(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174812
(43)【公開日】2023-12-08
(54)【発明の名称】エンジンの清浄さを改善するための潤滑剤組成物におけるエステルの使用
(51)【国際特許分類】
C10M 105/32 20060101AFI20231201BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20231201BHJP
C10N 40/26 20060101ALN20231201BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20231201BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20231201BHJP
【FI】
C10M105/32
C10N20:02
C10N40:26
C10N40:25
C10N30:04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023177522
(22)【出願日】2023-10-13
(62)【分割の表示】P 2020515869の分割
【原出願日】2018-09-18
(31)【優先権主張番号】1758648
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】516357100
【氏名又は名称】トタル マルケティン セルビスス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【弁理士】
【氏名又は名称】日浅 里美
(72)【発明者】
【氏名】モデスティーノ デ フェオ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB23R
4H104BB24R
4H104BB31A
4H104BE01R
4H104BE11R
4H104BE13R
4H104CA04A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104EA02A
4H104LA02
4H104PA41
4H104PA45
(57)【要約】
【課題】本発明は、エンジンの清浄さを改善することを目的とする。
【解決手段】本発明は、潤滑剤組成物の質量に対して2~12質量%の、100℃にて200~1000cSTの粘度を有するエステルの少なくとも1種のベースオイルを含む潤滑剤組成物における使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの清浄さを改善するための100℃にて200~1000cSTの粘度を有する2~12質量%(潤滑剤組成物の質量による)のエステルの少なくとも1種のベースオイルを含む潤滑剤組成物における使用であって、前記エステルはグリセロールエステルではない、使用。
【請求項2】
100℃における前記エステルの粘度が、200~900cST、好ましくは200~800、より好ましくは250~700cSTである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記エステルが、潤滑剤組成物の質量により2~11質量%、好ましくは3~11質量%、より好ましくは3~10質量%、いっそうより好ましくは4~10質量%の割合で含まれる、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記エステルを形成するアルコールが、モノ-及び多価アルコール、例えばトリメチロールプロパン、エリトリトール、ペンタエリトリトール、好ましくはペンタエリトリトール、又はトリメチロールプロパンから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
酸が、酸無水物又は脂肪酸から選択される、請求項3又は4に記載の使用。
【請求項6】
前記酸無水物又は脂肪酸の炭素鎖が、カルボン酸、アミド、尿素、ウレタン、アミン、ポリイソブタジエン又はアルコールから選択される1種又はそれより多くの基によって官能化されている、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記エンジンが、船舶エンジン、好ましくは2-ストローク船舶エンジンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
