(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175102
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】排ガスボイラシステム
(51)【国際特許分類】
F22B 1/18 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
F22B1/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087380
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】福田 尚史
(72)【発明者】
【氏名】石崎 信行
(57)【要約】
【課題】比較的低温の排ガスから熱回収できる排ガスボイラシステムを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る排ガスボイラシステム1は、排ガスと熱交換して補給水を蒸発させる第1蒸発器20と、前記第1蒸発器20を通過した前記排ガスと熱交換して補給水を蒸発させる第2蒸発器30と、前記第2蒸発器30を通過した排ガスと熱交換して前記第1蒸発器20及び前記第2蒸発器30に供給される補給水を加熱するエコノマイザ40と、前記第2蒸発器30で発生した蒸気を圧縮する蒸気圧縮機50と、前記第1蒸発器20で発生した蒸気及び前記蒸気圧縮機50で圧縮された蒸気が導入される蒸気ヘッダ60と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスと熱交換して補給水を蒸発させる第1蒸発器と、
第1蒸発器を通過した排ガスと熱交換して補給水を蒸発させる第2蒸発器と、
第2蒸発器を通過した排ガスと熱交換して第1蒸発器及び第2蒸発器に供給される補給水を加熱するエコノマイザと、
第2蒸発器で発生した蒸気を圧縮する蒸気圧縮機と、
第1蒸発器で発生した蒸気及び蒸気圧縮機で圧縮された蒸気が導入される蒸気ヘッダと、
を備える、排ガスボイラシステム。
【請求項2】
排ガスの温度は250℃以上320℃以下であり、
第1蒸発器の蒸気圧は0.5MPa以上1.0MPa以下であり、
第2蒸発器の蒸気圧は0.05MPa以上0.20MPa以下である、
請求項1に記載の排ガスボイラシステム。
【請求項3】
蒸気圧縮機は、蒸気を圧縮する空間内に水を噴射する給水手段を備える水噴射式蒸気圧縮機である、請求項1又は2に記載の排ガスボイラシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスボイラシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、発電機を駆動するガスエンジン等からは高温の排ガスが排出されるため、排ガスから熱回収して蒸気を生成する排ガスボイラが利用される。排ガスから回収できる熱量を増大するために、排ガスの流路の上流側から下流側に並んで配設される複数の蒸発器(缶体)を備える排ガスボイラも知られている。このような排ガスボイラでは、上流側ほど高圧の蒸気を得ることができる。蒸気の圧力が低すぎると発生した蒸気を有効に利用することができないため、排ガスボイラにおいても一定以上の圧力を有する蒸気を生成する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、上流側の蒸発器で発生する高圧の蒸気と下流側の蒸発器で発生する低圧の蒸気とをエゼクタを用いて混合することで、利用可能な圧力の蒸気を得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、二酸化炭素排出を削減は喫緊となっており、ガスエンジン等では熱効率の向上に伴って排ガスの温度が低下している。単段の蒸発器を有する排ガスボイラでは蒸気の発生量が少なくなり、給水加熱器の通水量が減少することで沸騰が生じる場合がある。一方、多段の蒸発器を有する排ガスボイラを使用して低温の排ガスから熱回収すると、高圧の蒸気の発生量が相対的に少なくなる。このため、特許文献1のようにエゼクタを利用するシステムでは、混合後の蒸気を利用可能な圧力まで昇圧することができない場合がある。
