(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175127
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】軸封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/18 20060101AFI20231205BHJP
F16J 15/24 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
F16J15/18 C
F16J15/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087424
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 勇気
(72)【発明者】
【氏名】冨田 優記
【テーマコード(参考)】
3J043
【Fターム(参考)】
3J043AA16
3J043BA04
3J043BA09
3J043CA02
3J043CA04
3J043CA05
3J043CB13
3J043DA09
3J043DA20
(57)【要約】
【課題】信頼性の高い補助シールを備える軸封装置を提供する。
【解決手段】軸封装置10は、流体機器の軸8と機器ケース9との間に形成される環状の機内空間K1の流体が外部へ漏れるのを防ぐ。軸封装置10は、シールケース11と、環状の主シール15よりも機内空間K1側に位置する装着部13に設けられている環状の補助シール16と、軸方向に変位可能な状態となって装着部13に設けられているプッシュリング17と、装着部13に供給される作動流体によってプッシュリング17に軸方向の推力を生じさせるための駆動部18とを備える。補助シール16は、軸8の外周面8aの外径よりも大きな内径を有するとともに弾性変形すると外周面8aに接触可能である環状接触部22を有する。プッシュリング17は、軸方向に変位すると少なくとも環状接触部22を径方向の内側に弾性変形させる接触面45を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体機器の軸と機器ケースとの間に形成される環状の機内空間の流体が外部へ漏れるのを防ぐ軸封装置であって、
シールケースと、
前記シールケースのうち、前記流体が外部へ漏れるのを防ぐ環状の主シールよりも前記機内空間側に位置する装着部に設けられている環状の補助シールと、
軸方向に変位可能な状態となって前記装着部に設けられているプッシュリングと、
前記装着部に供給される作動流体によって前記プッシュリングに軸方向の推力を生じさせるための駆動部と、
を備え、
前記補助シールは、前記軸の外周面の外径よりも大きな内径を有するとともに弾性変形すると前記外周面に接触可能である環状接触部を有し、
前記プッシュリングは、軸方向に変位すると前記補助シールに接触することにより少なくとも前記環状接触部を径方向の内側に弾性変形させる接触面を有する、
軸封装置。
【請求項2】
前記補助シールは、前記シールケースに取り付けられる環状の固定部と、前記固定部から突出して設けられている前記環状接触部としてのリップ部と、を有する、請求項1に記載の軸封装置。
【請求項3】
前記シールケースは、前記プッシュリングを内周側に収容する第一ケースと、前記第一ケースに取り付けられるとともに前記第一ケースの一部との間で前記固定部を軸方向に圧縮して挟む環状の取り付け部材と、を有する、請求項2に記載の軸封装置。
【請求項4】
前記プッシュリングは、軸方向に変位すると、変位先に存在する部材に接触するストッパ面を有する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の軸封装置。
【請求項5】
前記プッシュリングの軸方向の一方側に、前記接触面が設けられていて、
前記シールケースは、前記プッシュリングの内周側に位置する内壁と、前記プッシュリングの外周側に位置する外壁と、前記内壁と前記外壁とをつなぎ前記プッシュリングの軸方向の他方側に位置する側壁と、を有し、
前記シールケースは、前記内壁と前記プッシュリングとの間を密封する内側シール材と、前記外壁と前記プッシュリングとの間を密封する外側シール材と、を有し、
前記側壁と前記内側シール材と前記外側シール材とによって区画される領域が、流体室であり、
