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特開2023-175138R-T-B系焼結磁石、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175138
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20231205BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20231205BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231205BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F1/00 Y
C22C33/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087438
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】大河原 遊
(72)【発明者】
【氏名】幸村 治洋
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BD01
4K018KA46
5E040AA04
5E040BD01
5E040CA01
5E040NN11
5E040NN18
5E062CD04
5E062CF03
5E062CG02
(57)【要約】
【課題】多極着磁を行うことができ、極ピッチを小さくして着磁しても着磁後の発生磁界を大きくすることができるR-T-B系焼結磁石、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】R-T-B系焼結磁石(Rは、Ndを含む希土類元素を表し、Tは、Feを含む遷移金属元素を表す。)は、希土類元素として、少なくともジスプロシウム(Dy)を含み、前記R-T-B系焼結磁石の飽和残留磁化の値をB、前記R-T-B系焼結磁石に対し、初磁化曲線における外部磁界500kA/m印加時の磁化の値をAとした時、磁化比をA/Bで表した場合、前記磁化比が1.0よりも小さく(但し、0よりも大きい。)、前記R-T-B系焼結磁石における極ピッチが4mm未満(但し、0mmよりも大きい。)である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石(Rは、Ndを含む希土類元素を表し、Tは、Feを含む遷移金属元素を表す。)であって、
前記R-T-B系焼結磁石は、希土類元素として、少なくともジスプロシウム(Dy)を含み、
前記R-T-B系焼結磁石の飽和残留磁化の値をB、前記R-T-B系焼結磁石に対し、初磁化曲線における外部磁界500kA/m印加時の磁化の値をAとした時、磁化比をA/Bで表した場合、前記磁化比が1.0よりも小さく(但し、0よりも大きい。)、
前記R-T-B系焼結磁石における極ピッチが4mm未満(但し、0mmよりも大きい。)である、R-T-B系焼結磁石。
【請求項2】
前記磁化比は、0.95よりも小さい、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項3】
前記磁化比は、0.46よりも小さい、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項4】
R-T-B系焼結磁石(Rは、Ndを含む希土類元素を表し、Tは、Feを含む遷移金属元素を表す。)の製造方法であって、
前記R-T-B系焼結磁石は、希土類元素として、少なくともジスプロシウム(Dy)を含み、前記R-T-B系焼結磁石の飽和残留磁化の値をB、前記R-T-B系焼結磁石に対し、初磁化曲線における外部磁界500kA/m印加時の磁化の値をAとした時、磁化比をA/Bで表した場合、前記磁化比が1.0よりも小さい(但し、0よりも大きい。)R-T-B系焼結磁石を準備する工程と、
前記R-T-B系焼結磁石を、前記R-T-B系焼結磁石のキュリー温度以上で、かつ界磁源である永久磁石のキュリー温度未満の温度まで加熱した後、室温程度まで冷却し、その間、前記永久磁石にて着磁磁界を前記R-T-B系焼結磁石に印加して所定の極ピッチで着磁する工程と、
