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特開2023-174825エチオナミドを用いた幹細胞の効能強化方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174825
(43)【公開日】2023-12-08
(54)【発明の名称】エチオナミドを用いた幹細胞の効能強化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20231201BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20231201BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20231201BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20231201BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20231201BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20231201BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231201BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C12N1/00 G
C12N5/074
C12N5/0735
A61K35/12
A61K35/545
A61K35/28
A61P29/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/00
A61P25/24
A61P1/04
A61P11/00
A61P13/12
A61P13/00
A61P17/00
A61P21/00
A61P19/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023178747
(22)【出願日】2023-10-17
(62)【分割の表示】P 2022502529の分割
【原出願日】2020-07-15
(31)【優先権主張番号】10-2019-0085137
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0086685
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】512250119
【氏名又は名称】サムスン ライフ パブリック ウェルフェア ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】ドゥク・リュル・ナ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ウク・チャン
(72)【発明者】
【氏名】ヒョ・ジン・ソン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BC01
4B065BD34
4B065BD39
4B065BD44
4B065CA44
4C087BB44
4C087BB57
4C087BB64
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA12
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZA22
4C087ZA59
4C087ZA66
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZA94
4C087ZA96
4C087ZB11
(57)【要約】
【課題】本発明は、エチオナミド(ethionamide)を含む幹細胞の効能強化用培地組成物と、前記培地組成物で幹細胞を培養する段階を含む幹細胞の効能強化方法ならびに効能が強化された幹細胞の製造方法と、前記方法によって製造された幹細胞およびその用途に関する。
【解決手段】本発明によれば、間葉系幹細胞にエチオナミドを処理する簡単な過程で間葉系幹細胞の抗炎症効果および傍分泌因子の発現量を効果的に増進させることができ、このような方法によって得られた幹細胞は、炎症性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用途に有用に用いられ得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチオナミド(ethionamide)を含む、胚性幹細胞または成体幹細胞である幹細胞の、幹細胞で傍分泌因子の発現が増進されることを特徴とする効能強化用培地組成物であって、
前記傍分泌因子は、脳由来神経成長因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)、血管内皮成長因子(vascular endothelial cell growth factor;VEGF)、インスリン様成長因子(insulin-like growth factor-1;IGF-1)、肝細胞成長因子(hepatocyte Growth Factor;HGF)、hem酸化酵素-1(Heme oxygenase-1;HO-1)、NAD(P)H:キノン酸化還元酵素(NAD(P)H:quinone oxidoreductase;NQO1)、グルタミン酸-システインリガーゼ触媒サブユニット(Glutamate-Cysteine Ligase Catalytic Subunit;GCLC)およびグルタミン酸-システインリガーゼ変形サブユニット(Glutamate-Cysteine Ligase modifier subunit;GCLM)からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、培地組成物。
【請求項2】
前記エチオナミドは、培地に1~200μMの濃度で含まれていることを特徴とする請求項1に記載の培地組成物。
【請求項3】