前記駆動部は、前記流体室に前記作動気体を供給するため前記シールケースに形成されている流路を有する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の軸封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、水槽の流体を撹拌する撹拌機は、モータと、撹拌翼と、モータの回転を撹拌翼に伝える軸とを有する。撹拌翼は流体中に設けられ、モータは水槽外に位置することから、軸は撹拌機の機器ケースの一部または水槽の壁を貫通する。軸が貫通する箇所において流体の漏れを防ぐために、軸封装置が設けられる。軸封装置は、撹拌機に取り付けられるシールケースと、シールケースに設けられ流体の漏れを防ぐ環状の主シールとを備える。
【0003】
水槽に流体を残した状態で主シールの取り替えなどのメンテナンスを行うために、軸封装置は、環状の補助シールを備える。軸封装置のシールケースにおいて、補助シールは、主シールよりも水槽側に設けられる。主シールのメンテナンスの間、補助シールを軸の外周面に接触させ、流体の漏れを防ぐ。特許文献1に、前記のような補助シールとして用いることが可能となるシールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図8は、従来の補助シールを示す断面図である。
図8に示す補助シール90は、チューブ式と呼ばれる。補助シール90は、シールケース99の内周面に取り付けられている。補助シール90は、その内周側に、加圧エアによって膨張するチューブ部91を有する。シールケース99に設けられている流路100から、加圧エアが補助シール90に供給されることで、チューブ部91が膨張し、その内周部が軸98の外周面に接触する。これにより、流体の漏れを防ぐことが可能となる。
【0006】
図8に示す補助シール90の場合、その一部が劣化していると、膨張の際に破損する可能性がある。この場合、図外の主シールにおいて急な流体の漏れが生じ、補助シール90によって流体の漏れを止める必要がある際に、それが不可能となることがある。
【0007】
以上のように、主シールの取り替えなどのメンテナンスが必要となる場合、または、主シールにおける急な流体の漏れが生じた場合に、補助シールを機能させる必要がある。このため、補助シールの信頼性を高めることが望ましい。
【0008】
そこで、本開示は、信頼性の高い補助シールを備える軸封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示は、流体機器の軸と機器ケースとの間に形成される環状の機内空間の流体が外部へ漏れるのを防ぐ軸封装置であって、シールケースと、前記シールケースのうち、前記流体が外部へ漏れるのを防ぐ環状の主シールよりも前記機内空間側に位置する装着部に設けられている環状の補助シールと、軸方向に変位可能な状態となって前記装着部に設けられているプッシュリングと、前記装着部に供給される作動流体によって前記プッシュリングに軸方向の推力を生じさせるための駆動部と、を備え、前記補助シールは、前記軸の外周面の外径よりも大きな内径を有するとともに弾性変形すると前記外周面に接触可能である環状接触部を有し、前記プッシュリングは、軸方向に変位すると前記補助シールに接触することにより少なくとも前記環状接触部を径方向の内側に弾性変形させる接触面を有する。
【0010】
本開示の軸封装置によれば、主シールが機内空間の流体の漏れを防ぐ通常状態で、補助シールの環状接触部は軸の外周面に接触しない。例えば主シールのメンテナンスが必要になると、プッシュリングを軸方向に移動させることで、環状接触部を軸の外周面に接触させることができる。これにより、補助シールが機内空間の流体の漏れを防ぎ、主シールのメンテナンスが可能となる。本開示の軸封装置によれば、従来のチューブ式のように補助シールを膨張させないので、補助シールの破損が生じにくく、信頼性が高まる。
【0011】
(2)好ましくは、前記補助シールは、前記シールケースに取り付けられる環状の固定部と、前記固定部から突出して設けられている前記環状接触部としてのリップ部と、を有する。前記構成によれば、リップ部は固定部から突出した片持梁形状である。リップ部は、プッシュリングの接触面により軸方向に押されると、径方向の内側に撓んで軸の外周面に接触する。リップ部は、撓むことで径方向の内側に変形しやすい。
【0012】
(3)好ましくは、前記シールケースは、前記プッシュリングを内周側に収容する第一ケースと、前記第一ケースに取り付けられるとともに前記第一ケースの一部との間で前記固定部を軸方向に圧縮して挟む環状の取り付け部材と、を有する。前記構成によれば、取り付け部材を第一ケースに取り付けると、補助シールの固定部は軸方向に圧縮弾性変形する。固定部が、第一ケースと取り付け部材との間のシール材として機能する。
【0013】
