(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175179
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】中空ホロースラブの補修方法
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20231205BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E04G23/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087498
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】兼丸 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】中井 章人
(72)【発明者】
【氏名】久保 良太
(72)【発明者】
【氏名】金田 遥
(72)【発明者】
【氏名】徳嵩 秀晴
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059BB39
2D059GG40
2E176AA03
2E176BB28
2E176BB36
(57)【要約】
【課題】ボイド管で形成された開口に、正確な型枠支保工を簡単且つ短時間に設置することができる中空ホロースラブの補修方法を提供する。
【解決手段】ボイド管1が浮き上がることによるボイド上部のコンクリート部材厚の異常箇所を含む補修領域Xを補修する中空ホロースラブの補修方法であって、補修領域Xの床版コンクリート4を開削する開削工程と、側面に型枠面が形状され、軸方向に複数のブロックに切断された円筒体2を製造する製造工程と、床版コンクリート4の開削によって生じたボイド管1の開口11から円筒体2を前記ブロック毎に搬入して、ボイド管1の中空部で型枠支保工として組み立てる組み立て工程と、補修領域Xにコンクリートを打設する打設工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイド管が浮き上がることに起因したボイド上部のコンクリート部材厚の異常箇所を含む補修領域を補修する中空ホロースラブの補修方法であって、
前記補修領域の床版コンクリートを開削する開削工程と、
側面に型枠面が形状され、軸方向に複数のブロックに切断された円筒体を製造する製造工程と、
前記床版コンクリートの開削によって生じた前記ボイド管の開口から前記円筒体を前記ブロック毎に搬入して、前記ボイド管の中空部で型枠支保工として組み立てる組み立て工程と、
前記補修領域にコンクリートを打設する打設工程と、を備えることを特徴とする中空ホロースラブの補修方法。
【請求項2】
前記円筒体は、前記ボイド管の内径を外径とする円柱の発泡スチロールから製造することを特徴とする請求項1に記載の中空ホロースラブの補修方法。
【請求項3】
前記型枠支保工として組み立てた前記円筒体の前記型枠面に、モルタルを塗布してシールを形成するシール工程を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の中空ホロースラブの補修方法。
【請求項4】
前記組み立て工程の前に、前記補修領域の既設床版鉄筋を撤去し、
前記シール工程の後に、新設鉄筋を配筋することを特徴とする請求項3記載の中空ホロースラブの補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイド管の浮き上がりに起因するボイド上部のコンクリート部材厚の不具合を補修する中空ホロースラブの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空ホロースラブは、重量軽減のためにボイド管を埋め込んで内部に中空部を有する床版橋である。中空部の上面側は、コンクリート打設時にボイド管の浮き上がりが生じることがある。ボイド管の浮き上がりが生じた場合には、ボイド管が上面鉄筋を押し上げることで、鉄筋のコンクリートかぶり不足や、床版部分のコンクリート部材厚が不足することから、ボイド管上面の床版部にひび割れ・脆弱化が生じ、これにより舗装面にひび割れ・ポットホールが生じる。
【0003】
