(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175136
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】配管部材用の樹脂製品
(51)【国際特許分類】
F16K 27/00 20060101AFI20231205BHJP
F16K 7/12 20060101ALI20231205BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20231205BHJP
C08K 5/3437 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
F16K27/00 A
F16K7/12 B
C08L27/16
C08K5/3437
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087436
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】松下 浩幸
【テーマコード(参考)】
3H051
4J002
【Fターム(参考)】
3H051AA01
3H051BB10
3H051CC11
3H051DD07
3H051EE04
4J002BD141
4J002EU056
4J002FD206
4J002GL00
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】配管部材において、流体と接する構成部品として採用され、使用された場合に、接液面におけるブリスター(突起物)の発生が、従来品と比較してより長期間に亘って抑制され得る配管部材用の樹脂製品を提供すること。
【解決手段】ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物の射出成形品からなり、外表面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-Iと、外表面から2mmの部位を除去することにより露出する表面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-IIとが、下記式(1)を満たすものにより、配管部材用の樹脂製品を構成した。
[HR-I]-[HR-II]≧10.0 ・・・(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物の射出成形品からなり、
前記射出成形品の外表面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-Iと、該射出成形品の外表面から2mmの部位を除去することにより露出する表面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-IIとが、下記式(1)を満たす、
ことを特徴とする配管部材用の樹脂製品。
[HR-I]-[HR-II]≧10.0 ・・・(1)
【請求項2】
前記樹脂組成物が、結晶核剤としてのフラバントロンを質量基準にて200~4000ppmの割合で含有する請求項1に記載の配管部材用の樹脂製品。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の配管部材用の樹脂製品からなり、
ダイヤフラム部材を装着するための、少なくとも非湾曲部位を有する被装着部を備え、
前記ロックウェル硬さ(HR15y):HR-I及びロックウェル硬さ(HR15y):HR-IIが、前記装着部を構成する非湾曲部位について測定されるものである、
ことを特徴とするダイヤフラムバルブ用樹脂製品。
【請求項4】
請求項3に記載のダイヤフラムバルブ用樹脂製品を備えたダイヤフラムバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管部材用の樹脂製品に係り、特に、電解工場における淡塩水や湿塩素ガス等の搬送配管にて使用されるダイヤフラムバルブにおいて、その構成部品として有利に採用される樹脂製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデンのホモポリマーや、フッ化ビニリデンに基づく構造単位を有するコポリマー(以下、それらを総称してポリフッ化ビニリデン系樹脂という)は、耐薬品性、耐食性、耐熱性、耐候性、機械的強度や易加工性等に優れていることから、従来より、工業材料として様々な分野において使用されている。例えば、少なくとも構成部品の一つ以上がポリフッ化ビニリデン系樹脂にて構成されているバルブや管継手等の配管部材は、優れた耐食性が要求される、電解工場における淡塩水や湿塩素ガス等の配管ライン上に設置されて、使用されており、また、その他各種の化学工場における、機械的強度、耐熱性や耐薬品性等が要求される配管ラインにおいても、同様に使用されている。なお、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、一般に熱可塑性であって易加工性を有していることから、上述したバルブや管継手は射出成形法に従って製造されることが多い。