(4)好ましくは、前記プッシュリングは、軸方向に変位すると、変位先に存在する部材に接触するストッパ面を有する。前記構成によれば、プッシュリングのストッパ面が、変位先に存在する部材に接触する位置で、プッシュリングの接触面が、環状接触部を弾性変形させて軸の外周面に所望の締め代を有して接触させるように、軸封装置を構成することが可能となる。つまり、環状接触部を所望の締め代を有して軸の外周面に接触させるために、プッシュリングの軸方向の変位ストロークを、ストッパ面によって規定することが可能となる。
【0014】
(5)好ましくは、前記プッシュリングの軸方向の一方側に、前記接触面が設けられていて、前記シールケースは、前記プッシュリングの内周側に位置する内壁と、前記プッシュリングの外周側に位置する外壁と、前記内壁と前記外壁とをつなぎ前記プッシュリングの軸方向の他方側に位置する側壁と、を有し、前記シールケースは、前記内壁と前記プッシュリングとの間を密封する内側シール材と、前記外壁と前記プッシュリングとの間を密封する外側シール材と、を有し、前記側壁と前記内側シール材と前記外側シール材とによって区画される領域が、流体室であり、前記駆動部は、前記流体室に前記作動気体を供給するため前記シールケースに形成されている流路を有する。
【0015】
前記構成によれば、加圧された作動気体がシールケースの流路を通じて流体室に供給されることで、その作動流体の圧力によってプッシュリングは軸方向に変位する。環状接触部を径方向の内側に弾性変形させるため、プッシュリングを軸方向に変位させる推力が前記作動流体によって得られる。流体室の圧力を、機内空間の流体の圧力よりも低下させると、プッシュリングを基の位置に戻す方向の推力が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の軸封装置によれば、補助シールを膨張させないので、補助シールの破損が生じにくく、信頼性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の軸封装置の一例を示す断面図である。
【
図2】第二装着部およびその周囲を示す拡大断面図である。
【
図3】非通常状態での軸封装置を示す断面図である。
【
図4】非通常状態での第二装着部およびその周囲を示す拡大断面図である。
【
図5】主シールのメンテナンス作業の説明図である。
【
図6】第二装着部(変形例)およびその周囲を示す拡大断面図である。
【
図7】非通常状態での第二装着部(変形例)およびその周囲を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔軸封装置の全体について〕
図1は、本開示の軸封装置の一例を示す断面図である。
図1に示す軸封装置10は、流体機器の軸8と機器ケース9との間に形成される環状の機内空間K1の流体が外部へ漏れるのを防ぐ装置である。前記流体機器は、例えば、水槽の流体を撹拌する撹拌機7である。撹拌機7は、軸8および機器ケース9の他に、図示しないモータおよび撹拌翼を有する。軸8は、機器ケース9の軸受部により回転可能に支持されていて、前記モータの回転を前記撹拌翼に伝える。
【0019】
前記撹拌翼は水槽の流体中に設けられ、前記モータは水槽外に位置することから、軸8は機器ケース9の一部を貫通する。軸8が貫通する箇所において流体の漏れを防ぐために、軸封装置10が設けられる。
図1に示す形態では、前記水槽の壁(図示せず)に撹拌機7の機器ケース9が取り付けられていて、その機器ケース9に軸封装置10が取り付けられている。
【0020】
本開示の軸封装置における方向について定義する。軸8の中心線Cに沿う方向およびその中心線Cに平行な方向を「軸方向」と定義する。その軸方向に関して、撹拌機7の外部側(
図1の左側)が軸方向の一方側であり、これを「機外側」と称する。これに対して、撹拌機7の内部側(
図1の右側)が軸方向の他方側であり、これを「機内側」と称する。前記中心線Cに直交する方向を「径方向」と定義する。前記中心線Cを中心とする円に沿った方向を「周方向」と定義する。
【0021】
機器ケース9と軸8との間に形成される撹拌機7の内部の環状空間が「機内空間K1」と呼ばれ、撹拌機7の外部の空間が「機外空間K2」と呼ばれる。軸封装置10は、機内空間K1の水などの液体が機外空間K2へ漏れるのを防ぐ。そのために、軸封装置10は、機器ケース9に取り付けられるシールケース11と、環状の主シール15と、環状の補助シール16と、プッシュリング17と、駆動部18とを備える。
【0022】
〔シールケース11について〕
