(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175056
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】医療デバイスおよびシャント形成方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/14 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
A61B18/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163591
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】深見 一成
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160KK04
4C160KK12
4C160KK32
4C160KK36
4C160KK38
4C160KK63
4C160MM33
(57)【要約】
【課題】血栓が形成されることを抑制できるとともに、効果的に焼灼することができる医療デバイスおよびシャント形成方法を提供する。
【解決手段】医療デバイス10は、拡張体21と、拡張体21の基端が固定されたシャフト部20と、拡張体21の周方向に間隔を開けて設けられる複数の電極群22と、複数の電極群22へ電流を供給する電流供給部101と、を備え、拡張体21は、径方向内側に窪む凹部51を有し、凹部51は、底部51aと、底部51aの基端から径方向外側に延びる基端側起立部52と、底部51aの先端から径方向外側に延びる先端側起立部53と、有し、複数の電極群22は、それぞれ、基端側起立部52に配置される基端側電極61と、先端側起立部53に配置される先端側電極62と、を有し、電流供給部101は、基端側電極61および先端側電極62に、独立して電流を供給可能である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に拡縮可能な拡張体と、
前記拡張体の基端が固定された基端固定部を含む先端部を有する長尺なシャフト部と、
前記拡張体に沿うとともに、前記拡張体の周方向に間隔を開けて設けられる複数の電極群と、
前記複数の電極群へ電流を供給する電流供給部と、を備え、
前記拡張体は、径方向内側に窪み、前記拡張体の拡張時に生体組織を受容可能な受容空間を画成する凹部を有し、
前記凹部は、径方向の最も内側に位置する底部と、底部の基端から径方向外側に延びる基端側起立部と、底部の先端から径方向外側に延びる先端側起立部と、有し、
前記複数の電極群は、それぞれ、前記受容空間に面するように、前記基端側起立部に配置される基端側電極と、前記受容空間に面するように、前記拡張体の前記周方向において前記基端側電極と略同一の位置かつ前記先端側起立部に配置される先端側電極と、を有し、
前記電流供給部は、前記基端側電極および前記先端側電極に、独立して電流を供給可能である医療デバイス。
【請求項2】
前記基端側電極または前記先端側電極の少なくとも一方は、前記電流供給部から独立して電流を供給されるように構成された少なくとも2つの単電極を有する請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記電極が前記接触対象に接触しているか否かを判断する判断部を有する請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記判断部は、前記電極により検出されるインピーダンスにより当該電極が前記接触対象に接触しているか否かを判断する請求項3に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記拡張体は、前記凹部が前記拡張体の前記周方向において等間隔に少なくとも3つ配置される複数の凹部を有するように、前記凹部を画成する複数の線材部を有し、
前記複数の凹部は、それぞれ前記底部、前記基端側起立部、および前記先端側起立部を有し、
前記複数の電極群は、前記複数の凹部のそれぞれに1つずつ配置される請求項1~4のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項6】
径方向内側に窪んだ凹部を含む径方向に拡縮可能な拡張体と、前記拡張体の基端が固定された基端固定部を含む先端部を有する長尺なシャフト部と、前記拡張体に沿うとともに、前記拡張体の周方向に間隔を開けて設けられる複数の電極群と、前記複数の電極群へ電流を供給する電流供給部と、を備えた医療デバイスを用いて心房中隔にシャントを形成する方法であって、
前記拡張体は、径方向内側に窪み、前記拡張体の拡張時に生体組織を受容可能な受容空間を画成する凹部を有し、