少なくとも1種のベースオイルと、100℃にて200~100cSTの粘度を有する2~12質量%(潤滑剤組成物の質量による)のエステルとを含む潤滑剤組成物のエンジンにおける使用を含み、前記エステルはグリセロールエステルではなく、好ましくは請求項2~7のいずれか一項に記載のエステルである、エンジンの清浄さを改善する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、特に船舶エンジンの清浄さを改善するための潤滑剤組成物におけるエステルの使用に関する。本発明は、エステルを含む潤滑剤組成物の使用を含む、エンジン、特に船舶エンジンの清浄さを改善する方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0002】
海事セクターにおいて、著しい努力は燃料燃焼中に形成される硫酸を中和するための潤滑剤組成物に集中されており、それは、エンジンの部分の腐食摩耗の著しい減少を可能にする。
【0003】
腐食摩耗低減の課題に対処するために、多数の添加剤が潤滑剤組成物において用いられ、それは、エンジン部、特にクランクケースの清浄さに対して悪影響がある場合がある。実際、これらの添加剤が硫酸に接しており、及び/又はエンジン内に適用された温度及び圧力によるストレスを経験する場合、それらはこれらの部分を詰まらせる堆積物を形成しつつ、部分的に又は全体的に壊れる場合がある。その結果として、形成された堆積物は、エンジン部の増加した磨耗及び急速な目詰り、及び次にはエンジンの耐用年数のより速い短縮を引き起こす。
【0004】
WO2013/045648号は、エンジンの清浄さを改善しつつ、燃料消費量の低減を可能にする船舶エンジン用潤滑剤組成物を記載する。これらの組成物は、少なくとも1種のベースオイル、少なくとも1種の洗浄剤、少なくとも1種のオレフィンコポリマー及び少なくとも1種のグリセロールエステルを含む。
【0005】
しかしながら、エンジンの清浄さの点からさらに高い性能を提供する潤滑剤組成物の提供に興味が残る。
【0006】
したがって、本発明の第1の目的は、エンジンの清浄さ、好ましくはクランクケースの清浄さを改善するための100℃にて200~1000cSTの粘度を有する2~12質量%(潤滑剤組成物の質量による)のエステルの少なくとも1種のベースオイルを含む潤滑剤組成物における使用に関する。
【0007】
本発明の文脈において、エンジンの清浄さの改善は、潤滑剤の熱的安定性の増加によって規定され、それは、エンジン部のコーティングの減少をもたらす。潤滑剤の熱的安定性は以下に記載されるECBT試験によって決定される。エンジンの清浄さの改善は、本発明による潤滑剤組成物において本発明によるエステルがない状態において観察されるものに対するものであることを理解されたい。
【0008】
驚くべきことに、本発明者らは、1質量%未満のエステル又は14質量%を超えるエステルで、エンジンの清浄さの改善がなかったことを示した。
【0009】
好ましくは、エステルは、潤滑剤組成物の質量により2~11質量%、好ましくは3~11質量%、より好ましくは3~10質量%、いっそうより好ましくは4~10質量%の割合で含まれる。
【0010】
好ましくは、標準ASTM D445に準じて測定された100℃におけるエステルの粘度は、200~900cST、好ましくは200~800、より好ましくは250~700cSTである。
【0011】
本発明によるエステルは常に、アルコールと酸を反応させることにより得られるエステルであることができる。アルコールはモノアルコール又は多価アルコールであることができ、酸はモノ酸又はポリ酸であることができる。特に、エステルはモノ-、ジ-、トリ-、テトラ-又はペンタエステルから選択されることができる。
【0012】
好ましくは、アルコールはモノアルコール、ジアルコール、トリアルコール又はテトラアルコールである。
【0013】
好ましくは、アルコールは1~3つの炭素原子を含む、より好ましくは3~25個の炭素原子、いっそうより好ましくは3~18個の炭素原子を含む炭化水素鎖を有する。
【0014】
「多価アルコール」は、少なくとも2つのヒドロキシル基を有する、好ましくは2~8つのヒドロキシル基、より好ましくは2~6つのヒドロキシル基、いっそうより好ましくは2~4つのヒドロキシル基を含むアルコールを指す。
【0015】
有利には、多価アルコールはエリトリトール、トリメチロールプロパン及びペンタエリトリトールから、好ましくはトリメチロールプロパン及びペンタエリトリトールから選択される。
