(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175201
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】粘着剤組成物および粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 153/02 20060101AFI20231205BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20231205BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20231205BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20231205BHJP
【FI】
C09J153/02
C09J11/06
C09J11/08
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087533
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋暁
(72)【発明者】
【氏名】根岸 伸和
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA05
4J004AB01
4J004CD06
4J004DB03
4J004EA01
4J004EA05
4J004FA08
4J040DM011
4J040EE062
4J040HD43
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4J040JA09
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4J040KA16
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4J040KA28
4J040KA29
4J040KA31
4J040KA32
4J040KA35
4J040KA42
4J040LA06
4J040LA08
4J040MA02
4J040MA10
4J040NA12
4J040NA16
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】強粘着力を実現し得るスチレン系ブロック共重合体を含む組成で、強粘着力を維持しつつ、優れた耐候性と、高い耐熱性とを有する粘着剤を形成可能な粘着剤組成物を提供する。
【解決手段】酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)と、酸と反応し得る架橋剤(B)と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)と、粘着付与樹脂(D)と、を含む粘着剤組成物が提供される。いくつかの好ましい態様において、上記ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)の含有量WC[重量%]に対する上記酸と反応し得る架橋剤(B)の含有量WB[重量%]の比(WB/WC)は、3/97以上7/93以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)と、
酸と反応し得る架橋剤(B)と、
ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)と、
粘着付与樹脂(D)と、を含む粘着剤組成物。
【請求項2】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)の含有量WC[重量%]に対する前記酸と反応し得る架橋剤(B)の含有量WB[重量%]の比(WB/WC)が、3/97以上7/93以下である、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)は、無水マレイン酸変性水添スチレン系ブロック共重合体である、請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)は、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記酸と反応し得る架橋剤(B)は、金属化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
前記酸と反応し得る架橋剤(B)は、金属アセチルアセトナートである、請求項1~5のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
前記酸と反応し得る架橋剤(B)は、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項8】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)は、ポリフェニレンエーテルである、請求項1~7のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項9】
前記粘着付与樹脂(D)は、水添炭化水素樹脂と、水添ロジンエステルとを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項10】
さらに軟化剤(E)を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項11】
前記酸と反応し得る架橋剤(B)の含有量は、前記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、0.3重量部以上1.3重量部以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項12】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)の含有量は、前記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、10重量部以上20重量部以下である、請求項1~11のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項13】
前記水添炭化水素樹脂の含有量は、前記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、100重量部以上150重量部以下である、請求項9に記載の粘着剤組成物。
【請求項14】
前記水添ロジンエステルの含有量は、前記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、30重量部以上50重量部以下である、請求項9に記載の粘着剤組成物。
【請求項15】
前記軟化剤(E)を、前記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、25重量部以上50重量部以下の含有量で含む、請求項10に記載の粘着剤組成物。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤組成物に関する。また、本発明は、スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤層を備えた粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。かかる性質を活かして、粘着剤は、作業性がよく接着信頼性の高い接合手段として、家電製品から自動車、OA機器等の各種産業分野において広く利用されている。かかる粘着剤の代表的な組成として、常温でゴム弾性を示すポリマーと粘着付与樹脂とを含む組成が挙げられる。例えば特許文献1~3には、スチレン系ブロック共重合体と粘着付与樹脂とを含む粘着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5057626号公報
【特許文献2】特開2000-212345号公報
【特許文献3】特許第6820176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)やスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)などのスチレン系ブロック共重合体は、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等の難接着材料に対する接着性にも優れていることから、粘着テープに広く用いられている。しかしながらSISやSBS等のスチレン系ブロック共重合体は、分子内に共役ジエンに由来する二重結合を有しているため、紫外線や熱によって変質することがある。このため、強粘着力を実現し得るスチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤において、耐候性が改善された粘着剤を得ることができれば有用である。
【0005】
また、スチレン系ブロック共重合体は、分子内におけるスチレンドメインの疑似架橋によって凝集力を発現している。このため、ポリスチレンのガラス転移温度(典型的には約90℃)以上の高温下では、スチレン系ブロック共重合体の凝集力は低下する傾向にある。このようなスチレン系ブロック共重合体の高温時凝集力が低いという特性は、ホットメルト型粘着剤に適用するうえでは有利である一方、粘着剤の耐熱性(例えば高温での粘着力)を低下させる要因となり得る。
【0006】
スチレン系ブロック共重合体を用いた粘着剤において、耐熱性を向上させるために、粘着剤に含まれる重合体を架橋剤や活性エネルギー線の照射等によって架橋する方法や、高軟化点樹脂を添加する方法などが検討されている。例えば、引用文献1では、架橋剤によって架橋された官能化ブロック共重合体を含む組成物によって、高温での耐溶媒性や凝集力の改善に取り組んでいる。しかしながら、耐熱性向上のために架橋剤の添加量を増やすと、重合体の架橋度が高くなりすぎて、他の粘着特性(例えば粘着力)が低下する傾向にある。
【0007】
また、特許文献2ではエチレン系重合体を芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体等とともに用いて耐熱性改善に取り組んでいる。しかしながら、エチレン系重合体等のポリオレフィンは粘着性を持たないため、該ポリオレフィンの添加によって粘着剤の粘着特性は低下する傾向にある。また、引用文献3ではポリエーテル系樹脂をスチレン系エラストマーとともに用いることにより、高温接着力の改善に取り組んでいるが、ポリエーテル系樹脂の含有量が多すぎると接着強度を得ることが困難となるため、耐熱性の改善には限界がみられる。このように特許文献1~3で提案されている組成によっては、十分な粘着力と高い耐熱性とを両立させることには限界があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みて創出されたものであり、強粘着力を実現し得るスチレン系ブロック共重合体を含む組成で、強粘着力を維持しつつ、優れた耐候性と、高い耐熱性とを有する粘着剤を形成可能な粘着剤組成物を提供することを目的とする。関連する他の目的は、強粘着力を実現し得るスチレン系ブロック共重合体を含む組成で、強粘着力を維持しつつ、優れた耐候性と、高い耐熱性とを有する粘着剤を備える粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この明細書によると、酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)と、酸と反応し得る架橋剤(B)と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)と、粘着付与樹脂(D)と、を含む粘着剤組成物が提供される。上記の粘着剤組成物によると、水添スチレン系ブロック共重合体(A)を用いるため、水素化されていないスチレン系ブロック共重合体を用いる場合に比べて耐候性が向上する傾向にある。また、酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)は、酸と反応し得る架橋剤(B)との反応により架橋される。また上記粘着剤組成物には、ポリフェニレンエーテル樹脂(C)が添加されている。これらにより、耐熱性が向上し得る。さらに粘着付与樹脂(D)が添加されていることにより、粘着力などの粘着特性が向上し得る。上記の構成の粘着剤組成物によると、強粘着力を実現し得るスチレン系ブロック共重合体を含む組成で、十分な粘着力を維持しつつ、高耐候性と高耐熱性と有する粘着剤を形成することができる。