前記複数の電極群が、それぞれ、前記受容空間に面するように、前記凹部の径方向の最も内側に位置する底部の基端から径方向外側に延びる基端側起立部に配置される基端側電極と、前記受容空間に面するように、前記拡張体の前記周方向において前記基端側電極と略同一の位置かつ前記底部の先端から径方向外側に延びる先端側起立部に配置される先端側電極と、を有し、
心房中隔に形成された穿刺孔内に前記凹部を配置して、前記受容空間に前記穿刺孔を取り囲む生体組織を受容し、
前記複数の電極群のそれぞれにおいて、前記基端側電極または前記先端側電極の少なくとも一方を、心房中隔の生体組織に接触させるとともに、心房中隔の生体組織に接触させた電極に対して前記電流供給部から電流を供給して前記生体組織を焼灼し、
当該焼灼の際に、前記生体組織に接触していない電極へは、電流を供給しない方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織にエネルギーを付与する医療デバイスおよびシャント形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓疾患の一つとして、慢性心不全が知られている。慢性心不全は、心機能の指標に基づいて収縮不全と拡張不全に大別される。拡張不全に罹患した患者は、心筋が肥大化してスティッフネス(硬さ)が増すことで、左心房の血圧が高まり、心臓のポンプ機能が低下する。これにより、患者は、肺水腫などの心不全症状を呈することとなる。また、肺高血圧症等により右心房側の血圧が高まり、心臓のポンプ機能が低下することで心不全症状を呈するような心臓疾患もある。
【0003】
近年、これらの心不全患者に対し、上昇した心房圧の逃げ道となるシャント(穿刺孔)を心房中隔に形成し、心不全症状の緩和を可能にするシャント治療が注目されている。シャント治療は、経静脈アプローチで心房中隔にアクセスし、所望のサイズの穿刺孔を形成する。このような心房中隔に対するシャント治療を行うための医療デバイスとして、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の医療デバイスは、拡張体の凹部に複数の電極が固定されている。凹部内での電極の位置は、拡張体の軸方向において同じ位置である。この場合、拡張体を治療対象組織に対して接触させた際に、凹部と治療対象組織との角度が大きく異なると、電極部が治療対象組織に対して十分に当接しない可能性がある。電極部が治療対象組織に十分に当接していないと、生体組織に対して十分なエネルギー付与ができないことで、治療効果が低下する可能性がある。また、電極部が血液に露出した状態でエネルギーが付与されると、血栓が形成されるリスクが生じる。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、血栓が形成されることを抑制できるとともに、効果的に焼灼することができる医療デバイスおよびシャント形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明に係る医療デバイスは、径方向に拡縮可能な拡張体と、前記拡張体の基端が固定された基端固定部を含む先端部を有する長尺なシャフト部と、前記拡張体に沿うとともに、前記拡張体の周方向に間隔を開けて設けられる複数の電極群と、前記複数の電極群へ電流を供給する電流供給部と、を備え、前記拡張体は、径方向内側に窪み、前記拡張体の拡張時に生体組織を受容可能な受容空間を画成する凹部を有し、前記凹部は、径方向の最も内側に位置する底部と、底部の基端から径方向外側に延びる基端側起立部と、底部の先端から径方向外側に延びる先端側起立部と、有し、前記複数の電極群は、それぞれ、前記受容空間に面するように、前記基端側起立部に配置される基端側電極と、前記受容空間に面するように、前記拡張体の前記周方向において前記基端側電極と略同一の位置かつ前記先端側起立部に配置される先端側電極と、を有し、前記電流供給部は、前記基端側電極および前記先端側電極に、独立して電流を供給可能である。
【0008】
上記目的を達成する本発明に係るシャント形成方法は、径方向内側に窪んだ凹部を含む径方向に拡縮可能な拡張体と、前記拡張体の基端が固定された基端固定部を含む先端部を有する長尺なシャフト部と、前記拡張体に沿うとともに、前記拡張体の周方向に間隔を開けて設けられる複数の電極群と、前記複数の電極群へ電流を供給する電流供給部と、を備えた医療デバイスを用いて心房中隔にシャントを形成する方法であって、前記拡張体は、径方向内側に窪み、前記拡張体の拡張時に生体組織を受容可能な受容空間を画成する凹部を有し、前記複数の電極群が、それぞれ、前記受容空間に面するように、前記凹部の径方向の最も内側に位置する底部の基端から径方向外側に延びる基端側起立部に配置される基端側電極と、前記受容空間に面するように、前記拡張体の前記周方向において前記基端側電極と略同一の位置かつ前記底部の先端から径方向外側に延びる先端側起立部に配置される基端側電極と、を有し、心房中隔に形成された穿刺孔内に前記凹部を配置して、前記受容空間に前記穿刺孔を取り囲む生体組織を受容し、前記複数の電極群のそれぞれにおいて、前記基端側電極または前記先端側電極の少なくとも一方を、心房中隔の生体組織に接触させるとともに、心房中隔の生体組織に接触させた電極に対して前記電流供給部から電流を供給して前記生体組織を焼灼し、当該焼灼の際に、前記生体組織に接触していない電極へは、電流を供給しない。