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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175068
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】耐震ラッチ
(51)【国際特許分類】
   E05C 21/02 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
E05C21/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087310
(22)【出願日】2022-05-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】592105516
【氏名又は名称】株式会社シモダイラ
(74)【代理人】
【識別番号】230100022
【弁護士】
【氏名又は名称】山田 勝重
(74)【代理人】
【識別番号】100084319
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 智重
(74)【代理人】
【識別番号】100120204
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 巌
(72)【発明者】
【氏名】藤沼 久男
(57)【要約】
【課題】揺れの大きな地震の発生時においては、より速やかにロックを掛けることができ、かつ、地震がおさまった際には、より敏速にロックを解除することができる耐震ラッチを提供する。
【解決手段】筐体の底面部上に各4辺より中央箇所に向かって突出形成された、前方側扁平状膨出部、後方側扁平状膨出部、及び、左右両側の横側扁平状膨出部と、を有し、底面部は、外周側より中央箇所に向かって略扁平状に凹む形状を有するとともに、4箇所の隅角部に球体通路が形成され、4箇所の隅角部のうち、少なくとも、底面部の対角線方向において互いに対向する2つの隅角部に、それぞれの隅角部に対応する、1つ又は2つの側部、及び、底面部のいずれか1つ以上から内側へ突出形成された、2つの突出部がそれぞれ設けられ、突出部の内側への突出方向は、球体との接平面の法線方向に略一致している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視で方形状の底壁部、及び、前記底壁部の底面部の4辺から立ち上がる4つの側部を有する筐体と、
前記筐体内に回転自在に収納され常時は前記底面部の中央箇所で静止状態となる球体と、
外周側より前記中央箇所に向かって扁平状に凹む受面を下面側に有し、前記筐体内に揺動自在に収まる感知部、及び、前記感知部から外方に突出し、その先端にフック片が形成されたフックレバー部とからなる揺動フック部材と、
を備える耐震ラッチであって、
前記筐体は、前記底面部上に各4辺より前記中央箇所に向かって突出形成された、前方側扁平状膨出部、後方側扁平状膨出部、及び、左右両側の横側扁平状膨出部と、を有し、
前記底面部は、外周側より前記中央箇所に向かって略扁平状に凹む形状を有するとともに、4箇所の隅角部に球体通路が形成され、
前記4箇所の隅角部のうち、少なくとも、前記底面部の対角線方向において互いに対向する2つの隅角部に、それぞれの隅角部に対応する、1つ又は2つの前記側部、及び、前記底面部のいずれか1つ以上から内側へ突出形成された、2つの突出部がそれぞれ設けられ、
前記突出部の内側への突出方向は、前記球体との接平面の法線方向に略一致し、
前記前方側扁平状膨出部と前記底面部との間には段差部となる小立ち上がり面が形成され、前記小立ち上がり面は、幅方向中心箇所にて幅方向の両側に向かうに従い前記筐体の前記4つの側部のうちの前方側部に接近すると共に、前記前方側扁平状膨出部の上面は、幅方向中心位置から幅方向両側が前記底面部に向かって傾斜するように形成され、
前記揺動フック部材は、前記感知部とフックレバー部との境界部を揺動中心として前記前方側部から延出するように装着されてなることを特徴とする耐震ラッチ。
【請求項2】
前記突出部は前記4箇所の隅角部にそれぞれ設けられている請求項1に記載の耐震ラッチ。
【請求項3】
前記境界部には、前記揺動フック部材の重心位置を変更可能とする重心変更部が設けられ、
前記重心変更部は、前後方向に移動可能な柱状部材を備え、前記柱状部材は、少なくとも、前記境界部に対応する基準位置、前記基準位置よりも前記感知部側の第2位置、及び、前記基準位置よりも前記フックレバー部側の第3位置のいずれかの位置に選択的に配置可能である請求項1に記載の耐震ラッチ。
【請求項4】
前記球体は、前記底面部の中央箇所で静止しているときは前記感知部を押し上げることがなく、かつ、底面部の外周箇所に到達したときには、前記感知部を押し上げることができる範囲の直径を有し、そのような範囲の直径を有する球体形状において最も軽量となるように構成される請求項1に記載の耐震ラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンス、食器棚、書籍棚等の家具の扉が地震時に受ける衝撃で急激に開いてしまうことを防止するとともに、小さな地震においては、極めて僅かの揺れだけでは作動することがなく、しかも地震がおさまると扉のロックを直ぐに解除することができる耐震ラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
タンス、食器棚、書籍棚等の水平方向に揺動して開閉する扉を有する家具において、地震時にその震動の衝撃で扉が急激に開き、収納されている物品が外部に飛び出し、これが2次的な災害となって、人を危険にさらすことになる。このような、地震による衝撃によって、家具扉が急激に開いてしまうことを防止するための耐震装置が種々開発されている。このような耐震装置として、例えば、特許文献1に示す耐震ラッチが挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載の耐震ラッチは、従来の球体の転動を利用した耐震装置において、揺れの小さな小規模の地震であっても、敏感に感知してしまい、転動してロックをかけてしまうことにより、家具扉が開かない程度の衝撃以下の地震でもロックがかかってしまうことになり、そのロックをいちいち解除しなければならず、かえって不便となるなどの問題を解決すべく、方形状の底面部上に、各4辺より、略中央箇所に向かって次第に幅が狭くなるように突出形成された前方側扁平状膨出部と、後方側扁平状膨出部、及び、左右両側の横側扁平状膨出部とを有し、かつ、底面部の4箇所の隅角部箇所に球体通路が形成されてなる筐体と、筐体内に回転自在に収納され常時は底面部の略中央箇所で静止状態となる球体と、外周側より略中央箇所に向かって扁平状に凹む受面を下面側に有し、筐体内に揺動自在に収まる感知部と、感知部から外方に突出し、その先端にフック片が形成されたフックレバー部とからなる揺動フック部材とからなる構成を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3706119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の耐震ラッチにおいては、家具扉の開きそうな揺れを有する通常の大きさの地震発生時のみ、扉を閉状態でロックをかけて、扉が急激に開くことを防止することができ、また、扉が開かない程度の揺れの小さな地震の発生時では、扉が閉まった状態でロックをかけないようにすることができる。