(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175014
(43)【公開日】2023-12-08
(54)【発明の名称】作業車無線管理システム
(51)【国際特許分類】
H04W 4/46 20180101AFI20231201BHJP
H04W 72/0457 20230101ALI20231201BHJP
H04W 4/029 20180101ALI20231201BHJP
H04W 4/70 20180101ALI20231201BHJP
【FI】
H04W4/46
H04W72/0457 110
H04W4/029
H04W4/70
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023182411
(22)【出願日】2023-10-24
(62)【分割の表示】P 2022031090の分割
【原出願日】2017-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】松崎 優之
(72)【発明者】
【氏名】石見 憲一
(72)【発明者】
【氏名】魚谷 安久
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067EE02
5K067EE12
5K067EE25
(57)【要約】
【課題】より効果的な無線通信ネットワークを構築した作業車無線管理システムが要望されている。
【解決手段】無線通信ネットワークを用いて作業車による作業走行を管理する作業車無線管理システム。作業車の作業走行に関する無線伝送データを取り扱う複数の通信ユニット4が備えられている。通信ユニット4は、複数の異なる周波数帯域から無線伝送データのデータ種類毎に選択された周波数帯域を使用周波数帯域として用いて、無線伝送データを通信処理する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信ネットワークを用いて作業車による作業走行を管理する作業車無線管理システムであって、
前記作業車の作業走行に関する無線伝送データを取り扱う複数の通信ユニットが備えられ、かつ、
前記通信ユニットは、複数の異なる周波数帯域から前記無線伝送データのデータ種類毎に選択された周波数帯域を使用周波数帯域として用いて、前記無線伝送データを通信処理し、
前記複数の周波数帯域には、第1周波数帯域と第3周波数帯域とが含まれており、前記第1周波数帯域は前記第3周波数帯域より高く、
前記データ種類には、作業車周辺の撮影画像データと、前記作業車の走行作業に関する制御情報データと、前記作業車を非常停止させるための非常停止命令とが含まれており、かつ、
前記複数の周波数帯域の全てが良好な状態である場合、前記第1周波数帯域は前記撮影画像データのための前記使用周波数帯域として用いられ、前記第3周波数帯域は前記非常停止命令を伝送するための前記使用周波数帯域として用いられ、
前記第3周波数帯域が不良と判定された場合、前記第1周波数帯域が良好な状態であっても、前記作業車の自動走行は強制的に停止させられる作業車無線管理システム。
【請求項2】
前記複数の異なる周波数帯域の通信状態を判定する通信状態判定部と、
前記データ種類毎に割り当てる前記使用周波数帯域を前記通信状態に基づいて選択する使用周波数帯域選択部と、が備えられている請求項1に記載の作業車無線管理システム。
【請求項3】
前記通信状態判定部は、前記通信状態を、受信信号強度またはビーコン信号チェックあるいはその両方で行う請求項2に記載の作業車無線管理システム。
【請求項4】
手動走行する有人作業車と自動走行する無人作業車とを含む複数の前記作業車が備えられ、
前記撮影画像データの通信及び前記制御情報データの伝送は前記有人作業車と前記無人作業車との間で行われ、
前記非常停止命令の伝送は前記作業車の外にいるユーザによって操作されるリモコン装置と前記無人作業車との間でおこなわれる請求項1から3の何れか一項に記載の作業車無線管理システム。
【請求項5】
データ伝送容量の余裕が前記使用周波数帯域の少なくとも1つに生じている場合、少なくとも1つの前記データ種類におけるデータ内容の少なくとも一部が、前記データ伝送容量に余裕がある前記使用周波数帯域を用いて重複伝送される請求項1から4のいずれか一項に記載の作業車無線管理システム。
【請求項6】
前記複数の周波数帯域のうちの少なくとも1つが不良と判定され、少なくとも1つが良好と判定された場合、不良と判定された周波数帯域を割り当てられている前記使用周波数帯域で伝送される前記データ種類の前記無線伝送データの少なくとも一部が、良好と判定された周波数帯域である前記使用周波数帯域によって伝送される請求項1から5のいずれか一項に記載の作業車無線管理システム。
