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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175036
(43)【公開日】2023-12-08
(54)【発明の名称】絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/04 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
H01B7/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183714
(22)【出願日】2023-10-26
(62)【分割の表示】P 2020134332の分割
【原出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【弁理士】
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】古沢 健一
【テーマコード(参考)】
5G311
【Fターム(参考)】
5G311AA04
5G311AB05
5G311AB06
5G311AD03
(57)【要約】
【課題】絶縁電線の導体が断線するまでの寿命を長くすることができる技術を提供する。
【解決手段】導体と、導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、を有する絶縁電線であって、導体は、該導体の中心に配置される第1素線と、第1素線の外側に撚り合わされて設けられる複数の第2素線と、複数の第2素線の外側に複数の第2素線と異なる方向に撚り合わされて設けられる複数の第3素線と、を有し、複数の第2素線および複数の第3素線のそれぞれは、第1素線側に凹に湾曲した内周面と、第1素線の径方向に内周面と反対側に凸に湾曲した外周面と、を有し、絶縁電線の単位長さ当たりの複数の第2素線および複数の第3素線のニッキング数は、絶縁電線の単位長さ当たりの複数の第2素線と複数の第3素線との交差箇所数に対して20%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を有する絶縁電線であって、
前記導体は、
該導体の中心に配置される中心素線と、
前記中心素線よりも外側で該中心素線の径方向に積層される複数の素線層と、
を有し、
前記複数の素線層のうち、前記中心素線よりも外側で前記中心素線の径方向に互いに隣接する2つの素線層は、
内側の素線層で撚り合わされて設けられる複数の内層素線と、
外側の素線層で、前記複数の内層素線と異なる方向に撚り合わされて設けられる複数の外層素線と、
を有し、
前記複数の内層素線および前記複数の外層素線のそれぞれは、前記中心素線側に凹に湾曲した内周面と、前記中心素線の径方向に前記内周面と反対側に凸に湾曲した外周面と、を有し、
前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の内層素線および前記複数の外層素線のニッキング数は、前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の内層素線と前記複数の外層素線との交差箇所数に対して20%以下である
絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁電線および絶縁電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外配電用途では、例えば、導体と、導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、を有する絶縁電線が用いられる。当該絶縁電線では、導体が圧縮されることがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-232934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、絶縁電線の導体が断線するまでの寿命を長くすることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を有する絶縁電線であって、
前記導体は、
該導体の中心に配置される第1素線と、
前記第1素線の外側に撚り合わされて設けられる複数の第2素線と、
前記複数の第2素線の外側に前記複数の第2素線と異なる方向に撚り合わされて設けられる複数の第3素線と、
を有し、
前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のそれぞれは、前記第1素線側に凹に湾曲した内周面と、前記第1素線の径方向に前記内周面と反対側に凸に湾曲した外周面と、を有し、
前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のニッキング数は、前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線と前記複数の第3素線との交差箇所数に対して20%以下である
絶縁電線が提供される。
【0006】
本開示の他の態様によれば、
導体を形成する工程と、
前記導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
を有する絶縁電線の製造方法であって、
前記導体を形成する工程は、
第1素線を中心に配置しながら、該第1素線の外側に複数の第2素線を撚り合せる工程と、
前記複数の第2素線の外側に、前記複数の第2素線と異なる方向に複数の第3素線を撚り合せる工程と、
を有し、
前記複数の第2素線を撚り合せる工程および前記複数の第3素線を撚り合せる工程では、
前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のそれぞれの素線に、前記第1素線側に凹に湾曲した内周面と、前記第1素線の径方向に前記内周面と反対側に凸に湾曲した外周面と、が形成されるよう、該素線を予め異形圧縮した状態で、前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のそれぞれを撚り合わせ、