前記成体幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜および胎盤からなる群から選ばれる1種以上の組織に由来する間葉系幹細胞であることを特徴とする請求項1に記載の培地組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の培地組成物に幹細胞を培養する段階を含む、幹細胞の効能強化方法であって、前記効能強化は、幹細胞で傍分泌因子の発現が増進されることを特徴とする効能強化方法。
【請求項5】
前記傍分泌因子は、脳由来神経成長因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)、血管内皮成長因子(vascular endothelial cell growth factor;VEGF)、インスリン様成長因子(insulin-like growth factor-1;IGF-1)、肝細胞成長因子(hepatocyte Growth Factor;HGF)、hem酸化酵素-1(Heme oxygenase-1;HO-1)、NAD(P)H:キノン酸化還元酵素(NAD(P)H:quinone oxidoreductase;NQO1)、グルタミン酸-システインリガーゼ触媒サブユニット(Glutamate-Cysteine Ligase Catalytic Subunit;GCLC)およびグルタミン酸-システインリガーゼ変形サブユニット(Glutamate-Cysteine Ligase modifier subunit;GCLM)からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項4に記載の効能強化方法。
【請求項6】
請求項1に記載の培地組成物に幹細胞を培養する段階を含む、効能が強化された幹細胞の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法によって製造された、効能が強化された幹細胞。
【請求項8】
請求項7に記載の幹細胞を有効成分として含む、炎症性疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項9】
前記炎症性疾患は、皮膚炎、アレルギー、アトピー、喘息、結膜炎、歯周炎、鼻炎、中耳炎、咽喉炎、扁桃炎、肺炎、胃潰瘍、胃炎、クローン病、大腸炎、腹膜炎、骨髄炎、蜂巣炎、脳膜炎、脳炎、膵臓炎、脳卒中、急性気管支炎、慢性気管支炎、痔疾、痛風、強直性脊椎炎、リウマチ熱、ループス、線維筋痛(fibromyalgia)、乾癬性関節炎、骨関節炎、関節リウマチ、感染性関節炎、肩関節周囲炎、腱炎、腱鞘炎、腱周囲炎、筋肉炎、肝炎、膀胱炎、腎炎、シェーグレン症候群(sjogren’s syndrome)、多発性硬化症、および急性および慢性炎症疾患からなる群から選ばれることを特徴とする請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
請求項7に記載の幹細胞を有効成分として含む、退行性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項11】
前記退行性脳疾患は、パーキンソン病、認知症、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、脳卒中、脳梗塞、ピック(Pick)病、頭部外傷、脊髄損傷、脳動脈硬化症、ルーゲーリック病、多発性硬化症、老年期うつ病およびクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease)からなる群から選ばれることを特徴とする請求項10に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチオナミド(ethionamide)を含む幹細胞の効能強化用培地組成物と、前記培地組成物で幹細胞を培養する段階を含む幹細胞の効能強化方法ならびに効能が強化された幹細胞の製造方法と、前記方法によって製造された幹細胞およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症(inflammation)は、病原菌、損傷細胞などの生体組織の有害な刺激源に対する生体反応の一つであって、免疫細胞、血管、分子生物学的中間体が関与している保護反応である。しかしながら、異常な炎症は、様々なヒトの病気に関連していて、例えば、アレルギー、アトピー、関節炎、心臓病、脳疾患、循環器障害だけでなく、がんなどのような多様な疾患の原因を提供する。様々な炎症関連疾患の発病には、マクロファージの活性化とこれによる炎症関連因子の過度な生成が関連しているが、代表的な炎症関連因子としては、インターロイキン-1β(interleukin-1β,IL-1β)、腫瘍壊死因子-α(tumor necrosis factor-α,TNF-α)および一酸化窒素(nitrogen oxide,NO)などがある。
【0003】
アルツハイマー病およびパーキンソン病と代表される退行性脳疾患(degenerative brain disease)は、速い高齢化の進行に伴って深刻な社会問題として浮上している。アルツハイマー協会の資料によれば、米国で68秒ごとに発病したアルツハイマー病が、2050年になると、33秒ごとに発病することが予測されていて、米国で心臓疾患と癌に引き続いて3番目に治療費用が高い疾患であり、すべての年齢帯にわたって6番目、65歳以上の高齢者に対しては5番目に主な死亡原因となっている。韓国の場合、認知症患者の数が、2010年に47万人(65歳人口の8.8%)から2020年に75万人(9.7%)になることが推定されており、脳血管疾患は、去る10余年間韓国の主要死亡原因のうち2位を守っている。
【0004】
このような退行性脳疾患について最近に過度な脳炎症が主要発病原因であることを提示する研究結果が全世界的に報告されている。脳炎症反応とは、アルツハイマーとパーキンソン病など多くの退行性脳疾患に現れる病理現象の一つであって、脳炎症反応により免疫細胞から生産される炎症性サイトカインや酸化物質など炎症媒介物質により神経細胞の死滅が促進されることである。したがって、このような脳炎症反応を抑制して、退行性脳疾患を治療するための研究が活発に進行されている。
【0005】