そこで、ボイド管の浮き上がり異常が見られるボイド上部のコンクリート部材厚の異常箇所を開削し、所定の床版厚を確保できる厚さでコンクリートを打ち換えて補強する部分打換えが行われている。この部分打換えでは、開削時にボイド管の周面も削られて中空部に至る開口が形成されてしまうため、コンクリートの打ち換え打設時に、ボイド管に形成された開口を塞ぎ、打ち換えのため打設するコンクリートをささえる型枠支保工が必要になり、発泡ウレタンをボイド管の中空部に充填して型枠支保工として使用していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発泡ウレタンによる型枠支保工形成は発泡コントロールが難しく、未充填部や過充填部の発生や、型枠上面が平滑にならないなどの問題が生じ、型枠支保工として機能するためには形成された型枠支保工の整形が必要など、手戻りが発生していた。発泡ウレタンの充填は、燃焼の虞があるため、補修用鉄筋が溶接工程などにより配筋された後に行われる。従って、型枠上面の整形等の手戻り作業は、狭隘な空間で行うことを強いられ、困難で時間を要していた。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消し、ボイド管に形成された開口に、正確な型枠支保工を簡単且つ短時間に設置することができる中空ホロースラブの補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の中空ホロースラブの補修方法は、ボイド管が浮き上がることに起因したボイド上部のコンクリート部材厚の異常箇所を含む補修領域を補修する中空ホロースラブの補修方法であって、前記補修領域の床版コンクリートを開削する開削工程と、側面に型枠面が形状され、軸方向に複数のブロックに切断された円筒体を製造する製造工程と、前記床版コンクリートの開削によって生じた前記ボイド管の開口から前記円筒体を前記ブロック毎に搬入して、前記ボイド管の中空部で型枠支保工として組み立てる組み立て工程と、前記補修領域にコンクリートを打設する打設工程と、を備えることを特徴とする。
さらに、本発明の中空ホロースラブの補修方法において、前記円筒体は、前記ボイド管の内径を外径とする円柱の発泡スチロールから製造しても良い。
さらに、本発明の中空ホロースラブの補修方法は、前記型枠支保工として組み立てた前記円筒体の前記型枠面に、モルタルを塗布してシールを形成するシール工程を備えても良い。
さらに、本発明の中空ホロースラブの補修方法は、前記組み立て工程の前に、前記補修領域の既設床版鉄筋を撤去し、前記シール工程の後に、新設鉄筋を配筋しても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、円筒体をボイド管の中空部で組み立てるだけで、ボイド管により形成された開口に、正確な型枠支保工を簡単且つ短時間に設置することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る中空ホロースラブの補修方法に用いる円筒体の構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す円筒体の製造工程を示す図である。
【
図4】中空ホロースラブの補修工程を示す図である。
【
図5】中空ホロースラブの補修工程を説明する説明図である。
【
図6】中空ホロースラブの補修工程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という)を、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の実施の形態において、同様の機能を示す構成には、同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0011】
本実施形態の中空ホロースラブの補修方法では、
図1を参照すると、ボイド上部のコンクリート部材厚の異常箇所を含む補修領域Xを開削して補修する際に、ボイド管1により形成された開口11に設置する型枠支保工として円筒体2を用いる。円筒体2は、ボイド管1の内径を外径とする、側面に平面の型枠面3が形状された円筒体2を用い、型枠支保工として十分な程度に隙間なく設置される。
図1において、(a)は上面図であり、(b)は(a)に示すY-Y断面図である。
【0012】
円筒体2は、
図2(a)に示すような、ボイド管1の内径を外径とする円柱状の発泡スチロール20から製作されたものである。円柱状の発泡スチロール20を、
図2(a)に示す点線で示す切断線で全長Dカットすることで、型枠面3が形状された円筒体2となる。
【0013】
発泡スチロール20は、軸方向の長さがボイド管1の開口11の橋軸方向の長さL1よりも長いものを用いる。従って、型枠面3の長さL3は、ボイド管1の開口11の橋軸方向の長さL1よりも長く形成される。型枠面3の幅W3も、ボイド管1の開口11の幅(橋軸直角方向の長さ)W1以上の長さに形成されている。