前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のニッキング数を、前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線と前記複数の第3素線との交差箇所数に対して20%以下とする
絶縁電線の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、絶縁電線の導体が断線するまでの寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る絶縁電線の軸方向と直交する断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る絶縁電線の製造方法を示す概略図である。
図3】本開示の一実施形態の変形例1に係る絶縁電線の軸方向と直交する断面図である。
図4】本開示の一実施形態の変形例2に係る絶縁電線の軸方向と直交する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者の得た知見>
まず、発明者の得た知見について説明する。
【0010】
近年、絶縁電線の導体は、複数の素線層により構成されることがある。これにより、一本の素線で導体を構成する場合よりも、導体を容易に製造することができる。また、素線数を適切に選択することにより、絶縁電線の可撓性を確保することができる。
【0011】
導体を複数の素線層により構成する場合、外側の素線は、内側の素線と異なる方向(反対の方向)に撚り合わせられる。これにより、絶縁電線を金車に通す際に、該絶縁電線が一方向に捻れることを抑制することができる。
【0012】
ここで、発明者は、上述のように導体が複数の素線層により構成される場合に、各素線に生じたニッキングを起点として早期にクラックが伝播してしまうおそれがあることを見出した。なお、ここでいう「ニッキング」とは、導体が圧縮された際に、各素線の外周に生じる塑性変形(凹み)のことをいう。
【0013】
従来、上述のような導体が複数の素線層により構成される場合では、導体を構成する複数の素線を全て撚り合わせた後に、導体の断面が円形となるように、絞りダイスにより該複数の素線を一括して圧縮していた(以下、「円形圧縮」ということがある)。
【0014】
このとき、第2素線と第3素線とが交互撚りによって交差する箇所では、第3素線が第2素線に対して点接触する。第3素線が第2素線に対して点接触すると、導体を圧縮したときの圧力が当該箇所に集中する。このため、第2素線および第3素線のうち少なくともいずれかが、圧力集中に伴って塑性変形し、該素線の外周にニッキングが形成される。
【0015】
絶縁電線を延線する際には、絶縁層が剥がされ、露出した導体がクランプによって把持される。このとき、第3素線側から導体を把持するため、絶縁電線に対して風が吹き付けられて該絶縁電線が振動した場合には、振動による応力が第3素線に集中する。このため、振動疲労によるクラックは第3素線から先に発生する。
【0016】
第3素線でクラックが進展すると、次に、第2素線のうち上述のニッキングが生じた部分が弱点となり、第2素線においてもクラックが発生する可能性がある。このようなクラックが複数個所で起こったり、該クラックが大きくなったりすると、絶縁電線の導体全体が断線してしまうおそれがある。
【0017】
したがって、絶縁電線の導体を構成する各素線においてニッキングの発生を抑制し、絶縁電線の導体が断線するまでの寿命を長くすることが望まれていた。
【0018】
本開示は、発明者等が見出した上記新規知見に基づくものである。
【0019】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0020】
[1]本開示の一態様に係る絶縁電線は、
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を有する絶縁電線であって、
前記導体は、
該導体の中心に配置される第1素線と、
前記第1素線の外側に撚り合わされて設けられる複数の第2素線と、
前記複数の第2素線の外側に前記複数の第2素線と異なる方向に撚り合わされて設けられる複数の第3素線と、
を有し、
前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のそれぞれは、前記第1素線側に凹に湾曲した内周面と、前記第1素線の径方向に前記内周面と反対側に凸に湾曲した外周面と、を有し、
前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のニッキング数は、前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線と前記複数の第3素線との交差箇所数に対して20%以下である。
この構成によれば、絶縁電線の導体が断線するまでの寿命を長くすることができる。
【0021】
[2]上記[1]に記載の絶縁電線において、
前記複数の第2素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積に対する、前記複数の第3素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積の比率は、0.9以上1.1以下である。
この構成によれば、第2素線の異形圧縮に用いる円形素線と同一の円形素線を用いて、第3素線を異形圧縮することができる。
【0022】
[3]上記[1]に記載の絶縁電線において、
前記複数の第3素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積は、前記複数の第2素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積よりも大きい。
この構成によれば、第3素線において、確実に第2素線よりも先にクラックを生じさせることができる。
【0023】
[4]上記[1]に記載の絶縁電線において、
前記複数の第3素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積は、前記複数の第2素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積よりも小さい。
