(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175124
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】めっき素材及びめっき前処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/31 20060101AFI20231205BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20231205BHJP
C23C 18/18 20060101ALI20231205BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
C23C18/31 A
D06M11/83
C23C18/18
D06M101:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087415
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】本江 聡子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 里佳
【テーマコード(参考)】
4K022
4L031
【Fターム(参考)】
4K022AA01
4K022AA36
4K022AA41
4K022BA01
4K022BA03
4K022BA06
4K022BA07
4K022BA08
4K022BA10
4K022BA14
4K022BA18
4K022BA21
4K022BA25
4K022BA28
4K022CA06
4K022CA29
4K022DA01
4L031AA27
4L031AB01
4L031BA04
4L031CB12
4L031DA15
(57)【要約】
【課題】金属めっきの密着力をより高めることができるめっき素材、及び、めっき前処理方法を提供する。
【解決手段】めっき繊維1は、炭素繊維10と、炭素繊維10を被覆する金属めっき20とを備え、炭素繊維10と金属めっき20との界面となる炭素繊維10の表面に平均粒径が0.1nm以上30nm以下のめっき用触媒金属30が分散している。また、めっき前処理方法は、処理槽内に炭素繊維10を投入し、めっき用触媒金属30の有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中に浸漬する浸漬工程と、浸漬工程において炭素繊維10を流体中に浸漬させた後に、処理槽内を0.05kg/min以上0.2kg/min以下の速度で減圧する減圧工程とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素素材と、前記炭素素材を被覆する金属めっきと、を備えためっき素材であって、
前記炭素素材と前記金属めっきとの界面となる前記炭素素材の表面に平均粒径が0.1nm以上30nm以下のめっき用触媒金属が分散している
ことを特徴とするめっき素材。
【請求項2】
前記金属めっき内に前記めっき用触媒金属が分散している
ことを特徴とする請求項1に記載のめっき素材。
【請求項3】
前記金属めっきは、前記炭素素材の表面の凹凸に沿って析出している
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のめっき素材。
【請求項4】
処理槽内に炭素素材を投入し、当該炭素素材をめっき用触媒金属の有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程において前記炭素素材を流体中に浸漬させた後に、前記処理槽内を0.05kg/min以上0.2kg/min以下の速度で減圧する減圧工程と、
を備えることを特徴とするめっき前処理方法。
【請求項5】
前記減圧工程後に、前記処理槽内を250℃以上の温度に昇温させる熱還元工程
をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載のめっき前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき素材及びめっき前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維等の炭素素材に対して金属めっきを施しためっき素材が提案されている。このようなめっき素材は、例えばエッチングにより炭素素材の表面を荒らしてアンカー効果を出すことでめっきの密着力を高めることができる。しかし、このようなめっき素材は、アンカー効果でめっきの密着力を高めることができるものの、めっき密着力が未だ充分とはいえないものであった。
【0003】
そこで、油剤を含有しない炭素繊維に対して有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体を浸漬することで炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させるめっき前処理方法が提案されている(例えば特許文献1,2)。このめっき前処理方法によれば、炭素繊維表面に有機金属錯体が付着することで、後の無電解めっき工程等においてより高い密着力で炭素繊維に金属めっきを施すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-70826号公報
【特許文献2】特開2020-158813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1,2に記載のめっき前処理方法を経て製造されためっき素材は、金属めっきの密着力が未だ充分とはいえなかった。
