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特開2023-174783ヒト化ASGR1座位を含む非ヒト動物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174783
(43)【公開日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ヒト化ASGR1座位を含む非ヒト動物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20231201BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231201BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20231201BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20231201BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231201BHJP
   C12N 5/073 20100101ALI20231201BHJP
   C12N 5/075 20100101ALI20231201BHJP
   C12N 5/076 20100101ALI20231201BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20231201BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20231201BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N5/10
C12N9/22
C12N15/55
C12N15/63 Z
C12N5/073
C12N5/075
C12N5/076
C07K14/47
C07K16/18
G01N33/68
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023175106
(22)【出願日】2023-10-10
(62)【分割の表示】P 2022146917の分割
【原出願日】2018-06-27
(31)【優先権主張番号】62/525,524
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー オー. ムジカ
(72)【発明者】
【氏名】ビクトリア グサロバ
(72)【発明者】
【氏名】チェン ワン
(72)【発明者】
【氏名】クリストス カラツオス
(72)【発明者】
【氏名】テラ ポトキー
(72)【発明者】
【氏名】キャサリン シグナー
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル マーティン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045DA36
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】ヒト化ASGR1座位を含む非ヒト動物を提供する。
【解決手段】ヒト化Asgr1座位を含み、当該ヒト化Asgr1座位からヒト化またはキメラASGR1タンパク質を発現する非ヒト動物が提供される。ならびに当該非ヒト動物(例えば齧歯類、例えばラットまたはマウス)、当該非ヒト動物から誘導された細胞および組織、ならびに当該動物の作製に有用なヌクレオチド(例えば標的化ベクター、ゲノムなど)の使用方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
EFSウェブ経由でテキストファイルとして提出された配列表への参照
10362WO01_ST25.txtファイルに記述されている配列表は、50キロバイトであり、2018年6月26日に作成され、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
多くの疾患が、関連する組織または器官に対する治療用分子の標的化が不十分であるために、適切には治療されていない。対象への生物活性剤の送達は、構成要素が標的の細胞または組織に到達することの困難性により妨げられることが多い。
【0003】
細胞型特異的な内部移行エフェクター、例えば標的細胞によって間接的または直接的に内部移行されるヒトASGR1のような細胞型特異的な受容体を使用して、インビボにおける特定の標的細胞への治療用分子の送達を促進および強化することができる。同様に、こうした細胞型特異的な内部移行エフェクターは治療目的にふさわしく、インビボで標的の細胞表面受容体または標的の可溶性タンパク質の内部移行を促進することができる。しかしながら、インビボでこうした送達機序および治療機序の有効性を評価するための適切なモデルが未だ不足している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
ヒト化Asgr1座位を含み、当該ヒト化Asgr1座位からヒト化またはキメラASGR1タンパク質を発現する非ヒト動物が提供される。ならびに当該非ヒト動物(例えば齧歯類、例えばラットまたはマウス)、当該非ヒト動物から誘導された細胞および組織、ならびに当該動物の作製に有用なヌクレオチド(例えば標的化ベクター、ゲノムなど)の使用方法が提供される。
【0005】
一つの態様において、改変Asgr1タンパク質をコードする遺伝子改変内因性Asgr1座位を含む非ヒト動物が提供され、この場合において当該改変Asgr1タンパク質は、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、当該細胞外ドメインのすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされている。かかる非ヒト動物の一部において、細胞外ドメインは、多重コイルドメイン(coiled-coil domain)とC型レクチンドメインを含み、当該C型レクチンドメインのすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされている。任意で、C型レクチンドメインは、ヒトASGR1のC型レクチンドメインである。任意で、C型レクチンドメインは、配列番号28に記載される配列を含む。
【0006】
かかる動物の一部において、細胞外ドメインは、多重コイルドメインとC型レクチンドメインを含み、当該多重コイルドメインのすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされている。任意で、多重コイルドメインは、ヒトASGR1の多重コイルドメインである。任意で、多重コイルドメインは、配列番号27に記載される配列を含む。
【0007】
かかる動物の一部において、多重コイルドメインとC型レクチンドメインの両方のすべて、または一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされている。任意で、C型レクチンドメイン
は、ヒトASGR1のC型レクチンドメインであり、多重コイルドメインは、ヒトASGR1の多重コイルドメインである。任意で、C型レクチンドメインは、配列番号28に記載される配列を含み、多重コイルドメインは、配列番号27に記載される配列を含む。
【0008】
かかる動物の一部において、オルソロガスなヒトASGR1配列は、ヒトASGR1遺伝子のエクソン3~8を含む。任意で、オルソロガスなヒトASGR1配列は、配列番号31に記載される配列を含むASGR1タンパク質セグメントをコードする。
【0009】
かかる動物の一部において、細胞質ドメインのすべてまたは一部は、内因性非ヒト動物Asgr1配列によりコードされる。かかる動物の一部において、膜貫通ドメインのすべてまたは一部は、内因性非ヒト動物Asgr1配列によりコードされる。任意で、細胞質ドメインと膜貫通ドメインの両方のすべて、または一部は、内因性非ヒト動物Asgr1配列によりコードされる。
【0010】
別の態様において、ヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物の細胞または組織(例えば非ヒト肝細胞、非ヒト胚性幹(ES)細胞、または他の多能性細胞、例えば生殖細胞)、およびそれらを含むインビトロ組成物が提供される。一つの態様において、改変Asgr1タンパク質をコードする遺伝子改変内因性Asgr1座位を含む非ヒト動物細胞が提供され、この場合において当該改変Asgr1タンパク質は、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、当該細胞外ドメインのすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされている。かかる非ヒト動物細胞の一部において、細胞外ドメインは、多重コイルドメインとC型レクチンドメインを含み、当該C型レクチンドメインのすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされている。任意で、C型レクチンドメインは、ヒトASGR1のC型レクチンドメインである。任意で、C型レクチンドメインは、配列番号28に記載される配列を含む。
【0011】
かかる非ヒト動物細胞の一部において、細胞外ドメインは、多重コイルドメインとC型レクチンドメインを含み、当該多重コイルドメインのすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされている。任意で、多重コイルドメインは、ヒトASGR1の多重コイルドメインである。任意で、多重コイルドメインは、配列番号27に記載される配列を含む。
【0012】
かかる非ヒト動物細胞の一部において、多重コイルドメインとC型レクチンドメインの両方のすべて、または一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされている。任意で、C型レクチンドメインは、ヒトASGR1のC型レクチンドメインであり、多重コイルドメインは、ヒトASGR1の多重コイルドメインである。任意で、C型レクチンドメインは、配列番号28に記載される配列を含み、多重コイルドメインは、配列番号27に記載される配列を含む。
【0013】
かかる非ヒト動物細胞の一部において、オルソロガスなヒトASGR1配列は、ヒトASGR1遺伝子のエクソン3~8を含む。任意で、オルソロガスなヒトASGR1配列は、配列番号31に記載される配列を含むASGR1タンパク質セグメントをコードする。
【0014】
かかる非ヒト動物細胞の一部において、細胞質ドメインのすべてまたは一部は、内因性非ヒト動物Asgr1配列によりコードされる。かかる動物細胞の一部において、膜貫通ドメインのすべてまたは一部は、内因性非ヒト動物Asgr1配列によりコードされる。任意で、細胞質ドメインと膜貫通ドメインの両方のすべて、または一部は、内因性非ヒト
動物Asgr1配列によりコードされる。
【0015】
かかる動物および/または動物細胞の一部は、遺伝子改変された内因性Asgr1座位に関してヘテロ接合性である。かかる動物および/または動物細胞の一部は、遺伝子改変された内因性Asgr1座位に関してホモ接合性である。
【0016】
かかる非ヒト動物および/または動物細胞の一部は、哺乳動物および/または哺乳動物細胞である。任意で、哺乳動物は齧歯類である。任意で、齧歯類はラットまたはマウスである。任意で、齧歯類はマウスである。任意で、細胞質ドメインのすべてまたは一部は、内因性マウスAsgr1配列によりコードされる。任意で、細胞質ドメインは、配列番号29に記載される配列を含む。任意で、膜貫通ドメインのすべてまたは一部は、内因性マウスAsgr1配列によりコードされる。任意で、膜貫通ドメインは、配列番号30に記載される配列を含む。任意で、細胞質ドメインと膜貫通ドメインの両方のすべて、または一部は、内因性マウスAsgr1配列によりコードされる。任意で、細胞質ドメインは、配列番号29に記載される配列を含み、膜貫通ドメインは、配列番号30に記載される配列を含む。任意で、細胞外ドメインは多重コイルドメインとC型レクチンドメインを含み、この場合において当該多重コイルドメインとC型レクチンドメインの両方のすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされ、細胞質ドメインと膜貫通ドメインの両方のすべてまたは一部は、内因性マウスAsgr1配列によりコードされる。任意で、C型レクチンドメインは、ヒトASGR1のC型レクチンドメインであり、多重コイルドメインは、ヒトASGR1の多重コイルドメインであり、細胞質ドメインは、マウスAsgr1の細胞質ドメインであり、そして膜貫通ドメインは、マウスAsgr1の膜貫通ドメインである。任意で、C型レクチンドメインは、配列番号28に記載される配列を含み、多重コイルドメインは、配列番号27に記載される配列を含み、細胞質ドメインは、配列番号29に記載される配列を含み、そして膜貫通ドメインは、配列番号30に記載される配列を含む。任意で、改変Asgr1タンパク質は、配列番号3に記載される配列を含む。
【0017】
別の態様において、ヒトASGR1介在性内部移行を介したインビボでの治療用複合体の肝臓への送達を評価する方法が提供される。かかる方法の一部は、(a)上述の非ヒト動物のいずれかに治療用複合体を投与することであって、当該治療用複合体は、治療用分子と、ヒトASGR1に特異的に結合する抗原結合タンパク質またはリガンドを含む、投与すること、および(b)当該非ヒト動物の肝臓への当該治療用分子の送達を評価すること、を含む。任意で、治療用分子は、リソソーム置換タンパク質または酵素であるか、またはリソソーム置換タンパク質または酵素をコードする核酸であり、そして工程(b)は、非ヒト動物の肝臓中のリソソーム置換タンパク質もしくは酵素の存在または活性を評価することを含む。任意で、治療用分子は、治療用分泌タンパク質をコードする核酸であり、工程(b)は、非ヒト動物中の治療用分泌タンパク質の血清レベルまたは活性を評価することを含む。
【0018】
別の態様において、ヒトASGR1を介した内部移行に関し、肝臓細胞表面タンパク質または肝臓中の可溶性タンパク質を標的とする治療用分子のインビボでの有効性を評価する方法が提供される。かかる方法の一部は、(a)上述の非ヒト動物のいずれかに治療用分子を投与することであって、当該治療用分子は、肝臓細胞の表面タンパク質または可溶性タンパク質に特異的に結合し、そしてヒトASGR1に特異的に結合する二重特異性抗原結合タンパク質を含む、投与すること、および(b)当該非ヒト動物の肝臓中の肝臓細胞表面タンパク質の細胞表面レベルまたは活性を評価すること、または肝臓中の可溶性タンパク質の発現または活性を評価することを含む。
【0019】
別の態様では、例えば本明細書に記載されるヒト化Asgr1座位、ヒト化ASGR1
タンパク質もしくはキメラASGR1タンパク質を発現する内因性非ヒト動物Asgr1座位、および/または本明細書に記載されるヒトAsgr1座位を含む非ヒト動物ゲノムを生成するための標的化ベクターなどの核酸が提供される。かかる核酸の一部は、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号22、配列番号23、およびそれらの組み合わせを含む群から選択される配列を含む。かかる核酸の一部は、配列番号3に記載されるアミノ酸配列をコードする配列を含む。例えば配列番号24に記載される配列を含む。
【0020】
特定の態様では、例えば以下の項目が提供される:
(項目1)
改変Asgr1タンパク質をコードする遺伝子改変内因性Asgr1座位を含む非ヒト動物または非ヒト動物ゲノムであって、前記改変Asgr1タンパク質は、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、前記細胞外ドメインのすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされ、および
前記非ヒト動物は、前記改変Asgr1タンパク質を発現する、非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目2)
前記細胞外ドメインは、多重コイルドメインとC型レクチンドメインを含み、前記C型レクチンドメインのすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた前記内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされる、項目1に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目3)
前記C型レクチンドメインは、ヒトASGR1のC型レクチンドメインである、項目2に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目4)
前記C型レクチンドメインは、配列番号28に記載される配列を含む、項目2もしくは3に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目5)
前記細胞外ドメインは、多重コイルドメインとC型レクチンドメインを含み、前記多重コイルドメインのすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた前記内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされる、項目1に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目6)
前記多重コイルドメインは、ヒトASGR1の多重コイルドメインである、項目5に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目7)
前記多重コイルドメインは、配列番号27に記載される配列を含む、項目5もしくは6に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目8)
前記多重コイルドメインと前記C型レクチンドメインの両方のすべて、または一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた前記内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされる、項目2~7のいずれか1項に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目9)
前記C型レクチンドメインは、ヒトASGR1のC型レクチンドメインであり、前記多重コイルドメインは、ヒトASGR1のC型レクチンドメインである、項目8に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目10)
前記C型レクチンドメインは、配列番号28に記載される配列を含み、前記多重コイル
ドメインは、配列番号27に記載される配列を含む、項目8または9に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目11)
前記オルソロガスなヒトASGR1配列は、ヒトASGR1遺伝子のエクソン3~8を含む、項目1~10のいずれか1項に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目12)
前記オルソロガスなヒトASGR1配列は、配列番号31に記載される配列を含むASGR1タンパク質セグメントをコードする、項目11に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目13)
前記細胞質ドメインのすべてまたは一部は、内因性非ヒト動物Asgr1配列によりコードされる、項目1~12のいずれか1項に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。(項目14)
前記膜貫通ドメインのすべてまたは一部は、内因性非ヒト動物Asgr1配列によりコードされる、項目1~13のいずれか1項に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。(項目15)
前記細胞質ドメインと前記膜貫通ドメインの両方のすべて、または一部は、内因性非ヒト動物Asgr1配列によりコードされる、項目13または14に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目16)
前記非ヒト動物または非ヒト動物ゲノムが、前記遺伝子改変された内因性Asgr1座位に対してヘテロ接合性である、項目1~15のいずれか1項に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目17)