この構成によれば、第3素線において、第2素線よりもクラックを生じ難くすることができる。
【0024】
[5]上記[1]に記載の絶縁電線において、
前記複数の第3素線のそれぞれは、前記複数の第2素線のそれぞれよりも先にクラックが生じるよう構成される。
この構成によれば、絶縁電線が断線に至る前に、絶縁電線の断線のおそれを確実に把握することが可能となる。
【0025】
[6]上記[1]から[5]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、
前記複数の第3素線の撚りピッチは、前記複数の第2素線の撚りピッチよりも長い。
この構成によれば、ニッキングの発生を抑制することができる。
【0026】
[7]上記[6]に記載の絶縁電線において、
前記複数の第2素線の撚りピッチに対する前記複数の第3素線の撚りピッチの比率は、1超3以下である。
この構成によれば、ニッキングの発生を抑制することができる。
【0027】
[8]本開示の他の態様に係る絶縁電線の製造方法は、
導体を形成する工程と、
前記導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
を有する絶縁電線の製造方法であって、
前記導体を形成する工程は、
第1素線を中心に配置しながら、該第1素線の外側に複数の第2素線を撚り合せる工程と、
前記複数の第2素線の外側に、前記複数の第2素線と異なる方向に複数の第3素線を撚り合せる工程と、
を有し、
前記複数の第2素線を撚り合せる工程および前記複数の第3素線を撚り合せる工程では、
前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のそれぞれの素線に、前記第1素線側に凹に湾曲した内周面と、前記第1素線の径方向に前記内周面と反対側に凸に湾曲した外周面と、が形成されるよう、該素線を予め異形圧縮した状態で、前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のそれぞれを撚り合わせ、
前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のニッキング数を、前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線と前記複数の第3素線との交差箇所数に対して20%以下とする。
この構成によれば、絶縁電線の導体が断線するまでの寿命を長くすることができる。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0029】
<本開示の一実施形態>
(1)絶縁電線
本開示の一実施形態に係る絶縁電線について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る絶縁電線の軸方向と直交する断面図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の絶縁電線10は、屋外配電用の電線として用いられるよう構成され、例えば、中心側から外側に向けて、導体200、絶縁層(絶縁体、絶縁被覆層)300を有している。
【0031】
以下、絶縁電線10等の「軸方向」とは、絶縁電線10等の中心軸に沿った方向のことをいい、場合によっては「長手方向」と言い換えることができる。また、絶縁電線10等の「径方向」とは、絶縁電線10等の軸方向に垂直な方向のことをいい、場合によっては絶縁電線10等の短手方向と言い換えることができる。また、絶縁電線10等の「周方向」とは、絶縁電線10等の外周に沿った方向のことをいう。
【0032】
導体200は、複数の素線100を撚り合わせて設けられている。導体200は、例えば、硬銅線、硬銅撚り線、硬アルミ撚り線、鋼心アルミ撚り線(ACSR)等のうちいずれかにより構成されている。本実施形態では、導体200は、例えば、アルミ覆鋼心アルミ撚り線(ACSR/AC)により構成されている。導体200については、詳細を後述する。
【0033】
絶縁層300は、例えば、導体200の外周を覆うように設けられている。絶縁層300は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、エチレンプロピレンゴム等の少なくともいずれかからなっている。本実施形態では、絶縁層300は、例えば、架橋ポリエチレンからなっている。
【0034】
なお、絶縁層300は、例えば、風圧荷重を低減するよう、凹凸を外周面に有していても良い。
【0035】
(具体的寸法等)
上述のように構成される本実施形態の絶縁電線10の公称電圧は、例えば、600V以上33kV以下であり、好ましくは、6600V以上33kV以下である。絶縁電線10の導体200の公称断面積は、例えば、12mm(直径4mm)以上500mm以下であり、好ましくは、32mm以上240mm以下である。なお、上記公称電圧、公称断面積等は一例であって、本実施形態はこの範囲に限定されない。
【0036】
(2)導体
本実施形態の導体200は、例えば、いわゆる同心撚りにより構成され、該導体200の径方向に同心円状に積層される複数の素線層(210~230)を有している。具体的には、導体200は、例えば、中心側から外側に向けて、第1素線層(中心素線層)210と、第2素線層(内側素線層)220と、第3素線層(外側素線層)230と、を有している。
【0037】
例えば、第1素線層210は第1素線(中心素線)110を有し、第2素線層220は複数の第2素線(内層素線)120を有し、第3素線層230は複数の第3素線(外層素線)130を有している。なお、以下において、第1素線110、第2素線120および第3素線130を総称して、「素線100」ということがある。
【0038】
本実施形態では、導体200を構成する素線100の総本数は、例えば、19本である。また、例えば、第1素線110の本数は1本であり、第2素線120の本数は6本であり、第3素線130の本数は12本である。
【0039】
第1素線層210を構成する第1素線110は、例えば、導体200の中心に配置されている。第1素線110は、例えば、硬銅線、硬アルミ線、亜鉛メッキ鋼線、またはアルミ覆鋼線(AC線)により構成されている。