を含む、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記磁化比は、0.95よりも小さい、請求項4に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記磁化比は、0.46よりも小さい、請求項4に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記R-T-B系焼結磁石における極ピッチは、4mm未満(但し、0mmよりも大きい。)である、請求項4から6のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記永久磁石のキュリー温度未満の温度までの加熱は、350℃までの加熱である、請求項7に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-T-B系焼結磁石、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、R(希土類元素R)-T(遷移金属元素T)-B(ホウ素)系永久磁石は、高い磁気特性を有し、特にR(希土類元素として、Ndを必ず含む)-T(Fe等)-B系焼結磁石は優れた磁気特性を有することから、各種の電子機器、家電製品、及び自動車等に搭載されるモーターやアクチュエータ等に広く使用されている。モーターやアクチュエータ等に使用されるR(希土類元素として、Ndを必ず含む)-T(Fe等)-B系磁石は、高温で永久磁石の保磁力が低下するため、高温環境下においても高い保磁力を有することが求められている。
【0003】
このようなR(希土類元素として、Ndを必ず含む)-T(Fe等)-B系焼結磁石の保磁力を向上させる手段として、従来、重希土類元素であるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)を添加することが知られている。例えば、特許文献1には、主相であるNdFe14B金属間化合物の表面近傍のNdの一部を、Dy及び/又はTbで置換することによって、保磁力が向上することが記載されている。
【0004】
磁石の高保磁力化は、着磁磁界の増大を招くことになる。すなわち、重希土類元素であるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)を添加したR(希土類元素として、Ndを必ず含む)-T(Fe等)-B系焼結磁石における着磁特性を十分引き出すためには、飽和着磁を行う必要がある。例えば、特許文献2には、飽和着磁を行う場合、着磁磁界は、一般的には被着磁物である磁石の保磁力の3~5倍程度の磁界が必要と言われているが、Nd-Fe-B系焼結磁石の場合、保磁力発生機構がニュークリエイションタイプであるため、初回の着磁磁界は小さくて済み、保磁力とほぼ同等の大きさの磁界強度で良いとも言われていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-096928号公報
【特許文献2】特開平5-047558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したように、ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)を添加したNd-Fe-B系焼結磁石では、保磁力が2785kA/m以上となる焼結磁石もある(例えば、N32EZ(信越化学工業株式会社製商品名、後述する試料Cである)。このような大きな保磁力を有するNd-Fe-B系焼結磁石をパルス着磁した場合、飽和着磁を行うためには、少なくとも約2800kA/m以上の大きな着磁磁界を発生させるための装置が必要となる。また、極ピッチが小さく、多極着磁を必要とする場合には、着磁ヨークに巻回するコイルの線径が細くなり、必要な着磁磁界を生じるための高電流を流すことができず、十分な着磁磁界を印加できない、という問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、多極着磁を行うことができ、極ピッチを小さくして着磁しても着磁後の発生磁界を大きくすることができるR-T-B系焼結磁石、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係るR-T-B系焼結磁石は、R-T-B系焼結磁石(Rは、Ndを含む希土類元素を表し、Tは、Feを含む遷移金属元素を表す。)であって、前記R-T-B系焼結磁石は、希土類元素として、少なくともジスプロシウム(Dy)を含み、前記R-T-B系焼結磁石の飽和残留磁化の値をB、前記R-T-B系焼結磁石に対し、初磁化曲線における外部磁界500kA/m印加時の磁化の値をAとした時、磁化比をA/Bで表した場合、前記磁化比が1.0よりも小さく(但し、0よりも大きい。)、前記R-T-B系焼結磁石における極ピッチが4mm未満(但し、0mmよりも大きい。)である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様によれば、多極着磁を行うことができ、極ピッチを小さくして着磁しても着磁後の発生磁界を大きくすることができるR-T-B系焼結磁石を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に用いる、着磁を行う着磁装置の概略構成例を示す図である。
図2図2は、界磁部に使用する界磁磁石を示す概略斜視図である。
図3図3は、被着磁物における極ピッチを説明する平面模式図である。