前記非ヒト動物または非ヒト動物ゲノムが、前記遺伝子改変された内因性Asgr1座位に対してホモ接合性である、項目1~15のいずれか1項に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目18)
前記非ヒト動物が哺乳動物であり、または前記非ヒト動物ゲノムが哺乳動物ゲノムである、項目1~17のいずれか1項に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目19)
前記非ヒト動物が齧歯類であり、または前記非ヒト動物ゲノムが齧歯類ゲノムである、項目18に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目20)
前記非ヒト動物がラットもしくはマウスであり、または前記非ヒト動物ゲノムがラットゲノムもしくはマウスゲノムである、項目19に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目21)
前記非ヒト動物がマウスであり、または前記非ヒト動物ゲノムがマウスゲノムである、項目20に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目22)
前記細胞質ドメインのすべてまたは一部は、内因性マウスAsgr1配列によりコードされる、項目21に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目23)
前記細胞質ドメインは、配列番号29に記載される配列を含む、項目22に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目24)
膜貫通ドメインのすべてまたは一部は、内因性マウスAsgr1配列によりコードされる、項目21に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目25)
前記膜貫通ドメインは、配列番号30に記載される配列を含む、項目24に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目26)
前記細胞質ドメインと前記膜貫通ドメインの両方のすべて、または一部は、内因性マウスAsgr1配列によりコードされる、項目22~25のいずれか1項に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目27)
前記細胞質ドメインは、配列番号29に記載される配列を含み、前記膜貫通ドメインは、配列番号30に記載される配列を含む、項目26に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目28)
前記細胞外ドメインは多重コイルドメインとC型レクチンドメインを含み、前記多重コイルドメインと前記C型レクチンドメインの両方のすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた前記内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされ、前記細胞質ドメインと前記膜貫通ドメインの両方のすべてまたは一部は、内因性マウスAsgr1配列によりコードされる、項目21~27のいずれか1項に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目29)
前記C型レクチンドメインは、ヒトASGR1のC型レクチンドメインであり、前記多重コイルドメインは、ヒトASGR1の多重コイルドメインであり、前記細胞質ドメインは、マウスAsgr1の細胞質ドメインであり、そして前記膜貫通ドメインは、マウスAsgr1の膜貫通ドメインである、項目21~28のいずれか1項に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目30)
前記C型レクチンドメインは、配列番号28に記載される配列を含み、前記多重コイルドメインは、配列番号27に記載される配列を含み、前記細胞質ドメインは、配列番号29に記載される配列を含み、そして前記膜貫通ドメインは、配列番号30に記載される配列を含む、項目28または29に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目31)
前記改変Asgr1タンパク質は、配列番号3に記載される配列を含む、項目30に記載の非ヒト動物または非ヒト動物ゲノム。
(項目32)
ヒト-ASGR1-介在性内部移行を介したインビボでの治療用複合体の肝臓への送達を評価する方法であって、
(a) 項目1~31のいずれか1項に記載の非ヒト動物に治療用複合体を投与することであって、前記治療用複合体は、治療用分子と、ヒトASGR1に特異的に結合する抗原結合タンパク質またはリガンドを含む、投与すること、および
(b) 前記非ヒト動物の肝臓への前記治療用分子の送達を評価すること、を含む、方法。
(項目33)
前記治療用分子は、リソソーム置換タンパク質または酵素であるか、または前記リソソーム置換タンパク質または酵素をコードする核酸であり、そして工程(b)は、前記非ヒト動物の肝臓中の前記リソソーム置換タンパク質もしくは酵素の存在または活性を評価することを含む、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記治療用分子は、治療用分泌タンパク質をコードする核酸であり、そして工程(b)は、前記非ヒト動物中の前記治療用分泌タンパク質の血清レベルまたは活性を評価することを含む、項目32に記載の方法。
(項目35)
インビボでのヒトASGR1を介した内部移行に関し、肝臓細胞表面タンパク質または
肝臓中の可溶性タンパク質を標的とする治療用分子の有効性を評価する方法であって、
(a) 項目1~31のいずれか1項に記載の非ヒト動物に前記治療用分子を投与することであって、前記治療用分子は、前記肝臓細胞表面タンパク質または前記可溶性タンパク質に特異的に結合し、およびヒトASGR1に特異的に結合する二重特異性抗原結合タンパク質を含む、投与すること、および
(b) 前記非ヒト動物の肝臓中の前記肝臓細胞表面タンパク質の細胞表面レベルまたは活性を評価すること、または前記非ヒト動物の肝臓中の前記可溶性タンパク質の発現または活性を評価すること、を含む方法。
(項目36)
改変Asgr1タンパク質をコードする遺伝子改変内因性Asgr1座位を含む非ヒト動物細胞であって、前記改変Asgr1タンパク質は、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、前記細胞外ドメインのすべてまたは一部は、欠失され、オルソロガスなヒトASGR1配列と置き換えられた内因性Asgr1座位のセグメントによりコードされる、非ヒト動物細胞。
(項目37)
前記非ヒト動物細胞が、肝細胞である、項目36に記載の非ヒト動物細胞。
(項目38)
前記非ヒト動物細胞が、多能性細胞である、項目36に記載の非ヒト動物細胞。
(項目39)
前記非ヒト動物細胞が、ES細胞である、項目38に記載の非ヒト動物細胞。
(項目40)
前記非ヒト動物細胞が、生殖細胞である、項目38に記載の非ヒト動物細胞。
(項目41)
項目36~40のいずれか1項に記載の非ヒト動物細胞を含む組成物。
(項目42)
配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号22、配列番号23、およびそれらの組み合わせを含む群から選択される配列を含む核酸。
(項目43)
配列番号24として記載される配列を含む、項目42に記載の核酸。
(項目44)
配列番号3として記載されるアミノ酸配列をコードすることを特徴とする、項目42または請求項43に記載の核酸。
特許または出願の書類は、色付きで描かれた少なくとも一つの図面を含有する。色付きの図面を伴う本特許または特許出願公開の写しは、要求により、および必要な料金を支払うことにより、当局に提供されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1Aは、ヒトASGR1座位の概略を示す。8個のエクソンが、黒いボックスにより示されており、非翻訳領域(UTR)は、白色のボックスにより示されている。膜貫通ドメイン、多重コイルドメイン、およびC型レクチンドメインは、図の上部に示されている。アスタリスクは、アレル獲得(gain-of-allele)アッセイのための上流プライマー(7302hTU)および下流プライマー(7302hTD)の位置を示す。ヒト化のためにマウスAsgr1座位内に挿入される断片を下部に示す。
【0022】
図1Bは、マウスAsgr1座位の概略を示す。8個のエクソンが、黒いボックスにより示されており、UTRは、白色のボックスにより示されている。膜貫通ドメイン、多重コイルドメイン、およびC型レクチンドメインは、図の上部に示されている。アスタリスクは、アレル消失(loss-of-allele)アッセイのための上流プライマー(7302mTU)および下流プライマー(7302mTD)の位置を示す。欠失され、ヒトASGR1座位由来の対応する断片に置き換えられる断片を下部に示す。
【0023】
図2図2Aは、ハイグロマイシン抵抗性自動削除カセット(self-deleting cassette)を含有するヒト化Asgr1アレル(7302アレル)を生成するための大型標的化ベクターの概略を示す。マウスのエクソンは灰色のボックスで示され、ヒトのエクソンは黒色のボックスで示され、そしてUTRは白色のボックスで示されている。異なる領域(マウス/ヒト、ヒト/カセット、およびカセット/マウス)の間の境界は、図の下部で、それぞれA、BおよびCと標識された線により示されている。
【0024】
図2Bは、図2Aのヒト化Asgr1アレルのカセット削除版の概略を示す。マウスのエクソンは灰色のボックスで示され、ヒトのエクソンは黒色のボックスで示され、そしてUTRは白色のボックスで示されている。異なる領域の間の境界(5’のマウス/ヒトの境界、3’のヒト/マウスの境界)は、図の下部で、それぞれAおよびDと標識された線により示されている。
【0025】
図3図3は、ヒトASGR1タンパク質(hASGR1;配列番号1)、マウスAsgr1タンパク質(mAsgr1;配列番号2)、およびヒト化マウスAsgr1タンパク質(7302 humIn;配列番号3)のアライメントを示す。下線が引かれた残基は、導入されたヒトエクソンによりコードされる残基である。ボックスの残基は、膜貫通ドメインを構成する。点線は、C型レクチンドメインを示す。太い実線は、多重コイル領域を示す。
【0026】
図4図4は、ヒト化Asgr1マウス(Asgr1hu/hu)は、野生型(Asgr1+/+)の同腹仔と類似した血漿脂質プロファイル(総コレステロール、トリグリセリド、LDL-CおよびHDL-Cを含む)を有することを示す。
【0027】
図5図5は、ヒト化Asgr1マウス(Asgr1hu/hu)は、その野生型の同腹仔と類似した体重と血中グルコースを有することを示す。
【0028】
図6図6は、ヒト化Asgr1マウス(Asgr1hu/hu)中のヒト化Asgr1タンパク質は、マウスAsgr1と類似して、肝膜に共局在することを示す。トランスフェリン受容体(TRFR)およびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)はそれぞれ肝臓の膜分画と細胞質分画のローディング対照として使用した。1群当たりN=4が示される。
【0029】
図7図7は、ヒトASGR1タンパク質(配列番号1)、カニクイザル(cyno)(配列番号39)、マウスAsgr1タンパク質(配列番号2)、およびラットAsgr1タンパク質(配列番号41)のアライメントを示す。下線が引かれた残基は、導入されたヒトエクソンによりコードされる残基である。ヒトとカニクイザルのASGR1タンパク質の間には97.6%の配列同一性があり(細胞外ドメインでは98.3%の配列同一性)、ヒトとマウスのASGR1タンパク質の間には77%の配列同一性があり、そしてヒトとラットのASGR1タンパク質の間には78.4%の配列同一性がある。
【0030】
図8A図8A~8Cは、1x1011の野生型scAAV2-CMV-eGFP(i、v)、生理食塩水(ii、vi)、1x1011のscAAV2-N587myc-CMV-eGFPウイルスベクター単独(iii、vii)、またはscAAV2-N587myc-CMV-eGFPウイルスベクターと二重特異性抗myc-ASGR1抗体(iv、viii)を用いて静脈内注射した10日後に、ヒトASGR1が肝細胞により発現されるようにトランスジェニック改変されたC57BL/6マウス(i-iv)、または野生型C57BL/6マウス(v-viii)から採取された肝臓(A)、脾臓(B)または腎臓(C)のサンプルの免疫蛍光法の顕微鏡画像を示す。
図8B】同上。
図8C】同上。
【0031】
図9-1】図9A~9Rは、2.18x1011の野生型ssAAV2-CAGG-eGFP(図9B、9C、9E、9F)、生理食塩水(図9A、9D)、2.18x1011のssAAV2-N587myc-CAGG-eGFPウイルスベクター単独(図9G-9I、9J-9L)またはssAAV2-N587myc-CAGG-eGFPウイルスベクターと二重特異性抗myc-ASGR1抗体(図9M-9O、9P-9R)を用いて静脈内注射した4週後に、ヒトASGR1が肝細胞により発現されるようにトランスジェニック改変されたC57BL/6マウス(図9D-9F、9J-9L、9P-9R)、または野生型C57BL/6マウス(図9A-9C、9G-9I、9M-9O)から採取された肝臓サンプルの免疫蛍光法の顕微鏡画像を示す。各画像は、1匹のマウスを表している。
図9-2】同上。
図9-3】同上。
【発明を実施するための形態】
【0032】
定義
「タンパク質」、「ポリペプチド」、および「ペプチド」という用語は、本明細書において相互交換可能に使用され、コードアミノ酸および非コードアミノ酸、ならびに化学改変アミノ酸または生化学改変アミノ酸または誘導体化アミノ酸を含むアミノ酸の任意の長さの多量体型を含む。この用語はさらに、例えば修飾されたペプチド主鎖を有するポリペプチドなどの修飾されたポリマーも含む。用語「ドメイン」は、特定の機能または構造を有するタンパク質またはポリペプチドの任意の部分を指す。
【0033】
タンパク質は、「N末端」および「C末端」を有すると言われている。「N末端」という用語は、タンパク質またはポリペプチドの開始と関連しており、遊離アミン基(-NH2)を有するアミノ酸により終結する。「C末端」という用語は、アミノ酸鎖(タンパク質またはポリペプチド)の終わりと関連しており、遊離カルボキシル基(-COOH)により終結する。
【0034】
「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は本明細書において相互交換可能に使用され、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、またはそのアナログもしくは改変型を含むヌクレオチドの任意の長さの多量体型を含む。この用語には、一本鎖、二本鎖および多重鎖のDNAまたはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、ならびにプリン塩基、ピリミジン塩基または他の天然ヌクレオチド塩基、化学改変ヌクレオチド塩基、生化学改変ヌクレオチド塩基、非天然ヌクレオチド塩基もしくは誘導体化ヌクレオチド塩基を含むポリマーが含まれる。
【0035】
核酸は、「5’末端」と「3’末端」を有すると言われており、一つのモノヌクレオチドのペントース環の5’リン酸がホスホジエステル結合を介して、ある方向で自身に隣接する3’酸素に結合されるようにモノヌクレオチドが反応して、オリゴヌクレオチドが生成される。オリゴヌクレオチドの末端は、その5’リン酸が、モノヌクレオチドのペントース環の3’酸素に連結されていない場合、「5’末端」と呼ばれる。オリゴヌクレオチドの末端は、その3’酸素が、別のモノヌクレオチドのペントース環の5’リン酸に連結されていない場合、「3’末端」と呼ばれる。核酸配列は、より大きなオリゴヌクレオチドの内部分であっても、5’末端と3’末端を有すると言われる場合がある。直線状または環状のDNA分子のいずれかにおいて、別個のエレメントが、「上流」、または「下流」の5’、または3’エレメントと呼称される。
【0036】
「ゲノム統合された」という用語は、ヌクレオチド配列が細胞のゲノム内に統合され、その子孫物に受け継がれることができるように細胞内に導入された核酸を指す。任意のプロトコルが、細胞ゲノム内への核酸の安定的組み込みに使用され得る。
【0037】
「標的化ベクター」という用語は、相同組み換え、非相同末端結合介在ライゲーション(non-homologous-end-joining-mediated ligation)、または任意の他の細胞ゲノム内の標的位置への組み換え手段により導入されることができる組み換え核酸を指す。
【0038】
「ウイルスベクター」という用語は、ウイルス起源のエレメントを少なくとも一つ含み、およびウイルスベクター粒子内へのパッキングに充分な、または許容可能なエレメントを含む組み換え核酸を指す。DNA、RNA、またはその他の核酸を生体外またはインビボのいずれかで移送させる目的に対して、ベクターおよび/または粒子を利用することができる。多くの形態のウイルスベクターが公知である。
【0039】
「野生型」という用語には、(変異体、疾患性、変更されたなどに対して)「正常」な状態または状況下で存在する構造および/または活性を有する実体を含む。野生型の遺伝子およびポリペプチドはしばしば複数の異なる形態(例えば、アレル)で存在する。
【0040】
「内因性」という用語は、細胞または非ヒト動物内で自然に存在する核酸配列を指す。たとえば、非ヒト動物の内因性Asgr1配列とは、当該非ヒト動物においてAsgr1座位に自然に存在する天然Asgr1配列を指す。
【0041】
「外因性」の分子または配列は、通常はその形態で細胞に存在しない分子または配列を含む。通常の存在には、細胞の特定の発生段階および環境条件に関する存在が含まれる。外因性の分子または配列は、例えば細胞内の対応する内因性配列の変異型、例えば内因性配列のヒト化型を含むことができ、または細胞内の内因性配列に対応するが、異なる形態である配列(すなわち染色体内ではない)を含むことができる。対照的に、内因性の分子または配列には、特定の環境条件下の特定の発生段階にある特定の細胞中で、通常にその形態で存在する分子または配列が含まれる。
【0042】
核酸またはタンパク質に関して使用される場合、「異種」という用語は、当該核酸またはタンパク質が、同じ分子内では自然には一緒に存在しない少なくとも二つの部分を含むことを示す。例えば、「異種」という用語は、核酸部分またはタンパク質部分に関して使用される場合、当該核酸またはタンパク質が、自然には相互に同じ関係性で存在しない(例えば一緒に結合しない)二つ以上のサブ配列を含むことを示す。一例として、核酸ベクターの「異種」領域は、自然には他の分子と関連付けられて存在していない別の核酸分子内の核酸のセグメントであるか、または自然には他の分子と関連付けられて存在していない別の核酸分子に結合されている。例えば、核酸ベクターの異種領域は、コード配列を含み得、当該コード配列は、自然には当該コード配列と関連付けられて存在していない配列に隣接されている。同様に、タンパク質の「異種」領域は、自然には他の分子と関連付けられて存在していない別のペプチド分子内のアミノ酸のセグメントであるか、または自然には他の分子と関連付けられて存在していない別のペプチド分子に結合されている(例えば融合タンパク質またはタグ付きタンパク質)。同じように、核酸またはタンパク質は、異種のラベル、または異種の分泌配列もしくは局在配列を含み得る。
【0043】
「コドン最適化」は、コドン縮重を利用したものであり、アミノ酸を規定する3塩基ペアのコドンの組み合わせの多重性に例示される。一般的に、天然アミノ酸配列を維持しながら、宿主細胞の遺伝子においてより高頻度に、または最も高頻度に使用されるコドンと、天然配列のコドンを少なくとも一つ置換することにより、特定の宿主細胞における発現
を強化するための核酸配列の改変プロセスを含む。例えば、Cas9タンパク質をコードする核酸を改変して、細菌細胞、酵母細胞、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳動物細胞、齧歯類細胞、マウス細胞、ラット細胞、ハムスター細胞、もしくはその他の任意の宿主細胞を含む所与の原核細胞または真核細胞において、天然核酸配列と比較して利用頻度の高いコドンへと置換することができる。 コドン利用に関する表は、例えば「Codon Usage Database」で容易に入手することができる。これらの表は、多くの方法に適合させることができる。Nakamura et al.(2000)Nucleic Acids Research 28:292を参照のこと。当該文献は全ての目的に対し、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。特定宿主における発現のための特定配列のコドン最適化を目的としたコンピュータアルゴリズムも利用可能である(例えば、Gene Forgeを参照のこと)。
