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特開2023-175094回転電機用ロータの製造方法及び回転電機用ロータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175094
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】回転電機用ロータの製造方法及び回転電機用ロータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20231205BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20231205BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K15/02 K
H02K1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087368
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】平沢 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】大畑 直弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 健登
(72)【発明者】
【氏名】河島 孝明
(72)【発明者】
【氏名】原 豊
(72)【発明者】
【氏名】小川 典子
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
5H622
【Fターム(参考)】
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601GA02
5H601GA24
5H601GA32
5H601GC04
5H601GC12
5H601HH22
5H601KK07
5H601KK08
5H601KK10
5H601KK21
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615PP06
5H615SS09
5H615SS10
5H615SS18
5H615SS24
5H615TT27
5H615TT32
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622CB05
5H622PP19
(57)【要約】
【課題】ロータコアに対する磁石の絶縁性を確保しつつ、ロータコアの磁石孔に磁石を固定する。
【解決手段】磁石孔を有するロータコアであって、磁石孔に弾性変形する径方向の突起を有するロータコアを準備する工程と、径方向内側の磁石表面と径方向外側の磁石表面のうちの、突起に対向する第1側の磁石表面に、絶縁性を有する第1樹脂材料が付与され、かつ、第1側に対して逆側の第2側の磁石表面に、熱により軟化又は溶融する特性及び絶縁性を有する第2樹脂材料が付与された磁石を準備する工程と、ロータコアの磁石孔内に、軸方向に磁石を挿入し、突起を弾性変形させる挿入工程と、挿入工程の後に、加熱によりロータコアと磁石との間の第2樹脂材料を軟化又は溶融させることで、第2樹脂材料により磁石とロータコアとを接着する接着工程とを含む、回転電機用ロータの製造方法が開示される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の磁石孔を有するロータコアであって、前記磁石孔における径方向内側及び径方向外側のうちのいずれか一方側かつ軸方向の1つ以上の位置に、軸方向の力を受けると弾性変形する径方向の突起を有するロータコアを準備する工程と、
前記磁石孔に軸方向に挿入可能な磁石であって、径方向内側の磁石表面と径方向外側の磁石表面のうちの、前記突起に対向する第1側の磁石表面に、絶縁性を有する第1樹脂材料が付与され、かつ、前記第1側に対して逆側の第2側の磁石表面に、熱により軟化又は溶融する特性及び絶縁性を有する第2樹脂材料が付与された磁石を準備する工程と、
前記ロータコアの前記磁石孔内に、軸方向に前記磁石を挿入し、前記突起を弾性変形させる挿入工程と、
前記挿入工程の後に、加熱により前記ロータコアと前記磁石との間の前記第2樹脂材料を軟化又は溶融させることで、前記第2樹脂材料により前記磁石と前記ロータコアとを接着する接着工程とを含む、回転電機用ロータの製造方法。