【0010】
いくつかの好ましい態様に係る粘着剤組成物において、上記ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)の含有量WC[重量%]に対する上記架橋剤(B)の含有量WB[重量%]の比(WB/WC)が、3/97以上7/93以下である。ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)の含有量と架橋剤(B)の含有量比を上記の範囲とすると、高い耐熱性と、優れた粘着力が両立して実現しやすい。
【0011】
いくつかの好ましい態様において、上記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)は、無水マレイン酸変性水添スチレン系ブロック共重合体(例えば、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体)である。スチレン系ブロック共重合体(A)として上記のような無水マレイン酸変性水添スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤組成物において、ここに開示される技術による効果は好適に発揮され得る。
【0012】
いくつかの好ましい態様において、上記酸と反応し得る架橋剤(B)は、金属化合物である。酸と反応し得る架橋剤として金属化合物を含む粘着剤において、ここに開示される技術による効果は好適に発揮され得る。上記金属化合物の好ましい例として、金属アセチルアセトナート(例えばアルミニウムトリス(アセチルアセトナート))が挙げられる。いくつかの好ましい態様において、上記酸と反応し得る架橋剤(B)の含有量は、上記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、0.3重量部以上1.3重量部以下である。
【0013】
いくつかの好ましい態様において、上記ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)は、ポリフェニレンエーテルである。ポリフェニレンエーテルを含む粘着剤組成物において、ここに開示される技術による効果は好適に発揮され得る。いくつかの好ましい態様において、上記ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)の含有量は、上記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、10重量部以上20重量部以下である。
【0014】
いくつかの好ましい態様において、上記粘着付与樹脂(D)は、水添炭化水素樹脂と、水添ロジンエステルとを含む。水添炭化水素樹脂および水添ロジンエステルは、いずれも水素化されているため、粘着付与樹脂(D)として水添炭化水素樹脂および水添ロジンエステルを含む構成によると、粘着力の向上と耐候性の改善が実現し得る。水添炭化水素樹脂および水添ロジンエステルを組み合わせて含む粘着剤において、ここに開示される技術による効果は好適に発揮され得る。いくつかの好ましい態様において、上記水添炭化水素樹脂の含有量は、上記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、100重量部以上150重量部以下である。また、いくつかの好ましい態様において、上記水添ロジンエステルの含有量は、上記酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、30重量部以上50重量部以下である。
【0015】
いくつかの好ましい態様において、上記粘着剤組成物はさらに軟化剤(E)を含む。軟化剤の添加により粘着力がさらに向上し得る。軟化剤(E)としては、特に限定されずに種々のものを使用することができるが、例えば液状炭化水素を使用することができる。いくつかの好ましい態様において、軟化剤の含有量は、酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、25重量部以上50重量部以下である。軟化剤の含有量を上記範囲とすると、粘着力がより向上しやすい。
【0016】
また、この明細書によると、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートが提供される。上記粘着シートによると、高粘着力を示しながら、優れた耐候性と高い耐熱性を有するものとなり得る。
【0017】
なお、本明細書に記載された各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれ得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態に係る粘着シート(基材付き両面粘着シート)の構成を示す模式的断面図である。
【
図2】他の実施形態に係る粘着シート(基材レス両面粘着シート)の構成を示す模式的断面図である。
【
図3】他の実施形態に係る粘着シート(基材付き片面粘着シート)の構成を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際に提供される製品のサイズや縮尺を正確に表したものではない。
【0020】
この明細書において「粘着剤」とは、前述のように、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料をいう。ここに開示される技術における粘着剤は、粘着剤組成物の固形分または粘着剤層の構成成分としても把握され得る。
【0021】
この明細書において「スチレン系ブロック共重合体」とは、少なくとも一つのスチレンブロックを有するポリマーを意味する。上記スチレンブロックとは、スチレンを主モノマーとするセグメントを指す。実質的にスチレンのみからなるセグメントは、ここでいうスチレンブロックの典型例である。この明細書において「水添スチレン系ブロック共重合体」とは、少なくとも一部が水素化(水素原子が付加)した水素化物を含むスチレン系ブロック共重合体を意味する。また「スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体」とは、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の少なくとも一部の二重結合を水素化したポリマーである。ここで「スチレン-ブタジエンブロック共重合体」とは、少なくとも一つのスチレンブロックと、少なくとも一つのブタジエンブロック(ブタジエンを主モノマーとするセグメント)とを有するポリマーをいう。
【0022】
この明細書において、スチレン系ブロック共重合体(水添スチレン系ブロック共重合体および酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体も同様である)の「スチレン含有量」とは、当該ブロック共重合体の全体重量に占めるスチレン成分の重量割合をいう。上記スチレン含有量は、NMR(核磁器共鳴スペクトル法)により測定することができる。
また、スチレン系ブロック共重合体に占めるジブロック体の割合(以下「ジブロック体比率」または「ジブロック比」ということがある。)は、次の方法により求められる。すなわち、スチレン系ブロック共重合体をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、東ソー社製GS5000HおよびG4000Hの液体クロマトグラフ用カラムをそれぞれ2段ずつ計4段を直列につなぎ、移動相にTHFを用いて、温度40℃、流量1mL/分の条件下で高速液体クロマトグラフィを行う。得られたチャートからジブロック体に対応するピーク面積を測定する。そして、全体のピーク面積に対する上記ジブロック体に対応するピーク面積の百分率を算出することにより、ジブロック体比率が求められる。
【0023】
この明細書において、「重量」は「質量」と読み替えてもよいものとする。例えば、「重量%」は「質量%」と読み替えてもよく、「重量部」は「質量部」と読み替えてもよいものとする。
【0024】
<粘着剤組成物>
(スチレン系ブロック共重合体)
ここに開示される粘着剤組成物は、スチレン系ブロック共重合体を含む。上記スチレン系ブロック共重合体は、モノビニル置換芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体である。上記モノビニル置換芳香族化合物とは、ビニル基を有する官能基が芳香環に一つ結合した化合物を指す。上記芳香環の代表例として、ベンゼン環(ビニル基を有しない官能基(例えばアルキル基)で置換されたベンゼン環であり得る。)が挙げられる。上記モノビニル置換芳香族化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等が挙げられる。上記共役ジエン化合物の具体例としては、1,3-ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。このようなブロック共重合体は、1種を単独で、または2種以上を併用することができる。
【0025】
なお、スチレン系ブロック共重合体は、粘着剤のベースポリマーとして用いられ得る成分である。粘着剤の「ベースポリマー」とは、該粘着剤に含まれるゴム状ポリマー(室温付近の温度域においてゴム弾性を示すポリマー)のうちの主成分(すなわち、該ゴム状ポリマーの50重量%超を占める成分)をいう。
【0026】
上記スチレン系ブロック共重合体におけるAセグメント(ハードセグメント)は、上記モノビニル置換芳香族化合物(2種以上を併用し得る。)の共重合割合が70重量%以上(より好ましくは90重量%以上であり、実質的に100重量%であってもよい。)であることが好ましい。上記スチレン系ブロック共重合体におけるBセグメント(ソフトセグメント)は、上記共役ジエン化合物(2種以上を併用し得る。)の共重合割合が70重量%以上(より好ましくは90重量%以上であり、実質的に100重量%であってもよい。)であることが好ましい。かかるブロック共重合体によると、より高性能な粘着シートが実現され得る。
【0027】
上記スチレン系ブロック共重合体は、ジブロック体、トリブロック体、放射状(radial)体、これらの混合物、等の形態であり得る。トリブロック体や放射状体においては、ポリマー鎖の末端にAセグメント(例えばスチレンブロック)が配されていることが好ましい。ポリマー鎖の末端に配されたAセグメントは、集まってドメインを形成しやすく、これにより疑似的な架橋構造が形成されて粘着剤の凝集性が向上するためである。