【0044】
「座位」という用語は、遺伝子(または重要な配列)、DNA配列、ポリペプチドをコードする配列、または生物ゲノムの染色体上の位置の特定の場所を指す。例えば、「Asgr1座位」は、Asgr1遺伝子、Asgr1DNA配列、Asgr1をコードする配列、またはかかる配列が存在する位置について特定されている生物体のゲノムの染色体上のAsgr1の位置の特定の場所を指す場合がある。「Asgr1座位」は、Asgr1遺伝子の制御エレメントを含む場合があり、例えば、エンハンサー、プロモーター、5’および/または3’非翻訳領域(UTR)、またはそれらの組み合わせを含む。
【0045】
「遺伝子」という用語は、産物(例えば、RNA産物および/またはポリペプチド産物)をコードする染色体中のDNA配列を指し、非コードイントロンにより中断されるコード領域ならびに、5’および3’の両末端でコード領域に隣接する配列を含み、それにより当該遺伝子は、全長mRNA(5’および3’の非翻訳配列を含む)に対応する。「遺伝子」という用語はまた、制御配列(例えばプロモーター、エンハンサーおよび転写因子結合部位)、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム侵入部位、サイレンサー、絶縁配列(insulating sequence)、およびマトリクス結合領域を含む、他の非コード配列も含む。これらの配列は、遺伝子のコード領域に近くてもよく(例えば10kb以内)、または遠くの部位であってもよい。これらは遺伝子の転写および翻訳のレベルまたは速度に影響を与える。
【0046】
「アレル」という用語は、遺伝子のバリアント形態を指す。一部の遺伝子は様々な形態を有しており、それらは染色体上の同じ位置にあるか、または同じ遺伝子座位にある。二倍体の生物は、各遺伝子座位に二つのアレルを有する。アレルの各ペアは、特定の遺伝子座位の遺伝子型を表す。遺伝子型は、特定の座位に二つの同一アレルがある場合にはホモ接合性、二つのアレルが異なる場合にはヘテロ接合性として記載される。
【0047】
「プロモーター」はDNAの制御性領域であり、通常、TATAボックスを含み、TATAボックスは、特定のポリヌクレオチド配列に対して適切な転写開始部位でRNA合成を開始させる指示をRNAポリメラーゼIIに出すことができる。プロモーターはさらに、転写開始速度に影響を与える他の領域を含む場合がある。本明細書に開示されるプロモーター配列は、操作可能に連結されたポリヌクレオチドの転写を調節する。プロモーターは、本明細書に開示される細胞型(例えば、真核細胞、非ヒト哺乳動物細胞、ヒト細胞、齧歯類細胞、多能性細胞、一細胞期の胚、分化細胞、またはそれらの組み合わせ)のうちの一つ以上において活性であり得る。プロモーターは、例えば、構造的に活性なプロモーター、条件付きプロモーター、誘導性プロモーター、時間制限プロモーター(例えば、発生的に制御されたプロモーター)、または空間的に制限されたプロモーター(例えば、細胞特異的または組織特異的なプロモーター)であり得る。プロモーターの例は、例えば、国際特許公開WO2013/176772号に見出すことができ、当該文献は全ての目的に対しその全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
「操作可能な連結」または「操作可能に連結される」とは、二つ以上の構成要素(例えばプロモーターおよび別の配列エレメント)の並置を含み、この並置により両方の構成要素が正常に機能し、そして当該構成要素の少なくとも一つが機能を介在し、他の構成要素のうち少なくとも一つに影響を及ぼすことが可能となる。例えばプロモーターが一つまたは複数の転写制御因子の存在または非存在に応答してコード配列の転写レベルを制御する場合、プロモーターは、コード配列に操作可能に連結され得る。操作可能な連結は、互いに連続的な配列、またはトランスで作用する配列などを含み得る(例えば制御性配列は、コード配列の転写を制御する距離で作用し得る)。
【0049】
「バリアント」という用語は、集団において最も多い配列とは(例えば1ヌクレオチド)異なっているヌクレオチド配列、または集団において最も多い配列とは(例えば1アミノ酸)異なっているタンパク質配列を指す。
【0050】
タンパク質に言及する場合において「断片」という用語は、全長タンパク質よりも短い、またはアミノ酸が少ないタンパク質を意味する。核酸に言及する場合において「断片」という用語は、全長核酸よりも短い、またはヌクレオチドが少ない核酸を意味する。断片は例えばN末端断片(すなわちタンパク質のC末端部分が除去されている)、C末端断片(すなわちタンパク質のN末端部分が除去されている)または内部断片であってもよい。
【0051】
二つのポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の文脈における「配列同一性」または「同一性」は、規定の比較ウィンドウ上で最大対応に整列させたときに同一である、二つの配列中の残基を言及する。タンパク質に関して百分率の配列同一性が使用される場合、同一ではない残基の位置は、保存的アミノ酸置換により異なっている場合が多く、この場合のアミノ酸残基は、類似した化学特性(例えば電荷または疎水性など)を有する他のアミノ酸残基と置換されており、したがって当該分子の機能的特性は変化していない。保存的置換で配列が異なる場合、配列同一性の百分率を上向きに調整し、置換の保存的性質に関して補正してもよい。そのような保存的置換により異なる配列は、「配列類似性」または「類似性」を有すると言われる。この調整を行う手段は公知である。典型的には、当該手段は全長ミスマッチではなく部分的ミスマッチとして保存的置換を格付けし、それによって配列同一性百分率を増加させることを含む。したがって例えば同一アミノ酸がスコア1を与えられる場合、非保存的置換はスコアゼロを与えられ、保存的置換はゼロと1の間のスコアを与えられる。保存的置換の格付けは、例えばPC/GENEプログラム(Intelligenetics社、カリフォルニア州マウンテンビュー)に実装されているように算出される。
【0052】
「配列同一性の百分率」には、最適に整列された(完全合致残基の数が最も多い)二つの配列を比較ウィンドウ上で比較することにより決定された値を含み、この場合において比較ウィンドウ中のポリヌクレオチド配列部分は、2配列の最適整列に関して、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して付加または欠失(すなわちギャップ)を含む場合がある。百分率は、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両方の配列中に存在する位置の数を決定して、合致位置数を出し、その合致位置数を比較ウィンドウ中の位置の総数で割り、その結果に100を掛け、配列同一性の百分率を出すことにより算出される。別段の指定(例えば短配列が、連結異種配列を含むなど)が無い限り、比較ウィンドウは、比較される2配列の短い方の全長となる。
【0053】
別段の記載がない限り、配列同一性/類似性の値には、以下のパラメーターを使用したGAP Version10、またはそれと同等の任意のプログラムを使用して得られた値を含む:GAP Weightを50およびLength Weightを3、ならびにnwsgapdna.cmpスコアリングマトリクスを使用したヌクレオチド配列に対
する同一性%および類似性%;GAP Weightを8およびLength Weightを2、ならびにBLOSUM62スコアリングマトリクスを使用したアミノ酸配列に対する同一性%および類似性%。「同等のプログラム」には、任意の配列比較プログラムが含まれ、それらは対象となる任意の2配列に対し、GAP Version10により生成された対応アライメントと比較したときに、同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の合致を有するアライメントと、配列同一性の同一性百分率を生成する。
【0054】
「保存的アミノ酸置換」という用語は、配列中に通常に存在するアミノ酸と、類似したサイズ、電荷または極性を有する異なるアミノ酸との置換を指す。保存的置換の例としては、非極性(疎水性)残基、例えばイソロイシン、バリンまたはロイシンと、別の非極性残基との置換が挙げられる。同様に保存的置換の例としては、一つの極性(親水性)残基と、別の極性残基の置換が挙げられ、例えばアルギニンとリシン、グルタミンとアスパラギン、またはグリシンとセリンの間の置換が挙げられる。さらには塩基性残基、例えばリシン、アルギニンまたはヒスチジンと別の塩基性残基の置換、または一つの酸性残基、例えばアスパラギン酸またはグルタミン酸と別の酸性残基との置換も、保存的置換のさらなる例である。非保存的置換の例としては、非極性(疎水性)アミノ酸残基、例えばイソロイシン、バリン、ロイシン、アラニンまたはメチオニンと、極性(親水性)残基、例えばシステイン、グルタミン、グルタミン酸またはリシンの置換、または極性残基と非極性残基の置換が挙げられる。一般的なアミノ酸分類を下記に要約する。
【表A】
【0055】
「相同」な配列(例えば核酸配列)は、公知の参照配列と同一、または実質的に相同のいずれかである配列を含み、例えば公知の参照配列に対し、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である配列を含む。相同配列は例えばオルソロガスな配列およびパラロゴスな配列を
含み得る。相同遺伝子は、例えば典型的には種形成事象(オルソロガス遺伝子)を介して、または遺伝子複製事象(パラロゴス遺伝子)を介して、共通の祖先DNA配列から伝わったものである。「オルソロガス」遺伝子には、種形成により共通の祖先遺伝子から進化した、異なる種の遺伝子が含まれる。オルソログは典型的には進化の過程で同じ機能を保持している。「パラロゴス」遺伝子は、ゲノム内複製により関連付けられた遺伝子を含む。パラログは、進化の過程で新たな機能を発達させ得る。
【0056】
「インビトロ」という用語には、人工的な環境が含まれ、人工的な環境(たとえば試験管)内で生じたプロセスまたは反応に対するものである。「インビボ」という用語には、自然の環境(例えば細胞または生物体または身体)が含まれ、自然の環境内で生じたプロセスまたは反応に対するものである。「生体外(ex vivo)」という用語には、個々の身体から採取された細胞が含まれ、当該細胞内で生じたプロセスまたは反応に対するものである。
【0057】
「レポーター遺伝子」という用語は、異種プロモーターおよび/またはエンハンサーエレメントに操作可能に連結されたレポーター遺伝子配列を含む構築体が、当該プロモーターおよび/またはエンハンサーエレメントの活性化に必要な因子を含有する(またはそれらを含有するように作製され得る)細胞内に導入されたときに、容易に、および定量的にアッセイされる遺伝子産物(典型的には酵素)をコードする配列を有する核酸を指す。レポーター遺伝子の例としては、限定されないが、β-ガラクトシダーゼ(lacZ)をコードする遺伝子、細菌クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)遺伝子、ホタルルシフェラーゼ遺伝子、ベータ-グルクロニダーゼ(GUS)をコードする遺伝子、および蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。「レポータータンパク質」とは、レポーター遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。
【0058】
「蛍光レポータータンパク質」という用語は本明細書で使用される場合、蛍光に基づいて検出可能であるレポータータンパク質を意味し、この場合において蛍光は、レポータータンパク質に直接由来する、蛍光発生基質に対するレポータータンパク質の活性に由来する、または蛍光タグ化化合物への結合アフィニティを有するタンパク質由来のいずれかであってもよい。蛍光タンパク質の蛍光タンパク質としては、緑色蛍光タンパク質(例えば、GFP、GFP-2、tagGFP、turboGFP、eGFP、Emerald、Azami Green、Monomeric Azami Green、CopGFP、AceGFPおよびZsGreenl)、黄色蛍光タンパク質(例えば、YFP、eYFP、Citrine、Venus、YPet、PhiYFPおよびZsYellowl)、青色蛍光タンパク質(例えば、BFP、eBFP、eBFP2、Azurite、mKalamal、GFPuv、SapphireおよびT-sapphire)、シアン蛍光タンパク質(例えば、CFP、eCFP、Cerulean、CyPet、AmCyanlおよびMidoriishi-Cyan)、赤色蛍光タンパク質(例えば、RFP、mKate、mKate2、mPlum、DsRed単量体、mCherry、mRFP1、DsRed-Express、DsRed2、DsRed-単量体、HcRed-Tandem、HcRedl、AsRed2、eqFP611、mRaspberry、mStrawberryおよびJred)、オレンジ蛍光タンパク質(例えば、mOrange、mKO、Kusabira-Orange、Monomeric Kusabira-Orange、mTangerineおよびtdTomato)、およびその細胞中の存在がフローサイトメトリー法により検出可能である任意の他の適切な蛍光タンパク質が挙げられる。
【0059】
「組み換え」という用語は、二つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換の任意のプロセスを含み、任意の機序によって発生することができる。二本鎖の破断(DSB:double-strand breaks)に応答した組み換えは主に二つの保存的DNA修
復経路:非相同末端結合(NHEJ)および相同組換え(HR)を介して発生する。Kasparek&Humphrey(2011)Seminars in Cell&Dev.Biol.22:886-897を参照のこと。当該文献は全ての目的に対しその全体で参照により本明細書に組み込まれる。同様に、外来性のドナー核酸により介在される標的核酸の修復は、二つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換の任意のプロセスを含むことができる。
【0060】
NHEJは、相同鋳型を必要としない、破断末端の相互の直接的なライゲーション、または外来性配列との直接的なライゲーションによる、核酸の二本鎖破断の修復を含む。NHEJによる非連続配列のライゲーションは多くの場合、二本鎖破断部位近くの欠失、挿入、または転座を生じさせる。例えばNHEJは、破断末端と外来性ドナー核酸との直接的ライゲーションを介して、外来性のドナー核酸の標的統合を生じさせることもできる(すなわち、NHEJを基にした取り込み)。こうしたNHEJ介在性の標的統合は、相同性誘導型修復(HDR:homology directed repair)経路が容易には使用できない場合(例えば非分裂細胞、初代細胞、および相同性を基にしたDNA修復がほとんど実施されない細胞)の外来性ドナー核酸の挿入に好ましい場合がある。加えて、相同性誘導型修復とは対照的に、開裂部位に隣接する配列同一性の大領域に関する知識が必要ではないため、ゲノム配列に関する知識が限定的なゲノムを有する生物への標的挿入を試みる場合に有益であり得る。統合は外来性ドナー核酸と開裂ゲノム配列の間の平滑末端のライゲーションを介して、または開裂されたゲノム配列においてヌクレアーゼ剤により生成された末端と適合するオーバーハングにより隣接される外来性ドナー核酸を使用した付着末端(すなわち5’または3’のオーバーハングを有する末端)とのライゲーションを介して進行させることができる。例えば、US2011/020722、WO2014/033644、WO2014/089290およびMaresca et al.(2013)Genome Res.23(3):539-546を参照のこと。それら各々が参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる。平滑末端がライゲーションされている場合、断片結合に必要な微小相同性の生成領域に対して、標的および/またはドナーの切除が必要となる場合があり、これが標的配列において望ましくない変化を生じさせる場合がある。
【0061】
組み換えも相同性誘導型修復(HDR)または相同組換え(HR)を介して発生させることができる。HDRまたはHRには、ヌクレオチド配列の相同性を必要とし得る核酸修復の形態が含まれ、「標的」分子(すなわち二本鎖破断を経た分子)の修復用の鋳型として「ドナー」分子を使用し、ドナーから標的への遺伝子情報の伝達を誘導する。いかなる特定の学説にも拘束されることは望まないが、こうした伝達には、破断した標的とドナーの間で形成するヘテロ二本鎖DNAのミスマッチ修復および/もしくは合成依存性の鎖アニーリングならびに/または関連プロセスを含むことができ、鎖アニーリングにおいてドナーは遺伝情報の再合成に使用され、これが標的の一部となる。一部の例では、ドナーポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチドの一部、ドナーポリヌクレオチドのコピー、またはドナーポリヌクレオチドのコピーの一部が標的DNA内に統合される。Wang et al.(2013)Cell 153:910-918;Mandalos et al.(2012)PLOS ONE 7:e45768:1-9;およびWang et al.(2013)Nat Biotechnol.31:530-532を参照のこと。それら各々が参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる。
【0062】
「抗原結合タンパク質」という用語は、抗原に結合するあらゆるタンパク質を含む。抗原結合タンパク質の例としては、抗体、抗体の抗原結合断片、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、scFV、bis-scFV、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、V-NAR、VHH、VL、F(ab)、F(ab)、DVD(二重可変ドメ
イン抗原結合タンパク質)、SVD(単一可変ドメイン抗原結合タンパク質)、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)、またはDavisbody(本明細書において参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,586,713号)が挙げられる。
【0063】
抗原結合タンパク質に関連する「多重特異性」または「二重特異性」という用語は、そのタンパク質が同一の抗原上または異なる抗原上のどちらかにおいて異なるエピトープを認識することを意味する。多重特異性抗原結合タンパク質は、単一の多機能性ポリペプチドであり得るか、または相互に共有結合でまたは非共有結合で会合した二つ以上のポリペプチドの多量体複合体であり得る。例えば、抗体またはその断片は、一つまたは複数の他の分子実体、例えばタンパク質またはその断片などに、(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合による会合、またはその他により)機能的に連結して、第二の結合特異性を有する二重特異性または多重特異性の抗原結合分子を産生することができる。
【0064】
「抗原」という用語は、分子全体または分子内のドメインのいずれか物質を指し、当該物質に対する結合特異性を有する抗体の産生を惹起させることができる。抗原という用語は、野生型の宿主生物体においては自己認識を理由として抗体産生を惹起しないが、免疫寛容が破綻する適切な遺伝子操作を伴う宿主動物においてはかかる反応を惹起させることができる物質も含む。
【0065】
「エピトープ」という用語は、抗原結合タンパク質(例えば、抗体)が結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、連続的なアミノ酸から形成されることができ、または一つもしくは複数のタンパク質の三次フォールディングによって並置された非連続的なアミノ酸から形成されることもできる。連続的なアミノ酸から形成されたエピトープ(線状エピトープとしても知られる)は、典型的には、変性溶媒への暴露でも保持されるのに対して、三次フォールディングにより形成されたエピトープ(立体構造エピトープとしても知られる)は、典型的には、変性溶媒を用いた処置で失われる。典型的にはエピトープは、固有の空間構造にある少なくとも3個、より一般的には少なくとも5個、または8~10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間構造を決定する方法としては例えばX線結晶法および2次元核磁気共鳴法が挙げられる。例えば、Epitope Mapping Protocols,in Methods in Molecular Biology,Vol.66,Glenn E.Morris,Ed.(1996)を参照のこと。当該文献は参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる。