【請求項2】
前記接着工程における前記加熱は、前記突起による弾性力に起因して形成される押圧状態であって、前記磁石の前記第2側の磁石表面が前記第2樹脂材料の層を介して前記ロータコアに押圧された押圧状態において、実行される、請求項1に記載の回転電機用ロータの製造方法。
【請求項3】
前記第1樹脂材料は、熱により軟化又は溶融する特性を有し、
前記接着工程は、前記加熱により前記第1樹脂材料を軟化又は溶融させることを更に含み、
前記押圧状態は、前記突起と前記磁石との間に前記第1樹脂材料の層が残る状態で形成される、請求項2に記載の回転電機用ロータの製造方法。
【請求項4】
前記挿入工程は、前記磁石孔内に治具に後続して前記磁石が挿入される態様で、前記磁石孔内に前記治具を軸方向に挿入することを更に含む、請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ロータの製造方法。
【請求項5】
軸方向の磁石孔を有するロータコアと、
前記磁石孔に軸方向に挿入された磁石とを有し、
前記ロータコアは、前記磁石孔における径方向内側及び径方向外側のうちのいずれか一方側かつ軸方向の1つ以上の位置に、径方向に突出する突起を有し、
前記磁石は、径方向内側の磁石表面と径方向外側の磁石表面のうちの、前記突起に対向する第1側の磁石表面に、前記突起に当接しかつ絶縁性を有する第1樹脂材料の層と、前記第1側に対して逆側の第2側の磁石表面に、前記ロータコアに接合しかつ絶縁性を有する第2樹脂材料の層とを有し、
前記第1樹脂材料の層は、前記突起と前記磁石における前記第1側の磁石表面との間に延在する、回転電機用ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用ロータの製造方法及び回転電機用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータコアの磁石孔に径方向の突起を設け、磁石孔内に永久磁石を挿入する際に突起を弾性変形させ、突起の弾性力により永久磁石を磁石孔内に保持する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第9621001号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、磁石孔内に永久磁石を挿入する際に、突起により永久磁石の表面上の絶縁被膜が傷付きやすく、絶縁性が低下するおそれがある。また、突起の弾性力(ばね)のみで永久磁石を固定するので、突起による弾性力は、比較的大きい力(高い磁石押し付け力)に設定する必要がある。その結果、組み付け後においても突起が永久磁石に対して高い攻撃性を有することとなり、永久磁石の表面上の絶縁被膜を破壊してしまうおそれがある。永久磁石の表面上の絶縁被膜が破壊されると、永久磁石とロータコアの間で通電が発生し、損失悪化につながる。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、ロータコアに対する磁石の絶縁性を確保しつつ、ロータコアの磁石孔に磁石を固定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、軸方向の磁石孔を有するロータコアであって、前記磁石孔における径方向内側及び径方向外側のうちのいずれか一方側かつ軸方向の1つ以上の位置に、軸方向の力を受けると弾性変形する径方向の突起を有するロータコアを準備する工程と、
前記磁石孔に軸方向に挿入可能な磁石であって、径方向内側の磁石表面と径方向外側の磁石表面のうちの、前記突起に対向する第1側の磁石表面に、絶縁性を有する第1樹脂材料が付与され、かつ、前記第1側に対して逆側の第2側の磁石表面に、熱により軟化又は溶融する特性及び絶縁性を有する第2樹脂材料が付与された磁石を準備する工程と、
前記ロータコアの前記磁石孔内に、軸方向に前記磁石を挿入し、前記突起を弾性変形させる挿入工程と、
前記挿入工程の後に、加熱により前記ロータコアと前記磁石との間の前記第2樹脂材料を軟化又は溶融させることで、前記第2樹脂材料により前記磁石と前記ロータコアとを接着する接着工程とを含む、回転電機用ロータの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、ロータコアに対する磁石の絶縁性を確保しつつ、ロータコアの磁石孔に磁石を固定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例による回転電機用ロータを軸方向視で模式的に示す平面図である。