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した医療デバイスは、各電極群の生体組織に接触してない電極へは電流を供給せずに、生体組織に接触する電極のみへ電流を供給するため、血栓が形成されることを抑制できるとともに、効果的に焼灼することができる。
【0010】
前記基端側電極または前記先端側電極の少なくとも一方は、前記電流供給部から独立して電流を供給されるように構成された少なくとも2つの単電極を有してもよい。これにより、生体組織に接触する基端側電極および/または先端側電極の表面積を増加させやすくなり、焼灼して形成するシャントの形状を効果的に維持できる。また、生体組織に接触しない電極へ電流を供給しないことで、血栓が形成されることを効果的に抑制できる。
【0011】
前記医療デバイスは、前記電極が前記接触対象に接触しているか否かを判断する判断部を有してもよい。これにより、電流を供給する電極と供給しない電極を自動的に決定できるため、操作性が向上する。
【0012】
前記判断部は、前記電極により検出されるインピーダンスにより当該電極が前記接触対象に接触しているか否かを判断してもよい。これにより、電極が前記接触対象に接触しているか否かを容易に判断できるため、操作性が向上する。
【0013】
前記拡張体は、前記凹部が前記拡張体の前記周方向において等間隔に少なくとも3つ配置される複数の凹部を有するように、前記凹部を画成する複数の線材部を有し、前記複数の凹部は、それぞれ前記底部、前記基端側起立部、および前記先端側起立部を有し、前記複数の電極群は、前記複数の凹部のそれぞれに1つずつ配置されてもよい。これにより、拡張体の周方向において等間隔に凹部が配置されるので、生体に形成された穿刺孔の周囲の組織を焼灼する際に、正多角形に近い形状とすることができ、術者が狙ったサイズのシャントを形成することができる。
【0014】
上記のように構成したシャント形成方法は、各電極群の生体組織に接触してない電極へは電流を供給せずに、生体組織に接触する電極のみで電流を供給するため、血栓が形成されることを抑制できるとともに、効果的に焼灼することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る医療デバイスの全体構成を表した正面図である。
【
図4】拡張体を心房中隔に配置した状態を、医療デバイスは正面図で、生体組織は断面図で、それぞれ模式的に示す説明図である。
【
図5】収納シースに収められた拡張体を表した図である。
【
図6】拡張体を右心房に配置した状態を、医療デバイスは正面図で、生体組織は断面図で、それぞれ模式的に示す説明図である。
【
図7】
図6の状態から心房中隔で拡張体を拡径させた状態を示す説明図である。
【
図8】拡張体を心房中隔に配置した状態を、医療デバイスは正面図で、生体組織は断面図で、それぞれ模式的に示す説明図である。
【
図9】シャント形成方法を説明するためのフローチャートである。
【
図11】第1変形例の電極群付近の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書では、医療デバイス10の生体内腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0017】
以下の実施形態に係る医療デバイスは、患者の心臓Hの心房中隔HAに形成された穿刺孔Hhを拡張し、さらに拡張した穿刺孔Hhをその大きさに維持する維持処置を行うことができるように構成されている。
【0018】
図1~3に示すように、本実施形態の医療デバイス10は、長尺なシャフト部20と、シャフト部20の先端部に設けられる拡張体21と、維持処置を行うためのエネルギー伝達要素である複数の電極群22と、シャフト部20の基端部に設けられる手元操作部23と、エネルギー供給装置100とを有している。
【0019】