【0040】
第2素線層220は、例えば、第1素線110の外周に隣接し、第1素線110の外周を囲むように設けられている。また、第2素線層220を構成する複数の第2素線120は、例えば、第1素線110の外側に撚り合わされて設けられている。第2素線120の撚り方向は、例えば、左撚り(Z撚り)である。第2素線120は、例えば、アルミ線またはアルミ合金線により構成されている。
【0041】
第3素線層230は、例えば、第2素線層220の外周に隣接し、第2素線層220の外周を囲むように設けられている。第3素線層230を構成する複数の第3素線130は、例えば、複数の第2素線120の外側に、該複数の第2素線120と異なる方向に撚り合わされて設けられている。第3素線130の撚り方向は、例えば、右撚り(S撚り)である。第3素線130は、例えば、第2素線120と同様の材料により構成されている。
【0042】
なお、本実施形態では、例えば、第3素線層230が導体200の最外層を構成している。
【0043】
なお、各素線100の間には、例えば、水密材が充填されていてもよい。
【0044】
ここで、本実施形態の導体200は、断面が円形となるように成形されている。これにより、絶縁電線10における導体200の占積率を向上させることができる。導体200の占積率を向上させることで、導体が圧縮されておらず該導体の断面積が本実施形態の導体と等しい絶縁電線と比較して、絶縁電線10の外径を小さくすることができる。その結果、絶縁電線10の風圧荷重を低減することができる。
【0045】
本実施形態では、導体200の断面が円形となっているが、従来のように複数の素線を一括して円形に圧縮する円形圧縮は行われておらず、第2素線120および第3素線130のそれぞれは、予め異形圧縮された状態で撚り合わせられている。なお、ここでいう「異形圧縮」とは、断面が円形と異なる形状となるように圧縮されることをいう。
【0046】
具体的には、本実施形態では、第2素線120は、例えば、略扇形(セグメント形)に異形圧縮されている。第2素線120は、例えば、内周面122と、外周面124と、側面126と、を有している。
【0047】
内周面122は、例えば、第1素線110側に凹となるように略円弧状に湾曲している。一方で、外周面124は、例えば、第1素線110の径方向に内周面122と反対側に凸となるように略円弧状に湾曲している。一対の側面126は、それぞれ、内周面122と外周面124とを繋ぐように設けられている。なお、内周面122と側面126との接続部、外周面124と側面126との接続部は、例えば、R形状(略円弧形状)となっている。
【0048】
第2素線120を構成する各側面126は、第1素線110の径方向(絶縁電線10の径方向)に沿うように配置されている。複数の第2素線120は、互いに側面126で接して第1素線110の周方向(絶縁電線10の周方向)に並べられている。これにより、複数の第2素線120は、絶縁電線10の軸方向から見て、第1素線110の外周を囲むように、円環状に構成されている。また、複数の第2素線120のそれぞれの内周面122および外周面124は、絶縁電線10の軸方向から見て、第1素線110の中心軸を中心とする同心円を構成している。第2素線120の内周面122は、第1素線110の外周面に対して面接触し、一方で、第2素線120の外周面124は、後述の第3素線130の内周面132に対して面接触している。
【0049】
また、本実施形態では、第3素線130も、第2素線120と同様に、例えば、略扇形に異形圧縮され、内周面132と、外周面134と、側面136と、を有している。複数の第3素線130は、互いに側面136で接して第1素線110の周方向(絶縁電線10の周方向)に並べられている。これにより、複数の第3素線130は、絶縁電線10の軸方向から見て、第1素線110の外周を囲むように、円環状に構成されている。第3素線130の内周面132は、第2素線120の外周面124に対して面接触している。これにより、第2素線120と第3素線130とが交差する箇所において、ニッキングの発生を抑制することができる。
【0050】
本実施形態では、第2素線120と第3素線130とが交差する箇所において、ニッキングの発生が抑制されていることで、絶縁電線10の単位長さ当たりの第2素線120および第3素線130のニッキング数(以下、「ニッキング率」ともいう)は、例えば、絶縁電線10の単位長さ当たりの第2素線120と第3素線130との交差箇所数(以下、「素線交差率」ともいう)に対して、20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは0%となっている。
【0051】
なお、ここでいう「ニッキング」とは、目視で分かる程度の塑性変形部のことを意味し、例えば、素線100の外周面が素線100の軸方向に0.01mm以上に亘って凹み、該素線100の外周面が素線100の径方向に他の部分よりも最大で0.01mm以上に凹んだ部分のことをいう。
【0052】
また、第2素線120と第3素線130との所定の交差箇所において、第2素線120および第3素線130のうちのいずれか一方にニッキングが生じていた場合は、ニッキングが1箇所であると計測し、第2素線120および第3素線130のうちの両方にニッキングが生じていた場合は、ニッキングが2箇所であると計測する。
【0053】
上述のニッキング率が素線交差率に対して20%超であると、第3素線130でクラックが生じたときに、導体200全体に亘ってクラックが早期に伝播し易くなる。これに対し、本実施形態では、上述のニッキング率を素線交差率に対して20%以下とすることで、第3素線130でクラックが生じたとしても、導体200全体に亘ってクラックが伝播することを抑制することができる。また、上述のニッキング率を素線交差率に対して10%以下とすることで、導体200全体に亘ってクラックが伝播することを安定的に抑制することができる。さらに、上述のニッキング率を素線交差率に対して0%とする、すなわち、ニッキングを無くすことで、導体200全体に亘ってクラックが伝播することを確実に抑制することができる。
【0054】