【0006】
このため、本発明は、比較的低温の排ガスから効果的かつ安定的に熱回収量を増やすことができる排ガスボイラシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る排ガスボイラシステムは、排ガスと熱交換して補給水を蒸発させる第1蒸発器と、前記第1蒸発器を通過した前記排ガスと熱交換して補給水を蒸発させる第2蒸発器と、前記第2蒸発器を通過した排ガスと熱交換して前記第1蒸発器及び前記第2蒸発器に供給される補給水を加熱するエコノマイザと、前記第2蒸発器で発生した蒸気を圧縮する蒸気圧縮機と、前記第1蒸発器で発生した蒸気及び前記蒸気圧縮機で圧縮された蒸気が導入される蒸気ヘッダと、を備える。
【0008】
上述の排ガスボイラシステムにおいて、前記排ガスの温度は250℃以上320℃以下であり、前記第1蒸発器の蒸気圧は0.5MPa以上1.0MPa以下であり、前記第2蒸発器の蒸気圧は0.05MPa以上0.2MPa以下であってもよい。
【0009】
上述の排ガスボイラシステムにおいて、前記蒸気圧縮機は、前記蒸気を圧縮する空間内に水を噴射する給水手段を備える水噴射式蒸気圧縮機であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較的低温の排ガスから効果的かつ安定的に熱回収量を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る排ガスボイラシステムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。
図1は、本発明の一実施形態に係る排ガスボイラシステム1の構成を示す模式図である。
【0013】
排ガスボイラシステム1は、不図示のガスエンジン等が排出する排ガスから熱回収して蒸気を発生させる。排ガスボイラシステム1は、排ガスを案内する排ガスチャンバ10と、排ガスチャンバ10の中に上流側から順番に配設される第1蒸発器20、第2蒸発器30及びエコノマイザ40と、第2蒸発器30で発生した蒸気を圧縮する蒸気圧縮機50と、第1蒸発器20で発生した蒸気及び蒸気圧縮機50で圧縮された蒸気が導入される蒸気ヘッダ60と、を備える。
【0014】
排ガスチャンバ10は、排ガスが第1蒸発器20、第2蒸発器30及びエコノマイザ40をこの順番に通過してから、不図示の煙突などを通して外部に排出されるよう、排ガスを案内する。
【0015】
排ガスチャンバ10に導入される排ガスの温度の下限としては、250℃が好ましく、270℃がより好ましい。一方、排ガスチャンバ10に導入される排ガスの温度の上限としては、320℃が好ましく、300℃がより好ましい。排ガスチャンバ10に導入される排ガスの温度が前記下限以上であれば、排ガスにより蒸気を発生させることで効果的に熱回収を行うことができる。また、排ガスチャンバ10に導入される排ガスの温度が前記上限以下であれば、排ガス温度の低下に伴って熱回収率の低下が顕著となる従来の単段の排ガスボイラに比べて高い熱回収率を達成できる。つまり、前記温度範囲は、排ガスボイラシステム1が従来の排ガスボイラに比べて特に有利となる範囲である。
【0016】
第1蒸発器20は、排ガスと熱交換して補給水を蒸発させる。第1蒸発器20は、補給水を貯留する下部ヘッダ21と、下部ヘッダ21から延出し、排ガスによって加熱され、内部の補給水を蒸発させる複数の水管22と、水管22で発生した蒸気を集める上部ヘッダ23と、上部ヘッダ23から流出する蒸気中に含まれる水滴を分離する気水分離器24と、水管22における水面高さを一定範囲内に保持するよう、下部ヘッダ21に供給される補給水の水量を調節する給水弁25と、を有する貫流ボイラとすることができる。
【0017】