なお、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)は、多分化能と共に、組織の再生、治療および免疫反応に関与する細胞と知られていて、このような特性を利用して臍帯血、骨髄などから間葉系幹細胞を分離培養して、多様な疾患の治療剤として開発しようとする努力が着実に継続してきている。例えば、間葉系幹細胞は、自己免疫疾患を治療するための新しい代案として浮び上がっているが、その免疫阻害および抗炎症効果、T細胞の活性化および増殖阻害効果などが報告されている。また、間葉系幹細胞は、神経細胞保護作用を示すことが報告されているが、退行性神経系環境で多様な神経成長因子を分泌して神経細胞の生存および神経線維の再生に寄与し、間葉系幹細胞は、免疫調節能力を有していて、多様な免疫反応を調節する。また、神経細胞への分化あるいは融合を通じて神経再生と共に退行性神経系環境を調節することが知られている(Hanyang Med Rev 2012;32:145-153)。
【0006】
しかしながら、間葉系幹細胞の一般的な前記効果のみについて公知されていて、より向上した治療的効果を有するように最適化された間葉系幹細胞の開発があまり進んでいないところ、炎症性疾患および退行性脳疾患の治療のために効能が強化された最適化された幹細胞の治療剤開発が切実に要求されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hanyang Med Rev 2012;32:145-153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これより、本発明者は、幹細胞の抗炎症効果および傍分泌因子の発現などの効能をさらに増進させることができる方法について研究した結果、従来抗生剤と知られているエチオナミド(ethionamide)を処理したとき、上記のような幹細胞の効能が増進され、前記幹細胞が実質的にin vivoで脳炎症および認知症の病理現象を減少させることを確認することによって、本発明を完成するに至った。
【0009】
これより、本発明は、エチオナミド(ethionamide)を含む、幹細胞の効能強化用培地組成物を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、前記培地組成物で幹細胞を培養する段階を含む、幹細胞の効能強化方法を提供することを他の目的とする。
【0011】
また、本発明は、前記培地組成物で幹細胞を培養する段階を含む、効能が強化された幹細胞の製造方法と、前記方法によって製造された効能が強化された幹細胞、および前記幹細胞の用途を提供することをさらに他の目的とする。
【0012】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、エチオナミド(ethionamide)を含む、幹細胞の効能強化用培地組成物を提供する。
【0014】
本発明の一具現例において、前記エチオナミドは、培地に1~200μMの濃度で含まれるものであってもよい。
【0015】
本発明の他の具現例において、前記幹細胞は、胚性幹細胞または成体幹細胞であってもよい。
【0016】
本発明のさらに他の具現例において、前記成体幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、皮膚、羊膜および胎盤からなる群から選ばれる1種以上の組織に由来する間葉系幹細胞であってもよい。
【0017】
本発明のさらに他の具現例において、前記効能強化は、幹細胞で傍分泌因子の発現が増進されるものであってもよい。
【0018】
本発明のさらに他の具現例において、前記傍分泌因子は、脳由来神経成長因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)、血管内皮成長因子(vascular endothelial cell growth factor;VEGF)、インスリン様成長因子(insulin-like growth factor-1;IGF-1)、肝細胞成長因子(hepatocyte Growth Factor;HGF)、hem酸化酵素-1(Heme oxygenase-1;HO-1)、NAD(P)H:キノン酸化還元酵素(NAD(P)H:quinone oxidoreductase;NQO1)、グルタミン酸-システインリガーゼ触媒サブユニット(Glutamate-Cysteine Ligase Catalytic Subunit;GCLC)およびグルタミン酸-システインリガーゼ変形牛単位体(Glutamate-Cysteine Ligase modifier subunit;GCLM)からなる群から選ばれる1種以上であってもよい。
【0019】
また、本発明は、前記培地組成物に幹細胞を培養する段階を含む、幹細胞の効能強化方法を提供する。
【0020】
また、本発明は、前記培地組成物に幹細胞を培養する段階を含む、効能が強化された幹細胞を提供する。
【0021】
また、本発明は、前記方法によって製造された、効能が強化された幹細胞を提供する。
【0022】
また、本発明は、前記幹細胞を有効成分として含む、炎症性疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0023】
本発明の一具現例において、前記炎症性疾患は、皮膚炎、アレルギー、アトピー、喘息、結膜炎、歯周炎、鼻炎、中耳炎、咽喉炎、扁桃炎、肺炎、胃潰瘍、胃炎、クローン病、大腸炎、腹膜炎、骨髄炎、蜂巣炎、脳膜炎、脳炎、膵臓炎、脳卒中、急性気管支炎、慢性気管支炎、痔疾、痛風、強直性脊椎炎、リウマチ熱、ループス、線維筋痛(fibromyalgia)、乾癬性関節炎、骨関節炎、関節リウマチ、感染性関節炎、肩関節周囲炎、腱炎、腱鞘炎、腱周囲炎、筋肉炎、肝炎、膀胱炎、腎炎、シェーグレン症候群(sjogren’s syndrome)、多発性硬化症、および急性および慢性炎症疾患からなる群から選ばれるものであってもよい。
【0024】
また、本発明は、前記幹細胞を有効成分として含む薬学的組成物を個体に処理する段階を含む、炎症性疾患の予防または治療方法を提供する。
【0025】
また、本発明は、前記薬学的組成物の、炎症性疾患の予防または治療用途を提供する。
【0026】
また、本発明は、前記幹細胞を有効成分として含む、退行性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0027】