また、絶縁電線10の単位長さ当たりの第2素線120と第3素線130との交差箇所数は、例えば、第2素線120の本数、第2素線120の撚りピッチ、第3素線130の本数、および第3素線130の撚りピッチに依存する。
【0055】
ここで、第2素線120の撚りピッチが第3素線130の撚りピッチよりも長いほど、絶縁電線10の単位長さ当たりの第2素線120と第3素線130との交差箇所数が減少する。しかしながら、第2素線120が硬くなり、曲げにくくなる。このため、絶縁電線10をドラムに巻き付けるなどして屈曲させた場合に、曲げ難い第2素線120に対して第3素線130が当接する応力が大きくなる。その結果、第2素線120および第3素線130のうちのいずれか一方にニッキングが生じてしまう可能性がある。
【0056】
これに対し、本実施形態では、第3素線130の撚りピッチは、例えば、第2素線120の撚りピッチよりも長い。これにより、第2素線120が硬くなることを抑制し、第2素線120を曲げ易くすることができる。例えば、絶縁電線10をドラムに巻き付けるなどして屈曲させた場合に、第2素線120に対して第3素線130が当接する応力の増大を抑制することができる。その結果、第2素線120および第3素線130のうちのいずれか一方におけるニッキングの発生を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、第2素線120の撚りピッチに対する、第3素線130の撚りピッチの比率(以下、「第3素線130の撚りピッチ比率」ともいう)は、例えば、1超3以下である。第3素線130の撚りピッチ比率を1超とする(すなわち第3素線130の撚りピッチ>第2素線120の撚りピッチとする)ことで、上述のように、第2素線120を曲げ易くし、ニッキングの発生を抑制することができる。一方で、第3素線130の撚りピッチ比率が3超であると、第2素線層220の目付(単位面積当たりの重量)が相対的に大きくなる。このため、第2素線層220における第2素線120の重量の増大に起因して、第2素線120が重力によって第3素線130に対して当接する応力が大きくなる。その結果、第2素線120および第3素線130のうちのいずれか一方にニッキングが生じてしまう可能性がある。これに対し、本実施形態では、第3素線130の撚りピッチ比率を3以下とすることで、第2素線層220の目付の相対的増加を抑制することができる。これにより、第2素線120が重力によって第3素線130に対して当接する応力の増大を抑制することができる。その結果、第2素線120および第3素線130のうちのいずれか一方におけるニッキングの発生を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、各第3素線130の軸方向に直交する断面積は、例えば、各第2素線120の軸方向に直交する断面積とほぼ等しくなっている。具体的には、各第2素線120の軸方向に直交する断面積に対する、各第3素線130の軸方向に直交する断面積の比率(以下、「第3素線130の断面積比率」ともいう)は、例えば、0.9以上1.1以下、好ましくは0.95以上1.05以下である。第3素線130の断面積比率が0.9未満であったり、1.1超であったりすると、第2素線120の異形圧縮に用いる円形素線(荒引線)と同一の円形素線を用いて、第3素線130を異形圧縮することが困難となる。これに対し、本実施形態では、第3素線130の断面積比率を0.9以上1.1以下とすることで、第2素線120の異形圧縮に用いる円形素線と同一の円形素線を用いて、第3素線130を異形圧縮することができる。さらに、第3素線130の断面積比率を0.95以上1.05以下とすることで、第2素線120の異形圧縮に用いる円形素線と同一の円形素線を用いて、過剰な圧力をかけずに、第3素線130を安定的に異形圧縮することができる。
【0059】
(3)絶縁電線の製造方法
次に、図2を用い、本実施形態に係る絶縁電線10の製造方法について説明する。図2は、本実施形態に係る絶縁電線の製造方法を示す概略図である。
【0060】
(ステップ1:素線準備工程)
まず、AC線からなる第1素線110を準備する。また、第2素線120および第3素線130の形成に用いられるアルミ合金線からなる円形素線を準備する。
【0061】
(ステップ2:導体形成工程)
次に、図2に示す撚線機40を用い、導体200を形成する。
【0062】
本実施形態の撚線機40は、例えば、第1ボビン(不図示)と、第2ボビン412と、ケージ432と、成形ダイス442と、絞りダイス452と、第3ボビン413と、ケージ433と、成形ダイス443と、絞りダイス453と、を有している。
【0063】
第1ボビンは、例えば、第1素線110を巻回して保持している。第2ボビン412は、例えば、第2素線120の形成に用いられる円形素線を巻回して保持している。ケージ432は、例えば、ボビンサポート422により複数の第2ボビン412を保持している。第2ボビン412は、第1ボビンから送り出される第1素線110を中心軸として、複数の円形素線が周方向に等間隔で送り出されるようにケージ432内に配置されている。
また、ケージ432は、第1素線110を中心軸として複数の第2ボビン412を周方向に回転可能に保持している。成形ダイス442は、例えば、円形素線を圧縮することで第2素線120に成形するよう構成されている。絞りダイス452は、例えば、第1素線110および複数の第2素線120を断面が円形となるように絞る(束ねる)よう構成されている。
【0064】
第3ボビン413は、例えば、第3素線130の形成に用いられる円形素線を巻回して保持している。ケージ433は、例えば、第3ボビン413の個数および配置と、回転方向がケージ432と反対の方向である点と、を除いて、ケージ432と同様に構成されている。成形ダイス443は、例えば、円形素線を圧縮することで第3素線130に成形するよう構成されている。絞りダイス453は、例えば、第1素線110、複数の第2素線120および複数の第3素線130を断面が円形となるように絞る(束ねる)よう構成されている。
【0065】
なお、本実施形態では、第3ボビン413が保持する円形素線は、例えば、第2ボビン412が保持する円形素線と同様に構成されている。
【0066】
本実施形態では、例えば、上述の撚線機40を用いて、以下のように導体200を形成する。
【0067】