図2図1のQ1部の拡大図である。
図3図2のラインA-Aに沿った断面図である。
図4】本実施例による回転電機用ロータの製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
図5図4に示す製造方法の説明図であり、製造方法の挿入工程の前におけるワークの状態を示す図である。
図6】弾性変形前の状態の突起を模式的に示す斜視図である。
図7図4に示す製造方法の説明図であり、製造方法の挿入工程中におけるワークの状態を示す図である。
図8図4に示す製造方法の説明図であり、製造方法の挿入工程の後(接着工程中)におけるワークの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
以下で説明する回転電機用ロータ及び回転電機用ロータの製造方法は、任意の回転電機用ロータに適用可能である。以下では、好適な適用例として、車両の推進力を発生する動力源として機能できる回転電機用のロータの製造方法について説明する。この場合、回転電機は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用されてよい。
【0011】
図1は、本実施例による回転電機用ロータ1を軸方向視で模式的に示す平面図である。図1には、代表として一のd軸が一点鎖線で示されている。
【0012】
回転電機用ロータ1は、中心軸(回転軸)Iまわりに回転可能である。回転電機用ロータ1のロータコア12は、中心軸Iまわりの円環状の形態である。ロータコア12は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板により形成される。ロータコア12の内部には、永久磁石16が埋め込まれる。すなわち、ロータコア12は、軸方向に貫通する磁石孔121を有し、磁石孔121内に永久磁石16が挿入され固定される。なお、変形例では、ロータコア12は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。
【0013】
本実施例では、一の磁石孔121に対して1つの永久磁石16が挿入されるが、2つの永久磁石が、周方向に隣接する態様で一の磁石孔121に配置されてもよい。
【0014】
なお、図1に示す例では、一の磁極に対してd軸の両側に1つずつ磁石孔121が配置されるが、これに代えて又は加えて、d軸を通る磁石孔が設けられてもよい。また、内径側と外径側とにそれぞれd軸に対称に磁石孔を設ける構成であってもよく、磁石孔の配置態様は任意である。本実施例は、一の磁石孔に対して1つ以上の永久磁石が設けられる任意の構成に適用可能である。
【0015】
また、図1に示す例では、磁石孔121は矩形の形態であるが、周方向端部等に円弧形状等を有してもよい。また、永久磁石16は、直線状の形態(直方体)であってもよいし、軸方向視で円弧状の形態やD字状の形態等であってもよい。
【0016】
以下では、ロータコア12の中心軸Iを基準に、軸方向、径方向、及び周方向の各用語の意義を定義する。具体的には、以下の説明において、軸方向とは、ロータコア12の中心軸Iが延在する方向を指し、径方向とは、中心軸Iを中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、中心軸Iから離れる側を指し、径方向内側とは、中心軸Iに向かう側を指す。また、軸方向外側とは、ロータコア12の軸方向の中心から離れる側を指し、軸方向内側とは、ロータコア12の軸方向の中心に近づく側を指す。
【0017】
図2は、図1のQ1部の拡大図である。図3は、図2のラインA-Aに沿った断面図である。図3では、説明の都合上、ロータコア12を形成する積層鋼板のうちの、突起124を形成する鋼板120Aだけ、他の鋼板とは異なるハッチングで図示している。
【0018】
本実施例では、ロータコア12は、磁石孔121に、径方向に突出する突起124を有する。径方向の突起124は、ロータコア12の一部としてロータコア12と一体形成されてよい。例えば、ロータコア12が積層鋼板により形成される場合、径方向の突起124は、対応する鋼板120Aのプレスの際に形成されてもよい。
【0019】