【請求項7】
前記複数の周波数帯域のうちの少なくとも1つが不良と判定された場合、前記作業車は強制的に停止させられる請求項1から6のいずれか一項に記載の作業車無線管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信ネットワークを用いて作業車による作業走行を管理する作業車無線管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の作業車は、無線通信機器を備え、無線通信ネットワークを介して外部の通信機器と情報交換することができる。特に、自動走行する作業車は、他の作業車や管理者が持参するリモコン装置などから、作業走行に関する種々の制御指令を受信し、受信した制御指令に基づく制御動作を行う。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された作業車両操作システムでは、作業車には、操作デバイスに対する操作によって動作機器を制御する制御信号を出力する制御モジュールが備えられ、リモコン装置としての携帯情報端末には、作業車の操作デバイスに対応する擬似操作デバイスを表示することができるディスプレイ、及びこの擬似操作デバイスに対する操作入力に基づいて遠隔操作信号が生成される遠隔制御部が備えられている。ユーザは、この擬似操作デバイスを操作することで、実際の操作デバイスを操作するのと同様な操作指令を作業車に対して与え、作業車の動作を遠隔制御することができる。
【0004】
さらに、特許文献2には、親作業車と、この親作業車に追従する無人操縦式の子作業車とにより対地作業を行う作業車協調システムが開示されている。このシステムでは、有人操縦式の親作業車と、この親作業車に追従する無人操縦式の子作業車とが、直線走行とUターン走行とを繰り返す往復直線走行で対地作業を行う。その際、親作業車の位置を示す親位置データから算定された親走行軌跡データと親対地作業幅データと子対地作業幅データとを考慮して、子作業車の作業走行目標位置データが算定される。算定された作業走行目標位置データは子作業車に無線で送信される。受信した作業走行目標位置データが操縦制御目標値となって、子作業車は無人操縦される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-192740号公報
【特許文献2】特開2014-178759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によるシステムでは、作業車とリモコン装置との間に無線通信ネットワークを構築することで、作業車の走行作業がリモコン装置によって遠隔制御可能となっている。また、特許文献2によるシステムでは、有人作業車と無人作業車との間に無線通信ネットワークを構築することで、互いの作業走行に関するデータを交換し、協調的な走行作業が行われている。作業車とリモコン装置との間及び有人作業車と無人作業車との間で交換されるデータの種類やデータ量は、年々増加している。また、通信するデータの種類には、緊急停止指令などのように通信エラーが許されないものや、周辺撮影画像などのように通信エラーが致命的にはならないとしても、そのデータ量が大きいものが混在している。このような実情から、複数の作業車間における、より効果的な無線通信ネットワークを構築した作業車無線管理システムが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、無線通信ネットワークを用いて作業車による作業走行を管理する作業車無線管理システムであって、前記作業車の作業走行に関する無線伝送データを取り扱う複数の通信ユニットが備えられ、かつ、前記通信ユニットは、複数の異なる周波数帯域から前記無線伝送データのデータ種類毎に選択された周波数帯域を使用周波数帯域として用いて、前記無線伝送データを通信処理する。
【0008】
この構成では、複数の作業車の作業走行に関する無線伝送データは、複数の異なる周波数帯域から、無線伝送データのデータ種類毎に選択された周波数帯域が、使用周波数帯域として用いられる。したがって、データ種類に応じて適切な周波数帯域をデータの無線伝送に使用することができる。また、複数の周波数帯域を用いることで、無線伝送データの通信がマルチチャンネル化されるので、作業車の作業走行に関して必要となる無線伝送データ量を適切に分配することができるという利点も得られる。