シャフト部20は、拡張体21の基端が固定される基端固定部31と、拡張体21の先端が固定される先端固定部33とを含む先端部30を有している。シャフト部20の先端部30は、基端固定部31から拡張体21内を延びるシャフト延長部32を有している。シャフト部20は、最外周部に設けられる収納シース25を有している。拡張体21は、収納シース25に対して軸方向に進退移動可能である。収納シース25は、シャフト部20の先端側に移動した状態で、その内部に拡張体21を収納することができる。拡張体21を収納した状態から、収納シース25を基端側に移動させることで、拡張体21を露出させることができる。
【0020】
シャフト部20は、牽引シャフト26を有している。牽引シャフト26は、シャフト部20の基端からシャフト延長部32に渡って設けられており、先端部が先端部材35に固定されている。
【0021】
牽引シャフト26の先端部が固定されている先端部材35は、拡張体21には固定されていなくてよい。これにより、先端部材35は、拡張体21を圧縮方向に牽引することが可能である。また、拡張体21を収納シース25に収納する際、先端部材35を拡張体21から先端側に離すことによって、拡張体21の延伸方向への移動が容易になり、収納性を向上させることができる。
【0022】
手元操作部23は、術者が把持する筐体40と、術者が回転操作可能な操作ダイヤル41と、操作ダイヤル41の回転に連動して動作する変換機構42とを有している。牽引シャフト26は、手元操作部23の内部において、変換機構42に保持されている。変換機構42は、操作ダイヤル41の回転に伴い、保持する牽引シャフト26を軸方向に沿って進退移動させることができる。変換機構42としては、例えばラックピニオン機構を用いることができる。
【0023】
拡張体21は、周方向に複数の線材部50を有している。本実施形態において線材部50は、周方向に4本が設けられている。線材部50は、それぞれ径方向に拡縮可能である。線材部50の基端部は、基端固定部31から先端側に延出している。線材部50の先端部は、先端固定部33の基端部から基端側に延出している。線材部50は、軸方向の両端部から中央部に向かって、径方向に大きくなるように傾斜している。また、線材部50は、軸方向中央部に、拡張体21の径方向内側に窪んだ凹部51を有する。凹部51の径方向において最も内側の部分は底部51aである。凹部51により、拡張体21の拡張時に生体組織を受容可能な受容空間51bが画成される。
【0024】
各々の凹部51は、底部51aの基端から径方向外側に延びる基端側起立部52と、底部51aの先端から径方向外側に延びる先端側起立部53とを有している。凹部51には、受容空間51bに面するように電極群22が配置される。先端側起立部53は、幅方向中央部がスリット状となっており、両側の外縁部55と中央部の背当て部56とを有している。
【0025】
拡張体21を形成する線材部50は、例えば、円筒から切り出した平板形状を有する。拡張体21を形成する線材は、厚み50~500μm、幅0.3~2.0mmとすることができる。ただし、この範囲外の寸法を有していてもよい。また、線材部50はその他にも円形の断面形状や、それ以外の断面形状を有していてもよい。
【0026】
線材部50に配置される各々の電極群22は、受容空間51bに面するように基端側起立部52に配置される基端側電極61と、受容空間51bに面するように先端側起立部53に配置される先端側電極62とを有している。基端側電極61および先端側電極62は、独立して電流を受けられるように構成されている。
【0027】
基端側電極61および先端側電極62は、例えば、エネルギー供給装置100から電気エネルギーを受けるバイポーラ電極で構成される。この場合、各線材部50に配置された電極群22間で通電がなされる。電極群22とエネルギー供給装置100とは、絶縁性被覆材で被覆された導線(図示しない)により接続される。導線は、シャフト部20及び手元操作部23を介して外部に導出され、エネルギー供給装置100に接続される。なお、エネルギー供給装置100は、手元操作部23に配置されてもよい。
【0028】
電極群22は、他にも、モノポーラ電極として構成されていてもよい。この場合、体外に用意される対極板との間で通電がなされる。また、電極群22に代えて、エネルギー供給装置100から高周波の電気エネルギーを受給して発熱する発熱素子(電極チップ)を用いてもよい。この場合、各線材部50に配置された発熱素子間で通電がなされる。さらに、電極群22は、マイクロ波エネルギー、超音波エネルギー、レーザー等のコヒーレント光、加熱した流体、冷却された流体、化学的な媒体により加熱や冷却作用を及ぼすもの、摩擦熱を生じさせるもの、電線等を備えるヒーター等のように、穿刺孔Hhに対してエネルギーを付与可能なエネルギー伝達要素により構成することができ、具体的な形態は特に限定されない。
【0029】
線材部50は、金属材料で形成することができる。この金属材料としては、例えば、チタン系(Ti-Ni、Ti-Pd、Ti-Nb-Sn等)の合金、銅系の合金、ステンレス鋼、βチタン鋼、Co-Cr合金を用いることができる。なお、ニッケルチタン合金等のバネ性を有する合金等を用いるとよりよい。ただし、線材部50の材料はこれらに限られず、その他の材料で形成してもよい。