【0014】
補修領域Xは、
図3に示すように、ボイド管1の浮き上がりによって、ボイド管1上面の床版コンクリート4の厚さが設計値(以下、ボイド上面設計値と称す)を満たしていない異常箇所Aを含む所定の領域が設定される。橋軸方向において、補修領域Xは、ボイド上面設計値を満たしている正常箇所Bに挟まれた領域となる。なお、補修領域Xが橋軸方向の正常箇所Bを含んで設定された場合には、補修領域Xにおける橋軸方向の両端が正常箇所Bとなる。
【0015】
正常箇所B、もしくはその近傍は、補修領域Xを開削しても、ボイド管1により開口11が形成されることがない。従って、ボイド管1の開口11は、橋軸方向の両端において、
図1(a)に示すように、湾曲した形状になり、Dカットによって長方形に形成された型枠面3と一致しない。開口11の橋軸方向の長さL
1は、最も長い中央部の長さである。
【0016】
しかし、上述のように型枠面3の長さL3は、開口11の橋軸方向の長さL1よりも長いため、収縮性を有する円筒体2の両端部を押し込むことで、開口11の橋軸方向の両端においても、円筒体2を型枠支保工として十分な程度に隙間なく設置できる。
【0017】
円筒体2は、
図2(b)に示す点線で示す切断線で軸方向に切断され、
図2(c)に示すように、ボイド管1の開口11を通過可能な大きさの複数のブロックに分割されている。本実施形態では、7つのブロックに分割した例を示すが、ボイド管1の開口11を通過可能であれば、ブロックの数には制限はない。
【0018】
円筒体2は、分割されたブロック毎にボイド管1の開口11から中空部に搬入し、中空部で組み立て、ボイド管1の中空部に型枠支保工として配置する。円筒体2は、型枠面3がボイド管1に形成された開口11に一致するように配置する。
【0019】
次に、本実施形態の補修工程について
図4乃至
図6を参照して詳細に説明する。
図4を参照すると、最初の補修工程は、
図5(a)、(b)に示す補修領域Xの交通規制を行う(S01)。
図5において、(a)は正面図であり、(b)は(a)に示すX-X断面図である。
【0020】
次の補修工程は、
図5(c)、(d)に示すように、ウォータジェットによって補修領域Xのアスファルト舗装5と床版コンクリート4とを撤去し(S02、S03)、橋軸方向の既設床版鉄筋6と橋軸直角方向の既設床版鉄筋7とを露出させる。
図5において、(c)は上面図であり、(d)は(c)に示すX-X断面図である。
【0021】
床版コンクリート4は、ボイド上面設計値以上の深さまで開削する。従って、補修領域Xのボイド管1の上面は、ウォータジェットによる開削で損傷して開口11が形成される。
【0022】
次の補修工程は、補修領域Xの既設床版鉄筋6、7を切断して撤去し、残存鉄筋の寸法等を調査する(S04)。また、ボイド管1に形成された開口11の寸法等も調査する(S05)。
【0023】
次の補修工程は、開削した補修領域Xに敷鉄板を敷設し、仮舗装によって復旧させた後に(S06)、交通規制を解除する(S07)。以上のS01~S07までが1日目の補修工程である。
【0024】
次の作業日までの補修工程は、S04で行った残存鉄筋の調査に基づいて、新設鉄筋の加工及び調整を行うと共に(S08)、S05で行ったボイド管1の開口11の調査に基づいて、円筒体2の製造を行う(S09)。円筒体2の製造は、
図2に示す手順で行うが、補修領域Xがボイド管1の端部で縮径していたり、ボイド管1が変形していたりした場合、外周面の加工を行っても良い。
【0025】
2日目の最初の補修工程は、補修領域Xの交通規制を行い(S10)、仮舗装及び敷鉄板を撤去する(S11)。
【0026】
次の補修工程は、S09で製造した円筒体2を分割されたブロック毎にボイド管1の開口11から中空部に搬入し、
図1に示すように、中空部で組み立てる(S12)。円筒体2は、型枠面3がボイド管1に形成された開口11に一致させることで、ボイド管1の中空部に型枠支保工として配置される。円筒体2は、ボイド管1の内径にあわせた形状なので、型枠支保工として十分な程度に隙間なく設置して所定の強度を確保することができ、その出来形が作業員の技量に左右されることが少ない。また、円筒体2は、軽量な発泡スチロールなので、設置には大掛かりな機器は必要なく、人力によって容易に組み立てることができる。さらに、円筒体2は、成形済みなので、発泡ウレタンのように強度発現のための養生の必要がない。さらに、円筒体2は、加工が容易な発泡スチロールなので、電熱線を使用すれば、特別な技量がない作業員でも簡単にできる。