シールケース11は、第一ケース31と、第二ケース38と、取り付け部材32とを有する。第一ケース31は、環状の部材であり、ボルト70によって機器ケース9に取り付けられる。第二ケース38は、環状の部材であり、ボルト71によって第一ケース31に取り付けられる。取り付け部材32は、第一ケース31と第二ケース38との間に設けられる環状の部材であり、ボルト72によって第一ケース31に取り付けられる。
【0023】
第二ケース38は、円環状であり第一ケース31と連結されるフランジ部41と、フランジ部41と一体である筒形状の筒部42と、筒部42と一体である円環状の環状部43とを有する。環状部43は、取り付け部材32と軸方向について間隔をあけて対向する。筒部42と環状部43と取り付け部材32とによって囲まれて形成される環状の空間が、主シール15が設けられる第一装着部12となる。
【0024】
第一ケース31に、流路39が形成されている。流路39は、第一ケース31の一部を径方向に貫通する孔により構成されている。図外の供給装置から作動流体が流路39に供給される。作動流体は、例えばエアまたは窒素ガスなどである。第一ケース31は、環状の本体部31aと、本体部31aから径方向の内側に延びて設けられている側壁35と、側壁35の径方向の内側から機外側へ延びて設けられている内壁33とを有する。
図2に示すように、本体部31aの径方向の内側の部分が、円筒状の内周面34aを有する外壁34となる。内壁33は、円筒形状であり、その外周面33aは、外壁34の内周面34aと径方向について間隔をあけて対向する。
【0025】
内壁33は、プッシュリング17の内周側に位置する。外壁34は、プッシュリング17の外周側に位置する。側壁35は、内壁33と外壁34とをつなぎプッシュリング17の機内側に位置する。第一ケース31は、その内周側において、プッシュリング17を収容する。
【0026】
プッシュリング17の機外側の隣に、補助シール16が設けられる。第一ケース31の側壁35と取り付け部材32との間が、補助シール16およびプッシュリング17が設けられる第二装着部13となる。
図2は、第二装着部13およびその周囲を示す拡大断面図である。
【0027】
図1に示すように、第二装着部13は、主シール15よりも機内空間K1側に位置する。以上より、シールケース11は、主シール15が設けられる第一装着部12と、補助シール16およびプッシュリング17が設けられる第二装着部13とを有する。
【0028】
図2において、シールケース11は、さらに、内側シール材36および外側シール材37を有する。内側シール材36は、内壁33とプッシュリング17との間を密封する。外側シール材37は、外壁34とプッシュリング17との間を密封する。本実施形態では、内側シール材36および外側シール材37それぞれはOリングである。側壁35と内側シール材36と外側シール材37とによって区画される環状の領域が、流体室Q1である。後にも説明するが、流路39から供給された作動流体は、流体室Q1へ流れる。
【0029】
〔主シール15について〕
図1に示すように、主シール15は、機内空間K1の流体が外部へ漏れるのを防ぐ。本実施形態の主シール15は、軸8の外周面8aに接触する円筒部66と、円筒部66の軸方向の両側部から径方向の外側に向かって延びて設けられている一対のリップ部67,68とを有する。円筒部66およびリップ部67,68はゴム製である。円筒部66が帯状の部材69によって軸8に締め付けられることで、主シール15は軸8に取り付けられる。機内側のリップ部67が取り付け部材32に接触し、機外側のリップ部68が環状部43に接触する。撹拌機7が通常運転している状態(以下、「通常状態」と呼ぶ。)で、主シール15によって機内空間K1の流体の漏れが防止される。なお、主シール15の形態は、他であってもよい。
【0030】
〔補助シール16について〕
図1および
図2に示すように、補助シール16は、環状接触部22を有する。環状接触部22は、自然状態で軸8の外周面8aの外径よりも大きな内径を有するが、弾性変形すると外周面8aに接触可能である。なお、前記外径は、軸8の外周面8aのうち、環状接触部22が接触する対象となるシール面における外径である。環状接触部22の内径が、軸8の外周面8aの外径よりも大きいことから、前記通常状態では、補助シール16は、軸8の外周面8aに非接触の状態にある。つまり、前記通常状態では、補助シール16は、機内空間K1の流体の漏れ防止のために機能しない。
【0031】
主シール15の取り替えなどのメンテナンスの際、または、主シール15から流体の漏れが生じて緊急的にその漏れを防ぐ際(以下、「非通常状態」と呼ぶ。)、環状接触部22を弾性変形させ、軸8の外周面8aに接触させる(
図3、
図4、
図5参照)。これにより、主シール15の代わりに、補助シール16によって機内空間K1の流体の漏れが防止される。