まず、第1ボビンから第1素線110を送り出す。
【0068】
第1素線110を送り出したら、第1素線110を中心に配置し、該第1素線110を中心軸としてケージ432を周方向に回転させながら、第2ボビン412から円形素線を送り出す。円形素線を送り出したら、各円形素線を成形ダイス442により略扇形に異形圧縮する。これにより、内周面122、外周面124および側面126を有する第2素線120を形成する。次に、第2素線120を予め異形圧縮した状態で、第1素線110および複数の第2素線120を絞りダイス452により絞ることで、第1素線110の外側に複数の第2素線120を撚り合せる。
【0069】
第1素線110の外側に複数の第2素線120を撚り合わせたら、これらの素線群を中心に配置し、該素線群を中心軸としてケージ433を周方向に回転させながら、第3ボビン413から円形素線を送り出す。円形素線を送り出したら、各円形素線を成形ダイス443により略扇形に異形圧縮する。これにより、内周面132、外周面134および側面136を有する第3素線130を形成する。次に、第3素線130を予め異形圧縮した状態で、第1素線110、複数の第2素線120および複数の第3素線130を絞りダイス453により絞ることで、第2素線120の外側に複数の第3素線130を撚り合せる。
【0070】
以上により、本実施形態の導体200が形成される。導体200が形成されたら、該導体200をドラムに巻き取る。
【0071】
なお、第1素線110の外側に複数の第2素線120を撚り合せるとき、第2素線120の外側に複数の第3素線130を撚り合せるとき、および導体200を形成した後のうち少なくともいずれかのときに、素線100間に所定の水密材を充填してもよい。
【0072】
(ステップ3:絶縁層形成工程)
導体200が形成されたら、ドラムから導体200を送り出し、導体200を軸方向に沿って搬送しながら、ポリエチレンを含む絶縁層用樹脂組成物が投入された絶縁層押出機に通過させる。これにより、導体200の外周を覆うように絶縁層300を押出成型し、絶縁層300が未架橋な状態である絶縁電線中間体を形成する。
【0073】
(ステップ4:架橋工程)
絶縁電線中間体を形成したら、所定の架橋方法により、絶縁層300を架橋させる。
【0074】
以上により、本実施形態の絶縁電線10が製造される。
【0075】
(4)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0076】
(a)本実施形態では、第2素線120および第3素線130のそれぞれは、予め略扇形に異形圧縮された状態で撚り合わせられている。これにより、第3素線130の内周面132を、第2素線120の外周面124に対して面接触させることができる。つまり、第3素線130が第2素線120に接触する面積を大きくすることができる。第3素線130の接触面積を大きくすることで、第2素線120のうち第3素線130と交差する箇所において、ニッキングの発生を抑制することができる。その結果、絶縁電線10の単位長さ当たりの第2素線120および第3素線130のニッキング数を、絶縁電線10の単位長さ当たりの第2素線120と第3素線130との交差箇所数に対して、20%以下とすることができる。
【0077】
(b)本実施形態では、上述のニッキング率を素線交差率に対して20%以下とすることで、第3素線130でクラックが生じたとしても、導体200全体に亘ってクラックが早期に伝播することを抑制することができる。つまり、第3素線130でクラックが生じたとしても、導体200を構成するいずれかの素線100によって繋がった状態を維持することができる。これにより、絶縁電線10の導体200が断線するまでの寿命を長くすることができる。
【0078】
(c)本実施形態では、第2素線120および第3素線130のそれぞれが略扇形に異形圧縮されていることで、第2素線120同士を円環状にブリッジさせ、互いに側面126を介して支え合わせることができる。第3素線130同士についても、第2素線120同士と同様の効果を得ることができる。これにより、絶縁電線10が屈曲したとしても、導体200の形状を安定的に維持することができる。
【0079】
(d)本実施形態では、第3素線130の断面積比率を0.9以上1.1以下とすることで、第2素線120の異形圧縮に用いる円形素線と同一の円形素線を用いて、第3素線130を異形圧縮することができる。つまり、わざわざ直径が異なる円形素線を準備することを不要とすることができる。その結果、絶縁電線10の製造コストを低減することができる。
【0080】
(5)本実施形態の変形例
上述の実施形態は、必要に応じて、以下に示す変形例のように変更することができる。
以下、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明し、上述の実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0081】
(5-1)変形例1
図3を用い、本実施形態の変形例1に係る絶縁電線10について説明する。図3は、本実施形態の変形例1に係る絶縁電線の軸方向と直交する断面図である。
【0082】
変形例1の絶縁電線10では、第3素線130に係る態様が、上述の実施形態と異なっている。
【0083】
本変形例では、各第3素線130の軸方向に直交する断面積は、例えば、各第2素線120の軸方向に直交する断面積よりも大きい。このため、本変形例での第3素線130の本数は、上述の実施形態での第3素線130の本数よりも少なく、例えば、9本である。
これにより、絶縁電線10が屈曲したときに、第3素線130の1本当たりが分担する応力を、第2素線120の1本当たりが分担する応力よりも大きくすることができる。その結果、第3素線130において、確実に第2素線120よりも先にクラックを生じさせることができる。
【0084】
具体的には、各第2素線120の軸方向に直交する断面積に対する、各第3素線130の軸方向に直交する断面積の比率は、例えば、1.1超、好ましくは1.5以上である。