【0003】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、上述したような優れた特性を有するものではあるものの、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いて形成された樹脂製品が、液体と接する部材として採用されているダイヤフラムバルブにあっては、長期に亘って使用すると、かかる樹脂製品における接液面上に突起物が形成されることが知られている。具体的には、液体の流路部を有する弁本体がポリフッ化ビニリデン系樹脂にて形成されてなるものを備えたダイヤフラムバルブを、80~90℃の淡塩水が搬送される配管ライン上に設置し、使用すると、使用開始から2~3年経過後、ポリフッ化ビニリデン系樹脂製の弁本体における流路部の表面(特に、屈曲している部分の表面)に突起物が発生し、その発生後も使用を続けると、突起物の数が徐々に増加し、突起物同士が連結して弁本体表面の樹脂の剥離を促し、最終的には、剥離した樹脂が配管ラインを流れる淡塩水中に混入するという問題を生じていたのである。なお、本明細書において、上記のように突起物が生じる現象をブリスター現象と、また、生じる突起物をブリスターと、各々、称することとする。
【0004】
そのような問題の解決を図るべく、本願出願人は、特許文献1(特開平10-281309号公報)において、従来のものと比較して耐ストレスクラッキング性が2倍以上、向上した、ポリフッ化ビニリデン製配管用部材を提案している。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示のポリフッ化ビニリデン製配管用部材について、本発明者が更なる検討を加えたところ、同文献に開示の配管用部材にあっては、ブリスターの発生を或る程度、抑制可能なものではあるものの、近年は、従来以上の長期間に亘ってブリスター発生が抑制される配管用部材のニーズが高まってきており、この点において、未だ改良の余地が残されているものであることが、判明したのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、配管部材において、流体と接する構成部品として採用され、使用された場合に、接液面におけるブリスター(突起物)の発生が、従来品と比較してより長期間に亘って抑制され得る配管部材用の樹脂製品を提供することにある。また、本発明は、そのような樹脂製品からなるダイヤフラムバルブ用樹脂製品、並びにそれを備えたダイヤフラムバルブを提供することをも、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明は、そのような課題を解決すべく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物の射出成形品からなり、前記射出成形品の外表面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-Iと、該射出成形品の外表面から2mmの部位を除去することにより露出する表面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-IIとが、下記式(1)を満たす、ことを特徴とする配管部材用の樹脂製品を、その要旨とするものである。
[HR-I]-[HR-II]≧10.0 ・・・(1)
【0009】
なお、本発明に係る配管部材用の樹脂製品にあっては、前記樹脂組成物が、結晶核剤としてのフラバントロンを質量基準にて200~4000ppmの割合で含有することを、好ましい態様とする。
【0010】
また、本発明は、上記した何れかの態様に係る配管部材用の樹脂製品からなり、ダイヤフラム部材を装着するための、少なくとも非湾曲部位を有する被装着部を備え、前記ロックウェル硬さ(HR15y):HR-I及びロックウェル硬さ(HR15y):HR-IIが、前記被装着部を構成する非湾曲部位について測定されるものである、ことを特徴とするダイヤフラムバルブ用樹脂製品や、そのようなダイヤフラムバルブ用樹脂製品を備えたダイヤフラムバルブについても、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明に従う配管部材用の樹脂製品にあっては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物を、成形材料として用いて得られる射出成形品であって、外表面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-Iと、かかる外表面から所定厚さ(2mm)の部位を除去し、それによって露出する面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-IIとが、所定の関係を満たすものによって、構成されるものである。従って、例えば、本発明に従う樹脂製品を、電解工場における淡塩水や湿塩素ガス等の搬送配管にて使用されるダイヤフラムバルブにおいて、淡塩水等と接する流路を有する弁本体として使用すると、かかる本発明を適用した弁本体の接液面上におけるブリスター(突起物)の発生は、従来の樹脂製品と比較して、より長期間に亘って抑制されることとなり、以て、ダイヤフラムバルブの高寿命化が有利に図られる得ることとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明を適用したダイヤフラムバルブの一実施形態を示す縦断面説明図である。
【