よって、小さな地震にもかかわらず、扉が閉まった状態でロックがかかってしまい、いちいちロックの解除を行うという面倒な作業から開放される。さらに、ロックがかかっても、その地震がおさまると、直ぐにロックを解除することができる。また、装置全体の構造を極めて簡単にすることができ、部品点数を最小限にして、組み立てやすくさらに確実なる動作を実現できる。
【0006】
本発明は、特許文献1に記載の耐震ラッチに対して、揺れの大きな地震の発生時においては、より速やかにロックを掛けることができ、かつ、地震がおさまった際には、より敏速にロックを解除することができる耐震ラッチを提供することを目的とする。ロックの解除については、球体の曲率によらずに筐体の隅角部に停留しづらい構成とすることで、ロックの解除を迅速に行うことができる耐震ラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の耐震ラッチは、平面視で方形状の底壁部、及び、底壁部の底面部の4辺から立ち上がる4つの側部を有する筐体と、筐体内に回転自在に収納され常時は底面部の中央箇所で静止状態となる球体と、外周側より中央箇所に向かって扁平状に凹む受面を下面側に有し、筐体内に揺動自在に収まる感知部、及び、感知部から外方に突出し、その先端にフック片が形成されたフックレバー部とからなる揺動フック部材と、を備える耐震ラッチであって、筐体は、底面部上に各4辺より中央箇所に向かって突出形成された、前方側扁平状膨出部、後方側扁平状膨出部、及び、左右両側の横側扁平状膨出部と、を有し、底面部は、外周側より中央箇所に向かって略扁平状に凹む形状を有するとともに、4箇所の隅角部に球体通路が形成され、4箇所の隅角部のうち、少なくとも、底面部の対角線方向において互いに対向する2つの隅角部に、それぞれの隅角部に対応する、1つ又は2つの側部、及び、底面部のいずれか1つ以上から内側へ突出形成された、2つの突出部がそれぞれ設けられ、突出部の内側への突出方向は、球体との接平面の法線方向に略一致し、前方側扁平状膨出部と底面部との間には段差部となる小立ち上がり面が形成され、小立ち上がり面は、幅方向中心箇所にて幅方向の両側に向かうに従い筐体の4つの側部のうちの前方側部に接近すると共に、前方側扁平状膨出部の上面は、幅方向中心位置から幅方向両側が底面部に向かって傾斜するように形成され、揺動フック部材は、感知部とフックレバー部との境界部を揺動中心として前方側部から延出するように装着されてなることを特徴としている。
【0008】
本発明の耐震ラッチにおいて、突出部は4箇所の隅角部にそれぞれ設けられているとよい。
【0009】
本発明の耐震ラッチにおいて、境界部には、揺動フック部材の重心位置を変更可能とする重心変更部が設けられ、重心変更部は、前後方向に移動可能な柱状部材を備え、柱状部材は、少なくとも、境界部に対応する基準位置、基準位置よりも感知部側の第2位置、及び、基準位置よりもフックレバー部側の第3位置のいずれかの位置に選択的に配置可能であることが好ましい。
【0010】
本発明の耐震ラッチにおいて、球体は、底面部の中央箇所で静止しているときは感知部を押し上げることがなく、かつ、底面部の外周箇所に到達したときには、感知部を押し上げることができる範囲の直径を有し、そのような範囲の直径を有する球体形状において最も軽量となるように構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、揺れの大きな地震の発生時においては、より速やかにロックを掛けることができ、かつ、地震がおさまった際には、より敏速にロックを解除することができる耐震ラッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)は本発明の実施形態に係る耐震ラッチの分解斜視図、(B)は耐震ラッチを被係止部材と共に示した斜視図である。
図2】(A)は揺動フック部材を下方から見た斜視図、(B)は(A)における2B-2B’線における断面図、(C)は図1(B)に示す耐震ラッチを下方から見た斜視図である。
図3】(A)は本発明の実施形態における筐体の平面図、(B)は(A)の3B-3B’線における断面図、(C)は(A)の3C-3C’線における断面図である。
図4】(A)は本発明の実施形態における筐体の底面部を示す横断面図、(B)は(A)とは異なる方向から見た、筐体の底面部を示す横断面図である。
図5】(A)は図4(A)の5A-5A’線における断面図、(B)は図4(A)の5B-5B’線における断面図、(C)は図4(A)、(B)の5C-5C’線における断面図、(D)は図4(B)の5D-5D’線における断面図である。
図6】(A)は本発明の実施形態における揺動フック部材の斜視図、(B)は(A)の揺動フック部材の平面図、(C)は揺動フック部材と筐体を示す平面図である。
図7】(A)は図1(A)に示す耐震ラッチの自然状態の縦断面図、(B)は球体が後方側に移動した状態の縦断側面図、(C)は球体が前方側に移動した状態の縦断側面図である。
図8】(A)は前方側扁平状膨出部側における球体の移動状態の平面図、(B)は後方側扁平状膨出部側における球体の移動状態の平面図である。
図9】(A)は前方側扁平状膨出部における球体の作用状態の拡大平面図、(B)は(A)の9B-9B’線における断面図である。
図10】(A)は後方側扁平状膨出部における球体の作用状態の拡大平面図、(B)は(A)の10B-10B’線における断面図である。
図11】(A)は通常の地震発生時の球体の前後方向における移動状態を示す作用図、(B)は通常の地震発生時の球体の左右方向における移動状態を示す作用図である。
図12】(A)は球体の静止状態の縦断正面図、(B)は地震発生時の球体の移動状態を示す縦断正面図である。
図13】(A)は本発明の実施形態に係る耐震ラッチを家具本体に装着した斜視図、(B)は扉に装着した被係止部材を示す斜視図である。