ここに開示される技術におけるスチレン系ブロック共重合体としては、被着体に対する粘着力(剥離強度)の観点から、ジブロック体比率が30重量%以上(より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、特に好ましくは60重量%以上、典型的には65重量%以上)のものを好ましく用いることができる。剥離強度の観点から、ジブロック体比率が70重量%以上のブロック共重合体が特に好ましい。また、凝集性等の観点から、ジブロック体比率が90重量%以下(より好ましくは85重量%以下、例えば80重量%以下)のブロック共重合体を好ましく用いることができる。例えば、ジブロック体比率が60~85重量%のブロック共重合体が好ましく、70~85重量%(例えば70~80重量%)のものがより好ましい。
【0028】
ここに開示される粘着剤組成物は、上記スチレン系ブロック共重合体として、スチレン系ブロック共重合体の少なくとも一部が水素化されている水添スチレン系ブロック共重合体を含む。水添スチレン系ブロック共重合体は、スチレン系ブロック共重合体の分子内の二重結合の少なくとも一部に水素原子が付加しているため、該水添スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤は、耐候性(典型的には、紫外線や熱による劣化を抑制する性質)が向上する傾向にある。ここに開示される技術において、粘着剤に含まれるスチレン系ブロック共重合体のうち、水添スチレン系ブロック共重合体の割合が70重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。いくつかの好ましい態様において、上記スチレン系ブロック共重合体の実質的に全部(例えば95~100重量%)が水添スチレン系ブロック共重合体である。このような組成によると、粘着剤の耐候性が向上しやすい。
【0029】
上記水添スチレン系ブロック共重合体としては、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)ブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)ブロック共重合体、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEEPS)等が挙げられる。また、上記水添スチレン系ブロック共重合体として、例えば、スチレン-イソブチレン-スチレン(SIBS)ブロック共重合体等も挙げられる。なかでも、粘着力を好適な範囲に調整しやすい観点から、SEBSブロック共重合体、SEPS共重合体およびSIBSブロック共重合体が好ましく採用され、より好ましくはSEBSブロック共重合体が用いられ得る。これらの水添スチレン系ブロック共重合体は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
粘着剤に含まれるスチレン系ブロック共重合体のうち、SEBSブロック共重合体の割合は特に限定されないが、粘着力を好適な範囲に調整しやすい観点から、70重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。上記スチレン系ブロック共重合体の実質的に全部(例えば95~100重量%)がSEBSブロック共重合体であってもよい。
【0031】
上記水添スチレン系ブロック共重合体は、ジブロック体、トリブロック体、放射状(radial)体、これらの混合物、等の形態であり得る。トリブロック体および放射状体においては、ポリマー鎖の末端にスチレンブロックが配されていることが好ましい。ポリマー鎖の末端に配されたスチレンブロックは、集まってスチレンドメインを形成しやすく、これにより疑似的な架橋構造が形成されて粘着剤の凝集性が向上するためである。ここに開示される技術において用いられる水添スチレン系ブロック共重合体としては、被着体に対する粘着力(剥離強度)の観点から、ジブロック体比率が30重量%以上(より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、特に好ましくは60重量%以上、典型的には65重量%以上)のものを好ましく用いることができる。ジブロック体比率が70重量%以上(例えば75重量%以上)の水添スチレン系ブロック共重合体であってもよい。また、凝集性等の観点から、ジブロック体比率が90重量%以下(より好ましくは85重量%以下、例えば80重量%以下)の水添スチレン系ブロック共重合体を好ましく用いることができる。ここに開示される技術を適用して粘着力と耐熱性とをバランス良く両立させる観点から、ジブロック体比率が60~85重量%の水添スチレン系ブロック共重合体が好ましく、70~85重量%(例えば70~80重量%)の水添スチレン系ブロック共重合体がより好ましい。
【0032】
上記水添スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量は、例えば、5~40重量%であり得る。凝集性の観点から、通常は、スチレン含有量が10重量%以上(より好ましくは10重量%超、例えば12重量%以上)の水添スチレン系ブロック共重合体が好ましい。また、剥離強度の観点から、水添スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量は35重量%以下(典型的には30重量%以下、より好ましくは25重量%以下)が好ましく、22重量%以下(典型的には20重量%未満、例えば18重量%以下)が特に好ましい。高い粘着力を得る観点から、スチレン含有量が10~22重量%の水添スチレン系ブロック共重合体を好ましく採用し得る。
【0033】
ここに開示される粘着剤組成物は、スチレン系ブロック共重合体として、酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)を含む。酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)とは、典型的には、水添スチレン系ブロック共重合体にカルボキシ基や酸無水物基等の官能基が導入されたポリマーである。酸変性された水添スチレン系ブロック共重体(A)における酸変性された箇所(典型的には、カルボキシ基や酸無水物基)は、後述する架橋剤(B)との反応点となり得る。このため、酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)を架橋剤とともに用いると、水添スチレン系ブロック共重合体の架橋度が上昇して耐熱性が向上しやすい。
【0034】
ここで用いられる酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)のジブロック体比率およびスチレン含有量の好適な範囲は、上述した水添スチレン系ブロック共重合体における好適なジブロック体比率や好適なスチレン含有量と同じ範囲である。
【0035】
水添スチレン系ブロック共重合体を酸変性させる方法は、特に限定されない。例えば、水添スチレン系ブロック共重合体を製造するための原料の1つとして酸無水物基を有するモノマーを他の原料と重合する方法や、水添スチレン系ブロック共重合体を合成した後に側鎖に酸無水物基を導入する方法、グラフト化反応させる方法等が例示される。より具体的には、適量の無水マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸の無水物を共重合させる方法、水添スチレン系ブロック共重合体を合成した後に、適量の無水マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸の無水物と過酸化物を用いてグラフト化反応させる方法等が挙げられる。また、酸無水物の代わりに、適量のマレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸を用いることもできる。
【0036】
いくつかの態様において、上記の水添スチレン系ブロック共重合体を酸変性させるのに用いられる酸は、炭素原子約3~10個を含む不飽和のモノまたはポリカルボン酸および酸無水物から選ばれる少なくとも1種であり得る。このような酸としては、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アクリル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸が挙げられる。
【0037】
なかでも、架橋度を好適に調整可能であることから、上記酸としては無水マレイン酸が好ましい。すなわち、ここに開示される酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)としては、無水マレイン酸を用いて酸変性させた、無水マレイン酸変性水添スチレン系ブロック共重合体を用いることが好ましい。いくつかの好ましい態様において、酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)として、無水マレイン酸変性SEBSブロック共重合体が用いられる。このようなブロック共重合体を用いると、後述する架橋剤と共に用いられて、強粘着力を維持しつつ、優れた耐候性と、高い耐熱性とを有する粘着剤が実現し得る。
【0038】
酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)の具体例としては、「タフテックM1913」(旭化成ケミカルズ社製)、「FG1924」(クレイトン社製)、「FG1901」(クレイトン社製)が挙げられる。
【0039】
(酸と反応し得る架橋剤(B))
ここに開示される粘着剤組成物は、酸と反応し得る架橋剤(B)(以下、単に「架橋剤(B)」ともいう。)を含むことを特徴とする。酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)を、酸と反応し得る架橋剤(B)とともに用いることにより、スチレン系ブロック共重合体が架橋されて、耐熱性が向上する傾向にある。
【0040】
ここで、上記酸と反応し得る架橋剤(B)における「酸」は、典型的にはカルボキシ基や酸無水物基を官能基として含有する化合物である。
【0041】
架橋剤(B)としては、酸と反応することが可能であれば、特に限定されずに種々のものを用いることができる。酸と反応し得る架橋剤(B)としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属化合物等が挙げられる。架橋剤(B)は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
また、架橋剤(B)としては、固体または粉体の状態のものを用いることが好ましい。特に、ここに開示される粘着剤組成物を高温下での材料配合を伴うホットメルト型粘着剤に適用する場合において、固体または粉体の架橋剤によると、有機溶剤希釈系や液状の架橋剤に比べて、揮発成分に起因する引火や人体への有害性に対する懸念が低減される。かかる観点から、架橋剤(B)としては金属化合物が好ましく採用され得る。
【0043】