径方向の突起124は、磁石孔121における径方向内側及び径方向外側のうちのいずれか一方側に設けられる。本実施例では、一例として、径方向の突起124は、磁石孔121における径方向内側に設けられ、径方向外側に向けて突出する。なお、突起124の突出方向は、必ずしも径方向に平行である必要はなく、磁石孔121における対向する側(磁石孔121における径方向内側及び径方向外側のうちの、突起124が形成される側とは逆側)に向けて突出していればよい。
【0020】
径方向の突起124は、磁石孔121における軸方向の1つ以上の位置に設けられる。径方向の突起124は、磁石孔121における軸方向に沿って等間隔に設けられてもよい。なお、ロータコア12が積層鋼板により形成される場合、一のロータコア12を形成する複数の鋼板のうちの、一部の鋼板120Aだけが突起124を有してよい。
【0021】
本実施例では、永久磁石16は、径方向内側の磁石表面と径方向外側の磁石表面のうちの、突起124に対向する側の磁石表面に、第1樹脂材料層161を有する。なお、第1樹脂材料層161に係る樹脂材料の好ましい例は、後述する。本実施例では、上述したように突起124が磁石孔121の径方向内側に設けられるので、第1樹脂材料層161は、永久磁石16の径方向内側の磁石表面に設けられる。第1樹脂材料層161は、永久磁石16の径方向内側の磁石表面に強固に接合される。第1樹脂材料層161は、絶縁性を有する。第1樹脂材料層161は、磁石孔121内において、永久磁石16の径方向内側の磁石表面とロータコア12との間に延在する。これにより、永久磁石16の径方向内側の磁石表面とロータコア12との間の電気的な絶縁性を確保できる。
【0022】
特に本実施例では、第1樹脂材料層161は、永久磁石16の径方向内側の磁石表面とロータコア12の突起124との間に延在する。すなわち、突起124は、永久磁石16の径方向内側の磁石表面に直接接触することがない。これにより、突起124に起因して永久磁石16の径方向内側の磁石表面とロータコア12との間の電気的な絶縁性が損なわれる可能性を、低減できる。
【0023】
また、本実施例では、永久磁石16は、径方向内側の磁石表面と径方向外側の磁石表面のうちの、突起124に対向する側とは逆側の磁石表面に、第2樹脂材料層162を有する。本実施例では、上述したように突起124が磁石孔121の径方向内側に設けられるので、第2樹脂材料層162は、永久磁石16の径方向外側の磁石表面に設けられる。第2樹脂材料層162は、永久磁石16の径方向外側の磁石表面に強固に接合される。なお、第2樹脂材料層162に係る樹脂材料は、第1樹脂材料層161に係る樹脂材料と同じであってもよいし、異なってもよい。第2樹脂材料層162に係る樹脂材料の好ましい例は、後述する。第2樹脂材料層162は、絶縁性を有する。第2樹脂材料層162は、磁石孔121内において、永久磁石16の径方向外側の磁石表面とロータコア12との間に延在する。これにより、永久磁石16の径方向外側の磁石表面とロータコア12との間の電気的な絶縁性を確保できる。
【0024】
特に本実施例では、永久磁石16の径方向外側の磁石表面に接合する第2樹脂材料層162は、ロータコア12に接合する。すなわち、第2樹脂材料層162は、径方向内側で永久磁石16の径方向外側の磁石表面に接合し、かつ、径方向外側でロータコア12の磁石孔121における径方向内側の側面に接合する。第2樹脂材料層162は、永久磁石16が自重等に起因して磁石孔121から離脱しないような接合力で、ロータコア12に接合する。また、第2樹脂材料層162は、永久磁石16が自重等に起因して永久磁石16の径方向外側の磁石表面から剥離しないような接合力で、永久磁石16の径方向外側の磁石表面に接合する。
【0025】
ところで、本実施例の突起124とは異なり、より大きい弾性力を発生する径方向の突起を設ける場合、上記の「発明が解決しようとする課題」の欄で述べたように、永久磁石の表面上の絶縁被膜を破壊してしまうおそれがある。永久磁石16の表面上の絶縁被膜が破壊されると、永久磁石16とロータコア12の間で通電が発生し、損失悪化につながる。すなわち、回転電機の動作時にロータコア12に流れる渦電流が永久磁石16にも流れ、永久磁石16が発熱し、当該発熱に起因して損失が発生する。
【0026】
これに対して、本実施例によれば、永久磁石16における突起124に対向する側の磁石表面(すなわち径方向内側の磁石表面)に、第1樹脂材料層161が設けられる。第1樹脂材料層161は、突起124から受けうる機械的な損傷(傷付き)を防止する保護機能を有するので、永久磁石16とロータコア12との間の電気的な絶縁性が突起124に起因して損なわれる可能性を、低減できる。その結果、上述した渦電流による永久磁石16の発熱に起因して損失が生じる可能性を低減できる。