【0009】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記複数の異なる周波数帯域の通信状態を判定する通信状態判定部と、前記データ種類毎に割り当てる前記使用周波数帯域を前記通信状態に基づいて選択する使用周波数帯域選択部と、が備えられている。この構成では、使用周波数帯域として使用される複数の周波数帯域のそれぞれの通信状態がチェックされるので、受信感度の低下した周波数帯域や電波干渉を受けている周波数帯域を特定することができる。したがって、通信状態に応じて、複数の周波数帯域の使用目的を調整することにより、通信状態に応じた最適な無線伝送が可能となる。
【0010】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記複数の周波数帯域には、第1周波数帯域と第2周波数帯域と第3周波数帯域とが含まれており、前記第1周波数帯域は前記第2周波数帯域より高く、前記第2周波数帯域は前記第3周波数帯域より高く、前記データ種類には、作業車周辺の撮影画像データと、前記作業車の走行作業に関する制御情報データと、前記作業車を非常停止させるための非常停止命令とが含まれており、かつ、前記複数の周波数帯域の全てが良好な状態である場合、前記第1周波数帯域は前記撮影画像データのための前記使用周波数帯域として用いられ、前記第2周波数帯域は前記制御情報データのための前記使用周波数帯域として用いられ、前記第3周波数帯域は前記非常停止命令を伝送するための前記使用周波数帯域として用いられる。
【0011】
データの無線伝送において、高い周波数帯域では、データ伝送量は大きくなるのに対してその伝播特性は悪くなり、低い周波数帯域では、データ伝送量は小さくなるのに対してその伝播特性は良くなるという特徴がある。このことを考慮して、上述した構成では、データ量は大きいが、伝送されたデータの欠損が致命的とはならない、作業車周辺の撮影画像データの無線伝送には、最も周波数の高い第1周波数帯域が用いられる。また、データ量は少ないが、伝送されたデータの欠損が致命的となりうる非常停止命令の無線伝送には、最も周波数の低い第3周波数帯域が用いられる。さらに、伝送されたデータの欠損が致命的ではなくデータ量も大きくないる制御情報データの無線伝送には第2周波数帯域が用いられる。これにより、作業車の作業走行に必要なデータ種類に応じて適切に選択された使用周波数帯域がデータ伝送に用いられる。
【0012】
複数の作業車を用いた作業を所望通りに確実に行うために、有人作業車に搭乗している運転者が、無人作業車の自動運転を監視することが重要である。さらに、無人作業車の動きが有人作業車の運転者の死角に入ることや、有人作業車の運転者が無人作業車の不測な動きを見逃すことも起こり得るので、そのような状況に対処するためには、作業地に立って、無人作業車の動きを監視する監視者がリモコン装置を用いて、無人作業車を緊急停車させる構成も重要である。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記複数の作業車には、手動走行する有人作業車と自動走行する無人作業車とが含まれており、前記撮影画像データの通信及び前記制御情報データの伝送は前記有人作業車と前記無人作業車との間で行われ、前記非常停止命令の伝送は前記作業車の外にいるユーザによって操作されるリモコン装置と前記無人作業車との間で行われる。
【0013】
本発明の好適な実施形態の1つでは、データ伝送容量の余裕が前記使用周波数帯域の少なくとも1つに生じている場合、少なくとも1つの前記データ種類におけるデータ内容の少なくとも一部が、前記データ伝送容量に余裕がある前記使用周波数帯域を用いて重複伝送される。この構成では、データ種類に応じて振り分けられた使用周波数帯域に空きがあった場合、その空きを利用して、他のデータ種類のデータの少なくとも一部のデータ、好ましくは重要なデータが無線伝送される。これにより、無線伝送の通信信頼性が向上する。
【0014】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記複数の周波数帯域のうちの少なくとも1つが不良と判定され、少なくとも1つが良好と判定された場合、不良と判定された周波数帯域を割り当てられている前記使用周波数帯域で伝送されるデータ種類の無線伝送データの少なくとも一部が、良好と判定された周波数帯域である前記使用周波数帯域によって伝送される。この構成では、特定の周波数帯域に受信感度の低下や電波干渉が生じている場合、当該特定の周波数帯域を使用周波数帯域として割り当てられているデータ種類の無線伝送データの少なくとも一部を、通信状態が良好な他の使用周波数帯域に割り込んで無線伝送できるので、最低限の無線伝送の通信信頼性が確保される。
【0015】