上記金属化合物としては、金属アルコキシド系架橋剤、金属錯体系架橋剤、金属塩系架橋剤等が挙げられる。なかでも、架橋反応速度などの観点から、金属錯体系架橋剤を好ましく用いることができる。金属錯体系架橋剤は、多官能性を有しており、多価金属原子が有機化合物(錯化剤)と結合(共有結合や配位結合など)している化合物である。金属錯体系架橋剤において、多価金属原子としては、例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等の周期表2族元素;スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド元素[ランタン(La)、セリウム(Ce)など]、アクチノイド元素[アクチニウム(Ac)など]等の周期表3族元素;チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)等の周期表4族元素;バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等の周期表5族元素;クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の周期表6族元素;マンガン(Mn)等の周期表7族元素;鉄(Fe)等の周期表8族元素;コバルト(Co)等の周期表9族元素;ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)等の周期表10族元素;銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)等の周期表11族元素;亜鉛(Zn)等の周期表12族元素;アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)等の周期表13族元素;スズ(Sn)、鉛(Pb)等の周期表14族元素などが挙げられる。金属錯体系架橋剤において、多価金属原子は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。多価金属原子としては、アルミニウム、ジルコニウム、チタンが好適であり、特に、アルミニウムを好適に用いることができる。
【0044】
したがって、金属錯体系架橋剤としては、例えば、アルミニウム錯体系架橋剤、ジルコニウム錯体系架橋剤、チタン錯体系架橋剤、クロム錯体系架橋剤、コバルト錯体系架橋剤、銅錯体系架橋剤、鉄錯体系架橋剤、ニッケル錯体系架橋剤、バナジウム錯体系架橋剤、亜鉛錯体系架橋剤、インジウム錯体系架橋剤、カルシウム錯体系架橋剤、マグネシウム錯体系架橋剤、マンガン錯体系架橋剤、イットリウム錯体系架橋剤、セリウム錯体系架橋剤、ストロンチウム錯体系架橋剤、バリウム錯体系架橋剤、モリブデン錯体系架橋剤、ランタン錯体系架橋剤、スズ錯体系架橋剤などを用いることができ、好ましくはアルミニウム錯体系架橋剤、ジルコニウム錯体系架橋剤、チタン錯体系架橋剤(さらに好ましくはアルミニウム錯体系架橋剤)である。
【0045】
一方、金属錯体系架橋剤において、多価金属原子と結合する錯化剤中の原子としては、特に制限されないが、酸素原子が好適である。したがって、錯化剤としては、例えば、エステル系化合物、アルコール系化合物、カルボン酸系化合物、エーテル系化合物、ケトン系化合物などが挙げられる。より具体的には、錯化剤としては、例えば、β-ジカルボニル化合物[例えば、アセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、2,4-ヘプタンジオン、3,5-ヘプタンジオン、2,4-オクタンジオン、3,5-オクタンジオン、2,4-ノナンジオン、3,5-ノナンジオン、5-メチル-2,4-ヘキサンジオン等のβ-ジケトン類;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸イソブチル、アセト酢酸s-ブチル、アセト酢酸t-ブチル、アセト酢酸2-エチルヘキシル、アセト酢酸ドデシル等のβ-ケトエステル類(アセト酢酸C1-20アルキルエステルなど);マロン酸ジエチル等のβ-ジエステル類など]や、β位にヒドロキシル基やアミノ基を有するカルボニル化合物(例えば、ダイアセトンアルコール、ダイアセトンアミン、サリチルアルデヒド、サリチル酸メチル、N-メチルサリチルアミド等)などが挙げられる。錯化剤は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
いくつかの好ましい態様において、金属錯体系架橋剤としては金属アセチルアセトナート(例えばアルミニウムトリス(アセチルアセトナート))が採用され得る。
【0047】
金属錯体系架橋剤が、例えば、多価金属原子がアルミニウムであるアルミニウム錯体系架橋剤である場合、アルミニウム錯体系架橋剤としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(プロピオニルアセトナート)等のアルミニウムトリス(アシルアセトナート);アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(t-ブチルアセトアセテート)等のアルミニウムトリス(アセト酢酸アルキルエステル);アルミニウムモノ(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノ(アセチルアセトナート)ビス(イソブチルアセトアセテート)、アルミニウムモノ(アセチルアセトナート)ビス(2-エチルヘキシルアセトアセテート)、アルミニウムモノ(アセチルアセトナート)ビス(ドデシルアセトアセテート)等のアルミニウム[(モノ又はビス)(アセチルアセトナート)][(ビス又はモノ)(アセト酢酸アルキルエステル)];(アセチルアセトナート)アルミニウムジイソプロピレート、ビス(アセチルアセトナート)アルミニウムモノイソプロピレート等の[(モノ又はビス)(アシルアセトナート)]アルミニウム[(ジ又はモノ)アルコラート];(エチルアセトアセテート)アルミニウムジイソプロピレート、ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウムモノイソプロピレート等の[(モノ又はビス)(アセト酢酸アルキルエステル)]アルミニウム[(ジ又はモノ)アルコラート]などが挙げられる。なお、アルミニウム錯体系架橋剤としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)が好適である。
【0048】
また、アルミニウム錯体系架橋剤以外の金属錯体系架橋剤(ジルコニウム錯体系架橋剤や、チタン錯体系架橋剤など)としては、上記に例示のアルミニウム錯体系架橋剤に対応したものなどが挙げられる。
【0049】
なお、架橋剤(B)として、金属錯体系架橋剤以外の架橋剤を用いる場合、イソシアネート系架橋剤やエポキシ系架橋剤を好適に用いることができる。また、金属錯体系架橋剤は、他の架橋剤(イソシアネート系架橋剤やエポキシ系架橋剤など)と併用されていてもよい。
【0050】
イソシアネート系架橋剤としては、2官能以上の多官能イソシアネート化合物を用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、トリス(p-イソシアナトフェニル)チオホスフェート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;等が挙げられる。市販品としては、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製、商品名「コロネートL」)、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製、商品名「コロネートHL」)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製、商品名「コロネートHX」)等のイソシアネート付加物等を例示することができる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
エポキシ系架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものを特に制限なく用いることができる。1分子中に3~5個のエポキシ基を有するエポキシ系架橋剤が好ましい。エポキシ系架橋剤の具体例としては、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ系架橋剤の市販品としては、三菱ガス化学社製の商品名「TETRAD-X」、「TETRAD-C」、DIC社製の商品名「エピクロンCR-5L」、ナガセケムテックス社製の商品名「デナコールEX-512」、「デナコールEX-411」、「デナコールEX-321」、日産化学工業社製の商品名「TEPIC-G」等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
架橋剤(B)の含有量は特に限定されない。架橋度を高めて耐熱性を向上させる観点から、架橋剤(B)の含有量は、酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、凡そ0.01重量部以上が好ましく、より好ましくは0.1重量部以上であり、さらに好ましくは0.2重量部以上であり、特に好ましくは0.3重量部以上である。また、架橋剤(B)の含有量は、酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、通常、10重量部以下とすることが適当であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、さらに好ましくは2重量部以下(例えば1.5重量部以下)であり、特に好ましくは1.3重量部以下である。ここに開示される技術によると、架橋剤(B)の含有量を上記のように限定したとしても、耐熱性向上を実現することができる。
【0053】
(ポリフェニレンエーテル系樹脂(C))
ここに開示される粘着剤組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)を含む。ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、芳香族ポリエーテル構造を持つポリフェニレンエーテル系樹脂や、該ポリフェニレンエーテル系樹脂を主成分として他の合成樹脂とアロイ化された変性ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられる。ここで本明細書において「主成分」とは、成分全体の50重量%超の成分のことを指す。
【0054】
ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)をスチレン系ブロック共重合体とともに用いることにより、耐熱性が向上し、高温時においても良好な接着性を有する粘着剤が実現し得る。特に限定して解釈されるものではないが、ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)は、スチレン系ブロック共重合体のスチレンドメインに相溶することにより、粘着剤の高温時(例えば90℃以上)における粘着特性が向上する。ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)としては、スチレン系ブロック共重合体に対する相溶性が高いものが好ましく用いられ得る。上記の観点から、ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)としては、ポリフェニレンエーテル樹脂が好ましく用いられ得る。ここで「ポリフェニレンエーテル樹脂」とは、フェノキシ基やチオフェノキシ基を繰返し単位として含む高分子化合物を指す。
【0055】
ここに開示される技術において、ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)(例えばポリフェニレンエーテル樹脂)の軟化点は特に限定されないが、ポリスチレンのガラス転移温度(典型的には約90℃)よりも高いことが好ましい。いくつかの好ましい態様において、ポリフェニレンエーテル系樹脂の軟化点は90℃以上であり、より好ましくは120℃以上であり、さらに好ましくは150℃以上(例えば160℃以上)である。ポリフェニレンエーテル系樹脂の軟化点の上限は特に限定されない。ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)の軟化点は、200℃以下であってよく、180℃以下でもよく、170℃以下でもよい。
【0056】