【0016】
有利には、多価アルコールはグリセロールではない。
【0017】
「ポリ酸」は、少なくとも2つのカルボン酸基を有する、好ましくは2~6つのカルボン酸基、より好ましくは2~4つのカルボン酸基を含む酸を指す。
【0018】
好ましくは、酸は酸無水物又は脂肪酸から選択される。
【0019】
有利には、酸無水物は、エタン酸無水物、プロパン酸無水物、無水マレイン酸、無水フタル酸、シス-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物及び無水コハク酸から選択される。
【0020】
さらに有利には、脂肪酸は4~36個の炭素原子、好ましくは6~24個の炭素原子を含む。これらの脂肪酸は飽和、モノ-、及び/又はポリ不飽和であることができる。
【0021】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、アルコールとの反応に用いられる脂肪酸は、例えば植物オイルからの脂肪酸であり、飽和、モノ-、及び/又はポリ不飽和であることができる。それらは、例えばカプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシレン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、トリコシル酸、リグノセリン酸、ペンタコサン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、ノナコサン酸、メリシン酸、ヘントリアコンタン酸、及びラッセル酸、及びこれらの誘導体、又はパルミトレイン酸、オレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、a-リノレン酸、c-リノレン酸、ジ-ホモ-c-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、及びドコヘキサエン酸及びこれらの誘導体等の不飽和酸から選択される。好ましくは、脂肪酸は、コプラ、パーム、オリーブ、ピーナッツ、菜種、ヒマワリ、大豆、キャスター、木材、トウモロコシ、骨髄、ブドウの種、ホホバ、ごま、ナッツ、ヘーゼルナッツ、アーモンド、シアバターノキ、マカダミア、アルファルファ、ライ麦、紅花、ココナッツ、綿の実、亜麻仁油、牛脂又はこれらの任意の混合物等の植物及び動物オイル中に存在するトリグリセリドの加水分解に由来する。天然オイルはある脂肪酸、例えばなたね油、又はオレイン酸ひまわり油のその含有量を富ませるように遺伝子組み換えされていてよい。
【0022】
本発明の1つの特定の実施態様において、酸無水物又は脂肪酸の炭素鎖は、カルボン酸、アミド、尿素、ウレタン、アミン、ポリイソブタジエン又はアルコールから選択される1つ又はそれより多くの基によって官能化されていてもよい。
【0023】
本発明によるエステルは、混合エステル、すなわち種々のアルコール及び/又は種々の酸を混合することにより得られるエステルであることができる。
【0024】
したがって、好ましくは、本発明によるエステルは、上に規定されるようなモノアルコール又は多価アルコールと、上に規定されるようなモノ酸又はポリ酸とを反応させることにより得られる。
【0025】
好ましくは、本発明によるエステルはグリセロールエステルではない。
【0026】
好ましくは、潤滑剤組成物は少なくとも1種の洗浄剤をさらに含む。本発明による潤滑剤組成物において用いられる洗浄剤は、当業者によく知られている。
【0027】
本発明の特定の実施態様において、潤滑剤組成物の配合物において一般に用いられる洗浄剤は、長い脂肪親和性の炭化水素鎖及び親水性の頭を含む典型的なアニオン性組成物である。
【0028】
組み合わされるカチオンは、典型的にはアルカリ又はアルカリ土類金属の金属カチオンである。
【0029】
洗浄剤は、好ましくはアルカリ又はアルカリ土類金属のカルボン酸、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩及びフェネート塩から選択される。
【0030】
アルカリ及びアルカリ土類金属は、好ましくはカルシウム、マグネシウム、ナトリウム又はバリウムである。
【0031】