第1蒸発器20の蒸気圧(ゲージ圧)の下限としては、0.5MPaが好ましく、0.6MPaがより好ましい。一方、第1蒸発器20の蒸気圧の上限としては、1.0MPaが好ましく、0.9MPaがより好ましい。第1蒸発器20の蒸気圧を前記下限以上とすることによって、第1蒸発器20で発生した蒸気を一般的な需要設備において利用できる。加えて、第1蒸発器20の蒸気圧を前記下限以上とすることによって、第1蒸発器20において排ガスの温度が低くなり過ぎることを防止して、第2蒸発器30において効率的に熱回収し、排ガスボイラシステム1全体としての熱効率を向上できる。また、第1蒸発器20の蒸気圧を前記上限以下とすることにより、第1蒸発器20における回収熱量を確保するとともに、設備コストが不必要に上昇することを防止できる。
【0018】
第2蒸発器30は、第1蒸発器20を通過した排ガスと熱交換して補給水を蒸発させる。第2蒸発器30は、補給水を貯留する下部ヘッダ31と、下部ヘッダ31から延出し、排ガスによって加熱され、内部の補給水を蒸発させる複数の水管32と、水管32で発生した蒸気を集める上部ヘッダ33と、上部ヘッダ33から流出する蒸気中に含まれる水滴を分離する気水分離器34と、水管32における水面高さを一定範囲内に保持するよう、下部ヘッダ31に供給される補給水の水量を調節する給水弁35と、を有する貫流ボイラとすることができる。
【0019】
第2蒸発器30の蒸気圧の下限としては、0.05MPaが好ましく、0.06MPaがより好ましい。一方、第2蒸発器30の蒸気圧の上限としては、0.20MPaが好ましく、0.15MPaがより好ましい。第2蒸発器30の蒸気圧を前記下限以上とすることによって、蒸気圧縮機50の負荷つまり電力消費及びそれに伴う二酸化炭素排出を抑制し効果的かつ安定的に熱回収量を増やすことができるとともに蒸気圧縮機50の大型化により設備コストが不必要に上昇することを防止できる。また、第2蒸発器30の蒸気圧を前記上限以下とすることにより、排ガスから回収できる熱量を十分に増やすことができる。
【0020】
エコノマイザ40は、第2蒸発器30を通過した排ガスと熱交換して第1蒸発器20及び第2蒸発器30に供給される補給水を加熱する。つまり、エコノマイザ40で加熱された補給水は、第1蒸発器20と第2蒸発器30に分配され、エコノマイザ40には、給水ポンプ41によって第1蒸発器20の蒸気圧以上の圧力で補給水が供給される。例えば、第1蒸発器の蒸気圧が0.8MPaの場合、エコノマイザには0.8MPa以上が加圧されており、一方、第2蒸発器を通過してエコノマイザに流入する排ガス温度は135℃に低下する。このため、エコノマイザの水温は飽和温度を超えることが無く、スティーミング発生がない安定的な熱回収を行うことができる。
【0021】
蒸気圧縮機50は、第2蒸発器30で発生した蒸気を第1蒸発器20で発生した蒸気と等しい圧力になるまで圧縮する。蒸気圧縮機50としては、例えばスクリュ式圧縮機を用いることができる。また、蒸気圧縮機50は、例えばポンプ等を含み、蒸気を圧縮する空間内に水を噴射する給水手段51を備える水噴射式蒸気圧縮機であることが好ましい。蒸気圧縮機50の蒸気を圧縮する空間内に水を噴射することによって、蒸気が過熱蒸気になることを防止するとともに、噴射した水を蒸発させることで吐出する蒸気量を増大できる。また、給水手段51を有する蒸気圧縮機50は、排ガス温度の変動により第2蒸発器30における蒸気発生量が変動しても安定して運転することができるので、常に最大限の熱回収を行うことができる。
【0022】
蒸気ヘッダ60は、第1蒸発器20で発生した蒸気及び蒸気圧縮機50で圧縮された蒸気を一次的に貯留し、需要設備に蒸気を安定供給するためのバッファである。蒸気ヘッダ60の容量は、排ガスボイラシステム1に供給される排ガスの風量及び温度の変動、需要設備の負荷変動等を考慮して適宜設定される。蒸気ヘッダ60には、例えば燃料焚きボイラ等の通常のボイラからも蒸気が供給されてもよい。これにより、排ガスボイラシステム1に供給される排ガスの量と需要設備の蒸気使用量とが連動しない場合であっても、需要設備が必要とする量の蒸気を安定して供給できる。
【0023】