粘着剤組成物におけるポリフェニレンエーテル系樹脂(C)(ポリフェニレンエーテル樹脂)の含有量は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適切な量が採用され得る。いくつかの好ましい態様において、耐熱性向上(例えば高温時の粘着力向上)の観点から、ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、1重量部以上であり、より好ましくは5重量部以上であり、さらに好ましくは10重量部以上である。粘着剤の粘弾性を適度な範囲にする観点からは、ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、通常、75重量部以下とすることが適当であり、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは25重量部以下であり、さらに好ましくは20重量部以下である。
【0057】
粘着力向上の観点から、ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)の含有量は、架橋剤(B)の含有量と特定の関係となるように調整されることが好ましい。いくつかの好ましい態様において、ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)の含有量WC[重量%]に対する架橋剤(B)の含有量WB[重量%]の比(WB/WC)は、1/99~10/90であり、より好ましくは2/98~12/88、さらに好ましくは3/97~7/93である。架橋剤(B)とポリフェニレンエーテル系樹脂(C)の含有量比を上記の範囲とすると、耐熱性向上と強粘着力とがバランス良く両立して実現し得る。
【0058】
(粘着付与樹脂(D))
ここに開示される粘着剤組成物は、粘着付与樹脂(D)を含む。粘着付与樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。粘着付与樹脂としては、特に限定されず、例えば石油系粘着付与樹脂、天然物系粘着付与樹脂のいずれも使用可能である。ここで、石油系粘着付与樹脂は、石油資源に由来する化合物であり、石油資源に由来する化学構造を有し、その化学構造に基づく粘着剤への相溶性や化学的性質等により、粘着特性を付与するものである。また、天然物系粘着付与樹脂は、天然物に由来する成分を含む化合物であり、天然物に由来する化学構造を有し、その化学構造に基づく粘着剤への相溶性や化学的性質等により、粘着特性を付与するものである。ここに開示される技術では、石油系粘着付与樹脂、天然物系粘着付与樹脂の化学構造に基づき、それらの1種または2種以上を適切に選定して、粘着力および耐熱性のバランスのよい粘着剤が設計される。
【0059】
石油系粘着付与樹脂の例としては、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系(C5/C9系)石油樹脂、スチレン系樹脂、これらの水素添加物(例えば、芳香族系石油樹脂に水素添加して得られる脂環族系石油樹脂)等が挙げられる。石油系粘着付与樹脂の他の例としては、クマロン・インデン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂が挙げられる。石油系粘着付与樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
スチレン系樹脂の例としては、スチレンの単独重合体を主成分とするもの、α-メチルスチレンの単独重合体を主成分とするもの、ビニルトルエンの単独重合体を主成分とするもの、スチレン、α-メチルスチレンおよびビニルトルエンのうち2種以上をモノマー組成に含む共重合体を主成分とするもの(例えば、α-メチルスチレン/スチレン共重合体を主成分とするα-メチルスチレン/スチレン共重合体樹脂)等が挙げられる。
【0061】
クマロン・インデン樹脂としては、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分としてクマロンおよびインデンを含む樹脂を用いることができる。クマロンおよびインデン以外に樹脂の骨格に含まれ得るモノマー成分としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエン等が例示される。
【0062】
天然物系粘着付与樹脂の例としては、テルペン樹脂、ロジン系樹脂等が挙げられる。テルペン樹脂には、非変性テルペン樹脂、変性テルペン樹脂が含まれる。ロジン系樹脂には、ロジン誘導体樹脂が含まれる。天然物系粘着付与樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
テルペン樹脂(非変性テルペン樹脂)の例としては、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、ジペンテン重合体等が挙げられる。変性テルペン樹脂の例としては、上記テルペン樹脂を変性(フェノール変性、芳香族変性(例えばスチレン変性)、水素添加変性、炭化水素変性等)したものが挙げられる。具体的には、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性(例えばスチレン変性)テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂等が例示される。上記テルペンフェノール樹脂には、水素添加テルペンフェノール樹脂が含まれ得る。
【0064】
上記「テルペンフェノール樹脂」とは、テルペン残基およびフェノール残基を含むポリマーを指し、テルペンとフェノール化合物との共重合体(テルペン-フェノール共重合体樹脂)と、テルペンの単独重合体または共重合体(テルペン樹脂、典型的には未変性テルペン樹脂)をフェノール変性したもの(フェノール変性テルペン樹脂)との双方を包含する概念である。
【0065】
ロジン系樹脂の具体的としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジン(生ロジン);これらの未変性ロジンを水添化、不均化、重合等により変性した変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、その他の化学的に修飾されたロジン等);等が挙げられる。また、ロジン誘導体樹脂の例としては、未変性ロジンをアルコール類によりエステル化したもの(すなわち、ロジンのエステル化物)、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)をアルコール類によりエステル化したもの(すなわち、変性ロジンのエステル化物)等のロジンエステル類;未変性ロジンや変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン類;ロジンエステル類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類;未変性ロジン、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)、不飽和脂肪酸変性ロジン類または不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類におけるカルボキシル基を還元処理したロジンアルコール類;未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等のロジン類(特に、ロジンエステル類)の金属塩;ロジン類(未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等)にフェノールを酸触媒で付加させ熱重合することにより得られるロジンフェノール樹脂;等が挙げられる。
【0066】
ここに開示される技術において用いられる粘着付与樹脂の軟化点は、通常は、40℃よりも高く、60℃以上であってもよい。いくつかの態様において、粘着付与樹脂の軟化点は、80℃以上(例えば80℃超)であり、好ましくは100℃以上(例えば100℃超)である。粘着付与樹脂の軟化点の上限は、特に限定されず、通常、200℃以下が適当であり、接着性等の観点から、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下(例えば160℃以下)であり、140℃以下であってもよく、120℃以下でもよい。
【0067】
ここで、この明細書において粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K5902およびJIS K2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定された値として定義される。具体的には、試料をできるだけ低温ですみやかに融解し、これを平らな金属板の上に置いた環の中に、泡ができないように注意して満たす。冷えた後、少し加熱した小刀で環の上端を含む平面から盛り上がった部分を切り去る。次に、径85mm以上、高さ127mm以上のガラス容器(加熱浴)の中に支持器(環台)を入れ、グリセリンを深さ90mm以上となるまで注ぐ。次に、鋼球(径9.5mm、重量3.5g)と、試料を満たした環とを互いに接触しないようにしてグリセリン中に浸し、グリセリンの温度を20℃プラスマイナス5℃に15分間保つ。次に、環中の試料の表面の中央に鋼球をのせ、これを支持器の上の定位置に置く。次に、環の上端からグリセリン面までの距離を50mmに保ち、温度計を置き、温度計の水銀球の中心の位置を環の中心と同じ高さとし、容器を加熱する。加熱に用いるブンゼンバーナーの炎は、容器の底の中心と縁との中間にあたるようにし、加熱を均等にする。なお、加熱が始まってから40℃に達したのちの浴温の上昇する割合は、毎分5.0プラスマイナス0.5℃でなければならない。試料がしだいに軟化して環から流れ落ち、ついに底板に接触したときの温度を読み、これを軟化点とする。軟化点の測定は、同時に2個以上行い、その平均値を採用する。
【0068】
(水添炭化水素樹脂)
いくつかの好ましい態様において、粘着付与樹脂として、水添炭化水素樹脂が用いられる。ここで「水添炭化水素樹脂」は、石油樹脂等の炭化水素樹脂の少なくとも一部が水素化した樹脂のことを指す。水添炭化水素樹脂は、部分水添炭化水素樹脂であってもよく、完全水添炭化水素樹脂であってもよい。水添炭化水素樹脂は、少なくともその一部が水素化されているため、粘着付与樹脂として水添炭化水素樹脂を用いることは耐候性向上に寄与し得る。水添炭化水素樹脂は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
水添炭化水素樹脂の軟化点は特に限定されない。上記水添スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤への相溶性の観点から、水添炭化水素樹脂の軟化点は、通常、90℃以上であることが適当であり、好ましくは95℃以上、より好ましくは100℃以上である。いくつかの態様において、水添炭化水素樹脂の軟化点は105℃以上であってもよく、110℃以上であってもよい。水添炭化水素樹脂の軟化点の上限は、特に限定されず、通常、140℃以下であることが適当であり、好ましくは135℃以下であり、より好ましくは130℃以下であり、さらに好ましくは125℃以下である。いくつかの態様において、水添炭化水素樹脂の軟化点は120℃以下であってもよく、115℃以下でもよく、110℃以下でもよく、105℃以下でもよい。
【0070】
水添炭化水素樹脂の構造は特に限定されない。例えば、脂肪族系(C5系)、芳香族系(C9系)、脂肪族/芳香族共重合系(C5/C9系)等の水添炭化水素樹脂が用いられ得る。上記水添スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤への相溶性の観点から、いくつかの態様において、C5系またはC5/C9系の水添炭化水素樹脂が好ましく、C5系の水添炭化水素樹脂がより好ましい。
【0071】
