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特開2023-175161表皮材止着用クリップおよび表皮材止着構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175161
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】表皮材止着用クリップおよび表皮材止着構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 2/22 20060101AFI20231205BHJP
   A47C 31/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
F16B2/22 C
A47C31/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087472
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 武文
【テーマコード(参考)】
3J022
【Fターム(参考)】
3J022DA15
3J022EA16
3J022EB14
3J022EC04
3J022EC15
3J022ED12
3J022ED22
3J022HB02
3J022HB06
(57)【要約】
【課題】線状体の保持性を維持できる表皮材止着用クリップおよび表皮材止着構造を提供すること。
【解決手段】表皮材止着用クリップ40は、表皮材3に取り付けられる止着片51と、止着片51に連続する弾性変形可能なフック片61と、フック片61に連続すると共にフック片61の拡径変形を規制する規制アーム71とを有する。フック片61には、+Y方向側に開口65が形成される。規制アーム71は、フック片61に対して-Y方向側に配置される。規制アーム71の先端75は、フック片61の拡径変形状態において、当該フック片61に対してY方向に当接する構成とされる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状体(20(20A,20B))に対して表皮材(3)を止着する表皮材止着用クリップ(40)であって、
前記表皮材(3)に取り付けられる止着片(51)と、前記止着片(51)に連続すると共に前記線状体(20(20A,20B))に係合する弾性変形可能なフック片(61)と、前記フック片(61)に連続すると共に前記フック片(61)の拡径変形を規制する規制アーム(71)とを有し、
前記フック片(61)には、前記止着片(51)の上下方向に直交する左右方向における一方側に開口(65)が形成され、
前記規制アーム(71)は、前記フック片(61)に対して前記左右方向における他方側に配置され、
前記規制アーム(71)の先端(75)は、前記フック片(61)の拡径変形状態において、当該フック片(61)に対して前記左右方向に当接する構成とされる表皮材止着用クリップ。
【請求項2】
前記フック片(61)は、前記止着片(51)の下端(52)に連続する底部(62)と、前記底部(62)から前記左右方向における一方側に延出した第一側部(63)と、前記第一側部(63)に対して下方に配置されると共に前記底部(62)から前記左右方向における一方側に延出した第二側部(64)とを有し、
前記規制アーム(71)は、前記底部(62)および前記第二側部(64)の連続部分(67)から上方に向かって延出し且つ前記底部(62)に対して前記左右方向の隙間(72)を隔てて配置される請求項1に記載の表皮材止着用クリップ。
【請求項3】
前記底部(62)は、前記第一側部(63)よりも上方に延出して形成される請求項2に記載の表皮材止着用クリップ。
【請求項4】
前記規制アーム(71)の先端(75)のうち少なくとも前記フック片(61)に対して当接可能な領域は、円弧形状に形成される請求項1に記載の表皮材止着用クリップ。
【請求項5】
前記フック片(61)の少なくとも一領域には、他の領域よりも可撓性の高い可撓領域(636,623)が形成される請求項1に記載の表皮材止着用クリップ。
【請求項6】
前記フック片(61)は、前記止着片(51)の下端(52)に連続する底部(62)と、前記底部(62)から前記左右方向における一方側に延出した第一側部(63)と、前記第一側部(63)に対して下方に配置されると共に前記底部(62)から前記左右方向における一方側に延出した第二側部(64)とを有し、
前記可撓領域(636)は、前記第一側部(63)に形成される請求項5に記載の表皮材止着用クリップ。
【請求項7】