図2】本発明に従う樹脂製品からなる弁本体の上面図であって、ロックウェル硬さの測定部位の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を適宜、参照しながら、本発明を詳細に説明することとする。
【0014】
本発明に従う配管部材用の樹脂製品(以下、単に樹脂製品ともいう)は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物を用いて得られる射出成形品であって、外表面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-Iと、かかる外表面から2mmの部位を除去することにより露出する表面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-IIとが、下記式(1)を満たすものによって、構成されている。
[HR-I]-[HR-II]≧10.0 ・・・(1)
【0015】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂製品を淡塩水等の流体に長期間、接触せしめた際に、樹脂製品の接液面に突起物(ブリスター)が発生するという現象の詳細な原理については、本発明者も完全には解明していないが、本発明者は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物を用いて得られる射出成形品の中でも、特に、上記した二種のロックウェル硬さが所定の関係(上記式(1)の関係)を満たすものにあっては、成形品の表面部を構成する結晶の粒子径と内部を構成する結晶の粒子径が比較的均一であると共に、従来品より長期間に亘ってブリスターの発生を抑制し得るものであることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0016】
ここで、本発明における射出成形品のロックウェル硬さ(HR15y)は、HR-I及びHR-IIの何れも、硬さスケールとしてHR15yを用いて、JIS-K-7202-2:2001「プラスチック-硬さの求め方-第2部:ロックウェル硬さ」に規定される手法に従って測定されるものである。より詳細には、HR-Iは、射出成形品の外表面を測定面として測定されるものであり、HR-IIは、外表面から厚さ:2mmの部位を除去し、かかる除去後に露出する面を測定面として測定されるものである。なお、射出成形品におけるロックウェル硬さの測定部位については、測定可能な部位であれば特に限定されるものではないが、例えば、
図2において点線で囲まれた部位の如き、ダイヤフラム部材を装着するための被装着部における、厚さが略均一で、表面が平坦な湾曲していない部位(非湾曲部位)について、HR-I及びHR-IIを測定することが出来る。
【0017】
本発明に従う樹脂製品は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物を用いて得られる射出成形品であるところ、本発明の樹脂製品を製造する際に使用されるポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、上述した二種のロックウェル硬さ(HR-I、HR-II)が所定の関係を満たす成形品(樹脂製品)を、成形条件(成形温度、成形圧力)を適宜に選択した射出成形法に従い、製造することが可能なものであれば、従来より公知のポリフッ化ビニリデン系樹脂の何れも使用することが可能である。なお、本発明におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンのホモポリマーは勿論のこと、構造単位としてフッ化ビニリデン単位を含有するコポリマーをも含むものである。
【0018】
本発明の樹脂製品を製造するに際しては、上述したポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物が用いられるが、かかる樹脂組成物には、有利には、結晶核剤としてのフラバントロン(Flavanthrone)が添加される。フラバントロンを含む樹脂組成物を用いて得られる射出成形品(樹脂製品)にあっては、結晶粒子が一様に細かくなり、ブリスター(突起物)の発生を抑制することが出来るという本発明の効果を、より有利に享受することが可能である。また、フラバントロンの添加によって、射出成形品(樹脂製品)における結晶粒子が一様に細かくなることから、フラバントロンの添加は、長期間に亘る使用後の製品寸法変化の低減にも寄与すると考えられる。なお、フラバントロンとは、従来より黄色の建染め染料として知られている化合物であり、下記式(I)で表されるように、互変異性体が存在するものである。
【化1】
【0019】
本発明に従う樹脂製品を製造するに際して、上述したフラバントロンを使用する場合、フラバントロンは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物中の含有割合が、質量基準にて、200~4000ppmとなるような量において、好ましくは500~2000ppmとなるような量において、使用されることが好ましい。樹脂組成物におけるフラバントロンの含有割合が200ppm未満では、フラバントロンの配合効果を有利に享受することが出来ない恐れがあり、その一方、含有割合が4000ppmを超える量のフラバントロンを使用しても、本発明が目的とする効果については、使用量に応じた大きな向上が認められず、射出成形品(樹脂製品)の黄色度が増加するだけに過ぎないところから、費用対効果の観点より、含有割合が4000ppmを超える量のフラバントロンを使用することは得策ではない。