図14】(A)は本発明の実施形態に係る耐震ラッチを家具本体に装着した状態の要部拡大断面図、(B)は(A)において地震発生時に扉を閉状態でロックした状態の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る耐震ラッチについて図面を参照しつつ説明する。以下の説明において、図3(A)における右側、左側、上側、下側をそれぞれ、前方、後方、左方、右方と称し、図1(B)の上側と下側をそれぞれ、上方、下方と称する。左右方向(図3(A)の上下方向)を幅方向、前方から後方へ向かう方向を奥行き方向と言うことがある。縦断面図というときは上下方向に沿った断面を意味し、横断面は上下方向に直交する断面を意味する。また、上方から下方を見た状態を平面視ということがある。
【0014】
<筐体の全体構成>
図1(A)、(B)に示すように、本実施形態の耐震ラッチ100は、筐体10、球体50、及び、揺動フック部材60を有する。耐震ラッチ100は、実際に使用するときには、家具本体80等に固着される被係止部材71(図1(B)参照)とともに用いられる。
【0015】
図1(A)、(B)、又は、図3(A)に示すように、筐体10は、底壁部11と、底壁部11の上面である、平面視方形状の底面部11aの4辺から上方へ立ち上がる4つの側部としての、前方側部12、後方側部13、左方側部14、及び、右方側部15と、これら4つの側部の上部に形成される開口部10aを閉じるキャップ材18と、を備える。この構成によって、筐体10は、中空の略直方体状の筺形状に形成され、略直方体状の内部空間10bが構成される。
【0016】
筐体10の開口部10aは、後述する球体50と揺動フック部材60を内部空間10bへ収納可能とするとともに、収納された揺動フック部材60の上からキャップ材18が装着することによって閉じられる。ここで、図13(A)に示すように耐震ラッチ100が家具本体80に装着されたとき、筐体10の前方側部12は外方に向かうように配置され、後方側部13は家具本体80の奥側に向かって配置される。
【0017】
図1(A)、(B)と図3(A)、(B)、(C)に示すように、前方側部12には、切除部12aが形成され、後述する揺動フック部材60のフックレバー部62が筐体10内から外部に突出するための開口となっている。切除部12aは、前方側部12の上部から下向きに、前方から見て略方形状に穿設され、揺動フック部材60のフックレバー部62の揺動動作を可能とするサイズを有する。
【0018】
図1(A)、(B)と図3(A)に示すように、筐体10の前方側部12の上端箇所で、幅方向両側端箇所には、幅方向外側へ突出する2つの固定用支持部17がそれぞれ形成されている。固定用支持部17は、筐体10をタンス、棚等の家具本体80に装着するための部位であり、固定用支持部17には、ビス19(図1(B)参照)等の固着具を挿通させる貫通孔17aが形成されている。
【0019】
図3(A)に示すように、左方側部14と右方側部15においては、それぞれの前方側部12寄りの位置に、揺動フック部材60の揺動中心部となる枢支突起部63を回転可能に収容・支持する一対の軸受溝16が形成されている。図3(B)に示すように、軸受溝16は、上部が開いた略U字形状になるように、左方側部14と右方側部15の上端から下方へ穿設されたものである。よって、軸受溝16の下端部は半球状の終端部16aとなっており、終端部16aに後述する揺動フック部材60の枢支突起部63が回動自在に装着される。終端部16aの位置は、左方側部14と右方側部15の高さ方向(上下方向)の略中間位置となっている。
【0020】
図4(A)、(B)と図5(A)、(B)、(C)、(D)に示すように、底壁部11の上面であって、筐体10の内面としての底面部11aは、外周側より中央箇所24に向かって扁平に近い略鉢状に凹むように形成されている。中央箇所24は以下に述べる、膨出部21、22、23、及び、隅角部31、32、33、34に囲まれた範囲を有する。底面部11aは、外周部分において、前方側部12、後方側部13、左方側部14、及び、右方側部15と接続している。底面部11aは、前述したように略扁平鉢状に形成されたものであり、筐体10内に収容された球体50は、底面部11a上で回転自在とされ、自然状態にでは、水平に配置される筐体10内において、鉢状とした底面部11aの最も低い位置である中央箇所24にて静止することになる。底面部11aにおいては、外周箇所が最も肉厚の厚く、鉢状の最も低い位置において最も肉厚が薄くなっている。
【0021】
底面部11aで最も厚さが小さな箇所は、球体50が常時(自然状態時)は安定した状態で静止することができる箇所で、その位置を静止位置P0と称する(図8参照)。底面部11aにおいて最も肉厚のある外周から、肉厚の薄い部分への勾配は極めて小さな角度であり、例えば約3度程度が好ましい。底面部11aの鉢形状は、扁平円錐形状に近いものであるが、必ずしもこの形状に限定されるものではなく、扁平球面状としても構わない。静止位置P0は、底面部11aの中央箇所24内に位置している。底面部11aの中央箇所24は、適宜の広さを有する領域であって、平面視略方向状の底面部11aの真の中心位置に限定されるものではなく、真の中心位置周辺も含み、この真の中心位置から適宜に離れた位置であっても、底面部11aの中心箇所の範囲に含まれるものであり、ここに静止位置P0が設定されることになる(図4(A)参照)。
【0022】
<膨出部>
図3(A)、図4(A)、(B)に示すように、底面部11aの4つの各辺の略中央部には、前方側扁平状膨出部21、後方側扁平状膨出部22、及び、左右両側の横側扁平状膨出部23と、が形成されている。前方側扁平状膨出部21は、底面部11aにおいて前方側部12寄り箇所に形成されている。後方側扁平状膨出部22は、底面部11aにおいて後方側部13寄り箇所に形成されている。両横側扁平状膨出部23は、底面部11aにおいて、左方側部14寄り箇所と右方側部15寄り箇所にそれぞれ形成されている。
【0023】
前方側扁平状膨出部21及び後方側扁平状膨出部22は、底面部11aの中央箇所24の静止位置P0に向かって、その幅方向に幅が次第に狭くなるように突出形成されている。
【0024】
図4(A)、(B)に示すように、前方側扁平状膨出部21は、平面視略台形状に形成され、底面部11aの中心側寄りの部位は小立ち上がり面21aが形成されている。小立ち上がり面21aは、急勾配面であり、前方側扁平状膨出部21と底面部11aとの段差部となっている。
【0025】
小立ち上がり面21aは、前方側扁平状膨出部21の幅方向中心箇所にて、前後方向に沿って延びる折線(稜線)f11を介して2面構成に形成され、幅方向の両側に向かうに従い、前方側部12寄りに接近する。その2面構成とした2つの面をそれぞれ単位立ち上がり面21bと称する。前方側扁平状膨出部21の上面21cも幅方向両側に向かうに従い底面部11aに連続するように傾斜している。上面21cは、幅方向中心位置において前後方向に沿って延びる折線(稜線)f12を介して幅方向両側が底面部11aに向かって傾斜するように形成されている。
【0026】