【0066】
本明細書に記載の抗体パラトープは、概して、異種エピトープを特異的に認識する相補性決定領域(CDR)を最小限で含む(例えば、重鎖および/または軽鎖可変ドメインのCDR3領域)。
【0067】
「抗体」という用語には、四つのポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって相互接続された二つの重(H)鎖と二つの軽(L)鎖)を含む、免疫グロブリン分子が含まれる。各重鎖は、重鎖可変ドメインおよび重鎖定常領域(C)を含む。重鎖定常領域は、C1、C2、およびC3の三つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変ドメインおよび軽鎖定常領域(C)を含む。重鎖および軽鎖可変ドメインはさらに、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存的な領域に差し込まれている、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分化することができる。各重鎖および軽鎖可変ドメインは、三つのCDRおよび四つのFRを含み、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、以下の順序で配列される。FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(重鎖CDRは、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3として省略されてもよく、軽鎖CDRは、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3として省略されてもよい)。「高アフィニティ」抗体という用語は、その標的エピトープに対して約
10-9M以下(例えば約1×10-9M、1×10-10M、1×10-11M、または約1×10-12M)のKを有する抗体を指す。一実施形態では、Kは、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)によって測定され、別の実施形態では、Kは、ELISAによって測定される。
【0068】
「二重特異性抗体」という用語は、二つ以上のエピトープを選択的に結合することができる抗体を含む。二重特異性抗体は、通例二つの異なる重鎖を含み、各重鎖は、異なるエピトープ、すなわち二つの異なる分子(例えば二つの異なる抗原)上または同一分子(例えば同一抗原)上のいずれかエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が二つの異なるエピトープ(第一のエピトープおよび第二のエピトープ)を選択的に結合することができる場合、第一のエピトープに対する第一の重鎖の親和性は、一般的に、第二のエピトープに対する第一の重鎖の親和性よりも少なくとも1桁から2桁、または3桁もしくは4桁低く、その逆もまた同様である。二重特異性抗体により認識されるエピトープは、同一の標的の上にも異なる標的の上にも(例えば、同一のタンパク質の上にも異なるタンパク質の上にも)あり得る。二重特異性抗体は、例えば、同一の抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製することができる。例えば、同一の抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合可能であり、こうした配列は、イムノグロブリン軽鎖を発現する細胞内で発現することができる。典型的な二重特異性抗体は、各々が三つの重鎖CDRとそれに続いて(N末端からC末端へ)CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを有する二つの重鎖と、抗原結合特異性を付与しないが各重鎖と会合可能であるか、または各重鎖と会合できかつ重鎖抗原結合領域により結合される一つまたは複数のエピトープを結合できるか、または各重鎖と会合できかつ重鎖の一方もしくは両方をエピトープの一方もしくは両方に結合させることができるイムノグロブリン軽鎖とを有する。
【0069】
「重鎖」または「イムノグロブリン重鎖」という用語には、任意の生物体由来のイムノグロブリン重鎖配列(イムノグロブリン重鎖定常領域配列など)が含まれる。別段の指定のない限り、重鎖可変ドメインは、三つの重鎖CDRと四つのFR領域とを含む。重鎖の断片としては、CDR、CDRおよびFR、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。典型的な重鎖は、可変ドメインに続いて(N末端からC末端へ)、C1ドメイン、ヒンジ、C2ドメイン、およびC3ドメインを有する。重鎖の機能性断片には、エピトープを特異的に認識する(例えば、エピトープをマイクロモル濃度、ナノモル濃度、またはピコモル濃度範囲のKで認識する)ことができ、発現できかつ細胞から分泌可能であり、少なくとも一つのCDRを含む断片が含まれる。重鎖可変ドメインは、可変領域ヌクレオチド配列によってコードされ、概して、生殖系細胞に存在するV、D、およびJセグメントのレパートリー由来の、V、D、およびJセグメントを含む。様々な生物体のV重鎖セグメント、D重鎖セグメント、およびJ重鎖セグメントの配列、位置、および命名は、IMGTデータベースで見ることができ、これは、インターネットを介してURLが「imgt.org」のWorld Wide Web(www)でアクセス可能である。
【0070】
「軽鎖」という用語は、任意の生物体由来の免疫グロブリン軽鎖配列を含み、別段の規定がない限り、代替軽鎖のみならず、ヒトカッパ(κ)軽鎖およびラムダ(λ)軽鎖、ならびにVpreBを含む。軽鎖可変ドメインは、典型的には、別段の規定がない限り、三つの軽鎖CDRおよび四つのフレームワーク(FR)領域を含む。概して、完全長軽鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を含む可変ドメイン、および軽鎖定常領域アミノ酸配列を含む。軽鎖可変ドメインは、軽鎖可変領域ヌクレオチド配列によってコードされ、概して、生殖系細胞に存在する軽鎖VおよびJ遺伝子セグメントのレパートリーに由来する、軽鎖V
および軽鎖Jセグメントを含む。様々な生物体の軽鎖V遺伝子セグメントおよび軽鎖J遺伝子セグメントの配列、位置、および命名は、IMGTデータベースで見ることができ、これは、インターネットを介してURLが「imgt.org」のWorld Wide Web(www)でアクセス可能である。軽鎖には、例えば、該軽鎖が含まれるエピトープ結合タンパク質に選択的に結合する第一のエピトープと第二のエピトープのいずれも選択的に結合させることのない軽鎖が含まれる。軽鎖にはまた、該軽鎖が含まれるエピトープ結合タンパク質に選択的に結合する一つ以上のエピトープを結合かつ認識しながら、重鎖を結合かつ認識、または補佐する軽鎖が含まれる。
【0071】
本明細書において使用される場合、「相補性決定領域」または「CDR」という用語には、生物体のイムノグロブリン遺伝子の核酸配列でコードされるアミノ酸配列が含まれ、当該アミノ酸配列は、通常(すなわち、野生型動物では)イムノグロブリン分子(例えば、抗体またはT細胞受容体)の軽鎖または重鎖の可変領域における二つのフレームワーク領域の間に存在する。CDRは、例えば生殖系列配列または再構成された配列によってコードされ、例えば、ナイーヴB細胞もしくは成熟B細胞またはT細胞によってコードされ得る。CDRは、体細胞変異され(例えば動物生殖細胞系でコードされた配列と異なり)、ヒト化され、および/または、アミノ酸置換、付加または欠失で改変され得る。一部の状況(例えばCDR3について)では、CDRは、二つ以上の配列(例えば生殖系列配列)によってコードでき、それらの配列は(例えば、再構成されていない核酸配列では)連続していないが、B細胞の核酸配列では、例えば、配列のスプライシングまたは接続(例えば、重鎖CDR3を形成するためのV-D-J再構成)の結果として、連続している。
【0072】
標的抗原への抗原結合タンパク質の特異的結合は、少なくとも10、10、10、10、または1010-1のアフィニティを伴う結合を含む。特異的結合は、少なくとも一つの非関連標的に対して発生する非特異的結合から度合がより高く検出可能であり、識別可能である。特異的結合は、特定の官能基または特定の空間適合(例えば錠と鍵のタイプ)の間に結合が形成された結果であり得、一方で非特異的結合は通常、ファンデルワールス力の結果である。しかしながら特異的結合は、抗原結合タンパク質がただ一つの標的に結合することを必ずしも意味するものではない。
【0073】
一つまたは複数の列挙された要素を「含む」もしくは「含有する」組成物または方法は、具体的に列挙されていない他の要素を含み得る。例えばタンパク質を「含む」または「含有する」組成物は、そのタンパク質を単独で含有してもよく、または他の成分と組み合わせて含有してもよい。「本質的に~からなる」という移行句は、請求の範囲が、当該請求項に列挙される特定の要素、および請求される発明の基本的および新規な特性に実質的な影響を与えない要素を包含すると解釈されるものであることを意味する。したがって本発明の請求項において使用される場合、「本質的に~からなる」という用語は、「含む」と均等であると解釈されることは意図されない。
【0074】
「任意の」または「任意で」は、後述されている事象または状況が起こる場合もあれば起こらない場合もあることを意味すると共に、この記載には、前述の事象または状況が起こる場合の例および起こらない場合の例が包含されることを意味する。
【0075】
値の範囲指定には、範囲内の全ての整数または範囲を規定する全ての整数、ならびに範囲内の整数により規定されるすべての下部範囲を含む。
【0076】
文脈から別途明らかでない限り、「約」という用語は、指定された値の測定エラーの標準誤差(例えば、SEM)内の値を包含する。
【0077】
「および/または」という用語は、関連する列記された項目のうちの一つまたは複数の
任意の、およびすべての可能性のある組み合わせ、ならびに選択的に解釈される(「または」)場合の組み合わせの欠落を指し、包含する。
【0078】
「または」という用語は、特定のリストの任意の一つのメンバーを指し、そのリストのメンバーの任意の組み合わせも含む。
【0079】
項目の単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈で別途明確に指示されない限り、複数への言及を含む。例えば、「単数のタンパク質」または「少なくとも一つのタンパク質」という用語は、それらの混合物を含む、複数のタンパク質を含み得る。
【0080】
統計的に有意とは、p≦0.05を意味する。
【0081】
I.概要
本明細書において、ヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物細胞および非ヒト動物、ならびに当該非ヒト動物細胞および非ヒト動物を使用する方法が開示される。ヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物細胞または非ヒト動物は、ヒトASGR1タンパク質の一つまたは複数の断片(例えばヒトASGR1細胞外ドメインのすべてまたは一部)を含むヒトASGR1タンパク質またはキメラAsgr1タンパク質を発現する。高効率エンドサイトーシスの肝臓特異的受容体として、ヒトASGR1は、例えば抗体、低分子(抗体-薬剤複合体の一部として)、およびDNAなどの治療剤の肝臓特異的送達に利用することができる。しかしヒトASGR1に特異的に結合する抗原結合タンパク質または二重特異性抗原結合タンパク質は、例えばマウスAsgr1などのオルソロガスな非ヒト動物Asgr1タンパク質には結合しないことが多く、その原因は、ヒトASGR1と非ヒト動物Asgr1の間の配列の差異にある。例えばヒトASGR1細胞外ドメインに対して生成された抗体は、マウスAsgr1オルソログには結合しない(データは示さず)。これがあるために、ヒトASGR1介在性の送達機序または治療機序のインビボ有効性を、非改変の内因性(すなわち天然型)Asgr1座位を有する野生型非ヒト動物で効率的に評価することができない。ヒト化Asgr1非ヒト動物(例えば、ヒト化Asgr1マウス)は、多くの様々な方法を利用した、ヒトASGR1介在性内部移行を介した様々な治療剤の肝臓特異的送達の検証に使用することができる。例えば、ヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物を使用して、肝臓への治療用分子または治療用複合体のヒトASGR1介在性送達のインビボ有効性を評価することができる。同様に、ヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物を使用して、ヒトASGR1介在性機序を介して作用する治療用分子または治療用複合体の有効性を評価することができる。
【0082】
II.ヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物
本明細書に開示される細胞および非ヒト動物は、ヒト化Asgr1座位を含む。ヒト化Asgr1座位を含む細胞または非ヒト動物は、ヒトASGR1タンパク質を発現するか、または天然型Asgr1タンパク質の一つまたは複数の断片が、ヒトASGR1由来の対応する断片(例えば細胞外ドメインのすべてまたは一部)で置き換えられた、部分的にヒト化されたキメラAsgr1タンパク質を発現する。
【0083】
A.アシアロ糖タンパク質受容体1(ASGR1)
本明細書に記載される細胞および非ヒト動物は、ヒト化Asgr1座位を含む。アシアロ糖タンパク質受容体1(C-type lectin domain family 4 member H1、hepatic lectin H1、HL-1、ASGP-R 1、ASGPR 1、ASGR1)は、ASGR1(CLEC4H1)遺伝子にコードされる、アシアロ糖タンパク質受容体(ASGPRまたはASGR)の主要サブユニットである。ASGPRは主に肝細胞の細胞表面上に発現されるヘテロオリゴマータンパク質であり、約1~5×10の結合部位/細胞を有し、脱シアル化された糖たんぱく質を
内部移行させ、分解して、循環系からそれらを除去する役割を負う。ASGPRは、良く特徴解析されたC型肝臓レクチンであり、肝細胞の類洞表面上に主に発現されている。ASGPRは、肝臓実質細胞による受容体介在エンドサイトーシスを介したガラクトース末端型およびN-アセチルガラクトサミン末端型の糖タンパク質の選択的結合と内部移行において役割を担っている。アシアロ糖タンパク質受容体1および2(ASGR1およびASGR2)の2種のタンパク質が含まれ、それらはASGR1遺伝子およびASGR2遺伝子にコードされている。両サブユニットともにII型の単回通過タンパク質であり、N末端細胞質ドメイン、単一膜貫通ドメイン、およびC末端細胞外糖認識ドメイン(CRD)を広く含む。ASGR1は、N末端細胞質ドメイン(約40アミノ酸)、単回通過膜貫通ドメイン(約20アミノ酸)、細胞外多重コイル軸(オリゴマー形成)領域(約80アミノ酸)、および機能性C型(カルシウム依存性)糖認識ドメイン(C型レクチンドメイン)(約140アミノ酸)を含有する。CRDは、末端ガラクトースまたはN-アセチルガラクトサミン(GalNac)モチーフを有する糖タンパク質に結合する。CRDは、単量体状態の脱シアル化糖たんぱく質に対し、低いアフィニティを有する。
【0084】
ASGR1およびASGR2をコードする遺伝子(それぞれASGR1およびASGR2)は、17番染色体の短アーム上におよそ約58.6キロ塩基(kb)離れて位置している。これら遺伝子は進化的に関連しているが、その構造機構は大きく異なっている。ASGR1は8個のエクソンを含み、およそ6kbの長さである。ASGR2は9個のエクソンを含み、およそ13.5kbの長さである。
【0085】
ヒトASGR1に対する例示的なコード配列には、NCBIのアクセッション番号NM_001671(配列番号5)が割り当てられている。マウスAsgr1に対する例示的なコード配列には、NCBIのアクセッション番号NM_009714(配列番号4)が割り当てられている。例示的なヒトASGR1タンパク質は、UniProtアクセッション番号P07306(配列番号1)が割り当てられている。例示的なマウスAsgr1タンパク質は、UniProtアクセッション番号P34927(配列番号2)が割り当てられている。ヒト化多重コイルドメインおよびC型レクチンドメインを有するマウスAsgr1タンパク質は、配列番号3に記載されている。例示的なラットAsgr1タンパク質は、UniProtアクセッション番号P02706が割り当てられている。例示的なオランウータンAsgr1タンパク質は、UniProtアクセッション番号Q5RBQ8が割り当てられている。
【0086】
B.ヒト化Asgr1座位
ヒト化Asgr1座位は、Asgr1遺伝子全体が、対応するオルソロガスなヒトASGR1配列で置き換えられているAsgr1座位であってもよく、またはAsgr1遺伝子の一部が、対応するオルソロガスなヒトASGR1配列で置き換えられているAsgr1座位(すなわちヒト化されている)であってもよい。任意で、対応するオルソロガスなヒトASGR1配列は改変されて、非ヒト動物におけるコドン使用頻度に基づきコドン最適化される。置換された(すなわち、ヒト化された)領域は、例えばエクソン、非コード領域、例えばイントロン、非翻訳領域、もしくは制御性領域(例えば、プロモーター、エンハンサー、または転写リプレッサー結合エレメント)、またはそれらの任意の組み合わせを含むことができる。一つの例として、ヒトASGR1遺伝子の1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個すべてのエクソンに対応するエクソンがヒト化されることができる。例えば、ヒトASGR1遺伝子のエクソン3~8に対応するエクソンがヒト化されることができる。あるいは抗ヒトASGR1抗原結合タンパク質に認識されるエピトープをコードするAsgr1の領域が、ヒト化されることができる。別の例として、N末端細胞質ドメイン、膜貫通ドメイン、多重コイルドメイン、またはC型レクチンドメインのうちの一つまたは複数またはすべてがヒト化されることができる。例えば多重コイルドメインをコードするAsgr1座位の領域のすべてまたは一部がヒト化されることが
でき、C末端レクチンドメインをコードするAsgr1座位の領域のすべてまたは一部がヒト化されることができ、膜貫通ドメインをコードするAsgr1座位の領域のすべてまたは一部がヒト化されることができ、および/または細胞質ドメインをコードするAsgr1座位の領域のすべてまたは一部がヒト化されることができる。一つの例において、多重コイルドメインをコードするAsgr1座位の領域のすべてまたは一部のみがヒト化され、C型レクチンドメインをコードするAsgr1座位の領域のすべてまたは一部のみがヒト化され、または細胞外領域(すなわち多重コイルドメインとC型レクチンドメイン)をコードするAsgr1座位の領域のすべてまたは一部のみがヒト化される。例えば多重コイルドメインとC型レクチンドメインをコードするAsgr1座位の領域がヒト化されることができ、それによりキメラAsgr1タンパク質は、内因性N末端細胞質ドメイン、内因性膜貫通ドメイン、ヒト化多重コイルドメインおよびヒト化C型レクチンドメインを有して産生される。同様にヒトASGR1遺伝子の1、2、3、4、5、6、または7個すべてのイントロンに対応するイントロンがヒト化されることができる。制御性配列を含む隣接非翻訳領域もヒト化されることができる。例えば、5’非翻訳領域(UTR)、3’UTR、もしくは5’UTRと3’UTRの両方がヒト化されることができ、または5’UTR、3’UTR、もしくは5’UTRと3’UTRの両方が内因性を維持することもできる。一つの特定の例では、3’UTRはヒト化されるが、5’UTRは内因性を維持する。オルソロガス配列による置換の程度に応じて、例えばプロモーターなどの制御性配列は内因性であってもよく、または置換ヒトオルソロガス配列により供給されてもよい。例えばヒト化Asgr1座位は、内因性の非ヒト動物Asgr1プロモーターを含んでもよい。
【0087】