【0027】
また、本実施例によれば、上述したように第2樹脂材料層162が設けられるので、突起124だけで永久磁石16を磁石孔121内に保持できるような大きい弾性力を突起124により発生させる必要がない。すなわち、第2樹脂材料層162が永久磁石16をロータコア12に接合するので、突起124による弾性力を過大にする必要がない。従って、本実施例によれば、突起124の弾性力を低減することで、永久磁石16に対する突起124の攻撃性の低減を図ることができる。すなわち、突起124から永久磁石16の表面上の絶縁被膜(第1樹脂材料層161又はそれよりも内部の絶縁被膜)を保護することが容易となる。このようにして、本実施例によれば、ロータコア12に対する永久磁石16の絶縁性を確保しつつ、ロータコア12の磁石孔121に永久磁石16を固定できる。
【0028】
更に、本実施例によれば、上述したように突起124の弾性力を最小化して永久磁石16に対する攻撃性を最小化できる。これにより、永久磁石16が絶縁被膜で覆われる必要性を低減でき、第1樹脂材料層161及び第2樹脂材料層162以外の絶縁手段(例えば絶縁被膜)を永久磁石16に別途設ける必要性を無くす又は低減できる。従って、本実施例においては、永久磁石16の6面のうちの、第1樹脂材料層161及び第2樹脂材料層162が設けられる2面以外の4面にだけ、絶縁被膜が形成されてもよい。
【0029】
また、本実施例によれば、磁石孔121における径方向内側及び径方向外側のうちの径方向内側に突起124が設けられる。この場合、回転電機の動作時に、永久磁石16に遠心力が作用すると、第2樹脂材料層162には径方向に沿って圧縮方向の向きの力が作用する。従って、遠心力に起因してロータコア12及び永久磁石16に対する第2樹脂材料層162の接合強度が低下してしまう可能性(剥離等の可能性)を、低減できる。
【0030】
ところで、本実施例において、突起124は、上述したように、比較的小さい弾性力を有することから、上述したように永久磁石16に対する攻撃性が小さくなる反面、単独では永久磁石16を磁石孔121に保持することができない。すなわち、本実施例において、突起124による弾性力は、後述するように、回転電機用ロータ1の製造時に、第2樹脂材料層162による永久磁石16とロータコア12との間の接合強度(接着力)を高める機能を果たすものである。従って、製品状態において、突起124は、実質的に弾性力を発生させていなくてもよい。
【0031】
次に、図4以降を参照して、本実施例による回転電機用ロータ1の製造方法について詳説する。
【0032】
図4は、本実施例による回転電機用ロータ1の製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。図5から図8は、図4に示す製造方法の説明図である。具体的には、図5は、本製造方法の挿入工程の前におけるワークの状態を示す図である。図6は、弾性変形前の状態の突起を模式的に示す斜視図である。図7は、本製造方法の挿入工程中におけるワークの状態を示す図である。図8は、本製造方法の挿入工程の後(接着工程中)におけるワークの状態を示す図である。
【0033】
本製造方法は、まず、ロータコア12のワーク(以下、単に「ロータコア12」と称する)と永久磁石16のワーク(以下、単に「永久磁石16」と称する)とを準備する準備工程(ステップS100)を含む。なお、図5から図8等では、ロータコア12と永久磁石16の各ワークには、ロータコア12及び永久磁石16と同じ符号が付与されている。図5から図8では、参照符号については、ワークと製品の構成要素とは区別せずに用いる。
【0034】
準備工程で準備されるロータコア12において、径方向の突起124は、図5に示すように、弾性変形前の形態であってよく、具体的には、径方向にまっすぐ延在する形態(図6参照)であってよい。また、準備工程で準備される永久磁石16は、上述した第1樹脂材料層161を形成するための第1樹脂材料81及び第2樹脂材料層162を形成するための第2樹脂材料82が付与された状態であってよい。なお、準備工程は、永久磁石16の素材となる磁石片に、第1樹脂材料81及び第2樹脂材料82を付与する工程を含んでもよい。なお、永久磁石16の素材となる磁石片には、絶縁被膜が形成されていなくてよい。