図4図4は、実施例における各試料を図1に示した着磁装置で着磁した後の各試料について、各極ピッチと着磁指数との関係を示す図である。
図5図5は、各試料を比較例としてのパルス着磁した後の各試料について、各極ピッチと着磁指数との関係を示す図である。
図6図6は、試料C(実施例3)における極ピッチと着磁指数との関係を示す図である。
図7図7は、各試料についての磁気ヒステリシス曲線における第1象限を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態に係るR-T-B系焼結磁石、及びその製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0012】
<実施の形態に係るR-T-B系焼結磁石>
実施の形態に係るR-T-B系焼結磁石を構成するR-T-B(ホウ素)系磁石について説明する。R-T-B系磁石粉末を構成するR-T-B系磁石は、三元系正方晶化合物であるR14B相(例えばNdFe14B型化合物相)を主相として含む。また、R-T-B系磁石は、通常Rリッチ相などをさらに含む。Rは、Nd及び/又はPrを含む希土類元素を表す。言い換えると、Rは、Nd及び/又はPrを必須成分として含む。
【0013】
希土類元素としては、ネオジム(Nd)及びプラセオジム(Pr)の他、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)が挙げられる。Nd及びPr以外の希土類元素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
具体的には、Rとしては、Ndのみを用いてもよく、Prのみを用いてもよく、Nd及びPrのみを用いてもよい。また、Ndと、Nd及びPr以外の希土類元素を用いてもよく、Prと、Nd及びPr以外の希土類元素を用いてもよく、Nd及びPrと、Nd及びPr以外の希土類元素とを用いてもよい。Rとして、少なくともNdを用いることが好ましい。
【0015】
Tは、Fe、又はFe及びCoを表す。このように、Tは、Feのみであってもよく、一部がCoで置換されていてもよい。Tの合計量を100原子%としたときに、Feを50原子%以上の量で含むことが好ましい。
【0016】
R-T-B系磁石は、その他の元素を含んでいてもよい。その他の元素としては、チタン、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)が挙げられる。その他の元素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
R-T-B系磁石において、Rは、10原子%以上20原子%以下の量で含まれることが好ましい。Bは、6原子%以上8原子%以下の量で含まれることが好ましい。また、上述したその他の元素を含むときは、その他の元素は、合計で0原子%を超え3原子%以下の量で含まれることが好ましい。なお、ここで、残部は、Tと、不可避的に含まれる元素との合計量である。
【0018】
また、R-T-B系磁石において、重希土類元素として、少なくともジスプロシウム(Dy)を含むことが好ましい。ジスプロシウム(Dy)を多く添加して固有保磁力を大きくしたNd-Fe-B系焼結磁石に対して、極ピッチを小さくして着磁しても、着磁後の発生磁界を大きくすることができるため好ましい。従って、R-T-B系焼結磁石における極ピッチを、4mm未満(但し、0mmよりも大きい)とすることができる。
【0019】
さらに、R-T-B系焼結磁石における磁気ヒステリシス曲線を測定した場合、第1象限における初磁化曲線において、飽和磁化に対する残留磁化の比率を磁化比とした時、前記磁化比が0.5よりも小さいことが好ましい。磁化比が0.5よりも小さいことによって、着磁はし難いが保持力の大きいR-T-B系焼結磁石を得ることができる。ただし、以下に説明する製造方法によって、保磁力の大きいR-T-B系焼結磁石を容易に得ることができる。
【0020】
<実施の形態に係るR-T-B系焼結磁石の製造方法>
実施の形態に係るR-T-B系焼結磁石の製造方法は、上述したR-T-B系焼結磁石を準備する工程を含む。次に、準備したR-T-B系焼結磁石を被着磁物として、被着磁物に対して磁界を発生する着磁用永久磁石が等間隔に複数配列される界磁部と、上記被着磁物のアキシャル方向において上記被着磁物と対向する加熱面を有し、上記被着磁物を加熱する加熱部とを有する着磁装置により、上記被着磁物に対して着磁を行う着磁工程を含む。
【0021】
上記着磁工程において、上記界磁部上に上記被着磁物を配置し、上記加熱部により、上記被着磁物を、上記被着磁物のキュリー点以上の温度且つ上記着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度まで昇温した後、上記被着磁物のキュリー点未満の温度まで降温させるように加熱するとともに、上記着磁用永久磁石により、上記被着磁物に着磁磁界を印加する。上記着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度は、800℃以上となる場合があるが、着磁装置の動作保証温度等を考慮して、350℃以下の温度が望ましい。