ヒト化Asgr1座位によりコードされるAsgr1タンパク質は、ヒトASGR1タンパク質由来のドメインを一つまたは複数含んでもよい。例えばAsgr1タンパク質は、ヒトASGR1の多重コイルドメイン、ヒトASGR1のC型レクチンドメイン、ヒトASGR1の膜貫通ドメイン、およびヒトASGR1の細胞質ドメインのうちの一つまたは複数または全てを含んでもよい。一例として、Asgr1タンパク質は、ヒトASGR1の多重コイルドメインのみ、ヒトASGR1のC型レクチンドメインのみ、またはヒトASGR1の細胞外ドメイン(すなわち多重コイルドメインとC型レクチンドメイン)のみを含んでもよい。任意でヒト化Asgr1座位によりコードされるAsgr1タンパク質はさらに、内因性(すなわち天然型)の非ヒト動物Asgr1タンパク質由来のドメインを一つまたは複数含んでもよい。一例として、ヒト化Asgr1座位によりコードされるAsgr1タンパク質は、ヒトASGR1タンパク質由来の多重コイルドメイン、ヒトASGR1タンパク質由来のC型レクチンドメイン、内因性(すなわち天然型)非ヒト動物Asgr1タンパク質由来のN末端細胞質ドメイン、および内因性(すなわち天然型)非ヒト動物Asgr1タンパク質由来の膜貫通ドメインを含んでもよい。ヒトASGR1タンパク質由来のドメインは、完全ヒト化配列(すなわち当該ドメインをコードする配列全体が、オルソロガスなヒトASGR1配列で置き換えられている)によりコードされてもよく、または部分的にヒト化された配列(すなわち当該ドメインをコードする配列の一部が、オルソロガスなヒトASGR1配列で置き換えられ、当該ドメインをコードする残りの内因性(すなわち天然型)配列は、オルソロガスなヒトASGR1配列と同じアミノ酸をコードし、それにより当該コードされるドメインは、ヒトASGR1タンパク質中の当該ドメインと同一となる)によりコードされてもよい。
【0088】
一例として、ヒト化Asgr1座位によりコードされるAsgr1タンパク質は、ヒトASGR1の多重コイルドメインを含んでもよい。任意で、ヒトASGR1の多重コイルドメインは、配列番号27に対し、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、本質的に当該配列からなる、または当該配列からなり、そしてAsgr1タンパク質は、天然型Asgr1の活性を維持する(すなわち、受容体介在性エンドサイトーシスを介したガラクトース末端およびN-
アセチルガラクトサミン末端糖タンパク質に選択的に結合し、内部移行させる能力を維持する)。別の例として、ヒト化Asgr1座位によりコードされるAsgr1タンパク質は、ヒトASGR1のC型レクチンドメインを含んでもよい。任意で、ヒトASGR1のC型レクチンドメインは、配列番号28に対し、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、本質的に当該配列からなる、または当該配列からなり、そしてAsgr1タンパク質は、天然型Asgr1の活性を維持する。例えば、ヒトASGR1に由来するAsgr1タンパク質の領域は、配列番号31に対し、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含んでもよく、本質的に当該配列からなってもよく、または当該配列からなってもよく、そしてAsgr1タンパク質は、天然型Asgr1の活性を維持する。別の例として、ヒト化Asgr1座位によりコードされるAsgr1タンパク質は、内因性非ヒト動物Asgr1細胞質ドメイン(例えばマウスAsgr1細胞質ドメイン)を含んでもよい。任意で、非ヒト動物Asgr1の細胞質ドメインは、配列番号29に対し、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、本質的に当該配列からなる、または当該配列からなり、そしてAsgr1タンパク質は、天然型Asgr1の活性を維持する。別の例として、ヒト化Asgr1座位によりコードされるAsgr1タンパク質は、内因性非ヒト動物Asgr1膜貫通ドメイン(例えばマウスAsgr1膜貫通ドメイン)を含んでもよい。任意で、非ヒト動物Asgr1の膜貫通ドメインは、配列番号30に対し、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、本質的に当該配列からなる、または当該配列からなり、そしてAsgr1タンパク質は、天然型Asgr1の活性を維持する。例えば、ヒト化Asgr1座位によりコードされるAsgr1タンパク質は、配列番号3に対し、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含んでもよく、本質的に当該配列からなってもよく、または当該配列からなってもよく、そしてAsgr1タンパク質は、天然型Asgr1の活性を維持する。
【0089】
任意で、ヒト化Asgr1座位は、他の要素を含んでもよい。そのような要素の例としては、選択カセット、レポーター遺伝子、リコンビナーゼ認識部位、または他の要素が挙げられる。あるいはヒト化Asgr1座位は、他の要素を欠いてもよい(例えば選択マーカーまたは選択カセットを欠いてもよい)。適切なレポーター遺伝子およびレポータータンパク質の例は、本明細書において別に開示されている。適切な選択マーカーの例としては、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(hyg)、ピューロマイシン-N-アセチルトランスフェラーゼ(puro)、ブラストサイジンSデアミナーゼ(bsr)、キサンチン/グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)、または単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-k)が挙げられる。リコンビナーゼの例としては、Cre、Flp、およびDreリコンビナーゼが挙げられる。Creリコンビナーゼ遺伝子の一例は、Creiであり、当該遺伝子において、Creリコンビナーゼをコードする二つのエクソンはイントロンによって分離され、原核細胞中での発現が妨げられている。そのようなリコンビナーゼは、核への局在化を促進するための核局在化シグナルをさらに含んでもよい(例えばNLS-Crei)。リコンビナーゼ認識部位は、部位特異的リコンビナーゼにより認識されるヌクレオチド配列を含み、組み換え事象の基質として機能することができる。リコンビナーゼ認識部位の例としては、FRT、FRT11、FRT71、attp、att、rox、およびlox部位、例えばloXp、lox511、lox2272、lox66、lox71、loxM2、およびlox5171が挙げられる。
【0090】
例えばレポーター遺伝子または選択カセットなどの他の要素は、リコンビナーゼ認識部位に隣接した自動削除カセットであってもよい。例えば、US8,697,851およびUS2013/0312129を参照のこと。それら各々が参照によりその全体ですべて
の目的に対し本明細書に組み込まれる。一例として、自動削除カセットは、マウスPrm1プロモーターに操作可能に連結されたCrei遺伝子(Creリコンビナーゼをコードする二つのエクソンを含み、それらはイントロンにより分離されている)およびヒトユビキチンプロモーターに操作可能に連結されたネオマイシン抵抗性遺伝子を含む。Prm1プロモーターを採用することで、自動削除カセットは、F0動物のオスの生殖細胞において特異的に削除されることができる。選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは、標的となる細胞において活性なプロモーターに操作可能に連結されてもよい。プロモーターの例は、本明細書において別に記載されている。別の特定の例として、自動削除選択カセットは、一つまたは複数のプロモーター(例えばヒトユビキチンプロモーターとEM7プロモーターの両方)に操作可能に連結されたハイグロマイシン抵抗遺伝子コード配列、次いでポリアデニル化シグナル、次いで一つまたは複数のプロモーター(例えばmPrm1プロモーター)に操作可能に連結されたCreiコード配列、次いで別のポリアデニル化シグナルを含有してもよく、この場合においてカセット全体がloxP部位に隣接している。
【0091】
ヒト化Asgr1座位は、条件付きアレルであってもよい。例えば条件付きアレルは、全ての目的に対しその全体で参照により本明細書に組み込まれるUS2011/0104799に記載されるような多機能アレルであってもよい。例えば条件付きアレルは、(a)標的遺伝子の転写に関してセンス方向にある作動配列;(b)センス方向またはアンチセンス方向にある薬剤選択カセット(DSC);(c)アンチセンス方向にある対象のヌクレオチド配列(NSI);および(d)逆方向にある、反転モジュール(COIN、エクソン分割イントロンおよび可逆性遺伝子トラップ様モジュールを利用する)による条件付け、を含んでもよい。たとえば、US2011/0104799を参照のこと。条件付きアレルは、第一のリコンビナーゼに暴露されることで再結合し、(i)作動配列およびDSCを欠き、および(ii)センス方向にあるNSIとアンチセンス方向にあるCOINを含む、条件付きアレルを形成する再結合可能単位をさらに含んでもよい。たとえば、US2011/0104799を参照のこと。
【0092】
一つの例示的なヒト化Asgr1座位(例えば、ヒト化マウスAsgr1座位)は、コードエクソン3~8が、対応するヒト配列で置き換えられている座位である。これらのエクソンは、Asgr1の多重コイルドメインとC型レクチンドメインをコードする。任意で、ヒト化配列は、停止コドン~3’UTRを過ぎてもよく、および任意で3’UTRのすぐ下流の配列内までであってもよい。任意でコードエクソン3の上流のイントロン部分もヒト化される。図2Aおよび2Bならびに配列番号21および24を参照のこと。
【0093】
C.ヒト化Asgr1座位を含む非ヒト細胞および非ヒト動物
本明細書において別に記載されるヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物細胞および非ヒト動物が提供される。当該細胞および非ヒト動物は、ヒト化Asgr1座位に対してヘテロ接合性またはホモ接合性であってもよい。二倍体の生物は、各遺伝子座位に二つのアレルを有する。アレルの各ペアは、特定の遺伝子座位の遺伝子型を表す。遺伝子型は、特定の座位に二つの同一アレルがある場合にはホモ接合性、二つのアレルが異なる場合にはヘテロ接合性として記載される。
【0094】
本明細書に提供される非ヒト動物細胞は例えば、ヒトASGR1座位に対して相同もしくはオルソロガスなAsgr1座位またはゲノム座位を含む任意の非ヒト細胞であってもよい。細胞は、例えば、真菌細胞(例えば酵母)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、非ヒト哺乳動物細胞およびヒト細胞などをはじめとする真核細胞であってもよい。「動物」という用語は、哺乳動物、魚類および鳥類を含む。哺乳動物細胞は例えば、非ヒト哺乳動物細胞、齧歯類細胞、ラット細胞、マウス細胞、またはハムスター細胞であってもよい。他の非ヒト哺乳動物としては例えば、非ヒト霊長類のサル、類人猿、オランウータン、
ネコ、イヌ、ウサギ、ウマ、オスウシ、シカ、バイソン、家畜類(例えば、ウシ、去勢オスウシなどのウシ種;例えばヒツジ、ヤギなどのヒツジ種;および例えばブタおよびオスブタなどのブタ種)が挙げられる。鳥類としては例えば、ニワトリ、七面鳥、ダチョウ、ガチョウ、アヒルなどが挙げられる。家畜化動物および農業用動物も含まれる。「非ヒト」という用語は、ヒトを除外する。
【0095】
細胞はさらに任意の型の未分化状態または分化状態であってもよい。例えば細胞は、分化全能性細胞、多能性細胞(例えば、ヒトの多能性細胞、またはマウス胚性幹(ES)細胞もしくはラットES細胞などの非ヒト多能性細胞)、または非多能性細胞であってもよい。分化全能性細胞には、任意の細胞型を生じさせ得る未分化細胞が含まれ、多能性細胞には、複数の分化細胞型へと発展する能力を保有する未分化細胞が含まれる。そのような多能性細胞および/または分化全能性細胞は、例えば、人工多能性幹(iPS)細胞などのES細胞またはES様細胞であってもよい。ES細胞には、胚へ導入することで、発生中の胚の任意の組織の一因となることができる、胚誘導性の分化全能性細胞または多能性細胞が含まれる。ES細胞は、胚盤胞の内側細胞塊から誘導することができ、そして三種の脊椎動物胚葉(内胚葉、外胚葉、および中胚葉)のいずれかの細胞に分化することができる。
【0096】
本明細書に提供される細胞は、生殖細胞(例えば精子または卵母細胞)であってもよい。細胞は、有糸分裂能力のある細胞または有糸分裂が不活性状態の細胞、減数分裂能力のある細胞または減数分裂が不活性状態の細胞であってもよい。同様に、細胞は、初代体細胞であってもよく、または初代体細胞ではない細胞であってもよい。体細胞には、配偶子、生殖細胞、母細胞、または未分化幹細胞ではない任意の細胞が含まれる。例えば細胞は、肝芽細胞または肝細胞などの肝臓の細胞であってもよい。
【0097】
本明細書に提供される適切な細胞には、初代細胞も含まれる。初代細胞には、生物体、器官または組織から直接単離された細胞または細胞培養物が含まれる。初代細胞には、形質転換も不死化もされていない細胞が含まれる。初代細胞には、過去に組織培養で継代されなかった、または過去に組織培養で継代されたが組織培養で無制限に継代されることはできない、生物体、器官または組織から取得された任意の細胞が含まれる。そのような細胞は、従来的な技術によって単離され、例えば、肝細胞を含むことができる。
【0098】
本明細書に提供される他の適切な細胞としては、不死化細胞が挙げられる。不死化細胞には、通常は無制限に増殖しないが、突然変異または変化によって通常の細胞老化を回避し、その代わりに分裂し続けることができる多細胞生物体由来の細胞が含まれる。そのような突然変異または変化は、自然に発生、または意図的に誘導されることができる。不死化細胞株の具体的な例は、HepG2ヒト肝臓癌細胞株である。様々なタイプの不死化細胞が公知である。不死化細胞または初代細胞には、典型的には細胞培養に使用される細胞、または組み換え遺伝子もしくは組み換えタンパク質の発現に使用される細胞が含まれる。
【0099】
本明細書に提供される細胞には、一細胞期の胚(すなわち受精卵母細胞または受精卵)も含まれる。そのような一細胞期胚は、任意の遺伝的背景(例えばマウスに関してはBALB/c、C57BL/6、129、またはそれらの組み合わせ)由来であってもよく、新鮮または凍結状態であってもよく、そして自然交配またはインビトロ受精から誘導されてもよい。
【0100】
本明細書に提供される細胞は、正常で健康な細胞であってもよく、または疾患性細胞もしくは突然変異を有する細胞であってもよい。
【0101】
本明細書に記載されるヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物は、本明細書において別に記載される方法により作製することができる。「動物」という用語は、哺乳動物、魚類および鳥類を含む。非ヒト哺乳動物としては例えば、非ヒト霊長類のサル、類人猿、オランウータン、ネコ、イヌ、ウマ、オスウシ、シカ、バイソン、ヒツジ、ウサギ、齧歯類(例えばマウス、ラット、ハムスターおよびモルモット)および家畜類(例えば、ウシおよび去勢オスウシなどのウシ種;例えばヒツジおよびヤギなどのヒツジ種;ならびに例えばブタおよびオスブタなどのブタ種)が挙げられる。鳥類としては例えば、ニワトリ、七面鳥、ダチョウ、ガチョウおよびアヒルなどが挙げられる。家畜化動物および農業用動物も含まれる。「非ヒト動物」という用語は、ヒトを除外する。好ましい非ヒト動物としては、例えばマウスおよびラットなどの齧歯類が挙げられる。
【0102】
非ヒト動物は、任意の遺伝的背景由来であってもよい。例えば適切なマウスは、129系、C57BL/6系、129とC57BL/6の雑種、BALB/c系統、またはSwiss Webster系統由来であってもよい。129系統の例としては、129P1、129P2、129P3、129X1、129S1(例えば129S1/SV、129S1/Svlm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1および129T2が挙げられる。例えばFesting et al.(1999)Mammalian Genome 10:836を参照のこと。当該文献は参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる。C57BL系統の例としては、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/Kal_wN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10CrおよびC57BL/Olaが挙げられる。適切なマウスは、前述の129系統と前述のC57BL/6系統の雑種由来であってもよい(例えば50%が129で50%がC57BL/6)。同様に適切なマウスは、前述の129系統と前述のBL/6系統の雑種由来であってもよい(例えば129S6(129/SvEvTac)系統)。
【0103】
同様に、ラットは、たとえばACIラット系統、Dark Agouti(DA)ラット系統、Wistarラット系統、LEAラット系統、Sprague Dawley(SD)ラット系統、またはたとえばFisher F344もしくはFisher F6などのFischerラット系統をはじめとする任意のラット系統由来であってもよい。ラットは、上記の2種以上の系統の雑種から誘導された系統から取得されてもよい。例えば適切なラットは、DA系統またはACI系統由来であってもよい。ACIラット系統は、黒アグーチを有し、腹部と足は白色で、RT1av1ハプロタイプであることが特徴である。当該系統は、Harlan Laboratoriesをはじめとする様々な供給源から入手可能である。Dark Agouti(DA)ラット系統は、アグーチの毛色を有し、RT1av1ハプロタイプであることが特徴である。当該ラットは、Charles RiverおよびHarlan Laboratoriesをはじめとする様々な供給源から入手可能である。一部の適切なラットは、近交系ラット系統由来であってもよい。例えば、US2014/0235933を参照のこと。当該文献は参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる。
【0104】
III.ヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物を、治療用複合体の肝臓へのヒトASGR1介在性送達のインビボ有効性評価に使用する方法、およびヒトASGR1介在性機序を介した治療用分子の作用評価に使用する方法。
本明細書において別に記載されるヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物を、肝臓への治療用分子または治療用分子のヒトASGR1介在性送達のインビボ有効性評価に使用するための様々な方法、およびヒトASGR1介在性機序の評価に使用するための様々な方法が提供される。非ヒト動物がヒト化Asgr1座位を含むことで、当該非ヒト動物は、
非ヒト化Asgr1座位を有する非ヒト動物よりも、ヒトASGR1により介在される送達、またはヒトASGR1介在性治療機序をより正確に反映するであろう。一例として、当該方法は、インビボのヒトASGR1介在性内部移行を介した肝臓への治療用複合体の送達を評価することができ、当該方法は、ヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物に治療用複合体を投与することであって、当該治療用複合体は、治療用分子と、ヒトASGR1に特異的に結合する抗原結合タンパク質またはリガンドを含む、投与すること、次いで当該非ヒト動物の肝臓への当該治療用分子の送達を評価することを含む。別の例としては、当該方法は、ヒトASGR1介在性内部移行を介して作用するように設計された治療用分子または治療用複合体、例えばヒトASGR1を介して標的肝臓細胞表面タンパク質を内部移行させるよう設計された治療用複合体のインビボ有効性を評価することができる。
【0105】
A.ヒトASGR1介在性内部移行を介した肝臓への治療用分子の送達のインビボ有効性を評価する方法
本明細書において別に記載されるヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物を、ヒトASGR1介在性内部移行を介した治療用分子の肝臓への送達のインビボ有効性評価に使用するための様々な方法が提供される。例えばかかる方法は、(a)ヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物に治療用複合体を投与することであって、当該治療用複合体は、治療用分子と、ヒトASGR1に特異的に結合する抗原結合タンパク質またはリガンドを含む、投与すること、および(b)当該非ヒト動物の肝臓への当該治療用分子の送達を評価すること、を含んでもよい。
【0106】
治療用分子は、任意の疾患もしくは障害の治療または予防において使用される任意の生物剤または化学剤であってもよい。例えば治療用分子は、治療用核酸(例えば、CRISPR/CasガイドRNA、短ヘアピンRNA(shNA)、または低分子干渉RNA(siRNA))または治療用タンパク質(例えばCas9タンパク質などのCasタンパク質、置換酵素、分泌治療タンパク質など)をコードする核酸であってもよい。あるいは治療用分子は、治療用タンパク質、治療用抗体もしくは治療用抗原結合タンパク質、または任意の他の治療的高分子もしくは低分子であってもよい。