図3は、非通常状態での軸封装置10を示す断面図である。
図4は、非通常状態での第二装着部13およびその周囲を示す拡大断面図である。
図5は、主シール15のメンテナンス作業の説明図である。
【0032】
補助シール16の具体的な構成について説明する。
図2において、補助シール16は、シールケース11に取り付けられる環状の固定部21と、前記環状接触部22としてのリップ部23とを有する。リップ部23は、固定部21の内周側の部分から軸方向に突出して設けられている。固定部21およびリップ部23はゴム製である。固定部21は、取り付け部材32と第一ケース31の内周側の一部(外壁34)との間で軸方向に圧縮して挟まれる。これにより、補助シール16は、シールケース11に固定される。
【0033】
リップ部23は、軸方向に直線状に延びている基部24aと、基部24aと軸方向に連続する先端部24bとを有する。基部24aは、中心線C(
図1参照)を中心とする短円筒形状を有する。後にも説明するが、先端部24bの外周側がプッシュリング17(接触面45)に押されることで(
図4参照)、基部24aが径方向の内側に弾性変形する。基部24aが弾性変形することで、先端部24bが軸8の外周面8aに接触する。
【0034】
本実施形態では(
図2参照)、内壁33の内周面33bの内径と、取り付け部材32の内周面32aの内径とは、同じである。リップ部23が弾性変形していない自然状態で、リップ部23の基部24aの内周面24cの内径は、取り付け部材32の内周面32aの内径と同じである。
また、前記通常状態で、リップ部23の先端部24bと、内壁33の先端とは接近した状態にある。
機内空間K1の液体は、第二装着部13に浸入可能であるが、その液体に含まれる異物は、第二装着部13に侵入し難い構成となる。
【0035】
〔プッシュリング17について〕
プッシュリング17は、補助シール16とともに第二装着部13に設けられている。プッシュリング17は、外壁34と内壁33との間において、軸方向に変位可能な状態となって設けられている。前記通常状態で(
図2参照)、プッシュリング17は、第二装着部13のうち、機内側(第一の位置)に位置する。前記非通常状態で(
図4参照)、プッシュリング17は、前記作動流体の圧力によって変位し、第二装着部13のうち、機外側(第二の位置)に位置する。流体室Q1における作動流体の圧力が維持されることで、プッシュリング17は第二の位置に留まる。なお、この場合の前記作動流体の圧力は、機内空間K1の流体の圧力よりも高い圧力である。
【0036】
プッシュリング17は、機外側に、リップ部23に接触可能である接触面45を有する。本実施形態では、接触面45は傾斜面25であり、その傾斜面25は、機内側に向かって縮径するテーパ形状を有する。前記通常状態で(
図2参照)、プッシュリング17は前記第一の位置にあり、補助シール16のリップ部23は、軸8の外周面8aに非接触の状態にある。
【0037】
前記非通常状態で(
図4参照)、プッシュリング17が機外側である前記第二の位置に変位すると、傾斜面25は、軸8に非接触であったリップ部23を軸方向および径方向に圧縮弾性変形させる。傾斜面25により、リップ部23は径方向の内側となる軸8の外周面8a側に弾性変形する。前記非通常状態で、プッシュリング17は第二の位置に維持され、傾斜面25により、リップ部23は軸8の外周面8aに押し付けられる。
【0038】
プッシュリング17は、機外側にストッパ面26を有する。プッシュリング17が機外側に変位すると(
図4参照)、ストッパ面26は、変位先に存在する別の部材に接触する。本実施形態では、前記別の部材は、補助シール16の固定部21である。ストッパ面26が固定部21に接触した状態で、傾斜面25は、リップ部23を径方向の内側に弾性変形させ、リップ部23が軸8の外周面8aに所望の締め代を有して接触した状態となる。
【0039】
プッシュリング17は、その機内側に、端面28と欠損面27とを有する。
図2に示すように、端面28は、側壁35に接触可能である。欠損面27は、側壁35に接触不能であり、欠損面27と側壁35との間に小空間29が形成される。小空間29と流路39とは繋がる。プッシュリング17が第一の位置にある状態で、流路39に供給された作動流体が小空間29に侵入する。その作動流体の圧力によって、プッシュリング17は機外側に変位することができる(
図4参照)。
【0040】
本実施形態では、欠損面27は、傾斜した面により構成されているが、その他の形状の面であってもよい。欠損面27が傾斜した面により構成されることで、軸封装置10の組み立ての際、プッシュリング17を外壁34の内周側に装着しやすい。