これらの金属塩はほぼ化学量論的量で金属を含有することができる。この場合、それらはある塩基度に寄与するが、洗浄剤は過塩基化ではない、又は「中性」といわれる。これらの「中性の」洗浄剤は、典型的にはASTM D2896に準じて測定された、150mgKOH/g未満の、又は100未満、又は80mgKOH/g未満のBN(塩基度を特徴づける塩基価)を有する。
【0032】
この種の「中性の」洗浄剤は、本発明による潤滑剤のBNに部分的に寄与する場合がある。例えば、アルカリ及びアルカリ土類金属、例えばカルシウム、ナトリウム、マグネシウム又はバリウムのカルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、フェネート又はナフテン酸塩中性洗剤を用いることができる。
【0033】
金属が過剰(化学量論的量より大きい量)に存在する場合、洗浄剤は「過塩基化」である。そのBNは、150mgKOH/g超、典型的には200~700mgKOH/g、一般に250~450mgKOH/gに上昇する。
【0034】
洗浄剤を過塩基化させる余剰の金属は、オイル不溶性金属塩、例えば炭酸塩、水酸化物、オキサレート、アセテート、グルタミン酸塩、又は好ましくは炭酸塩の形態で存在することができる。
【0035】
単一の過塩基化洗浄剤において、これらの不溶性塩の金属は油溶性の洗浄剤のものと同じであってよく、それらは異なっていてもよい。好ましくは、それらはカルシウム、マグネシウム、ナトリウム及びバリウムから選択される。
【0036】
過塩基化洗浄剤は、したがって、油溶性の金属塩の形態で洗浄剤によって潤滑剤組成物中にサスペンションにおいて維持された不溶性金属塩からなるミセルの形態で存在する。
【0037】
これらのミセルは1種又はそれより多くの洗浄剤によって安定化した1種又はそれより多くの不溶性金属塩を含有することができる。
【0038】
1種類の溶解性金属塩洗浄剤を含む過塩基化洗浄剤は、後者の洗浄剤の疎水性鎖の性質に従って一般に命名される。
【0039】
したがって、それらは、洗浄剤がそれぞれカルボン酸塩、フェネート、サリチル酸塩、スルホン酸塩又はナフテン酸塩かどうかに依存して、カルボン酸塩、フェネート、サリチル酸塩、スルホン酸塩又はナフテン酸塩と呼ばれる。
【0040】
過塩基化洗浄剤は、ミセルが、疎水性鎖の性質の点で異なる洗浄剤の幾つかの種類を含む場合、「混合」とよばれる。
【0041】
本発明による潤滑剤組成物における使用に関し、油溶性の金属塩は、好ましくはカルシウム、マグネシウム、ナトリウム又はバリウムのカルボン酸塩、フェネート、スルホン酸塩、サリチル酸塩及び混合フェネート-スルホン酸塩洗浄剤及び/又はサリチル酸塩である。
【0042】
過塩基化された洗浄剤を与える不溶性金属塩は、アルカリ及びアルカリ土類金属炭酸塩、好ましくは炭酸カルシウムである。
【0043】
本発明による潤滑剤組成物において用いられる過塩基化洗浄剤は、好ましくは炭酸カルシウムで過塩基化されたカルボン酸塩、フェネート、スルホン酸塩、サリチル酸塩、及び混合フェネート-スルホン酸塩-サリチル酸塩洗浄剤である。
【0044】
本発明によれば、潤滑剤組成物は、特に、次のものから選択されることができる洗浄剤をさらに含むことができる:
-次のものから選択される溶解性脂肪族アミン:
〇 式(I)の化合物:
R
1-[(NR
2)-R
3]
m-NR
4R
5、
(式中、
・R
1は、少なくとも12個の炭素原子と、任意選択的に窒素、硫黄又は酸素から選択される少なくとも1つのヘテロ原子とを含む、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖炭化水素基であり、
・R
2、R
4又はR
5は、水素原子、又は任意選択的に窒素、硫黄若しくは酸素から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む、飽和若しくは不飽和の直鎖若しくは分岐鎖炭化水素基を独立して表し、
・R
3は、1つ又はそれより多くの炭素原子と、任意選択的に窒素、硫黄又は酸素、好ましくは酸素から選択される少なくとも1つのヘテロ原子とを含む、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖炭化水素基であり、
・mは1以上、好ましくは1~10、より好ましくは1~6の整数であり、いっそうより好ましくは1、2、又は3から選択される。)、又は
〇 式(III)及び/又は(IV)の1種又はそれより多くのポリアルキルアミンを含む脂肪族ポリアルキルアミンの混合物:
【化1】
(式中、