【0030】
シャフト部20は、ある程度の可撓性を有する材料により形成されるのが好ましい。そのような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリイミド、PEEK、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が挙げられる。
【0031】
牽引シャフト26は、例えば、ニッケル-チタン合金、銅-亜鉛合金等の超弾性合金、ステンレス鋼等の金属材料、比較的剛性の高い樹脂材料などの長尺状の線材に、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などの樹脂材料を被覆したもので形成することができる。
【0032】
先端部材35は、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂等の高分子材料またはこれらの混合物、あるいは2種以上の高分子材料の多層チューブ等で形成することができる。
【0033】
収納シース25に納められた拡張体21は、
図5に示すように、径方向に収縮した状態となっている。拡張体21と収納シース25とが互いに軸方向に移動することで、拡張体21は収納シース25の外部に露出し、径方向に拡張する。
【0034】
図1に示すように、シャフト部20は、拡張体21より基端側の部分に、予め一方向に屈曲した屈曲部20aを有している。これにより、術者は、シャフト20の先端を、心房中隔HAの穿刺する部位へ容易に向けることができる。
【0035】
生体内に挿入された屈曲部20aの向きを術者が把握できるように、手元操作部23には表示手段が設けられる。手元操作部23には、表示手段として、向き表示部80が設けられる。向き表示部80には、屈曲部20aの屈曲方向を表すマークが表示されており、生体内に挿入されているシャフト部20の向きを認識することができる。
【0036】
手元操作部23には、医療デバイス10をプライミングするためのポート81を有している。ポート81が手元操作部23から延びる方向は、屈曲部20aが屈曲する方向と同じとなるようにされている。これによっても、術者が屈曲部20aの方向を認識できることから、ポート81を表示手段としてもよい。
【0037】
エネルギー供給装置100は、複数の電極群22へ電流を供給する電流供給部101と、電極が前記接触対象に接触しているか否かを判断する判断部102とを有している。判断部102は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、記憶回路および動作プログラム等により構成される。
【0038】
判断部102は、電流供給部101を制御して、電流供給部101からの高周波電流の出力を調節する。判断部102は、電流供給部101から高周波電流を任意の電圧で出力させることができる。
【0039】
判断部102は、電流供給部101から、出力した電圧の値を取得するとともに、電流供給部101の電流センサ(図示せず)で検出された電流の値を取得する。判断部102は、電圧の値を電流の値で除算することで、接触している部位の生体インピーダンスの値を算出することができる。
【0040】
電流供給部101は、各々の電極群22の基端側電極61および先端側電極62へ、独立して電流を供給可能である。本実施形態に係る医療デバイス10は、4つの基端側電極61および4つの先端側電極62を含む8つの電極を有するため、電流供給部101は、判断部102により制御されて、8つの電極へ独立して電流を供給できる。判断部102は、各々の電極へ供給する電圧の値を独立して調節することもできる。
【0041】
判断部102は、各々の電極により検出されるインピーダンスにより、電極が接触対象に接触しているか否かを判断する。判断部102は、例えば、インピーダンスが、予め設定された閾値以下または未満である場合に、電極が接触対象である心房中隔HAに接触せずに血液に露出していると判断できる。
【0042】
医療デバイス10を使用した処置方法について、
図9に示すフローチャートを参照しつつ説明する。本実施形態の処置方法は、心不全(左心不全)に罹患した患者に対して行われる。より具体的には、
図4に示すように、心臓Hの左心室の心筋が肥大化してスティッフネス(硬さ)が増すことで、左心房HLaの血圧が高まる慢性心不全に罹患した患者に対して行われる処置の方法である。
【0043】