【0041】
〔駆動部18について〕
図1および
図3において、駆動部18は、第二装着部13に供給される作動流体の圧力によってプッシュリング17に軸方向の推力を生じさせるための構成を備える。そのために、本実施形態では、駆動部18は、流体室Q1に作動気体を供給するため流路39を有する。前記のとおり、流路39を通じて作動流体が流体室Q1に供給されることで、プッシュリング17は、機外側へ移動する。
【0042】
〔本実施形態の軸封装置10について〕
以上のように、本実施形態の軸封装置10は、シールケース11と、主シール15と、補助シール16と、プッシュリング17と、駆動部18とを備える。主シール15は、シールケース11の第一装着部12に設けられていて、前記通常状態で、軸8の外周面8aに接触して機内空間K1の流体が外部へ漏れるのを防ぐ。補助シール16は、シールケース11のうち、主シール15よりも機内空間K1側に位置する第二装着部13に設けられている。プッシュリング17は、軸方向に変位可能な状態となって第二装着部13に設けられている。駆動部18は、第二装着部13に供給される作動流体によってプッシュリング17に軸方向の推力を生じさせるための構成を備える。
【0043】
補助シール16は、環状接触部22を有する。環状接触部22は、前記通常状態で、軸8の外周面8aの外径よりも大きな内径を有する。前記非通常状態で、環状接触部22は、弾性変形すると外周面8aに接触可能である。プッシュリング17は、接触面45を有する。プッシュリング17が機外側に変位すると、接触面45は、補助シール16(環状接触部22)に接触することにより、少なくとも環状接触部22を径方向の内側となる軸8の外周面8a側に弾性変形させる。本実施形態では、接触面45は傾斜面25である。
【0044】
前記構成を備える本実施形態の軸封装置10によれば、主シール15が機内空間K1の流体の漏れを防ぐ通常状態で、環状接触部22は軸8の外周面8aに接触しない。軸8は回転軸であるが、通常状態で環状接触部22は軸8に接触しないので、その摩耗を防ぐことができる。
【0045】
例えば主シール15のメンテナンスが必要になると(非通常状態)、プッシュリング17を軸方向に移動させ(
図3参照)、環状接触部22を軸8の外周面8aに接触させる。これにより、補助シール16が機内空間K1の流体の漏れを防ぎ、主シール15のメンテナンスが可能となる。主シール15のメンテナンスのために、
図5に示すように、第二ケース38を第一ケース31から外せばよく、これにより、主シール15を露出させることが可能となる。
【0046】
図5に示すように、補助シール16によれば、撹拌機7が取り付けられている前記水槽(図示せず)に流体を残した状態で、主シール15の取り替えなどのメンテナンスを行うことが可能となる。
【0047】
ここで、
図8に示す従来のチューブ式の場合、補助シール90は、膨張することにより、周方向について引張力が作用する。これに対して、本実施形態の補助シール16の場合、プッシュリング17に押されることにより、軸方向、径方向および周方向について圧縮力が作用する。補助シール16を、膨張させないので、補助シール16の破損が生じにくく、信頼性が高まる。
【0048】
本実施形態では、補助シール16の環状接触部22は、固定部21から突出して設けられているリップ部23である。リップ部23は固定部21から突出した片持梁形状である。リップ部23は、プッシュリング17の傾斜面25により軸方向に押されると(
図4参照)、径方向の内側に撓んで軸8の外周面8aに接触する。リップ部23は、撓むことで径方向の内側に変形しやすい。その結果、補助シール16の密封性能は高い。
【0049】
シールケース11は、第一ケース31と、第一ケース31に取り付けられる取り付け部材32とを有する。取り付け部材32は、第一ケース31の一部との間で固定部21を軸方向に圧縮して挟む。つまり、取り付け部材32を第一ケース31に取り付けると、補助シール16の固定部21は軸方向に圧縮弾性変形する。このため、固定部21が、第一ケース31と取り付け部材32との間のシール材として機能する。
【0050】
プッシュリング17は、軸方向に変位すると(
図4参照)、変位先に存在する部材(固定部21)に接触するストッパ面26を有する。ストッパ面26が、固定部21に接触する位置で、プッシュリング17の傾斜面25により、リップ部23は弾性変形して軸8の外周面8aに所望の締め代を有して接触する。つまり、リップ部23を所望の締め代を有して軸8の外周面8aに接触させるために、プッシュリング17の軸方向の変位ストロークを、ストッパ面26によって規定することが可能となる。
【0051】