無人作業車を無線通信ネットワークでつないで自動走行させている場合、その作業地の状態や作業の種類によっては、無線通信ネットワークの一部が遮断した状態でも、作業走行は回避しなければならない。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記複数の周波数帯域のうちの少なくとも1つが不良と判定された場合、前記無人作業車は強制的に停止させられる。
【0016】
本発明の好適な実施形態では、前記通信状態判定部は、前記通信状態を、受信信号強度またはビーコン信号チェックあるいはその両方で行うように構成されている。通信状態の判定が受信信号強度だけで行われる構成は、そのために必要とされる回路やプログラムが簡単であり、コスト的に有利である。通信状態の判定がビーコン信号チェックで行われる構成は、実際のデータ(ビーコン信号)の送受信を伴うので、通信状態の判定がより確実なものとなる。通信状態の判定が受信信号強度とビーコン信号チェックとの両方で行われる構成では、通信状態の不良原因の追究が容易となるので、通信状態不良の発生時により適切な対策を講じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】作業車無線管理システムの実施形態の1つにおける基本的な構成を説明する説明図である。
【
図2】作業車無線管理システムを採用した作業機の一例であるトラクタの側面図である。
【
図3】有人作業車と無人作業車とリモコン装置とからなる作業車無線管理システムの一例を示す模式図である。
【
図5】無人作業車の機能部を示す機能ブロック図である。
【
図6】作業車無線管理システムにおける無線データ伝送管理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図7】作業車無線管理システムにおける無線データ伝送管理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、図面を用いて、本発明の作業車無線管理システムの実施形態の1つを説明する。
図1は、この作業車無線管理システムの基本的な構成を示している。この作業車無線管理システムの無線通信ネットワークには、2台の作業車のそれぞれに装備される通信ユニット4と、監視員が携帯するリモコン装置9とが含まれている。この無線通信ネットワークで取り扱われる周波数帯域は、第1周波数帯域と第2周波数帯域と第3周波数帯域である。第1周波数帯域が最も高い帯域であり、次いで第2周波数帯域、第3周波数帯域が最も低い帯域である。各周波数帯域は公的に規約されたものであり、第1周波数帯域が2.4ギガ帯であり、第2周波数帯域が920メガ帯であり、第3周波数帯域が429メガ帯である。もちろん、その他の帯域を採用してもよい。
【0019】
この実施形態の無線通信ネットワークで取り扱われる無線伝送データの種類は、作業車周辺の撮影画像データと、作業車の走行作業に関する制御情報データと、作業車を非常停止させるための非常停止命令である。原則的には、撮影画像データの無線伝送に用いられる周波数帯域は第1使用周波数帯域と称し、制御情報データの無線伝送に用いられる周波数帯域は第2使用周波数帯域と称し、非常停止命令の無線伝送に用いられる周波数帯域は第3使用周波数帯域と称している。
【0020】
通信ユニット4には、通信処理部40と、通信状態判定部41と、使用周波数帯域選択部42とが含まれている。通信処理部40は、入力したデータを無線伝送可能な形に変換する機能と、受信した無線伝送データを必要な形に変換して出力する機能とを有する。通信状態判定部41は、第1周波数帯域と第2周波数帯域と第3周波数帯域とにおける通信状態を判定する。受信信号強度で通信状態を判定する場合には、アンテナ49からの入力信号の強度が測定される。測定された強度がしきい値以上であれば、通信状態が良好であると判定され、測定された強度がしきい値を下回れば通信状態が不良であると判定される。ビーコン信号チェックで通信状態を判定する場合には、互いの通信ユニット4が周期的にビーコン信号を送信し、その受信の成功を通じて通信状態が良好であると判定され、その受信の失敗を通じて通信状態が不良であると判定される。
【0021】
使用周波数帯域選択部42は、撮影画像データに用いられる周波数帯域(つまり第1使用周波数帯域)、制御情報データの無線伝送に用いられる周波数帯域(つまり第2使用周波数帯域)、及び非常停止命令の無線伝送に用いられる周波数帯域(つまり第3使用周波数帯域)を通信状態判定部41によって判定された通信状態に基づいて選択する。
【0022】
第1周波数帯域と第2周波数帯域と第3周波数帯の全ての受信状態が良好な場合は、初期設定として、第1使用周波数帯域には第1周波数帯域が割り当てられ、第2使用周波数帯域には第2周波数帯域が割り当てられ、第3使用周波数帯域には第3周波数帯域が割り当てられる。