本実施形態の処置方法は、心房中隔HAに穿刺孔Hhを形成するステップ(S1)と、穿刺孔Hhに拡張体21を配置するステップ(S2)と、受容空間51bに生体組織を受容するステップ(S3)と、拡張体21によって穿刺孔Hhの径を拡張させるステップ(S4)と、穿刺孔Hh付近における血行動態を確認するステップ(S5)と、穿刺孔Hhの大きさを維持するための維持処置を行うステップ(S6)と、維持処置が施された後の穿刺孔Hh付近における血行動態を確認するステップ(S7)と、を有している。
【0044】
術者は、穿刺孔Hhの形成に際し、ガイディングシース及びダイレータが組み合わされたイントロデューサを心房中隔HA付近まで送達する。イントロデューサは、例えば、下大静脈Ivを介して右心房HRaに送達することができる。また、イントロデューサの送達は、ガイドワイヤ11を使用して行うことができる。術者は、ダイレータにガイドワイヤ11を挿通し、ガイドワイヤ11に沿わせて、イントロデューサを送達させることができる。なお、生体に対するイントロデューサの挿入、ガイドワイヤ11の挿入等は、血管導入用のイントロデューサを用いるなど、公知の方法で行うことができる。
【0045】
S1のステップにおいて、術者は、右心房HRa側から左心房HLa側に向かって、穿刺デバイス(図示しない)を貫通させ、穿刺孔Hhを形成する。穿刺デバイスとしては、例えば、先端が尖ったワイヤ等のデバイスを使用することができる。穿刺デバイスは、ダイレータに挿通させて心房中隔HAまで送達する。穿刺デバイスは、ダイレータからガイドワイヤ11を抜去した後、ガイドワイヤ11に代えて心房中隔HAまで送達することができる。
【0046】
S2のステップにおいては、まず、
図4に示すように、予め挿入されたガイドワイヤ11に沿って、医療デバイス10を心房中隔HA付近に送達する。このとき、医療デバイス10の先端部は、
図5に示すように、心房中隔HAを貫通して、左心房HLaに達するようにする。また、医療デバイス10の挿入の際、拡張体21は、収納シース25に収納された状態となっている。
【0047】
次に、S3のステップにおいて、収納シース25を基端側に移動させることにより、拡張体21を露出させる。これにより、
図6に示すように、拡張体21は拡径し、凹部51は心房中隔HAの穿刺孔Hhに配置されて、受容空間51bに穿刺孔Hhを取り囲む生体組織を受容する。穿刺孔Hhは、拡張体21によって拡張された状態を維持される。
【0048】
医療デバイス10のシャフト部20は、術者が、屈曲部20aの向きを手元操作部23の表示手段によって確認しつつ適切に操作することにより、右心房HRa内において、先端側が心房中隔HAに向かうように配置される。
図6に示すように、拡張体21が穿刺孔Hhに配置された状態において、シャフト部20の中心軸方向は、貫通孔Hhの中心軸方向に対して傾斜している。
【0049】
S4のステップにおいて、術者は、凹部51によって心房中隔HAが把持された状態で手元操作部23を操作し、牽引シャフト26を基端側に移動させ、
図7に示すように拡張体21の凹部51で生体組織を挟む。シャフト部20の中心軸方向は、貫通孔Hhの中心軸方向に対して傾斜しているため、各々の電極群22において、先端側電極62または基端側電極61の一方が、生体組織に接触しない場合がある。なお、生体組織に接触しないとは、多少生体組織に接触するが、ほとんど接触しないことも含み得る。術者は、エネルギー供給装置100を操作して、各々の電極によりインピーダンスを検出する。判断部102は、インピーダンスを検出し、検出されたインピーダンスから、各々の電極が生体組織に接触しているか否かを判断する。
【0050】
穿刺孔Hhに拡張体21を配置したら、S5のステップにおいて血行動態の確認を行う。術者は、
図8に示すように、下大静脈Iv経由で右心房HRaに対し、血行動態確認用デバイス110を送達する。血行動態確認用デバイス110としては、例えば、公知のエコーカテーテルを使用することができる。術者は、血行動態確認用デバイス110で取得されたエコー画像を、ディスプレイ等の表示装置に表示させ、その表示結果に基づいて穿刺孔Hhを通る血液量を確認することができる。
【0051】
次に、S6のステップにおいて、術者は、穿刺孔Hhの大きさを維持するために維持処置を行う。維持処置では、電極群22を通じて穿刺孔Hhの縁部に高周波エネルギーを付与することにより、穿刺孔Hhの縁部を高周波エネルギーによって焼灼(加熱焼灼)する。
【0052】
術者は、エネルギー供給装置100を操作して、各々の電極による焼灼を開始させる。電流供給部101は、判断部102によって生体組織に接触していると判断された電極のみへ電流を供給し、生体組織に接触していないと判断された電極へは、電流を供給しない。したがって、各々の電極群22において、先端側電極62および基端側電極61の両方に電流が供給される場合と、先端側電極62または基端側電極61の一方のみに電流が供給される場合がある。なお、電極群22の先端側電極62および基端側電極61のどちらも生体組織に接触しない場合は、その電極群22は使用せずに他の電極群22によって焼灼することもあり得る。判断部102は、先端側電極62および基端側電極61の両方に電流を供給すると判断した場合には、先端側電極62および基端側電極61の各々へ供給する電流が、先端側電極62または基端側電極61の一方のみに電流を供給する場合の電流よりも小さくなるように、電流供給部101を制御してもよい。これにより、先端側電極62および基端側電極61の両方から電流が流される生体組織の過度な発熱を防止できる。