前記フック片(61)の内面(611)は、前記左右方向に長い楕円形状に形成される請求項1に記載の表皮材止着用クリップ。
【請求項8】
線状体(20(20A,20B))と、表皮材(3)が取り付けられ且つ前記線状体(20(20A,20B))に係合された請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の表皮材止着用クリップ(40)とによって構成される表皮材止着構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の座席や室内で利用される椅子などの表面を覆う表皮材の止着に用いられる表皮材止着用クリップおよび表皮材止着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前述した座席や椅子などでは、座面や背当てなど人体に触れる部分にクッション材や柔軟なパッドを設置し、その表面を表皮材で被覆したものが多用されている。このような表皮材の固定には様々な構造が採用されている。表皮材を固定する構造として、例えば、表皮材に縫合される取付部材のフック片が、パッド材に設けられたワイヤ(線状体)に係合して保持する車両用シートにおける表皮材の取付構造が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-139626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載された表皮材の取付構造では、取付部材とのフック片を所定の径寸法を有したワイヤに対して適切に係合させられると考えられる。
しかし、フック片を所定の径寸法よりも大きい径寸法を有したワイヤに係合させる場合、特に、フック片の内径よりも大きい径寸法を有したワイヤに係合させる場合には、フック片が拡径変形すると共にフック片の開口が広がることとなり、取付部材によるワイヤの保持性が低下するおそれがある。
このため、特許文献1に記載された表皮材の取付構造では、取付部材のフック片を所定の径寸法以上の径寸法を有したワイヤに係合した場合におけるワイヤの保持性を維持することが困難である。
【0005】
本発明の目的は、線状体の保持性を維持できる表皮材止着用クリップおよび表皮材止着構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係る表皮材止着用クリップは、線状体に対して表皮材を止着する表皮材止着用クリップであって、前記表皮材に取り付けられる止着片と、前記止着片に連続すると共に前記線状体に係合する弾性変形可能なフック片と、前記フック片に連続すると共に前記フック片の拡径変形を規制する規制アームとを有し、前記フック片には、前記止着片の上下方向に直交する左右方向における一方側に開口が形成され、前記規制アームは、前記フック片に対して前記左右方向における他方側に配置され、前記規制アームの先端は、前記フック片の拡径変形状態において、当該フック片に対して前記左右方向に当接する構成とされる。
この表皮材止着用クリップによれば、所定の径寸法を有する線状体とフック片との係合状態で規制アームの先端がフック片に対して非当接である場合には、フック片によって所定通りに線状体を保持できる。
一方、前述した所定の径寸法よりも大きい径寸法を有する線状体とフック片との係合状態であって、フック片が拡径変形し且つ規制アームの先端がフック片に対して当接する場合には、フック片には、規制アームから当該フック片の更なる拡径変形を規制する規制力が加わることになるので、フック片によって前述した大きい径寸法を有する線状体を、保持性を維持しながら保持できる。
【0007】
本発明の第2態様に係る表皮材止着用クリップは、第1態様の表皮材止着用クリップにおいて、前記フック片は、前記止着片の下端に連続する底部と、前記底部から前記左右方向における一方側に延出した第一側部と、前記第一側部に対して下方に配置されると共に前記底部から前記左右方向における一方側に延出した第二側部とを有し、前記規制アームは、前記底部および前記第二側部の連続部分から上方に向かって延出し且つ前記底部に対して前記左右方向の隙間を隔てて配置されてもよい。
この表皮材止着用クリップによれば、フック片の底部および第二側部が拡径変形すると規制アームの先端が底部に向かって移動しやすい構成となるので、止着片が表皮材から上方への引張り力が加えられ、底部および第二側部が所定以上に拡径変形されようとしても、規制アームの先端が移動して底部に当接することで、前述した底部および第二側部の更なる拡径変形を規制する規制力を生じさせることができ、表皮材止着用クリップによる線状体の保持性を維持できる。
【0008】