水添炭化水素樹脂を使用する態様において、粘着剤組成物における上記水添炭化水素樹脂の含有量(2種以上含有する場合はその合計量)は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適切な量が採用され得る。いくつかの好ましい態様において、水添炭化水素樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、50重量部以上であり、より好ましくは75重量部以上であり、さらに好ましくは100重量部以上である。いくつかの態様において、水添炭化水素樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、120重量部以上であってもよく、130重量部以上でもよく、140重量部以上でもよい。また、いくつかの好ましい態様において、水添炭化水素樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、300重量部以下であり、より好ましくは200重量部以下であり、さらに好ましくは175重量部以下である。いくつかの態様において、水添炭化水素樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、150重量部以下であってもよく、125重量部以下でもよく、110重量部以下でもよい。
【0072】
水添炭化水素樹脂としては、公知の市販品を広く用いることができる。市販品としては、例えば、ENEOS社製の製品名「HB-103」、ENEOS社製の製品名「HA-085」、ENEOS社製の製品名「HA-103」、ENEOS社製の製品名「HB-125」、荒川化学社製の製品名「アルコンP-100」、荒川化学社製の製品名「アルコンP-115」、荒川化学社製の製品名「アルコンM-100」、出光興産社製の製品名「アイマーブP100」等が挙げられる。
【0073】
(水添ロジン系樹脂)
いくつかの態様において、粘着付与樹脂として、水添ロジン系樹脂が用いられる。ここで「水添ロジン系樹脂」は、ロジン系樹脂の少なくとも一部が水素化した樹脂のことを指す。水添ロジン系樹脂は、部分水添ロジン系樹脂であってもよく、完全水添ロジン樹脂であってもよい。水添ロジン系樹脂は、少なくともその一部が水素化されているため、粘着付与樹脂として水添ロジン系樹脂を用いることは耐候性向上に寄与し得る。水添ロジン系樹脂は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
上記水添ロジン系樹脂は、スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤によく相溶し、その添加効果が好適に発揮され得る。特に限定して解釈されるものではないが、上記水添ロジン系樹脂は、通常、一分子中に高極性領域と低極性領域とを有し、上記スチレン系ブロック共重合体の各セグメント(ハードセグメントおよびソフトセグメント)に相溶し、接着力の向上に寄与すると考えられる。また、水添ロジン系樹脂の使用は、金属等の極性被着体に対する接着性を改善し得る点でも有利である。
【0075】
いくつかの好ましい態様において、水添ロジン系樹脂として水添ロジンエステルが用いられる。水添ロジンエステルの添加により、ここに開示される技術による効果は好適に発揮され得る。
【0076】
上記水添ロジン系樹脂(例えば、水添ロジンエステル)の軟化点は、特に限定されない。上記スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤への相溶性の観点から、水添ロジン系樹脂の軟化点は、通常、70℃以上であることが適当であり、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上である。水添ロジン系樹脂の軟化点の上限は、特に限定されず、通常、200℃以下であることが適当であり、好ましくは150℃以下であり、より好ましくは120℃以下であり、さらに好ましくは110℃以下である。
【0077】
水添ロジン系樹脂(例えば、水添ロジンエステル)を使用する態様において、粘着剤組成物における上記水添ロジン系樹脂の含有量(2種以上含有する場合はその合計量)は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適切な量が採用され得る。いくつかの好ましい態様において、水添ロジン系樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、10重量部以上であり、より好ましくは20重量部以上であり、さらに好ましくは25重量部以上である。いくつかの態様において、水添ロジン系樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、30重量部以上であってもよく、40重量部以上でもよく、45重量部以上でもよい。また、いくつかの好ましい態様において、水添ロジン系樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、150重量部以下であり、より好ましくは100重量部以下であり、さらに好ましくは60重量部以下(例えば50重量部以下)である。
【0078】
水添ロジン系樹脂としては、公知の市販品を広く用いることができる。市販品としては、例えば、荒川化学工業社製の製品名「パインクリスタルKE-100」、荒川化学工業社製の製品名「パインクリスタルKE-311」、荒川化学工業社製の製品名「パインクリスタルPE-590」等が挙げられる。
【0079】
いくつかの好ましい態様において、粘着付与樹脂として、上記水添炭化水素樹脂と上記水添ロジン系樹脂(例えば水添ロジンエステル)とが併用される。水添炭化水素樹脂と水添ロジン系樹脂とを併用することで、各粘着付与樹脂の化学構造の違いに基づくスチレン系ブロック共重合体への作用を利用して、強粘着力を有する粘着剤を形成しやすい。水添炭化水素樹脂と水添ロジン系樹脂(例えば水添ロジンエステル)とを併用する態様において、その使用比率は特に限定されない。いくつかの態様において、水添ロジン系樹脂の含有量WS[重量%]に対する水添炭化水素樹脂の含有量WT[重量%]の比(WT/WS)は、例えば1以上であり、2以上が好ましく、3以上であってもよく、4以上でもよく、5以上でもよく、6以上でもよい。上記比(WT/WS)は、例えば20以下であり、16以下が適当であり、12以下であってもよく、10以下でもよい。
【0080】
(粘着付与樹脂の総量)
粘着剤組成物における粘着付与樹脂の総量は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適当な量が採用され得る。いくつかの態様において、粘着力向上の観点から、粘着付与樹脂の総量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、75重量部以上であることが好ましく、100重量部以上であってもよく、125重量部以上であってもよい。またいくつかの態様において、粘着付与樹脂の総量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、350重量部以下であり、300重量部以下であってもよく、250重量部以下であってもよい。このように粘着付与樹脂の総量が制限された構成であっても、ここに開示される技術によると、所望の効果を実現することができる。
【0081】
(軟化剤(E))
ここに開示される粘着剤組成物は軟化剤を含むことが好ましい。粘着剤に軟化剤を含ませることによって、被着体に対する密着性が向上し、接着性を向上させることができる。例えば、高温凝集性の高い組成に軟化剤を含ませることにより、強粘着力と優れた耐熱性とを両立した粘着剤を形成しやすい。ここで、本明細書における軟化剤とは、室温(例えば25℃)において液体または粘稠性を示す流動体であるか、あるいは軟化点が40℃以下である材料をいうものとし、典型的には液状炭化水素である。上記軟化点は、上述の粘着付与樹脂の軟化点の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0082】
軟化剤の種類は特に限定されず、粘着剤組成(スチレン系ブロック共重合体の種類や、粘着付与樹脂種)等に応じて適切なものが選択される。軟化剤としては、ポリブテンやポリイソプレン等の液状ゴム、パラフィン系オイルやナフテン系オイル等のプロセスオイル、エチレンとα―オレフィンとのコオリゴマー等の炭化水素系合成油が挙げられる。また、軟化剤として、液状テルペン樹脂や液状ロジン系樹脂等の液状樹脂を用いてもよい。軟化剤の他の例としては、例えば、ステアリン酸やパルミチン酸のような高級脂肪酸のエステル(高級脂肪酸エステル)や、脂肪酸アミドが挙げられる。なかでも、液状テルペン樹脂やプロセスオイルが好ましく用いられる。軟化剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
粘着剤組成物における軟化剤の含有量は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適切な量が採用され得る。いくつかの態様において、軟化剤の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して0重量部を超え、150重量部以下であり、10~100重量部であってもよい。粘着力向上の観点から、いくつかの好ましい態様において、軟化剤の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して15重量部以上であり、より好ましくは20重量部以上、さらに好ましくは25重量部以上である。また、耐熱性の観点から、軟化剤の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、80重量部以下とすることが好ましく、より好ましくは60重量部以下、さらに好ましくは50重量部以下である。
【0084】
(老化防止剤)
ここに開示される粘着剤組成物には、必要に応じて老化防止剤を含有させることができる。老化防止剤の使用により、粘着剤の品質安定性は向上し得る。老化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。老化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤等)、ヒンダードアミン系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。特に限定するものではないが、ここに開示される粘着剤組成物に含まれる老化防止剤の量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、例えば概ね20重量部以下とすることができ、通常は10重量部以下とすることが適当であり、5重量部以下としてもよい。また、上記老化防止剤の量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、例えば0.1重量部以上とすることができ、0.5重量部以上としてもよく、1重量部以上としてもよい。
【0085】
(その他成分)
ここに開示される粘着剤組成物は、必要に応じて、レベリング剤、架橋助剤、可塑剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の、粘着剤の分野において一般的な各種の添加剤を含有するものであり得る。このような各種添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができる。また、ここに開示される粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない限度で、モノビニル置換芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体以外のゴム状ポリマーを1種または2種以上含んでもよい。ここに開示される技術は、上記粘着剤組成物がスチレン系ブロック共重合体以外のゴム状ポリマーを実質的に含有しない態様(例えば、スチレン系ブロック共重合体100重量部当たりの含有量が0~1重量部である態様)で好ましく実施され得る。