【0053】
電流を供給された電極に接触する生体組織は、温度が上昇して焼灼される。このとき、生体組織に接触せずに血液に露出している電極は、電流を供給されないため、血栓の発生を抑制できる。
【0054】
電極群22を通して穿刺孔Hhの縁部付近の生体組織が焼灼されると、縁部付近には生体組織が変性した変性部が形成される。変性部における生体組織は弾性を失った状態となるため、穿刺孔Hhは拡張体21により押し広げられた際の形状を維持できる。
【0055】
維持処置後には、
図8に示すように、S7のステップにおいて再度血行動態を確認し、穿刺孔Hhを通る血液量が所望の量となっている場合、術者は、拡張体21を縮径させ、収納シース25に収納した上で、穿刺孔Hhから抜去する。さらに、医療デバイス10全体を生体外に抜去し、処置を終了する。
【0056】
なお、S4のステップにおいて、術者は、拡張体21の凹部51で生体組織を挟まずに、
図6に示す状態で焼灼を行ってもよい。
【0057】
以上のように、本実施形態に係る医療デバイス10は、径方向に拡縮可能な拡張体21と、拡張体21の基端が固定された基端固定部31を含む先端部30を有する長尺なシャフト部20と、拡張体21に沿うとともに、拡張体21の周方向に間隔を開けて設けられる複数の電極群22と、複数の電極群22へ電流を供給する電流供給部101と、を備え、拡張体21は、径方向内側に窪み、拡張体21の拡張時に生体組織を受容可能な受容空間51bを画成する凹部51を有し、凹部51は、径方向の最も内側に位置する底部51aと、底部51aの基端から径方向外側に延びる基端側起立部52と、底部51aの先端から径方向外側に延びる先端側起立部53と、を有し、複数の電極群22は、それぞれ、受容空間51bに面するように、基端側起立部52に配置される基端側電極61と、受容空間51bに面するように、拡張体21の周方向において基端側電極61と略同一の位置かつ先端側起立部53に配置される先端側電極62と、を有し、電流供給部101は、基端側電極61および先端側電極62に、独立して電流を供給可能である。
【0058】
上記のように構成した医療デバイス10は、各電極群22の生体組織に接触してない電極へは電流を供給せずに、生体組織に接触する電極のみへ電流を供給するため、血液に接触する電極に電流が流れることで血栓が形成されることを抑制できるとともに、効果的に焼灼することができる。
【0059】
また、医療デバイス10は、電極が接触対象に接触しているか否かを判断する判断部102を有する。これにより、電流を供給する電極と供給しない電極を自動的に決定できるため、医療デバイス10の操作性が向上する。なお、術者は、X線撮影下で術者の目によって電極が接触対象に接触しているか否かを判断可能であってもよい。この場合、医療デバイス10は、判断部102を有さなくてもよい。
【0060】
また、判断部102は、電極により検出されるインピーダンスにより当該電極が接触対象に接触しているか否かを判断する。これにより、電極が接触対象に接触しているか否かを容易に判断できるため、医療デバイス10の操作性が向上する。
【0061】
また、拡張体21は、凹部51が拡張体21の周方向において等間隔に少なくとも3つ配置される複数の凹部51を有するように、凹部51を画成する複数の線材部50を有し、複数の凹部51は、それぞれ底部51a、基端側起立部52、および先端側起立部53を有し、複数の電極群22は、複数の凹部51のそれぞれに1つずつ配置されてもよい。これにより、拡張体21の周方向において等間隔に凹部51が配置されるので、生体に形成された穿刺孔Hhの周囲の組織を焼灼する際に、正多角形に近い形状とすることができ、術者が狙ったサイズのシャントを形成することができる。
【0062】