本発明の一具現例において、前記退行性脳疾患は、パーキンソン病、認知症、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、脳卒中、脳梗塞、ピック(Pick)病、頭部外傷、脊髄損傷、脳動脈硬化症、ルーゲーリック病、多発性硬化症、老年期うつ病およびクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease)からなる群から選ばれるものであってもよい。
【0028】
また、本発明は、前記幹細胞を有効成分として含む薬学的組成物を個体に処理する段階を含む、退行性脳疾患の予防または治療方法を提供する。
【0029】
また、本発明は、前記薬学的組成物の、退行性脳疾患の予防または治療用途を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明者らは、炎症反応が誘導された小膠細胞をエチオナミドが処理された間葉系幹細胞と共培養したとき、間葉系幹細胞による抗炎症効果が増進され、エチオナミドが処理された間葉系幹細胞で多様な成長因子および抗酸化因子の傍分泌能が増進されたことを実験的に確認し、ひいては、認知症動物モデルで前記間葉系幹細胞の投与によるアミロイドベータ、脳炎症、リン酸化したタウの減少効果を確認した。したがって、本発明によれば、間葉系幹細胞にエチオナミドを処理する簡単な過程で間葉系幹細胞の抗炎症効果および傍分泌因子の発現量を効果的に増進させることができ、このような方法によって製造された幹細胞は、炎症性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用途に有用に用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1a】炎症反応が誘導された小膠細胞(BV2)とエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞を共培養した後、iNOSの発現レベルを測定した結果である。
図1b】炎症反応が誘導された小膠細胞(BV2)とエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞を共培養した後、NOの発現レベルを測定した結果である。
図1c】炎症反応が誘導された小膠細胞(BV2)とエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞を共培養した後、ROSの発現レベルを測定した結果である。
図2a】炎症反応が誘導された小膠細胞(BV2)とエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞を共培養した後、炎症性サイトカインIL-6のmRNA発現レベルを測定した結果である。
図2b】炎症反応が誘導された小膠細胞(BV2)とエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞を共培養した後、炎症性サイトカインTNF-αのmRNAおよびタンパク質の発現レベルを測定した結果である。
図3】炎症反応が誘導された小膠細胞(BV2)とエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞を共培養した後、ウェスタンブロットを通じてNF-κB活性を測定し、発現レベルを定量化した結果である。
図4a】間葉系幹細胞にエチオナミドを濃度別(50、100μM)に処理した後、傍分泌因子として成長因子BDNF、VEGF、IGF-1およびHGFの発現レベルを測定した結果である。
図4b】間葉系幹細胞にエチオナミドを濃度別(50、100μM)に処理した後、傍分泌因子として抗酸化関連因子HO-1、NQO1、GCLCおよびGCLMの発現レベルを測定した結果である。
図5a】認知症マウスモデルの脳室にエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞をそれぞれ投与し、1週間後に得られた脳組織の切片に対してアミロイドベータ抗体(抗6E10)を用いて免疫染色を実施し、これを定量化した結果である。
図5b図5aと同じ方法で認知症マウスモデルに各間葉系幹細胞を投与した後、脳組織を均質化して得られた各可溶性画分(soluble fraction)および不溶性画分(insoluble fraction)を用いてELISAを実施してアミロイドベータのレベルを測定した結果である。
図6図5aと同じ方法を通じて得られた脳組織の切片に対して脳炎症関連抗体(GFAP)を用いて免疫染色を実施し、これを定量化した結果を示す図である。
図7図5bと同じ方法で認知症マウスモデルの脳室にエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞をそれぞれ投与し、2週間後に得られた脳組織サンプルに対してELISAを通じてスレオニン181番およびセリン199番残基がリン酸化したタウ タンパク質のレベルをそれぞれ測定した結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、エチオナミド(ethionamide)を含む、幹細胞の効能強化用培地組成物を提供する。
【0033】
従来、下記化学構造を有するエチオナミド(2-ethylpyridine-4-carbothioamide)は、チオナミド系抗生剤であって、細菌による感染疾患治療用途が知られていたが、本発明では、エチオナミドの幹細胞効能の強化効果を最初に発見した。
【0034】
[エチオナミド(ethionamide)]
【化1】
【0035】
本発明者らは、具体的な実施例に基づいてエチオナミドが処理された幹細胞の効能強化効果を確認した。
【0036】
本発明の一実施例では、炎症反応が誘導された小膠細胞をエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞と共培養した後、iNOS、NOおよびROSのレベルを測定した結果、エチオナミドが処理された間葉系幹細胞と共培養した場合、対照群またはエチオナミドを無処理した場合と比べて、前記因子の発現がさらに減少したことが明らかになり、これを通じて、エチオナミド処理により間葉系幹細胞による抗炎症効果が向上したことを確認した(実施例3参照)。
【0037】