【0020】
なお、本発明に従う樹脂製品を製造する際に用いられる樹脂組成物には、上述したフラバントロン以外にも、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、充填剤や補強剤等の、従来より公知の各種の添加剤を適宜、含有せしめることも可能である。
【0021】
上述した、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物を用いて、射出成形法に従って本発明の樹脂製品を製造するに際しては、従来と同様の手法に従い、樹脂組成物(成形材料)が調製される。例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂と共にフラバントロンを使用する場合には、それらポリフッ化ビニリデン系樹脂等を、1)V型レンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて混合する手法、2)押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機を用いて溶融混練する手法、3)前述した混合機と混練機とを組み合わせて混合、混練する手法や、或いは、4)ポリフッ化ビニリデン系樹脂とフラバントロンとを、前述した混練機を用いて溶融混練して、マスターバッチを作製し、このマスターバッチとポリフッ化ビニリデン系樹脂とを混合する手法等に従い、成形材料たる樹脂組成物が調製されることとなる。なお、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のみを用いて本発明に係る樹脂製品を製造する場合には、上述した樹脂組成物(成形材料)の調製工程を必ずしも採用する必要はない。
【0022】
そして、調製された樹脂組成物(成形材料)を用いて、従来より公知の射出成形法に従って射出成形を実施することにより、本発明に従う樹脂製品たる射出成形品が得られるのである。かかる射出成形を実施する際の種々の成形条件、例えば、成形温度(シリンダー温度)や成形圧力(射出圧力)等については、得られる射出成形品の外表面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-Iと、かかる射出成形品の外表面から2mmの部位を除去することにより露出する表面について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-IIとが、本発明の関係(上記式(1)の関係)を満たすように、使用されるポリフッ化ビニリデン系樹脂の種類や、目的とする射出成形品(樹脂製品)の形状、大きさ等に応じて適宜に決定されることとなる。例えば、成形温度(シリンダー温度)としては、170~230℃の範囲内にある温度が、好ましくは200~230℃の範囲内にある温度が採用される。成形温度(シリンダー温度)が170℃未満の場合、射出成形法に従って成形品を製造することが出来ない恐れがあり、その一方、230℃を超える温度では、HR-IとHR-IIとが本発明の関係を満たす射出成形品を得ることが困難となる。また、成形圧力(射出圧力)としては、35~65MPaの範囲内にある圧力が設定されることが好ましい。65MPaを超える成形圧力(射出圧力)では結晶化が均一になり難く、また残留応力等によって成形品の強度が低下する恐れがあり、その一方、35MPa未満の成形圧力(射出圧力)では、成形型内にて成形材料の充填不足が発生する恐れや、成形品表面にフローマークが発生する等の成形不良が発生し易くなる等の問題がある。
【0023】
本発明に従う樹脂製品は、従来より公知の配管部材として、或いは、配管部材を構成する部品の一つとして、用いられるものである。本発明が適用可能な配管部材としては、ダイヤフラムバルブ、バタフライバルブ、調節弁、逆止弁等の各種バルブや、ベンド、エルボ、チーズ等の管継手を、例示することが出来る。本発明は、それら種々の配管部材の中でも、特に、ダイヤフラムバルブにおける弁本体(バルブ本体)やバタフライバルブにおける弁本体に有利に適用される。
【0024】
図1は、本発明に従う樹脂製品を弁本体として使用したダイヤフラムバルブの一例を示す縦断面説明図であり、
図2は、かかる弁本体を示す平面図である。かかる
図1及び
図2より明らかなように、ダイヤフラムバルブ10は、入口流路14と出口流路16とを備え、更に、それら流路14、16の中間に位置し、且つ流路を湾曲させる仕切壁18を備えると共に、かかる仕切壁18の先端面(上面)が弁座20とされてなる弁本体12を有している。また、かかる弁本体12の仕切壁18の上方に形成された開口部を覆蓋するように、ボンネット22が取り付けられて、このボンネット22に支承されたスピンドル24が、ハンドル26の回転操作によって、上下方向(軸方向)に移動可能とされている。さらに、弁本体12の開口部の周縁には、ダイヤフラム30を装着するための被装着部32が、厚さが略均一で、表面が平坦な湾曲していない形態において(換言すれば、非湾曲部位として)形成せしめられている。
【0025】