また、本実施形態におけるシャント形成方法は、径方向内側に窪んだ凹部51を含む径方向に拡縮可能な拡張体21と、拡張体21の基端が固定された基端固定部31を含む先端部30を有する長尺なシャフト部20と、拡張体21に沿うとともに、拡張体21の周方向に間隔を開けて設けられる複数の電極群22と、複数の電極群22へ電流を供給する電流供給部101と、を備えた医療デバイス10を用いて心房中隔HAにシャントを形成する方法であって、拡張体21は、径方向内側に窪み、拡張体21の拡張時に生体組織を受容可能な受容空間51bを画成する凹部51を有し、複数の電極群22が、それぞれ、受容空間51bに面するように、凹部51の径方向の最も内側に位置する底部51aの基端から径方向外側に延びる基端側起立部52に配置される基端側電極61と、受容空間51bに面するように、拡張体21の周方向において基端側電極61と略同一の位置かつ底部51aの先端から径方向外側に延びる先端側起立部53に配置される先端側電極62と、を有し、心房中隔HAに形成された穿刺孔Hh内に凹部51を配置して、受容空間51bに穿刺孔Hhを取り囲む生体組織を受容し、複数の電極群22のそれぞれにおいて、基端側電極61または先端側電極62の少なくとも一方を、心房中隔HAの生体組織に接触させるとともに、心房中隔HAの生体組織に接触させた電極に対して電流供給部101から電流を供給して生体組織を焼灼し、当該焼灼の際に、生体組織に接触していない電極へは、電流を供給しない。このように構成したシャント形成方法は、各電極群22の生体組織に接触してない電極へは電流を供給せずに、生体組織に接触する電極のみへ電流を供給するため、血栓が形成されることを抑制できるとともに、効果的に焼灼することができる。
【0063】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。上述の実施形態では、線材部50は周方向に4本設けられ、電極群22も4つが設けられるが、凹部51を有する線材部50および電極群22は、3つまたは5つ以上設けられていてもよい。この場合に、線材部50は、拡張体21の周方向において等間隔に配置されることが好ましい。また、線材部50は、2つの外縁部55の間に片持ち梁状の背当て部56を有する構造であるが、線材部50の構造は特に限定されず、外縁部55および背当て部56を有さない構造であってもよい。
【0064】
また、
図10および11に示す第1変形例のように、電極群22の基端側電極61および先端側電極62の各々は、独立して電流を供給されることが可能な複数の単電極63を有してもよい。判断部102は、各々の単電極63が接触対象に接触しているか否かを判断できる。電流供給部101は、各々の単電極63へ、独立して電流を供給可能である。なお、単電極63は、基端側電極61または先端側電極62の一方のみに設けられてもよい。判断部102は、生体組織に接触していると判断される単電極63aへ電流を供給し、生体組織に接触していない、若しくはほとんど接触していないと判断される単電極63bへ電流を供給しないように、電流供給部101を制御する。これにより、生体組織に接触するために電流を供給する単電極63aを細かく設定できるため、生体組織に接触する電極の表面積を増加させやすくなり、焼灼して形成するシャントの形状を効果的に維持できる。また、生体組織に接触しないために電流を供給しない単電極63bを細かく設定できるため、電流を流す電極が血液に接触することにより血栓が形成されることを効果的に抑制できる。
【0065】
また、
図12に示す第2変形例のように、拡張体21は、凹部51よりも先端側の部位が設けられない構造であってもよい。隣接する線材部50同士は、
図11の例では連結されていないが、連結されてもよい。
【0066】
また、
図13に示す第3変形例のように、拡張体21は、内部に流体を供給されることで拡張可能なバルーンであってもよい。バルーンは、拡張した際に凹部51を形成するように形状付けられている。
【0067】
また、
図14に示す第4変形例のように、拡張体21は、多数の細い線材を編んだメッシュで形成されてもよい。メッシュは、拡張した際に凹部51を形成するように形状付けられている。
【0068】
また、
図15に示す第5変形例のように、拡張体21は、ジョイント57で連結されたリンク構造で形成されてもよい。
【0069】
また、
図16に示す第6変形例のように、拡張体21は、線材が分岐、合流した網目状に形成されてもよい。拡張体21は複数の凹部51を有し、各々の凹部51には先端側電極62および基端側電極61が配置される。各々の凹部51において、先端側電極62は、基端側電極61の先端側に配置される。すなわち、周方向に並ぶ複数の基端側電極61と、周方向に並ぶ複数の先端側電極62は、周方向にずれて交互に配置されるのではなく、周方向の略同じ位置に配置される。第6変形例では、牽引シャフトが設けられない。したがって、収納シース25から放出された拡張体21は、自己の拡張力のみで穿刺孔Hhを拡張させる。
【符号の説明】
【0070】
10 医療デバイス
20 シャフト部
21 拡張体
22 電極群
30 先端部
31 基端固定部
50 線材部
51 凹部
51a 底部
51b 受容空間
52 基端側起立部
53 先端側起立部
61 基端側電極
62 先端側電極
63、63a、63b 単電極
100 エネルギー供給装置
101 電流供給部
102 判断部