本発明の他の実施例では、炎症反応が誘導された小膠細胞をエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞と共培養した後、炎症性サイトカインIL-6およびTNF-αの発現レベルを測定した結果、エチオナミドが処理された間葉系幹細胞と共培養した場合、対照群またはエチオナミドを無処理した場合と比べて、炎症性サイトカインの発現阻害効果が向上したことを確認した(実施例4参照)。
【0038】
本発明のさらに他の実施例では、炎症反応が誘導された小膠細胞をエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞と共培養した後、NF-κBの活性を測定した結果、エチオナミドが処理された間葉系幹細胞と共培養した場合、対照群またはエチオナミドを無処理した場合と比べて、NF-κB活性阻害効果がさらに向上したことを確認した(実施例5参照)。
【0039】
本発明のさらに他の実施例では、間葉系幹細胞にエチオナミドを濃度別に処理し、多様な成長因子および抗酸化因子の分泌量を測定した結果、エチオナミドの処理濃度に比例して前記傍分泌因子の発現量が増加したことを確認した(実施例6参照)。
【0040】
本発明のさらに他の実施例では、in vivoレベルでエチオナミドが処理された幹細胞の効果を確認した。具体的に、認知症マウスモデルの脳室にエチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞を投与し、脳組織を摘出して、免疫染色またはELISA分析を実施した結果、エチオナミドが処理された間葉系幹細胞によるアミロイドベータ、脳炎症およびリン酸化したタウタンパク質の有意な減少効果を確認した(実施例7~9参照)。
【0041】
これより、前記結果は、エチオナミド処理を通じてヒト間葉系幹細胞の効能をさらに向上させることができることを示すものである。
【0042】
本発明において培地に含まれるエチオナミドの濃度に制限はないが、好ましくは、1~200uMの濃度、より好ましくは、50~200uMで含まれてもよく、より好ましくは、50~150uMの濃度で含まれてもよい。
【0043】
本発明において使用される用語、「幹細胞」とは、未分化細胞であって、自己複製能力を有して2つ以上の異なる種類の細胞に分化する能力を有する細胞をいう。本発明の幹細胞は、自己または同種由来幹細胞であってもよく、ヒトおよび非ヒト哺乳類を含む任意類型の動物由来であってもよく、前記幹細胞は、成体に由来するものや胚芽に由来するものであってよく、これらに限定されない。
【0044】
本発明において、前記成体に由来する成体幹細胞は、間葉系幹細胞、ヒト組織由来間葉系間質細胞(mesenchymal stromal cell)、ヒト組織由来間葉系幹細胞、多分化能幹細胞または羊膜上皮細胞であってもよく、好ましくは、間葉系幹細胞であるが、これに限定されず、前記間葉系幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜および胎盤などに由来する間葉系幹細胞であってもよいが、これらに限定されない。
【0045】
本発明において、間葉系幹細胞の分離および培養は、当業者に自明な方法で行われてもよく、間葉系幹細胞特性の変化なしで、幹細胞能を維持しつつ増殖させることができる方法であれば、方法に制限はない。
【0046】
本発明において幹細胞の効能強化とは、炎症性疾患または退行性脳疾患に対する幹細胞の治療的特性および効果が向上することを意味し、より具体的に、酸化窒素、その関連因子または活性酸素種発生阻害、炎症性サイトカイン発現阻害およびNF-κB活性減少などを通した抗酸化および抗炎症効果;および成長因子および抗酸化因子などの傍分泌因子の発現効能が向上することを意味する。
【0047】
前記傍分泌因子は、より具体的に、脳由来神経成長因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)、血管内皮成長因子(vascular endothelial cell growth factor;VEGF)、インスリン様成長因子(insulin-like growth factor-1;IGF-1)、肝細胞成長因子(hepatocyte Growth Factor;HGF)、hem酸化酵素-1(Heme oxygenase-1;HO-1)、NAD(P)H:キノン酸化還元酵素(NAD(P)H:quinone oxidoreductase;NQO1)、グルタミン酸-システインリガーゼ触媒サブユニット(Glutamate-Cysteine Ligase Catalytic Subunit;GCLC)およびグルタミン酸-システインリガーゼ変形サブユニット(Glutamate-Cysteine Ligase modifier subunit;GCLM)からなる群から選ばれる1種以上であってもよいが、これらに限定されない。
【0048】
本発明の他の態様において、本発明は、前記培地組成物に幹細胞を培養する段階を含む幹細胞の効能強化方法を提供する。
【0049】
本発明のさらに他の態様において、本発明は、前記培地組成物に幹細胞を培養する段階を含む幹細胞の製造方法を提供する。
【0050】
また、本発明は、前記方法によって製造された効能が強化された幹細胞を提供する。
【0051】
本発明の他の様態において、本発明は、前記幹細胞を有効成分として含む抗炎症用組成物を提供する。
【0052】
本発明のさらに他の様態において、本発明は、前記幹細胞を有効成分として含む炎症性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0053】
本発明において使用される用語、「予防」とは、本発明による薬学的組成物の投与により炎症性疾患または退行性脳疾患を抑制させたり発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0054】
本発明において使用される用語、「治療」とは、本発明による薬学的組成物の投与により炎症性疾患または退行性脳疾患に対する症状が好転したり有益に変更されるすべての行為を意味する。
【0055】