第3素線130の断面積比率が1.1以下であると、第3素線130の1本当たりが分担する応力が、第2素線120の1本当たりが分担する応力以下となる可能性がある。これに対し、本実施形態では、第3素線130の断面積比率を1.1超とすることで、第3素線130と第2素線120との間で分担応力の差を充分に生じさせることができる。第3素線130の断面積比率を1.5以上とすることで、第3素線130と第2素線120との間で分担応力の差を大きくすることができる。
【0085】
なお、本変形例における第3素線130の断面積比率の上限値は特に限定されるものではないが、第3素線130の撚線を容易に行う観点では、第3素線130の断面積比率は3以下であることが好ましい。
【0086】
(効果)
変形例1では、上述のように、各第3素線130の軸方向に直交する断面積を、各第2素線120の軸方向に直交する断面積よりも大きくすることで、絶縁電線10が屈曲したときに、第3素線130の1本当たりが分担する応力を、第2素線120の1本当たりが分担する応力よりも大きくすることができる。このような分担応力の差を生じさせることで、第3素線130において、確実に第2素線120よりも先にクラックを生じさせることができる。絶縁電線10の外側に配置される第3素線130において先にクラックを生じさせることで、導体200にクラックが生じたことを早期かつ容易に発見することができる。その結果、絶縁電線10が断線に至る前に、絶縁電線10の断線のおそれを確実に把握することが可能となる。
【0087】
(5-2)変形例2
図4を用い、本実施形態の変形例2に係る絶縁電線10について説明する。図4は、本実施形態の変形例2に係る絶縁電線の軸方向と直交する断面図である。
【0088】
変形例2の絶縁電線10では、第3素線130と第2素線120との大小関係が変形例1と反対となっている。
【0089】
本変形例では、各第3素線130の軸方向に直交する断面積は、例えば、各第2素線120の軸方向に直交する断面積よりも小さい。このため、本変形例での第3素線130の本数は、上述の実施形態での第3素線130の本数よりも多く、例えば、15本である。
これにより、絶縁電線10が屈曲したときに、第3素線130の1本当たりが分担する応力を、第2素線120の1本当たりが分担する応力よりも小さくすることができる。その結果、第3素線130において、第2素線120よりもクラックを生じ難くすることができる。
【0090】
具体的には、各第2素線120の軸方向に直交する断面積に対する、各第3素線130の軸方向に直交する断面積の比率は、例えば、0.9未満、好ましくは0.67以下である。第3素線130の断面積比率が0.9以上であると、第3素線130の1本当たりが分担する応力が、第2素線120の1本当たりが分担する応力以上となる可能性がある。
これに対し、本実施形態では、第3素線130の断面積比率を0.9未満とすることで、第3素線130と第2素線120との間で分担応力の差を充分に生じさせることができる。第3素線130の断面積比率を0.67以下とすることで、第3素線130と第2素線120との間で分担応力の差を大きくすることができる。
【0091】
なお、本変形例における第3素線130の断面積比率の下限値は特に限定されるものではないが、第3素線130の撚線を容易に行う観点では、第3素線130の断面積比率は0.33以上であることが好ましい。
【0092】
(効果)
変形例1では、上述のように、各第3素線130の軸方向に直交する断面積を、各第2素線120の軸方向に直交する断面積よりも小さくすることで、絶縁電線10が屈曲したときに、第3素線130の1本当たりが分担する応力を、第2素線120の1本当たりが分担する応力よりも小さくすることができる。このような分担応力の差を生じさせることで、第3素線130において、第2素線120よりもクラックを生じ難くすることができる。絶縁電線10の外側に配置される第3素線130において大きな曲げ応力が印加される傾向にあるため、該第3素線130にクラックを生じ難くすることで、導体200を断線し難くすることができる。その結果、絶縁電線10の導体200が断線するまでの寿命を安定的に長くすることができる。
【0093】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態および変形例について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態および変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0094】
上述の実施形態では、導体200が第1素線層210、第2素線層220および第3素線層230により構成される場合について説明したが、導体200は、3層より多い素線層を有していてもよい。すなわち、導体200は、第3素線層の外側に、第4素線層、第5素線層等を有していてもよい。この場合、以下のように絶縁電線10を構成すればよい。
【0095】
例えば、中心素線よりも外側で中心素線の径方向に互いに隣接する2つの素線層は、内側の素線層で撚り合わされて設けられる複数の内層素線と、外側の素線層で、複数の内層素線と異なる方向に撚り合わされて設けられる複数の外層素線と、を有する。内層素線および外層素線は、上述の実施形態の第2素線および第3素線と同様に、略扇形に異形圧縮される。これにより、絶縁電線の単位長さ当たりの複数の内層素線および複数の外層素線のニッキング数を、絶縁電線の単位長さ当たりの複数の内層素線と複数の外層素線との交差箇所数に対して20%以下とすることができる。その結果、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0096】
上述の変形例1および2では、第2素線120の本数を固定し、第3素線130の本数を変更する場合について説明したが、第3素線130の本数を固定し、第2素線120の本数を変更してもよい。この場合においても、各第2素線120の軸方向に直交する断面積に対して、各第3素線130の軸方向に直交する断面積を異ならせることができる。
【0097】
上述の変形例1では、各第3素線130の軸方向に直交する断面積を、各第2素線120の軸方向に直交する断面積よりも大きくすることで、第3素線130が、第2素線120よりも先にクラックが生じるよう構成される場合について説明したが、この場合に限られない。例えば、各第2素線120の軸方向に直交する断面積に対する、各第3素線130の軸方向に直交する断面積の比率を0.9以上1.1以下とした場合であっても、第3素線130の硬さを、第2素線120の硬さよりも小さく(柔らかく)してもよい。これにより、第3素線130において、第2素線120よりも先にクラックを生じさせることができる。