・Rは同じか異なり、8~22個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖アルキル基を表し、
・n及びzは独立して0、1、2、又は3を表し、
・zは0超であり、o及びpは0、1、2、又は3を独立して表し、
n又はzの少なくとも1つが1以上であるように、混合物は少なくとも3質量%の分岐鎖化合物を含む。)、若しくはこれらの誘導体、又は
〇 式(I)、(III)及び/又は(IV)の脂肪族アミンの混合物、
-金属炭酸塩によって過塩基化されたアルカリ又はアルカリ土類金属に基づいた洗浄剤。
【0045】
潤滑剤組成物に含まれる式(I)の脂肪族アミンは、出願人によって出願された、WO2009/153453号及びWO2014/180843号に特に記載されている。
【0046】
本発明の好ましい実施態様において、式(I)の脂肪族アミン又は式(III)及び/若しくは(IV)の脂肪族アミンの混合物、又は式(I)、(III)及び/若しくは(IV)の脂肪族アミンの混合物は、潤滑剤組成物の全質量の質量により0.1~15質量%、好ましくは0.5~10質量%、好ましくは0.5~8質量%、又は3~10質量%の量で加えられる。
【0047】
本発明によれば、「脂肪族アミン」は、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖であり、任意選択的に窒素、硫黄及び酸素、好ましくは酸素から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む、1つ又はそれより多くの炭化水素基を含む式(I)、(III)又は(IV)のアミンを指す。本発明によれば、「幾つかの脂肪族アミン」は、脂肪族アミンの混合物を指し、そのうちの少なくとも1つの脂肪酸は式(I)、(III)、及び/又は(IV)である。
【0048】
特に、式(I)、(III)又は(IV)の脂肪族アミンは、WO2017/021426号に記載されたとおりである。
【0049】
特に、有利には、本発明は、船舶エンジン、特に2-又は4-ストローク船舶エンジンの清浄さを改善することに関する。より具体的には、本発明は、2-ストローク船舶エンジンの清浄さ、特にクランクケースの清浄さを改善することに関する。2-ストロークエンジンについては、潤滑剤は、特にシリンダー又はシステムオイル、好ましくはシリンダーオイルとして用いられる。
【0050】
本発明の特定の実施態様において、潤滑剤組成物に含まれるベースオイルは、ミネラル、合成、植物オイル、及びこれらの混合物から選択される。
【0051】
本件において一般に用いられるミネラル又は合成オイルは、以下の表において要約されるAPI分類において定義されたクラスのうちの1つに属する。
【表1】
【0052】
グループ1のミネラルオイルは、選択されたナフテン酸かパラフィンの粗原料を蒸留し、次いで溶剤抽出、溶媒又は触媒脱蝋、水素化処理、又は水素添加等の方法によりこれらの留出物を精製することにより得ることができる。
【0053】
グループ2及び3のオイルは、より厳格な精製方法、例えば水素化処理及び水素化分解、水素添加及び触媒脱蝋の組み合わせによって得られる。
【0054】
グループ4及び5の合成ベースの例としては、ポリ-アルファオレフィン、ポリブテン、ポリイソブテン及びアルキルベンゼンが挙げられる。
【0055】
これらのベースオイルは、単独で又は混合物において用いることができる。ミネラルオイルは合成オイルと組み合わせることができる。
【0056】
ディーゼル2-ストローク船舶エンジン用シリンダーオイルは、SAE-40~SAE-60、一般にSAE-50の粘度測定のグレードを有し、それは、100℃における16.3~21.9mm2/sの動粘度と等価である。
【0057】
グレード40オイルは100℃にて12.5~16.3mm2/sの動粘度を有する。
【0058】
グレード50オイルは100℃にて16.3~21.9mm2/sの動粘度を有する。
【0059】
グレード60オイルは、100℃にて21.9~26.1Vの動粘度を有する。
【0060】
この粘度は、添加剤とベースオイル、例えば、中性溶媒ベース(例えば500NS pr 600NS)及びブライトストック等のグループ1のミネラルベースを含有するベースオイルとの混合により得ることができる。グレードSAE-50と適合する粘度を有するミネラル、合成又は植物ベースの任意の他の組み合わせを、添加剤との混合物において用いることができる。
【0061】