図5(A)に示すように、前方側扁平状膨出部21の上面21cの折線f12は前方側部12に向かって高くなるように傾斜状に形成されている。小立ち上がり面21aの折線f11は底面部11aへ向かって低くなる段差形状を形成している。小立ち上がり面21aは、中央箇所24よりも高い位置で底面部11aに連なっており、この連設箇所から中央箇所24へ向かって、底面部11aは徐々に低くなるような傾斜を有している。
【0027】
後方側扁平状膨出部22は、図4(A)、(B)に示すように、平面視略三角形状に形成されたものであり、その外周の斜辺箇所は、底面部11aの中央箇所24に近づくに従い互いに近づく傾斜面22aとして形成されている。傾斜面22aは、前後方向に沿って延びる折線(稜線)f21を介して幅方向両側が底面部11aに向かって傾斜している。また、上面22bは、水平方向に沿った略平坦状に形成されており、前方側扁平状膨出部21の上面21cの最高位よりも低く形成されている。後方側扁平状膨出部22の先端部は、鋭角に形成されている。
【0028】
図5(A)に示すように、後方側扁平状膨出部22の折線f21は底面部11aへ向かって低くなる傾斜形状を形成している。傾斜面22aは、中央箇所24よりも高い位置で底面部11aに連なっており、この連設箇所から中央箇所24へ向かって底面部11aは徐々に低くなるような傾斜を有している。
【0029】
図3(A)又は図4(A)、(B)に示すように、左右両側の横側扁平状膨出部23は、平面視において、左右方向において互いに対称な略台形状にそれぞれ形成されており、底面部11aの中央箇所24に向かって小立ち上がり面23aが形成されている。横側扁平状膨出部23の上面23bは、その幅方向中央において左右方向に沿って延びる折線(稜線)f31で分けられた、前側と後側に延びる2面を有し、これらの2面が底面部11aに連続するように形成されている。そして、両横側扁平状膨出部23は、前方側扁平状膨出部21、及び、後方側扁平状膨出部22の最高位よりも低く形成されている。
【0030】
図4(A)、(B)と図5(B)に示すように、横側扁平状膨出部23の折線f31は底面部11aへ向かって低くなる傾斜形状を形成している。横側扁平状膨出部23は、中央箇所24よりも高い位置で底面部11aに連なっており、この連設ラインから中央箇所24へ向かって底面部11aは徐々に低くなるような傾斜を有している。
【0031】
したがって、底面部11aは、前方側扁平状膨出部21、後方側扁平状膨出部22、及び、両横側扁平状膨出部23から中央箇所24側へ高さが徐々に低減している。さらに、膨出部のない球体通路11bにおいても、中央箇所24側へ高さが低減しているため、底面部11aは全体として、中央箇所24側へ向けて高さが低減していく鉢状をなしている。
【0032】
横側扁平状膨出部23の小立ち上がり面23aの最大高さは、前方側扁平状膨出部21の小立ち上がり面21aの最大高さ、及び、後方側扁平状膨出部22の最大高さのいずれよりも低く形成されている。このため、球体50の転動コースに及ぼす影響は小さいものである。
【0033】
なお、前方側扁平状膨出部21、後方側扁平状膨出部22、及び、横側扁平状膨出部23の平面形状は、上述の形状に限定されず、耐震ラッチ100の感知仕様、球体50の仕様などに合わせて任意に設定できる。例えば、後方側扁平状膨出部22を前方側扁平状膨出部21と同様の台形形状としてもよい。また、前方側扁平状膨出部21を後方側扁平状膨出部22と同様の三角形状に形成してもよい。
【0034】
<隅角部、球体通路>
筐体10は、その内部空間10bに、4つの隅角部31、32、33、34を有する。これらの隅角部31、32、33、34はそれぞれ、隣り合う2つの側部で囲まれた、底面部11a上及び底面部11aの上方の領域である。前側の2つの隅角部31、32は、前方側扁平状膨出部21と両横側扁平状膨出部23のそれぞれに挟まれ、後側の隅角部33、34は、後方側扁平状膨出部22と両横側扁平状膨出部23のそれぞれに挟まれている。
【0035】
4つの隅角部31、32、33、34のそれぞれにおいて、中央箇所24に連なる底面部11aの面によって、球体通路11bが形成されている。球体通路11bは、静止位置P0に位置する球体50が地震の揺れを感知して転動するときに、その揺れが小さい場合には、図8(A)、(B)に示すように、球体50がそれぞれの扁平状膨出部(前方側扁平状膨出部21、後方側扁平状膨出部22、横側扁平状膨出部23)により球体通路11bに沿って案内されてゆくものである。また、地震の揺れが大きい場合には、図11(A)、(B)に示すように、球体50に勢いがあるため、転動して各扁平状膨出部を載り越えて底面部11aの外周に到達することができる。
【0036】
各膨出部の段差部の高さの違い、及び、鉢状の底面部11aの形状により、球体50が前方側部12側の球体通路11bに案内されて前方側部12側の隅角部31、32に案内された球体50は、横側扁平状膨出部23よりも前方側扁平状膨出部21側からの影響をより強く受けて、中央箇所24の静止位置P0に復帰しようとする(図8(A)参照)。同様に、球体50が後方側部13側の球体通路11bに案内されて後方側部13側の隅角部33、34に案内された球体50は、横側扁平状膨出部23よりも後方側扁平状膨出部22側からの影響をより強く受けて静止位置P0に復帰しようとする(図8(B)参照)。
【0037】
<突出部>
図3(A)と図4(A)、(B)に示すように、4つの隅角部31、32、33、34には、筐体10の内部空間10bの内側へ突出形成された、4つの突出部41、42、43、44がそれぞれ形成されている。これら4つの突出部41、42、43、44は、内側へ向けて突出することにより、球体通路11b上に延出している。前側の2つの突出部41、42は、筐体10の左右方向の中心線に関して互いに対称な形状及び位置に形成され、後側の2つの突出部43、44は、筐体10の左右方向の中心線に関して互いに対称な形状及び位置に形成され、かつ、前側の2つの突出部41、42とは異なる形状を有する。
【0038】
図3(A)と図4(A)に示すように、前方左側の突出部41は、略直方体形状を有し、筐体10の前方側部12、左方側部14、及び、底面部11aから、内側へそれぞれ突出するように形成されている。別言すると、突出部41は、その前面、左面、及び、底面が、それぞれ、筐体10の前方側部12、左方側部14、及び、底面部11aと一体的に形成されている。
【0039】
図3(A)と図4(B)に示すように、前方右側の突出部42は、略直方体形状を有し、筐体10の前方側部12、右方側部15、及び、底面部11aから、内側へそれぞれ突出するように形成されている。別言すると、突出部42は、その前面、右面、及び、底面が、それぞれ、筐体10の前方側部12、右方側部15、及び、底面部11aと一体的に形成されている。
【0040】
図3(A)と図4(A)に示すように、後方左側の突出部43は、前面、右面、及び、上面が、前方側部12、右方側部15、及び、底面部11aのそれぞれと略平行に延びるとともに、後面、左面、及び、底面が、それぞれ、筐体10の後方側部13、左方側部14、及び、底面部11aと一体的に形成されており、筐体10の後方側部13、左方側部14、及び、底面部11aから、内側へそれぞれ突出するように形成されている。