【0006】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、金属めっきの密着力をより高めることができるめっき素材、及び、めっき前処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るめっき素材は、炭素素材と、前記炭素素材を被覆する金属めっきと、を備えためっき素材であって、前記炭素素材と前記金属めっきとの界面となる前記炭素素材の表面に平均粒径が0.1nm以上30nm以下のめっき用触媒金属が分散している。
【0008】
また、本発明に係るめっき前処理方法は、処理槽内に炭素素材を投入し、当該炭素素材をめっき用触媒金属の有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中に浸漬する浸漬工程と、前記浸漬工程において前記炭素素材を流体中に浸漬させた後に、前記処理槽内を0.05kg/min以上0.2kg/min以下の速度で減圧する減圧工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属めっきの密着力をより高めることができるめっき素材、及び、めっき前処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るめっき素材の一例であるめっき繊維を示す断面図である。
【
図2】
図1に示しためっき繊維の一部拡大図であって、(a)は透過電子顕微鏡(TEM)による写真を示し、(b)は(a)と同一箇所におけるめっき用触媒金属の元素マッピングの様子を示し、(c)は(a)と同一箇所における金属めっきの元素マッピングを示している。
【
図3】本実施形態に係るめっき繊維の製造方法を示す工程図である。
【
図4】各工程におけるTEM像(写真)及び元素マッピングを示す図である。
【
図5】実施例1に係るめっき繊維と比較例1に係るめっき繊維との180°屈曲試験を示す図であり、(a)は180°屈曲試験の様子を示し、(b)は180°屈曲試験の結果を示している。
【
図6】実施例1に係るめっき繊維と比較例1に係るめっき繊維との導体抵抗を示すグラフである。
【
図7】
図3に示した熱還元工程における温度を変化させたときのめっき繊維の状態を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るめっき素材の一例であるめっき繊維を示す断面図である。
図1に示すめっき繊維(めっき素材)1は、炭素繊維(炭素素材)10と、炭素繊維10を被覆する金属めっき20とを備えて構成されている。炭素繊維10は、アクリル繊維又はピッチ(石油、石炭、コールタール等の副生成物)を原料に高温で炭化させた繊維である。
【0013】
金属めっき20は、炭素繊維10上に形成された導電性の金属によるめっきであって、例えば化学反応を利用した無電解めっき処理によって形成されている。この金属めっき20は、銅、銀、金、ニッケル、クロム、スズ、亜鉛、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト及びインジウムからなる群より選択される1種以上の金属によって構成されている。
【0014】
また、めっき繊維1は、化学反応により上記の金属めっき20を析出させるためのめっき用触媒金属30を有している。めっき用触媒金属30は、金、白金、パラジウム、ニッケル、銀、銅、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、スズ、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト、インジウム、イットリウム、バリウム、ガリウム、スカンジウム、ジルコニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、レ二ウム、オスミウム、イリジウム、タリウム、ルビジウム、セシウム、バナジウム、鉛、ニオブ及びクロムの中から選択される少なくとも一種からなる金属である。
【0015】
図2は、
図1に示しためっき繊維1の一部拡大図であって、(a)は透過電子顕微鏡(TEM)による写真を示し、(b)は(a)と同一箇所におけるめっき用触媒金属30の元素マッピングの様子を示し、(c)は(a)と同一箇所における金属めっき20の元素マッピングを示している。
【0016】
まず、
図2(a)に示すように、炭素繊維10上に金属めっき20が形成されている。炭素繊維10と金属めっき20との界面(炭素繊維10の表面)に着目して
図2(b)を参照すると、炭素繊維10の表面に該当する部分にめっき用触媒金属30が分散していることが分かる。このめっき用触媒金属30は、平均粒径が0.1nm以上30nm以下となっている。
【0017】
ここで、めっき用触媒金属30の平均粒径が30nm以下である場合、めっき用触媒金属30は或る程度小さいといえる。このような或る程度小さいめっき用触媒金属30が炭素繊維10の表面(炭素繊維10と金属めっき20との界面)に付着して金属めっき20が析出すると、金属めっき20は、炭素繊維10の表面に近い位置で析出することとなり、結果として金属めっき20が炭素繊維10の表面に密着し易くなって密着力が向上することとなる。
【0018】
さらに、本実施形態では、めっき用触媒金属30の平均粒径が0.1nm以上である。このため、平均粒径が0.1nm未満であるときのように平均粒径が小さくなり過ぎてしまい、炭素繊維10の表面にめっき用触媒金属30を高密度で分散させなければ、金属めっき20にムラが生じてしまう事態も抑制することができる。