典型的には、ディーゼル2-ストローク船舶エンジン用の古典的シリンダー潤滑剤配合物は、グレードSAE40~SAE60、好ましくはSAE50(SAE J300分類による)であり、船舶エンジンでの使用に適合された、少なくとも50質量%の例えばAPIグループ1のミネラル及び/又は合成起源の潤滑剤ベースオイル、すなわち選択された粗原料を蒸留し、次いで、溶媒抽出、溶媒又は触媒脱蝋、水素化処理、又は水素添加等の方法によりこれらの留出物を精製することによって得られるものを含む。その粘度指数(VI)は80~120であり;その硫黄分は0.03%超であり、その飽和成分は90%未満である。
【0062】
本発明の1つの特定の実施態様において、潤滑剤組成物は、高温及び低温条件の両方において組成物の粘度を増加させる働きをする1種又はそれより多くの増粘添加剤、又はVIを改善する添加剤をさらに含むことができる。
【0063】
好ましくは、これらの添加剤は、最も高頻度に低分子量、約2000 50,000Da(Mn)を有するポリマーである。それらは、水素化されているかされていない、PIB(約2000Da)、ポリアクリレート又はポリメタクリレート(約30,000Da)、オレフィンコポリマー、オレフィン及びアルファオレフィンコポリマー、EPDM、ポリブテン、高分子量ポリ-アルファ-オレフィン(100℃における粘度>150)、スチレン-オレフィンコポリマーから選択することができる。本発明の特定の実施態様によれば、本発明の潤滑剤組成物に含まれる1種又は複数種のベースオイルは、これらの添加剤で完全に又は部分的に置換されることができる。したがって、ベースオイルの1種又はそれより多くを部分的に又は完全に置換するのに用いられるポリマーは、好ましくは前述のPIB増粘剤(例えば、名称Indopol H2100の下で販売されたもの)である。
【0064】
本発明の特定の実施態様において、潤滑剤組成物は少なくとも1種の耐摩耗性添加剤をさらに含むことができる。好ましくは、耐摩耗性添加剤は亜鉛ジチオホスフェート、すなわちDTPZnである。このカテゴリーは、種々のリン、硫黄、窒素、塩素及びホウ素化合物も含む。種々様々の耐摩耗性添加剤があるが、最も広く用いられるカテゴリーは、リン硫黄添加剤、たとえば金属アルキルチオホスフェート、特に亜鉛アルキルチオホスフェート、より具体的には亜鉛ジアルキルジチオホスフェート、すなわちDTPZnである。アミンホスフェート、ポリサルファイド、特に硫黄オレフィンも、一般に用いられている耐摩耗性添加剤である。
【0065】
潤滑剤組成物は、一般に耐磨耗及び極圧窒素及び硫黄添加剤、たとえば金属ジチオカルバメート、特にモリブデンジチオカルバメートをさらに含む。グリセロールエステルも耐摩耗性添加剤である。これらとしては、例えば、モノ-、ジ-、及びトリオレエート、モノパルミテート及びモノミリステートが挙げられる。
【0066】
本発明の特定の実施態様において、潤滑剤組成物は少なくとも1種の分散剤をさらに含むことができる。分散剤は、特に海洋用途向けの潤滑剤組成物の配合物において用いられるよく知られている添加剤である。その主要な役割は、潤滑剤組成物の中に当初に存在するか、サスペンションにおけるエンジンでのその使用の間にその中に現れる粒子を保持することである。それらは立体障害に作用することによって凝集を防止する。さらに、それらは中和にも相乗効果を有する場合がある。潤滑剤添加剤として用いられる分散剤は、典型的には、一般に50~400個の炭素原子を含有する相対的に長い炭化水素鎖に結合した極性基を含有する。極性基は典型的には少なくとも1つの窒素、酸素又はリン成分を含有する。コハク酸に由来した分散性化合物は、特に潤滑剤添加剤として広く用いられる。特に、無水コハク酸及びアミンを縮合することにより得られるスクシンイミド、並びに無水コハク酸とアルコール又はポリオールとの縮合により得られるコハク酸エステルが用いられる。これらの化合物は、後に種々の化合物、特に硫黄、酸素、ホルムアルデヒド、カルボン酸、及びホウ素又は亜鉛を含有する化合物で処理されて、例えば、ホウ酸化スクシンイミド又は亜鉛ブロックスクシンイミドを生成することができる。アルキル基、ホルムアルデヒド、及び第一級又は第二級アミンで置換されたフェノールの重縮合によって得られるマンニッヒ塩基も、潤滑剤において分散剤として用いられる。PIBスクシンイミドファミリー、例えばホウ酸化されたか亜鉛でブロックされたものの分散剤を用いることができる。
【0067】