【0041】
図3(A)と図4(B)に示すように、後方右側の突出部44は、前面、左面、及び、上面が、前方側部12、左方側部14、及び、底面部11aのそれぞれと略平行に延びるとともに、後面、右面、及び、底面が、それぞれ、筐体10の後方側部13、右方側部15、及び、底面部11aと一体的に形成されており、筐体10の後方側部13、右方側部15、及び、底面部11aから、内側へそれぞれ突出するように形成されている。
【0042】
4つの突出部41、42、43、44はそれぞれ、全体として、中央箇所24又はその近傍へ向かうように突出している。その突出方向は、内部空間10b内で転動する球体50と接触するときの接平面の法線方向に略一致するように設定されることが好ましい。例えば、図8(A)に示すように、球体50が突出部41の角部で接触しているとき、接触位置における接平面S1を想定すると、突出部41は接平面S1に直交する法線方向D1に突出している。この法線方向D1は、突出部41が中央箇所24へ向かう方向に一致する。
【0043】
図8(B)に示すように、突出部41と同様に、球体50が突出部42の角部で接触しているとき、接触位置における接平面S2を想定すると、接平面S2の法線方向D2は中央箇所24へ向かう方向へ突出している。
【0044】
突出部41、42、43、44はそれぞれ、球体50が隅角部31、32、33、34のいずれかに至ったときに、その隅角部において突出部に接触することによって、隣り合う2つの側部に同時に接触することを妨げるような、方向及び突出量で形成されることが好ましい。これにより、球体50が隅角部31、32、33、34のいずれかに至ったときに、その隅角部において隣り合う2つの側部と、球体通路11bを囲む2つの扁平状膨出部と、によって外周面が囲まれるように支持されることで、その位置に停留してしまい、ロックの解除が遅れることを防止することができる。
【0045】
突出部41、42、43、44を以上のように構成することで、隅角部31、32、33、34へ転動してきた球体50が、その隅角部において隣り合う2つの側部と、球体通路11bを囲む2つの扁平状膨出部と、によって外周面が囲まれるように支持されることを防止でき、これにより球体50を中央箇所24側へ反射させやすくし、球体50が隅角部31、32、33、34で停留することを防止できる。このため、揺れの大きな地震の発生時には、隅角部31、32、33、34との衝突によって球体50が筐体10内で移動する速度を高めることが可能となるため、より速やかにロックを掛けることが可能となる。また、地震が収まったときに、隅角部31、32、33、34での反射によって静止位置P0へ戻しやすくすることで、敏速にロックを解除することが可能となる。
【0046】
図5(A)、(B)に示すように、4つの突出部41、42、43、44は、前方側扁平状膨出部21、後方側扁平状膨出部22、及び、両横側扁平状膨出部23のいずれよりも高い位置まで設けられており、この位置は、両横側扁平状膨出部23の上面23bに球体50が乗り上げた状態でも突出部41、42、43、44に接触するような高さとすることが好ましい。これにより、隅角部31、32、33、34へ転動してきた球体50を中央箇所24側へ確実に反射させることができ、球体50が隅角部31、32、33、34で停留することを防止できる。
【0047】
4つの突出部41、42、43、44の最も高い位置は、底面部11a上にある球体50の中心よりも低い位置となるように設定することが好ましい。これにより、球体通路11bの実質的な長さを長く確保でき、球体50が移動したときの速度を大きくしやすくでき、速やかなロックに資することができる。
【0048】
4つの突出部41、42、43、44は、平面視において、前方側扁平状膨出部21、後方側扁平状膨出部22、及び、両横側扁平状膨出部23のいずれよりも小さな突出面積を有する。これにより、球体通路11bの実質的な長さを長く確保でき、球体50が移動したときの速度を大きくしやすくなり、より速やかなロックの実現に資することができる。
【0049】
本実施形態においては、平面視略方形状の底面部11aの4つの角部、すなわち、隅角部31、32、33、34に、4つの突出部41、42、43、44をそれぞれ設けているが、突出部の数はこれに限定されず、1箇所以上設ければ、球体50の衝突によって移動速度を大きくすることができる。そして、突出部の数を増やすと、球体50の衝突回数を増やすことができるため、球体50の移動速度をさらに大きくすることができる。また、平面視方形状の底面部11aの対角線方向において互いに対向する2つの隅角部に2つの突出部をそれぞれ設けると、この2つの突出部に球体50が繰り返し衝突することで移動速度を大きくしやすくなる。
【0050】
上記突出部41、42、43、44は、隣接する2つの側部と底面部11aとの3つの面から突出するように形成されていたが、隣接する2つの側部と底面部11aのうちのいずれか1つ、又は、2つから突出形成する構成としてもよい。
【0051】
上記突出部41、42、43、44は、平面視において、中央箇所24側の面が、いずれかの側部と略平行に延びる形状を有していたが、これ以外の面形状、例えば、湾曲した形状、凹凸を有する形状としてもよい。また、4つの突出部41、42、43、44が同一形状であってもよく、さらに同一サイズであってもよい。
【0052】
<球体>
球体50は、金属により形成され適宜の質量を有している。その質量は、球体50の初動作に影響するものである。よって、どの程度の規模の地震によって動作させるかによって、球体50の質量が決定されるものである。その球体50は、真球精度が高いものが、正確な動作を行う上で重要である。また、球体50の直径は、筐体10の左右方向(幅方向)の寸法の略半分程度となっており、筐体10の底面部11aを転動して適宜の距離を移動することができるものである。球体50は、静止位置P0で静止しているときは感知部61を上方へ押し上げることがなく、かつ、底面部11aの外周箇所に到達したときには、感知部61を上方に押し上げることができる範囲の直径を有し、そのような範囲の直径を有する球体形状において最も軽量となるように構成することが好ましい。これにより、揺れが生じた際の球体50の移動の加速度を最大にすることができるため、球体50の移動が機敏になり、ロック及びロックの解除をより迅速に行うことができる。
【0053】
<揺動フック部材>
図2(A)、(B)、及び、図6(A)、(B)、(C)に示すように、揺動フック部材60は、感知部61、フックレバー部62、枢支突起部63、及び、重心変更部64を備える。なお、図6(C)では説明のため柱状部材65の図示を省略している。
【0054】