【0107】
治療用分子とヒトASGR1抗原結合タンパク質またはリガンドは、任意の手段で一緒に複合体化されてもよい。例えば治療用分子とヒトASGR1抗原結合タンパク質またはリガンドは、直接的な共有結合を介して結合されてもよく、または例えばペプチドリンカーもしくは化学リンカーなどのリンカーを介して結合されてもよい。治療用分子とヒトASGR1抗原結合タンパク質またはリガンドは、特定の官能基または特定の空間適合(例えば錠と鍵のタイプ)の間に結合を形成することで一緒に複合体化されてもよい。具体的な例として、ヒトASGR1抗原結合タンパク質は、治療用分子にも特異的に結合する二重特異性抗原結合タンパク質であってもよい。
【0108】
治療用複合体の投与は、本明細書において別に詳細に開示される任意の手段による、および任意の投与経路によるものであってもよい。治療用複合体および治療用分子の送達手段、ならびに投与経路は、本明細書において別に詳細に開示される。
【0109】
ヒトASGR1に特異的に結合するヒトASGR1抗原結合タンパク質またはヒトASGR1リガンドを使用してもよい。ヒトASGR1タンパク質は、肝臓において特定の糖タンパク質のエンドサイトーシスを介在する膜貫通型タンパク質であり、そのため、ヒトASGR1と複合体化された分子は、ヒトASGR1とともに内部移行され得る。適切な抗原結合タンパク質の例としては、受容体融合分子、トラップ分子、受容体Fc融合分子、抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、一本鎖Fv(scFv)分子、dAb断片、単離相補性決定領域(CDR)、CDR3ペプチド、拘束FR3-CDR3-FR4ペプチド、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体
、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ、一価ナノボディ、二価ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP:small modular immunopharmaceutical)、ラクダ抗体(VHH重鎖ホモ二量体抗体)、およびサメ可変IgNARドメインなどが挙げられる。一つの特定の例では、抗原結合タンパク質は、ヒトASGR1と治療用分子(例えば置換タンパク質または酵素または例えばAAVなどの送達用ビヒクル)に結合する二重特異性抗体である。あるいはヒトASGR1と特異的に相互作用するリガンドまたはリガンド部分(例えばアシアロオロソムコイド(ASOR)またはBeta-Ga1NacまたはそのASGR1に対する受容体結合部分)を使用してもよい。
【0110】
非ヒト動物の肝臓への治療用分子の送達は、任意の公知の手段により評価されてもよい。一例として、肝臓内の治療用分子の存在が評価されてもよい。例えば治療用分子が治療用タンパク質である場合、タンパク質検出用の公知のアッセイを使用して非ヒト動物の肝臓における治療用タンパク質の存在が評価されてもよい。同様に、治療用分子が治療用タンパク質をコードする核酸である場合、公知のアッセイを使用して非ヒト動物の肝臓における核酸の発現(例えばmRNA発現またはタンパク質発現)が評価されてもよい。コードされた治療用タンパク質が分泌タンパク質である場合、公知のアッセイを使用して、治療用タンパク質の血清レベルが測定されてもよく、またはその意図される標的の細胞型、組織型または器官で分泌された治療用タンパク質の活性が評価されてもよい。非ヒト動物の肝臓における治療用分子の活性は、当該治療用分子の意図される機能に応じて公知のアッセイにより評価されてもよい。例えばCRISPR/Casなどのゲノム編集剤が導入される場合、公知のアッセイを使用して、特定の標的ゲノム座位でのゲノム編集を評価してもよい。
【0111】
特定の例では、治療用複合体はウイルスベクター組成物(例えば、肝臓特異的ウイルスベクター組成物)を含んでもよい。ヒトASGR1を指向するよう設計された、かかるウイルスベクター組成物は、肝臓を標的とするために、本来の指向性を低減または無効化されてもよい。例えばかかる改変ウイルスベクター複合体は、(i)治療用核酸または治療用タンパク質をコードする核酸を含む改変ウイルスベクターであって、当該改変ウイルスベクターは、本来の指向性を無効化または低減されるとともに異種エピトープを含むベクター、ならびに(ii)(1)当該異種エピトープに特異的に結合する抗原結合タンパク質(例えば抗体)のパラトープ;および(2)ヒトASGR1に特異的に結合する標的化リガンド、を含む再標的化部分を含んでもよい。
【0112】
どのようにこれを実現するかの一例において、例えばSpyCatcher-SpyTagなどのタンパク質タグ化システムを使用して、抗体とウイルス表面を共有結合させてもよい。あるいは二重特異性抗原結合タンパク質を使用してもよい(例えば、抗体の一つのアームがウイルスに結合し、他方のアームがヒトASGR1への結合を介在する二重特異性抗体など)。特定の例では、再指向化部分は、第一および第二の抗原結合ドメインを含む二特異性抗原結合タンパク質(例えば二重特異性抗体)であり、この場合において当該第一の抗原結合ドメインは、組換えヒトウイルスカプシドタンパク質に挿入された/提示された異種エピトープに特異的に結合するパラトープを含み、当該第二の抗原結合ドメインは、ヒトASGR1に特異的に結合する。
【0113】
適切な異種エピトープの例は、Mycタグである。例えば、Mycタグは、AAV2のN587の後に挿入されてもよい。そのような挿入により、AAV2の本来のリガンド結合活性が無効化され、さらに抗Myc抗体により改変AAVを認識することが可能となる。次いで、MycとヒトASGR1の両方に特異的に結合する二重特異性抗体を使用することで、ヒトASGR1(またはヒト化Asgr1)を発現する肝細胞にAAV(例えば、AAV2 N587 Myc)を再標的化させることができる。
【0114】
別の例では治療用複合体は、リソソーム置換酵素もしくはタンパク質を含み、またはリソソーム置換酵素もしくはタンパク質をコードする核酸を含む。リソソーム蓄積症は、スフィンゴ脂質、ムコ多糖類、糖タンパク質、グリコーゲンおよびオリゴ糖を含むリソソーム中の様々な基質の分解に影響を及ぼす稀な疾患類であり、これらが病的な細胞中で蓄積されると細胞死が生じ得る。リソソーム蓄積症に影響を受ける器官としては肝臓が挙げられる。これらの疾患の病因は、タンパク質機能の喪失に通常は起因して、不完全な分解産物がリソソーム内に蓄積することにあると考えられている。リソソーム蓄積症は一般的に、正常な機能ではリソソーム含有物を分解するかまたは分解を調整するタンパク質における、機能喪失型または減弱型のバリアントによって引き起こされる。リソソーム蓄積症の例は、WO2017/100467に提供されており、当該文献は全ての目的に対しその全体で参照により本明細書に組み込まれる。例えば最も一般的なリソソーム蓄積症の一つは、ポンペ病(Pompe disease)である。ポンペ病は欠損リソソーム酵素アルファ-グルコシダーゼ(GAA)によって引き起こされ、その結果、リソソーム内のグリコーゲンのプロセシングが不十分になる。リソソーム内のグリコーゲンの蓄積は、主に骨格組織、心臓組織、および肝組織に生じる。
【0115】
リソソーム蓄積症の治療に対する選択肢の一つは、酵素またはタンパク質の置換療法である。置換酵素またはタンパク質は、ヒトASGR1に特異的に結合する抗原結合タンパク質またはリガンドとの治療用複合体に関連付けられることで、特定の標的細胞のリソソームに効率的に送達されることができる。WO2017/100467を参照のこと。当該文献は参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる。そのような治療用複合体を対象に投与してもよく、そして当該治療用複合体は、対象の標的細胞のリソソームに侵入し、酵素活性を提供して、リソソーム蓄積症と関連する酵素活性を置き換えることができる。ヒトASGR1タンパク質は、肝臓において、末端ガラクトースまたはN-アセチルガラクトサミン残基が露出した糖タンパク質のエンドサイトーシスとリソソーム分解を介在する膜貫通型タンパク質である。そのため、ヒトASGR1に結合し、一緒に内部移行されるタンパク質が、リソソームの標的となる。したがってヒトASGR1に治療用分子または治療用複合体を指向させる送達方法を使用して、治療剤をリソソーム(例えば肝臓中のリソソーム)の標的とさせることができる。
【0116】
ゆえに本明細書に提供される方法の一部は、インビボでのヒトASGR1を介した肝臓へのリソソーム置換タンパク質または酵素を含む治療用複合体の送達を評価する方法である。例えばかかる方法は、(a)本明細書において別に記載される非ヒト動物に治療用分子または治療用複合体を投与することであって、当該治療用分子または治療用複合体は、リソソーム置換タンパク質または酵素(またはリソソーム置換タンパク質もしくは酵素をコードする核酸)と、ヒトASGR1に特異的に結合する抗原結合タンパク質を含み、この場合においてASGR1は、細胞結合とリソソーム分画内への取り込みを介在する、投与すること;および(b)当該非ヒト動物の肝臓中のリソソーム置換タンパク質もしくは酵素の存在または活性を評価すること、を含んでもよい。非ヒト動物の肝臓中の置換タンパク質または酵素の活性は、特定の置換タンパク質または酵素に対する公知のアッセイにより評価されてもよく、または公知のアッセイにより、リソソーム中の影響を受ける様々な基質の分解を測定することにより評価されてもよい。
【0117】
別の例としては、治療用分子は、治療用分泌タンパク質をコードする核酸であってもよい。肝臓は、主要血漿タンパク質、止血と線溶の因子、キャリアタンパク質、ホルモン類、プロホルモン類およびアポリポタンパク質をはじめとする血液中に分泌されるタンパク質の産生に主要な役割を果たしている。ヒトASGR1タンパク質は、肝臓において特定の糖タンパク質のエンドサイトーシスを介在する膜貫通型タンパク質である。したがって、ヒトASGR1と複合体化された分子は、ヒトASGR1とともに内部移行されること
ができる。ゆえに、治療用分泌タンパク質をコードする核酸は、ヒトASGR1を標的とする複合体中で当該核酸が送達されることにより肝臓へと標的化されることができる。核酸がASGR1を介して内部移行されてもよく、肝臓が治療用タンパク質を生成および分泌してもよい。
【0118】
ゆえに本明細書に提供される方法の一部は、インビボでのヒトASGR1を介した肝臓への治療用分泌タンパク質をコードする核酸の送達を評価する方法である。例えばかかる方法は、(a)本明細書に別に記載される非ヒト動物に、治療用分泌タンパク質をコードする核酸(例えばDNA)を投与する工程であって、当該核酸は、ヒトASGR1に特異的に結合する治療用複合体中で送達され、ASGR1は当該複合体の内部移行を介在する工程;および(b)非ヒト動物において治療用分泌タンパク質の分泌レベル(例えば血清レベル)または活性を評価する工程、を含んでもよい。
【0119】
治療用タンパク質の産生および分泌は、任意の公知の手段によって評価されてもよい。例えば導入された核酸の発現は、公知のアッセイを使用して、非ヒト動物の肝臓におけるコードされたmRNAのレベルを測定することにより評価されてもよく、または非ヒト動物の肝臓におけるコードされた治療用タンパク質のレベルを測定することにより評価されてもよい。治療用タンパク質の分泌は、公知のアッセイを使用して、非ヒト動物におけるコードされた治療用タンパク質の血清レベルを測定することにより評価されてもよい。さらに、分泌された治療用タンパク質が特定の細胞型、組織または器官に対して作用する場合には、分泌された治療用タンパク質の活性は、標的の細胞型、組織または器官において評価されてもよい。
【0120】
B.ヒトASGR1介在性内部移行を介した、標的肝臓細胞表面タンパク質または肝臓中の標的可溶性タンパク質の内部移行に関する治療用複合体のインビボ有効性を評価する方法
ヒトASGR1を介して、標的肝臓細胞表面タンパク質または肝臓中の標的可溶性タンパク質を内部移行するよう設計された治療用複合体のインビボ有効性を評価するための、本明細書において別に記載されるヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物を使用する様々な方法が提供される。治療処理はしばしば、細胞上で、または細胞の近くで作用する一つ以上の標的分子の不活化または遮断を必要とする。例えば、抗体に基づく治療はしばしば、細胞の表面にて発現する特定の抗原、または可溶性リガンドと結合することによって機能し、結果として抗原の通常の生物活性を妨害する。このタイプの治療薬は典型的に、細胞シグナル伝達を減弱または抑制するため、サイトカインとその受容体との間での相互作用を遮断することによって機能する。特定の文脈においては、しかしながら、別の成分とのその物理的相互作用を遮断することを必ずしも伴わない方法で、標的分子の活性を不活化または抑制するために、治療に有益であり得る。標的分子のそのような非遮断減弱が達成され得る一つの方法として、細胞外または細胞表面における標的分子の濃度を減少させることを挙げることができる。例えば、標的分子と、例えばASGR1などの内部移行エフェクタータンパク質の間の物理的結合を促進することで、または実行することで、標的分子は減弱化され、または不活化され得る。これは例えば第一の抗原結合ドメインと第二の抗原結合ドメインを備えた多重特異性(例えば二重特異性)抗原結合分子の使用を介して実現することができる。各抗原結合ドメインは、異なる分子に結合する。第一のドメインは標的分子に特異的に結合し、第二のドメインはASGR1に特異的に結合する。このタイプの物理的分子間結合を通じて、標的分子を、ASGR1と共に細胞へ内部移行させ、細胞内部の分解機構によって処理することができるか、そうでなければ減弱する、隔離する、または不活化することができる。例えば、WO2013/138400およびUS2013/0243775を参照のこと。それら各々が参照によりその全体ですべての目的に対し本明細書に組み込まれる
【0121】
ヒトASGR1タンパク質は、肝臓において末端ガラクトースまたはN-アセチルガラクトサミン残基が暴露された糖タンパク質のエンドサイトーシスとリソソーム分解を介在する膜貫通型タンパク質であるため、ヒトASGR1と複合体化される細胞表面タンパク質はヒトASGR1とともに内部移行され、標的細胞表面タンパク質または標的可溶性タンパク質は、分解分画に再送付され、または標的細胞表面タンパク質または標的可溶性タンパク質は、内部分画またはエクソソーム中に隔離される。
【0122】
したがって本明細書において、ヒトASGR1を介して、標的肝臓細胞表面タンパク質または肝臓中の標的可溶性タンパク質を内部移行するよう設計された治療用複合体のインビボ有効性を評価するための、本明細書において別に記載されるヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物を使用する方法が提供される。例えばかかる方法は、(a)本明細書に別に記載される非ヒト動物に治療用複合体を投与することであって、当該治療用複合体は、標的細胞表面タンパク質または標的可溶性タンパク質に特異的に結合し、そしてヒトASGR1に特異的に結合する二重特異性抗原結合タンパク質を含み、この場合においてASGR1は当該標的細胞表面タンパク質または標的可溶性タンパク質の内部移行を介在する、投与すること、および(b)当該非ヒト動物の肝臓中の標的肝臓細胞表面タンパク質の細胞表面レベルまたは活性を評価する工程、または非ヒト動物の肝臓中の標的可溶性タンパク質の発現レベルまたは活性を評価することを含む。治療用複合体の投与は、本明細書に別に記載される任意の適切な手段によるものであってもよい。
【0123】
標的細胞表面タンパク質は、肝臓中で発現される任意の細胞表面タンパク質を含んでもよい。標的可溶性タンパク質は、肝臓中で発現される任意の可溶性タンパク質を含んでもよい。非ヒト動物の肝臓中の標的肝臓細胞表面タンパク質の細胞表面レベルまたは活性は、受容体または他のタンパク質の細胞表面レベルを測定するための公知のアッセイにより評価されてもよい。同様に、可溶性タンパク質のレベルは、公知のアッセイにより評価されてもよい。
【0124】
C.非ヒト動物への分子の投与
本明細書に記載される方法は、非ヒト動物に、核酸、タンパク質またはタンパク質複合体を含むある様々な分子(治療用分子または治療用複合体)を導入することを含む。導入は任意の手段により達成することができる。例えば当該分子は、例えばベクター送達、粒子介在送達、エクソソーム介在送達、脂質ナノ粒子介在送達、細胞浸透ペプチド介在送達、または埋め込み型装置介在送達により非ヒト動物内に導入されてもよい。具体的な例としては、分子は、例えばポリ(乳酸)(PLA)マイクロスフィア、ポリ(D,L-乳酸-コグリコール酸)(PLGA)マイクロスフィア、リポソーム、ミセル、逆ミセル、渦巻き型脂質または脂質微小管などの担体中で、細胞または非ヒト動物内に導入されてもよい。非ヒト動物への送達に関するいくつかの具体的な例としては、水力学的送達、ウイルス介在送達(例えばアデノ随伴ウイルス(AAV)介在送達)、および脂質ナノ粒子介在送達が挙げられる。
【0125】
核酸、タンパク質または他の構成要素の非ヒト動物への導入は、水力学的送達(HDD:hydrodynamic delivery)により実現されてもよい。水力学的送達は、インビボにおける細胞内DNA送達に関する完璧な方法として明らかになってきた。実質細胞への遺伝子送達に関しては、必須のDNA配列のみが選択血管を介して注入される必要があり、それにより現行のウイルスベクターおよび合成ベクターに関連する安全性の懸念が除外される。血流中に注入された場合、DNAは血液にアクセス可能な様々な組織中の細胞に到達することができる。水力学的送達は、大量の溶液を循環系の非圧縮性血液内に急速注入することで生じる力を用いており、それによって、大型で膜不浸透性の化合物が実質細胞に侵入することを阻んでいる内皮と細胞膜の物理的障壁を克服している。この方法は、DNA送達に加えてRNA、タンパク質、および他の低分子化合物の効率
的なインビボでの細胞内送達に有用である。例えば、Bonamassa et al.(2011)Pharm.Res.28(4):694-701を参照のこと。当該文献は参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる。
【0126】
核酸の導入は、例えばAAV介在送達またはレンチウイルス介在送達などのウイルス介在送達によっても実現することができる。他の例示的なウイルス/ウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、および単純ヘルペスウイルスが挙げられる。ウイルスは分裂細胞、非分裂細胞、または分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染することができる。ウイルスは宿主ゲノム内に組み込まれることができる。あるいは宿主ゲノム内には組み込まれない。かかるウイルスを操作して、免疫性を減少させてもよい。ウイルスは複製能力があってもよく、または複製能力が欠けていてもよい(例えばビリオン複製および/またはパッケージングの追加的ラウンドに必要な一つまたは複数の遺伝子に欠陥がある)。ウイルスは一過性発現、長期にわたる発現(例えば少なくとも1週、2週、1か月、2か月または3か月)、または永続的な発現(例えばCas9および/またはgRNAに関して)を生じさせてもよい。例示的なウイルス力価(例えば、AAV力価)としては、1012、1013、1014、1015、および1016ベクターゲノム/mLが挙げられる。
【0127】
ssDNA AAVゲノムは、RepとCapの二つのオープンリーディングフレームからなり、これに二つの逆方向末端リピートが隣接することで相補的DNA鎖の合成が可能となる。AAVトランスファープラスミドを構築する場合、導入遺伝子は二つのITRの間に配置され、RepとCapはトランスで供給されてもよい。RepとCapに加えて、AAVはアデノウイルス由来の遺伝子を含有するヘルパープラスミドを必要とし得る。これらの遺伝子(E4、E2aおよびVA)がAAV複製を介在する。例えばトランスファープラスミド、Rep/Capおよびヘルパープラスミドを、アデノウイルス遺伝子のE1+を含有するHEK293にトランスフェクトして、感染性AAV粒子を産生させてもよい。あるいはRep、Capおよびアデノウイルスヘルパー遺伝子を、一つのプラスミド内にまとめる場合もある。類似したパッケージング細胞および方法を、例えばレトロウイルスなどの他のウイルスに使用してもよい。
【0128】