本発明において使用される用語、「炎症性疾患(inflammatory disease)」とは、炎症を主病変とする病気を総称するもので、より好ましくは、本発明において炎症性疾患は、皮膚炎、アレルギー、アトピー、喘息、結膜炎、歯周炎、鼻炎、中耳炎、咽喉炎、扁桃炎、肺炎、胃潰瘍、胃炎、クローン病、大腸炎、腹膜炎、骨髄炎、蜂巣炎、脳膜炎、脳炎、膵臓炎、脳卒中、急性気管支炎、慢性気管支炎、痔疾、痛風、強直性脊椎炎、リウマチ熱、ループス、線維筋痛(fibromyalgia)、乾癬性関節炎、骨関節炎、関節リウマチ、感染性関節炎、肩関節周囲炎、腱炎、腱鞘炎、腱周囲炎、筋肉炎、肝炎、膀胱炎、腎炎、シェーグレン症候群(sjogren’s syndrome)、多発性硬化症、および急性および慢性炎症疾患からなる群から選ばれるものであってもよいが、これらに限定されない。
【0056】
本発明において使用される用語、「退行性脳疾患(degenerative brain disease)」とは、年をとるにつれて発生する退行性疾患のうち脳で発生する疾患であって、より好ましくは、本発明においてパーキンソン病、認知症、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、脳卒中、脳梗塞、ピック(Pick)病、頭部外傷、脊髄損傷、脳動脈硬化症、ルーゲーリック病、多発性硬化症、老年期うつ病およびクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease)からなる群から選ばれるものであってもよいが、これらに限定されない。
【0057】
本発明による前記薬学的組成物銀エチオナミド処理により効能が強化された幹細胞を有効成分として含み、薬学的に許容可能な担体をさらに含んでもよい。前記薬学的に許容可能な担体は、製剤時に通常的に用いられるものであり、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、シクロデキストリン、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、リポソームなどを含むが、これらに限定されず、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液など他の通常の添加剤をさらに含んでもよい。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤などを付加的に添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。好適な薬学的に許容される担体および製剤化に関しては、レミントンの文献に開示されている方法を利用して各成分によって好適に製剤化することができる。本発明の薬学的組成物は、剤形に特別な制限はないが、注射剤、吸入剤、皮膚外用剤などに製剤化することができる。
【0058】
本発明の薬学的組成物は、目的する方法によって経口投与したり、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)することができるが、好ましくは、脳内投与することができ、投与量は、患者の状態および体重、病気の程度、薬物形態、投与経路および時間によって異なるが、当業者が適切に選択できる。
【0059】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において「薬学的に有効な量」は、医学的治療または診断に適用可能な合理的なベネフィット/リスクの割合で疾患を治療または診断するのに十分な量を意味し、有効用量レベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感度、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、同時使われる薬物を含む要素およびその他医学分野によく知られた要素によって決定できる。本発明による薬学的組成物は、個別治療剤で投与したり、他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次にまたは同時に投与でき、単一または多回投与することができる。上記した要素を全部考慮して副作用なしで最小限の量で最大効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは、当業者が容易に決定できる。
【0060】
具体的に、本発明の薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、状態、体重、体内に活性成分の吸収度、不活性率および排泄速度、病気の種類、併用される薬物によって変われことができ、一般的には、体重1kg当たり5×10細胞~5×10細胞を毎日または隔日投与したり、1回~多回に分けて投与することができる。多回投与の場合、1週から1月間隔で多回投与することができる。しかしながら、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などによって増減できるので、前記投与量がいかなる方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0061】
本発明の他の様態において、本発明は、前記薬学的組成物を個体に投与する段階を含む炎症性疾患または退行性脳疾患の予防または治療方法を提供する。
【0062】
本発明において「個体」とは、病気の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒトまたは非ヒトである霊長類、マウス(mouse)、ラット(rat)、イヌ、ネコ、ウマおよびウシなどの哺乳類を意味する。
【0063】
また、本発明は、前記薬学的組成物の炎症性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用途を提供する。
【0064】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎ、下記実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【0065】
[実施例]
実施例1.ヒト臍帯間葉系幹細胞の準備
ヒト臍帯間葉系幹細胞は、サムスンソウル病院のIRB(IRB#2015-09-023-003)により承認された基準によって臍帯を確保した後、下記の方法で間葉系幹細胞を分離した。
【0066】