【0086】
いくつかの好ましい態様において、上記粘着剤組成物は、スチレン系ブロック共重合体と、粘着付与樹脂と、軟化剤との合計量が、該粘着剤の全重量(すなわち、この粘着剤により構成される粘着剤層の重量)の90重量%以上を占める組成であり得る。例えば、上記合計量が上記粘着剤の全重量の90~99.8重量%(典型的には、例えば95~99.5重量%)である態様を好ましく採用し得る。
【0087】
ここに開示される粘着剤組成物の形態は特に限定されず、例えば、上述のような組成の粘着剤(粘着成分)を有機溶媒中に含む形態(溶剤型)の粘着剤組成物、粘着剤が水性溶媒に分散した形態(水分散型、典型的には水性エマルション型)の粘着剤組成物、ホットメルト型の粘着剤組成物等であり得る。塗工性および基材の選択自由度等の観点から、溶剤型または水分散型の粘着剤組成物を好ましく採用し得る。より高い粘着性能を実現する観点から、溶剤型の粘着剤組成物が特に好ましい。また、ホットメルト型は、有機溶剤を実質的に含有しない加熱溶融状態で塗工され得るので、生産性や環境負荷軽減の観点から好ましい。
【0088】
溶剤型粘着剤組成物は、典型的には、上述した各成分を有機溶媒中に含む溶液の形態に調製される。上記有機溶媒は、公知ないし慣用の有機溶媒から適宜選択することができる。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族化合物類(典型的には芳香族炭化水素類);酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素類;1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化アルカン類;メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;等から選択されるいずれか1種の溶媒、または2種以上の混合溶媒を用いることができる。特に限定するものではないが、通常は、上記溶剤型粘着剤組成物を不揮発分(NV)30~65重量%(例えば40~55重量%)に調製することが適当である。
【0089】
粘着剤組成物から粘着シートを得る方法としては、従来公知の種々の方法を適用し得る。例えば、粘着剤組成物を基材に直接付与(典型的には塗布)して乾燥させることにより粘着剤層を形成する方法(直接法)を好ましく採用することができる。また、上記粘着剤組成物を剥離性のよい表面(例えば、剥離ライナーの表面、離型処理された支持基材背面等)に付与して乾燥させることにより該表面上に粘着剤層を形成してもよく、さらに、形成した粘着剤層を基材に転写する方法(転写法)を採用してもよい。
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の、公知ないし慣用のコーターを用いて行うことができる。架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。通常は、例えば凡そ40℃~150℃(典型的には40℃~120℃、例えば50℃~120℃、さらには70℃~100℃)程度の乾燥温度を好ましく採用することができる。乾燥時間は特に限定されないが、数十秒から数分程度(例えば凡そ5分以内、好ましくは30秒~2分程度)とすればよい。その後、必要に応じて追加の乾燥工程を設けてもよい。粘着剤層は、典型的には連続的に形成されるが、目的および用途によっては点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成されてもよい。
【0090】
(粘着剤層の厚さ)
特に限定するものではないが、粘着剤層の厚さは、凡そ4μm以上(例えば20μm以上)程度が適当であり、また凡そ150μm以下(典型的には120μm以下、例えば100μm以下)程度が適当である。いくつかの態様において、粘着剤層の厚さは、好ましくは30μm以上、より好ましくは40μm以上、さらに好ましくは50μm以上(例えば60μm以上)であり得る。かかる厚さの粘着剤層を有する粘着シートは、優れた粘着性能が発揮され得る。基材付き両面粘着シートの場合、基材の両面それぞれに上記厚さの粘着剤層が設けられた構成とするとよい。各粘着剤層の厚さは同じであってもよく異なっていてもよい。
【0091】
<粘着シートの構造例>
ここに開示される粘着シート(テープ状等の長尺状の形態であり得る。)は、例えば、
図1に示す断面構造を有する両面粘着シートの形態であり得る。この両面粘着シート1は、基材(例えばプラスチックフィルム)15と、その基材15の両面にそれぞれ支持された第一粘着剤層11および第二粘着剤層12とを備える。より詳しくは、基材15の第一面15Aおよび第二面15B(いずれも非剥離性)に、第一粘着剤層11および第二粘着剤層12がそれぞれ設けられている。使用前(被着体への貼り付け前)の両面粘着シート1は、
図1に示すように、前面21Aおよび背面21Bがいずれも剥離面である剥離ライナー21と重ね合わされて渦巻き状に巻回された形態であり得る。かかる形態の両面粘着シート1は、第二粘着剤層12の表面(第二粘着面12A)が剥離ライナー21の前面21Aにより、第一粘着剤層11の表面(第一粘着面11A)が剥離ライナー21の背面21Bにより、それぞれ保護されている。あるいは、第一粘着面11Aおよび第二粘着面12Aが2枚の独立した剥離ライナーによりそれぞれ保護された形態であってもよい。
【0092】
ここに開示される技術は、
図1に示すような基材付き両面粘着シートに好ましく適用されるほか、
図2に示すような基材レスの(すなわち、基材を有しない)両面粘着シート2にも適用され得る。使用前の両面粘着シート2は、例えば
図2に示すように、基材レスの粘着剤層11の第一粘着面11Aおよび第二粘着面11Bが、少なくとも該粘着剤層側の表面(前面)が剥離面となっている剥離ライナー21,22によってそれぞれ保護された形態であり得る。あるいは、剥離ライナー22を省略し、両面が剥離面となっている剥離ライナー21を用い、これと粘着剤層11とを重ね合わせて渦巻き状に巻回することにより第二粘着面11Bが剥離ライナー21の背面に当接して保護された形態であってもよい。
【0093】
ここに開示される技術は、また、
図3に示すように、基材15と該基材の第一面(非剥離面)15Aに支持された粘着剤層11とを備える片面粘着タイプの基材付き粘着シート3にも適用され得る。使用前の粘着シート3は、例えば
図3に示すように、その粘着剤層11の表面(粘着面)11Aが、少なくとも該粘着剤層側の表面(前面)が剥離面となっている剥離ライナー21で保護された形態であり得る。あるいは、剥離ライナー21を省略し、第二面15Bが剥離面となっている基材15を用い、基材付き粘着シート3を巻回することにより第一粘着面11Aが基材15の第二面15Bに当接して保護された形態であってもよい。
【0094】
<基材>
ここに開示される技術を基材付き両面粘着シートまたは基材付き片面粘着シートに適用する場合、基材としては、例えば、ポリプロピレンフィルム、エチレン-プロピレン共重合体フィルム、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等のプラスチックフィルム;ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリクロロプレンフォーム等の発泡体からなる発泡体シート;各種の繊維状物質(麻、綿等の天然繊維、ポリエステル、ビニロン等の合成繊維、アセテート等の半合成繊維、等であり得る。)の単独または混紡等による織布および不織布(和紙、上質紙等の紙類を包含する意味である。);アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;等を、粘着シートの用途に応じて適宜選択して用いることができる。上記プラスチックフィルム(典型的には非多孔質のプラスチック膜を指し、織布や不織布とは区別される概念である。)としては、無延伸フィルムおよび延伸(一軸延伸または二軸延伸)フィルムのいずれも使用可能である。また、基材のうち粘着剤層が設けられる面には、下塗剤の塗布、コロナ放電処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0095】
基材として利用される不織布としては、例えば、木材パルプ等のパルプ類、綿、麻等の天然繊維から構成される不織布;ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維等のポリエステル繊維、レーヨン、ビニロン、アセテート繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等の化学繊維(合成繊維)から構成される不織布;材質の異なる2種以上の繊維を併用して構成された不織布;等が挙げられる。なかでも、粘着剤の含浸性や耐反撥性の観点から、パルプや麻(例えば麻パルプ)から構成される不織布、PET繊維から構成される不織布等が好ましい。不織布基材の使用は、粘着シートの柔軟性向上や手切れ性向上にも寄与する。
【0096】
不織布(不織布基材)としては、坪量が凡そ30g/m2以下(例えば25g/m2以下、典型的には20g/m2以下)のものを好ましく採用し得る。かかる坪量の不織布は、軽量でかつ粘着性能に優れた粘着シートを作製するのに適している。耐反撥性の観点からは、坪量が18g/m2未満(例えば16g/m2以下、典型的には15g/m2以下)の不織布が好ましい。基材自体の強度を向上する観点からは、上記坪量は10g/m2以上(例えば12g/m2以上、典型的には13g/m2以上)であることが好ましい。
【0097】
不織布基材の嵩密度(坪量を厚さで除して算出され得る。)は、凡そ0.20g/cm3以上が適当であり、0.25g/cm3以上(例えば0.30g/cm3以上)が好ましく、また凡そ0.50g/cm3以下が適当であり、0.40g/cm3以下(例えば0.35g/cm3以下)が好ましい。嵩密度が上記の範囲内であることにより、基材自体が適当な強度を有し、良好な粘着剤含浸性が得られる。耐反撥性の観点からは、嵩密度0.25~0.40g/cm3(例えば0.30~0.35g/cm3)程度の不織布基材の使用が特に好ましい。
【0098】
不織布基材は、上述のような構成繊維の他に、デンプン(例えば、カチオン化デンプン)、ポリアクリルアミド、ビスコース、ポリビニルアルコール、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン等の樹脂成分を含有し得る。上記樹脂成分は、当該不織布基材の紙力増強剤として機能するものであり得る。かかる樹脂成分を必要に応じて使用することにより、不織布基材の強度を調整することができる。不織布基材は、その他、歩留まり向上剤、濾水剤、粘度調整剤、分散剤等の、不織布の製造に関する分野において一般的な添加剤を必要に応じて含有し得る。
【0099】
基材の厚さは目的に応じて適宜選択できるが、一般的には概ね2μm以上(典型的には10μm以上)とすることが適当であり、また、500μm以下(典型的には200μm以下)とすることが好ましい。基材として不織布を用いる場合には、不織布基材の厚さは、凡そ150μm以下であることが適当である。粘着剤を基材全体に充分に含浸させる観点からは、上記厚さは100μm以下(例えば70μm以下)であることが好ましい。また、粘着シート作製時の取扱い性を考慮すると、上記厚さは10μm以上(例えば25μm以上)であることが好ましい。耐反撥性の観点からは、上記厚さは30μm以上(例えば35μm以上、典型的には40μm以上)であることが好ましく、また60μm以下(例えば50μm以下、典型的には45μm以下)であることが好ましい。