複数のAAV血清型が特定されている。これらの血清型は、感染する細胞型が異なっており(すなわち指向性が異なる)、それにより特定細胞型への優先的形質導入が可能となる。肝臓組織に対する血清型としては、AAV7、AAV8およびAAV9が挙げられるが、特にAAV8が挙げられる。
【0129】
指向性は、シュードタイピングを介してさらに改良させてもよい。シュードタイピングは、カプシドと、異なるウイルス血清型由来のゲノムを混合する方法である。シュードタイピングが為されたウイルスを使用することで、形質導入効率を改善し、ならびに指向性を変化させてもよい。異なる血清型から誘導されたハイブリッドカプシドを使用してウイルスの指向性を変化させてもよい。例えばAAV-DJは、8個の血清型由来のハイブリッドカプシドを含有し、インビボで広範な細胞型に高い感染性を呈する。さらにAAVの血清型を突然変異を通して改変してもよい。他のシュードタイプが為された/改変されたAAVバリアントとしては、AAV2/1、AAV2/6、AAV2/7、AAV2/8、AAV2/9、AAV2.5、AAV8.2、およびAAV/SASTGが挙げられる。
【0130】
導入遺伝子の発現を早めるために、自己相補性AAV(scAAV)バリアントを使用してもよい。AAVは細胞のDNA複製機序に依存してAAVの一本鎖DNAゲノムの相補鎖を合成するため、導入遺伝子の発現は遅延する場合がある。この遅延に対処するために、感染時に自発的にアニーリングすることができる相補配列を含有するscAAVを使
用してもよく、それにより宿主細胞DNA合成に対する要求性が排除される。
【0131】
パッケージング能力を増強するために、長い導入遺伝子を、二つのAAVトランスファープラスミドの間で分割する場合がある。1番目のプラスミドは3’スプライスドナーを有し、2番目のプラスミドは5’スプライスアクセプターを有する。細胞への共感染時にこれらのウイルスはコンカテマーを形成し、一緒にスプライシングされ、全長導入遺伝子が発現され得る。より長い導入遺伝子の発現が可能となるが、発現の効率は低い。能力を増強させるための類似方法は、相同組換えを利用するものである。例えば導入遺伝子を二つのトランスファープラスミドの間で分割するが、相当な配列が重複していることで共発現が相同組換えと全長導入遺伝子の発現を誘導する。
【0132】
核酸とタンパク質の導入は、脂質ナノ粒子(LNP)介在送達により実現されてもよい。例えばLNP介在送達を使用して、RNAの形態でガイドRNAを送達してもよい。このような方法を介して送達することで、ガイドRNAが一過性に存在することとなり、生分解性脂質のクリアランスが改善され、忍容性が改善され、免疫原性が改善される。脂質製剤は分解から生物分子を防御することができる一方で、細胞取り込みも改善する。脂質ナノ粒子は、分子間力により互いに物理的に関連づけられた複数の脂質分子を含有する粒子である。これら脂質ナノ粒子としては、マイクロスフェア(例えばリポソームなどの単層小胞および多層小胞)、エマルション中の分散相、ミセルまたは懸濁液中の内相が挙げられる。そのような脂質ナノ粒子を使用して、送達用の一つまたは複数の核酸またはタンパク質を封入してもよい。カチオン性脂質を含有する製剤は、例えば核酸などのポリアニオンの送達に有用である。含有され得る他の脂質は、中性脂質(すなわち非電荷または両親媒性の脂質)、アニオン性脂質、トランスフェクションを強化するヘルパー脂質、およびナノ粒子がインビボで存在することができる時間の長さを延長させるためのステルス脂質である。適切なカチオン性脂質、中性脂質、アニオン性脂質、ヘルパー脂質およびステルス脂質の例は、WO2016/010840A1号に見出すことができる。当該文献は、全ての目的に対しその全体で参照により本明細書に組み込まれる。例示的な脂質ナノ粒子は、カチオン性脂質と、一つまたは複数の他の構成要素を含み得る。一例では、他の構成要素は、例えばコレステロールなどのヘルパー脂質を含み得る。別の例では、他の構成要素は、例えばコレステロールなどのヘルパー脂質と、例えばDSPCなどの中性脂質を含み得る。別の例では、他の構成要素は、例えばコレステロールなどのヘルパー脂質、例えばDSPCなどの任意の中性脂質、および例えばS010、S024、S027、S031またはS033などのステルス脂質を含み得る。
【0133】
免疫原性を減少させる送達様式が選択されてもよい。様式が異なれば、分子が送達される対象に対して与えられる薬力学特性または薬物動態特性も異なり得る。例えば様式が異なれば、組織分布が異なり、半減期が異なり、または時間的分布が異なり得る。送達様式の一部(例えば自律的複製またはゲノム統合により細胞中で存続する核酸ベクターの送達など)は、より持続的な発現と分子の存在をもたらす。一方で他の送達様式は、一過性であり、持続性も低い(例えばRNAまたはタンパク質の送達)。例えばRNAまたはタンパク質としてなど、さらに一過性の様式で構成要素を送達することで、当該構成要素は確実に短期間だけ存在および活性を有することとなり、免疫原性を減少させることができる。
【0134】
インビボ投与は、例えば非経口、静脈内、皮下、動脈内または腹腔内などをはじめとする任意の適切な経路によるものであってもよい。全身投与の様式としては例えば静脈内、動脈内、皮下、および腹腔内の経路などの非経口経路が挙げられる。具体的な例は、静脈内点滴である。局所投与の様式を使用してもよい。
【0135】
核酸またはタンパク質を含む組成物は、一つまたは複数の生理学的および薬学的に許容
可能な担体、希釈剤、賦形剤または補助剤を使用して製剤化されてもよい。製剤化は、選択された投与経路に依存してもよい。「薬学的に許容可能」という用語は、担体、希釈剤、賦形剤または補助剤が、製剤の他の成分との適合性があり、レシピエントに対して実質的に有害ではないことを意味する。
【0136】
投与頻度および用量数は特に、導入される構成要素の半減期および投与経路に依存してもよい。非ヒト動物内への核酸またはタンパク質の導入は、1回、またはある期間にわたり複数回実施されてもよい。例えば導入は、ある期間にわたり少なくとも2回、ある期間にわたり少なくとも3回、ある期間にわたり少なくとも4回、ある期間にわたり少なくとも5回、ある期間にわたり少なくとも6回、ある期間にわたり少なくとも7回、ある期間にわたり少なくとも8回、ある期間にわたり少なくとも9回、ある期間にわたり少なくとも10回、ある期間にわたり少なくとも11回、ある期間にわたり少なくとも12回、ある期間にわたり少なくとも13回、ある期間にわたり少なくとも14回、ある期間にわたり少なくとも15回、ある期間にわたり少なくとも16回、ある期間にわたり少なくとも17回、ある期間にわたり少なくとも18回、ある期間にわたり少なくとも19回、またはある期間にわたり少なくとも20回実施されてもよい。
【0137】
IV.ヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物の作製方法
本明細書において別に記載されるヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物の作製に関する様々な方法が提供される。遺伝子改変生物を作製するための任意の便利な方法またはプロトコルが、かかる遺伝子改変非ヒト動物の作製に適している。例えば、Cho et al.(2009)Current Protocols in Cell Biology 42:19.11:19.11.1-19.11.22およびGama Sosa
et al.(2010)Brain Struct.Funct.214(2-3):91-109を参照のこと。それら各々が参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる。かかる遺伝子改変非ヒト動物は、例えば標的とされるAsgr1座位での遺伝子ノックインを介して作製されてもよい。
【0138】
例えばヒト化Asgr1座位を含む非ヒト動物の作製方法は、(1)多能性細胞のゲノムを改変し、ヒト化Asgr1座位を含ませること;(2)ヒト化Asgr1座位を含む遺伝子改変多能性細胞を特定または選択すること;(3)遺伝子改変多能性細胞を、非ヒト動物宿主の胚へと導入すること;および(4)宿主胚を代理母に移植および妊娠させること、を含んでもよい。任意で、改変多能性細胞を含む宿主胚(例えば非ヒトES細胞)を胚盤胞期までインキュベートし、その後に代理母に移植および妊娠させ、F0の非ヒト動物を産生させてもよい。その後、代理母はヒト化Asgr1座位を含むF0世代の非ヒト動物を産生し得る。
【0139】
当該方法は、改変標的ゲノム座位を有する細胞または動物を特定することをさらに含んでもよい。様々な方法を使用して、標的の遺伝子改変を有する細胞および動物を特定してもよい。
【0140】
スクリーニング工程は例えば、親染色体のアレル改変(MOA)を評価するための定量的アッセイを含んでもよい。例えば定量的アッセイは、例えばリアルタイムPCR(qPCR)などの定量的PCRを介して実施されてもよい。リアルタイムPCRは標的座位を認識する第一のプライマーセットと、非標的参照座位を認識する第二のプライマーセットを利用してもよい。プライマーセットは、増幅された配列を認識する蛍光プローブを含んでもよい。
【0141】
適切な定量的アッセイの他の例としては、蛍光介在in situハイブリダイゼーション(FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション、定温DNA増幅、固定化プロー
ブに対する定量的ハイブリダイゼーション、INVADER(登録商標)プローブ、TAQMAN(登録商標)分子ビーコンプローブ、またはECLIPSE(商標)プローブ法(例えば、US 2005/0144655を参照のこと。当該文献は参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる)が挙げられる。
【0142】
適切な多能性細胞の例は、胚性幹(ES)細胞である(例えばマウスES細胞またはラットES細胞)。改変多能性細胞は例えば、(a)5’および3’の標的部位に対応する5’および3’のホモロジーアームに隣接した挿入核酸を含む標的化ベクターを一つまたは複数、細胞内に導入することであって、当該挿入核酸は、ヒト化Asgr1座位を含む、導入すること、および(b)そのゲノム中に標的ゲノム座位で統合された挿入核酸を含む細胞を少なくとも一つ特定すること、による組み換えを介して作製されてもよい。あるいは改変多能性細胞は、(a)細胞内に、(i)ヌクレアーゼ剤であって、当該ヌクレアーゼ剤は標的のゲノム座位内の認識部位でニックまたは二本鎖破断を誘導するもの、および(ii)認識部位に充分に近接して配置された5’および3’の標的部位に対応する5’および3’ホモロジーアームに隣接した挿入核酸を含む一つまたは複数の標的化ベクターであって、当該挿入核酸は、ヒト化Asgr1座位を含むもの、を導入すること、および(c)標的ゲノム座位で改変(例えば挿入核酸の統合)を含む細胞を少なくとも一つ特定すること、により作製されてもよい。所望の認識部位内にニックまたは二本鎖破断を誘導する任意のヌクレアーゼ剤を使用することができる。適切なヌクレアーゼの例としては、Transcription Activator-Like Effector Nuclease(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、メガヌクレアーゼ、およびClustered Regularly Interspersed Short Palindromic Repeats(CRISPR)/CRISPR-関連(Cas)システム、またはかかるシステムの構成要素(例えばCRISPR/Cas9)が挙げられる。例えば、US2013/0309670およびUS2015/0159175を参照のこと。それら各々が参照によりその全体ですべての目的に対し本明細書に組み込まれる。
【0143】
ドナー細胞は、任意の段階、例えば胚盤胞期または前-桑実胚期(すなわち4細胞期または8細胞期)などで宿主胚に導入されることができる。生殖細胞系列を介して遺伝子改変を伝達することができる子孫が作製される。例えば、米国特許第7,294,754号を参照のこと。これは参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる。
【0144】
あるいは、本明細書において別に記載される非ヒト動物を作製する方法は、(1)多能性細胞の改変に関する上述の方法を使用して一細胞期胚のゲノムを改変し、ヒト化Asgr1座位を含ませること;(2)遺伝子改変された胚を選択すること;および(3)遺伝子改変された胚を代理母に移植し、妊娠させること、を含んでもよい。生殖細胞系列を介して遺伝子改変を伝達することができる子孫が作製される。
【0145】
核移植技術を使用して、非ヒト哺乳類動物を作製することもできる。簡潔に述べると、核移植法は、(1)卵母細胞を除核する工程、または除核された卵母細胞を提供する工程;(2)除核された卵母細胞と組み合わされるドナー細胞またはドナー核を単離または提供する工程;(3)その細胞または核を、除核卵母細胞に注入し、再構成細胞を形成させる工程;(4)再構成細胞を動物の子宮に移植し、胚を形成させる工程;および(5)胚を発生させる工程、を含んでもよい。かかる方法において、卵母細胞は通常、死亡した動物から採取されるが、生きた動物の卵管および/または卵巣のいずれかから単離されてもよい。卵母細胞は、除核の前に、様々な公知の培地中で成熟されてもよい。卵母細胞の除核は、公知の多くの方法において実施することができる。除核卵母細胞にドナー細胞またはドナー核を注入して再構成細胞を形成させることは、融合前の透明帯下にドナー細胞を
マイクロインジェクションすることにより行われてもよい。融合は、接触/融合面の全体にわたりDC電気パルスを与えること(エレクトロフュージョン)により、たとえばポリエチレングリコールなどの融合促進化学物質に細胞を暴露することにより、またはたとえばセンダイウイルスなどの不活化ウイルスを用いることにより、誘導されてもよい。再構成細胞は、核ドナーとレシピエント卵母細胞の融合の前、融合の間、および/または融合の後に、電気的および/または非電気的手段により活性化されてもよい。活性化の方法としては、電気パルス、化学誘導ショック、精子の侵入、卵母細胞中の二価カチオン値の上昇、および卵母細胞中の細胞タンパク質のリン酸化の減少(キナーゼ阻害物質によるものとして)が挙げられる。活性化された再構成細胞または胚は、公知の培地中で培養され、その後、動物の子宮に移植されてもよい。例えば、US2008/0092249、WO1999/005266、US2004/0177390、WO2008/017234、および米国特許第7,612,250号を参照のこと。それら各々が参照によりその全体ですべての目的に対し本明細書に組み込まれる。
【0146】
本明細書に提示される様々な方法により、遺伝子改変された非ヒトF0動物の作製が可能となり、この場合において当該遺伝子改変されたF0動物の細胞は、ヒト化Asgr1座位を含む。F0動物を作製するために使用された方法に応じて、ヒト化Asgr1座位を有するF0動物内の細胞数は変化するであろうと認識されている。対応する生物(例えば8細胞期のマウス胚)から、例えばVELOCIMOUSE(登録商標)法を介して前-桑実胚期の胚内にドナーES細胞を導入することにより、標的の遺伝子改変を含む対象のヌクレオチド配列を有する細胞を含むF0動物の細胞群の割合が高くなる。例えば非ヒトF0動物の細胞寄与の少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、85%、86%、87%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%が、標的の改変を有する細胞群を含んでもよい。
【0147】
遺伝子改変されたF0動物の細胞は、ヒト化Asgr1座位に対してヘテロ接合性であってもよく、またはヒト化Asgr1座位に対してホモ接合性であってもよい。
【0148】
上記および下記に引用されるすべての特許出願、ウェブサイト、他の公表文献、アクセッション番号などは、それぞれの個々の項目が具体的に、および個々に参照により組み込まれると示されるのと同程度にまで、全ての目的に対しその全体で参照により組み込まれる。別バージョンの配列が、別時点のアクセッション番号と関連付けられている場合、本出願の有効な出願日におけるアクセッション番号と関連付けられたバージョンが意図される。有効な出願日は、必要に応じて、実際の出願日、またはアクセッション番号を参照する優先権出願の出願日の早い方が意図される。同様に、別バージョンの公表文献、ウェブサイトなどが別時点で公表された場合、別段の示唆が無い限り、本出願の有効出願日に最も近く公表されたバージョンが意図される。本発明の任意の特性、工程、要素、実施形態または態様が、別段の具体的な示唆が無い限り、任意の他のものと組み合わせて使用され得る。本発明は、明確性および理解を目的として、図および実施例により詳細に記載されているが、特定の変化および改変が、添付の請求の範囲内で実施され得ることが明白であろう。
【0149】
配列の簡単な説明
添付の配列表に列挙されるヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、ヌクレオチド塩基に関しては標準的な文字略語を使用して示され、アミノ酸に関しては3文字コードを使用して示されている。ヌクレオチド配列は、配列の5’末端で始まり、3’末端へと進む(すなわち各ラインで左から右へ)標準的な慣例に従っている。各ヌクレオチド配列の一つの鎖のみが示されているが、提示された鎖に対する任意の参照によって相補鎖も含まれると理解される。アミノ酸配列は、配列のアミノ末端で始まり、カルボキシ末端へと進む(
すなわち各ラインで左から右へ)標準的な慣例に従っている。
【0150】
表1.配列の説明
【表1-1】
【表1-2】
【実施例0151】
実施例1 ヒト化Asgr1座位を含むマウスの作製
アシアロ糖タンパク質受容体(Ashwell Receptor、ASGR)は、レクチン受容体のC型クラスに属する、肝臓膜結合優位型糖結合タンパク質受容体(約33kDa)である。ASGRは、末端ガラクトースまたはN-アセチルガラクトサミン(GalNac)モチーフを有する糖タンパク質に結合する。受容体介在エンドサイトーシスにより循環系から脱シアル化糖タンパク質を除去することができる。リガンドはリソソーム分解を経る一方で、ASGRは細胞表面へとリサイクルで戻される。この受容体はASGR1とASGR2(H1およびH2)の二つのサブユニットのヘテロオリゴマーである。高効率エンドサイトーシスの肝臓特異的受容体として、ASGR1は、例えば抗体、低分子(抗体-薬剤複合体の一部として)、およびDNAなどの治療剤の肝臓特異的送達に利用することができる。しかしながらヒトASGR1細胞外ドメインに対して本発明者らが作製した抗体および二重特異性抗体は、マウスAsgr1オルソログには結合しない(Biacoreデータは示さず)。ゆえに本発明者らは、多くの様々な方法を利用して、様々な治療剤の肝臓特異的送達の検証における使用のためのヒト化Asgr1マウスを作製した。
【0152】
bMQ-69B11由来の24kbを含む5’ホモロジーアームと、bMQ-69B11由来の67kbを含む3’ホモロジーアームを備えた大型標的化ベクターを作製し、マウスAsgr1のコードエクソン3~8(停止コドンおよび3’UTRを通過し、3’UTRのちょうど下流の配列まで)と、対応するヒトASGR1の配列とを置き換えた。コードされるAsgr1タンパク質は、マウスAsgr1膜貫通ドメイン、ならびにヒト多重コイルドメインおよびC型レクチンドメインが続いた。図2Aおよび3を参照のこと。突然変異体アレルを作製するために、F1H4マウス胚性幹細胞内に大型標的化ベクターとともにCRISPR/Cas9の構成要素が導入された。表2に記載されるプライマーとプローブを使用したアレル消失(Loss-of-allele)アッセイを実施し、内因性マウスアレルの消失を検出し、表3に記載されるプライマーとプローブを使用したアレル獲得(gain-of-allele)アッセイを実施し、ヒト化アレルの獲得を検出した。アレル消失アッセイとアレル獲得アッセイは例えば、US2014/0178879;US 2016/0145646;WO2016/081923;およびFrendewey et al.(2010)Methods Enzymol.476:2
95-307を参照のこと。それら各文献は参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる。
【0153】
表2.マウスTAQMAN(登録商標)アレル消失アッセイ
【表2】
【0154】
表3.ヒトTAQMAN(登録商標)アレル獲得アッセイ
【表3】
【0155】