【0023】
第1周波数帯域と第2周波数帯域と第3周波数帯のいずれかの受信状態が不良な場合は、次の非常停止報知処理を任意に採用することができる。
(1)第1周波数帯域の通信状態が不良と判定され、第2周波数帯域の通信状態が良好と判定された場合、第1周波数帯域が第1使用周波数帯域として割り当てられている撮影画像データが、制御情報データとともに第2使用周波数帯域を用いて無線伝送される。その際、撮影画像データは、動画データでなく、静止画データなどに変換して、データ量を低減させることが好ましい。同様に、第2周波数帯域の通信状態が不良と判定され、第1周波数帯域の通信状態が良好と判定された場合、第2周波数帯域が第2使用周波数帯域として割り当てられている制御情報データが、撮影画像データとともに第1使用周波数帯域を用いて無線伝送される。
(2)第3周波数帯域の通信状態が不良と判定され、第1周波数帯域または第2周波数帯域の通信状態が良好と判定された場合、第3周波数帯域が第3使用周波数帯域として割り当てられている非常停止命令が、第1周波数帯域または第2周波数帯域を第3使用周波数帯域として、無線伝送される。
(3)第3周波数帯域の通信状態が不良と判定された場合、非常停止命令が無線伝送できない事態が生じうるので、作業車は強制的に停止させられる。
(4)第1周波数帯域と第2周波数帯域と第3周波数帯域のいずれか1つが不良と判定された場合、とりあえず、作業車は強制的に停止させられる。
【0024】
逆に、第1使用周波数帯域、第2使用周波数帯域、第3使用周波数帯域の少なくとも1つにデータ伝送容量の余裕が生じている場合、特に、第1使用周波数帯域または第2使用周波数帯域にデータ伝送容量の余裕が生じている場合、制御情報データまたは撮影画像データを余裕が生じている使用周波数帯域を用いて重複伝送する。
【0025】
次に、
図1で示された作業車無線管理システムの具体的な適用例として、通信ユニット4が、手動走行する有人作業車と自動走行する無人作業車とに装備され、リモコン装置が作業車の外にいるユーザによって携帯されているシステムを説明する。
【0026】
図2には、この作業車無線管理システムに、参加する作業車の一例としてのトラクタが示されている。このトラクタは、前輪11と後輪12とによって支持された車体1の中央部に操縦部20が設けられている。車体1の後部には油圧式の昇降機構31を介してロータリ耕耘装置である作業装置30が装備されている。前輪11は操向輪として機能し、操舵機構13によって操舵角が変更されることでトラクタの走行方向が変更される。前輪11の操舵角は操舵機構13の動作によって変更される。操舵機構13には自動操舵のための操舵モータ14が含まれている。手動走行の際には、前輪11の操舵は操縦部20に配置されているステアリングホイール22の操作によって可能である。操縦部20には、ディスプレイとスピーカとタッチパネルと操作ボタンを備えた汎用端末3が配置されている。この汎用端末3は、運転者に情報を提供する機能と、運転者からの情報を入力する機能とを有する。
【0027】
トラクタのキャビン21には、GNSS(global navigation satellite system)モジュールとして構成されている衛星測位モジュール80が設けられている。衛星測位モジュール80の構成要素として、GNSS信号(GPS信号も含む)を受信するための衛星用アンテナがキャビン21の天井領域に取り付けられている。なお、衛星航法を補完するために、衛星測位モジュール80に、ジャイロ加速度センサや磁気方位センサを組み込んだ慣性航法モジュールを組み合わせること可能である。慣性航法モジュールは、衛星測位モジュール80とは別の場所に設けてもよい。車体1には、さらに、走行作業中の周囲の撮影する複数の撮影カメラ85と、周囲の障害物を検出する障害物センサ86が装備されている。
【0028】
図3には、運転者(ユーザ)が乗り込んで有人走行される有人作業車と無人走行される無人作業車とによって、圃場が耕耘される様子が示されている。ここでは、有人作業車と無人作業車とは、実質的に同じ形式のトラクタであり、
図1で示した通信ユニット4が装備されている。圃場は、略四角形の中央領域と、その中央領域の周囲で、畦に沿って規定される枕地とも呼ばれる周辺領域とに区分けされている。中央領域では、往復走行によって対地作業が行われるので、走行軌跡は、直線状の往路走行と旋回(Uターン)走行と直線状の復路走行と旋回(Uターン)走行との繰り返しとなる。枕地は、中央作業地の作業走行における旋回領域となる。周辺領域では、直線状の走行と各コーナ領域での切り返し走行の繰り返しによる周回作業走行が行われる。有人作業車と無人作業車との間では、無線による双方向の通信が行われる。さらに、畦には、リモコン装置9を持参した監視者(ユーザ)が立っている。リモコン装置9は無人作業車に対して無線により単方向の通信を行う。