本発明の特定の実施態様において、潤滑剤組成物はすべての適切な種類の機能性添加剤、例えば、例えば極性ポリマー、たとえばポリメチルシロキサン、ポリアクリレートであることができる洗浄剤の効果を打ち消す消泡添加剤、酸化防止剤、及び/又は防錆添加剤、例えば有機金属若しくはチアジアゾール洗浄剤をさらに含むことができる。これらは当業者に知られている。
【0068】
本発明によれば、前述の潤滑剤の組成物は、混合の前に別個に取得される化合物を指し;係る化合物は、混合の前後両方で同じ化学形態のままであってもそうでなくてもよいことに留意されたい。好ましくは、別個の化合物の混合により得られる本発明による潤滑剤は、エマルション又はマイクロエマルションの形態ではない。
【0069】
好ましくは、本発明による組成物のベースオイルはグループ2ベースオイルである。
【0070】
本発明は、エンジン清浄さを改善するために、少なくとも1種のベースオイルと、ASTM D445に準じて測定された、100℃にて100~1000cSTの粘度を有する2~12質量%(潤滑剤組成物の質量による)のエステル化合物とを含む潤滑剤組成物の使用にも関する。エステルの量、エステル、ベースオイル及び潤滑剤組成物、及び任意の添加剤は、上に規定されたとおりである。
【0071】
本発明は、エンジン清浄さを改善するために、少なくとも1種のベースオイルと、標準ASTM D445に準じて測定された、100℃にて100~1000cSTの粘度を有する2~12質量%(潤滑剤組成物の質量による)のエステルとを含む潤滑剤組成物にも関する。エステルの量、エステル、ベースオイル及び潤滑剤組成物、及び任意の添加剤は、上に規定されたとおりである。
【0072】
ここで本件は、非限定的な例を参照することにより記載される。
【実施例0073】
例1:本発明による組成物及び比較組成物
表1のエステルは、以下の試験された潤滑剤組成物中で用いられた。
【表2】
【0074】
以下の組成物が調製された(CI=本発明による組成物、CC=比較組成物)。
【表3】
【0075】
これらの組成物の特性は、以下の表3に記載される。
【表4】
【0076】
40℃における粘度は標準ASTM D7279に従って測定される。
100℃における粘度は標準ASTM D7279に従って測定される。
VIは粘度指数に対応し、標準NF ISO 2909に従って計算される。
BNは塩基価に対応し、標準ASTM D2896に従って測定される。
【0077】
例2:本発明による潤滑剤組成物の特性の評価
本発明による潤滑剤組成物の特性を評価するために、ECBT試験は行なわれた。
【0078】
これらの試験は、エンジンの部分上のコーティングの外観のシミュレーションを可能にする。
【0079】
組成物の耐温度性は、したがってECBT試験によって評価された。この試験の詳細な説明は、MARINE PROPULSION CONFERENCE 2000-アムステルダム-2000年3月29~30日、Jean-Philippe ROMANによる刊行物「Research and Development of Marine Lubricants in ELF ANTAR France - The relevance of laboratory tests in simulating field performance」において見出すことができる。
【0080】
結果は、以下の表4に示される。
【0081】
結果は、本発明による組成物が良好な耐温度性を有し、したがってエンジン清浄さを改善することができることを示す。
【表5】
【0082】
280℃においてスコアを決定する場合、表面にコーティングがない場合、スコアは100である。言いかえれば、スコアが低いほど、表面にあるコーティングは多い。
【0083】
臨界温度は、表面が50のスコアでコーティングを有する温度に対応する。
【0084】
これらの結果は、本発明による粘度を有するエステルが、係るエステルを欠く潤滑剤組成物、及び異なる粘度を有するエステルを含む潤滑剤組成物と比較して、エンジン清浄さの改善を有利に可能にすることを示す。実際、コーティングスコアは、本発明によるエステルで100に近い。加えて、臨界温度は、本発明によるエステルについてかなり大きい。
【0085】
これらの結果は、用いられたエステルの量の影響をさらに示す。
エンジンの清浄さを改善するための100℃にて200~1000cSTの粘度を有する2~12質量%(潤滑剤組成物の質量による)のエステルの少なくとも1種のベースオイルを含む潤滑剤組成物における使用であって、前記エステルはグリセロールエステルではない、使用。