄積サーバ200との間の通信経路となるネットワークに応じて、複数の装置を備えることができる。いくつかの実施例では、通信装置160は、移動体通信網500から位置情報を取得することができる。
【0023】
蓄積サーバ200は、主演算装置・主記憶装置・補助記憶装置(ストレージ)・入出力装置・通信装置等を備えた周知の情報処理装置からなる。蓄積サーバ200の実装形態は不問であり、専用のハードウェアにより実装してもよいし、汎用のコンピュータにプログラムをインストールすることにより実装してもよい。また、蓄積サーバ200は、複数の装置に分散して実装してもよい。本実施の形態では、蓄積サーバ200はインターネット400上のクラウドサーバとして実装されている。
【0024】
蓄積サーバ200は、特徴データ及び位置情報並びに時刻情報を車両100から受信して所定のストレージに蓄積する。車両100から受信したデータに時刻情報が含まれない場合、蓄積サーバ200は、車両100からのデータ受信時を時刻情報として、受信した特徴データ及び位置情報とともに所定のストレージに蓄積することができる。蓄積サーバ200は、蓄積したデータを道路構造物状態推定装置300から参照可能にしている。
【0025】
道路構造物状態推定装置300は、主演算装置・主記憶装置・補助記憶装置(ストレージ)・入出力装置・通信装置等を備えた周知の情報処理装置からなる。道路構造物状態推定装置300の実装形態は不問であり、専用のハードウェアにより実装してもよいし、汎用のコンピュータにプログラムをインストールすることにより実装してもよい。また、道路構造物状態推定装置300は、複数の装置に分散して実装してもよい。本実施の形態では、道路構造物状態推定装置300はインターネット400上のクラウドサーバとして実装されている。利用者は、ローカルネットワークに配置した利用者端末600を用いて道路構造物状態推定装置300にアクセスすることができる。
【0026】
図3に示すように、蓄積データ取得部310と、道路構造物情報記憶部320と、事例情報記憶部330と、状態推定部340とを備えている。
【0027】
蓄積データ取得部310は、蓄積サーバ200から蓄積データを取得する。蓄積データ取得部310は、任意の道路構造物についてのデータのみを蓄積サーバ200から取得することができる。この場合、蓄積データ取得部310は、道路構造物情報記憶部320から当該道路構造物の位置情報を取得し、当該位置情報を用いて蓄積サーバ200から蓄積データを抽出することができる。取得対象となる道路構造物は、予め設定してもよいし、利用者により都度設定してもよい。
【0028】
道路構造物情報記憶部320は、道路構造物に関する種々の情報を記憶する。道路構造物情報記憶部320に記憶する情報は、利用者により入力されてもよいし、外部から取得して入力してもよい。道路構造物情報記憶部320に記憶する情報は、道路構造物の位置情報を含むことができる。また、道路構造物情報記憶部320に記憶する情報は、例えば閾値など道路構造物の異常推定に用いられる推定用パラメータを含むことができる。
【0029】
事例情報記憶部330は、過去に発生した道路構造物の異常についての所定の期間及び所定の位置範囲における特徴データ(以下「事例データ」と言う)を記憶する。事例データは、状態推定部340において参照される。事例データは、利用者により入力されてもよいし、蓄積サーバ200などの外部から取得して入力してもよい。なお、本実施の形態では、事例情報記憶部330は、過去に発生した道路構造物の異常についての事例データを記憶しているが、蓄積サーバ200に蓄積されたデータから過去に発生した道路構造物の異常についての事例データを抽出するのに必要な情報を記憶するようにしてもよい。
【0030】
状態推定部340は、蓄積サーバ200に蓄積されたデータを解析することにより道路構造物の状態を推定する。データ解析手法としては種々のものを用いることができる。また、状態推定部340は、蓄積サーバ200に蓄積された特徴データを監視し、当該特徴データが通常の(正常時の)パターンとは異なる挙動を検出することにより、異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定する。異常推定手法としては種々のものを用いることができる。例えば、状態推定部340は、外れ値検出、変化点検出、異常部位検出などの周知の異常判定ロジックを用いることができる。また例えば、状態推定部340は、いわゆる人工知能の分野における解析技術を用いて異常判定等を行うことができる。状態推定部340は、状態推定処理のために事例情報記憶部330に記憶された情報を参照することができる。状態推定部340は、事例情報記憶部330に記憶された情報に基づき機械学習を行い、この機械学習された推定エンジンとして実装することができる。
【0031】