まず、3~4cmの臍帯組織を細切し、細胞外基質を分解するために、コラゲナーゼ溶液(Gibco,USA)を60~90分間処理した後、0.25%トリプシン(Gibco,USA)を入れ、30分間37℃で分解させた。以後、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum,FBS)(Biowest,USA)を入れ、1000Хgで10分間遠心分離して細胞を得た後、10%FBSと50ug/mlゲンタマイシン(Gibco,USA)が添加されたMEM培地(Minimum Essential Media)(Gibco,USA)を用いて37℃、5%CO環境で細胞を培養して、passage 5または6の間葉系幹細胞を実験に使用した。
【0067】
実施例2.エチオナミド処理されたヒト臍帯間葉系幹細胞の準備
前記実施例1の方法によって準備したヒト臍帯間葉系幹細胞cm当たり6×10細胞を細胞培養容器に分注し、これと同時に、エチオナミドを50μMまたは100μMまたは150μMの濃度で処理した後、72時間の間培養した。
【0068】
実施例3.エチオナミド処理された幹細胞の抗炎症効果の検証
間葉系幹細胞にエチオナミドを処理する場合、前記幹細胞の抗炎症効果が向上するかどうかを検証するために、下記のような実験を進めた。具体的に、小膠細胞BV2細胞にLPS(lipopolysaccharide)を処理して炎症モデルを誘導した後、エチオナミドを処理(primed)したかまたは処理しない間葉系幹細胞(hMSCs)とそれぞれ共培養した後、酸化窒素(nitric oxide;NO)、酸化窒素関連因子および活性酸素種の発現レベルを測定した。
【0069】
その結果、図1aに示されたように、代表的なNO関連炎症因子であるiNOS(inducible nitric oxide synthase)の場合、対照群またはエチオナミドが処理されない間葉系幹細胞と共培養した場合と比べて、エチオナミドが処理された間葉系幹細胞とともに培養した場合において有意的にmRNAの発現が減少したことが明らかになり、また、NOおよび活性酸素種(Reactive oxygen species;ROS)の発現レベルを測定した結果でも、図1bおよび図1cに示されたように、対照群またはエチオナミド無処理の間葉系幹細胞と共培養した場合と比べて、エチオナミドが処理された間葉系幹細胞とともに培養した場合において発現レベルが有意的に減少したことを確認した。前記結果は、間葉系幹細胞にエチオナミドを処理することによって、前記幹細胞の抗炎症効果が増進されたことを意味する。
【0070】
実施例4.エチオナミド処理された幹細胞のサイトカイン発現阻害効果の検証
前記実施例1の結果を基に、本発明者らは、実施例1と同じ炎症モデルを誘導した後、エチオナミドを処理(primed)または無処理した間葉系幹細胞と共培養した後、代表的な炎症性サイトカインIL-6とTNF-αの発現レベルを測定した。
【0071】
その結果、図2aおよび図2bに示されたように、対照群またはエチオナミドが処理されない間葉系幹細胞と共培養した場合と比べて、エチオナミドが処理された幹細胞と共培養した場合においてそれぞれIL-6およびTNF-αmRNAの発現が多少減少し、IL-6の場合には、エチオナミドの処理濃度(100、150μM)に比例して発現レベルが減少したことが分かった。また、図2bに示されたように、ELISAを通じてTNF-αタンパク質レベルを測定した結果、エチオナミドが処理された間葉系幹細胞と共培養した群においてタンパク質レベルが有意的に減少したことを確認した。前記結果は、間葉系幹細胞にエチオナミドを処理することによって、前記幹細胞の炎症性サイトカインの発現阻害効果が増進されたことを意味する。
【0072】
実施例5.エチオナミド処理された幹細胞のNF-κB活性阻害効果の検証
NF-κB(Nuclear factor-κB)は、免疫細胞で炎症反応の機序に関与する最も重要な転写因子と知られており、多様な原因による異常なNF-κBの活性化は、退行性脳疾患を含む多様な炎症性疾患の発病機序であることが報告されている。したがって、前記実施例1および2の結果を基に、エチオナミド処理が間葉系幹細胞でNF-κBの活性阻害効果を増進させることができるかを検証しようとした。このために、前記実施例1および2と同一に、小膠細胞BV2で炎症反応を誘導した後、エチオナミドが処理または無処理された間葉系幹細胞と共培養し、NF-κBの活性を測定した。
【0073】
その結果、図3に示されたように、対照群またはエチオナミドが処理されない間葉系幹細胞と共培養した場合と比べて、エチオナミドが処理された間葉系幹細胞と共培養した場合においてエチオナミドの処理濃度(100、150μM)に比例してNF-κBタンパク質の発現が減少したことが明らかになり、ウェスタンブロットに対する定量結果を通じて、対照群と比べて有意的に発現が減少したことを確認した。このような結果は、間葉系幹細胞にエチオナミドを処理することによって、前記幹細胞によるNF-κB活性阻害効果が増進されたことを意味する。
【0074】
実施例6.エチオナミド処理された幹細胞の傍分泌因子発現増進効果の検証
エチオナミド処理により間葉系幹細胞の傍分泌因子の発現レベルが変化するかを検証するために、間葉系幹細胞にエチオナミドをそれぞれ50、100μMで処理した後、傍分泌因子と知られた脳由来神経成長因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)、血管内皮成長因子(vascular endothelial cell growth factor;VEGF)、インスリン様成長因子(insulin-like growth factor-1;IGF-1)および肝細胞成長因子(hepatocyte Growth Factor;HGF)の発現レベルを測定した。その結果、図4aに示されたように、エチオナミドの処理濃度に比例して前記傍分泌成長因子の発現が全部増加したことを確認した。
【0075】