本発明の第3態様に係る表皮材止着用クリップは、第2態様の表皮材止着用クリップにおいて、前記底部は、前記第一側部よりも上方に延出して形成されてもよい。
この表皮材止着用クリップによれば、規制アームをより長く形成しても、底部に対して当接可能な構成にでき、このため、表皮材止着用クリップを形成する際に規制アームの長さによって設定される規制力の選択幅を広げることできる。
【0009】
本発明の第4態様に係る表皮材止着用クリップは、第1態様および第3態様のいずれか一つの態様において、前記規制アームの先端のうち少なくとも前記フック片に対して当接可能な領域は、円弧形状に形成されてもよい。
この表皮材止着用クリップによれば、規制アームの先端における前述した領域が円弧形状に形成されているので、フック片の拡径変形の度合いの如何にかかわらず、規制アームの先端を底部に対して円滑に当接させることができる。
【0010】
本発明の第5態様に係る表皮材止着用クリップは、第1態様から第4態様のいずれか一つの態様の表皮材止着用クリップにおいて、前記フック片の少なくとも一領域には、他の領域よりも可撓性の高い可撓領域が形成されてもよい。
この表皮材止着用クリップによれば、フック片の所望の一部分に前述した可撓領域を形成することで、フック片に生じる拡径変形の状態を所望に設定することができる。
【0011】
本発明の第6態様に係る表皮材止着用クリップは、第5態様の表皮材止着用クリップにおいて、前記フック片は、前記止着片の下端に連続する底部と、前記底部から前記左右方向における一方側に延出した第一側部と、前記第一側部に対して下方に配置されると共に前記底部から前記左右方向における一方側に延出した第二側部とを有し、前記可撓領域は、前記第一側部に形成されてもよい。
この表皮材止着用クリップによれば、前述した可撓領域を第一側部に形成することで、当該第一側部の可撓性を第二側部の可撓性よりも高めることができる。このため、フック片が径寸法の大きい線状体と係合する場合には、第二側部よりも第一側部を積極的に弾性変形させることになるので、表皮材から表皮材止着用クリップに上方への引張り力が加えられても、第二側部の元の形状を極力維持できて、線状体の保持性を維持することができる。
【0012】
本発明の第7態様に係る表皮材止着用クリップは、第1態様から第6態様のいずれか一つの態様の表皮材止着用クリップにおいて、前記フック片の内面は、前記左右方向に長い楕円形状に形成されてもよい。
この表皮材止着用クリップによれば、所定の径寸法の線状体にフック片が係合する場合には、左右方向において当該線状体とフック片との間に隙間が生じた状態となるが所定通りに線状体を保持できる。
また、所定の径寸法よりも大きい径寸法を有する線状体にフック片が係合する場合には、フック片が拡径変形しつつフック片の開口が広がるが、左右方向においてフック片が線状体に当接することを極力なくすことで、線状体をフック片の開口から押し出す力が加わることを抑制でき、表皮材止着用クリップによる線状体の保持性を維持できる。
【0013】
本発明の第1態様に係る表皮材止着構造は、線状体と、表皮材が取り付けられ且つ前記線状体に係合された第1態様から第7態様のいずれか一つに記載の表皮材止着用クリップとによって構成される。
この表皮材止着構造によれば、前述した表皮材止着用クリップの作用効果を発揮可能な表皮材止着構造を構成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、線状体の保持性を維持できる表皮材止着用クリップおよび表皮材止着構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る表皮材止着構造を展開して示す斜視図。
図2】前記実施形態における表皮材止着用クリップを示す斜視図。
図3】前記実施形態における表皮材止着用クリップおよびワイヤの係合状態を示す端面図。
図4】前記実施形態における表皮材止着用クリップおよび大径ワイヤの係合状態を示す端面図。
図5】前記表皮材止着用クリップの他の使用形態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本実施形態の構成]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1および図2において、本実施形態に係る表皮材止着構造10は、自動車等の座席のクッション材の表面を覆う表皮材3を当該座席のフレームに溶接された線状体としてのワイヤ20(20A,20B)に止着する構造である。表皮材止着構造10は、表皮材3と、ワイヤ20(20A,20B)と、表皮材3の端縁部に縫製によって取り付けられた表皮材止着用クリップ40(以下、「クリップ」と称する)とによって構成されている。