感知部61は、平面視方形状の板状をなしており、その下面は、外周側より中央部に向かって扁平状に凹む受け面61aとして形成されている。感知部61は、筐体10の開口部10aの形状に等しい底面形状を有し、感知部61の外周囲と筐体10の内面との間に適宜の隙間が生じるようにして装着される。
【0055】
フックレバー部62は、感知部61の前側端面から外方に長板状に突出する形状を有する。フックレバー部62は、感知部61から長板状に延出するレバー部62bと、フックレバー部62bの先端に形成されたフック片62aとから構成される。フック片62aは、レバー部62bの先端の底面から下方へ延出し、さらに感知部61側へ向かって折り返す鉤形状をなしており、後述する被係止部材71のループ状部72に引掛かり易い形状となっている。フックレバー部62bは、感知部61との接続箇所から外方に向かって一旦、上方に少し傾斜し、その上端箇所から略水平状に外方に延びるようにして形成されている。感知部61とフックレバー部62とは一体的に形成された剛性体である。
【0056】
フックレバー部62は、後側(感知部61側)に、厚み方向に貫通する複数の調整穴67を備える。調整穴67の数、サイズ、位置などによってフックレバー部62の重量や前後方向の重量バランスを変更することができる。調整穴67は、フックレバー部62の外形形状を変えることなく穿設すればよいため、感知部61との重量バランスを容易に調整することを可能としている。
【0057】
感知部61の前端箇所には、一対の枢支突起部63が形成されている。一対の枢支突起部63は、感知部61の前端箇所、すなわちフックレバー部62との接続箇所の幅方向両端から、幅方向(左右方向)に延びる軸線に沿って外方へそれぞれ延出するようにそれぞれ形成されたものである。一対の枢支突起部63は、筐体10の一対の軸受溝16にそれぞれ回動可能に装着され、一対の枢支突起部63が回動することによって揺動フック部材60は揺動することができる。
【0058】
図1(B)に示すように、揺動フック部材60は、筐体10の前方側部12に形成された切除部12aから、フックレバー部62が筐体10の外方に突出するように配置される。このとき、感知部61は筐体10の内部空間10b内に配置されており、キャップ材18によって筐体10の上部を閉じることによって感知部61が筐体10内に収容される。この状態において、一対の枢支突起部63が一対の軸受溝16にそれぞれ回動可能に支持されていることにより、フックレバー部62は、切除部12a箇所を上下方向に揺動することができるようになっている(図7(A)、(B)、(C)参照)。すなわち、筐体10の内部には感知部61が配置され、筐体10の外部にフックレバー部62が位置する。
【0059】
図6(A)、(B)、(C)に示すように、感知部61とフックレバー部62との境界部には、重心変更部64が設けられている。重心変更部64は、柱状部材65と位置決め穴66を備える。位置決め穴66は、3つの位置P1、P2、P3を規定する3つの円柱孔を前後方向に順に連通した形状を有する。これら3つの円柱孔は、揺動フック部材60の上部から下向きに穿設された有底孔であり、互いに同一の内径を有し、連通部分は、この内径よりも小さな幅を有する。連通部分の幅は、円柱状の柱状部材65を押入可能なサイズであり、円柱孔の内径は柱状部材65の外径よりも大きくなるように形成されている。柱状部材65は、上端部が円柱孔から延出するように配置され、この延出部を使用者が操作して柱状部材65を前後方向に移動させることにより、3つの位置P1、P2、P3のいずれかに配置できる。配置された柱状部材65は、連通部分の幅の設定により、使用者が操作しない間は配置した位置に留まる。
【0060】
柱状部材65は、所定の重量と耐久性を有する材料、例えば金属で構成されている。このため、3つの位置P1、P2、P3のいずれかに配置することにより、揺動フック部材60の前後方向における重量バランスを調整でき、重心位置を変更することができる。これにより、例えば、基準位置P1に柱状部材65がある場合と比べて、感知部61側の第2位置P2に柱状部材65を配置すると、感知部61側の重量が大きくなるため、小さな振動では感知部61が動きにくくなることから、感度を小さく抑えることができる。これに対して、フックレバー部62側の第3位置P3に柱状部材65を配置すると、感知部61側の重量が小さくなるため、小さな振動でも感知部61が動きやすいことから、感度を高めることができる。
なお、重心変更部64の構成は以上の構成に限定されない。例えば、位置決め穴が有する円柱孔の数は2つ、又は、4つ以上であってもよい。
【0061】
図7(A)、(B)、(C)に示すように、感知部61の受け面61aは、筐体10の底面部11aに配置された球体50と当接するようにして配置される。そして、地震の揺れのない自然状態では、球体50が底面部11aの静止位置P0に位置し、感知部61の受け面61aと球体50が当接した状態で、感知部61、及び、フックレバー部62が水平状態になっている(図7(A)、図12(A)の状態)。この水平状態では揺動フック部材60が後述する被係止部材71と係止していない(図7(A)参照)。
【0062】
感知部61の質量は、フックレバー部62の質量よりも大きく形成されている。そして、揺動フック部材60を筐体10に装着したときには、枢支突起部63を介して、揺動フック部材60が揺動自在となるが、このとき感知部61は、自然状態では、自重により常時下方に付勢され、また、その反対にフックレバー部62は上方に付勢されるものである。これにより、受け面61aは球体50の上部に当接する。この質量バランスにより、地震発生時の揺れ、衝撃によりフックレバー部62がいったん下方に下がっても、地震の終了とともに感知部61の質量によって、フックレバー部62は元の位置に戻る。
【0063】
感知部61の質量をフックレバー部62の質量よりも大きくするための手段として、たとえば、上述の調整穴67を設けたり、又は、感知部61を肉厚材としたりする構成が挙げられる。感知部61は、筐体10内の球体50の転動による移動にて動作するものであり、感知部61の質量は、この点も考慮されて決定されるものである。
【0064】
キャップ材18は、図7(A)に示すように、筐体10の開口部10aを閉じる役目をなすものであり、球体50、及び、揺動フック部材60が筐体10から飛び出さないようにする。キャップ材18は、略平板状をなしており、筐体10の開口部10aの形状に略等しい平面形状を有する。そして、キャップ材18の外周箇所が筐体10の内面に対して接着剤等により固着される。キャップ材18には、図1(A)に示すように、底面から下方に延びる軸押さえ突起18aが設けられ、この軸押さえ突起18aが筐体10の軸受溝16に挿入されることで、キャップ材18は筐体10の所定位置に配置される。
【0065】
軸押さえ突起18aは、軸受溝16に支持された揺動フック部材60の枢支突起部63の上方箇所を押さえて、枢支突起部63が安定した状態で回動することができるように配置される。軸押さえ突起18aは、キャップ材18を筐体10に装着しやすいようにする役目もなしている。