次に、間葉系幹細胞にエチオナミドを上記と同じ方法で処理した後、抗酸化関連因子であるHO-1(Heme oxygenase-1)、NQO1(NAD(P)H:quinone oxidoreductase)、GCLC(Glutamate-Cysteine Ligase Catalytic Subunit)、およびGCLM(Glutamate-cysteine ligase modifier subunit)のmRNA発現レベルを測定した。その結果、図4bに示されたように、概してエチオナミドの処理濃度に比例して間葉系幹細胞でHO-1、NQO1、GCLC、GCLM遺伝子の発現が有意的に増加することを確認した。
【0076】
前記結果は、間葉系幹細胞にエチオナミドを処理することによって、前記幹細胞の傍分泌因子の発現が増進されたことを意味する。
【0077】
実施例7.認知症マウスモデルでエチオナミド処理された幹細胞によるアミロイドベータ減少効果の確認
本発明者らは、エチオナミド処理された間葉系幹細胞が実質的に退行性脳疾患に対する治療効果があるかどうかを調べてみるために、認知症マウスモデルを用いて前記間葉系幹細胞の投与によるアミロイドベータのレベル変化を測定した。
【0078】
具体的に、認知症マウスモデルにエチオナミドが処理された間葉系幹細胞(primed)または処理されない間葉系幹細胞(hMSCs)を前記マウスの脳室に投与し、1週間後に脳を摘出した。摘出した脳を4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で固定させた後、組織を切断して得られた組織切片にアミロイドベータに対する代表的な抗体である抗6E10を処理して免疫染色を実施し、蛍光顕微鏡を通じて観察した。また、蛍光程度を定量的に分析してグラフで示した。
【0079】
その結果、図5aに示されたように、対照群またはエチオナミドが処理されない間葉系幹細胞を投与した場合と比べて、エチオナミドが処理された間葉系幹細胞を処理した場合、アミロイドベータの発現が有意的に減少したことが明らかになった。
【0080】
また、上記と同じ認知症マウスを用いてエチオナミドが処理された間葉系幹細胞(primed)または処理されない間葉系幹細胞(hMSCs)を前記マウスの脳室に投与し、1週間後に脳を摘出した。次に、摘出した脳を均質化(homogenization)して得られたサンプルを用いてELISAを行って、アミロイドベータタンパク質のレベルを測定した。この際、前記組織サンプルを可溶性画分(soluble fraction)と不溶性画分(insoluble fraction)に分離してそれぞれアミロイドベータレベルを確認した。
【0081】
その結果、図5bに示されたように、対照群またはエチオナミドが処理されない間葉系幹細胞を投与した場合と比べて、エチオナミドを処理した間葉系幹細胞を処理した場合、アミロイドベータの発現が有意的に減少したことを確認した。
【0082】
前記実験を通じて、エチオナミドが処理された幹細胞は、アミロイドベータを減少させる効果があることが分かり、これは、前記幹細胞が退行性脳疾患の病理現象を減少させることによって、治療効果があることを意味する。
【0083】
実施例8.認知症マウスモデルでエチオナミド処理された幹細胞による脳炎症減少効果の確認
前記実施例7の結果に基づいて、認知症マウスモデルでエチオナミド処理された幹細胞が脳炎症を減少させる効果があるかどうかを調査しようとした。このために、前記実施例7と同じ方法で、認知症マウスモデルにエチオナミドが処理された間葉系幹細胞(primed)または処理されない間葉系幹細胞(hMSCs)を前記マウスの脳室に投与し、1週間後に脳を摘出した後、4%パラホルムアルデヒドで固定させた。以後、脳組織を切断して得られた組織の切片に脳炎症関連抗体GFAP(glial fibrillary acidic protein)を処理して免疫染色し、蛍光顕微鏡で観察し、また、蛍光程度を定量的に分析して比較した。
【0084】
その結果、図6から分かるように、野生型マウス(WT)と比較して何の処理もしない認知症マウスの場合、GFAPの発現が顕著に増加したことを確認した。これに対し、エチオナミドが処理されない間葉系幹細胞またはエチオナミドを処理した間葉系幹細胞を投与した場合、GFAPの発現が減少したことが明らかになり、特にエチオナミドを処理した間葉系幹細胞を投与した場合、さらに高いレベルでGFAPの発現が減少した。
【0085】
このような結果を通じて、エチオナミドが処理された幹細胞は、脳炎症を減少させる効果があることが分かった。
【0086】
実施例9.認知症マウスモデルでエチオナミド処理された幹細胞によるタウ減少効果の確認
また、本発明者らは、前記実施例7および8の結果を基に、本発明によるエチオナミド処理された幹細胞が認知症マウスモデルでさらに他の病理的現象であるタウ(Tau)タンパク質を減少させる効果があるかどうかを調べてみようとした。具体的に、認知症マウスモデルにエチオナミドが処理された間葉系幹細胞(primed)または処理されない間葉系幹細胞(hMSCs)を前記マウスの脳室に投与し、2週間後に脳を摘出して均質化させた。以後、得られた脳組織サンプルを用いてELISAを通じてタウタンパク質の発現レベルを測定した。この際、タウダンベクチルのスレオニン(threonine) 181番および231番残基がリン酸化したタウの量をそれぞれ確認した。
【0087】
分析結果、図7に示されたように、対照群またはエチオナミドが処理されない間葉系幹細胞を投与した場合と比べて、エチオナミドを処理した間葉系幹細胞を処理した場合、リン酸化したタウの発現が有意的に減少したことを確認した。
【0088】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で容易に変形が可能であることが理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的でないものと解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によるエチオナミドは、幹細胞の抗炎症効果および傍分泌能を増進させるなど幹細胞の効能を強化させ、エチオナミドが処理された幹細胞は、認知症モデルで実質的な病変の改善を通した治療効果を示すことを確認したところ、エチオナミドおよび前記エチオナミドが処理された多様な効能が強化された幹細胞は、炎症性疾患および退行性脳疾患の治療剤開発をはじめとする多様な分野において活用されうることが期待される。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6
図7