【0035】
本実施例では、一例として、第1樹脂材料81及び第2樹脂材料82は、同じ樹脂材料により形成される。この場合、それぞれ異なる材料を利用する場合に比べて簡易な製造方法を実現できる。また、第1樹脂材料81及び第2樹脂材料82は、好ましくは、絶縁性、耐油性、及び耐熱性を有する。また、第1樹脂材料81及び第2樹脂材料82は、熱により軟化又は溶融する特性を有し、好ましくは、熱可塑性樹脂材料である。第1樹脂材料81及び第2樹脂材料82は、絶縁性を高めるために、ガラス繊維等を含んでもよい。例えば、第1樹脂材料81及び第2樹脂材料82は、ともに、ポリエーテルイミドとガラス繊維とを含む樹脂シートにより実現されてもよい。この場合、永久磁石16の素材となる磁石片の表面上に樹脂シートを配置し、加熱及び加圧することで、第1樹脂材料81及び第2樹脂材料82を当該磁石片に固着させてもよい。
【0036】
本製造方法は、ついで、ロータコア12の磁石孔121に、永久磁石16を挿入する挿入工程(ステップS102)を含む。挿入工程は、図7に示すように、突起124を弾性変形させることを伴う。
【0037】
本実施例では、好ましい例として、挿入工程は、図5及び図7に示すように、磁石孔121内に治具70に後続して永久磁石16が挿入される態様で、磁石孔121内に治具70を軸方向に挿入することを更に含む。この場合、治具70により突起124を弾性変形させた後に、永久磁石16を磁石孔121内に挿入できる。従って、この場合、挿入する永久磁石16によって突起124を初期的に弾性変形させる場合に比べて、永久磁石16が突起124を弾性変形させる際に生じうる第1樹脂材料81の損傷(例えば剥がれ)や永久磁石16の損傷を低減又は防止できる。
【0038】
なお、図7に示す例では、治具70は、永久磁石16の軸方向端面(挿入する際の先頭側の端面)に隣接して設けられているが、治具70は、永久磁石16から離れて配置されてもよい。また、治具70は、永久磁石16とは別に事前に挿入されていてもよい。この場合、準備段階で準備されるロータコア12は、治具70によってすでに突起124が下向きに(挿入する側を上側とした場合の下向きに)塑性変形されていてもよい。この場合でも、挿入工程時に永久磁石16が突起124を弾性変形させる際に永久磁石16が突起124から受ける力を低減できるので、挿入工程の際に生じうる第1樹脂材料81の損傷や永久磁石16の損傷を低減又は防止できる。
【0039】
永久磁石16が最終の挿入位置まで挿入されることで挿入工程が終了すると、図8に示すように、永久磁石16は、弾性変形した各突起124により径方向外側に向けて力(図8の力F7参照)を受ける。その結果、ロータコア12の磁石孔121内において永久磁石16が径方向外側に押し付けられた状態(押圧状態)となる。この際、磁石孔121の径方向外側の表面と、永久磁石16の径方向外側の磁石表面との間に、第2樹脂材料82が挟まれた状態となる。第2樹脂材料82は、弾性変形した各突起124により径方向外側に向けて作用する弾性力(図8の力F7参照)に起因して、圧縮方向の力を受ける。すなわち、突起124による弾性力に起因して永久磁石16の径方向外側の磁石表面がロータコア12に押圧された押圧状態(図8の力P7参照)が形成される。この際、永久磁石16の径方向外側の磁石表面上の面圧は、好ましくは、0.02MPaから5MPaの範囲内である。
【0040】
ついで、加熱によりロータコア12と永久磁石16との間の第2樹脂材料82を軟化又は溶融させることで、第2樹脂材料82の接合層(すなわち第2樹脂材料層162)を介して永久磁石16とロータコア12とを接着する接着工程(ステップS104)を含む。第2樹脂材料82が上述したような熱可塑性樹脂材料である場合、熱を加えることで第2樹脂材料82が軟化又は溶融し、その後、冷却工程(図示せず)により当該熱を除去することで、第2樹脂材料82を硬化させることができる。この場合、硬化後の第2樹脂材料82は、永久磁石16の径方向外側の磁石表面とロータコア12とに接合する第2樹脂材料層162となる。なお、第2樹脂材料82が上述したような熱硬化性樹脂材料である場合も、熱を加えて硬化させる過程で、第2樹脂材料82が軟化又は溶融する。この場合も、硬化後の第2樹脂材料82は、永久磁石16の径方向外側の磁石表面とロータコア12とに接合する第2樹脂材料層162となることができる。
【0041】