【0066】
<被係止部材>
被係止部材71は、図13(B)に示すように、板状の取付固定部73と、取付固定部73から延出した矩形枠状のループ状部72と、から構成されている。この被係止部材71は、金属材から形成されることが好ましいが、強度に優れたものであるならば、合成樹脂製でも構わない。図13(A)、(B)に示すように、取付固定部73は、取付対象物である家具本体80の扉81にビス74等の固着具を介して固着される。
【0067】
図13(A)に示すように、耐震ラッチ100は、家具本体80の天板82の内面であって、扉81が設けられた開口部側の端部に対してビス19(図1(B)参照)で固定される。耐震ラッチ100の固定位置は、扉81を閉めたときに、揺動フック部材60のフック片62aが被係止部材71のループ状部72に対向する位置である(図14(A)、(B)参照)。
【0068】
耐震ラッチ100と被係止部材71との位置関係は、図14(A)に示すように、耐震ラッチ100が自然状態(地震が発生していない状態)のときに、ループ状部72が、耐震ラッチ100の揺動フック部材60のフック片62aより少し下方に位置するように設定されている。そして、地震発生時に揺動フック部材60が揺動して、フックレバー部62が下降し、フック片62aが被係止部材71のループ状部72に係止することにより、扉81が閉状態でロックされる(図14(B)参照)。
【0069】
その地震発生時では、揺動フック部材60のフックレバー部62が下方に下がり、フック片62aが被係止部材71に係止されて、扉81が開かないようにロックされる。また、地震が終了すると、球体50は、底面部11aの静止位置P0箇所に移動することで、フックレバー部62が上方へ変位することで、フック片62aがループ状部72から離れ、ロック状態が解除される。
【0070】
<耐震ラッチの動作>
次に、扁平状膨出部21、22、23、及び、突出部41、42、43、44を設けた構成における、地震の揺れの大きさに対応した球体50の動き、及び、これに基づくロックとロックの解除について説明する。
まず、家具本体80の扉81が閉まったままで維持されるような、極めて小さな地震(地震Aと称する。)の場合には、底面部11aの静止位置P0に静止状態で配置された球体50は、地震の前後方向の揺れで転動するが、球体50の勢いが少ないため、前方側扁平状膨出部21の段差部(小立ち上がり面21a)、又は、後方側扁平状膨出部22の段差部(傾斜面22a)に当たってこれらを載り越えることができず、跳ね返って、静止位置P0に戻る。すなわち、極めて小さい地震では、球体50が静止位置P0から転動して移動しても、底面部11aの外周に到る前に跳ね返されてしまい、揺動フック部材60の感知部61を押し上げることなく、扉81の閉状態でのロックを行わない。これは、極めて小さな地震では、あえて、極めて僅かの揺れだけでは、扉81が閉状態でロックしないようにしたものである。これによって、極めて小さな地震が起こるたびに、扉81が閉状態でロックされてしまい、その面倒なロック解除作業を行わずに済むものである。
【0071】
次に、上記地震Aよりもやや大きく、閉じられていた扉81がその揺れで開いてしまうような大きさの地震(地震Bと称する。)の場合については、底面部11aの静止位置P0に静止状態で配置された球体50(図8(A)、(B)の実線の状態、図7(A)の状態)は、地震の前後方向の揺れで転動するが、球体50の勢いが小さいため、前方側扁平状膨出部21又は後方側扁平状膨出部22の段差部に当たってこれらを載り越えることができない。しかし、球体50にはある程度の勢いはあるため、扁平状膨出部21、23において球体50の移動コースが左右に変えられて、前側の隅角部31、32において互いに隣接する前方側扁平状膨出部21と横側扁平状膨出部23との間の球体通路11bに案内され(図8(A)、図9(A)、(B)の破線の状態、図7(C)の状態)、突出部41、42のいずれかに当接し、または、後側の隅角部33、34において互いに隣接する後方側扁平状膨出部22と横側扁平状膨出部23との間の球体通路11bに案内され(図8(B)、図10(A)、(B)の破線の状態、図7(B)の状態)、突出部43、44のいずれかに当接する。そして、球体50が底面部11aの外周箇所に到達することができる。
【0072】
このとき、球体50は、図7(B)、(C)、図12(B)、及び、図14(B)に示すように、揺動フック部材60の感知部61を上方に押し上げ、これにより、フックレバー部62のフック片62aが被係止部材71のループ状部72に係止され、扉81の閉状態のロックが行われる。
【0073】
上記地震Bよりも大きな、通常又は大きな地震(地震Cと称する。)の場合には、その揺れが大きいため、球体50は静止位置P0から大きな勢いを得て転動し、図11(A)、(B)に示すように、前方側扁平状膨出部21の段差部(小立ち上がり面21a)、後方側扁平状膨出部22の段差部(傾斜面22a)、又は、横側扁平状膨出部23の段差部(小立ち上がり面23a)を載り越えて行くことができる。これによって、球体50は最短距離にて底面部11aの外周箇所に到達する。このとき、前方側扁平状膨出部21、後方側扁平状膨出部22、又は、横側扁平状膨出部23の段差部を載り越えてそれぞれの上面上に達することで、球体50はいきなり上方に移動することとなり、揺動フック部材60の感知部61を地震の発生と同時に押し上げて、扉81の閉状態をロックすることができる。
【0074】
すなわち、上記地震Cでは、前方側扁平状膨出部21、後方側扁平状膨出部22、及び、両横側扁平状膨出部23がむしろ、球体50に対してその移動動作を機敏にさせることができるものである。球体50が底面部11aの外周箇所まで移動することができるように、それぞれの扁平状膨出部の段差箇所の高さが設定されている。また、横側扁平状膨出部23を小さくしてあり、家具本体80の左右方向の揺れにても扉81の閉状態のロックをかかりやすくしたものである。
【0075】
さらに、4つの突出部41、42、43、44を設けたため、揺れによって球体50が隅角部31、32、33、34に向かった場合には、球体50が衝突によって反射されることで、隅角部31、32、33、34に留まることが防止され、いずれかの扁平状膨出部の段差部を乗り越えて上面に達するように球体50を加速させることができる。突出部41、42、43、44は、球体50の曲率に応じて、隅角部31、32、33、34に停留しづらくするように、突出量や形状を変更して、隅角部31、32、33、34における球体通路11bの形状やサイズを設定することが好ましい。
【0076】