【0027】
次の補修工程は、円筒体2の型枠面3に、組み立てた円筒体2の一体化と型枠面3の仕上げを目的とし、速硬性のモルタルを塗布して、
図6(a)、(b)に示すように、不燃性のシール8を形成する(S13)。
図6において、(a)は正面図であり、(b)は(a)に示すX-X断面図である。
【0028】
次の補修工程は、
図6(c)、(d)に示すように、S08で加工・調整した新設鉄筋を組み立て配筋し、エンクローズ溶接等で既設床版鉄筋6、7に接続する(S14)。
図6において、(c)は正面図であり、(d)は(c)に示すX-X断面図である。円筒体2の型枠面3には、不燃性のシール8が形成されているため、円筒体2の設置後に火器を使用した溶接を行うことができる。換言すると、円筒体2の組み立ては、新設鉄筋を組み立て前の作業空間を確保した状態で行うことができる。
【0029】
次の補修工程は、円筒体2の型枠支保工として、速硬性のコンクリートを打設する(S15)。打設したコンクリートが硬化した後、アスファルト舗装を行い(S16)、交通規制を解除して、補修工事を終了する。
【0030】
本実施形態は、分割した円筒体2の全ブロックをボイド管1で組み立てることで、型枠支保工の強度及び安定性を確保している。円筒体2の分割数及び分割方法は、任意である。また、強度及び安定性が許容範囲である場合、分割したブロックは、全部を使用しなくても良い。例えば、
図7(a)には、円筒体2を7個のブロックに分割し、その内の5個のブロックを使用する例が示されている。
図7(b)は、円筒体2を6個のブロックに分割し、その内の4個のブロックを使用する例が示されている。これらの場合、ボイド管1で組み立てるブロック数を減らすことができ、組立工数を減らすことができる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態は、ボイド管1の浮き上がっているボイド上部のコンクリート部材厚の異常箇所を含む補修領域Xを補修する中空ホロースラブの補修方法であって、補修領域Xの床版コンクリート4を開削する開削工程(S03)と、側面に型枠面3が形状され、軸方向に複数のブロックに切断された円筒体2を製造する製造工程(S09)と、床版コンクリート4の開削によって生じたボイド管1の開口11から円筒体2を前記ブロック毎に搬入して、ボイド管1の中空部で型枠支保工として組み立てる組み立て工程(S12)と、補修領域Xにコンクリートを打設する打設工程と、を備える。
この構成により、円筒体2をボイド管1の中空部で組み立てるだけで、ボイド管1に形成された開口11に、正確な型枠支保工を簡単且つ短時間に設置することができる。成形済みの円筒体2を用いることで、発泡ウレタンのように強度発現のための養生の必要がない。
【0032】
さらに、本実施形態おいて、円筒体2は、ボイド管1の内径を外径とする円柱の発泡スチロール20から製造する。
この構成により、ボイド管1の内径にあわせた形状なので、型枠支保工として十分な程度に隙間なく設置することにより所定の強度を確保することができ、その出来形が作業員の技量に左右されることが少ない。また、円筒体2は、軽量な発泡スチロールなので、設置には大掛かりな機器は必要なく、人力によって容易に運搬・組み立てることができる。さらに、円筒体2は、加工が容易な発泡スチロールなので、電熱線を使用するなどにより、特別な技量がない作業員でも簡単にできる。
【0033】
さらに、本実施形態は、ボイド管1の中空部で型枠支保工として組み立てた円筒体2の型枠面3に、モルタルを塗布してシール8を形成するシール工程(S13)を備える。
この構成により、組み立てた円筒体2の一体化できると共に、型枠面3の仕上げを行うことができる。
【0034】
さらに、本実施形態は、組み立て工程の前に、補修領域Xの既設床版鉄筋6、7を撤去し(S04)、シール工程の後に、新設鉄筋9を配筋する(S14)。
この構成により、円筒体2の組み立てを、新設鉄筋を組み立て前の作業空間を確保した状態で行うことができる。また、不燃性のシール8が形成されているため、円筒体2の設置後に火器を使用した溶接を安心して行うことできる。
【0035】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0036】
1 ボイド管
2 円筒体
3 型枠面
4 床版コンクリート
5 アスファルト舗装
6 既設床版鉄筋
7 既設床版鉄筋
8 シール
9 新設鉄筋
20 発泡スチロール