【0019】
また、
図2(a)及び
図2(c)に示すように、金属めっき20は、界面のナノオーダーの凹凸(深さ又は高さが5nm以上50nm以下)に沿って析出している。このため、炭素繊維10の微細な凹凸に合わせて金属めっき20が析出することとなり、凹凸に合った金属めっき20となって、密着力が向上することとなる。
【0020】
次に、本実施形態に係るめっき繊維1の製造方法を説明する。
図3は、本実施形態に係るめっき繊維1の製造方法を示す工程図であり、
図4は、各工程におけるTEM像(写真)及び元素マッピングを示す図である。
【0021】
本実施形態に係るめっき繊維1を製造するにあたっては、まず繊維準備工程において複数本の炭素繊維10からなる炭素繊維10の束が用意される(
図3:S1)。なお、繊維準備工程において用意される炭素繊維10は、油剤を含むものであってもよいし、油剤を含まないものであってもよい。なお、以下の説明において炭素繊維10が油剤を含むものであるとして説明する。
【0022】
繊維準備工程の後、炭素繊維10の束に対してめっき前処理が施される。めっき前処理は、浸漬工程(S2)、熱還元工程(S3)、及び減圧工程(S4)を備えている。
【0023】
めっき前処理においては、まず浸漬工程が行われる(S2)。浸漬工程では、処理槽(不図示)内に炭素繊維10の束が投入され、当該炭素繊維10の束がめっき用触媒金属30(例えばパラジウム)の有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中(例えば超臨界二酸化炭素中)に浸漬させられる。
【0024】
その後、減圧工程が行われる(S3)。減圧工程では、処理槽内が0.05kg/min以上0.2kg/min以下の速度で減圧させられる。減圧速度は、処理槽内の流体を大気に放出するための流路上に設けられたバルブの開度や流路径によって調整することができる。ここで、本実施形態に係るめっき繊維1の製造方法では、減圧速度を0.05kg/min以上とすることでめっき用触媒金属30の平均粒径を適切化(30nm以下に)している。超臨界流体や亜臨界流体中に有機金属錯体を溶かしたものを大気中に放出すると、流体の圧力及び温度が急激に低下して流体の溶解力が急激に低下する。この急激な溶解力の低下が短時間で起こると流体への飽和度も急激に低下し微量しか溶解しない状態で放出されるため、めっき用触媒金属30が微粒子で析出することとなる。以上より、減圧速度を高めることでめっき用触媒金属30を微粒子化(小さく)することができる。また、減圧速度を0.2kg/min以下とすることで、設備要件のレベルが過剰に高くなること防止することができる。なお、減圧工程後においてめっき用触媒金属30(有機金属錯体)は、
図4に示すように炭素繊維10の表面油剤の影響を受けて表面からやや離れた箇所に位置している。
【0025】
次いで、
図3に示すように熱還元工程が行われる(S4)。熱還元工程では、処理槽内が250℃以上の温度に昇温させられる。これにより、炭素繊維10が油剤を含むものであったとしても、油剤が揮発することとなる。また、油剤が揮発することから複数本の炭素繊維10それぞれが開繊状態(繊維同士が引っ付いていない状態)となる。なお、昇温状態は30分以上(好ましくは1時間以上)継続されることが好ましい。さらに、
図4に示すように、熱還元工程後においては油剤が揮発することから、めっき用触媒金属30は炭素繊維10の表面から油剤厚だけ離れた箇所に位置しておらず炭素繊維10の表面に付着した状態となる。特に、めっき用触媒金属30は、炭素繊維10の表面にナノオーダーの凹凸があったとしても、この凹凸に沿って付着することとなる。
【0026】
以上のようなめっき前処理の完了後、無電解めっき工程が行われる(S5)。これにより、炭素繊維10に対して金属めっき20が施される。この工程において、炭素繊維10の表面に付着していためっき用触媒金属30の一部はめっき析出に伴い表面から離れることとなる。この結果、
図4に示すように、無電解めっき工程後においてめっき用触媒金属30は、金属めっき20中に分散することとなる。
【0027】
次に、実施例及び比較例について説明する。
図5は、実施例1に係るめっき繊維と比較例1に係るめっき繊維との180°屈曲試験を示す図であり、(a)は180°屈曲試験の様子を示し、(b)は180°屈曲試験の結果を示している。180°屈曲試験については、
図5(a)に示すように、めっき繊維の一端(下端)に200gの重りWを吊るした状態で、めっき繊維の上部(上端よりもやや下端側)をφ2mmの一対のマンドレルMで挟みこんだ。次に、めっき繊維の他端(上端)を、マンドレルMに沿って屈曲角度が180°になるように繰り返し屈曲させた。繰り返し屈曲により、導体抵抗値が10%上昇した時点の屈曲回数を測定した。
【0028】
実施例1に係るめっき繊維については平均粒径が0.1nm以上30nm以下の範囲内で様々な平均粒径のもの(平均粒径がそれぞれ0.1nm、10nm、20nm、及び30nmとなるように減圧速度を調整したもの)を採用した。
図5においてはそれぞれの屈曲回数の最小値を図示した。一方、比較例1に係るめっき繊維については、平均粒径が30nmを超えるもの(より詳細には平均粒径が110nm以下程度のものであって、しかも無電解めっきを施したもの)を採用した。
図5においては屈曲回数を複数回測定して平均値を図示した。なお、実施例1及び比較例1に係るめっき繊維については、有機金属錯体がパラジウムであり、金属めっきが銅である。
【0029】