次いでVELOCIMOUSE(登録商標)法を使用してF0マウスを作製した。例えばUS7,576,259;US7,659,442;US7,294,754;US2008/007800;およびPoueymirou et al.(2007)Nature Biotech.25(1):91-99。それら各文献は参照によりその全体ですべての目的に対して本明細書に組み込まれる。コードエクソン3の上流のイントロン部分もヒト化された。全部で1863bpのマウスAsgr1配列が、3907bpのヒトASGR1配列により置き換えられた。さらにloxP-hUb1-em7-ハイグロマイシン耐性遺伝子-ポリアデニル化シグナル-mPrm1-Crei-ポリアデニル化シグナル-loxPカセット(5218bp)もヒト3’UTRの下流に挿入された。当該カセットの直前に、およそ190bpの3’UTRの3’ヒト配列の緩衝が置かれた。得られたハイグロマイシン抵抗性自動削除カセットを含む部分ヒト化マウスAsgr1アレルを、配列番号21(7302アレルと呼称される)に記載する。図2Aにおいて、配列境界領域A、BおよびCを、それぞれ配列番号18、19および20として記載する。ヒトASGR1タンパク質(配列番号1)、マウスAsgr1タンパク質(配列番号2)、および部分ヒト化マウスAsgr1タンパク質(配列番号3)の比較を図3に示す。
【0156】
Creリコンビナーゼを有する自動削除カセットが除去された時点で、loxPおよびクローニング部位(77bp)は、残留loxPの直前の3’UTR後のおよそ190bpの3’ヒト配列とともに、ヒト3’UTRの下流に残留している。図2Bを参照のこと。得られた部分ヒト化マウス、カセット削除Asgr1アレルを、配列番号24(7303アレルと呼称される)に記載する。図2Bにおいて、配列境界領域AおよびCを、それ
ぞれ配列番号22および23に記載する。
【0157】
実施例2 ヒト化Asgr1座位を含むマウスの検証
有効モデルとしてのヒト化Asgr1マウス(Asgr1hu/hu)の検証を行うために、Asgr1hu/huマウスを表現型解析し、その表現型を野生型同腹仔の表現型と比較した。Asgr1hu/huマウスは、野生型同腹仔と比較して血漿脂質レベル(総コレステロール、トリグリセリド、HDL-C、LDL-C)における差異は示さなかった。図4を参照のこと。同様に、Asgr1hu/huマウスは、野生型同腹仔と比較して、体重または血中グルコースレベルにおける差異は示さなかった。図5を参照のこと。ヒトASGR1タンパク質は、マウスAsgr1と同様に、肝臓膜に共局在していた。図6を参照のこと。結論として、Asgr1hu/huマウスは肝臓膜上でヒトASGR1タンパク質を発現するとともに、正常な血漿脂質プロファイルを有している。
【0158】
方法
Asgr1ヒト化マウスにおける循環脂質レベルの評価 オスAsgr1ヒト化マウス(Asgr1hum/hum)およびそれらの野生型同腹仔(Asgr1+/+)の血漿を非絶食状態で採取し、血清化学分析器のADVIA(登録商標)Chemistry XPT System(Siemens社)を使用して血清脂質(トリグリセリド(TG)、総コレステロール、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C))について分析した。N=8匹/群、11週齢。データはそれぞれに対する平均±SEMとして表された。
【0159】
血中グルコースの評価 血中グルコースは、絶食状態(16時間)および給餌(非絶食)状態で、Accu-Chekグルコメーター(Roche社)を使用して尾端から測定された。
【0160】
Asgr1に関するウェスタンブロット評価。Asgr1ヒト化マウスおよびWTマウス(n=8匹/遺伝子型)から全肝臓を採取し、処理を行うまで-80℃で凍結保存した。各サンプルについて、約40mgの凍結肝臓片を全肝臓から切り出し、各片をダウンス型ホモジナイザーに置き、均質な懸濁液が得られるまでホモジナイズした。各肝臓サンプルの細胞質分画および膜分画を、メーカーの「軟組織」プロトコルに従って界面活性剤ベースの市販キット(Thermo社カタログ番号89842)を使用して分離した。各サンプルの細胞質分画および膜分画が単離されたら、BCAタンパク質定量アッセイ(Thermo社 カタログ番号23225)をマイクロプレート手順に対するキットのプロトコルに従って各サンプルの2分画に対して実施した。5Xの還元性色素を使用して、各サンプルの各細胞質分画と膜分画に対し、ウェスタンブロットサンプルを調製した。すべてのサンプルは、0.8μg/μLで調製された。各サンプルの20μgの総タンパク質をウェスタンブロットゲルにロードした。hASGR1は、ウサギ抗hASGR1ポリクローナル抗体(Abgent社、カタログ番号AP16133a、2.5%ブロッキングミルクのTBS-T溶液中、1:1,000希釈)を使用して検出した。抗体がマウスタンパク質に対して交差反応を示したため、同腹仔マウスのマウスAsgr1が、同抗体を用いて検出された。hASGR1検出用の二次抗体は、ロバ抗ウサギIgG-HRP(Jackson社、カタログ番号711-035-152、2.5%ブロッキングミルクのTBS-T溶液中、0.1μg/mL)であった。細胞質分画に対するローディング対照として、ウサギ抗GAPDHモノクローナル抗体を使用してすべてのサンプルにおいてGAPDHを検出した(Cell Signaling社 カタログ番号2118S、2.5%ブロッキングミルクのTBS-T溶液中、1:10,000希釈)。GAPDH検出用の二次抗体は、ロバ抗ウサギIgG-HRP(Jackson社、カタログ番号711-035-152、2.5%ブロッキングミルクのTBS-T溶液中、0.1μg/mL)であった。膜分画のローディング対照として、ウサギ抗トランスフェリン受容体ポリクロ
ーナル抗体(R&D社、カタログ番号AF2472、2.5%ブロッキングミルクのTBS-T溶液中、0.25μg/mL)を使用して全てのサンプルにおいてトランスフェリン受容体を検出した。トランスフェリン受容体検出用の二次抗体は、ロバ抗ヤギIgG-HRP(Jackson社、カタログ番号705-035-147、2.5%ブロッキングミルクのTBS-T溶液中、0.2μg/mL)であった。
【0161】
実施例3 異種エピトープを含むアデノ随伴ウイルスベクターの生成
次いで二重特異性抗myc-ASGR1抗体が、scAAV-N587mycウイルス粒子を、実施例1で作製されたマウスにおいてインビボでヒト化ASGR1を発現する肝臓細胞に再標的化させ得るかどうかを決定するための実験を行った。これを検証するために、ウイルス粒子を最初に作製した。
【0162】
AAVカプシドタンパク質は、PCRを使用して、FLAG、c-myc、ヘキサヒスチジンなどのいくつかの異種エピトープのうちの一つを含有するように改変され、組換えカプシドタンパク質をコードするプラスミドを生成する。簡潔に述べると、FLAG、c-mycまたはヘキサヒスチジンをコードする配列を、AAV2 VP1カプシドタンパク質のN587をコードするコドンまたはAAV6 VP1カプシドタンパク質のQ585をコードするコドンの後のフレーム中に挿入する。
【0163】
アデノ随伴ウイルス生成は、HEK293細胞を用いたトリプルトランスフェクション方法(例えば、Erik Arden and Joseph M.Metzger、J
Biol Methods.2016;3(2))を参照のこと)を使用して実施する。細胞は、適切なベクター:
- ヘルパープラスミド、pHelper(Agilent社、Cat#240074);
- 野生型または改変型のAAV rep/cap遺伝子をコードするプラスミド(pAAV RC2(Cell biolabs社、カタログ番号 VPK-422)、例えば、pAAV RC2/6(Cell Biolabs社、カタログ番号VPK-426)、pAAV RC2-N587myc、pAAV RC2/6-Q585myc);および
- 対象ヌクレオチド配列およびAAV ITR配列をコードするプラスミド、例えば、pscAAV-CMV-eGFP、pAAV-CMVGFP (Agilent社、カタログ番号240074)、pAAV-EF1a-eGFPまたはpAAV-CAGG-eGFP)などを用いたPEFpro(Polyplus transfection社、ニューヨーク州ニューヨーク)介在トランスフェクションの1日前に播種される。
【0164】
トランスフェクションの72時間後に、培地を収集し、細胞を緩衝液[50MmのTris-Hcl、150MmのNaCl、および0.5%デオキシコール酸ナトリウム(Sigma社、Cat#D6750-100G)]中で溶解する。次に、ベンゾナーゼ(Sigma社、ミズーリ州セントルイス)を、0.5U/μLの最終濃度まで培地と細胞溶解物の両方に加えて、その後に37℃、60分のインキュベーションを行う。細胞溶解物を30分間、4000rpmでスピンダウンさせる。細胞溶解物および培地を一緒に混合し、最終濃度8%でPEG8000(Teknova社、カタログ番号P4340)を用いて沈殿させる。沈殿物を400nM NaClに再懸濁させ、10分間、10000gで遠心分離する。上清中のウイルスは、149,000gで3時間の超遠心分離により沈殿させ、qPCRにより力価測定した。
【0165】
AAVゲノムを力価測定するためのqPCRに関しては、AAVサンプルを37℃で1時間、DNaseI(Thermofisher Scientific社、カタログ番号EN0525)で処理し、DNA extract All Reagents(Th
ermofisher Scientific社、カタログ番号4403319)を使用して溶解する。AAV2 ITRに対するプライマーを使用して、QuantStudio 3 Real-Time PCR System(Thermofisher Scientific社)を使用し、カプシド形成ウイルスゲノムを定量化する。AAV2 ITRプライマーの配列は、5’-GGAACCCCTAGTGATGGAGTT-3’(フォワードITR、配列番号36)および5’-CGGCCTCAGTGAGCGA-3’(リバースITR、配列番号37)(Aurnhammer et al.,2012)であり、それぞれ、AAVの左側内部逆位反復(ITR:internal inverted repeat)配列、およびAAVの右側内部逆位反復(ITR)配列に由来する。AAV2 ITRのプローブの配列は、5’-6-FAM-CACTCCCTCTCTGCGCGCTCG-TAMRA-3’(配列番号38)(Aurnhammer
et al.(2012)Hum. Gene Ther. Methods 23:18-28)である。95℃で10分間の活性化工程の後、95℃で15秒間および60℃で30秒間の2工程のPCRサイクルを40サイクル実施する。TaqMan Universal PCR Master Mix(Thermofisher Scientific社、カタログ番号4304437)をqPCRで使用した。DNAプラスミド(Agilent社、カタログ番号240074)は、絶対力価を決定するための標準物として使用する。
【0166】
c-mycエピトープが挿入されたカプシドを含むアデノ随伴ウイルスベクターが作製された。本実施例において、c-mycエピトープ(EQKLISEEDL、配列番号25)を、AAV2 VP1カプシドタンパク質のアミノ酸N587とR588の間に挿入した。すなわちc-mycエピトープをコードするヌクレオチド配列(GAA CAA AAA CTC ATC TCA GAA GAG GAT CTG、配列番号26)を、プラスミドpAAV RC2(Cell Biolabs,Inc.、カルフォルニア州サンディエゴ)内に挿入し、改変されたpAAV RC2-N587Mycプラスミドを使用して、中立状態の指向性を有するAAVウイルスベクター用の改変カプシドタンパク質をコードさせた。
【0167】
具体的には、BsiW1制限酵素部位、pAAV RC2の3050位~3773位の間のヌクレオチド配列、そしてc-mycエピトープオーバーハングヌクレオチド配列を(5’から3’の方向に)含む第一のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物と、c-mycエピトープオーバーハングヌクレオチド配列、pAAV RC2の3774位~4370位の間のヌクレオチド配列、そしてPme1制限酵素部位を(5’から3’の方向に)含む第二のPCR産物を、表4に記載されるプライマーを使用して作製した。Li et
al.(2012)Methods Mol. Biol.852:51-59に記載されるように、BsiW1(New England Biolabs社、R0553L)およびPme1(New England Biolabs社、R0560L)を用いてpAAV RC2を消化し、ライゲーション非依存性クローニングを介して2つのPCR産物を挿入することによって、pAAV RC2-N587Mycプラスミド(すなわち、VP1カプシドタンパク質のアミノ酸N587とR588の間にc-mycエピトープをコードするように改変されたpAAV RC2プラスミド)を作製した。
【0168】
表4.
【表4】
【0169】
具体的には、3757~3758位の間に挿入されたc-mycエピトープ配列を有するpAAV RC2/6の3700位および3940位を含むgblock DNA断片を、Integrated DNA Technologies社(アイオワ州コーラルビル)に注文した。Li et al.(2012)Methods Mol.Biol.852:51-59に記載されるように、ライゲーション非依存性クローニングを介して、MscI(New England Biolabs社、カタログ番号R0534L)およびAflII (New England Biolabs社、カタログ番号R0520L)を用いて消化されたpAAV RC2/6内に当該gblock断片の挿入を行うことにより、pAAV RC2/6-Q585Mycプラスミドを作製した。
【0170】
具体的には、BamHIおよびNotI制限酵素部位を使用して、GFP断片をpscAAV MCSベクター(Cell Biolabs社、カタログ番号VPK-430)に導入することによってpscAAV-CMV-eGFPを作製した。Thermofisher Scientific社(マサチューセッツ州ウォルサム)のデノボ合成によって、pAAV-EF1a-eGFPプラスミドおよびpAAV-CAGG-eGFPを作製した。
【0171】
実施例4.ヒト化ASGR1座位を有するマウスにおける、インビボでのscAAV-N587Myc粒子の二重特異性抗体介在性内部移行
二重特異性抗myc-ASGR1抗体が、scAAV2-N587myc-CMV-eGFPウイルスベクターをインビボでhASGR1を発現する肝臓細胞に再標的化させることができるかどうかを決定するために、C57BL/6の背景でその肝臓細胞がhASGR1を発現するように遺伝子改変されたマウス、および対照の野生型C57BL/6マウスに、1x1011(qPCRによる力価測定)の野生型scAAV2-CMV-eGFP単独、またはウイルスゲノムと抗体分子の比率が1:8で、二重特異性抗myc-ASGR1抗体と組み合わされたscAAV2-N587myc-CMV-eGFPウイルスベクターを 血管内に注射した。対照には、生理食塩水[250mMのNaCl]、またはscAAV2-N587myc-CMV-eGFPウイルスベクター単独を注射したマウスが含まれた。注射の10日後、マウスを屠殺し、4%のPFAで経心腔的灌流を行った。肝臓、腎臓、および心臓の器官を収集し、15%のスクロース、続いて30%のスクロース中で脱水した。次いで、器官をスライド上で凍結切片にして、ニワトリ抗EGFP抗体(Jackson ImmunoResearch Labs,Inc.、ペンシルバニア州ウェストグローブ)およびAlexa-488結合抗ニワトリ二次抗体(Jackson ImmunoResearch Labs,Inc.、ペンシルバニア州ウェストグローブ)を用いて染色した(図8A図8C)。肝臓中でASGR1を発現するように改変され、野生型scAAV2-CMV-eGFP、または二重特異性抗myc-ASGR1抗体と組み合わされたscAAV2-N587myc-CMV-eGFPを注射されたトランスジェニック動物からの肝臓(図8A(i)および8A(iv))、ならびに野生型scAAV2-CMV-eGFPを注射された野生型C57BL/6マウスか
らの肝臓(図8A(v))において、GFP陽性細胞を検出した。すべての脾臓または腎臓サンプル(図8Bおよび8C)、さらには生理食塩水またはscAAV2-N587myc-CMV-eGFPウイルスベクター単独を注射されたすべての動物からの肝臓、脾臓、もしくは腎臓サンプル(図8A(ii、iii、vi、vii))、さらには二重特異性抗myc-ASGR1抗体と組み合わされたscAAV2-N587myc-CMV-eGFPを注射された野生型C57BL/6動物から採取された肝臓サンプル(図8A(viii))では、GFPは検出されなかった。要約すると、scAAV2-N587myc-CMV-eGFPウイルスベクターと二重特異性抗myc-ASGR1抗体との組み合わせは、hASGR1を発現する(肝)細胞のみに感染した。このことから、scAAV2-CMV-eGFPウイルスベクターが、カプシドタンパク質の改変によって不活性化されたこと、例えばscAAVウイルスベクターの本来の指向性が、例えばc-mycエピトープによって中立状態となり得たこと、そしてそのようなウイルスベクターは、例えば二重特異性抗myc-ASGR1抗体によって、インビボで肝臓細胞に対して特異的に再標的化されるなど、特異的に再活性化され得たことを強く示唆するものである。
【0172】
同様に、二重特異性抗myc-ASGR1抗体が、ssAAV2-N587myc-CAGG-eGFPウイルスベクターをインビボでhASGR1を発現する肝臓細胞へと再標的化させ得るかどうかを決定するため、C57BL/6バックグラウンドでその肝臓細胞がhASGR1を発現するよう遺伝子改変されたマウスと、対照の野生型C57BL/6マウスに、2.18x1011(qPCRにより力価測定)の野生型ssAAV2-CAGG-eGFPウイルスベクターを単独で、またはウイルスゲノムと抗体分子の比率が1:4のssAAV2-N587myc-CAGG-eGFPウイルスベクターと二重特異性抗myc-ASGR1抗体の組み合わせを用いて、血管内注射した。対照には、PBS、またはssAAV2-N587myc-CAGG-eGFPウイルスベクター単独が注射されたマウスが含まれた。注射の4週間後、マウスを屠殺し、4%のPFAで経心腔的灌流を行った。肝臓、腎臓、および心臓の器官を収集し、15%のスクロース、続いて30%のスクロース中で脱水した。次いで器官をスライド上で凍結切片にして、ニワトリ抗EGFP抗体(Jackson ImmunoResearch Labs,Inc.、ペンシルバニア州ウェストグローブ)およびAlexa-488結合抗ニワトリ二次抗体(Jackson ImmunoResearch Labs,Inc、ペンシルバニア州ウェストグローブ)を用いて染色した(図9A~9O)。肝臓中でASGR1を発現するように改変され、野生型ssAAV2-CAGG-eGFP、または二重特異性抗myc-ASGR1抗体と組み合わされたssAAV2-N587myc-CAGG-eGFPを注射されたトランスジェニック動物からの肝臓(図9E~9F、9P~9R)、および野生型ssAAV2-CAGG-eGFPを注射された野生型C57BL/6マウスからの肝臓(図9B~9C)において、GFP陽性細胞を検出した。驚くべきことに、二重特異性抗myc-ASGR1抗体と組み合わせたssAAV2-N587myc-CAGG-eGFPの感染効率は、WT ssAAV2-CAGG-GFP(図9E~9F、9P~9R).よりも非常に高い。生理食塩水、またはssAAV2-N587myc-CAGG-eGFPウイルスベクター単独を注射したすべての動物からの肝臓サンプル(図9A、9D、9G~9L)、さらには二重特異性抗myc-ASGR1抗体と組み合わされたssAAV2-N587myc-CAGG-eGFPを注射された野生型C57BL/6動物から採取された肝臓サンプル(図9M~9O)において、GFPは検出されなかったか、またはかろうじて検出された。要約すると、ssAAV2-N587myc-CAGG-eGFPウイルスベクターと二重特異性抗myc-ASGR1抗体との組み合わせは、hASGR1を発現する(肝)細胞のみに感染した。このことから、ssAAV2-N587myc-CAGG-eGFPウイルスベクターが、カプシドタンパク質の改変によって不活性化されたこと、例えばscAAVウイルスベクターの本来の指向性が、例えばc-mycエピトープによって中立状態となり得たこと、そしてそのようなウイルスベクターは、例えば二重特異性抗myc-ASGR1抗体によって、インビボで肝臓細
胞に対して特異的に再標的化されるなど、特異的に再活性化され得たことを強く示唆するものである。
【0173】
本実施例は、ヒト化ASGR1マウスを使用して、ヒトASGR1に特異的に結合する治療剤候補を、肝臓細胞への標的送達に関して検証し得ることを示すものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9-1】
図9-2】
図9-3】
【配列表】
2023174783000001.app
【外国語明細書】