上記界磁部において、上記着磁用永久磁石は、上記着磁工程を経た上記被着磁物における極ピッチが4mm未満(但し、0mmよりも大きい)となるように、配列されている。
【0022】
着磁工程では、着磁装置により上記被着磁物に対して着磁を行う。図1は、実施の形態に用いる、UHM((Ultra High Magnetizing)着磁を行う着磁装置の概略構成例を示す図である。
【0023】
図1に示すように、着磁装置1は、架台部2と、移動部3と、加熱部4と、予熱部5と、界磁部6と、保持部材7と、冷却部8と、制御部10とを備える。被着磁物100は、予熱部5上に載置され、着磁が行われ、着磁後の被着磁物(着磁後被着磁物)を製造する。
【0024】
架台部2は、着磁装置1の基部であり、少なくとも移動部3、加熱部4、予熱部5、界磁部6、保持部材7、冷却部8および制御部10が搭載されるものである。
【0025】
移動部3は、図1の上下方向であるアキシャル方向において、被着磁物100および加熱部4を非加熱位置と加熱位置との間で相対移動させるものである。実施の形態における移動部3は、天井板31と、アクチュエータ32と、加熱部取付台33とを有する。天井板31は、アキシャル方向において、架台部2と離間して配置されており、アクチュエータ32および加熱部取付台33が固定されている。アクチュエータ32は、架台部2に対して天井板31をアキシャル方向において相対移動させるものである。アクチュエータ32は、例えば、油圧シリンダなどの直動機構であり、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、制御部10により駆動制御が行われる。アクチュエータ32は、架台部2と天井板31との間に、複数配置されており、例えば、2つ、4つ配置されている。加熱部取付台33は、加熱部4が固定されており、天井板31の下方向側面に固定されている。
【0026】
加熱部4は、被着磁物100に対して着磁用加熱を行う。加熱部4は、非磁性金属材料、例えば非磁性のステンレス鋼などにより構成されており、被着磁物100を構成する磁石のキュリー点以上に被着磁物100を加熱する。実施の形態における加熱部4は、円板状に形成され、上下方向における両面のうち、上方向側面が移動部3の加熱部取付台33に固定されており、下方向側面が加熱面(図示しない)である。加熱面は、外径が被着磁物100の外径よりも大きく形成されており、アキシャル方向において界磁部6の後述する載置面6aと対向する。つまり、加熱面4aは、アキシャル方向において、予熱部5の載置面(図示しない)に載置された被着磁物100と対向する。また、加熱面は、加熱位置において、被着磁物100と接触する。加熱部4は、1以上のヒータを有しており、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、制御部10により温度制御が行われる。
【0027】
予熱部5は、被着磁物100に対して予備用加熱を行う。予熱部5は、非磁性金属材料により構成されており、加熱位置となる前に、被着磁物100を構成する磁石のキュリー点未満(常温よりも高い温度)に被着磁物100を加熱する。ここで、予熱部5は、界磁部6および保持部材7を介して、界磁部6に載置された被着磁物100を加熱する。予熱部5は、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、1以上のヒータを有しており、制御部10により温度制御が行われる。
【0028】
界磁部6は、被着磁物100に対して磁界を発生する。実施の形態における界磁部6は、被着磁物100に対してアキシャル方向に着磁を行う。予熱部5上に被着磁物100を載置した後、被着磁物100の上方向から界磁部6を載置し、さらにその上方向から保持部材7により、これらの被着磁物100及び界磁部6を予熱部5上に保持し固定する。
【0029】
界磁部6に使用する界磁磁石は、例えば矩形状のサマリウムコバルト磁石(Sm-Co磁石、キュリー温度は、通常750℃以上900℃以下)である。図2に示すように、永久磁石61は、短冊状のN極62及びS極63が交互に隣接して複数配列される。界磁部6において、永久磁石61のN極62及びS極63は、上記着磁工程を経た上記被着磁物100における極ピッチが、4mm未満(但し、0mmよりも大きい)、好ましくは0.3mm以上2.6mm以下、さらに好ましくは0.5mm以上2.6mm以下となるように配列されている。図3は、被着磁物100における極ピッチを説明する平面模式図であり、被着磁物100にN極及びS極が交互に6極着磁した状態を示している。