上記の180°屈曲試験の結果、実施例1に係るめっき繊維については屈曲回数が10600回となったが、比較例1に係るめっき繊維については屈曲回数が7050回となった。
【0030】
このように、実施例1に係るめっき繊維が比較例1に係るめっき繊維よりも繰り返し屈曲に強く、金属めっきが剥がれ難いこと、すなわち密着力が高いことがわかった。
【0031】
図6は、実施例1に係るめっき繊維と比較例1に係るめっき繊維との導体抵抗を示すグラフである。なお、
図6に示すグラフは、140m以上の長さを有するめっき繊維の一端を0mとし、他端箇所を移動させながら抵抗値を測定したものである。
図6において実施例1及び比較例1の抵抗値は平均値を示している。
【0032】
図6に示すように、実施例1に係るめっき繊維については、0m~140mの長さのいずれの箇所においても安定した抵抗値となっている。一方、比較例1に係るめっき繊維については、長さ50m超、70m弱、約90m及び120m弱等において、抵抗値がスパイク的に高まっている。すなわち、実施例1に係るめっき繊維についてはめっき析出が安定しており、比較例1に係るめっき繊維についてはめっき析出について安定しておらずムラがあることがわかった。
【0033】
図7は、
図3に示した熱還元工程における温度を変化させたときのめっき繊維の状態を示す図表である。なお、
図7に示す実施例2,3及び比較例2,3に係るめっき繊維についても有機金属錯体がパラジウムであり、金属めっきが銅である。
【0034】
図7の比較例2に示すように、処理槽内を130℃(1時間)に昇温させた場合、油剤が残存してしまった。このため、繊維同士が貼り付いたままとなってしまい、繊維束の周囲にしか金属めっきが析出しなかった(すなわち、繊維間に金属めっきが析出しなかった)。比較例3に示すように、熱還元工程において処理槽内を200℃(1時間)に昇温させた場合も同様の結果となった。
【0035】
これに対して、実施例2に示すように、処理槽内を250℃(1時間)に昇温させた場合、油剤が残存しなかった。このため、繊維同士が貼り付いておらず開繊状態となり、金属めっきは繊維間にも析出することとなった。また、実施例3に示すように、熱還元工程において処理槽内を300℃(1時間)に昇温させた場合も同様の結果となった。
【0036】
このようにして、本実施形態に係るめっき繊維1によれば、炭素繊維10の表面に平均粒径が0.1nm以上30nm以下のめっき用触媒金属30が分散している。このように、めっき用触媒金属30の平均粒径が30nm以下であるため、各めっき用触媒金属30のうち最も界面から離れた位置で金属めっき20が析出してもめっき用触媒金属30自体が小さいことから、比較的界面に近い位置で金属めっき20が析出することとなり、金属めっき20の密着力をより高めることができる。
【0037】
また、めっき用触媒金属30の平均粒径が0.1nm以上であるため、平均粒径が0.1nm未満であるときのように平均粒径が小さくなり過ぎてしまい、炭素繊維10の表面にめっき用触媒金属30を高密度で分散させなければ、金属めっき20にムラが生じてしまう事態も抑制することができる。
【0038】
また、金属めっき20が炭素繊維10の表面の凹凸に沿って析出しているため、炭素繊維10の微細な凹凸に合わせて金属めっき20が析出して、より一層密着力を高めることができる。
【0039】
また、本実施形態に係るめっき前処理方法によれば、浸漬工程の後に処理槽内を0.05kg/min以上0.2kg/min以下の速度で減圧するため、平均粒径が0.1nm以上30nm以下となるようにめっき用触媒金属30を炭素繊維10に付着させることにつながる。従って、金属めっき20の密着力をより高めることができる。
【0040】
また、処理槽内を250℃以上の温度に昇温させるため、有機金属錯体を活性化しつつも、仮に炭素繊維10が油剤を含んでいたとしても油剤を飛ばすことができる。従って、炭素繊維10の選択の自由度を向上させることができる。
【0041】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、周知及び公知の技術を組み合わせてもよい。
【0042】
例えば、上記実施形態においては炭素繊維10に金属めっき20を施すめっき繊維1について説明したが、金属めっき20を施す対象は炭素繊維10に限らず、他の炭素素材であってもよい。
【0043】
また、上記実施形態において金属めっき20は炭素繊維10の表面の凹凸に沿って析出しているが、全ての凹凸に沿って析出していなくともよく、例えば、深さ又は高さが3nm以上50nm以下の凹凸の80%以上に沿って金属めっき20が析出していれば、金属めっき20は炭素繊維10の表面の凹凸に沿って析出しているといえる。
【0044】
また、上記実施形態に係るめっき前処理方法において、熱還元工程では250℃及び300℃に限らず、炭素繊維10を損傷させない範囲内において、より高い温度等に曝すようにしてもよいし、より長い時間高温状態に曝すようにしてもよい。
【0045】
さらに、めっき用触媒金属30の平均粒径が炭素繊維10の表面の凹凸の平均高さよりも小さくなるように、減圧速度を調整するようにしてもよい。
【0046】
加えて、本実施形態に係るめっき繊維1は、250℃以上の高温で油剤を揮発させることで、炭素繊維10の表面にめっき用触媒金属30を付着させているが、これに限らず、例えば油剤を洗浄によって除去するもの等、炭素繊維10の表面にめっき用触媒金属30を付着させることができれば、特に250℃以上の高温に曝す工程を経て製造されたものに限られるものではない。
【符号の説明】
【0047】
1 :めっき繊維(めっき素材)
10 :炭素繊維(炭素素材)
20 :金属めっき
30 :めっき用触媒金属