いくつかの実施例では、状態推定部340は、前記特徴データの経時的変化に基づき、異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定する。
【0032】
いくつかの実施例では、状態推定部340は、過去に発生した道路構造物の異常についての所定の期間及び所定の位置範囲における事例データを比較対象とし、異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定する。
【0033】
いくつかの実施例では、特徴データが、車両の走行時における車両の挙動に関する車両特徴データと、車両の周囲の環境に関する環境特徴データとを含み、状態推定部340は、車両特徴データと環境特徴データとの相関性に基づき、異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定する。
【0034】
状態推定部340は、道路構造物の異常発生を検出又は異常発生の予兆を検出すると、当該異常発生した時刻又は異常発生が予測される時刻、およびその位置情報を推定結果として出力する。また、状態推定部340は、道路構造物の異常発生を検出又は異常発生の予兆を検出すると、利用者に対して通知を行うことができる。
【0035】
本実施の形態に係る道路構造物状態監視システムによれば、車両100に設けられた車載センサ110により検出した検出データ及び検出データを所定のルールで処理した処理データの何れか一方又は双方が、特徴データとして位置情報ととともに蓄積サーバ200に蓄積される。そして、道路構造物状態推定装置300により、複数の特徴データ及び位置情報に基づき道路構造物の状態が推定される。このように、センサ類を道路構造物に付設することなく、全国の広い範囲から道路構造物に係る特徴データを取得・蓄積しているので、道路構造物の状態監視を小さい管理コストで実現することができる。
【0036】
以上、本発明の一実施の形態について詳述したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよい。
【0037】
例えば、上記実施の形態では、車両100は、車載センサ110からの検出データに対して所定のルールで処理を行う検出データ処理部140を備えているが、この検出データ処理部140を省略してもよい。この場合、特徴データ送信部150は、車載センサ110からの検出データを特徴データとして蓄積サーバ200に送信する。
【0038】
また、上記実施の形態では、蓄積サーバ200と道路構造物状態推定装置300とは互いに異なる装置として実装しているが、両者を一体の装置として実装してもよい。
【0039】
また、道路構造物状態監視システムの利用者の利用者端末600は、利用者とともに携帯される移動通信端末であってもよい。また、利用者端末600は、何れかの車両100に配置されていてもよい。
【実施例0040】
本実施例は、橋梁における溶接き裂を検出するものである。
【0041】
本実施例では、車載センサ110としてタイヤ内蔵のマイクを用いる。検出データ処理部140は、前記マイクにより検出した音に対してタイヤと路面との接触により発生する定常的な走行音を除去したものに基づき異音の発生を検出し、異音発生した旨を処理データとする。より具体的には、検出データ処理部140は、タイヤ1回転前の走行音との差分を取ることにより車両100由来の音を取り除く。これにより、検出データ処理部140は、溶接クラック部の軋み音やRC(Reinforced Concrete)床版空隙からの反射音など、道路構造物由来の「異音」を検出できる。特徴データ送信部150は、「異音」を検出すると、その旨を特徴データとして位置情報とともに蓄積サーバ200に送信する。なお、差分は1回転前との差分に限らず、数回転前や過去数回転の平均値との差分であってもよい。
【0042】
道路構造物状態推定装置300の状態推定部340は、前記特徴データの頻度に基づき当該特徴データに係る位置において「橋梁における溶接き裂」という異常発生又は異常発生の予兆を推定する。ここで、状態推定部340は、道路構造物に含まれる所定の構造要素の位置における特徴データについては処理対象外とする。所定の構造要素か否かは予め道路構造物情報記憶部320に記憶しておき、この情報を参照すればよい。これにより、「異音」が発生するものである橋梁の伸縮装置やマンホールなど既知の特異点を除去することできる。
【0043】
なお、車両100の走行音を検出する車載センサ110として、タイヤ内蔵のマイクにかえて、車両100のフレーム等に設けたマイクや、車両100のフレーム等の設けた振動センサなど他のセンサを用いてもよい。
【実施例0044】
本実施例は、橋梁における伸縮装置遊間異常を検出するものである。
【0045】