このようにして、本製造方法によれば、上述した各種効果を奏する回転電機用ロータ1を製造できる。
【0042】
ここで、本実施例によれば、接着工程は、突起124による弾性力に起因して永久磁石16の径方向外側の磁石表面がロータコア12に押圧された押圧状態(図8の力P7参照)(以下、単に「突起124による押圧状態」とも称する)で実行される。従って、永久磁石16とロータコア12との間に第2樹脂材料82が隙間なく充填された状態で、第2樹脂材料82を硬化させることができる。これにより、ロータコア12の磁石孔121における永久磁石16に対向する側の表面全体に対して、第2樹脂材料層162を接合させることができる。また、加熱の際に押圧状態を形成することで、ロータコア12に対する第2樹脂材料82の接合強度を高めることができる。その結果、永久磁石16とロータコア12との間の第2樹脂材料82を介した接合強度を効果的に高めることができる。
【0043】
また、本実施例によれば、突起124による押圧状態を形成できるので、第1樹脂材料81及び第2樹脂材料82は、熱等により発泡する発泡材料である必要もない。換言すると、本実施例によれば、発泡材料を用いずに、突起124による押圧状態(及びそれに伴い永久磁石16とロータコア12との間に第2樹脂材料82が充填された状態)を形成できる。
【0044】
また、本実施例によれば、接着工程は、加熱により第2樹脂材料82とともに、第1樹脂材料81を軟化又は溶融させることを伴う。この場合、挿入工程の際に損傷しうる第1樹脂材料81の層を修復させることができる。すなわち、永久磁石16は、挿入工程の際に突起124と当たりながら軸方向に相対移動するので、第1樹脂材料81の層の径方向内側の表面には、相対的な突起124の軸方向の移動軌跡に応じた傷跡が付く可能性がある。しかしながら、第1樹脂材料81の層は、接着工程の熱により自己修復できる。
【0045】
ところで、本実施例では、接着工程の熱により第1樹脂材料81が軟化又は溶融するので、第1樹脂材料81の層の自己修復効果が得られる反面、第1樹脂材料81が軟化又は溶融すると、第1樹脂材料81の層に対する突起124の侵入量(径方向外側への侵入量)が増加するおそれがある。第1樹脂材料81の層を超えて突起124が永久磁石16の径方向外側の磁石面に当接すると、上述したように、ロータコア12に対する永久磁石16の絶縁性が損なわれるおそれがある。
【0046】
この点、本実施例では、突起124は、ロータコア12に対して永久磁石16を保持する目的ではなく、接着工程において突起124による押圧状態(図8の力P7参照)を形成する目的のために設けられる。従って、弾性変形した各突起124により永久磁石16が受ける径方向外側に向かう力(図8の力F7参照)は、突起124による押圧状態を実現できる最小限の値であってよく、永久磁石16のサイズ等に応じて最小化されてよい。かかる力を最小化することで、突起124の弾性力を最小化できる。その結果、第1樹脂材料81の層に対する突起124の侵入量(径方向外側への侵入量)を低減でき、上述した突起124による押圧状態(図8の力P7参照)は、突起124と永久磁石16との間に第1樹脂材料81の層が残る状態でも、実現できる。なお、かかる状態(突起124と永久磁石16との間に第1樹脂材料81の層が残る状態での押圧状態)を、より確実に実現するために、突起124は、図5及び図6に示すような弾性変形前の形態(まっすぐに径方向に延在する形態)での突出長さL1が適切に設定されてよい。また、接着工程での加熱条件を適切に設定することで、第1樹脂材料81の層に対する突起124の侵入量(径方向外側への侵入量)を低減してもよい。あるいは、一の永久磁石16あたりの突起124の数を適切に設定することで、突起124による押圧状態を確保しつつ、第1樹脂材料81の層に対する突起124の侵入量(径方向外側への侵入量)を低減してもよい。
【0047】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0048】
1・・・回転電機用ロータ、12・・・ロータコア、121・・・磁石孔、124・・・突起、16・・・永久磁石(磁石)、81・・・第1樹脂材料、82・・・第2樹脂材料、161・・・第1樹脂材料層(第1樹脂材料の層)、162・・・第2樹脂材料層(第2樹脂材料の層)、70・・・治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8