シールケース11は、内壁33とプッシュリング17との間を密封する内側シール材36と、外壁34とプッシュリング17との間を密封する外側シール材37とを有する。側壁35と内側シール材36と外側シール材37とによって区画される領域が、流体室Q1である。駆動部18は、流体室Q1に作動気体を供給するためシールケース11に形成されている流路39を有する。
【0052】
加圧された作動気体がシールケース11の流路39を通じて流体室Q1に供給されることで、その作動流体の圧力によって、前記第一の位置(
図2参照)にあったプッシュリング17は、機外側の第二の位置(
図4参照)に変位する。リップ部23を径方向の内側に弾性変形させるため、プッシュリング17を軸方向に変位させる推力が前記作動流体によって得られる。
【0053】
流体室Q1の圧力を、機内空間K1の流体の圧力よりも低下させると、前記第二の位置にあるプッシュリング17を、基の第一の位置に戻す方向の推力が得られる。
【0054】
また、軸封装置10は、
図6に示すように、前記第二の位置のプッシュリング17を前記第一の位置に戻すための推力を生じさせる弾性部材を有していてもよい。例えば、補助シール16とプッシュリング17との間に、前記弾性部材として、ばね47(圧縮コイルばね)が設けられている。この場合、前記作動流体は、ばね47の弾性力に抗して、プッシュリング17を前記第一の位置(
図6参照)から前記第二の位置(
図7参照)に変位させる。
【0055】
プッシュリング17が第二の位置(
図7参照)にある状態で、流体室Q1の圧力を低下させると、ばね47の弾性復元力によって、前記第二の位置(
図7参照)にあるプッシュリング17を、第一の位置(
図6参照)に戻すことが可能となる。
【0056】
図6および
図7に示す形態では、プッシュリング17の一部に穴が形成されていて、その穴にばね47が取り付けられている。なお、図示しないが、ばね47は、プッシュリング17と取り付け部材32との間に設けられていてもよい。
【0057】
補助シール16の交換などのメンテナンスについて説明する。撹拌機7を分解しない状態で、つまり、軸8を機器ケース9に残した状態で、補助シール16の交換を行う場合について説明する。補助シール16が環状であると、新たな補助シール16を第二装着部13に取り付ける作業が行いにくい。そこで、補助シール16を1本の紐状とする。その補助シール16を、軸8の周囲を巻くように環状とし、紐状である補助シール16の両端部同士を接着する。本実施形態の補助シール16は、断面形状が簡素化されているので、
図8に示す従来のチューブ式と比較して、接着が容易であり、確実である。
【0058】
〔その他〕
主シール15は、図示する形態以外であってもよい。主シール15は、シールケース11側に取り付けられる形態であってもよい。
補助シール16は、第二装着部13において固定されていなくてもよい。補助シール16は、図示する形態以外であってもよい。補助シール16の形態に応じて、プッシュリング17の傾斜面25は、その補助シール16のうちの少なくとも環状接触部22を、軸8の外周面8a側に弾性変形させればよい。
【0059】
前記実施形態では、プッシュリング17が有する接触面45は、傾斜面25である。接触面45は、補助シール16の一部に接触することにより環状接触部22を径方向の内側に弾性変形させればよく、接触面45は傾斜面25でなくてもよい。例えば、図示しないが、プッシュリング17の接触面45は、次のように構成されていてもよい。すなわち、補助シール16の環状接触部22(リップ部23)が、その径方向外側の部分に、傾斜面を有していて、その傾斜面に、プッシュリング17の接触面45が接触することにより、環状接触部22が径方向の内側に弾性変形するように、接触面45は構成されていてもよい。この場合、例えば接触面45は、円弧面であってもよい。
【0060】
前記実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、前記実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0061】
7 撹拌機(流体機器)
8 軸
8a 外周面
9 機器ケース
10 軸封装置
11 シールケース
12 第一装着部(装着部)
13 第二装着部
15 主シール
16 補助シール
17 プッシュリング
18 駆動部
21 固定部
22 環状接触部
23 リップ部
25 傾斜面
26 ストッパ面
31 第一ケース
32 取り付け部材
33 内壁
34 外壁
35 側壁
36 内側シール材
37 外側シール材
39 流路
45 接触面
K1 機内空間
K2 機外空間
Q1 流体室