【0030】
冷却部8は、加熱部4により加熱された被着磁物100を冷却する。実施の形態における冷却部8は、図示しない固定部材により、架台部2に固定されており、空気を界磁部6に載置された被着磁物100に向けて出力する。冷却部8は、例えば、空冷ファンや、圧縮空気供給するコンプレッサーなどであり、加熱後の被着磁物100を自然空冷ではなく、冷却効率が高い強制空冷により冷却する。冷却部8は、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、制御部10により送風制御が行われる。
【0031】
制御部10は、被着磁物100に対して着磁を行うために、着磁装置1を制御する。制御部10は、移動部3、加熱部4、予熱部5および冷却部8を制御するものである。制御部10は、移動部3を駆動制御することで、界磁部6に載置された被着磁物100に対して加熱部4を非加熱位置と加熱位置との間で相対移動させる。ここで、非加熱位置とは、アキシャル方向において被着磁物100に対して加熱部4が離間して被着磁物100に非接触となる位置であり、かつ加熱部4による被着磁物100の加熱が行われない位置である。一方、加熱位置は、アキシャル方向において被着磁物100に対して加熱部4が近接して被着磁物100に接触し、加熱部4による被着磁物100の加熱が行われる位置である。
【0032】
制御部10は、加熱部4を温度制御することで、被着磁物100を構成する磁石のキュリー点以上の加熱温度となるように、加熱部4を加熱する。具体的には、実施の形態では、加熱位置となる前に、キュリー点以上、かつ350℃以下となるように加熱部4を加熱する。加熱温度は、被着磁物100を構成する磁石の磁気特性劣化を抑制できる温度である。被着磁物100を界磁部6に接触させた状態で加熱した後は、冷却部8が加熱部4により加熱された被着磁物100を室温程度まで冷却することにより、着磁した被着磁物100を製造することができる。
【実施例0033】
以下、実施例に基づいて上記実施の形態をより詳細に説明する。なお、上記実施の形態は、以下の実施例および比較例によって何ら制限されない。
【0034】
[実施例1~実施例3]
R-T-B系焼結磁石として、実施例1~実施例3に対応する試料A~試料Cを準備した。試料A~試料Cは、いずれも信越化学工業(株)製のNd-Fe-B系焼結磁石であり、表1に示すように、試料Aは商品名、型番:N37、試料Bは商品名、型番:N39UH、試料Cは商品名、型番:N32EZである。
【0035】
【表1】
【0036】
電子プローブアナライザー(EPMA)による化学分析結果から、各試料A、B、Cは、重希土類元素であるジスプロシウム(Dy)を含み、その含有量は、試料A<試料B<試料Cの関係になっている。具体的には、表1に示す分析値であった。また、各試料A、B、Cの固有保磁力の大きさは、試料A<試料B<試料Cの関係になっている。このため、重希土類元素であるジスプロシウム(Dy)を多く含む試料Cは、高耐熱性の焼結磁石となっている。
【0037】
次に、各試料A、B、Cを、図1に示した着磁装置1を用いて着磁を行った。各試料A、B、Cを被着磁物100として、7mm×7mm×1mm厚に作製した。着磁磁界を印加するための界磁源である界磁部6は、複数の略短冊状の永久磁石(SmCo17磁石)を、図2に示したように、N極62及びS極63を交互に隣接し所定の極ピッチで6枚配列させた構成である。極ピッチ(着磁ピッチ)は、それぞれ0.32mm、0.67mm、0.96mmである永久磁石を用意した。
【0038】
各試料A、B、Cを着磁装置1の予熱部5上にセットし、保持部材7としてグラファイト製の押さえ板(7mm×7mm×1mm厚)で保持した。各試料A、B、C表面に界磁源の永久磁石である界磁部6を接触させた状態で、加熱装置である加熱部4により、各試料A、B、Cのキュリー温度以上で、かつ350℃まで加熱した後、室温程度まで冷却することで、試料の厚さ方向(アキシャル方向)に所定の極ピッチ(0.32mm、0.67mm、0.96mm)で着磁し、図3に示した被着磁物100を得た。
【0039】
各試料A、B、Cを室温程度まで冷却した後、50μm 角のホール素子のプローブを用いて、各試料表面とプローブ間を0.14mmに離間した位置で保持し、着磁した各試料表面からの発生磁界を測定した。また、比較例として、各試料A、B、Cをパルス着磁した場合、各試料表面から0.14mmの位置での磁界強度を計算で算出した。パルス着磁は、着磁装置として一般的にマグネットワイヤーと電磁軟鉄から構成されており、ワイヤーにパルス電流を印加し着磁磁界を発生させる機構である。ワイヤー径と流せる電流値には発熱と断線するリスクから制限があり、電流密度16[kA/mm]を上限値として計算した。
【0040】
[評価]
(着磁指数と極ピッチとの関係)
着磁した各試料A、B、C表面からの発生磁界と、飽和残留磁化との関係から、次の式(1)から着磁指数を求めた。