以下の説明において、X方向をクリップ40の長さ方向とし、X方向に直交するY方向をクリップ40の左右方向とし、X,Y方向に直交するZ方向をクリップ40の上下方向とする。X方向において一方に向かう方向を+X方向とし且つX方向において他方に向かう方向を-X方向とする。Y方向において一方に向かう方向を+Y方向とし且つY方向において他方に向かう方向を-Y方向とする。Z方向において一方に向かう方向を+Z方向とし且つZ方向において他方に向かう方向を-Z方向とする。また、説明の便宜上、前方を+X方向とし、後方を-X方向とし、左方を+Y方向側とし、右方を-Y方向とし、上方を+Z方向とし、下方を-Z方向とするが、クリップ40の前後左右や上下は、クリップ40の取付箇所や取付け向きに応じて適宜変化する。
【0017】
座席のクッション材は、座席の形状に成型された発泡ポリウレタン等の合成樹脂ウレタンフォーム材であり、座席のフレームは金属製であって座席の骨格を構成している。ワイヤ20(20A,20B)は、本実施形態では金属製であって断面円形状に形成されており、クッション材で構成される座席の座部の裏側などに配置されている。ワイヤ20の径寸法は、本実施形態では、4mmから5mm程度であるが、これに限られず、後述するフック片61と係合可能であれば4mmよりも小さい径寸法であってもよく、6mmよりも大きい径寸法であってもよい。図3に示すワイヤ20Aの径寸法は5mmであり、図4に示す大径ワイヤであるワイヤ20Bの径寸法は6mmであり、ワイヤ20Aよりも大きい径寸法とされている。表皮材3は、合成樹脂織物シート等によって形成されている。
【0018】
クリップ40は、合成樹脂製であり、表皮材3の端縁部に取り付けられる止着片51と、止着片51の下端52に連続すると共にワイヤ20に係合する弾性変形可能なフック片61と、フック片61に連続すると共に当該フック片61の拡径変形を規制する規制アーム71とを有している。なお、クリップ40のX方向における長さ寸法は適宜設定される。
【0019】
止着片51は、その下端52を除いてZ方向に沿って形成されている。下端52は、+Y方向に折曲されて形成されており、フック片61の後述する底部62の上端621に連続している。下端52は、底部62とともに断面略L字状の段部53を形成している。
【0020】
止着片51には、表皮材3の端縁部31が縫製接合されている。表皮材3の端縁部31は、本実施形態では図3および図4に示すように、止着片51に対して+Y方向側から縫製接合されているが、これに限らず、-Y方向側から縫製接合されていてもよい。
【0021】
フック片61は、止着片51の下端52に連続する底部62と、底部62から+Y方向側に延出した第一側部63と、第一側部63に対して下方(-Z方向)に配置されると共に底部62から+Y方向側に延出した第二側部64とを有しており、+Y方向側に開口65が第一側部63と第二側部64とによって形成されている。底部62、第一側部63および第二側部64によって形成されるフック片61の内面611は、Y方向に長い楕円形状に形成されている。
【0022】
底部62は、第一側部63よりも上方(+Z方向)に延出した延出部分622を有して形成されており、底部62の下端は、第二側部64に連続している。底部62および第一側部63の連続部分66と、底部62および第二側部64の連続部分67との間の部分623における肉厚は、第一側部63および第二側部64の肉厚よりも薄い厚さ寸法とされており、延出部分622の肉厚は、止着片51の肉厚と等しい厚さ寸法とされている。このため、部分623は第一側部63および第二側部64よりも積極的に弾性変形する可撓領域として構成されており、延出部分622は、止着片51と概略同様に、部分623、第一側部63および第二側部64よりも弾性変形を生じ難い構成とされている。底部62の規制アーム71側の面624は、Z方向に沿った平坦面で形成されている。
【0023】
第一側部63は、Z方向に弾性変形可能な側部本体631と、側部本体631の先端から+Y方向且つ+Z方向に向かって斜め上に延出した案内部632とを有している。側部本体631は、上方に向かって弓なりとなるように円弧状に湾曲しており、側部本体631の内面633は、断面円形状のワイヤ20の外面21に対して接触する面積が大きくなるように凹曲面状に形成されている。第一側部63の外面634のうち連続部分66に近接した部分には、切欠き部635が形成されており、第一側部63のうち切欠き部635が形成された領域636が他の領域よりも薄肉となるので、他の領域よりも可撓性の高い可撓領域として構成される。また、案内部632は、当該案内部632に当接するワイヤ20を開口65に案内するように傾斜して形成されている。