本実施例では、車載センサ110として、路面と直交する方向の車両100の加速度を検出する加速度センサ、車両100の進行方向の速度を検出する速度センサ、車両100の外気温を検出する外気温センサを用いる。加速度センサは、車両100に設けられているエアバッグ用の加速度センサと兼用することができる。速度センサは、車両100に設けられている車速センサと兼用することができる。外気温センサは、車両100の空気調和装置用の外気温センサと兼用することができる。
【0046】
検出データ処理部140は、加速度センサによる検出データを所定の時間分記録しながら監視し、大きな加速度を検知した場合にその前後の加速度データを処理データとして出力する。特徴データ送信部150は、検出データ処理部140が処理データを出力した際に、速度センサの検出データ及び外気温センサの検出データを処理データに付加して特徴データとし、当該特徴データを位置情報とともに蓄積サーバ200に送信する。
【0047】
可動支承が損傷した場合、外気温と加速度の関係が変化すると考えられる。そこで、道路構造物状態推定装置300の状態推定部340は、加速度と外気温の相関性の変化に基づき、「伸縮装置遊間の異常」という異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定する。ここで、ある地点における検出される路面と直交する方向の車両100の加速度は車両100の速度により変化する。このため、前述の推定処理では、速度を用いて加速度を補正することにより速度による加速度への影響を除去して精度を向上させることができる。なお、伸縮装置遊間は、支承移動量とほぼ等しい。
【0048】
なお、加速度センサにかえて、タイヤの空気圧を検出するタイヤ空気圧センサを用いてもよい。
【実施例0049】
本実施例は、橋梁における床版損傷度を把握するものである。
【0050】
本実施例では、車載センサ110として車両100のアクティブ・サスペンションに設けられているタイヤ位置センサを用いる。当該タイヤ位置センサは、車両100のフレームに対するタイヤの相対的な高さを検出するセンサである。換言すれば、当該タイヤ位置センサは、サスペンションを構成するバネの伸縮量、または、ショック・アブソーバの伸縮量を検出するものである。
【0051】
床版支間が橋軸方向になっているRC床版(中間横桁で打ち下ろしている床版)が老朽化すると、床版は橋軸方向にわずかに波打つ(たわみの生じない横桁部が山、横桁の間が谷)。この上を走行する車はサスペンションが規則的に伸縮を繰り返す。そこで、検出データ処理部140は、車両100の走行中におけるタイヤ位置センサによる検出データである高さの周期的な変化量を床版の橋軸方向のたわみを示す処理データを出力する。特徴データ送信部150は、前記処理データを特徴データとして、位置情報とともに蓄積サーバ200に送信する。
【0052】
道路構造物状態推定装置300の状態推定部340は、蓄積サーバ200に蓄積されたデータに基づき床版損傷度を把握することができる。また、状態推定部340は、前記床版損傷度を異常の度合いとして、この異常の度合いに基づき、「床版損傷」という異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定することができる。老朽化したRC床版のたわみは1~0.1mmのオーダーであり人では感知できないが、本実施例によれば当該たわみを検知できる。
【0053】
なお、加速度センサにかえて、タイヤの空気圧を検出するタイヤ空気圧センサを用いてもよい。
【実施例0054】
本実施例は、橋梁の振動を検出するものである。
【0055】
本実施例では、車載センサ110としてアクティブ・サスペンションを構成する加速度センサを用いる。この加速度センサにより、車両100が橋上を走行しながら橋梁の桁の振動を検出することができる。また、この加速度センサにより、渋滞等により高架橋に車両100が停止中であっても橋梁の桁の振動を検出することができる。特徴データ送信部150は、加速度センサの検出データを特徴データとして、位置情報とともに蓄積サーバ200に送信する。
【0056】
道路構造物状態推定装置300の状態推定部340は、蓄積サーバ200に蓄積されたデータに基づき橋梁の振動を検出することができる。また、状態推定部340は、この橋梁の振動に基づき、異常発生及び当該異常発生に係る位置又は異常発生の予兆及び当該予兆に係る位置を推定することができる。
【符号の説明】
【0057】
100…車両
110…車載センサ
120…位置検出部
130…GNSS受信装置
140…検出データ処理部
150…特徴データ送信部
200…蓄積サーバ
300…道路構造物状態推定装置
310…蓄積データ取得部
320…道路構造物情報記憶部
330…事例情報記憶部
340…状態推定部
400…インターネット
500…移動体通信網
600…利用者端末
図1
図2
図3