【0098】
<本開示の好ましい態様>
以下に、本開示の好ましい態様について付記する。
【0099】
(付記1)
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を有する絶縁電線であって、
前記導体は、
該導体の中心に配置される第1素線と、
前記第1素線の外側に撚り合わされて設けられる複数の第2素線と、
前記複数の第2素線の外側に前記複数の第2素線と異なる方向に撚り合わされて設けられる複数の第3素線と、
を有し、
前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のそれぞれは、前記第1素線側に凹に湾曲した内周面と、前記第1素線の径方向に前記内周面と反対側に凸に湾曲した外周面と、を有し、
前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のニッキング数は、前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線と前記複数の第3素線との交差箇所数に対して20%以下である
絶縁電線。
【0100】
(付記2)
前記複数の第2素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積に対する、前記複数の第3素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積の比率は、0.9以上1.1以下である
付記1に記載の絶縁電線。
【0101】
(付記3)
前記複数の第3素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積は、前記複数の第2素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積よりも大きい
付記1に記載の絶縁電線。
【0102】
(付記4)
前記複数の第3素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積は、前記複数の第2素線のそれぞれの軸方向に直交する断面積よりも小さい
付記1に記載の絶縁電線。
【0103】
(付記5)
前記複数の第3素線のそれぞれは、前記複数の第2素線のそれぞれよりも先にクラックが生じるよう構成される
付記1に記載の絶縁電線。
【0104】
(付記6)
前記複数の第3素線の撚りピッチは、前記複数の第2素線の撚りピッチよりも長い
付記1から付記5のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【0105】
(付記7)
前記複数の第2素線の撚りピッチに対する前記複数の第3素線の撚りピッチの比率は、1超3以下である
付記6に記載の絶縁電線。
【0106】
(付記8)
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を有する絶縁電線であって、
前記導体は、
該導体の中心に配置される中心素線と、
前記中心素線よりも外側で該中心素線の径方向に積層される複数の素線層と、
を有し、
前記複数の素線層のうち、前記中心素線よりも外側で前記中心素線の径方向に互いに隣接する2つの素線層は、
内側の素線層で撚り合わされて設けられる複数の内層素線と、
外側の素線層で、前記複数の内層素線と異なる方向に撚り合わされて設けられる複数の外層素線と、
を有し、
前記複数の内層素線および前記複数の外層素線のそれぞれは、前記中心素線側に凹に湾曲した内周面と、前記中心素線の径方向に前記内周面と反対側に凸に湾曲した外周面と、を有し、
前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の内層素線および前記複数の外層素線のニッキング数は、前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の内層素線と前記複数の外層素線との交差箇所数に対して20%以下である
絶縁電線。
【0107】
(付記9)
導体を形成する工程と、
前記導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
を有する絶縁電線の製造方法であって、
前記導体を形成する工程は、
第1素線を中心に配置しながら、該第1素線の外側に複数の第2素線を撚り合せる工程と、
前記複数の第2素線の外側に、前記複数の第2素線と異なる方向に複数の第3素線を撚り合せる工程と、
を有し、
前記複数の第2素線を撚り合せる工程および前記複数の第3素線を撚り合せる工程では、
前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のそれぞれの素線に、前記第1素線側に凹に湾曲した内周面と、前記第1素線の径方向に前記内周面と反対側に凸に湾曲した外周面と、が形成されるよう、該素線を予め異形圧縮した状態で、前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のそれぞれを撚り合わせ、
前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線および前記複数の第3素線のニッキング数を、前記絶縁電線の単位長さ当たりの前記複数の第2素線と前記複数の第3素線との交差箇所数に対して20%以下とする
絶縁電線の製造方法。
【符号の説明】
【0108】
10 絶縁電線
40 撚線機
100 素線
110 第1素線
120 第2素線
122 内周面
124 外周面
126 側面
130 第3素線
132 内周面
134 外周面
136 側面
200 導体
210 第1素線層
220 第2素線層
230 第3素線層
300 絶縁層
412 第2ボビン
413 第3ボビン
422 ボビンサポート
432 ケージ
433 ケージ
442 成形ダイス
443 成形ダイス
452 絞りダイス
453 絞りダイス
図1
図2
図3
図4