そして、スピンドル24の下端部に固定されたコンプレッサ28に対して、中心部が取り付けられて、上下方向に変形移動可能とされた、円形の平面形態を呈するダイヤフラム30が、その周縁部において、弁本体12の被装着部32とボンネット22の下端部との間に挟持せしめられることによって、弁本体12の開口部が閉塞せしめられるようになっている一方、スピンドル24の上下動、ひいてはコンプレッサ28の上下動によって、ダイヤフラム30の中心部が、弁座20に圧接又は離隔せしめられることによって、流路14、16を流れる液体の流れを遮断し、又は通過(流通)させ得るようになっているのである。なお、ダイヤフラムバルブ10におけるコンプレッサ28の駆動方式については、上述したハンドル26の手動による回転操作に代えて、空気圧による空圧駆動方式やモータ等による電気駆動方式も採用可能であり、その駆動方式としては、公知のものが適宜に採用されることとなる。
【0026】
そして、上述の如き、本発明に従う樹脂製品を弁本体12として使用したダイヤフラムバルブ10を、例えば淡塩水配管ラインに配設し、使用を開始した場合、従来品では、使用開始から所定期間が経過すると、弁本体の流路が屈曲している部分の壁面(弁本体12においては、入口流路14及び出口流路16における仕切壁18近傍の壁面)にブリスター(突起物)の発生が認められていたが、本発明の樹脂製品たる弁本体12においては、従来品以上の長期間に亘ってブリスターの発生が抑制され得るのであり、以て、ダイヤフラムバルブ10の高寿命化に大きく寄与することとなるのである。
【実施例0027】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0028】
-樹脂組成物の調製-
先ず、所定量のポリフッ化ビニリデン系樹脂(株式会社クレハ製、商品名:クレハKFポリマー #1000、融点:173℃)と、かかるポリフッ化ビニリデン系樹脂との合計量において、質量基準にて5000ppmの割合となるような量のフラバントロンと、を準備した。ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びフラバントロンを混合した後、押出機を用いて、230℃にて溶融混練して押し出し、フラバントロン含有樹脂ペレット(径:約2mm×長さ:3mm)を作製した。一方、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のみについて、押出機を用いて溶融し、押し出し、樹脂ペレット(径:約2mm×長さ:3mm)を作製した。
【0029】
そして、80質量部の樹脂ペレットに対して、フラバントロン含有樹脂ペレットの20質量部に添加し、混合することにより、成形材料としての樹脂組成物を調製した。なお、かかる樹脂組成物において、フラバントロンの含有割合は、質量基準にて1000ppmである。
【0030】
-ダイヤフラムバルブの弁本体の製造-
上記の如く調製した樹脂組成物を用いて、下記表1に示す成形温度(シリンダー温度)、成形圧力(射出圧力)にて公知の射出成形法を実施することにより、
図2及び
図3に示される如き構造を呈する、口径50A用のダイヤフラムバルブの弁本体を5種類、製造した(実施例1~実施例4、比較例1)。
【0031】
-ロックウェル硬さ(HR15y)の測定-
先ず、製造した弁本体における、ダイヤフラムの被装着部の外表面を測定面として(
図2を参照)、ロックウェル硬さ(HR15y)を測定した。次いで、かかる外表面より厚さ:2mmの部位を除去し、かかる除去後に露出する面を測定面として、ロックウェル硬さ(HR15y)を測定した。なお、何れの測定も、JIS-K-7202-2:2001「プラスチック-硬さの求め方-第2部:ロックウェル硬さ」に規定される手法に従って実施し、外表面及び上記除去後の露出面における任意の5箇所についての測定結果の平均値を算出し、外表面における測定値の平均値をHR-I(以下、「外表面のロックウェル硬さ:HR-I」ともいう)とし、上記除去後の露出面における測定値の平均値をHR-II(以下、「除去後露出面のロックウェル硬さ:HR-II」ともいう)とした。各弁本体における測定結果(算出した平均値)、並びに「外表面のロックウェル硬さ:HR-I」より「除去後露出面のロックウェル硬さ:HR-II」を減じた数値を、下記表1に示す。
【0032】
-実装試験-
実施例及び比較例に係る弁本体の各々を、
図1に示すダイヤフラムバルブに実装し、かかるダイヤフラムバルブを、某社の電解工場における電解槽淡塩水ライン(流体:塩水、温度:80℃(常用)、圧力:ほぼ無圧(電解槽出口自然流下)、バルブの開閉頻度:1回/年、配管取付場所:屋内)上に設置し、7年間、稼働させた。使用開始から7年経過後、ダイヤフラムバルブを分解して弁本体を取り出し、弁本体の流路の壁面にブリスター(突起物)が発生しているか否かを目視で観察し、ブリスターの発生が認められない場合は○と評価し、ブリスターの発生が認められる場合は×と評価した。実施例及び比較例に係る各弁本体についての評価を、下記表1に併せて示す。
【0033】
【0034】
かかる表1の結果からも明らかように、本発明に従う樹脂製品からなる弁本体にあっては、7年間に及ぶ長期の使用によっても、流路の壁面にブリスターの発生は認められなかったのであり、本発明の樹脂製品をダイヤフラムバルブの弁本体として使用した際には、ダイヤフラムバルブの高寿命化に大きく寄与し得るものであることが、確認されるのである。