【0029】
図4にリモコン装置9の平面図が示されている。このリモコン装置9は、片手操作可能なハンディタイプである。その表面には、電源ボタン、非常停止ボタン91、自動走行開始ボタン92、一時停止ボタン93が備えられている。非常停止ボタン91を押せば、無人作業車の通信ユニット4は非常停止命令が送信される。同様に、自動走行開始ボタン92を押せば自動走行開始指令が、一時停止ボタン93を押せば一時停止指令が送信される。
【0030】
この無線通信ネットワークでは、有人作業車と無人作業車との間は、第1使用周波数帯域と第2使用周波数帯域との2チャンネルを用いた無線通信が行われる。第1使用周波数帯域は、撮影カメラ95による撮影画像データの送信に用いられる。第2使用周波数帯域は、有人作業車と無人作業車とのそれぞれにおいて生成された制御情報データを交換するために用いられる。制御情報データには、各作業車の車体1の状態(自車位置やエンジン回転数や車速など)や作業装置30の状態(作業深さや姿勢など)、障害物センサ86の検出結果などが含まれる。
【0031】
図5には、無人作業車の制御系の機能ブロック図が示されている。有人作業車の制御系も、実質的には同じであるので、無人作業車の制御系の説明が、有人作業車の制御系の説明に流用することができる。
【0032】
無人作業車の制御系の中核要素である制御ユニットCUは、入出力インタフェースとして、出力処理部7と入力処理部8とを備えている。外部との無線データ交換のために、
図1で説明した通信ユニット4が装備されており、この通信ユニット4は、制御ユニットCUと車載LANを通じて接続している。もちろん、通信ユニット4を制御ユニットCU内に構築してもよい。また、ユーザ操作によって作業車の動きを管理することができるように、グラフィックユーザインタフェースを備えた汎用端末3も接続されている。汎用端末3は、
図5では、車載LANと接続された固定タイプとなっているが、通信ユニット4を介して制御ユニットCUとの間で無線データ交換可能な構成とすれば、車外に持ち出して、使用することができる。
【0033】
出力処理部7は、車両走行機器群71と作業装置機器群72とからなる作業走行機器群70、ランプやブザーやスピーカなどからなる報知デバイス73と接続している。車両走行機器群71には、車両走行に関する制御機器、例えばエンジン制御機器、変速制御機器、制動制御機器、操舵制御機器などが含まれている。作業装置機器群72には、この実施形態ではロータリ耕耘装置である作業装置30のPTOクラッチなどの動力制御機器や、ロータリ耕耘装置を昇降させる昇降機構31の昇降シリンダ制御機器などが含まれている。
【0034】
入力処理部8には、衛星測位モジュール80、自動/手動切替操作具81、走行状態検出センサ群82、作業状態検出センサ群83、撮影カメラ85、障害物センサ86などが接続されている。自動/手動切替操作具81は、自動操舵で走行する自動走行モードと、手動操舵で走行する手動操舵モードとのいずれかを選択するスイッチである。例えば、自動操舵モードで走行中に自動/手動切替操作具81を操作することで、手動操舵での走行に切り替えられ、手動操舵での走行中に自動/手動切替操作具81を操作することで、自動操舵での走行に切り替えられる。走行状態検出センサ群82には、エンジン回転数調整具、アクセルペダル、ブレーキペダル、ステアリングホイール22などの操作具(作業走行操作具群84の構成要素)の状態を検出するセンサが含まれている。作業状態検出センサ群83には、作業装置30の駆動や姿勢を調整する作業操作具(作業走行操作具群84の構成要素)の状態を検出するセンサが含まれている。
【0035】
制御ユニットCUには、実質的には、ソフトウエアで構築される機能部として、作業走行制御部50、自動走行制御部AC、伝送データ処理部61、モード切替部62が組み込まれている。
【0036】
作業走行制御部50には、走行制御部51、作業制御部52、エンジン制御部53が含まれている。走行制御部51は、車両走行機器群71を制御する。このトラクタが自動走行(自動操舵)と手動走行(手動操舵)の両方で走行可能に構成されているため、走行制御部51は、手動走行制御機能と自動走行制御機能とを有する。手動走行制御機能が実行されている場合、運転者による操作に基づいて車両走行機器群71が制御される。自動走行制御機能が実行されている場合、自動走行制御部ACから与えられる自動操舵指令に基づいて生成された操舵制御信号(動作制御信号の一種)が操舵モータ14に出力される。作業制御部52は、作業装置30の動きを制御するために、作業装置機器群72に作業制御信号(動作制御信号の一種)を与える。エンジン制御部53は、エンジンの動作機器にエンジン制御信号(動作制御信号の一種)を与える。