【0024】
第二側部64は、Z方向に弾性変形可能な側部本体641と、側部本体641の先端から+Y方向且つ-Z方向に向かって斜め下に延出した案内部642とを有している。側部本体641は、下方に向かって弓なりとなるように円弧状に湾曲しており、側部本体641の内面643は、断面円形状のワイヤ20の外面21に対して接触する面積が大きくなるように凹曲面状に形成されている。また、案内部642は、当該案内部642に当接するワイヤ20を開口65に案内するように傾斜して形成されている。
【0025】
規制アーム71は、Y方向に弾性変形可能に構成されており、これにより、フック片61の拡径変形の度合いに応じて規制力をより柔軟に対応させることができる。規制アーム71は、フック片61の底部62に対して-Y方向側に配置されており、底部62および第二側部64の連続部分67から-Y方向側であって+Z方向に向かって斜め上に延出し、更に+Z方向に折曲して上方に延びている。規制アーム71は、底部62に対してY方向の隙間72を隔てて配置されている。規制アーム71の肉厚は、先端75を除いて底部62の部分623と概略等しい寸法とされている。規制アーム71の-Y方向側の面73は、止着片51の-Y方向側の面54に沿った仮想線55上に配置されている。
【0026】
規制アーム71の先端75は、図4に示すようにワイヤ20Bにフック片61が係合して拡径変形した拡径変形状態において、フック片61の底部62の面624に対してY方向に当接する構成とされる。このように当接するように規制アーム71のZ方向の長さ寸法は適切に設定されている。本実施形態では、規制アーム71の長さ寸法は、その先端75が底部62と第一側部63との連続部分66よりも若干上方の位置に当接する寸法設定とされているが、これ限らず、この寸法設定よりも長くても短くてもよい。また、規制アーム71の先端75は、X方向における端面視において円形状に形成されており、先端75の周面は円弧状に形成されている。このため、先端75のうち底部62に対して当接可能な領域も円弧状に形成されている。
【0027】
この規制アーム71は、フック片61がワイヤ20Bと係合して、主にフック片61のうち底部62における可撓領域とされる部分623が弾性変形することで、先端75が+Y方向に移動して底部62の面624に当接する。これにより、規制アーム71によってフック片61の更なる拡径変形を規制し、フック片61の開口65が広がっても、フック片61によるワイヤ20Bの保持力を高めることができ、クリップ40によるワイヤ20Bの保持性を維持できる。
【0028】
以上のクリップ40は、次のようにワイヤ20と係合して表皮材3を座席のフレームに止着する。
【0029】
まず、表皮材3を座席のクッション材を覆うように張設し、この表皮材3の端部に止着片51が縫製接合されたクリップ40におけるフック片61の開口65をワイヤ20に対してY方向に対向して配置する。
【0030】
次に、フック片61をワイヤ20に対して+Y方向に押し当ててフック片61に弾性変形を生じさせ、一旦、開口65がワイヤ20の径寸法に対応した開口幅寸法となるまでフック片61を拡径変形してワイヤ20をフック片61の内面611内に配置する。ワイヤ20が内面611内に配置されると、フック片61が復元するように弾性変形し、第一側部63および第二側部64がZ方向に接近してワイヤ20の外面21に接触する。このとき、開口65の開口幅寸法はワイヤ20の径寸法よりも小さくなる。これにより、フック片61はワイヤ20と係合し、クリップ40は表皮材3を座席のフレームに止着する。
【0031】
ここで、クリップ40はフック片61をワイヤ20に対してY方向に押し当てて係合させるので、クリップ40をワイヤ20に係合する際に当該クリップ40をワイヤ20に対して大きくオーバーストロークさせる大きな力を必要とせずにクリップ40をワイヤ20に容易に係合でき、また、大きくオーバーストロークさせないので表皮材3が緩みにくく、当該表皮材3がクッション材を覆って張られた状態にすることが容易となる。
【0032】
図3に示すようにフック片61をワイヤ20Aに対して係合した場合、底部62とワイヤ20Aとの間にはY方向の隙間625が形成される。また、規制アーム71は、底部62に対して隙間72を隔てた非当接状態となる。この係合状態では、フック片61は所定の保持力をもってワイヤ20Aを保持する。
【0033】