上述のように、排ガスボイラシステム1は、第1蒸発器20で排ガスから熱回収を行って所望の圧力の蒸気を生成した後、さらに第2蒸発器30で排ガスから熱回収を行って低圧の蒸気を生成し、この低圧の蒸気を蒸気圧縮機50で所望の圧力まで昇圧する。このため、排ガスボイラシステム1は、より多くの熱エネルギを利用可能な蒸気エネルギとして回収できるので、排ガスの温度が低く、従来の排ガスボイラシステムでは回収できる熱量が小さい場合であっても、排ガスから効果的かつ安定的に熱回収できる。
【0024】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更及び変形が可能である。例として、本発明に係る排ガスボイラシステムにおいて、第1蒸発器及び第2蒸発器は貫流ボイラに限られず、例えば蒸気ドラム内で水を蒸発させる水管ボイラ等の構成を有してもよい。
【実施例0025】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
図1の構成を有する排ガスボイラシステムの実施例と、単段の蒸発器及びエコノマイザを有する従来の排ガスボイラシステムと、について発生する蒸気量についてのシミュレーションを行った。排ガスボイラシステムに供給される排ガスの温度は300℃、排ガスの流量は37000Nm3/h、補給水の水温を25℃とした。
【0027】
実施例の排ガスボイラシステムでは、第1蒸発器の蒸気圧及び蒸気圧縮機の吐出圧力を0.78MPa、第2蒸発器の蒸気圧を0.10MPaに設定した場合、第1蒸発器の蒸気発生量は2397kg/h、第2蒸発器の蒸気発生量は1182kg/h、蒸気圧縮機の消費電力は170kW、蒸気圧縮機における水噴射量は117kg/h(蒸気圧縮機の吐出蒸気量は1300kg/h)となり、蒸気ヘッダにおいて合計3698kg/hの蒸気を得られた。なお、実施例の排ガスボイラシステムを通過した排ガスの温度は109℃となった、一方、比較例の排ガスボイラシステムでは、蒸気発生量は2363kg/h、排ガスボイラシステムを通過した排ガスの温度は168℃となった。
【0028】
実施例の排ガスシステムと比較例の蒸気発生量の差は1335kg/hであるが、この蒸気量を都市ガス(13A)を燃料とするボイラによって得る場合、57m3N/hの燃料が必要であり、二酸化炭素排出量は172kg/hとなる。これに対し、実施例の排ガスシステムにおいて蒸気圧縮機が消費する電力に電力会社の二酸化炭素排出係数を乗じて算出される蒸気圧縮機の二酸化炭素排出量は83kg/hとなる。したがって、実施例の排ガスシステムでは、比較例に対して二酸化炭素排出量を52%削減できる。
【0029】
実施例の排ガスボイラシステムにおいて、第2蒸発器の蒸気圧を変更した場合のシミュレーションを行った結果を、次の表1に示す。表には、第2蒸発器の出口排ガス温度、エコノマイザ出口の排ガス温度、全体蒸気量(第1蒸発器蒸発量と蒸気圧縮機吐出蒸気量の合計)及び蒸気圧縮機消費電力を、それぞれ第2蒸発器の蒸気圧が0.10MPaである場合に対する百分率で示す。また、第1蒸発器蒸発量及び蒸気圧縮機吐出蒸気量は、全体蒸気量(百分率)の内訳を示す。
【0030】
【0031】
第2蒸発器の蒸気圧を低くすると、第2蒸発器の蒸気圧が低下することで、第2蒸発器の出口排ガス温度、エコノマイザの出口水温、さらに第1蒸発器の蒸発量が低下する。一方、第2蒸発器では、蒸気圧の低下と共に入口と出口の排ガス温度差は大きくなり、第2蒸発器の蒸気量は増加する。したがって、第2蒸発器の蒸気圧を低くすると、第2蒸発器の蒸発量増加が大きくなるため、システム全体の蒸発量は増加する。このため、第2蒸発器の蒸気圧は、第2蒸発器の熱回収量を十分に確保できる0.2MPa以下が好ましい。このとき、第2蒸発器出口の排ガス温度は150℃以下となりエコマイザの通水が停止した場合でも給水温度は飽和蒸気圧を超えることがなく、沸騰が起きないため、安定的して蒸気を供給できる。また、沸騰の考慮が不要であるため、管内圧損の上昇、エロ-ジョンなどが発生せず、エコノマイザの伝熱面の設計に余裕ができる。また、第2蒸発器の蒸気圧の下限は、蒸気圧縮機の負荷を過度に大きくしないことで、蒸気圧縮機の電力消費に伴う二酸化炭素発生及び設備コストを過度に増大させない0.05MPaが好ましい。