【0037】
自動走行制御部ACには、経路生成部54、経路設定部55、自車位置算出部56、自動作業走行指令部57が含まれている。
【0038】
経路生成部54は、入力された圃場情報から、圃場の外形データを読み出し、この圃場における適正な走行経路を生成する。この走行経路の生成は、運転者によって入力される基本的な初期パラメータに基づいて自動的に行われてもよいし、別なコンピュータで生成された走行経路をダウンロードしてもよい。いずれにしても、経路生成部54から出力される走行経路は、メモリに展開され、自動走行に利用される。もちろん、この走行経路は、手動走行であっても、作業車が走行経路に沿って走行するためのガイダンスのために利用することができる。
【0039】
経路設定部55は、メモリに展開された走行経路を順次読み出して、走行の目標となる走行経路として設定する。自車位置算出部56は、衛星測位モジュール80から逐次送られてくる測位データに基づいて、車体1の位置または作業装置30の位置を算出する。自動作業走行指令部57は、目標走行経路と自車位置との間の方位ずれ及び位置ずれを算出し、方位ずれ及び位置ずれを解消する自動操舵指令を走行制御部51に与える。
【0040】
モード切替部62は、複数の作業車で協調して作業を行う場合の、有人作業車として機能する有人作業車モードと無人作業車として機能する無人作業車モードとを、ユーザ操作を通じて切り替える機能を有する。伝送データ処理部61は、走行状態検出センサ群82や作業状態検出センサ群83や障害物センサ86によって検出された作業走行状態を示す制御情報データや、撮影カメラ85からの撮影画像データを取り扱う。伝送データ処理部61は、各種データを無線伝送データ化するために適切な形式に変換したり、送られてきた無線伝送データを内部処理可能なデータ形式に変換したりする。
【0041】
次に、
図6と
図7とを用いて、無人作業車における無線データ伝送管理ルーチンの一例を説明する。
最初に、通信状態判定部41からの判定結果が取り込まれ、第3周波数帯域通信状態が良好であるかどうかチェックされる(#01)。この第3周波数帯域は、デフォルトの状態では、非常停止命令をリモコン装置9から伝送するための第3使用周波数帯域に用いられている。したがって、第3周波数帯域の通信状態が不良の場合は(#01でNo分岐)、伝送データ処理部61が、作業走行制御部50に自動走行停止指令を与える(#61)。これにより、無人作業車は自動走行を停止する。さらに、この自動走行の停止を示す停止報知処理(ランプやブザーの駆動)が実行される(#62)。
【0042】
第3周波数帯域の通信状態が良好の場合は(#01でYes分岐)、さらに、第1周波数帯域及び第2周波数帯域の通信状態が良好であるかどうかチェックされる(#02)。このチェックでは、以下の4つの通信状態に応じて異なる処理が行われる。
【0043】
(1)第1周波数帯域及び第2周波数帯域の通信状況が良好な場合(#10):
第1周波数帯域は第1使用周波数帯域として利用される(#11)。第2周波数帯域は第2使用周波数帯域として利用される(#12)。
【0044】
(2)第1周波数帯域のみ通信状況が良好な場合(#20):
第1周波数帯域は第1使用周波数帯域として利用される(#21)。したがって、撮影画像データは、2.4ギガ帯である第1周波数帯域を用いて無線伝送される。さらに、第1周波数帯域である第1使用周波数帯域のデータ伝送に余裕があるかどうかチェックされる(#22)。第1使用周波数帯域のデータ伝送に余裕があれば(#22でYes分岐)、第1使用周波数帯域(第1周波数帯域)の余裕分に、本来第2周波数帯域で送信しようとしていた制御情報データを乗せる。このため、制御情報データは必要な程度だけ、簡易化(データ量低減)される(#23)。そして、制御情報データは第1周波数帯域を利用して伝送される。つまり、第1周波数帯域は、第2使用周波数帯域としても利用されることになる(#24)。第1使用周波数帯域のデータ伝送に余裕がなければ(#22でNo分岐)、第1周波数帯域は、第1使用周波数帯域及び第2使用周波数帯域として利用され、撮影画像データと制御情報データとの両方の無線伝送に用いられる。このため、撮影画像データがコマ間引きや静止画変換等によって必要な程度だけ、簡易化(データ量低減)される(#25)。同様に、制御情報データも必要な程度だけ、簡易化(データ量低減)される(#26)。そして、撮影画像データ及び制御情報データは第1周波数帯域を利用して伝送される。つまり、第1周波数帯域は、第1使用周波数帯域としてだけではなく、第2使用周波数帯域としても利用される(#27)。