図4に示すようにフック片61をワイヤ20Bに対して係合した場合、フック片61は弾性的に拡径変形した拡径変形状態となる。このようなフック片61の拡径変形状態では、主に第一側部63の可撓領域である領域636や底部62の可撓領域である部分623が他の部分よりも大きく弾性変形しており、第一側部63および第二側部64は円弧形状を保っており、開口65の開口幅寸法は図3に示す開口幅寸法よりも大きい寸法となるもののワイヤ20Bの径寸法よりも小さい寸法となっており、底部62はワイヤ20Bに当接している。また、規制アーム71は、底部62の部分623が第二側部64よりも大きく弾性変形することで、-Y方向に移動して底部62の面624に当接した状態となって、フック片61には規制アーム71から拡径変形に抗する規制力が加わっており、この規制アーム71からの規制力は、主に第二側部64側に加わっている。これにより、規制アーム71によって主に底部62の弾性変形が抑制され、第二側部64の下方への移動が抑制されている。このため、クリップ40に表皮材3から上方への引張り力が加えられても、第二側部64が下方へ移動してワイヤ20Bが開口65から抜けやすくなることを抑制している。
【0034】
以上より、ワイヤ20と、表皮材3が取り付けられ且つワイヤ20に係合されたクリップ40とによって表皮材止着構造10が構成される。
【0035】
[変形例]
前記実施形態では、規制アーム71は、底部62および第二側部64の連続部分67から上方に向かって延出しているが、これに限らず、底部62の上端621側の部分から下方に向かって延出していてもよい。
【0036】
前記実施形態では、規制アーム71の先端75は、端面視円形状に形成されているが、これに限らず、規制アーム71のうち少なくともフック片61に対して当接可能な領域のみが底部62に円滑に当接するように円弧形状に形成され、この当接可能な領域を除く部分は多角形状など他の形状であってもよい。また、前述した規制アーム71は、少なくともフック片61に対して当接可能な領域が円弧形状に形成されるが、先端75が底部62に当接してフック片61の拡径変形を規制可能であれば、当該領域は平坦な面形状など他の形状であってもよい。
【0037】
前記実施形態では、フック片61の第一側部63における領域636や底部62における部分623がフック片61の他の領域よりも可撓性の高い可撓領域とされているが、ワイヤ20を保持可能な構成であれば、これよりも可撓領域の箇所をフック片61に増やしても減らしてもよく、また、前述した可撓領域の構成を省略してもよい。更に、ワイヤ20を保持可能な構成であれば、第二側部64に可撓領域を設けてもよい。加えて、第一側部63は、その領域636が前述した可撓領域とされているが、これに代えて。全体が第二側部64よりも高い可撓性を有するように、例えば第二側部64の肉厚よりも全体が薄肉に形成された第一側部を構成してもよい。
【0038】
前記実施形態では、フック片61の内面611は、Y方向に長い楕円形状に形成され、これに規定される空間はZ方向に短くY方向に長い寸法設定とされているが、ワイヤ20(20A,20B)を保持可能な形状であれば、真円形状であってもよく、また、多角形状であってもよい。
【0039】
前記実施形態では、規制アーム71の面73は、止着片51の面54に沿った仮想線55上に配置されているが、面73は仮想線55に対してY方向に外れた位置に配置されていてもよい。
【0040】
前記実施形態のクリップ40は、例えば図5に示すように、表皮材3をクッション材2に形成された溝部2Aに配置されたワイヤ20(20A,20B)に止着してもよい。なお、図5に示す表皮材3は、クリップから離れるに連れて二股に分かれている。
【0041】
前記実施形態では、自動車等の座席のクッション材の表面を覆う表皮材3を座席のフレームに溶接されたワイヤ20(20A,20B)止着する構造として表皮材止着構造10を説明したが、座席や椅子に限らず各種の被着体を覆う表皮材を当該被着体に止着する構造として表皮材止着構造10を構成してもよい。
【符号の説明】
【0042】
10…表皮材止着構造、2…クッション材、20(20A,20B)…ワイヤ(線状体)、21,634…外面、2A…溝部、3…表皮材、31…端縁部、40…クリップ(表皮材止着用クリップ)、51…止着片、52…下端、53…段部、54,624,73…面、55…仮想線、61…フック片、611,633,643…内面、62…底部、621…上端、622…延出部分、623…部分、625…隙間、63…第一側部、631,641…側部本体、632,642…案内部、635…切欠き部、636…領域、64…第二側部、65…開口、66,67…連続部分、71…規制アーム、72…隙間、75…先端。
図1
図2
図3
図4
図5