また、揺れがおさまったときには、転動して静止位置P0から移動した球体50が元の静止位置P0に戻る動作も極めて滑らかに行われる。これは、球体50が底面部11aの外周箇所から静止位置P0に戻る行程で、底面部11aが扁平鉢状であり、かつ前方側扁平状膨出部21の小立ち上がり面21a、又は後方側扁平状膨出部22の周囲の傾斜面22aによって、球体50に静止位置P0に戻る勢いが付加されることになり、その球体50の静止位置P0への復帰が比較的早く行われるものである(図8(B)、図9(B)参照)。ここで、球体50の曲率に応じて、隅角部31、32、33、34に停留しづらくするように、突出部41、42、43、44の突出量や形状を変更することで、静止位置P0への復帰をさらに速めることができる。
【0077】
さらに、4つの突出部41、42、43、44を設けたため、揺れが収まったときには、4つの突出部41、42、43、44と球体50との衝突によって、球体50が隅角部31、32、33、34に停留することなく静止位置P0に迅速にもどりやすくなることから、ロックの解除をより速めることができる。
【0078】
このように、筐体10の底面部11aの各4辺より中央箇所24に向かって次第に幅が狭くなるように突出形成された、前方側扁平状膨出部21、後方側扁平状膨出部22、及び、左右両側の横側扁平状膨出部23を設けたことで、地震の揺れの大きさの程度により、球体50は、それぞれ異なった動作をすることになる。このことにより、地震の発生により、むやみに扉81が閉状態でロックすることなく、ある程度の大きさの揺れにおいてのみ、扉81の閉状態のロックを行うことができる。そして、地震が生じるたびに、ごく僅かの揺れだけでむやみにロックされた扉81の閉状態を解除する面倒な作業から開放されるものである。
【0079】
さらに、4つの突出部41、42、43、44を設けたため、隅角部31、32、33、34に至った球体50は突出部41、42、43、44との衝突によって加速された状態で反射されるため、揺れがあった場合は揺動フック部材60を素早く揺動させることが可能となり、揺れが収まった場合には球体50の中央箇所24への復帰時間を縮めることができる。
【0080】
前方側扁平状膨出部21、後方側扁平状膨出部22、横側扁平状膨出部23、及び、突出部41、42、43、44の形状や位置は、想定する地震の震度に応じて任意に定めることができる。ここで、P波(弾性縦波)による振動と、P波の後に現れ、P波よりも揺れの大きなS波(弾性横波)による振動と、の違いに応じて、膨出部と突出部の形状によって、P波の段階からロックをかけるか、又は、P波ではロックをかけずにS波が到達した段階でロックをかけるかを設定することもできる。
【0081】
なお、本実施形態の耐震ラッチ100は、水平方向に揺動する扉を備えた家具に使用されるものであるが、必要に応じて垂直方向に揺動する扉を備えた家具に使用することも可能である。さらに、引出しタイプの家具に使用することもできる。
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
100 耐震ラッチ
10 筐体
10a 開口部
10b 内部空間
11 底壁部
11a 底面部
11b 球体通路
12 前方側部
12a 切除部
13 後方側部
14 左方側部
15 右方側部
16 軸受溝
16a 終端部
17 固定用支持部
17a 貫通孔
18 キャップ材
18a 軸押さえ突起
19 ビス
21 前方側扁平状膨出部
21a 小立ち上がり面
21b 単位立ち上がり面
21c 上面
22 後方側扁平状膨出部
22a 傾斜面
22b 上面
23 横側扁平状膨出部
23a 小立ち上がり面
23b 上面
24 中央箇所
31 前方左側の隅角部
32 前方右側の隅角部
33 後方左側の隅角部
34 後方右側の隅角部
41 前方左側の突出部
42 前方右側の突出部
43 後方左側の突出部
44 後方右側の突出部
50 球体
60 揺動フック部材
61 感知部
61a 受け面
62 フックレバー部
62a フック片
62b レバー部
63 枢支突起部
64 重心変更部
65 柱状部材
66 位置決め穴
67 調整穴
71 被係止部材
72 ループ状部
73 取付固定部
74 ビス
80 家具本体
81 扉
82 天板
P0 静止位置
P1 基準位置
P2 第2位置
P3 第3位置
S1、S2 接平面
D1、D2 法線方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2022-07-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視で方形状の底壁部、及び、前記底壁部の底面部の4辺から立ち上がる4つの側部を有する筐体と、
前記筐体内に回転自在に収納され常時は前記底面部の中央箇所で静止状態となる球体と、
外周側より前記中央箇所に向かって扁平状に凹む受面を下面側に有し、前記筐体内に揺動自在に収まる感知部、及び、前記感知部から外方に突出し、その先端にフック片が形成されたフックレバー部とからなる揺動フック部材と、
を備える耐震ラッチであって、
前記筐体は、前記底面部上に各4辺より前記中央箇所に向かって突出形成された、前方側扁平状膨出部、後方側扁平状膨出部、及び、左右両側の横側扁平状膨出部と、を有し、
前記底面部は、外周側より前記中央箇所に向かって略扁平状に凹む形状を有するとともに、4箇所の隅角部に球体通路が形成され、
前記4箇所の隅角部のうち、少なくとも、前記底面部の対角線方向において互いに対向する2つの隅角部に、それぞれの隅角部に対応する、1つ又は2つの前記側部、及び、前記底面部のいずれか1つ以上から内側へ突出形成された、2つの突出部がそれぞれ設けられ、
前記突出部の内側への突出方向は、前記球体との接平面の法線方向に略一致し、
前記前方側扁平状膨出部と前記底面部との間には段差部となる小立ち上がり面が形成され、前記小立ち上がり面は、幅方向中心箇所にて幅方向の両側に向かうに従い前記筐体の前記4つの側部のうちの前方側部に接近すると共に、前記前方側扁平状膨出部の上面は、幅方向中心位置から幅方向両側が前記底面部に向かって傾斜するように形成され、
前記揺動フック部材は、前記感知部とフックレバー部との境界部を揺動中心として前記前方側部から延出するように装着されてなることを特徴とする耐震ラッチ。
【請求項2】
前記突出部は前記4箇所の隅角部にそれぞれ設けられている請求項1に記載の耐震ラッチ。
【請求項3】
前記境界部には、前記揺動フック部材の重心位置を変更可能とする重心変更部が設けられ、
前記重心変更部は、前後方向に移動可能な柱状部材を備え、前記柱状部材は、少なくとも、前記境界部に対応する基準位置、前記基準位置よりも前記感知部側の第2位置、及び、前記基準位置よりも前記フックレバー部側の第3位置のいずれかの位置に選択的に配置可能である請求項1に記載の耐震ラッチ。
【請求項4】
前記球体は、前記底面部の中央箇所で静止しているときは前記感知部を押し上げることがなく、かつ、底面部の外周箇所に到達したときには、前記感知部を押し上げることができる範囲の直径を有する請求項1に記載の耐震ラッチ。