【0100】
<粘着シートの厚さ>
ここに開示される粘着シートの総厚さ(粘着剤層および基材の厚さは含むが、剥離ライナーの厚さは含まない。)は、特に限定されず、薄膜化、軽量化、省資源化等の観点から、凡そ1000μm以下(例えば500μm以下、典型的には300μm以下)とすることが好ましく、150μm以下であってもよい。また、良好な粘着特性を確保する等の観点から、50μm以上(例えば70μm以上、典型的には100μm以上)とすることが適当である。
【0101】
<剥離ライナー>
剥離ライナーとしては、慣用の剥離紙等を使用することができ、特に限定されない。例えば、プラスチックフィルムや紙等の基材の表面に剥離処理層を有する剥離ライナー、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン等)やポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)の低接着性材料からなる剥離ライナー等を用いることができる。上記剥離処理層は、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離処理剤により上記基材を表面処理して形成されたものであり得る。
【0102】
<粘着シートの特性>
ここに開示される粘着シートは、23℃、50%RHの環境下にて、引張速度100mm/分、剥離角度180度の条件で測定されるステンレス鋼(SUS304BA)に対する粘着力(対SUS粘着力)が15N/20mm以上であることが好ましい。上記の対SUS粘着力を示す粘着シートは、被着体に対して十分な接着性を発揮し得る。接着性の観点から、上記対SUS粘着力は、25N/20mm以上がより好ましく、28N/20mm以上がさらに好ましく、30N/20mm以上が特に好ましい。なお、上記対SUS粘着力の上限は特に限定されず、例えば50N/20mm以下程度であってもよい。対SUS粘着力は、被着体としてのステンレス鋼(SUS304BA)の表面に2kgのローラを1往復させて圧着し、30分間放置した後、JIS Z 0237に準じて引張速度100mm/分、剥離角度180度の条件で測定される。対SUS粘着力は、より具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0103】
ここに開示される粘着シートは、23℃、50%RHの環境下にて、引張速度100mm/分、剥離角度180度の条件で測定されるポリプロピレン(PP)に対する粘着力(対PP粘着力)が10N/20mm以上であることが好ましい。上記の対PP粘着力を示す粘着シートは、難接着材料の被着体に対して十分な接着性を発揮し得る。難接着材料への接着性の観点から、上記対PP粘着力は、13N/20mm以上がより好ましく、19N/20mm以上(例えば20N/20mm以上)がさらに好ましく、23N/20mm以上が特に好ましい。なお、上記対PP粘着力の上限は特に限定されず、例えば45N/20mm以下程度であってもよい。対PP粘着力は、被着体としてのPPの表面に2kgのローラを1往復させて圧着し、30分間放置した後、JIS Z 0237に準じて引張速度100mm/分、剥離角度180度の条件で測定される。対PP粘着力は、より具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0104】
ここに開示される粘着シートは、温度90℃、貼付け面積10mm×30mm、荷重500g、保持時間1時間の条件で測定されるステンレス鋼板に対する保持力試験において、落下しないものであることが好ましい。かかる特性を満足する粘着シートは、高温保持力に優れ、高温状態に曝される態様で用いられても、剥がれやズレが生じにくく、優れた接着信頼性を実現しやすい。上記保持力試験は、具体的には後述の実施例に記載の方法で実施される。
【0105】
<用途>
ここに開示される粘着剤組成物または粘着シートは、各種のOA機器(例えばPC)、家電製品(例えば炊飯器、冷蔵庫)、自動車、建築材料(例えば住宅建材)等における部材間の接合(例えば、かかる製品における各種部品の固定用途)に有用である。
【実施例0106】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。また、各材料の使用量等の記載は、特に断りがない限り、溶媒を考慮しない量を基準とする。
【0107】
<実施例1>
(粘着剤組成物の調製)
酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体(A)としての無水マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(クレイトンポリマー社製、製品名「FG1924」、スチレン含有量13%、マレイン酸変性1%)100部と、粘着付与樹脂(D)としての水添炭化水素樹脂(荒川化学工業社製、製品名「アルコンP-100」、軟化点100℃)150部と、水添ロジンエステル(D2)(荒川化学工業社製、製品名「パインクリスタルPE-590」、軟化点90~100℃)50部と、軟化剤(E)としての液状炭化水素(エチレン-α-オレフィンコオリゴマー、三井化学社製、製品名「ルーカントLX400」)25部、ポリフェニレンエーテル系樹脂(C)としてのポリフェニレンエーテル(SABIC社製、製品名「Noryl SA-120」、軟化点165℃)10部と、架橋剤(B)としてアルミニウムトリスアセチルアセトナート(松本ファインケミカル社製、製品名「AL-3100」)0.3部と、溶媒としてのトルエンとを撹拌混合して、NV50%の粘着剤組成物を調製した。
【0108】
(粘着シートの作製)
上記粘着剤組成物を、厚さ75μmのシリコーン系剥離剤処理されたPETフィルムの剥離処理面に塗布し、120℃で3分間乾燥処理して、厚さ70μmの粘着剤層を形成した。その粘着剤層表面に、シリコーン系剥離剤により剥離処理された剥離ライナーを貼り合わせた。このシートを40℃で少なくとも24時間保存した。このようにして、本例に係る粘着シート(剥離ライナー付き基材レス両面粘着シート)を作製した。
【0109】
<実施例2~8および比較例1~5>
粘着付与樹脂の種類および使用量、軟化剤の種類および使用量、ポリフェニレンエーテル系樹脂の使用量、架橋剤の使用量を表1~2に示すように変更した他は実施例1と同様にして各例に係る粘着剤組成物を調製し、各粘着剤組成物を用いて実施例1と同様にして各例に係る粘着シートを作製した。
【0110】
なお、表中に示す使用材料は以下のとおりである。
(酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体)
「FG1924」:クレイトンポリマー社製の製品名「FG1924」、スチレン含有量13%、マレイン酸変性1%の無水マレイン酸変性SEBS
(粘着付与樹脂)
「P-100」:荒川化学工業社製の製品名「アルコンP-100」、軟化点100℃の水添炭化水素樹脂
「P-115」:荒川化学工業社製の製品名「アルコンP-115」、軟化点115℃の水添炭化水素樹脂
「PE-590」:荒川化学工業社製の製品名「パインクリスタルPE-590」、軟化点90~100℃の水添ロジンエステル
(軟化剤)
「LX400」:三井化学者製の製品名「ルーカントLX400」のエチレンαオレフィンコオリゴマー
「HV-1900」:ENEOS社製の製品名「ポリブテンHV-1900」のポリブテン
(ポリフェニレンエーテル系樹脂)
「SA-120」:SABIC社製の製品名「Noryl SA-120」のポリフェニレンエーテル
(架橋剤)
「AL-3100」:松本ファインケミカル社製の製品名「AL-3100」のアルミニウムトリスアセチルアセトナート
【0111】
<評価方法>
(180°剥離強度)
粘着シート(両面粘着シート)の一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットして試験片を作製した。23℃、50%RHの環境下にて、上記試験片の他方の粘着面(測定対象面)を露出させ、該試験片の露出粘着面を、被着体の表面に2kgのローラを1往復させて圧着した。これを同環境下に30分間放置した後、JIS Z 0237に準じて、引張試験機を使用して引張速度100mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力[N/20mm]を測定した。被着体としてはステンレス鋼板(SUS304BA)およびPP板(日立化成社製)を使用して、上記手順に従ってそれぞれ粘着力を測定した。得られた値は表1、2の「対SUS」の欄と「対PP」の欄に記載した。
なお、片面粘着シートを試験片として測定を実施する場合には、上記PETフィルムの裏打ちは必須ではない。
【0112】
(保持力)
粘着シート(両面粘着シート)の一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、厚さ50μmのPETフィルムに貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅10mmの帯状にカットして試験片を作製した。23℃、50%RHの環境下において、上記試験片の他方の粘着面(測定対象面)を露出させ、該試験片の露出粘着面を、被着体としてのステンレス鋼板(SUS304)に、幅10mm、長さ30mmの貼付け面積にて、2kgのローラーを1往復させて圧着した。このようにして被着体に貼り付けた試験片を同環境下に30分間放置した後、試験片の長さ方向が鉛直方向となるように被着体を垂下し、該試験片の自由端に500gの荷重を付与し、JIS Z 0237に準じて、該荷重が付与された状態で60℃、70℃、80℃または90℃の環境下に1時間放置した。1時間落下しない場合、その測定温度において十分な高温保持力を有すると判断される。測定は、各粘着シートにつき3つの試験片を用いて行い(すなわちn=3)、1時間放置する間に一つでも試験片が落下した場合には「落下」と評価した。表1、2には1時間落下しなかった測定温度のうち最も高い温度を「保持温度」の欄に記載し、落下した測定温度のうち最も低い温度を「落下温度」の欄に記載した。
なお、片面粘着シートを試験片として測定を実施する場合には、上記PETフィルムの裏打ちは必須ではない。
【0113】
各例の概要および評価結果を表1~2に示す。
【0114】
【0115】
【0116】
表1~2に示されるように、酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体と、粘着付与樹脂と、ポリフェニレンエーテル系樹脂と、架橋剤とを含む実施例1~8の粘着シートは、架橋剤を含まない比較例1~3の粘着シートに比べて明らかに高温保持力が優れており、耐熱性が向上していることが確かめられた。また、酸変性された水添スチレン系ブロック共重合体と、粘着付与樹脂と、ポリフェニレンエーテル系樹脂と、架橋剤とを含む実施例1~8の粘着シートは、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない比較例1、4および5の粘着シートに比較しても、優れた高温保持力を示しており、耐熱性が向上することが確かめられた。
【0117】
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂と架橋剤の含有量比が特定の範囲である実施例1~6の粘着シートは、実施例7および8の粘着シートと対比して、特に高い粘着力を有した。
【0118】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。