【0045】
(3)第1周波数帯域及び第2周波数帯域の通信状況が不良な場合(#30):
第3周波数帯域である第3使用周波数帯域のデータ伝送に余裕があるかどうかチェックされる(#31)。第3使用周波数帯域のデータ伝送に余裕があれば(#31でYes分岐)、第3使用周波数帯域(第3周波数帯域)の余裕分に、本来第1周波数帯域で送信しようとしていた撮影画像データ及び本来第2周波数帯域で送信しようとしていた制御情報データを乗せる。429メガ帯である第3周波数帯域の伝送データ量は小さいので、必要な程度だけ撮影画像データの簡易化が行われ(#34)、第3周波数帯域を第1使用周波数帯域としても利用され、簡易化された撮影画像データが第3周波数帯域で無線伝送される(#35)。同様に、必要な程度だけ制御情報データも簡易化され(#36)、第3周波数帯域を第2使用周波数帯域としても利用され、簡易化された制御情報データが第3周波数帯域で無線伝送される(#37)。第3使用周波数帯域のデータ伝送に余裕があれば(#31でNo分岐)、伝送データ処理部61が、作業走行制御部50に自動走行停止指令を与える(#32)。これにより、無人作業車は自動走行を停止する。さらに、この自動走行の停止を示す停止報知処理(ランプやブザーの駆動)が実行される(#33)。
【0046】
(4)第2周波数帯域のみ通信状況が良好な場合(#40):
第2周波数帯域は第2使用周波数帯域として利用される(#41)。したがって、制御情報データは、920メガ帯である第2周波数帯域を用いて無線伝送される。さらに、第2周波数帯域である第2使用周波数帯域のデータ伝送に余裕があるかどうかチェックされる(#42)。第2使用周波数帯域のデータ伝送に余裕があれば(#42でYes分岐)、第2使用周波数帯域(第2周波数帯域)の余裕分に、本来第1周波数帯域で送信しようとしている撮影画像データを乗せる。このため、撮影画像データは必要な程度だけ、簡易化(データ量低減)される(#43)。そして、撮影画像データは第2周波数帯域を利用して伝送される。つまり、第2周波数帯域は、第1使用周波数帯域としても利用されることになる(#44)。第2使用周波数帯域のデータ伝送に余裕がなければ(#42でNo分岐)、撮影画像データの無線伝送を停止し(#45)、撮影画像データの伝送停止を報知する(#46)。
【0047】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、3つの周波数帯域が利用されていたが、それ以上の周波数帯域の利用も可能である。
(2)上述した実施形態では、リモコン装置9は、単方向の無線通信を行う、単なる信号発信器として用いられていたが、これに代えて、タブレットコンピュータのような高機能の通信端末をリモコン装置9として用いてもよい。この場合、リモコン装置9と作業車との間も双方向の無線通信が可能であり、例えば、リモコン装置9としての通信端末のタッチパネルに撮影画像データを表示させることができる。
(3)
図5で示された機能ブロック図における各機能部は、主に説明目的で区分けされている。実際には、各機能部は他の機能部と統合または複数の機能部に分けることができる。例えば、汎用端末3に、自動走行制御部ACを構築してもよい。
(4)上述した実施形態では、有人作業車と無人作業車を同じタイプとし、その制御系も実質的に同一としていたが、有人作業車と無人作業車を異なるタイプの作業車で構成してもよい。さらに、制御系も、有人作業車と無人作業車のそれぞれに必須のものだけを備えるようにしてもよい。
(5)上述した実施形態では、作業車として、ロータリ耕耘機を作業装置30として装備したトラクタを、作業車として取り上げたが、そのようなトラクタ以外にも、例えば、田植機、施肥機、コンバインなどの農作業車、あるいは作業装置30としてドーザやローラ等を備える建設作業車等の種々の作業車も、実施形態として採用することができる。また、一方の作業車は、実際には作業を行わない車両であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、無線通信ネットワークを用いて作業車による作業走行を管理する作業車無線管理システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
3 :汎用端末
4 :通信ユニット
40 :通信処理部
41 :通信状態判定部
42 :使用周波数帯域選択部
50 :作業走行制御部
61 :伝送データ処理部
62 :モード切替部
85 :撮影カメラ
86 :障害物センサ
9 :リモコン装置
91 :非常停止ボタン
92 :自動走行開始ボタン
93 :一時停止ボタン
95 :撮影カメラ
AC :自動走行制御部
CU :制御ユニット