着磁指数=着磁後の試料表面からの最大発生磁界(mT)/飽和残留磁化Jr(T)
(1)
【0041】
図4は、各試料A、B、Cを図1に示した着磁装置1で着磁した後の各試料について、各極ピッチ(0.32mm、0.67mm、0.96mm)の着磁指数との関係を示す図である。また、図5は、各試料A、B、Cを比較例としてのパルス着磁した後の各試料について、各極ピッチ(0.32mm、0.67mm、0.96mm)の着磁指数との関係を示す図である。さらに、各試料A、B、Cにおける飽和残留磁化、発生磁界、着磁指数を、図1の着磁装置1で着磁した実施例1~3による場合と、比較例としてのパルス着磁を行った場合とを含めて表2~4に示す。
【0042】
【表2】
【表3】
【表4】
図5からも明らかなように、比較例によるパルス着磁において極ピッチを小さくした場合、試料A~Cのいずれも極ピッチが小さくなるにしたがって、着磁指数が低下していく。換言すれば、極ピッチが小さくなるにしたがって、試料表面からの発生磁界が低下していく。また、試料中で最も固有保磁力の大きい試料C(実施例3)は、他の試料に比べて着磁指数が小さくなる。
【0043】
一方、図4に示すように、図1に示した着磁装置1における着磁工程にて着磁した場合、各試料中で最も固有保磁力の大きい試料C(実施例3)が、他の試料に比べて着磁指数が大きくなっていることがわかる。これは、従来のパルス着磁にて極ピッチを小さくした場合、被着磁物100の固有保磁力が大きくなると、着磁し難くなり、したがって、着磁後の発生磁界も小さくなる。これに対して、図1に示した着磁装置1を用いて着磁した場合、重希土類元素であるジスプロシウム(Dy)を多く添加して固有保磁力を大きくしたNd-Fe-B系焼結磁石に対して、極ピッチを小さくして着磁しても、着磁後の発生磁界を大きくすることができる。
【0044】
図6は、各試料中で最も固有保磁力の大きい試料C(実施例3)における極ピッチと着磁指数との関係を示す図である。比較例によるパルス着磁における値は、計算にて求めた値であり、図1に示した着磁装置1による着磁における値は、極ピッチ1mm以上では、計算にて求めた値を記載した。図6からもわかるように、極ピッチ4mm未満の領域において、比較例によるパルス着磁に比べて図1に示した着磁装置1にて着磁することで、着磁指数を向上することができる。
【0045】
(各試料における磁化比)
各試料A、B、Cについて、磁界と磁化との関係を求め、磁気ヒステリシス曲線を測定した。図7は、各試料A、B、Cについての磁気ヒステリシス曲線における第1象限を示す図である。図7から明らかなように、試料A、Bの初磁化曲線は、急峻に立ち上がっているが、試料Cの初磁化曲線は、試料A、Bに比べてなだらかに立ち上がっている。また、各試料とも、200kA/mよりも磁界が大きくなると、なだらかな曲線となることがわかる。
【0046】
次に、各試料A、B、Cにおける磁化比として、飽和残留磁化の値(B)に対する、初磁化曲線における外部磁界500kA/m印加時の磁化の値(A)を下記式(2)により算出した。
磁化比(A/B)=初磁化曲線における磁化(T)/飽和残留磁化(T) (2)
【0047】
また、各試料A、B、Cにおける磁化比(A/B)の値を表5にまとめて記載した。
表5において、磁化(T)の値は、磁界の3T印加における実測値を記載(図7からの値を記載)した。飽和残留磁化(T)の値は、試料A、Bに関して、図7からの値を記載し、試料Cにおける飽和残留磁化(T)の値は、メーカーである信越化学工業(株)の成績表に記載の値を転記した。
【0048】
【表5】
なお、磁化比は、初磁化曲線における外部磁界500kA/m印加時における場合について求めたが、各試料とも200kA/mよりも磁界が大きくなると、初磁化曲線の立ち上がりがなだらかな曲線となるので、ほぼ水平となる飽和磁化の近傍での代表的な磁化比として、500kA/mを使用したものである。従って、400~700kA/m程度の磁界において磁化比を求めてもよい。
【0049】
磁化比は、1.0よりも小さいことが好ましい。さらに、磁化比は、0.95よりも小さいことがさらに好ましく、0.46よりも小さいことがさらに一層好ましい。但し、磁化比は0よりも大きい。磁化比が1.0よりも小さいと、着磁が難しい高保磁力なR-T-B系焼結磁石に対し、着磁特性の高い磁石を得ることができる。また、磁化比が1.0を超えると、着磁が難しい高保磁力なR-T-B系焼結磁石に対し、着磁特性が低い磁石になるため、好ましくない。
【符号の説明】
【0050】
1 着磁装置、2 架台部、3 移動部、4 加熱部、5 予熱部、6 界磁部、61 永久磁石、62 N極、63 S極、7 保持部材、8 冷却部、10 制御部、32 アクチュエータ、 33 加熱部取付台、 100 被着磁物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7